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特許7474606小麦ふすま含有パン用の生地改良剤及びパン生地並びにパンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】小麦ふすま含有パン用の生地改良剤及びパン生地並びにパンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/08 20060101AFI20240418BHJP
   A21D 13/02 20060101ALI20240418BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A21D2/08
A21D13/02
A21D2/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020034988
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021136875
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】北園 政敏
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-105153(JP,A)
【文献】特開2003-319747(JP,A)
【文献】*塩麹ふすま全粒粉食パン*早焼きコース、cookpad[online]、2014年8月4日(2023年11月29日検索),<URL:https://cookpad.com/recipe/2017202>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩こうじと、
小麦粉、小麦全粒粉及び小麦ふすまからなる群から選択される1種以上と
を含む、小麦ふすま含有パン用の品質改良剤。
【請求項2】
イーストを含む、請求項1記載の品質改良剤。
【請求項3】
イースト資化性糖類を含む、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の品質改良剤を調製し、小麦ふすまを含有する製パン原料に、前記品質改良剤を添加することを含む、パン生地の製造方法
【請求項5】
前記品質改良剤に用いる塩こうじのBrix値が30度以上であり、前記塩こうじの含有量が、パン生地に含まれる前記小麦ふすまの全量100質量部に対して5質量部以上である、請求項に記載のパン生地の製造方法
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の品質改良剤の調製が、品質改良剤を熟成する工程を含み、前記熟成における温度が5~40℃であり、熟成時間が30分以上である、請求項4又は5に記載のパン生地の製造方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の製造方法によりパン生地を製造し、前記パン生地を焼成する工程を含む、パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦ふすま含有パン用の生地改良剤及びパン生地並びにパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦ふすまは、食物繊維、ビタミン、ミネラル等の成分を豊富に含有しており、近年の消費者の健康志向の高まりから、小麦ふすまを使用したベーカリー食品等の各種加工食品が販売されている。小麦ふすまを含むベーカリー食品等の各種加工食品の製造では、その原料として小麦穀粒をまるごと粉砕して得られる小麦全粒粉又は製粉過程において分画された小麦ふすまを用いることがよく行われている。しかしながら、各種加工食品に小麦ふすまを使用すると、ふすま独特のふすま臭やえぐみ、ざらつき感やパサつきが生じるため、食品の食味が損なわれることがあった。
【0003】
このような問題を解決するために種々検討がなされている。例えば、特許文献1には、小麦全粒粉を品温145~180℃で5~20分間、乾熱処理した粒度100μm以下の体積頻度が70%以上で体積頻度50%の粒度が30μm以上80μm以下である焙焼小麦全粒粉が開示されている。特許文献2には、穀類を粉砕して得られた穀類全粒粉の全体に加熱処理を施す処理を有する、熱処理穀類全粒粉の製造方法が開示されている。特許文献3には、小麦ふすまを100~170℃で20~80分間焙焼して得られた焙焼小麦ふすまと、該焙焼ふすま100質量部あたり130~400質量部の量の、40~100℃の水とを混合することを含む、小麦ふすま材料の製造方法が開示されている。特許文献4には、全体の85質量%以上が粒径250~1500μmに入るように粒度が調整され、且つ焙煎処理された穀物の糠を乳酸発酵させて得られたものであることを特徴とするベーカリー食品用原料が開示されている。いずれも優れた技術ではあるが、市場の要請は更なる改良を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-050937号公報
【文献】特開2015-181463号公報
【文献】特開2018-088872号公報
【文献】特開2016-054649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、小麦ふすまを含有するにもかかわらず、えぐみが抑制され、風味及び食感に優れたパン、該パンを得るための品質改良剤、パン生地及びパンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、小麦ふすまを含有するパンに用いられる品質改良剤が、塩こうじを含むことにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]塩こうじを含む、小麦ふすま含有パン用の品質改良剤。
[2]小麦粉、小麦全粒粉及び小麦ふすまからなる群から選択される1種以上を含む、[1]に記載の品質改良剤。
[3]イーストを含む、[1]又は[2]に記載の品質改良剤。
[4]イースト資化性糖類を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の品質改良剤。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の品質改良剤と、小麦ふすまを含む製パン原料とを含有する、パン生地。
[6]前記塩こうじのBrix値が30度以上であり、前記塩こうじを、パン生地に含まれる前記小麦ふすまの全量100質量部に対して5質量部以上含む、[5]に記載のパン生地。
[7][5]又は[6]に記載のパン生地を焼成する工程を含む、パンの製造方法。
[8]前記品質改良剤を熟成する工程を含む、[7]に記載のパンの製造方法。
[9]前記熟成における温度が5~40℃であり、熟成時間が30分以上である、[8]に記載のパンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、えぐみが抑制され、風味及び食感に優れたパンを得るための品質改良剤、該品質改良剤を含むパン生地及びパンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の小麦ふすま含有パン用の品質改良剤は、塩こうじを含む。本発明の品質改良剤によれば、小麦ふすま含有パンの小麦ふすま由来のえぐみを効果的に抑制し、風味及び食感を改善することができる。
【0009】
小麦ふすま含有パンとは、パンの製造に使用される小麦粉の一部又は全てを小麦全粒粉(小麦ふすまを含む)に置き換えて得られるパン、又は製パン原料に小麦ふすまを配合して得られるパンを意味する。
本発明における品質改良剤とは、小麦ふすま含有パンの小麦ふすま由来のえぐみを抑制し、風味及び食感を改善するために、パン生地に添加して用いられるものであり、品質改良剤のみを単独で焼成してパンを得ることは意図されていない。上記品質改良剤は、えぐみ抑制剤であることが好ましく、風味改良剤(ふすま臭抑制剤)であることが好ましく、食感改良剤であることが好ましい。
【0010】
上記小麦ふすまは、小麦穀粒の製粉工程を経て得られる胚乳よりも外層の部分を意味する。小麦ふすまは、タンパク質やミネラル、食物繊維等の成分を豊富に含んでおり、糖質量やカロリーが低いため、本発明の品質改良剤を用いて得られるパンは、小麦ふすまによる生理機能向上、低糖質化及び低カロリー化等が期待できる。小麦穀粒は、一般に胚乳、胚芽、及び胚乳よりも外層の部分で構成されている。胚乳よりも外層の部分とは、胚乳と接するアリューロン層から最外層に至るまでの部分を指し、胚乳側からアリューロン層、珠心層、種皮、管状細胞、横細胞、下皮、表皮の順で存在している。外皮は、珠心層から表皮に至る6層から構成されており、これを「ふすま」と称する。果皮は、管状細胞から表皮に至る4層から構成されている。アリューロン層は、胚乳と外皮とを隔てており、澱粉を含まず、タンパク質や脂質、灰分(ミネラル)を多く含む層である。小麦穀粒の場合、外皮、アリューロン層及び胚乳の構成割合は、それぞれ小麦穀粒の6~8質量%、6~7質量%及び81~85質量%である。製粉工程において、アリューロン層は外皮(ふすま)と共に胚乳から分離されるので、本発明では、胚乳から分離された胚乳よりも外層の部分を「小麦ふすま」と称し、単なる外皮を意味する「ふすま」とは区別する。即ち、本発明における小麦ふすまは、アリューロン層及び外皮から構成されるものであり、胚乳及び胚芽を含まない。
【0011】
上記小麦ふすまは、小麦穀粒を製粉及び分離精製して得てもよいし、市販のものを用いてもよい。市販されている小麦ふすま製品として、例えば、小麦ふすま「ブランエース粉状P」(小麦穀粒由来、日本製粉株式会社製)等が挙げられる。
上記小麦ふすまは、公知の手法によって、微粉砕、焙煎処理、酵素処理、乳酸発酵等の各種加工処理を施してもよい。
なお、上記小麦ふすまを配合するために、小麦穀粒を粉砕した全粒粉を用いてもよい。
【0012】
上記小麦ふすまを含む市販製品あるいは従来の手法による精製品には、胚乳由来の穀粉又は外来の糖質(澱粉)が含まれることがあるため、穀粉又は糖質(澱粉)を差し引くことによって、又は成分分析することによって、実質的な小麦ふすまの使用量に換算することが好ましい。小麦穀粒では、生育条件や品種等により多少の増減はあるものの、胚乳、胚乳よりも外層の部分(小麦ふすま)及び胚芽の構成割合は、一般的に83:15:2(質量)である。従って、以下の本発明の実施例では、小麦穀粒(全粒)における小麦ふすまの含有量を15質量%とみなした。
【0013】
本発明では、上記の通り原料穀粒から分離された小麦ふすまを用いてもよく、小麦ふすまを含む全粒粉を用いてもよい。全粒粉とは、原料穀粒の全構成成分を粉状にしたものである。全粒粉を得る手法としては、例えば、(1)製粉工程において、精選した小麦穀粒等の原料穀粒を任意に調質し、胚乳と胚乳よりも外層の部分(アリューロン層及び外皮)及び胚芽を分離することなく、ピンミルやジェットミル等の衝撃式粉砕機で全てを粉砕して得る手法、及び(2)精選した小麦穀粒を任意に調質し、胚乳の微粒画分(穀粉)、胚乳よりも外層の部分の粗粒画分及び胚芽画分をそれぞれ分離し、任意に粗粒画分及び/又は胚芽画分を更に微粉砕した後に、胚乳の微粒画分と混合して得る手法等が挙げられる。上記(2)では、具体的に、調質された小麦穀粒をロール破砕機等で粉砕し、シフター等を用いて分画することで得られる胚乳の微粒画分(穀粉、小麦粉)と、大きな胚乳よりも外層部の断片(小麦ふすま断片)が含まれる粗粒画分又は任意に調質してピンミル、ジェットミル、グラインダーミル等を用いて得られる微粉化された粗粒画分と、胚芽画分又は任意に微粉砕した微粉化胚芽画分とを混合することで全粒粉が得られる。この場合、各画分は、同一の原料穀粒に由来するものでもよく(例えば、全ての画分が1CW由来等)、それぞれが異なる原料穀粒に由来するものでもよい(例えば、微粒画分が1CW由来、粗粒画分がDNS由来、胚芽画分がWW由来等)。
【0014】
上記全粒粉は、上記の手法を用いて製造してもよいし、市販のものを用いてもよい。市販されている全粒粉として、「全粒粉(商品名)」、「FH全粒粉」(いずれも小麦穀粒由来、日本製粉株式会社製)等が挙げられる。
【0015】
上記小麦ふすま又は全粒粉の原料穀粒は、特に制限されず、食用に使用される小麦穀粒であればいずれも使用することができる。小麦穀粒の銘柄又は品種としては、特に限定されないが、ダーク・ノーザン・スプリング(DNS)、ハードレッド・ウインター(HRW)、No.1ハード・レッド・スプリング(1CW)、ウエスタン・ホワイト(WW)、プライム・ハード(PH)、オーストラリアスタンダード・ホワイト(ASW)、ユメチカラ、ミナミノカオリ、シロガネコムギ、バーミュード、アルルカン、アパシェ等が挙げられる。
【0016】
本発明で使用される塩こうじは、米麹と水との混合物を適宜かき混ぜながら発酵熟成させたものである。
塩こうじの製造に使用される米麹は、通常の米麹の製造方法により製造したものを使用してもよく、市販のものを使用してもよい。通常の米麹の製造方法として、例えば、蒸米に種麹を散布し、25~40℃で2~4日間培養して繁殖させる方法等が挙げられる。米麹の製麹に使用される米は、特に限定されず、うるち米、もち米、酒米等の食用米又は飲食品加工用米を精米し、洗米後、水分を浸漬吸水させて、任意に水切りしたものが挙げられる。種麹(麹菌)としては、通常の製麹に使用されるものであれば特に限定されず、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等のコウジカビ属(アスペルギルス、Aspergillus)が挙げられる。好ましい麹菌は、糖類加水分解酵素やタンパク質加水分解酵素等の消化酵素の産生能が高い麹菌であり、そのような麹菌としては、味噌用麹菌、醤油用麹菌、米麹用麹菌等が挙げられる。製麹に使用する麹菌は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0017】
塩こうじは、米麹100質量部あたり20~50質量部の食塩を加えて混合し、100~200質量部の水(又は60℃以下の湯)を加えて混合し、4~40℃、好ましくは25℃前後で7~14日程度発酵させることにより製造することができる。発酵中、1日に1回の頻度で混合を行うことにより、発酵が均一になり、風味の良い塩こうじが得られる。このようにして得られた塩こうじは、5℃前後の温度で冷蔵保管することができる。塩こうじの発酵の進行の程度は、Brix値を測定することにより求めることができ、具体的には、塩こうじの各原料を仕込んだ段階(初発という)でのBrix値(発酵開始前のBrix値)を基準とし、発酵過程によって増加したBrix値により評価することができる。
【0018】
Brix値は、Brix屈折計(糖用屈折計ともいう)を用いて測定された示度のことであり、ショ糖1gのみを溶質として含む水溶液100gをBrix屈折計で測定したときのBrix値を1度とし、このショ糖溶液と同じBrix値を示す溶液のBrix値を1度とする。Brix値は、ブドウ糖、麦芽糖、ショ糖等の糖類;グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸;食塩等の無機塩類;クエン酸、リンゴ酸等の有機酸;ペクチン等の多糖類等、光の屈折作用を有する可溶性固形成分の含有量を表しており、その含有量の増減によってBrix値が変化する。本発明におけるBrix値は、測定時の試料温度が20℃におけるものであり、手持屈折計(株式会社アタゴ社製、「MASTER 53T」)を用いて測定されたものである。
【0019】
本発明で使用される塩こうじは、初発からのBrix値よりも5度以上高く発酵させたものを使用することが好ましく、好ましくは、初発からのBrix値よりも8度以上高く発酵させたものである。
本発明で使用される塩こうじは、Brix値が30度以上であることが好ましく、35度以上であることがより好ましく、40度以上であることが更に好ましい。Brix値が上記下限値以上であると、小麦ふすま由来のえぐみが効果的に抑制され、風味及び食感に優れたパンを得ることができる。また、Brix値の上限は特に限定されないが、イーストの生育阻害を抑制する観点から、50度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましい。
【0020】
塩こうじの塩分濃度は特に限定されないが、イーストの生育阻害を抑制する観点から、5~20%であることが好ましい。
【0021】
このようにして発酵させた塩こうじは、通常米麹に由来する固形成分が残存しているが、これを分離せずにそのまま使用してもよく、ミキサー等でペースト状にして使用してもよく、固液分離して液体部分のみを使用してもよい。本発明で使用される塩こうじは、均一性の観点から、固体を含まない液体状の塩こうじであることが好ましい。
【0022】
塩こうじは、市販のものを使用することもできる。市販されている塩こうじとしては、液体塩こうじ(ハナマルキ株式会社製)、プラス糀 生塩糀(マルコメ株式会社製)、生塩こうじ 麹の花(ひかり味噌株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
上記品質改良剤は、どのような形態であってもよいが、製パン原料等を混合して生地状にし、製パン用の種組成物として用いることが好ましい。即ち、本発明のパンの製造方法は、上記品質改良剤(製パン用の種組成物)と、製パン原料の残りを混合して得られた生地を焼成する工程を含んでもよい。生地状の品質改良剤は、バッター生地状でもよく、ドウ生地状でもよいが、品質改良剤の均質性を良好にする観点からは、生地状の品質改良剤はバッター生地状であることが好ましい。また、上記品質改良剤は、シクロデキストリンや澱粉等の賦形剤と共に粉末化したものでもよく、可溶性固形成分と共に液状又はペースト状にしたものでもよい。
【0024】
上記品質改良剤のBrix値は特に限定されないが、イーストの生育阻害を抑制する観点から、15~45度であることが好ましい。
【0025】
上記品質改良剤は、上記塩こうじを、得られるパン生地に含まれる小麦ふすまの全量に対して5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは13質量%以上、更に好ましくは15質量%以上となるように品質改良剤中に含むことが好ましい。上記下限値以上であると、小麦ふすま由来のえぐみがより効果的に抑制され、風味及び食感に優れたパンを得ることができる。上記「小麦ふすまの全量」という用語は、(焼成直前の)パン生地に含まれる小麦ふすまの全量を意味し、品質改良剤中に小麦ふすまが含まれる場合は、それを含めた全量を意味する。品質改良剤中の上記塩こうじの含有割合の上限は特に限定されないが、風味を良好にする観点から、得られるパン生地に含まれる小麦ふすまの全量に対して90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。なお、上記塩こうじの含有割合の上限値は、塩こうじの食塩濃度及び製パンに使用する食塩の量に依存するが、例えば、製パンに使用する穀粉原料の全量に対して2.5質量%~40質量%の範囲であることが好ましい。なお、「穀粉原料」とは、穀類を製粉して得られる原料を意味し、「穀粉原料の全量」という用語は、その種類によらず、使用される穀粉の全量を意味する。
【0026】
上記製パン原料としては、パンの製造に通常用いられる原料であれば特に限定されないが、穀粉、水分、イースト、ショ糖等が挙げられる。製パン原料に含まれる穀粉は特に限定されず、小麦粉等の小麦由来の穀粉;米粉、ライ麦粉、大麦粉、蕎麦粉、トウモロコシ粉等の小麦由来ではない穀粉等が挙げられる。
品質改良剤を製パン用の種組成物として使用する場合は、上記品質改良剤は、穀粉原料を含むことが好ましく、小麦粉、小麦全粒粉及び小麦ふすまからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。本発明の効果に優れることから、上記品質改良剤は、小麦全粒粉又は小麦ふすまを含むことが好ましい。小麦全粒粉及び小麦ふすまは、上述したものを使用することができる。
【0027】
品質改良剤を製パン用の種組成物として使用する場合は、種組成物に含まれる水分の量は、種組成物中の穀粉原料100質量部に対して100~350質量部であることが好ましく、120~250質量部であることがより好ましく、130~200質量部であることが更に好ましく、140~170質量部であることが特に好ましい。なお、液体状の塩こうじを使用する場合には、その全量を水分とみなすこととし、ペースト状ないし米麹に由来する固形成分を含む塩こうじを使用する場合には、固液分離して得られる液体分を水分とみなすこととする。
【0028】
上記種組成物に含まれる穀粉原料の量は、特に制限されないが、パン生地に含まれる穀粉原料の全量100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましい。種組成物に含まれる穀粉原料の量が上記範囲内であると、種組成物を保持(熟成)する際の省スペース化及び省力化に寄与する。
【0029】
上記品質改良剤は、イーストを含むことが好ましい。イーストを含むことにより、小麦ふすま由来のえぐみがより効果的に抑制され、風味及び食感に優れたパンを得ることができる。
上記品質改良剤(種組成物)に含まれるイーストの含有量は、特に制限されないが、種組成物中の穀粉原料100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、0.5~3.5質量部であることがより好ましく、パン生地に含まれるイーストの全量100質量部に対して1~20質量部以下であることが好ましい。イーストの含有量が上記範囲内であると、製パン時の発酵力を維持しつつ、小麦ふすま由来のえぐみがより効果的に抑制され、風味及び食感に優れたパンを得ることができる。
【0030】
上記品質改良剤は、イースト資化性糖類を含むことが好ましい。イースト資化性糖類を含むことにより、小麦ふすま由来のえぐみがより効果的に抑制され、風味及び食感に優れたパンを得ることができる。イースト資化性糖類としては、イーストが資化することができる糖類であれば特に制限されないが、例えば、グルコース、ガラクトース等の単糖類、ショ糖(上白糖)、麦芽糖等の二糖類、異性化糖等が挙げられる。中でも、本発明の効果に優れることから、上記イースト資化性糖類は、ショ糖であることが好ましい。
【0031】
上記品質改良剤(穀粉を含む場合には種組成物)に含まれるイースト資化性糖類の含有量は、特に制限されないが、品質改良剤(種組成物)100質量部に対して0~30質量部であることが好ましく、10~25質量部であることが好ましい。イースト資化性糖類の含有量が上記範囲内であると、イーストの生育阻害を引き起こしにくくなる。イーストの生育阻害を回避するために、高ショ糖耐性イーストを使用してもよい。
【0032】
また、上記品質改良剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、米粉、ライ麦粉、大麦粉、蕎麦粉、トウモロコシ粉等の小麦由来ではない穀粉類;コーンスターチ、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の澱粉類;前記澱粉類をエーテル化、アセチル化、架橋、α化等の物理的又は化学的変性から選択される1以上の変性が施された易消化性加工澱粉類;小麦蛋白、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;食塩、ミネラル等の無機塩類;難消化性澱粉等の小麦ふすま以外の水不溶性食物繊維;ポリデキストロース、大麦βグルカン、難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維;デキストリン等の澱粉分解物;ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、イヌリン等の増粘多糖類;メチルセルロース類等のセルロース誘導体;膨張剤;乳化剤;糖類;甘味料;香辛料;調味料;ビタミン類;色素;香料等を含んでもよい。但し、油脂は、塩こうじに含まれる酵素の活性を抑制し、油水分離するおそれがあるため、上記品質改良剤は油脂を含有しないことが好ましく、品質改良剤中、油脂を1質量%未満、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満で含有することが好ましい。
【0033】
本発明のパン生地は、上記品質改良剤と、小麦ふすまを含有する製パン原料とを含有する。本発明のパン生地は、塩こうじをパン生地に含まれる小麦ふすま全量に対して5質量%以上含有するように上記品質改良剤を含むことが好ましい。塩こうじの含有量が上記下限値以上であると、小麦ふすま由来のえぐみが効果的に抑制され、風味及び食感に優れたパンを得ることができる。塩こうじの含有量は、パン生地に含まれる小麦ふすまの全量100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、13質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることが更に好ましい。塩こうじの含有量の上限は特に限定されないが、風味を良好にする観点から、パン生地に含まれる小麦ふすまの全量100質量部に対して90質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。なお、塩こうじの上限値は、塩こうじの食塩濃度及び製パンに使用する食塩の量に依存してもよい。すなわち、製パンに使用する食塩の総量が、穀粉原料(小麦を原料とする粉原料)の全量100質量部に対して0.5~2.5質量部であることが好ましく、上記から、塩こうじの塩分濃度が6.25~20質量%であるので、塩こうじの上限値は、製パンに使用する穀粉原料の全量100質量部に対して2.5質量部~40質量部の範囲であることが好ましい。
【0034】
本発明のパン生地に含まれる小麦ふすまの含有量の全量は、特に限定されないが、穀粉原料の全量100質量部に対して0.5~20質量部であることが好ましく、1~18質量部であることがより好ましく、3~16質量部であることが更に好ましい。
【0035】
本発明のパン生地に含まれるイースト資化性糖類の含有量の全量は、目的とするパンの種類によって異なるが、一般的には、パン生地に含まれる穀粉原料の全量100質量部に対して0~40質量部であり、バゲット系のリーン系のパンであれば、糖を含まない場合もあり、菓子パン等のリッチ系のパンであれば、穀粉原料の全量100質量部に対して25~40質量部である。
【0036】
本発明のパン生地は、本発明の効果を損なわない範囲で、コーンスターチ、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の澱粉類;前記澱粉類をエーテル化、アセチル化、架橋、α化等の物理的又は化学的変性から選択される1以上の変性が施された易消化性加工澱粉類;小麦蛋白、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;食塩、ミネラル等の無機塩類;難消化性澱粉等の小麦ふすま以外の水不溶性食物繊維;ポリデキストロース、大麦βグルカン、難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維;デキストリン等の澱粉分解物;ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、イヌリン等の増粘多糖類;メチルセルロース類等のセルロース誘導体;膨張剤;乳化剤;糖類;甘味料;香辛料;調味料;ビタミン類;色素;香料等を含んでもよい。
【0037】
本発明のパンの製造方法は、本発明のパン生地を焼成する工程を含む。この方法により得られるパンは、小麦ふすま由来のえぐみが抑制されており、風味及び食感に優れている。
【0038】
上記品質改良剤(種組成物)は、熟成されたものを用いることが好ましい。熟成された品質改良剤を用いることで、小麦ふすま由来のえぐみがより効果的に抑制され、風味及び食感に優れたパンを得ることができる。本明細書中、「熟成」とは、品質改良剤(種組成物)を所定温度で一定時間静置して休ませることを意味する。熟成における熟成温度は、5~40℃が好ましく、10~35℃がより好ましく、15~30℃が更に好ましく、20~25℃が特に好ましい。熟成温度が上記範囲内であれば、塩こうじに含まれる酵素が十分に作用して小麦ふすま由来のえぐみを抑制することができる。また、熟成における熟成時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、3~15時間が更に好ましく、4~12時間が特に好ましく、5~11時間が最も好ましい。熟成時間が上記範囲内であれば、本発明の効果がより効果的に発揮され、かつイーストを含む場合には過発酵に起因する風味の悪化を抑制することができ、微生物(雑菌)の繁殖を抑えることができる。過発酵に起因する風味の悪化を抑制するために、上記品質改良剤は、イーストを含まないことも好ましい。なお熟成の際は、品質改良剤(種組成物)を満遍なく熟成させるために、1~2時間毎にかき混ぜて均質化することが好ましい。
【0039】
なお、本発明のパンの製造方法は、上記の工程を備えていれば、どのような製法を採用してもよい。上記パン生地を得るための、品質改良剤と製パン原料とを混捏する条件としては、特に制限されず、慣用の条件を採用することができ、上記焼成する条件も特に制限されず、例えば、180~300℃の雰囲気下で5分~1時間行うことができる。
パンの製法として、ストレート法、中種法等が挙げられるが、いずれの製法でも本発明の効果を得ることができる。中種法の場合、上記の品質改良剤は、中種に配合してもよく、本捏に配合してもよいが、よりえぐみが抑制され、風味に優れた小麦ふすま含有パンを得る観点からは、上記品質改良剤を中種に配合することが好ましい。
【実施例
【0040】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
<製造例1:全粒粉を含有する品質改良剤(種組成物)の製造>
下記表1に記載の配合に従って全粒粉を含有する品質改良剤(種組成物)Aを製造した。なお、品質改良剤のBrix値の測定は、以下の手順により行った。薬さじで品質改良剤を採取し、手持屈折計(株式会社アタゴ社製、「MASTER 53T」)のプリズム麺に1滴たらして蓋板を閉じ、接眼鏡を覗いて目盛りを読み取ることにより測定した。以下、表中の「(小麦ふすま)」中の数値は、小麦全粒粉に含まれる小麦ふすまの含有量を示している。なお、熟成前後でBrix値が減少しているのは、イーストにより糖分が資化(消費)されたためと考えられる。品質改良剤の具体的な製造手順は以下の通りである。
小麦全粒粉(日本製粉株式会社製、「FH全粒粉」、小麦ふすまの含有量:15質量%)、上白糖(ショ糖)、イースト、塩こうじ(ハナマルキ株式会社製、「液体塩こうじ」、Brix値:45度、塩分濃度:15質量%)及び水をボウルに投入し、十分に混合して均質化した(捏上温度は20℃であった)。樹脂製フィルムでボウルを密封し、庫内温度25℃のインキュベーター内で6時間保持して熟成させ、全粒粉を含有する品質改良剤(種組成物)Aを得た。この際、熟成時間から1時間毎にかき混ぜて均質化した。全粒粉を含有する品質改良剤(種組成物)Aは、使用するまで庫内温度5℃の冷蔵庫内で保管した。
【0042】
【表1】
【0043】
<試験例1:品質改良剤Aを用いた中種法製パン試験>
下記表3に記載の配合に従ってパンを製造した。なお、小麦全粒粉、イースト、上白糖、食塩及び水は、品質改良剤に由来するそれらの成分を含めて各試験区で同一割合(比較例1の配合割合)となるように調節した。
中種は、以下の手順に従って製造した。小麦穀粉(小麦粉(日本製粉株式会社製、「イーグル」)及び/又は小麦全粒粉(日本製粉株式会社製、「FH全粒粉」))、イースト、イーストフード、品質改良剤A及び水をミキサーに投入し、低速2分、中速2分で混捏し(捏上温度は27℃)、容器に移して密封し、相対湿度75%、温度27℃で240分間発酵させて中種を得た。
パンは、以下の手順に従って製造した。得られた中種とショートニング以外の残りの原料をミキサーに投入し、低速2分、中速4分、高速3分で混捏し、ショートニングを添加してさらに低速2分、中速3分、高速3分で混捏してパン生地を得た(捏上温度は27℃)。得られたパン生地を相対湿度75%、温度27℃で20分間発酵させた。発酵させた後、50gに分割して丸目を行い、20分間のベンチタイムをとってガス抜きをした後、丸型に成形を行い温度38℃、相対湿度85%で60分間ホイロを行った。庫内温度200℃の固定窯にパン生地を投入し、200℃で10分間焼成してパンを得た。
【0044】
<評価>
焼成したパンの粗熱がとれるまで室温で静置し、樹脂製袋に入れて密封し、一晩静置した。熟練のパネラー10名により、下記表2に記載の評価基準に従って評価した。なお、穀粉原料に対し全粒粉を30質量%含む比較例1の小麦ふすま含有パンのえぐみ、風味及び食感を3点とし、中種及び本捏に小麦ふすまを含まないパン(参考例1)のえぐみ、風味及び食感を5点とした。結果を表3に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から、塩こうじを含む品質改良剤を用いることで、実施例1~8のいずれにおいてもえぐみが抑制され、風味に優れ、且つシットリ感のあるパンが得られた。また、塩こうじの含有量が多くなるにつれて、本発明の効果が強くなることが分かった。実施例1~4と5~8との対比から、品質改良剤を中種に配合することで、えぐみをより抑制し、風味により優れたパンを得ることができた。
【0048】
<製造例2:イースト不含有品質改良剤(種組成物)の製造>
下記表4に記載の配合に従う以外は製造例1と同様にして、全粒粉を含有するイースト不含有品質改良剤(種組成物)Bを製造した。
【0049】
【表4】
【0050】
<試験例2:品質改良剤A又はBを用いたストレート法製パン試験>
下記表5の記載の配合に従ってパンを製造した。なお、試験例1と同様、小麦全粒粉、イースト、上白糖、食塩及び水は、品質改良剤に由来するそれらの成分を含めて各試験区で同一割合(比較例2の配合割合)となるように調節した。また、加水は、生地の硬さが一定になるように調節した。
小麦粉及び/又は小麦全粒粉、イースト、イーストフード、食塩、上白糖、脱脂粉乳、水及び品質改良剤をミキサーに投入し、低速2分、中速3分、高速1分で混捏し、ショートニングを添加した後、更に低速1分、中速3分、高速6分で混捏してパン生地を得た(捏上温度は27℃)。得られたパン生地を相対湿度75%、温度27℃で60分間発酵させた。発酵させた後、50gに分割して丸目を行い、20分間のベンチタイムをとってガス抜きをした後、丸型に成形を行い温度38℃、相対湿度85%で60分間ホイロを行った。庫内温度200℃の固定窯にパン生地を投入し、200℃で10分間焼成してパンを得た。得られたパンについて、上記の表2の評価基準に従って評価を行った。小麦ふすまを含まないパン(参考例2)のえぐみ、風味及び食感を5点、穀粉原料に対し全粒粉を30質量%含む比較例2の小麦ふすま含有パンのえぐみ、風味及び食感を3点とし、穀粉原料に対し全粒粉を100質量%含む比較例3の小麦ふすま含有パンのえぐみ、風味及び食感の評価を1点とした。結果を表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
表5の結果から、実施例9は、塩こうじの含有量が小麦ふすまに対して多く、最もえぐみが抑制され、風味が良好であり、食感にも優れていた。穀粉原料中の全粒粉の割合が多くなるほど本発明の効果が薄まるものの、穀粉原料の全てを全粒粉にした場合(実施例11及び12)であっても、十分えぐみが抑制されており、風味に優れ、且つ食感にも優れていた。実施例11と12との対比により、小麦ふすまに対する塩こうじの含有量が同じであったとしても、品質改良剤中にイーストを含んでいた方が、本発明の効果に優れることが分かる。
【0053】
<製造例3:小麦粉又は小麦全粒粉を含有する品質改良剤(種組成物)の製造>
下記表6に記載の配合に従う以外は製造例1と同様にして、小麦粉又は小麦全粒粉を含有する品質改良剤(種組成物)を製造した。
【0054】
【表6】
【0055】
<試験例3:小麦粉を含有する品質改良剤を用いたストレート法製パン試験>
下記表7の記載の配合に従った以外は試験例2と同様にしてパンを製造した。上記表2の評価基準に従い、評価を行った。結果を表7に示す。
【0056】
【表7】
【0057】
表7の結果から、実施例13~18のいずれも、品質改良剤を含有しない比較例2及び3よりもえぐみが抑制され、風味及び食感が良好であった。パン生地に含まれる上白糖(イースト資化性糖類)の合計量は同じ(5質量部)であるが、その効果は、品質改良剤に含まれる上白糖の含有量が多くなるほど良好となった。また、実施例13と18との比較、及び実施例9と15との比較から、品質改良剤に小麦全粒粉を含むことによって、えぐみがより抑制され、風味がより良好となることが分かる。
【0058】
<試験例4:小麦粉を含有する品質改良剤を用いたストレート法製パン試験>
品質改良剤として表6のFを使用した実施例16において(品質改良剤の熟成温度が25℃、熟成時間が6時間)、下記表8の記載に従って品質改良剤の熟成時間を変更したこと以外は同様にしてパンを製造した。上記表2の評価基準に従い、評価を行った。結果を表8に示す。
【0059】
【表8】
【0060】
表8の結果より、熟成させずに品質改良剤を加えた実施例19においても、本発明の効果が得られることが分かるが、実施例16及び20~23から、熟成時間が長くなるにつれて、えぐみがより改善され(9時間以上の熟成でふすま臭がほぼ感じられなくなる)、よりシットリとした食感が得られることが分かる。熟成時間が長くなりすぎると、風味及びBrix値が低下しているが、これはイーストの過発酵に起因すると考えられる。実施例12から、品質改良剤にイーストを含まなくても本発明の効果に優れているため、イーストの過発酵に起因する風味及びBrix値の低下を防止するために、品質改良剤にイーストを含まないようにしてもよい。
【0061】
<試験例5:小麦ふすまを含有する品質改良剤を用いたストレート法製パン試験>
小麦穀粒(1CW)を精選して、調質することなくロール式粉砕機であるテストミル(ビューラー社製、「テストミルMLU-202型」)を用いて粉砕し、小麦ふすまが含まれる粗粒画分を得た。得られた粗粒画分を調質することなく衝撃式微粉砕機(株式会社西村機械製作所製、「SPM-R200」)を用いて粉砕し、目開き250μmの篩でふるい分けた。篩を通過しなかった画分を採集し、これを小麦ふすま画分とした。成分分析を行った結果、小麦ふすま画分の80質量%が小麦ふすまであると推定された。
小麦ふすま含有率が15質量%となるように小麦粉(日本製粉株式会社製、「イーグル」)と得られた小麦ふすま画分とを混合し、小麦ふすま含有小麦粉を得た。この小麦ふすま含有小麦粉を、表1における小麦全粒粉と置き換えたこと以外は製造例2の品質改良剤Bと同様にして、品質改良剤を得た。実施例8において、中種に使用した品質改良剤を、上記で得られた品質改良剤に置き換えたこと以外は同様にしてパンを製造した。得られたパンについて表2の評価基準に従って評価したところ、実施例8と同様の評価点であり、えぐみ及びふすま臭がほとんど感じられず、且つシットリ感のあるパンであった。