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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】信号処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20240417BHJP
   H04L 27/01 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
H04B1/04 R
H04L27/01
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020066028
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021164098
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小島 政明
(72)【発明者】
【氏名】小泉 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽一
(72)【発明者】
【氏名】筋誡 久
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-078454(JP,A)
【文献】特開2010-136254(JP,A)
【文献】特開2012-049735(JP,A)
【文献】特開2007-228057(JP,A)
【文献】特開2005-102029(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0270856(US,A1)
【文献】特開2016-046690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H04L 27/01
H04B 3/04
H04B 7/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の変調方式で変調され、所定の伝送路を介して送信される変調波信号を生成する送信装置により生成された前記変調波信号をA/D変換するA/D変換器と、
前記伝送路における対象機器の特性に近似した特性を有する疑似伝送器と、
前記A/D変換後の信号と、前記A/D変換後の信号が前記疑似伝送器を通過した信号である疑似伝送器通過信号とを同期させる同期部と、
前記疑似伝送器通過信号のIQ信号点と、前記疑似伝送器通過信号と同期する前記A/D変換後の信号である参照信号のIQ信号点との誤差に所定の係数を乗算し、前記参照信号に、前記所定の係数を乗算した誤差を加算した補正信号を生成する逆特性付加部と、
前記補正信号をD/A変換し、前記D/A変換後の信号を直交変調して変調波信号を生成する変調波信号生成部と、を備える信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置において、
前記逆特性付加部は、前記疑似伝送器通過信号のIQ信号点のベクトルと、前記参照信号のIQ信号点のベクトルとの誤差である誤差ベクトルに所定の係数を乗算し、前記参照信号のIQ信号点のベクトルに、前記所定の係数を乗算した誤差ベクトルを加算することで、前記補正信号を生成する、信号処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の信号処理装置において、
前記逆特性付加部は、前記疑似伝送器通過信号のIQ信号点を振幅および位相に変換した第1振幅値および第1位相値と、前記参照信号のIQ信号点を振幅および位相に変換した第2振幅値および第2位相値との誤差である誤差振幅値および誤差位相値に所定の係数を乗算し、前記第2振幅値および前記第2位相値に、前記所定の係数を乗算した誤差振幅値および誤差位相値を加算することで、前記補正信号を生成する、信号処理装置。
【請求項4】
所定の変調方式で変調され、所定の伝送路を介して送信される変調波信号を生成する送信装置により生成された前記変調波信号をA/D変換するA/D変換器と、
前記伝送路における対象機器とは逆特性を有する疑似伝送器と、
前記A/D変換後の信号が前記逆疑似伝送器を通過した信号である逆疑似伝送器通過信号を直交変調して変調波信号を生成する変調波信号生成部と、を備える信号処理装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の信号処理装置において、
前記補正信号の帯域を制限する第1バンドパスフィルタをさらに備え、
前記変調波信号生成部は、前記第1バンドパスフィルタによる帯域の制限後の信号を用いて前記変調波信号を生成する、信号処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の信号処理装置において、
前記A/D変換器によるA/D変換後の信号の帯域を制限し、前記帯域の制限後の信号を前記疑似伝送器に入力する第2バンドパスフィルタをさらに備える、信号処理装置。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の信号処理装置において、
前記係数は、前記参照信号のIQ信号点に対する前記疑似伝送器通過信号のエラーベクトル振幅が最小となる係数値、または、出力バックオフによる電力損と非線形による所要C/Nの劣化との和が最小となる係数値である、信号処理装置。
【請求項8】
請求項4に記載の信号処理装置において、
前記逆疑似伝送器通過信号の帯域を制限する第1バンドパスフィルタをさらに備え、
前記変調波信号生成部は、前記第1バンドパスフィルタによる帯域の制限後の信号を用いて前記変調波信号を生成する、信号処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の信号処理装置において、
前記A/D変換器によるA/D変換後の信号の帯域を制限し、前記帯域の制限後の信号を前記逆疑似伝送器に入力する第2バンドパスフィルタをさらに備える、信号処理装置。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1からのいずれか一項に記載の信号処理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置により生成された変調波信号の歪補償を行う信号処理装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在運用されている各種規格のデジタル放送のうち、衛星放送を例にとれば、放送衛星に備えられた伝送器(衛星中継器)を使って、複数の放送事業者が独立したTS(トランスポートストリーム)を伝送することができるように、放送波信号は多重伝送される。衛星デジタル放送で採用されている規格には、ISDB-T、ISDB-S、ISDB-S3、DVB-S2、DVB-S2Xなどがある。
【0003】
図7は、従来の衛星デジタル放送伝送システム1Aの構成例を示す図である。図7に示す衛星デジタル放送伝送システム1Aは、送信装置2と、衛星中継器3と、複数の受信装置4-1~4-N(Nは1以上の自然数)とを備える。なお、送信装置2は、上述した衛星デジタル放送の各種規格に適合した一般的な送信装置として説明する。
【0004】
送信装置2は、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)信号などの制御情報で指定される所定の変調方式に基づいて変調波信号を生成し、映像・音声・データ放送などを多重した主信号を衛星中継器3に送信する。変調方式としては、例えば、π/2シフトBPSK(Binary Phase Shift Keying)を含むBPSK、π/4シフトQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)を含むQPSK、8PSK、16APSK(Amplitude Phase Shift Keying)あるいは32APSKなどがある。
【0005】
衛星中継器3は、送信装置2から送信された変調波信号を伝送する伝送器である。衛星中継器3は、進行波管増幅器(以下、「TWTA」と称する)32と、TWTA32に前置される入力フィルタである入力マルチプレクサフィルタ(以下、「IMUXフィルタ」と称する)31と、TWTA32に後置される出力フィルタである出力マルチプレクサフィルタ(以下、「OMUXフィルタ」と称する)33とを備える。図7においては、IMUXフィルタ31、TWTA32およびOMUXフィルタ33をそれぞれ1つのみ示しているが、実際には、増幅するチャンネル数分が実装される。衛星中継器3は、アンテナ(図示せず)で受信した変調波信号(放送波信号)を増幅器および周波数変換器(図示せず)により増幅および周波数変換する。
【0006】
IMUXフィルタ31は、各チャンネル周波数に対応した帯域通過フィルタである。IMUXフィルタ31は、増幅および周波数変換された放送波信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。TWTA32は、IMUXフィルタ31により抽出された1チャンネル分の放送波信号の電力を増幅する。OMUXフィルタ33は、各チャンネル周波数に対応した帯域通過フィルタである。OMUXフィルタ33は、TWTA32により増幅された信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。OMUXフィルタ33による不要周波数成分の抑圧後、OMUXフィルタ33の後続の合成器(図示せず)により、全チャンネル分の放送波信号が合成され、アンテナ(図示せず)から受信装置4-1~4-Nに向けて放送波信号が送信される。
【0007】
受信装置4-1~4-Nは、多重された放送波信号とともに伝送されるTMCC信号などの制御情報を絶えず監視することにより、送信装置2において様々な伝送制御が行われたとしても、それに追従して受信方式などを切り替えることができる。
【0008】
上述したTWTA32においては、入出力振幅および位相偏移特性などの影響により、所望のIQ信号点からずれが生じることがある。また、IMUXフィルタ31およびOMUXフィルタ33においては、周波数振幅および群遅延特性などの影響により、シンボル間干渉が生じ、所望の信号点から広がりが生じることがある。伝送路内では、IQ信号点のずれおよび広がりが相互に影響し合い、結果として所望C/Nが増大し、伝送品質が劣化する(非特許文献1参照)。また、変調方式として、32APSKなどの多値振幅位相変調方式を用いる場合、TWTA32のバックオフをとる(TWTA32の入力レベルを絞って、出力レベルを下げた状態で運用する)ことが行われるが、TWTA32のバックオフをとることで、受信電力が低下し、結果として、所要C/Nの劣化を招いてしまう(非特許文献1参照)。
【0009】
特許文献1には、歪補償機能を備えた送信装置が記載されている。具体的には、特許文献1には、衛星中継器などによる伝送路歪を事前に送信装置側で補正することにより、伝送路通過によるIQ信号点のずれおよび広がりを軽減し、所要C/Nの劣化量および出力バックオフ量の軽減、ならびに、受信装置側での信号点配置のずれの低減を図る送信装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-11356号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】電子情報通信学会技術研究報告SAT2019-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図8は、図7に示す従来の送信装置2の構成例を示す図である。
【0013】
図8に示す送信装置2は、シリアル/パラレル変換部(以下、「S/P変換部」と称する)21と、マッピング部22と、アップサンプリング部(以下、「U/S部」と称する)23と、ルートロールオフフィルタ部(以下、「RRF部」と称する)24と、D/A変換部25と、直交変調部26とを備える。
【0014】
S/P変換部21は、送信するデジタル信号(所定の符号化を施した変調前の信号)が入力され、入力されたデジタル信号を、1ビットずつ数ビットの並列のビット列に変換する。マッピング部22は、S/P変換部21から出力された並列のビット列を所定の変調方式でIQ平面上にマッピングする。U/S部23は、マッピング部22によるマッピング後のIQ信号点(シンボル点)からシンボル点とシンボル点との間を補完する非シンボル点を生成する。RRF部24は、U/S部23の出力波形が周波数軸上で有限長になり、かつ、シンボル間干渉が発生しないように、波形成型を行う。D/A変換部25は、RRF部25から出力されたデジタル信号をアナログ信号にD/A変換する。直交変調部26は、D/A変換後のアナログ信号を直交変調して、変調波信号を生成する。
【0015】
図9は、特許文献1に開示されるような、歪補償機能を備えた送信装置2Aの構成例を示す図である。図9に示す送信装置2Aは、例えば、図7に示す衛星デジタル放送伝送システム1Aにおいて、送信装置2の代わりに、変調波信号を生成し、衛星中継器3に送信するものである。図9において、図8と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0016】
図9に示す送信装置2Aは、S/P変換部21、マッピング部22、U/S部23、RRF部24、D/A変換部25および直交変調部26に加えて、U/S部201と、RRF部202,208と、疑似伝送器203と、可変遅延部207と、ダウンサンプリング部(以下、「D/S部」と称する)209と、遅延部210と、EVM(Error Vector Magnitude)部211と、ベクトル加算部212,214と、係数乗算部213と、AGC(Auto Gain Control)部215とを備える。
【0017】
マッピング部22により所定の変調方式でマッピングされた信号は、U/S部201および遅延部210に入力される。U/S部201は、マッピング部22によるマッピング後のIQ信号点(シンボル点)からシンボル点とシンボル点との間を補完する非シンボル点を生成する。RRF部202は、U/S部201の出力波形が周波数軸上で有限長になり、かつ、シンボル間干渉が発生しないように、波形成型を行う。
【0018】
疑似伝送器203は、RRF部202から出力された信号が衛星中継器(伝送器)3を通過した場合の信号を疑似した疑似伝送器通過信号を生成する。疑似伝送器203は、疑似IMUXフィルタ204と、疑似TWTA205と、疑似OMUXフィルタ206とを備える。疑似IMUXフィルタ204は、特性値として、IMUXフィルタ31の特性を近似した設定値を有し、RRF部202から出力された信号から、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。疑似TWTA205は、特性値として、TWTA32の特性を近似した設定値を有し、疑似IMUXフィルタ204により抽出された1チャンネル分の帯域成分の信号の電力を増幅する。疑似OMUXフィルタ206は、特性値として、OMUXフィルタ33の特性を近似した設定値を有し、TWTA32により増幅された信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出して疑似伝送器通過信号として出力する。
【0019】
可変遅延部207は、後述するEVM部211により制御される遅延量だけ、疑似伝送器通過信号を遅延させる。RRF部208は、可変遅延部207の出力波形が周波数軸上で有限長になり、かつ、シンボル間干渉が発生しないように、波形成型を行う。D/S部209は、RRF部209による波形成型後の信号から、シンボル点とシンボル点との間を補完する非シンボル点を除去し、EVM部211およびベクトル加算部212に出力する。
【0020】
遅延部210は、マッピング部22から出力された信号を、疑似伝送器203の通過により生じる遅延量と同じ遅延量だけ遅延させ、参照信号としてEVM部211およびベクトル加算部214に出力する。遅延部210の遅延量は固定である。EVM部211は、遅延部210から出力された参照信号のIQ信号点と、D/S部209から出力された信号のIQ信号点とのずれが最小となるように、可変遅延部207による疑似伝送器通過信号の遅延量を制御する。EVM部211は、例えば、2つのIQ信号点のEVM(エラーベクトル振幅)が最小となるように、可変遅延部207による信号の遅延量を制御する。ここでは構成上、IQ信号点はシンボル点のみの参照となる。
【0021】
ベクトル加算部212は、D/S部209から出力された信号のIQ信号点のベクトルと、遅延部210から出力された参照信号のIQ信号点のベクトルとを加算する。ここで、ベクトル加算部212は、遅延部210側の入力を符号反転している。したがって、ベクトル加算部212は、D/S部209から出力された信号のIQ信号点のベクトルから、遅延部201から出力された参照信号のIQ信号点のベクトルを、信号点ごとに差し引いた誤差ベクトルの信号を出力する。上述したように、D/S部209から出力される信号は、マッピング部22によるマッピング後の信号が疑似伝送器203を通過することにより生じた歪を含む信号である。一方、遅延部210から出力される参照信号は、マッピング部22によるマッピング後の信号が遅延され、疑似伝送器通過信号と同期する信号である。したがって、ベクトル加算部212は、疑似伝送器203の通過により生じた歪成分を誤差ベクトルとして出力する。
【0022】
係数乗算部213は、ベクトル加算部212から出力された誤差ベクトルに所定の係数を乗算して、ベクトル加算部214に出力する。
【0023】
ベクトル加算部214は、遅延部210から出力された参照信号のIQ信号点のベクトルと、係数乗算部213により所定の係数が乗算された誤差ベクトルとを加算する。ここで、ベクトル加算部214は、係数乗算部213側の入力を符号反転している。したがって、ベクトル加算部214は、参照信号のIQ信号点のベクトルから、所定の係数が乗算された誤差ベクトルを差し引いた信号をAGC部215に出力する。上述したように、参照信号は、マッピング部22によるマッピング後の理想的なIQ信号点であり、誤差ベクトルは、疑似伝送器203の通過により生じた歪成分である。したがって、ベクトル加算部214は、理想的な信号に対して、衛星中継器(伝送路)2の通過による歪を補正した補正信号を出力する。AGC部215は、ベクトル加算部214から出力された補正信号の利得を制御して、U/S部23に出力する。
【0024】
図9に示すような、歪補償機能を備えた従来の送信装置は、マッピング部22の出力信号に対して直接、補正(歪補償)を行うため、歪補償に特化した構成を備える。そのため、歪補償機能を有さない送信装置を汎用的に使用することができない。したがって、例えば、異なる伝送規格(衛星デジタル放送の場合、ISDB-T、ISDB-S、ISDB-S3、DVB-S2、DVB-S2Xなど)ごとに、歪補償のための特有の構成を有する送信装置が必要となってしまう。
【0025】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、伝送規格によらず、伝送路歪に対する歪補償を行うことができる信号処理装置およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するため、本発明に係る信号処理装置は、所定の変調方式で変調され、所定の伝送路を介して送信される変調波信号を生成する送信装置により生成された前記変調波信号をA/D変換するA/D変換器と、前記伝送路上の対象機器の特性に近似した特性を有する疑似伝送器と、前記A/D変換後の信号と、前記A/D変換後の信号が前記疑似伝送器を通過した信号である疑似伝送器通過信号とを同期させる同期部と、前記疑似伝送器通過信号のIQ信号点と、前記疑似伝送器通過信号と同期する前記A/D変換後の信号である参照信号のIQ信号点との誤差に所定の係数を乗算し、前記参照信号に、前記所定の係数を乗算した誤差を加算した補正信号を生成する逆特性付加部と、前記補正信号をD/A変換し、前記D/A変換後の信号を直交変調して変調波信号を生成する変調波信号生成部と、を備える。
【0027】
また、本発明に係る信号処理装置において、前記逆特性付加部は、前記疑似伝送器通過信号のIQ信号点のベクトルと、前記参照信号のIQ信号点のベクトルとの誤差である誤差ベクトルに所定の係数を乗算し、前記参照信号のIQ信号点のベクトルに、前記所定の係数を乗算した誤差ベクトルを加算することで、前記補正信号を生成することが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る信号処理装置において、前記逆特性付加部は、前記疑似伝送器通過信号のIQ信号点を振幅および位相に変換した第1振幅値および第1位相値と、前記参照信号のIQ信号点を振幅および位相に変換した第2振幅値および第2位相値との誤差である誤差振幅値および誤差位相値に所定の係数を乗算し、前記第2振幅値および前記第2位相値に、前記所定の係数を乗算した誤差振幅値および誤差位相値を加算することで、前記補正信号を生成することが好ましい。
【0029】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る信号処理装置は、所定の変調方式で変調され、所定の伝送路を介して送信される変調波信号を生成する送信装置により生成された前記変調波信号をA/D変換するA/D変換器と、前記伝送路における対象機器とは逆特性を有する疑似伝送器と、前記A/D変換後の信号が前記逆疑似伝送器を通過した信号である逆疑似伝送器通過信号を直交変調して変調波信号を生成する変調波信号生成部と、を備える。
【0030】
また、本発明に係る信号処理装置において、前記補正信号の帯域を制限する第1バンドパスフィルタをさらに備え、前記変調波信号生成部は、前記第1バンドパスフィルタによる帯域の制限後の信号を用いて前記変調波信号を生成することが好ましい。
【0031】
また、本発明に係る信号処理装置において、前記A/D変換器によるA/D変換後の信号の帯域を制限し、前記帯域の制限後の信号を前記疑似伝送器に入力する第2バンドパスフィルタをさらに備えることが好ましい。
【0032】
また、本発明に係る信号処理装置において、前記係数は、前記参照信号のIQ信号点に対する前記疑似伝送器通過信号のエラーベクトル振幅が最小となる係数値、または、出力バックオフによる電力損と非線形による所要C/Nの劣化との和が最小となる係数値であることが好ましい。
また、本発明に係る信号処理装置において、前記逆疑似伝送器通過信号の帯域を制限する第1バンドパスフィルタをさらに備え、前記変調波信号生成部は、前記第1バンドパスフィルタによる帯域の制限後の信号を用いて前記変調波信号を生成することが好ましい。
また、本発明に係る信号処理装置において、前記A/D変換器によるA/D変換後の信号の帯域を制限し、前記帯域の制限後の信号を前記逆疑似伝送器に入力する第2バンドパスフィルタをさらに備えることが好ましい。
【0033】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記信号処理装置として機能させる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る信号処理装置およびプログラムによれば、伝送規格によらず、伝送路歪に対する歪補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の実施形態に係る信号処理装置を含む衛星デジタル放送伝送システムの構成例を示す図である。
図2図1に示す信号処理装置の構成例を示す図である。
図3図2に示す同期部の他の構成例を示す図である。
図4図2に示す逆特性付加部の他の構成例を示す図である。
図5図1に示す信号処理装置の他の構成例を示す図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る信号処理装置の構成例を示す図である。
図7】従来の衛星デジタル放送伝送システムの構成例を示す図である。
図8図7に示す従来の送信装置の構成例を示す図である。
図9】歪補償機能を備える送信装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0037】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る信号処理装置100を含む衛星デジタル放送伝送システム1の構成例を示す図である。図1において、図7と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0038】
図1に示す衛星デジタル放送伝送システム1は、送信装置2と、衛星中継器3と、受信装置4-1~4-Nと、信号処理装置100とを備える。
【0039】
信号処理装置100は、送信装置2により生成された変調波信号が入力される。変調波信号は、図8を参照して説明したように、所定の変調方式で変調された信号であり、所定の伝送路(衛星中継器3)を介して送信される信号である。信号処理装置100は、送信装置2により生成された変調波信号に対して、衛星中継器3における伝送路歪を補償する歪補償を行い、歪補償後の変調波信号を衛星中継器3に送信する。信号処理装置100は、例えば、送信装置2に外付け可能な装置であり、送信装置2における伝送方式に関わりなく、送信装置2により生成された変調波信号に対して歪補償を行うことができる。
【0040】
図2は、本実施形態に係る信号処理装置100の構成例を示す図である。
【0041】
図2に示す信号処理装置100は、A/D変換部110と、疑似伝送器120と、遅延部131と、可変遅延部132と、EVM部133と、ベクトル加算部141,143と、係数乗算部142と、AGC部151と、D/A変換部152と、直交変調部153とを備える。遅延部131、可変遅延部132およびEVM部133は、同期部130を構成する。ベクトル加算部141、係数乗算部142およびベクトル加算部143は、逆特性付加部140を構成する。AGC部151、D/A変換部152および直交変調部153は、変調波信号生成部150を構成する。
【0042】
A/D変換部110は、送信装置2により生成された変調波信号が入力される。A/D変換部110は、送信装置2により生成された変調波信号をA/D変換し、A/D変換後の信号を疑似伝送器120および遅延部131に出力する。
【0043】
疑似伝送器120は、伝送路上の対象機器(衛星中継器3)の特性に近似した特性を有する。対象機器とは、送信装置2から受信装置4-1~4-Nまでの信号経路に存在する、変調波信号を伝送する機器のうち、疑似伝送器120により特性が模擬される機器である。疑似伝送器120は、A/D変換部110によるA/D変換後の信号が衛星中継器3を通過した場合の信号を疑似した疑似伝送器通過信号を生成し、EVM部133およびベクトル加算部141に出力する。疑似伝送器120は、疑似IMUXフィルタ121と、疑似TWTA122と、疑似OMUXフィルタ123とを備える。疑似IMUXフィルタ121は、特性値として、IMUXフィルタ31の特性を近似した設定値を有し、A/D変換部110によるA/D変換後の信号から、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。疑似TWTA122は、特性値として、TWTA32の特性を近似した設定値を有し、疑似IMUXフィルタ121により抽出された1チャンネル分の帯域成分の信号の電力を増幅する。疑似OMUXフィルタ123は、特性値として、OMUXフィルタ33の特性を近似した設定値を有し、TWTA122により増幅された信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出し、疑似伝送器通過信号として出力する。
【0044】
遅延部131は、A/D変換部110から出力された信号を所定の遅延量だけ遅延させ、可変遅延部132に出力する。遅延部131による信号の遅延量は固定である。
【0045】
可変遅延部132は、後述するEVM部133により制御される遅延量だけ、遅延部131から出力された信号を遅延させ、参照信号としてEVM部133およびベクトル加算部143に出力する。
【0046】
EVM部133は、可変遅延部132から出力された参照信号のIQ信号点と、疑似伝送器120から出力された信号(疑似伝送器通過信号)のIQ信号点とが同期するように、可変遅延部132による信号の遅延量を制御する。具体的には、EVM部133は、参照信号のIQ信号点と、疑似伝送器通過信号のIQ信号点とのずれが最小となるように、可変遅延部132による信号の遅延量を制御する。EVM部211は、例えば、2つのIQ信号点のエラーベクトル誤差が最小となるように、可変遅延部132による信号の遅延量を制御する。
【0047】
上述したように、遅延部131、可変遅延部132およびEVM部133は、同期部130を構成する。したがって、同期部130は、A/D変換部110によるA/D変換後の信号と、A/D変換後の信号が疑似伝送器120を通過した信号である疑似伝送器通過信号とを同期させる。同期部130は、A/D変換部110によるA/D変換後の信号が疑似伝送器通過信号と同期した信号を参照信号として出力する。なお、EVM部133および後述するベクトル加算部141,143のIQ信号処理は、非シンボル点も含むものとする。
【0048】
ベクトル加算部141は、疑似伝送器120から出力された疑似伝送器通過信号のIQ信号点のベクトルと、同期部130から出力された参照信号のIQ信号点のベクトルとを加算し、係数乗算部142に出力する。ここで、ベクトル加算部141は、可変遅延部132側の入力を符号反転している。したがって、ベクトル加算部141は、疑似伝送器通過信号のIQ信号点のベクトルから、参照信号のIQ信号点のベクトルを、信号点ごとに差し引いた誤差ベクトルを係数乗算部142に出力する。上述したように、疑似伝送器通過信号は、A/D変換後の信号(変調波信号)が疑似伝送器120を通過したことにより生じた歪を含む信号である。また、参照信号は、A/D変換後の信号が遅延され、疑似伝送器通過信号と同期する信号である。したがって、ベクトル加算部141は、疑似伝送器120の通過により生じた歪成分を誤差ベクトルとして出力する。
【0049】
係数乗算部142は、ベクトル加算部141から出力された誤差ベクトルに所定の係数を乗算して、ベクトル加算部143に出力する。
【0050】
ベクトル加算部143は、遅延部210から出力された参照信号のIQ信号点のベクトルと、係数乗算部213により所定の係数が乗算された誤差ベクトルとを加算する。ここで、ベクトル加算部143は、係数乗算部142側の入力を符号反転している。したがって、ベクトル加算部143は、参照信号のIQ信号のベクトルから、所定の係数が乗算された誤差ベクトルを差し引いた信号をAGC部151に出力する。上述したように、参照信号は、A/D変換部110によるA/D変換後の信号であり、誤差ベクトルは、そのA/D変換後の信号が疑似伝送器120を通過したことにより生じた歪成分である。したがって、ベクトル加算部143は、A/D変換後の変調波信号に対して、疑似伝送器120の通過による歪を補正した(疑似伝送器120の逆特性を付加した)補正信号を出力する。
【0051】
上述したように、ベクトル加算部141、係数乗算部142およびベクトル加算部143は、逆特性付加部140を構成する。したがって、逆特性付加部140は、疑似伝送器通過信号のIQ信号点と、疑似同期信号に同期するA/D変換後の信号である参照信号のIQ信号点との誤差に所定の係数を乗算し、参照信号に、所定の係数を乗算した誤差を加算した補正信号を生成する。より具体的には、逆特性付加部140は、疑似伝送器通過信号のIQ信号点のベクトルと、参照信号のIQ信号点のベクトルとの誤差である誤差ベクトルに所定の係数を乗算し、参照信号のIQ信号点のベクトルに、所定の係数を乗算した誤差ベクトルを加算して、補正信号を生成する。
【0052】
図9に示す送信装置2Aにおいては、疑似伝送器203を通過した疑似伝送器通過信号のIQ信号点と、マッピング部22によるマッピング後の理想的なIQ信号点と同期させ、歪補償を行っている。本実施形態に係る信号処理装置100においても、送信装置2から入力された変調波信号のA/D変換後、復調・復号・再変調を行えば、疑似伝送器120を通過した疑似伝送器通過信号のIQ信号点を、理想的なIQ信号点と同期させ、歪補償を行うことができる。しかしながら、この場合、復調および再変調などの信号処理は伝送方式に依存するため、各伝送方式(伝送規格)に応じた特有の構成が必要となり、汎用性に欠ける。一方、本実施形態においては、復調などの信号処理を行うことなく、理想的なIQ信号点とは非同期の状態で、参照信号に誤差ベクトルを加算することで、参照信号に疑似伝送器120の逆特性を付加して歪補償を行った補正信号を生成する。そのため、伝送方式(伝送規格)に依存せずに歪補償を行うことができ、汎用的な利用が可能となる。
【0053】
なお、伝送路には非線形の要素が多数あるため、参照信号のIQ信号点のベクトルから単純に誤差ベクトルを差し引いても、最適な補正信号とならないことがある。適切な係数を設定することで、歪補償をより効果的に行うことができる。
【0054】
係数の設定方法としては、例えば、事前処理(オフライン)として、係数のパラメータを変化させ、疑似伝送器120の特性をもとに伝送性能が最適となる値を導出する方法がある。このような方法としては、例えば、参照信号のIQ信号点に対する疑似伝送器通過信号のエラーベクトル振幅(EVM)が最小となる係数値を設定する方法がある。また、別の方法として、出力バックオフによる電力損と非線形による所要C/Nの劣化との和が最小となる係数を設定する方法がある。
【0055】
係数は、実際の疑似伝送器120あるいは伝送器(衛星中継器3)の機能を模したシミュレーションなどにより様々な条件を設定し、各条件における最適な係数を予め求めてよい。
【0056】
例えば、参照信号のIQ平面における配置に基づいて、係数を設定することができる。シミュレーションによれば、参照信号のIQ信号点のうち、振幅の大きい信号に対する係数を、振幅の小さい信号に対する係数よりも大きくすると、歪補償効果が良好になることが確認されている。したがって、参照信号のIQ平面における原点からの距離に基づいて、最適な係数を設定することができる。また、参照信号の各IQ信号点(例えば、32APSKであれば32通り)に係数を設定してもよい。
【0057】
AGC部151は、必要に応じて、ベクトル加算部143から出力された補正信号の利得を制御して、D/A変換部152に出力する。
【0058】
D/A変換部152は、AGC部151から出力された信号をアナログ信号にD/A変換する。
【0059】
直交変調部153は、D/A変換後のアナログ信号を、IQ直交化して、変調波信号を生成する。直交変調部153により生成された変調波信号は、アンテナ(不図示)から衛星中継器3に送信される。
【0060】
上述したように、AGC部151、D/A変換部152および直交変調部153は、変調波信号生成部150を構成する。したがって、変調波信号生成部150は、補正信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して変調波信号を生成する。
【0061】
なお、図2においては、同期部130は、可変遅延部132による信号の遅延量を制御することで、参照信号と疑似伝送器通過信号とを同期させる例を用いて説明したが、これに限られるものではない。
【0062】
図3は、同期部130の他の構成例を示す図である。
【0063】
図3に示す同期部130は、図2に示す同期部130と比較して、可変遅延部132を有さない点が異なる。
【0064】
図3に示す同期部130においては、遅延部131は、A/D変換部110によるA/D変換後の信号を所定の遅延量だけ遅延させ、参照信号としてEVM部133およびベクトル加算部143に出力する。
【0065】
EVM部133は、遅延部131から出力された信号と、疑似伝送器120から出力された疑似伝送器通過信号とが同期するように、疑似IMUXフィルタ121および疑似OMUXフィルタ123の群遅延特性を制御する。疑似IMUXフィルタ121および疑似OMUXフィルタ123の群遅延特性を制御することで、疑似伝送器120の通過による遅延量が変化する。したがって、EVM部133は、疑似IMUXフィルタ121および疑似OMUXフィルタ123の群遅延特性を制御することによって、参照信号と疑似伝送器通過信号とを同期させることができる。
【0066】
また、図2においては、逆特性付加部140は、疑似伝送器通過信号のIQ信号点のベクトルと、参照信号のIQ信号点のベクトルとの誤差である誤差ベクトルに所定の係数を乗算し、参照信号のIQ信号点のベクトルに、所定の係数を乗算した誤差ベクトルを加算することで、補正信号を生成する例を用いて説明したが、これに限られるものではない。
【0067】
図4は、逆特性付加部140の他の構成例を示す図である。
【0068】
図4に示す逆特性付加部140は、IQ/振幅位相変換部144,145と、振幅位相加算部146,148と、係数乗算部147と、振幅位相/IQ変換部149とを備える。
【0069】
IQ/振幅位相変換部144は、疑似伝送器120から疑似伝送器通過信号が入力される。IQ/振幅位相変換部144は、入力された疑似伝送器通過信号のIQ信号点を振幅および位相に変換し、振幅値(第1振幅値)および位相値(第1位相値)を振幅位相加算部146に出力する。
【0070】
IQ/振幅位相変換部145は、同期部130から参照信号が入力される。IQ/振幅位相変換部145は、入力された同期信号のIQ信号点を振幅および位相に変換し、振幅値(第2振幅値)および位相値(第2位相値)を振幅位相加算部146に出力する。
【0071】
振幅位相加算部146は、IQ/振幅位相変換部144から出力された第1振幅値および第1位相値と、IQ/振幅位相変換部145から出力された第2振幅値および第2位相値とを加算する。ここで、振幅位相加算部146は、IQ/振幅位相変換部145側の入力を符号反転している。したがって、振幅位相加算部146は、第1振幅値および第1位相値から、第2振幅値および第2位相値を差し引いた振幅値(誤差振幅値)および位相値(誤差位相値)を係数乗算部147に出力する。誤差振幅値および誤差位相値は、疑似伝送器通過信号と参照信号との誤差を振幅値および位相値で表したものである。
【0072】
係数乗算部147は、振幅位相加算部146から出力された誤差振幅値および誤差位相値に所定の係数を乗算して、振幅位相加算部148に出力する。
【0073】
振幅位相加算部148は、IQ/振幅位相変換部145から出力された第2振幅値および第2位相値と、係数乗算部147から出力された誤差振幅値および誤差位相値とを加算し、振幅位相/IQ変換部149に出力する。ここで、振幅位相加算部148は、係数乗算部147側の入力を符号反転している。したがって、振幅位相加算部148は、第2振幅値および第2位相値から、誤差振幅値および誤差位相値を差し引いた振幅値および位相値を振幅位相/IQ変換部149に出力する。振幅位相加算部148から出力される振幅値および位相値は、A/D変換後の変調波信号に疑似伝送器120の逆特性を付加した信号のIQ信号点を振幅値および位相値で表したものである。
【0074】
振幅位相/IQ変換部149は、振幅位相加算部148から出力された振幅値および位相値をIQ平面上のIQ信号点に変換し、補正信号としてAGC部151に出力する。
【0075】
このように、図4に示す逆特性付加部140は、疑似伝送器通過信号のIQ信号点を振幅および位相に変換した第1振幅値および第1位相値と、参照信号のIQ信号点を振幅および位相に変換した第2振幅値および第2位相値との誤差である誤差振幅値および誤差位相値に所定の係数を乗算し、第2振幅値および第2位相値に、所定の係数を乗算した誤差振幅値および誤差位相値を加算することで、補正信号を生成する。
【0076】
図2に示す信号処理装置100においては、歪補償を行うことで、信号処理装置100から出力される変調波信号の帯域が、信号処理装置100に入力される変調波信号の帯域よりも広がることがある。そこで、信号処理装置100は、図5に示すように、逆特性付加部140と変調波信号生成部150との間に、逆特性付加部140により生成された補正信号の帯域を制限する、デジタルフィルタで構成されるバンドパスフィルタ(BPF)161(第1バンドパスフィルタ)をさらに備えてよい。BPF161を設けることで、補正信号の帯域を制限することができる。
【0077】
また、バンドパスフィルタ161を設ける場合、BPF161を伝送器の1構成部としてみることができる。このとき、信号処理装置100は、図5に示すように、A/D変換部110と疑似伝送器120との間に、デジタルフィルタで構成されるBPF162(BPF161と同特性の第2のバンドパスフィルタ)を備える方が好ましい。BPF162は、A/D変換部110によるA/D変換後の信号の帯域を制限し、帯域制限後の信号を疑似伝送器120に入力する。
【0078】
次に、本実施形態に係る信号処理装置100による歪補償性能のシミュレーション結果について説明する。シミュレーションでは、変調方式は、32APSK(符号化率23/4)とし、送信装置2から信号処理装置100までの伝送路遅延を7.7nsとし、周波数誤差を100kHzとし、係数=1とした。そして、歪補償を行わないケース(第1のケース)、図2に示す信号処理装置100において可変遅延部132による信号の遅延量を制御しないケース(第2のケース)、および、図2に示す信号処理装置100において可変遅延部132による信号の遅延量を制御するケース(第3のケース)のそれぞれにおける受信性能を、理想的なIQ信号点に対する受信装置4における受信信号の信号点のエラーベクトル振幅(EVM)により評価した。第1のケース、第2のケースおよび第3のケースにおけるEVMはそれぞれ、17.98%,14.63%,13.22%となり。本実施形態に係る信号処理装置100による歪補償により、伝送性能の改善が確認された。
【0079】
このように本実施形態においては、信号処理装置100は、送信装置2により生成された変調波信号をA/D変換するA/D変換部110と、疑似伝送器120と、A/D変換後の信号と、疑似伝送器120を通過したA/D変換後の信号である疑似伝送器通過信号とを同期させる同期部130と、疑似伝送器通過信号のIQ信号点と、疑似伝送器通過信号と同期するA/D変換後の信号である参照信号のIQ信号点との誤差に所定の係数を乗算し、参照信号に、所定の係数を乗算した誤差を加算した補正信号を生成する逆特性付加部140と、補正信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して変調波信号を生成する変調波信号生成部150と、を備える。
【0080】
疑似伝送器通過信号のIQ信号点と、参照信号のIQ信号点との誤差を参照信号に加算して補正信号を生成することで、復調などの信号処理を行うことなく、理想的なIQ信号点とは非同期の状態で、参照信号に疑似伝送器120の逆特性を付加して歪補償を行った補正信号を生成することができる。そのため、伝送規格よらず、伝送路歪に対する歪補償を行うことができる。
【0081】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態に係る信号処理装置100Aの構成例を示す図である。図6において、図1と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0082】
図6に示す信号処理装置100Aは、A/D変換部110と、逆疑似伝送器120Aと、変調波信号生成部150とを備える。すなわち、本実施形態に係る信号処理装置100Aは、第1の実施形態に係る信号処理装置100と比較して、同期部130および逆特性付加部140を削除した点と、疑似伝送器120を逆疑似伝送器120Aに変更した点とが異なる。
【0083】
逆疑似伝送器120Aは、伝送路上の対象機器(衛星中継器3)とは逆特性を有する。対象機器とは、送信装置2から受信装置4-1~4-Nまでの信号経路に存在する、変調波信号を伝送する機器のうち、疑似伝送器120により特性が模擬される機器である。逆疑似伝送器120Aは、A/D変換部110によるA/D変換後の信号が衛星中継器3を通過した場合と逆特性を付加した逆疑似伝送器通過信号を生成し、変調波信号生成部150に出力する。逆疑似伝送器120Aは、逆疑似OMUXフィルタ121Aと、逆疑似TWTA122Aと、逆疑似IMUXフィルタ123Aとを備える。逆疑似OMUXフィルタ121Aは、特性値として、OMUXフィルタ33の特性とは逆特性となる設定値を有し、A/D変換部110によるA/D変換後の信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。逆疑似TWTA122Aは、特性値として、TWTA32の特性とは逆特性となる設定値を有し、逆疑似OMUXフィルタ121Aにより抽出された1チャンネル分の帯域成分の信号の電力を増幅する。逆疑似IMUXフィルタ123は、特性値として、IMUXフィルタ31の特性とは逆特性となる設定値を有し、逆疑似TWTA122Aにより増幅された信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出し、逆疑似伝送器通過信号として出力する。
【0084】
変調波信号生成部150は、A/D変換部110によるA/D変換後の信号が逆疑似伝送器120Aを通過した信号である逆疑似伝送器通過信号を直交変調して変調波信号を生成する。
【0085】
本実施形態のように、伝送路上の対象機器とは逆特性を有する逆疑似伝送器120Aを通過した逆疑似伝送器通過信号を直交変調して変調波を生成することによっても、伝送規格によらず、伝送路歪に対する歪補償を行うことができる。
【0086】
なお、本実施形態に係る信号処理装置110Aにおいても、逆疑似伝送器120Aと変調波信号生成部150との間にBPF161を設け、A/D変換部110と逆疑似伝送器120Aとの間にBPF162を設けてもよい。
【0087】
また、上述した第1および第2の実施形態においては、衛星中継器3を介して伝送される信号に対する歪補償を例として説明したが、これに限られるものではない。本発明は、振幅および位相の周波数特性および非線形特性のうち1つの以上の既知の特性を有する中継器、電気機器、光学機器またはこれらの組み合わせを介して伝送される信号に対する歪補償に適用可能である。
【0088】
また、実施形態では特に触れていないが、信号処理装置100が行う各処理をコンピュータに実行させるプログラムが提供されてもよい。また、プログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。
【0089】
あるいは、信号処理装置100が行う各処理を実行するためのプログラムを記憶するメモリ、および、メモリに記憶されたプログラムを実行するプロセッサによって構成され、信号処理装置100に搭載されるチップが提供されてもよい。
【0090】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1,1A 衛星デジタル放送伝送システム
2 送信装置
3 衛星中継器
4-1~4-N 受信装置
21 S/P変換部
22 マッピング部
23,201 U/S部
24 RRF部
25 D/A変換部
26 直交変調部
31 IMUXフィルタ
32 TWTA
33 OMUXフィルタ
100,100A 信号処理装置
110 A/D変換部
120,203 疑似伝送器
120A 逆疑似伝送器
121,204 疑似IMUXフィルタ
122,205 疑似TWTA
123,206 疑似OMUXフィルタ
121A 逆疑似OMUXフィルタ
122A 逆疑似TWTA
123A 逆疑似IMUXフィルタ
130 同期部
131,210 遅延部
132,207 可変遅延部
133 EVM部
140 逆特性付加部
141,143,212,214 ベクトル加算部
142,147,213 係数乗算部
144,145 IQ/振幅位相変換部
146,148 振幅位相加算部
149 振幅位相/IQ変換部
150 変調波信号生成部
151,215 AGC部
152 D/A変換部
153 直交変調部
161 バンドパスフィルタ(第1バンドパスフィルタ)
162 バンドパスフィルタ(第2バンドパスフィルタ)
202,208 RRF部
209 D/S部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9