(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】焼却飛灰の処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20240417BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20240417BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B101:30
(21)【出願番号】P 2021034535
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】澤野 勝丈
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-347519(JP,A)
【文献】特開2004-267806(JP,A)
【文献】特開2003-103232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
都市ごみ焼却炉より得られる飛灰を無酸素雰囲気下で加熱して脱ダイオキシン処理した後水洗し、塩素成分が低減された固形分を回収すると共に、得られる排水よりCOD成分を除去する焼却飛灰の処理方法において、
前記飛灰として、ストーカ式焼却炉から発生する飛灰と、流動床式焼却炉から発生する飛灰とを混合して脱ダイオキシン処理に供すると共に、当該脱ダイオキシン処理時の加熱温度を450℃を超え600℃未満とする焼却飛灰の処理方法。
【請求項2】
ストーカ式焼却炉から発生する飛灰と、流動床式焼却炉から発生する飛灰との混合比(質量)が1:2乃至3:1である請求項1記載の焼却飛灰の処理方法。
【請求項3】
前記脱ダイオキシン処理に際して発生する排ガスを凝縮器に通し、金属水銀を液体として回収する請求項1又は2記載の焼却飛灰の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ゴミ焼却炉から排出される飛灰の新規な処理方法に関する。詳しくは、飛灰をセメント原料として使用する場合に、問題となる含有物を効率的に且つ確実に除去できる飛灰の処理方法である。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミはその80%以上が焼却処分され、その際焼却灰が発生する。かかる焼却灰は殆どが埋め立てられていたが、近年、環境に対する意識が高まり、これを再利用する方法か検討されるようになってきた。該焼却灰の主成分はカルシウム、アルミニウムや珪素の化合物であり、例えば、セメント製造用の原料として再利用することが考えられている。
【0003】
ところが、上記焼却灰は塩素分を多量に含有しているためこれを除去する必要があり、かかる塩素分の除去方法として、水洗による除去が提案されている。即ち、焼却灰を水洗することにより、塩化物として含有される塩素分を可溶分として除去し、不溶分であるカルシウム、アルミニウムや珪素の化合物を固形物として分離し、これをセメント製造用の原料として使用する。
【0004】
一方、焼却灰を排出する焼却炉には、大きく分けて流動床式焼却炉(以下「流動床炉」)とストーカ式焼却炉(以下「ストーカ炉」)とがあり、複数の都市ゴミ焼却炉より焼却灰を収集する場合、これらの炉から排出される種々の焼却灰が混在する。即ち、流動床炉での焼却灰は、炉の排気ガスと共に同伴して排出され、これを捕集して飛灰として排出され、また、ストーカ炉では、焼却灰は、上記飛灰と共に炉の底部に残る主灰としても排出される。
【0005】
上記焼却灰のうちの飛灰はダイオキシンの含有量が多く、主灰に対して80倍ものダイオキシンを含有し、その取扱い時に問題がある。また、飛灰を水洗処理して得られる処理排水は意外にもCOD成分が多いことも、他の大きな問題として挙げられる。
【0006】
このような飛灰を処理する技術として、飛灰を無酸素雰囲気下で加熱して脱処理した後、水洗し、その排水をさらに酸化剤の存在下に、酸化触媒と接触させるなどしてCOD成分を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なおこの水洗に際しては、別途粉砕した主灰と一緒に行うことも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-103231号公報
【文献】特開2003-103232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような飛灰の水洗廃液には有機物が多量に含まれており、そのためCOD値が高く、その処理コストが問題となっていた。そこで、本発明はゴミ焼却炉からでる飛灰をセメント原料化するに際し、ダイオキシンを除去すると共に、水洗排水のCOD値を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、脱ダイオキシン処理の際の温度を高くすることにより、当該処理で飛灰に含まれる水溶性有機物をも少なくできることを見いだし、さらに処理温度を高くした場合に生じやすい飛灰の溶融という問題は、流動床式焼却炉からの飛灰を混合することにより解決可能であることも見いだし、本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、都市ごみ焼却炉より得られる飛灰を無酸素雰囲気下で加熱して脱ダイオキシン処理した後水洗し、塩素成分が低減された固形分を回収すると共に、得られる排水よりCOD成分を除去する焼却飛灰の処理方法において、
前記飛灰として、ストーカ式焼却炉から発生する飛灰と、流動床式焼却炉から発生する飛灰とを混合して脱ダイオキシン処理に供すると共に、当該脱ダイオキシン処理時の加熱温度を450℃を超え600℃未満とする焼却飛灰の処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴミ焼却炉からでる飛灰から確実にダイオキシンと塩素分を除去してセメント原料化できるとともに、水洗排水のCOD値も従来よりも低くでき、さらには脱ダイオキシン炉内での飛灰の溶融によるトラブルも起きがたい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において処理される都市ゴミの焼却炉から排出される飛灰は、ストーカ炉の排ガスから捕捉される微粉(以下、ストーカ飛灰)、及び流動床炉の排ガスより捕捉される微粉(以下、流動床飛灰)であり、いずれも一般に5~35%(質量)程度の割合で塩素を含有している。
【0013】
本発明において、上記飛灰は、無酸素雰囲気下、450℃を超え600℃未満の温度で加熱して脱ダイオキシン処理される。このように従来技術よりも高温の条件下で飛灰を処理することにより、(1)飛灰中のダイオキシンの殆どを分解することができ、その後の水洗処理において、固形分及び排水中にダイオキシンが実質的に含有されることが無く、安全に取り扱うことができるという効果を発揮し、同時に(2)水溶性有機物の分解がしっかりと進み、この後に行う水洗後の排水中に含まれる有機物の量を少なくでき、よって排水のCOD値を低くできる。なお水溶性有機化合物に限らず、この処理によって有機物は炭化が進むが、COD値に大きな影響を与えるという意味で、水溶性有機物に焦点を当てている。この処理温度は高い方が上記効果が得られやすく、460℃が好ましく、さらには475℃以上が好ましい。一方、飛灰の溶融リスクや炉の耐久性などを考慮すると575℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましい。
【0014】
本発明においては、上記のように従来からの脱ダイオキシン処理の温度よりも高い温度で処理する。ストーカ飛灰は流動床飛灰に比べて溶融しやすく、このような高い温度で単独で処理を行うと、炉の閉塞などのトラブルを生じる恐れがある。そこで本発明においては、ストーカ飛灰を単独では扱わず、流動床飛灰と混合して脱ダイオキシン処理を行う。流動床飛灰は、ごみを焼却する際に、流動砂を炉内循環させながら焼却しており、排出される飛灰に溶融し難い砂分が混入しているため、流動床飛灰はストーカー飛灰よりも高い温度でも溶融し難くなっている。混合比率は、好ましくはストーカ飛灰:流動床飛灰(質量比)が1:2乃至3:1であり、より好ましくは、ストーカ飛灰:流動床飛灰(質量比)が1:1乃至2:1である。
【0015】
脱ダイオキシン処理における無酸素雰囲気は、酸素が実質的に存在しない雰囲気をいい、一般に、酸素濃度が0.5容量%以下、好ましくは0.2容量%以下の雰囲気である。かかる無酸素雰囲気を形成する方法は特に制限されないが、例えば、窒素雰囲気とする方法が一般的である。また、加熱方法は加熱機によって行うのが一般的である。
【0016】
上記方法を好適に実施するには、公知の脱ダイオキシン装置のうち、上記方法を実施できる装置を選択して使用すればよく、商業的に入手可能な装置も多い。具体的には、ハーゲンマイヤー炉、雰囲気制御可能な箱型電気炉、雰囲気制御可能な内部攪拌機能を有する横形円筒型加熱炉等が好適である。
【0017】
上記加熱処理時間は、温度等により多少異なるため一概に限定することはできないが、一般に、0.5~2時間が適当である。
【0018】
本発明において、上記のようにして脱ダイオキシン処理された飛灰は水洗される。水洗は、飛灰を水と混合してスラリー化した後、ろ過し、更に、必要に応じて水を使用して洗浄ろ過を実施することによって行うことができる。
【0019】
具体的には、該飛灰は、スラリー化槽に供給され、水と混合されて水スラリーとされる。かかる水スラリーは、フィルタープレスを代表とする内部洗浄が可能なろ過器で洗浄及びろ過され、固形分とろ液とに分離する方法が挙げられる。
【0020】
上記洗浄工程で得られた固形分は、珪素、アルミニウムやカルシウム化合物を主成分とするため、セメント製造工場にて、セメント製造用原料として使用される。この場合、上記固形分は水分を含有しているため、セメント製造工場における原料調整工程でセメント原料と混合し、ドライヤーを経てサスペンションプレピーターに供給することが好ましい。
【0021】
また、固形分を分離して得られる排水は、COD成分の除去を行ってCOD(化学的酸素要求量)の値を環境規制などに適合するレベルまで引き下げ、さらに必要に応じて他の無害化処理を行った後に排出される。本発明において、上記水洗後に回収される排水は、従来に比べてCOD成分は低減されており、環境中に排出できるレベルまで当該COD成分を低減することが相対的に容易である。
【0022】
上記排水中のCOD成分の除去は、公知の方法が特に制限なく採用することができ、例えば、酸化剤処理、活性炭処理などの方法が挙げられる。なお本発明において上記「除去」とは分解等も含む概念であり、排水のCOD値を下げる処理であれば、どのような処理も該当する(但し、単純希釈は除く)。
【0023】
上記酸化剤処理に用いる酸化剤としては、COD成分に対して強力な酸化作用を供給し得るものであれば特に制限なく使用される。具体的には、次亜塩素酸ソーダ、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸塩、過塩素酸ソーダ-等の過塩素酸塩、ペルオキソニ硫酸カリウム等のペルオキソ酸塩さらには過酸化水素等の酸化剤等が挙げられる。これらの酸化剤のうち、次亜塩素酸塩、とりわけ、次亜塩素酸ソーダがCOD成分の除去(分解)において最も効果的であり、好適に使用される。
【0024】
上記酸化剤処理に際しては酸化触媒を併用すると、より強力にCOD成分を除去(酸化分解)できる。
【0025】
酸化触媒の形状は特に限定されないが、処理後の水と分離しやすい点で粒状であることが好ましい。当該粒状酸化触媒は、一般に、酸化触媒成分とこれを粒状化するためのバインダーとより成る。酸化触媒成分は公知のものが特に制限なく使用されるが、チタン、ニッケル、鉄、銅、コバルト等の金属および遷移金属の酸化物および過酸化物、さらに白金、銀等の金属等が挙げられる。そのうち、ニッケルの過酸化物が特に効果的であり、最も好適に使用される。
【0026】
また、上記酸化触媒成分を粒状化するためのバインダーは、得られる粒状酸化触媒の比重は、利用方法あるいは利用条件によって適宜調整することができ、且つ、使用環境において耐性を有する材質のものであれば特に制限されない。例えば、各種セメント、珪素化合物、粘土系鉱物あるいは樹脂等が挙げられる。
【0027】
上記粒状酸化触媒の大きさ、及び形状は、排水との接触および分離効率を考慮して利用方法あるいは利用条件によって適宜決定すればよい。
【0028】
上記COD成分を除去するための処理において、排水中に存在させる酸化剤の濃度は、酸化触媒成分の種類などによって異なり、一概に決定することは困難であるが、一般に、要求酸素量換算で等量~10倍、好ましくは、等量~5倍程度である。
【0029】
酸化剤と酸化触媒を併用することによりCOD成分を除去する方法としては、触媒充填塔方式、流動槽方式等公知の方法が特に制限なく利用できる。
【0030】
この方法で用いる触媒は、具体的には、100μm未満の粒子が5重量%以下で平均粒径は150μm~10mm、好ましくは、平均粒径600μm~5mmの球状体が好ましい。
【0031】
また、排水中における上記酸化触媒の濃度は、0.2~50重量%、好ましくは、0.5~10重量%が適当である。
【0032】
活性炭処理することによりCOD成分を除去する方法としては、活性炭充填塔方式、流動槽方式等公知の方法が特に制限なく利用できる。
【0033】
この方法で用いる活性炭は、具体的には、100μm未満の粒子が5重量%以下で平均粒径は150μm~10mm、好ましくは、平均粒径600μm~5mmの球状体が好ましい。
【0034】
また、排水中における上記活性炭の濃度は、0.2~50重量%、好ましくは、0.5~10重量%が適当である。
【0035】
尚、飛灰を水洗して得られる排水には、主成分である塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の無機塩化物の他に重金属成分が溶解しており、これを予め除去した後に、COD成分の除去処理を行うことが望ましい。
【0036】
即ち、上記COD成分の除去処理は、排水中に固形分が存在しない状態であれば適用が可能であり、上記金属化合物を除去する前の排水にも適用することは可能であるが、重金属等による粒状酸化触媒あるいは活性炭の劣化、反応時の不溶化物の生成等により、COD成分の除去効率が低下する恐れがあり、上記金属化合物を除去した液に対して実施することが好ましい。
【0037】
飛灰を水洗して得られる排水から溶解している金属化合物を除去する方法は、該排水に酸を添加して液のpHを6~10程度に調整することによりこれらの溶解物を不溶化し、必要に応じて凝集剤を添加し、濾過器で上記の不溶化物を分離する方法が好適である。
【0038】
また都市ゴミにはボタン電池などに由来して水銀が含まれている場合があり、そのため、ストーカ飛灰や流動床飛灰には水銀が含まれている場合がある。これら飛灰は多量の未燃カーボンを含んでいるため、前記した脱ダイオキシン処理における無酸素雰囲気下での加熱により、当該水銀は(飛灰中の存在形態によっては還元されて)金属水銀として揮発し、当該脱ダイオキシン処理に際して発生する排ガス中に含まれることになる。
【0039】
このような水銀ガスを含んだ排ガスは公知の方法で処理することができるが、好ましくは、当該排ガスを凝縮器(ガス冷却器)に通し、ガス状の水銀を金属水銀として凝結させて回収する。凝縮器は金属水銀が液化する温度まで排ガスを冷却可能なものであれば、公知の凝縮器を適宜選択して使用すれば良い。液化した金属水銀は公知の方法に従い回収、処理を行えばよい。
【0040】
さらに金属水銀を凝結させて回収した排ガスは、必要に応じてさらなる無害化処理を施した後、大気放出することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例、比較例における化学的酸素要求量(COD値)の測定は以下の方法による。
【0043】
COD値の測定は、JIS K0102工場排水試験法の100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素要求量(CODMn)の測定方法に従って行った。
【0044】
実施例1
処理する都市ごみ焼却飛灰として、ストーカ飛灰および流動床飛灰を1:1で混合した。この混合飛灰は、塩素を8.8%、ダイオキシン類を0.72ng-TEQ/g、Cを2.7%、水銀を10.7ppm含有していた。この混合飛灰を雰囲気制御可能な電気炉において、窒素雰囲気下、475℃で1時間の加熱処理を行った。処理後に灰の溶融や焼結は見られなかった。加熱処理後のダイオキシン類の濃度は0.0015ng-TEQ/gであり、ダイオキシン類の除去率は99.8%であった。また、Hg濃度は、0.34ppmであり、水銀の除去率は96.8%であった。
【0045】
ついで、上記加熱処理を行った焼却飛灰の水洗を行った。この水洗は、水/灰重量比およそ10で行い、ろ過することにより固形分(脱水ケーキ)と排水を得た。得られた固形分中の塩素濃度は0.33%であり、塩素成分の除去率は96.9%であった。一方、得られた排水を酸によりpH調整して、重金属類を析出させた後、固液分離により除去した。分離処理後の排水のCODMnを測定した結果は表1に示す。
【0046】
実施例2
加熱処理温度を525℃とした以外は、実施例1と同様の処理操作を行った。加熱処理に際して、灰の溶融や焼結は見られなかった。金属析出、分離処理後の排水のCODMnを表1に示す。
【0047】
比較例1、2
加熱処理温度を375℃(比較例1)あるいは425℃(比較例2)とした以外は、実施例1と同様の処理操作を行った。加熱処理に際して、灰の溶融や焼結は見られなかった。金属析出、分離処理後の排水のCODMnを表1に示す。
【0048】
比較例3
ストーカ飛灰を単独で、実施例1の条件下で処理したところ、電気炉内で焼結した。
【0049】