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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】エルゴチオネインの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 11/00 20060101AFI20240419BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20240419BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C12P11/00
C12P13/04
C12N1/16 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020041187
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021141826
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-11-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】越山 竜行
(72)【発明者】
【氏名】金子 睦
(72)【発明者】
【氏名】東山 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 あずさ
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-157814(JP,A)
【文献】特開2018-113946(JP,A)
【文献】特開2010-017139(JP,A)
【文献】特開2017-000086(JP,A)
【文献】特開2017-225368(JP,A)
【文献】J. Biosci. Bioeng.,2018年,Vol.126, No.6,pp.715-722
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 11/00
C12P 13/00-13/24
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネインの生産方法であって、
シュードザイマ(Pseudozyma)属の酵母を培地中に培養し、エルゴチオネインを含む培養物を得る工程を含み、
前記培地がグルコースを炭素源として含み、
前記グルコースの濃度が5g/L以上50g/L未満であり、
前記培地が過酸化水素をさらに含む
生産方法。
【請求項2】
前記培地が、ヒスチジンおよびメチオニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含む、請求項1に記載の生産方法。
【請求項3】
前記培地のpHが4以上6以下である、請求項1または2に記載の生産方法。
【請求項4】
前記酵母が、シュードザイマ・アンタクティカ、シュードザイマ・フベイエンシス、シュードザイマ・シアメンシス、シュードザイマ・シャンキシエンシス、シュードザイマ・ルグローサ、シュードザイマ・クラッサ、シュードザイマ・アルボアメニアカ、シュードザイマ・グラミニコーラ、シュードザイマ・フシフォルマタ、シュードザイマ・パラアンタクティカ、シュードザイマ・フロキュロッサ、および、シュードザイマ・チュラシマエンシスに属する微生物から選択される少なくとも1種の酵母である、請求項1~のいずれか1項に記載の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルゴチオネインの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネインは含硫アミノ酸の一種である。エルゴチオネインは、ビタミンEの抗酸化作用よりも優れた抗酸化作用を有し、健康および美容等の分野において、利用価値の高い化合物として注目されている。
【0003】
非特許文献1には、シュードザイマ(Pseudozyma)属の酵母がエルゴチオネインを生産することが記載されている。
【0004】
特許文献1には、硝酸塩を含む培地でシュードザイマ(Pseudozyma)属の酵母を培養すると、培養上清の抗酸化活性が上昇することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-122308号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Y. Fujitani et al., J. Biosci. Bioeng., 126, 715-722 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エルゴチオネインは、ヒトの体内では生合成されず、一部の微生物で生合成されることが知られている。よって、上述の先行技術文献に記載されるように、エルゴチオネインを産生する微生物の探索、および、エルゴチオネインの生産を増強させるための培養方法等の研究開発が進められている。しかしながら、先行技術文献に記載される微生物の培養方法は、エルゴチオネインの生産量が低く、エルゴチオネインの生産量が増強する培養方法のさらなる開発が望まれる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、エルゴチオネインの生産量が増強する微生物の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、培地を特定の組成にすることによって、エルゴチオネインの生産量を増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明に係るエルゴチオネインの生産方法は、シュードザイマ(Pseudozyma)属の酵母を培地中に培養し、エルゴチオネインを含む培養物を得る工程を含み、前記培地が糖を炭素源として含み、前記糖の濃度が5g/L以上50g/L未満である、生産方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、エルゴチオネインの生産量が増強する微生物の培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】評価例1の測定結果を示すグラフである。
図2】評価例2(YM培地とMM培地でのEGT生産量)の測定結果を示すグラフである。
図3】評価例2(YM培地とミネラル培地でのEGT生産量)の測定結果を示すグラフである。
図4】評価例3の測定結果を示すグラフである。
図5】評価例4の測定結果を示すグラフである。
図6】評価例5の測定結果を示すグラフである。
図7】評価例6の測定結果を示すグラフである。
図8】評価例7の測定結果を示すグラフである。
図9】評価例8の測定結果を示すグラフである。
図10】評価例9の測定結果を示すグラフである。
図11】評価例10の測定結果を示すグラフである。
図12】評価例11の測定結果を示すグラフである。
図13】評価例12(EGT生産量)の測定結果を示すグラフである。
図14】評価例12(乾燥菌体重量)の測定結果を示すグラフである。
図15】評価例12(乾燥菌体当たりのEGT生産量)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の生産方法は、シュードザイマ(Pseudozyma)属の酵母を培地中に培養し、エルゴチオネインを含む培養物を得る工程を含む。エルゴチオネインは、含硫アミノ酸の一種であり、優れた抗酸化作用を有する。
【0014】
(シュードザイマ属の酵母)
シュードザイマ属の酵母は、エルゴチオネインを産生可能であるシュードザイマ属の酵母であれば特に限定されない。シュードザイマ属の酵母の例として、シュードザイマ・アンタクティカ、シュードザイマ・フベイエンシス、シュードザイマ・シアメンシス、シュードザイマ・シャンキシエンシス、シュードザイマ・ルグローサ、シュードザイマ・クラッサ、シュードザイマ・アルボアメニアカ、シュードザイマ・グラミニコーラ、シュードザイマ・フシフォルマタ、シュードザイマ・パラアンタクティカ、シュードザイマ・フロキュロッサ、および、シュードザイマ・チュラシマエンシス等が挙げられる。エルゴチオネインの生産量が高い点等で、シュードザイマ・シアメンシス(Pseudozyma siamensis)、シュードザイマ・クラッサまたはシュードザイマ・フロキュロッサを培養することが好ましい。1種類の酵母を培養してもよいし、複数種類の酵母を培養してもよい。また、シュードザイマ属の酵母は、遺伝子組換え技術等による改変が行われていてもよい。
【0015】
(培地)
本実施形態の生産方法で使用する培地は、糖を炭素源として含む。糖を炭素源として含むことにより、シュードザイマ属の酵母によるエルゴチオネインの生産量が増強する。糖の例として、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、オリゴ糖、多糖、でんぶん等が挙げられる。エルゴチオネインの生産量が高まる点等で、本実施形態の生産方法で使用する培地は、グルコースを含むことが好ましい。培地に含まれる糖は1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0016】
本実施形態の生産方法で使用する培地に含まれる糖の濃度は、5g/L以上50g/L未満である。当該糖の濃度は、培地1L当たりに含まれる糖の量を示す。エルゴチオネインの生産量が高まる点等で、10g/L以上が好ましく、15g/L以上がより好ましい。また、菌体当たりのエルゴチオネインの生産量が高まる点等で、45g/L以下が好ましく、40g/L以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態の生産方法に適する培地はYM培地である。また、所望の糖濃度に調整されたYM培地も実施形態の生産方法に適する。
【0018】
本実施形態の生産方法で使用する培地は、エルゴチオネインの生産量が高まる点等で、ヒスチジンまたはメチオニンを含むことが好ましい。ヒスチジンおよびメチオニンを両方含んでいてもよい。ヒスチジンまたはメチオニンの濃度(培地1L当たりに含まれるヒスチジンまたはメチオニンの量)は、エルゴチオネインの生産量が高まる点等で、0.01g/L以上が好ましく、0.1g/L以上であることがより好ましい。また、50g/L以下が好ましく、5g/L以下であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態の生産方法で使用する培地は、エルゴチオネインの生産量が高まる点等で、過酸化水素を含むことが好ましい。過酸化水素濃度が0.01mM以上、5mM以下となるように添加された培地が好ましく、0.1mM以上、3mM以下となるように添加された培地がより好ましい。
【0020】
本実施形態の生産方法で使用する培地は、エルゴチオネインの生産量が高まる点等で、pHが弱酸性であることが好ましい。具体的には、培地のpHが4以上であることが好ましい。また、7以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
【0021】
(その他の培養条件)
培養形態は液体培地を用いた回分培養であってもよく、または培養系に培地成分を連続添加する流加培養であってもよい。通気攪拌して培養することが望ましい。
【0022】
培養温度は、シュードザイマ属酵母が生育し得る温度範囲であればよく、20℃以上が好ましく、22℃以上がより好ましい。また、30℃以下が好ましく、28℃以下がより好ましい。
【0023】
培養時間は、使用する培地の種類および炭素源の濃度等に応じて、適宜選択できる。24時間以上が好ましく、72時間以上がより好ましい。また、10日以下が好ましく、7日以下がより好ましい。
【0024】
(培養物からのエルゴチオネインの回収)
エルゴチオネインを含む培養物からのエルゴチオネインの回収は、例えば、通常の微生物培養物からエルゴチオネインを回収し精製する方法で行えばよい。培養物には、培養上清、培養菌体、培養菌体破砕物等が含まれる。例えば、培養物を遠心分離等して菌体を回収する。回収した菌体を熱水抽出に供する等により、エルゴチオネインを含む抽出液を得る。そして、当該抽出液を精製することによって、エルゴチオネインを回収することができる。微生物のエルゴチオネインの生産量は、例えば、得られた抽出液を、高速液体クロマトグラフィー装置およびLCMS等の質量分析装置によって測定することによって、定量することができる。
【0025】
〔まとめ〕
本実施形態に係るエルゴチオネインの生産方法は、シュードザイマ(Pseudozyma)属の酵母を培地中に培養し、エルゴチオネインを含む培養物を得る工程を含み、前記培地が糖を炭素源として含み、前記糖の濃度が5g/L以上50g/L未満である。
【0026】
また、本実施形態に係るエルゴチオネインの生産方法において、前記培地が、ヒスチジンおよびメチオニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含んでいてもよい。
【0027】
また、本実施形態に係るエルゴチオネインの生産方法において、前記培地が過酸化水素をさらに含んでいてもよい。
【0028】
また、本実施形態に係るエルゴチオネインの生産方法において、前記培地のpHが4以上6以下であってもよい。
【0029】
また、本実施形態に係るエルゴチオネインの生産方法において、前記酵母が、シュードザイマ・アンタクティカ、シュードザイマ・フベイエンシス、シュードザイマ・シアメンシス、シュードザイマ・シャンキシエンシス、シュードザイマ・ルグローサ、シュードザイマ・クラッサ、シュードザイマ・アルボアメニアカ、シュードザイマ・グラミニコーラ、シュードザイマ・フシフォルマタ、シュードザイマ・パラアンタクティカ、シュードザイマ・フロキュロッサ、または、シュードザイマ・チュラシマエンシスに属する微生物であってもよい。
【0030】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0031】
以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
【0032】
〔評価例1〕シュードザイマ属酵母のエルゴチオネイン生産量の測定
3mLのYM培地を含む試験管に、表1に示す酵母16株をそれぞれ植菌した。そして、25℃において200rpmにて3日間培養を行った。YM培地には、10g/Lのグルコース、5g/Lのペプトン、3g/Lの酵母エキス、および、3g/Lの麦芽エキスが含まれている。表1中、Ustilago maydisはシュードザイマ属と近縁種の酵母である。
【0033】
【表1】
【0034】
3日間培養後、培養液を6000rpmにて5分間遠心分離に供した。遠心分離により得られた菌体ペレットを純水で洗浄し、再度遠心分離に供した。遠心分離により得られた菌体ペレットに純水を加えて懸濁した。得られた懸濁液を96℃において10分間加熱して、菌体内成分を抽出した。そして、抽出した菌体内成分を遠心分離に供して菌体残渣を取り除き、抽出液が得られた。
【0035】
抽出液0.15mLとアセトニトリル0.35mLとを混合した溶液を0.45μmのPVDFフィルターで濾過した。得られた濾液をLCMS測定のサンプルとして使用した。
【0036】
LCMS分析には、島津製作所社製LCMS-2020を用いた。また、LCのカラムには、SHODEX社製Asahipak NH2P-40 2D+ガードカラムを使用した。LCの移動相として、10mMギ酸アンモニウムとアセトニトリルとの混合液(10mMギ酸アンモニウム/アセトニトリル=30/70(v/v))を使用した。また、流速は0.1mL/minとし、25℃において分析を行った。
【0037】
MS検出においては、ESIイオン化とAPCIイオン化とを同時に行うDUISモードでイオン化させた。また、エルゴチオネインを検出可能なm/z=230(+)のSIMモードで検出を行った。測定結果を図1に示す。
【0038】
図1の縦軸は培養液1L当たりのエルゴチオネイン(以下、「EGT」と略記する場合がある)の含有量(mg/L-培養液)を示す。図1に示すように、評価した16の酵母株中、14の酵母株においてエルゴチオネインが生産された。菌株番号CBS9960(Pseudozyma siamensis)のEGT生産量が最も高かった(40.1mg/L、13.4mg/L/d)。
【0039】
〔評価例2〕培養条件の検討
3種類の培地を用いて、EGTの生産量を測定した。表2には使用したYM培地およびミネラル培地の組成を示す。表3には、使用したMM培地の組成を示す。表2中の濃度は、培地1L当たりの濃度である。表3中の濃度は、培地中の最終濃度である。MM培地の組成は、Alamgir, K. M. et al, Front. Microbiol., 6, 4025 (2015)のTable S1に記載のMM培地と同じ組成である。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
3mLのYM培地、MM培地またはミネラル培地を含む試験管に、表1に示す酵母16株をそれぞれ植菌した。そして、25℃において200rpmにて3日間培養を行った。MM培地は7日間でも培養を行った。YM培地とMM培地でのEGT生産量を示すデータを図2、YM培地とミネラル培地でのEGT生産量を示すデータを図3に示す。
【0043】
図2に示すように、シュードザイマ属の酵母によるMM培地でのEGT生産量は培養日数に関わらず、YM培地でのEGT生産量よりも低かった。また、図3に示すように、シュードザイマ属の酵母によるYM培地でのEGT生産量はミネラル培地でのEGT生産量よりも高かった。以上のことから、YM培地でシュードザイマ属の酵母を培養することによって、EGT生産量が増加することが分かった。
【0044】
〔評価例3〕培養条件の検討(基本条件におけるEGT生産量の測定)
次に、YM培地を基に培養条件を検討することにした。まず、30mLのYM培地を含む300mLのフラスコにシュードザイマ・アンタクティカ(以下、「PAN」と略記する場合がある)、シュードザイマ・シアメンシス(以下、「PSI」と略記する場合がある)、および、シュードザイマ・シャンキシエンシス(以下、「PSH」と略記する場合がある)をそれぞれ植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=10)。測定結果を図4に示す。
【0045】
図4に示すように、YM培地でのEGT生産量はPSIが最も高かった。PANによるEGT生産量は13.0±3.5mg/L、PSIによるEGT生産量は49.5±7.0mg/L、PSHによるEGT生産量は19.8±2.9mg/Lであった。以下、評価例3の培養条件を基本条件として、培養条件の検討を行うことにした。
【0046】
〔評価例4〕培養条件の検討(アミノ酸供給源の添加)
YM培地中の酵母エキス(YE)またはペプトン(PE)の濃度を上昇させることによって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。YEおよびPEは、YM培地のアミノ酸供給源である。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコにYEまたはPEを添加して、酵母を植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図5に示す。
【0047】
図5中、例えば、「YE 6g/L」は、培地1L当たりに酵母エキス(YE)を6g添加したときのEGT生産量を示す。図5に示すように、酵母エキスの培地への添加によって、EGT生産量に顕著な増加は見られなかった。
【0048】
〔評価例5〕培養条件の検討(エルゴチオネインの前駆体アミノ酸の添加)
次に、YM培地中のヒスチジン(His)、メチオニン(Met)および/またはシステイン(Cys)の濃度を上昇させることによって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。His、MetおよびCysは、EGTの前駆体アミノ酸である。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコにHis、Metおよび/またはCysを添加して、酵母を植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図6に示す。
【0049】
図6中、例えば、「His 1g/L」は、培地1L当たりにヒスチジン(His)を1g添加したときのEGT生産量を示す。図6に示すように、Hisの培地への添加によって、PSIにおけるEGT生産量が顕著に増加した。また、Metの培地への添加によって、PSHにおけるEGT生産量が顕著に増加した。一方、PAN、PSIおよびPSHいずれにおいても、Cysの培地への添加によりEGT生産量は基本条件(評価例3)よりも生産量が減少する傾向が見られた。
【0050】
〔評価例6〕培養条件の検討(温度)
培養温度によって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコに、酵母を植菌した。そして、30℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図7に示す。
【0051】
図7に示すように、培養温度を30℃にしたことによって、EGT生産量は増加しなかった。
【0052】
〔評価例7〕培養条件の検討(振とう速度)
振とう速度によって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコに、酵母を植菌した。そして、25℃において250rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図8に示す。
【0053】
図8に示すように、振とう速度を250rpmにしたことによって、EGT生産量は増加しなかった。
【0054】
〔評価例8〕培養条件の検討(NaCl濃度)
YM培地中のNaCl濃度を上昇させることによって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコに0.5M NaClを添加して、酵母を植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図9に示す。
【0055】
図9に示すように、YM培地中のNaCl濃度を上昇させることによって、EGT生産量は増加しなかった。
【0056】
〔評価例9〕培養条件の検討(pH)
YM培地のpHによって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコに、酵母を植菌した。YM培地のpHは、1M塩酸または1M水酸化ナトリウムでpH4~8に調整した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図10に示す。
【0057】
図10に示すように、弱酸性(pH4~5)の条件下で、PSIおよびPSHにおいてEGT生産量が増加する傾向が見られた。
【0058】
〔評価例10〕培養条件の検討(過酸化水素の添加)
YM培地中の過酸化水素の濃度を上昇させることによって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコに、過酸化水素(1、3、5または10mM)を添加して、酵母を植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図11に示す。
【0059】
図11に示すように、YM培地中への低濃度(1~3mM)の過酸化水素の添加によって、PAN、PSIおよびPSHいずれの酵母においてEGT生産量が増加した。
【0060】
〔評価例11〕培養条件の検討(金属塩の添加)
YM培地中の金属塩の濃度を上昇させることによって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。30mLのYM培地を含む300mLのフラスコに1mMの金属塩(FeSO、FeCl、CuSOまたはCuCl)を添加して、酵母を植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図12に示す。
【0061】
図12に示すように、YM培地中の金属塩の濃度を上昇させることによって、EGT生産量は増加しなかった。
【0062】
〔評価例12〕培養条件の検討(グルコース濃度)
YM培地中のグルコース濃度によって、EGT生産量が増加するか否かを検証した。糖濃度を1、5、10、50または100g/Lに調整したYM培地30mLを含む300mLのフラスコに、酵母を植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、EGT生産量を測定した(n=1)。測定結果を図13に示す。
【0063】
図13に示すように、PANおよびPSHにおいては、5g/L以上の糖濃度のYM培地においてEGTが生産された。PSIにおいては、1g/L以上の糖濃度のYM培地においてEGTが生産された。
【0064】
次に、YM培地中のグルコース濃度によって、酵母の増殖に影響があるか否かを検証した。糖濃度を1、5、10、50または100g/Lに調整したYM培地30mLを含む300mLのフラスコに、酵母を植菌した。そして、25℃において200rpmにて5日間培養を行い、1L培養液当たりの酵母数(乾燥菌体重量)を測定した。測定結果を図14に示す。
【0065】
図14に示すように、50g/L以上の糖濃度のYM培地において菌体重量が顕著に増加した。また、図13および14から、50g/L以上の糖濃度のYM培地においては、菌体当たりのEGT生産量(=EGT濃度/乾燥菌体重量)が低くなることが分かった。
【0066】
図15は、乾燥菌体1g当たりのEGT生産量(mg)を示すグラフである。図15からも、50g/L以上の糖濃度のYM培地においては、いずれの菌株でも菌体当たりのEGT生産量が大きく減少した。また、いずれの菌株でも、5g/L以上の糖濃度のYM培地において、菌体当たりのEGT生産量が増加した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の生産方法は、エルゴチオネインの生産量が高く、健康および美容等の分野において利用可能である。
図1
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図15