(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】可視化装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 19/00 20110101AFI20240417BHJP
【FI】
G06T19/00 600
(21)【出願番号】P 2020040292
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019086439
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 信策
【審査官】村松 貴士
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088172(JP,A)
【文献】特開2014-155207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 19/00
G06F 3/01
G06F 3/048 - 3/04895
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元空間に所定の情報を重畳表示させて視認可能とするディスプレイと、
前記ディスプレイを通した前記3次元空間の視界内に存在する物体の座標情報を検出する3次元センサと、
前記3次元センサにより検出された各物体の座標情報を逐次取得し、取得の都度、対象物について予め用意された3次元モデルと照合して前記各物体の中から前記対象物を特定し、特定された前記対象物に前記3次元モデルを逐次フィッティングさせるフィッティング手段と、
前記ディスプレイを通した視界内に存在する前記対象物の、表面の所定の注視範囲に対応する、前記対象物に重畳された前記3次元モデルの表面領域から、前記3次元センサから前記所定の注視範囲
の中心に向かう視線方向に見通される、前記3次元モデル内の見通し領域を、前記対象物の前記所定の注視範囲に重畳して前記ディスプレイに表示させる表示制御手段と、
を備える可視化装置。
【請求項2】
前記表示制御手段は、前記対象物に重畳された3次元モデルのうち、前記見通し領域を除く他の領域について透過処理することにより、前記見通し領域を前記対象物の前記所定の注視範囲に重畳して前記ディスプレイに表示させることを特徴とする請求項1に記載の可視化装置。
【請求項3】
前記所定の注視範囲は、前記ディスプレイ内の所定の領域において視認される前記対象物の表面の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の可視化装置。
【請求項4】
前記所定の注視範囲は、前記ディスプレイの所定位置から注視方向に向かう線と前記対象物の表面との交点を中心とする、前記対象物の表面の所定の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の可視化装置。
【請求項5】
所定の方法により測定座標系が前記3次元センサの検出座標系と同じに設定された所定の測定機の、プローブの3次元モデル及び先端座標の情報を取得する測定機情報取得手段
と、
前記対象物の前記所定の注視範囲を前記視線方向に掃引して通過する前記対象物の背後の座標範囲に前記プローブの先端の座標が含まれるときに、前記先端の座標と前記プローブの3次元モデルとに基づき、前記座標範囲に含まれる前記プローブの部分及び当該部分の存在位置を特定するプローブ部分特定手段と、
を更に備え、
前記表示制御手段は、前記見通し領域の背後の、前記プローブの前記部分の存在位置に相当する位置に、前記プローブの前記部分に対応する前記プローブの3次元モデルの部分が視認されるように、前記プローブの3次元モデルの前記部分を前記対象物の前記所定の注視範囲に重畳表示させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の可視化装置。
【請求項6】
前記所定の注視範囲は、前記ディスプレイの所定位置と前記プローブの先端とを結ぶ線と前記対象物の表面との交点を中心とする、前記対象物の表面の所定の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の可視化装置。
【請求項7】
コンピュータを請求項1から6のいずれか1項に記載の可視化装置の各手段として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の背面を可視化する可視化装置に関し、特に3次元測定機による測定時に有効な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の立体形状を測定する方法のひとつとして、3次元測定機(例えば特開2000-65561号公報を参照)が用いる方法が挙げられる。3次元測定機の一例を
図1(a)に示す。3次元測定機10は、大まかには本体10aと先端にスタイラスを備えるプローブ10bとに分けられる。測定の対象物Wは本体10aに載置され、プローブ10bは、本体10aが備える3次元方向の駆動機構により3次元方向に移動可能に本体10aに取り付けられる。
【0003】
3次元測定機10は、対象物Wの表面にプローブの先端を接触させることにより、接触位置の3次元座標値を測定する。プローブは接触式のほか、任意の3次元空間位置から対象物Wの表面を撮影して表面位置を測定する光学式等の非接触式のものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、
図1(b)に示すように、3次元測定機10により対象物Wの測定者から見て正面の窪みDを測定する場合には、測定者の視点から当該窪みDを視認することができる。また、測定者の視点から対象物Wの手前にあるプローブ10bの先端10btも視認することができる。このため、窪みDに先端10btを適切に接触させることができる。しかし、
図1(c)に示すように、対象物Wの位置を変えることなく対象物Wの背面形状を測定する場合には、測定者の視点から背面形状を視認することができない。また、プローブ10bを対象物Wの背後に配置する必要があることから、先端10btを視認することもできない。そのため、背面の測定時には対象物Wの位置を背面の測定が可能な位置に変更して(例えば反転させて)行うのが一般的である。
【0006】
しかし、測定対象物の位置が変わることで、位置変更後の対象物上の測定座標と位置変更前の同位置の測定座標が合致するように座標系を再設定する必要があり、測定時間が長くなる、などの問題があった。
【0007】
本発明の目的は、測定者の視線方向の正面に対する対象物の背面の形状を、視線方向の正面から見た形状として可視化を可能にする可視化装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る可視化装置は、3次元空間に所定の情報を重畳表示させて視認可能とするディスプレイと、ディスプレイを通した3次元空間の視界内に存在する物体の座標情報を検出する3次元センサと、3次元センサにより検出された各物体の座標情報を逐次取得し、取得の都度、対象物について予め用意された3次元モデルと照合して各物体の中から当該対象物を特定し、特定された当該対象物に3次元モデルを逐次フィッティングさせるフィッティング手段と、ディスプレイを通した視界内に存在する対象物の、表面の所定の注視範囲に対応する、対象物に重畳された3次元モデルの表面領域から、3次元センサから所定の注視範囲の略中心に向かう視線方向に見通される、3次元モデル内の見通し領域を、対象物の所定の注視範囲に重畳してディスプレイに表示させる表示制御手段と、を備える。表示制御手段は、例えば、対象物に重畳された3次元モデルのうち、見通し領域を除く他の領域について透過処理することにより、見通し領域を対象物の所定の注視範囲に重畳して前記ディスプレイに表示させるようにしてもよい。また、所定の注視範囲は、例えばディスプレイ内の所定の領域において視認される対象物の表面の範囲としてもよい。所定の注視範囲は、ディスプレイの所定位置から注視方向に向かう線と対象物の表面との交点を中心とする、対象物の表面の所定の範囲とするとよい。ここで、「ディスプレイの所定位置」は、例えばディスプレイの中心とするとよい。また、「注視方向」は、例えば、ディスプレイのスクリーンに垂直な方向、視線の方向、プローブの先端のある方向、等とするとよい。
【0009】
これにより、ディスプレイを通して対象物の正面を見ることで、対象物の背面形状を疑似的に透視することができる。なお、ディスプレイは表示スクリーンを透過して3次元空間を視認できる透過型ディスプレイとしてもよいし、カメラで撮影した3次元空間の画像を表示することにより3次元空間を視認可能とする非透過型のディスプレイとしてもよい。
【0010】
所定の方法により測定座標系が3次元センサの検出座標系と同じに設定された所定の測定機の、プローブの3次元モデル及び先端座標の情報を取得する測定機情報取得手段と、対象物の所定の注視範囲を視線方向に掃引して通過する対象物の背後の座標範囲にプローブの先端の座標が含まれるときに、当該先端の座標とプローブの3次元モデルとに基づき、座標範囲に含まれるプローブの部分及び当該部分の存在位置を特定するプローブ部分特定手段と、を更に備えてもよい。そして、表示制御手段が、見通し領域の背後の、プローブ部分特定手段により特定されたプローブの部分の存在位置に相当する位置に、当該プローブの部分に対応する当該プローブの3次元モデルの部分が視認されるように、当該プローブの3次元モデルの部分を対象物の所定の注視範囲に重畳表示させるようにしてもよい。この場合、所定の注視範囲は、例えばディスプレイの所定位置とプローブの先端とを結ぶ線と対象物の表面との交点を中心とする、対象物の表面の所定の範囲としてもよい。
【0011】
これにより、測定機による対象物の背面の測定を、対象物の背後にあるプローブの位置と対象物の背面形状を疑似的に透視しながら正面側から行うことができる。
【0012】
本発明の他の実施形態に係る可視化装置は、3次元空間に所定の情報を重畳表示させて視認可能とするディスプレイと、ディスプレイの表示範囲の3次元空間内に存在する物体の座標情報を検出する3次元センサと、3次元センサより検出された各物体の座標情報を逐次取得し、取得の都度、対象物について予め用意された3次元モデルと照合して、各物体の中から前記対象物を特定し、特定された前記対象物に3次元モデルを逐次フィッティングさせるフィッティング手段と、3次元センサで検出された対象物の、視線方向の正面に対する背面の形状を、視線方向の正面から見た形状に相当する3次元モデルを対象物に重畳表示してディスプレイに表示させる表示制御手段と、を備える。
【0013】
これにより、ディスプレイを通して対象物の正面を見ることで、対象物の背面形状を擬似的に透視することができる。なお、ディスプレイは表示スクリーンを透過して3次元空間を視認できる透過型ディスプレイとしてもよいし、カメラで撮影した3次元空間の画像を表示することにより3次元空間を視認可能とする非透過型のディスプレイとしてもよい。
【0014】
本発明では、所定の方法により測定座標系が3次元センサの検出座標系と同じに設定された所定の測定機の、プローブの先端座標の情報を取得する座標測定機情報取得手段と、対象物の背面形状を視線方向の正面から見た形状として重畳表示された3次元モデルの背後に、プローブが存在する場合に、背面形状の3次元モデルと重なるプローブの部分を特定するプローブ部分特定手段とをさらに備えるとよい。そして、フィッティング手段は、プローブ部分特定手段で特定されたプローブの部分に、プローブの3次元モデルをフィッティングさせるとよい。また、表示制御手段は、対象物の背面形状を視線方向の正面から見た形状に相当する3次元モデルと、その背後に存在するプローブの部分にフィッティングされた3次元モデルとを、それぞれ区別して視認可能にするとよい。
【0015】
本発明において、表示制御手段は、視線方向の正面から見た形状に相当する3次元モデルを対象物に重畳表示する際に、視線方向の特定の範囲以外の領域の重畳表示を非表示としてもよい。
【0016】
ここで、「区別して視認可能にする」具体例として、例えば、背面形状をグレースケールの表示色やワイヤーフレームの形式で表示する一方、プローブの部分についてはTrueカラーの表示色や3Dモデル表面に質感を与えるようにテクスチャーマッピング形式で表示するようにして、両者を明確に区別できるように重畳表示してもよい。
【0017】
本発明の可視化装置の各手段の機能は、プログラムに記述してコンピュータに実行させることにより実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来の3次元測定における問題点を説明する図である。
【
図2】本発明の可視化装置100の機能ブロック図である。
【
図3】透過型ディスプレイの視界において対象物を特定し、3次元モデルをフィッティングし、注視範囲を特定する過程を説明する図である。
【
図5】対象物の背面形状を疑似的に透視可能とする原理を説明する図である。
【
図6】対象物の背面形状を疑似的に透視した例を示す図である。
【
図7】本発明の可視化装置200の機能ブロック図である。
【
図8】対象物の背面形状及び対象物の背後にあるプローブの部分を疑似的に透視可能とする原理を説明する図である。
【
図9】対象物の裏面形状及び対象物の背後にあるプローブの部分を疑似的に透視した例を示す図である。
【
図10】各手段の機能が記述されたプログラムをCPUで実行することにより各手段の機能を実現する本発明の可視化装置100又は可視化装置200の構成例を示す図である。
【
図11】本発明の可視化装置を多関節アーム方式かつ非接触式プローブを採用する3次元測定機に適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では同一の部位には同一の符号を付し、一度説明した部位については適宜その説明を省略する。
【0020】
<第1実施形態>
図2に本発明の可視化装置100の機能ブロック図を示す。可視化装置100は、透過型ディスプレイ110、3次元センサ120、フィッティング手段130及び表示制御手段140を備える。
【0021】
透過型ディスプレイ110は、自身の背後の3次元空間に所定の情報を重畳表示させて装着者が視認可能とする任意の方式の表示装置である。
【0022】
3次元センサ120は、透過型ディスプレイ110を通した3次元空間の視界内に存在する物体の座標情報を検出する任意の方式の検出装置である。物体の座標情報は、物体の形状を特徴づける複数の特徴点それぞれの3次元座標として検出する。
【0023】
フィッティング手段130は、3次元センサ120により検出された各物体の座標情報を逐次取得する。そして取得の都度、例えば記憶部101などに予め記憶された対象物Wの3次元モデルと照合して各物体の中から対象物Wを特定し、特定された対象物Wに3次元モデルを逐次フィッティングさせる。対象物Wの3次元モデルは、対象物Wの形状を特徴づける複数の特徴点情報からなる。
【0024】
3次元センサ120では対象物Wの存在位置において検出可能な表面部分しか特徴点情報を得ることができない。しかし、得ることができた特徴点情報を手掛かりに、対象物Wの3次元モデルを対象物Wの存在位置に当てはめることによって、3次元センサ120により検出できなかった部分の特徴点情報を補完することができる。よって、対象物Wの存在位置における対象物W全体の特徴点情報を得ることができる。本発明ではこの処理をフィッティングという。このようなフィッティングの性質上、対象物Wへの3次元モデルのフィッティングは必ずしも可視的に行われる必要はなく、3次元センサ120により座標が検出できない部分について、座標が検出できている部分との関係で相対的に座標が特定できていれば、外見上、対象物Wがそのまま見えている状態のままでも構わない。
【0025】
表示制御手段140は、3次元センサで検出された対象物の、視線方向の正面に対する背面の形状を、視線方向の正面から見た形状に相当する3次元モデルを対象物に重畳表示可能にする。また、表示制御手段140は、視線方向の特定の範囲以外の領域の重畳表示を非表示可能とする。具体的な処理としては、表示制御手段140は、3次元モデル内の見通し領域を、対象物Wの所定の注視範囲に重畳して透過型ディスプレイ110に表示させるとよい。ここで、3次元モデル内の見通し領域は、透過型ディスプレイ110を通した視界内に存在する対象物Wの、表面の所定の注視範囲に対応する、対象物Wに重畳された3次元モデルの表面領域から、3次元センサ120から所定の注視範囲の略中心に向かう視線方向に見通される領域を指す。また、所定の注視範囲とは、例えば透過型ディスプレイ110内の所定の範囲において視認される対象物Wの表面の範囲とする。
【0026】
【0027】
図3(a)に示すように、透過型ディスプレイ110を通した視界FVにおいて物体Uの一部又は全部が捉えられると、3次元センサ120は物体Uの形状を示す座標情報を取得し、対象物Wの3次元モデルWMと照合する。
【0028】
照合により物体Uが対象物Wと特定された場合(
図3(b))、フィッティング手段130は、
図3(c)に示すように対象物Wに3次元モデルWMをフィッティングさせる。なお、
図3(c)では3次元モデルWMを対象物Wに重畳する形で可視的にフィッティングする例を示しているが、上記のとおりフィッティングは可視的に行わなくても構わない。
【0029】
続いて、透過型ディスプレイ110の向きを変化させることなどにより、
図3(d)に示すように透過型ディスプレイ110の中央部に設定された起動領域Taにおいて対象物Wの表面を捉える。以下、起動領域Taにおいて捉えられた対象物Wの表面範囲を注視範囲Gaと呼び、3次元センサ120の存在位置PVを透過型ディスプレイ110の装着者の視線を起点に当該存在位置PVから注視範囲Ga内の所定の位置、例えば略中心Gcに向かう方向を視線方向VDと呼ぶ。
【0030】
対象物Wへの3次元モデルWMのフィッティングは、必ずしも物体Uが対象物Wと特定されたタイミングで行う必要はなく、例えば、透過型ディスプレイ110の起動領域Taにおいて対象物Wの表面が捉えられたタイミングで行っても構わない。
【0031】
なお、透過型ディスプレイ110による視界FVの座標範囲の情報は、3次元センサ120により逐次検出されており、視界FV内における起動領域Taの位置も予め特定されている。このため、起動領域Taに捉えられる視界FV内の部分、例えば対象物W上の注視範囲Gaについて座標範囲を特定することができる。また、3次元センサ120の存在位置PVが3次元センサ120において既知であり、注視範囲Gaの略中心Gcも注視範囲Gaの座標範囲内で特定されるため、視線方向VDについても特定することができる。
【0032】
表示制御手段140は、対象物Wにフィッティングされた3次元モデルWMのうち、注視範囲Gaに対応する表面領域Gamから視線方向VDに見通される見通し領域FDを、対象物Wに重畳して透過型ディスプレイ110に表示させる。
【0033】
見通し領域FDは、
図4に示すように、注視範囲Gaに対応する3次元モデルWMの表面領域Gamを視線方向VDに3次元モデルWM内を掃引したときに通過する柱状領域として定義される。例えば、表面領域Gamが円形であれば見通し領域FDは円筒形となる。
【0034】
なお、上記のとおり注視範囲Ga(表面領域Gam)の座標範囲と視線方向VDが特定され、対象物W(3次元モデルWM)の存在座標範囲も3次元センサ120による特徴点の検出及び3次元モデルWMのフィッティングにより特定されている。このため、見通し領域FDの座標範囲は、これらの情報に基づき特定することができる。
【0035】
見通し領域FDを対象物Wに重畳して透過型ディスプレイ110に表示させる具体的な方法は任意である。例えば、フィッティングにより対象物Wに重畳表示されている3次元モデルWMについて、表面領域Gamからの見通し領域FD以外の領域について透過処理をすることで、表面領域Gamからの見通し領域FDのみを対象物Wの注視範囲Gaに重畳表示させるようにしてもよい。また、対象物Wにフィッティングされているが表示されていない3次元モデルWMについて、表面領域Gamからの見通し領域FDのみを対象物Wの注視範囲Gaに重畳表示させるようにしてもよい。
【0036】
以上のように構成された本発明の可視化装置100によれば、透過型ディスプレイ110を通して対象物Wを正面から見ることで、対象物Wの背面形状を次のような原理で疑似的に透視することが可能となる。
【0037】
図5(a)は、
図4に示す対象物Wを背面側から見た時の対象物Wの背面Wbの例を示す図である。
図5(a)に示される背面範囲Gbは、注視範囲Gaを視線方向VDに掃引したときに背面Wbから抜け出てくる範囲であり、柱状領域である見通し領域FDの一方の底面にあたる表面領域Gam(注視範囲Ga)との関係で対になる他方の底面である。
【0038】
背面範囲Gbには、2つの窪みD1、D2が存在している。それ故、対象物Wの3次元モデルWMの背面にも窪みD1、D2に対応する窪みが存在している。
【0039】
対象物Wが中身が詰まった立体であるとき、背面範囲Gb及び背面範囲Gbに存在する窪みD1、D2は、表面側からは肉眼では観察することはできない。そこで、表面側から観察できると仮定すると、窪みD1、D2に対応する突起P1、P2が、背面Wbに対応する仮想面Wbbにおける、背面範囲Gbに対応する仮想範囲Gbbにおいて、
図5(b)に示す位置に観察される。
【0040】
透過型ディスプレイ110を通した視界FVにおいて検出された対象物Wの存在位置に、3次元モデルWMをワイヤーフレーム表現で表示させると、
図5(c)に示すように仮想面Wbbの突起P1、P2まで観測可能となる。もっとも、透過型ディスプレイ110の装着者が何らかの作業を行う際には、視界FVの概ね中央部を利用して、当該中央部において捉えられる対象物Wの部分を注視して行うのが一般に想定される。
【0041】
そこで、本発明ではそれに着目し、
図5(d)に示すように対象物W上に特定した注視範囲Gaから視線方向VDへの見通し領域FDについてのみ、3次元モデルWMを可視化して対象物Wに重畳表示させる。これにより、透過型ディスプレイ110の装着者が対象物Wに視線を向けることで、
図6に示すように、注視範囲Gaから視線方向VDに対象物Wの内部の仮想面Wbbをあたかも透視しているかのように観察することが可能となる。
<第2実施形態>
【0042】
図7に本発明の可視化装置200の機能ブロック図を示す。可視化装置200は、対象物Wが、本体10a、プローブ10b及び制御部10cからなる3次元測定機10の本体10aに載置されて行われる測定の対象物である場合に適する装置である。なお、3次元測定機10の測定座標系は、任意の方法により3次元センサ120の検出座標系と同じに設定されているものとする。また、ここでは測定機が3次元測定機の場合を例にとって説明するが、本発明は有線通信または無線通信で接続されたプローブを用いて測定するその他の測定機においても同様に適用することができる。
【0043】
可視化装置200は、3次元測定機10に載置された測定の対象物Wの背後にプローブ10bの部分(特に先端)が隠れて見えない場合に、当該プローブ10bの少なくとも先端を疑似的に可視化するとともに、測定の対象物Wの背面形状を疑似的に可視化する。このうち、対象物Wの背面形状の疑似的な可視化は、可視化装置200に含まれる第1実施形態の可視化装置100に相当する機能部により実現される。
【0044】
可視化装置200は、透過型ディスプレイ110、3次元センサ120、フィッティング手段130、表示制御手段240、測定機情報取得手段250及びプローブ部分特定手段260を備える。
【0045】
測定機情報取得手段250は、3次元測定機10のプローブ10bの、3次元モデル及び座標情報を取得する。3次元モデルについては、予め3次元モデルが記憶された任意の記憶手段、例えば記憶部101から取得する。座標情報については3次元測定機10から取得する。なお、任意の記憶手段や3次元測定機10からの、3次元モデルや座標情報の取得方法や取得方式は任意である。3次元測定機10から取得する場合には、例えば制御部10cを介して任意の方式の無線通信又は有線通信により取得することができる。
【0046】
プローブ部分特定手段260は、対象物Wの背面形状を視線方向の正面から見た形状として重畳表示された3次元モデルの背後にプローブが存在する場合に、背面形状の3次元モデルと重なるプローブの部分を特定する。具体的な処理としては、プローブ部分特定手段260は、対象物Wの注視範囲を視線方向に掃引して通過する対象物Wの背後の座標範囲にプローブ10bの先端の座標が含まれるときに、当該先端の座標とプローブ10bの3次元モデルとに基づき、対象物Wの背後の座標範囲に含まれるプローブ10bの部分及び当該部分の存在位置を特定するとよい。
【0047】
表示制御手段240は、表示制御手段140の機能に加え、次の機能を備える。見通し領域の背後の、プローブ部分特定手段260により特定されたプローブ10bの部分の存在位置に相当する位置に、当該プローブ10bの部分に対応するプローブ10bの3次元モデルの部分が視認されるように、当該プローブ10bの3次元モデルの部分を対象物Wの所定の注視範囲に重畳表示させる。ここで、「区別して視認可能にする」具体例としては、例えば、背面形状をグレースケールの表示色やワイヤーフレームの形式で表示する一方、プローブの部分についてはTrueカラーの表示色や3Dモデル表面に質感を与えるようにテクスチャーマッピング形式で表示するようにして、両者を明確に区別できるように重畳表示するとよい。
【0048】
【0049】
プローブ部分特定手段260は、注視範囲Gaを視線方向VDに掃引して通過する対象物Wの背後の座標範囲BD、言い換えれば、見通し領域FDの背後の座標範囲BDに、プローブ10bの先端10btの座標が含まれるか否かを判定する。そして、含まれると判定された場合には、先端10btの座標とプローブ10bの3次元モデルPMとに基づき、対象物Wの背後の座標範囲BDに含まれるプローブ10bの部分10bp及び当該部分10bpの存在位置を特定する。
【0050】
ここで、対象物Wの背後の座標範囲BDは、対象物Wの透過処理に際して既に特定された注視範囲Ga及び対象物Wの座標範囲、並びに視線方向VDに基づき特定することができる。また、3次元測定機10の測定座標系におけるプローブ10bの向きや可動範囲が特定されているため、測定機情報取得手段250により取得されたプローブ10bの先端10btの座標とプローブ10bの3次元モデルに基づき、プローブ10bの存在座標範囲を特定することができる。そのため、プローブ10bの部分10bp及び当該部分10bpの存在位置は、プローブ10bの存在座標範囲が、対象物Wの背後の座標範囲BDと重なる部分及び当該部分の存在位置として特定することができる。
【0051】
そして、表示制御手段240は、見通し領域FDの背後に存在するプローブ10bの部分10bpの存在位置に相当する位置に、当該プローブ10bの部分10bpに対応するプローブ10bの3次元モデルPMの部分が視認されるように、当該プローブ10bの3次元モデルPMの部分を対象物Wの注視範囲Gaに重畳表示させる。
【0052】
以上説明した本発明の可視化装置200によれば、透過型ディスプレイ110の装着者が対象物Wに視線を向けることで、
図9に示すように、注視範囲Gaから視線方向VDに対象物Wの内部の仮想面Wbb及びその背後のプローブ10bの部分10bpをあたかも透視しているかのように観察することが可能となる。そのため、3次元測定機10による対象物Wの背面の測定を、プローブ10bの位置と対象物Wの背面形状を確認しながら正面側から行うことができる。
【0053】
なお、第2実施形態の可視化装置200では、注視範囲Gaを例えば透過型ディスプレイ110の所定位置(例えば中心)とプローブ10bの先端10btとを結ぶ線と対象物Wの表面との交点を中心とする対象物Wの表面の所定の範囲としてもよい。これにより、プローブ10bや透過型ディスプレイ110の装着者の動きに合わせて注視範囲Gaを変化させることができる。
<第3実施形態>
【0054】
可視化装置100又は可視化装置200の各手段の機能は、プログラムに記述してコンピュータに実行させることにより実現してもよい。
【0055】
各手段の機能をプログラムに記述しコンピュータに実行させて実現する場合の可視化装置100又は可視化装置200の構成例を
図10に示す。
【0056】
可視化装置100又は可視化装置200は、例えば、記憶部101、CPU102、通信部103、透過型ディスプレイ110及び3次元センサ120を備える。
【0057】
CPU102は、記憶部101に記憶された各手段の機能が記述されたプログラムを実行し、可視化装置100又は可視化装置200の機能を実現する。記憶部101は、3次元モデルやプログラムを記憶する任意の記憶手段であり、例えば、HDDやフラッシュメモリ等の記憶媒体のほか、不揮発性メモリ、揮発性メモリなどを採用することができる。なお、記憶部101は、可視化装置100又は可視化装置200の装置内に設ける代わりに、通信部103を介して接続されたクラウドストレージを採用して実現してもよい。通信部103は、無線ネットワーク又は有線ネットワークに接続するためのインタフェースであり、CPU102により実行されたプログラムによる制御に従い、ネットワークに接続された3次元測定機10の制御部10cやクラウドストレージなどとの間で情報の送受を行う。透過型ディスプレイ110及び3次元センサ120は、CPU102により実行されたプログラムによる制御に従い、情報の表示及び物体の検出を実行する。
【0058】
本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではない。各実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。すなわち、本発明において表現されている技術的思想の範囲内で適宜変更が可能であり、その様な変更や改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含む。
【0059】
例えば、上記の各実施形態では、3次元測定機の形状とプローブの方式が、形状が門型でプローブが接触式である場合を例にとって説明したが、他の形状や他の方式の場合にも本発明を適用することが可能である。
【0060】
例えば、
図11(a)に示すような、多関節アーム式でかつプローブが非接触式の3次元測定機10の場合にも、対象物Wの正面を測定する場合は
図11(b)に示すように直接視認して測定を行い、背面を測定する場合には、
図11(c)に示すようにプローブ10bの先端10bt近傍を疑似的に透過させる構成を、上記の各実施形態と概ね同様な方法で実現することができる。
【0061】
また、上記の各実施形態では、ディスプレイとして、表示スクリーンを透過して3次元空間を視認できる透過型ディスプレイを採用する場合を例に説明したが、ディスプレイは非透過型であってもよい。この場合、カメラで撮影した3次元空間の画像を表示することにより3次元空間を視認可能とするとよい。非透過型のディスプレイを採用する具体的な構成例としては、スマートフォンなどの拡張現実(AR)表示が可能なデバイスや、ヘッドマウントディスプレイとカメラを組み合わせていわゆるビデオシースルーを可能とした仮想現実(VR)デバイス等で、3次元空間に所定の情報を重畳表示するとよい。
【0062】
また、注視範囲の決め方は上記の各実施形態に示された方法に限定されない。例えば、所定の注視範囲は、ディスプレイの所定位置から注視方向に向かう線と対象物の表面との交点を中心とする、対象物の表面の所定の範囲としてもよい。ここで、「ディスプレイの所定位置」は、例えばディスプレイの中心とするとよい。また、「注視方向」は、例えば、ディスプレイのスクリーンに垂直な方向、視線の方向、プローブの先端のある方向、等とするとよい。注視方向を視線の方向とする場合、可視化装置に、装着者の視線の方向を検出するセンサを設け、当該センサにより検出した視線の方向を注視方向としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…3次元測定機
10a…本体
10b…プローブ
10bp…プローブ10bの座標範囲BDに含まれる部分
10bt…プローブ10bの先端
100、200…可視化装置
101…記憶部
102…CPU
103…通信部
110…透過型ディスプレイ
120…3次元センサ
130…フィッティング手段
140、240…表示制御手段
250…測定機情報取得手段
260…プローブ部分特定手段
BD…対象物Wの背後の座標範囲
D、D1、D2…窪み
FD…見通し領域
FV…視界
Ga…注視範囲
Gam…表面領域
Gb…背面範囲
Gbb…仮想範囲
Gc…注視範囲Gaの略中心
P1、P2…突起
PM…プローブ10bの3次元モデル
PV…3次元センサ120の存在位置
Ta…起動領域
U…物体
VD…視線方向
W…対象物
Wb…対象物Wの背面
Wbb…仮想面
WM…対象物Wの3次元モデル