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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】球状シリカ粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240417BHJP
   C09C 1/28 20060101ALI20240417BHJP
   C09C 3/04 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C01B33/18 E
C09C1/28
C09C3/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021056683
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022153911
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】大谷 俊明
(72)【発明者】
【氏名】平 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-048536(JP,A)
【文献】特開2013-028501(JP,A)
【文献】特開2008-119645(JP,A)
【文献】特開2014-172039(JP,A)
【文献】特開2016-209841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
C09C 1/28
C09C 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式法によって球状シリカ粒子を形成させた後、当該球状シリカ粒子を焼成し、さらに焼成粒子を粗粉砕して得た粗粉粒子をジェットミルを用いて解砕する工程を有する球状シリカ粉末の製造方法において、
前記粗粉砕には石臼式の摩砕機を用いると共に、該摩砕機の砥石の間隙を1~5mmの範囲に調整した状態で前記焼成粒子を粗粉砕することを特徴とする球状シリカ粉末の製造方法。
【請求項2】
前記摩砕機の砥石の回転数を120~3600rpmの範囲に調整した状態で前記焼成粒子を粗粉砕することを特徴とする請求項1記載の球状シリカ粉末の製造方法。
【請求項3】
前記焼成粒子を乾燥し、得られた乾燥粒子を粗粉砕することを特徴とする請求項1~2記載の球状シリカ粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ジェットミルの原料ホッパーを加温した状態で、前記粗粉粒子を前記原料ホッパーに投入することを特徴とする請求項1~3記載の球状シリカ粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球状シリカ粉末の製造方法に関する。詳しくは、湿式法で製造された球状シリカ粒子の解砕方法に関するものであって、焼成工程を経て凝集した球状シリカ粒子を一次粒子にまで解砕する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体封止材や液晶シール剤等の電子材料用として、また、フィルム製造用等の各種樹脂組成物の充填剤として、球状シリカが配合されている。
このうち半導体封止材では、デバイスの小型化、薄型化、高密度実装化の急速な進展に伴って、素子と基板間の狭ギャップ化が進み、更なる高熱伝導性、低熱膨張性、高い成形性が求められ、上記球状シリカには高充填化が求められている。また、球状シリカを充填した樹脂組成物の低粘性も求められ、粗大粒子を含まず、単分散性に優れる予め表面処理された球状シリカへの要求も高まっている。
従来、単分散性の高い(粒子径の揃った)球状シリカ粒子を製造する方法としては、湿式法、例えば、後述するようなゾルゲル法や、珪酸アルカリを出発原料とするコロイダルシリカの製法等が知られている。湿式法の中でも、ゾルゲル法は単分散性のみならず、純度の高い球状シリカ粒子を得る方法として極めて有用である。ゾルゲル法による単分散性の高い球状シリカ粒子の製造方法は、原料となるテトラエトキシシランなどの珪素アルコキシドを、加水分解触媒、水及び有機溶媒を含む反応液中に供給して、加水分解、重縮合させる方法である。該方法においては、反応を行う際の反応条件を制御することにより粒子径や粒子径分布(粒度分布)を高度に制御できることが知られている。さらに、電子材料等の用途に使用する際に問題となる、5μmを超えるような粗大粒子の混入を効果的に防止する方法や、表面処理シリカへの応用等についても開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ゾルゲル法などの湿式法で製造された球状シリカ粒子は、原料由来の有機基を有している場合や、製造時に用いた溶媒が粒子中に残存している場合が少なくない。さらには、高温を経て製造される乾式法シリカと異なり、未反応のシラノール基を高密度で有していたり、あるいは多量の微細孔を有していたりする場合も多い。そのため、これら化学的、構造的因子に起因して、通常は吸湿性が高い。球状シリカ粒子の用途によっては、上記のような特性がむしろ歓迎される場合もあるが、半導体封止材の充填材などの樹脂充填材として使用する場合には、緻密で、かつ吸湿性も低いものが望まれる。
そのため湿式法で製造された球状シリカ粒子は500℃~1100℃程度の温度で処理して焼成粒子とすることが一般的である。しかしながら湿式法で製造された球状シリカ粒子をこのような高温で焼成すると、粒子間の結合が生じ、凝集塊が多量に生じてしまって、樹脂等への分散性が不良となる問題があった。
【0004】
上記のような湿式法によって製造された単分散性の高い球状シリカ粒子を実応用する際には、球状シリカ粒子を焼成して得られた焼成粒子がほぼ全て一次粒子にまで解砕された粉末状の解砕粒子(球状シリカ粉末)となっていることが重要である。このように高度に解砕された球状シリカ粉末は樹脂等へ分散する(あるいは混練する)際に、分散(混練)時間が短縮できるのみならず、分散(混練)時の不純物の混入等も効果的に防止することが可能となる。また、該球状シリカ粉末に表面処理を施した場合は、均一な表面処理が可能なため機能的に極めて優れた表面処理シリカが得られる。例えば、該シリカに表面処理を施した表面処理シリカは、これを配合して樹脂組成物とした際の流動性が優れたものとなる。また、フィルム等の成形品の製造では、フィッシュアイや突起の発生が抑制される。そして、半導体封止材や液晶シール剤等の電子材料用樹脂組成物への充填用とした場合には、狭ギャップへの隙間浸透性に優れ、同じく狭小化する配線間での詰まり防止性にも高度に優れる。この結果、目的とする電子材料部材の生産性や歩留まりが改善され、極めて有用である。
上記のような、高度に解砕された球状シリカ粉末を得るために、解砕機として旋回流型ジェットミルを用い、かつ特定の条件を採用すれば、極めて良好な解砕状態の球状シリカ粉末が得られることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2019/044929号公報
【文献】WO2015/016359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明で使用する焼成粒子は、静電気を帯びたり、ダマになったりして、流動性に課題があり、ジェットミルを稼働する際に、しばしば原料ホッパーの棚吊りや配管の閉塞が発生することが問題となっていた。このような問題が発生するとジェットミルへの原料供給が停止し、装置を停止せざるを得なくなり、装置の復帰に手間がかかり、生産性が低下することが問題であった。
そこで、ボールミルなどの粉砕機で、ある程度の大きさまで粗粉砕した後に、ジェットミルで解砕する方法もあるが、粗粉砕後にシリカとボールを分ける工程が必要であり、また、ボールが摩耗して不純物が混入するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねてきた。その結果、前記の棚吊りや配管閉塞の現象は、ジェットミルに投入する原料粉末(焼成粒子)の性状、特に、焼成粒子の流動性に問題があるためと推定し、該粉末の最適化について検討してきた。その結果、ジェットミルに投入する焼成粒子の粗粉砕に石臼式の摩砕機を用いると共に、かつ特定の条件を採用すれば、ジェットミルを安定して稼働できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、湿式法によって球状シリカ粒子を形成させた後、当該球状シリカ粒子を焼成し、さらに焼成粒子を粗粉砕して得た粗粉粒子をジェットミルを用いて解砕する工程を有する球状シリカ粉末の製造方法において、前記粗粉砕には石臼式の摩砕機を用いると共に、該摩砕機の砥石の間隙を1~5mmの範囲に調整した状態で前記焼成粒子を粗粉砕することを特徴とする球状シリカ粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法を採用することによって、原料粉末の性状を最適化することが可能となり、ジェットミルの安定稼働が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.湿式法による球状シリカ粒子の形成工程
本発明の製造方法では、焼成に供するシリカ(以下、「原体シリカ」)は湿式法で製造される。ここで湿式法とは三次元に架橋したシリカ骨格の形成反応が溶媒中で行われる製造方法をいう。
当該ゾルゲル法で原体シリカを製造する方法としては、公知の方法を特に制限なく採用できるが、簡単に述べると以下のようになる。
(1)アルコールなどの溶媒中に、珪素アルコキシド(又はその加水分解物)と、アンモニア水とを徐々に加え、平均粒子径が0.05~2μm程度(レーザー回折散乱法による)のシリカが分散するシリカ分散液を製造し(ゾルゲル工程)、
(2)フィルターなどで固液分離を行って、ウェット状態のシリカを得(固液分離工程)、さらに、
(3)加熱乾燥、真空乾燥などで乾燥粉末を得る(乾燥工程)、
という手順である。
通常は上記固液分離に先立ち凝析剤を添加し、シリカを凝析させて固液分離を容易にすることが行われる。なかでも凝析剤として二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム及びカルバミン酸アンモニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物からなる凝析剤を採用すると、本発明の効果をいっそう得られやすい。
【0010】
さらにゾルゲル工程と固液分離工程の間(行うならば凝析剤の添加前)には、本発明の効果をよりいっそう発揮しやすくできる点で、
(1b)シリカ分散液に表面処理剤を添加して、シリカ粒子表面を処理する工程(シリカ分散液表面処理工程)や、
(1c)シリカ分散液を、ろ材により湿式ろ過する工程(ろ過工程)
を含むことが好ましい。
表面処理剤はシリカ粒子表面のシラノールをキャッピングするため、乾燥や焼成初期(処理剤が分解尽くすまで)に、隣接する粒子間のシラノール基の縮合を予防でき、よって凝結粒子の生成を少なくできるため、本発明の製造工程を経て得られるシリカ粉末中の粗大粒子数をいっそう少なくする効果がある。用いる表面処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、トリメチルアルコキシシランなどが使用できる。
【0011】
ろ材による湿式ろ過は、それ以前の工程で生じた粗大粒子を除去する効果がある。そのため、ろ材のろ過孔径は5μm以下であることが好ましい。このろ過工程は、仮にシリカ分散液表面処理工程で粗大粒子が生じたとしても、その粗大粒子を除去できる点で該工程の後に行うことが好ましい。なお当然、このろ過工程では、フィルターを通過した側に目的物たるシリカ粒子が含まれる。
ウェット状態のシリカを得るための固液分離工程でもろ布やフィルター等を用いることができるが、前記凝析剤の添加を行っておけば、ろ材のろ過孔径が5μm程度でも通過してしまわずに固形分側として回収できる。
また乾燥は、室温~150℃程度で行うことができる。乾燥の雰囲気は、常圧乾燥、送風乾燥や真空乾燥などが挙げられる。
【0012】
2.焼成工程
焼成は、汎用的な電気炉等を用いて実施可能である。焼成条件としては特に限定されないが、一般的には、空気雰囲気中において500℃以上の温度で1時間以上焼成すればよい。なお、シリカの使用目的に応じて焼成温度と焼成時間は適宜調整すればよいが、焼成温度が1100℃を超えるとシリカ粒子同士の焼結(融着)が顕著となり、本発明を適用しても、最終的に得られるシリカ粉末中の粗大粒子が十分少なくならない(相対的には少なくなり、発明の効果が得られない訳ではない)。従って、上限温度は1100℃とすることが望ましい。球状シリカ粒子の球形度を保持しつつ、緻密なシリカ粒子とするためには、500~1100℃の範囲、好ましくは600~1050℃の範囲、さらに好ましくは700~1000℃の範囲が好ましい。
【0013】
3.粗粉砕工程
ところで、前記焼成を実施して得られる焼成粒子(シリカ)は、該焼成によって若干焼結している場合があり、その傾向は焼成温度が高いほど大きい。そこで本発明では、ジェットミルでの解砕をより効率的に行うために、該解砕の前に、粗粉砕を実施する。粗粉砕により、比較的大きな凝集塊を崩しておけば、ジェットミルではそのような大きな凝集塊の解砕にエネルギーが消費されることがないため、ジェットミルでの解砕後に得られるシリカが一次粒子にまで解砕されている割合がいっそう高くなる。
当該粗粉砕に用いる装置としては、摩砕機、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、乳鉢、擂潰機、ピンミル、コロイドミル、ボールミル等があるが、本発明においては、篩等で粗大粒子を除去する工程が必要無く、適度な粒子径(粒度)に簡単に粉砕できる石臼式の摩砕機を用いる。
【0014】
石臼式の摩砕機は、間隔を自由に調整できる上下2枚の砥石によって構成されており、上部砥石を固定し、高速で回転する下部砥石との間に原料を送り込み、両砥石間で生ずる強力な圧縮・せん断・転がり摩擦等の複合作用により、原料を粉砕する装置である。石臼式の摩砕機は、原料粉末が全て上下砥石の狭い間隙を通過して粉砕されるので、処理後の粉末には上記の間隙以上の粗大粒子が存在し得ないと考えられることである。すなわち、粗大な凝集塊を含まない、粗粉砕された原料粉末を、次工程のジェットミルの解砕工程に使用できる点において優れている。
石臼式の摩砕機の粉砕能力(微粒化と生産性)は、上下砥石の間隙と、砥石の回転数に依存する場合が多い。市販機の場合は使用する機種にも依るが、砥石の間隙は数μm~10mm前後まで自由に調整可能であり、回転数は数rpm~4800rpm程度まで自由に調整することができる。被粉砕サンプルの種類、乾式粉砕か湿式粉砕か、あるいは、使用する機種等にもよるが、一般的に、砥石の間隙が狭い方が微粒化し易く、回転数が高い方が微粒化に効果があると推測される。一方、生産性(処理能力)に関しては、砥石の間隙が広い方が高くなり、回転数が高い方が高くなる傾向にある。
【0015】
さらに、使用するジェットミルの大きさ(解砕能力)にも依存するが、粉砕物を供給する原料供給ノズルの穴径は、一般に数mm程度のものが採用されている。前記ノズルの詰まりを防止するためにも、粗粉砕後の原料粉末には前記穴径以上の粗大な凝集塊が存在しないことが望ましい。
以上のような理由から、砥石の間隙の調製によって粗大粒子の混入を制御できる石臼式の摩砕機を、ジェットミルの前段の粗粉砕工程に使用することは極めて有用である。
【0016】
ところで、本発明が解決すべき課題は、ジェットミルの原料ホッパーの棚吊りや配管の閉塞を効果的に防止し、ジェットミルを安定稼働することである。このような棚吊りや配管閉塞は、使用する粉体の物性に大きく依存する。一般的に、数10μm以下の粒子は付着・凝集性が強いことが知られており、粒子間に働く主な付着力はファンデルワールス力、静電気力、液架橋力の3つであり、実際にはこれらが複合して付着力が発現すると言われている。
【0017】
本発明では、粉体の流動性を表す指標として、粉体の圧縮度と安息角を使用した。
圧縮度とは、ゆるみ嵩密度と固め嵩密度の差に対する、固め嵩密度の比で表わされる。具体的には、篩を通し、自然落下させた粉体の嵩密度をゆるみ嵩密度とし、ある任意の回数タッピングを行った粉体の嵩密度を固め嵩密度と定義する。流動性が高い場合には、ゆるみ嵩密度と固め嵩密度の差が小さくなるので、圧縮度は小さくなる。ここで、圧縮度が40%以下であれば、粉体としての流動性が良好で、棚吊りや配管の閉塞を起こさずにジェットミルが連続稼働できるが、40%を超えると悪くなる傾向にある。
また、安息角とは、自然に堆積した粉体が形成する山の斜面と水平面がなす角度のことで、流動性が高い場合には、安息角が小さくなる。ここで、安息角が44°以下であれば粉体の流動性が良好で、棚吊りや配管の閉塞を起こさずにジェットミルを連続稼働できるが、44°を超えると悪くなる傾向にある。
【0018】
一般的な粉体においては、圧縮度の値が小さいほど流動性が良好であり、安息角の値が小さいほど流動性が良い傾向にあると言われている。しかしながら、上記数値は、粉体の種類(特に親水性や疎水性の違い)、平均粒子径や粒子径分布などによっても差異があるため、一概に数値の範囲を決めることはできない。本発明のような湿式法によって製造された球状シリカ粉末の場合は、圧縮度はおおよそ40%以下、安息角はおおよそ44°以下が好ましい。ただし、圧縮度や安息角が上記範囲であったとしても、本発明の課題である、棚吊りや配管の閉塞が発生する場合がある。したがって、本発明の課題を解決するためには、圧縮度や安息角の数値のみならず、粉体の種類や粒子径なども勘案しながら総合的に決める必要があると考えられる。
したがって、本発明の課題を解決するためには、単純に原料粉末を微粒化すれば良い訳ではなく、粉末の性状を特定の状態(前記の棚吊りや配管閉塞が発生しないような状態)に調整することが重要である。
【0019】
そのため、本発明においては、原料粉末を粗粉砕する際に石臼式の摩砕機を用いると共に、摩砕機の砥石の間隙を1~5mmの範囲に、さらに好ましくは1~3mmの範囲に調整した状態で粗粉砕することが重要である。つまり、砥石の間隙が1mmよりも狭い場合は、原料粉末が微粒化し過ぎてホッパーの棚吊りや配管の閉塞が起こり易くなる傾向にある。一方、砥石の間隙を5mmよりも大きくした場合は、粉砕物中に粗大な凝集塊が増えるため、前述したように、ノズルの詰まりの発生や、次工程のジェットミル工程での負荷が大きくなり、一次粒子への解砕効率の低下が懸念されるようになる。
本発明において、焼成粒子を粗粉砕して得た粗粉粒子は、粒子径が1mm前後の粉末状のものが好適に使用できる。1mm前後の粒子径は拡大鏡などを用いても確認できるが、正確な平均粒子径の測定には乾式篩法が採用できる。粗粉粒子中に0.5mmよりも小さな粒子が増えると、粘り気の強い粉となりホッパーの棚吊りや配管の閉塞が発生し易くなる傾向にある。一方、3mmよりも大きな粉末が目立つようになると、ジェットミルのノズルが詰まりやすくなるため、好ましくない。
【0020】
摩砕機の砥石の回転数については、前記の砥石の間隙の大きさにも依存するが、前記の如く摩砕機の砥石の間隙が1~5mmの範囲であれば、砥石の回転数は120~3600rpmの範囲に調整することが好ましく、300~3000rpmの範囲がより好ましい。なお、回転数の下限は、ゼロ以上であれば粗粉砕は可能であるが、生産性を考慮すると、少なくとも120rpmよりも高いことが望ましく、さらに好ましくは300rpm以上である。実施例に記載のように、砥石の間隙が3mm、回転数が300rpmの場合であっても十分な生産性があり、比較的安定してジェットミルを稼働できることを確認している。一方、回転数が4000rpm以上では、原料粉末が微粒化し過ぎてホッパーの棚吊りや配管の閉塞が起こり易くなる傾向にあるため、好適な上限の回転数は3600rpmである。
【0021】
摩砕機の粉砕を担う砥石は、セラミックス製、有機無機複合樹脂製、金属製等があるが、電子材料用途のような不純物金属の混入を嫌う用途においては、セラミックス製や複合樹脂製の砥石が好ましく採用される。
市販されている石臼式の摩砕機を例示すると、例えば、マスコロイダーやセレンディピター(商品名:増幸産業製)、グローミル(商品名:グローエンジニアリング製)、ミクロパウダー(商品名:槇野産業製)、石臼式摩砕機(ヤマト機販株式会社)等を挙げることができる。
【0022】
さらに本発明では、粗粉砕工程において、前記焼成粒子(原料粉末)を乾燥し、得られた乾燥粒子を粗粉砕してもよい。ここで、乾燥粒子は、乾燥機を使用して焼成粒子を乾燥させればよく、具体的には、乾燥温度は100℃以上、好ましくは110℃以上で、乾燥時間は5時間以上、好ましくは10時間以上乾燥させればよく、さらに、乾燥粒子は、吸湿を防止しながら摩砕機を用いて粗粉砕することが好ましい。つまり、摩砕機を用いて粗粉砕する際には、乾燥させた焼成粒子を用いた方が流動性の良い粗粉砕物が得られる場合があり、本方法では、ジェットミルのホッパーの棚吊りや配管の閉塞を効果的に防止できる。この理由は必ずしも明らかではないが、シリカ表面に存在するシラノール基により、シリカ粉体は吸湿性を示すことが知られており、吸湿したシリカ粉末は、凝集性が高く、塊りになり易かったり、付着性が増して流動性が低下したりする傾向にあるためだと推定される。
【0023】
4.解砕工程
本発明の製造方法においては、上記のように焼成して得たシリカ(焼成粒子)をジェットミルで解砕する。乾式解砕機の中で最も微粉砕できる装置の1つにジェットミルがある。ジェットミルは、旋回流タイプ、衝突板タイプ、粉砕ノズル対抗タイプ、流動層タイプに大別され、目的に応じて使用する機種を選定することができる。旋回流タイプは装置内に分級機構を持っており、大きさの揃った粉砕物、いわゆる シャープな粒子径分布を持った粉砕物を作製することができるので好ましい。
また、ジェットミルの原料ホッパーを加温した状態で、粗粉砕した焼成粒子を投入する方法も好適に採用できる。加温した状態とは、ホッパーの温度を100~200℃の範囲、好ましくは120~200℃の範囲に保持することである。こうすることによって、ジェットミルのホッパーの棚吊りや配管の閉塞を効果的に防止できる。前述の乾燥させた原料粉末を使用する例と同様に、原料ホッパーの加温によって原料粉末が乾燥するため、原料粉末の流動性が良くなることが功を奏しているものと推測される。
【0024】
球状シリカ粉末(解砕粒子)
上記のようにして製造された球状シリカ粉末は、その一次粒子が前記ゾルゲル工程等の湿式でのシリカ粒子形成時に形成された形状を実質的にそのまま保っている。一般にゾルゲル法により得られる球状シリカ粒子は、球形度が0.9以上、多くは0.95以上の独立球状粒子である。従って本発明においても、球状シリカ粉末を構成する解砕粒子の球形度が0.90以上、特に0.95以上のものが容易に得られる。
なお当該球形度は、電子顕微鏡観察で個々のシリカ粒子について面積及び周囲長を求め、下記式に従って算出した個々の粒子の球形度を1000個以上のシリカ粒子について求め、その相加平均値である。
球形度=4π×(面積)/(周囲長)
【0025】
本発明で製造する解砕粒子の粒子径は特に限定されず、ジェットミルを使用可能な粒子径の範囲であればよいが、一般的な用途に鑑み、レーザー回折散乱法によって測定した平均粒子径(体積基準累積50%径:D50)が0.05~2μmの範囲、さらに好ましくは0.1~1.5μmの範囲にあることが好ましい。特にこの範囲は、近年の半導体デバイスの小型化、薄型化、高密度実装化の進展に対して、電子材料用樹脂組成物への充填用として適す大きさである。
なお平均粒子径が2μmを超えるような大粒子径の球状シリカ粒子の場合は、比較的一次粒子にまで解れ易い傾向があり、本発明を適用するメリットが少ない。
【0026】
本発明で製造する球状シリカ粉末は、粒子径分布の広がりを示す指標の1つである変動係数が40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下が特に好ましい。変動係数が前記範囲を超えて大きいと、粒子径分布がブロードとなり、同じ平均粒子径を有する粉末で比較すると微細粒子が増加する。微細粒子の増加は、樹脂等に充填した際の粘度上昇に繋がる場合がある。なお一般にゾルゲル法によって得られる球状シリカ粒子の粒子径の変動係数は、10%以上である。前記変動係数は、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0027】
上記平均粒子径および変動係数を持つものを得るには、湿式での球状シリカ粒子の形成時に制御しておけばよい。焼成工程で焼結が生じることがあるため、前記レーザー回折散乱法によって測定する平均粒子径や変動係数は、焼成しただけの状態では(見かけ上)大きく変わっている場合があるが、ジェットミルによる解砕後には、焼成前に比べてシリカの一次粒子の粒子径が小さくなっている程度のものが得られる。よって、焼成による粒子径の減少を見越し、その分だけ平均粒子径が大きくなるように条件を調整しておけばよい。
本発明で製造される球状シリカ粉末は、乾式の粉体の段階で一次粒子1個ずつがほぼ完全に解された状態であるため、樹脂や溶媒等に分散させる場合に極めて分散性に優れるという特徴がある。また、本発明で製造された球状シリカ粉末に表面処理を行う場合は、乾式の粉体の段階で粒子1個ずつがほぼ完全に解された状態であるため、粒子1個の全表面に亘って非常に均一な表面処理を行うことが可能となる。
【実施例
【0028】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0029】
1.物性測定、評価方法
1-1.シリカ物性
以下実施例、比較例で評価に用いる各物性の評価方法は以下の通りである。
(1)レーザー回折散乱法による平均粒子径及び変動係数の測定、並びに粒子径が5μm以上の粗大粒子の確認
50mLのガラス瓶にシリカ粉末約0.1gを電子天秤ではかりとり、蒸留水あるいはエタノールを約40ml加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用いて、40W・10分の条件で分散させた後、シリカ粉末又は表面処理シリカ粉末の体積基準累積50%径(D50)及び変動係数をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、LS-230)により測定した。
また、同測定に際しては粒子径が5μm以上の粗大粒子の存在を示すシグナルの有無を合わせて確認した。
【0030】
(2)コールターカウンター法による粒子径が5μm及び3μm以上の粗大粒子量の測定
50mLのガラス瓶を5個準備し、それぞれにシリカ粉末を1gずつ電子天秤ではかりとり、エタノールを19gずつ加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用いて、40W・10分の条件で分散させて、測定試料とした。コールターカウンター(ベックマンコールター社製、Multisizer3)によりアパチャー径30μmを用いて、シリカ粉末の個々の粒子径を測定した。このとき、1試料あたりの測定粒子数を約5万個とし、5試料合わせて約25万個について測定した。そのうち、粒子径が5μm以上の粒子数、及び粒子径が3μm以上の粒子数をそれぞれ算出し、総測定個数に対するそれぞれの粗大粒子量(ppm)とした。
(3)球形度の測定
球状シリカ粉末の解砕粒子の形状をSEM(日本電子データム社製、JSM-6060)で観察し、球形度を求めた。具体的には、1000個以上の解砕粒子について観察し、画像処理プログラム(SoftImagingSystemGmbH製、AnalySIS)を用いて各々の粒子について球形度を計測し、その平均を求めた。なお、球形度は次式により算出した。
球形度=4π×(面積)/(周囲長)
【0031】
1-2.粉体物性
粉体物性の測定には、ホソカワミクロン製のパウダテスタPT-Xを使用した。
(1)圧縮度
篩を通し、自然落下させた粉体の嵩密度をゆるみ嵩密度とし、ある任意の回数タッピングを行った粉体の嵩密度を固め嵩密度と定義し、下記の式より圧縮度を算出した。ここで固め嵩密度は、容量100ccの容器に粉体を投入し、タッピング(ストローク長18mm、速度1回/秒)を180回行った後の嵩密度とした。なお、一般的には、圧縮度の値が大きいほど流動性が低い傾向にある。
圧縮度(%)=(固め嵩密度-ゆるみ嵩密度)÷固め嵩密度×100
(2)安息角
1700μmの篩上に試料粉体(解砕粒子)を載せ、振動振幅0.5mmで300秒かけて篩を通過させ、安息角を形成後、装置内蔵のCCDカメラにて安息角を計測した。なお、安息角は、運動中の粉体が運動を止める水平となす角度であり、値が高いほど流動性が低い傾向にある。
【0032】
2.焼成粒子の製造方法
各実施例、比較例で解砕に供した焼成粒子は、以下の手順で製造した。
2-1.焼成粒子A
(1)シリカ分散液製造工程
内容積1000Lのジャケット付きガラスライニング製反応器(内径1200mm)に、マックスブレンド翼(翼径345mm)を有した反応器を使用し、反応媒体としてメタノール75kg、イソプロパノール30kgおよびアンモニア水(25質量%)25kgを仕込み(反応媒体量:150L)、反応温度を40℃に設定し、52rpmで攪拌した。
その後、原料としてテトラエトキシシラン3.0kgとメタノール7.0kg、イソプロパノール2.0kgの混合物を反応媒体に投入し、シリカの種粒子を作製した。
次に滴下原料として、テトラメトキシシラン350kgとメタノール100kgの原料を51mm/sの吐出線速度で反応媒体中に供給し、同時に150kgのアンモニア水(25質量%)を0.8kg/minの速度で供給し、シリカ粒子を成長、合成した。合成後の粒子径(D50)は、0.77μmであった。
【0033】
(2)分散液シリカ粒子表面処理工程
供給終了後1時間攪拌を続けた後、表面処理剤としてHMDS(信越シリコーン製、SZ-31)をシリカ粒子分散液中に4450g(理論合成シリカ量に対して200μmol/g)投入し、投入終了後2時間攪拌を続け、表面処理を施した。
(3)表面処理シリカ分散液湿式ろ過工程
2時間経過後、目開き3μmのポリプロピレン製ろ過フィルターを通過させ、粗大粒子が除去された分散液を得た。
(4)凝析工程
分散液にドライアイス3kgを投入後、20時間放置した。20時間経過した段階で粒子は沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径5μm)を使用して固液分離した後、190kg(シリカ濃度74質量%)の濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ液漏れは確認されなかった。
【0034】
(5)固液分離・乾燥工程
得られたシリカ濃縮物を100℃で15時間減圧乾燥を行い、132kgの粉末を得た。
(6)焼成工程
上記乾燥工程で得た粉末を空気雰囲気下、電気炉により800℃で10時間焼成を行い、124kgの焼成粒子Aを得た。焼成粒子Aは焼結している様子はなかった。なお、焼成粒子Aは、粉砕処理は行っていないため、数cmオーダーの塊状物を多く含む状態であった。なお、「焼結している様子はなく」という表現は、前記の粉末(粒状物)を指で潰したときにザラツキがないことを確認したことによる。
【0035】
2-2.焼成粒子B
焼成粒子Aの製造における(1)シリカ分散液製造工程において、滴下原料の使用量を、テトラメトキシシラン90kg、メタノール25kg及びアンモニア水(25質量%)40kgと変え、同じ操作を3回繰り返して3バッチ分を合算した以外は、以後は焼成工程まで同じ操作を行って98kgの焼成粒子Bを得た。なお、シリカ分散液製造工程後の粒子径(D50)は、0.42μmであった。
【0036】
2-3.焼成粒子C
焼成粒子Aの製造における(1)シリカ分散液製造工程において、反応器を10000Lと変え、滴下原料の使用量を、テトラメトキシシラン4200kg、メタノール1200kg及びアンモニア水(25質量%)1800kgと変えた以外は、以後は焼成工程まで同じ操作を行って1460kgの焼成粒子Cを得た。なお、シリカ分散液製造工程後の粒子径(D50)は、1.67μmであった。
【0037】
実施例1
焼成粒子Aを石臼式の摩砕機(増幸産業社製、セレンディピター、MKCA6-3)を用いて粗粉砕し、粗粉粒子を得た。砥石には直径が120mmであるSiC製の砥石を使用した。粗粉砕の条件としては、砥石の間隙が3mm、砥石の回転数が3000rpmで実施した。約100kgの原料を粗粉砕したが、その処理速度は、100kg/h程度であった。また、粗粉粒子は、1mm程度の粉末状であった。
得られた粗粉粒子の粉末の物性を測定したところ、圧縮度は37%、安息角は40°であった。該粉末の流動性は比較的良好であった。
続いて上記粗粉粒子を使用して、旋回流型ジェットミル(セイシン企業製、STJ-200)を用いて解砕処理を施した。解砕の条件は、旋回圧0.5MPa、旋回エアー量2.4m/min、押込圧0.6MPa、供給速度10kg/hであった。上記解砕工程は、押込圧と旋回圧の圧力差を0.1MPaに維持した状態で実施した。なお、約100kgの粉末を処理する期間、設備の稼働状態は良好であり、原料ホッパーの棚吊りや配管の閉塞は一度も発生しなかった。
【0038】
得られた解砕シリカ粉末の物性は、D50が0.72μmであり、変動係数24%、球形度0.96、比表面積は3.7m/gであった。レーザー回折散乱法において5μm以上の粗大粒子は検出されなかった。コールターカウンター法による5μm及び3μm以上の粗大粒子量は5ppm及び8ppmであった。
以上のように、本発明の方法を採用すれば、粗大粒子量が極めて少ない球状シリカ粉末を生産性良く製造できる。
表1に摩砕機の砥石の間隔、回転数、得られた粉末のゆるみ嵩密度、固め嵩密度、圧縮度、安息角、原料ホッパーの棚吊りや配管の閉塞の状態を示す(以下の実施例についても同様)。
【0039】
実施例2~4および比較例1~3
摩砕機の粗粉砕条件(砥石の間隙と砥石の回転数)を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に焼成粒子Aの粗粉砕を行った。粗粉砕後の粉末の粉体物性を測定した結果と、該粉末を原料として実施例1と同様にして旋回流型ジェットミルを用いて解砕処理を実施した時の稼働状況を表1に示す。
以上の結果より、砥石の間隙が1mm(実施例2)と3mm(実施例1)では安定に稼働できることがわかった。一方、砥石の間隙が0.5mm(比較例1)ではホッパーの棚吊りや配管の閉塞が起こり易くなり、10mm(比較例2)では粉末の流動性は良好であったものの配管の閉塞(ジェットミルの原料供給ノズルが詰まる現象も含む)が発生した。
砥石の回転数に関しては、1000rpm(実施例3)と3000rpm(実施例1)においては、粉体物性は比較的良好であり、ジェットミルの安定稼働も確認できた。該回転数が300rpm(実施例4)の場合についても、粉体物性は比較的良好であり、ジェットミルも概ね良好に稼働できた。なお、粗粉砕工程における摩砕機の生産性が低下することが懸念されたが、十分な処理速度が得られることがわかった(約80kg/h)。一方、回転数が4000rpm(比較例3)では、ジェットミルの原料ホッパーの棚吊りや配管の閉塞が発生し易くなった。この原因は、原料粉末が微粒化し過ぎたため、粉末の流動性が低下したためだと推測された。
【0040】
【表1】
【0041】
比較例4
粗粉砕処理を行っていない、焼成粒子Aの粉体物性を測定した結果と、該粉末を原料として実施例1と同様にして旋回流型ジェットミルを用いて解砕処理した時の稼働状況を表1に示す。
表に示すように、粗粉砕処理を未実施の粉末は、圧縮度と安息角の数値は比較的小さく、見た目にも粉体の流動性は良好であった。しかしながら、該粉末は未解砕のため、数mm~数cmの大きさの塊状物を多く含んでいるため、配管の閉塞(ジェットミルの原料供給ノズルが詰まる現象も含む)が頻発した。
【0042】
比較例5
粗粉砕処理をボールミルにて行った。球状シリカ粒子が押しつぶされて固まっていたり、容器内壁とボールに付着して、粗粉粒子の収量が低下したりする問題が生じた。なお、前記のボールミルで粗粉砕処理した焼成粒子をジェットミルの原料ホッパーに投入したが、粉末の流動性が悪いためにジェットミルでの解砕処理はできなかった。
【0043】
実施例5
シリカ粉末として、焼成粒子Aに換えて、焼成粒子Bを用いた以外は、実施例1と同じ条件で粗粉砕処理と解砕処理を行った。粗粉砕処理後の粉体物性を測定した結果と、解砕処理した時の稼働状況を表1に示す。
本実施例では、約90kgの粉末を処理する期間中、配管内の原料粉末の流れが多少悪かったものの、ジェットミルが停止することはなく、稼働状態は概ね良好であった。
【0044】
実施例6
シリカ粉末として、焼成粒子Aに換えて焼成粒子Cを用いた以外は、実施例1と同じ条件で粗粉砕処理と解砕処理を行った。粗粉砕処理後の粉体物性を測定した結果と、解砕処理した時の稼働状況を表1に示す。
【0045】
実施例7
焼成粒子Aを110℃の乾燥機で10時間乾燥させた乾燥粒子Aを、直ちに摩砕機で粗粉砕処理を行った以外は実施例1と同様にして、粗粉砕処理と解砕処理を実施した。粗粉砕処理後の粉体物性を測定した結果と、解砕処理した時の稼働状況を表1に示す。
乾燥粒子Aは、焼成粒子A(実施例1)と比較すると、見た目にも粉体の流動性は優れていた。また、両者の圧縮度と安息角の数値を比較すると、乾燥粒子Aの数値の方が小さく、流動性が改善されていることがわかる。
【0046】
実施例8
実施例7と同様にして、焼成粒子Aを110℃の乾燥機で10時間乾燥させた後、該粉末を室温の大気雰囲気に暴露した状態で一昼夜室内に保管した(乾燥粒子A’)。乾燥粒子A’を使用した以外は、実施例1と同様にして、粗粉砕処理と解砕処理を実施した。粗粉砕処理後の粉体物性を測定した結果と、解砕処理した時の稼働状況を表1に示す。
乾燥粒子A’の結果は、焼成粒子A(実施例1)の結果とほぼ同等であった。特に、粉体物性(圧縮度と安息角の数値)がほぼ一致していた。以上のことから、焼成粒子A(実施例7)のように、乾燥させた原料粉末を用い、且つ、吸湿を防止しながら粗粉砕することが極めて好ましい方法であることがわかる。
【0047】
実施例9
旋回流型ジェットミルの原料ホッパーの温度を120℃に保持した状態で、解砕処理を行った以外は実施例5と同様にして粗粉砕処理と解砕処理を実施した。粗粉砕処理後の粉体物性を測定した結果と、解砕処理した時の稼働状況を表1に示す。
粗粉砕の工程までは実施例5と同様なので粉体物性は同一であるが、本実施例は実施例5と比較すると、配管内の原料粉末の流れが改善され、ジェットミルの稼働状態も良好であった。
【0048】
以上の結果からわかるように、粗粉砕に石臼式の摩砕機を用いると共に、摩砕機の砥石の間隙を1~5mmの範囲に調整した状態で前記焼成粒子を粗粉砕することによって、次工程の旋回流型ジェットミルの安定稼働に効果があることが明らかとなった。さらに、摩砕機の回転数は120~3600rpmの範囲に調整することが好適であり、また、摩砕機を用いた粗粉砕工程では乾燥させた原料粉末を用いること、および、旋回流型ジェットミルの原料ホッパーを加温することも、旋回流型ジェットミルの安定稼働に効果があることが明らかとなった。
【0049】
なおここで、実施例1(焼成粒子A)、実施例9(焼成粒子B)、実施例6(焼成粒子C)について、ジェットミルによる解砕後の球状シリカ粉末(解砕粒子A~C)の物性を評価した結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
いずれのシリカも800℃で10時間焼成を行ったため、粒子径(D50)は、シリカ分散液製造工程完了後よりも若干小さくなっている。これらの結果より、本発明の方法で製造したシリカは、粗大粒子の含有量が極めて少ない、単分散性の高い球状のシリカ粒子であることは明らかである。このようなシリカは、表面処理用の原体として、あるいは各種樹脂用の添加剤として極めて有用である。