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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂の超薄膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/00 20060101AFI20240417BHJP
   B01D 71/20 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240417BHJP
   B01D 71/72 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08G8/00 A
B01D71/20
B01D71/56
B01D71/36
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/72
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022526635
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2021020178
(87)【国際公開番号】W WO2021241680
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020092125
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】相田 卓三
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 喜光
(72)【発明者】
【氏名】フ― テンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】シャンパン ピエルーク
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勉
(72)【発明者】
【氏名】長尾 翌手可
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-125890(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013293(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199306(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00-8/38
B01D 69/00-69/14
B01D 71/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを含む溶液を提供する工程、
作用電極及び対極を備える電気化学セルに前記溶液を導入する工程、
前記作用電極に正の電位を印加する工程、及び
前記作用電極上で重合反応を行う工程
を含む、熱硬化性樹脂を調製する方法。
【請求項2】
前記化合物(A)が、フェノール系化合物、尿素系化合物、及びメラミン系化合物からなる群から選択される少なくとも1の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作用電極に正の電位を印加することにより、前記作用電極の表面近傍に塩基が生成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液が支持電解質を含有しない、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを含む溶液を、作用電極及び対極を備える電気化学セルに導入し、前記作用電極に正の電位を印加することにより、前記作用電極上に薄膜を形成させる、熱硬化性樹脂を含む超薄膜を調製する方法。
【請求項6】
作用電極及び対極を備える電気化学セルにおいて、前記作用電極に正の電位を印加することにより、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを、前記作用電極上で重合反応させることにより得られる、熱硬化性樹脂を含む超薄膜であって、超薄膜の表面粗さが1~10nmである、当該超薄膜。
【請求項7】
前記化合物(A)が、フェノール系化合物である、請求項6に記載の超薄膜。
【請求項8】
ナノサイズの厚みを有する、請求項6~7のいずれか1項に記載の超薄膜。
【請求項9】
厚みが10~800nmである、請求項8に記載の超薄膜。
【請求項10】
作用電極及び対極を備える電気化学セルにおいて、前記作用電極に正の電位を印加することにより、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを、前記作用電極上で重合反応させることにより得られる熱硬化性樹脂であって、密度が0.2~0.7g/cmであり、ヤング率が8~20GPaである、当該熱硬化性樹脂。
【請求項11】
網状構造を有する、請求項10に記載の熱硬化性樹脂。
【請求項12】
前記化合物(A)が、フェノール系化合物である、請求項11に記載の熱硬化性樹脂。
【請求項13】
請求項11~12のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂を含む超薄膜。
【請求項14】
ナノサイズの厚みを有する、請求項13に記載の超薄膜。
【請求項15】
厚みが10~300nmである、請求項14に記載の超薄膜。
【請求項16】
請求項6~9、13~15のいずれか1項に記載の超薄膜と、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、及びテフロン膜からなる群から選択される1以上の膜を備える複合薄膜。
【請求項17】
請求項6~9、13~15のいずれか1項に記載の超薄膜、又は、請求項16に記載の複合薄膜を含む濾過膜。
【請求項18】
請求項6~9、13~15のいずれか1項に記載の超薄膜、又は、請求項16に記載の複合薄膜を含む、細菌及び/又はウイルスを防除する製品。
【請求項19】
請求項6~9、13~15のいずれか1項に記載の超薄膜を炭化することにより得られる、炭化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂の超薄膜、及びその製造方法に関わる。より詳細には、本発明は、電極重合反応を用いて、熱硬化性樹脂の超薄膜を形成する方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、100年以上前に開発された初めてのプラスチックであり、耐熱性、難燃性、電気絶縁性に優れている。このような特性を生かして、フェノール樹脂は、耐熱性が要求される自動車部品や、プリント基板、フォトレジスト等において広く使用されている。
【0003】
フェノール樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂は、三次元網目構造を有することから、熱や溶剤に強いという利点を有する。一方、熱硬化性樹脂は、有機溶媒等の溶剤にほとんど溶解しないため、薄膜化することが困難であった。なお、架橋前のフェノール樹脂(レゾール)を製膜した後にアルデヒドで硬化させる手法が知られている。また、他の高分子量ポリマーと複合化させることでフィルム化する方法も知られている。いずれも膜厚が1マイクロメートル以上のものについて得られているが、ナノメートルサイズの超薄膜はこれまで得られていない(特許文献1及び2)。
【0004】
フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を薄膜化することができれば、機械的強度の高い薄膜を得ることができ、高圧下での利用を可能にする分離膜、フレキシブルエレクトロニクスの基板としての利用が期待できる。また、フェノール部位に由来する抗菌・抗ウイルス膜としての利用が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-174235号公報
【文献】特開2010-111013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂の超薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
フェノール樹脂は、一般に、レゾルシノール等のフェノール性水酸基を有するフェノール系化合物とホルムアルデヒドを、酸又は塩基の触媒の存在下で、ホルムアルデヒド等のアルデヒド系化合物を付加縮合することにより合成される(図1参照)。本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討したところ、重合を促進する触媒である塩基を電極の表面の近傍にのみ発生させることができれば、そこでフェノール系化合物とアルデヒド系化合物の重合反応が進行し、フェノール樹脂の薄膜を形成することができることを着想し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
[1]アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを含む溶液を提供する工程、
作用電極及び対極を備える電気化学セルに前記溶液を導入する工程、
前記作用電極に正の電位を印加する工程、及び
前記作用電極上で重合反応を行う工程
を含む、熱硬化性樹脂を調製する方法。
[2]前記化合物(A)が、フェノール系化合物、尿素系化合物、及びメラミン系化合物からなる群から選択される少なくとも1の化合物である、[1]に記載の方法。
[3]前記作用電極に正の電位を印加することにより、前記作用極の表面近傍に塩基が生成される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記溶液が支持電解質を含有しない、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを含む溶液を、作用電極及び対極を備える電気化学セルに導入し、前記作用電極に正の電位を印加することにより、前記作用電極上に薄膜を形成させる、熱硬化性樹脂を含む超薄膜を調製する方法。
[6]アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを重合反応させることにより得られる、熱硬化性樹脂を含む超薄膜。
[7]作用電極及び対極を備える電気化学セルにおいて、前記作用電極に正の電位を印加することにより、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを、前記作用極上で重合反応させることにより得られる、[6]に記載の超薄膜。
[8]前記化合物(A)が、フェノール系化合物である、[6]又は[7]に記載の超薄膜。
[9]ナノサイズの厚みを有する、[6]~[8]のいずれか1項に記載の超薄膜。
[10]厚みが10~800nmである、[9]に記載の超薄膜。
[11]アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを重合反応させることにより得られる熱硬化性樹脂であって、密度が0.2~0.7g/cmであり、ヤング率が8~20GPaである、当該熱硬化性樹脂。
[12]網状構造を有する、[11]に記載の熱硬化性樹脂。
[13]前記化合物(A)が、フェノール系化合物である、[11]又は[12]に記載の熱硬化性樹脂。
[14][11]~[13]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂を含む超薄膜。
[15]ナノサイズの厚みを有する、[14]に記載の超薄膜。
[16]厚みが10~300nmである、[15]に記載の超薄膜。
[17][6]~[10]、[14]~[16]のいずれか1項に記載の超薄膜と、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、及びテフロン膜からなる群から選択される1以上の膜を備える複合薄膜。
[18][6]~[10]、[14]~[16]のいずれか1項に記載の超薄膜、又は、[17]に記載の複合薄膜を含む濾過膜。
[19][6]~[10]、[14]~[16]のいずれか1項に記載の超薄膜、又は、[17]に記載の複合薄膜を含む、細菌及び/又はウイルスを防除する製品。
[20][6]~[10]、[14]~[16]のいずれか1項に記載の超薄膜を炭化することにより得られる、炭化膜。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、厚みがナノメートルサイズであるフェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂の超薄膜を提供することができる。
【0010】
本発明のフェノール系樹脂の超薄膜は、高い水透過性と分離能を有することから、濾過膜として利用することができる。
本発明のフェノール系樹脂の超薄膜は、化学修飾をすることにより分離能を調整することが可能である。
【0011】
また、本発明のフェノール系樹脂の超薄膜は、除菌効果を有することから、細菌やウイルス等を防除する製品に適用することが可能である。
【0012】
また、本発明により、強く、メッシュ状(網状)の構造を有するフェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂の超薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】フェノール樹脂の一般的合成法の模式図である。
図2】本発明の熱硬化性樹脂の調製方法、及び、本発明の熱硬化性樹脂を含む超薄膜の調製方法の概要を示す模式図である。
図3】合成実施例1で得られた超薄膜の写真を示す。
図4】合成実施例1で得られた超薄膜のAFMによる膜厚測定の結果を示す。
図5】実施例1の透過実験の結果を示す。
図6】実施例2における超薄膜の抗菌・抗ウイルス試験の結果を示す。
図7】実施例3において、超薄膜のXPSスペクトルを測定した結果を示す。
図8】実施例3において、超薄膜のナノインデンテーションを測定した結果を示す。
図9】実施例3において、13Cラベル化ホルムアルデヒドを利用して合成した薄膜の13CNMRを測定した結果を示す。
図10】実施例3において、pHによる超薄膜の膜厚の変化を調べた結果を示す。
図11】実施例3において、pHによる超薄膜の透過率及び色素(アシッドレッド88)の除去率の変化を調べた結果を示す。
図12】実施例3において、pHを7→10→7→10に変化させた場合の透過率の可逆性を調べた結果を示す。
図13】実施例4で得られた超薄膜のAFMによる膜厚測定の結果を示す。
図14】実施例4で得られた超薄膜のXPSスペクトルを測定した結果を示す。
図15】実施例5で得られた炭化膜の光学顕微鏡像を示す。
図16】実施例5で得られた炭化膜のAFMによる膜厚測定の結果を示す。
図17】実施例5で得られた炭化膜のXPSスペクトルを測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.熱硬化性樹脂の調製方法
本発明の1つの実施態様は、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを含む溶液を提供する工程、作用電極及び対極を備える電気化学セルに前記溶液を導入する工程、前記作用電極に正の電位を印加する工程、及び前記作用電極上で重合反応を行う工程を含む、熱硬化性樹脂を調製する方法である(以下「本発明の熱硬化性樹脂の調製方法」ともいう)。
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂の調製方法、及び、本発明の熱硬化性樹脂を含む超薄膜の調製方法の概要を示す模式図を図2に示す。理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明の熱硬化性樹脂の調製方法においては、作用電極に正の電位を印加することにより、当該電極の表面近傍のみに塩基を生成させ、当該表面近傍において、ホルムアルデヒド等のアルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とホルムアルデヒド等のアルデヒド系化合物の重合反応を進行させ、作用電極上に、より具体的には作用電極の表面上に熱硬化性樹脂を生成させる。
以下において、本発明の熱硬化性樹脂の調製方法における各構成要件について詳細に説明する。
【0016】
(1)アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)
アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)(以下「化合物(A)」ともいう)は、アルデヒド系化合物と付加縮合することによって重合反応して熱硬化性樹脂を生成する化合物である。
【0017】
化合物(A)としては、フェノール系化合物が代表的である。しかしながら、図2から理解できるように、本発明の熱硬化性樹脂の調製方法では、電極の表面近傍のみに塩基を生成させ、当該表面近傍において、化合物(A)とアルデヒド系化合物の重合反応を進行させることから、化合物(A)として、塩基触媒の存在下でアルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物を用いることができる。このような化合物としては、尿素系化合物、メラミン系化合物が挙げられる。
従って、本発明の熱硬化性樹脂の調製方法に使用できる化合物(A)は、フェノール系化合物、尿素系化合物、及びメラミン系化合物からなる群から選択される少なくとも1の化合物である
【0018】
ここで、後述する通り、アルデヒド系化合物と化合物(A)とを含む溶液は、水溶液が好ましいことから、化合物(A)としては水に溶解するものが好ましい。この点からは、フェノール系化合物、尿素系化合物が好ましい。
【0019】
フェノール系化合物としては、1つ以上のフェノール性水酸基を有する化合物をいう。
本発明の1つの側面において、フェノール系化合物は以下の式(1)で表される。
【0020】
式(1)において、Rは、炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基、炭素数1~3の置換又は無置換のアルケニル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、炭素数1~3のアルキル鎖をもつアルコキシ基から選択される。
アルキル基、アルケニル基の置換基としては、ヒドロキシル基、フェニル基、エーテル基から選択される。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素が好ましい。
【0021】
mは、1~3の整数である。
nは、0~3、好ましくは0~2、より好ましくは0又は1である。
【0022】
式(1)で表される化合物(A)の非限定的例を以下に示す。
【0023】
上記の化合物の中でも化合物(a)~(g)、(k)、(l)が化合物(A)として好適に用いることができる。
【0024】
尿素系化合物としては、尿素(NH-CO-NH)以外に、尿素のアミノ基の水素原子の一部(両方のアミノ基の夫々1つの水素原子、あるいは、一方のアミノ基の1つの水素原子)が他の原子(例えば、炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基で置き換えられていてもよい。
【0025】
メラミン系化合物としては、メラミン以外に、メラミンの3つのアミノ基のうち1又は2のアミノ基の1つの水素原子が他の原子(例えば、炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基で置き換えられている化合物を用いてもよい。
【0026】
アルデヒド系化合物は、R-CHOで表される。Rは、水素、炭素数1~14の置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基からなる群から選択される。アルキル基は環状のアルキル基(例えば、シクロヘキシル基等)であってもよい。
アルキル基が有する置換基としては、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素)、フェニル基等が挙げられる。
アリール基が有する置換基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素)等が挙げられる。
アルデヒド系化合物としては、好ましくは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド等である。
【0027】
(2)アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液
アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液の溶媒は、水であることが好ましい。本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法においては、電極の表面近傍で発生する塩基は水酸基イオンであることが好ましく、水から水酸基イオンを効率的に生成させることができるため、水を用いるのが好ましい。
【0028】
アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液の溶媒として、電極に正の電位を印加することにより塩基を生成させることができる有機溶媒を用いることもできる。このような有機溶媒としては、メタノールやエタノール等が挙げられる。水と有機溶媒を併用する場合、水とメタノールやエタノール等の有機溶媒の比率は、3:1~1:3であることが好ましい。このような有機溶媒を使用することにより、化合物(A)としてメラミン系化合物を使用し得る。また、このような有機溶媒を使用することにより、熱硬化性樹脂を含む超薄膜を厚膜化することが可能である。
また、化合物(A)を水とメタノールやエタノール等の混合溶媒に溶解した溶液を調製し、この溶液とアルデヒド系化合物の水溶液を混合して用いることもできる。
【0029】
アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液は、好ましくは支持電解質を含有しない。従来から、ポリピロールやポリアニリン等の導電性薄膜を形成する方法として電解重合が知られている。電解重合は、支持電解質と単量体を含む溶液の電気分解により、電極付近で発生したラジカルあるいはイオンが重合活性種となって重合が開始される反応である。電解重合では、電解質(典型的には塩化ナトリウム等)を用いるため、電極表面上には水酸基由来の塩基層は形成されず、アニオン(典型的には塩化物イオン等)の層の上にカチオン(典型的にはナトリウムイオン)の層が形成されて、所謂電気二重層が生成する。そのため、塩基触媒によるアルデヒド系化合物の付加縮合は進行しない。
そこで、本発明においては、支持電解質を用いずに、電極の表面近傍に溶媒から直接塩基を生成させることにより、電解質フリーの熱硬化性樹脂を含む高分子薄膜を得ることができる。
【0030】
アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液における、アルデヒド系化合物の濃度は、通常0.1~2mol/Lであり、好ましくは0.5~1mol/Lである。
アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液における、化合物(A)の濃度は、通常0.1~2mol/Lであり、好ましくは0.5~1mol/Lである。
【0031】
アルデヒド系化合物と化合物(A)の濃度の比率は、0.5~2であることが好ましい。
【0032】
(3)電気化学セル
本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法で用いられる電気化学セルは、作用電極及び対極を備える。
作用電極としては、シリコンウエハ(例えば、P型(100)、0.005~0.01Ωm)、金、ステンレス、銅等を用いることができる。
対極として白金線、金、ステンレス、銅、シリコンウエハ等を用いることができる。
【0033】
電気化学セルは、通常参照極も備えており、参照極としては、Ag/AgCl電極、Ag/Ag、Ag等を用いることができる。
【0034】
電気化学セルにおいて、作用電極及び対極は対向して設置されており、アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液は両電極の間に配置される。
参照電極は、アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液の中に配置される。
【0035】
電気化学セルの材質は、テフロン、ガラス板、ステンレス等である。
電気化学セルは作用電極、対極、参照電極と通電しない構造が必要である。
電気化学セルは、密閉型でも開放型であってもよい。
【0036】
本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法においては、作用電極に正の電位が印加される。印加する電位は、通常+0.5~5V(vs参照電極)、好ましくは+3~5V(vs参照電極)である。上記の電圧を下回ると超薄膜が生成せず、上回るとフェノールの電解重合等の副反応が進んでしまう。
【0037】
電位を印加する時間は、アルデヒド系化合物、化合物(A)の濃度、これらを含む溶液の量等により適宜定められるが、通常10~300秒である。また、アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液の溶媒として、水と、メタノールやエタノール等の有機溶媒を併用する場合には、より長い時間(例えば、1時間程度)の電圧印加をすることが好ましい。
【0038】
電気化学セル内での重合反応は通常10~50℃、好ましくは30℃程度で行われる。
【0039】
(4)熱硬化性樹脂
本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法により得られる熱硬化性樹脂の種類は、使用する化合物(A)の種類により異なる。
化合物(A)として、フェノール系化合物を用いる場合は、熱硬化性樹脂としてフェノール系樹脂が得られる。
化合物(A)として、尿素系化合物を用いる場合は、熱硬化性樹脂として尿素系樹脂が得られる。
化合物(A)として、メラミン系化合物を用いる場合は、熱硬化性樹脂としてメラミン系樹脂が得られる。
【0040】
一般的な、フェノール樹脂等の製造法では、ノボラックもしくはレゾールと呼ばれるポリマーの中間体を、加熱もしくは硬化剤を使って三次元に架橋(硬化)させるのに対して、本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法では、例えば、フェノール系樹脂の調製においては、レゾールやノボラックといった中間体を経ずに原料のフェノール系化合物とアルデヒド系化合物から直接フェノール系樹脂が得られる。ここで得られる樹脂は既に三次元に架橋した構造を有するため、溶媒に対して不溶であり、熱で溶解させることもできないという特性を有する。
【0041】
(5)その他の工程
本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法は、作用電極上に生成した熱硬化性樹脂を回収する工程を含むことができる。熱硬化性樹脂は通常薄膜で生成するため、作用電極を純粋等の水に浸すことにより薄膜を剥離して回収することができる。
【0042】
2.熱硬化性樹脂を含む超薄膜の調製方法
本発明のもう1つの実施態様は、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを含む溶液を、作用電極及び対極を備える電気化学セルに導入し、前記作用電極に正の電位を印加することにより、前記作用電極上に薄膜を形成させる、熱硬化性樹脂を含む超薄膜を調製する方法(以下「本発明の超薄膜の調製方法」ともいう)。
【0043】
本発明の超薄膜の調製方法における、化合物(A)、アルデヒド系化合物、アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液、電気化学セル、正の電位の印加、熱硬化性樹脂などの詳細については、本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法について上記で詳述したのと同様である。
【0044】
本発明の超薄膜の調製方法の1つの好ましい側面においては、化合物(A)は、フェノール系化合物、尿素系化合物、及びメラミン系化合物からなる群から選択される少なくとも1の化合物である。
【0045】
本発明の超薄膜の調製方法の1つの好ましい側面においては、化合物(A)は、フェノール系化合物である。
【0046】
本発明の超薄膜の調製方法の1つの好ましい側面においては、作用電極に正の電位を印加することにより、作用電極の表面近傍に塩基が生成される。
【0047】
本発明の超薄膜の調製方法の1つの好ましい側面においては、アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液は支持電解質を含有しない。
本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法について上記で説明したように、本発明の超薄膜の調製方法においては、支持電解質を用いずに、電極の表面近傍に溶媒から直接塩基を生成させることにより、電解質フリーの超薄膜を得ることができる。
【0048】
本発明の超薄膜を調製する方法では、例えば、フェノール系樹脂を含む超薄膜の調製においては、レゾールやノボラックといった中間体を経ずに原料のフェノール系化合物とアルデヒド系化合物から直接フェノール系樹脂の超薄膜が得られる。この超薄膜は既に三次元に架橋した構造を有するため、溶媒に対して不溶であり、熱で溶解させることもできないという特性を有する。
【0049】
本発明の超薄膜の調製方法においては、作用電極に正の電位を印加することにより、当該電極の表面近傍のみに塩基を生成させ、当該表面近傍において、化合物(A)とアルデヒド系化合物の重合反応を進行させることにより、従来技術では得ることができなかったナノメートルサイズの熱硬化性樹脂の超薄膜を得ることができる。
【0050】
本発明の超薄膜の調製方法は、作用電極上に生成した超薄膜を回収する工程を含むことができる。超薄膜は、作用電極を純粋等の水に浸すことにより剥離して回収することができる。
【0051】
本発明の1つの態様は、本発明の超薄膜の調製方法により得られる超薄膜である。
本発明の超薄膜の調製方法により得られる超薄膜は、ナノサイズの厚みを有する。当該超薄膜の厚みは、好ましくは10~100nm、より好ましくは10~60nmである。
【0052】
3.熱硬化性樹脂を含む超薄膜
本発明のもう1つの実施態様は、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを重合反応させることにより得られる、熱硬化性樹脂を含む超薄膜である(以下「本発明の超薄膜」ともいう)。
【0053】
本発明の1つの好ましい側面においては、本発明の超薄膜1は、作用電極及び対極を備える電気化学セルにおいて、前記作用電極に正の電位を印加することにより、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを、前記作用電極上(好ましくは、作用電極の表面上)で重合反応させることにより得られる。
【0054】
本発明の超薄膜における、化合物(A)、アルデヒド系化合物、電気化学セル、正の電位の印加、熱硬化性樹脂などの詳細については、本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法について上記で詳述したのと同様である。
【0055】
本発明の超薄膜の1つの好ましい側面においては、化合物(A)は、フェノール系化合物、尿素化合物、及びメラミン化合物からなる群から選択される少なくとも1の化合物である
【0056】
本発明の超薄膜の1つの好ましい側面においては、化合物(A)がフェノール系化合物の超薄膜である(以下「本発明のフェノール樹脂超薄膜」ともいう)。
【0057】
本発明の超薄膜は、ナノサイズの厚みを有する。本発明の超薄膜の厚みは、好ましくは10~800nm、より好ましくは10~60nmである。上記したように、アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液の溶媒として水と、エタノールなどの有機溶媒を使用することにより、熱硬化性樹脂を含む超薄膜を厚膜化することが可能であり、60nmを超えて、800nm程度の厚みの超薄膜を得ることができる。
超薄膜の厚みは、通常、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定することができる。
【0058】
本発明の超薄膜は、極めて平滑な表面を有する。本発明の超薄膜の表面粗さは、1~10nm、より好ましくは1~5nmである。超薄膜の表面粗さは、通常、AFMを用いて測定することができる。
【0059】
本発明の超薄膜は三次元に架橋した構造を有するため、溶媒に対して不溶であり、熱で溶解させることもできないという特性を有する。
【0060】
本発明の超薄膜のヤング率は、好ましくは8~20GPaである。
【0061】
本発明のもう1つの実施態様は、アルデヒド系化合物と、アルデヒド系化合物と付加縮合することができる化合物(A)とを重合反応させることにより得られる熱硬化性樹脂であって、密度が0.2~0.7g/cmであり、ヤング率が8~20GPaである、当該熱硬化性樹脂である(以下「本発明の熱硬化性樹脂」ともいう)。
【0062】
通常の合成樹脂ではヤング率が10GPaを超えるものはないが、本発明の熱硬化性樹脂は、密度が低いものの、非常に高い強度を有するという特性を有する。
また、本発明の熱硬化性樹脂は、ナノメートルサイズの細孔を有する網状(メッシュ状)の構造、所謂ヘチマのような構造を有する。そして、吸水すると、ヤング率が1桁程度低下するという特質を有する。
本発明の熱硬化性樹脂は、上記した本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法により調製することができる。
【0063】
本発明の熱硬化性樹脂における、化合物(A)、アルデヒド系化合物などの詳細については、本発明の熱硬化性樹脂を調製する方法について詳述した通りである。
【0064】
本発明の熱硬化性樹脂の1つの好ましい側面においては、化合物(A)は、フェノール系化合物、尿素化合物、及びメラミン化合物からなる群から選択される少なくとも1の化合物である。
【0065】
本発明の熱硬化性樹脂の1つの好ましい側面においては、化合物(A)がフェノール系化合物である(以下「本発明のフェノール系樹脂」ともいう)。
【0066】
本発明のフェノール系樹脂は、一般的なフェノール系樹脂に比べて、ホルムアルデヒド由来の部位が少ないという特性を有する。一般的なフェノール系樹脂では、アルデヒド由来の部位は、おおよそベンゼン10個に対して2~3個程度であるが、本発明のフェノール系樹脂は、ベンゼン10個に対して0.5~1個程度のアルデヒド由来の部位を有する。
【0067】
本発明の1つの態様は、本発明の熱硬化性樹脂を含む超薄膜である。
当該超薄膜は、ナノサイズの厚みを有する。超薄膜の厚みは、好ましくは10~800nm、より好ましくは10~60nmである。上記したように、アルデヒド系化合物と化合物(A)を含む溶液の溶媒として水と、エタノールなどの有機溶媒を使用することにより、熱硬化性樹脂を含む超薄膜を厚膜化することが可能であり、60nmを超えて、800nm程度の厚みの超薄膜を得ることができる。
超薄膜の厚みは、通常、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定することができる。
【0068】
上記した本発明の超薄膜、及び、本発明の熱硬化性樹脂を含む超薄膜(以下、両者を合わせて「本発明の超薄膜等」と総称する)は、適切なpHにおいて、水の透過量率が大きいにも関わらず、色素の除去率が高いという特性を有する。本発明の超薄膜の1つの態様においては、pHが約10程度において、水の透過率が45~60Lm-2-1bar-1であり、色素の除去率は、90~100%である。
ここで、水の流速(透過率)(J,Lm-2-1bar-1)は、透過した溶液の体積(V,L)、膜の実行面積(A,m)、透過時間(t,h)、圧力(p,bar)を用いて下記の式により算出される。
【数1】
また、色素の排除率(R,%)はろ過前の色素濃度(C)とろ過後の色素濃度(C)を用いて下記の式により算出される。
【数2】
【0069】
4.複合薄膜
本発明のもう1つの実施態様は、本発明の超薄膜等のいずれかの超薄膜と、ニトロセルロース膜、ナイロン膜及びテフロン膜等からなる群から選択される1以上の膜を備える複合薄膜である(以下「本発明の複合薄膜」ともいう)。
【0070】
本発明の1つの側面は、本発明のフェノール系樹脂超薄膜と、ニトロセルロース膜、ナイロン膜及びテフロン膜からなる群から選択される1以上の膜を備える複合薄膜である(以下「本発明の複合薄膜A」ともいう)。
【0071】
5.本発明の超薄膜の用途
本発明の超薄膜等は、高い水透過性と分離能を有することから、濾過膜として利用することができる。
即ち、本発明の1つの態様は、本発明の超薄膜等のいずれかの超薄膜、又は、本発明の複合薄膜を含む濾過膜である(以下「本発明の濾過膜」ともいう)。
【0072】
本発明の1つの態様は、本発明のフェノール樹脂超薄膜、又は、本発明の複合薄膜Aを含む濾過膜である。
本発明のフェノール樹脂超薄膜を用いた濾過膜は、特に高い水透過性と分離能を有する。
【0073】
本発明の濾過膜で分離することができる物質としては、種々の色素、例えばカチオン系色素(メチレンブルーハイドレート、クリスタルバイオレット等)、アニオン系色素(ブリリアントブルーG、メチルオレンジ、アシッドオレンジ等)等が挙げられる。
【0074】
本発明のフェノール樹脂超薄膜を用いた濾過膜は、表面に水酸基を有することから、分離する物質の電荷の違いにより選択的分離をすることが可能である。
例えば、アニオン系色素であるメチルオレンジ(分子量:327)については、除去率は低いものの水透過定数を非常に高くすることができ、カチオン系色素であるメチレンブルーハイドレート(分子量:320)については、水透過定数は低いものの除去率を非常に高くすることができる。
【0075】
また、本発明のフェノール樹脂超薄膜を用いた濾過膜は、化学修飾をすることにより分離能を調整することが可能である。超薄膜の成膜後に、例えば、水酸化ナトリウム溶液などの塩基で処理した後、メチルオレンジ等のアニオン系色素の分離工程に供すると、水透過定数は低いものの除去率を非常に高くすることができる。その後、例えば、塩酸などの酸で濾過膜を処理した後、メチルオレンジG等のアニオン系色素の分離工程に供すると、除去率は低下するものの水透過定数を非常に高くすることができる。
理論に拘束されることを意図するものではないが、濾過膜を塩基で処理すると、表面の水酸基(-OH)がアニオン(-O)となり、電荷斥力によりアニオン性色素の除去率を顕著に増大することができ、一方、その後の酸処理により表面が水酸基に戻り、サイズ排除効果によりアニオン性色素を除去することができると考えられる。
【0076】
また、本発明のフェノール樹脂超薄膜は、除菌効果を有することから、細菌やウイルス等を防除する製品(例えば、マスク、食品包装フィルム、スキンケア用品等)に適用することが可能である。
【0077】
本発明の1つの態様は、本発明のフェノール樹脂超薄膜、又は、本発明の複合薄膜Aを含むマスクである。
【0078】
また、本発明の超薄膜等、又は、本発明の複合薄膜Aは、様々な用途、例えば、薄膜状導電性被膜用、半導体クリーンルームや製薬研究室、医療用ケミカルフィルターなどに用いることが可能である。
また、フェノール樹脂は、一般に、残炭率(不活性雰囲気下で燃焼させたときの炭素残留分)が高いという特性を有するため、(ハード)カーボン原料として利用できるという特徴があることから、リチウムイオン電池の負極材カーボン原料、医薬用活性炭原料、キャパシタの活性炭電極原料、炭化ケイ素や炭化ホウ素作製用炭素源原料等の分野にも使用されているが、本発明の超薄膜、又は、本発明の複合薄膜Aは、フィルム状のリチウムイオン電池の負極材、医薬用活性炭、キャパシタの活性炭電極として用いることが可能である。
【0079】
また、本発明の超薄膜等を、窒素気流下(例えば、100mL/h程度)800℃程度の温度で数時間(例えば、1時間程度)加熱することにより、炭化膜を得ることができる。
即ち、本発明のもう1つの態様は、本発明の超薄膜等を炭化することにより得られる、炭化膜である(以下「本発明の炭化膜」とも言う)。
本発明の炭化膜は、非常に薄い厚み、例えば、1~5nmを有する。
本発明の炭化膜は、機械的強度が大きいと考えられるので、電極等の表面の特性を変えるために最表面にラミネートして使用することもできる。
【実施例
【0080】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0081】
[合成実施例1]
超薄膜の合成
レゾルシノール(1.1g、10mmol)の水溶液(20mL)に対してホルムアルデヒド水溶液(37wt%、1.6g、20mmol)を加え10分間攪拌した。この溶液を、作用極としてシリコンウエハ(P型(100)、0.005~0.01Ωm)、対極として白金線、参照極としてAg/AgCl電極を用いた電気化学セルに導入し、25℃で1分間+5.0V(vs.Ag/AgCl)を印加した。電圧印加後の作用極を純水に浸すと厚さ58nm、表面粗さ2.2nmの超薄膜が剥離した。
得られた超薄膜の写真を図3に、AFMによる膜厚測定の結果を図4に示す。表面粗さは、AFM像の膜部分の厚みの分布を解析することによって得た。
なお、AFMは、SII ナノテクノロジー NanoNavi S-imageを用いて、シリコンウエハ上にキャストした超薄膜に対してSI-DF40P2カンチレバーを利用して測定を行った。
【0082】
赤外吸収スペクトル(JASCO FT/IR-6100)の測定結果
IR (film): 3226 (bs), 2917 (s), 2858 (s), 1600 (s), 1497 (m), 1458 (m), 1480 (m), 1373 (w), 1291 (w), 1217 (w), 1146 (s), 1097(m), 960 (s), 835 (s)
【0083】
[合成実施例2]
フェノール系化合物として、レゾルシノールに代えてフェノール(0.9g、10mmol)を用いた以外は、合成実施例1と同様の条件により超薄膜を合成した。電圧印加後の作用極を純水に浸すと厚さ53nm、表面粗さ3.3nmの超薄膜が剥離した。
【0084】
[合成実施例3]
フェノール系化合物として、レゾルシノールに代えて5-メチルレゾルシノール(1.2g、10mmol)を用いた以外は、合成実施例1と同様の条件により超薄膜を合成した。電圧印加後の作用極を純水に浸すと厚さ40nm、表面粗さ3.4nmの超薄膜が剥離した。
【0085】
[合成実施例4]
フェノール系化合物として、レゾルシノールに代えて3-ヒドロキシベンジルアルコール(1.2g、10mmol)を用いた以外は、合成実施例1と同様の条件により超薄膜を合成した。電圧印加後の作用極を純水に浸すと厚さ68nm、表面粗さ8.8nmの超薄膜が剥離した。
【0086】
[合成実施例5]
フェノール系化合物として、レゾルシノールに代えて2-メチルレゾルシノール(1.2g、10mmol)を用いた以外は、合成実施例1と同様の条件により超薄膜を合成した。電圧印加後の作用極を純水に浸すと厚さ37nm、表面粗さ2.5nmの超薄膜が剥離した。
【0087】
[合成実施例6]
フェノール系化合物として、レゾルシノールに代えて3,5-ジヒドロキシ安息香酸(1.5g、10mmol)を用いた以外は、合成実施例1と同様の条件により超薄膜を合成した。電圧印加後の作用極を純水に浸すと厚さ13nm、表面粗さ1.6nmの超薄膜が剥離した。
【0088】
[実施例1]
透過実験
合成実施例1で得られた水中に浮遊している超薄膜を、ニトロセルロース膜(MF-ミリポアメンブレン、直径13mm、厚さ100μm、孔径100nm、空隙率74%)の上にのせ複合薄膜とした。これをステンレス製のメンブレンホルダーにセットし、色素が溶解した水溶液(10ppm)を室温で2barの圧力で複合薄膜を通した。流速(J,Lm-2-1bar-1)は、透過した溶液の体積(V,L)、膜の実行面積(A,m)、透過時間(t,h)、圧力(p,bar)を用いて下記の式により算出した。
【数3】
【0089】
また、色素の排除率(R,%)はろ過前の色素濃度(C)とろ過後の色素濃度(C)を用いて下記の式により算出した。
【数4】
【0090】
濃度の算出は赤外-可視吸収スペクトルを用いて行った。
【0091】
透過実験の結果を図5に示す。ここには分子量の異なる種々の色素の投下実験を行い、その排除率(左図)と溶液の流束を示している(右図)。図中、赤(▲)で示したものがアニオン性色素に関するプロット、緑(■)がカチオン性色素に関するプロットである。排除率を比較すると、アニオン性色素の方がカチオン性色素と比較して分子量の大きいものを透過しやすい性質があることがわかる。また流束を見ると、アニオン性色素の場合において流束が高いことがわかる。
【0092】
また、合成実施例2~6で合成された膜は異なる酸性度の水酸基を有しており、膜分離の性能や修飾できる化学構造に大きな変化が期待できる。例えば、3,5-ジヒドロキシ安息香酸は酸性度の高いカルボキシル基を有している。そのため、よりカチオンを濾別する能力が高くなり(より小さい分子も排除できる)、金属イオンへの修飾も容易になると期待される。
【0093】
[実施例2]
超薄膜の抗菌・抗ウイルス試験
(1)生理活性試験用超薄膜
抗菌、抗菌ウイルス、抗レンチウイルスの各アッセイでは、脱イオン水に溶解したレゾルシノール(0.5M)とホルムアルデヒド(1.0M)に外部電位(5.0V vs Ag/AgCl)を30℃で1分間印加して作製した膜を用いた。反応後、溶液を電気化学セルからピペット操作により取り出し、脱イオン水で4回洗浄することで残留する出発物質を除去した。続いて電気化学セルを分解し、電極基板を脱イオン水に沈めることで厚さ~60nmの自立膜を得た。
その膜をスライドガラス(MATSUNAMI,18mm×18mm)上にすくい取り、大気下で乾燥させた。コントロールサンプルとしては、未処理のガラス板(MATSUNAMI、18mm×18mm)を用いた。すべての生理活性試験は,再現性の確保と標準偏差の算出のため,少なくとも3回実施した。
【0094】
(2)抗菌試験
大腸菌JW0603株(BW25113、rna:KmR)をLuria-Bertani(LB)培地で37℃で一晩前培養した。翌日、OD600=1に調整した培養液3μlをピペッティングして超薄膜およびコントロールサンプルに載せ、ガラス板で覆い、その後37℃で18時間培養した。培養後、ガラス板に挟まれた細胞を、ガラス板とともにLB培地5mlに移して溶出させた(大腸菌試験懸濁液)。各大腸菌試験懸濁液700μlをカナマイシンを含むLBプレートに播種し、37℃で18時間培養した。コロニー数から各大腸菌試験懸濁液のコロニー形成単位(CFU)の値(CFU/ml)を算出した。BLD(Bacterial Load Difference)は,37℃で18時間培養した後のCFUの減少率として,式(S5)に基づいて算出した。
【0095】
結果を図6のAに示す。同図から、超薄膜の上では大腸菌の成長が阻害されることが示される。
【0096】
(3)抗菌ウイルス試験
P1ファージ溶液は、Lynn C.Thomasonらによって報告(Thomason, L. C., Costantino, N. & Court, D. L. E. coli Genome Manipulation by P1 Transduction. Current Protocols in Molecular Biology 79, 1.17.1-1.17.8 (2007))された方法で調製した。抗菌アッセイと同様に、P1ファージ溶液3μlを超薄膜とコントロールサンプルにピペッティングしガラスプレートで覆い、37℃で18時間インキュベートした。抗菌ウイルス試験では、今回、大腸菌JW0603株(BW25113、rna:KmR)を指示菌として用いた。JW0603株を一晩LB培地で培養し指示菌培養液を調整した。P1ファージ試験懸濁液300μlを、5mM CaClを含む指示菌培養液300μlと混合し、この混合液を37℃で15分間インキュベートした(P1形質転換混合液)。続いて、P1導入混合液にLB-top寒天(0.7%アガロース、5mM CaCl)を3ml加え、LBプレートに広げて37℃で18時間培養した。LB-top寒天中に存在するプラークの数から、P1ファージ試験懸濁液のplaque forming unit(PFU)の値(PFU/ml)を算出した。
【0097】
結果を図6のBに示す。同図から、超薄膜の上ではPIファージの成長が阻害されることが示される。
【0098】
(4)抗ウイルス試験
緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させるためのレンチウイルス懸濁液は、既報(Tiscornia, G., Singer, O. & Verma, I. M. Production and purification of lentiviral vectors. Nature protocols 1, 241 (2006),Campeau, E. et al. A Versatile Viral System for Expression and Depletion of Proteins in Mammalian Cells. PLOS ONE 4, e6529 (2009).)に従ってpLenti-CMV-GFP-Puro、pMD2.G、pRS-REVおよびpMDLg/pRREベクター(Addgene社)でトランスフェクトしたHEK293T細胞を培養した際の培地から調製した。12μlのレンチウイルス懸濁液を6μlずつ、超薄膜及びコントロールサンプル上にピペッティングし、ガラスプレートで覆い、その後37℃で15、30、60、120、240分間インキュベートした。各時間でのインキュベーション後、レンチウイルス溶液を1mlのDMEM(10%FBS、 1%ペニシリン―ストレプトマイシン)で溶出させた(レンチウイルス試験懸濁液)。形質導入の前日、24ウェルクラスタープレートの各ウェルにHEK293T細胞を1×10個ずつ播種し、形質導入の直前に、HEK293T細胞の培地を800μlの新しいDMEM(10%FBS、1%ペニシリン―ストレプトマイシン)で置換した。続いて、最終濃度4mg/mlのポリブレンを含む培地に、各レンチウイルス試験懸濁液を200μl添加した。0分後のレンチウイルス試験懸濁液の調製には、12μlのレンチウイルスを1mlのDMEM(10%FBS、1%ペニシリン―ストレプトマイシン)で直接希釈した。37℃、5%COで3日間培養した後、GFPを発現した感染細胞をフローサイトメトリー(Guava easyCyte、Merck Millipore社製)で観察した。GFPを発現している細胞の数から、感染効率の値を算出した。
【0099】
結果を図6のCに示す。同図から、超薄膜の上ではPIファージの成長が阻害されることが示される。
【0100】
[実施例3]
超薄膜の特性評価
(1)XPSの測定
合成実施例1で得られた超薄膜を用いて、XPSを測定した。
XPS測定は、ULVAC PHI 5000 Versaprobeにて、Al Kα(12kV、25mA)をX線源として行った。
【0101】
得られたスペクトルを図7に示す。
O1sスペクトル(A)からはレゾルシノールの-OH由来と考えられるピーク(532.1eV)が観測されると同時に酸化種のピークも観測された(530.6eV)。C1sスペクトル(B)からはベンゼン由来と考えられる炭素-炭素二重結合のピーク(283.6eV)、レゾルシノールのC-OH由来と考えられるピーク(285.0eV)に加えて、酸化種と考えられるピークが観測された(286.9eV)。広域スキャンのスペクトル(C)には炭素と酸素以外の目立ったピークは観測されなかったことから、他の成分のコンタミは極めて少ないと考えられる。
【0102】
(2)ナノインデンテーションの測定
超薄膜の膜の強さを測定するために、合成実施例1で得られた超薄膜を用いて、ナノインデンテーションを測定した。
ナノインデンテーション測定は、エリオニクス ENT-NEXUSにて、低荷重ユニットを用いて30℃で行った。
【0103】
得られた結果を図8に示す。ここで、図8において、除荷(unloading)のグラフの最初の接線の傾きからヤング率を算出することができる。算出したヤング率は、11.2±0.6GPaであった。
通常の合成樹脂において、ヤング率が10GPaを超えるものはないことから、本発明の超薄膜は強度が非常に強い膜であると言うことができる。
【0104】
(3)13CNMRの測定
13Cラベル化ホルムアルデヒドを利用し、合成実施例1に従って合成した薄膜の13CNMRを測定した。測定はJEOL JNM-ECZ700Rを用いて25℃で行った。
【0105】
得られたスペクトルを図9に示す。また、化学シフトは以下の通りである。
δ 208.0, 196.3, 156.1, 130.4, 116.1, 109.1, 103.6, 98.6, 87.9, 73.3, 54.7, 29.2, 21.5 ppm
この結果から、ホルムアルデヒド由来の部位はおおよそベンゼン10個に対して一個であることが分かった。
【0106】
(4)密度の測定
合成実施例1で得られた超薄膜を用いてX線反射率測定を利用した密度を測定した。
測定はRIGAKU SmartLab 9kWを用いて25℃で行った。
その結果、密度は0.499g/cmであった。
【0107】
(5)pH応答性(膜厚)
合成実施例1で得られた超薄膜を用いて、pHによる超薄膜の膜厚の変化を調べた。その結果を図10に示す。
各々の条件での膜厚は、乾燥状態では53.2nmであり、pH=7の水溶液中では71.6nmで、pH=10の水溶液中では89.4nmであった。この結果から、本発明の超薄膜は、水を吸って膨らみ、また、pHが高くなるに伴い膨潤度が上がることが理解できる。
【0108】
(6)pH応答性(透過率・除去率)
合成実施例1で得られた超薄膜を用いて、pHによる超薄膜の透過率及び色素(アシッドレッド88)の除去率の変化を調べた。透過率、除去率の測定法は実施例1に記載した通りである。また、pHを7→10→7→10に変化させた場合の透過率の可逆性についても調べた。結果を図11、12に示す。
図11から、pHを上げると、pHが8付近から透過率が増大し、除去率が低下することが示されている。
また、図12で示すように、pHを7から10にすると透過率は約2倍程度増大し、pHを7に戻すと透過率が低下する。このことから、pHによる超薄膜の透過率の変化は可逆的変化であることが示される。従って、本発明の超薄膜の透過率は、pHによるON/OFFの制御が可能である。
【0109】
(7)pH応答性(ヤング率)
合成実施例1で得られた超薄膜を用いて、pHによる超薄膜のヤング率の変化を調べた。測定は、Bruker MultiMode 8-HRを利用した液中AFMにより行った。
各条件でのヤング率は、乾燥状態で8.94±1.19GPaであり、pH=7の水溶液中では2.90±0.12GPaであり、pH=10の水溶液中では0.50±0.082GPaであった。
このように、本発明の超薄膜は、乾燥状態では10GPa程度のヤング率を有するが、吸水させるとヤング率が1桁程度低下する性質を有する。
上記したように、本発明の超薄膜は、乾燥状態における密度が0.499g/cmであることから、ナノメートルサイズの空孔を有していると考えられる。また、吸水すると膨らむ特質も有することから、本発明の超薄膜は、ヘチマのような構造を有していると推察される。
【0110】
[実施例4]
厚い膜の合成例
レゾルシノール(1.1g、10mmol)の水-メタノール溶液(20mL、水:メタノール=60:40)に対してホルムアルデヒド水溶液(37wt%、1.6g、20mmol)を加え10分間攪拌した。この溶液を、作用極としてシリコンウエハ(P型(100)、0.005~0.01 Ωm)、対極として白金線、参照極としてAg/AgCl電極を用いた電気化学セルに導入し、30℃で1時間+5.0V(vs.Ag/AgCl)を印加した。電圧印加後の作用極を純水に浸すと厚さ655nm、表面粗さ2.8nmの超薄膜が剥離した。
【0111】
得られた超薄膜のAFMによる膜厚測定の結果を図13に示す。表面粗さは、AFM像の膜部分の厚みの分布を解析することによって得た。
なお、AFMは、SII ナノテクノロジー NanoNavi S-imageを用いて、シリコンウエハ上にキャストした超薄膜に対してSI-DF40P2カンチレバーを利用して測定を行った。
【0112】
赤外吸収スペクトル(JASCO FT/IR-6100)の測定結果
IR (film): 3223 (bs), 2918 (w), 2849 (w), 1603 (s), 1498 (m), 1458 (m), 1355 (w), 1282 (w), 1228 (w), 1100 (s), 1148 (m), 963 (s), 838 (s)
【0113】
得られた超薄膜のXPSスペクトルを測定した結果を図14に示す。
【0114】
得られた超薄膜のX線反射率測定を利用した密度測定を行った。その結果、密度は0.394g/cmであった。
【0115】
[実施例5]
炭化膜の合成例
シリコンウエハ上にキャストした超薄膜(~60nm)を窒素気流下(100mL/h)800℃で1時間加熱した。
得られた炭化膜の光学顕微鏡像を図15に、AFMによる膜厚測定の結果を図16に示す。表面粗さは、AFM像の膜部分の厚みの分布を解析することによって得た。
なお、AFMは、SIIナノテクノロジーNanoNavi S-imageを用いて、シリコンウエハ上にキャストした超薄膜に対してSI-DF40P2カンチレバーを利用して測定を行った。
図16に示すように、炭化膜の厚みは1.7±0.2nmであり、炭化により膜厚が非常に薄くなったことが分かる。
【0116】
上記で得られた炭化膜のXPSスペクトルを測定した結果を図17に示す。
図1
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