IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAエレクトロニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図1
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図2
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図3
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図4
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図5
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図6
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図7
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図8
  • 特許-ペロブスカイト型複合酸化物粉末 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型複合酸化物粉末
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20240417BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240417BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/12 102B
H01M8/12 102C
H01M4/86 T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022535983
(86)(22)【出願日】2020-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2020027172
(87)【国際公開番号】W WO2022013903
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】碇 和正
(72)【発明者】
【氏名】上山 俊彦
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106935879(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102658152(CN,A)
【文献】特開2014-075337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 8/12
H01M 4/86
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3-δ(δは酸素欠損量を表し0≦δ<1である。)で示されるペロブスカイト型複合酸化物粉末であって、
Aサイトに含有される元素はLaであり、
Bサイトに含有される元素はCo及びNiであり、
ウィリアムソン-ホール法により求められる結晶子径が20nm以上100nm以下であることを特徴とするペロブスカイト型複合酸化物粉末。
【請求項2】
マイクロトラック粒度分布測定により算出される粒度分布において、個数分布で算出される累積50%粒子径D50Nと体積分布で算出される累積50%粒子径D50Vの比D50N/D50Vが0.7以上である請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物粉末。
【請求項3】
マイクロトラック粒度分布測定により算出される粒度分布において、体積分布における10%累積粒子径D10V、50%累積粒子径D50V、90%累積粒子径D90Vの関係が1.0≦(D90V-D10V)/D50V≦1.2である請求項1または2に記載のペロブスカイト型複合酸化物粉末。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のペロブスカイト型複合酸化物粉末を含み形成される固体酸化物型燃料電池用の空気極。
【請求項5】
燃料極と、固体電解質と、空気極とを備えた固体酸化物型燃料電池であって、
前記空気極として前記請求項4に記載の空気極を用いた固体酸化物型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペロブスカイト型構造を有する複合酸化物粉末に関し、より詳細には、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell、以下、単に「SOFC」ということがある。)の空気極材料として好適に用いられる複合酸化物粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SOFCは、種々のタイプの燃料電池のなかでも発電効率が高く、また多様な燃料が使用可能なこと等から、環境負荷の少ない次世代の発電装置として開発が進められている。SOFCの単セルは、多孔質構造の空気極(カソード)と、酸化物イオン伝導体を含む緻密な固体電解質と、多孔質構造の燃料極(アノード)とがこの順に積層された構造を有する(図9を参照)。SOFCの作動時には、空気極に空気等のO(酸素)含有ガスが、燃料極にH(水素)等の燃料ガスが、それぞれ供給される。この状態で、SOFCに電流を印加すると、空気極でOが還元されてO2-アニオン(酸素イオン)となる。そして、このO2-アニオンが固体電解質を通過して燃料極に到達し、Hを酸化して電子を放出する。これによって、電気エネルギーの生成(すなわち発電)が行われる。
【0003】
このようなSOFCの動作温度は従来800℃~1000℃程度であったが、近年、SOFCの動作温度の低温化が図られている。とはいうものの、実用化されているSOFCの最低温度は600℃以上と依然として高温である。
【0004】
このようなセル構造と高い動作温度のため、SOFCの空気極の材料には、基本的に、酸素イオン導電性が高く、電子伝導性が高く、熱膨張が電解質と同等あるいは近似し、化学的な安定性が高く、他の構成材料との適合性が良好であり、焼結体が多孔質であり、一定の強度を有することなどの特性が要求される。
【0005】
このような固体酸化物型燃料電池の空気極の材料として、特許文献1では、一般式ABOで示されるペロブスカイト型複合酸化物のAサイトに含有される元素はLaであり、Bサイトに含有される元素はCoおよびNiであるペロブスカイト型複合酸化物粉末が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-305670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体酸化物型燃料電池の空気極に用いる材料は、できるだけ抵抗が小さく導電性が高いものがよい。このような材料の組成を無数の組み合わせの中から見いだすのは容易なことではない。もし材料組成にかかわらず導電性が確保できるようになれば、燃料電池の発電効率の向上に資することが期待できる。
【0008】
本発明は、特定組成のペロブスカイト型複合酸化物粉末において高い導電性を得ることをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成する本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末は、一般式ABO3-δ(δは酸素欠損量を表し0≦δ<1である。)で示されるペロブスカイト型複合酸化物粉末であって、Aサイトに含有される元素はLa(ランタン)であり、Bサイトに含有される元素はCo(コバルト)及びNi(ニッケル)であり、ウィリアムソン-ホール(Williamson-Hall)法により求められる結晶子径が20nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0010】
ここで、マイクロトラック粒度分布測定により算出される粒度分布において、個数分布で算出される累積50%粒子径D50Nと体積分布で算出される累積50%粒子径D50Vの比D50N/D50Vが0.7以上であるのが好ましい。
【0011】
また、マイクロトラック粒度分布測定により算出される粒度分布において、体積分布における10%累積粒子径D10V、50%累積粒子径D50V、90%累積粒子径D90Vの関係が1.0≦(D90V-D10V)/D50V≦1.2であるのが好ましい。
【0012】
そしてまた本発明によれば、前記のいずれかに記載のペロブスカイト型複合酸化物粉末を含み形成される固体酸化物型燃料電池用の空気極が提供される。
【0013】
また本発明によれば、燃料極と、固体電解質と、空気極とを備えた固体酸化物型燃料電池であって、前記空気極として前記記載の空気極を用いた固体酸化物型燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より導電性の高いペロブスカイト型複合酸化物粉末が実現可能となる。このようなペロブスカイト型複合酸化物粉末を用いることで、導電性の高い燃料電池の空気極および燃料電池を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1のXRD図である。
図2】実施例1のXRD図の拡大図(2θ=30°~50°)である。
図3】比較例1(実線)と比較例2(破線)のXRD図である。
図4】比較例1(実線)と比較例2(破線)のXRD図の拡大図(2θ=30°~50°)である。
図5】実施例1のSEM写真である。
図6】実施例2のSEM写真である。
図7】比較例1のSEM写真である。
図8】比較例2のSEM写真である。
図9】固体酸化物型燃料電池の一例を模式的に示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末は、一般式ABO3―δで示され、AサイトにLaが含有され、BサイトにCoおよびNiが含有される。以下、このような組成のペロブスカイト型複合酸化物を「LCN」と記すことがある。δは0を含む酸素欠損量を示し、δの値の範囲は0≦δ<1である。
【0017】
Bサイトに含有されるCoおよびNiの量は任意に調整することができる。一般式としてLaCoNi1-y3―δと示す場合、式中のyは0.1≦y≦0.7であることが好ましく、さらには0.3≦y≦0.65であるのがより好ましい。
【0018】
本発明に係るLCNの大きな特徴の一つは、結晶子径が20nm以上100nm以下であることである。結晶子径が20nm未満であると、粉末を構成する粒子中の粒界が多くなり導電性が悪化することがある。一方、結晶子径が100nmを超えると、粉末を構成する粒子の一次粒子径に近づいてきてしまうため、導電性が悪化すると考えられる。本発明に係るLCNの結晶子径の好ましい下限値は45nmであり、好ましい上限値は80nmである。
【0019】
なお、本発明に係るLCNの結晶子径は、測定装置に付属の解析ソフトにより、X線回折測定で得られたX線回折パターンの回折線ピークから、一般式ABO3―δで示され、AサイトにLaが含有され、BサイトにCoおよびNiが含有されるペロブスカイト型複合酸化物のピークを分離して、得られた2θ=10°~90°の範囲のピークをウィリアムソン-ホール法により求めたものである。通常の結晶子径の分析はシェラー式で算出するが、シェラー法の場合、回折線の広がりは結晶子サイズのみに起因するとの前提によっているところ、実際の結晶では結晶子の格子ひずみも影響するため、本発明では、この格子ひずみの影響を分離するためにウィリアムソン-ホール法を採用して結晶子サイズを算出する。
【0020】
本実施形態のLCNは、Cu管球を用いてX線回折測定した場合の2θ=30°~35°付近に出現するピークが2本以下であることが好ましい。また、ペロブスカイト型構造に取り込まれなかった成分に起因するピーク高さと、ペロブスカイト型複合酸化物の最大回折線のピーク高さとの比(ペロブスカイト型構造に取り込まれなかった成分のピーク高さ/ペロブスカイト型複合酸化物の最大回折線のピーク高さ)が10%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。
【0021】
本明細書において、Cu管球を用いてX線回折測定した場合の2θ=30°~35°付近に出現するピークが2本以下であり、かつペロブスカイト型構造に取り込まれなかった成分に起因するピーク高さが、最大回折線のピーク高さと比較して10%以下であるLCNを、ペロブスカイト型複合酸化物単相のLCNと判断する。本発明に係るLCNは、ペロブスカイト型複合酸化物単相であることが好ましい。
【0022】
本実施形態に係るLCN粉末を用いて燃料電池の空気極を形成する場合、LCN粉末のBET比表面積は10m/g以下であることが好ましい。LCN粉末のBET比表面積が10m/g以下であると、LCN粉末をスラリーもしくは塗料化して空気極材料とする際に粘度の上昇が抑制されてスラリーもしくは塗料の塗布性が向上する。LCN粉末のより好ましいBET比表面積は9.0m/g以下であり、さらに好ましくは8.0m/g以下である。一方、LCN粉末のBET比表面積は2.5m/g以上であることが好ましい。LCN粉末のBET比表面積が2.5m/g以上であると、LCN粉末を用いて燃料電池の空気極を形成した場合に空気極の表面に適度な量の細孔が形成可能となり、ガスとの接触面積が増加して燃料電池を構成する際の交換効率が向上可能となる。
【0023】
本実施形態に係るLCN粉末の、レーザー回折散乱粒度分布測定装置により個数分布で算出される累積50%粒子径D50Nは0.35μm以上2.1μm以下であることが好ましい。また本実施形態に係るLCN粉末の、レーザー回折散乱粒度分布測定装置により体積分布で算出される累積50%粒子径D50Vは0.5μm以上3.0μm以下であることが好ましい。
【0024】
また、本実施形態に係るLCN粉末は、D50NとD50Vとの比D50N/D50Vが0.7以上であることが好ましい。D50NとD50Vが大きく乖離している場合には、単位体積中に存在する粒子数が極端に多くなっていることを示している。D50Nが小さい場合には、粒子径の小さい粒子が多く存在することを示している。粒子径の小さい粒子が多く存在すると、空気極中の粒子焼結が進みやすくなることが推定される。焼結が進みすぎるとガスの通気が悪くなるので、粒子径があまりにも小さくなることは好ましくない。一方、D50Vが大きすぎる場合には、粒子径の小さい粒子が少なすぎることを示している。粒子径の小さい粒子が少なすぎると、空気極の形成時のネッキングが少なくなり導電性が悪くなるので好ましくない。個数平均と体積平均のバランスを考慮すれば、D50N/D50Vは最大でも1未満である。
【0025】
また、LCN粉末は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置により計測される体積分布における10%累積粒子径D10V、50%累積粒子径D50V、90%累積粒子径D90Vにおいて(D90V-D10V)/D50Vの値が1.2以下であることが好ましい。(D90V-D10V)/D50Vの値が1.2以下であると、体積分布がシャープとなり、焼成時における接触点が多くなることから、燃料電池の空気極を形成する焼成時にLCN粉末同士のネッキングが多くなり導電性の向上が可能となる。また、(D90V-D10V)/D50Vの値は1.0以上であることが好ましい。(D90V-D10V)/D50Vの値が1.0以上であると、本実施形態のLCN粉末を用いて空気極を形成した場合、粒子間に形成される空隙を適切な形に調整することができ、また粒子同士の接点部分で粒子の焼結が生じることで、空隙の大きさを適切なものに調整可能となる。
【0026】
(製造方法)
本発明に係るLCN粉末の製造方法について具体的に説明する。LCN粉末の製造方法としては、液中で前駆体などを形成させ、それを熱処理することで複合酸化物化する湿式法と、原料を秤量してそのまま混合し焼成して複合酸化物とする乾式法とがあるが、本発明の目的を達成するためには湿式法で製造するのが好ましい。本発明者らが鋭意検討した結果、湿式法によれば、LCNの結晶子径を乾式法では通常困難である大きさまで大きくすることが可能であるとの知見を得たことによる。以下にLCN粉末の湿式法による製造方法について例示するが、ここで例示した方法の趣旨を逸脱しない範囲において適宜調整することは可能である。
【0027】
本実施形態に係るLCN粉末の製造方法としては、予めアンモニア水などのアルカリ溶液に対して、ランタン、コバルト、ニッケル元素を含む原料を水または酸に溶解した原料溶液を添加し、中和反応を行い、ペロブスカイト型複合酸化物の中和生成物を含有するスラリーを生成する方法を採用することが出来る。原料は、焼成段階で不純物の形で残存せず、気体として抜けてしまうようなものとすることが好ましい。
【0028】
生成させる中和生成物としては、炭酸を含ませておくことが好ましい。こうすることによって、中和生成物(本明細書では「前駆体」という場合もある。)を分離回収した際に空気中の二酸化炭素と反応して局部的に炭酸塩化し結晶化することが抑制される。その結果、後の工程でペロブスカイト化した際の不純物相の析出が抑制されることになるので好ましい。この系内への炭酸の添加は炭酸塩としての添加でよい。このようにして得られた中和生成物は、各元素が均一に混合された非晶質のナノ粒子であるため、焼成時に元素の拡散が容易になり単相化および結晶子の成長を促す効果が得られる。
【0029】
中和生成物を形成させるときの温度は60℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以下、一層好ましくは40℃以下である。こうした温度設定にすることで、液中に含まれる炭酸やアンモニアなどのガスとなりやすいものが液中から気散するので、中和生成物を好適に得ることが出来る。本実施形態で得られたペロブスカイト型複合酸化物の中和生成物は、各元素が均一に混合された非晶質のナノ粒子であるため、焼成時に元素の拡散が容易になり単相化および結晶子の成長を促す効果が得られる。
【0030】
得られた中和生成物は必要に応じてスラリーから分離して、洗浄を行った後、乾燥を行い中和生成物を乾燥させた前駆体を得る。スラリーから分離する方法としては、例えばろ過分離、フィルタープレスによる分離回収やスプレードライやフリーズドライなどにより直接乾燥する方法のいずれも採用することができる。ろ過分離やフィルタープレスについては、公知の方法をいずれも採用することができる。また、直接乾燥する際、得られる前駆体を所望の大きさなどに調整するために、pH調整を行ってもよい。pH調整の際には、乾燥凝集体にアルカリ金属、アルカリ土類金属など不純物の残存を避けるため、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属を含むような調整剤を用いるよりは、乾燥時に揮散して残存する虞の少ないアンモニア等で調整することが好ましい。中和生成物を乾燥する際の乾燥温度は150℃以上350℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以上300℃以下である。この乾燥温度範囲を極端に外れた温度で乾燥させると、一部がペロブスカイト化するおそれ、もしくは乾燥しきらずに前駆体粉末中に水分が残るおそれがあるので好ましくない。
【0031】
乾燥した前駆体粉末は粉砕を行うことで、微細化処理することが出来る。粉砕は、後述の焼成工程を経てから行っても構わない。上述の乾燥工程においてスプレードライヤーにより乾燥させた場合には、粉砕を要しない場合もある。粉砕に用いる装置としては、例えば、乾式粉砕を採用する場合には、乳鉢、サンプルミル、ヘンシェルミキサー、ハンマーミル、ジェットミル、パルペライザー、インペラーミル、インパクトミルなどが挙げられる。例えば、インパクトミルを使用する場合の回転数としては9000rpm以上16000rpm以下の範囲が好ましい。なお、インパクトミルの回転数と粉砕時間は、焼成工程における焼成温度と焼成時間とに関連し、焼成温度が高くまた焼成時間が長いほど、インパクトミルの回転数は大きく粉砕時間は長くするのが望ましい。
【0032】
(焼成)
作製した前駆体粉末は焼成炉にて焼成し、LCNを得る。焼成炉は、熱源が電気式又はガス式のシャトルキルン、ローラハースキルン、ロータリーキルンなど従来公知のものが使用できる。焼成温度は、ペロブスカイト型複合酸化物粉末を構成する粒子の結晶子径を大きくするために1000℃よりも高温で焼成するのが好ましい。また、焼成温度が1500℃以下であると焼成後の焼成物の解粒が容易となるため好ましい。
【0033】
焼成時の昇温速度は10℃/min以下とし、焼成時の雰囲気は大気雰囲気であってもよいし、酸素を1ppm以上20%以下含む窒素中で焼成してもよい。焼成を緩やかとすることで、結晶子径を調整することができる。そして、焼成炉内や焼成容器内を開放系とし、成分原料の原料塩から発生するガス成分を除去しながら昇温する。なお、本発明において開放系とは、焼成炉内や焼成容器内が密閉されておらず、雰囲気である気体の流入出が可能な反応系を指す。
【0034】
(粉砕)
次に、焼成後の造粒物(焼成物)を粉砕する。粉砕は、湿式粉砕及び乾式粉砕の一方であっても、それらを併用してもかまわない。乾式粉砕時には、前駆体粉砕時に例示列挙した装置等をいずれも採用することができる。また、湿式粉砕を採用する場合には、湿式ボールミル、サンドグラインダー、アトライター、パールミル、超音波ホモジナイザー、圧力ホモジナイザー、アルティマイザーなどが挙げられる。これらを用いて湿式粉砕又は湿式破砕を行うことにより、上述の条件に沿ったペロブスカイト型複合酸化物を構成することができる。特に、パールミルを使用することが好ましい。湿式での粉砕を行うにあたりパールミルを選択するときには、知られている縦型流通管式ビーズミル、横型流通管式ビーズミル、強粉砕型突流式ビスコミルなどの既存の湿式粉砕機のいずれでも粉砕可能であるが、好ましくは横型流通管式ビーズミルを使用する。横型流通管式ビーズミルは縦型流通管式ビーズミルと比較してベッセル内に滞留している間は均一に粉砕が行われ、同一流量においてより均一な粉砕が可能となるため好適である。また、横型流通管式ビーズミルは強粉砕型突流式ビスコミルよりも処理流量が大きいため経済的に好ましい。粉砕メディアとしてはガラス、セラミック、アルミナ、ジルコニア等の硬質原料で製造されたボールを使用すると良い。所望の粒子径を有したペロブスカイト型複合酸化物を得るためのボールの粒子径は0.1mm以上5.0mm以下程度が好ましく、0.5mm以上2.0mm以下がより好ましい。湿式粉砕の場合に使用する分散媒として水や比較的低沸点で除かれやすいエタノール等の有機溶媒を用いることができる。製造コストの観点からは、水を分散媒とすることが好ましい。粉砕後の焼成物(ペロブスカイト型複合酸化物粉末)の粒度分布は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置により体積分布で算出される累積50%D50Vが0.5μm以上3.0μm以下の範囲で一山分布とするのが好ましい。
【0035】
(固体酸化物型燃料電池,SOFC)
固体酸化物型燃料電池について説明する。図9は、固体酸化物型燃料電池の一例を模式的に示した断面構成図である。支持体となる薄板状あるいはシート状の燃料極1と、燃料極1の表面に形成された固体電解質膜2と、固体電解質膜2の表面に形成された薄板状あるいはシート状の空気極3とが積層された構造を有する。
【0036】
そして、燃料極1に燃料ガス(典型的には水素(H)であるが炭化水素(メタン(CH))等でもよい。)を供給し、空気極3に酸素(O)を含む気体(空気)を流し、燃料電池に電流を印加すると、空気極3において、空気中の酸素が、酸化物イオンとなる。酸化物イオンは、空気極3から固体電解質2を介して燃料極1に供給される。そして、該燃料極1において、燃料ガスと反応して水(HO)を生成し、電子を放出し、発電が行われる。
【0037】
SOFCは、適用する燃料電池の構成や製造プロセスにもよるが、燃料極、固体電解質膜等の積層体を予め作製し、その積層体の上に、印刷法や蒸着等によって、上記空気極材料を含む層を形成し焼結させることで空気極が形成され、燃料電池が作製される。
【0038】
空気極の膜厚はセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、例えば20μm以上50μm以下であることが好ましい。空気極の材料は、本実施形態のLCN粉末のみであってもよいし、組成の異なるペロブスカイト複合酸化物粉末や、粒子径の異なる1種又は2種以上のペロブスカイト複合酸化物粉末と、本実施形態のLCN粉末を混合して用いてもよい。
【0039】
固体電解質層としては、上記空気極材料に用いる電解質材料を用いることができ、例えば、希土類元素ドープセリア系固体酸化物電解質や、希土類元素ドープジルコニア系固体酸化物電解質が挙げられる。
【0040】
固体電解層の膜厚は、固体電解質層の緻密性が維持される程度に厚くする一方、燃料電池として好ましい酸素イオン又は水素イオンの伝導度を供し得る程度に薄くなるよう、両者をバランスさせて設定され、0.1μm以上50μm以下が好ましく、1μm以上20μm以下がより好ましい。
【0041】
燃料極としては、多孔質構造を有し、供給される燃料ガスと接触できるように構成されていればよく、従来から固体酸化物型燃料電池に用いられている材料を使用することができる。例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)その他の白金族元素、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等からなる金属および/または金属元素のうちの1種類以上から構成される金属酸化物が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
燃料極の膜厚は、耐久性、熱膨張率等から20μm以上1mm以下が好ましく、20μm以上250μm以下であることがより好ましい。
【0043】
なお、SOFCの構造は、従来公知の平型、多角形型、円筒型(Tubular)あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat Tubular)等とすることができ、形状やサイズは特に限定されない。また、平型のSOFCとしては、燃料極支持型(ASC:Anode-Supported Cell)の他にも、例えば電解質を厚くした電解質支持型(ESC:Electrolyte-Supported Cell)や、空気極を厚くした空気極支持型(CSC:Cathode-Supported Cell)等を用いることができる。その他、燃料極の下に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセル(MSC:Metal-Supported Cell)とすることもできる。
【実施例
【0044】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。
【0045】
(実施例1)
硝酸に酸化ランタンを溶解させた溶液(La濃度:15.17質量%、NO :270g/L)535gと、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)73g、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO)123gと、をそれぞれイオン交換水269gに溶解させ混合溶液を作成した。
【0046】
また、イオン交換水2650gと炭酸アンモニウム216gを反応槽に入れ、撹拌しながら水温を30℃になるよう調整した。この炭酸アンモニウム溶液中に、混合溶液を徐々に加えて中和反応を行い、ペロブスカイト型複合酸化物の中和生成物を析出させた後、この中和生成物を30分間熟成させて反応を完了させた。
【0047】
(2)ろ過・乾燥
このようにして得られた中和生成物をろ過した後に水洗し、得られた中和生成物のウエットケーキを直径5mmの細長い円柱形のペレット状に成形した。この成形後直ぐにペレット状の成形体を空気を通風しながら250℃で2時間加熱して乾燥し黒色の前駆体を得た。
【0048】
(3)焼成
得られた前駆体50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(株式会社東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から800℃まで昇温速度3.1℃/分、800℃から1080℃まで昇温速度2.6℃/分で昇温し、1080℃(焼成温度)で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0049】
得られた焼成物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)を用いて、20g/Bの仕込量で回転数16000rpmで30秒×2回の粉砕処理をすることで、ペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0050】
次に、アイメックス社製4筒式サンドグラインダー(TSG-4U型、容積容量:350ml)のポットに、直径1.0mmのZrOビーズ200g、純水117g、ペロブスカイト型複合酸化物粉末50gを入れ、ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで50分間粉砕処理することで、固形分としてペロブスカイト型複合酸化物の粉砕物を含むスラリーを得た。その後、得られたスラリーを125℃で乾燥し、実施例1に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0051】
得られた複合酸化物粉末の物性値等を下記の測定方法によって測定した。XRDパターンを図1に示す。また、2θ=30°~50°の部分を抽出したXRDパターンを図2に示し、複合酸化物粉末のSEM写真を図5に示す。
【0052】
XRDパターンから、実施例1のペロブスカイト型複合酸化物粉末のAサイトに含有される元素はLaであり、Bサイトに含有される元素はCoおよびNiであることが確認された。XRDパターンから、2θ=30°~35°の間に回折線が2本確認され、得られた物質はペロブスカイト単相であると確認できた。
また、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製 720ES)によって実施例1のペロブスカイト型複合酸化物粉末の組成分析を行った結果、表2に示す組成を有していた。他の実施例及び比較例の複合酸化物粉末についても同様にして組成分析を行った。結果は表2に併せて示す。
【0053】
(BET比表面積)
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末のBET比表面積を、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のHM model―1210)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定した。なお、当該BET比表面積測定において、測定前の脱気条件は105℃、20分間とした。測定結果は実施例1、2、比較例1、2とも表1に合わせて示す。
【0054】
(体積基準、個数基準粒径)
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末0.15gを、500ppmのヘキサメタリン酸ナトリウムを含有する水60mLに添加し、超音波ホモジナイザーにより30秒間分散させて得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末を含むスラリーを使用して、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の体積基準の累積10%粒径(D10V)、累積50%粒径(D50V)、累積90%粒径(D90V)、個数基準の累積10%粒径(D10N)、累積50%粒径(D50N)、累積90%粒径(D90N)をマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のMT3300EXII)を用いて(粒子屈折率を2.40、溶媒屈折率を1.333、計算モードをMT3300IIとして)測定した。測定結果は実施例1、2、比較例1、2とも表1に合わせて示す。
【0055】
(X線回折測定)
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末のXRD測定を株式会社リガク製のUltimaIVを用いて行った。測定条件としては、管球はCuを用い、管電圧は40kV、管電流は40mA、発散スリット1/2°、散乱スリット8mm、受光スリットは解放設定、ステップ幅は0.02°、計測時間は4°/分の設定とした。得られたX線回折パターンに基づいて、上記のX線回折(XRD)装置に付属の解析ソフトウェア(株式会社リガク製の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2用ICDS(Inorganic Crystal Structure Database))により、得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末の結晶相の同定、および不純成分の組成の解析を行った。
また、ペロブスカイト型複合酸化物粉末のピークを分離して得られた2θ=10°~90°の範囲のピークからウィリアムソン-ホール法を用いて結晶子径を求めた。
【0056】
(走査電子顕微鏡(SEM)観察)
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末を電界放出型走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S-4700)を用いて観察した。
【0057】
(導電率測定)
複合酸化物粉末の導電率の測定は、半径10mmのユニットに測定粉末を2g仕込み、粉体抵抗測定システム(株式会社 三菱ケミカルアナリテック社製 MCP-PD51)を用いて圧力16N(ニュートン)で圧粉し、抵抗率計(株式会社 三菱ケミカルアナリテック社製 MCP-T610)を用いて4探針プローブ法で導電率を測定した。測定した結果は表2に併せて示した。
【0058】
(実施例2)
実施例1のろ過・乾燥工程までは同様にして前駆体を得た。得られた前駆体50gを角型のサヤ内に入れ、連続焼成炉内へセットし、室温から900℃まで昇温速度3.1℃/分、900℃から1060℃まで昇温速度2.4℃/分で昇温させ、1060℃(焼成温度)で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。得られた焼成物を、実施例1と同様にして、サンプルミル及びサンドグラインダーで粉砕処理し、実施例2に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。粒子のXRDパターンは実施例1に示したものと同じであることが確認された。そのため、得られた物質はペロブスカイト単相であるといえる。また、得られた酸化物粉末のSEM写真を図6に示す。
【0059】
(比較例1)
(原料の作製)
La1.0Co0.4Ni0.63-δの組成を有する複合酸化物粉末が得られるよう、Laを27.1g、Coを5.4g、NiOを7.5g秤量し、自動乳鉢を使用して、30分間原料を混合した(以下、「原料混合物」という。)。
【0060】
(焼成)
得られた原料混合物50gを丸型ルツボ(直径90mm、高さ75mmの容器)内に入れ、電気マッフル炉(株式会社東洋製作所製のKM-160)内へセットし、室温から800℃まで昇温速度3.1℃/分、800℃から1080℃まで昇温速度2.6℃/分で昇温させ、1080℃(焼成温度)で2時間保持して焼成した後、室温まで自然冷却した。
【0061】
(粉砕)
得られた焼成物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)を用い、20g/Bの仕込量で回転数16000rpmで30秒×2回の粉砕処理をすることで、比較例1に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。
【0062】
次に、4筒式サンドグラインダー(アイメックス株式会社製、TSG-4U型、容積容量:350ml)のポットに、直径1.0mmのZrOビーズ200g、純水117g、ペロブスカイト型複合酸化物粉末50gを入れた。ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで90分間粉砕処理した後、固形分としてペロブスカイト型複合酸化物粉末の粉砕物を得た。得られた固形物は125℃で乾燥させ、比較例1に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。XRDパターンから、得られた物質はペロブスカイト単相ではなく、他相のものも含まれていることが確認できた。
【0063】
得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末の粒度分布を、実施例1と同様にして測定したところ、複合酸化物粉末の体積基準の累積50%粒径D50Vは0.78μmであった。得られた複合酸化物粉末のXRDパターンを図3に示す。また、2θ=30°~50°の部分を抽出したXRDパターンを図4に示し、複合酸化物粉末のSEM写真を図7に示す。
【0064】
(比較例2)
La1.0Co0.4Ni0.63-δの組成を有する複合酸化物粉末が得られるよう、Laを27.1g、Coを5.4g、NiOを7.5g、純水を99g、酢酸を1.5g秤量し、ポットを20℃の冷却水で冷却しながら、回転数1500rpmで60分間粉砕処理し、原料スラリーを作製した。
【0065】
(乾燥)
次に、このスラリーを125℃で乾燥させた。得られた乾燥物をサンプルミル粉砕装置(協立理工株式会社製、機種名:SK-M10)により50g/Bの仕込量、回転数16000rpmで30秒×2回の粉砕処理をすることで、乾燥粉砕物を得た。
【0066】
得られた乾燥粉砕物を、比較例1と同様にして、焼成、粉砕して比較例2に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末を得た。得られたペロブスカイト型複合酸化物粉末の粒度分布を、実施例1と同様にして測定したところ、体積基準の累積50%粒径D50Vは0.77μmであった。得られた複合酸化物粉末のXRDパターンを図3に示す。また、2θ=30~50°の部分を抽出したXRDパターンを図4に示し、複合酸化物粉末のSEM写真を図8に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
La1.0Co0.4Ni0.63-δの組成を有し、結晶子径が56.4nmの実施例1のペロブスカイト型複合酸化物粉末、及びLa1.0Co0.4Ni0.613-δの組成を有し、47.5nmである実施例2のペロブスカイト型複合酸化物粉末では、導電率が22.83(S/cm)及び10.96(S/cm)と高い導電性が得られた。
【0070】
これに対して、La1.01Co0.4Ni0.593-δの組成を有し、結晶子径が12.8nm及び15.5nmと本発明の規定範囲よりも小さい比較例1及び比較例2の複合酸化物粉末では、導電率が0.22(S/cm)及び3.02(S/cm)と実施例1,2のペロブスカイト型複合酸化物粉末に比べて格段に低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粉末は電極としての導電性も確保されるので、固体酸化物型燃料電池および固体酸化物型燃料電池の空気極として好適な特性を発揮することが期待される。また、これらのペロブスカイト型複合酸化物粉末は電子導電性を有し、例えば、吸着剤、触媒担体、分離膜、燃料電池等の酸素極、キャパシタ等の電極、機能性フィルターの部材、更には、ガスセンサー、リチウム蓄電デバイス、色素増感型太陽電池等としての利用も可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9