(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】海域施肥材、同海域施肥材の製造方法及び設置方法
(51)【国際特許分類】
C05G 3/00 20200101AFI20240418BHJP
C05F 3/00 20060101ALI20240418BHJP
C05D 5/00 20060101ALI20240418BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20240418BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C05G3/00 A
C05F3/00
C05D5/00
C05D9/02
A01G33/00
(21)【出願番号】P 2020005389
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2023-01-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月4日に、国立大学法人広島大学で開催された修士論文中間発表会での発表にて、海域施肥材、同海域施肥材の製造方法及び設置方法に関する研究について公開した。 令和1年9月5日~令和1年9月6日に、広島市西区民文化センターで開催された第27回(令和元年度)瀬戸内海研究フォーラムin広島での発表にて、海域施肥材、同海域施肥材の製造方法及び設置方法に関する研究について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】519379606
【氏名又は名称】トリゼンオーシャンズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】河津 善博
(72)【発明者】
【氏名】福岡 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山本 民次
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-017462(JP,A)
【文献】特開2017-099339(JP,A)
【文献】特開2000-143375(JP,A)
【文献】特開2002-121553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00- 21/00
C05C 1/00- 13/00
C05D 1/00- 11/00
C05F 1/00- 17/02
C05G 1/00- 5/00
C02F11/00- 11/20
A01G 3/00- 24/60
A01K61/70- 61/78
A61K61/00- 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水とを含む
混合材料(ただし、同混合材料の全体を固化できる量のセメントが含まれたものを除く。)の圧縮成形体よりな
り、海水にN/P=10~30、Fe/P=0.001~0.1の割合で溶出可能に構成した海域施肥材。
【請求項2】
12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水との混合材料
(ただし、同混合材料の全体を固化できる量のセメントが含まれたものを除く。)を圧縮成形
し海水にN/P=10~30、Fe/P=0.001~0.1の割合で溶出可能とすることを特徴とする海域施肥材の製造方法。
【請求項3】
前記混合材料は、前記溶出のバランスが保たれる範囲内で腐葉土及び/または培養土を補助原料として含むことを特徴とする請求項2に記載の海域施肥材の製造方法。
【請求項4】
前記発酵鶏糞は、
鶏糞と同鶏糞よりも水分含量が低い水分調整材との混合物に対し鶏糞発酵微生物発酵液を添加して水分含量を60±5%に調整した被発酵混合物を調製する工程と、
得られた被発酵混合物を堆積させて発酵を助長する工程と、
被発酵混合物の温度が70℃以上となった際に、80℃に達する前に切り返しを行い、再び被発酵混合物を堆積させる切り返し工程と、
水分含量が35%以下となり、且つ、温度が45℃以上に昇温しなくなるまで前記切り返し工程を繰り返す繰返工程と、
繰返工程を経た被発酵混合物を、必要に応じ更なる追加発酵工程に供した上で発酵鶏糞とする発酵鶏糞生成工程と、
を経て製造したものであることを特徴とする
請求項2に記載の海域施肥材の製造方法。
【請求項5】
前記鶏糞発酵微生物発酵液は、
0.6重量部の乾燥ステビア茎粉末と、0.6重量部の米ぬか粉末と、0.6重量部の乾燥おから粉末と、耐塩性酵母を少なくとも含有する11~13重量部の汽水と、を混合した混合液を所定時間静置する静置工程と、
前記静置工程を経た混合液を所定の容器に収容し、収容された混合液に同混合液の収容形状の外表面上のいずれの位置からも10cm以上であり、且つ、外表面上の少なくともいずれかの位置から17cm以下となる弱殺菌領域を形成する容器収容工程と、
前記容器収容工程を経て混合液を収容した所定の容器を加熱空間内に配置し、同加熱空間を常温常圧の状態から約2.5気圧で150~160℃の状態にまで45~60分掛けて昇温し、約2.5気圧で150~160℃の状態を1~3分間維持し、その後加熱空間を約2気圧で115~125℃の状態にまで3~5分間掛けて降温設定し、約2気圧で115~125℃の状態を20~40分間維持し、更に加熱空間を常温常圧の状態にまで24~30時間掛けて降温させて、前記混合液中に加熱選抜された微生物を残存させる微生物選抜工程と、
少なくとも微生物が液相に移行可能な手段により前記微生物選抜工程を経た混合液を固液分離して微生物含有液を得る固液分離工程と、
得られた微生物含有液に糖源を添加して常温常圧で所定時間発酵し、微生物含有液のpHを4.5以下で、且つ、酸化還元電位を-100mV以下とする第1の発酵工程と、
第1の発酵工程を経た微生物含有液にステビア茎の熟成液を添加してpHが3.1以下となるまで発酵させて不良発酵防止剤とする第2の発酵工程と、を経て得られた発酵液であることを特徴とする請求項4に記載の海域施肥材
の製造方法。
【請求項6】
請求項
1に記載の海域施肥材又は請求項
2~5のいずれか1項に記載の海域施肥材の製造方法にて製造された海域施肥材の設置方法であって、
海域施肥材の高さと同程度の穴を干潟に形成して設置する工程と、
形成した穴に海域施肥材を配置したのち、同海域施肥材の上部をわずかの砂で被覆する工程と、
を有することを特徴とする海域施肥材の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海域施肥材、同海域施肥材の製造方法及び設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アサリなどの植食性の二枚貝は、一般家庭の食卓や飲食店で提供される料理に至るまで、日本人の食生活において広く親しまれている。
【0003】
ところが、干潟等で得られるアサリの漁獲量は、近年減少傾向にある。これは、海水中の栄養塩の不足、例えば窒素やリン、鉄分などの不足による貧栄養化が原因であると考えられている。
【0004】
そこで、二枚貝生育海域の貧栄養化の改善を図ることにより、二枚貝の漁獲量を回復させる試みがこれまでに幾つか提案されている。
【0005】
中でも、本願発明者の一人が過去に提案した植食性二枚貝の生育促進施肥材によれば、アサリを肥育させることができ、対照区画との比較から施肥材の施用により漁獲量の回復が見込まれる旨が記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の生育促進施肥材は、その構成材料が専ら無機肥料であったため持続性に欠けるものであった。その一方で、有機肥料は持続性に優れ、長期的な施肥効果を期待することが可能である。中でも、鶏糞を主原料としつつ十分に腐熟させることで所謂普通肥料として認められるに至った有機肥料は、特殊肥料の如き熟成度合いのやや低い有機肥料に比して周辺海域への環境的な負荷も更に少なく、有用な施肥材料の一つであると言える。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現でき、更には二枚貝の成長と生残を効果的に上げることができる海域施肥材やその製造方法、及び設置方法を提供する。施肥材である
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る海域施肥材では、(1)12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水とを含む混合材料(ただし、同混合材料の全体を固化できる量のセメントが含まれたものを除く。)の圧縮成形体よりなり、海水にN/P=10~30、Fe/P=0.001~0.1の割合で溶出可能に構成した。
【0011】
また、本発明に係る海域施肥材の製造方法では、(2)12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水との混合材料(ただし、同混合材料の全体を固化できる量のセメントが含まれたものを除く。)を圧縮成形し海水にN/P=10~30、Fe/P=0.001~0.1の割合で溶出可能とすることとした。
【0012】
また、本発明に係る海域施肥材の製造方法では、以下の点にも特徴を有する。
(3)前記混合材料は、前記溶出のバランスが保たれる範囲内で腐葉土及び/または培養土を補助原料として含むこと。
(4)前記発酵鶏糞は、鶏糞と同鶏糞よりも水分含量が低い水分調整材との混合物に対し鶏糞発酵微生物発酵液を添加して水分含量を60±5%に調整した被発酵混合物を調製する工程と、得られた被発酵混合物を堆積させて発酵を助長する工程と、被発酵混合物の温度が70℃以上となった際に、80℃に達する前に切り返しを行い、再び被発酵混合物を堆積させる切り返し工程と、水分含量が35%以下となり、且つ、温度が45℃以上に昇温しなくなるまで前記切り返し工程を繰り返す繰返工程と、繰返工程を経た被発酵混合物を、必要に応じ更なる追加発酵工程に供した上で発酵鶏糞とする発酵鶏糞生成工程と、を経て製造したものであることにも特徴を有する。
(5)前記鶏糞発酵微生物発酵液は、0.6重量部の乾燥ステビア茎粉末と、0.6重量部の米ぬか粉末と、0.6重量部の乾燥おから粉末と、耐塩性酵母を少なくとも含有する11~13重量部の汽水と、を混合した混合液を所定時間静置する静置工程と、前記静置工程を経た混合液を所定の容器に収容し、収容された混合液に同混合液の収容形状の外表面上のいずれの位置からも10cm以上であり、且つ、外表面上の少なくともいずれかの位置から17cm以下となる弱殺菌領域を形成する容器収容工程と、前記容器収容工程を経て混合液を収容した所定の容器を加熱空間内に配置し、同加熱空間を常温常圧の状態から約2.5気圧で150~160℃の状態にまで45~60分掛けて昇温し、約2.5気圧で150~160℃の状態を1~3分間維持し、その後加熱空間を約2気圧で115~125℃の状態にまで3~5分間掛けて降温設定し、約2気圧で115~125℃の状態を20~40分間維持し、更に加熱空間を常温常圧の状態にまで24~30時間掛けて降温させて、前記混合液中に加熱選抜された微生物を残存させる微生物選抜工程と、少なくとも微生物が液相に移行可能な手段により前記微生物選抜工程を経た混合液を固液分離して微生物含有液を得る固液分離工程と、得られた微生物含有液に糖源を添加して常温常圧で所定時間発酵し、微生物含有液のpHを4.5以下で、且つ、酸化還元電位を-100mV以下とする第1の発酵工程と、第1の発酵工程を経た微生物含有液にステビア茎の熟成液を添加してpHが3.1以下となるまで発酵させて不良発酵防止剤とする第2の発酵工程と、を経て得られた発酵液であること。
【0013】
また、本発明に係る海域施肥材の設置方法では、(6)前記(1)に記載の海域施肥材又は前記(2)~(5)のいずれか1つに記載の海域施肥材の製造方法にて製造された海域施肥材の設置方法であって、海域施肥材の高さと同程度の穴を干潟に形成して設置する工程と、形成した穴に海域施肥材を配置したのち、同海域施肥材の上部をわずかの砂で被覆する工程と、を有することとした。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る海域施肥材によれば、12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水とを含む混合材料(ただし、同混合材料の全体を固化できる量のセメントが含まれたものを除く。)の圧縮成形体よりなり、海水にN/P=10~30、Fe/P=0.001~0.1の割合で溶出可能に構成したため、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現でき、更には二枚貝の成長と生残を効果的に上げることが可能な海域施肥材とすることができる。
【0015】
また、前記酸化マグネシウムは、前記発酵鶏糞由来のリンの溶出の調整を目的として添加すれば、リンの豊富な鶏糞を原料の一つとしながらも、過剰なリンの溶出を抑制し、藻類の生育に適した栄養成分の溶出比を実現することができる。
【0016】
また、高さ10~30cm、幅15~30cmの柱状とすれば、海域施肥材に更なる徐放性を付与することができ、持続性により優れた海域施肥材とすることができる。
【0017】
また、前記発酵鶏糞は、鶏糞と同鶏糞よりも水分含量が低い水分調整材との混合物に対し鶏糞発酵微生物発酵液を添加して水分含量を60±5%に調整した被発酵混合物を調製する工程と、得られた被発酵混合物を堆積させて発酵を助長する工程と、被発酵混合物の温度が70℃以上となった際に、80℃に達する前に切り返しを行い、再び被発酵混合物を堆積させる切り返し工程と、水分含量が35%以下となり、且つ、温度が45℃以上に昇温しなくなるまで前記切り返し工程を繰り返す繰返工程と、繰返工程を経た被発酵混合物を、必要に応じ更なる追加発酵工程に供した上で発酵鶏糞とする発酵鶏糞生成工程と、を経て製造したものであることとすれば、十分に腐熟した発酵鶏糞とすることができ、不完全な発酵に由来する海洋への環境負荷を可及的に抑制することができる。
【0018】
また、前記鶏糞発酵微生物発酵液は、0.6重量部の乾燥ステビア茎粉末と、0.6重量部の米ぬか粉末と、0.6重量部の乾燥おから粉末と、耐塩性酵母を少なくとも含有する11~13重量部の汽水と、を混合した混合液を所定時間静置する静置工程と、前記静置工程を経た混合液を所定の容器に収容し、収容された混合液に同混合液の収容形状の外表面上のいずれの位置からも10cm以上であり、且つ、外表面上の少なくともいずれかの位置から17cm以下となる弱殺菌領域を形成する容器収容工程と、前記容器収容工程を経て混合液を収容した所定の容器を加熱空間内に配置し、同加熱空間を常温常圧の状態から約2.5気圧で150~160℃の状態にまで45~60分掛けて昇温し、約2.5気圧で150~160℃の状態を1~3分間維持し、その後加熱空間を約2気圧で115~125℃の状態にまで3~5分間掛けて降温設定し、約2気圧で115~125℃の状態を20~40分間維持し、更に加熱空間を常温常圧の状態にまで24~30時間掛けて降温させて、前記混合液中に加熱選抜された微生物を残存させる微生物選抜工程と、少なくとも微生物が液相に移行可能な手段により前記微生物選抜工程を経た混合液を固液分離して微生物含有液を得る固液分離工程と、得られた微生物含有液に糖源を添加して常温常圧で所定時間発酵し、微生物含有液のpHを4.5以下で、且つ、酸化還元電位を-100mV以下とする第1の発酵工程と、第1の発酵工程を経た微生物含有液にステビア茎の熟成液を添加してpHが3.1以下となるまで発酵させて不良発酵防止剤とする第2の発酵工程と、を経て得られた発酵液であることとすれば、鶏糞の発酵をより堅実に行うことができる。
【0019】
また、本発明に係る海域施肥材の製造方法によれば、12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水との混合材料(ただし、同混合材料の全体を固化できる量のセメントが含まれたものを除く。)を圧縮成形し海水にN/P=10~30、Fe/P=0.001~0.1の割合で溶出可能としたため、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現でき、更には二枚貝の成長と生残を効果的に上げることができる海域施肥材を製造することができる。
【0020】
また、前記酸化マグネシウムは、前記発酵鶏糞由来のリンの溶出を調整するために添加していることとすれば、リンの豊富な鶏糞を原料の一つとしながらも、過剰なリンの溶出を抑制し、藻類の生育に適した栄養成分の溶出比を実現することができる。
【0021】
また、本発明に係る海域施肥材の設置方法によれば、上述の海域施肥材又は海域施肥材の製造方法にて製造された海域施肥材の設置方法であって、海域施肥材の高さと同程度の穴を干潟に形成して設置する工程と、形成した穴に海域施肥材を配置したのち、同海域施肥材の上部をわずかの砂で被覆する工程と、を有することとしたため、海域施肥材の設置が容易でありながら、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現可能な海域施肥材としての効果を良好に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】粒状鉄の使用量を変化させた場合の溶出比(Fe/P)の違いを示した説明図である。
【
図2】酸化マグネシウムの使用量を変化させた場合の各成分の溶出状況の違いを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、海域施肥材に関するものであり、特に、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる付着微細藻または底生微細藻の生育に適した栄養成分の溶出を実現でき、更には二枚貝の成長と生残を効果的に上げることができる海域施肥材を提供するものである。
【0024】
藻類、特に植物プランクトンや付着性の微細藻類(以下、単に藻類と称する。)は、海域の主要な基礎生産を担っており、これらが二枚貝の餌となっている。従って、貧栄養海域にて二枚貝の餌となる藻類の増殖が促されると、結果的に二枚貝の増殖が促される。
【0025】
藻類が増殖するためには、所定の栄養素が必要である。この栄養素は、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)を要求する陸上作物とは異なっており、N:Si:P:Fe=16:15:1:0.005であることが知られている。
【0026】
しかしながら、化成肥料などではなく有機肥料を主要な構成材料としつつ、このような成分溶出比を実現した海域施肥材は提供されていない。
【0027】
そこで、本実施形態に係る海域施肥材では、その特徴的な構成として、12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水とを含む圧縮成形体よりなることとしている。
【0028】
ここで発酵鶏糞は、鶏舎より得られる排泄直後の鶏糞(所謂、生鶏糞)ではなく、発酵により腐熟させた鶏糞である。発酵の過程は特に限定されるものではないが、後述の発酵過程を経ることで、良質な腐熟を行わせることができる。
【0029】
粒状鉄は、鉄分の溶出をもたらす原料である。粒状とは、一乃至は幾つかの塊状の鉄ではなく、より細かく多数(複数)であることを意味するものであり、砂鉄の如く粉状のものも含む。粒状鉄は、例えば直径が概ね0.05mm~10mm程度とすることができ、具体的には鉄鋼スラグ粒や砂鉄、鉄粉などを利用することができる。
【0030】
粒状鉄の使用量は、発酵鶏糞の使用量を12重量部とした場合、2重量部以上、例えば2~6重量部に相当する量を使用する。ここで粒状鉄の添加量が2重量部を下回ると鉄分の不足という問題があるため好ましくない。粒状鉄の使用量を2重量部以上とすることで、最適な鉄分の供給を実現することができる。
【0031】
酸化マグネシウムは、本実施形態に係る海域施肥材において固化剤として機能すると共に、同海域施肥材からのリンの溶出を調整する役割を有するものであり、市販の酸化マグネシウムを利用することができる。酸化マグネシウムは粉末の状態で添加しても良く、また必要に応じ水に溶解させて添加しても良い。
【0032】
酸化マグネシウムの使用量は、発酵鶏糞の使用量を12重量部とした場合、1~4重量部に相当する量を使用する。ここで酸化マグネシウムの添加量が1重量部を下回ると硬度不足という問題があるため好ましくない。また4重量部を上回ると、リン酸の溶出が過度に抑制されてしまうという問題があるため好ましくない。酸化マグネシウムの使用量を1~4重量部とすることで、最適なリン酸の供給を実現することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る海域施肥材には、その他の補助原料を添加してもよい。この補助原料としては、例えば腐葉土や培養土等が挙げられる。これら補助原料は、本願発明の目的の達成を阻害しない窒素(N)やリン酸(P)、カリウム(K)、鉄などの溶出バランスが保たれる範囲において、その量や成分などを適宜選択することができる。
【0034】
そして、これら12重量部の発酵鶏糞に対し、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムとを混合し、必要に応じて補助原料を添加した混合物の水分含量を45~60重量%に調整する。換言すれば、混合物に対し、同混合物の水分含量が45~60重量%となる量の水分を添加する。
【0035】
この水分調整混合物を所定の圧縮成形機に供して圧縮成形することで、本実施形態に係る海域施肥材を得ることができる。
【0036】
すなわち、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出、例えば、N/P=10~30でFe/P=0.001~0.1の溶出を実現でき、更には二枚貝の成長と生残を効果的に上げることができる海域施肥材を提供することができる。
【0037】
なお、この海域施肥材は、圧縮成形されていれば特にその形状は限定されるものではないが、例えばペレット状乃至は柱状の外観とすることができる。また、その大きさも限定されるものではなく、例えば、高さ10~30cm、幅15~30cmの柱状とすることで、持続性に優れた海域施肥材とすることが可能である。またこの場合、面積/体積比は、0.1~0.9程度、より限定的には0.2~0.5程度を目安とすることができる。なお、圧縮成形圧力は0.4平方メートルあたり300kgf以上が好ましく、例えば0.4平方メートルあたり0.5~1.0トンとすることができる。
【0038】
また、前記発酵鶏糞は、被発酵混合物を調製する工程と、発酵を助長する工程と、切り返し工程と、繰返工程と、発酵鶏糞生成工程と、を経て製造したものとするのが好ましい。
【0039】
被発酵混合物を調製する工程は、鶏糞と同鶏糞よりも水分含量が低い水分調整材との混合物に対し鶏糞発酵微生物発酵液を添加して水分含量を60±5%の範囲内に調整する工程である。水分含量調整材としては、例えば、上述の各工程を経て得られた発酵鶏糞、その他乾燥したオガクズ等を利用することができる。
【0040】
発酵を助長する工程は、得られた被発酵混合物を堆積させることで行われる。堆積は、例えばコンクリート等で三方が囲われた屋根付きの発酵ヤード等で行うことができ、発酵量にもよるが、高さは概ね1.8~2.0m程度とすることができる。
【0041】
切り返し工程は、被発酵混合物の温度が70℃以上となった際に、80℃に達する前に切り返しを行い、再び被発酵混合物を堆積させる工程である。切り返しを行うことで、発酵を行う乳酸菌や酵母の至適温度帯としつつ、堆積させた被発酵混合物中に酸素を供給できる。
【0042】
繰返工程は、上記切り返し工程を繰り返し行う工程であり、被発酵混合物の水分含量が35%以下となり、且つ、温度が45℃以上に昇温しなくなるまで行う。なお、季節や温度により異なるため一応の目安であるが、この繰返工程を含め、切り返し工程は概ね3~5回程度行われて、次の発酵鶏糞生成工程が行われる。
【0043】
発酵鶏糞生成工程は、繰返工程を経た被発酵混合物を、必要に応じ更なる追加発酵工程に供した上で発酵鶏糞とする工程である。すなわち、この繰り返し工程を経て得られた被発酵混合物を本工程においてそのまま発酵鶏糞としても良いし、更なる追加発酵工程に供した後に発酵鶏糞とすることも可能である。
【0044】
本工程で必要に応じて行う追加発酵工程としては、繰返工程を経た被発酵混合物を壁にもたれ掛けさせるように高く(例えば、2m以上)堆積させ、自重でその下部を圧縮させながら1ヶ月に1~2度切り返しつつ発酵を行わせる。
【0045】
この追加発酵工程は、例えば、水分含量が20%以下で、窒素分が2.8%以上、リン酸が3.8%以上、カリが3.0%以上となるまで切り返しつつ、発酵・熟成を行って、発酵鶏糞とするのが好ましい。
【0046】
また前述の鶏糞発酵微生物発酵液は、底質環境改善の対象領域に存在する余剰な有機物、例えばヘドロ状となった領域が存在する底質環境を改善できる微生物(以下、鶏糞発酵微生物とも称する。)によって発酵され鶏糞発酵微生物の代謝産物を含有する液であるが、本願では、被発酵混合物中において鶏糞の発酵や熟成を行う菌叢を形成させるためのスタータとして機能させるために使用する点で特徴的である。
【0047】
この鶏糞発酵微生物の種類は特に限定されるものではないが、例えば、後述する汽水領域より採取した汽水中に含まれる微生物群の中から、後述のスクリーニング手法に従い選抜された微生物、特に、好塩性(耐塩性)の酵母を多く含んだ細菌叢を用いる。
【0048】
すなわち、鶏糞発酵微生物発酵液は、上述の鶏糞発酵微生物の発酵による発酵代謝産物が含まれ、菌勢や菌量が高められた液であれば特に限定されるものではないが、例えば以下に説明する所定の静置工程と、容器収容工程と、微生物選抜工程と、固液分離工程と、第1の発酵工程と、第2の発酵工程とを経て製造された液を採用することができる。これら工程を経ることにより、汽水由来の好塩性(耐塩性)酵母を中心とし、その他原料等に由来する微生物群(例えば乳酸菌群など)との共生によって鶏糞の発酵や熟成に優れ、藻類の生育に適した栄養成分の生成に寄与する。
【0049】
ここで静置工程は、不良発酵防止剤に含まれるエキス分の抽出原料となる資材(以下、総称してエキス抽出資材ともいう。)と、好塩性(耐塩性)の酵母を少なくとも含有する汽水とを混合し、静置しながら汽水中にエキス分を溶出させる工程であり、0.6重量部の乾燥ステビア茎粉末と、0.6重量部の米ぬか粉末と、0.6重量部の乾燥おから粉末と、好塩性(耐塩性)の酵母を少なくとも含有する11~13重量部の汽水と、を混合した混合液を所定時間静置する工程である。本静置工程では、これらエキス抽出資材と汽水とを所定量ずつ混合し、例えば常温にて所定時間静置する。静置に要する時間は、例えば15~20日間とすることができる。
【0050】
また、容器収容工程は、前記静置工程を経た混合液を所定の容器に収容し、収容された混合液に同混合液の収容形状の外表面上のいずれの位置からも10cm以上であり、且つ、外表面上の少なくともいずれかの位置から17cm以下となる弱殺菌領域を形成して後述の微生物選抜工程において加熱した際に完全滅菌が行われないようにする工程である。
【0051】
また、微生物選抜工程は、前記容器収容工程を経て混合液を収容した所定の容器を加熱空間内に配置し、同加熱空間を常温常圧の状態から約2.5気圧で150~160℃の状態にまで45~60分掛けて昇温し、約2.5気圧で150~160℃の状態を1~3分間維持して第1の加熱工程を行い、その後加熱空間を約2気圧で115~125℃の状態にまで3~5分間掛けて降温設定し、約2気圧で115~125℃の状態を20~40分間維持して第2の加熱工程を行い、更に加熱空間を常温常圧の状態にまで24~30時間掛けて降温させて降温工程を行い、前記混合液中に加熱選抜された微生物を残存させる工程である。
【0052】
また、固液分離工程は、少なくとも微生物が液相に移行可能な手段により前記微生物選抜工程を経た混合液を固液分離して微生物含有液を得る工程である。固液分離は、必ずしも完全に固形分を除去する必要はなく、選抜した微生物を液相に移行させながら大まかに固形分を除き流動性を向上させる程度のイメージである。このような固液分離は、例えば布製の袋等に混合液を収容し、洗濯機の脱水機能等を利用して行うことができる。また、一般の固液分離装置を利用して微生物を液相に残せる程度の遠心力を付与して固液分離を行うようにしても良いし、同じく布製の袋に混合液を収容して搾汁することで液相を得ても良い。
【0053】
また、第1の発酵工程は、得られた微生物含有液に糖源を添加して常温常圧で所定時間発酵させ、微生物含有液のpHを4.5以下で、且つ、酸化還元電位を-100mV以下とする工程である。
【0054】
また、第2の発酵工程は、第1の発酵工程を経た微生物含有液にステビア茎の熟成液を添加してpHが3.1以下となるまで発酵させて不良発酵防止剤とする工程である。微生物含有液に対するステビア茎熟成液の添加量は、微生物含有液0.38重量部に対して0.38~0.4重量部程度とすることができる。
【0055】
ここで、本第2の発酵工程にて使用するステビア茎の熟成液は、ステビア茎を水等に浸漬してエキス分を抽出しつつ、ステビア茎由来の微生物によって発酵を行うことにより得られた発酵液(以下、ステビア茎簡易熟成液ともいう。)を用いることもできる。
【0056】
しかしながら、ステビア茎の熟成液は、ステビア茎分散液調製工程と、ステビア茎分散液容器収容工程と、ステビア茎由来微生物選抜工程と、ステビア茎抽出液調製工程と、抽出液濃縮工程と、熟成工程と、を経て調製するのがより望ましい。
【0057】
ステビア茎分散液調製工程は、乾燥ステビア茎の粉末に水を加えてステビア茎の分散液を調製する工程であり、具体的には、1重量部の乾燥ステビア茎粉末に対して10重量部±2重量部程度の水を添加して調製する。
【0058】
ステビア茎分散液容器収容工程は、前述の容器収容工程と略同様に後述のステビア茎由来微生物選抜工程において加熱した際に完全滅菌が行われないよう、弱殺菌領域を形成可能な容器に収容する工程である。
【0059】
このステビア茎分散液容器収容工程における弱殺菌領域は、所定の容器内に収容したステビア茎分散液の収容形状のうち、外表面上のいずれの位置からも10cm以上であり、且つ、外表面上の少なくともいずれかの位置から17cm以下となる内部領域である。より好ましくは、外表面上のいずれの位置からも17cmを越える非選抜領域が形成されず弱殺菌領域を形成可能な容器を用いる。
【0060】
ステビア茎由来微生物選抜工程もまた前述の微生物選抜工程と同様、ステビア茎分散液を加熱して、ステビア茎由来の微生物を選抜する工程であり、細かくは第1のステビア茎加熱工程と、第2のステビア茎加熱工程とで構成される。
【0061】
第1のステビア茎加熱工程は、ステビア茎分散液容器収容工程を経てステビア茎分散液を収容した所定の容器を加熱空間内に配置し、同加熱空間を常温常圧の状態から約2.5気圧で150~160℃の状態にまで30~40分掛けて昇温し、約2.5気圧で150~160℃の状態を1~3分間維持する。
【0062】
第2のステビア茎加熱工程は、第1のステビア茎加熱工程に引き続き、加熱空間を約2気圧で115~125℃の状態にまで3~5分間掛けて降温設定し、約2気圧で115~125℃の状態を20~40分間維持する。
【0063】
そして、この第1のステビア茎加熱工程と、第2のステビア茎加熱工程とを経た後に、85~95℃まで冷却を行うことにより、ステビア茎分散液中に加熱選抜された乾燥ステビア茎由来の微生物を残存させる。
【0064】
ステビア茎抽出液調製工程は、ステビア茎由来微生物選抜工程を経たステビア茎分散液から、固液分離により液相を得る工程である。
【0065】
具体的には、前述の第2のステビア茎加熱工程に引き続き、85~95℃まで降温させたステビア茎分散液を、少なくとも微生物が液相に移行可能な手段により固液分離して、液相をステビア茎の抽出液として得る。このステビア茎抽出液は、Brix値が2.0~4.0でステビア茎由来の微生物が含まれたものである。
【0066】
抽出液濃縮工程は、ステビア茎抽出液を加熱して煮詰めることにより、所定の濃度まで濃縮することでステビア茎濃縮液を得る工程である。具体的には、ステビア茎抽出液を加熱して煮詰め、常温程度に冷却された状態においてBrix値が4.0~7.0でpHが6.0以下、ORPが10~99mVとなるように濃縮を行う。
【0067】
熟成工程は、ステビア茎濃縮液を常温下にて発酵を伴いながら熟成させ、pHが5.0以下でORPが-100mV以下のステビア茎熟成液を得る工程である。
【0068】
このように、ステビア茎分散液調製工程と、ステビア茎分散液容器収容工程と、ステビア茎由来微生物選抜工程と、ステビア茎抽出液調製工程と、抽出液濃縮工程と、熟成工程と、を経ることで、不良発酵防止剤の製造に適したステビア茎の熟成液を得ることができる。
【0069】
そして、前述した静置工程と、容器収容工程と、微生物選抜工程と、固液分離工程と、第1の発酵工程と、第2の発酵工程とを経て製造された液を鶏糞発酵微生物発酵液として採用すれば、鶏糞の発酵をより堅実に行うことができる。
【0070】
なお、この鶏糞発酵微生物発酵液は上述した方法によって得られるものではあるが、これは当該鶏糞発酵微生物発酵液の製造方法を限定しているものではなく、鶏糞発酵微生物発酵液を、静置工程と容器収容工程と微生物選抜工程と固液分離工程と第1の発酵工程と第2の発酵工程との製造方法によって特定しているものである。
【0071】
一般に、植物粉末や米ぬか、おから、汽水の如き天然物には、他の天然物と同様に、様々な成分や微生物が複雑な状態や配合比で含まれている。そして、上述のスクリーニング環境下で、他の微生物が利用し得なかった成分を利用できたり、ある微生物の代謝産物に利用価値を見出しうる所定の微生物が選抜されたり、更にはこれら原料を構成する成分の存在により好適な発酵が可能な鶏糞発酵微生物発酵液として機能しうるものと考えられる。
【0072】
しかしながら、このような底質改善を生起する微生物叢を構成する個々の菌を同定したりその菌数を定量したりすることや、各原料に由来する成分の種類や濃度を規定したりすることは、製造過程での微生物による発酵代謝やその産物まで勘案すると、所定のパラメーター等で直接特定することは、不可能であるか又はおよそ実際的でない。
【0073】
従って、鶏糞発酵微生物発酵液を製造方法で特定したのは、鶏糞発酵微生物発酵液は製造方法によってしか特定できないためである。また、本実施形態に係る海域施肥材の構成要素としての鶏糞発酵微生物発酵液についても同様である。
【0074】
また、本実施形態に係る海域施肥材の原料である発酵鶏糞についても同様であり、被発酵混合物を調製する工程と、発酵を助長する工程と、切り返し工程と、繰返工程と、発酵鶏糞生成工程と、を経て製造したものとして説明したが、これは発酵鶏糞の製造方法、ひいては海域施肥材の製造方法を限定しているものではなく、発酵鶏糞を、被発酵混合物を調製する工程と、発酵を助長する工程と、切り返し工程と、繰返工程と、発酵鶏糞生成工程との製造方法によって特定しているものであって、このような発酵鶏糞内の微生物叢を構成する個々の菌を同定したりその菌数を定量したりすることや、各原料に由来する成分の種類や濃度を規定したりすることは、製造過程での微生物による発酵代謝やその産物まで勘案すると、所定のパラメーター等で直接特定することは、不可能であるか又はおよそ実際的でない。すなわち、発酵鶏糞を製造方法で特定したのも、製造方法によってしか特定できないためである。但し、出願人が本願を権利化するに際し、鶏糞発酵微生物発酵液や発酵鶏糞等の製造方法の一部又は全部について意図的に限定する解釈を行うことを妨げるものではない。
【0075】
また、上述してきた本実施形態に係る海域施肥材の各構成についての説明は、本実施形態に係る海域施肥材の製造方法の各構成についての説明として解することが可能である。
【0076】
すなわち、本実施形態に係る海域施肥材の製造方法では、12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水との混合材料を高さ10~30cm、幅15~30cmの柱状に圧縮成形することとしており、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現でき、更には二枚貝の成長と生残を効果的に上げることができる海域施肥材を製造することができる。
【0077】
また、本願は、本実施形態に係る海域施肥材の設置方法についても提供する。本願設置方法は、上述の海域施肥材や海域施肥材の製造方法にて製造された海域施肥材の設置方法であって、海域施肥材の高さと同程度の穴を干潟に形成して設置する工程と、形成した穴に海域施肥材を配置したのち、同海域施肥材の上部をわずかの砂で被覆する工程と、を有することとしている。
【0078】
このような構成とすることにより、海域施肥材を水中に設置する際に、同海域施肥材の表面へのとくに大型藻類の付着を防止し、施肥材の構成成分の溶出の円滑化を図ることが可能となる。
【0079】
従って、海域施肥材の設置が簡便でありながら、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現可能な海域施肥材としての効果を良好に発揮させることができる。
【0080】
以下、本実施形態に係る海域施肥材や同製造方法、設置方法について製造過程や試験結果等を交えつつ、更に説明する。
【0081】
〔1.鶏糞発酵微生物のスクリーニング〕
20L容量のステンレス容器(直径32cmで高さ38cm)内に、0.85kgの乾燥ステビア茎粉末と、0.85kgの米ぬか粉末と、0.85kgの乾燥おから粉末とを投入し、更に山口県の阿武川河口の汽水域(塩分濃度が0.8~1.0%程度の領域)にて採取された汽水17kgを添加して攪拌混合したものを数バッチ調製し、常温で一晩(約15~17時間)静置した(静置工程)。この静置した混合物の微生物検査の結果、検出された幾つかの微生物の中から、少なくともLactobacillus buchneriの存在が確認された。
【0082】
また、採取した汽水について別途微生物検査を行ったところ、汽水中には150cfu/mlの濃度で耐塩性酵母群が含まれていることが確認された。
【0083】
次いで、約20.31L容量の蓋付きステンレス容器P1(内径28cmで高さ33cmの円筒状)内に静置工程を経た混合液を20L収容し、容器内に弱殺菌領域を形成させた(容器収容工程)。また、同様に、約21.04L容量の蓋付きステンレス容器Q1(内径20cmで高さ67cmの円筒状)に、静置工程を経た混合液を20.41L収容し、ステンレス容器Q1内に収容された混合液の収容形状を直径20cmで高さ65cmの円柱状として弱殺菌領域を形成した。併せて、約32.67L容量の蓋付きステンレス容器R1(内径34cmで高さ36cmの円筒状)に、静置工程を経た混合液を30.85L収容し、ステンレス容器R1内に収容された混合液の収容形状を直径34cmで高さ34cmの円柱状として弱殺菌領域を形成した。
【0084】
次に、加圧クッカー内に、混合液を各ステンレス容器P1,Q1,R1ごと収納し、約2.5気圧で150~160℃の状態にまで45~60分掛けて昇温し、約2.5気圧で150~160℃の状態を1~3分間維持させた(第1の加熱工程)。
【0085】
次に、引き続いて約2気圧で115~125℃の状態にまで3~5分間掛けて降温し、約2気圧で115~125℃の状態を20~40分間維持させた(第2の加熱工程)。
【0086】
次に、加圧クッカーの加熱スイッチを切り、加圧クッカーの内部温度が常温常圧の状態となるまで24~30時間掛けて降温させた(降温工程)。
【0087】
そして、加圧クッカーの蓋を開けて、各ステンレス容器P1,Q1,R1内に鶏糞発酵微生物のスクリーニングが行われた混合液を得た。この混合液の微生物検査の結果、検出された幾つかの微生物の中から、少なくともLactobacillus buchneriの存在が確認された。
【0088】
〔2.ステビア茎の熟成液の調製〕
まず、所定の容器に1kgの乾燥ステビア茎粉末に対して10±2kgの水を添加して満遍なく混合し、ステビア茎の分散液を調製した(ステビア茎分散液調製工程)。なお、このステビア茎の分散液は数バッチ調製した。
【0089】
次に、約12.27L容量の蓋付きステンレス容器P2(内径25cmで高さ25cm)内に、ステビア茎分散液調製工程にて調製したステビア茎分散液12Lを収容し、容器内に収容したステビア茎分散液に弱殺菌領域を形成させた(ステビア茎分散液容器収容工程)。また、同様に、約21.04L容量の蓋付きステンレス容器Q1(内径20cmで高さ67cmの円筒状)に、ステビア茎分散液調製工程にて調製したステビア茎分散液を12L収容し、ステンレス容器Q1内に収容されたステビア茎分散液の収容形状を直径20cmで高さ38cmの円柱状として弱殺菌領域を形成した。併せて、約32.67L容量の蓋付きステンレス容器R1(内径34cmで高さ36cmの円筒状)に、ステビア茎分散液調製工程にて調製したステビア茎分散液を30.85L収容し、ステンレス容器R1内に収容されたステビア茎分散液の収容形状を直径34cmで高さ34cmの円柱状として弱殺菌領域を形成した。
【0090】
次に、加圧クッカー内に、ステビア茎分散液をステンレス容器P2,Q1,R1ごと収納し、約2.5気圧で150~160℃の状態にまで30~40分掛けて昇温し、約2.5気圧で150~160℃の状態を1~3分間維持させた(第1のステビア茎加熱工程)。
【0091】
次に、引き続いて約2気圧で115~125℃の状態にまで3~5分間掛けて降温設定し、約2気圧で115~125℃の状態を20~40分間維持させた(第2のステビア茎加熱工程)。
【0092】
次に、加圧クッカーの加熱を終了し、加圧クッカーの内部が略常圧(開蓋可能な圧力)となり約85~95℃となったのを見計らって、ステビア茎分散液を収容したステンレス容器P2,Q1,R1を加圧クッカーから取出し、綿製の布袋内にステビア茎分散液を移した。
【0093】
ステビア茎分散液を収容した布袋は、熱い状態のまま脱水装置に供し、固液分離を行ってステビア茎抽出液を得た(ステビア茎抽出液調製工程)。このステビア茎抽出液は、Brix値が2.0~4.0であり、別途行った微生物検査によりステビア茎由来の微生物であるLactobacillus属の微生物がステンレス容器P2,Q1,R1のいずれにも含まれていることが確認された。
【0094】
次に、得られたステビア茎抽出液を耐熱性の所定容器にそれぞれ収容し、ガスコンロ上に載置して4~5時間程度加熱しつつ煮詰めることでステビア茎濃縮液の調製を行った(抽出液濃縮工程)。その後、加熱を終了し、常温まで放置冷却したした後にステビア茎濃縮液について理化学検査を行ったところ、Brix値が4.0~7.0でpHが6.0以下、ORPが10~99mVであることが確認された。
【0095】
次に、得られたステビア茎濃縮液をステンレス製のフック付の発酵熟成缶(12L容量)に収容し、常温環境下にて静置して熟成を行った(熟成工程)。熟成中は、ステンレス容器P2,Q1,R1のいずれのステビア茎濃縮液からも発酵臭を伴うガスの発生があり、ステンレス容器P2,Q1,R1の容器形状の差異に拘わらず略同程度の発酵を伴っていることが確認された。
【0096】
そして、熟成中のステビア茎濃縮液のpHが5.0以下で、且つ、ORPが-100mV以下となった時点でステビア茎熟成液とした。また、この時点においてもステンレス容器P2,Q1,R1の容器形状に由来する異常発酵などの差異は認められず、この後の実験においてステビア茎熟成液は、いずれも同じものとして扱うこととした。
【0097】
〔3.鶏糞発酵微生物発酵液の調製〕
前述の〔1.鶏糞発酵微生物のスクリーニング〕により降温工程を経て鶏糞発酵微生物のスクリーニングが行われたステンレス容器P1,Q1,R1中の混合液をそれぞれ別個に綿製の布袋内に収容し、この布袋を脱水装置に供して固液分離を行って微生物含有液を得た(固液分離工程)。
【0098】
次に、フック付の発酵熟成缶(12L容量)に固液分離した微生物含有液約9kgをステンレス容器P1,Q1,R1別に入れ、0.1kgのメープルシロップを糖源としてそれぞれ添加して均一に攪拌し、常温常圧で大凡20~30日間静置して発酵を行わせた(第1の発酵工程)。
【0099】
この第1の発酵工程の初期段階では、微生物含有液の液表面に上澄みが生成するが、これは発明者らの経験上、発酵を緩慢化させるため数日毎に取り除いた。また、この初期段階を経過すると、微生物含有液はあたかもビールのような感じで泡立ち初め、微生物により発酵が行われていることが確認された。
【0100】
そして、微生物含有液のpHが4.5以下で、且つ、酸化還元電位が-100mV以下となった時点で第1の発酵工程を終了した。なお、この時点においてステンレス容器P1,Q1,R1の間における容器形状の差異に由来する異常発酵などの違いは確認されなかった。
【0101】
次に、第1の発酵工程を経た微生物含有液に対し、前述の〔2.ステビア茎の熟成液の調製〕にて得られたステビア茎熟成液を添加して均一に攪拌し、常温常圧で大凡20~25日間静置して発酵を行わせた(第2の発酵工程)。
【0102】
具体的には、10L容量の二次発酵缶に、0.75kgの第1の発酵工程を経たステンレス容器P1,Q1,R1いずれかの微生物含有液と、0.75kgのステビア茎熟成液とを収容し、更に水を加えて10kgとし均一に攪拌することで、第2の発酵工程に供する被発酵液の調製を行った。なお、被発酵液に対しては、必要に応じて0.75kg程度の糖源を更に添加しても良く、例えば、オリゴ糖、より好ましくはテンサイ糖を添加することができる。
【0103】
そして、pHが3.1以下となるまで発酵させた時点で第2の発酵工程を終了し、得られた発酵液を鶏糞発酵微生物発酵液とした。また、この時点においてもステンレス容器P1,Q1,R1の容器形状に由来する異常発酵などの差異は認められず、この後の試験において鶏糞発酵微生物発酵液は、いずれも同じものとして扱うこととした。鶏糞発酵微生物発酵液中のChromatium属に属する光合成細菌群の数は20cfu/ml以下であった。また、耐塩性酵母群の菌数は1,2×106cfu/mlであった。
【0104】
〔4.発酵鶏糞の製造〕
ブロイラーの鶏舎より排出された10トンの鶏糞(水分40%程度)に対し、希釈した鶏糞発酵微生物発酵液5トンを添加して攪拌混合し、鶏糞発酵微生物発酵液が添加された鶏糞である15トンの被発酵混合物(水分60±5%程度)を調製した(被発酵混合物調製工程)。なお、ブロイラーの鶏舎より排出された鶏糞は敷材が含まれており、水分含量が70%の生鶏糞に対し該敷材が水分調整材となって水分が40%に調整されている。また、希釈した鶏糞発酵微生物発酵液は、25kgの鶏糞発酵微生物発酵液を水で200倍希釈して5トンに調製したものである。
【0105】
次に、屋根が配されたコンクリート製の発酵ヤード内にて、調製した15トンの被発酵混合物を高さ凡そ1.8mに堆積させ(発酵助長工程)、この状態で放置したところ4~5日程度で被発酵混合物の温度上昇が認められた。
【0106】
堆積した被発酵混合物の温度測定を引き続き毎日行い、被発酵混合物の温度が70℃以上となった際に、80℃に達する前に切り返しを行い、再び被発酵混合物を堆積させることで切り返し工程を実施した。
【0107】
そしてこの切り返し工程を5回ほど行って、昇温と切り返しを繰り返すことで、被発酵混合物の水分含量を35%以下、ここでは33%程度まで低下させた(繰返工程)。なお、この被発酵混合物は、水分を約40%程度まで与えたとしても、70℃以上にまで昇温することはなく、微生物による発酵が相当に進んでいることが確認された。
【0108】
次に、繰返工程を経た被発酵混合物に対し、ここでは追加発酵工程に供することで発酵鶏糞生成工程を行った。
【0109】
発酵ヤードのコンクリート壁にもたれかけるように高く(例えば、2m強)堆積させ、自重で圧縮しながら、一月に1~2回切り返しつつ、水分含量が30%を下回る程度まで熟成を行った。
【0110】
被発酵混合物は、昇温度合いはやや鈍いものの、更に発酵が進行した。切り返しを行っても水蒸気が出なくなる程度まで発酵させたところ、水分が20%以下となり、このときの窒素分が2.8%以上、リン酸が3.8%以上、カリウムが3.0%以上となり、これを発酵鶏糞とした。
【0111】
〔5.粒状鉄〕
本実施形態に係る海域施肥材の製造原料用の粒状鉄として、製鉄会社より入手した鉄鋼スラグを採用した。鉄鋼スラグは直径が3~10mm程度の粒状を呈していた。
【0112】
〔6.酸化マグネシウム〕
市販されている粉末状の酸化マグネシウムを、本実施形態に係る海域施肥材の製造原料用の酸化マグネシウムとして使用した。
【0113】
〔7.海域施肥材の製造(原料の混合及び成形)〕
次に、上述の各原料を混合し、加圧成形することで海域施肥材の製造を行った。具体的には、12重量部の発酵鶏糞と、4重量部の粒状鉄と、4重量部の酸化マグネシウムとを混合し、更に同混合物の水分含量が45~60重量%となる量の水分を添加して混合を行うことにより水分調整混合物の調製を行った。
【0114】
次いで、プレス機を用いて水分調整混合物に対し0.4平方メートルあたり500kgfの圧力で3回転圧プレスを行い、高さ20cm、直径25cm(面積/体積比=0.24)の円柱状に高密度成形された本実施形態に係る海域施肥材Xを製造した。
【0115】
〔8.鉄鋼スラグの量の違いによるFe溶出量の確認試験〕
次に、海域施肥材中に含まれる鉄鋼スラグの量の違いにより、Feの溶出量がどのように変化するかについて確認を行った。
【0116】
具体的には、前述の〔7.海域施肥材の製造(原料の混合及び成形)〕の方法に従い、鉄鋼スラグの配合量が異なる3種類の海域施肥材を製造した。製造した海域施肥材は、発酵鶏糞:鉄鋼スラグ:酸化マグネシウム=12重量部:2重量部:4重量部としたもの(海域施肥材Xa)、同比率を12:4:4としたもの(海域施肥材Xb)、同比率を12:6:4としたもの(海域施肥材Xc)の3つである。原料として使用した発酵鶏糞と鉄鋼スラグと酸化マグネシウムの合計重量に対する鉄鋼スラグの割合は、海域施肥材Xaは11%、海域施肥材Xbは20%、海域施肥材Xcは27%である。
【0117】
実験は、100Lの海水を入れた3つの水槽の底部に、高さ20cm、直径25cmとした海域施肥材Xa~Xcをぞれぞれ配置し、リンに対する鉄の溶出モル比を実験開始3日後と7日後に算出することで行った。その結果を
図1に示す。
【0118】
図1からも分かるように、12重量部の発酵鶏糞と、鉄鋼スラグと、4重量部の酸化マグネシウムと、水分含量が45~60重量%となる量の水とを含む海域施肥材は、鉄鋼スラグの割合を2~6重量部の範囲内で変化させた場合であっても、Fe/P=0.001~0.1の溶出を実現でき、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出が可能であることが示された。
【0119】
〔9.MgO量の違いによる溶出成分確認試験〕
次に、酸化マグネシウムの添加量の違いによる無機窒素分やリン酸の溶出速度の違いについて検討を行った。実験は、海域施肥材(大豆程度の小粒に成形したもの)2gを円筒状半透膜チューブに収容し、内部に適量の滅菌ろ過人工海水を入れ、空気を抜いて両端を閉塞して溶出検体を作成した。
【0120】
次いで、400mLの人工海水を収容した500mL容量の容器内に溶出検体を浮遊させ、試験開始から3日経過後と7日経過後に、容器内の人工海水への無機窒素分やリン酸の溶出割合を測定した。
【0121】
試験は、酸化マグネシウムの添加量を違えた7種類の海域施肥材を対象とした。具体的には、発酵鶏糞:鉄鋼スラグ:酸化マグネシウム=12重量部:4重量部:0重量部(無添加)としたもの(海域施肥材Xd)、同比率を12:4:1としたもの(海域施肥材Xe)、同比率を12:6:2としたもの(海域施肥材Xf)、同比率を12:6:3としたもの(海域施肥材Xg)、同比率を12:6:4としたもの(海域施肥材Xh)、同比率を12:6:6としたもの(海域施肥材Xi)、同比率を12:6:10としたもの(海域施肥材Xj)の7つである。原料として使用した発酵鶏糞と鉄鋼スラグと酸化マグネシウムの合計重量に対する酸化マグネシウムの割合は、海域施肥材Xdは0%、海域施肥材Xeは5%、海域施肥材Xfは11%、海域施肥材Xgは15%、海域施肥材Xhは20%、海域施肥材Xiは27%、海域施肥材Xjは38%である。その結果を
図2に示す。
【0122】
図2からも分かるように、12重量部の発酵鶏糞と、4重量部の鉄鋼スラグと、酸化マグネシウムと、水分含量が45~60重量%となる量の水とを含む海域施肥材は、酸化マグネシウムの割合を1~4重量部の範囲内で変化させた場合にN/P=10~30の溶出を実現でき、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出が可能であることが示された。
【0123】
〔10.大型水槽での溶出成分確認試験〕
プレス機で作成した海域施肥材Xを100L水槽に入れ、海水かけ流しつつその溶出成分の濃度確認を行った。実験は半年間に亘って行われ、凡そ2週間毎に溶出成分の濃度の確認を行った。
【0124】
その結果、期間中の平均N/Pモル溶出比は19.6であり、Fe/Pモル溶出比は0.06であった。すなわち、N/P=10~30でFe/P=0.001~0.1の溶出を実現でき、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出が可能であることが示された。
【0125】
〔11.フィールド試験〕
本実施形態に係る海域施肥材を尾道市浦崎の干潟に配置して、アサリの増殖を確認するフィールド試験を行った。3m×10mの区画を2つ設け、一方を試験区、他方を対照区に設定した。
【0126】
試験区には、本実施形態に係る海域施肥材Xを10個設置した。各海域施肥材Xは、同海域施肥材Xの高さと同程度の穴、例えば10~30cm程度の穴を干潟に形成して設置する工程と、同工程で形成した穴に海域施肥材Xを配置したのち、海域施肥材Xの上面を砂面とほぼ同等となるように埋没させると共に、この海域施肥材Xの上部をわずかの砂で被覆する工程とを経て設置した。
【0127】
また、試験区と対照区との両方に、平均殻長約26 mmのアサリをそれぞれ271個体/m
2散布した。アサリ平均個体重量の経時変化を
図3に示す。
【0128】
対照区に散布されたアサリ(3.68±0.60g)は、2ヶ月後には5.18±0.91g、4ヶ月後には5.93±1.15g、5ヶ月後には6.31±1.21g、6ヶ月後(試験終了時)には6.73±1.44gと変化した。また試験終了時のアサリの生存率は、散布時に対し78%であった。
【0129】
一方、試験区に散布されたアサリ(対照区と同重量)は、2ヶ月後には5.30±0.90g、4ヶ月後には6.63±1.14g、5ヶ月後には6.95±1.56g、6ヶ月後(試験終了時)には6.88±1.50gと変化し、散布以降、対照区のアサリに比して良好な肥育傾向が見られた。特に、4ヶ月目以降は、対照区のアサリに対し有意な個体重量差が認められた(t-検定、p<0.05)。また試験終了時のアサリの生存率は、散布時に対し93%と対照区に比して高率であった。
【0130】
また、対照区と試験区との双方の底泥中における栄養塩の濃度は、試験区では、溶存態無機窒素(DIN)、溶存態無機リン(DIP)、溶存態ケイ素(DSi)において有意に高い傾向が伺えた。ただし、溶出のタイミングとしては、DIN, DSiなどが早く、DIPが少し遅れる傾向が見られた。
【0131】
これらのことから、本実施形態に係る海域施肥材は、5ヶ月に亘る持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現でき、二枚貝の成長と生残を効果的に上げることができる施肥材であることが示された。
【0132】
上述してきたように、本実施形態に係る海域施肥材によれば、12重量部の発酵鶏糞と、2~6重量部の粒状鉄と、1~4重量部の酸化マグネシウムと、後記海域施肥材の水分含量が45~60重量%となる量の水とを含む柱状圧縮成形体よりなることとしたため、持続性に優れた有機肥料であって鶏糞由来のものを主要な構成材料としつつ、植食性二枚貝の餌となる藻類の生育に適した栄養成分の溶出を実現でき、二枚貝の成長と生残を効果的に上げることができる施肥材である。
【0133】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。