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特許7475334潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
G01N21/27 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021512130
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014662
(87)【国際公開番号】W WO2020203995
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2019068998
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】奥山 元気
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-048842(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0223469(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0069856(US,A1)
【文献】特開2012-013675(JP,A)
【文献】特開平08-062207(JP,A)
【文献】特開平07-140074(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191273(WO,A1)
【文献】特開2017-167047(JP,A)
【文献】特開2015-099116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 21/84 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油劣化の判定に関する判定基準データを記憶する記憶部と、
通信機能付き撮影装置と、
撮影補助機と、
前記通信機能付き撮影装置により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データを取得し、前記撮影データから前記判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データを作成する作成部と、
前記判定基準データに基づいて、前記画像解析用データから前記判定潤滑油の劣化度の判定結果を作成する判定部と、を備え、
前記撮影補助機は、撮影装置と着脱可能であり、かつ、撮影装置と判定潤滑油との距離及び角度を特定するものである潤滑油劣化判定システム。
【請求項2】
前記判定基準データは、色差データ、明度データ、色データ、油種類データ、新油時データ、摩耗粉コンタミデータ及び水分コンタミデータからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項3】
前記撮影データは、判定対象である前記判定潤滑油を無色の透光性容器内に保存した状態を撮影したものである、請求項1又は2に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項4】
前記作成部は、前記撮影データから誤判定要因を補正するための補正用データを有し、前記補正用データに基づいて補正した前記撮影データから前記画像解析用データを作成する、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項5】
前記判定結果は、前記判定潤滑油の余寿命の判定結果を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項6】
前記撮影データから抽出した入力変数を機械学習のアルゴリズムにより、前記判定潤滑油の劣化判定と前記入力変数との相関関係を導き出すことにより、前記撮影データ及び前記入力変数から前記画像解析用データを決定するための予測モデルを作成する機械学習部をさらに備え、
前記作成部は、前記予測モデル及び前記撮影データから前記画像解析用データを作成する、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項7】
前記入力変数は、色差データ、明度データ、色データ、油種類データ、摩耗粉コンタミデータ及び水分コンタミデータからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項6に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項8】
前記アルゴリズムは、サポートベクターマシン、線形回帰、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク及び勾配ブースティング木の群から選ばれる少なくとも1つである、請求項6又は7に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項9】
前記機械学習部は、前記予測モデルを作成する毎に、作成した前記予測モデルを前記記憶部に記憶させ、新たな予測モデルを作成する際に、記憶した前記予測モデルを用いた機械学習を行う、請求項6~8のいずれか1項に記載の潤滑油劣化判定システム。
【請求項10】
潤滑油劣化の判定に関する判定基準データを記憶部に記憶する工程と、
通信機能付き撮影装置により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データを取得し、前記撮影データから前記判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データを作成部で作成する工程と、
前記判定基準データに基づいて、前記画像解析用データから前記判定潤滑油の劣化度を判定部で判定結果を作成する工程と、を含み、
前記通信機能付き撮影装置が、撮影装置と着脱可能であり、かつ、撮影装置と判定潤滑油との距離及び角度を特定する撮影補助機を備える潤滑油劣化判定方法。
【請求項11】
前記撮影データから抽出した入力変数を機械学習のアルゴリズムにより、判定潤滑油の劣化判定と入力変数との相関関係を導き出すことにより、前記撮影データ及び前記入力変数から前記画像解析用データを決定するための予測モデルを機械学習部で作成する工程をさらに含む、請求項10に記載の潤滑油劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油管理を的確に行うには、潤滑油の劣化、汚損状態を正確にかつ迅速に判定することが重要である。従来、潤滑油の劣化、汚損状態の判定にあたっては、現場で使用中の潤滑油を採取し、この試料潤滑油を分析評価できる試験室等に持ち運び、各種の分析評価を行った後、これらの評価項目から潤滑油の劣化、汚損状態を判定するようにしていた。
上述のような判定方法では、多くの人手と時間を要し、かつ、即時性がないという欠点があった。そこで、光の透過を利用して潤滑油の劣化度合いを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-48842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等で提案されている光の透過を利用して潤滑油の劣化度合いを測定する方法では、スペクトルの分布に基づく劣化度合いを評価するために、光を波長ごとに分光して撮影するハイパースペクトルカメラ等の特殊な撮影装置が必要となる。しかし、ハイパースペクトルカメラ等の特殊な撮影装置は、高価なものであり、一般的なユーザが所有することは現実的ではない。つまり、特許文献1等で提案されている光の透過を利用して潤滑油の劣化度合いを測定する方法を利用するためには、ハイパースペクトルカメラ等の特殊な撮影装置を備える試験室等に対象となる潤滑油を持ち込んで撮影しなければならず、潤滑油の劣化、汚損状態を即時性が高く判定するという問題は未だに解決されていない。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、潤滑油の劣化、汚損状態を即時性が高く判定することが可能な潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、一般的なユーザが所有している通信機能付き撮影装置により撮影された撮影データを用いることによって、潤滑油の劣化、汚損状態を即時性が高く判定することができることを見出した。すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
[1]潤滑油劣化の判定に関する判定基準データを記憶する記憶部と、通信機能付き撮影装置により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データを取得し、前記撮影データから前記判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データを作成する作成部と、前記判定基準データに基づいて、前記画像解析用データから前記判定潤滑油の劣化度の判定結果を作成する判定部と、を備える潤滑油劣化判定システム。
[2]前記判定基準データは、色差データ、明度データ、色データ、油種類データ、新油時データ、摩耗粉コンタミデータ及び水分コンタミデータからなる群から選ばれる少なくとも1つである、[1]の潤滑油劣化判定システム。
[3]前記撮影装置は、撮影対象との距離及び角度を特定する撮影補助機を備える、[1]又は[2]の潤滑油劣化判定システム。
[4]前記撮影データは、判定対象である前記判定潤滑油を無色の透光性容器内に保存した状態を撮影したものである、[1]~[3]のいずれかの潤滑油劣化判定システム。
[5]前記作成部は、前記撮影データから誤判定要因を補正するための補正用データを有し、前記補正用データに基づいて補正した前記撮影データから前記画像解析用データを作成する、[1]~[4]のいずれかの潤滑油劣化判定システム。
[6]前記判定結果は、前記判定潤滑油の余寿命の判定結果を含む、[1]~[5]のいずれかの潤滑油劣化判定システム。
[7]前記撮影データから抽出した入力変数を機械学習のアルゴリズムにより、前記判定潤滑油の劣化判定と前記入力変数との相関関係を導き出すことにより、前記撮影データ及び前記入力変数から前記画像解析用データを決定するための予測モデルを作成する機械学習部をさらに備え、前記作成部は、前記予測モデル及び前記撮影データから前記画像解析用データを作成する、[1]~[6]のいずれかの潤滑油劣化判定システム。
[8]前記入力変数は、色差データ、明度データ、色データ、油種類データ、摩耗粉コンタミデータ及び水分コンタミデータからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、[7]の潤滑油劣化判定システム。
[9]前記アルゴリズムは、サポートベクターマシン、線形回帰、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク及び勾配ブースティング木の群から選ばれる少なくとも1つである、[7]又は[8]の潤滑油劣化判定システム。
[10]前記機械学習部は、前記予測モデルを作成する毎に、作成した前記予測モデルを前記記憶部に記憶させ、新たな予測モデルを作成する際に、記憶した前記予測モデルを用いた機械学習を行う、[7]~[9]のいずれかの潤滑油劣化判定システム。
[11]潤滑油劣化の判定に関する判定基準データを記憶部に記憶する工程と、通信機能付き撮影装置により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データを取得し、前記撮影データから前記判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データを作成部で作成する工程と、前記判定基準データに基づいて、前記画像解析用データから前記判定潤滑油の劣化度を判定部で判定結果を作成する工程と、を含む潤滑油劣化判定方法。
[12]前記撮影データから抽出した入力変数を機械学習のアルゴリズムにより、判定潤滑油の劣化判定と入力変数との相関関係を導き出すことにより、前記撮影データ及び前記入力変数から前記画像解析用データを決定するための予測モデルを機械学習部で作成する工程をさらに含む、[11]に記載の潤滑油劣化判定方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、潤滑油の劣化、汚損状態を即時性が高く判定することが可能な潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システムの模式図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る潤滑油劣化判定方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システムの模式図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法について具体的に説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以下」、「以上」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値は上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0010】
(第1の実施の形態)
〔潤滑油劣化判定システム〕
本発明の第1の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システム1は、図1に示すように、記憶部10と、作成部20と、判定部30とを備える。潤滑油劣化判定システム1の構成要素は、システムバス40で接続され、システムバス40を介してデータのやり取りが行われる。
【0011】
<記憶部>
記憶部10は、潤滑油劣化の判定に関する判定基準データ100を記憶する。記憶部10に判定基準データ100を記憶させる手段としては、情報処理装置のユーザインタフェースを用いることができ、例えばマウス、キーボード、タッチパネル及び音声入力装置等を用いることができる。
記憶部10としては、例えば、ROM、RAM及びハードディスク等の記憶媒体を用いることができる。
【0012】
判定基準データ100は、例えば、色差データ、明度データ、色データ、油種類データ、新油時データ、摩耗粉コンタミデータ及び水分コンタミデータ等の潤滑油劣化の判定に基準として用いるデータである。
【0013】
色差データは、撮影データから各色成分(RGB値)に分離し、さらにRGB値を256段階に分離して得た最大色差に関するデータである。最大色差は、RGB値の各値(R値、G値、B値)のうち、最大値と最小値との差分(MAX(R、G、B)-MIN(R、G、B))によって求められるデータである。色差データは、最大色差が潤滑油の劣化を判定する油劣化閾値に関するデータを有し、判定する潤滑油が油劣化閾値に達しているか否かによって劣化を判定する。
【0014】
明度データは、撮影データから各色成分(RGB値)に分離し、さらにRGB値を256段階に分離して得た明度に関するデータである。明度(ΔE)は、RGB値の各値からΔE=(R+G+B1/2によって求められるデータである。明度データは、明度(ΔE)が潤滑油の劣化を判定する油劣化閾値に関するデータを有し、判定する潤滑油が油劣化閾値に達しているか否かによって劣化を判定する。
【0015】
色データは、JIS K 2580(1993)の参考1・石油製品の色試験方法(刺激値換算法)7.2に従って、ASTM色相を測定したデータである。色データは、潤滑油の劣化を判定する油劣化閾値に関するデータを有し、判定する潤滑油の色が油劣化閾値に達しているか否かによって劣化を判定する。
【0016】
油種類データは、潤滑油の種類に関するデータである。油種類データは、例えば、自動車用油、工業用潤滑油及び船舶用潤滑油等の油種類に関するデータであり、製品名、グレード名、製造時期及び製造場所等で油種類を絞り込んだデータを含む。油種類データは、各油種類の油劣化閾値と紐付けすることで、判定する潤滑油が油劣化閾値レベルに達しているか否かを判定することが可能となる。
【0017】
新油時データは、潤滑油の新油時におけるデータである。新油時データは、潤滑油の新油時における画像データであり、新油を透明性容器(特定容器)に入れて撮影した画像データであることが好ましい。新油時データは、判定する潤滑油の画像データを新油時の画像データと対比による色の差から潤滑油の劣化を判定する油劣化閾値に関するデータを有し、判定する潤滑油の色の差が油劣化閾値に達しているか否かによって劣化を判定する。
【0018】
摩耗粉コンタミデータは、潤滑油が摩耗粉によって汚染(コンタミネーション)しているか判定する汚染閾値に関するデータを有し、判定する潤滑油が汚染閾値に達しているか否かによって劣化を判定する。摩耗粉コンタミデータは、潤滑油が摩耗粉の混入によって汚染している場合に画像データに生じる不均一性の基準となるデータである。摩耗粉コンタミデータの汚染閾値は、例えば、画像データの不均一成分が100個/1mlとし、この汚染閾値を超えれば摩耗粉有りで汚染が生じていると判定することができる。
【0019】
水分コンタミデータは、潤滑油が溶解度を超えた水分によって汚染(コンタミネーション)しているか判定する汚染閾値に関するデータを有し、判定する潤滑油が汚染閾値に達しているか否かによって劣化を判定する。水分コンタミデータは、潤滑油が溶解度を超えた水分の混入によって汚染している場合に画像データに生じる不均一性の基準となるデータである。水分コンタミデータの汚染閾値は、例えば、画像データの中で層分離している部分がある、又は、油中に水滴による白濁が1箇所以上ある場合には、水分による汚染が生じていると判定することができる。
【0020】
<作成部>
作成部20は、通信機能付き撮影装置21により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を取得し、撮影データ210から判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データ200を作成する。
画像解析用データ200は、潤滑油の判定に採用する判定基準データ100に応じたデータを少なくとも有することが好ましい。
【0021】
撮影装置21は、CCD及びCMOS等のイメージセンサにより、判定する判定潤滑油の画像データとしての撮影データ210を取得することができる装置である。撮影データ210は、色調等に対して加工されていない画像データであることが好ましく、イメージセンサが捉えた光のそのまま情報である未加工のロウ(Raw)データであることが好ましい。
撮影装置21は、通信機能を有することで、通信ネットワーク22を介して潤滑油劣化判定システム1の作成部20へ取得した撮影データ210を送信することができる。通信ネットワーク22は、例えば、有線又は無線のLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット、イントラネット及び専用線等である。通信機能を有する撮影装置21としては、例えば、デジタルカメラ、携帯端末及びスマートフォン等が挙げられる。
【0022】
撮影装置21は、判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を安定して取得する観点から、撮影対象との距離及び角度を特定する撮影補助機を備えることが好ましい。撮影補助機は、撮影装置21と判定対象である判定潤滑油との距離、角度を一定にして同じ画角で撮影データ210を撮影することを可能とする補助装置である。また、撮影補助機は、撮影装置21とLED等のバックライトとの距離、角度を一定にして同じ光量で撮影することを可能とする補助装置である。撮影補助機は、撮影装置21への着脱が簡易に行えることが好ましく、撮影装置21と係合可能な係合部を備えることが好ましい。
【0023】
撮影データ210は、判定対象である判定潤滑油の画像データを安定して取得する観点から、判定対象である判定潤滑油を無色の透光性容器(特定容器)内に保存した状態を撮影したものであることが好ましい。
透光性容器(特定容器)の容量は、上記観点から、判定対象である判定潤滑油を均一に標本抽出することが可能なものであればよく、例えば、0.1ml以上10ml以下の一定の容量のものであることが好ましい。
透光性容器(特定容器)を用いて撮影した際に光が判定対象である判定潤滑油を透過する長さ(光路長)は、上記観点から、一定であることが好ましく、例えば、光路長が0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。
透光性容器(特定容器)の材質は、上記観点から、透過率が高いものであることが好ましく、例えば、ガラス、ポリカーボネート樹脂(PC)及びアクリル樹脂(PMMA)等を用いることができる。透光性容器(特定容器)の波長300nmでの透過率は、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
透光性容器(特定容器)は、汚れ等の誤判定要因を排除する観点から、撮影する度に新品を用いることが好ましい。
【0024】
作成部20は、撮影データ210から誤判定要因を補正するための補正用データ201を有し、補正用データ201に基づいて補正した撮影データ210から画像解析用データ200を作成することが好ましい。
補正用データ201は、判定対象である判定潤滑油を撮影する際のホワイトバランスを調整し、撮影環境に依存する色調等の誤判定要因を削除する補正を行うためのデータである。また、補正用データ201は、判定対象である判定潤滑油を撮影に用いるレンズ、撮影補助機及び透光性容器(特定容器)の汚れに基づく誤判定要因を削除する補正を行うためのデータである。
補正用データ201の取得手段としては、新品又は清掃後の汚れ等の誤判定要因のない状態の透光性容器(特定容器)を撮影することで、誤判定要因を削除する補正を行うための参照(レファレンス)となる画像データを取得する手段が挙げられる。また、補正用データ201の取得手段としては、判定する判定潤滑油の画像データとしての撮影データ210を取得する際に、撮影データ210の一部に参照(レファレンス)となる画像データを併せて取得する手段が挙げられる。また、補正用データ201の取得手段としては、判定する判定潤滑油の画像データとしての撮影データ210を取得する際に、同時に、判定潤滑油の新油状態のものを参照(レファレンス)となる画像データとして取得する手段が挙げられる。
【0025】
<判定部>
判定部30は、判定基準データ100に基づいて、画像解析用データ200から判定潤滑油の劣化度の判定結果300を作成する。
判定結果300としては、例えば、判定潤滑油の劣化の総合判定(「合格」又は「不合格」)、判定潤滑油の汚染の総合判定(「合格」又は「不合格」)、劣化度及び汚染度等の結果が含まれる。
判定結果300の劣化度には、判定潤滑油の余寿命の判定結果を含むことが好ましい。判定結果300に余寿命の判定結果が含まれることで、更油の時期を知らせることが可能となる。
【0026】
〔潤滑油劣化判定方法〕
本発明の第1の実施の形態に係る潤滑油劣化判定方法は、図2に示すように、記憶工程S10と、画像解析用データの作成工程S11と、判定結果の作成工程S12とを含む。以下に、本発明の第1の実施の形態に係る潤滑油劣化判定方法を図1及び図2を参照して説明する。
【0027】
<記憶工程>
記憶工程S10において、潤滑油劣化の判定に関する判定基準データ100を記憶部10に記憶する。記憶部10に記憶する方法としては、例えば、情報処理装置のユーザインタフェース等の入力部(図示せず)を利用して、判定基準データ100を入力することで記憶させる手段が挙げられる。
【0028】
<画像解析用データの作成工程>
画像解析用データの作成工程S11において、通信機能付き撮影装置21により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を取得し、撮影データ210から判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データ200を作成部20で作成する。
具体的には、まず、撮影装置21は、判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を撮影する。そして、通信機能付きである撮影装置21は、通信ネットワーク22を介して、潤滑油劣化判定システム1へ取得した撮影データ210を送信する。
次いで、作成部20は、通信機能付き撮影装置21により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を取得する。
次いで、作成部20は、取得した撮影データ210から判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データ200を作成する。作成した画像解析用データ200は、記憶部10に記憶させる。画像解析用データ200を作成するにあたって、作成部20は、撮影データ210から誤判定要因を補正するための補正用データ201を取得し、補正用データ201に基づいて補正した撮影データ210から画像解析用データ200を作成することが好ましい。
【0029】
<判定結果の作成工程>
判定結果の作成工程S12において、判定基準データ100に基づいて、画像解析用データ200から判定潤滑油の劣化度を判定部30で判定結果300を作成する。
具体的には、まず、判定部30は、記憶部10に記憶されている判定基準データ100及び画像解析用データ200を油種類等により紐付けし、画像解析用データ200を判定基準データ100に照らし合わせることで、判定潤滑油の劣化度に関する判定結果300を作成する。判定結果300には、判定潤滑油の余寿命の判定結果が含まれていることが好ましい。
判定部30は、作製した判定結果300を記憶部10に記憶させる。判定結果300は、通信ネットワーク22を介してユーザ端末等の出力部(図示せず)に出力することができる。
【0030】
本発明の第1の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法によれば、一般的なユーザが所有している通信機能付き撮影装置により撮影された撮影データを用いることによって、潤滑油の劣化、汚損状態を即時性が高く判定することができる。
【0031】
(第2の実施の形態)
〔潤滑油劣化判定システム〕
本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システム1は、図3に示すように、記憶部10と、作成部20と、判定部30とを備え、機械学習部50をさらに備える。潤滑油劣化判定システム1の構成要素は、システムバス40で接続され、システムバス40を介してデータのやり取りが行われる。
第1の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システム1と重複する構成要素等については記載を省略する。
【0032】
<機械学習部>
機械学習部50は、撮影データ210から抽出した入力変数を機械学習のアルゴリズムにより、判定潤滑油の劣化判定と入力変数との相関関係を導き出すことにより、撮影データ210及び入力変数から画像解析用データ200を決定するための予測モデル500を作成する。機械学習部50は、判定潤滑油の劣化判定と入力変数との相関関係より、判定潤滑油の劣化判定に関して、抽出した入力変数の重要度をそれぞれ評価し、重要度に応じて入力変数のそれぞれに関するパラメータを設定したものが予測モデル500である。
機械学習部50は、撮影装置21の個体差及び撮影環境から生じる入力変数と判定潤滑油の劣化判定との相関関係についても導き出し、予測モデル500に反映させることが好ましい。
【0033】
機械学習部50で取り扱う入力変数としては、上記判定基準データ100と同様のもとを採用することができ、色差データ、明度データ、色データ、油種類データ、新油時データ、摩耗粉コンタミデータ及び水分コンタミデータ等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。入力変数としては、なかでも、色差データ、明度データ、色データ、油種類データ、摩耗粉コンタミデータ及び水分コンタミデータからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0034】
機械学習部50のアルゴリズムとしては、サポートベクターマシン、線形回帰、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク及び勾配ブースティング木が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0035】
機械学習部50は、予測モデル500を作成する毎に、作成した予測モデル500を記憶部10に記憶させ、新たな予測モデル500を作成する際に、記憶した予測モデル500を用いた機械学習を行う。
【0036】
<作成部>
本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システム1の作成部20は、予測モデル500及び撮影データ210から画像解析用データ200を作成することが好ましい。
【0037】
〔潤滑油劣化判定方法〕
本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定方法は、図4に示すように、記憶工程S20と、予測モデル作成工程S21と、画像解析用データの作成工程S21と、判定結果の作成工程S23とを含む。以下に、本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定方法を図3及び図4を参照して説明する。
【0038】
<記憶工程>
記憶工程S20において、潤滑油劣化の判定に関する判定基準データ100を記憶部10に記憶する。記憶部10に記憶する方法としては、例えば、情報処理装置のユーザインタフェース等の入力部(図示せず)を利用して、判定基準データ100を入力することで記憶させる手段が挙げられる。
【0039】
<予測モデル作成工程>
予測モデル作成工程S21において、撮影データ210から抽出した入力変数を機械学習のアルゴリズムにより、判定潤滑油の劣化判定と入力変数との相関関係を導き出すことにより、撮影データ210及び入力変数から画像解析用データ200を決定するための予測モデル500を機械学習部50で作成する。
具体的には、まず、機械学習部50は、記憶部10に記憶されている撮影データ210を参照し、撮影データ210から入力変数を抽出する。
次いで、機械学習部50は、抽出した入力変数を機械学習のアルゴリズムにより、判定潤滑油の劣化判定と入力変数との相関関係を導き出す。即ち、機械学習部50は、判定潤滑油の劣化判定の要因として重要度の高い入力変数を機械学習のアルゴリズムにより導き出す。そして、機械学習部50は、重要度に応じて入力変数のそれぞれに関するパラメータを設定した予測モデル500を作成する。
機械学習部50は、予測モデル500を作成する毎に、作成した予測モデル500を記憶部10に記憶させ、予測モデル500を作成する際に、記憶した予測モデル500を用いた機械学習を行うことができる。
【0040】
<画像解析用データの作成工程>
画像解析用データの作成工程S22において、通信機能付き撮影装置21により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を取得し、機械学習部50で作成した予測モデル500を取得し、撮影データ210及び予測モデル500から判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データ200を作成部20で作成する。
具体的には、まず、撮影装置21は、判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を撮影する。そして、通信機能付きである撮影装置21は、通信ネットワーク22を介して、潤滑油劣化判定システム1へ取得した撮影データ210を送信する。
次いで、作成部20は、通信機能付き撮影装置21により撮影された判定対象である判定潤滑油の撮影データ210を取得する。
次いで、作成部20は、記憶部10に記憶されている予測モデル500を取得する。
次いで、作成部20は、取得した撮影データ210及び予測モデル500から判定潤滑油における劣化に関する画像解析用データ200を作成する。作成した画像解析用データ200は、記憶部10に記憶させる。画像解析用データ200を作成するにあたって、作成部20は、撮影データ210から誤判定要因を補正するための補正用データ201を取得し、補正用データ201に基づいて補正した撮影データ210から画像解析用データ200を作成することが好ましい。
【0041】
<判定結果の作成工程>
判定結果の作成工程S23において、判定基準データ100に基づいて、画像解析用データ200から判定潤滑油の劣化度を判定部30で判定結果300を作成する。
具体的には、まず、判定部30は、記憶部10に記憶されている判定基準データ100及び画像解析用データ200を油種類等により紐付けし、画像解析用データ200を判定基準データ100に照らし合わせることで、判定潤滑油の劣化度に関する判定結果300を作成する。判定結果300には、判定潤滑油の余寿命の判定結果が含まれていることが好ましい。
判定部30は、作製した判定結果300を記憶部10に記憶させる。判定結果300は、通信ネットワーク22を介してユーザ端末等の出力部(図示せず)に出力することができる。
【0042】
本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法によれば、一般的なユーザが所有している通信機能付き撮影装置により撮影された撮影データを用いることによって、潤滑油の劣化、汚損状態を即時性が高く判定することができる。
また、本発明の第2の実施の形態に係る潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法によれば、機械学習を行うことによって、潤滑油の劣化、汚損状態について制度の高い判定を行うことができる。
【実施例
【0043】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0044】
(判定基準データの取得)
以下の試験を行うことにより、潤滑油の劣化状態判定の基準となる判定基準データを取得した。
(1)試験油
以下の試料油A~Cを判定基準データ用のモデル処理油とした。
a)試料油A
・基油(150N鉱油(62.54質量%)+500N鉱油(36.00質量%):40℃動粘度=47.61mm/s、100℃動粘度=7.156mm/s、粘度指数=109)
・添加剤:酸化防止剤、防錆剤、流動点降下剤、清浄分散剤、極圧剤、抗乳化剤及び消泡剤を試料油全量基準で合計1.46質量%含有
b)試料油B
・基油(150N鉱油(64.95質量%)+500N鉱油(33.85質量%):40℃動粘度=44.39mm/s、100℃動粘度=6.855mm/s、粘度指数=110)
・添加剤:酸化防止剤、防錆剤、流動点降下剤、清浄分散剤、極圧剤、抗乳化剤及び消泡剤を試料油全量基準で合計1.20質量%含有
c)試料油C
・基油(150N鉱油(63.57質量%)+500N鉱油(31.92質量%):40℃動粘度=44.90mm/s、100℃動粘度=6.882mm/s、粘度指数=109)
・添加剤:酸化防止剤、防錆剤、流動点降下剤、清浄分散剤、極圧剤、抗乳化剤及び消泡剤を試料油全量基準で合計4.51質量%含有
上記データを油種類データとして、図1における記憶部10に記憶させた。
(2)撮影データ
各試料油を内容積5mlのガラス容器(透過率:90%)に投入し、有効画素数1200万画素のカメラ内蔵のスマートフォンを用いて、上記ガラス容器の側面から撮影された画像データ(撮影データ)を各種成分(RGB値)に分離し、これらのデータを上記油種類データと紐づけして、新油データとして記憶部10に記憶させた。
【0045】
(3)劣化試験(ISOT試験)
JIS K 2514-1:2013に準拠し、各試料油に銅・鉄触媒を存在させて、試験温度130℃、試験時間168時間まで試料油を劣化させた。このとき、各試料油について、新油から48hr、96hr、168hr後に前記と同様のガラス容器及びスマートフォンを用いて画像データ(撮影データ)を取り、これらを各種成分(RGB値)に分離して記憶部10に記憶させた。
また、上記各時間まで劣化させた試料油について、JIS K 2514-3:2013の回転ボンベ式酸化安定度試験に準拠し、試験温度150℃、圧力620kPaで行い、圧力が最高圧力から175kPa低下するまでの時間(RBOT値、Rt)を測定した。さらに、各試料油の余寿命が0hrとなるまで劣化させたときのRBOT値(R0)も測定し、新油のRBOT値(Rn)とから、下記式によりRBOT残存率を求めた。
RBOT残存率(%)=[Rt/(Rn-R0)]×100
以上の画像データ、劣化試験条件、RBOT残存率及び新油の余寿命を、前記油種類データと各々紐づけして記憶部10に記憶させた。
上記(2)及び(3)のデータをまとめて表1に示す。なお表中における劣化指数は、一例として上記RBOT残存率に酸価増加量、水分量及び夾雑物量を加味して求めたものである。
【0046】
【表1】
【0047】
(実施例1)
試料油Bについて、JIS K2514:2013に準拠して該試料油を存在させた回転式圧縮機において、平均運転油温80℃、平均運転圧力35MPa、1.0L/hで空気を補給して連続運転し、実機相当劣化試験を行った。このとき、各試料油について、新油から100hr、200hr、300hr、400hr試験後に前記と同様のガラス容器及びスマートフォンを用いて画像データ(撮影データ)を取り、これらを各種成分(RGB値)に分離し、潤滑油劣化判定システムに送信した。
なおこの時、試料油Bの油種類データ及び劣化試験条件も併せて潤滑油劣化判定システムに送信した。
【0048】
図1における潤滑油劣化判定システム1においては、まず作成部20において、取得した画像データから判定試料油における劣化に関する画像解析用データ200が作成される。作成された画像解析用データ200は記憶部10に記憶される。次に、判定部30において、判定基準データ100に基づいて、画像解析用データ200から各々の試料油の劣化度が判定結果300として作成される。
具体的には、まず、判定部30は、記憶部10に記憶されている判定基準データ100及び画像解析用データ200を油種類データにより紐づけする。そして画像解析用データ200を判定基準データ100に照らし合わせ、さらに劣化試験条件を参照して、判定試料油の劣化度に関する判定結果300が作成される。判定結果300には、判定試料油のRBOT残存率(推定寿命残存率)が含まれている。
判定部30は、作製した判定結果300を記憶部10に記憶させる。判定結果300は、通信ネットワークを介してユーザ端末に出力される。結果を表2にまとめて示す。
【0049】
(実施例2)
実施例1と同様に、試料油Bについて同様の条件で劣化試験を行った時の画像データ(撮影データ)を取り、これらを各種成分(RGB値)に分離し、潤滑油劣化判定システムに送信した。また併せて、試料油Bの各々の新油の余寿命(hr)も潤滑油劣化判定システムに送信した。
【0050】
潤滑油劣化判定システム1においては、判定部30において、実施例1と同様にして判定基準データ100に基づいて、画像解析用データ200から各々の試料油の劣化度を判定結果300’として作成される。
具体的には、まず、判定部30は、記憶部10に記憶されている画像解析用データ200を判定基準データ100に照らし合わせ、さらに新油の余寿命及び劣化試験条件を参照して、判定潤滑油の劣化度に関する判定結果300’を作成する。判定結果300’には、判定試料油の余寿命が含まれている。
判定部30は、作製した判定結果300’を記憶部10に記憶させる。判定結果300’は、通信ネットワークを介してユーザ端末に出力される。結果を表2にまとめて示す。
【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本実施形態の潤滑油劣化判定システム及び潤滑油劣化判定方法は、一般的なユーザが所有している通信機能付き撮影装置により撮影された撮影データを用いて、潤滑油の劣化、汚損状態について判定を行うことができるので、一般的なユーザが潤滑油の劣化判定を簡便に実行することができるものである。
【符号の説明】
【0053】
1:潤滑油劣化判定システム
10:記憶部
20:作成部
21:撮影装置
22:通信ネットワーク
30:判定部
40:システムバス
50:機械学習部
図1
図2
図3
図4