(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】長鎖アルキルを有する不完全かご型シルセスキオキサン
(51)【国際特許分類】
C07F 7/12 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
C07F7/12 X CSP
(21)【出願番号】P 2020158604
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第69回高分子討論会高分子学会 予稿集69巻2号にて発行 発行日 令和2年9月2日 第69回高分子討論会高分子学会 ショートプレゼンテーション発表およびオンラインポスター発表 発表日 令和2年9月16日から9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(72)【発明者】
【氏名】中 健介
(72)【発明者】
【氏名】大野 貴也
(72)【発明者】
【氏名】井本 裕顕
(72)【発明者】
【氏名】松川 公洋
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-015738(JP,A)
【文献】特開2019-189564(JP,A)
【文献】国際公開第2004/026883(WO,A1)
【文献】特開2018-080250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される不完全かご型シルセスキオキサン誘導体。
式(1)において、すべてのR
1は、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1以上10以下のアルキルから選択される同一の基であり;R
2はメチルであり;R
3は独立して炭素数8以上20以下のアルキルである。
【請求項2】
式(1)において、すべてのR
1は、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数3以上10以下のアルキルから選択される同一の基である、請求項1に記載の不完全かご型シルセスキオキサン誘導体。
【請求項3】
式(1)において、すべてのR
1は3,3,3-トリフルオロプロピルであり、すべてのR
3が炭素数16のアルキルである、請求項1に記載の不完全かご型シルセスキオキサン誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長鎖アルキルを有する不完全かご型シルセスキオキサンに関する。
【背景技術】
【0002】
かご型シルセスキオキサンはシロキサン結合(-Si-O-Si-)からなる立方体構造を有する無機骨格の頂点に有機置換基を有する化合物の総称である。このかご型シルセスキオキサンは剛直な無機骨格に起因する優れた耐熱性、機械的特性を示し、かご頂点の有機置換基の修飾により物性制御が可能であることから、分子レベルでの有機-無機ハイブリッド材料のナノビルディングブロックとして注目を集め、幅広い検討が行われている。
【0003】
かご型シルセスキオキサンの立方体構造のうち一部が欠損したものは不完全型かご型シルセスキオキサンと呼ばれる。この不完全かご型シルセスキオキサンはかご骨格の頂点に異種置換基が導入された多置換かご型シルセスキオキサンの原料として用いることができるほか、不完全なかご骨格を維持したまま化学修飾を施すことも可能な優れた反応前駆体である。
【0004】
フッ化アルキルは低い表面自由エネルギーのために、フッ化アルキルの導入により優れた撥水性、撥油性を付与することができる。また、フッ化アルキルは分極率が低いために、フッ化アルキルの導入により低屈折率化が実現できる。このようなフッ化アルキルの特徴を活かし、特許文献1のような含フッ素シルセスキオキサンを用いた防汚コーティング剤や、特許文献2のような反射防止コーティング剤等が開発されている。
【0005】
また、上記以外にもフッ化アルキルの導入によって得られる効果として、フッ化アルキル間の親和力による隣接分子が凝集する効果(フルオロフィリック効果)が知られているが、上記先行技術文献中においては、このフルオロフィリック効果をかご型シルセスキオキサンの分子充填構造の制御に活用できることについては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-001724号公報
【文献】特開2012-086419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、開口部に導入されたアルキルの分散力およびフッ化アルキルとアルキルの非相溶性によって、液晶性を発現する、不完全かご型シルセスキオキサン誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記の目的を達成すべく、鋭意検討した結果、頂点官能基にフッ化アルキルを有する不完全かご型シルセスキオキサンの開口部に長鎖アルキルを導入した含フッ素不完全かご型シルセスキオキサンが上記課題を解決する事を見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明よれば、開口部に導入されたアルキルの分散力およびフッ化アルキルとアルキルの非相溶性によって、ラメラ液晶相を発現する、不完全かご型シルセスキオキサン誘導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で合成した化合物(4)の
1H‐NMRスペクトルである。
【
図2】化合物(4)の
29Si‐NMRスペクトルである。
【
図3】化合物(4)の室温で撮影された偏光顕微鏡写真(倍率200倍)である。
【
図4】化合物(4)の室温での粉末X線回折測定の結果である。
【
図5】比較例1で合成した化合物(6)の
1H‐NMRスペクトルである。
【
図6】化合物(6)の
29Si‐NMRスペクトルである。
【
図7】化合物(6)の室温で撮影された偏光顕微鏡写真(倍率200倍)である。
【
図8】比較例2で合成した化合物(8)の
1H‐NMRスペクトルである。
【
図9】化合物(8)の
29Si‐NMRスペクトルである。
【
図10】化合物(8)の室温で撮影された偏光顕微鏡写真(倍率200倍)である。
【
図11】化合物(8)の室温での粉末X線回折測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術の一実施形態について詳細に説明する。また本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0012】
本発明は下記の項などである。
[項1] 式(1)で表される不完全かご型シルセスキオキサン。
式(1)において、すべてのR
1は、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1以上10以下のアルキル群から選択される同一の基であり;R
2はメチルであり;R
3は独立して炭素数8以上20以下のアルキルである。
【0013】
[項2] 式(1)において、すべてのR1は、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数3以上10以下のアルキル群から選択される同一の基である、項1に記載の不完全かご型シルセスキオキサン誘導体。
【0014】
[項3] 式(1)において、すべてのR1は3,3,3-トリフルオロプロピルであり、すべてのR3が炭素数16のアルキルである、項1に記載の不完全かご型シルセスキオキサン誘導体。
【0015】
本実施形態におけるアルキルは、いずれの場合も直鎖の基であってもよく、分岐された基であってもよい。
【0016】
「少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1以上10以下のアルキル」の句は、例えばトリフルオロメチル、2-フルオロエチル、2,2-ジフルオロエチル、3、3、3-トリフルオロプロピル、ヘキサフルオロプロピル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、およびヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルを示す。
【0017】
そして、R1の好ましい例は、3、3、3-トリフルオロプロピル、ヘキサフルオロプロピル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルなどである。そして、R1の特に好ましい例は、3、3、3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルなどである。
【0018】
アルキル鎖長の分散力に起因する安定性の面から、R3は直鎖が好ましく、R3の炭素数は8から20が好ましい。「炭素数8以上20以下のアルキル」の句は、例えばn-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-イコシルを示す。
【0019】
「化合物(1)」は、式(1)で表される化合物を意味し、また、式(1)で表される化合物の少なくとも1種を意味することもある。
【0020】
化合物(1)の製造方法は化合物(2)を用いることができる。
化合物(2)は特開2005-015738号公報の記載を参照して合成することができ、下記の化合物(3)に対し、塩基性を示す有機化合物の存在下、有機溶剤中でdimethylchlorosilaneを作用させることにより、容易かつ収率良く製造することができる。
【0021】
式(3)において、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、セシウムなどの1価のアルカリ金属原子である。Mの好ましい例はナトリウムである。Rのすべては、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた炭素数1~10のアルキルの群である。そして、Rの好ましい例は、3、3、3-トリフルオロプロピル、ヘキサフルオロプロピル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルなどである。そして、Rの特に好ましい例は、3、3、3-トリフルオロプロピルおよび3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルなどである。
【0022】
上記手法によって合成した化合物(2)を遷移金属触媒の存在下、末端不飽和結合を1つ有する直鎖状不飽和炭化水素化合物とヒドロシリル化反応させることにより、化合物(2)のSi-H基と直鎖状不飽和炭化水素化合物の末端不飽和結合の間に結合が形成され、化合物(1)が得られる。
【0023】
好ましいヒドロシリル化触媒の例は、カルステッド(Karstedt)触媒、スパイヤー(Spier)触媒、ヘキサクロロ白金酸などである。
【0024】
末端不飽和結合を1つ有する直鎖状炭化水素化合物は、例えば1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、および1-エイコセンである。
【0025】
化合物(1)のR1がイソブチルおよびフェニルであり、R2がメチルであるものについてはそれぞれ市販のTrisilanolisobutyl POSSおよびTrisilanolPhenyl POSS(いずれもHybrid plastic社製)を原料に用い、塩基性を示す有機化合物の存在下、有機溶剤中でdimethylchlorosilaneを作用させることにより、容易かつ収率良く製造することができる。
【0026】
本発明で得られる不完全かご型シルセスキオキサン誘導体は、液晶性を有することから無溶媒での塗布プロセスが適用可能であり、結晶性のシルセスキオキサン誘導体と比較して加工性に優れる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明に対して実施例を用いて詳細に説明する。しかし本発明は、以下の実施例に記載された内容に限定されるものではない。なお温度の記載がない場合は、23℃で測定を行った。
【0028】
[化合物の構造同定]
化合物の構造同定をNMRで行った。NMRはBruker社製のBruker DPX-400で計測した。1H-NMR測定での磁場強度は400MHzであり、29Si-NMR測定での磁場強度は80MHzである。なお、29Si-NMRの測定にはDEPT法を用いた。試料はCDCl3に溶解させ、測定は室温で行った。この際、積算回数は1H-NMRでは16回であり、29Si-NMRでは信号強度を見ながら適切なスペクトルが得られた時点で積算を終了した。
【0029】
[化合物の相転移挙動の確認]
化合物の相転移挙動の確認はDSC測定によって行った。DSCは島津製作所社製のDSC-60で計測した。スキャン速度は5または10℃/minで測定を行い、試料を50℃以下の冷却が必要な場合には液体窒素を使用した。
【0030】
[化合物の液晶性の確認]
化合物の液晶性の確認は偏光顕微鏡(POM)観察によって行った。偏光顕微鏡はニコン社製のOPTIPHOT POLを用い、試料の温度制御には東海ヒット社製のTHERMO PLATE TP-S-100を用いた。
【0031】
[化合物の分子充填構造の評価]
化合物の分子充填構造の測定は粉末XRD測定によって行った。測定にはリガク社製全自動多目的X線回折装置Smart Labを使用した。線源にはCuのKα線を用いた。 測定範囲は2θ=3~40°、測定幅は0.01°で測定を行った。
【0032】
[実施例1]
化合物(4)の合成と評価
<合成>
温度計、還流器、ガラス栓を備えた50mL四つ口フラスコに化合物3(0.5g),1-hexadecene(0.4g)、トルエン(3mL)を仕込み窒素雰囲気下でマグネチックスターラーを用いて撹拌した。カルステッド触媒(2μL)を加え、80℃まで加熱し、6時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで放冷し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した。得られた残渣を、分取HPLCを用いて精製することで、白色固体(0.7g)を得た。
【0033】
<構造同定>
得られた白色固体の構造を、
1H-NMR(
図1)及び
29Si-NMR(
図2)を用いて決定した。
1H-NMR測定の結果、合成原料である化合物(5)のSi-H基に由来する4.74~4.77ppmのピークが消失しており、0.58ppm付近にヒドロシリル化反応によって形成されるSi-C結合のメチレンに対応するピークおよび1.25 ppm付近にアルキル鎖中のメチレンに由来するピークが確認された。
29Si NMR測定の結果、合成原料である化合物(5)のSi-H基に由来する-2.28ppmのピークが消失しており、12.59ppmに新たなSi-C結合の形成に対応するピークが確認された。また、T構造に由来するピークが-66.27,-68.35,および-69.68ppmに3本確認された。以上の結果より、上記反応によって得られた白色固体が式(4)で表される化合物であることを確認した。
【0034】
【0035】
<物性評価>
得られた化合物(4)の相転移挙動の評価を示差走査熱量(DSC)測定および偏光顕微鏡(POM)観察により実施した。DSC測定の昇温過程(5℃/min)において12.5℃および27.8℃に2つの吸熱ピークが観測された。このことより、化合物(4)が固体-液体間で相転移することが確認された。室温でのPOM観察において、化合物(4)が複屈折性と流動性を有する相状態(秩序構造)であることが確認され、室温での相状態が液晶相であることが確認された(
図3)。
さらに、粉末X線回折測定により、分子充填構造について詳細な評価を行った結果、ラメラ構造に特徴的な等間隔のピークが観測され、化合物(4)が室温でラメラ液晶相を発現していることが確認された(
図4)。
【0036】
[比較例1]
化合物(6)の合成と評価
<合成>
温度計、還流器、ガラス栓を備えた50mL四つ口フラスコに化合物(7)(0.5g),1-hexadecene(0.5g)、THF(3mL)を仕込み窒素雰囲気下でマグネチックスターラーを用いて撹拌した。カルステッド触媒(3μL)を加え、THFの還流温度下で6時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで放冷し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した。得られた残渣をHPLCを用いて精製することで、無色液体2(0.4g)を得た。
【0037】
<構造同定>
得られた無色液体の構造を、
1H-NMR(
図5)及び
29Si-NMR(
図6)を用いて決定した。
1H-NMR測定の結果、合成原料である化合物(7)のSi-H基に対応する4.72~4.74ppmのピークが消失しており、0.87~0.91ppmに長鎖アルキル末端のメチルに対応するピークおよび1.27ppm付近にアルキル鎖中のメチレンに対応するピークが確認された。
29Si-NMR測定の結果、合成原料である化合物(7)のSi-H基に対応する-5.43ppmのピークが消失しており、9.16ppmにヒドロシリル化反応によって形成されるSi-C結合に対応するピークが確認された。また、T構造に由来するピークが-67.3,-67.8,および-68.3ppmに3本確認された。以上の結果より、上記反応によって得られた無色液体が式(6)で表される化合物であることを確認した。
【0038】
【0039】
<物性評価>
得られた化合物(6)の相転移挙動の評価を示差走査熱量(DSC)測定および偏光顕微鏡(POM)観察により実施した。DSC測定の昇温過程(10℃/min)において-2.78℃および7.12℃に2つの吸熱ピークが、2.67℃に1つの発熱ピークが観測された。化合物(6)の昇温過程において2つの吸熱ピークが見られているが、これらのピークの間に発熱ピークが見られていることから、固体-液体間に液晶相に類するような相状態が存在することを示すものではなく、融解過程において試料の一部が再結晶化したことを示している。室温でのPOM観察は視野一面が暗視野であり、室温以上の温度では化合物(6)が等方性液体状態であることが確認された(
図7)。
【0040】
[比較例2]
化合物(8)の合成と評価
<合成>
温度計、還流器、ガラス栓を備えた50mL四つ口フラスコに化合物(9)(0.5g),1-hexadecene(0.5g)、トルエン(3mL)を仕込み窒素雰囲気下でマグネチックスターラーを用いて撹拌した。カルステッド触媒(3μL)を加え、80℃まで加熱し、6時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで放冷し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した。得られた残渣を、HPLCを用いて精製することで、白色固体(0.6g)を得た。
【0041】
<構造同定>
得られた白色固体の構造を、
1H-NMR(
図8)及び
29Si-NMR(
図9)を用いて決定した。
1H-NMR測定の結果、合成原料である化合物(9)のSi-H基に由来する4.98~5.01ppmのピークが消失しており、0.64~0.68ppmにヒドロシリル化反応によって形成されるSi-C結合のメチレンに対応するピーク、0.89~0.92ppmに長鎖アルキル末端のメチルに対応するピーク,1.29ppm付近にアルキル鎖中のメチレンに対応するピークが確認された。
29Si-NMR測定の結果、合成原料である化合物(9)のSi-H基に対応する-2.78ppmのピークが消失しており、11.88ppmにヒドロシリル化反応によって形成されるSi-C結合に対応するピークが確認された。また、T構造に対応するピークが-77.42,-78.01,および-78.20ppmに3本確認された。以上の結果より、上記反応によって得られた白色固体が式(8)で表される化合物であることを確認した。
【0042】
【0043】
<物性評価>
得られた化合物(8)の相転移挙動の評価を示差走査熱量(DSC)測定および偏光顕微鏡(POM)観察により実施した。DSC測定の昇温過程(10℃/min)において2.6℃および31.8℃に2つの吸熱ピークが、13.0℃に1つの発熱ピークが観測された。この結果は比較例1と同様の理由で固体-液体間に液晶相に類するような相状態が存在することを示すのではなく、融解過程において試料の一部が再結晶化したことを示している。室温でのPOM観察の結果からは、化合物(6)が結晶状態であることが確認された。化合物(8)が融解する42℃まで加熱しながら観察を継続したが、融解するまでの間に相転移は認められず、化合物(8)は液晶性を示さないことが確認された(
図10)。さらに、室温での粉末X線回折測定により、分子充填構造について詳細な評価を行った結果、化合物(8)は結晶状態であり、ラメラ構造の存在は確認できなかった(
図11)。
【0044】
実施例1,比較例1,および比較例2の結果より、特異的にラメラ液晶相が発現するのは頂点置換基がトリフルオロプロピルの場合であり、不完全かご型シルセスキオキサンの頂点に導入されたフッ化アルキルに由来するフルオロフィリック効果がラメラ液晶相の発現に重要な役割を担っているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によって得られた含フッ素不完全かご型シルセスキオキサン誘導体は、微細な秩序構造を活用することで半導体製造などに用いられるナノリソグラフィーに好適に使用する事が出来る。また、前記用途に加えて、従来の含フッ素シルセスキオキサン誘導体と同様に防汚コーティングや低屈折率材料にも好適に使用する事が出来る。