(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】無線式列車制御システム
(51)【国際特許分類】
B61L 27/14 20220101AFI20240416BHJP
B61L 23/14 20060101ALI20240416BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B61L27/14
B61L23/14 Z
B60L15/40 G
(21)【出願番号】P 2020211842
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-09-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:令和2年(2020年)1月23,24日、集会名、開催場所:電気学会 交通・電気鉄道/リニアドライブ合同研究会 立命館大学 びわこ・くさつキャンパス(BKC) エポック立命21 3階K309会議室(滋賀県草津市野路東1丁目1-1)、公開者:坂井佳祐、公開された発明の内容:坂井佳祐が、電気学会 交通・電気鉄道/リニアドライブ合同研究会にて、「高頻度運転時の遅延伝搬を抑制する先行列車最適追従制御」について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】古関 隆章
(72)【発明者】
【氏名】大西 亘
(72)【発明者】
【氏名】坂井 桂祐
(72)【発明者】
【氏名】葛西 光希
(72)【発明者】
【氏名】森田 隼史
(72)【発明者】
【氏名】田中 和広
(72)【発明者】
【氏名】徳原 克俊
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-158330(JP,A)
【文献】特開2019-018643(JP,A)
【文献】特開2005-349870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 27/14
B61L 23/14
B60L 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象列車の先行列車が駅を出発すると、その出発時刻に基づき予測された前記駅の進路開通時刻に接近点に到達するように前記対象列車を制御するように構成され、
前記接近点は、前記対象列車が前記駅の進路未開通時の停止限界位置までに停止可能であり且つ前記対象列車が前記駅の停止位置に停止するまでの所要時間が最小となる位置と速度の組[接近点位置,接近点速度]として設定されている、
無線式列車制御システム。
【請求項2】
前記先行列車が前記駅を出発するまでは前記停止限界位置よりも手前の機外停止位置に停止可能な状態で前記対象列車を走行させるように構成され、
前記機外停止位置は、前記対象列車が停止状態から走行を開始して前記接近点に到達し得る位置として設定されている、
請求項1に記載の無線式列車制御システム。
【請求項3】
前記機外停止位置は、前記対象列車が停止状態から最大の加速度で走行したときに前記接近点に到達する位置として設定される、請求項2に記載の無線式列車制御システム。
【請求項4】
前記予測された前記駅の進路開通時刻までに前記駅の進路が開通しない場合、前記停止限界位置までに停止するように前記対象列車を制御する、請求項1~3のいずれか一つに記載の無線式列車制御システム。
【請求項5】
前記駅の進路が開通すると、最短時間で前記駅の停止位置に停止するように前記対象列車を制御する、請求項1~4のいずれか一つに記載の無線式列車制御システム。
【請求項6】
前記対象列車に搭載された車上装置と、
前記車上装置と無線通信が可能な地上装置と、
を含み、
前記地上装置は、
前記先行列車が前記駅に到着すると前記停止限界位置及び前記機外停止位置を前記車上装置に送信し、及び、
前記先行列車が前記駅を出発すると前記予測された前記駅の進路開通時刻、前記接近点位置及び前記接近点速度を前記車上装置に送信し、
前記車上装置は、
前記停止限界位置及び前記機外停止位置の受信後であって且つ前記予測された前記駅の進路開通時刻、前記接近点位置及び前記接近点速度を受信するまでは前記機外停止位置に停止可能な状態で前記対象列車を走行させ、及び、
前記予測された前記駅の進路開通時刻、前記接近点位置及び前記接近点速度の受信後においては前記停止限界位置までに停止可能な状態としつつ前記予測された前記駅の進路開通時刻に前記接近点速度で前記接近点位置を通過するように前記対象列車の走行を制御する、
請求項2又は3に記載の無線式列車制御システム。
【請求項7】
前記車上装置は、前記対象列車が前記機外停止位置に停止した後に前記予測された前記駅の進路開通時刻、前記接近点位置及び前記接近点速度を受信した場合、前記予測された前記駅の進路開通時刻に前記接近点位置を前記接近点速度で通過するように、前記対象列車の前記機外停止位置での停止時間を調整した上で前記対象列車を最大の加速度で走行させる、請求項6に記載の無線式列車制御システム。
【請求項8】
前記地上装置は、前記駅の進路が開通すると前記駅の進路が開通したことを示す進路開通信号を前記車上装置に送信し、
前記車上装置は、前記予測された前記駅の進路開通時刻までに前記進路開通信号を受信しない場合、前記停止限界位置までに停止するように前記対象列車の走行を制御する、
請求項6又は7に記載の無線式列車制御システム。
【請求項9】
前記車上装置は、前記進路開通信号を受信すると最短時間で前記駅の停止位置に停止するように前記対象列車の走行を制御する、請求項8に記載の無線式列車制御システム。
【請求項10】
前記車上装置は、前記対象列車が前記駅の手前の駅を出発する際に前記対象列車を前記駅の前記停止位置までに停止させるための第1停止パターンを含む走行パターンを発生させると共に、前記停止限界位置及び前記機外停止位置を受信すると前記対象列車を前記停止限界位置に停止させるための第2停止パターン及び前記対象列車を前記機外停止位置に停止させるための第3停止パターンを発生させ、
前記停止限界位置及び前記機外停止位置の受信後であって且つ前記予測された前記駅の進路開通時刻、前記接近点位置及び前記接近点速度を受信するまでは、前記対象列車の速度が前記第3停止パターンの対応速度を超過しないように前記対象列車の走行を制御し、
前記予測された前記駅の進路開通時刻、前記接近点位置及び前記接近点速度を受信すると、前記第3停止パターンを消去し、前記対象列車の速度が前記第2停止パターンの対応速度を超過せず且つ前記予測された前記駅の進路開通時刻に前記接近点速度で前記接近点位置を通過するように前記対象列車の走行を制御し、
前記予測された前記駅の進路開通時刻までに前記進路開通信号を受信しない場合、前記対象列車の速度が前記第2停止パターンの対応速度を超過しないように前記対象列車の走行を制御し、
前記進路開通信号を受信すると、前記第2停止パターンを消去し、前記対象列車の速度が前記走行パターンの前記第1停止パターンの対応速度を超過しないように前記対象列車の走行を制御して前記対象列車を前記駅の停止位置に停止させる、
請求項9に記載の無線式列車制御システム。
【請求項11】
前記接近点は、前記第2停止パターン上に存在する、請求項10に記載の無線式列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車上-地上間で無線通信を行って列車を制御する無線式列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
列車遅延を防止する技術の一例として、特許文献1には、所定駅に到着した列車の車内混雑度と前記列車の次停車駅のホーム上の混雑度とに応じて前記所定駅と前記次停車駅との間の列車の走行速度を制御する列車制御システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道において、特に大都市圏などで高頻度運転が行われる線区では、遅延の回復等のために列車ダイヤに含まれている余裕時間が少ない。このため、先行列車の遅延がわずかであっても後続列車は減速や停止を余儀なくされ、後続列車の次駅への到着が遅延する。すなわち、先行列車の遅延が後続列車に伝搬する列車の遅延伝搬が発生する。特許文献1に記載された列車制御システムは、このような列車の遅延伝搬を抑制するのは難しいという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、列車の遅延伝搬を抑制することのできる無線式列車制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、無線式列車制御システムが提供される。この無線式列車制御システムは、対象列車の先行列車が駅を出発すると、その出発時刻に基づき予測された前記駅の進路開通時刻に接近点に到達するように前記対象列車を制御するように構成されている。前記接近点は、前記対象列車が前記駅の進路未開通時の停止限界位置までに停止可能であり且つ前記対象列車が前記駅の停止位置に停止するまでの所要時間が最小となる位置と速度の組[接近点位置,接近点速度]として設定されている。
【0007】
好ましくは、前記無線式列車制御システムは、前記先行列車が前記駅を出発するまでは前記停止限界位置よりも手前の機外停止位置に停止可能な状態で前記対象列車を走行させるように構成され、前記機外停止位置は、前記対象列車が停止状態から走行を開始して前記接近点に到達し得る位置として設定されている。例えば、前記機外停止位置は、前記対象列車が停止状態から最大の加速度で走行したときに前記接近点に到達する位置として設定される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、列車の遅延伝搬を抑制することのできる無線式列車制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る無線式列車制御システムの概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る無線式列車制御システムによって制御される列車の概略構成を示す図である。
【
図3】駅間走行パターン(列車を駅の停止位置までに停止させるための第1停止パターンを含む)の一例を示す図である。
【
図4】列車を停止限界位置までに停止させるための第2停止パターンの一例及び接近点を示す図である。
【
図5】駅の進路開通時刻での列車の速度と、駅の進路が開通してから列車が駅に到着するまでの所要時間との関係を示す図である。
【
図6】列車を機外停止位置に停止させるための第3停止パターンの一例を示す図である。
【
図7】無線式列車制御システムを構成する地上装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】無線式列車制御システムを構成する車上装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】無線式列車制御システムを構成する車上装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】先行列車の駅出発遅延が比較的短時間である場合の列車の走行状態の一例を示す図である。
【
図11】先行列車の駅出発遅延が長時間である場合の列車の走行状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係る無線式列車制御システムは、主に高頻度運転が行われる線区に適用され、線路等の走行路を走行する各列車を制御する。
図1は、実施形態に係る無線式列車制御システムの概略構成を示す図であり、
図2は、実施形態に係る無線式列車制御システムによって制御される列車の概略構成を示す図である。
【0012】
図1、
図2を参照すると、無線式列車制御システム1は、走行路Rを走行する各列車(同一の構成を有しており、ここでは列車Tとその先行列車PTのみが示されている)に搭載された車上装置10と、地上に設置された地上装置30とを含む。走行路Rには、走行路Rを走行する各列車が停止する複数の駅(ここではB駅とその手前のA駅のみが示されている)が設けられている。
【0013】
なお、以下の説明において、列車T及び先行列車PTは、走行路Rを走行する列車とその先行列車の例示にすぎず、A駅及びB駅は、走行路Rに設けられた隣り合う二つの駅の例示にすぎない。したがって、列車T及び先行列車PTに関する説明は、他の列車及びその先行列車にも当てはまるものであり、A駅及びB駅に関する説明は、隣り合う他の二つの駅にも当てはまるものである。また、実施形態に係る無線式列車制御システム1においては、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用することによって各装置間の時刻同期がとられている。
【0014】
走行路Rには、各列車(の車上装置10)に地点情報(位置情報)を与える複数の地上子が設置されている。前記複数の地上子は、A駅とB駅との間に設置された第1地上子51と、A駅及びB駅のそれぞれの入口部に設置された第2地上子52と、A駅及びB駅のそれぞれにおける列車の停止位置の近傍に設置された第3地上子53と、A駅及びB駅の出口部に設置された第4地上子54とを含む。但し、これに限られるものではなく、地上子の個数や配置は任意である。
【0015】
地上には、地上装置30及び第1~第4地上子51~54の他にも、拠点無線機61及び複数の沿線無線機62が設置されている。拠点無線機61は、地上装置30に接続されており、主に複数の沿線無線機62のうちの少なくとも一つと無線通信を行う。また、複数の沿線無線機62は、走行路Rに沿って互いに間隔をあけて配置されている。
【0016】
列車T(先行列車PTも同様)には、車上装置10の他にも、車上子11、速度発電機13、車上無線機15及び車上データベース17などが搭載されており、これらは車上装置10に接続されている。
【0017】
車上子11は、列車Tの前側下部に設置されている。車上子11は、走行路Rに設置された各地上子との間で通信が可能である。本実施形態において、車上子11は、第1~第4地上子51~54の上方を通過する際に第1~第4地上子51~54から地点情報(位置情報)を受信するように構成されている。
【0018】
速度発電機13は、列車Tの車軸に取り付けられている。速度発電機13は、前記車軸の回転速度に応じた信号を出力する。速度発電機13の出力信号は、列車Tの速度や移動距離を検出するために利用される。
【0019】
車上無線機15は、主に沿線無線機62との間で無線通信を行う。他の列車の車上無線機15との間で無線通信を行うことも可能である。本実施形態において、車上無線機15は、列車Tの先頭側と後端側とのそれぞれに配置されている。
【0020】
車上データベース17は、走行(停止)パターンなどの列車Tが走行路Rを走行するために必要な各種情報を記憶している。
【0021】
車上装置10は、速度発電機13の出力信号に基づいて列車Tの速度を検出し、車上子11が第1~第4地上子51~54のいずれかから受信した地点情報(位置情報)及び速度発電機13の出力信号に基づいて列車Tの位置を検出する。
【0022】
また、車上装置10は、検出された列車Tの速度及び位置を含む列車Tの状態情報を、車上無線機15を介して送信する。車上無線機15から送信された列車Tの情報は、沿線無線機62及び拠点無線機61を介して地上装置30によって受信される。
【0023】
また、車上装置10は、地上装置30が拠点無線機61及び沿線無線機62を介して送信した情報を、車上無線機15を介して受信する。そして、車上装置10は、地上装置30から受信した情報及び車上データベース17に記憶されている情報などに基づいて列車Tの駆動装置及び/又はブレーキ装置(いずれも図示省略)を制御し、これによって、列車Tの走行を制御するように構成されている。
【0024】
地上装置30は、地上データベース31を有している。地上データベース31には、走行路Rに関する情報(主に駅や地上子の位置情報)、走行路Rを走行する各列車に関する情報及び走行路Rを走行する各列車に提供する情報を含む各種情報を記憶している。
【0025】
また、地上装置30は、走行路Rを走行する各列車の車上装置10から送信された各列車の状態情報を受信すると、受信された各列車の情報を地上データベース31内の所定領域に記憶させると共に前記線区の運行管理装置40に送信する。したがって、地上装置30及び運行管理装置40は、走行路Rを走行する各列車の状態、例えば、各列車の速度及び位置、どの列車がどの駅に到着したか(停止しているか)、及び、どの列車がどの駅を出発したかなどを把握することが可能である。
【0026】
また、地上装置30は、走行路Rを走行する各列車の車上装置に対して列車制御に必要な情報を送信する。送信される情報は、地上データベース31に記憶されている情報、地上装置30が検知した情報及びこれらに基づく情報を含む。
【0027】
次に、無線式列車制御システム1による列車制御の一例を説明する。ここでは、無線式列車制御システム1がA駅からB駅に向かって走行する列車Tを制御する場合、つまり、列車Tが制御対象(対象列車)である場合について説明する。
【0028】
なお、無線式列車制御システム1は、前記複数の駅のそれぞれの区間を除き、移動閉塞方式によって列車の間隔制御を行うが、移動閉塞方式による列車の間隔制御は公知であるので、ここでの説明は省略する。
【0029】
無線式列車制御システム1は、基本的には、予め設定された計画ダイヤに基づいて走行路Rを走行する各列車を制御する。例えば、地上装置30は、A駅において列車Tが出発可能な状態になると、A駅に停止中の列車Tの車上装置10に出発許可信号を送信する。出発許可信号を受信した列車Tの車上装置10は、列車Tの前記駆動装置を制御して列車TをA駅から出発させる。
【0030】
列車Tの車上装置10は、列車TがA駅を出発すると、A駅を出発したことを示すA駅出発信号を地上装置30に送信する。また、列車Tの車上装置10は、地上装置30から出発許可信号を受信し又は列車TがA駅を出発すると、車上データベース17からA駅とB駅との間の走行パターン(以下「AB駅間走行パターン」という)を読み出す(AB駅間走行パターンを発生させる)。そして、列車Tの車上装置10は、発生させた前記AB駅間走行パターンによりA駅を出発した列車Tの走行を制御する。すなわち、列車Tの車上装置10は、列車Tの位置、列車Tの速度及び前記AB駅間走行パターンに基づいて列車Tの前記駆動装置及び前記ブレーキ装置を適宜制御し、前記AB駅間走行パターンに追従するように列車Tを走行させてB駅の停止位置に停止させる。このとき、列車Tの車上装置10は、列車Tの車上子11がB駅の入口部に設置された第2地上子52及びB駅の停止位置に設置された第3地上子53から受信する地点情報を利用することで列車TをB駅の停止位置に精度よく停止させることができる。
【0031】
本実施形態において、前記AB駅間走行パターンは、列車TがA駅とB駅との間を最短時間で走行する最速運転曲線であり、あらかじめ作成されて車上データベース17に記憶されている。具体的には、前記AB駅間走行パターンは、
図3に示されるように、最大加速走行、定速(最高速度)走行及び最大減速走行を行うパターンとして作成されている。ここで、前記AB駅間走行パターンの最大減速走行部分は、列車TをB駅の停止位置までに停止させるための速度照査パターン(以下「第1停止パターン」という)に相当する。
【0032】
なお、列車Tの車上装置10は、列車TがB駅に到着する(B駅の停止位置に停止する)と、発生させた前記AB駅間走行パターンを消去する。
【0033】
ところで、本実施形態において、走行路Rにおける前記複数の駅のそれぞれの区間、さらに言えば前記複数の駅のそれぞれにおけるホームに対応するホーム区間は、主に安全性の確保のため、一つの列車しか進入することができない閉塞区間とされている。つまり、列車Tは、先行列車PTがB駅から進出するまで、B駅に進入することができない。
【0034】
そのため、無線式列車制御システム1は、先行列車PTがB駅から進出するまでの間、すなわち、B駅の進路が未開通であるとき(B駅の進路未開通時)は、B駅の手前の停止限界位置SP1までに停止可能な状態で列車Tを走行させる。停止限界位置SP1とは、B駅の進路未開通時にB駅に向かう列車が停止しなければならない限界の位置のことである。本実施形態において、停止限界位置SP1は、あらかじめ設定されて地上データベース31に記憶される。特に制限されないが、停止限界位置SP1は、例えば従来の場内信号機に対応する位置に設定される。そして、無線式列車制御システム1は、例えば以下のようにして停止限界位置SP1までに停止可能な状態で列車Tを走行させる。
【0035】
先行列車PTがB駅に到着すると、先行列車PTの車上装置10は、先行列車PTがB駅に到着したことを示すB駅到着信号を地上装置30に送信する。地上装置30は、先行列車PTの車上装置10から送信されたB駅到着信号を受信することにより先行列車PTがB駅に到着したこと及びB駅における先行列車PTの到着時刻を検知する。但し、これに限られるものではない。地上装置30は、先行列車PTの車上装置10から送信された先行列車PTの位置及び速度に基づいて先行列車PTがB駅に到着したこと及びB駅における先行列車PTの到着時刻を検知してもよい。地上装置30は、先行列車PTがB駅に到着したことを検知すると、地上データベース31から停止限界位置SP1を読み出し、A駅を出発した列車Tの車上装置10に停止限界位置SP1を送信する。
【0036】
列車Tの車上装置10は、地上装置30から送信された停止限界位置SP1を受信すると、車上データベース17から列車Tを停止限界位置SP1までに停止させるための速度照査パターン(以下「第2停止パターン」という)を読み出す(第2停止パターンを発生させる)。本実施形態において、前記第2停止パターンは、
図4に示されるように、例えば、前記AB駅間走行パターンの最大減速走行部分(前記第1停止パターン)を停止限界位置SP1に応じてA駅側にシフトした曲線又はこれに近似する曲線であり、あらかじめ作成されて車上データベース17に記憶されている。
【0037】
そして、列車Tの車上装置10は、前記第2停止パターンを発生させると、前記第2停止パターンを消去するまでの間、発生させた前記第2停止パターンを用いて列車Tの走行を制御する。すなわち、列車Tの車上装置10は、列車Tの速度が前記第2停止パターンの対応速度(同じ位置における速度)を超過しないように列車Tの走行を制御する。
【0038】
なお、地上装置30は、例えば先行列車PTの車上装置10から送信された先行列車PTの位置に基づいて先行列車PTがB駅から進出したこと(すなわち、B駅の進路が開通したこと)を検知すると、B駅の進路が開通したことを示すB駅進路開通信号を列車Tの車上装置10に送信する。そして、列車Tの車上装置10は、地上装置30から送信されたB駅進路開通信号を受信すると(つまり、B駅の進路が開通すると)、発生させた前記第2停止パターンを消去する。但し、これに限られるものではない。地上装置30は、図示省略の連動装置などからの情報に基づきB駅の進路が開通したことを検知してもよい。
【0039】
先行列車PTが計画ダイヤのとおりにB駅を出発すれば、列車TがB駅に接近する前に先行列車PTがB駅から進出してB駅の進路が開通する。このため、前記第2停止パターンが消去され、列車Tは、前記AB駅間走行パターンにしたがって走行路Rを走行してB駅に進入し及びB駅の停止位置に停止することが可能である。しかし、B駅における先行列車PTの出発が遅延した場合には、B駅の進路が開通しないため、列車Tは、前記第2停止パターンにしたがって走行することになる。この場合、列車Tは、A駅とB駅との間で減速したり、停止したりしなければならず、列車TのB駅への到着が遅延する。既述のように、高頻度運転が行われる線区では、遅延の回復等のための余裕時間が少ない。このため、列車TのB駅への到着が遅延すると、列車TのB駅からの出発も遅延することになる。つまり、先行列車PTの遅延が列車Tの遅延を招き、列車Tの遅延がさらに列車Tの後続列車にも波及する(列車の遅延伝搬が発生する)。
【0040】
実施形態に係る無線式列車制御システム1は、単に前記第2停止パターンを発生させて走行路Rを走行する各列車を制御するのではなく、走行路Rを走行する各列車(ここでは列車T)を以下のように制御することで駅発着時隔(ここではB駅における列車の発着時隔)の最小化を図り、これによって、上述のような列車の遅延伝搬を抑制するようにしている。なお、駅発着時隔とは、列車(ここでは先行列車PT)が駅を出発してからその後続列車(ここでは列車T)が当該駅に到着するまでの時間間隔のことである。
【0041】
[接近点を利用した列車制御]
B駅における列車の発着時隔を最小化するためには、先行列車PTがB駅から進出してB駅の進路が開通してから列車TがB駅に到着する(B駅の停止位置に停止する)までの所要時間trを最小化すればよい。そのためには、B駅の進路開通時刻において列車Tが所要時間trを最小化し得る走行状態になっている必要がある。
【0042】
B駅における先行列車PTの出発時刻の予測は難しいが、B駅の進路開通時刻は、B駅における先行列車PTの出発時刻に基づいて、さらに言えば、B駅における先行列車PTの出発時刻、先行列車PTの性能及び先行列車PTの列車長などから予測可能である。つまり、B駅の進路開通時刻は、B駅における先行列車PTの出発を検知することで予測可能である。
【0043】
また、列車Tの走行状態に関し、列車TがB駅の停止位置で停止するためには、B駅の進路開通時刻t1での列車Tの速度V(t1)が速いほどB駅の進路開通時刻t1での列車Tの位置X(t1)はB駅から遠ざかる必要がある。他方、B駅の進路開通時刻t1での列車Tの速度V(t1)が遅いほどB駅の進路開通時刻t1での列車Tの位置X(t1)をB駅に近づけることが可能であるが、列車Tの再加速などに時間を要する。つまり、B駅の進路開通時刻t1での列車Tの速度V(t1)が速すぎても遅すぎても所要時間trが増加することになる。換言すれば、
図5に示されるように、所要時間trが最小となるB駅の進路開通時刻t1での列車Tの速度Vzが存在する。
【0044】
よって、予測されたB駅の進路開通時刻に列車Tの速度がVzとなるように列車Tを制御すればB駅における列車の発着時隔を最小化することが可能であるが、B駅の進路開通時刻の予測が外れた場合に備える必要がある。すなわち、予測されたB駅の進路開通時刻までにB駅の進路が開通しない(先行列車PTがB駅から進出しない)場合に備えて、B駅の手前の停止限界位置SP1までに停止可能な状態で列車Tを走行させる必要がある。
【0045】
ここで、上述のように、列車Tを停止限界位置SP1までに停止させるための前記第2停止パターンはあらかじめ作成可能である(
図4参照)。また、所要時間trが最小となるB駅の進路開通時刻での列車Tの速度Vzもあらかじめ求めることが可能である。そうすると、前記第2停止パターン上の点Z(
図4参照)における列車Tの走行状態が、列車Tが停止限界位置SP1までの停止可能であり且つ列車TがB駅に到着するまでの所要時間trを最小化し得る列車Tの走行状態であり、この点Zをあらかじめ求めておくことも可能である。
【0046】
本実施形態においては、前記第2停止パターン上の点Zをあらかじめ求めておき、この点Zを「接近点」と称する。また、接近点Zにおける列車Tの走行状態、すなわち、列車Tの位置と列車Tの速度の組である[Xz,Vz]を[接近点位置,接近点速度]として設定する。つまり、本実施形態において、「接近点Z」は、列車Tが停止限界位置SP1までに停止可能であり且つ列車TがB駅に到着する(B駅の停止位置に停止する)までの所要時間trが最小となる列車Tの位置と速度の組である[接近点位置Xz,接近点速度Vz]として設定されている。なお、本実施形態において、接近点Z[接近点位置Xz,接近点速度Vz]は、地上データベース31にあらかじめ記憶される。
【0047】
そして、無線式列車制御システム1は、先行列車PTがB駅を出発すると、B駅における先行列車PTの出発時刻に基づいてB駅の進路開通時刻を予測し、予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように列車Tを制御し、これによって、B駅における列車の発着時隔の最小化を図るようにしている。ここで、「接近点Zに到達するように列車Tを制御する」とは、接近点Zにおける走行状態になるように列車Tを制御すること、つまり、接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように列車Tを制御することをいう。
【0048】
具体的には、本実施形態において、先行列車PTの車上装置10は、先行列車PTがB駅を出発すると、先行列車PTがB駅を出発したことを示すB駅出発信号を地上装置30に送信する。地上装置30は、先行列車PTの車上装置10から送信されたB駅出発信号を受信することにより先行列車PTがB駅を出発したこと及びB駅における先行列車PTの出発時刻を検知する。但し、これに限られるものではない。地上装置30は、先行列車PTの車上装置10から送信された先行列車PTの位置及び速度に基づいて先行列車PTがB駅を出発したこと及びB駅における先行列車PTの出発時刻を検知してもよい。
【0049】
地上装置30は、B駅における先行列車PTの出発及び出発時刻を検知すると、検知された出発時刻に基づきB駅の進路開通時刻(先行列車PTがB駅から進出する時刻)を予測し、地上データベース31から接近点Zに関する情報(接近点位置Xz及び接近点速度Vz)を読み出し、予測されたB駅の進路開通時刻及び読み出された接近点Zに関する情報(接近点位置Xz及び接近点速度Vz)を列車Tの車上装置10に送信する。
【0050】
そして、列車Tの車上装置10は、地上装置30から送信された前記予測されたB駅の進路開通時刻及び接近点Zに関する情報(以下単に「前記予測されたB駅の進路開通時刻等」という場合もある)を受信すると、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように、すなわち、接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように、列車Tの走行を制御する。例えば、列車Tの車上装置10は、減速開始時刻(前記AB駅間走行パターンの定速走行を打ち切る時刻)を調整した上で前記第2停止パターンに沿うように列車Tを走行させることにより、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように列車Tの走行を制御することができる。
【0051】
但し、これに限られるものではない。地上装置30は、前記AB駅間走行パターンに従って走行している列車Tを前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達させるための第1走行パターンを作成し、作成された第1走行パターンを、前記予測されたB駅の進路開通時刻等に代えて列車Tの車上装置10に送信するようにしてもよい。この場合、列車Tの車上装置10は、地上装置30から送信された前記第1走行パターンに沿うように列車Tの走行を制御することになる。
【0052】
ところで、上述のように、列車Tの車上装置10は、B駅の進路が開通すると(B駅進路開通信号を受信すると)前記第2停止パターンを消去する。この場合、列車Tの車上装置10は、列車Tの速度が前記AB駅間走行パターンの前記第1停止パターンの対応速度を超過しないように列車Tの走行を制御すればよいことになる。このため、列車Tの車上装置10は、B駅の進路開通後においては、最短時間でB駅に到着(B駅の停止位置に停止)するように列車Tの走行を制御する。例えば、列車Tの車上装置10は、列車Tを可能な限り大きく加速(好ましくは最大で加速)させた後に前記AB駅間走行パターンの前記第1停止パターンにしたがって減速(ここでは最大で減速)させて列車TをB駅(の前記停止位置)に停止させる。
【0053】
但し、前記予測されたB駅の進路開通時刻までにB駅の進路が開通しない場合、列車Tの車上装置10は、前記第2停止パターンを消去しないため、前記第2停止パターンにより列車Tの走行を制御することになる。すなわち、列車Tの車上装置10は、停止限界位置SP1までに停止するように列車Tの走行を制御する。
【0054】
よって、前記予測されたB駅の進路開通時刻にB駅の進路が開通した場合、列車Tは接近点Zに到達するが、前記予測されたB駅の進路開通時刻よりも前にB駅の進路が開通した場合、列車Tは、接近点Zに到達する前に加速されることになり、接近点Zに到達しない(接近点Zにおける走行状態にはならない)。他方、前記予測されたB駅の進路開通時刻を経過してからB駅の進路が開通した場合、列車Tは、停止限界位置SP1に停止した後に又は停止限界位置SP1に停止する直前に加速されることになる。
【0055】
[列車の機外停止]
B駅における先行列車PTの出発遅延が長時間になると、列車TをB駅の手前で停止させる列車Tの機外停止は避けられない。このような場合においてもB駅における列車の発着時隔を最小化するためには、列車Tの機外停止の場所は、列車Tが停止状態から再加速して接近点Zに到達し得る位置でなければならない。換言すれば、列車Tの機外停止の場所は、列車Tが停止状態から走行を開始して接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過することのできる位置でなければならない。そのような位置は、接近点Z及び列車Tの性能などに基づいてあらかじめ求めることが可能であり、停止限界位置SP1よりも手前に複数存在する。本実施形態においては、そのうちのB駅の最も近い位置であり、列車Tが停止状態から最大の加速度で走行したときに接近点Zに到達する位置を「機外停止位置SP2」として設定する。なお、本実施形態において、機外停止位置SP2は、地上データベース31にあらかじめ記憶される。
【0056】
B駅における先行列車PTの出発遅延がどの程度になるか、換言すれば、列車Tを機外停止させる必要があるか否かを予測することは難しい。そこで、本実施形態において、無線式列車制御システム1は、列車Tを機外停止させる必要が生じる可能性があるという前提の下、先行列車PTがB駅を出発するまでは、機外停止位置SP2に停止可能な状態で列車Tを走行させる。
【0057】
具体的には、本実施形態において、地上装置30は、先行列車PTがB駅に到着したことを検知すると、地上データベース31から機外停止位置SP2を読み出し、列車Tの車上装置10に機外停止位置SP2を送信する。つまり、本実施形態において、地上装置30は、先行列車PTがB駅に到着したことを検知すると、停止限界位置SP1に加えて機外停止位置SP2を列車Tの車上装置10に送信する。
【0058】
列車Tの車上装置10は、地上装置30から機外停止位置SP2を受信すると、車上データベース17から列車Tを機外停止位置SP2に停止させるための速度照査パターン(以下「第3停止パターン」という)を読み出す(第3停止パターンを発生させる)。本実施形態において、前記第3停止パターンは、
図6に示されるように、例えば、前記AB駅間走行パターンの最大減速走行部分(前記第1停止パターン)を機外停止位置SP2に応じてA駅側にシフトした(すなわち、前記第2停止パターンよりもさらにA駅側にシフトした)曲線又はこれに近似する曲線であり、あらかじめ作成されて車上データベース17に記憶されている。
【0059】
そして、列車Tの車上装置10は、前記第3停止パターンを発生させると、前記第3停止パターンを消去するまでの間、発生させた前記第3停止パターンを用いて列車Tの走行を制御する。すなわち、列車Tの車上装置10は、列車Tの速度が前記第3停止パターンの対応速度を超過しないように列車Tの走行を制御する。
【0060】
なお、列車Tの車上装置10は、地上装置30から送信された前記予測されたB駅の進路開通時刻等を受信すると、すなわち、先行列車PTがB駅を出発すると、発生させた前記第3停止パターンを消去する。この場合、列車Tの車上装置10は、列車Tの速度が前記第2停止パターンの対応速度を超過せず且つ前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように(接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように)列車Tの走行を制御すればよいことになる。
【0061】
そのため、列車Tの車上装置10は、前記予測されたB駅の進路開通時刻等を受信した場合、前記予測されたB駅の進路開通時刻等を受信したときの列車Tの位置及び速度(現在位置及び現在速度)と、接近点位置Xz及び接近点速度Vzと、前記予測されたB駅の進路開通時刻までの残り時間とに基づき、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように(すなわち、接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように)列車Tの走行を制御する。前記残り時間は、前記予測されたB駅の進路開通時刻と、列車Tの車上装置10が前記予測されたB駅の進路開通時刻等を受信した時刻(現在時刻)との時刻差のことである。
【0062】
また、列車Tが機外停止位置SP2に停止した後に前記予測されたB駅の進路開通時刻等を受信した場合、列車Tの車上装置10は、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように(接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように)、列車Tの機外停止位置SP2での停止時間(又は列車Tの走行再開時刻)を調整した上で列車Tを最大の加速度で走行させる。
【0063】
但し、これに限られるものではない。地上装置30は、前記第3停止パターンに従って走行中の列車Tを前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達させるための第2走行パターン又は機外停止位置SP2に停止中の列車Tを前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達させるための第3走行パターンを作成し、作成された第2又は第3走行パターンを、前記予測されたB駅の進路開通時刻等に代えて列車Tの車上装置10に送信するようにしてもよい。この場合、列車Tの車上装置10は、地上装置30から送信された前記第2又は第3走行パターンに沿うように列車Tの走行を制御することになる。
【0064】
図7は、無線式列車制御システム1を構成する地上装置30の動作の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、列車Tの先行列車PTがB駅に到着してから先行列車PTがB駅から進出するまで(B駅の進路が開通するまで)の地上装置30の動作を示している。なお、地上装置30は、上述のように、先行列車PTの車上装置10から送信されたB駅到着信号を受信することにより又は先行列車PTの車上装置10から送信された先行列車PTの位置及び速度に基づいて先行列車PTがB駅に到着したことを検知することができる。
【0065】
図7において、ステップS1では、B駅の進路未開通時の停止限界位置SP1及び停止限界位置SP1よりも手前に設定された機外停止位置SP2を列車Tの車上装置10に送信する。
【0066】
ステップS2では、先行列車PTがB駅を出発したか否かを判断する。そして、先行列車PTがB駅を出発するとステップS3に進む。なお、地上装置30は、上述のように、先行列車PTの車上装置10から送信されたB駅出発信号を受信することにより又は先行列車PTの車上装置10から送信された先行列車PTの位置及び速度に基づいて先行列車PTがB駅を出発したことを検知することができる。
【0067】
ステップS3では、B駅における先行列車PTの出発時刻に基づいてB駅の進路開通時刻を予測し、ステップS4では、地上データベース31から接近点Zに関する情報(接近点位置Xz及び接近点速度Vz)を読み出す。
【0068】
ステップS5では、ステップS3で予測されたB駅の進路開通時刻と、ステップS4で読み出された接近点Zに関する情報(接近点位置Xz及び接近点速度Vz)とを列車Tの車上装置10に送信する。
【0069】
ステップS6では、B駅の進路が開通したか否か、すなわち、先行列車PTがB駅から進出したか否かを判断する。そして、B駅の進路が開通すると(先行列車PTがB駅から進出すると)ステップS7に進む。なお、地上装置30は、上述のように、先行列車PTの車上装置10から送信された先行列車PTの位置に基づいて又は図示省略の連動装置などからの情報に基づいてB駅の進路が開通したことを検知することができる。
【0070】
ステップS7では、B駅の進路が開通したことを示すB駅進路開通信号を列車Tの車上装置10に送信する。そして、ステップS7でB駅進路開通信号を列車Tの車上装置10に送信すると本フローチャートを終了する。
【0071】
このように、本実施形態において、地上装置30は、列車Tの先行列車PTがB駅に到着すると、B駅の進路未開通時の停止限界位置SP1及び停止限界位置SP1よりも手前の機外停止位置SP2を列車Tの車上装置10に送信する。また、地上装置30は、先行列車PTがB駅を出発すると、B駅における先行列車PTの出発時刻に基づいてB駅の進路開通時刻を予測し、予測されたB駅の進路開通時刻と、接近点Zに関する情報(接近点位置Xz及び接近点速度Vz)とを列車Tの車上装置10に送信する。さらに、地上装置30は、先行列車PTがB駅から進出してB駅の進路が開通すると、B駅の進路が開通したことを示すB駅進路開通信号を列車Tの車上装置10に送信する。
【0072】
図8、
図9は、無線式列車制御システム1を構成する列車Tの車上装置10の動作の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、列車TがA駅を出発してからB駅に到着するまでの列車Tの車上装置10の動作を示している。
【0073】
図8において、ステップS11では、前記AB駅間走行パターン(
図3参照)を発生させる。上述のように、前記AB駅間走行パターンは、列車TをB駅の停止位置までに停止させるための前記第1停止パターンを含む。
【0074】
ステップS12では、ステップS11で発生させた前記AB駅間走行パターンにより列車Tの走行を制御する。すなわち、前記AB駅間走行パターンに追従するように列車Tを走行させる。
【0075】
ステップS13では、B駅の進路未開通時の停止限界位置SP1及び機外停止位置SP2を地上装置30から受信したか否かを判断する。そして、停止限界位置SP1及び機外停止位置SP2を受信するとステップS14に進む。
【0076】
ステップS14では、列車Tを停止限界位置SP1までに停止させるための前記第2停止パターン(
図4参照)及び列車Tを機外停止位置SP2に停止させるための前記第3停止パターン(
図6参照)を発生させる。これにより、列車Tの車上装置10は、列車Tの速度が前記第2停止パターンの対応速度及び第3停止パターンの対応速度を超過しないように(すなわち、前記第3停止パターンの対応速度を超過しないように)列車Tの走行を制御することになる。
【0077】
ステップS15では、前記予測されたB駅の進路開通時刻及び接近点Zに関する情報(接近点位置Xz及び接近点速度Vz)を地上装置30から受信したか否かを判断する。そして、前記予測されたB駅の進路開通時刻及び接近点Zに関する情報を受信するとステップS16に進む。なお、前記予測されたB駅の進路開通時刻及び接近点Zに関する情報を受信することは、先行列車PTがB駅を出発したことを意味する。
【0078】
ステップS16では、前記第3停止パターンを消去する。これにより、列車Tの車上装置10は、列車Tの速度が前記第2停止パターンの対応速度を超過しないように列車Tの走行を制御することになる。
【0079】
ステップS17(
図9)では、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように列車Tの走行を制御する。上述のように、列車Tの車上装置10は、減速開始時刻を調整した上で前記第2停止パターンに沿うように列車Tを走行させることにより、あるいは、列車Tの現在位置及び現在速度と、接近点位置Xz及び接近点速度Vzと、前記予測されたB駅の進路開通時刻までの残り時間とに基づいて、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように列車Tの走行を制御する。また、列車Tが機外停止位置SP2に停止している場合、列車Tの車上装置10は、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように、列車Tの機外停止位置SP2での停止時間(列車Tの走行再開時刻)を調整した上で列車Tを最大の加速度で走行させる。
【0080】
ステップS18、S19では、前記予測されたB駅の進路開通時刻までに前記B駅進路開通信号を地上装置30から受信したか否かを判断する。そして、前記予測されたB駅の進路開通時刻までに前記B駅進路開通信号を受信した場合にはステップS22に進む。前記予測されたB駅の進路開通時刻までに前記B駅進路開通信号を受信しない場合にはステップS20に進み、前記第2停止パターンにより列車Tの走行を制御する。この場合、列車Tの車上装置10は、停止限界位置SP1までに停止するように列車Tの走行を制御することになる。その後、ステップS21で前記B駅進路開通信号を地上装置30から受信するとステップS22に進む。
【0081】
ステップS22では、前記第2停止パターンを消去する。これにより、列車Tの車上装置10は、列車Tの速度が前記AB駅間走行パターンの前記第1停止パターンの対応速度を超過しないように列車Tの走行を制御することになる。
【0082】
ステップS23では、最短時間でB駅に到着するように列車Tの走行を制御する。上述のように、列車Tの車上装置10は、例えば、列車Tを可能な限り大きく加速(好ましくは最大で加速)させた後に前記AB駅間走行パターンの前記第1停止パターンにしたがって減速(ここでは最大で減速)させて列車TをB駅(の前記停止位置)に停止させる。
【0083】
このように、本実施形態において、列車Tの車上装置10は、A駅を出発する際に列車TをB駅の停止位置までに停止させるための前記第1停止パターンを含む前記AB駅間走行パターンを発生させる。また、列車Tの車上装置10は、停止限界位置SP1及び機外停止位置SP2を受信すると列車Tを停止限界位置SP1までに停止させるための前記第2停止パターン及び列車Tを機外停止位置SP2に停止させるための前記第3パターンを発生させる。
【0084】
そして、列車Tの車上装置10は、停止限界位置SP1及び機外停止位置SP2の受信後であって且つ前記予測されたB駅の進路開通時刻等を受信するまでは、列車Tの速度が前記第3停止パターンの対応速度を超過しないように列車Tの走行を制御する。また、列車Tの車上装置10は、前記予測されたB駅の進路開通時刻等を受信すると、前記第3停止パターンを消去し、列車Tの速度が前記第2停止パターンの対応速度を超過せず且つ前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過するように列車Tの走行を制御する。また、列車Tの車上装置10は、前記予測されたB駅の進路開通時刻までに前記B駅進路開通信号を受信しない場合、列車Tの速度が前記第2停止パターンの対応速度を超過しないように(さらに言えば、停止限界位置SP1で停止するように)列車Tの走行を制御する。また、列車Tの車上装置10は、前記B駅進路開通信号を受信すると、前記第2停止パターンを消去し、列車Tの速度が前記AB駅間走行パターンの前記第1停止パターンの対応速度を超過せず且つ最短時間でB駅に到着するように列車Tの走行を制御して列車TをB駅の停止位置に停止させる。
【0085】
図10は、B駅における先行列車PTの出発遅延が比較的短時間である場合の列車Tの走行状態の一例を示す図である。
【0086】
図10(a)に示されるように、B駅における先行列車PTの出発遅延が比較的短時間である場合、先行列車PTは、列車Tが前記第3停止パターンによる減速開始位置X3に到達する前にB駅を出発する。すると、前記第3停止パターンが消去され、列車Tは、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように前記第2停止パターンに沿って減速する。通常、前記予測されたB駅の進路開通時刻にB駅の進路が開通し、B駅の進路が開通すると前記第2停止パターンが消去される。このため、
図10(b)に示されるように、接近点Zに到達した列車Tは、最短時間でB駅に到着するように、可能な限り大きく加速(好ましくは最大に加速)し、その後、前記AB駅間走行パターンの前記第1停止パターンに沿って減速(最大で減速)してB駅に到着する。
【0087】
なお、
図10(c)は、前記予測されたB駅の進路開通時刻よりも前にB駅の進路が開通した場合を示している。この場合、列車Tは、最短時間でB駅に到着するように、接近点Zに到達する前に加速される。このため、列車Tは、接近点Zには到達しないが、より早くB駅に到着することが可能である。また、図示は省略するが、前記予測されたB駅の進路開通時刻が経過した後にB駅の進路が開通した場合、列車Tは、停止限界位置SP1に停止した後に又は停止限界位置SP1に停止する直前の状態から加速されることになるため、前記予測されたB駅の進路開通時刻にB駅の進路が開通した場合と比較して、列車TのB駅への到着は遅れる。
【0088】
図11は、B駅における先行列車PTの出発遅延が長時間である場合の列車Tの走行状態の一例を示す図である。
【0089】
図11(a)に示されるように、B駅における先行列車PTの出発遅延が長時間になると、列車Tは、前記第3停止パターンに沿って減速して機外停止位置SP2に停止する。その後、先行列車PTがB駅を出発すると、
図11(b)に示されるように、列車Tは、前記予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように、走行を再開して最大の加速度で走行する。通常、前記予測されたB駅の進路開通時刻にB駅の進路が開通し、B駅の進路が開通すると前記第2停止パターンが消去される。このため、
図11(c)に示されるように、接近点Zに到達した列車Tは、そのまま最大の加速度で走行し、その後、前記AB駅間走行パターンの前記第1停止パターンに沿って減速(最大で減速)してB駅に到着する。
【0090】
なお、図示は省略するが、前記予測されたB駅の進路開通時刻にB駅の進路が開通しなかった場合、列車Tは、接近点Zから前記第2停止パターンに沿って減速する。したがって、前記予測されたB駅の進路開通時刻が経過した後にB駅の進路が開通した場合、列車Tは、停止限界位置SP1に停止した後に又は停止限界位置SP1に停止する直前の状態から加速されることになり、列車TのB駅への到着は遅れる。
【0091】
上記のように、無線式列車制御システム1は、列車Tの先行列車PTがB駅を出発したことを検知すると、B駅における先行列車PTの出発時刻に基づきB駅の進路開通時刻を予測し、予測されたB駅の進路開通時刻に接近点Zに到達するように列車Tを制御する。ここで、接近点Zは、列車Tが停止限界位置SP1までに停止可能であり且つ列車TがB駅の停止位置に停止するまでの所要時間trが最小となる列車Tの位置と速度の組である[接近点位置Xz,接近点速度Vz]として設定されている。このため、無線式列車制御システム1によれば、先行列車PTのB駅からの出発が遅延した場合であっても、安全を確保しつつ、B駅における列車の発着時隔の最小化が図れ、列車TのB駅への到着遅延、ひいては、列車の遅延伝搬が抑制される。
【0092】
また、無線式列車制御システム1は、先行列車PTがB駅を出発するまでは停止限界位置SP1よりも手前に設定された機外停止位置SP2に停止可能な状態で列車Tを走行させる。ここで、機外停止位置SP2は、列車Tが停止状態から再加速して接近点Zに到達し得る位置、換言すれば、列車Tが停止状態から走行を開始して接近点速度Vzで接近点位置Xzを通過することのできる位置として設定されている。このため、無線式列車制御システム1によれば、先行列車PTのB駅からの出発遅延が長時間になって列車TをB駅の手前で停止せざるを得ない場合であっても、前記予測されたB駅の進路開通時刻に列車Tを接近点Zに到達させることが可能となる。したがって、B駅における先行列車PTの出発遅延が長時間になった場合でも、B駅における列車の発着時隔の最小化が図れ、列車TのB駅への到着遅延、ひいては、列車の遅延伝搬が抑制される。
【0093】
なお、上述の実施形態において、列車Tは、車上データベース17を有している。そして、車上装置10は、地上装置30から出発許可信号を受信し又は列車TがA駅を出発すると車上データベース17から前記AB駅間走行パターンを読み出し、地上装置30から停止限界位置SP1を受信すると車上データベース17から前記第2停止パターンを読み出し、地上装置30から機外停止位置SP2を受信すると車上データベース17から前記第3停止パターンを読み出すようにしている。しかし、これに限られるものではない。列車T(先行列車PT)が車上データベース17を有することに代えて、車上装置10がブレーキパターンテーブルを有してもよい。この場合、車上装置10は、例えば、地上装置30から出発許可信号を受信し又は列車TがA駅を出発すると最大加速走行を行い、その後に定速(最高速度)走行を行う。そして、車上装置10は、地上装置30から停止限界位置SP1を受信すると前記ブレーキパターンテーブルから前記第2停止パターンを取得し、地上装置30から機外停止位置SP2を受信すると前記ブレーキパターンテーブルから前記第3停止パターンを取得し、及び、列車TがB駅手前の所定位置に到達し及び/又は地上装置30からB駅の停止位置を受信すると前記ブレーキパターンテーブルから前記第1停止パターンを取得するように構成され得る。このようにしても上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0095】
1…無線式列車制御システム、10…車上装置、11…車上子、13…速度発電機、15…車上無線機、17…車上データベース、30…地上装置、31…地上データベース、51~54…第1~第4地上子、61…拠点無線機、62…沿線無線機、R…走行路、SP1…停止限界位置、SP2…機外停止位置、T…列車(対象列車)、PT…先行列車、Vz…接近点速度、Xz…接近点位置、Z…接近点