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特許74752643-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物及び6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物の製造方法並びにその中間体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物及び6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物の製造方法並びにその中間体
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/41 20060101AFI20240419BHJP
   C07C 47/21 20060101ALI20240419BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20240419BHJP
   C07C 69/145 20060101ALI20240419BHJP
   C07C 67/27 20060101ALI20240419BHJP
   C07C 69/587 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C07C45/41
C07C47/21
C07C67/08
C07C69/145
C07C67/27
C07C69/587
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020205403
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092538
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】馬場 啓弘
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】石橋 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】長江 祐輔
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-279103(JP,A)
【文献】特表2018-535983(JP,A)
【文献】Synthetic Communications,1990年,Vol.20, No.4,pp.495-501
【文献】Chemistry Letters,2007年,Vol.36, No.7,pp.886-887
【文献】J. Org. Chem.,1980年,Vol.45,pp.2910-2912
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(5):
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、且つXは、ハロゲン原子を表す。)
で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を、下記一般式(6):
【化2】
(式中、Rは水酸基の保護基を表す。)
で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ(Wittig)反応に付すことにより、下記一般式(7):
【化3】
(式中、R及びRは上記で定義した通りである。)
で表される、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物を得る工程と、
該得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を脱保護反応に付すことにより、下記一般式(8):
【化4】
(式中、Rは上記で定義した通りである。)
で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物を得る工程と、
該得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物とのジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応に付すことより、下記一般式(1):
【化5】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、且つRは、炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物を得る工程と、
該得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことにより、下記一般式(2):
【化6】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物を得る工程
を少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の製造方法。
【請求項2】
下記一般式(5):
【化7】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、且つXは、ハロゲン原子を表す。)
で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を、下記一般式(6):
【化8】
(式中、Rは水酸基の保護基を表す。)
で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ(Wittig)反応に付す工程と、ここで、該ウィッティヒ反応に引き続き、脱保護反応が生じることにより、下記一般式(8):
【化9】
(式中、Rは上記で定義した通りである。)
で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物が得られる、
該得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物とのジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応に付すことより、下記一般式(1):
【化10】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、且つRは、炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物を得る工程と、
該得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことにより、下記一般式(2):
【化11】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物を得る工程
を少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(5):
【化12】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、且つXは、ハロゲン原子を表す。)
で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を、下記一般式(6):
【化13】
(式中、Rは水酸基の保護基を表す。)
で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ(Wittig)反応に付すことにより、下記一般式(7):
【化14】
(式中、R及びRは上記で定義した通りである。)
で表される、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物を得る工程と、
該得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を脱保護反応に付すことにより、下記一般式(8):
【化15】
(式中、Rは上記で定義した通りである。)
で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物を得る工程と、
該得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物とのジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応に付すことにより、下記一般式(1):
【化16】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、且つRは、炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物を得る工程と、
該得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことにより、下記一般式(2):
【化17】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物を得る工程と、
該3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物及びエチレン=オキシドを用いた、ウィッティヒ(Wittig)反応を含む4炭素増炭反応に付すことにより、下記一般式(3):
【化18】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物を得る工程と、
該得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)をエステル化反応に付すことにより、下記一般式(4):
【化19】
(式中、Rは、上記で定義した通りであり、且つRは、水素原子又は炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物を得る工程と
を少なくとも含む、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(5):
【化20】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、且つXは、ハロゲン原子を表す。)
で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を、下記一般式(6):
【化21】
(式中、Rは水酸基の保護基を表す。)
で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ(Wittig)反応に付す工程と、ここで、該ウィッティヒ反応に引き続き、脱保護反応が生じることにより、下記一般式(8):
【化22】
(式中、Rは上記で定義した通りである。)
で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物が得られる、
該得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物とのジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応に付すことにより、下記一般式(1):
【化23】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、且つRは、炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物を得る工程と、
該得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことにより、下記一般式(2):
【化24】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物を得る工程と、
該3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物及びエチレン=オキシドを用いた、ウィッティヒ(Wittig)反応を含む4炭素増炭反応に付すことにより、下記一般式(3):
【化25】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物を得る工程と、
該得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)をエステル化反応に付すことにより、下記一般式(4):
【化26】
(式中、Rは、上記で定義した通りであり、且つRは、水素原子又は炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物を得る工程と
を少なくとも含む、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(5):
【化27】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、且つXは、ハロゲン原子を表す。)
で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を、下記一般式(6):
【化28】
(式中、Rは水酸基の保護基を表す。)
で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ(Wittig)反応に付すことにより、下記一般式(7):
【化29】
(式中、R及びRは上記で定義した通りである。)
で表される、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物を得る工程と、
該得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を脱保護反応に付すことにより、下記一般式(8):
【化30】
(式中、Rは上記で定義した通りである。)
で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を得る工程と、
該得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物とのジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応に付すことにより、下記一般式(1):
【化31】
(式中、Rは上記で定義した通りであり、且つRは、炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物を得る工程と
を少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物及び6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物の製造方法、並びにその中間体である3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エステル化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常、雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンは、発生予察及び地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また害虫防除の手段として広く利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure and kill又はAttract and kill)、誘引感染法(Lure and infect又はAttract and infect)及び交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。昆虫1個体から抽出できる性フェロモンはごく微量であることから、天然由来の性フェロモンを交信攪乱等に利用することは難しく、性フェロモンの利用にあたっては必要量の性フェロモン原体を人工的に、かつ工業的に製造することが、基礎研究のために、更には応用のために強く求められている。
【0003】
California red scale(アカマルカイガラムシ、学名:Aonidiella aurantii)は、世界中に広く分布し、柑橘類を加害する害虫である。California red scaleの性フェロモンとしては、(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテートが報告されている(下記の非特許文献1)。6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテートとしては、(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテート、(3E,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテート、(3Z,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテート、(3E,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテートの4異性体が存在する。California red scaleは、これら4異性体混合物によっても誘引されることが報告されている(非特許文献1)。
(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテートの合成方法としては、例えば、(S)-(+)-カルボン(Carvone)を原料として、過酸化水素を用いた酸化反応をはじめとする9工程により、(R)-3-イソプロペニル-6-ヘプテナールを導き、その後、ウィッティヒ(Wittig)反応を含む3工程、そしてガス液体クロマトグラフィー(GLC)分離により、(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテートを得る方法が報告されている(下記の非特許文献2)。
【0004】
White peach scale(クワシロカイガラムシ、学名:Pseudaulacaspis pentagona)は、世界中に広く分布し、桃等の果樹及び茶を加害する害虫である。White peach scaleの性フェロモンとしては、(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートが報告されている(下記の非特許文献3)。6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートとしては、(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネート、(3E,6R)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネート、(3Z,6S)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネート、(3E,6S)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートの4異性体が存在する。White peach scaleは、その性フェロモンである(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートと、該性フェロモンの異性体である(3E,6R)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートとの混合物によっても誘引される(下記の特許文献1)。
(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートの合成方法としては、例えば、(R)-(+)-リモネン(Limonene)をオゾン酸化、次いでウィッティヒ反応、アセタールの加水分解反応により、(R)-3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテナールを導き、その後、ウィッティヒ反応を含む4炭素増炭反応、プロピオニル化により(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートを合成する方法が報告されている(下記の非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-144114号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】M.J.Gieselmann et al.,J.Insect.Physiol.26,179(1980)
【文献】W.Roelofs et al.,J.Chem.Ecol.,Vol.4,No.2,211(1978)
【文献】R.R.Heath et al.,J.Org.Chem.45,2910(1980)
【文献】M.Schlosser et al.,CHIMIA 37,10(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2では、(S)-(+)-カルボンに対して過酸化水素を用いた酸化反応を行っており、当該酸化反応は爆発を引き起こす恐れもあるため、工業的な実施が困難である。また、原料の(S)-(+)-カルボンから中間体である(R)-3-イソプロペニル-6-ヘプテナールを導くまでに9工程を要し、9工程のトータル収率も12%と低い。さらに、原料の(S)-(+)-カルボンから(R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテートを合成するまでのトータル収率も5.3%と低い。
非特許文献3では、(R)-(+)-リモネンの酸化反応において、腐食性があり且つ猛毒なオゾンを用いているため、工業的な実施が困難である。
【0008】
このように、従来の製造方法では、工業的に十分量の6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテート及び6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートを製造することは、非常に困難であると考えられた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、生物学的又は農学的活性試験、及び/又は実際の応用又は利用等に必要な十分量の原体を供給するために、酸化反応を不要とし、効率的且つ工業的に6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテート及び6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネート等の6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、それら化合物を製造するために有用な中間体である3-イソプロペニル-6-ヘプテナール及び3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテナールの製造方法を提供することも目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテナールを製造するための有用な中間体である3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エステル化合物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物を、還元剤との還元反応に付すことにより3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物が得られることを見出した。さらに、本発明者らは、中間体としての3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物を用いて、工業的に6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテート及び6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネートがそれぞれ得られることを見出した。さらに、本発明者らは、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物が、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物と、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ反応、次いで、脱保護反応に付し、引き続き、ジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応により、酸化反応を行うことなく、効率的かつ工業的に得られることを見出し、本発明を為すに至った。
【0013】
本発明の一つの態様によれば、
下記一般式(1):
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、且つRは、炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物を、還元剤との還元反応に付すことより、下記一般式(2):
【化2】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物を得る工程
を少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の他の態様では、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の製造方法と、
該3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物及びエチレン=オキシドを用いた、ウィッティヒ(Wittig)反応を含む4炭素増炭反応に付すことにより、下記一般式(3):
【化3】
(式中、Rは、上記で定義した通りである。)
で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物を得る工程と、
該得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)をエステル化反応に付すことにより、下記一般式(4):
【化4】
(式中、Rは、上記で定義した通りであり、且つRは、水素原子又は炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物を得る工程と
を少なくとも含む、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の他の態様では、下記一般式(5):
【化5】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、且つXは、ハロゲン原子を表す。)
で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を、下記一般式(6):
【化6】
(式中、Rは水酸基の保護基を表す。)
で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ反応に付すことにより、下記一般式(7):
【化7】
(式中、R及びRは上記で定義した通りである。)
で表される、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物を得る工程と、
該得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物を脱保護反応に付すことより、下記一般式(8):
【化8】
(式中、Rは上記で定義した通りである。)
で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を得る工程と、
該得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物とのジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応に付すことにより、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を得る工程と
を少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の製造方法が提供される。
さらに、本発明の他の態様では、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の製造方法と、該製造方法で得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことより、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を得る工程とを少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の製造方法が提供される。
さらに、本発明の他の態様では、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の製造方法と、該製造方法で得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことより、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を得る工程と、該3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物及びエチレン=オキシドを用いた、ウィッティヒ反応を含む4炭素増炭反応に付すことにより、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)を得る工程と、該得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)をエステル化反応に付すことにより、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)を得る工程とを少なくとも含む、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明のさらに他の態様では、下記一般式(5):
【化9】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、且つXは、ハロゲン原子を表す。)
で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を、下記一般式(6):
【化10】
(式中、Rは水酸基の保護基を表す。)
で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物とのウィッティヒ反応に付す工程と、ここで、該ウィッティヒ反応に引き続き、脱保護反応が生じることにより、下記一般式(8):
【化11】
(式中、Rは上記で定義した通りである。)
で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)が得られる、
該得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物とのジョンソン・クライゼン(Johnson-Claisen)転位反応に付すことにより、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を得る工程と
を少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の製造方法が提供される。
さらに、本発明の他の態様では、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の製造方法と、該製造方法で得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことより、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を得る工程とを少なくとも含む、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の製造方法が提供される。
さらに、本発明の他の態様では、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の製造方法と、該製造方法で得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことより、上記の3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を得る工程と、該3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物及びエチレン=オキシドを用いた、ウィッティヒ反応を含む4炭素増炭反応に付すことにより、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)を得る工程と、該得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)をエステル化反応に付すことにより、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)を得る工程とを少なくとも含む、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)の製造方法が提供される。
【0017】
さらに、本発明の他の態様では、下記一般式(1’):
【化12】
(式中、Rは、炭素数1~10の一価炭化水素基を表す。)
で表される3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エステル化合物が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安全性、経済性及び環境負荷の面から工業的な実施が困難である酸化反応を不要とし、効率的且つ工業的に6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物を製造する方法を提供できる。また、本発明によれば、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物の製造において有用な中間体である3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物の製造方法を提供できる。さらに、本発明によれば、3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテナール化合物の製造において有用な中間体である3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エステル化合物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中の中間体、試薬及び目的物の化学式において、構造上、置換位置の異なる異性体、又はエナンチオ異性体若しくはジアステレオ異性体等の立体異性体が存在し得るものがあるが、特に記載がない限り、いずれの場合も各化学式はこれらの異性体のすべてを表すものとする。また、これらの異性体は、単独であってもよく、混合物であってもよい。
【0020】
本発明者らは、以下に説明するように、本発明の目的化合物である、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)及び3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の合成計画を考察した。
【化13】
【0021】
上記の逆合成解析の反応式中、白抜き矢印は逆合成解析(Retrosynthetic analysis)におけるトランスフォームを表す。また、Xはハロゲン原子を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1~10の一価炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~10の一価炭化水素基を表し、及びRは水酸基の保護基を表す。
【0022】
(工程F’) 本発明のうちの一つの目的物である6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)をエステル化反応に付すことにより、合成することができると考えられる。
【0023】
上記一般式(4)は、下記一般式(4a)で表される(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物、下記一般式(4b)で表される(3E,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物、下記一般式(4c)で表される(3Z,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物、下記一般式(4d)で表される(3E,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物、又はそれらの2以上の組み合わせを表す。
【化14】
【0024】
上記一般式(3)は、下記一般式(3a)で表される(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物、下記一般式(3b)で表される(3E,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物、下記一般式(3c)で表される(3Z,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物、下記一般式(3d)で表される(3E,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物、又はそれらの2以上の組み合わせを表す。
【化15】
【0025】
(工程E’) 本発明のうちの別の目的化合物である6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)は、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を、一般式(9)で表されるエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物及びエチレン=オキシド(10)を用いた、ウィッティヒを含む4炭素増炭反応に付すことにより、合成することができると考えられる。
【0026】
上記一般式(2)は、下記一般式(2a)で表される(R)-3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物、下記一般式(2b)で表される(S)-3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物、又はそれらの組み合わせを表す。
【化16】
【0027】
(工程D’) 本発明の別の目的物である3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)は、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)のエステルをアルデヒドへと選択的に還元することにより、すなわち3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付すことにより、合成することができると考えられる。
【0028】
上記一般式(1)は、下記一般式(1a)で表される(R)-3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物、下記一般式(1b)で表される(S)-3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物、又はそれらの組み合わせを表す。
【化17】
【0029】
次に、本発明で用いられる中間体である3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の合成計画を考察した。
【0030】
(工程C’) 3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)は、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物(11)とのジョンソン・クライゼン転位反応に付すことにより、合成することができると考えられる。
【0031】
上記一般式(8)は、下記一般式(8a)で表される(Z)-2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物、下記一般式(8b)で表される(E)-2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物、又はそれらの組み合わせを表す。
【化18】
【0032】
(工程B’) 2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を脱保護反応に付すことにより、合成することができると考えられる。
【0033】
上記式(7)は、下記式(7a)で表される、保護された水酸基を1位に有する(Z)-2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物、下記式(7b)で表される、保護された水酸基を1位に有する(E)-2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物、又はそれらの組み合わせを表す。
【化19】
【0034】
(工程A’) 保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)は、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)と、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6)とのウィッティヒ反応に付すことより、合成することができると考えられる。
【0035】
そして、上記逆合成解析の反応式を考慮すると、本発明の1つの実施態様に従う化学反応式は、下記の通りに示される。下記に示す工程A~Fはそれぞれ、上記で述べた逆合成解析の反応式中の工程A’~F’に対応する。
【化20】
【0036】
すなわち、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)のエステルをアルデヒドへと選択的に還元することにより、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を合成することが可能となり(上記工程D)、これにより簡便に、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)(上記工程E)及び6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)(上記工程F)を得ることができる。
【0037】
以下に、本発明の実施の形態としての上記工程A~Fを詳細に説明する。まず、本発明の目的化合物である3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を合成する工程D、そして6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)を合成する工程E、そして本発明の目的化合物である6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)を合成する工程Fの順に説明し、その後に、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を合成する工程A、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を合成する工程B、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を合成する工程Cについて説明する。
【0038】
以下に、本発明の実施の形態としての上記工程D~F、そして工程A~Cを詳細に説明する。
[1]工程D
以下に、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を合成する工程Dについて説明する。3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)は、下記の化学反応式に示されている通り、例えば、下記において詳述する工程Cで得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を、還元剤との還元反応に付して、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)のエステルを還元することにより得られる。
【化21】
【0039】
まず、下記一般式(1)で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物について述べる。
【化22】
【0040】
3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)は、下記一般式(1a)で表される(R)-3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物及び下記一般式(1b)で表される(S)-3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物として存在しうる。これらの異性体は、単独であってもよく、又は混合物であってもよいが、California red scale及びWhite peach scaleの雌が有する天然の性フェロモンと同じ骨格をもつ(1a)が含まれていることが好ましい。
【化23】
【0041】
は、水素原子又はメチル基を表し、且つRは、炭素数1~10、好ましくは1~5の一価炭化水素基を表す。
一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基及び1-メチルエチル基等の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基;並びに、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、エチニル基、プロピニル基及び1-ブチニル基等の直鎖状又は分岐状の不飽和炭化水素基が挙げられ、これらと異性体の関係にある炭化水素基でもよい。また、これらの1価の炭化水素基の水素原子中の一部がメチル基又はエチル基等で置換されていてもよい。
これらの1価の炭化水素基の中から、後の反応における反応性及び/又は入手の容易さを考慮して適切なものが選択できる。
【0042】
3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の具体例としては、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸メチル、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エチル、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸プロピル等の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物;3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸メチル、3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エチル及び3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸プロピル等の3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1’)が挙げられる。
また、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)の中でも、下記に示す、Rがメチル基である3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1’)がWhite peach scaleの雌の性フェロモン製造の中間として使用できる観点から、有用である。
【化24】
【0043】
は、上記一般式(1)で定義した通りである。
【0044】
次に、下記一般式(2)で表される3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物について述べる。
【化25】
【0045】
3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)は、下記一般式(2a)で表される(R)-3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物及び下記一般式(2b)で表される(S)-3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物として存在しうる。これらの異性体は、単独であってもよく、又は混合物であってもよいが、California red scale及びWhite peach scaleの雌が有する天然の性フェロモンと同じ骨格をもつ(2a)が含まれていることが好ましい。
【化26】
【0046】
は、上記一般式(1)で定義した通りである。
【0047】
3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の具体例としては、3-イソプロペニル-6-ヘプテナール及び3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテナールが挙げられる。
【0048】
3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)は、基質である3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)のエステル基をアルデヒドへ選択的に還元することにより、合成することができる。該エステル基の還元反応は、還元剤を用いて、溶媒中又は無溶媒で、必要に応じて加熱又は冷却することにより行われる。
【0049】
該エステル基の還元反応において、過還元(Over-reduction)によりアルコールが副生しうる。そのため本還元反応では、後述する還元反応の条件の中で、過還元によるアルコールの副生を抑えることができ、且つ3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を選択的に良い収率で得られる最適な条件を選べばよい。最適な条件としては、例えば、ナトリウム=t-ブトキシドと水素化ジイソブチルアルミニウムとを用いて、水素化ジイソブチルt-ブトキシアルミニウムナトリウムを反応系中で調製し、これを還元剤として用いること、溶媒としてテトラヒドロフランを用いること、反応温度を10℃以下とすること、又はそれらの少なくとも2以上を組み合わせること等が挙げられる。
【0050】
還元反応における還元剤としては、例えば、水素;ボラン、アルキルボラン及びジアルキルボラン等のホウ素化合物;ジアルキルシラン、エステルシラン、アルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウム、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム及び水素化カルシウム等の金属水素化物類;並びに、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムカリウム、水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムリチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリメトキシホウ素ナトリウム、水素化トリメトキシアルミニウムリチウム、水素化ジエトキシアルミニウムリチウム、水素化トリt-ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム及び水素化ジイソブチルアルコキシ等の錯水素化塩類並びに該錯水素化塩類のアルコキシ又はアルキル誘導体を例示できるが、反応条件及び/又は後処理の容易さ及び/又は生成物の単離の容易さ等の観点から、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムカリウム及び水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムリチウムが好ましい。水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムカリウム及び水素化ジイソブチルアルコキシアルミニウムリチウムは反応系内で調製したものを用いることが好ましい。調製方法としては、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウムと、対応するアルコキシ金属塩とを任意の割合で混合することが挙げられる。アルコールへの過還元を抑制し、アルデヒドが良い収率で得られる還元剤の特に好ましい例として、水素化ジイソブチルt-ブトキシアルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルt-ブトキシアルミニウムカリウム及び水素化ジイソブチルt-ブトキシアルミニウムリチウムが挙げられる。
【0051】
還元反応における還元剤の使用量は、使用する還元剤及び/又は応条件等によって異なるが、一般的には、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)1モルに対して、好ましくは0.5モル~1000000モル、より好ましくは0.9~200モルである。
【0052】
還元反応に使用する溶媒としては、用いる還元剤の種類にもよるが、水;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール=モノメチル=エーテル及びジエチレングリコール=モノメチル=エーテル等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル類;並びに、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類が好ましい。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量は、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0053】
該還元反応の反応温度は、好ましくは-78℃~溶媒の沸点温度、より好ましくは-78℃~50℃である。
該還元反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~72時間程度である。
【0054】
以上の方法により得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよく、工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0055】
[2]工程E
以下に、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)を合成する工程Eについて説明する。6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)は、下記反応式に示されている通り、上記工程Dで得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)及びエチレン=オキシド(10)を用いた、ウィッティヒ反応を含む4炭素増炭反応に付すことにより得ることができる。
【化27】
【0056】
まず、下記一般式(9)で表されるエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物について述べる。
【化28】
【0057】
Xはハロゲン原子を表し、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。
【0058】
エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)は、市販のものを用いることができる。
代替的には、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)は、下記に示す反応式に従って、下記一般式(12)で表されるエチル=ハライド化合物と、トリフェニルホスフィン(PPh)とを溶媒中で反応させることにより調製することもできる。
【化29】
【0059】
一般式(12)におけるXは、上記一般式(9)で定義した通りである。
【0060】
上記反応式に従って、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)を調製する際に、反応を加速させるために、金属ハロゲン化物及び/又は四級オニウム塩を配合してもよい。該金属ハロゲン化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム及び臭化カリウム等が挙げられる。該四級オニウム塩としては、テトラエチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルホスホニウム=ブロミド、テトラエチルアンモニウム=ヨージド、テトラブチルアンモニウム=ヨージド、テトラブチルホスホニウム=ヨージド等が挙げられる。
【0061】
また、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)を調製する際に、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等の炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の水酸化物塩;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、キノリン、ピロリジン、ピペリジン、コリジン、ルチジン及びモルホリン等の有機塩基類から選択される1種又は2種以上の塩基を加えて、反応液を塩基性にして行ってもよい。
【0062】
エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)調製に用いる溶媒としては、後述するウィッティヒ反応における溶媒と同じ溶媒が使用できる。
該溶媒の量は、エチル=ハライド化合物(12)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0063】
エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)調製における反応温度は、反応条件にもよるが、-10℃~180℃、好ましくは0℃~160℃、さらに好ましくは10℃~140℃で行うのがよい。
エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)調製における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)又は薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~60時間程度である。
【0064】
次に、下記一般式(3)で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物について述べる。
【化30】
【0065】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)は、下記一般式(3a)で表される(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物、下記一般式(3b)で表される(3E,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物、下記一般式(3c)で表される(3Z,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物及び下記一般式(3d)で表される(3E,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物として存在しうる。これらの異性体は、単独であってもよく、又は2種以上の混合物であってもよいが、California red scale及びWhite peach scaleの雌が有する天然の性フェロモンと同じ骨格をもつ(3a)が含まれていることが好ましい。
【化31】
【0066】
は、上記一般式(1)で定義した通りである。
【0067】
ウィッティヒ反応とは、ウィッティヒ試薬と呼ばれるリンイリド(phosphorous ylide)を用いてカルボニル化合物からアルケンを合成する化学反応をいう。
以下、ウィッティヒ反応を含む4炭素増炭反応について、Rが水素原子の場合の炭素数を例として説明する。RがCHの場合は、Rを有する部分の炭素数が1炭素増えることになる。
ウィッティヒ反応を含む4炭素増炭反応としては、例えば、下記の反応経路1及び反応経路2がある。
【0068】
反応経路1に示す方法では、2炭素(C2)を有するエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)に塩基を作用させてイリド(ylide)(13)を調製し、該調製したイリド(13)と、2炭素(C2)を有するエチレン=オキシド(10)とを反応させて、4炭素骨格(C4)を有する3-トリフェニルホスホニオブトキシド(3-Triphenylphosphoniobutoxide)(14)を調製し(C2+C2=C4)、該調製した3-トリフェニルホスホニオブトキシド(14)に塩基を作用させてリンイリド(15)へ変換し、その後に、該リンイリド(15)と、10炭素(C10)を有する3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)とのウィッティヒ反応により、14炭素(C14)を有する6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)を合成する(C4+C10=C14)。
【0069】
反応経路2に示す方法では、2炭素(C2)を有するエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)に塩基を作用させてイリド(13)を調製し、該調製したイリド(13)と、10炭素(C10)を有する3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)とを反応させて、12炭素骨格(C12)を有するベタイン中間体(16)を調製し(C2+C10=C12)、調製したベタイン中間体(16)に塩基を作用させてβ-オキシドリンイリド(17)へ変換し、その後に、該β-オキシドリンイリド(17)と、2炭素(C2)を有するエチレン=オキシド(10)とを反応させて、14炭素(C14)を有する6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)を合成する(C12+C2=C14)。
反応経路2の合成方法は一般に、三次元的ウィッティヒ反応又はSCOOPY(α-Substitution plus Carbonyl Olefination via β-Oxide Phosphorous Ylides)反応として知られている(例えば、上記の非特許文献4を参照)。
【0070】
これらの合成方法のうち、経済性、反応性、収率を鑑み、工業的製法に適した方を選べばよいが、収率の観点から反応経路1が好ましい。
【化32】
【化33】
【0071】
まず反応経路1について、以下に詳細に説明する。
2炭素(C2)を有するエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)からのイリド(13)の調製は、溶媒中、必要に応じて加熱又は冷却下で、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)に塩基を加えて実施する。
イリド(13)調製に用いる塩基としては、例えば、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、ナトリウム=t-ブトキシド、ナトリウム=t-アミロキシド、リチウム=メトキシド、リチウム=エトキシド、リチウム=t-ブトキシド、リチウム=t-アミロキシド、カリウム=メトキシド、カリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド及びカリウム=t-アミロキシド等の金属アルコキシド類;メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、塩化メチルマグネシウム及びジムシルナトリウム等の有機金属試薬;ナトリウム=アミド、リチウム=アミド、リチウム=ジイソプロピルアミド、リチウム=ヘキサメチルジシラジド、ナトリウム=ヘキサメチルジシラジド、カリウム=ヘキサメチルジシラジド及びリチウム=ジシクロヘキシルアミド等の金属アミド類;並びに、水素化ナトリウム、水素化カリウム及び水素化カルシウム等の水素化金属類を挙げることができる。
これらの塩基は、単独で用いてもよく又は2以上の塩基を混合して用いてもよく、基質の種類及び/又は反応性及び/又は選択性を考慮して選択できる。
該塩基の使用量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは0.7モル~5モルである。
【0072】
イリド(13)調製に用いる溶媒としては、後述するウィッティヒ反応における溶媒と同じ溶媒が使用できる。
該溶媒の量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0073】
イリド(13)調製における反応温度は、好ましくは-78~50℃、より好ましくは-78℃~35℃である。
イリド(13)調製における反応時間は、5分間~18時間が好ましいが、試薬の安定性から5分間~10時間がより好ましい。
【0074】
次に、該調製したイリド(13)に、溶媒中、2炭素(C2)を有するエチレン=オキシド(10)を加えて2炭素増炭することにより、4炭素骨格(C4)を有する3-トリフェニルホスホニオブトキシド(14)を調製することができる。
2炭素増炭反応におけるエチレン=オキシド(10)の使用量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは0.6モル~5モルである。
【0075】
2炭素増炭反応における溶媒としては、後述するウィッティヒ反応における溶媒と同じ溶媒が使用できる。
該溶媒の量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0076】
2炭素増炭反応における反応温度は、好ましくは-78~50℃、より好ましくは-78℃~35℃である。
2炭素増炭反応における反応時間は、5分間~18時間が好ましいが、試薬の安定性から5分間から10時間がより好ましい。
【0077】
次に、該2炭素増炭反応により得られた3-トリフェニルホスホニオブトキシド(14)に、溶媒中、必要に応じて加熱又は冷却下で塩基を加えることにより、リンイリド(15)へ変換できる。
3-トリフェニルホスホニオブトキシド(14)からリンイリド(15)の調製において用いる塩基の種類及びその使用量、溶媒、並びに反応温度及び反応時間は、上記イリド(13)の調製に記載の条件と同じである。
【0078】
最後に、該調製したリンイリド(15)に、必要に応じて冷却又は加熱条件下で、10炭素(C10)を有する3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を加えてウィッティヒ反応を行うことにより、14炭素(C14)を有する6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)が合成できる。
ウィッティヒ反応における3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の使用量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは0.1モル~5モルである。
ウィッティヒ反応における溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール及びt-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0079】
ウィッティヒ反応の反応温度は、-78℃~50℃が好ましいが、-50℃~35℃で行うのがより好ましい。
ウィッティヒ反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~24時間程度である。
【0080】
次に、反応経路2について、以下に詳細に説明する。
2炭素(C2)を有するエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)からのイリド(13)の調製は、溶媒中、必要に応じて加熱又は冷却下で、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)に塩基を加えて実施する。該イリド(13)を調製する方法については、用いる塩基、塩基の使用量、溶媒、並びに反応温度及び反応時間は上記イリド(13)の調製に記載の条件と同じである。
【0081】
次に、該調製したイリド(13)に、溶媒中、10炭素(C10)を有する3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)を加えて10炭素増炭することにより、12炭素骨格(C12)を有するベタイン中間体(16)を調製することができる。
ベタイン中間体調製における3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の使用量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは0.1モル~5モルである。
【0082】
ベタイン中間体調製における溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール、t-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の量は、エチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0083】
ベタイン中間体調製における反応温度は、-78℃~50℃が好ましいが、-78℃~20℃で行うのがより好ましい。
ベタイン中間体調製における反応時間は、任意に設定できるが、通常0.001~24時間程度である。
【0084】
次に、該調製したベタイン中間体(16)に塩基を加えて、β-オキシドリンイリド(17)を調製する。
β-オキシドリンイリド(17)調製における塩基の種類及びその使用量、溶媒、並びに反応温度及び反応時間は、上記イリド(13)の調製に記載の条件と同じである。
【0085】
最後に、該調製したβ-オキシドリンイリド(17)に、溶媒中、エチレン=オキシド(10)を加える2炭素増炭反応を行うことにより、14炭素(C14)を有する6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)が合成できる。
エチレン=オキシド(10)の使用量、溶媒、並びに反応温度及び反応時間は、上記3-トリフェニルホスホニオブトキシド(14)の調製に記載の条件と同じである。
【0086】
以上の方法により得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよく、工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0087】
[3]工程F
以下に、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)を合成する工程Fについて説明する。6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)は、下記反応式で示されている通り、上記工程Eで得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)をエステル化反応に付すことにより得ることができる。
【化34】
【0088】
下記一般式(4)で表される6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物について述べる。
【化35】
【0089】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)は、下記一般式(4a)で表される(3Z,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物、下記一般式(4b)で表される(3E,6R)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物、下記一般式(4c)で表される(3Z,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物及び下記式(4d)で表される(3E,6S)-6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物として存在しうる。これらの異性体は、単独であってもよく、又は2種以上の混合物であってもよいが、California red scale及びWhite peach scaleの雌が有する天然の性フェロモンと同じ骨格をもつ(4a)が含まれていることが好ましい。
【化36】
【0090】
は、上記一般式(1)で定義した通りである。Rは、水素原子又は炭素数1~10、好ましくは1~5の一価炭化水素基を表す。
一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基及び1-メチルエチル基等の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基;並びに、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、エチニル基、プロピニル基及び1-ブチニル基等の直鎖状又は分岐状の不飽和炭化水素基が挙げられ、これらと異性体の関係にある炭化水素基でもよい。また、これらの1価の炭化水素基の水素原子中の一部がメチル基又はエチル基等で置換されていてもよい。
これらの1価の炭化水素基の中から、後の反応における反応性及び/又は入手の容易さを考慮して適切なものが選択できる。
【0091】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)の具体例としては、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=アセテート、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=プロピオネート、6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=アセテート及び6-イソプロペニル-3,9-ジメチル-3,9-デカジエニル=プロピオネート等が挙げられる。
【0092】
エステル化反応としては、公知のエステルの製造方法、例えば、(i)アシル化剤との反応、(ii)カルボン酸との反応、(iii)エステル交換反応、(iv)6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)の水酸基を脱離基に変換し、その後にカルボン酸と反応させる方法等を適用できる。
【0093】
(i)アシル化剤との反応
アシル化剤との反応では、単独又は2種類以上の混合溶媒中、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)を、アシル化剤、そして塩基の順に或いはその逆の順に、又はアシル化剤及び塩基と同時に反応させる方法が適用できる。
アシル化剤としては、塩化アシル及び臭化アシル等のハロゲン化アシル;カルボン酸無水物、カルボン酸トリフルオロ酢酸混合酸無水物、カルボン酸メタンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸トリフルオロメタンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸ベンゼンスルホン酸混合酸無水物及びカルボン酸p-トルエンスルホン酸混合酸無水物等のカルボン酸混合酸無水物;並びに、カルボン酸p-ニトロフェニル等が挙げられる。
塩化アシルの具体例としては、アセチル=クロリド、プロピオニル=クロリド、クロトノイル=クロリド及びベンゾイル=クロリド等が挙げられる。カルボン酸無水物としては、無水酢酸及び無水プロピオン酸等が挙げられる。
アシル化剤の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、さらに好ましくは1~5モルの範囲である。
【0094】
アシル化剤との反応に用いる塩基としては、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、2-エチルピリジン及び4-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
該塩基の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは1~500モルである。
【0095】
アシル化剤との反応に用いる溶媒としては、上記塩基を溶媒として用いてもよいし、塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;アセトン及び2-ブタノン等のケトン類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは10~1,000,000gである。
【0096】
カルボン酸無水物、カルボン酸混合酸無水物及びカルボン酸p-ニトロフェニル等のアシル化剤を用いる反応では、塩基の代わりに酸触媒下にて反応を行うこともできる。
酸触媒としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及び硝酸等の無機酸類;シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸類;三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)=メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド及び酸化チタン(IV)等のルイス酸(Lewis acid)類等が挙げられる。
該酸触媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該酸触媒は、市販のものを用いることができる。
カルボン酸無水物、カルボン酸混合酸無水物及びカルボン酸p-ニトロフェニル等のアシル化剤との反応に用いる酸触媒の使用量は、0.0001~100モルが好ましい。
【0097】
アシル化剤との反応における反応温度は、用いるアシル化剤の種類及び/又は反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には、-50℃~溶媒の沸点温度が好ましく、-20℃~室温(5℃~35℃、以下同じ)がより好ましい。
アシル化剤との反応における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)又は薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて反応の進行を追跡して最適化するとよく、通常5分間~240時間が好ましい。
【0098】
(ii)カルボン酸との反応
カルボン酸との反応は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)とカルボン酸との脱水反応であり、酸触媒存在下にて行うのが一般的である。
【0099】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)とカルボン酸との反応におけるカルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸及びカプロン酸等の直鎖状の飽和カルボン酸;イソ酪酸、イソ吉草酸、4-メチルペンタン酸、2-メチルブタン酸及びピバル酸等の分岐状の飽和カルボン酸;アクリル酸、クロトン酸及び3-ブテン酸等の直鎖状の不飽和カルボン酸;メタクリル酸、セネシオ酸、チグリン酸、アンゲリカ酸、3-メチル-4-ペンテン酸及び4-メチル-4-ペンテン酸等の分岐状の不飽和カルボン酸;並びに、安息香酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
カルボン酸の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、さらに好ましくは1~5モルである。
【0100】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)とカルボン酸との反応を用いる場合に、酸触媒を用いてもよい。該酸触媒としては、上述のアシル化剤との反応で用いる酸触媒と同じである。
酸触媒の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは0.0001~100モル、より好ましくは0.001~1モル、さらに好ましくは0.01~0.05モルである。
【0101】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)とカルボン酸との反応に用いる溶媒及びその使用量は、上記アシル化剤との反応に用いる溶媒及びその使用量と同じである。
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)とカルボン酸との反応温度は、反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には、-50℃~溶媒の沸点温度が好ましく、室温~溶媒の沸点温度がさらに好ましい。
また、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類を含む溶媒を用いて、生じる水を共沸により反応系外に除去しながら反応を進行させてもよい。この場合、常圧で溶媒の沸点で還流しながら水を留去してもよいし、又は、減圧下、沸点より低い温度にて水の留去を行ってもよい。
カルボン酸との反応における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)又は薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて反応の進行を追跡して最適化するとよく、通常5分間~240時間が好ましい。
【0102】
(iii)エステル交換反応
エステル交換反応は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)とカルボン酸アルキルとを触媒存在下にて反応させ、生じたアルコールを除去することにより実施する。
カルボン酸アルキルとしては、カルボン酸の一級アルキルエステルが好ましく、価格及び/又は反応の進行のし易さ等の観点から、カルボン酸メチル、カルボン酸エチル及びカルボン酸n-プロピルがより好ましい。
カルボン酸としては、カルボン酸と反応させるエステル化反応におけるカルボン酸と同じ化合物が挙げられる。
カルボン酸アルキルの使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、さらに好ましくは1~5モルである。
【0103】
エステル交換反応に用いる触媒としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及び硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸類;ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド及び4-ジメチルアミノピリジン等の塩基類;青酸ナトリウム、青酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸錫、酢酸アルミニウム、アセト酢酸アルミニウム及びアルミナ等の塩類;三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド及び酸化チタン(IV)等のルイス酸(Lewis acid)類を挙げることができる。
該触媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該触媒は、市販のものを用いることができる。
該触媒の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは0.0001~100モル、より好ましくは0.001~1モル、さらに好ましくは0.01~0.05モルである。
【0104】
エステル交換反応は、反応試薬であるカルボン酸アルキル自身を溶媒として用いて、無溶媒で行ってもよく、又は溶媒を補助的に用いてもよい。無溶媒の場合には、余計な濃縮及び媒回収等の操作を必要としないことから、無溶媒で行うことが好ましい。
エステル交換反応に用いる溶媒としては、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;並びに、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、ジエチレン=グリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレン=グリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販のものを用いることができる。
該溶媒の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは10~1,000,000gである。
【0105】
エステル交換反応における反応温度は、用いるカルボン酸アルキルの種類及び/又は反応条件により適切な反応温度を選択でき、通常、加熱下にて行われる。反応の進行のし易さ等の観点から、エステル交換反応により生じた低沸点の炭素数1~3の低級アルコール、即ち、メタノール、エタノール及び1-プロパノール等の沸点付近で反応を行い、生じた低級アルコールを留去しながら行うことが好ましい。減圧下にて、沸点より低い温度にてアルコールの留去を行ってもよい。
エステル交換反応における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)又は薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて、反応の進行を追跡して最適化するとよく、通常5分間~240時間が好ましい。
【0106】
(iv)6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)の水酸基を脱離基に変換し、その後にカルボン酸と反応させる方法
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)の水酸基を脱離基に変換し、その後にカルボン酸と反応させる方法では、例えば、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)の水酸基を、クロリド、ブロミド及びヨージド等のハロゲン原子;メタンスルホネート及びトリフルオロメタンスルホネート等のアルカンスルホニルオキシ基;並びにベンゼンスルホネート及びp-トルエンスルホネート等のアレーンスルホニルオキシ等から選択される脱離基に変換し、そして、溶媒中、塩基の存在下にて、これらとカルボン酸とを反応させる。
カルボン酸は、上記カルボン酸との反応におけるカルボン酸と同じ化合物が挙げられる。
カルボン酸の使用量は、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)1モルに対して、好ましくは1~500モル、より好ましくは1~50モル、さらに好ましくは1~5モルである。
【0107】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)の水酸基を脱離基に変換し、その後に、カルボン酸と反応させる方法に用いられる溶媒及びその使用量、塩基及びその使用量、並びに反応時間及び反応温度としては、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3)とアシル化剤との反応(上記(i))で述べた溶媒及びその使用量、塩基及びその使用量、並びに反応時間及び反応温度と同じである。
【0108】
カルボン酸を溶媒中、塩基の存在下にて反応させる代わりに、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸リチウム、カルボン酸カリウム及びカルボン酸アンモニウム等のカルボン酸塩を用いてもよい。該カルボン酸塩の使用量は、カルボン酸と反応させるエステル化反応におけるカルボン酸の使用量と同じである。
【0109】
以上の方法により得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよく、工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0110】
[4]工程A
以下に、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を合成する工程Aについて説明する。保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)は、下記反応式で示されている通り、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を塩基によりリンイリド(18)へと変換し、その後、該リンイリド(18)と、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6)とのウィッティヒ反応に付すことにより得ることができる。
【化37】
【0111】
下記一般式(5)で表される4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物について述べる。
【化38】
【0112】
は、上記一般式(1)で定義した通りである。Phはフェニル基を表す。Xは、上記一般式(9)で定義した通りである。
【0113】
4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)の具体例としては、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=クロリド、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ブロミド、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ヨージド、4-メチル-4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=クロリド、4-メチル-4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ブロミド及び4-メチル-4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ヨージド等が挙げられる。
【0114】
4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)は、下記に示す反応式に従って、下記一般式(19)で表される4-ペンテニル=ハライド化合物と、トリフェニルホスフィン(PPh)とを溶媒中で反応させることにより調製することができる。
【化39】
【0115】
上記反応式に従って、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を調製する際に、反応を加速させるために、金属ハロゲン化物及び/又は四級オニウム塩を配合してもよい。該金属ハロゲン化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム及び臭化カリウム等が挙げられる。該四級オニウム塩としては、テトラエチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルホスホニウム=ブロミド、テトラエチルアンモニウム=ヨージド、テトラブチルアンモニウム=ヨージド、テトラブチルホスホニウム=ヨージド等が挙げられる。
【0116】
また、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を調製する際に、反応系中が酸性になると、末端の二重結合が内側へ移動した異性体が副生しうる。この異性化を抑制するために、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等の炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の水酸化物塩;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、キノリン、ピロリジン、ピペリジン、コリジン、ルチジン及びモルホリン等の有機塩基類から選択される1種又は2種以上の塩基を加えて、反応液を塩基性にして行うことが好ましい。経済性及び/又は異性化の抑制の観点から、炭酸カリウムを用いることが特に好ましい。
【0117】
4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)調製に用いる溶媒としては、後述するリンイリド(18)調製及びウィッティヒ反応における溶媒と同じ溶媒が使用できる。
該溶媒の量は、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0118】
4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)調製における反応温度は、反応条件にもよるが、-10℃~180℃、好ましくは0℃~160℃、さらに好ましくは10℃~140℃で行うのがよい。
4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)調製における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)又は薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~60時間程度である。
【0119】
下記一般式(6)で表される、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物について述べる。
【化40】
【0120】
は、水酸基の保護基(Protective group)を表す。保護基としては、目的の反応、後処理及び保存中に安定であり、しかも脱保護(Deprotection)が容易な公知の水酸基の保護基の中から適切なものを選択できる。適切な保護基Rとしては、例えば、メトキシメチル基、2-メトキシエトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、p-メトキシベンジルオキシメチル基、2,2,2-トリクロロエトキシメチル基、1-エトキシエチル(EE)基及びテトラヒドロピラニル(THP)基等のオキシアルキル基等が挙げられ、これらと異性体の関係にあるオキシアルキル基でもよい。また、これらの保護基の水素原子中の一部がメチル基又はエチル基等で置換されていてもよい。その他の保護基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、プロピオロイル基、アクリロイル基、ベンゾイル等のアシル基や、トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基及びt-ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基;並びに、t-ブチルジフェニルシリル基等のモノアルキルジアリールシリル基が挙げられ、これらと異性体の関係にあるアシル基又はシリル基でもよい。また、これらのアシル基及びシリル基の水素原子の一部がメチル基、エチル基又はハロゲン原子等で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。
保護基Rとしては、反応性及び/又は経済性の観点から、テトラヒドロピラニル基、1-エトキシエチル基及びトリメチルシリル基が好ましい。保護基Rがトリメチルシリル基の場合、ウィッティヒ反応中に脱保護反応が起こりうるが、次工程が脱保護反応のため、脱保護反応が生じても問題ない。
【0121】
保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6)は市販のものを用いてもよいし、又は公知の方法に従ってヒドロキシアセトンから調製してもよい。
【0122】
下記一般式(7)で表される、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物について述べる。
【化41】
【0123】
は、上記一般式(1)で定義した通りであり、Rは、上記一般式(6)で定義した通りである。
【0124】
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)は、下記一般式(7a)で表される、保護された水酸を1位に有する(Z)-2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物及び下記一般式(7b)で表される、保護された水酸を1位に有する(E)-2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物が存在しうる。これらの異性体は、単独であってもよく、又は混合物であってもよい。
【0125】
【化42】
【0126】
ウィッティヒ反応は、溶媒中、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)に塩基を加えてリンイリド(18)を調製し、その後、必要に応じて冷却又は加熱条件下で、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6)を加えて実施する。
リンイリド(18)調製に用いる塩基としては、例えば、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、ナトリウム=t-ブトキシド、ナトリウム=t-アミロキシド、リチウム=メトキシド、リチウム=エトキシド、リチウム=t-ブトキシド、リチウム=t-アミロキシド、カリウム=メトキシド、カリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド及びカリウム=t-アミロキシド等の金属アルコキシド類;メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、塩化メチルマグネシウム及びジムシルナトリウム等の有機金属試薬;ナトリウム=アミド、リチウム=アミド、リチウム=ジイソプロピルアミド、リチウム=ヘキサメチルジシラジド、ナトリウム=ヘキサメチルジシラジド、カリウム=ヘキサメチルジシラジド及びリチウム=ジシクロヘキシルアミド等の金属アミド類;並びに、水素化ナトリウム、水素化カリウム及び水素化カルシウム等の水素化金属類を挙げることができる。
これらの塩基は、単独で用いてもよく又は2以上の塩基を混合して用いてもよく、基質の種類及び/又は反応性及び/又は選択性を考慮して選択できる。
リンイリド試薬調製に用いる塩基の使用量は、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)1モルに対して、好ましくは0.7モル~5モルである。
リンイリド試薬調製に用いる溶媒としては、後述するウィッティヒ反応における溶媒と同じ溶媒が使用できる。
リンイリド(18)調製における反応温度は、好ましくは-78~50℃、より好ましくは-78℃~35℃である。
リンイリド(18)調製における反応時間は、5分間~18時間が好ましいが、試薬の安定性から5分間~10時間がより好ましい。
【0127】
ウィッティヒ反応における、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6)の使用量は、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)1モルに対して、好ましくは0.6モル~5モルである。
【0128】
ウィッティヒ反応における溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール及びt-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の量は、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0129】
ウィッティヒ反応の反応温度は、-78℃~50℃が好ましいが、-50℃~35℃で行うのがより好ましい。
ウィッティヒ反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5~24時間程度である。
【0130】
ウィッティヒ反応において得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよく、工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0131】
[5]工程B
以下に、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を合成する工程Bについて説明する。2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)は、下記反応式で示されている通り、上記工程Aで得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を脱保護反応に付すことにより得ることができる。
【化43】
【0132】
下記一般式(8)で表される2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)について述べる。
【化44】
【0133】
は、上記一般式(1)で定義した通りである。
【0134】
2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)は、下記一般式(8a)で表される(Z)-2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物及び下記一般式(8b)で表される(E)-2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物として存在しうる。これらの異性体は、単独であってもよく、又は混合物であってもよい。
【0135】
【化45】
【0136】
脱保護反応は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)における保護基の種類により、適切な条件を選択すればよい。例えば、保護基がメトキシメチル基のようなオキシアルキル基の場合は、酸を用いた加溶媒分解等による脱保護反応が適用できる。また、例えば、保護基がアシル基の場合は、酸又は塩基を用いた加溶媒分解等による脱保護反応が適用できる。また、例えば、保護基がt-ブチルジメチルシリル基のようなシリル基の場合は、酸を用いた加溶媒分解等の脱保護反応に加えて、フッ化物イオンを用いた脱保護反応も適用できる。
【0137】
酸を用いた脱保護反応の場合、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)に、酸、及び必要に応じて、水又は溶媒を加えて、冷却又は加熱することにより合成できる。
脱保護反応に用いる酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機酸類又はこれらの塩類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等の有機酸類又はこれらの塩類;テトラフルオロホウ酸リチウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化錫、四塩化チタン、四臭化チタン及びトリメチルシリル=ヨージド等のルイス酸類;アルミナ、シリカ及びチタニア等の酸化物;並びに、モンモリロナイト等の鉱物を挙げることができる。
該酸として、経済性及び/又は反応性という観点から、酢酸を好ましい例として挙げることができる。
該酸は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該酸は、市販されているものを用いることができる。
該酸の使用量は、経済性の観点から少量が好ましく、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~1,000モル、さらに好ましくは0.001~100モルである。
【0138】
該酸を用いた脱保護反応で水を用いる場合、水の量は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)1モルに対して、好ましくは1~10,000モル、より好ましくは1~1,000モル、さらに好ましくは1~500モルである。また、留出等の方法によって、脱保護反応により生成したアルコールを反応系外に除去しながら、反応を行ってもよい。
【0139】
該酸を用いた脱保護反応における溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;アセトン及びメチル=エチル=ケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール及びt-ブチル=アルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の量は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0140】
該酸を用いた脱保護反応の反応温度は、反応条件によるが、好ましくは-78~160℃、より好ましくは-50~140℃、さらに好ましくは-30~120℃である。
該酸を用いた脱保護反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて、反応を追跡して反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~24時間程度である。
【0141】
塩基を用いた脱保護反応の場合、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)に、塩基、及び必要に応じて、水又は溶媒を加えて、冷却又は加熱することにより合成できる。
脱保護反応に用いる塩基としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、カリウムメトキシド及びカリウムエトキシド等のアルコキシド類;並びに、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム及び水酸化バリウム等の水酸化物塩類等を挙げることができる。
該塩基として、経済性及び/又は反応性という観点から、水酸化ナトリウムを好ましい例として挙げることができる。
該塩基は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該塩基は、市販されているものを用いることができる。
該塩基の使用量は、経済性の観点から少量が好ましく、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~1,000モル、さらに好ましくは0.001~100モルである。
【0142】
該塩基を用いた脱保護反応で水を用いる場合、水の量は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)1モルに対して、好ましくは1~10,000モル、より好ましくは1~1,000モル、さらに好ましくは1~500モルである。
【0143】
該塩基を用いた脱保護反応における溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;アセトン、メチル=エチル=ケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール及びt-ブチル=アルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
ここで、塩基と溶媒の選択において、水を含む溶媒中、塩基としてアルコキシド類を使用する場合と、アルコール類を含む溶媒中、塩基として水酸化物塩類を使用する場合とでは、反応系内で同一の条件になると考えられる。
該溶媒の量は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0144】
該塩基を用いた脱保護反応の反応温度は、反応条件によるが、好ましくは-78~160℃、より好ましくは-50~140℃、さらに好ましくは-30~120℃である。
該塩基を用いた脱保護反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて、反応を追跡して反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~24時間程度である。
【0145】
保護基がシリル基であり、該保護基をフッ化物イオンにより脱保護反応を行う場合、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)に、フッ化物イオン源となる試薬と、必要に応じて溶媒を加えて、冷却又は加熱することにより合成できる。また、酸による脱保護反応で述べた酸と組み合わせて脱保護反応を行うこともできる。
【0146】
フッ化物イオン源となる試薬としては、フッ化水素酸等の無機酸類;ピリジン・nHF、トリエチルアミン・nHF等のアミン錯体類;フッ化セシウム、フッ化カリウム、ホウフッ化リチウム(LiBF)、フッ化アンモニウム等の無機塩類;並びに、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)等の有機塩類を挙げることができる。
該フッ化物イオン源となる試薬は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該フッ化物イオン源となる試薬は、市販されているものを用いることができる。
該フッ化物イオンによる脱保護反応における試薬の使用量は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)1モルに対して、好ましくは0.1~500モル、より好ましくは0.1~50モルの範囲である。
【0147】
該フッ化物イオンによる脱保護反応における溶媒、溶媒の使用量、並びに反応時間及び反応温度としては、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)の酸による脱保護反応で述べた溶媒、溶媒の使用量、並びに反応時間及び反応温度と同じである。
【0148】
脱保護反応により得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよく、工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0149】
上記の工程Aでは、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5)を塩基によりリンイリド(18)へと変換し、その後、該リンイリド(18)と、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6)とのウィッティヒ反応に付すことにより、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)が得られる。該工程Aにおいて、ウィッティヒ反応に引き続き、該ウィッティヒ反応条件下で脱保護反応が生じることにより、上記工程Bに付すこと無しに、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)が得られる。従って、該ウィッティヒ反応に引き続き、脱保護反応が生じることにより、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)、又は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)の一部について脱保護反応が生じる場合には、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)と2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)との混合物が得られる。該ウィッティヒ反応に引き続き、脱保護反応が生じるかどうかは、例えば、脱保護基の種類に依存する。
【0150】
[6]工程C
以下に、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)を合成する工程Cについて説明する。3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)は、下記反応式で示されている通り、上記工程Bで得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)を、オルト酢酸エステル化合物(11)とのジョンソン・クライゼン転位反応に付すことにより得ることができる。
【化46】
【0151】
ジョンソン・クライゼン転位反応は、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)とオルト酢酸エステル(11)とに、酸を加えて、溶媒中又は無溶媒で、必要に応じて加熱することにより行われる。
ジョンソン・クライゼン転位反応における酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及び硝酸等の鉱酸類;酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸類;三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド及び酸化チタン(IV)等のルイス酸(Lewis acid)類が挙げられる。
該酸として、反応性及び/又は経済性の観点から、プロピオン酸を好ましい例として挙げることができる。
該酸は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該酸は、市販されているものを用いることができる。
該酸の使用量は、経済性の観点から少量が好ましく、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、基質である2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~100モルである。
【0152】
下記一般式(11)で表されるオルト酢酸エステル化合物(11)について述べる。
CHC(OR (11)
オルト酢酸エステルにおけるRは、上記一般式(1)で定義した通りである。
オルト酢酸エステルの使用量は、経済性の観点から、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)1モルに対して、好ましくは1~10,000モル、より好ましくは1~100モルである。
【0153】
ジョンソン・クライゼン転位反応における溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;アセトン及びメチル=エチル=ケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール及びt-ブチル=アルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
経済性や反応性の観点から、無溶媒で反応を行うことが好ましい。
【0154】
ジョンソン・クライゼン転位反応の反応温度は、反応条件によるが、好ましくは-78℃~300℃、より好ましくは0℃~300℃、さらに好ましくは0℃~200℃である。
ジョンソン・クライゼン転位反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて、反応を追跡して反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常1~100時間程度である。
【0155】
上記の工程Bでは、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)を脱保護反応に付して、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)が得られる。該工程Bにおいて、脱保護反応に引き続き、該脱保護反応条件下で転位反応が生じることにより、上記工程Cに付すこと無しに、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)が得られる。従って、該脱保護反応に引き続き、転位反応が生じることにより、3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)、又は、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7)の一部について転位反応が生じる場合には、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8)と3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)との混合物が得られる。該脱保護反応に引き続き、転位反応が生じるかどうかは、例えば、保護基の種類に依存する。
【0156】
以上の方法により得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよく、工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0157】
以上のようにして、安全性、経済性及び環境負荷の面から工業的な実施が困難である酸化反応を不要とし、効率的且つ工業的に6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)を製造する方法が提供される。また、それらの有用な中間体となる3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2)の製造方法が提供される。また、6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4)の製造において有用な中間体となる3-イソプロペニル-6-メチル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1’)も提供される。
【実施例
【0158】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限限定されるものではない。
なお、以下において、「純度」は、特に明記しない限り、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた面積百分率を示し、「生成比」は、GC分析によって得られた面積百分率の相対比を示す。また「収率」は、GC分析によって得られた面積百分率を基に算出した収率を示す。
各実施例において、反応のモニタリングは、次のGC条件に従って行った。
GC条件:GC:島津製作所 キャピラリガスクロマトグラフ GC-2014,カラム:DB-5,0.25μmx0.25mmφx30m,キャリアーガス:He(1.55mL/分)、検出器:FID,カラム温度:100℃ 10℃/分昇温 230℃。
収率は、原料及び生成物の純度(%GC)を考慮して、以下の式に従い計算した。
収率(%)={[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]
÷[(反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]}×100
なお、「粗収率」とは精製せずに算出した収率をいう。
【0159】
実施例1
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=THP)の合成
【0160】
【化47】
【0161】
窒素雰囲気下、反応器に4-ペンテニル=ハライド化合物(19:R=H、X=Br)(223.55g:1.50mol)、トリフェニルホスフィン(PPh)(491.79g:1.87mol)及びジメチルホルムアミド(DMF)(306g)を仕込み、100℃で、12時間攪拌し、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5:R=H、X=Br)を調製し、その後、内温を室温(20~25℃)まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)(1080g)を添加した。内温を0~5℃まで冷却し、t-ブトキシカリウム(t-BuOK)(176.87g:1.57mol)を添加し、1時間攪拌した。その後、内温を0℃まで冷却し、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6:R=THP)(282.00g:1.37mol)を100分間で滴下し、溶液温度10~15℃で、1時間攪拌した。その後、反応溶液に純水(750g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、そして濃縮により後処理操作して、得られた溶液にヘキサン(900g)を添加し、30分間攪拌した。その後、ろ過、そして濃縮により、目的の保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=THP)の粗生成物(487.44g)を得た。粗収率は85.57%であった。
【0162】
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=THP)
IR(D-ATR):ν=3077,2941,2871,2851,1641,1253,1441,1376,1353,1321,1262,1201,1183,1158,1134,1118,1078,1053,1023,979,908,870,816,642cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):1.48-1.73(5H,m),1.76-1.77(3H,m),1.77-1.89(1H,m),2.05-2.18(4H,m),3.47-3.53(1H,m),3.84-3.90(1H,m),4.05-4.12(2H,m),4.58(1H,t-like,J=3.5Hz),4.93-5.03(2H,m),5.36(1H,t-like,J=6.9Hz),5.76-5.84(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=19.49,21.70,25.74,27.07,30.64,34.02,62.12,65.36,97.48,114.67,126.75,132.19,138.27。
GC-MS(EI,70eV):29,41,55,67,85,97,109,126,138,155,168、181,195,210。
【0163】
実施例2
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=TMS)の合成
【0164】
【化48】
【0165】
窒素雰囲気下、反応器に4-ペンテニル=ハライド化合物(19:R=H、X=Br)(271.26g:1.80mol)、トリフェニルホスフィン(PPh)(495.73g:1.89mol)及びジメチルホルムアミド(DMF)(630g)を仕込み、100℃で、12時間攪拌し、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5:R=H、X=Br)を調製し、その後、内温を室温(50~60℃)まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)(1296g)を添加した。内温を0~5℃まで冷却し、t-ブトキシカリウム(t-BuOK)(208.20g:1.85mol)を添加し、1時間攪拌した。その後、内温を0~5℃まで冷却し、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6:R=THP)(242.02g:1.64mol)を180分間で滴下し、溶液温度10~15℃で、1時間攪拌した。その後、反応溶液に純水(900g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、そして濃縮により後処理操作して、得られた溶液にヘキサン(1500g)を添加し、30分間攪拌した。その後、ろ過、そして濃縮により、目的の、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=TMS)と、2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=H)との粗生成物(207.41g)を得た。該粗生成物の粗収率は45.30%であった。上記粗生成物の一部を精製して、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=TMS)を単離し、その各種スペクトルデータを測定した。下記にその結果を示す。
【0166】
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7::R=H、R=TMS)
IR(D-ATR):ν=3079,2958,2918,2852,1641,1436,1380,1251,1069,992,961,912,879,841,747,685cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.13(9H,s),1.74(3H,s-like),2.06-2.16(4H,m),4.11(2H,s),4.94-5.04(2H,m),5.24(1H,t-like,J=6.8Hz),5.77-5.85(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=-0.43,21.14,27.03,34.03,61.19,114.67,126.44,134.74,138.31ppm。
GC-MS(EI,70eV):27,41,59,73,93,108,127,143,157、169,183,198。
【0167】
実施例3
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=EE)の合成
【0168】
【化49】
【0169】
窒素雰囲気下、反応器に4-ペンテニル=ハライド化合物(19:R=H、X=Br)(271.26g:1.80mol)、トリフェニルホスフィン(PPh)(476.84g:1.82mol)及びジメチルホルムアミド(DMF)(630g)を仕込み、100℃で、24時間攪拌し、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5:R=H、X=Br)を調製し、その後、内温を室温(50~60℃)まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)(1602g)を添加した。内温を0~5℃まで冷却し、t-ブトキシカリウム(t-BuOK)(212.25g:1.89mol)を添加し、1時間攪拌した。その後、内温を0~5℃まで冷却し、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6:R=EE)(241.63g:1.64mol)を100分間で滴下し、溶液温度10~15℃で、1時間攪拌した。その後、反応溶液に純水(900g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、そして濃縮により後処理操作して、得られた溶液にヘキサン(1500g)を添加し、30分間攪拌した。その後、ろ過、そして濃縮により、目的の、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=EE)の粗生成物(337.69g)を得た。この粗生成物を減圧蒸留することにより、精製された、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=EE)(252.38g:1.23mol)を得た。前留フラクションを含めた全フラクションより算出した収率は、83.03%であった。
【0170】
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=EE)
IR(D-ATR):ν=3078,2976,2916,1641,1443,1378,1337,1273,1130,1098,1059,1032,985,929,912cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.20(3H,t,J=7.1Hz),1.31(3H,d,J=5.4Hz),1.64-1.76(3H,m),2.06-2.20(4H,m),3.46-3.68(2H,m),3.97-4.09(2H,m),4.69(1H,q,J=5.4Hz),4.92-5.03(2H,m),5.34-5.44(1H,m),5.74-5.85(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=15.31,19.73,21.74,27.11,33.99,60.22,63.56,98.80,114.70,128.44,132.38,138.20ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,45,55,73,83,93,109,126,137,152,169、183,198。
【0171】
実施例4
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=CH、R=EE)の合成
【0172】
【化50】
【0173】
窒素雰囲気下、反応器に4-ペンテニル=ハライド化合物(19:R=CH、X=Br)(90.00g:0.54mol)、トリフェニルホスフィン(PPh)(143.32g:0.55mol)、炭酸カリウム(11.22g:0.08mol)及びジメチルホルムアミド(DMF)(189.35g)を仕込み、80℃で、24時間攪拌し、4-ペンテニルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(5:R=CH、X=Br)を調製し、その後、内温を室温(50~60℃)まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)(486.90g)を添加した。内温を0~5℃まで冷却し、t-ブトキシカリウム(t-BuOK)(61.36g:0.55mol)を添加し、1時間攪拌した。その後、内温を0~5℃で、保護された水酸基を有する2-プロパノン化合物(6:R=EE)(73.69g:0.49mol)を55分間で滴下し、溶液温度10~15℃で、19時間攪拌した。その後、反応溶液に純水(270.5g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、そして濃縮により後処理操作して、得られた溶液にヘキサン(1500g)を添加し、30分間攪拌した。その後、ろ過、そして濃縮により、目的の、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=CH、R=EE)の粗生成物(157.82g)を得た。この粗生成物を減圧蒸留することにより、精製された、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=CH、R=EE)(89.79g:0.37mol)を得た。精製後の収率は75.20%であった。
【0174】
保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=CH、R=EE)
IR(D-ATR):ν=3075,2974,2935,1743,1711,1687,1650,1445,1376,1338,1274,1130,1097,1086,1059,1030,983,946,930,886cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.20(3H,t,J=7.1Hz),1.31(3H,d,J=5.4Hz),1.71(3H,s),1.75-1.76(3H,m),2.01-2.11(2H,m),2.16-2.21(2H,m),3.45-3.72(2H,m),3.97-4.11(2H,m),4.66-4.71(3H,m),5.27-5.42(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=15.30,19.73,21.73,22.39,25.89,37.89,60.21,63.58,98.81,110.00,128.68,132.16,145.32ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,45,57,73,93,107,123,140,156,168、183,197,213。
【0175】
実施例5
2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=H)の合成
【0176】
【化51】
【0177】
窒素雰囲気下、反応器に、実施例1に従って得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=THP)(517.00g:1.287mol)、p-トルエンスルホン酸(p-TsOH)(33.24g:0.19mol)及びメタノール(MeOH)(1287g)を仕込み、室温(20~25℃)下で22時間30分間攪拌し、その後、重曹(21.62g)及び純水(10g)を添加し、30分間攪拌した。反応溶液を濃縮し、その後、ヘキサン(500g)、純水(800g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。有機層を濃縮し、その後、p-トルエンスルホン酸(33.24g:0.19mol)及びメタノール(1287g)を仕込み、室温(20~25℃)で、5時間30分間攪拌した。その後、ソーダ灰(50g)及び純水(50g)を添加し、30分間攪拌した。反応溶液を濃縮し、その後、ヘキサン(1000g)、そして純水(1000g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、そして濃縮により後処理操作して、目的の2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=H)の粗生成物(221.90g)を得た。粗収率は60.33%であった。
【0178】
2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=H)
IR(D-ATR):ν=3325,3079,2969,2920,1641,1439,1416,1378,1321,1246,1005,949,912,845,761,641cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):1.66(1H,s-like),1.78-1.79(3H,m),2.03-2.16(4H,m),4.10(2H,s),4.94-5.03(2H,m),5.28(1H,t-like,J=6.9Hz),5.74-5.82(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=21.20,26.95,33.93,61.40,114.91,127.53,134.77,138.19ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,43,57,67,79,93,108,126。
【0179】
実施例6
2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=H)の合成
【0180】
【化52】
【0181】
窒素雰囲気下、反応器に、実施例3に従って得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=H、R=EE)(200g:0.965mol)、酢酸(AcOH)(57.9g:0.965mol)、純水(434.25g)及びテトラヒドロフラン(THF)(434.25g)を仕込み、内温80~85℃で、留分を留出させながら3時間20分間攪拌した。反応溶液を30~40℃まで冷却し、純水(675.5g)及びヘキサン(675.5g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、そして濃縮により後処理操作して、目的の2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=H)の粗生成物(126.00g)を得た。粗収率は96.30%であった。
【0182】
実施例7
2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=CH)の合成
【0183】
【化53】
【0184】
窒素雰囲気下、反応器に、実施例4に従って得られた、保護された水酸基を1位に有する2-メチル-2,6-ヘプタジエン化合物(7:R=CH、R=EE)(88.00g:0.363mol)、酢酸(AcOH)(21.78g:0.363mol)、純水(163.35g)及びテトラヒドロフラン(THF)(163.35g)を仕込み、内温80~85℃で、留分を留出させながら4時間35分間攪拌した。反応溶液を30~40℃まで冷却し、純水(250.00g)及びヘキサン(250.00g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、そして濃縮により後処理操作して、目的の2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=CH)の粗生成物(52.09g)を得た。この粗生成物を減圧蒸留することにより、精製された2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=CH)(33.65g:0.23mol)を得た。前留を含めた全フラクションより算出した収率は、72.73%であった。
【0185】
2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=CH
IR(D-ATR):ν=3319,3074,2968,2935,2917,1650,1448,1375,1337,1006,948,887cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):1.52(1H,s),1.71(3H,s-like),1.78-1.79(3H,m),2.01-2.07(2H,m),2.16-2.20(2H,m),4.11(2H,s),4.65-4.72(2H,m),5.28(1H,t-like,J=7.1Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=21.20,22.42,25.74,37.89,61.45,110.18,127.82,134.60,145.37ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,43,55,67,75,84,93,107,122,132,140。
【0186】
実施例8
3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=H、R=Et)の合成
【0187】
【化54】
【0188】
窒素雰囲気下、反応器に、実施例6に従って得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=H)(60g:0.456mol)、オルト酢酸エステル化合物(11:R=Et)(527.84g:3.192mol)及びプロピオン酸(4.5g:0.06mol)を仕込み、内温140℃で、2時間攪拌した。その後、反応溶液からエタノールを留出させながら内温を150~160℃まで上昇させ、6時間攪拌した。その後、内温を30~40℃まで冷却し、重曹(30g)及び純水(600g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、乾燥、そして濃縮により後処理操作して、目的の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=H、R=Et)の粗生成物(169.76g)を得た。この粗生成物を減圧蒸留することにより、精製された3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=H、R=Et)(69.32g:0.33mol)を得た。前留フラクションを含めた全フラクションより算出した収率は、80.70%であった。
【0189】
3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=H、R=Et)
IR(D-ATR):ν=3077,2979,2932,1737,1642,1445,1370,1338,1252,1157,1113,1036,995,910,895,636,559cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.22(3H,t,J=7.1Hz),1.45(2H,q,J=7.6Hz),1.65(3H,s-like),1.90-2.06(2H,m),2.34(2H,d,J=8.0Hz),2.60(1H,quin,J=7.5Hz),4.09(2H,q,J=7.1Hz),4.73-4.78(2H,m),4.92-5.01(2H,m),5.74-5.82(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=14.20,18.44,31.23,31.99,39.20,43.17,60.15,112.30,114.59,138.34,145.79,172.53ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,41,55,69,81,93,108,122,142,155,167,181,196。
【0190】
実施例9
3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=CH、R=Et)の合成
【0191】
【化55】
【0192】
窒素雰囲気下、反応器に、実施例7に従って得られた2-メチル-2,6-ヘプタジエノール化合物(8:R=CH)(30g:0.206mol)及びオルト酢酸エステル化合物(11:R=Et)(167.10g:1.030mol)を仕込み、内温100℃で、プロピオン酸(2.06g:0.28mol)を5分間かけて滴下し、釜温を140℃まで上昇させた。その後、反応溶液からエタノールを留出させながら釜温を150~160℃まで上昇させ、7時間30分間攪拌した。その後、内温を20℃まで冷却し、重曹(12.6g)、純水(206g)及びヘキサン(100g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、乾燥、そして濃縮により後処理操作して、目的の3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=CH、R=Et)の粗生成物(128.26g)を得た。この粗生成物を減圧蒸留することにより、精製された3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=CH、R=Et)(30.20g:0.129mol)を得た。前留フラクションを含めた全フラクションより算出した収率は、68.93%であった。
【0193】
3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=CH、R=Et)
IR(D-ATR):ν=3075,2979,2936,1737,1648,1446,1373,1261,1177,1147,1035,889cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.22(3H,t,J=7.3Hz),1.44-1.57(2H,m),1.65(3H,s-like),1.70(3H,s),1.87-1.97(2H,m),2.35(2H,d,J=7.7Hz),2.57(1H,quin-like,J=7.4Hz),4.10(2H,q,J=7.1Hz),4.65-4.69(2H,m),4.73-4.78(2H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=14.21,18.50,22.43,30.74,35.16,39.25,43.33,60.15,109.87,112.27,145.53,145.90,172.54ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,41,55,69,81,93,107,122,142,154,167,182,196,210。
【0194】
実施例10
3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=H)の合成
【0195】
【化56】
【0196】
窒素雰囲気下、第1の反応器にt-ブトキシナトリウム(t-BuONa)(20.28g:0.21mol)及びテトラヒドロフラン(THF)(50g)を仕込み、0℃で、15分間攪拌した。反応溶液に、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)のヘキサン溶液(200.2mL:0.20mol)を105分間かけて滴下し、その後、室温(20~25℃)で、2時間攪拌した。
第2の反応器に、窒素雰囲気下、実施例8に従って得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=H、R=Et)(32.24g:0.154mol)及びTHF(50g)を仕込み、-5~0℃まで冷却した。この反応溶液に、第1の反応器で調製した溶液を6時間15分かけて滴下し、0~5℃で、4時間攪拌した。その後、20%塩酸水溶液(68.50g)及び純水(300g)を添加し、そして有機層を分離した。分離した有機層を濃縮し、目的の3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=H)の粗生成物(27.70g)を得た。粗収率は75.97%であった。
【0197】
3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=H)
IR(D-ATR):ν=3076,2975,2928,2858,2720,1726,1642,1441,1416,1377,996,897cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.41-1.54(2H,m),1.65(3H,s-like),1.92-2.06(2H,m),2.37-2.47(2H,m),2.66-2.72(1H,m),4.77-4.82(2H,m),4.93-5.02(2H,m),5.73-5.81(1H,m),9.65(1H,t,J=2.3Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=18.59,31.10,32.15,40.88,47.36,112.68,114.87,138.07,145.49,202.22ppm。
GC-MS(EI,70eV):27,41,55,69,81,95,108,123,137,151。
【0198】
実施例11
3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=CH)の合成
【0199】
【化57】
【0200】
窒素雰囲気下、第1の反応器にt-ブトキシナトリウム(t-BuONa)(12.51g:0.13mol)及びテトラヒドロフラン(THF)(125g)を仕込み、0~5℃で、15分間攪拌した。反応溶液に、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)のヘキサン溶液(121.08mL:0.12mol)を105分間かけて滴下し、その後、室温(20~25℃)で、3時間攪拌した。
第2の反応器に、窒素雰囲気下、実施例9に従って得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテン酸エステル化合物(1:R=CH、R=Et)(20.00g:0.09mol)及びTHF(125g)を仕込み、-5~0℃まで冷却した。この反応溶液に、第1の反応器で調製した溶液を4時間15分かけて滴下し、0~5℃で、4時間攪拌した。その後、20%塩酸水溶液(38.08g)、純水(100g)及びヘキサン(100g)を添加し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、乾燥、そして濃縮により後処理操作して、目的の3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=CH)の粗生成物(16.00g)を得た。粗収率は81.55%であった。
【0201】
3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=CH
IR(D-ATR):ν=3074,2969,2936,2720,1726,1647,1447,1375,1070,1021,890cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.47-1.55(2H,m),1.66(3H,s-like),1.70(3H,s),1.89-1.99(2H,m),2.38-2.48(2H,m),2.66(1H,quin,J=7.3Hz),4.65-4.71(2H,m),4.77-4.82(2H,m),9.65(1H,t-like,J=2.5Hz)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=18.64,22.40,30.90,35.04,41.05,47.41,110.11,112.65,145.25,145.61,202.22ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,41,55,69,81,97,107,122,137,151,165。
【0202】
実施例12
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=H)の合成
【0203】
【化58】
【0204】
窒素雰囲気下、反応器にエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9:X=Br)(5.79g,0.016mol)及びテトラヒドロフラン(THF)(76g)を仕込み、0~5℃まで冷却した。反応溶液に、n-ブチルリチウム(n-BuLi)のヘキサン溶液(5.89ml:0.016mol)を15分間かけて滴下し、その後15分間攪拌し、イリド(13)を調製した。反応溶液に、エチレン=オキシド(10)(0.69g:0.016mol)を30分間かけて滴下し、その後15~20℃で1時間攪拌し、3-トリフェニルホスホニオブトキシド(14)を調製した。反応溶液を-20~-15℃へ冷却し、n-ブチルリチウム(n-BuLi)のヘキサン溶液(5.15ml:0.014mol)を10分間かけて滴下し、その後15分間攪拌し、リンイリド(15)を調製した。反応溶液を-60~-50℃まで冷却し、実施例10に従って得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=H)(2.12g:0.013mol)を10分間かけて滴下した。その後、内温を室温(20~25℃)まで上昇させ、3時間攪拌した。反応溶液に純水(110g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の乾燥、そして濃縮により後処理操作して、目的の6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=H)の粗生成物(3.52g)を得た。粗収率は92.31%であった。
【0205】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=H)
IR(D-ATR):ν=3341,3074,2966,2927,1642,1441,1375,1185,1044,995,909,890,641,559cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.31-1.49(2H,m),1.59-1.71(7H,m),1.88-2.16(5H,m),2.21-2.35(2H,m),3.59-3.67(2H,m),4.66-4.77(2H,m),4.91-5.01(2H,m),5.14-5.27(1H,m),5.75-5.83(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=15.76,17.98,18.44,23.35,31.58,32.00,32.09,32.11,35.16,42.60,47.14,47.15,59.60,60.52,111.70,111.85,114.27,114.35,126.80,126.98,131.46,131.48,138.83,138.92,147.13,147.42ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,41,55,67,81,93,107,121,135,149,163、177,193,208。
【0206】
実施例13
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=CH)の合成
【0207】
【化59】
【0208】
窒素雰囲気下、反応器にエチルトリフェニルホスホニウム=ハライド化合物(9:X=Br)(5.35g,0.014mol)及びテトラヒドロフラン(THF)(70.08g)を仕込み、0~5℃まで冷却した。反応溶液に、n-ブチルリチウム(n-BuLi)のヘキサン溶液(5.10ml:0.014mol)を8分間かけて滴下し、その後15分間攪拌し、イリド(13)を調製した。反応溶液に、エチレン=オキシド(10)(0.63g:0.014mol)を4分間かけて滴下し、その後15~20℃で、1時間攪拌し、3-トリフェニルホスホニオブトキシド(14)を調製した。反応溶液を-5~0℃へ冷却し、n-ブチルリチウム(n-BuLi)のヘキサン溶液(4.50ml:0.013mol)を8分間かけて滴下し、その後15分間攪拌し、リンイリド(15)を調製した。反応溶液を-5~0℃まで冷却し、実施例11に従って得られた3-イソプロペニル-6-ヘプテナール化合物(2:R=CH)(2.00g:0.011mol)を20分間かけて滴下した。その後、内温を室温(20~25℃)まで上昇させ、3時間攪拌した。反応溶液に純水(101g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の乾燥、そして濃縮により後処理操作して、得られた溶液にヘキサン(101g)を添加し、30分間攪拌した。その後、ろ過、そして濃縮を行い、目的の6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=CH)の粗生成物(2.89g)を得た。粗収率は67.34%であった。
【0209】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=CH
IR(D-ATR):ν=3340,3072,2966,2932,1646,1448,1374,1185,1102,1043,1005,887cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.37-1.54(3H,m),1.60-1.71(9H,m),1.84-2.14(5H,m)、2.21-2.34(2H,m),3.59-3.67(2H,m),4.64-4.77(4H,m),5.14-5.28(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=15.77,18.02,18.49,22.48,22.50,23.35,30.75,30.85,32.04,32.13,35.18,35.49,35.52,42.62,47.34,59.64,60.53,109.56,109.63,111.65,111.81,126.79,126.98,131.48,131.50,145.99,146.09,147.22,147.52ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,41,55,69,81,93,107,121,133,149,163、177,191,207,222。
【0210】
実施例14
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=H、R=CH)の合成
【0211】
【化60】
【0212】
窒素雰囲気下、反応器に、実施例12に従って得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=H)(1.84g:0.009mol)、無水酢酸(AcO)(1.54g:0.013mol)、ピリジン(2.49g:0.031mol)及びアセトニトリル(MeCN)(1.84g)を仕込み、室温(20~25℃)で、18時間攪拌した。反応溶液に純水(10g)及びヘキサン(10g)を添加し、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、乾燥、そして濃縮により後処理操作して、目的の6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=H、R=CH)の粗生成物(2.13g)を得た。この粗生成物を減圧蒸留することにより、精製された6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=H、R=CH)(8)(1.68g:0.007mol)を得た。減圧蒸留後の蒸留収率は77.78%であった。
【0213】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=H、R=CH
IR(D-ATR):ν=3074,2968,2926,1742,1642,1442,1364,1237,1041,995,909,890cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.36-1.50(2H,m),1.60-1.72(6H,m),1.88-2.10(8H,m),2.21-2.36(2H,m),4.07-4.13(2H,m),4.66-4.77(2H,m),4.91-5.01(2H,m),5.12-5.21(1H,m),5.75-5.83(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=16.22,18.43,20.99,21.03,23.57,31.24,31.59,31.90,31.97,32.13,38.61,46.87,47.04,62.69,63.05,111.53,111.67,114.26,114.28,125.69,126.41,131.13,131.25,138.93,138.96,147.08,147.18,171.07,171.11ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,43,55,67,81,93,107,121,135,147,161,175,190,207,222,235,250。
【0214】
実施例15
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=CH、R=CHCH)の合成
【0215】
【化61】
【0216】
窒素雰囲気下、反応器に、実施例13に従って得られた6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエノール化合物(3:R=CH)(1.10g:0.005mol)、ピリジン(0.95g:0.012mol)及びトルエン(1.10g)を仕込み、内温0~10℃で、プロピオニルクロリド(0.58g,0.063mol)を2分間かけて滴下し、3時間攪拌した。反応溶液に重曹(0.07g)と純水(2g)との混合溶液を加え、30分間攪拌し、そして有機層を分離した。分離した有機層を、通常の洗浄、乾燥、そして濃縮により後処理操作して、目的の6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=CH、R=CHCH)の粗生成物(1.37g)を得た。この粗生成物をカラム精製することにより、精製された6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=CH、R=CHCH)(1.33g:0.005mol)を得た。精製後の収率は96.00%であった。
【0217】
6-イソプロペニル-3-メチル-3,9-デカジエニル=カルボキシレート化合物(4:R=CH、R=CHCH
IR(D-ATR):ν=3073,2968,2935,1740,1646,1450,1375,1348,1182,1084,887cm-1
H-NMR(500MHz,CDCl):δ=1.12(3H,q-like,J=7.2Hz),1.39-1.57(2H,m),1.60-1.71(9H,m),1.85-2.10(5H,m)、2.27-2.36(2H,m),4.64-4.74(4H,m),5.12-5.21(1H,m)ppm。
13C-NMR(125MHz,CDCl):δ=9.09,9.12,16.24,18.46,22.51,23.57,27.57,30.65,30.71,31.28,32.01,32.15,35.51,38.68,47.06,47.23,62.55,62.92,109.54,109.57,111.48,111.62,125.67,126.35,131.21,131.34,146.09,147.16,147.27,174.43,174.45ppm。
GC-MS(EI,70eV):29,41,57,81,107,121,133,148,175,189,204,222,249,263,278。