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特許7474245コリネバクテリウム宿主細胞における操作した分解タグ変異体による制御可能なタンパク質分解
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】コリネバクテリウム宿主細胞における操作した分解タグ変異体による制御可能なタンパク質分解
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240417BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240417BHJP
   C12N 15/77 20060101ALN20240417BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P21/02 C
C12N15/77 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021515020
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 US2019052032
(87)【国際公開番号】W WO2020061385
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】62/733,521
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516131979
【氏名又は名称】コナゲン インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ティフ,イリア
(72)【発明者】
【氏名】クラークソン,ソニヤ
(72)【発明者】
【氏名】ダセル,ブレンドン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィック,ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,シャオダン
(72)【発明者】
【氏名】サラス-サンチアゴ,ブライアン
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-502326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0070870(US,A1)
【文献】特表2017-517268(JP,A)
【文献】Journal of Bacteriology,2014年,Vol.196, No.23,p.4140-4151
【文献】Microbial Biotechnology,2012年,Vol.6, No.2,p.196-201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12P 21/02
C12N 15/77
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の分解タグを発現するように組換え操作されたコリネバクテリウム種宿主細胞であって、前記第1の分解タグが、アダプター結合領域、任意のスペーサー領域、及びプロテアーゼ認識領域を含み、前記第1の分解タグのC末端の最後の3個のアミノ酸配列が、DAS、DQP、及びKPSからなる群から選択され、前記第1の分解タグの前記アダプター結合領域が、配列番号4と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTrfAアダプタータンパク質を特異的に結合する、コリネバクテリウム種宿主細胞。
【請求項2】
前記第1の分解タグの前記プロテアーゼ認識領域が、TrfAアダプタータンパク質が存在する場合にClpCP、ClpXP及びClpAPからなる群から選択されるプロテアーゼにより前記第1の分解タグによりタグ付けされた標的タンパク質が分解されることを可能にする、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項3】
前記第1の分解タグが、配列番号30のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項4】
前記第1の分解タグが、配列番号28のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項5】
前記第1の分解タグが、配列番号24又は配列番号26のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項6】
第2の分解タグを発現するようにさらに組換え操作され、前記第2の分解タグが、アダプター結合領域、任意のスペーサー領域、及びプロテアーゼ認識領域を含み、前記第2の分解タグのC末端の最後の3個のアミノ酸配列が、DAS、DQP、KPS、DGA、及びDGSからなる群から選択され、前記第2の分解タグの前記アダプター結合領域が、配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むSspBアダプタータンパク質を特異的に結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項7】
前記第2の分解タグの前記プロテアーゼ認識領域が、SspBアダプタータンパク質が存在する場合にClpCP、ClpXP及びClpAPからなる群から選択されるプロテアーゼにより前記第2の分解タグによりタグ付けされた標的タンパク質が分解されることを可能にする、請求項6に記載の宿主細胞。
【請求項8】
前記第2の分解タグが、配列番号16又は配列番号18のアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の宿主細胞。
【請求項9】
前記第2の分解タグが、配列番号14又は配列番号20のアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の宿主細胞。
【請求項10】
前記第2の分解タグが、配列番号10又は配列番号12のアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の宿主細胞。
【請求項11】
コリネバクテリウム種宿主細胞における第1の標的タンパク質の分解を制御する方法であって、前記宿主細胞が、第1の分解タグを発現するようにかつ第1の異種生合成経路を介し第1の生成物を生成するように組換え操作されており、
前記第1の標的タンパク質をタグ付けするように適合された第1の分解タグを発現すること;
所望の成長速度が達されるまで前記宿主細胞を成長させること;及び
TrfAアダプタータンパク質の発現を誘導することであって、前記TrfAアダプタータンパク質が、配列番号4と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、誘導すること
を含み、
前記宿主細胞中に存在する前記第1の標的タンパク質の量が、TrfAアダプタータンパク質の発現が誘導される後に少なくとも約20%減少し、かつそのような減少が、ClpCP、ClpXP及びClpAPからなる群から選択されるプロテアーゼによる分解により引き起こされ、
前記第1の分解タグのC末端の最後の3個のアミノ酸配列が、DAS、DQP、及びKPSからなる群から選択される、方法。
【請求項12】
前記第1の標的タンパク質が、前記宿主細胞の成長に必須なタンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の標的タンパク質の存在が、前記第1の生成物を生成するための前記第1の異種生合成経路において負のフィードバックとして機能する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の標的タンパク質が、前記第1の生成物を代謝し、それにより前記第1の生成物の収集可能な量を低下させる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
TrfAアダプタータンパク質の発現が、温度変化、pH変化、光への暴露により及び/又は宿主細胞内の所与の分子レベルを変化させることにより誘導される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記宿主細胞が、第2の分解タグを発現するようにかつ第2の異種生合成経路を介し第2の生成物を生成するようにさらに組換え操作されており
2の標的タンパク質をタグ付けするために前記第2の分解タグを発現すること;
所望の成長速度が達されるまで前記宿主細胞を成長させること;及び
SspBアダプタータンパク質の発現を誘導することであって、前記SspBアダプタータンパク質が、配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、誘導すること
をさらに含み、
前記宿主細胞中に存在する前記第2の標的タンパク質の量が、前記SspBアダプタータンパク質の発現が誘導される後に少なくとも約20%減少し、かつそのような減少が、ClpCP、ClpXP及びClpAPからなる群から選択されるプロテアーゼによる分解により引き起こされ、
前記第2の分解タグのC末端の最後の3個のアミノ酸配列が、DAS、DQP、KPS、DGA、及びDGSからなる群から選択される、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の標的タンパク質が、前記宿主細胞の成長に必須なタンパク質である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の標的タンパク質の存在が、前記第2の生成物を生成するための前記第2の異種生合成経路における負のフィードバックとして機能する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の標的タンパク質が、前記第2の生成物を代謝し、それにより前記第2の生成物の収集可能な量を低下させる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記SspBアダプタータンパク質の発現が、温度変化、pH変化、光への暴露により及び/又は宿主細胞内の所与の分子レベルを変化させることにより誘導される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2018年9月19日出願の米国仮特許出願第62/733,521号の優先権を主張するものであり、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、微生物の遺伝子及び組換えDNA技術の分野に関する。本教示は、細菌細胞、具体的にはコリネバクテリウム種においてタンパク質分解を制御可能に誘導及び調節するのに有用なポリヌクレオチド配列、ポリペプチド配列、ベクター、微生物、及び方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
改変されていない細胞において、細胞生活環の異なる点で存在するタンパク質の量は、タンパク質合成のみならず、タンパク質分解の関数である。これを念頭に置いて、細胞内のタンパク質の半減期は数分から数日まで広く変化すること、及びタンパク質分解の差動的な速度は細胞調節装置の重要な態様であることは驚くことではない。例えば、転写因子などの調節分子は急速に分解されて、細胞がその環境において状態を変化させるために迅速に応答するのを可能にする。他のタンパク質は、特異的な代謝シグナルに応答して急速に分解され、細胞内酵素活性の調節のための別の機構を提供する。加えて、欠陥又は損傷したタンパク質が認識され細胞内で迅速に分解され、それによりタンパク質合成中に生じる誤りの結果を排除又は制限する。
【0004】
細菌システムでは、タンパク質分解が起こり、損傷した及び/又は誤って折り畳まれたタンパク質を除去する。この能力で機能するシステムは、ssrA媒介タグ化分解システムである。ssrAタグは、翻訳中にストールされたタンパク質のC末端に付加される11個のアミノ酸ペプチドであり、プロテアーゼClpXP及びClpApによる分解のためのタンパク質を標的とする。ssrAタグは、ClpXに対する特異性増強因子(アダプタータンパク質としても知られている)であるSspBと相互作用する。SspB及びClpXは共に働き、タンパク質分解のためのssrAタグ付き基質を認識する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、天然のタンパク質分解システムは、タンパク質分解がssrA媒介タグ化のみによって誘発され得るので、効率的に機能しすぎる場合が多い。したがって、当技術は、特異的基質の分解速度及び特異的代謝相における分解の時期に対するより良い制御を含む、タンパク質分解をより良好に制御できる改良された方法を探索する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、操作された微生物によって生成される所望の生成物の力価及び/又は収率を増加させる改良された方法を包含する。このような増強は、標的酵素の分解を誘導することによって達成され、ここで標的酵素は所望の生成物を代謝するか、又は標的酵素は、所望の生成物を生成するために使用される合成経路のための負のフィードバックとして機能する。標的酵素は、微生物の増殖期の必須酵素であり得るので、標的酵素の分解は、細胞成長が安定化するまで顕著に起こらないことが重要である。微生物の成長を遅くする又は停止させることができると、その後、標的酵素の分解を誘導できる。本発明は、アダプタータンパク質及び分解タグを含む異種タンパク質分解システムを発現するように微生物を組換え操作することによりこの目的を達成し、ここでアダプタータンパク質の発現は、タンパク質分解を誘発するために所望の時点で誘導できる。
【発明の効果】
【0007】
したがって、一態様では、本発明は、アダプタータンパク質及び分解タグを含む異種タンパク質分解システムを発現するように組換え操作された微生物を提供する。いくつかの実施形態では、微生物はコリネバクテリウム種の宿主細胞である。ある実施形態では、微生物はコリネバクテリウム・グルタミカムである。いくつかの実施形態では、異種タンパク質分解システムは、黄色ブドウ球菌又はその機能的変異体から得られるアダプタータンパク質を含む。例えば、アダプタータンパク質は、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTrfAアダプタータンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、異種タンパク質分解システムは、5'から3'方向に、アダプター結合領域、任意のスペーサー領域、及びプロテアーゼ認識領域を含む分解タグを含み、アダプター結合領域は、TrfAアダプタータンパク質を特異的に結合する。分解タグのプロテアーゼ認識領域は、分解タグによりタグ付けされた標的タンパク質がClpCP、ClpXP、又はClpAPなどのプロテアーゼにより認識されることを可能にする。好ましい実施形態では、プロテアーゼは、宿主細胞において天然のプロテアーゼである。特に、顕著な分解は、TrfAアダプタータンパク質の発現が誘導され、TrfAアダプタータンパク質が分解タグのアダプター結合領域に結合するまで起こらない。言い換えると、本発明の異種タンパク質分解システムは、(1)標的タンパク質が本発明による分解タグによりタグ付けされる時、及び(2)対応するアダプタータンパク質の発現を誘導する時、にのみ標的タンパク質の顕著な分解が起こることを確実にする。例えば、顕著な分解は、標的タンパク質の量がアダプタータンパク質の発現前と比較して、アダプタータンパク質が誘導された後に少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%低下されることを観察することにより、測定できる。
【0008】
種々の実施形態では、本教示による分解タグは、配列番号22のアミノ酸配列を有する黄色ブドウ球菌分解タグのバリアントである。より具体的には、本発明の分解タグバリアントは、そのC末端の最後の3個のアミノ酸として、DQP、KPS、DGA、DGS、DQA、KNP、QPS、MKP、DQS、及びHPPからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。例えば、本発明の分解タグバリアントは、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、又は配列番号58のアミノ酸配列を含んでよい。ある実施形態では、本発明の分解タグバリアントは、配列番号30又は配列番号32のアミノ酸配列を含んでよい。ある実施形態では、本発明の分解タグバリアントは、配列番号28、配列番号34、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、又は配列番号58のアミノ酸配列を含んでよい。ある実施形態では、本発明の分解タグバリアントは、配列番号24又は配列番号26のアミノ酸配列を含んでよい。
【0009】
いくつかの実施形態では、本発明は、大腸菌又はその機能的変異体から得られるアダプタータンパク質を含む異種タンパク質分解システムを発現するように組換え操作された微生物を提供する。例えば、アダプタータンパク質は、配列番号2に少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むSspBアダプタータンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、異種タンパク質分解システムは、5'から3'方向に、アダプター結合領域、任意のスペーサー領域、及びプロテアーゼ認識領域を含む分解タグを含み、ここでアダプター結合領域は、SspBアダプタータンパク質を特異的に結合する。分解タグのプロテアーゼ認識領域は、分解タグによりタグ付けされた標的タンパク質が、ClpCP、ClpXP、又はClpAPなどのプロテアーゼにより認識されることを可能にする。好ましい実施形態では、プロテアーゼは、宿主細胞において天然のプロテアーゼである。特に、顕著な分解は、SspBアダプタータンパク質の発現が誘導され、かつSspBアダプタータンパク質が分解タグのアダプター結合領域に結合するまで起こらない。例えば、顕著な分解は、標的タンパク質の量がアダプタータンパク質の発現前と比較して、アダプタータンパク質が誘導された後に少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%低下されることを観察することにより、測定できる。
【0010】
種々の実施形態では、本教示による分解タグは、配列番号8のアミノ酸配列を有する大腸菌分解タグのバリアントである。より具体的には、本発明の分解タグバリアントは、そのC末端の最後の3個のアミノ酸として、DQP、KPS、DGA、DGS、DQA、KNP、QPS、MKP、DQS、及びHPPからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。例えば、本発明の分解タグバリアントは、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、又は配列番号46のアミノ酸配列を含んでよい。ある実施形態では、本発明の分解タグバリアントは、配列番号16又は配列番号18のアミノ酸配列を含んでよい。ある実施形態では、本発明の分解タグバリアントは、配列番号14、配列番号20、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、又は配列番号46のアミノ酸配列を含んでよい。ある実施形態では、本発明の分解タグバリアントは、配列番号10又は配列番号12のアミノ酸配列を含んでよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、2つの別々の異種タンパク質分解システム、具体的には、第1のアダプタータンパク質及び第1の分解タグバリアントを含む第1のタンパク質分解システムと、第2のアダプタータンパク質及び第2の分解タグバリアントを含む第2のタンパク質分解システムを発現するように組換え操作された微生物を提供する。第1及び第2の異種タンパク質分解システムは、それぞれが異なる標的タンパク質を標的とし、かつ最小のクロストークがあるように、直交して機能でき、例えば、第1のアダプタータンパク質は、第2の分解タグバリアントによって認識されるプロテアーゼを標的とせず、逆もまたそうである。
【0012】
このような実施形態によれば、第1のアダプタータンパク質は、黄色ブドウ球菌から得ることができるか、又はその機能的変異体であり得る。例えば、第1のアダプタータンパク質は、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTrfAアダプタータンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、第1の分解タグバリアントは、5'から3'方向に、アダプター結合領域、任意のスペーサー領域、及びプロテアーゼ認識領域を含んでよく、アダプター結合領域はTrfAアダプタータンパク質を特異的に結合する。分解タグのプロテアーゼ認識領域は、分解タグによりタグ付けされた標的タンパク質が、ClpCP、ClpXP、又はClpAPなどのプロテアーゼにより認識されることを可能にする。第1の分解タグは、配列番号22のアミノ酸配列を有する黄色ブドウ球菌分解タグのバリアントであり得る。より具体的には、第1の分解タグバリアントは、そのC末端の最後の3個のアミノ酸として、DQP、KPS、DGA、DGS、DQA、KNP、QPS、MKP、DQS、及びHPPからなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでよい。例えば、第1の分解タグバリアントは、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、又は配列番号58のアミノ酸配列を含んでよい。第2のアダプタータンパク質は、大腸菌から得ることができるか、又はその機能的変異体であり得る。例えば、第2のアダプタータンパク質は、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むSspBアダプタータンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、第2の分解タグは、5'から3'方向に、アダプター結合領域、任意のスペーサー領域、及びプロテアーゼ認識領域を含んでよく、アダプター結合領域はSspBアダプタータンパク質を特異的に結合する。分解タグのプロテアーゼ認識領域は、分解タグによってタグ付けされた標的タンパク質が、ClpCP、ClpXP、又はClpAPなどのプロテアーゼにより認識されることを可能にする。第2の分解タグは、配列番号8のアミノ酸配列を有する大腸菌分解タグのバリアントであり得る。より具体的には、第2の分解タグバリアントは、そのC末端の最後の3個のアミノ酸として、DQP、KPS、DGA、DGS、DQA、KNP、QPS、MKP、DQS、及びHPPからなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでよい。例えば、第2の分解タグバリアントは、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、又は配列番号46のアミノ酸配列を含んでよい。
【0013】
本発明の別の態様は、コリネバクテリウム種の宿主細胞などの微生物における第1の標的タンパク質の分解を制御する方法を提供し、ここで宿主細胞は、第1のアダプタータンパク質及び第1の分解タグバリアントを含む第1の異種タンパク質分解システムを発現するように組換え操作されており、宿主細胞はまた、第1の異種生合成経路を介して第1の生成物を生成するように組換え操作されている。本方法は、(i)第1の標的タンパク質をタグ付けするように適合された第1の分解タグバリアントを発現すること、(ii)所望の成長速度に達するまで宿主細胞を成長させること、(iii)第1のアダプタータンパク質の発現を誘導すること、を含んでよく、ここで第1のアダプタータンパク質は、配列番号4と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むTrfAアダプタータンパク質であり得る。TrfAアダプタータンパク質の発現が誘導された後に、宿主細胞中に存在する第1の標的タンパク質の量は、少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%減少し得る。この減少は、ClpCP、ClpXP及びClpAPからなる群から選択されるプロテアーゼによる分解により引き起こされ得る。
【0014】
種々の実施形態では、第1の標的タンパク質は、宿主細胞の成長に必須のタンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、第1の標的タンパク質の存在は、第1の生成物を生成するための第1の異種生合成経路における負のフィードバックとして機能できる。他の実施形態では、第1の標的タンパク質は、第1の生成物を代謝し、それにより第1の生成物の収集可能な量を低下させることができる。
【0015】
種々の実施形態では、TrfAアダプタータンパク質の発現は、温度変化、pH変化、光への暴露及び/又は宿主細胞内の所与の分子のレベルを変化させることにより誘導できる。種々の実施形態では、第1の分解タグのC末端の最後の3個のアミノ酸配列は、DQP、KPS、DGA、DGS、DQA、KNP、QPS、MKP、DQS、及びHPPからなる群から選択できる。
【0016】
いくつかの実施形態では、本方法は、第2のアダプタータンパク質及び第2の分解タグバリアントを含む第2のタンパク質分解システムを発現するようにさらに組換え操作された宿主細胞を含み、宿主細胞もまた、第2の異種生合成経路を介して第2の生成物を生成するように組換え操作されている。本方法は、(iv)第2の標的タンパク質をタグ付けするように適合された第2の分解タグバリアントを発現すること、及び(v)宿主細胞が所望の成長速度に達した後に、第2のアダプタータンパク質の発現を誘導すること、を含んでよく、ここで第2のアダプタータンパク質は、配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むSspBアダプタータンパク質であり得る。
【0017】
SspBアダプタータンパク質の発現が誘導された後に、宿主細胞中に存在する第2の標的タンパク質の量は、少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%減少し得る。この減少は、ClpCP、ClpXP及びClpAPからなる群から選択されるプロテアーゼによる分解により引き起こされ得る。
【0018】
種々の実施形態では、第2の標的タンパク質は、宿主細胞の成長に必須なタンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、第2の標的タンパク質の存在は、第2の生成物を生成するための第2の異種生合成経路において負のフィードバックとして機能できる。他の実施形態では、第2の標的タンパク質は、第2の生成物を代謝し、それによって、第2の生成物の収集可能な量を低下させることができる。
【0019】
種々の実施形態では、SspBアダプタータンパク質の発現は、温度変化、pH変化、光への暴露及び/又は宿主細胞内の所与の分子のレベルを変化させることにより誘導できる。種々の実施形態では、第2の分解タグのC末端の最後の3個のアミノ酸配列は、DQP、KPS、DGA、DGS、DQA、KNP、QPS、MKP、DQS、及びHPPからなる群から選択できる。
【0020】
種々の実施形態では、第1の生成物及び/又は第2の生成物は、メチオニン、グルタミン酸、リジン、スレオニン、イソロイシン、アルギニン、及びシステインからなる群から選択されるアミノ酸であり得る。ある実施形態では、第1の生成物及び/又は第2の生成物は、L-メチオニン、L-グルタミン酸、L-リジン、L-スレオニン、L-イソロイシン、L-アルギニン、及びL-システインからなる群から選択されるL-アミノ酸であり得る。
【0021】
本開示は、種々の修正及び代替形態を受けやすいが、その具体的な実施形態は、例として図面に示され、本明細書で詳細に説明される。しかし、本明細書に提示される図面及び詳細な説明は、開示された特定の実施形態に本開示を限定することを意図するものではなく、反対に、意図は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨及び範囲内に入る全ての修正、均等物、及び代替物をカバーすることであることを理解すべきである。
【0022】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明において明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、どのように分解タグ20が標的タンパク質10に作動可能に連結されるかを示す。分解タグは通常、標的タンパク質のC末端付近に配置される。分解タグ20は、アダプター結合領域202と、オプションのスペーサー領域204と、プロテアーゼ認識領域206とを含む。
図2図2は、どのようにssrA分解タグ(野生型大腸菌)及びそのバリアント(すなわち、合成で生成されたClpプロテアーゼ認識配列を有するもの)が、タグ付けされた標的タンパク質の分解に対して異なる調節効果を有し得るか、かつどのようにアダプタータンパク質SspB(大腸菌由来)の発現を誘導しかつssrA分解タグ及びそのバリアントの使用と対にして、タグ付けされた標的タンパク質の分解を動的に制御することをさらに可能にするかを実証する。具体的には、レポータータンパク質mCherryを標的タンパク質として使用し、その蛍光シグナルを測定して定量的な比較を可能にした。タグ付きmCherryで得られた蛍光測定値を、野生型mCherryで得られた蛍光測定値に対して正規化した(左側の最初の2つのバー)。各データセットは、SspBの誘導なし(左)及びSspBの誘導あり(右)での測定を含む。図2で、mCherryの遺伝子発現を、強力なプロモーター(具体的にはpSOD)により駆動した。
図3】どのようにssrA分解タグ(野生型大腸菌)及びそのバリアント(すなわち、合成で生成されたClpプロテアーゼ認識配列を有するもの)が、タグ付けされた標的タンパク質の分解に対して異なる調節効果を有し得るか、かつどのようにアダプタータンパク質SspB(大腸菌由来)の発現を誘導しかつssrA分解タグ及びそのバリアントの使用と対にして、タグ付けされた標的タンパク質の分解を動的に制御することをさらに可能にするかを実証する。具体的には、レポータータンパク質mCherryを標的タンパク質として使用し、その蛍光シグナルを測定して定量的な比較を可能にした。タグ付きmCherryで得られた蛍光測定値を、野生型mCherryで得られた蛍光測定値に対して正規化した(左側の最初の2つのバー)。各データセットは、SspBの誘導なし(左)及びSspBの誘導あり(右)での測定を含む。図3で、mCherryの遺伝子発現を、弱いプロモーター(具体的には、Min5)により駆動した。
図4】どのようにTrfA分解タグ(野生型黄色ブドウ球菌)及びそのバリアント(すなわち、合成で生成されたClpプロテアーゼ認識配列を有するもの)が、タグ付けされた標的タンパク質の分解に対して異なる調節効果を有し得るか、かつどのようにアダプタータンパク質TrfA(野生型黄色ブドウ球菌由来)の発現を誘導しかつTrfA分解タグ及びそのバリアントの使用と対にして、タグ付けされた標的タンパク質の分解を動的に制御することをさらに可能にするかを実証する。具体的には、レポータータンパク質mCherryを標的タンパク質として使用し、その蛍光シグナルを測定して定量的な比較を可能にした。タグ付きmCherryで得られた蛍光測定値を、野生型mCherryで得られた蛍光測定値に対して正規化した(左側の最初の2つのバー)。各データセットは、SspBの誘導なし(左)及びSspBの誘導あり(右)での測定を含む。図4で、mCherryの遺伝子発現を、強力なプロモーター(具体的にはpSOD)により駆動した。
図5】どのようにTrfA分解タグ(野生型黄色ブドウ球菌)及びそのバリアント(すなわち、合成で生成されたClpプロテアーゼ認識配列を有するもの)が、タグ付けされた標的タンパク質の分解に対して異なる調節効果を有し得るか、かつどのようにアダプタータンパク質TrfA(野生型黄色ブドウ球菌由来)の発現を誘導しかつTrfA分解タグ及びそのバリアントの使用と対にして、タグ付けされた標的タンパク質の分解を動的に制御することをさらに可能にするかを実証する。具体的には、レポータータンパク質mCherryを標的タンパク質として使用し、その蛍光シグナルを測定して定量的な比較を可能にした。タグ付きmCherryで得られた蛍光測定値を、野生型mCherryで得られた蛍光測定値に対して正規化した(左側の最初の2つのバー)。各データセットは、SspBの誘導なし(左)及びSspBの誘導あり(右)での測定を含む。図4で、mCherryの遺伝子発現を、弱いプロモーター(具体的にはMin5)により駆動した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
黄色ブドウ球菌のTrfA。黄色ブドウ球菌のTrfAは、複数の役割、特に、タンパク質分解及び遺伝的能力に関与するアダプタータンパク質をコードする枯草菌のタンパク質分解アダプタータンパク質mecAに関連するアダプター遺伝子である。その欠失は、メチシリン感受性若しくはメチシリン耐性(MRSA)の臨床又は実験室の単離物のグリコペプチド中間体黄色ブドウ球菌(GISA)誘導体においてオキサシリン及びグリコペプチド抗生物質に対する耐性のほぼ完全な喪失をもたらす。重要なことに、TrfAアダプタータンパク質は、ClpCPと相互作用して、黄色ブドウ球菌におけるタンパク質分解を制御するのを助けることが見出されている。
【0025】
特異性増強因子SspB。SspBアダプタータンパク質は、広範囲の生物中に存在し、細胞プロテアーゼ、頻繁にはClpXP又はClpCPプロテアーゼ複合体による分解についてssrAタグ付きタンパク質を指示する。ClpXPとのSspBの相互作用は、プロテアーゼ複合体の活性をさらに高めることが示されている。
【0026】
ClpXP。ClpXPは、構造化されていないタンパク質を認識し結合するように機能する4つのClpXサブユニットと、ATP依存性プロテアーゼとして機能する6つのClpPサブユニットで形成されるタンパク質複合体である。ClpXP複合体は、グラム陽性とグラム陰性生物の両方に見出され、細菌におけるタンパク質発現のための主たる品質制御機構の1つである。
【0027】
以前の研究は、標的タンパク質のC末端にssrA分解タグを添加することによる、大腸菌における効果的なタンパク質分解を示した。制御は、SspBを介して達成され、SspBは上記のように、ClpXPプロテアーゼ複合体へのssrAタグの効率的な結合に必要なアダプタータンパク質であり、その発現は、外因性誘導因子によって厳密に制御され得る。さらに、ssrAタグの最後の3個のアミノ酸を変化させることは、SspBアダプタータンパク質の有無に関係なく、標的タンパク質分解の効率及び速度を調節することが示されている。
【0028】
それにもかかわらず、本発明者らの知識によれば、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける制御可能な誘導性異種タンパク質分解システムをうまく実証する、文献での特別な報告はない。さらに、本発明者らは、それ自体は天然プロテアーゼによる分解を誘発しない(又は最小限でしか誘導しない)が、大腸菌のSspB及び/又は黄色ブドウ球菌のTrfAの誘導発現時にそのような天然プロテアーゼによる顕著な分解のためのタグ付け基質を標的とする、新規な分解タグバリアントを開発した。
【0029】
コリネバクテリウム・グルタミカムは、ビオチン制限下で大量のアミノ酸L-グルタミン酸を排出する能力により、日本で1957年に単離された。ここ数十年内に、C.グルタミカムは、アミノ酸の優れた生産プラットフォームであるように、また、有機酸を含む種々の他の代謝産物のために改変されてきた。さらに、コリネバクテリウムの固有の特性は、それを大規模な商業的生産のための優れた選択にする。このような固有の特性は、米国の生物学評価と研究のセンター及び米国の薬物評価と研究指針のセンターによってリストされているような所望の形質である病原性の欠如及び胞子形成能の欠如、並びにその高い成長速度、その相対的に制限された成長要件、低成長条件下での工業的なある株における自己分解の不在、コリネバクテリウムのゲノム自体の相対的安定性、及びコリネバクテリウム属を工業規模のタンパク質発現に非常に良好な宿主にさせることに寄与する天然の細胞外プロテアーゼ分泌の不在を含む。
【0030】
これらの有望な特性にもかかわらず、合成生物学的生産のためのプラットフォームとしてのコリネバクテリウムの開発は、必須の細胞機能を損なうことなく、遺伝子転写、タンパク質分解、翻訳、及び所望の経路の全体的な活性を予測的に制御するための利用可能な合成生物学的ツールの欠如によって妨げられてきた。加えて、コリネバクテリウムにおける多様な遺伝子回路を開発し、その性能を完全に特徴付ける試みはまだ完了していない。さらに、大腸菌又は他の生物において開発され完成されたツールの多くは、必ずしもコリネバクテリウムに直接移せないか、又はコリネバクテリウムと相関せず、プラットフォーム生物としてのコリネバクテリウムにおける同様の機能性を開発するためにかなりの「回避策」を必要とする。そのため、ssrAタグ化システムなどの遺伝子回路を同調させるためのツールの開発は、価値が付加された化合物を生成するコリネバクテリウムの代謝能力を完全にロック解除するために必要である。
【0031】
加えて、天然の代謝酵素レベルの調節可能な制御は、生物燃料、生体高分子、及び治療特性を有する分子などの異種化合物の生成のためにコリネバクテリウム種の株を操作する重要な態様である。この状況では、ノックアウトは、高い力価の所望の化合物を生成するために細胞死又は障害をもたらし得る一方で、静的ノックダウンは、操作された株の不十分な成長及び/又は組換えタンパク質の不十分な発現などの望ましくない結果をもたらし、これらの全ては低い生産力価につながり得る。
【0032】
本発明によれば、本発明者らは、コリネバクテリウム細胞での使用のための原核生物のssrAタグ化システムを適合させた。本発明に従って改変された株は、適切な分解タグをそれらに付加することにより、1以上の標的タンパク質の調節可能な分解を可能にする。異なるタグを異なるタンパク質標的に付加でき、これは、並列制御システムのための単一生物における分解の程度と複数の誘導因子の使用の両方の点で、分解における差動制御を可能にする。レポーターシステムでは、シグナル検出と力学的分解能の競合要件は、追加のクローニング手順を必要とせずにバランスをとることができる。このシステムは、以前に記載したシステムに対しいくつかの利点を有する。分解は調節可能であり、複数のタンパク質標的に対して差動的に調節可能であり得る。分解タグは小さく、改変された宿主細胞内のタンパク質機能と干渉しにくい。タグのサイズは、PCR増幅又はタグ付けベクターの使用によるタグ付き遺伝子の構築を単純化し、多くの遺伝子を並行してタグ付けできる。
【0033】
本発明によれば、本発明者らは、大腸菌のSspBアダプタータンパク質が天然のコリネバクテリウムのプロテアーゼと完全に適合性があり、この属における標的化タンパク質分解のためにssrAタグシステムを使用する最初のデモンストレーションであることを実証した。本発明者らは、ssrAタグのいくつかのバリアント(DAS+4バリアントなど)に基づくssrAタグ付きタンパク質分解の一般的なパターンが、大腸菌とコリネバクテリウムの両方の間で一致することを確認した。本発明者らはまた、コリネバクテリウム中のTrfAアダプタータンパク質と結合された黄色ブドウ球菌TrfAタグの使用を、ssrAタグの代替として確認した。ssrA及びtrfAタグのアダプタータンパク質結合領域は、非常に異なっており、タグシステム間にクロストークはなく、成長サイクル中の異なる時点で複数のタンパク質の選択的標的化を潜在的に可能にする。最後に、本発明者らは、広く合理的に設計されたライブラリーのハイスループットスクリーニングにより、DAS+4ssrAタグに対するいくつかの代替物の進化を実証した。新たに進化したssrAタグが、SspB又はTrfAアダプタータンパク質の非存在下でタンパク質分解のバックグラウンドレベルを低減することにより、より良好なダイナミックレンジを示し、一方でアダプターが誘導された後でも、タグ付きタンパク質を効率的に分解する。
【0034】
重要な特徴
本発明のある重要な特徴は、ssrA及びtrfAタンパク質分解タグの使用を含む。これらのタグの両方は、2つの配列モチーフを含む。第1は、配列の第1の部分に含まれる、SsrA及びTrfAアダプタータンパク質の認識モチーフである。第2は、ClpXPなどの細胞プロテアーゼによって認識される分解モチーフを含むC末端の3個のアミノ酸である。3個の末端残基の正確なアミノ酸配列は、標的タンパク質の分解速度に影響する。以前に、DAS+4タグは、タンパク質分解速度のバランスに必須であることが証明された。本発明者らは、DAS+4タグよりも優れた活性を有する、QPS、KPS及びDQAタグを含む新規タグを特定した。
【0035】
微生物株の構築
アダプタータンパク質SspB及びTrfAを、既知のISエレメントの代替物としてC.グルタミカムの染色体に組込んだ。これらの部位を、天然のコリネバクテリウム代謝経路の破壊を最小にするように特異的に選択した。アダプターの遺伝子をいくつかの組込み部位の1つに配置し、レポータータンパク質に対するそれらの活性について試験した。使用した部位は、ISCg2c、ISCg2e、及びISCg6cであった。最終的に、部位ISCg6cを、最良の独立した調節を有する部位として選択した。2つのプロモーターをsspBアダプター、具体的には、C.グルタミカムのリン酸誘導性プロモーター及びC.グルタミカム最適化した大腸菌のTacプロモーターについて試験した。Tacプロモーターはまた、sspBアダプターオープンリーディングフレームの反対方向に配向されたlacIリプレッサーのC.グルタミカム最適化バージョンを含む。trfAアダプターを組込み、Tacプロモーターの制御下で、ISCg6c染色体遺伝子座で試験した。ゲノム組込みは、隣接する相同性領域に基づく単一の交差ノックインを用いて先に記載したように行った。所望のノックインクローンをカナマイシン上での増殖を介して選択した。第2の単一の交差事象を、スクロース選択を用いて強制し、得られたコロニーを所望の変異体の存在についてスクリーニングした。最終的なC.グルタミカム株は、いかなる選択マーカーも含まなかった。
【0036】
分解タグ
より良好に機能する分解タグを発見するために、本発明者らは、ssrA-DAS+4タグに取って代わる潜在的なc末端アミノ酸のライブラリーをスクリーニングした。ライブラリーは、以下の表2からの、カラム1+カラム2+カラム3中のアミノ酸の可能な組み合わせの各々を含む。以下の実施例により示されるように、本発明は、コリネバクテリウムにおけるタグ付きタンパク質の初期レベルと誘導分解速度の両方の独立した個別制御を可能にする分解タグバリアントを提供する。
【0037】
実施例
方法及び材料:
以下の実施例では、以下の株を使用した。
(1)全ての実験について、C.グルタミカムATCC13032を、元となるコリネバクテリウム株として使用した。
(2)C.グルタミカム-lacI-sspBを、コドン最適化大腸菌lacI(lacリプレッサー)により提供される抑制を有する大腸菌pTacプロモーターの制御下で染色体組込みされたコドン最適化大腸菌sspB遺伝子配列を用いて組換え操作した。
(3)C.グルタミカム-lacI-trfAを、コドン最適化大腸菌lacIにより提供される抑制を有する大腸菌pTacプロモーターの制御下で染色体組込みされたコドン最適化大腸菌trfA遺伝子配列を用いて組換え操作した。
(4)大腸菌10Gを、標準的なクローニング株として使用した。
【0038】
以下の実施例において、以下のプラスミドを使用した。
CgDVK-mCherryは、pSODプロモーター(強力なプロモーター)又はMin5プロモーター(弱いプロモーター)のいずれかの制御下でレポーター遺伝子(mCherry)を含むコリネバクテリウムシャトルベクターを示す。修飾された分解タグを含む全てのプラスミドを、このプラスミド骨格上のmCherryレポーター遺伝子のc末端を修飾することにより構築した。
【0039】
形質転換 コリネバクテリウム株を、以下の表1に概説したタグ配列及び名称を有するmCherry又はmCherry-タグを発現するプラスミドで形質転換した。形質転換を、標準的なエレクトロポレーションプロトコールを用いて行った。形質転換体をCaso-Kan25上で選択した。
【0040】
表1.試験した精選分解タグの名前及びアミノ酸配列。試験されるタグをレポータータンパク質のC末端に付加し、続いて停止コドンを付加した。タグ配列は、アミノ酸フォーマットで示される。斜体で示される配列は、アダプタータンパク質(SspB又はTrfA)結合領域を表す。太字で示される配列は、細胞Clpプロテアーゼにより認識される領域を表す。ssrA-LAA及びtrfA-VAAの配列は、天然宿主中のWTのアダプター/プロテアーゼ認識配列対を表す。
【0041】
【表1】
【0042】
染色体上のsspB又はtrfAアダプター配列のいずれかを含む株を、kan陽性選択マーカー及びsacB陰性選択マーカーを含む自殺ベクターを用いる標準的な相同組換え技術を用いて作製し、最終的にマーカーのない修飾を得た。これらの操作した株を用いるプラスミド形質転換及びmCherryレポーターアッセイのプロトコルは、野生型コリネバクテリウムを使用する場合と同じである。
【0043】
DAS+4変異体ライブラリーの構築及びスクリーニング。変異体を、pCBMK-mCherry-DAS+4プラスミドからpSOD-mCherry-ssrA-DAS領域を増幅することによりギブソンアセンブリを用いて作製した。ライブラリーを作製するための変異を、リバースプライマーに導入した。増幅した領域を、pZ8ベクターに挿入した。ギブソンアセンブリの生成物を、C.グルタミカムlacI-sspB株に直接エレクトロポレーションした。得られたコロニーを、Caso+Kan25選択上で再度選択した。
【0044】
高スループットコロニー選択。選択プレートからの個々のコロニーを、自動化された液体ハンドラー上で機械の画像を介して採取し、600μlのBHI-Kan25に接種し、30℃で一晩成長させた。一晩培養した物を、BHI-Kan25又はCGXII-Kan25のいずれかにさらに希釈し、アダプタータンパク質又はレポータータンパク質のいずれかの合成に必要とされるIPTGで誘導した。アッセイ培地の選択は、最終的な実験結果に顕著に影響を与えなかったが、BHIのバックグラウンド蛍光はCGXIIのバックグラウンド蛍光よりも顕著に高かった。約48時間後に、培養物からのアリコートを1:20で200μlの水に希釈し、OD650及びmCherry蛍光を、585nm~615nmの励起発光波長で測定した。
【0045】
2つの96ウェルプレートを、18個の作成したライブラリーの各々から取り出し、最初にBHIで培養した。ライブラリーが増殖したら、それらを、IPTGを含むCGXII培地と含まないCGXII培地に播種して、SspBアダプタータンパク質の発現を誘導した。各培養物についての蛍光及び吸光度測定を、増殖の約48時間後に行った。誘導培養物に対する非誘導培養物の蛍光の比を用いて、アッセイから最初の陽性ヒットを選択した。
【0046】
最初のヒットを、詳細な成長曲線及び発現パターンを得るために、上記と同じプロトコルに従いBioLectorマイクロバイオリアクターシステム(m2p-labs GmbH、ドイツ)における48ウェルプレートアッセイで2回目に確認した。プラスミドを、8つの最高性能単離物から単離した。mCherry及び新しいDASタグバリアントをコードする領域を配列決定して、最終的な変化を決定した。さらに、上位ヒットを、同じプロトコルに従い、より大きな培養容積で2回目に確認した。
【0047】
結果:
C.グルタミカムにおけるSspB機能性の確認
標的タンパク質を選択的に分解する能力は、ssrA配列を結合し、かつ細胞Clpプロテアーゼ複合体を介して標的タンパク質の分解を開始するのを助けるSspBアダプタータンパク質の能力に依存する。SspB/ssrAシステムを大腸菌から単離した場合、まず、異種宿主におけるその機能性を決定することが不可欠であった。
【0048】
その結果、SspBを、その活性のオン/オフ制御を有するために、誘導性プロモーターの制御(より正確には、誘導性lacリプレッサーlacIにより制御される構成的プロモーターpTacの結合)の下で、C.グルタミカム細胞の染色体に組込んだ。分解タグ(野生型ssrA分解タグ及びその合成バリアント、それらの配列を表1に提供する)を、mCherryレポーターに付加し、宿主に導入した。得られたデータは、大腸菌SspBアダプタータンパク質が、C.グルタミカムにおける標的タンパク質の選択的分解を増加させる活性及び能力を維持することを示す。
【0049】
具体的には、図2を参照して、標的タンパク質(この場合、mCherry)をssrA(mCherry-LAA)によってタグ付けし強力なプロモーター(pSOD)により駆動した場合に、ほとんど全ての標的タンパク質がタンパク質分解されたことを見ることができる。SspBが誘導された場合には(mCherry-LAA+sspB)、さらにより多くの標的タンパク質がタンパク質分解された。mCherryレポーターが弱いプロモーター(Min5)により駆動された場合には、分解速度は、SspBが誘導された場合とされない場合との間で同等であるようにみえた(図3)。
【0050】
C.グルタミカムにおけるTrfA機能性の検証
いくつかの宿主において広範に研究されてきたSspB/ssrAシステムとは異なり、TrfAアダプタータンパク質[配列番号4]の活性は、天然宿主の黄色ブドウ球菌においてのみ実証されている。さらに、改変されたClp認識配列を用いる場合のTrfA促進タンパク質分解の効率については、ほとんど研究されていない。いずれかの用途に使用する前に、任意の宿主におけるTrfA活性の広範な検証が必要であった。TrfA機能を、最小限必要な活性のためのガイドとベースラインの両方としてSspB/ssrAシステムを使用して評価した。図4及び図5は、TrfAシステムが、野生型プロテアーゼ認識タグTrfA[配列番号22]を使用する場合に、C.グルタミカムにおけるSspBシステムと比較して同様の様式で挙動することを実証する。2つのシステムは同様に機能するが、以下にさらに示すように、タンパク質分解速度論の効率に関して別々の特性を有するので、TrfAシステム及びSspBシステムは、2つの直交システムとして同じ宿主に組込むことができ、これは次に、少なくとも2つの異なる必須遺伝子の制御を必要とする、生合成生成法におけるタンパク質分解を微調整するための機構を提供する。
【0051】
より良好に機能するタグバリアントのスクリーニング
タンパク質のC末端アミノ酸組成は、上記タンパク質が細胞プロテアーゼにより認識及び分解されるか否かに大きな役割を果たす。天然ssrA及びtrfAタンパク質分解タグは、それぞれ、標的タンパク質に付加された末端アミノ酸としてアミノ酸LAA及びVAAを特徴とする。これらの配列の両方は、アダプターが存在しなくても、標的タンパク質の迅速な分解をもたらす(図2~3のmCherry-LAA及び図4~5のmCherry-LAA参照)。この研究で試験したDAS及びDAS+4配列などの、いくつかのバリアント配列が以前に探索された。しかし、本明細書で実証されるように、これらのタグのいずれかの付加は、アダプタータンパク質の誘導の前でさえ、細胞内の標的タンパク質の量を大幅に低下させるので、これらのタグのいずれも、誘導タンパク質分解の適用に最適ではない。標的タンパク質が細胞成長に必須なタンパク質である場合、存在するベースラインと比較して50%超の低下は、細胞の健全さに対し非常に有害であり得る。
【0052】
したがって、次の工程は、より良好な性能を示す、野生型と比較して改変されたプロテアーゼ認識配列(C末端領域の最後の3個のアミノ酸)、すなわち、アダプタータンパク質の非存在下で最小限のタンパク質分解を引き起こすがアダプタータンパク質の誘導発現後には高いレベルの分解を引き起こすタグを有するバリアントをスクリーニングすることであった。
【0053】
これを行うために、本発明者らは、Clpプロテアーゼ認識配列の合理的に設計されたコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングするように設定した。このスクリーニングを、最終的な宿主生物であるC.グルタミカムに直接行った。アミノ酸及び対応するDNA配列を以下の表2及び3に示す。
【0054】
表2.ssrA-DAS+4タグ/trfA-DAS+4タグのより良好に機能するバリアントを選択するためにランダム化したライブラリーに組み込んだアミノ酸の組み合わせ。位置1、2、及び3は、それぞれ、DASタグのアミノ酸D、A、及びSに対応する。
【表2】
【0055】
表3.新規ssrA-タグバリアント/trfA-タグバリアントの選択に使用される各圧縮ライブラリーの破壊。ヌクレオチドの縮重IUPAC名及び単一文字のアミノ酸の両方が、3つのランダム化された位置の各々においてスクリーニングされた各ライブラリーについて示される。
【表3】
【0056】
ライブラリーで宿主を形質転換した後、得られる形質転換体を、SspB/TrfAが存在しなかった場合の高レベルのレポータータンパク質とSspB/TrfA誘導後の低レベルのレポータータンパク質の両方についてスクリーニングした。このスクリーニングからの結果及び上位ヒットを表4に示す。最初のスクリーニングからの上位ヒットを用心深く選び、より大きな規模で再確認した。最後に、最良ヒットの機能性を、レポーター遺伝子の発現を駆動する複数のプロモーターにわたりssrAとtrfAの両方の認識配列と対にして再びスクリーニングした。
【0057】
表4.スクリーニングからの上位3つの機能的クローンを含む、スクリーニングからの8個の選択したプラスミドの配列決定により決定した新しいタグ配列。表中の「名前」は、プレートの位置による変異体を同定する。「配列」は、プラスミドの配列決定により評価されたDASバリアントのアミノ酸配列を指す。「スクリーニング1の比」は、最初のスクリーニングの間の非誘導条件下/誘導条件下でのmCherry蛍光の比を指す。「ヒットピック比」は、スクリーニング1からの上位の機能的培養物を用心深く選び、再スクリーニングしてそれらの活性を検証した後のmCherry蛍光の比を指す。
【0058】
【表4】
【0059】
最終的に、選択したタグのいくつかが、以前に設計されたDAS+4タグ、特に、KPS+4及びDGA+4タグよりも良好な非誘導/誘導応答曲線を与えることが見いだされた(図2図5)。
【0060】
具体的には、SspBシステムにおけるタンパク質分解に対する望ましい調節効果を示すバリアントを、図2及び図3に示す。これらのデータは、それによりSspBがタンパク質分解を促進できる効率が、分解タグと標的遺伝子の発現を駆動するプロモーターの強度の両方に基づいて変化するという証拠をまとめて提供する。この発見は、必須タンパク質の早期分解が細胞死を引き起こす可能性があるので、重要であった。分解タグとアダプタータンパク質との望ましいペアリングは、標的タンパク質がタグ付けされた時に分解が最小であり、かつ顕著な分解がアダプタータンパク質の誘導時にのみ起こる場合を含む。SspBの誘導の前及び後の標的タンパク質シグナルの比(ここでは正規化蛍光強度の形態)を比較すると、ssrA-KPS+4タグ[配列番号16](mCherry-KPS+4+sspBに対するmCherry-KPS+4)がこの目的を達成することが分かる。より具体的には、タグ付けされたmCherryが強力なプロモーターにより駆動された場合、ある程度の分解(約7%)がSspBの誘導の前にあったが、顕著な分解(約32%)がSspBの誘導後に観察されたことが分かる。図2を参照のこと。効果は、タグ付きmCherryが弱いプロモーターにより駆動された場合さらに顕著であった。この場合も、ある程度の分解(約7%)がSspBの誘導の前にあったが、SspBの誘導後には、分解は劇的に増加した(約93%)。
【0061】
同様に、KPS+4タグ[配列番号30]は、タグ付けされたmCherryがより強力なプロモーター(図4)又は弱いプロモーター(図5)により駆動されたか否かにかかわらず、TrfAシステムにおけるタンパク質分解に対する望ましい調節効果を示した。
【0062】
SspBシステムとTrfAシステムの間の限定されたクロストーク
上記のデータがSspB及びTrfAシステムはそれぞれ別々のシグナル配列を認識し、両方ともC.グルタミカム宿主細胞において活性を保持することをまとめて示すことを考慮して、本発明者らは、2つのアダプタータンパク質間にクロストークがあるか否かの調査に進んだ。2つのTrfA及びSspBシステムが、直交タグ化タンパク質の分解を引き起こすことなく、個々に機能できるならば、それは複数の細胞機能にわたり正確な時間制御を可能にする。例えば、第1のタグを使用して所望のバイオマスに到達したら、細胞の適合性において役割を果たす第1のタンパク質の分解を誘発することが可能である。その後、十分な量の中間体に到達したら、後の時点で第2の標的タンパク質の分解を誘発できるであろう。この時間的制御は、所望の生成物を生合成するのに最適な生成条件をうまく微調整するために重要である。この種の制御は、2つのタグが真に直交し、かつ他のタグの認識配列と交差反応しない場合にのみ可能である。これを、TrfAアダプタータンパク質を含む株にssrAタグ付きレポーターを導入し、SspBアダプタータンパク質を含む株にTrfAタグ付きレポーターを導入することにより試験した。WT trfA及びssrA配列に加えて、いくつかの操作された配列も試験した。表5に提示されるデータは、2つのタンパク質分解システム間の重要でないクロストークを示し、その2つを並行して使用できることを示している。
【0063】
表5.TrfA及びSspBの特異性。TrfA及びSspBアダプターをクロストークについてスクリーニングし、直交であることを見出した。レポーターのより大きな分解が、タグの種類が宿主アダプターと適合したときに観察された。分解を、アダプター誘導の前にレポーター濃度の百分位数として報告する。効果は、タグ付きレポーター遺伝子の強力な発現と弱い発現の両方について類似していた。
【0064】
【表5】
【0065】
産業上の利用可能性/技術分野の記載
本開示は、食品、医薬、及び薬理学的産業における利用可能性を有する。本開示は一般に、改変された微生物株におけるタンパク質分解の計画的制御のための方法に関する。そのような改変は、関心のある化合物の生成の収率を向上させ、改変された細胞宿主への長期間の損傷を制限しながら、細胞環境全てにおいて最適化された化合物の持続期間を延長させる。
【0066】
関心のある配列
配列番号1-WT SspBのDNA配列:
【化1】


配列番号7 WT ssrAタグのDNA配列:
GCCGCTAATGACGAAAACTATGCGCTTGCAGCA
配列番号8 WT ssrAタグのアミノ酸配列:
AANDENYALAA
配列番号9 ssrA-DASバリアントタグのDNA配列:
GCGGCGAATGATGAGAATTACGCTGACGCTTCG
配列番号10 ssrA-DASバリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYADAS
配列番号11 ssrA-DAS+4バリアントタグのDNA配列:
GCGGCGAATGATGAGAATTACAGCGAGAACTACGCTGACGCTTCG
配列番号12 ssrA-DAS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYADAS
配列番号13 ssrA-DQP+4バリアントタグのDNA配列:
GCGGCGAATGATGAGAATTACAGCGAGAACTACGCTGATCAACCG
配列番号14 ssrA-DQP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AAN DENYSENYADQP
配列番号15 mCherry-SsrA-KPS+4DNA:
GCGGCGAATGATGAGAATTACAGCGAGAACTACGCTAAGCCATCG
配列番号16 ssrA-KPS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYAKPS
配列番号17 ssrA-DGA+4バリアントタグのDNA配列:
GCGGCGAATGATGAGAATTACAGCGAGAACTACGCTGATGGCGCG
配列番号18 ssrA-DGA+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYADGA
配列番号19 ssrA-DGS+4バリアントタグのDNA配列:
GCGGCGAATGATGAGAATTACAGCGAGAACTACGCTGATGGCTCG
配列番号20 ssrA-DGS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYADGS
配列番号21 WT TrfAタグのDNA配列:
GGCAAATCAAACAATAATTTCGCAGTAGCTGCC
配列番号22 WT trfAタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFAVAA
配列番号23 trfA-DASバリアントタグのDNA配列:
GGCAAATCAAACAATAATTTCGCAGACGCTTCG
配列番号24 trfA-DASバリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFADAS
配列番号25 trfA-DAS+4バリアントタグのDNA配列:
GGCAAATCAAACAATAATTTCAGCAACAATTTCGCAGACGCTTCG
配列番号26 trfA-DAS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFADAS
配列番号27 trfA-DQP+4バリアントタグのDNA配列:
GGCAAATCAAACAATAATTTCAGCAACAATTTCGCAGATCAACCG
配列番号28 trfA-DQP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFADQP
配列番号29 trfA-KPS+4バリアントタグのDNA配列:
GGCAAATCAAACAATAATTTCAGCAACAATTTCGCAAAGCCATCG
配列番号30 trfA-KPS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFAKPS
配列番号31 trfA-DGA+4バリアントタグのDNA配列:
GGCAAATCAAACAATAATTTCAGCAACAATTTCGCAGATGGCGCG
配列番号32 trfA-DGA+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFADGA
配列番号33 trfA-DGS+4バリアントタグのDNA配列:
GGCAAATCAAACAATAATTTCAGCAACAATTTCGCAGATGGCTCG
配列番号34 trfA-DGS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFADGS
配列番号35 ssrA-DQA+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYADQA
配列番号36 ssrA-QPS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYAQPS
配列番号37 ssrA-HPP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYAHPP
配列番号38 ssrA-DQS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYADQS
配列番号39 ssrA-KNP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYAKNP
配列番号40 ssrA-MKP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYSENYAMKP
配列番号41 ssrA-DQAバリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYADQA
配列番号42 ssrA-QPSバリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYAQPS
配列番号43 ssrA-HPPバリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYAHPP
配列番号44 ssrA-DQSバリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYADQS
配列番号45 ssrA-KNPバリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYAKNP
配列番号46 ssrA-MKPバリアントタグのアミノ酸配列:
AANDENYAMKP
配列番号47 trfA-DQA+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFADQA
配列番号48 trfA-QPS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFAQPS
配列番号49 trfA-HPP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFAHPP
配列番号50 trfA-DQS+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFADQS
配列番号51 trfA-KNP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFAKNP
配列番号52 trfA-MKP+4バリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFSNNFAMKP
配列番号53 trfA-DQAバリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFADQA
配列番号54 trfA-QPSバリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFAQPS
配列番号55 trfA-HPPバリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFAHPP
配列番号56 trfA-DQSバリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFADQS
配列番号57 trfA-KNPバリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFAKNP
配列番号58 trfA-MKPバリアントタグのアミノ酸配列:
GKSNNNFAMKP
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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