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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240417BHJP
   B23K 26/57 20140101ALI20240417BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20240417BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/57
H01L33/32
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021177922
(22)【出願日】2021-10-29
(65)【公開番号】P2023067009
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】井上 直人
(72)【発明者】
【氏名】山本 稔
(72)【発明者】
【氏名】大久保 泰地
(72)【発明者】
【氏名】爲本 広昭
(72)【発明者】
【氏名】杉尾 良太
(72)【発明者】
【氏名】関本 祐介
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-000636(JP,A)
【文献】特開2019-102688(JP,A)
【文献】特開2016-076523(JP,A)
【文献】特開2020-145386(JP,A)
【文献】特開2018-182135(JP,A)
【文献】特開2007-165850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/57
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面の反対側に位置する第2面とを有するサファイア基板と、前記第1面に配置された半導体層とを有するウェーハを準備する工程と、
前記第2面側から前記サファイア基板の内部にレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、
前記レーザ光照射工程の後に、前記ウェーハを複数の発光素子に分離する分離工程と、
を備え、
前記レーザ光照射工程は、
前記第2面に平行な第1方向に沿って前記レーザ光を照射し、前記サファイア基板の厚さ方向において前記第2面からの距離が第1距離の位置に、複数の第1改質部を前記第1方向に沿って形成する第1照射工程と、
前記第1方向に沿って前記レーザ光を照射し、前記厚さ方向において前記第2面からの距離が前記第1距離よりも短い第2距離の位置に、複数の前記第1改質部と前記厚さ方向に並ぶ複数の第2改質部を前記第1方向に沿って形成する第2照射工程と、
を有し、
前記第2照射工程において、前記第2改質部の前記厚さ方向における長さが、前記第1改質部の前記厚さ方向における長さよりも長くなるように、前記第2改質部を形成する発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2照射工程において、前記レーザ光の集光領域の前記厚さ方向における長さを、収差補正をしていない前記レーザ光の集光領域の前記厚さ方向における長さよりも長くして、前記第2改質部を形成する請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1照射工程において、前記レーザ光の集光領域の前記厚さ方向における長さを、収差補正をしていない前記レーザ光の集光領域の前記厚さ方向における長さよりも短くして、前記第1改質部を形成する請求項1または2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1照射工程において、第1パルスエネルギで前記レーザ光を照射して複数の前記第1改質部を形成し、
前記第2照射工程において、前記第1パルスエネルギよりも高い第2パルスエネルギで前記レーザ光を照射して複数の前記第2改質部を形成する請求項1~3のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1照射工程において、第1間隔で前記レーザ光を照射して複数の前記第1改質部を形成し、
前記第2照射工程において、前記第1間隔よりも広い第2間隔で前記レーザ光を照射して複数の前記第2改質部を形成する請求項1~4のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1方向は、前記サファイア基板のa軸方向に沿う方向であり、
前記レーザ光照射工程は、
前記サファイア基板のm軸方向に沿う方向である第2方向に沿って前記レーザ光を照射し、前記厚さ方向において前記第2面からの距離が第3距離の位置に、複数の第3改質部を前記第2方向に沿って形成する第3照射工程と、
前記第2方向に沿って前記レーザ光を照射し、前記厚さ方向において前記第2面からの距離が前記第3距離よりも短い第4距離の位置に、複数の前記第3改質部と前記厚さ方向に並ぶ複数の第4改質部を前記第2方向に沿って形成する第4照射工程と、
を有し、
前記第4照射工程において、前記第4改質部の前記厚さ方向における長さが、前記第3改質部の前記厚さ方向における長さよりも長くなるように、前記第4改質部を形成する請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記第3照射工程において、第3間隔で前記レーザ光を照射して複数の前記第3改質部を形成し、
前記第4照射工程において、前記第3間隔よりも広い第4間隔で前記レーザ光を照射して複数の前記第4改質部を形成する請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2照射工程において、前記第4間隔よりも広い第2間隔で前記レーザ光を照射して複数の前記第2改質部を形成する請求項に記載の発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記第3照射工程において、前記レーザ光を前記第1面よりも前記第2面に近い位置に照射する請求項6~8のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1照射工程において、前記レーザ光を前記第1面よりも前記第2面に近い位置に照射する請求項1~9のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ光照射工程は、前記第1照射工程の後であって、前記第2照射工程の前に、第5照射工程をさらに有し、
前記第5照射工程において、前記第1方向に沿って前記レーザ光を照射し、前記厚さ方向において前記第2面からの距離が前記第1距離よりも短く、前記第2距離よりも長い位置に、複数の前記第1改質部と前記厚さ方向に並ぶ複数の第5改質部を前記第1方向に沿って形成し、
前記第2照射工程において、前記第2改質部の前記厚さ方向における長さが、前記第5改質部の前記厚さ方向における長さよりも長くなるように、前記第2改質部を形成する請求項1~10のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2改質部の前記厚さ方向における長さが、前記第1改質部の前記厚さ方向における長さの1.3倍以上3倍以下である請求項1~10のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2改質部の前記第1方向における長さは、前記第1改質部の前記第1方向における長さよりも長い請求項1~11のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、発光素子は、例えばサファイア基板の上に半導体層を形成したウェーハをダイシングすることによって得られる。例えば、特許文献1に記載のように、ウェーハをダイシングする方法として、基板内部にレーザ光を集光させて改質部を形成し、この改質部を起点にウェーハを割断する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-52814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、レーザ光による半導体層の電気特性の悪化を低減しつつ、レーザ光照射後の意図しない割れを低減することができる発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、発光素子の製造方法は、第1面と、前記第1面の反対側に位置する第2面とを有するサファイア基板と、前記第1面に配置された半導体層とを有するウェーハを準備する工程と、前記第2面側から前記サファイア基板の内部にレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、前記レーザ光照射工程の後に、前記ウェーハを複数の発光素子に分離する分離工程と、を備える。前記レーザ光照射工程は、前記第2面に平行な第1方向に沿って前記レーザ光を照射し、前記サファイア基板の厚さ方向において前記第2面からの距離が第1距離の位置に、複数の第1改質部を前記第1方向に沿って形成する第1照射工程と、前記第1方向に沿って前記レーザ光を照射し、前記厚さ方向において前記第2面からの距離が前記第1距離よりも短い第2距離の位置に、複数の前記第1改質部と前記厚さ方向に並ぶ複数の第2改質部を前記第1方向に沿って形成する第2照射工程と、を有する。前記第2照射工程において、前記第2改質部の前記厚さ方向における長さが、前記第1改質部の前記厚さ方向における長さよりも長くなるように、前記第2改質部を形成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、レーザ光による半導体層の電気特性の悪化を低減しつつ、レーザ光照射後の意図しない割れを低減することができる発光素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態のウェーハの平面図である。
図2】実施形態のウェーハの断面図である。
図3】第1実施形態の第1照射工程を説明する断面図である。
図4】第1実施形態の第2照射工程を説明する断面図である。
図5】第1実施形態の第3照射工程及び第4照射工程を説明する断面図である。
図6】第2実施形態のレーザ光照射工程を説明する断面図である。
図7A】実施形態の発光素子の製造方法における分離工程を説明する平面図である。
図7B】実施形態の発光素子の製造方法における分離工程を説明する平面図である。
図8A】収差補正なしの集光状態を説明する図である。
図8B】収差補正量が理想収差補正量よりも小さいことにより弱補正の集光状態となっていることを説明する図である。
図8C】理想集光状態を説明する図である。
図9】実施形態において改質部を形成するためのレーザ光のサファイア基板内における集光領域の形状の一例を示す断面図である。
図10】第1実施形態により製造された発光素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照し、実施形態について説明する。各図面中、同じ構成には同じ符号を付している。なお、各図面は、実施形態を模式的に示したものであるため、各部材のスケール、間隔若しくは位置関係などが誇張、又は部材の一部の図示を省略する場合がある。また、断面図として、切断面のみを示す端面図を示す場合がある。
【0009】
実施形態による発光素子の製造方法は、ウェーハを準備する工程と、レーザ光照射工程と、ウェーハを複数の発光素子に分離する分離工程とを備える。
【0010】
図1は、ウェーハWの平面図である。図2は、ウェーハWの断面を部分的に示す断面図である。
ウェーハWは、サファイア基板10と半導体層20とを有する。サファイア基板10は、第1面11と、第1面11の反対側に位置する第2面12とを有する。半導体層20はサファイア基板10の第1面11に配置されている。また、サファイア基板10の第1面11側には、半導体層20と電気的に接続される電極や、半導体層20を覆う保護膜を形成することができる。
【0011】
第1面11は、例えば、サファイア基板10のc面である。なお、第1面11は、サファイア基板10のc面に対して半導体層20を結晶性よく形成できる範囲で傾斜していても良い。図1において、第1方向aは、第2面12に平行な方向であり、サファイア基板10のa軸方向に沿う。第2方向mは、第1方向aに直交し、サファイア基板10のm軸方向に沿う。また、サファイア基板10の厚さ方向zは、第1方向a及び第2方向mに直交する。サファイア基板の厚さは、例えば、30μm以上1500μm以下である。
【0012】
半導体層20は、例えば、InAlGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)で表される窒化物半導体を含む。半導体層20は、光を発する活性層を含む。活性層が発する光のピーク波長は、例えば、280nm以上650nm以下である。活性層が発する光のピーク波長は、280nmよりも短い波長、または650nmよりも長い波長であってもよい。
【0013】
レーザ光照射工程において、複数の分離予定ラインLに沿ってウェーハWにレーザ光を照射する。分離予定ラインLは、例えば格子状である。分割予定ラインLは、ウェーハWに規定される仮想的な線である。
【0014】
例えば、分離予定ラインLには半導体層20が配置されていない。または、半導体層20は、サファイア基板10の第1面11の全面に形成されていてもよい。
【0015】
以上説明したウェーハWが準備された後、レーザ光照射工程が行われる。
【0016】
レーザ光は、第2面12側からサファイア基板10の内部に照射されつつ、複数の分離予定ラインLのそれぞれに沿って走査される。レーザ光は、例えばパルス状に出射される。レーザ光のパルス幅としては、100fsec以上1000psec以下が挙げられる。レーザ光源として、例えば、Nd:YAGレーザ、Yb:YAGレーザ、Yb;KGWレーザ、チタンサファイアレーザ、Nd:YVOレーザ、または、Nd:YLFレーザなどが用いられる。レーザ光の波長は、サファイア基板10を透過する光の波長である。レーザ光は、例えば、500nm以上1200nm以下の範囲にピーク波長を有する。
【0017】
[第1実施形態]
図3図5を参照して、第1実施形態によるレーザ光照射工程について説明する。第1実施形態によるレーザ光照射工程は、第1照射工程と第2照射工程とを有する。
【0018】
<第1照射工程>
第1照射工程においては、第1方向aに沿ってレーザ光を照射する。これにより、図3に示すように、サファイア基板10の厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第1距離D1の位置に、複数の第1改質部r1を第1方向aに沿って形成する。第1距離D1は、断面視において、第2面12から第1改質部r1の中心までの距離である。
【0019】
レーザ光はサファイア基板10の内部における第2面12からの距離が第1距離D1の位置において集光され、その位置にレーザ光のエネルギーが集中する。サファイア基板10の内部において、このレーザ光の集光領域に、改質部(この例では第1改質部r1)が形成される。改質部は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。また、例えば、改質部は、サファイア基板10のうちレーザ光の照射を受けていない部分よりも光透過性が低い部分である。
【0020】
複数の第1改質部r1は、例えば、第1方向aに沿って互いに離れて形成される。または、第1方向aで隣り合う第1改質部r1の一部同士が接する、または重なることで、第1方向aに延びる連続したライン状に複数の第1改質部r1が形成されてもよい。
【0021】
サファイア基板10の内部に形成した複数の第1改質部r1から亀裂が発生する。第1改質部r1から少なくとも第2面12に向けて伸びる亀裂がサファイア基板10の内部に形成される。
【0022】
<第2照射工程>
第1照射工程により複数の第1改質部r1を形成した後、第2照射工程が行われる。
【0023】
第2照射工程において、第1方向aに沿ってレーザ光を照射し、図4に示すように、厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第1距離D1よりも短い第2距離D2の位置に、複数の第2改質部r2を第1方向aに沿って形成する。第2距離D2は、断面視において、第2面12から第2改質部r2の中心までの距離である。複数の第2改質部r2を、複数の第1改質部r1と厚さ方向zに並ぶように第1方向aに沿って形成する。複数の第2改質部r2と、複数の第1改質部r1とは、上面視において重なるように形成される。
【0024】
複数の第2改質部r2は、例えば、第1方向aに沿って互いに離れて形成される。または、第1方向aで隣り合う第2改質部r2の一部同士が接する、または重なることで、第1方向aに延びる連続したライン状に複数の第2改質部r2が形成されてもよい。
【0025】
第1改質部r1と同様、第2改質部r2から少なくとも第2面12に向けて伸びる亀裂がサファイア基板10の内部に形成される。第2改質部r2からの亀裂は、第2面12に達していることが好ましい。また、第2改質部r2からの亀裂は、第1改質部r1に達していることが好ましい。
【0026】
また、第2照射工程において、第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さL2が、第1改質部r1の厚さ方向zにおける長さL1よりも長くなるように、第2改質部r2を形成する。
【0027】
レーザ光の集光領域は、改質部を形成することができる単位体積当たりのレーザ光の強度を持った領域である。レーザ光の集光領域の厚さ方向zにおける長さを長くすると、厚さ方向zにおける改質部のサイズが大きくなる傾向にある。
【0028】
サファイア基板10の第2面12側からサファイア基板10の内部にレーザ光を集光させる際、サファイア基板10の第1面11に形成された半導体層20は、レーザ光の集光領域からの抜け光の影響を受け、電気特性が悪化しやすい。また、サファイア基板10の内部において、厚さ方向zにおける集光領域のサイズが大きくなると、集光領域からの抜け光が多くなり、さらに半導体層20の電気特性を悪化しやすくなる。集光領域からの抜け光とは、レーザ光のうち、改質部の形成に寄与せず半導体層20側に抜ける光のことである。厚さ方向zにおける集光領域のサイズが大きくなると、レーザ光の集光性が悪くなるので、改質部の形成に寄与せず半導体層20側に抜ける光が多くなりやすい。
【0029】
本実施形態によれば、第2改質部r2よりも半導体層20に近い位置へのレーザ光の集光により形成される第1改質部r1の厚さ方向zにおける長さL1が、第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さL2よりも短くなるように、第1改質部r1を形成する。すなわち、第1照射工程におけるレーザ光の第1集光領域の厚さ方向zにおける長さを、第2照射工程におけるレーザ光の第2集光領域の厚さ方向zにおける長さよりも短くする。これにより、第2集光領域よりも半導体層20に近い第1集光領域からの抜け光を少なくすることができ、レーザ光による半導体層20の電気特性の悪化を低減することができる。
【0030】
レーザ光を照射した後のサファイア基板10の破断強度は、改質部のサイズに依存する傾向があり、例えば、改質部のサイズを大きくすることで、破断強度を高くすることができる。サファイア基板10の破断強度を高くすることにより、分離工程前のサファイア基板10の意図しない割れを低減することができる。サファイア基板10の意図しない割れは、例えば分離工程において半導体層20を覆う保護膜の欠けを生じさせ、外観不良の原因となり得る。破断強度は、例えば、分離予定ラインLに押圧部材を押し当て、ウェーハWを割断する際に必要な力(ニュートン:N)で表すことができる。
【0031】
本実施形態によれば、第1改質部r1よりも半導体層20から離れた位置に第2改質部r2を形成する第2照射工程において、第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さL2が、第1改質部r1の厚さ方向zにおける長さL1よりも長くなるように、第2改質部r2を形成する。つまり、第2改質部r2のサイズが第1改質部r1のサイズよりも大きくなるように第2照射工程を行う。これにより、サファイア基板10の破断強度を高めて、サファイア基板10の意図しない割れを低減することができる。この結果、例えば半導体層20を覆う保護膜の欠けを低減することができる。
【0032】
第2改質部r2を形成する第2集光領域の厚さ方向zにおける長さは、第1改質部r1を形成する第1集光領域の厚さ方向zにおける長さよりも長くなり、第2集光領域からの抜け光は第1集光領域からの抜け光よりも多くなる。しかしながら、第2集光領域は、第1集光領域よりも半導体層20から離れているため、第2集光領域からの抜け光は半導体層20に影響しにくい。従って、第2照射工程を、第2改質部r2のサイズが第1改質部r1のサイズよりも大きくなるように行い、さらに、第1照射工程よりも第2面12側で行うことで、サファイア基板10の破断強度を高めつつ、レーザ光の抜け光による半導体層20の電気特性の悪化を低減することができる。
【0033】
空気とサファイア基板10との間の屈折率差により、サファイア基板10の内部におけるレーザ光の集光位置で球面収差が生じ得る。球面収差は、レーザ光を構成する光線が1点に収束せずにばらつく現象である。この球面収差を、空間光変調器で補正することができる。空間光変調器として、例えば、所定の変調パターンが表示される液晶層を含む空間光変調器を用いることができる。
【0034】
図8A図8Cは、レーザ光を空気中から集光レンズ30を介してサファイア基板10に照射した際のサファイア基板10の内部における集光状態を説明する図である。図8A図8Cは、サファイア基板10の厚さ方向に平行な断面を表す。
【0035】
図8Aは、収差補正なしの集光状態を説明する図である。図8Bは、収差補正量が理想収差補正量よりも小さいことにより弱補正の集光状態となっていることを説明する図である。図8Cは、理想集光状態を説明する図である。
【0036】
理想集光状態は、レーザ光の集光位置で発生する球面収差を打ち消すように収差補正した状態であって、媒質(サファイア基板)がないと仮定した場合の集光状態に近くなるまで収差が軽減された集光状態のことである。理想収差補正量とは、媒質中で理想集光状態になる収差補正量である。弱補正の集光状態は、理想集光状態に近づくように球面収差を打ち消すように収差補正した状態である。弱補正の集光状態における収差補正量は、理想収差補正量よりも小さい。
【0037】
図8Aに示すように、収差補正を行わない場合の集光状態では、例えば、第2面12とレーザ光の外側の光線の集光点との間の距離Z2が、第2面12とレーザ光の内側の光線の集光点との間の距離Z1よりも長くなり、Z1とZ2との差ΔZが生じる。距離Z1及び距離Z2は、サファイア基板10の厚さ方向における距離である。
【0038】
図8Bに示すように、弱補正の集光状態では、例えば、距離Z2が距離Z1よりも長く、収差補正を行わない場合よりは小さい差ΔZが生じる。
【0039】
図8Cに示すように、理想集光状態では、距離Z1と距離Z2が等しくなり、差ΔZが生じない。
【0040】
第1照射工程においては、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを、収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも短くして、第1改質部r1を形成することができる。
【0041】
図8A図8Cの中では、図8Cに示す理想集光状態においてレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さが最も短くなる。理想集光状態とすることでレーザ光の集光領域からの抜け光をより少なくできる。したがって、第1照射工程において、理想集光状態になるような収差補正を行うことで、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも短くして、第1改質部r1を形成することが好ましい。
【0042】
または、第1照射工程において、図8Bに示す弱補正の集光状態となるようにすることによっても、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを、収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも短くして、第1改質部r1を形成することができる。
【0043】
第2照射工程においては、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを、収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも長くして、第2改質部r2を形成することができる。
【0044】
例えば、第2照射工程において、レーザ光の集光点がサファイア基板10の厚さ方向に沿って近接して並ぶ複数の位置に形成されるようにする。これにより、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを、収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも長くして、第2改質部r2を形成することができる。この場合、例えば、空間光変調器の液晶層に変調パターンとしてアキシコンレンズパターンを表示させることができる。レーザ光が液晶層を通過することで変調され、サファイア基板10の厚さ方向に沿って近接して並ぶ複数の位置にレーザ光の集光点が形成されるようにすることができる。
【0045】
第2改質部r2を形成するレーザ光の第2集光領域の厚さ方向zにおける長さは、第1改質部r1を形成するレーザ光の第1集光領域の厚さ方向zにおける長さよりも長くする。前述したように、集光領域の厚さ方向zにおける長さを長くすると、集光領域のサイズが大きくなる傾向にある。そのため、レーザ光の出力を同じとした場合に、第2集光領域における単位体積当たりのレーザ光のエネルギー強度が、第1集光領域における単位体積当たりのレーザ光のエネルギー強度よりも低くなる場合がある。
【0046】
そのため、第1照射工程において、第1パルスエネルギでレーザ光を照射して複数の第1改質部r1を形成し、第2照射工程において、第1パルスエネルギよりも高い第2パルスエネルギでレーザ光を照射して複数の第2改質部r2を形成することが好ましい。これにより、第2集光領域において、第2改質部r2を形成するためのレーザ光のパルスエネルギ不足が発生しにくくなる。
【0047】
第1改質部r1を形成するためのレーザ光の第1パルスエネルギは、例えば、0.6μJ以上1.8μJ以下が好ましい。第2改質部r2を形成するためのレーザ光の第2パルスエネルギは、例えば、1.8μJ以上2.8μJ以下が好ましい。これにより、第1集光領域におけるレーザ光の半導体層20への影響を抑えつつ、第1改質部r1及び第2改質部r2を形成するために十分なレーザ光のパルスエネルギを第1集光領域及び第2集光領域に与えることができる。
【0048】
レーザ光による半導体層20の電気特性の悪化を低減するために、第1照射工程において、レーザ光を、半導体層20が配置された第1面11よりも第2面12に近い位置に照射して第1改質部r1を形成することが好ましい。
【0049】
図3に示す第1照射工程において、第1方向aに沿って第1間隔P1でレーザ光を照射して複数の第1改質部r1を形成し、図4に示す第2照射工程において、第1間隔P1よりも広い第2間隔P2で第1方向aに沿ってレーザ光を照射して複数の第2改質部r2を形成することができる。
【0050】
第2改質部r2の厚さ方向zの長さL2が第1改質部r1の厚さ方向zの長さL1よりも長くなるように第2改質部r2を形成すると、第2改質部r2の第1方向aの長さも第1改質部r1の第1方向aの長さよりも長くなりやすくなる。すなわち、第2改質部r2の第1方向aにおける長さを、第1改質部r1の第1方向aにおける長さよりも長くすることができる。従って、第2改質部r2のサイズが大きくなるため、破断強度を高くすることができる。
【0051】
この場合、複数の第1改質部r1の第1間隔P1と、複数の第2改質部r2の第2間隔P2とを同じにすると、第2改質部r2の方が第1改質部r1よりも第1方向aの長さが長いことから、複数の第2改質部r2同士が第1方向aにおいて重なりやすくなる。第1方向aにおいて、複数の第2改質部r2同士が密に並ぶと、亀裂の発生により応力が解放された第2改質部r2のすぐ近くに第2改質部r2があることから応力が発生しにくくなり、亀裂が伸展しにくくなる。そのため、複数の第2改質部r2の第2間隔P2は、複数の第1改質部r1の第1間隔P1よりも広くすることが好ましい。
【0052】
第2改質部r2からの亀裂は、厚さ方向zにおいて第2面12に向かって伸展するとともに、レーザ光の走査方向(この場合、第1方向a)にも伸展する。さらに、亀裂は、第2面12に平行な面内において、レーザ光の走査方向(第1方向a)に交差する方向にも伸展し得る。レーザ光の走査方向において複数の第2改質部r2同士が密に並ぶと、サファイア基板10の内部の第2面12に平行な面内において、レーザ光の走査方向(第1方向a)以外の方向に伸びる亀裂同士が繋がりやすくなり、亀裂が蛇行する。第2面12側における第2改質部r2から伸展する亀裂の蛇行は、後述する分離工程におけるサファイア基板10の欠けの原因になる。また、第2面12に反射膜がある場合には、第2面12側における亀裂の蛇行は、反射膜の欠けの原因にもなる。そこで、第2面12側における亀裂の蛇行を低減するため、複数の第2改質部r2の第2間隔P2は、複数の第1改質部r1の第1間隔P1よりも広くすることが好ましい。
【0053】
また、第2改質部r2のサイズ及び第2改質部r2を形成するためのレーザ光のパルスエネルギが必要以上に大きくなるのを抑えつつ、破断強度を高くするために、第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さL2は、第1改質部r1の厚さ方向zにおける長さL1の1.3倍以上3倍以下にすることが好ましい。
【0054】
以上説明した第1照射工程及び第2照射工程は、図1に示す複数の分離予定ラインLのそれぞれに対して行うことができる。例えば、第1照射工程及び第2照射工程を第1方向a(サファイア基板10のa軸方向)に延びる分離予定ラインLに対して行った後、第1照射工程及び第2照射工程を第2方向m(サファイア基板10のm軸方向)に延びる分離予定ラインLに対して行うことができる。または、第1照射工程及び第2照射工程を第2方向mに延びる分離予定ラインLに対して行った後、第1照射工程及び第2照射工程を第1方向aに延びる分離予定ラインLに対して行うことができる。また、第1照射工程を第1方向a(サファイア基板10のa軸方向)に延びる分離予定ラインL及び第2方向m(サファイア基板10のm軸方向)に延びる分離予定ラインLに対して行った後、第2照射工程を第1方向a(サファイア基板10のa軸方向)に延びる分離予定ラインL及び第2方向m(サファイア基板10のm軸方向)に延びる分離予定ラインLに対して行うことができる。
【0055】
また、第1方向a延びる分離予定ラインLに対しては、第1照射工程及び第2照射工程を行い、第2方向mに延びる分離予定ラインLに対しては、以下で説明する第3照射工程及び第4照射工程を行うことができる。
【0056】
<第3照射工程>
第3照射工程においては、第2方向mに沿ってレーザ光を照射する。これにより、図5に示すように、サファイア基板10の厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第3距離D3の位置に、複数の第3改質部r3を第2方向mに沿って形成する。第3距離D3は、断面視において、第2面12から第3改質部r3の中心までの距離である。
【0057】
複数の第3改質部r3は、例えば、第2方向mに沿って互いに離れて形成される。または、第2方向mで隣り合う第3改質部r3の一部同士が接する、または重なることで、第2方向mに延びる連続したライン状に複数の第3改質部r3が形成されてもよい。
【0058】
サファイア基板10の内部に形成した複数の第3改質部r3から亀裂が発生する。第3改質部r3から少なくとも第2面12に向けて伸びる亀裂がサファイア基板10の内部に形成される。
【0059】
<第4照射工程>
第3照射工程により複数の第3改質部r3を形成した後、第4照射工程が行われる。
【0060】
第4照射工程において、第2方向mに沿ってレーザ光を照射し、図5に示すように、厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第3距離D3よりも短い第4距離D4の位置に、複数の第4改質部r4を第2方向mに沿って形成する。第4距離D4は、断面視において、第2面12から第4改質部r4の中心までの距離である。複数の第4改質部r4を、複数の第3改質部r3と厚さ方向zに並ぶように第2方向mに沿って形成する。複数の第4改質部r4と、複数の第3改質部r3とは、上面視において重なるように形成される。
【0061】
複数の第4改質部r4は、例えば、第2方向mに沿って互いに離れて形成される。または、第2方向mで隣り合う第4改質部r4の一部同士が接する、または重なることで、第2方向mに延びる連続したライン状に複数の第4改質部r4が形成されてもよい。
【0062】
第4改質部r4から少なくとも第2面12に向けて伸びる亀裂がサファイア基板10の内部に形成される。第4改質部r4からの亀裂は、第2面12に達していることが好ましい。また、第4改質部r4からの亀裂は、第3改質部r3に達していることが好ましい。
【0063】
また、第4照射工程において、第4改質部r4の厚さ方向zにおける長さL4が、第3改質部r3の厚さ方向zにおける長さL3よりも長くなるように、第4改質部r4を形成する。第4改質部r4よりも半導体層20に近い位置へのレーザ光の集光により形成される第3改質部r3の厚さ方向zにおける長さL3が、第4改質部r4の厚さ方向zにおける長さL4よりも短くなるように、第3改質部r3を形成する。すなわち、第3照射工程におけるレーザ光の第3集光領域の厚さ方向zにおける長さを、第4照射工程におけるレーザ光の第4集光領域の厚さ方向zにおける長さよりも短くする。これにより、第4集光領域よりも半導体層20に近い第3集光領域からの抜け光を少なくすることができ、レーザ光による半導体層20の電気特性の悪化を低減することができる。
【0064】
また、第3改質部r3よりも半導体層20から離れた位置に第4改質部r4を形成する第4照射工程において、第4改質部r4の厚さ方向zにおける長さL4が、第3改質部r3の厚さ方向zにおける長さL3よりも長くなるように、第4改質部r4を形成する。つまり、第4改質部r4のサイズが第3改質部r3のサイズよりも大きくなるように第4照射工程を行う。これにより、サファイア基板10の破断強度を高めて、サファイア基板10の意図しない割れを低減することができる。この結果、例えば半導体層20を覆う保護膜の欠けを低減することができる。第4集光領域は、第3集光領域よりも半導体層20から離れているため、第4集光領域からの抜け光は半導体層20に影響しにくい。
【0065】
第3照射工程及び第4照射工程においても、前述した第1照射工程及び第2照射工程と同様に、サファイア基板10の内部におけるレーザ光の集光位置での球面収差を、空間光変調器で補正することができる。
【0066】
第3照射工程においては、第1照射工程と同様に、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを、収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも短くして、第3改質部r3を形成することができる。
【0067】
集光領域からの抜け光をより少なくするため、第3照射工程において、理想集光状態になるような収差補正を行うことで、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも短くして、第3改質部r3を形成することが好ましい。
【0068】
または、第3照射工程において、図8Bに示す弱補正の集光状態となるようにすることによっても、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを、収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも短くして、第3改質部r3を形成することができる。
【0069】
第4照射工程においては、第2照射工程と同様に、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを、収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも長くして、第4改質部r4を形成することができる。
【0070】
第3照射工程において、第3パルスエネルギでレーザ光を照射して複数の第3改質部r3を形成し、第4照射工程において、第3パルスエネルギよりも高い第4パルスエネルギでレーザ光を照射して複数の第4改質部r4を形成することが好ましい。これにより、第4集光領域において、第4改質部r4を形成するためのレーザ光のエネルギー不足が発生しにくくなる。
【0071】
第3改質部r3を形成するためのレーザ光の第3パルスエネルギは、例えば、0.6μJ以上1.8μJ以下が好ましい。第4改質部r4を形成するためのレーザ光の第4パルスエネルギは、例えば、1.8μJ以上2.8μJ以下が好ましい。これにより、第3集光領域におけるレーザ光の半導体層20への影響を抑えつつ、第3改質部r3及び第4改質部r4を形成するために十分なレーザ光のエネルギーを第3集光領域及び第4集光領域に与えることができる。
【0072】
レーザ光による半導体層20の電気特性の悪化を低減するために、第3照射工程において、レーザ光を、半導体層20が配置された第1面11よりも第2面12に近い位置に照射して第3改質部r3を形成することが好ましい。
【0073】
第3照射工程において、第2方向mに沿って第3間隔P3でレーザ光を照射して複数の第3改質部r3を形成し、第4照射工程において、第3間隔P3よりも広い第4間隔P4で第2方向mに沿ってレーザ光を照射して複数の第4改質部r4を形成することができる。
【0074】
第4改質部r4の厚さ方向zの長さL4が第3改質部r3の厚さ方向zの長さL3よりも長くなるように第4改質部r4を形成すると、第4改質部r4の第2方向mの長さも第3改質部r3の第2方向mの長さよりも長くなりやすくなる。すなわち、第4改質部r4の第2方向mにおける長さを、第3改質部r3の第2方向mにおける長さよりも長くすることができる。従って、第4改質部r4のサイズが大きくなるため、破断強度を高くすることができる。
【0075】
この場合、複数の第3改質部r3の第3間隔P3と、複数の第4改質部r4の第4間隔P4とを同じにすると、第4改質部r4の方が第3改質部r3よりも第2方向mの長さが長いことから、複数の第4改質部r4同士が第2方向mにおいて重なりやすくなる。第2方向mにおいて、複数の第4改質部r4同士が密に並ぶと、亀裂の発生により応力が解放された第4改質部r4のすぐ近くに第4改質部r4があることから応力が発生しにくくなり、亀裂が伸展しにくくなる。そのため、複数の第4改質部r4の第4間隔P4は、複数の第3改質部r3の第3間隔P3よりも広くすることが好ましい。
【0076】
第4改質部r4からの亀裂は、厚さ方向zにおいて第2面12に向かって伸展するとともに、レーザ光の走査方向(この場合、第2方向m)にも伸展する。さらに、亀裂は、第2面12に平行な面内において、レーザ光の走査方向(第2方向m)に交差する方向にも伸展し得る。複数の第4改質部r4同士が密に並ぶと、第2面12に平行な面内において、レーザ光の走査方向(第2方向m)以外の方向に伸びる亀裂同士が繋がりやすくなり、亀裂が蛇行する。第2面12側における第4改質部r4から伸展する亀裂の蛇行は、後述する分離工程におけるサファイア基板10の欠けの原因になる。また、第2面12に反射膜がある場合には、第2面12側における亀裂の蛇行は、反射膜の欠けの原因にもなる。そこで、第2面12側における亀裂の蛇行を低減するため、複数の第4改質部r4の第4間隔P4は、複数の第3改質部r3の第3間隔P3よりも広くすることが好ましい。
【0077】
また、第3改質部r3のサイズ及び第4改質部r4を形成するためのレーザ光のパルスエネルギが必要以上に大きくなるのを抑えつつ、破断強度を高くするために、第4改質部r4の厚さ方向zにおける長さL4は、第3改質部r3の厚さ方向zにおける長さL3の1.3倍以上3倍以下にすることが好ましい。
【0078】
サファイア基板10において、改質部からの亀裂は、m軸方向(第2方向m)よりもa軸方向(第1方向a)に沿って伸展しやすい。そのため、第2照射工程において、第4間隔P4よりも広い第2間隔P2でレーザ光を照射して複数の第2改質部r2を形成することで、a軸方向(第1方向a)に沿って並ぶ第2改質部r2からの亀裂が蛇行せずに、a軸方向(第1方向a)に繋がりやすくなる。これにより、サファイア基板10の欠けや、第2面12に反射膜がある場合における反射膜の欠けを低減することができる。
【0079】
<ウェーハWの分離工程>
レーザ光照射工程の後、ウェーハWの分離工程が行われる。例えば、第1面11側からサファイア基板10を押圧部材で押圧する。第2面12側からサファイア基板10を押圧部材で押圧してもよい。押圧部材は、例えば、分離予定ラインLに沿って延びるブレード形状の部材である。この押圧部材の押圧力を第1面11側から受けたサファイア基板10は、改質部r1~r4から伸展した亀裂を起点として割れる。
【0080】
例えば、まず第2方向mに沿って延びる分離予定ラインLに沿ってウェーハWを割断し、図7Aに示すように、ウェーハWを第2方向mに延びる形状を有する複数の基体50に分離する。この後、第1方向aに沿って延びる分離予定ラインLに沿って基体50を割断し、図7Bに示すように、ウェーハWを複数の発光素子1に分離する。なお、先に第1方向aに沿った割断を行い、その後、第2方向mに沿った割断を行ってもよい。
【0081】
分離された個々の発光素子1の側面には、前述した改質部r1~r4が露出する。
【0082】
図10は、第1実施形態により製造された発光素子1の断面図である。図10には、サファイア基板10における第2方向m及び厚さ方向zに平行な断面を示す。サファイア基板10の第1方向aに沿った割断により露出した側面14は、図10において紙面を貫く方向に延びている。
【0083】
発光素子1は、サファイア基板10と、サファイア基板10の第1面11上に配置された半導体層20と、第1電極51と、第2電極52とを備える。半導体層20は第1半導体層201と、活性層202と、第2半導体層203とを第1面11側から順に備える。第1半導体層201は例えばn型であり、第2半導体層203は例えばp型である。第1電極51は第1半導体層201に電気的に接続するように形成されており、第2電極52は第2半導体層203に電気的に接続するように形成されている。また、発光素子1は、半導体層20を覆う保護膜40を備えることができる。保護膜40は、絶縁膜である。
【0084】
サファイア基板10の側面14には、第1改質部r1が露出する第1領域と、第2改質部r2が露出する第2領域がある。例えば、サファイア基板10の側面14において、改質部が露出する領域は、改質部が形成されていない部分よりも表面粗さが大きい部分である。また、サファイア基板10において、改質部は、改質部が形成されていない部分よりも光透過性が低い部分である。第1改質部r1が露出する第1領域は、第1面11及び第2面12から離れた位置で、第1方向aに沿って延びる。第2改質部r2が露出する第2領域は、第1領域と第2面12の間であって第2面12から離れた位置で、第1方向aに沿って延びる。第1領域及び第2領域は、サファイア基板10の厚さ方向zにおいて、第1面11よりも第2面12に近い側に位置する。
【0085】
サファイア基板10の側面14のうち第1領域と第2領域が形成されていない部分は、比較的表面粗さが小さい平坦領域であり、第1領域及び第2領域の表面粗さは、平坦領域の表面粗さよりも大きい。サファイア基板10の側面14の表面粗さは、例えば、レーザ顕微鏡により測定することができる。例えば、第1領域及び第2領域の表面粗さは、Rzが3μm以上7μm以下である。例えば、平坦領域の表面粗さは、Rzが0.1μm以上2.5μm以下である。
【0086】
次に、第1実施形態による発光素子の製造方法を実施した実施例について説明する。
【0087】
<実施例>
厚さが140μmのサファイア基板10を用いた。まず第1照射工程において、サファイア基板10のa軸方向及びm軸方向に沿って、サファイア基板10の内部における第2面12からの第1距離D1が58μmの位置にレーザ光を照射して、複数の第1改質部r1を形成した。第1照射工程の後、第2照射工程において、サファイア基板10のa軸方向及びm軸方向に沿って、サファイア基板10の内部における第2面12からの第2距離D2が26μmの位置にレーザ光を照射して、複数の第2改質部r2を形成した。第1照射工程においては、理想集光状態となるようにレーザ光の収差補正を行った。第2照射工程においては、補正無しの状態よりも第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さが長くなるようにレーザ光の収差補正を行い、第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さL2が、第1改質部r1の厚さ方向zにおける長さL1よりも長くなるようにした。第1改質部r1を形成するためのレーザ光の第1パルスエネルギは1.2μJであり、第2改質部r2を形成するためのレーザ光の第2パルスエネルギは2.5μJである。複数の第1改質部r1の第1間隔P1は1.5μmであり、複数の第2改質部r2の第2間隔P2は3.5μmである。この実施例と参照例とで、破断強度及び外観不合格率を比較した。
【0088】
<参照例>
参照例においても、厚さが140μmのサファイア基板10を用いた。参照例の第1照射工程において、サファイア基板10のa軸方向及びm軸方向に沿って、サファイア基板10の内部における第2面12からの第1距離D1が58μmの位置にレーザ光を照射して、複数の第1改質部r1を形成した。第1照射工程の後、第2照射工程において、サファイア基板10のa軸方向及びm軸方向に沿って、サファイア基板10の内部における第2面12からの第2距離D2が26μmの位置にレーザ光を照射して、複数の第2改質部r2を形成した。参照例においては、第1照射工程及び第2照射工程において、理想集光状態となるように収差補正を行い、第1改質部r1の厚さ方向zにおける長さL1と第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さL2が等しくなるようにした。参照例において、第1改質部r1を形成するためのレーザ光の第1パルスエネルギ、及び第2改質部r2を形成するためのレーザ光の第2パルスエネルギは同じであり、共に1.4μJである。また、参照例において、複数の第1改質部r1の第1間隔P1、及び複数の第2改質部r2の第2間隔P2は同じであり、共に3.0μmである。
【0089】
実施例の上記レーザ光照射工程後の破断強度(N)は、参照例の上記レーザ光照射工程後の破断強度(N)の約1.6倍であった。実施例の上記レーザ光照射工程後の外観不合格率は、参照例の上記レーザ光照射工程後の外観不合格率の約1/8であった。なお、サファイア基板10の第1面11側の保護膜に欠けが発生した場合を、外観不合格とした。
【0090】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態のレーザ光照射工程について説明する。
【0091】
第2実施形態のレーザ光照射工程は、第1照射工程の後であって、第2照射工程の前に、第5照射工程をさらに有する。なお、第5照射工程は、第3照射工程の後であって、第4照射工程の前に行ってもよい。
【0092】
以下の説明では、第1照射工程の後であって、第2照射工程の前に、第5照射工程を行う例について、図6を参照して説明する。第1照射工程及び第2照射工程は、第1実施形態と同様に行われる。なお、第2実施形態では、第1照射工程において、理想集光状態になるような収差補正を行うことで、レーザ光の集光領域の厚さ方向における長さを収差補正をしていないレーザ光の集光領域の厚さ方向における長さよりも短くして、第1改質部r1を形成する。また、第2実施形態では、第2照射工程において、図8Bに示す弱補正の集光状態となるようにすることによって、厚さ方向の長さが第1改質部r1よりも長い第2改質部r2を形成する。第2照射工程において、弱補正の集光状態となるようにすることによって、第2面12側における亀裂の蛇行を低減しつつ、破断強度を向上することができる。
【0093】
第1照射工程により複数の第1改質部r1を形成した後、第5照射工程において、第1方向aに沿ってレーザ光を照射し、厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第1距離D1よりも短く、第2距離D2よりも長い位置に、複数の第1改質部r1と厚さ方向zに並ぶ複数の第5改質部を第1方向aに沿って形成する。
【0094】
第2面12からの距離が第1距離D1よりも短く、第2距離D2よりも長い位置に形成される第5改質部は、第2面12からの距離がそれぞれ異なる位置に形成される改質部r5、r6、r7のうちの少なくともいずれかを含む。
【0095】
図6に示す例では、複数の第1改質部r1を形成した後、第1方向aに沿ってレーザ光を照射し、厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第1距離D1よりも短い第5距離D5の位置に、複数の改質部r5を第1方向aに沿って形成する。第5距離D5は、断面視において、第2面12から改質部r5の中心までの距離である。複数の改質部r5を、複数の第1改質部r1と厚さ方向zに並ぶように第1方向aに沿って形成する。複数の第5改質部r5と、複数の第1改質部r1とは、上面視において重なるように形成される。
【0096】
複数の改質部r5を形成した後、第1方向aに沿ってレーザ光を照射し、厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第5距離D5よりも短い第6距離D6の位置に、複数の改質部r6を第1方向aに沿って形成する。第6距離D6は、断面視において、第2面12から改質部r6の中心までの距離である。複数の改質部r6を、複数の第1改質部r1及び複数の改質部r5と厚さ方向zに並ぶように第1方向aに沿って形成する。
【0097】
複数の改質部r6を形成した後、第1方向aに沿ってレーザ光を照射し、厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第6距離D6よりも短い第7距離D7の位置に、複数の改質部r7を第1方向aに沿って形成する。第7距離D7は、断面視において、第2面12から改質部r7の中心までの距離である。複数の改質部r7を、複数の第1改質部r1、複数の改質部r5、及び複数の改質部r6と厚さ方向zに並ぶように第1方向aに沿って形成する。
【0098】
複数の改質部r7を形成した後、第1方向aに沿ってレーザ光を照射し、厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第7距離D7よりも短い第2距離D2の位置に、複数の第2改質部r2を第1方向aに沿って形成する。
【0099】
第2実施形態の第2照射工程において、第2改質部r2の厚さ方向zにおける長さが、改質部r5~r7のそれぞれの厚さ方向zにおける長さよりも長くなるように、第2改質部r2を形成する。
【0100】
第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同じ効果の他に、さらに以下に説明する効果が得られる。
【0101】
サファイア基板10の厚さ方向zにおいて第2面12からの距離が第1距離D1よりも短く、第2距離D2よりも長い位置に、複数の第1改質部r1と厚さ方向zに並ぶ複数の第5改質部を第1方向aに沿って形成することで、各改質部から発生する亀裂を厚さ方向zに繋げやすくなり、サファイア基板10が厚い場合であってもサファイア基板10の割断を容易にできる。ここで、サファイア基板10が厚いとは、例えば、サファイア基板10の厚みが400μm以上の場合を意味する。また、第2実施形態においては、各レーザ光照射工程において、レーザ光のパルスエネルギを、例えば、3μJ以上9μJ以下とすることができる。
【0102】
さらに、第2実施形態によれば、サファイア基板10の内部における同じ位置に対する複数回のレーザ光照射により、1つの改質部を形成する。例えば、第1改質部r1を形成する位置にレーザ光を照射しつつ第1方向aに沿った走査を2回繰り返して、複数の第1改質部r1を形成する。第1改質部r1を形成した後、改質部r5を形成する位置にレーザ光を照射しつつ第1方向aに沿った走査を2回繰り返して、複数の改質部r5を形成する。改質部r5を形成した後、改質部r6を形成する位置にレーザ光を照射しつつ第1方向aに沿った走査を2回繰り返して、複数の改質部r6を形成する。改質部r6を形成した後、改質部r7を形成する位置にレーザ光を照射しつつ第1方向aに沿った走査を2回繰り返して、複数の改質部r7を形成する。改質部r7を形成した後、第2改質部r2を形成する位置にレーザ光を照射しつつ第1方向aに沿った走査を2回繰り返して、複数の第2改質部r2を形成する。
【0103】
1つの改質部を2回のレーザ光照射で形成することで、2回目のレーザ光照射において、1回目のレーザ光照射で発生した亀裂を厚さ方向zにおいて蛇行が低減されたまま伸展させやすくできる。
【0104】
第1改質部r1、及び第5改質部r5~r7のそれぞれを形成するレーザ光照射において、1回目と2回目のレーザ光のパルスエネルギは同じであり、1回目と2回目の第1方向aにおける照射間隔も同じである。
【0105】
第2改質部r2を形成するレーザ光照射において、1回目と2回目のレーザ光のパルスエネルギは同じ、または、2回目のレーザ光のパルスエネルギが1回目のレーザ光のパルスエネルギよりも高い。また、第2改質部r2を形成するレーザ光照射において、1回目の第1方向aにおける照射間隔は、2回目の第1方向aにおける照射間隔よりも広い。このようにレーザ光を照射することで、1回目のレーザ光照射によって形成された亀裂を2回目のレーザ光照射により効率よく伸展させることができる。
【0106】
図9は、上記各実施形態における各改質部を形成するためのレーザ光のサファイア基板内における集光領域Rの形状の一例を示す断面図である。図9における縦方向はサファイア基板10の厚さ方向であり、図9に示す集光領域Rの形状は、サファイア基板10の厚さ方向に平行な断面視における形状である。また、図9に示す矢印Sは、レーザ光の走査方向を表す。
【0107】
例えば、空間光変調器の液晶層に表示する変調パターンを調整することにより、集光領域Rの形状を調整することができる。図9に示す例では、集光領域Rの形状が、レーザ光の走査方向Sの逆方向に向かって凸となる弧状に調整している。集光領域Rの形状を、レーザ光の走査方向Sの逆方向に向かって凸となる弧状に調整することで、複数の集光領域の形状を走査方向S及びその逆方向において対称にした場合に比べて、改質部からの亀裂を伸展しやすくできる。第1照射工程、第2照射工程、第3照射工程、第4照射工程、及び、第5照射工程において、集光領域Rの形状を、レーザ光の走査方向Sの逆方向に向かって凸となる弧状とすることができる。集光領域Rの形状を、レーザ光の走査方向Sの逆方向に向かって凸となる弧状とすることで、さらに改質部からの亀裂を伸展しやすくできる。集光領域Rの形状を、レーザ光の走査方向Sの逆方向に向かって凸となる弧状とする場合、レーザ光を照射する間隔を1μm以上4μm以下とすることが好ましく、さらに改質部からの亀裂を伸展しやすくできる。また、第1照射工程、第3照射工程、及び、第5照射工程においては、レーザ光を照射する間隔を1μm以上2.5μm以下とすることが好ましい。また、第2照射工程及び第4照射工程においては、レーザ光を照射する間隔を2μm以上4μm以下とすることが好ましい。
【0108】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。本発明の上述した実施形態を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての形態も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0109】
1…発光素子、10…サファイア基板、11…第1面、12…第2面、20…半導体層、r1…第1改質部、r2…第2改質部、r3…第3改質部、r4…第4改質部、r5…第5改質部、W…ウェーハ
図1
図2
図3
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図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10