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特許7474356磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20240417BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20240417BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240417BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20240417BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240417BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20240417BHJP
【FI】
G11B5/73
G11B5/82
G11B5/84 Z
C22C21/06
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 661D
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 683
C22F1/00 694B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 686B
C22F1/00 691Z
C22F1/047
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022569985
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045824
(87)【国際公開番号】W WO2022131210
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020207706
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 航
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188320(WO,A1)
【文献】特開平10-110232(JP,A)
【文献】特開平08-083417(JP,A)
【文献】特開2006-260745(JP,A)
【文献】特開2008-238517(JP,A)
【文献】特開2019-056163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/82
G11B 5/84
C22C 21/06
C22F 1/00
C22F 1/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:3.40~3.90mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、導電率が36.0%IACS以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項2】
Mg:3.40~3.65mass%を含有することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項3】
Mg:3.40~3.55mass%を含有することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項4】
前記アルミニウム合金が、Cu:0.30mass%以下、Zn:0.60mass%以下、Fe:0.60mass%以下、Si:0.60mass%以下、Cr:0.20mass%以下、Be:0.0020mass%以下、Sr:0.10mass%以下、Na:0.10mass%以下及びP:0.10mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上の元素を更に含有する、請求項1~3のいずれかに記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクからなるアルミニウム合金基板の表面に、Ni-Pめっき処理層と、該Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び当該磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(以下、「HDD」と省略する)は、コンピュータや映像記録装置等の電子機器における記憶装置として多用されている。HDDには、データを記録するための磁気ディスクが組み込まれている。磁気ディスクは、アルミニウム合金からなり円環状を呈するアルミニウム合金基板と、アルミニウム合金基板の表面を覆うNi-Pめっき処理層と、Ni-Pめっき処理層上に積層された磁性体層とを有している。
【0003】
近年、サーバやデータセンター等の業務用、及び、パーソナルコンピュータや映像記録装置等の家庭用のいずれの用途においても、HDDに記録する情報量が多くなってきている。かかる状況に対応してHDDの容量を大きくするため、HDDに組み込まれる磁気ディスクの記録密度を高めることが求められている。磁気ディスクの記録密度を高くするためには、アルミニウム合金基板上に平滑なNi-Pめっき処理層を形成する。
【0004】
磁気ディスクは、通常、以下の方法により作製される。まず、アルミニウム合金の圧延板を円環状に打ち抜いてディスクブランクを作製する。次いで、ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しつつ加熱してディスクブランクの反りを小さくする。その後、ディスクブランクに切削加工及び研削加工を行い、所望の形状に成形することによりアルミニウム合金基板が得られる。このようにして得られたアルミニウム合金基板に、Ni-Pめっき処理層を形成するための前処理、無電解Ni-Pめっき処理及び磁性体層のスパッタリングを順次行うことにより、磁気ディスクを作製することができる。
【0005】
アルミニウム合金基板に用いられるアルミニウム合金としては、JIS A5086合金が多用されている。
【0006】
磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められている。更なる大容量化のため、読み書き時のヘッドの浮上量を低くする傾向があるが、磁気ディスクの表面に凸状欠陥が存在すると、磁気ヘッドと衝突し、記録エラーの原因となるため、凸状欠陥の低減が求められている。また、従来から安定した加工及び使用ができるように、アルミニウム合金ディスクブランクには高い耐力が要望されていた。
【0007】
そこで、凸状欠陥の低減により平滑性をより向上させることを目的として、金属間化合物等の、アルミニウム合金基板内の異物を低減する技術が種々検討されている。例えば、特許文献1には、2.0~6.0wt%のMg、0.05~0.15wt%のCu、0.10~0.30wt%のZn、0.05~0.12wt%のZr、0.2wt%以下(0wt%を含む)のSnを含有し、前記Cu、Zn、Zr、Snの含有量が0.15wt%≦2Cu+6Zr-3Zn-0.1Sn≦0.32wt%の関係式(式中Cu、Zr、Zn、Snは各々のwt%)を満足し、さらに0.01wt%を超え0.05wt%未満のMn、0.01wt%を超え0.05wt%未満のCrのうちの1種または2種を含有し、残部不可避的不純物元素とAlからなる磁気ディスク基板用アルミニウム合金板において、MgSi化合物やAl-Fe系化合物を低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-008177号公報
【0009】
特許文献1の方法によれば、双ロール式連続鋳造により、溶湯が凝固する際の冷却速度を高め、金属間化合物を微細化することができる。しかしながら、特許文献1の方法では、金属間化合物以外の要因によるディスクブランクの凸状欠陥を低減することが困難であるという問題がある。また、特許文献1の方法では、ディスクブランクの耐力を十分に向上させることが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明者らは、アルミニウム合金のMg量と導電率を制御することにより凸状欠陥を低減して平滑性を高くすると共に高い耐力を達成した磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、Mg:3.40~3.90mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、導電率が36.0%IACS以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、Mg:3.40~3.65mass%を含有することを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、Mg:3.40~3.55mass%を含有することを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、前記アルミニウム合金が、Cu:0.30mass%以下、Zn:0.60mass%以下、Fe:0.60mass%以下、Si:0.60mass%以下、Cr:0.20mass%以下、Be:0.0020mass%以下、Sr:0.10mass%以下、Na:0.10mass%以下及びP:0.10mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上の元素を更に含有する、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクである。
本発明の他の態様は、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクからなるアルミニウム合金基板の表面に、Ni-Pめっき処理層と、該Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスクである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクは、Mg量と導電率を制御して、凸状欠陥を低減して平滑性を高くすると共に高い耐力を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの導電率と凸状欠陥の最大高さとの関係を示すグラフである。
図2】磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクの加圧焼鈍後の焼鈍温度と導電率との関係を示すグラフである。
図3】磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクのMg含有量と導電率との関係を示すグラフである。
図4】磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクのMg含有量と耐力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A-1.磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク(以下、「アルミニウム合金ディスクブランク」と記す場合がある)について説明する。アルミニウム合金ディスクブランクは、所定の合金組成のアルミニウム合金を用いてアルミニウム合金板を作製し、これをディスクブランク状に打ち抜くことで得られる。アルミニウム合金ディスクブランクは、Mg:3.40~3.90mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、導電率が36.0%IACS以上である。アルミニウム合金ディスクブランクの導電率が36.0%IACS以上であることにより、アルミニウム合金中に固溶している溶質原子(特にMg)の量を適正な範囲にすることができる。その結果、凸状欠陥を低減させて平滑性が優れたものとすることができる。なお、導電率の測定には例えば、導電率計(GEセンシング&インスペクション・テクノロジーズ株式会社製「AutoSigma 3000」)を用いることができる。導電率の測定は、25℃の環境下において、渦電流法により厚さが1mm以上2mm以下の試験材に対して行う。また、Mgの含量が3.40~3.90mass%であることによって高い耐力を達成することができる。この理由は、Mgは、主として固溶Mgとして存在し、強度を向上させる効果を発揮することから、Mgの含量を3.40~3.90mass%とすることで耐力が向上するためである。この結果、凸状欠陥の低減による平滑性の向上と高い耐力を両立させることができる。
【0015】
A-1.アルミニウム合金の合金組成
アルミニウム合金ディスクブランクに用いるアルミニウム合金の組成及びその限定理由について、以下に詳細に説明する。
【0016】
・Mg:3.40~3.90mass%
Mgはアルミニウム合金に必須元素として含有され、主として固溶Mgとして存在し、アルミニウム合金ディスクブランクの強度を向上させる効果を発揮する。また、アルミニウム合金ディスクブランクのジンケート処理時のジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程であるめっき工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性を向上させる。しかしながら、Mg含有量が3.40mass%(以下、単に「%」と記す場合がある)未満ではアルミニウム合金ディスクブランクの強度が不十分であり、切削や研削の加工時等に変形してしまう。更に、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下する。一方、Mg含有量が3.90mass%を超えると、切削や研削の加工時において、残留応力が生じやすくなる。これは、アルミニウム合金中の固溶Mg量が多くなることで、アルミニウム合金ディスクブランクの加工時に発生する転位が固着され、加工後に行われる焼鈍においても転位が完全に消滅せず、残留応力が解放されて凸状欠陥が発生し、平滑性が低下する。従って、本発明のアルミニウム合金ディスクブランクでは、アルミニウム合金のMg含有量は3.40~3.90mass%と規定する。なお、Mg含有量は、強度と製造性との兼合いから、好ましくは3.40~3.65mass%であり、より好ましくは3.40~3.55mass%である。
【0017】
アルミニウム合金には、Mgに加えて、更に、Cu、Zn、Fe、Si、Be、Cr、Sr、Na、及びPからなる群から選択される1種又は2種以上の元素を更なる任意成分として含んでいてもよい。この場合、Mg:3.40~3.90mass%を含有し、Cu:0.30mass%以下、Zn:0.60mass%以下、Fe:0.60mass%以下、Si:0.60mass%以下、Cr:0.20mass%以下、Be:0.0020mass%以下、Sr:0.10mass%以下、Na:0.10mass%以下及びP:0.10mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、導電率が36.0%IACS以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクが得られる。
以下では、各任意成分について詳細に説明する。
【0018】
・Cu:0.30mass%以下
アルミニウム合金には、任意成分として0.30mass%以下のCuが含まれていてもよい。Cuは、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金からのAlの溶出を抑制する作用を有する。Cu含有量を0.30mass%以下にすることにより、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面に、緻密で厚みが薄く、かつ厚みのバラつきが小さいZn皮膜を付着させることができる。そして、このようなZn皮膜を形成することにより、後工程である無電解Ni-Pめっき処理によって平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0019】
しかしながら、Cuの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金ディスクブランクの耐食性が低下し、局所的にAlが溶出し易い領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にムラが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり易い。その結果、Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下やNi-Pめっき処理層の平滑性の低下を招く虞がある。
【0020】
アルミニウム合金中のCuの含有量を0.30mass%以下、好ましくは0.15mass%以下とすることにより、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Cuの含有量の下限を、0.0050mass%とするのが好ましく、より好ましくは0.010mass%である。
【0021】
・Zn:0.60mass%以下
アルミニウム合金中には、任意成分として0.60mass%以下のZnが含まれていてもよい。Znは、Cuと同様に、ジンケート処理におけるアルミニウム合金からのAlの溶出を抑制する作用を有する。Zn含有量を0.60mass%以下にすることにより、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面に、緻密で厚みが薄く、かつ厚みのバラつきが小さいZn皮膜を付着させることができる。そして、このようなZn皮膜を形成することにより、後工程である無電解Ni-Pめっき処理によって平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0022】
しかしながら、Znの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金ディスクブランクの耐食性が低下し、局所的にAlが溶出し易い領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にムラが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり易い。その結果、Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下やNi-Pめっき処理層の平滑性の低下を招く虞がある。
【0023】
アルミニウム合金中のZnの含有量を0.60mass%以下、好ましくは0.50mass%以下とすることにより、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Znの含有量の下限を、0.10mass%とするのが好ましく、より好ましくは0.25mass%である。
【0024】
・Fe、Si:0.60mass%以下
アルミニウム合金中には、任意成分として0.60mass%以下のFe、Siが含まれていてもよい。Feは、Alマトリクス中にほとんど固溶せず、Al-Fe系金属間化合物としてアルミニウム合金ディスクブランク内に分散している。Siは、アルミニウム合金にMgが含有される場合に、Mgとの間にMg-Si系金属間化合物を形成する。
【0025】
このようなAl-Fe系金属間化合物やMg-Si系金属間化合物がアルミニウム合金ディスクブランクの表面から脱落した場合、後工程である無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成され易くなる。アルミニウム合金中のFe及びSiの含有量をそれぞれ0.60mass%以下、好ましくは0.050mass%以下、より好ましくは0.0010mass%以下とすることにより、アルミニウム合金ディスクブランク中に存在する上記金属間化合物量をより低減することができる。その結果、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。
【0026】
上記金属間化合物によるめっきピットの発生を抑制するためには、Fe及びSiの含有量を少なくすることが好ましい。しかしながら、これらの元素は、一般的な純度の地金はもとより、Alの純度が99.9質量%以上である高純度の地金にも含まれている。そのため、FeとSiを殆ど含有しないアルミニウム合金ディスクブランクを作製しようとすると、鋳造時にこれらの元素を除去するための特殊な処理を行う必要があり、アルミニウム合金ディスクブランクの製造コストの増大を招くことになる。
【0027】
アルミニウム合金中のFe及びSiの含有量がそれぞれ0.0010mass%以下であれば、これらの元素を除去するための特殊な処理を行うことなくアルミニウム合金ディスクブランクを作製することができる。その結果、アルミニウム合金ディスクブランクの製造コストの増大を回避しつつ、その平滑性をより高めることができる。また、アルミニウム合金中のFe及びSiの含有量がそれぞれ0.0010mass%を超えても0.60mass%以下であれば、より純度の低い地金を用いてアルミニウム合金ディスクブランクを作製することができる。これにより、アルミニウム合金ディスクブランクの材料コストをより低減することができる。
【0028】
・Be:0.0020mass%以下
Beは、Mgを含むアルミニウム合金を鋳造する際に、Mgの酸化を抑制することを目的として溶湯内に添加される元素である。また、アルミニウム合金中に含有されるBeを0.0020mass%以下とすることにより、磁気ディスクの製造過程においてアルミニウム合金基板の表面に形成されるZn皮膜をより緻密にするとともに、厚みのバラつきをより小さくすることができる。その結果、アルミニウム合金基板上に形成されるNi-P処理層の平滑性をより高めることができる。
【0029】
しかしながら、アルミニウム合金中のBe含有量が多過ぎると、アルミニウム合金ディスクブランクの製造過程においてアルミニウム合金ディスクブランクが加熱された際に、アルミニウム合金ディスクブランクの表面にBe系酸化物が形成され易くなる。また、アルミニウム合金が更にMgを含有する場合、アルミニウム合金ディスクブランクが加熱された際に、アルミニウム合金ディスクブランクの表面にAl-Mg-Be系酸化物が形成され易くなる。これらの酸化物量が多くなると、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり、めっきピットの発生を招く虞がある。
【0030】
アルミニウム合金中のBe含有量を0.0020mass%以下、好ましくは0.0010mass%以下とすることにより、Al-Mg-Be系酸化物の量を低減し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Be含有量の下限値については、0mass%(0.0000mass%)であってもよいが0.0002mass%とするのが好ましい。
【0031】
・Cr:0.20mass%以下
アルミニウム合金中には、任意成分として0.20mass%以下のCrが含まれていてもよい。Crの一部は、鋳造時に生じる微細な金属間化合物としてアルミニウム合金ディスクブランク内に分散している。鋳造時に金属間化合物を形成しなかったCrはAlマトリクス中に固溶し、固溶強化によってアルミニウム合金ディスクブランクの強度を向上させる作用を有する。
【0032】
また、Crは、切削性及び研削性をより高めるとともに再結晶組織をより微細化する作用を有する。その結果、アルミニウム合金基板とNi-Pめっき処理層との密着性をより高め、めっきピットの発生を抑制する。
【0033】
しかしながら、アルミニウム合金中のCrの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金基板中に粗大なAl-Cr系金属間化合物が形成され易くなる。このような粗大なAl-Cr系金属間化合物がアルミニウム合金基板の表面から脱落した場合、後工程の無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成され易くなる。
【0034】
アルミニウム合金中のCr含有量を0.20mass%以下、好ましくは0.10mass%以下とすることにより、めっきピットの形成を抑制し、平滑なNi-Pめっき処理層を形成するとともにアルミニウム合金基板の強度をより向上させることができる。なお、Crの含有量の下限値を、0.030mass%とするのが好ましく、より好ましくは0.050mass%である。
【0035】
・Sr、Na及びP:それぞれ0.10mass%以下
Sr、Na及びPは、アルミニウム合金ディスクブランク中の第二相粒子(主にSi粒子)を微細化し、めっき性を改善する効果を発揮する。また、アルミニウム合金ディスクブランク中の第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、耐衝撃特性のバラつきを低減させる効果も発揮する。そのため、アルミニウム合金中にそれぞれが、0.10mass%以下のSr、Na、Pが含まれていてもよい。
【0036】
しかしながら、Sr、Na及びPのそれぞれが0.10mass%を超えて含有されても上記効果は飽和し、更なる顕著な効果が得られない。また、上記効果を得るためには、Sr、Na及びPのそれぞれの下限値を、0.0010mass%とするのが好ましい。
【0037】
・その他の元素
アルミニウム合金には、上述した必須成分及び任意成分以外の不可避的不純物となる元素が含まれていてもよい。これらの元素としては、Mn、Zr、Ti、B、Si、Gaなどが挙げられ、その含有量は、各元素について0.10mass%以下、合計で0.30mass%以下であれば本発明の作用効果を損なわない。上述のように本発明においては、Siを任意成分として積極的に添加することもできるが、積極的に添加せず不可避的不純物となる場合もある。Siは、一般的な純度の地金はもとより、Alの純度が99.9mass%以上である高純度の地金にも不可避的不純物として含まれ、このように不可避的不純物として含まれる場合も、0.10mass%以下であれば本発明の作用効果を損なわない。なお、Siを任意成分として積極的に添加する場合は、上記のように金属間化合物量低減の観点から、アルミニウム合金中のSiの含有量が0.60mass%以下であることが好ましい。
【0038】
アルミニウム合金ディスクブランクの導電率:36.0%IACS以上
アルミニウム合金ディスクブランクの導電率は、その値が大きいほど、アルミニウム合金中に固溶している溶質原子の量が少ないことを示している。上記アルミニウム合金ディスクブランクの導電率を上記特定の範囲内(36.0%IACS以上)とすることにより、アルミニウム合金中に固溶している溶質原子(特にMg)の量を適正な範囲にすることができる。その結果、凸状欠陥を低減させて平滑性が優れたものとすることができる。
【0039】
導電率が36.0%IACS未満の場合には、アルミニウム合金中に固溶している溶質原子の量が多くなるため、凸状欠陥が多発するおそれがある。これは、アルミニウム合金中の固溶Mg量が多くなることで、加工時に発生する転位が固着され、加工後に行われる焼鈍においても転位が完全に消滅せず、残留応力が解放されて凸状欠陥が発生し、平滑性が低下する。従って、本発明のアルミニウム合金ディスクブランクの導電率は36.0%IACS以上と規定する。なお、導電率は、好ましくは37.0%IACS以上であり、より好ましくは38.0%IACS以上である。なお、上記特定の範囲の化学成分を有するアルミニウム合金においては、通常、導電率の上限は45.0%IACS程度である。図1は、アルミニウム合金ディスクブランクの導電率と凸状欠陥の最大高さの関係を示したグラフである。図1に示したアルミニウム合金ディスクブランクの詳細は実施例で後述する。図1に示されるように、導電率が大きくなると凸状欠陥の最大高さが小さくなることが分かる。なお、凸状欠陥の評価は、アルミニウム合金ディスクブランクの表面にマイクロビッカースの圧痕を5kgの条件で打ち込み、その後、圧痕が消えるまで表面を旋盤で削り、270℃で1時間の焼鈍を行い、圧痕があった場所に発生した凸状欠陥の最大高さを測定することによって行う。
【0040】
A-2.アルミニウム合金板の製造方法
(1)鋳造工程
所定の合金組成のアルミニウム材の原料を溶解し、溶湯を溶製してからこれを鋳造して鋳塊を作製する。鋳造としては、半連続鋳造(DC鋳造)法や金型鋳造法、連続鋳造(CC鋳造)法が用いられる。DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、ならびに、インゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。金型鋳造法においては、鋳鉄等で作られた中空の金型に注がれた溶湯が、金型の壁に熱を奪われ、凝固し、鋳塊が出来上がる。CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0041】
このような鋳造工程において、溶湯中の溶存ガスを低減する脱ガス処理及び溶湯中の固形物を除去するろ過処理をインラインで行うことが好ましい。
【0042】
脱ガス処理としては、例えば、SNIF(Spinning Nozzle Inert Flotation)プロセスと呼ばれる処理方法やAlpurプロセスと呼ばれる処理方法等を採用することができる。これらのプロセスにおいては、羽根付き回転体により溶湯を高速で攪拌しながらアルゴンガスやアルゴンと塩素との混合ガス等のプロセスガスを吹き込み、溶湯中にプロセスガスの微細な気泡を形成する。これにより、溶湯中に溶存した水素ガスや介在物を短時間で除去することができる。脱ガス処理には、インライン式の脱ガス装置を使用することができる。
【0043】
ろ過処理としては、例えば、ケークろ過方式やろ材ろ過方式などを採用することができる。また、ろ過処理には、例えば、セラミックチューブフィルター、セラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルタ-などのフィルターを使用することができる。
【0044】
(2)均質化処理工程
鋳塊を作製した後に熱間圧延を行うまでの間に、必要に応じて鋳塊の面削を行い、均質化処理を行ってもよい。均質化処理における保持温度は、例えば500~570℃の範囲から適宜設定することができる。また、均質化処理における保持時間は、例えば1~60時間の範囲から適宜設定することができる。
【0045】
(3)熱間圧延工程
次に、鋳塊に熱間圧延を行い、熱間圧延板を作製する。熱間圧延の圧延条件は特に限定されるものではないが、例えば、開始温度を400~550℃の範囲とし、終了温度を260~380℃の範囲として熱間圧延を行うことができる。
【0046】
(4)冷間圧延工程
熱間圧延を行った後、得られた熱間圧延板に1パス以上の冷間圧延を行うことにより、冷間圧延板を得ることができる。冷間圧延の圧延条件は特に限定されることはなく、所望するアルミニウム合金ディスクブランクの厚み及び強度に応じて適宜設定すればよい。例えば、冷間圧延における総圧下率は20~95%とすることができる。また、冷間圧延板の厚みは、例えば、0.2~1.9mmの範囲から適宜設定することができる。
【0047】
(5)焼鈍工程
上記態様の製造方法においては、冷間圧延における1パス目の前及びパス間のうち少なくとも一方において、必要に応じて焼鈍処理を行ってもよい。焼鈍処理は、バッチ式熱処理炉を用いて行ってもよいし、連続式熱処理炉を用いて行ってもよい。バッチ式熱処理炉を用いる場合、焼鈍時の保持温度を250~430℃、保持時間を0.1~10時間の範囲とすることが好ましい。また、連続式熱処理炉を用いる場合、炉内の滞在時間を60秒以内、炉内の温度を400~500℃とすることが好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより、冷間圧延時の加工性を回復させることができる。
以上の工程によって、アルミニウム合金板が作製される。
【0048】
A-3.アルミニウム合金基板の製造方法
上記のアルミニウム合金板からアルミニウム合金基板を作製するに当たっては、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、アルミニウム合金板に打ち抜き加工を行って円環状を呈するアルミニウム合金ディスクブランクを作製する。その後、アルミニウム合金ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しながら加熱して加圧焼鈍を行うことにより、アルミニウム合金ディスクブランクの歪みを低減させ、平坦度を向上させる。加圧焼鈍における保持温度と圧力は、例えば、250~430℃で1.0~3.0MPaの範囲から適宜選択することができる。また、加圧焼鈍における保持時間は、例えば、30分以上とすることができる。
【0049】
加圧焼鈍を行った後、切削加工及び研削加工の前に、焼鈍を行うことが好ましい。焼鈍時の保持温度を190~260℃、保持時間を0.1~10時間の範囲とすることが好ましい。また、焼鈍時の保持温度は、190~240℃がより好ましく、190~220℃がさらに好ましい。焼鈍時の保持時間は0.5~10時間がより好ましく、1~10時間がさらに好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより、導電率を上げることができる。これは、主に固溶Mgが析出するためで、これにより、加工時の残留応力を減らすことができる。図2は、アルミニウム合金ディスクブランクの加圧焼鈍後の焼鈍温度と導電率の関係を示したグラフである。図2に示したアルミニウム合金ディスクブランクの詳細は実施例で後述する。図2に示されるように、190~260℃前後で焼鈍を行うことで、導電率が上がることが分かる。
【0050】
焼鈍を行った後、アルミニウム合金ディスクブランクに切削加工及び研削加工を順次行い、所望の形状を有するアルミニウム合金基板を作製する。これらの加工を行った後に、必要に応じて、150~350℃で0.1~10.0時間の条件で、加工時の歪を除去する歪取り熱処理を行ってもよい。
以上の工程によって、アルミニウム合金基板が作製される。
【0051】
B.磁気ディスク
B-1.磁気ディスクの構成
上記アルミニウム合金基板を備えた磁気ディスクは、例えば、以下の構成を有する。即ち、磁気ディスクは、アルミニウム合金基板と、このアルミニウム合金基板表面を覆うNi-Pめっき処理層と、このNi-Pめっき処理層上に積層された磁性体層とを有する。なお、Ni-Pめっき処理層は、無電解めっき処理により形成した無電解Ni-Pめっき処理層であることが好ましい。
【0052】
磁気ディスクは、更に、ダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系材料からなり、磁性体層上に積層された保護層と、潤滑油からなり、保護層上に塗布された潤滑層とを有していてもよい。
【0053】
B-2.磁気ディスクの製造方法
アルミニウム合金基板から磁気ディスクを製造するに当たっては、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、アルミニウム合金基板に脱脂洗浄を行いアルミニウム合金基板の表面に付着した加工油等の油分を除去する。脱脂洗浄の後、必要に応じて、酸を用いてアルミニウム合金基板にエッチングを施してもよい。エッチングを行った場合には、エッチング後に、エッチングによって生じたスマットをアルミニウム合金基板から除去するデスマット処理を行うことが好ましい。これらの処理における処理条件は、処理液の種類に応じて適宜設定することができる。
【0054】
これらのめっき前処理を行った後に、アルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成するジンケート処理を行う。ジンケート処理においては、AlをZnに置換する亜鉛置換めっきを行うことにより、Zn皮膜を形成することができる。ジンケート処理としては、1回目の亜鉛置換めっきを行った後に、アルミニウム合金基板の表面に形成されたZn皮膜を一旦剥離し、再度亜鉛置換めっきを行ってZn皮膜を形成する、いわゆるダブルジンケート法を採用するのが好ましい。ダブルジンケート法によれば、1回目の亜鉛置換めっきのみによって形成されるZn皮膜に比べて、より緻密なZn皮膜をアルミニウム合金基板表面に形成することができる。その結果、後工程の無電解Ni-Pめっき処理においてNi-Pめっき処理層の欠陥を低減することができる。
【0055】
ジンケート処理によってアルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成した後に、無電解Ni-Pめっき処理を行うことにより、Zn皮膜をNi-Pめっき処理層によって置換することができる。上述のように、アルミニウム合金基板表面において、粗大なSi-K-O系粒子やTi-B系粒子が少なくできれば、ジンケート処理後のアルミニウム合金基板の表面には、緻密で厚みが薄く、かつ、厚みのバラつきが小さいZn皮膜が形成される。そして、無電解Ni-Pめっき処理においてこのようなZn皮膜をNi-Pめっき処理層によって置換することにより、めっきピットが少なく平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0056】
Ni-Pめっき処理層の厚さを厚くすると、めっきピットが少なくなる傾向があり、平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。従って、めっき厚は7μm以上が好ましく、より好ましくは18μm以上であり、更に好ましくは25μm以上である。なお、実用上、めっき厚の上限値は40μm程度である。
【0057】
無電解Ni-Pめっき処理の後に、Ni-Pめっき処理層を研磨することにより、Ni-Pめっき処理層の表面の平滑性を更に高めることができる。
【0058】
無電解Ni-Pめっき処理の後に(研磨処理も含めて)、Ni-Pめっき処理層上に、スパッタリングによって磁性体を付着させて磁性体層を形成する。磁性体層は、単一の層から構成されていてもよく、又は、互いに異なる組成を有する複数の層から構成されていてもよい。スパッタリングを行った後に、CVDによって磁性体層上に炭素系材料からなる保護層を形成する。次いで、保護層上に潤滑油を塗布して潤滑層を形成する。以上により、磁気ディスクを得ることができる。
【実施例
【0059】
アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、このアルミニウム合金板から作製するアルミニウム合金ディスクブランクの例について説明する。
【0060】
これらのアルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、このアルミニウム合金板から作製するアルミニウム合金ディスクブランク及びその製造方法の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で実施例から適宜構成を変更することができる。
【0061】
(1)アルミニウム合金板の作製
以下の方法により、本実施例において評価に使用するアルミニウム合金板を作製する。まず、溶解炉において、表1に示す化学成分を有する溶湯を調製する。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、溶解炉内の溶湯を移し、表2に示す鋳造方法で鋳塊を作製する。次いで、鋳塊の表面を面削し、鋳塊表面に存在する偏析層を除去する。面削を行った後に鋳塊を表2に示す条件で加熱処理することによって均質化処理を行う。熱間圧延を実施して熱間圧延板を得る。更に、表2に示す条件で冷間圧延を実施し、冷間圧延板を得る。
【0064】
(2)アルミニウム合金ディスクブランクの作製
上記アルミニウム合金板に打ち抜き加工を施し、外径98mm、内径24mmの円環状を呈するアルミニウム合金ディスクブランクを得る。ここで、次いで、得られたアルミニウム合金ディスクブランクを厚み方向の両側から加圧しつつ表2に示す温度で3時間保持して加圧焼鈍を実施する。その後、表2に示す温度で3時間保持して焼鈍を実施する。なお、表2中に「-」で示すものは焼鈍を行わなかったことを示す。以上により、アルミニウム合金ディスクブランクの試験材を作製する。
【0065】
・導電率の測定
アルミニウム合金ディスクブランク又はアルミニウム合金ディスクブランクに焼鈍したものを用い、導電率計(GEセンシング&インスペクション・テクノロジーズ株式会社製「AutoSigma 3000」)を用い、渦電流法により試験材の導電率(%IACS)を測定する。なお、導電率の測定は、25℃の環境下において行う。また、板厚が1mm未満の場合は、ブランクを2枚以上重ねて厚さが1mm以上2mm以下となるようにして測定を行う。
【0066】
・凸状欠陥の最大高さの測定
アルミニウム合金ディスクブランク又はアルミニウム合金ディスクブランクに焼鈍したものを用い、表面にマイクロビッカースの圧痕を5kgの条件で打ち込み、その後、圧痕が消えるまで表面を旋盤で削り、270℃で1時間の焼鈍を行い、圧痕があった場所に発生した凸状欠陥の最大高さを測定する。最大高さの測定は、ZyGO社製平坦度測定機(MESA)にて行う。本発明において最大高さとは、アルミニウム合金ディスクブランクの表面で、削る前の圧痕の中心部から半径5mmの円で囲まれた領域において、最大山高さと最大谷深さの差で表わされる。ここで、最大山高さは測定範囲における輪郭曲線の平均線と測定範囲内で最も高い値との差であり、最大谷深さは当該平均線と測定範囲内で最も低い値との差である。凸状欠陥の最大高さの評価は、凸状欠陥の最大高さが0.750μm以下の場合をA(優)、0.750μmを超えて0.760以下をB(良)、0.760を超える場合をC(劣)とした。
【0067】
・耐力の測定
耐力は、JIS Z2241に準拠し、冷間圧延後のアルミニウム合金ディスクブランクを320℃で3時間の焼鈍(加圧焼鈍模擬加熱)を行った後、圧延方向に沿ってJIS5号試験片を採取してn=1にて測定する。強度の評価は、耐力が90MPa以上の場合をA(優)、90MPa未満をC(劣)とした。
【0068】
結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表1及び2に示すように、実施例1~6では、請求項で規定する特定の合金組成を有し、かつ、導電率が36.0%IACS以上であった。そのため、これらの実施例では、凸状欠陥の形成が抑制され、平滑性を高めると共に90MPa以上の高い耐力が得ることができる。
【0071】
一方、比較例1~9では、合金組成又は導電率のいずれかが請求項の規定から外れているため、凸状欠陥が形成され、平滑性が低いか、又は耐力が低かった。
【0072】
図1~4は、実施例の一部又は全部の結果をグラフに示したものである。なお、図1~4では一部、実施例以外の結果もグラフに示している。より具体的には、図1は、アルミニウム合金ディスクブランクの導電率と凸状欠陥の最大高さとの関係を示すグラフであり、グラフに示されたデータの範囲内では関係式「“凸状欠陥の最大高さ”=-0.0281ד導電率”+1.7712」を満たすことが分かる。この結果、図1からは、導電率が大きくなると凸状欠陥の最大高さが低下することが分かる。
【0073】
図2は、アルミニウム合金ディスクブランクの加圧焼鈍後の焼鈍温度と導電率との関係を示すグラフであり、加圧焼鈍後の焼鈍温度が190~260℃の範囲内であることにより、導電率が36.0%IACS以上であることが分かる。
【0074】
図3は、アルミニウム合金ディスクブランクのMg含有量と導電率との関係を示すグラフであり、グラフに示されたデータの範囲内では関係式「“導電率”=-7.6977דMg含有量”+64.317」を満たすことが分かる。この結果、図3からは、Mg含有量が大きくなると導電率が低下することが分かる。
【0075】
図4は、アルミニウム合金ディスクブランクのMg含有量と耐力との関係を示すグラフであり、グラフに示されたデータの範囲内では関係式「“耐力”=21.702דMg含有量”+18.749」を満たすことが分かる。この結果、図4からは、Mg含有量が大きくなると耐力が大きくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により、特定の合金組成と導電率を有することで、凸状欠陥の形成が抑制され、平滑性を高めると共に耐力が大きな磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを提供できる。
図1
図2
図3
図4