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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20240416BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20240416BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C23C16/455
H01L21/365
H01L21/368 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022084766
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2018122695の分割
【原出願日】2018-06-28
(65)【公開番号】P2022119880
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-207911(JP,A)
【文献】特開平09-047697(JP,A)
【文献】特開2005-217089(JP,A)
【文献】特開平11-063400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
H01L 21/365
H01L 21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置であって、
原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、
前記ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、
前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部と、
前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、前記キャリアガスによって過飽和である前記ミストが搬送される、流量調整手段を備えていない搬送部と、
前記搬送部の少なくとも一部を加熱することでミストの凝縮、凝集を抑制する搬送部加熱手段とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記成膜装置はさらに制御部を有し、
前記制御部は、前記搬送部加熱手段を制御して前記搬送部の温度を30~120℃とするものであることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、
ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、
前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、流量調整手段を備えていない搬送部の少なくとも一部を加熱する工程と、
前記搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、過飽和である前記ミストをキャリアガスにより搬送する工程と、
前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、
前記加熱する工程では前記加熱によりミストの凝縮、凝集を抑制することを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、
ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、
前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、流量調整手段を備えていない搬送部の少なくとも一部の温度制御を行いミストの凝縮、凝集を抑制し、前記搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、過飽和である前記ミストをキャリアガスにより搬送する工程と、
前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、
ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、
流量調整手段を備えていない搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストをキャリアガスにより搬送する工程と、前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、
前記キャリアガスの流量と前記ミストの流量を測定し、前記ミストを水蒸気と仮定して換算した前記搬送部における水蒸気量と、室温の飽和水蒸気を比較して、前記搬送部の少なくとも一部の温度制御を行う工程を含み、
前記搬送部の少なくとも一部の温度制御を行う工程では前記温度制御によりミストの凝縮、凝集を抑制することを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
前記搬送部の温度を30~120℃とすることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト状の原料を用いて基体上に成膜を行う成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザー堆積法(Pulsed laser deposition:PLD)、分子線エピタキシー法(Molecular beam epitaxy:MBE)、スパッタリング法等の非平衡状態を実現できる高真空成膜装置が開発されており、これまでの融液法等では作製不可能であった酸化物半導体の作製が可能となってきた。また、霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう。)が開発され、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga)の作製が可能となってきた。α-Gaは、バンドギャップの大きな半導体として、高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子への応用が期待されている。
【0003】
ミストCVD法に関して、特許文献1には、管状炉型のミストCVD装置が記載されている。特許文献2には、ファインチャネル型のミストCVD装置が記載されている。特許文献3には、リニアソース型のミストCVD装置が記載されている。特許文献4には、管状炉のミストCVD装置が記載されており、特許文献1に記載のミストCVD装置とは、ミスト発生器内にキャリアガスを導入する点で異なっている。特許文献5には、ミスト発生器の上方に基板を設置し、さらにサセプタがホットプレート上に備え付けられた回転ステージであるミストCVD装置が記載されている。引用文献6には、基板直上に近接して設けられたノズルに取り付けられた加熱塔でエアロゾルを加熱して基板に吹き付けて成膜を行う成膜装置及び成膜方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-257337号公報
【文献】特開2005-307238号公報
【文献】特開2012-46772号公報
【文献】特許第5397794号
【文献】特開2014-63973号公報
【文献】特許4841338号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミストCVD法は、他のCVD法とは異なり高温にする必要もなく、α-酸化ガリウムのコランダム構造のような準安定相の結晶構造も作製可能である。しかしながら、本発明者は、発生させたミストが基板に搬送されるまでの間に、供給管内で凝縮、凝集して結露し(ミストの寿命低下)、結露したミストは成膜部へ送られず成膜速度が低下するという新たな問題点を見出した。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、成膜速度に優れミストCVD法が適用可能な成膜装置、及び、成膜速度に優れた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、前記キャリアガスによって前記ミストが搬送される搬送部と、前記搬送部の少なくとも一部を加熱する搬送部加熱手段とを有する成膜装置を提供する。
【0008】
このような成膜装置によれば、搬送部でのミストの寿命を延ばし、成膜速度を高くすることが可能なものとなる。
【0009】
このとき、成膜装置はさらに制御部を有し、前記制御部は、前記搬送部加熱手段を制御して前記搬送部の温度を30~120℃とするものとできる。
【0010】
これにより、成膜前のミストの寿命改善効果をより向上できるものとなる。
【0011】
また、成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続する搬送部の少なくとも一部を加熱する工程と、前記搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストをキャリアガスにより搬送する工程と、前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含む成膜方法を提供する。
【0012】
このような成膜方法によれば、搬送部でのミストの寿命を延ばし、成膜速度を高くすることができる。
【0013】
このとき、前記搬送部の温度を30~120℃とすることができる。
【0014】
これにより、成膜前のミストの寿命改善効果をより向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の成膜装置によれば、簡便な装置構成により成膜速度を大きく改善することが可能なものとなる。また、本発明の成膜方法によれば、簡便な方法により成膜速度を大きく改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の成膜装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明に用いられるミスト化部の一例を説明する図である。
図3】本発明の成膜装置の他の例を示す概略構成図である。
図4】本発明の成膜装置のさらに他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
上述のように、ミストCVD法において、成膜速度を改善することが可能な成膜装置、成膜速度を大きく改善する成膜方法が求められていた。
【0019】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、前記キャリアガスによって前記ミストが搬送される搬送部と、前記搬送部の少なくとも一部を加熱する搬送部加熱手段とを有する成膜装置により、搬送部でのミストの寿命を延ばし、成膜速度を高くすることが可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
また、本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続する搬送部の少なくとも一部を加熱する工程と、前記搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストをキャリアガスにより搬送する工程と、前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含む成膜方法により、搬送部でのミストの寿命を延ばし、成膜速度を高くすることが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
以下、図面を参照して説明する。
【0022】
ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。
【0023】
図1に、本発明に係る成膜装置101の一例を示す。成膜装置101は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部120と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部130と、ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部140と、ミスト化部120と成膜部140とを接続し、キャリアガスによってミストが搬送される搬送部109と、搬送部109の少なくとも一部を加熱する搬送部加熱手段111とを有する。また、成膜装置101は、成膜装置101の全体又は一部を制御する制御部117を備えることによって、その動作が制御されてもよい。この制御部117は、少なくとも搬送部加熱手段111を制御できるようにされるのが好ましい。
【0024】
(ミスト化部)
ミスト化部120では、原料溶液を調整し、前記原料溶液をミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、原料溶液をミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
【0025】
このようなミスト化部120の一例を図2に示す。例えば、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水105aが入れられる容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106を含んでもよい。詳細には、原料溶液104aが収容されている容器からなるミスト発生源104が、水105aが収容されている容器105に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器105の底部には、超音波振動子106が備え付けられており、超音波振動子106と発振器116とが接続されている。そして、発振器116を作動させると、超音波振動子106が振動し、水105aを介して、ミスト発生源104内に超音波が伝播し、原料溶液104aがミスト化するように構成されている。
【0026】
(キャリアガス供給部)
キャリアガス供給部130は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aを有し、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103aを備えていてもよい。また、必要に応じて希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bや、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bを備えることもできる。
【0027】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。
また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。
キャリアガスの流量は、特に限定されない。例えば、30mm角基板上に成膜する場合には、0.01~20L/分とすることが好ましく、1~10L/分とすることがより好ましい。
【0028】
(成膜部)
成膜部140では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基体110の表面の一部又は全部に成膜を行う。成膜部140は、例えば、成膜室107を備え、成膜室107内には基体110が設置されており、該基体110を加熱するためのホットプレート108を備えることができる。ホットプレート108は、図1に示されるように成膜室107の外部に設けられていてもよいし、成膜室107の内部に設けられていてもよい。また、成膜室107には、基体110へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口112が設けられている。
【0029】
なお、本発明においては、基体110を成膜室107の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、基体110を成膜室107の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は120~600℃の範囲であり、好ましくは200℃~600℃の範囲であり、より好ましくは300℃~550℃の範囲とすることができる。
熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0030】
(搬送部)
搬送部109は、ミスト化部120と成膜部140とを接続する。搬送部109を介して、ミスト化部120のミスト発生源104から成膜部140の成膜室107へと、キャリアガスによってミストが搬送される。搬送部109は、例えば、供給管109aとすることができる。供給管109aとしては、例えば石英管や樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0031】
(搬送部加熱手段)
搬送部加熱手段111は、搬送部109を加熱するために搬送部109に設けられる。搬送部加熱手段111は、図1に示すように搬送部109のすべて、すなわち、ミスト化部120の出口から成膜部140の入口までのすべての範囲に渡って設けられることが好ましいが、図3図4に示す(符号は適宜省略)ように、搬送部109の供給管109aの一部のみに設けられていてもよい。搬送部加熱手段111の加熱機構としては特に限定されず、抵抗加熱、高周波加熱、赤外線等を用いた光加熱等、どのような加熱方法を用いてもよい。
【0032】
キャリアガスの流量とミストの流量から、配管中の水分量を形式的に飽和水蒸気量に換算すると、配管中のミストの濃度は過飽和であることが示される。したがって、温度の低い配管の壁にミストが接触すると、ミストは容易に凝縮、凝集して結露し(ミストの寿命低下)、結露したミストは成膜部へ送られず成膜に寄与することができなくなる。つまり、成膜速度の低下の原因となる。この問題に対し、搬送部109を搬送部加熱手段111により加熱すれば、ミストの凝縮、凝集が抑制され、結果として成膜速度を高めることができる。
【0033】
搬送部加熱手段111により搬送部109を加熱する温度は、30~120℃とすることが好ましい。このような範囲であれば、より効果的にミストの凝縮、凝集を抑制でき、成膜速度を高めることができる。
加熱温度の調節は、成膜装置101に制御部117を備えることにより制御することもできる。
【0034】
(原料溶液)
原料溶液は、ミスト化が可能な材料を含んでいれば特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよい。金属又は金属化合物が好適に用いられ、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むものを使用できる。
前記原料溶液は、上記金属をミスト化できるものであれば特に限定されないが、前記原料溶液として、前記金属を錯体又は塩の形態で、有機溶媒又は水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。
【0035】
また、前記原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、なかでも、臭化水素酸またはヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H)、過酸化ナトリウム(Na)、過酸化バリウム(BaO)、過酸化ベンゾイル(CCO)等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0036】
さらに、前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016/cm~1×1022/cmであってもよく、約1×1017/cm以下の低濃度にしても、約1×1020/cm以上の高濃度としてもよい。
【0037】
(基体)
基体110は、成膜可能であり膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体110の材料も、特に限定されず、公知の基体を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、酸化ガリウム等が挙げられるが、これに限られるものではない。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、板状の基体が好ましい。板状の基体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10~2000μmであり、より好ましくは50~800μmである。
【0038】
次に、以下、図1を参照しながら、本発明に係る製造方法の一例を説明する。
まず、原料溶液104aをミスト発生源104内に収容し、基体110をホットプレート108上に直接又は成膜室107の壁を介して設置し、ホットプレート108を作動させる。次に、搬送部加熱手段111を作動させ、搬送部109の供給管109aを加熱する。次に、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節する。次に、超音波振動子106を振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化させてミストを生成する。ついで、ミストは、キャリアガスによって搬送部109を経て成膜室107内に導入される。この時、供給管109aは搬送部加熱手段111により、例えば30~120℃に加熱されているので、供給管109a内でのミストの凝縮等が抑制される。したがって、効率よく成膜室107内に導入されたミストは、成膜室107内でホットプレート108の熱により熱反応して、高い成膜速度で基体110上に成膜される。
【実施例
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0040】
(実施例1)
まず、図1を参照しながら、本実施例で用いた成膜装置101を説明する。成膜装置101は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aと、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103aと、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bと、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bと、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、水105aが収容された容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106と、成膜室107と、ミスト発生源104から成膜室107までをつなぐ石英製の供給管109aと、ホットプレート108とを備えている。搬送部加熱手段111として、アズワン社のリボンヒーターJK-3を供給管109a全体に巻き付け、温調可能とした。
【0041】
次に、原料溶液の作製を行った。臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液104aとした。
【0042】
上述のようにして得た原料溶液104aをミスト発生源104内に収容した。次に、基体110として4インチ(直径100mm)のc面サファイア基板を、成膜室107内でホットプレート108に隣接するように設置し、ホットプレート108を作動させて温度を500℃に昇温した。
次に、搬送部加熱手段111の温度が80℃となるよう調整した。続いて、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5L/minに、希釈用キャリアガスの流量を0.5L/minにそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0043】
次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管109aを経て成膜室107内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室107内でミストを熱反応させて、基体110上にコランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga)の薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。
【0044】
基体110上の薄膜について、測定箇所を基体110の面内の17点として、段差計を用いて膜厚を測定し、それぞれの膜厚の値から平均値を算出した。
平均膜厚は、5.6μmであった。また、平均膜厚を成膜時間で割った成膜速度は、11.2μm/時間であった。
【0045】
(実施例2)
搬送部加熱手段111の温度を30℃とした以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。平均膜厚は5.5μmとなり、成膜速度は、11.0μm/時間であった。
【0046】
(実施例3)
搬送部加熱手段111の温度を120℃とした以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。平均膜厚は5.1μmとなり、成膜速度は、10.2μm/時間であった。
【0047】
(実施例4)
搬送部加熱手段111を図3に示す態様で設けた。すなわち、供給管109a全体のうち60%の範囲に搬送部加熱手段111を設置し加熱した。これ以外は実施例1と同じ条件で成膜を行った。平均膜厚は5.2μmとなり、成膜速度は、10.4μm/時間であった。
【0048】
(実施例5)
搬送部加熱手段111を図4に示す態様で設けた。すなわち、供給管109a全体のうち30%の範囲に搬送部加熱手段111を設置し加熱した。これ以外は実施例1と同じ条件で成膜を行った。平均膜厚は4.8μmとなり、成膜速度は、9.6μm/時間であった。
【0049】
(比較例1)
搬送部加熱手段111を設けず、供給管109aの温度を室温のままとし、これ以外は実施例1と同じ条件で成膜を行った。平均膜厚は3.7μmとなり、成膜速度は、7.4μm/時間であった。
【0050】
実施例1-5及び比較例1の結果をまとめたものを表1に示す。なお、比較例1においては搬送部加熱手段111を設けていないため、搬送部加熱手段被覆割合[%]は「0」である。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1~5と比較例1との比較より、搬送部加熱手段111を設けて搬送部の加熱を行うことで、成膜速度の飛躍的な改善がみられることがわかった。また、搬送部加熱手段111の設置範囲が搬送部の一部であっても、成膜速度の改善効果が得られることがわかった。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
101…成膜装置、 102a…キャリアガス源、
102b…希釈用キャリアガス源、 103a…流量調節弁、
103b…流量調節弁、 104…ミスト発生源、 104a…原料溶液、
105…容器、 105a…水、 106…超音波振動子、 107…成膜室、
108…ホットプレート、 109…搬送部、 109a…供給管、 110…基体、
111…搬送部加熱手段、 112…排気口、 116…発振器、 117…制御部、
120…ミスト化部、130…キャリアガス供給部、140…成膜部。
図1
図2
図3
図4