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特許7474454結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕してアモルファスリン酸カルシウムに改質する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕してアモルファスリン酸カルシウムに改質する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20240418BHJP
   A61L 27/32 20060101ALI20240418BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20240418BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240418BHJP
   A61L 27/42 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C01B25/32 B
A61L27/32
A61L27/58
A61L27/12
A61L27/42
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024506227
(86)(22)【出願日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2023039070
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】63/421,538
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/448,282
(32)【優先日】2023-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511267996
【氏名又は名称】ORTHOREBIRTH株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126826
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克之
(72)【発明者】
【氏名】春日 敏宏
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1772603(CN,A)
【文献】特開平07-101710(JP,A)
【文献】特開平11-292524(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103159197(CN,A)
【文献】国際公開第2022/113888(WO,A1)
【文献】GBURECK, U. et al.,Mechanical activation and cement formation of β-tricalcium phosphate,Biomaterials,2003年,Volume 24, Issue 23,PP.4123-4131,ISSN:0142-9612, DOI:10.1016/S0142-9612(03)00283-7
【文献】SCHNEIDER, Oliver D., et al.,Flexible, silver containing nanocomposites for the repair of bone defects:antimicrobial effect against E. coli infection and comparison to tetracycline containing scaffolds,Journal of Materials Chemistry,2008年,Vol.18,PP.2679-2684,ISSN:0959-9428, DOI:10.1039/b800522b
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/32
A61L 27/12
A61L 27/32
A61L 27/42
A61L 27/58
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーズミル装置を用いて結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕してアモルファスリン酸カルシウムに改質する方法であって、

ビーズミル装置のベッセルに、1~5μmの径を有する結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体とメディア径0.015~2.0mmのビーズを、前者と後者の見掛け体積の比が1:2~4となる量投入し、

前記ベッセル中の前記結晶質リン酸カルシウム粒子粉体と前記ビーズの混合物に対してアセトンを、前者と後者の重量比が1:5~10となる量投入して攪拌することによって、前記アセトンに前記リン酸カルシウム粒子とビーズを含んだスラリーを調製し、

前記スラリーが前記ベッセルに収容された状態で、前記ビーズミル装置を所定の回転毎分で所定の時間回転させ、それによって、前記スラリーに含まれた前記結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体を凝集させることなく0.1~1.2μmの粒径に粉砕し、前記ビーズから衝撃を受けて前記結晶質リン酸カルシウム粒子が部分的にアモルファス化して結晶化度が50~10%に低下する 、

前記ビーズミル装置を用いて結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕してアモルファスリン酸カルシウムに改質する方法。
【請求項2】
前記ビーズミル装置は自転・公転の機能を備える遊星型の装置を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶質リン酸カルシウム粒子はβ―TCP又はHApである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体と金属塩粒子又は半金属塩粒子の粉体を重量比0.99~0.9対0.01~0.1の割合で混合し、前記粉体の混合物を遊星型ビーズミル装置のベッセルに所定量のアセトン及びビーズと共に投入して、前記遊星型ビーズミル装置を所定の回転毎分で高速回転させ、それによって、アモルファス化したリン酸カルシウム粒子のリン酸イオンに前記金属塩粒子又は半金属塩粒子から分離した金属イオン又は半金属イオンを配位させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記金属塩はリン酸銀である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記半金属塩はケイ酸塩又はホウ酸塩である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料の製造方法であって、

ビーズミル装置のベッセルに、1~5μmの径を有する結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体とメディア径0.015~2.0mmのビーズを、前者と後者の見掛け体積の比が1:2~4となる量投入し、

前記ベッセル中の前記結晶質リン酸カルシウム粒子粉体と前記ビーズの混合物に対してアセトンを、前者と後者の重量比が1:5~10となる量投入して攪拌することによって、前記アセトンに前記リン酸カルシウム粒子とビーズを含んだスラリーを調製し、

前記スラリーが前記ベッセルに収容された状態で、前記ビーズミル装置を所定の回転毎分で所定の時間回転させ、それによって、前記スラリーに含まれた前記結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体を凝集させることなく0.1~1.2μmの粒径に粉砕し、前記ビーズから衝撃を受けて前記結晶質リン酸カルシウム粒子が部分的にアモルファス化して結晶化度が50~10%に低下し、

前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子の粉体を生分解性樹脂と共に溶剤に投入して攪拌することによって、前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子が分散した紡糸溶液を調製し、

前記紡糸溶液を紡糸装置のシリンジに充填してノズルから押し出して紡糸された生分解性繊維をコレクターに堆積させて回収する工程を含む、

前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料の製造方法。
【請求項8】
前記ビーズミル装置は、自転・公転の機能を備える遊星型の装置を用いる、請求項7に記載の骨再生材料の製造方法。
【請求項9】
前記結晶質リン酸カルシウム粒子はβ―TCP又はHApである、請求項7又は8に記載の骨再生材料の製造方法。
【請求項10】
前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子に金属又は半金属イオンを結合させる、請求項7又は8に記載の骨再生材料の製造方法。
【請求項11】
アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料であって、前記骨再生材料は、

ビーズミル装置のベッセルに、1~5μmの径を有する結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体とメディア径0.015~2.0mmのビーズを、前者と後者の見掛け体積の比が1:2~4となる量投入し、

前記ベッセル中の前記結晶質リン酸カルシウム粒子粉体と前記ビーズの混合物に対してアセトンを、前者と後者の重量比が1:5~10となる量投入して攪拌することによって、前記アセトンに前記リン酸カルシウム粒子とビーズを含んだスラリーを調製し、

前記スラリーが前記ベッセルに収容された状態で、前記ビーズミル装置を所定の回転毎分で所定の時間回転させ、それによって、前記スラリーに含まれた前記結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体を凝集させることなく0.1~1.2μmの粒径に粉砕し、前記ビーズから衝撃を受けて前記結晶質リン酸カルシウム粒子が部分的にアモルファス化して結晶化度が50~10%に低下し、

前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子の粉体を生分解性樹脂と共に溶剤に投入して攪拌することによって、前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子が分散した紡糸溶液を調製し、

前記紡糸溶液を紡糸装置のシリンジに充填してノズルから押し出して紡糸された生分解性繊維をコレクターに堆積させて回収する工程を含む方法によって製造される、

前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料。
【請求項12】
前記ビーズミル装置は、自転・公転の機能を備える遊星型の装置を用いる、請求項11に記載の骨再生材料
【請求項13】
前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子に金属又は半金属イオンが徐放可能に担持されている、請求項11又は12に記載の骨再生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーズミル装置を用いて結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕してアモルファスリン酸カルシウムに改質する方法、及び改質したアモルファスリン酸カルシウム粒子に金属又は半金属イオンを担持させる方法、さらには、そのような方法で製造されたアモルファスリン酸カルシウム粒子を含む、骨再生材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、生分解性樹脂にリン酸カルシウム粒子を複合した生分解性繊維からなる綿形状の人工骨が骨再生材料として用いられている。骨再生材料が患部に埋植されて体液に接すると、生分解性繊維に含有されているリン酸カルシウム粒子からカルシウムイオン、リン酸イオンが適切な濃度で供給されることで骨形成性細胞を刺激し、その活動に影響を与える。
【0003】
骨再生材料に含有させるリン酸カルシウムとして水酸アパタイト(HAp)、β型リン酸三カルシウム(β―TCP)が用いられているが、HApは体液に接してほとんど溶解されない。β―TCPは体液によって溶解されるが、その溶解速度が小さいので、骨再生材料を患部に埋植した後長期間体内に残存し、カルシウムイオンとリン酸イオンをわずかずつ溶出しながら徐々にゆっくりと吸収されていく。
【0004】
カルシウムイオン、リン酸イオンと共に、生体機能イオンである金属又は半金属イオンを患部に供給することで、骨形成がさらに促進されることが報告されている(非特許文献1)。マグネシウムは、細胞接着を促進する効果があることが知られている。ホウ素を含んだ生体材料は免疫反応において良い影響を与え、ホウ酸イオンは骨修復と密接にかかわる生体反応の一つである血管新生を促すことが知られている。ケイ素は骨芽細胞を刺激することが知られている。また、生分解性繊維に銀を担持させることで、繊維から銀イオンが溶出して抗菌性を発揮する。
【0005】
リン酸カルシウム等のセラミック粒子は衝撃エネルギーを加えることによって、その結晶構造を変化させて改質することが可能である。ボールミルによって衝撃エネルギーを加えてβ―TCP粒子を湿式粉砕すると、メカノケミカル反応によって結晶性粒子がアモルファス化して溶解性が増すことが報告されている(非特許文献2)。
【0006】
メカノケミカル反応を利用して結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕によってアモルファスリン酸カルシウムに改質するためには粒子に大きな衝撃エネルギーを加えることが必要であるが、そのためには粉砕能力の高い遊星型ミル装置を用いると共にメディア径が小さいビーズによって粒子に大きな衝撃エネルギーを加えることが効果的である。しかし、ビーズミルを用いて湿式粉砕すると、ボールミルを用いる場合と比べて粒子が微細に粉砕されて比表面積が格段に大きくなる反面、それによって微細化された粒子の粉体に凝集が生じてしまうという問題があった。粉体に凝集が生じると、溶剤に粒子を投入して攪拌することによって粒子を紡糸溶液中に均一に分散させることが困難になり、分散溶媒溶液の紡糸の際に用いるシリンジの底付近に凝集粒子が沈降してしまい、紡糸のために通過させるノズルの入口付近を塞いで紡糸を困難にしてしまうという不都合が生じる。
【0007】
以上のような状況下で、ビーズミルを用いて結晶質リン酸カルシウム粒子を粉体の凝集を生じさせずに微細に粉砕してアモルファスリン酸カルシウムに改質することによって体液に対する溶解性を高める又は獲得する方法、さらには、このように粉砕して改質したリン酸カルシウム粒子に金属・半金属イオンを徐放可能に担持させるための方法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】骨芽細胞の活性化機序に基づく金属イオン徐放足場材の創製 まてりあ第59巻第11号(2020)小幡亜希子、春日敏宏
【文献】Mechanical activation and cement formation of β-tricalcium phosphate Biomaterials Volume 24, Issue 23, October 2003 pages 4123-4131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の発明者は鋭意検討した結果、粉砕によって結晶質リン酸カルシウム粒子の表面は結合が切れてP-Oグループの末端に水素がついて、P-OHというグループになり、このOH基と水とが水素結合を作り出し、それが他のP-OH基とまた結合することによって粒子同士がくっついて凝集物を形成してしまうことを発見した。本発明の発明者はこの発見に基づき、湿式粉砕にHを解離せず、極性を有しない溶剤を用いることによって、粉砕された粒子同士が水素結合することを有効に防ぐことができることに想到した。
【0010】
上記想到に基づき本発明の発明者は、ビーズミル装置を用いて結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕してアモルファスリン酸カルシウムに改質する方法であって、

ビーズミル装置のベッセルに、1~5μmの径を有する結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体とメディア径0.015~2.0mmのビーズを、前者と後者の見掛け体積の比が1:2~4となる量投入し、

前記ベッセル中の前記結晶質リン酸カルシウム粒子粉体と前記ビーズの混合物に対してアセトンを、前者と後者の重量比が1:5~10となる量投入して攪拌することによって、前記アセトンに前記リン酸カルシウム粒子とビーズを含んだスラリーを調製し、

前記スラリーが前記ベッセルに収容された状態で、前記ビーズミル装置を所定の回転毎分で所定の時間回転させ、それによって、前記スラリーに含まれた前記結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体を凝集させることなく0.1~1.2μmの粒径に粉砕し、前記ビーズから衝撃を受けて前記結晶質リン酸カルシウム粒子が部分的にアモルファス化して結晶化度が50~10%に低下する 、

前記ビーズミル装置を用いて結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕してアモルファス質に改質する方法、という発明に到達した。
【0011】
好ましくは、前記ビーズミル装置は自転・公転の機能を備える遊星型の装置を用いる。
【0012】
好ましくは、前記結晶質リン酸カルシウム粒子はβ―TCP又はHApである。
【0013】
好ましくは、前記金属塩はリン酸銀である。
【0014】
好ましくは、前記半金属塩はケイ酸塩又はホウ酸塩である。
【0015】
好ましくは、結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体と金属塩粒子又は半金属塩粒子の粉体を重量比0.99~0.9対0.01~0.1の割合で混合し、前記粉体の混合物を遊星型ビーズミル装置のベッセルに所定量のアセトン及びビーズと共に投入して、前記遊星型ビーズミル装置を所定の回転毎分で高速回転させ、それによって、アモルファス化したリン酸カルシウム粒子のリン酸イオンに前記金属塩粒子又は半金属塩粒子から分離した金属イオン又は半金属イオンを配位させる。
【0016】
本発明の発明者はさらに、金属イオン又は半金属イオンが徐放可能に担持されたリン酸カルシウム粒子であって、

前記リン酸カルシウム粒子はビーズミル処理を施すことによって、前記リン酸カルシウム粒子の結晶構造が部分的にアモルファス質に改質されており、

前記リン酸カルシウム粒子がアモルファス化した部分に、金属又は半金属イオンが配位することによって、前記金属又は半金属イオンが前記リン酸カルシウム粒子に徐放可能に担持されており、

前記金属又は半金属イオンを担持したリン酸カルシウム粒子を生体内に埋植して体液と接触させると、前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子が溶かされて、カルシウムイオンとリン酸イオンと共に前記金属又は半金属イオンが徐放される、

前記金属イオン又は半金属イオンが徐放可能に担持されたリン酸カルシウム粒子、という発明に到達した。
【0017】
好ましくは、前記ビーズミル処理は自転・公転の機能を備える遊星型の装置を用いる。
【0018】
好ましくは、前記結晶質リン酸カルシウム粒子はβ―TCP又はHApである。
【0019】
好ましくは、前記金属塩はリン酸銀である。
【0020】
好ましくは、半金属塩はケイ酸塩又はホウ酸塩である。
【0021】
本発明の発明者はさらに、アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料の製造方法であって、

ビーズミル装置のベッセルに、1~5μmの径を有する結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体とメディア径0.015~2.0mmのビーズを、前者と後者の見掛け体積の比が1:2~4となる量投入し、

前記ベッセル中の前記結晶質リン酸カルシウム粒子粉体と前記ビーズの混合物に対してアセトンを、前者と後者の重量比が1:5~10となる量投入して攪拌することによって、前記アセトンに前記リン酸カルシウム粒子とビーズを含んだスラリーを調製し、

前記スラリーが前記ベッセルに収容された状態で、前記ビーズミル装置を所定の回転毎分で所定の時間回転させ、それによって、前記スラリーに含まれた前記結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体を凝集させることなく0.1~1.2μmの粒径に粉砕し、前記ビーズから衝撃を受けて前記結晶質リン酸カルシウム粒子が部分的にアモルファス化して結晶化度が50~10%に低下し、

前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子の粉体を生分解性樹脂と共に溶剤に投入して攪拌することによって、前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子が分散した紡糸溶液を調製し、

前記紡糸溶液を紡糸装置のシリンジに充填してノズルから押し出して紡糸された生分解性繊維をコレクターに堆積させて回収する工程を含む、

前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料の製造方法、という発明に到達した。
【0022】
好ましくは、前記ビーズミル装置は自転・公転の機能を備える遊星型の装置を用いる。
【0023】
好ましくは、前記リン酸カルシウム粒子はβ―TCP又はHApである。
【0024】
好ましくは、前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子に金属又は半金属イオンを結合させる。
【0025】
本発明の発明者はさらに、アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料であって、前記骨再生材料は、

ビーズミル装置のベッセルに、1~5μmの径を有する結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体とメディア径0.015~2.0mmのビーズを、前者と後者の見掛け体積の比が1:2~4となる量投入し、

前記ベッセル中の前記結晶質リン酸カルシウム粒子粉体と前記ビーズの混合物に対してアセトンを、前者と後者の重量比が1:5~10となる量投入して攪拌することによって、前記アセトンに前記リン酸カルシウム粒子とビーズを含んだスラリーを調製し、

前記スラリーが前記ベッセルに収容された状態で、前記ビーズミル装置を所定の回転毎分で所定の時間回転させ、それによって、前記スラリーに含まれた前記結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体を凝集させることなく0.1~1.2μmの粒径に粉砕し、前記ビーズから衝撃を受けて前記結晶質リン酸カルシウム粒子が部分的にアモルファス化して結晶化度が50~10%に低下し、

前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子の粉体を生分解性樹脂と共に溶剤に投入して攪拌することによって、前記アモルファス化したリン酸カルシウム粒子が分散した紡糸溶液を調製し、

前記紡糸溶液を紡糸装置のシリンジに充填してノズルから押し出して紡糸された生分解性繊維をコレクターに堆積させて回収する工程を含む方法によって製造される、

前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子を含有する生分解性繊維からなる骨再生材料、という発明に到達した。
【0026】
好ましくは、前記ビーズミル装置は自転・公転の機能を備える遊星型の装置を用いる。
【0027】
好ましくは、前記リン酸カルシウム粒子はβ―TCP又はHApである。
【0028】
好ましくは、前記アモルファス質に改質されたリン酸カルシウム粒子に金属又は半金属イオンが徐放可能に担持されている。
【発明の効果】
【0029】
本発明のビーズミル処理によって結晶質リン酸カルシウム粒子をアモルファス化することによって、水溶液に溶解しないHApに溶解性を獲得させ、溶解速度が遅いβ-TCPの溶解性を高くすることができる。
【0030】
本発明のビーズミル処理を施すことによって微細化・アモルファス化したリン酸カルシウム粒子を生体内に埋植することによって、埋植後リン酸カルシウム粒子からカルシウムイオン、リン酸イオンを早期に供給することができる。
【0031】
本発明のビーズミル処理を施すことによってリン酸カルシウム粒子を微細化・アモルファス化することによって、粒子の表面が電荷を帯びて金属・半金属イオンが粒子に担持され、その粒子同士がぶつかって一体化され、という現象が次々と生じることで、金属・半金属イオンを含有させることが可能になる。金属・半金属イオンを粒子に含有させたリン酸カルシウム粒子を生体内に埋植することによって、埋植した後リン酸カルシウム粒子からカルシウムイオン、リン酸イオンと共に金属又は半金属イオンを徐放することができる。
【0032】
本発明のビーズミル処理を施すことによって微細化・アモルファス化されたリン酸カルシウム粒子は凝集していないので、粒子の粉体を生分解性樹脂と共に溶剤に投入して攪拌することによって紡糸溶液に微細化された粉体を容易に分散含有させることが可能である。そのようにして調製された紡糸溶液を用いて、エレクトロスピニング法又は湿式紡糸法によってリン酸カルシウム粒子が生分解性繊維中に均一に分散して含有された骨再生材料を製造することができる。
【0033】
本発明で微細化・アモルファス化して金属又は半金属イオンを担持させたリン酸カルシウム粒子を分散含有させた紡糸溶液を調製し、エレクトロスピニング法、または湿式紡糸法を用いて紡糸した生分解性に含有させることで、高い骨形成能と抗菌性及び又は血管新生能を合わせ持つ、優れた骨再生材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1(A)は、本発明の一つの実施態様に用いる遊星型ビーズミル装置の外観写真を示し、図1(B)は同装置の自転・公転の模式図を示す。
図2図2(A)は、本発明のビーズミル処理を120分間施したβ―TCP粒子の走査型電子顕微鏡SEM画像を示し、図2(B)は、画像から求めた粒度分布を示す。図中、棒グラフは粒子数表記、曲線グラフは粒子数の積算数である。
図3図3は、本発明のビーズミル処理時間とβ―TCPの粒径の関係を示し、積算粒度分布曲線における、10%、50%、90%の位置の粒度を示す。
図4図4は、本発明のビーズミル処理時間と得られた粉体の比表面積の関係を示す。図中Milling time 0は、処理前の粉体を意味する。
図5図5は、β-TCP(太平化学産業製・粉砕品): アセトン :1 mmΦジルコニアビーズを 1:7.5:22.5の重量比で秤量して総重量55.8gとし、これらを45mLのジルコニアベッセルに入れ、公転速度400rpm、自転速度800rpmで120分間遊星回転させてミリングしたものの粉末X線回折図を示す。CuKα2θ=20~43°のスペクトルをガウス関数でピーク分離し、結晶相ピークとアモルファス相ピークを分離した。図中の破線がアモルファス相のピークとして分離されたものである。
図6図6は、本発明のビーズミル処理時間と得られた粉体中のアモルファス相含有量の関係を示す。図中Milling time 0は、処理前の粉体を意味する。31P 固体核磁気共鳴MAS-NMRスペクトルのピークをガウス関数で結晶相とアモルファス相にピーク分離し、アモルファス相の含有比率をプロットしたものである。
図7図7は、37℃のtris-HCl緩衝溶液(pH7.40)20mLに粉体30mgを24h浸漬した後に溶出したカルシウムイオン量とリン酸イオン量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析ICP-AESにより求めた結果である。
図8図8は、β-TCP(太平化学産業製・粉砕品): リン酸銀(富士フイルム和光純薬製Ag3PO4):アセトン :1mmΦジルコニアビーズを0.99:0.01:7.5:22.5の重量比で秤量して総重量55.8gとし、これらを45mLのジルコニアベッセルに入れ、公転速度400rpm、自転速度800rpmで遊星回転させてミリングしたもののSEM写真である。
図9図9は、β-TCP(太平化学産業製・粉砕品): リン酸銀(富士フイルム和光純薬製Ag3PO4):アセトン : 1mmΦジルコニアビーズを0.99:0.01:7.5:22.5の重量比で秤量して総重量55.8gとし、これらを45mLのジルコニアベッセルに入れ、公転速度400rpm、自転速度800rpmで遊星回転させてミリングしたもののX線光電子分光測定で得られたAg3dスペクトルである。ピークをガウス関数で分離し、368eVに現れるAgイオンと369eVに現れる金属Agのピーク強度を比較した結果、ほぼ全ての銀はイオンとして導入されていることが示された。
図10図10は、β-TCP(太平化学産業製・粉砕品):リン酸銀(富士フイルム和光純薬製 Ag3PO4):アセトン:1mmΦジルコニアビーズを(1-x):x:7.5:22.5(x=0、0.01、0.05)の重量比で秤量して総重量55.8gとし、これらを45mLのジルコニアベッセルに入れ、公転速度400rpm、自転速度800rpmで遊星回転させてミリングしたもの80mgをHEPES緩衝溶液40mLに37℃、24h浸漬することで溶出したカルシウム、リン酸、銀イオン量をICP-AESで測定した結果である。
図11図11は、120分間のビーズミル処理をしたβ-TCP粒子の透過型電子顕微鏡TEM画像と電子回折像である。
図12図12は、120分間のビーズミル処理をしたβ-TCP粒子を37℃のtris-HCl緩衝溶液に72hまで浸漬した後のXRDパターンである。
図13図13は、β-TCP(太平化学産業製・粉砕品): アセトンまたは水 :1mmΦジルコニアビーズを1:7.5:22.5の重量比で秤量して総重量55.8gとし、これらを45mLのジルコニアベッセルに入れ、公転速度400rpm、自転速度800rpmで120分間遊星回転させてミリングしたもののXRDパターンである。
図14図14は、本発明のビーズミル処理によりβ―TCP粉体とB粉体を混合粉砕して得られた粒子のSEM画像を示す。Bを含まないものを0B-CPと記載し、Bを10~30%混合したものを10~30B-CPと記載してある。粒子の大きさは約0.1μm~1μmで、形状は様々であることが示されている。
図15図15(A)、(B)、(C)は図14の粒子のEDSのマッピング画像を示す。図15(A)はBを10%混合したものを示し、図15(B)はBを20%混合したものを示し、図15(C)はBを30%混合したものを示す。
図16図16は、図14の粒子の粉体のXRDパターンを示す。Bを含まないもの:0B-CP、Bを10~30%混合したもの:10~30B-CPと記載する。
図17図17は、図14の粒子の粉体の11B MAS-NMRスペクトル(Bを10~30%混合したもの)を示す。Qは酸素4配位のホウ素、T2は酸素3配位のホウ素で2つの酸素が架橋酸素であるもの、T3は酸素3配位のホウ素で全ての酸素が架橋酸素であるものを示す。
図18図18は、図14の粒子の粉体の31P MAS-NMRスペクトル(Bを含まないもの:0B-CP、Bを10~30%混合したもの:10~30B-CPと記載)を示す。
図19図19(A)、(B)、(C)は、図14の粒子の粉体をtris-HCl緩衝液に浸漬後のイオン溶出量を示す。図中、0B-CPはBを含まないものを示し、10~30B-CPはBを10~30%混合したものを示す。
図20図20は、図14の粒子の粉体をtris-HCl緩衝液に120分間浸漬後の粉体のXRDパターン(0B-CP、Bを10~30%混合したもの:10~30B-CPと記載)を示す。
図21図21は、本発明のビーズミル処理によりβ―TCP粉体とSiO2粉体を混合粉砕して得られた粒子のXRDパターンを示す。比較として、β―TCP粉体とビーズミル処理したβ―TCP粉体のXRDパターンも示す。
図22図22(A)は、本発明のビーズミル処理によりβ―TCP粉体とSiO粉体を95対5の重量比で混合粉砕して得られた粒子のエネルギー分散型X線分光法EDSにより得られた元素マッピング図を示し、図22(B)は1~5のポイントのスペクトルを示す。
図23図23は、5%のSiO2を混合したβ-TCP粉末50mgを37℃のtris-HCl緩衝溶液20mLに所定時間浸漬した時の各イオン濃度を示す。
図24図24は、図23でtris-HCl緩衝溶液に浸漬した後の粉末のXRDパターンを示す。
図25図25(A)は、ビーズミル処理したリン酸カルシウム粒子粉体(m-TCP)とポリ(D,L乳酸-グルコール酸)共重合体(PDLLGA)を70:30の重量比で混合された生分解性繊維(Fiber A)、β-TCP:m-TCP:PDLLGAの重量比が35:35:30とした繊維(Fiber B)、β-TCP:PDLLGAの重量比が70:30とした繊維(Fiber C)をpH7.40のtris-HCl緩衝溶液に所定時間浸漬した後の溶液中のカルシウムイオン量を示す。図25(B)は、ビーズミル処理したリン酸カルシウム粒子粉体(m-TCP)とポリ(D,L乳酸-グルコール酸)共重合体(PDLLGA)を70:30の重量比で混合された生分解性繊維(Fiber A)、β-TCP:m-TCP:PDLLGAの重量比が35:35:30とした繊維(Fiber B)、β-TCP:PDLLGAの重量比が70:30とした繊維(Fiber C)をpH7.40のtris-HCl緩衝溶液に所定時間浸漬した後の溶液中のリン酸イオン量を示す。
図26図26は、tris-HCl緩衝溶液に72h浸漬した図25の繊維のXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の好ましい実施態様を図面を参照しながら説明する。
用語の定義
【0036】
<ビーズミル処理>
本発明において「ビーズミル処理」とは、メカノケミカル処理に使用するミリング装置の粉砕メディアとして直径の小さいビーズを用いる処理をいう。通常のボールミル処理の粉砕メディアであるボールの直径が10~50mmであるのに対し、ビーズミル処理の粉砕メディアとして用いるビーズの直径は0.015~0.5mmである。径が小さいビーズを粉砕メディアとして用いることによって、径が10~50mmのボールを用いる場合と比べてリン酸カルシウム粒子に対して100~500倍の強いエネルギーを粒子に与えることが可能である。
【0037】
<ボールミル装置>
本発明において、「ボールミル装置」とは、粒子にメカノケミカル処理を施すために用いる粉砕機であって、粉砕メディアとして直径10~50mmのボールを用いるものをいう。遊星型のボールミル装置は、ベッセル(ポット)に投入した粒子に対して自転と公転を交互に繰り返すことによって衝撃を加えることで、粒子をより高い効率で粉砕することができる。
【0038】
<ビーズミル装置>
本発明において、「ビーズミル装置」とは、粒子にメカノケミカル処理を施すために用いる粉砕機であって、粉砕メディアとして直径0.015~0.5mmのビーズを用いるものをいう(図1(A)参照)。遊星型のビーズミル装置は、ベッセルに投入した粒子を自転と公転を交互に繰り返すことによって、粉砕メディアとして用いるビーズによって粒子に強い衝撃エネルギーを加えてより高い粉砕効率で粉砕することができる(図1(B)参照)。ビーズミル装置には、異なるタイプ、型式のものが存在するが、リン酸カルシウム粒子をビーズによって微細に粉砕することが可能である限り、そのいずれであっても本発明のビーズミル装置として用いることができる。
【0039】
<湿式粉砕>
本発明において「湿式粉砕」とは、粉体と液体(溶剤)の混合であるスラリーとボール又はビーズを容器に投入して攪拌して粉砕する方法をいい、液体を混ぜずに(空気中で)粉砕する乾式粉砕と対置される。ボールミル処理/ビーズミル処理において乾式で粉砕すると、粉砕された粒子同士にどんどん荷重がかけられて詰まってしまい、粉砕中に固い凝集物ができやすくなってしまうので、本発明では湿式粉砕が用いられる。しかし、湿式粉砕でも、溶剤にHを解離し、極性を有する液体を用いると、粉砕された粒子が水素結合して凝集してしまうので、粉砕された粒子の凝集を避けるための方策を講じる必要がある。
【0040】
<水素結合>
講学上、水素結合(hydrogen bond)とは、電気陰性度が大きな原子(陰性原子)に共有結合で結びついた水素原子が、近傍に位置した窒素、酸素、硫黄、フッ素、π電子系などの孤立電子対とつくる非共有結合性の引力的相互作用をいうが、本発明において「水素結合」とは、ビーズミルによって微細に粉砕されてアモルファス化したリン酸カルシウム粒子に湿式粉砕に用いる溶剤から解離したH+が結合することによって電気的陰性度δ-を帯び、その状態で隣接するリン酸カルシウム粒子に結合したH+と電気的に引き合うことによって粒子相互に弱い電気的結合を生じる現象をいう。ビーズミルによる湿式粉砕の溶剤として水を用いると、水は極性分子であり、かつHを解離するので、ビーズミルで粉砕したリン酸カルシウム粒子は互いに水素結合しやすく、その結果粒子の凝集を生じやすい。アセトン(C3H6O)は、Hを解離しない非極性分子であるので、水素結合を生じさせず、本発明の湿式粉砕に好適に用いることができる。粉砕時に水が多く存在すると、粉砕されたリン酸カルシウムが水と反応して生体内で溶解しにくいHApに変化してしまうため、アセトンを用いることによってこれを防ぐことが可能になるという利点もある。
【0041】
<金属イオン、半金属イオン>
本発明において、「金属イオン」とは、マグネシウム、銀等の金属の金属塩粒子の粉体がビーズミルによる衝撃エネルギーを受けて金属塩粒子から金属イオンが分離したものをいう。本発明の好ましい実施態様において、金属塩粒子から分離した金属イオンはビーズミルによる衝撃エネルギーを受けて化学的ポテンシャルが高くなったリン酸カルシウム粒子と再結合する。
本発明において、「半金属イオン」とは、ケイ素、ホウ素等の半金属の半金属塩粒子の粉体がビーズミルによる衝撃エネルギーを受けて半金属塩粒子から半金属イオンが分離したものをいう。本発明の好ましい実施態様において、半金属塩粒子から分離した半金属イオンはビーズミルによる衝撃エネルギーを受けて化学的ポテンシャルが高くなったリン酸カルシウム粒子と再結合する。
【0042】
実施態様1(β-TCP粒子にビーズミル処理を施してアモルファス化する。)
(1)1~5μmの径を有するβ―TCP粒子の粉体を遊星型ビーズミル装置のジルコニアポット(体積容量30~60ml)に直径0.6~1.4mmのビーズ35~50gと共に両者の見掛け体積の比が1:2~4になる量投入する(ビーズのメディア径が大きいとビーズ間の隙間が大きくなって見掛け体積は大きくなり、逆にビーズのメディア径が小さいとビーズ間の隙間が小さくなって見掛け体積は小さくなる)。それに、アセトン15~20mlを加え、遊星型ボールミル装置を所定の速度で公転及び自転させる。
(2)ビーズから衝撃を受けて、β―TCP粒子が粉砕されて粒子径が0.1~1.2μmに減少して(図2、3)比表面積が3~5倍に増大する(図4)と共に、β―TCP粒子の結晶構造が部分的にアモルファス化して、結晶化度が50~10%に低下する(図5図6)。粉砕によって微細化されたβ―TCP粒子の粉体は凝集を生じていない。
(3)アモルファス化したβ―TCP粒子の粉体を水溶液(pH7.40のtris-HCl緩衝溶液)に浸すとβ―TCPが溶解して粒子からカルシウムイオンとリン酸イオンを溶出する(図7)。
【0043】
実施態様2(β-TCP粒子をアモルファス化して金属イオンを担持させる)
(1)β―TCP粒子の粉体と金属塩粒子の粉体を重量比0.99~0.99対0.01~0.1の割合で混合し、粉体の混合物を遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセル(体積容量30~60ml)にアセトン15~20ml及び直径0.6~1.4mmのビーズ35~50gと共に投入し、遊星型ボールミル装置を所定の速度で公転及び自転させる。
(2)ビーズから衝撃を受けて、β―TCP粒子が粉砕されて粒子径が減少して比表面積が増大すると共に、β―TCP粒子の結晶構造が部分的にアモルファス化する。遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセルに投入された金属塩粒子はビーズから衝撃を受けて粒子から金属イオンが分離し、分離した金属イオンがアモルファス化したβ―TCP粒子のリン酸イオンに配位する。
(3)遊星型ボールミル装置の高速回転を一定時間継続した後静置することによって、前記アモルファス化したβ―TCP粒子のリン酸イオンに金属塩粒子から分離した金属イオンが配位結合した状態で固定化される(図8図9)。その後、粉体の混合物から金属塩粒子をふるいにかけて洗い流すことによって分離して、金属イオンを含有するβ―TCP粒子を回収する。
【0044】
ビーズミル処理によって結晶構造が部分的にアモルファス化したβ-TCP粒子は、ビーズミル処理を経ていないβ-TCP粒子よりも、水溶液や体液に対する溶解性が高く、水溶液や体液によって溶解されて早期にカルシウムイオンとリン酸イオンを溶出する(図7)。また、アモルファス化してイオン化したβ-TCP粒子に結合している金属イオンは、β-TCP粒子の溶解と伴い、カルシウムイオン・リン酸イオンと共に溶出される(図10)。
【0045】
ビーズミルによる粒子の粉砕とアモルファス相の形成、金属・半金属イオンの担持のメカニズムは必ずしも明らかでないが、本発明の発明者の知見によれば、ビーズミル装置のベッセルにビーズ(直径1mm程度)を入れて、リン酸カルシウム(β―TCP)粉体と金属塩粒子粉体を投入して高速で回転させると、粉体を構成する粒子に激しい機械的衝撃による大きなエネルギーが与えられ、それによって、粒子を構成する結合が切れたりゆがめられたりすることが起こる。リン酸カルシウム粒子の結合が切れたり歪んだりすると、それらの化学ポテンシャル(これに物質量をかければエネルギーになる)は高い状態になる。一旦切れた結合では周囲状況によってはいつまでもその状態(イオン)ではいられないので、近傍のイオンと再結合してポテンシャルを下げようとする。リン酸カルシウム粒子にリン酸銀、酸化マグネシウムなどの金属塩粒子、又はケイ酸塩、ホウ素化合物等の半金属塩粒子が混在していると、これらの化合物にも同様なことが生じる。金属塩粒子又は半金属塩粒子から金属又は半金属イオンが分離し、分離した金属又は半金属イオンが、化学ポテンシャルが高い状態になったリン酸カルシウム粒子と再結合する。ボールミルを高速で回転させている間は、常に衝撃エネルギーはかかって来るので、最もポテンシャルの低い元通りの結合を作る時間が十分に与えられず、きれいに整列することができない状況が続く。少々エネルギーが高い状態でも単独で存在するよりはエネルギーは下がるので、イオンの配置はランダムな状態となり、粉砕が終了すると外からのエネルギーがかからなくなり、結果としてイオンの移動もできなくなるので、ほぼそのまま固化してアモルファスリン酸カルシウムとなる。粉砕混合されている環境下で、カルシウムイオンと銀イオンとリン酸イオン又はホウ酸イオンが共存している状態となり、それらがランダムに配置された(本来の化合物の結合より弱い)結合状態(アモルファス質)となる。
【0046】
実施態様3(β―TCP粒子をアモルファス化して半金属イオンを担持させる。)
(1)実施態様2と同様の方法で、β―TCP粒子の粉体と半金属塩粒子の粉体を重量比0.99~0.9対0.01~0.1の割合で混合し、粉体の混合物を遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセルに、所定量のアセトンとビーズと共に投入する。遊星型ボールミル装置を一定の速度で公転及び自転させ、それによって、β―TCP粒子を粉砕することによって粒子径を減少させ、比表面積を増大させる。
(2)ビーズから衝撃を受けて、β―TCP粒子の結晶構造が部分的にアモルファス化して部分的にイオン化し、半金属塩粒子から半金属イオンが分離して、前記分離した半金属イオンが前記β―TCP粒子のリン酸イオンに配位する。
(3)遊星型ボールミル装置の高速回転を一定時間継続した後静置することによって、前記アモルファス化したβ―TCP粒子のリン酸イオンに前記半金属塩粒子から分離した半金属イオンが配位結合した状態で固定化させ、固定化工程の後、前記粉体の混合物から半金属塩粒子をふるいにかけて洗い流すことによって分離して、半金属イオンを含有するβ―TCP粒子を回収する。
【0047】
ビーズミル処理によって結晶構造が部分的にアモルファス化したβ-TCP粒子は、ビーズミル処理を経ていないβ-TCP粒子よりも、体液に対する溶解性が高く、体液によって溶解されてカルシウムイオンとリン酸イオンを溶出する。また、アモルファス化してイオン化したβ-TCP粒子に結合している半金属イオンは、β-TCP粒子の溶解と伴い、カルシウムイオンとリン酸イオンと共に体内の患部に溶出されて、骨形成を促進する。
【0048】
実施態様4(HAp粒子をアモルファス化して金属イオン又は半金属イオンを担持させる)
(1)実施態様2と同様の方法で、HAp粒子の粉体と金属塩粒子又は半金属塩粒子の粉体を重量比0.99~0.9対0.01~0.1の割合で混合し、次いで、粉体の混合物を、遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセルに、所定量のアセトン及び所定の直径を有するビーズと共に投入する。遊星型ボールミル装置を所定の速度で公転及び自転させる。
(2)ビーズから衝撃を受けて、HAp粒子が粉砕されることによって粒子径が減少し、比表面積が増大して、HAp粒子の結晶構造が部分的にアモルファス化して部分的にイオン化する。金属塩粒子又は半金属塩粒子から金属イオン又は半金属イオンが分離して、前記分離したイオンが前記HAp粒子のリン酸イオンに配位する。
(3)前記遊星型ボールミル装置の高速回転を一定時間継続した後静置することによって、前記アモルファス化したHAp粒子のリン酸イオンに前記金属塩粒子又は半金属塩粒子から分離した金属又は半金属イオンが配位結合した状態で固定化させ、固定化工程の後、前記粉体の混合物から金属又は半金属塩粒子をふるいにかけて洗い流すことによって分離して、金属イオン又は半金属イオンを含有するHAp粒子を回収する。HApをビーズミル処理すると、本来水に溶けないHApがアモルファス化した部分において溶解性を獲得する。
【0049】
実施態様5(アモルファス化したβ―TCP粒子に銀イオンを担持させる。)
(1)β―TCP粒子の粉体とリン酸銀塩粒子の粉体を重量比0.99~0.9対0.01~0.1の割合で混合する。粉体の混合物を、遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセルに、所定量のアセトン及び所定の直径を有するビーズと共に投入する。遊星型ボールミル装置を一定の速度で公転及び自転させ、それによって、β―TCP粒子を粉砕することによって粒子径を減少・比表面積を増大させる。
(2)ビーズから衝撃を受けて、β―TCP粒子の結晶構造が部分的にアモルファス化して部分的にイオン化し、リン酸銀塩粒子から銀イオンが分離して、分離した銀イオンがβ―TCP粒子のリン酸イオンに配位する。
(3)遊星型ボールミル装置の高速回転を一定時間継続した後静置することによって、アモルファス化したβ―TCP粒子のリン酸イオンに金属塩粒子から分離した銀イオンが配位結合した状態で固定化させる。固定化工程の後、前記粉体の混合物からリン酸銀塩粒子をふるいにかけて洗い流すことによって分離して、銀イオンを含有するβ―TCP粒子を回収する。
【0050】
ビーズミル処理によって結晶構造が部分的にアモルファス化したβ-TCP粒子は、ビーズミル処理を経ていないβ-TCP粒子よりも、体液に対する溶解性が高く、体液によって溶解されて早期にカルシウムイオンとリン酸イオンを溶出する。また、アモルファス化してイオン化したβ-TCP粒子に結合している銀イオンは、β-TCP粒子の溶解と伴い、カルシウムイオンとリン酸イオンと共に体内の患部に溶出されて、抗菌性を発揮する。
【0051】
実施態様6(アモルファス化したβ―TCP粒子を生分解性繊維に含有させる。)
(1)β―TCP粒子とアモルファス化したβ―TCP粒子とPDLLGAをアセトンに入れて攪拌混合し粒子分散液を調製する。β―TCP粒子とアモルファス化したβ―TCP粒子とPDLLGAの重量比は、35%:35%:30%を代表例とする。
(2)調製した粒子分散液を紡糸溶液として、湿式紡糸法によって繊維径100~150μmの繊維を紡糸する。PDLLGAはアモルファス質で、固有粘度が低いため、エレクトロスピニングによる紡糸・綿形状化は難しい。しかし、PDLLGAはL体のみからなるPLLGAよりも体液に接して分解されやすいので、早期の骨形成には適している。
【0052】
アモルファス化したβ―TCP粒子を含有するPDLLGA樹脂繊維からなる骨再生材料を患部に埋植するとPDLLGA樹脂が早期に溶解される。PDLLGA樹脂繊維に含有されたアモルファス化したβ―TCP粒子は体液に接して早期に溶解して、カルシウムイオンとリン酸イオンを早期に患部に溶出する。
実験1
【0053】
<実験1の内容>
(1)遊星型ビーズミル装置のジルコニアベッセル(体積容量45ml)に直径1mmのビーズ40.5gとアセトン13.5g(=17ml)を入れた。ビーズ/アセトンを入れた状態で、ベッセルの8分目まで浸かった。
(2)そこに、β―TCP粒子(太平化学産業β-TCP-100, 粒径1~5μm)をビーズに対する見掛け体積の比が1:3になる量(β―TCP粒子とビーズの合計に対するアセトンの重量比は1:7.5)を投入した。その状態で遊星型ボールミル装置を公転400rpm、自転800rpmで高速回転させた。
(3)得られたβ―TCP粒子(m-TCP粒子)をSEMを用いて観察した後、粒径を測定した(n=200)。また、窒素脱着法によって、粒子の比表面積を測定し、XRD及びTEMを用いて構造評価を行った。また、tris-HCl緩衝溶液(37℃、pH7.40)にm-TCP粒子を浸漬し、ICP-AES及びXRDによってイオン溶出挙動と粒子の変化を調べた、
【0054】
<実験1の結果>
(i)ビーズミル処理によって、β-TCP粒子は平均径が約0.35μmまで減少し(図3)、比表面積は約4.4倍(8.8m2/g)になった(図4)。メディアが1mmφと小さく、自転速度が高いことで、粒子に大きな力がかかり、120分という短時間で効果的に粉砕された。処理後に篩いにかけてビーズを粉末スラリーと分離して得られた粉末スラリーを乾燥して親指と人差し指ですってみると指頭に粉体を感じなかった。
(ii)ビーズミル処理した粒子のXRDパターンでは、β―TCPに帰属されるピークと共にブロードなピークが見られた(図5)。この粒子の電子回折像では粒子全体でβ―TCPに帰属される回折点と共にハローパターンが確認された(図11)。
(iii)ビーズミル処理した粒子を浸漬したtris-HCl緩衝溶液では、浸漬開始から24hまでにカルシウムイオンとリン酸イオンの急激な上昇がみられた。浸漬後の粒子のXRDパターンではハイドロキシアパタイト(HA)に帰属されるピークが新たに見られた(図12)。急激なイオン濃度の上昇によってリン酸カルシウム相の過飽和度が上昇し、HAが析出したと考えられる。
(vi)実験から、ビーズミル処理を行うことで、β―TCP粒子の一部を短時間でアモルファス化することができ、粒子の溶解性を向上できることがわかった。
【0055】
比較実験1
実験1と同様の条件で、遊星型ビーズミル装置を用いてβ―TCP粒子を湿式粉砕した。但し、湿式粉砕の溶剤として同量の水を用いた。
結果は、水を使って粉砕した場合には、篩いにあけて分離する際にすぐには流れずビーズ場に絡まっている感じであった。得られた粉末スラリーを乾燥して親指と人差し指ですってみるとざらついた感じを指頭に受けた。発明者の経験では、ざらついた感じを受ける場合はおよそ径が10μm以上に凝集している。
また、水で粉砕したもののXRDから、アセトンで粉砕したものはβ-TCPのピークが残存し、アモルファス相の生成によるハローピークが25~40°に見られた一方、水で粉砕したものは、β-TCPのピークは見られず、HAのピークのみが見られた。ハローピークは確認できなかった。(図13)。粉砕によって一旦アモルファス化したリン酸カルシウムが水と反応してアパタイトが生成したと考えられる。
【0056】
実験2
<実験2の内容>
(1)β―TCP粉体とAgPO粉体を重量比99対1または95対5の割合で混合して、混合粉体1.8gを調製した。
(2)遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセル(体積容量45ml)に、直径1mmのビーズ40.5gとアセトン13.5g(=17ml)を入れた。ビーズ/アセトンを入れた状態で、ベッセルの8分目程度まで浸かった。そこに、前記調製した混合粉体1.8gを投入して、ボールミル装置を公転400rpm、自転800rpmで高速回転させた。
(3)遊星型ボールミル装置を高速回転させると、β―TCP粒子の結晶構造がビーズから衝撃を受けて部分的にアモルファス化した。ビーズの衝撃を受けてAgPO粒子からAgイオンが分離して、分離したAgイオン(正)がβ―TCP粒子のリン酸イオン(負)に配位した。
(4)前記遊星型ボールミル装置の高速回転を2時間継続した後静置することによって、アモルファス化したβ―TCP粒子のリン酸イオンにAgPO粒子から分離したAgイオンが配位結合した状態で固定化させた。
(5)前記固定化工程の後、前記粉体の混合物からAgPO粒子をふるいにかけて洗い流すことによって分離して、銀イオンを含有するβ―TCP粒子を回収した。
【0057】
<実験2の結果>
(i) 使用したビーズは、直径が1mmのものを用いたが、1mmであれば、125μm程度の目開きのふるいにかけてアセトンで洗い流すだけで、おおよそ回収できた。ビーズの直径が1mmよりも小さいものを用いると、粉砕の効果は上がるが、ビーズが落ちない目開きの小さいふるいを使わねばならなくなるので、回収に時間を要する。
(ii) AgPO粒子とβ―TCP粒子に湿式ビーズミル処理を行うことで調製した粒子の粉体をHEPES緩衝溶液(pH7.40)に浸漬した後ICP―AESを用いて溶液のイオン濃度を測定したところ、Agイオンの溶出が確認された(図10)。
【0058】
実験3
<実験3の内容>
(1)β―TCP粉体(太平化学産業製)とB2O3粉体(特級、キシダ化学製)を重量比10~30対90~70の割合で混合して、混合粉体1.8gを調製した。
(2)遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセル(体積容量45ml)に、直径1mmのビーズ40.5gとアセトン13.5g(=17ml)を入れた。ビーズ/アセトンを入れた状態で、ベッセルの8分目程度まで浸かった。そこに、前記調製した混合粉体1.8gを投入して、ボールミル装置を公転400rpm、自転800rpmで高速回転させた。
(3)遊星型ボールミル装置を高速回転させると、β―TCP粒子の結晶構造がビーズから衝撃を受けて部分的にアモルファス化した。同時に、ビーズの衝撃によりB粒子の結合の一部にもひずみや破壊あるいは新たな結合を生じさせてアモルファス化した。
(4)前記遊星型ボールミル装置の高速回転を2時間継続した後静置することによって、前記アモルファス化したβ―TCP相にアモルファスB粒子が融合した状態とした。
(5)前記固定化工程の後、前記処理物をふるいにかけてアセトンで洗い流すことによって分離して、ホウ素イオンを含有するリン酸カルシウム粒子を回収した。
【0059】
<実験3の結果>
(i)β―TCP粉体とB粉体を共存させて粉砕して得られた粒子の大きさは約0.1μm~1μmで、形状は様々だった(図14)。また、ホウ素の添加量増加に伴い、凝集している粒子が増加した。固液分離や乾燥の過程でホウ素が大気中の水と反応したことで凝集が起こったと考えられ、水分との反応性の高い粉体であると考えられた。
(ii)EDSの元素マッピング(図15)から、B,Ca,Pが均一に分布していることが示された。ホウ素 (B_Kα) は低エネルギー位置に検出されるため精度的に問題はあるものの、スペクトルからは存在していることは言えると判断できる。そこで、マッピングした場合、粒子全体に分布している様子が見られ、カルシウム (Ca_Kα) やリン (P_Kα) と同じ場所に存在した。よって、作製した粒子中にホウ素が分散して取り込まれていると考えられる。
(iii)得られた粒子のXRDパターン(図16)では、β-TCPに帰属されるピーク(●)と、アモルファス相に起因するハローピークが確認された。ホウ素の導入はメカノケミカル処理によるβ-TCPのアモルファス化を阻害しないと考えられ、図3の結果と合わせてホウ素もアモルファス相に取り込まれていると考えられた。また、20%および30%B2O3を混合した場合にはホウ酸に帰属されるピーク(◇)が確認された。粉砕後の過程や測定時に大気中の水と酸化ホウ素が反応してホウ酸が生成したと考えられる。
(iv) 図17に得られた粒子の11B MAS-NMRスペクトルを示す。ホウ素はT構造(酸素3配位)、Q構造(酸素4配位)で存在することが示された。図18に31P MAS-NMRスペクトルを示す。ホウ素の添加により、高磁場側 (-5ppm付近) にB-O-P結合に関係するピークが新たに確認された。つまり、このメカノケミカル処理によって、ホウ素はリン酸カルシウムとともにアモルファス相に取り込まれて化学結合を作っている。
(v)tris-Hcl緩衝溶液への浸漬試験 (図19) から、ホウ酸イオンの溶出量はホウ素の添加量に大きく依存した。浸漬6h以降にイオン濃度に変化が見られず、ホウ素は全て浸漬初期に溶出した。ホウ素添加しないものは、初期に溶出したカルシウムイオン、リン酸イオンの濃度が浸漬24h以降に減少した。これは、浸漬後のXRDパターン (図20) からHAの析出に起因すると考えられる。ホウ素を含む試料については、イオン濃度の減少が速く、XRDパターンにおいてHAの析出が活発であることがわかった。ホウ酸塩ガラス(アモルファス質)は化学耐久性が低く、溶液中でB-Oネットワーク構造が急速に分解されることで各種イオンが溶出する。これにより、カルシウムイオン、リン酸イオンの濃度が高くなり、またpHも高まるので、HAの析出が起こりやすくなる。擬似生理環境下でのHAの生成は材料の骨形成性に優れることと関係しており、その速度を高められることは、Bを含有させることの生体材料としての有用さを示している。
【0060】
実験4
<実験4の内容>
(1)β―TCP粉体(太平化学産業製)と非晶質シリカ粉体(SYLISIA,富士シリシア製)を重量比95~90対5~10の割合で混合して、混合粉体1.8gを調製した。
(2)遊星型ボールミル装置のジルコニアベッセル(体積容量45ml)に、直径1mmのビーズ40.5gとアセトン13.5g(=17ml)を入れた。ビーズ/アセトンを入れた状態で、ベッセルの8分目程度まで浸かった。そこに、前記調製した混合粉体1.8gを投入して、ボールミル装置を公転450rpm、自転820rpmで高速回転させた。
(3)遊星型ボールミル装置を高速回転させると、β―TCP粒子の結晶構造がビーズから衝撃を受けて部分的にアモルファス化した。シリカ原料はゾルゲル法で作製されたアモルファス粉体である。
(4)前記遊星型ボールミル装置の高速回転を2時間継続した後静置することによって、前記アモルファス化したβ―TCP相にアモルファスシリカ粒子が融合した状態とした。
(5)前記固定化工程の後、前記処理物をふるいにかけてアセトンで洗い流すことによって分離して、ケイ酸イオンを含有するリン酸カルシウム粒子を回収した。
【0061】
<実験4の結果>
図21のXRDパターンから、シリカを混合してもβ-TCPのアモルファス化は進むことがわかった。混合したシリカはゾルゲル法で作製されたアモルファス粉体であるため、XRDパターンには現れない。
図22のEDSマッピング結果より、ケイ素はリンやカルシウムとほぼ同じ位置に存在し、1~5の各ポイントでもスペクトルに大きな違いはなく、全体に分布していることがわかった。
5%のシリカを混合した粒子50mgをtris-HCl緩衝溶液(37℃、pH7.40)20mlに浸漬した後のイオン量を調べたところ(図23)、カルシウムイオンとリン酸イオンは浸漬後1hで急激に増加しその後徐々に減少した。図24のXRDパターンからHAが生成していることがわかった。このためカルシウムイオンとリン酸イオンが消費されたため減少した。一方、ケイ素は時間とともに徐々に溶出していくことがわかったが、24h以降では徐々に溶出量が減少していくように見える。これは生成するHA中に一部取り込まれているためと予想される。ケイ酸イオンは骨形成を促進する効果があることが知られているので、このような溶出挙動は好ましいものである。
【0062】
実験5
<実験5の内容>
実験1で調製したビーズミル処理リン酸カルシウム粒子粉体(m-TCP)とポリ(D,L乳酸ーグルコール酸)共重合体(PDLLGA)のペレットを70:30の重量比で混合し、混合物をアセトン溶液に投入して攪拌して分散させることで、紡糸溶液を調製した。粉体量とアセトンの比率を1:6とした。
調製した紡糸溶液を湿式紡糸法装置のシリンジに充填して、充填された紡糸溶液をノズルから押し出すことによって、PDLLGA30重量%、リン酸カルシウム粒子70重量%含む、生分解性繊維を作製した(Fiber A)。
また、β-TCP:m-TCP:PDLLGAの重量比が35:35:30とした繊維(Fiber B)、m-TCPを含まないβ-TCP:PDLLGAの重量比が70:30とした繊維(Fiber C)を比較のために上記と同様の方法にて作製した。ただし、粉体量とアセトンの比率を1:5とした。
<実験5の結果>
(i)m-TCP粒子粉体は凝集していないので、粉体を樹脂と共に溶剤に投入して攪拌することによって、粒子が液中に分散した紡糸溶液を容易に調製することができた。
(ii)一方、β-TCPとm-TCPをともに含有する繊維(Fiber B)を作製するためには、それらの粒度が異なるために粒径の大きいβ-TCPの沈降をできる限り防ぐ必要があったため、粘性を上げた紡糸溶液を作製することで、比較的良好に粒子分散した繊維を得ることができた。β-TCPのみを分散した場合(Fiber C)も同様に、粘性を上げた紡糸溶液(粉体量とアセトンの比率が1:5)を作製することで、比較的良好に粒子分散した繊維を得ることができた。
(iii)Fiber A,B,Cのそれぞれ20mgを、tris-HCl緩衝溶液(37℃、pH7.40)20mlに浸漬した後のイオン量を調べたところ(図25)、6h浸漬において、Fiber A,BではFiber Cと比較して6~7倍のカルシウムイオン、リン酸イオンを溶出した。m-TCP中のアモルファス相の溶解に起因すると考えられる。Fiber Aでは72h浸漬後の各イオン量が減少した。XRDからHAが生成していることが確認された(図26)。このため、カルシウムイオンとリン酸イオンが消費されたため減少したといえる。
これらの結果から、m-TCPを生分解性繊維として用いることで積極的なカルシウムイオンとリン酸イオンを溶出させる機能が付与されることが明らかとなった。
【0063】
以上、本発明を本発明の実施態様に即して説明したが、本発明の範囲はこれらの実施態様に限定されるものではなく、本出願の特許請求の範囲の記載によってのみ限定されるべきものである。
【要約】
ビーズミル装置を用いて結晶質リン酸カルシウム粒子を湿式粉砕して粒子の凝集を生じさせることなくアモルファスリン酸カルシウムに改質する方法を提供する。
ビーズミル装置のベッセルに、結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体とビーズを、見掛け体積の比1:2~4となる量投入し、ベッセル中のリン酸カルシウム粒子粉体とビーズの混合物に対してアセトンを両者の重量比が1:5~10となる量ベッセルに投入して攪拌することによって、アセトンにリン酸カルシウム粒子とビーズを含んだスラリーを調製し、スラリーがベッセルに収容された状態で、ビーズミル装置を所定の回転毎分で回転させることによって、スラリーに含まれた結晶質リン酸カルシウム粒子の粉体を凝集させることなく微細に粉砕し、結晶質リン酸カルシウム粒子を部分的にアモルファス化させる。
【選択図】図1
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