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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】抗アレルギー剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/23 20060101AFI20240418BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240418BHJP
   A61P 37/08 20060101ALN20240418BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
A61K36/23
A23L33/105
A61P37/08
A61K131:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017070071
(22)【出願日】2017-03-31
(65)【公開番号】P2018172308
(43)【公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-01-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】菅原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】恩田 浩幸
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-199500(JP,A)
【文献】特開2008-31095(JP,A)
【文献】特開2014-132894(JP,A)
【文献】Visual Dermatology, 2008, Vol.7 No.3, p.274-275
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K36/00
JSTPLUS、JMEDPLUS、JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クミンの種子の粉砕物又は抽出物を含前記抽出物が、水性溶媒又は水性溶媒と有機溶媒との混合物による抽出物である、花粉症治療又は予防剤。
【請求項2】
請求項1に記載の花粉症治療又は予防剤と飲食品とを含む花粉症の予防又は治療用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤に関する。本発明の抗アレルギー剤によれば、アレルギー疾患を予防、緩和、又は治療することができる。また、本発明はアレルギー疾患の予防又は治療用食品組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーとは、免疫システムが通常は無害である抗原に対して応答し、結果として人体に悪影響を及ぼすことを意味する。アレルギー疾患には、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、及び食物アレルギーなどがあり、日本人の30%以上が何らかのアレルギーを有しているとも言われている。
【0003】
I型アレルギーは、マスト細胞及び好塩基球の細胞内に存在するヒスタミンなどの物質が放出される脱顆粒という現象により引き起こされる。具体的には、マスト細胞及び好塩基球表面のIgE受容体上のIgEに抗原が結合すると、これらの細胞からヒスタミン等の顆粒が放出され、それによって細胞の炎症反応が生じ、アレルギー症状が引き起こされる。したがって、アレルギー症状を予防又は治療するためには、この顆粒の放出を抑制することが重要である。
【0004】
アレルギーを抑制及び治療するために、種々の研究活動が行われている。その中でも、食品に由来する成分は安全性に優れており、抗アレルギー効果を有する様々な成分が報告されている。例えば、特許文献1には、アポラクトフェリンを含む抗アレルギー剤が記載されている。また、特許文献2には、酒粕を含む抗アレルギー剤が記載されている。しかしながら、所望の抗アレルギー効果を十分に有しており、食品又は医薬品として実際に使用できる安全な物質の開発は未だなされていない現状にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-236623号公報
【文献】特開2009-292785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、安全な抗アレルギー剤について鋭意検討した結果、クミン抽出物が抗アレルギー効果を示すことを新たに見出した。クミン抽出物が抗アレルギー効果を有することは全く知られておらず、本発明はこうした知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、
[1]クミンの粉砕物又は抽出物を含む、抗アレルギー剤、
[2]I型アレルギーに対する抗アレルギー剤である、[1]に記載の抗アレルギー剤、
[3]クミンの粉砕物又は抽出物が、種子の粉砕物又は抽出物である、[1]又は[2]に記載の抗アレルギー剤、
[4]前記抽出物が、水性溶媒又は水性溶媒と有機溶媒との混合物による抽出物である、[1]~[3]のいずれかに記載の抗アレルギー剤、及び
[5][1]~[4]のいずれかに記載の抗アレルギー剤と飲食品とを含むアレルギー疾患の予防又は治療用食品組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗アレルギー剤によれば、アレルギー疾患の発症を予防し、又はその症状を緩和若しくは治療することができる。さらに、本発明の抗アレルギー剤によれば、脱顆粒を抑制することにより抗アレルギー効果を有し、かつ安全性の高い飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】内在性酵素(β-ヘキソサミニダーゼ)失活後のクミン水溶性抽出物の脱顆粒抑制効果を示すグラフである。
図2】クミン水溶性抽出物限外濾過(3000Da膜)濾液の脱顆粒抑制効果を示すグラフである。
図3】クミン水溶性抽出物限外濾過(3000Da膜)濾液の細胞毒性を示すグラフである。
図4】クミン水溶性抽出物限外濾過(3000Da膜)濾液をさらに透析(500Da)した後の脱顆粒抑制効果を示すグラフである。
図5】クミン水溶性抽出物限外濾過(3000Da膜)濾液の熱処理時間による脱顆粒抑制効果の比較を示すグラフである。
図6】脱顆粒シグナル伝達に及ぼすクミン水溶性抽出物の影響を表すグラフである。
図7】脱顆粒シグナル伝達に及ぼすクミン水溶性抽出物の影響を表すグラフである。
図8】クミン水溶性抽出物の抗原抗体反応阻害効果を表すグラフである。
図9】細胞内カルシウムイオン濃度上昇と脱顆粒現象との関係を表す模式図である。
図10】抗原誘導性の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に及ぼすクミン水溶性抽出物限外濾過(3000Da膜)濾液の影響を表したグラフである。
図11】カルシウムイオノフォア誘導性脱顆粒に及ぼすクミン水溶性抽出物限外濾過(3000Da膜)濾液の影響を表したグラフである。
図12】カルシウムイオノフォア誘導性の細胞内カルシウムイオン濃度上昇に及ぼすクミン水溶性抽出物限外濾過(3000Da膜)濾液の影響を表したグラフである。
図13】マウスに対するクミン水溶性抽出物の経口投与実験の概要及び結果を表す模式図及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]抗アレルギー剤
本発明の抗アレルギー剤は、クミンの粉砕物又は抽出物を有効成分として含む。粉砕物と抽出物の両方を含むこともできる。
【0011】
(クミン)
クミン(Cuminum cyminum)は、地中海沿岸東部原産の一年生又は二年生のセリ科の草本であり、日本ではウマゼリ(馬芹)とも呼ばれている。草丈は20~40cmであり、株全体に毛はない。葉柄は長さ1cm程度と短く、針形の鞘がある。葉は細長い針型で、2回羽状に全裂する。花は傘形花で直径2~3cmである。花弁の色はピンク又は白色である。花弁の形は、長楕円形であり、先端がわずかに欠ける。種子は長楕円形で両端が狭く、長さ6mm、幅1.5mm程度であり、全体が白い剛毛に被われている。花期は4月ごろで、5月ごろに種子ができる。
クミンシードは、一般的には種子と認識されているが、植物学上は果実に該当する。このクミンシードが、香辛料としてよく用いられている。本明細書においては、クミンに関して「種子」とは、クミンシードを意味する。クミンシードは、肉料理、野菜料理、煮込み料理、炒めもの、パン、及びチーズなどに広く用いられている。
【0012】
本発明の抗アレルギー剤におけるクミンの使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、又は種子、あるいは、それらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは、種子を用いる。種子を用いる場合は、その他の部分が含まれてもよい。クミンは、生のまま用いてもよいが、乾燥させたものを用いる方が好ましい。
【0013】
(粉砕物)
本発明において、粉砕物とは、クミンが粉砕された状態のものであればよく、例えば、粉末状、粒状、又はペースト状であることができる。クミンの粉砕物は、好ましくはクミンの粉末である。また、粉末状にしたものを、例えば、キューブ状、ブロック状、又は顆粒状に成型又は造粒したものも好ましく使用できる。粉砕物又は粉末に加工するための処理は、特に限定されないが、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、ミキサー、及び石臼などの粉砕用の機器又は器具を用いて、当業者が通常使用する任意の方法により植物体を粉砕する処理が挙げられる。粉砕前に、植物体を乾燥してもよい。
【0014】
本発明の抗アレルギー剤に含まれるクミンが粉砕物である場合、これに限定されるものではないが、例えば、クミン粉砕物の平均最長径が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmのものを使用することができる。また、クミン粉砕物の90重量%以上が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmの最長径を有するものを使用することができる。また、クミン粉砕物の90重量%以上が、JIS試験篩いメッシュ換算表において、8.6メッシュ(2mm)、10メッシュ(1.7mm)、16メッシュ(1mm)、又は30メッシュ(0.5mm)を通過するものを使用することができる。クミン粉砕物の最長径が2mm以下であると、本発明の抗アレルギー効果が向上することから、最長径が2mm以下のものを使用することが好ましい。
【0015】
クミンの平均最長径の計測は、粒径を計測するための公知の機器を使用して行うことができる。また、クミンの粉砕物の中から任意で100個を選択して、それらの最長径を実体顕微鏡を用いて測定し、それらの平均を計算することで算出することもできる。
【0016】
(抽出物)
本発明の抗アレルギー剤の有効成分の抽出に用いるクミンは、生のまま用いてもよく、又は乾燥させたものを用いてもよい。また、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工してから抽出してもよい。
【0017】
有効成分の抽出には、植物に由来する成分の抽出に用いられる通常の抽出方法、例えば、これらに限定されるものではないが、溶剤抽出法、水蒸気蒸留法、圧搾法(直接、高温、若しくは低温)、又は超臨界抽出法を用いることができる。これらの抽出法の組み合わせ、例えば圧搾した後に溶剤抽出する方法を用いてもよい。本発明の抗アレルギー剤に含まれるクミンの抽出物は、溶媒抽出により抽出したものが好ましい。
【0018】
溶剤抽出法で抽出する場合に用いられる抽出溶媒は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、例えば、有機溶媒、水性溶媒、又は有機溶媒及び水性溶媒の混合物を使用することができる。
【0019】
本発明の抗アレルギー剤に含まれるクミンの抽出物は、有機溶媒、例えば、アルコール、アセトン、ベンゼン、エステル、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、及びジエチルエーテルなどにより抽出されることができる。アルコールとしては、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びブチルアルコール等の炭素数1~5の一価アルコールを使用することができる。1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びグリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールを使用することもできる。
【0020】
本発明の抗アレルギー剤に含まれるクミンの抽出物は、水性溶媒により抽出することができる。水性溶媒としては、水を含んでいる限りにおいて限定されるものではなく、例えば水、生理食塩水、又は緩衝液などを使用することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及びトリス緩衝液などが挙げられる。好ましい水性溶媒は、リン酸ナトリウム緩衝液である。前記水性溶媒のpHは、特に制限されない。
【0021】
本発明の抗アレルギー剤に含まれるクミンの抽出物は、有機溶媒と水性溶媒との混合物により抽出されることができる。抽出溶媒中に含まれる水性溶媒の量は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、抽出溶媒の全体量に対して、例えば、50重量%以上、70重量%以上、又は90重量%以上であることができる。
【0022】
本発明の抗アレルギー剤に含まれるクミンの抽出物を溶剤抽出法で抽出する場合、抽出温度は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることのできる温度である限り、特に限定されるものではないが、-50℃~100℃であることが好ましく、-25℃~50℃であることがより好ましく、-25℃~25℃であることがさらに好ましく、-10℃~10℃であることがさらに好ましく、0℃~10℃であることが最も好ましい。
【0023】
また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、根、茎、葉、花、果実、又は種子などの使用部分に応じて適宜決定することができる。また、抽出時間は、クミンの状態、すなわち、生若しくは乾燥物であるか、又は破砕物若しくは粉体の状態に加工した場合にはその加工状態に応じて適宜決定することができる。さらに、抽出時間は、抽出液の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無などの抽出条件に応じて、適宜決定することができる。抽出時間は、通常、1分~72時間であり、1時間~48時間であることが好ましく、12時間~36時間であることが最も好ましい。
【0024】
本発明の抗アレルギー剤に含まれるクミンの抽出物は、水蒸気蒸留法により抽出することができる。水蒸気蒸留法とは、カラムに充填した原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法である。蒸留手段として、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、及び減圧水蒸気蒸留のいずれかを採用することができる。
【0025】
圧搾法とは、クミンに物理的に圧力をかけて、抽出物を抽出する方法である。常温で行う直接圧搾法、高温で行う高温圧搾法、及び低温で行う低温圧搾法がある。本発明の抗アレルギー剤に含まれる抽出物は、いずれの圧搾法を用いても抽出可能である。
【0026】
本発明の抗アレルギー剤に含まれる抽出物は、超臨界抽出法を用いて抽出可能である。超臨界抽出法とは、超臨界状態にある物質を用いて特定の植物から抽出物を抽出する方法である。超臨界状態にある物質としては、例えば二酸化炭素を用いることができる。超臨界状態にある二酸化炭素は、強力な溶解力を有するため、コーヒーの脱カフェイン、又は植物などの天然原料からの香料及び医薬品成分抽出にも一般に用いられている。
【0027】
本発明の抗アレルギー剤は、クミン抽出物を含んでいてもよく、クミン抽出物から分画した活性成分を含む画分、又は精製した活性成分を含むものでもよい。前記の活性成分を含む画分は、例えば、限外膜濾過処理により、大きな分子量を有する物質を除去することにより得ることができる。クミン抽出物から分画した活性成分を含む画分は、これに限定されるものではないが、好ましくは、クミンの水性溶媒抽出物を3000Daの限外膜濾過処理に供した場合に得られる画分である。
【0028】
本発明の抗アレルギー剤に含まれる有効成分は、クミンから抽出される抽出物に含まれている。したがって、クミンは抗アレルギー効果を有する成分を含んでおり、クミンの粉砕物、例えば粉末状、粒状、又はペースト状のものも、抽出物に含まれるものと同じ有効成分を含んでいる。したがって、クミンの粉砕物も抗アレルギー剤として使用可能であると考えられる。
【0029】
(抗アレルギー剤)
本発明の抗アレルギー剤は、特に、I型アレルギー、具体的には、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、じんましん、食物アレルギー、動物アレルギー、アレルギー性結膜炎、アナフィラキシーショック、又はアレルギー性胃腸炎などのアレルギー疾患を発症している又は発症する可能性がある対象に対して使用することができる。抗アレルギーとは、アレルギー疾患を発症した又は発症する可能性がある対象に対して、アレルギー疾患の発症を予防するか、又は発症したアレルギー疾患を緩和若しくは治療する効果を有することを意味する。
【0030】
I型アレルギー反応には、抗原特異的なIgE抗体とIgE特異的な高親和性IgE受容体FcεRIを有する肥満細胞及び好塩基球とが関与している。FcεRIを介して肥満細胞又は好塩基球の表面に結合しているIgEが抗原によって架橋されると、FcεRIが活性化されることでその下流へとシグナルが伝達され、ヒスタミン、ロイコトリエンC4、PAF、又は好酸球走化因子などの細胞内顆粒内容物が放出される。この現象を脱顆粒と呼ぶ。脱顆粒が生じた各組織において平滑筋収縮、血管透過性亢進、又は腺分泌亢進などが起こり、アレルギー症状が出現する。脱顆粒には、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇もまた関与している。本発明の抗アレルギー剤は、IgE抗体と抗原との抗原抗体反応を阻害することができる。本発明の抗アレルギー剤は、細胞内カルシウムイオン濃度上昇を抑制することができる。また、本発明の抗アレルギー剤は、脱顆粒シグナル伝達を阻害することができる。本発明の抗アレルギー剤は、これらの効果のうちの1つを有してもよく、又は2つ以上を有してもよい。
【0031】
本発明の抗アレルギー剤の投与剤型としては、特には限定がなく、経口剤及び非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。前記経口剤は、例えば、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、及び丸剤等の固形状又は粉末状製剤、並びに懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、及びエキス剤等の液状製剤を挙げることができる。非経口剤としては、例えば、注射剤を挙げることができる。
【0032】
本発明の抗アレルギー剤は、クミン粉砕物又はクミン抽出物から成るものでもよく、また、クミン粉砕物又はクミン抽出物を含むものでもよい。本発明の抗アレルギー剤が、クミン粉砕物又はクミン抽出物を含むものである場合、他の添加剤を含むことができる。
【0033】
本発明の抗アレルギー剤が経口剤である場合、他の添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、又は懸濁化剤を挙げることができ、具体的には、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどであることができる。
【0034】
本発明の抗アレルギー剤が非経口剤である場合、他の添加剤としては、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを挙げることができる。
【0035】
本発明の抗アレルギー剤は、クミンの粉砕物又は抽出物を、90重量%以上、50重量%以上、10重量%以上、又は1重量%以上含むことができる。
【0036】
本発明の抗アレルギー剤の投与量又は摂取量は、製剤形態、並びに使用する対象の年齢、性別、体重及びアレルギー症状の程度などに応じて適宜調整することができるが、当該抗アレルギー剤を投与又は摂取することで、アレルギー疾患の発症を予防するか、又は発症したアレルギー疾患を緩和若しくは治療することができる量であることが好ましい。具体的には、クミン水性溶媒抽出物の添加量に換算して、0.01~1000mgタンパク質/kg体重/日、好ましくは、0.1~750mgタンパク質/kg体重/日、より好ましくは1~500mgタンパク質/kg体重/日、さらに好ましくは5~400mgタンパク質/kg体重/日、さらに好ましくは10~300mgタンパク質/kg体重/日、さらに好ましくは15~200mgタンパク質/kg体重/日、又は最も好ましくは20~150mgタンパク質/kg体重/日であることができる。
【0037】
もちろん、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの抗アレルギー剤の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0038】
本発明の抗アレルギー剤は、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物であってもよく、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;牛及び豚等の家畜;マウス、ラット等の実験動物;並びに、動物園等で飼育されている動物等が挙げられる。
【0039】
本発明の抗アレルギー剤は、アレルギー予防又は治療用医薬組成物であることができる。
【0040】
前記医薬組成物には、医薬品及び医薬部外品が含まれる。医薬品としては、例えば、生薬製剤及び漢方製剤などを挙げることができる。医薬部外品としては、例えば、栄養ドリンク及び生薬含有保健薬などを挙げることができる。
【0041】
[2]食品組成物
本明細書において、食品組成物とは、本発明の抗アレルギー剤と食品又は飲料とを含むものを意味する。本発明の食品組成物は、本発明の抗アレルギー剤を含み、したがって、アレルギー予防又は治療用として使用できる。
【0042】
食品としては、具体的には、サラダなどの生鮮調理品;ステーキ、ピザ、ハンバーグなどの加熱調理品;野菜炒めなどの炒め調理品;トマト、ピーマン、セロリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、及びアスパラガスなどの野菜及びこれら野菜を加工した調理品;クッキー、パン、ビスケット、乾パン、ケーキ、煎餅、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム類、チューインガム、クラッカー、チップス、チョコレート及び飴等の菓子類;うどん、パスタ、及びそば等の麺類;かまぼこ、ハム、及び魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;チーズ、クリーム、及びバターなどの乳製品;みそ、しょう油、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、スープの素、麺つゆ、カレー粉、みりん、ルウ等の調味料類;豆腐などの大豆食品;並びにこんにゃくなどを挙げることができる。食品は、好ましくは、ルウ(例えばカレー用若しくはシチュー用のもの)、シーズニングスパイス、又はサプリメントである。
【0043】
飲料としては、例えば、コーヒー飲料;ココア飲料;前記の野菜から得られる野菜ジュース;グレープフルーツジュース、オレンジジュース、ブドウジュース、及びレモンジュース等の果汁飲料;緑茶、紅茶、煎茶、及びウーロン茶等の茶飲料;ビール、ワイン(赤ワイン、白ワイン、又はスパークリングワインなど)、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、及びリキュール類等のアルコール飲料;乳飲料;豆乳飲料;流動食;並びにスポーツ飲料などを挙げることができる。飲料は、好ましくは、スパイスティー(例えばハーブティー又はチャイ)である。
【0044】
食品又は飲料には、動物に対する飼料が含まれる。対象となる動物は、例えば、ヒトなどの霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、又はマウス等が挙げられる。
【0045】
これらの食品又は飲料には、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品添加物及び食品素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの食品素材及び食品添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0046】
これらの食品又は飲料は、例えば、レトルト及びオートクレーブなどの加熱加圧滅菌、バッチ式殺菌、プレート殺菌、通電加熱殺菌、マイクロ波加熱殺菌、並びに、インジェクション及びインフュージョンなどのスチーム殺菌などの一般的な殺菌処理を行うことができる。
【0047】
食品及び飲料には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、生体調節機能(すなわち、アレルギー症状の発症の予防、又はアレルギー症状の緩和若しくは治療の機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。機能性食品及び健康食品は、顆粒状、固形状、液状、カプセル状、ゲル状、又は錠剤状であることができる。
【実施例
【0048】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
《製造例1:クミン種子粉末の水溶性抽出物の調製》
10mMリン酸ナトリウム緩衝液(NaPB:pH7.4)を溶媒として、以下の手順でサンプル調製を行い、クミン抽出物サンプルを得た。クミン種子粉末を0.05g/mLとなるように10mM NaPBに懸濁し、超小型回転培養器ローテーター(15回転/分)で24時間懸濁抽出した。抽出後、4℃、12,000rpmで20分間遠心して上清を回収し、さらに、4℃、70,000rpmで30分間超遠心して上清を回収した。水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7.4に調整した。フィルターろ過(0.45μm)により滅菌した。
【0050】
《実施例1:脱顆粒試験》
ラット好塩基球細胞株RBL-2H3細胞を、96穴培養プレート内の5%FBS-DMEM培地中で、2x10細胞/mLの細胞濃度で18時間前培養した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を1回洗浄した。次に、ジニトロフェニル(DNP)特異的IgEで2時間感作した。Tyrode緩衝液で細胞を2回洗浄した。Tyrode緩衝液で希釈したクミン水溶性抽出物サンプルを200μL/ウェルで添加して10分培養した。10分後、Tyrode緩衝液で希釈したクミン水溶性抽出物サンプル溶液を吸引廃棄し、Tyrode緩衝液を200μL/ウェルで添加した。続いて抗原であるDNPを添加して30分間培養することで脱顆粒を誘導した後、上清を回収した。
【0051】
抗原刺激によって放出される顆粒中に含まれるβ-ヘキソサミニダーゼの放出量を指標として、クミン水溶性抽出物の脱顆粒抑制効果を評価した。具体的には、上清を回収した後、細胞を0.1%のTriton X-100を含む改良Tyrode緩衝液130μL中で、氷上で5秒間超音波処理し細胞を溶解した。上記で回収した上清と上記で得られた細胞溶解物の両方を、新しい96穴(50μL/ウェル)のマイクロプレートの各ウェルに移し、37℃で5分間インキュベートした。その後、0.1Mのクエン酸塩緩衝液(pH4.5)に溶解した3.3mM 4-ニトロフェニル2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド(基質液)100μLを各ウェルに添加し、さらに37℃で25分間インキュベートした。酵素反応は、2Mのグリシン緩衝液(pH10.4)を100μL添加することで停止した。反応液の吸光度を、マイクロプレート・リーダ(SH-8000Lab、コロナ・エレクトリック社)を使用して、波長405nmで測定した。脱顆粒の指標としてβ-ヘキソサミニダーゼ放出率(%)を、下式に従って算出した。

β-ヘキソサミニダーゼ放出率(%)=[(A上清-A上清のブランク)/{(A上清-A上清のブランク)+(A細胞溶解物-A細胞溶解物のブランク)}]×100

A:各ウェルの波長405nmでの吸光度

タンパク質濃度はローリー法に従って測定した。具体的には、Bio-Rad社のDCプロテインアッセイキットを用いて定量した。
【0052】
なお、クミン水溶性抽出物にはpHにより色が変化する物質が含まれており、脱顆粒試験の活性評価に影響を及ぼしていた。そして、その物質は透析及び限外濾過によっても除去できなかった。そのため、脱顆粒試験においては、Tyrode緩衝液で希釈したクミン水溶性抽出物添加の10分後にTyrode緩衝液で希釈したクミン水溶性抽出物を吸引除去し、クミン水溶性抽出物を10mM NaPBに置き換えたTyrode緩衝液を同量添加してから抗原によって刺激を行うことにした。後述のA23187及びタプシガルギンの脱顆粒試験もこの方法により行った。これにより、高タンパク質濃度添加時のクミン水溶性抽出物におけるデータのばらつきが解消された。
【0053】
クミン水溶性抽出物自体にβ-ヘキソサミニダーゼが含まれていることから、100℃、5分間の加熱により内在性β-ヘキソサミニダーゼを失活させた後に脱顆粒試験を行い、活性評価した。その結果、図1に示したように、クミン水溶性抽出物は、β-ヘキソサミニダーゼ放出を濃度依存的に抑制することがわかった。このときWST-8法により細胞毒性を評価したところ、どの濃度においても細胞毒性を示さなかった(図示せず)。このことから、クミン水溶性抽出物は細胞毒性なく脱顆粒を抑制することが示唆された。
【0054】
《活性分子の分子サイズの推定》
クミン抽出物サンプルを分画分子量3000の膜を用いて限外濾過し、その限外濾過液について脱顆粒活性を評価した。その結果、図2に示したように、限外濾過液サンプルは濃度依存的にβ-ヘキソサミニダーゼ放出を抑制した(図2のUCEA)。クミン抽出物サンプルを添加していないコントロールのβ-ヘキソサミニダーゼ放出率は34.3±2.6%であった。このとき、図3に示したように、限外濾過液サンプルは、高濃度においても細胞毒性を示さなかった。
【0055】
さらに、分画分子量3000の膜で限外濾過した後に、分画分子量100~500の透析膜でさらに透析した濾過液サンプル(図4中「500~3000Da」)について脱顆粒試験を行ったところ、図4に示したように最大活性の低下が認められたものの、活性を保持した。クミン抽出物サンプルを添加していないコントロールのβ-ヘキソサミニダーゼ放出率は30.6±2.5%であった。
【0056】
これらのことから、クミン水溶性抽出物の脱顆粒抑制に関する活性物質は、分子量500~3000の物質に加え、500以下の物質にも活性を持つものが含まれる可能性が示唆された。以下の実施例では、クミン水溶性抽出物を分画分子量3000の膜で限外濾過したものを限外濾過クミン水溶性抽出物(UCAE)として用いた。
【0057】
《活性物質の推定》
UCAEに含まれる脱顆粒抑制物質を推定するため、100℃、30分間の加熱処理を行った後にβ-ヘキソサミニダーゼの放出率を測定した。その結果、図5に示したように、100℃、30分間の加熱処理では、活性に変化は認められなかった(5分処理はコントロール:内在性β-ヘキソサミニダーゼを失活させるため)。クミン抽出物サンプルを添加していないコントロールのβ-ヘキソサミニダーゼ放出率は25.9±1.9%であった。したがって、活性物質は熱に安定な物質であることが推察された。
本発明の抗アレルギー剤の活性物質は、特定されておらず、タンパク質又はタンパク質以外の物質である可能性があるが、本明細書においては、便宜的に抽出物の濃度を抽出物中のタンパク質の濃度を用いて示している。
【0058】
《脱顆粒シグナル伝達に及ぼすクミン水溶性抽出物の影響》
UCAEサンプルを添加してRBL-2H3細胞を培養した後、細胞破砕液を調製し、SDS-PAGEゲル電気泳動した。電気泳動後、ウエスタンブロッティングにより泳動タンパク質をPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜をスキムミルクでブロッキングした後、各シグナル因子特異的抗体(Cell Signaling Technology社製)を用い反応させた。ペルオキシダーゼ標識した抗IgG抗体を反応させた後、基質液を反応させ、バンドを検出した。
【0059】
その結果、図6及び7に示したように、UCAEが、PI3K及びBtkタンパク質のリン酸化による活性化を抑制することが分かった。また、PLCγ1及びPLCγ2タンパク質においても同様の結果となり、UCAEが、PLCγ1及びPLCγ2タンパク質のリン酸化による活性化を抑制することが分かった。
【0060】
《実施例2:抗原抗体反応阻害試験》
脱顆粒試験において、IgE抗体と抗原による脱顆粒誘導の初期段階として、細胞表面上の高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合したIgEとアレルゲンとの抗原抗体反応が起こる。抗原抗体反応が阻害される場合、それ以降の脱顆粒反応も抑制されることになる。そこで、抗原抗体反応に対するクミン抽出物サンプルの影響を酵素抗体法で検討した。
【0061】
96穴プレートにDNP-HSAをコーティングした後、種々の濃度のサンプルと抗DNP-IgEの混合液を添加した。37℃、1時間のインキュベーションの後、0.05% tween20-PBSで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ標識した抗IgE抗体を添加し、37℃、1時間インキュベートした。0.05% tween20-PBSで3回洗浄した後、ペルオキシダーゼの基質を添加して発色させた。
【0062】
その結果、図8に示したように、クミン抽出物サンプル、UCAE(3000Da↓)、及び分子量3000より大きい画分を含むクミン抽出物サンプル(3000Da↑)の全てにおいて、高濃度で抗原抗体反応を阻害することが確認された。しかし、その抑制の程度は図2などで示した脱顆粒抑制効果と比較するとわずかなものであると考えられ、クミン抽出物サンプルの脱顆粒抑制効果は抗原抗体反応の阻害によるものではないと考えられる。
【0063】
《実施例3:脱顆粒抑制メカニズムの解析》
脱顆粒にはカルシウムイオンが関与しており、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇することで脱顆粒が起こる(図9)。本実験ではFluo3-AM(同仁化学社製)を用いて、タンパク質濃度400μg/mLのUCAEによる刺激前後での細胞内カルシウムイオン濃度を経時的に測定した。その結果、図10に示したように、UCAEの添加により細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が抑制された。しかし、抑制の程度は図2などで示した効果ほどではないことから、抗原刺激におけるカルシウムイオン流入より後の段階に対しても阻害作用を示す可能性が考えられる。
【0064】
《脱顆粒誘導薬剤を使用した脱顆粒抑制効果の検討》
ラット好塩基球細胞株RBL-2H3細胞を用いて、抗原による実験と同様の手順で、タンパク質濃度400μg/mLのUCAEが、A23187刺激及びタプシガルギン刺激による脱顆粒に及ぼす影響を検討した。タプシガルギンは小胞体膜上のカルシウムイオン-ATPase阻害剤で、小胞体からのカルシウム漏出を引き起こす。小胞体内のカルシウムイオンが枯渇すると、細胞外からカルシウムイオンが流入する。また、A23187は細胞膜に存在するCaイオンチャネルの透過性を高めることで細胞外からのカルシウムイオン流入を誘導する。その結果、細胞内カルシウムイオン濃度が上昇し、脱顆粒が生じる
【0065】
A23187及びタプシガルギン誘導性脱顆粒について脱顆粒試験を行った結果を図11に示す。コントロールは、UCAEを添加していないRBL-2H3細胞の結果を示している。UCAEは、いずれの刺激による脱顆粒についても、濃度依存的に抑制することが分かった。
【0066】
《脱顆粒誘導薬剤を使用した細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に及ぼす影響の検討》
ラット好塩基球細胞株RBL-2H3細胞を用いて、抗原による実験と同様の手順で、タンパク質濃度400μg/mLのUCAEが、A23187刺激及びタプシガルギン刺激による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に及ぼす影響を検討した。
【0067】
その結果、図12に示したように、いずれの刺激においても、細胞内カルシウムイオン濃度の抑制効果が認められた。このことから、クミン水溶性抽出物はカルシウムイオン流入を阻害することでA23187及びタプシガルギン誘導性脱顆粒を抑制していると考えられる。
【0068】
《実施例4:マウスを用いた経口投与実験》
マウスを用いたIgEによる受動皮膚アナフィラキシー(PCA)応答試験を行なった。7週齢の雌BALB/cマウスに、7日間、10mM NaPB、低用量クミン水溶性抽出物(25mg/kg体重/日)、又は高用量クミン水溶性抽出物(125mg/kg体重/日)を経口で与えて飼育した。その後、PBSで希釈した抗DNP-IgE抗体(50ng)又はPBSを、気密性注射器を使用して、それぞれ左耳介に10μL皮内注射をした。23時間後、再度、10mM NaPB、低用量クミン水溶性抽出物(25mg/kg体重/日)、又は高用量クミン水溶性抽出物(125mg/kg体重/日)を経口投与した。その1時間後、0.5%エバンスブルーを含むPBS200μLで希釈した抗原(DNP-HSA)200μgを、気密性注射器を使用して、尾静脈注射をした。DNP-HSAで処理した後、マウスを安楽死させ、耳を切除回収した。次いで、回収した各耳からエバンスブルー色素を500μLのホルムアルデヒドを用いて70℃で一晩抽出した。次いで、エバンスブルー色素の吸光度を、Ultrospec 3000分光測光器(アマシャム・ファルマシア・バイテク)を使用して、620nmで測定した。
【0069】
その結果、低濃度投与群で、有位な抑制効果が確認された。高濃度投与群においても抑制傾向が見られた。サンプルを好んで飲んだ個体ほど、抑制効果が高かった。したがって、クミンの摂取はPCA反応抑制に効果があることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の抗アレルギー剤によれば、アレルギー疾患の発症を予防し、又はその症状を緩和若しくは治療することができる。本発明の抗アレルギー剤によれば、抗アレルギー効果を有し、かつ安全性の高い飲食品を提供することができる。
図1
図2
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