(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】分岐ダンパー
(51)【国際特許分類】
B65G 53/56 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
B65G53/56
(21)【出願番号】P 2020118129
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】澤野 勝丈
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-293368(JP,A)
【文献】実公昭08-011405(JP,Y1)
【文献】特開2001-026293(JP,A)
【文献】実開昭61-108232(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 53/00-53/66
F16B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管と、主管から分岐した少なくとも2つの分岐管、前記分岐管の交差部に設けられた軸受け、上記軸受けを貫通して挿入された軸部、上記軸部に固定され、軸部を回動させることにより前記分岐管の開口を切り替える閉塞部材、上記軸部の少なくとも一方の端部に嵌合する穴を有する、軸部を回動せしめる駆動アーム、前記駆動アームに設けられた穴と前記軸部との界面を跨いで形成されたキー溝と上記キー溝に挿入されたシャフトキーを有する分岐ダンパーにおいて、前記シャフトキーの長軸の延長線上で、且つ、シャフトキーより短い距離に停止面を備えたシャフトキーの脱落防止部材
(シャフトキーを抑えるものを除く)が配置されて
おり、該脱落防止部材の側面の一部が解放された形状であることを特徴とする、無機粉用の分岐ダンパー。
【請求項2】
前記無機粉が、真比重2.0以上であることを特徴とする、請求項1に記載の分岐ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機粉を取り扱うための新規な分岐ダンパーに関するものである。具体的には、シャフトキーの脱落を防止し、長期間安定的に運転することが出来る分岐ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
配管を通じて無機粉を空気輸送することは、無機粉を原料や製品として取り扱う場合に広く行われている。その際、流路を分岐させ、複数の分岐配管へ無機粉を分配することも多く行われている。例えば、セメント粉の製造工程においては、共通のセメントクリンカー粉に対して、添加材の配合量を変更することによって、特性の異なる製品セメント粉を製造している。その際、一つの空気輸送設備を使用して、製品セメント粉毎に分けられたサイロにそれぞれ製品セメント粉を輸送する場合に、配管を分岐させ分岐された配管への流れを切り替えることによりそれぞれ目的とするサイロに製品セメント粉を輸送する方法が採用される。
【0003】
このような空気輸送配管中で分岐された配管を切り替えて輸送先を制御する装置としては、配管内部の閉塞部材により一方の配管を閉塞せしめて目的とする配管に無機粉が流れるようにした、分岐ダンパーが広く使用される。このような分岐ダンパーでは、閉塞部材を固定した軸部を分岐管の交差部に取り付け、前記軸部を中心に閉塞部材を回動させることにより閉塞する分岐管を切り替えることが出来るようになっている。
【0004】
前記閉塞部材が取り付けられた軸部の回転は、軸部に駆動アームを接続して、外部動力により駆動アームを駆動させ、この駆動を軸部に伝達させることで軸部を回転させる構造が一般的である。その際、駆動アームの駆動を軸部に伝えるため、駆動アームに軸部と嵌合する穴を形成し、この穴に軸部を嵌め込み軸部と駆動アームとの界面を跨いでキー溝を形成し、前記キー溝にシャフトキーと呼ばれる棒状の部材を嵌合させた構造が従来から採用されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、シャフトキーは、キー溝に取り付けた後は、しっかりと嵌合しているため、前記セメント粉用をはじめとした無機粉用の分岐ダンパーにおいては、シャフトキーは外れることは認識されてなく、取り付け後のメンテナンスはほとんど実施されていないのが現状であった。
【0006】
ところが、本発明者らが検討を行ったところ、前記製品セメント粉を扱う分岐ダンパーにおいて、長期間使用するとシャフトキーが抜け落ちてしまうことがあることが判明した。そして、シャフトキーが脱落すると、駆動アームの動作が軸部に伝わらなくなり、分岐ダンパーの切り替えの制御装置では駆動アームの作動が確認され、正常に切り替わった信号が発信されるが、実際には閉塞部材による切り替えが出来てなく、サイロに別の製品セメント粉が供給されるという事態を招く。
【0007】
そこで本発明は、分岐ダンパーにおける前記シャフトキーの脱落を防止し、シャフトキーの脱落によって発生する輸送トラブルが発生せずに長期間安定して使用することが出来る無機粉用の分岐ダンパーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、前記製品セメント粉のように比重が大きい無機粉を取り扱う分岐ダンパーでは、粉体が閉塞部材に衝突することによる振動が大きく、閉塞部材が一方に停止している状態でも、かかる振動がシャフトキーに作用し、何年もかけて、通常では考え難いシャフトキーの緩みが生じることが判明した。
【0009】
この問題を解決するために、例えば無機粉の輸送速度を遅くすれば振動の発生を抑制できると考えられるが、輸送効率が低下してしまう。また、シャフトキーをキー溝に対して逆テーパーとなるように嵌合させる方法なども考えられるが、キーおよびキー溝の製作コストが向上してしまう。また、従来から稼働中の無機粉用の分岐ダンパーは、前記のようにシャフトキーが抜けると認識されていなかったので、逆テーパー形状のキーが採用されておらず、これを逆テーパー形状のキーへと改修することは困難である。
【0010】
そこで、シャフトキーが緩んでしまうことを前提とした対策として、シャフトキーの長軸の延長線上のシャフトキーより短い距離に、シャフトキーの抜けを制限する停止面となる脱落防止部材を備えるという簡易な手段により、シャフトキーが完全に脱落することを確実に防止できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、主管と、主管から分岐した少なくとも2つの分岐管、前記分岐管の交差部に設けられた軸受け、上記軸受けを貫通して挿入された軸部、前記軸部に固定され、軸部を回動させることにより前記分岐管の開口を切り替える閉塞部材、前記軸部の少なくとも一方の端部に嵌合する穴を有する、軸部を回動せしめる駆動アーム、前記駆動アームに設けられた穴と前記軸部との界面を跨いで形成されたキー溝と前記キー溝に挿入されたシャフトキーを有する分岐ダンパーにおいて、前記シャフトキーの長軸の延長線上で、且つ、シャフトキーより短い距離に停止面を備えたシャフトキーの脱落防止部材(シャフトキーを抑えるものを除く)が配置されており、該脱落防止部材の側面の一部が解放された形状であることを特徴とする、無機粉用の分岐ダンパーである。
【0012】
前記無機粉として、真比重が2.0以上のものを扱う分岐ダンパーにおいて特に有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、無機粉の分岐ダンパーを長期間使用した場合においても、シャフトキーが脱落することを確実に防止することが出来る。これにより、流路の切り替えを確実に行うことが出来るようになり、前記した無機粉の輸送トラブルの発生を防止し、長期間安定的に運転することが可能となる。さらに、脱落防止部材の側面の一部を開放した構造とすることにより、シャフトキーの点検も容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の分岐ダンパーの一態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の分岐ダンパーを
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0016】
本発明の分岐ダンパーは、
図1に示すように主管2と主管から分岐した少なくとも2つの分岐管3a、3bを有する。主管2、分岐管3a、3bの形状や材質は特に限定されず、一般的に使用されるものが使用可能であり、例えば、円筒状の形状であり、材質としては、錆びにくく、一定の強度が確保される炭素鋼を使用したものが挙げられる。
【0017】
図1、2に示されるように、本発明の分岐ダンパーは、前記分岐管3a、3bの交差部に設けられた軸受12、前記軸受を貫通して挿入された軸部11、前記軸部11に固定され、当該軸部を回動させることにより前記分岐管の開口を切り替える閉塞部材4を有する。閉塞部材4により塞がれた分岐管には無機粉体が輸送されないようになっており、主管を通じて輸送された無機粉は、目的とする分岐管にのみ輸送されることとなる。そして、
図2に示されるように、前記軸部11は、前記分岐管の交差部に設けられた軸受12を貫通して挿入されている。軸部11、軸受12の形状・材質は特に限定されず、一般的に分岐ダンパーにおいて使用される形状・材質とすることが出来る。なお、軸部11の材質は主管・分岐管と同材質のものが好適である。閉塞部材4の形状・材質は分岐管の開口部を塞ぐことが出来る形状であれば特に限定されず、一般的には分岐管開口部断面と同一の形状で、摩耗等を防ぐために分岐管と同じ材質とすることが好ましい。閉塞部材4の軸部11への固定方法は特に限定されず、例えば溶接されていてもよいし、ねじ止めされていてもよいし、シャフトキーなどを使用した嵌合によるものでもよい。
【0018】
図1、2に示されるように、本発明の分岐ダンパーは、前記軸部11を回転させるための駆動アーム13を有している。この駆動アーム13が外部動力によって駆動して回転し、それを軸部11に伝えることによって軸部11を回転させる。駆動アーム13を駆動させるための外部動力は特に限定されず、例えば
図1に示すようにエアシリンダー31によるものが一般的である。
【0019】
駆動アーム13は、前記軸部の少なくとも一方の端部に嵌合する穴13aを有する。この穴に、閉塞部材とは反対側の軸端部11aを嵌合させることで、軸部11と駆動アーム13を連結する。ただし、単に嵌合させたのみでは駆動アーム13を回転しても軸部11を回転させることが出来ないため、前記駆動アームに設けられた軸部に嵌合する穴13aと、軸部11との界面を跨いでキー溝15を形成し、これにシャフトキー14が挿入される。これにより、駆動アーム13の回転運動を、シャフトキー14を通じて軸部11に伝えることが可能となり、駆動アーム13を回転させることで軸部11を回転させることが可能となる。前記キー溝15とこれに嵌合するシャフトキー14の形状は特に限定されないが、一般的には直方体か略直方体である。また、前記シャフトキーの材質も特に限定されず、例えば、炭素鋼、SS材等の一般的に使用される材質とすることが出来る。前記シャフトキー14は、その長軸の向きが軸部の長軸の向きと一致するように設置される。設置やメンテナンスのしやすさの観点から、キー溝15は、閉塞部材とは反対側の軸端部11aの一部を切り欠くように形成され、シャフトキー14の一端は開放されて配置されている。また、本発明において、前記キー溝15とこれに嵌合するシャフトキー14は、テーパーを付ける必要はなく、断面積は、長軸方向に向かって変化しないように設定することが好ましい。
【0020】
本発明の分岐ダンパーにおける最大の特徴は、前記シャフトキー14の長軸の延長線上で、且つ、シャフトキー14より短い距離に停止面21aを備えたシャフトキーの脱落防止部材21が配置されていることである。この脱落防止部材21が配置されていることにより、シャフトキー14が閉塞部材と反対方向(キー溝15から脱落する方向)に動いてしまった場合でも、キー溝15から脱落する前に脱落防止部材21の停止面21aに接触しそれ以上閉塞部材と反対方向に移動することは無く、脱落を防止することが出来るものである。なお、脱落防止部材21の配置個所は、シャフトキー14の長軸の延長線上で、且つシャフトキー14より短い距離、すなわち、閉塞部材とは反対側の軸端部11aと脱落防止部材の停止面21aとの間の距離(L1)がシャフトキーの長軸長さ(L2)より短くなる位置であれば特に制限されないが、L1が長い場合には、シャフトキー14が大きく動いた場合にはシャフトキー14の一部のみで駆動アーム13の駆動を軸部11に伝達することとなるため、シャフトキー14に大きな負荷がかかり破損する虞が高まるため、L1はL2の50%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。L1が短いと、作業性やメンテナンス性が低下してしまうため、L1は3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。
【0021】
脱落防止部材21の形状は、前記のようにL1がL2より短くなるように設計出来れば特に限定されず、シャフトキー周囲の全体をカバーする構造とすることもできるが、側面の一部が開放された形状とすることが、点検およびメンテナンス上好ましい。具体的には、
図2に示すL字状の他、コの字状等を好ましい形状として挙げることが出来る。
【0022】
脱落防止部材21は、軸部11との相対的な位置関係が大きく変化しないように固定されることが好ましい。脱落防止部材21の固定方法・固定場所は特に限定されず、例えば、
図2に示すように駆動アーム13に固定しても良いし、軸部11や、主管又は分岐管外周、更には分岐ダンパー周辺設備に固定しても良い。固定方法は特に限定されず、例えばねじ止めや溶接などによって固定すれば良い。
【0023】
本発明の脱落防止部材は取り外し可能としてもよい。取り外し可能とすることで、点検やメンテナンスを行いやすくなる。また、長期間使用した装置に対して、後付けすることも可能である。
【0024】
前記の分岐ダンパーでは、駆動アーム13を回転させるとシャフトキー14を通じて軸部11に回転が伝わり、閉塞部材4の位置を切り替えられ、分岐管の開口が切り替わる。そうすると、主管2を通じて空気輸送された無機粉は、閉塞部材4に衝突して開口されていない分岐管に輸送されることが防止され、所望の分岐管にのみ無機粉を輸送することが出来る。その際、無機粉が閉塞部材4に衝突する振動で長年かけてシャフトキー14が緩んでキー溝15から外れる方向に動いてしまうことが起こりうるが、そのような場合にもシャフトキー14はキー溝15から完全に外れる前に脱落防止部材21の停止面21aに接触して、それ以上キー溝15から外れる方向に移動することは無くなるため、シャフトキー14の脱落を確実に防止することが可能となり、長期間安定して分岐ダンパーを使用することが出来る。
【0025】
本発明の分岐ダンパーは、無機粉に対して使用されるものである。前記のように、空気輸送された無機粉が閉塞部材に衝突することで、その衝撃が軸部を通じてシャフトキーに伝わり、シャフトキーが動いてしまうため、シャフトキーが脱落すると言う課題が発生する。無機粉が重いほど大きな振動が発生しやすくシャフトキーが脱落しやすくなることから、無機粉の真比重が高いほど本発明の効果が大きいと言え、無機粉の真比重は2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。また、無機粉の粒径は、0.1~100,000μmであることが好ましく、1~100μmであることがより好ましい。
【0026】
本発明の分岐ダンパーに使用される無機粉としては、例えばセメント粉(真比重2.5~3.4)や、セメント原料として使用される石灰石(真比重2.7)、珪石(真比重2.7)、二水石膏(真比重2.3)、無水石膏(真比重3.0)、セメントクリンカー粉(真比重2.6~4.0)などが、好ましいものとして挙げられる。
【0027】
本発明の分岐ダンパーの、空気輸送配管への取り付け方は特に限定されず、例えば主管が上部、分岐管が下部となるように設置して、空気圧力と重力により無機粉が輸送されて分岐ダンパーに到達するようになっていても良いし、主管と分岐管が平行になるように横向きに設置して主に空気圧力のみで粉体が輸送されるようにしても良い。空気圧力と重力により粉体が輸送された場合の方が、無機粉が閉塞部材に衝突した際の振動が激しくなりシャフトキーが脱落するとの課題が発生しやすい傾向にあるため、本発明の効果が大きく好ましい形態であると言える。シャフトキーの向きも特に限定されないが、シャフトキーの長軸が重力方向と一致する場合は振動による脱落が起こりにくいことから、重力の方向とシャフトキーの長軸の向きとがなす角が、45°~90°であることが好ましく、60°~90°であることがより好ましく、90°であることが特に好ましい。
【0028】
本発明の分岐ダンパーを使用した無機粉の空気輸送の条件は特に限定されず、無機粉の種類に応じて決定すれば良い。例えば、空気輸送される無機粉の移送量は、セメント粉の場合は一般的には10t/h~1,000t/h程度である。ただし、無機粉の輸送速度が速い方が、閉塞部材に衝突した際の振動が大きく、シャフトキーが脱落するとの課題が発生しやすいため、本発明の効果が大きく好ましい形態であると言え、無機粉の輸送空気速度は100t/h以上であることが好ましく、500t/h以上であることがより好ましい。
【符号の説明】
【0029】
1・・・分岐ダンパー
2・・・主管
3a、3b・・・分岐管
4・・・閉塞部材
11・・・軸部
11a・・・閉塞部材とは反対側の軸端部
12・・・軸受け
13・・・駆動アーム
13a・・・軸部の少なくとも一方の端部に嵌合する穴
14・・・シャフトキー
15・・・キー溝
21・・・脱落防止部材
21a・・・停止面
31・・・エアシリンダー