(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】CSF-1R抗体製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240419BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240419BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240419BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240419BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240419BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240419BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A61K39/395 T ZNA
A61K9/10
A61K47/26
A61K47/22
A61K47/20
A61P35/00
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2021513330
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2019074303
(87)【国際公開番号】W WO2020053321
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-05
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラヴリ, サティヤ クリシュナ キショール
(72)【発明者】
【氏名】ヤング, ケイウェイ
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-505894(JP,A)
【文献】特表2013-513367(JP,A)
【文献】特表2018-501254(JP,A)
【文献】特表2013-504540(JP,A)
【文献】特表2015-528465(JP,A)
【文献】特開2016-117732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 9/10
A61K 47/26
A61K 47/22
A61K 47/20
A61P 35/00
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-40mg/ml~200mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
-0.01%~0.1%(w/v)の
ポリソルベートと、
-5mM~100mMの
ヒスチジン緩衝液と、
-
120mM~
300mMの
糖とを、
4.5~7.0の範囲のpHで含
む、医薬製剤であって、
前記CSF-1Rに対する抗体が、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含み、かつ、
前記医薬製剤は、5~25mMのメチオニンを含む、医薬製剤。
【請求項2】
前記CSF-1Rに対する抗体の濃度が、40mg/ml~100mg/mlの範囲であり、特に、50mg/mlである、請求項
1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記ポリソルベートが、0.01%~0.1%(w/v)の範囲の濃度、特に0.04%(w/v)の濃度で存在する、請求項1
または2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記
ヒスチジン緩衝液が
、塩化ヒスチジン緩衝液である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記
ヒスチジン緩衝液が、10~30mMの範囲の濃度、特に、20mMの濃度を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記製剤のpHが、5.0~6.5の範囲、特に、6.0である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記
糖が
、スクロースである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記
糖が、140~250mMの範囲の濃度、特に、210~230mMの範囲の濃度で存在する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記
糖が、120~300mMの濃度で存在し、前
記メチオニンが、5~25mMの濃度で存在する、請求項
1~8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記CSF-1Rに対する抗体が、ヒトCSF-1RフラグメントdelD4(配列番号11)およびヒトCSF-1R細胞外ドメイン(配列番号12)に1:50以下の比率で結合する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
40~100mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.03~0.05%(w/v)のポリソルベート20と、
210~230mMのスクロースと、
任意選択で、5~25mMのメチオニンとを、
6.0±0.5のpHで含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
220mMのスクロースと、
10mMのメチオニンとを、
6.0±0.5のpHで含む、請求項1~
11のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
液体形態、凍結乾燥した形態、または凍結乾燥した形態から再構築された液体形態である、請求項1~
12のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
がんを治療する際に使用するための請求項1~
13のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項15】
別の治療薬剤、特に、PD-L1/PD-1相互作用を遮断する薬剤と組み合わせて使用するための請求項1~
14のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項16】
色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)または腱滑膜巨細胞腫(TGCT)を治療する際に使用するための請求項1~
13のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項17】
がんを治療するため、または色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)もしくは腱滑膜巨細胞腫(TGCT)を治療するために有用な医薬の調製のための請求項1~
13のいずれか一項に記載の製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CSF-1Rに対する抗体分子の製剤、その製剤を調製するためのプロセス、およびその製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトCSF-1受容体(CSF-1R;コロニー刺激因子1受容体;同義語:M-CSF受容体;マクロファージコロニー刺激因子1受容体、Fmsがん原遺伝子、c-fms、配列番号13)は、1986年から知られている(Coussens,L.,et al.,Nature 320(1986)277-280)。CSF-1Rは、CSF-1(コロニー刺激因子1、M-CSF、マクロファージコロニー刺激因子とも呼ばれる)のための受容体であり、このサイトカインの生物学的効果を媒介する(Sherr,C.J.,et al.,Cell 41(1985)665-676)。コロニー刺激因子-1受容体(CSF-1R)(c-fmsとも呼ばれる)のクローニングは、最初にRoussel,M.F.,et al.,Nature 325(1987)549-552に記載された。この刊行物において、CSF-1Rが、Cblに結合することによって受容体の下方制御を制御する阻害性チロシン969リン酸化の消失を含め、タンパク質のC末端テール部における変化に依存する形質転換能を有していることが示された(Lee,P.S.,et al.,Embo J.18(1999)3616-3628)。インターロイキン-34(IL-34)と呼ばれるCSF-1Rのための第2のリガンドも同定された(Lin,H.,et al,Science 320(2008)807-811)。
【0003】
コロニー刺激因子1(CSF-1)およびその受容体CSF-1Rは、マクロファージおよびその前駆体の遊走、分化、および生存を制御する。CSF-1Rは、いくつかの既知のがん原遺伝子を含む、成長因子受容体の受容体タンパク質チロシンキナーゼ(rPTK)ファミリーのメンバーである。軟組織のびまん性腱滑膜巨細胞腫(TGCT)(または、色素性絨毛結節性滑膜炎[PVNS]として知られる)は、大きな関節に影響を与える稀な増殖性疾患であり、CSF-1の過剰発現によって特徴付けられる。TGCT患者の大部分において、CSF-1をコードする遺伝子を含む染色体転座が、滑膜表層内の細胞によるこのサイトカインの過剰発現を引き起こす。これにより、主に、大きな腫瘍塊を形成する非悪性の単核細胞および多核細胞である、CSF-1Rを発現する細胞の大規模な動員が起こる。辺縁切除術または完全滑膜切除術は、依然としてTGCTの治療選択肢ではあるが、この障害は、局所的に破壊性であり、再発性の腫瘍成長に起因して、時には切断手術が必要となる。エマクツズマブは、CSF-1Rに対する抗体であり、この稀な疾患を治療することに成功したことが示されている(Cassier,P.,et al.,Lancet Oncol.16(2015)949-956)。
【0004】
CSF-1Rシグナル伝達の主な生物学的効果は、造血前駆細胞からマクロファージ系株(破骨細胞を含む)への分化、増殖、遊走、および生存である。CSF-1Rの活性化は、そのリガンドであるCSF-1(M-CSF)およびIL-34によって媒介される。CSF-1Rに対するCSF-1(M-CSF)の結合は、ホモ二量体の形成およびチロシンリン酸化によるキナーゼの活性化を誘導する(Li,W.et al,EMBO Journal.10(1991)277-288、Stanley,E.R.,et al.,Mol.Reprod.Dev.46(1997)4-10)。
【0005】
生物学的に活性なホモ二量体CSF-1は、CSF-1受容体の細胞外ドメイン(CSF-1R-ECD)のサブドメインD1~D3中のCSF-1Rに結合する。CSF-1R-ECDは、5つの免疫グロブリン様サブドメイン(D1~D5と指定される)を含む。細胞外ドメイン(CSF-1R-ECD)のサブドメインD4~D5は、CSF-1結合には関与しない。(Wang,Z.,et al Molecular and Cellular Biology 13(1993)5348-5359)。サブドメインD4は、二量体化に関与する(Yeung,Y-G.,et al Molecular & Cellular Proteomics 2(2003)1143-1155、Pixley,F.J.,et al.,Trends Cell Biol 14(2004)628-638)。配列番号11のヒトCSF-1RフラグメントdelD4(ヒトCSF-1R-ECDのD4サブドメインが欠失したヒトCSF-1Rフラグメント)に結合する抗体は、WO2011/070024A1に記載されている。これらの抗体は、D4およびD5の中に位置するそのエピトープとの受容体二量体化界面を遮断し、したがって、固有である。これらの抗体の1つは、エマクツズマブまたはRG7155である。そのCDRおよびVH/VL配列は、本明細書に開示されている。
【0006】
抗体分子は、タンパク質医薬群の一部として、物理的および化学的な分解を非常に受けやすい。化学的な分解は、結合形成または開裂を介するタンパク質の修飾を含む任意のプロセスを含み、新しい化学物質が得られる。種々の化学反応は、タンパク質に影響を与えることが知られている。これらの反応は、ペプチド結合の開裂を含む加水分解、ならびに脱アミド化、異性化、酸化および分解を含んでいてもよい。物理的な分解は、より高次の構造の変化を指し、変性、表面への吸着、凝集および沈殿を含む。タンパク質の安定性は、例えば、アミノ酸配列、グリコシル化パターン等のタンパク質自体の特徴によって影響され、温度、溶媒pH、賦形剤、界面、または剪断速度等の外的な影響によって影響される。そのため、製造、貯蔵および投与の間の分解反応に対してタンパク質を保護するための最適な製剤化条件を明確にすることが重要である。(Manning,M.C.,et al.(1989),”Stability of protein pharmaceuticals”,Pharm Res 6(11),903-918、Zheng,J.Y.,Janis,L.J.(2005),”Influence of pH,buffer species,and storage temperature on physicochemical stability of a humanized monoclonal antibody LA298”,Int.J.Pharmaceutics 308,46-51。)治療用抗体の安定な液体製剤は、製剤が高濃度で抗体を含むべきであるとき、得るのが特に困難である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、所望な投薬を可能にし、患者への抗体の簡便な投与を可能にする、可能な限り必要な賦形剤が少なくてすむ抗CSF-1R抗体のための安定な製剤を提供することである。
【0008】
本発明の製剤は、目に見える粒子が生成することなく、2~8℃の意図した貯蔵温度で24時間貯蔵した際に良好な安定性を示し、ライン内フィルタを必要とすることなく静脈内投与が可能であり、より大きな治療簡便性を可能にする。薬物製品の製造または輸送中に潜在的に起こる物理的ストレス条件をシミュレーションするために、振とうおよび複数回の凍結解凍ステップが液体製剤に適用された。本発明の製剤は、振とうおよび凍結解凍によるストレスを適用した後、良好な安定性を示す。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、CSF-1Rに結合する抗体の安定な高用量医薬製剤、その製剤を調製するためのプロセス、およびその製剤の使用に関する。
【0010】
一態様では、本発明は、医薬製剤であって、
-40mg/ml~200mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
-0.01%~0.1%(w/v)の界面活性剤と、
-5mM~100mMの緩衝剤と、
-10mM~500mMの少なくとも1つの安定剤とを、
4.5~7.0の範囲のpHで含む、医薬製剤を指す。
【0011】
特定の態様では、CSF-1Rに対する抗体は、配列番号1の重鎖CDR1(CDR-H1)、配列番号2のCDR-H2、および配列番号3のCDR-H3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR1(CDR-L1)、配列番号5のCDR-L2、および配列番号6のCDR-L3を含む軽鎖可変領域と、を含む。より特定的には、CSF-1Rに対する抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0012】
本発明の製剤は、液体形態、凍結乾燥した形態、または凍結乾燥した形態から再構築された液体形態で提供されてもよい。
【0013】
本発明の医薬製剤に有用なCSF-1Rに対する抗体を、本明細書で以下に詳細に記載する。
【0014】
好ましい態様では、本発明の製剤に含まれるCSF-1Rに対する抗体の濃度は、40~100mg/ml、好ましくは40~75mg/ml、より好ましくは40~60mg/mlの範囲である。特に好ましくは、50mg/mlの濃度である。
【0015】
別の態様では、医薬製剤は、界面活性剤を0.01%~0.1%(w/v)の範囲の濃度で含む。本発明の製剤において、界面活性剤の濃度は、重量/体積(w/v)で表される百分率として記載される。好ましくは、医薬製剤は、界面活性剤を0.02%~約0.05%(w/v)の範囲の濃度、最も好ましくは0.04%(w/v)の濃度で含む。界面活性剤がポリソルベートである、請求項1または2に記載の医薬製剤。本発明で使用するのに好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル類(すなわち、ポリソルベート類)、好ましくは、ポリソルベート20またはポリソルベート80である。特定の態様では、界面活性剤は、ポリソルベート20である。
【0016】
さらなる態様では、本発明の医薬製剤は、緩衝剤を含む。好ましくは、緩衝剤は、ヒスチジン緩衝液である。ヒスチジン緩衝液は、ヒスチジン、一般的にはL-ヒスチジンを緩衝剤として含む緩衝液である。最も好ましいのは、L-ヒスチジン/HCl緩衝液であり、L-ヒスチジン/HCl緩衝液は、L-ヒスチジンまたはL-ヒスチジンとL-ヒスチジン塩酸塩との混合物を含み、塩酸を用いてpH調整が達成されている。特に断りのない限り、「ヒスチジン」という用語は、本明細書で緩衝剤を記載するために使用される場合、L-ヒスチジン/HCl緩衝液、特に、塩化ヒスチジン緩衝液を指す。一態様では、緩衝剤は、10~30mMの範囲の濃度、より特定的には、20mMの濃度を有する。
【0017】
好ましくは、製剤のpHは、5.0~6.5の範囲、特に約6.0である。したがって、製剤のpHは、好ましくは6.0である。使用される緩衝剤にかかわらず、pHは、当該技術分野で知られている酸または塩基、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、硫酸およびクエン酸、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いて調整することができる。
【0018】
別の態様では、本発明の医薬製剤は、少なくとも1つの安定剤を含み、少なくとも1つの安定剤は、塩類、糖類およびアミノ酸類からなる群から選択される。特定の態様では、少なくとも1つの安定剤は、糖、特に、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトースおよびラフィノースからなる群から選択されるオリゴ糖である。より特定的には、糖は、スクロースである。好ましい態様では、安定剤または糖は、140~250mMの範囲の濃度、特に、210~230mMの範囲の濃度で存在する。好ましくは、糖は、220mMの濃度で存在する。
【0019】
さらに別の態様では、本発明の医薬製剤は、塩類、糖類およびアミノ酸類の群から選択される第1の安定剤と、第2の安定剤としてのメチオニンと、を含む。好ましい態様では、第1の安定剤は、120~300mMの濃度で存在し、第2の安定剤メチオニンは、5~25mMの濃度で存在する。より好ましくは、メチオニンは、10mMの濃度で存在する。
【0020】
本発明の製剤に含まれるCSF-1Rに対する抗体は、好ましくは、ヒトCSF-1RフラグメントdelD4(配列番号11)およびヒトCSF-1R細胞外ドメイン(配列番号12)に1:50以下の比率で結合する抗体である。
【0021】
特定の一態様では、本発明は、医薬製剤であって、
40~100mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.03~0.05%(w/v)のポリソルベート20と、
210~230mMのスクロースと、
任意選択で、5~25mMのメチオニンとを、
6.0±0.5のpHで含む、医薬製剤に関する。
【0022】
特定の一態様では、本発明の医薬製剤は、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
220mMのスクロースと、
10mMのメチオニンとを、
6.0±0.5のpHで含む。
【0023】
さらなる態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
220mMのスクロースとを、
6.0±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0024】
別の態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポロキサマー188と、
220mMのスクロースとを、
6.0±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0025】
さらなる態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
130mMの塩化ナトリウムとを、
6.0±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0026】
別の態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
130mMの塩化ナトリウムと、
10mMのメチオニンとを、
6.0±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0027】
さらなる態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポロキサマー188と、
130mMの塩化ナトリウムとを、
6.0±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0028】
別の態様では、本発明の医薬製剤は、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
220mMのスクロースとを、
5.5±0.5のpHで含む。
【0029】
別の態様では、本発明の医薬製剤は、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
220mMのスクロースと、
10mMのメチオニンとを、
5.5±0.5のpHで含む。
【0030】
さらなる態様では、本発明の医薬製剤は、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポロキサマー188と、
220mMのスクロースとを、
5.5±0.5のpHで含む。
【0031】
さらなる態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
130mMの塩化ナトリウムとを、
5.5±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0032】
別の態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
130mMの塩化ナトリウムと、
10mMのメチオニンとを、
5.5±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0033】
さらなる態様では、医薬製剤であって、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポロキサマー188と、
130mMの塩化ナトリウムとを、
5.5±0.5のpHで含む、医薬製剤が本明細書で提供される。
【0034】
別の態様では、本発明の医薬製剤は、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
240mMのトレハロースとを、
6.0±0.5のpHで含む。
【0035】
さらなる態様では、本発明の医薬製剤は、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポリソルベート20と、
240mMのトレハロースと、
10mMのメチオニンとを、
6.0±0.5のpHで含む。
【0036】
別の態様では、本発明の医薬製剤は、
50mg/mlのCSF-1Rに対する抗体と、
20mMのL-ヒスチジンと、
0.04%(w/v)のポロキサマー188と、
240mMのトレハロースとを、
6.0±0.5のpHで含む。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、がんまたは転移の治療において使用するための、本明細書で以前に記載した医薬製剤に関する。別の態様では、本明細書で以前に記載した医薬製剤は、骨量減少の治療に使用するためのものである。さらなる態様では、本明細書で以前に記載した医薬製剤は、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の治療に使用するためのものである。好ましい態様では、本明細書で以前に記載した医薬製剤は、色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)または腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の治療に使用するためのものである。
【0038】
別の態様では、本明細書で以前に記載した医薬製剤は、別の治療薬剤、特に、別の免疫療法と組み合わせて使用するためのものである。特定の一態様では、医薬製剤は、PD-L1/PD-1相互作用を遮断する薬剤と組み合わせて使用するためのものである。別の態様では、本発明は、がんまたは転移を治療するのに有用な医薬を調製するための本明細書で以前に記載した医薬製剤の使用に関する。別の態様では、骨量減少の治療に有用な医薬を調製するための本明細書で以前に記載した医薬製剤の使用が提供される。さらなる態様では、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の治療に有用な医薬を調製するための本明細書で以前に記載した医薬製剤の使用が提供される。好ましい態様では、色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)または腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の治療に有用な医薬を調製するための本明細書で以前に記載した医薬製剤の使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、CSF-1Rに対する抗体を含む安定な医薬製剤に関する。
【0040】
「医薬製剤」または「医薬組成物」という用語は、活性成分の生物学的活性が明白に有効であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される対象にとって毒性があるさらなる構成要素を含まない調製物を指す。
【0041】
本発明の製剤と組み合わせて本明細書で使用される「液体」という用語は、大気圧下、少なくとも約2℃~約8℃の温度で液体である製剤を示す。
【0042】
本発明の製剤と組み合わせて本明細書で使用される「凍結乾燥した」という用語は、それ自体が当該技術分野で知られている凍結乾燥方法によって製造される製剤を示す。溶媒(例えば、水)は、凍結の後、真空下での氷の昇華および高温での残留水の離脱によって除去される。凍結乾燥物は、通常、残留水分量が約0.1~5%(w/w)であり、粉末として、または物理的に安定なケーキとして存在する。凍結乾燥物は、再構築媒体の添加後に迅速に溶解することによって特性決定される。
【0043】
本発明の製剤と組み合わせて本明細書で使用される「再構築された形態」という用語は、凍結乾燥され、再構築媒体の添加によって再溶解する製剤を示す。好適な再構築媒体は、限定されないが、注射用水(WFI)、注射用静菌性水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%ポリソルベート20)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝溶液)を含む。
【0044】
本発明の製剤は、生理学的に十分に忍容性であり、容易に調製することができ、正確に分配することができ、貯蔵期間にわたって、繰り返される凍結解凍サイクルおよび機械的ストレスの間、分解生成物および凝集物に関して安定である。
【0045】
「安定な」製剤は、製剤中のタンパク質(例えば、抗体)が、その物理的安定性および化学的安定性を本質的に保持しており、そのため、貯蔵中のその生物学的活性を保持している製剤である。
【0046】
「安定な液体医薬抗体製剤」は、冷蔵温度(2~8℃)で少なくとも12ヶ月間、特定的には2年間、より特定的には3年間、顕著な変化が観察されない液体抗体製剤である。安定性の基準は、以下の通りである。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)によって測定される場合、抗体単量体の10%以下、特定的には5%以下が分解する。さらに、溶液は、視覚分析によって、無色または透明から、わずかに乳白色である。製剤のタンパク質濃度は、±10%以下の変化を有する。10%以下、特定的に、5%以下の凝集が生成する。安定性は、UV分光法、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー(IE-HPLC)、比濁法および目視検査等、当該技術分野で知られている方法によって測定される。
【0047】
「抗体」という用語は、全長抗体および抗体フラグメントに限定されないが、これらを含む、抗体構造の種々の形態を包含する。本発明の抗体は、特に、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、抗体フラグメント、または、本発明の特徴的な性質が維持されている限りにおいて、さらなる遺伝子操作された抗体である。より特定的には、抗体は、ヒト化モノクローナル抗体、特に、組換えヒト化抗体である。特定の態様では、ヒト化抗体は、ヒトIgG1アイソタイプの抗体である。
【0048】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンと比較して、異なる特異性を有する免疫グロブリンのCDRを含むように修飾された抗体を指す。好ましい実施形態では、マウスCDRがヒト抗体のフレームワーク領域に接合され、「ヒト化抗体」を調製する。Riechmann,L.,et al.,Nature 332(1988)323-327、およびNeuberger,M.S.,et al.,Nature 314(1985)268-270を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について上に示した抗原を認識する配列を表すものに対応する。本発明に包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、特に、C1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合という観点で、本発明に係る特性を作り出すために、定常領域が、元々の抗体の定常領域からさらに修飾されるか、または変更されているものである。
【0049】
「CSF-1Rに対する抗体」は、ヒトCSF-1Rに特異的に結合する抗体である。特に有用なCSF-1Rに対する抗体は、例えば、PCT公開第WO2011/070024A1号(その全体が本明細書に参照によって組み込まれる)に記載される抗体である。これらの抗体は、ヒトCSF-1RフラグメントdelD4(細胞外サブドメインD1-D3およびD5を含む、配列番号11)およびヒトCSF-1R細胞外ドメイン(CSF-1R-ECD)(細胞外サブドメインD1-D5を含む、配列番号12)に1:50以下の比率で結合するという点で固有である。したがってD4およびD5の中に位置するそのエピトープを用い、受容体二量体化界面を遮断することができる。
【0050】
「特異的に結合する」とは、その結合が抗原選択性であり、望ましくない相互作用または非特異的な相互作用とは判別することができることを意味する。抗原結合部分が特定の抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)または当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))、および従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。一実施形態では、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合度は、例えばSPRによって測定される抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。特定の実施形態では、抗原に結合する抗原結合部分、またはこの抗原結合部分を含む抗体は、解離定数(KD)が、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)である。
【0051】
特定の態様では、CSF-1Rに対する抗体は、配列番号1の重鎖CDR1(CDR-H1)、配列番号2のCDR-H2、および配列番号3のCDR-H3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR1(CDR-L1)、配列番号5のCDR-L2、および配列番号6のCDR-L3を含む軽鎖可変領域と、を含む。より特定的には、CSF-1Rに対する抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む。特定の好ましい態様では、CSF-1Rに対する抗体は、ヒトIgG1抗体であり、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む。この抗体は、エマクツズマブまたはRG7155と呼ばれる。
【0052】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗原に対する抗体の結合に抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖および軽鎖(それぞれVHおよびVL)の可変ドメインは、一般的に、同様の構造を有し、それぞれのドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの相補性決定領域(CDR)と、を含む。抗原結合特異性を与えるために、単一のVHまたはVLドメインで十分な場合がある。可変領域配列と組み合わせて本明細書で使用される場合、「Kabat番号付け」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって記載される番号付けシステムを指す。
【0053】
本明細書で使用される「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列内で高頻度可変性であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの領域のそれぞれを指す。HVRは、「相補性決定領域」(「CDR」)由来のアミノ酸残基を含む。一般的に、抗体は、VHに3つ(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)、VLに3つ(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)の6つのCDRを含む。 本明細書における例示的なCDRは、
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)、および96-101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))、
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)、および95-102(H3)で生じるCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991))、ならびに
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)、および93-101(H3)で生じる抗原接触(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))を含む。
【0054】
特に断りのない限り、CDRは、上記のKabatらに従い決定される。当業者は、CDRの表記が、上記のChotia、上記のMcCallum、または任意の他の科学的に許容される命名システムに従い決定することもできることを理解するであろう。
【0055】
「フレームワーク」または「FR」は、相補性決定領域(CDR)以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に、 FR1、FR2、FR3およびFR4の4つのFRドメインからなる。したがって、CDRおよびFR配列は、一般的に、VH(またはVL)において以下の配列: FR1-CDR-H1(L1)-FR2-CDR-H2(L2)-FR3-CDR-H3(L3)-FR4で表される。
【0056】
「エピトープ」という用語は、抗体に対して特異的に結合することができる任意のポリペプチド決定基を含む。特定の実施形態では、エピトープ決定基は、分子の化学的に活性な表面基、例えば、アミノ酸類、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルを含み、特定の実施形態では、特定の三次元構造特徴、および/または特定の電荷特徴を有していてもよい。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。
【0057】
「定常領域」または「定常ドメイン」は、抗原に対する抗体の結合に直接的には関与しないが、種々のエフェクター機能を示す。抗体または免疫グロブリンは、それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMといったクラスに分けられ、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4、IgA1およびIgA2へとさらに分けることができる。本発明で使用される抗体は、特定的にはIgG型の抗体であり、より特定的には、IgG1またはIgG4ヒトサブタイプの抗体である。
【0058】
「Fc領域」という用語は、本明細書では定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域と可変Fc領域を含む。一態様では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びている。しかし、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ以上、特定的に1つまたは2つのアミノ酸の翻訳後開裂を受けてもよい。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞によって産生する抗体は、完全長重鎖を含んでいてもよく、または完全長重鎖の開裂したバリアントを含んでいてもよい。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)およびリシン(K447、Kabat EUインデックスによる番号付け)である場合であってもよい。したがって、Fc領域のC末端リシン(Lys447)、またはC末端グリシン(Gly446)およびリシン(Lys447)が存在してもよく、または存在していなくてもよい。Fc領域を含む重鎖のアミノ酸配列は、特に断りのない場合には、C末端のグリシン-リシンジペプチドを含まずに本明細書で示される。一態様では、本発明の抗体に含まれる、本明細書で明記したFc領域を含む重鎖は、さらなるC末端のグリシン-リシンジペプチド(G446およびK447、KabatのEUインデックスに従った番号付け)を含む。一態様では、本発明の抗体に含まれる、本明細書で明記したFc領域を含む重鎖は、さらなるC末端のグリシン残基(G446、KabatのEUインデックスに従った番号付け)を含む。本明細書で特に明記されない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載される、EU番号付けシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従う。
【0059】
医薬製剤に含まれるCSF-1Rに対する抗体の濃度は、40mg/ml~200mg/mlの範囲、特定的には40mg/ml~100mg/mlの範囲、より特定的には40mg/ml~60mg/mlの範囲、最も特定的には50mg/mlである。
【0060】
本明細書で使用される「界面活性剤」という用語は、薬学的に許容される表面活性薬剤を示す。好ましくは、非イオン性界面活性剤が使用される。薬学的に許容される界面活性剤の例としては、限定されないが、ポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij)、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton X)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Poloxamer、Pluronic)、およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。好ましいポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステルは、ポリソルベート20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween 20(商標)の商標で販売される)およびポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、Tween 80(商標)の商標で販売される)である。好ましいポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーは、Pluronic(登録商標)F68またはPoloxamer 188(商標)の名称で販売されているものである。好ましいポリオキシエチレンアルキルエーテルは、Brij(商標)の商標で販売されているものである。好ましいアルキルフェニルポリオキシエチレンエーテルは、Triton Xの商標で販売されており、最も好ましくは、p-tert-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton X-100(商標)の商標で販売される)である。本発明での使用に好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル、好ましくは、ポリソルベート20またはポリソルベート80、最も好ましくは、ポリソルベート20である。別の好ましい界面活性剤は、Poloxamer 188(商標)である。
【0061】
本明細書で使用される「緩衝剤」という用語は、医薬調製物のpHを安定化させる、薬学的に許容される賦形剤を示す。好適な緩衝液は、当該技術分野でよく知られており、文献中に見出すことができる。好ましい薬学的に許容される緩衝液は、限定されないが、ヒスチジン緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液、アルギニン緩衝液、リン酸緩衝液、またはこれらの混合物を含む。したがって、緩衝剤は、ヒスチジン塩類、クエン酸塩類、コハク酸塩類、酢酸塩類、リンゴ酸塩類、リン酸塩類および乳酸塩類である。特に興味深い緩衝剤は、L-ヒスチジン、またはL-ヒスチジンとL-ヒスチジン塩酸塩またはL-ヒスチジン酢酸塩との混合物を含み、当該技術分野で知られている酸または塩基を用いてpH調整されている。上述の緩衝液は、一般的に、約5mM~約100mMの量、特定的には約10mM~約30mMの量、より特定的には約20mMの量で使用される。使用される緩衝液とは独立して、当該技術分野で知られている酸または塩基、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、硫酸およびクエン酸、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用い、pHを4.5~7.0の範囲の値、特定的には5.0~6.0の範囲の値、最も特定的にはpH6.0±0.03に調整することができる。
【0062】
「安定剤」という用語は、製造、貯蔵および適用の間の化学的な分解および/または物理的な分解から活性医薬成分および/または製剤を保護する、薬学的に許容される賦形剤を示す。安定剤としては、限定されないが、糖類、アミノ酸類、ポリオール類(例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、デキストラン、グリセロール、アラビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、シクロデキストリン類(例えば、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエチル-β-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール類(例えば、PEG 3000、PEG 3350、PEG 4000、PEG 6000)、アルブミン類(ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA))、塩類(例えば、塩化ナトリウム(生理食塩水)、塩化マグネシウム、塩化カルシウム)、本明細書で以下に定義されるようなキレート剤(例えば、EDTA)が挙げられる。本発明で特に使用される安定剤は、糖類、ポリオール類およびアミノ酸類からなる群から選択される。安定剤は、製剤中に、約10mM~約500mMの量、特定的には約140~約250mMの量、より特定的には約210mM~約240mMの量で存在し得る。より特定的には、スクロースまたはトレハロースは、約220mM~約240mMの量で安定剤として使用される。
【0063】
本明細書で使用される「糖」という用語は、単糖類およびオリゴ糖類を含む。単糖は、単純糖類およびその誘導体、例えば、アミノ糖類を含む、酸によって加水分解可能ではない単量体炭水化物である。糖類は、通常は、そのD配座である。単糖類の例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、リボース、デオキシリボース、ノイラミン酸が挙げられる。オリゴ糖は、分枝鎖または直鎖のいずれかのグリコシド結合を介して接続する1つより多い単量体糖単位からなる炭水化物である。オリゴ糖内の単量体糖単位は、同一であってもよく、または異なっていてもよい。単量体糖単位の数に応じて、オリゴ糖は、二糖、三糖、四糖、五糖等の糖である。多糖類とは対照的に、単糖類およびオリゴ糖類は、水溶性である。オリゴ糖類の例としては、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトースおよびラフィノースが挙げられる。本発明で使用するのに好ましい糖類は、スクロースおよびトレハロース(すなわち、α,α-D-トレハロース)であり、最も好ましくは、スクロースである。トレハロースは、トレハロース二水和物として利用可能である。糖類は、製剤中に、約10~約500mMの量、好ましくは約200~約300mMの量、より好ましくは約220~約250mMの量、特定的には約220mMまたは約240mMの量、最も好ましくは約220mMの量で存在し得る。
【0064】
本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、カルボン酸基に対してα位に位置するアミノ部分を有する薬学的に許容される有機分子を示す。アミノ酸類の例として、限定されないが、アルギニン、グリシン、オルニチン、リシン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリンが挙げられる。使用されるアミノ酸は、好ましくは、それぞれの場合に、L形態である。塩基性アミノ酸類、例えば、アルギニン、ヒスチジン、またはリシンは、好ましくは、その無機塩類の形態で(有利には、塩酸塩類、すなわち、アミノ酸塩酸塩類の形態で)使用される。本発明における使用に好ましいアミノ酸は、メチオニンである。メチオニンは、好ましくは、約5~約25mM、最も好ましくは約10mMの濃度で使用される。
【0065】
安定剤中のサブグループは、凍結保護剤である。「凍結保護剤」という用語は、凍結乾燥プロセス、その後の貯蔵および再構成の間、不安定化条件に対して不安定な活性成分(例えば、タンパク質)を保護する、薬学的に許容される賦形剤を示す。凍結保護剤は、限定されないが、糖類、ポリオール類(例えば、糖アルコール類)およびアミノ酸類からなる群を含む。好ましい凍結保護剤は、スクロース、トレハロース、ラクトース、グルコース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、リファノース、ノイラミン酸等の糖類、グルコサミン、ガラクトサミン、N-メチルグルコサミン(「メグルミン」)等のアミノ糖類、マンニトールおよびソルビトール等のポリオール類、ならびにアルギニンおよびグリシン等のアミノ酸、またはこれらの混合物からなる群から選択することができる。凍結保護剤は、一般的には、約10~500mMの量、好ましくは約10~約300mMの量、より好ましくは約100~約300mMの量で使用される。
【0066】
安定剤中のさらなるサブグループは、酸化防止剤である。「酸化防止剤」という用語は、活性医薬成分の酸化を防ぐ、薬学的に許容される賦形剤を示す。酸化防止剤は、限定されないが、アスコルビン酸、グルタチオン、システイン、メチオニン、クエン酸、EDTAを含む。酸化防止剤は、約0.01~約100mMの量、好ましくは約5~約50mMの量、より好ましくは約5~約25mMの量で使用され得る。
【0067】
本発明の製剤は、1つ以上の等張化剤も含んでいてもよい。「等張化剤」という用語は、製剤の張度を調節するために使用される薬学的に許容される賦形剤を示す。製剤は、低張性、等張性または高張性であってもよい。等張性は、一般的に、通常はヒト血清の浸透圧(約250~350mOsmol/kg)に対する溶液の浸透圧に関する。本発明の製剤は、低張性、等張性または高張性であってもよいが、好ましくは等張性である。高張性製剤は、液体であるか、または固体形態(例えば、凍結乾燥した形態)から再構築された液体であり、比較されるいくつかの他の溶液、例えば、生理学的塩溶液および血清と同じ張度を有する溶液を示す。好適な等張化剤は、限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、およびアミノ酸類または糖類、例えば、グルコースの群からの任意の構成要素を含む。等張化剤は、一般的に、約5mM~約500mMの量で使用される。安定剤および等張化剤の中に、両方の様式で機能し得る、すなわち、同時に安定剤および等張化剤であり得る化合物群が存在する。その例は、糖類、アミノ酸類、ポリオール類、シクロデキストリン類、ポリエチレングリコール類および塩類の群に見出すことができる。同時に安定剤および等張化剤であり得る糖の一例は、トレハロースである。
【0068】
本明細書で使用される「ポリオール類」という用語は、1つより多いヒドロキシ基を有する薬学的に許容されるアルコール類を示す。好適なポリオール類は、限定されないが、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、デキストラン、グリセロール、アラビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせを含む。ポリオール類は、約10mM~約500mMの量、特定的には約10~約250mMの量、より特定的には約200~約250mMの量で使用され得る。
【0069】
製剤は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤等のアジュバントも含有し得る。滅菌化手順によって、および種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等を含むことの両方によって、微生物の存在の予防が確保され得る。防腐剤は、一般的に、約0.001~約2%(w/v)の量で使用される。防腐剤は、限定されないが、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、メチルまたはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムを含む。
【0070】
医薬製剤は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤等のアジュバントも含有し得る。滅菌化手順によって、および種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等を含むことの両方によって、微生物の存在の予防が確保され得る。防腐剤は、一般的に、約0.001~約2%(w/v)の量で使用される。防腐剤は、限定されないが、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、メチルまたはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムを含む。
【0071】
本発明の製剤は、当該技術分野で知られている種々の方法によって投与することができる。当業者に理解されるように、投与の経路および/または態様は、所望な結果に依存して変わり得る。特定の投与経路によって本発明の製剤を投与するために、製剤を希釈剤で希釈することが必要な場合がある。薬学的に許容される希釈剤としては、生理食塩水、グルコース、Ringer溶液および緩衝液水溶液が挙げられる。
【0072】
好ましくは、本発明の製剤は、静脈内(IV)、皮下(SC)、または任意の他の非経口投与手段、例えば、医薬分野で知られているものによって投与される。好ましい態様では、医薬製剤は、IV注入によって投与される。静脈注射によって投与される場合、ボーラス注射として、または連続注入として投与され得る。例えば、本発明の医薬製剤を滅菌生理食塩水溶液で希釈し、臨床現場で通常使用される注入ポンプを用いて投与されてもよい。
【0073】
本明細書で使用される「非経口投与」および「非経口で投与される」という句は、経腸投与および局所投与以外の投与態様を意味し(通常は注射による)、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外および胸骨内の注射および注入が挙げられる。
【0074】
本発明の医薬製剤は、一度に、または一連の治療にわたって、患者に好適に投与され、その後の診断からの任意の時間に患者に投与されてもよく、単一治療として、または本明細書で上に記載した状態を治療する際に有用な他の薬物または治療と組み合わせて投与されてもよい。
【0075】
CSF-1Rに対する抗体は、液体医薬組成物中のたった1つの活性成分であってもよい。または、CSF-1Rに対する抗体は、1つ以上の他の治療的に活性な成分と組み合わせて、例えば、同時に、連続して、または別個に投与されてもよい。本明細書で使用される「活性成分」という用語は、関連する用量で薬理学的効果、例えば、治療効果を有する成分を指す。したがって、液体医薬組成物中のCSF-1Rに対する抗体は、他の抗体成分、例えば、CD40抗体、VEGF抗体またはPD-L1/PD-1相互作用を遮断する薬剤を含む、他の活性成分を伴っていてもよい。特に、PD-L1/PD-1相互作用を遮断する薬剤は、抗PD-L1抗体または抗PD1抗体である。より特定的には、PD-L1/PD-1相互作用を遮断する薬剤は、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、ペムブロリズマブおよびニボルマブからなる群から選択される。特定の態様では、PD-L1/PD-1相互作用を遮断する薬剤は、アテゾリズマブである。特定の態様では、CD40抗体は、セリクレルマブである。別の好ましい態様では、VEGF抗体は、ベバシズマブ(Avastin)である。
【0076】
医薬組成物は、好適には、治療有効量の抗体を含む。本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、標的とする疾患または状態を治療し、軽減するか、もしくは予防し、または検出可能な治療効果、薬理学的効果または予防効果を示すのに必要な治療薬剤の量を指す。任意の抗体について、治療有効量は、細胞培養アッセイにおいて、または動物モデル、通常は、げっ歯類、ウサギ、イヌ、ブタまたは霊長類においてのいずれかで、最初に概算することができる。動物モデルを使用して、投与の適切な濃度範囲および経路を決定することもできる。次いで、このような情報を使用して、ヒトにおける投与のための有用な用量および経路を決定することができる。
【0077】
ヒト対象のための正確な治療有効量は、疾患状態の重篤度、対象の全体的な健康、対象の年齢、体重および性別、食事、投与の時間および頻度、薬物の組み合わせ、反応感度および治療に対する忍容性/応答に依存して変わる。この量は、通常の実験によって決定することができ、臨床医の判断の範囲内である。特定の態様では、CSF-1Rに対する抗体は、600~1200mgの(固定された)用量で、特定的には750~1100mgの用量で、より特定的には750~1000mgの用量で、さらにより特定的には900~1000mgの用量で投与される。好ましい態様では、用量は、1000mgである。
【0078】
本発明の好ましい態様では、医薬製剤は、治療サイクルで使用するためのものである。特に、治療サイクルは、2~4週間、好ましくは、18~24日間の長さを有する。より好ましくは、治療サイクルは、(約)3週間の長さを有する。
【0079】
医薬製剤は、簡便には、所定量のCSF-1Rに対する抗体を含有する単位剤形で提示され得る。特定の態様では、医薬製剤は、2~8℃の貯蔵のために、バイアルで提供され得る。好ましい態様では、医薬製剤は、20mlのサイズのバイアルで提供され得る。別の好ましい態様では、医薬製剤は、50mlのサイズのバイアルで提供され得る。
【0080】
インビボ投与のために使用される安定な製剤は、滅菌性である必要がある。これは、滅菌濾過膜による濾過により容易に達成される。製剤は、シリンジまたは注入システムによって製剤が送達可能である程度まで流体である必要がある。水に加えて、担体は、等張性緩衝生理食塩水溶液、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびこれらの好適な混合物であってもよい。その高い安定性の観点で、本発明の医薬製剤は、インラインフィルタを必要とせずに静脈内投与することができ、したがって、インラインフィルタを用いて投与する必要がある従来の製剤よりも取り扱いがかなり簡便である。Sterifix(登録商標)等のインラインフィルタは、静脈内溶液またはラインであってもよい任意の粒子、空気、または微生物の投与を防ぐために静脈内医薬の注入ラインに取り付ける必要がある。5~20ミクロンサイズ以上の粒子は、肺毛細管を通る血流を閉塞させる能力を有し、肺塞栓症等の合併症を引き起こす場合がある。外来粒子も、注射部位で静脈炎を引き起こす場合があり、フィルタは、静脈炎の発生を減らすのに役立つだろう。
【0081】
本発明の安定な医薬製剤は、当該技術分野で知られている方法、例えば、限外濾過-透析濾過、透析、添加および混合、凍結乾燥、再構築、およびこれらの組み合わせによって調製することができる。本発明の製剤の調製の例は、本明細書で以下に見出すことができる。
【0082】
したがって、本発明は、本発明の製剤を調製するためのプロセスを含む。上述のプロセスは、予想される緩衝剤組成物を含有する透析濾過緩衝液に対する抗体を緩衝液交換し、必要な場合、透析濾過による抗体の濃縮、その後、抗体溶液に原料溶液として賦形剤(例えば、スクロース、塩化ナトリウム、メチオニン)を添加し、その後、抗体/賦形剤溶液に原料溶液として界面活性剤を添加し、最後に、緩衝液溶液を用い、抗体の濃度を所望な最終濃度に調整し、それによって、最終的な賦形剤および界面活性剤の濃度にも達することを含む。
【0083】
または、賦形剤を、抗体を含む出発溶液に固体として添加することもできる。抗体が固体の形態(例えば、凍結乾燥物)である場合、本発明の製剤は、まず、抗体を、任意選択で1つ以上の賦形剤を含む水または緩衝剤溶液に溶解し、次いで、原料溶液または固体としてさらなる賦形剤を添加することによって調製することができる。抗体は、有利には、全てのさらなる賦形剤を含む溶液に直接溶解することもできる。本発明の製剤に存在する1つ以上の賦形剤は、例えば、抗体を調製した後に行われる精製の最終ステップにおいて、製剤の賦形剤のうちの1つ、1つより多く、または好ましくは全てを含む溶液に抗体を直接的に溶解することによって、抗体を調製するためのプロセスの間または終了時に、既に添加されていてもよい。抗体および賦形剤を含む溶液が、まだ所望なpHを有していない場合には、酸または塩基を添加することによって、好ましくは、緩衝系に既に存在する酸または塩基を用いて調整される。その後に、滅菌濾過される。
【0084】
本発明の安定な液体医薬製剤も、凍結乾燥した形態、または凍結乾燥した形態から再構築された液体形態であってもよい。「凍結乾燥した形態」は、当該技術分野で知られている凍結乾燥方法によって製造される。凍結乾燥物は、通常、残留水分含有量が約0.1~5%(w/w)であり、粉末として、または物理的に安定なケーキとして存在する。「再構築された形態」は、再構築媒体の添加後に迅速に溶解することによって凍結乾燥物から得ることができる。好適な再構築媒体は、限定されないが、注射用水(WFI)、注射用静菌性水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば、5%(w/v)グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%(w/v)ポリソルベート20)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝溶液)を含む。
【0085】
本発明は、さらに、疾患を治療する際に使用するための本発明の製剤、または疾患を治療するために、特に、がんを治療するために有用な医薬を調製するための本発明の製剤の使用、ならびに色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)または腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の治療における本発明の製剤の使用を含む。
【0086】
本明細書で使用される「がん」という用語は、例えば、肺がん、非小細胞肺(NSCL)がん、肺細気管支肺胞がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部もしくは頸部のがん、皮膚もしくは眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん(stomach cancer)、胃がん(gastric cancer)、結腸がん、乳がん、子宮がん、卵管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頸部の癌腫、膣の癌腫、外陰の癌腫、ホジキン病、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟組織の肉腫、尿道のがん、陰茎のがん、前立腺がん、膀胱のがん、腎臓または尿管のがん、腎細胞癌腫、腎盂の癌腫、中皮腫、肝細胞がん、胆道がん、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、多形膠芽細胞腫、星細胞種、神経鞘腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮がん、下垂体腺腫、リンパ腫、リンパ球性白血病(上述のがんのいずれかの難治性態様を含む)、または上述のがんの1つ以上の組み合わせであってもよい。好ましい態様では、がんは、乳がん、大腸がん、黒色腫、頭頸部がん、肺がんまたは前立腺がんである。別の好ましい態様では、このようながんは、乳がん、肺がん、結腸がん、卵巣がん、黒色腫がん、膀胱がん、腎がん、腎臓がん、肝臓がん、頭頸部がん、大腸がん、膵臓がん、胃癌腫がん、食道がん、中皮腫、前立腺がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫である。好ましい一態様では、このようながんは、さらに、CSF-1もしくはCSF-IRの発現または過剰発現によって特徴付けられる。別の態様では、本発明の医薬製剤は、原発性腫瘍と新しい転移の同時治療に使用するためのものである。さらなる態様では、本発明の医薬製剤は、歯周炎、ヒスチオサイトーシスX、骨粗鬆症、骨のパジェット病(PDB)、がん療法に起因する骨量減少、人工関節周囲の骨溶解、糖コルチコイド誘導性骨粗鬆症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、骨関節炎、炎症性関節炎、および炎症の治療に使用するためのものである。別の好ましい態様では、医薬製剤は、黒色腫、泌尿器膀胱がん(UCB)、または肺がん(例えば、非小細胞肺(NSCL)がん)において使用するためのものである。別の好ましい態様では、医薬製剤は、腎細胞癌腫(RCC)または頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)において使用するためのものである。特に好ましい態様では、本発明の医薬製剤は、色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)または腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の治療に使用するためのものである。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【実施例】
【0087】
本発明の静脈内(i.v.)投与のための液体薬物製品製剤は、以下のように開発された。
【0088】
実施例1:初期製剤スクリーニングのための液体製剤の調製
表1に列挙されるhuMAb CSF-1R液体製剤F1~F16を、50mg/mlのタンパク質濃度で調製した。
【0089】
抗CSF-1R抗体(エマクツズマブ)は、組換えタンパク質の産生から、WO2011/070024に記載されるような一般的に知られている技術によって製造した。この実施例に従って医薬製剤を調製するために、抗体を、約5.5のpHで、20mMヒスチジン緩衝液(L-ヒスチジン/HCl緩衝液)中、約20mg/mLの濃度で提供した。この実施例で使用されるCSF-1R抗体は、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む、ヒト化抗体である。
【0090】
本発明の製剤の賦形剤は、実践で広く使用され、当業者に知られている。したがって、それをここで詳細に説明する必要はない。
【0091】
液体製剤を調製するために、抗CSF-1R抗体を、予想される緩衝液組成物を含む透析濾過緩衝液に対して緩衝液を交換し、限外濾過によって、抗体濃度が約80mg/mLになるまで濃縮した。限外濾過操作の終了後、賦形剤(例えば、スクロース、メチオニン)を原料溶液として抗体溶液に加えた。次いで、界面活性剤を125倍原料溶液として加えた。最終的に、タンパク質濃度を、緩衝液を用い、最終的な抗CSF-1R抗体濃度が約50mg/mLになるように調整した。
【0092】
全ての製剤を0.22μm低タンパク質結合フィルタを介して滅菌濾過し、ETFE(エチレンとテトラフルオロエチレンのコポリマー)でコーティングされたゴムストッパおよびアルクリンプキャップで閉じられた滅菌6mLガラスバイアルに無菌状態で充填した。充填容積は、約2.4mLであった。これらの製剤は、異なるICH気候条件(5℃、25℃および40℃)で異なる時間間隔で貯蔵し、振とう(振とう頻度200min
-1、5℃および25℃で1週間)および凍結解凍ストレス法(-80℃/+5℃で5サイクル)によってストレスを加えた。
【表2】
【0093】
以下の分析方法によって、ストレス試験を適用する前および後に、試料を分析した。
●UV分光法
●サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
●イオン交換クロマトグラフィー(IEC)
●溶液の透明度および乳白度
●分析タンパク質Aクロマトグラフィー
●目視検査
【0094】
UV分光法は、タンパク質含有量を決定するために使用され、Perkin Elmer λ35 UV分光光度計で、240nm~400nmの波長範囲で行われた。未希釈のタンパク質試料を、対応する製剤緩衝液を用い、約0.5mg/mlまで希釈した。タンパク質濃度を等式1に従って計算した。
【数1】
【0095】
280nmでのUV光吸光度を、320nmで散乱する光について補正し、希釈因子と乗算し、希釈因子は、未希釈試料および希釈緩衝液の計量した質量および密度から決定された。分子を、キュベットの経路長dと吸光係数εの積で除算した。
【0096】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、製剤中の可溶性高分子量種(凝集物)および低分子量加水分解生成物(LMW)を検出した。この方法は、Waters W2487 Dual Absorbance Detectorを備え、Waters BioSuite 250カラムが取り付けられたWaters Alliance 2695 HPLC機器で行われた。インタクトな単量体、凝集物および加水分解生成物を、移動相として0.2M K2HPO4/0.25M KCL(pH7.0)を用い、均一濃度の溶出プロファイルによって分離し、280nmの波長で検出した。
【0097】
イオン交換クロマトグラフィー(IEC)を行い、製剤中の抗体の正味の電荷を変える化学分解生成物を検出した。この方法は、Waters W2487 Dual Absorbance Detectorを備え、(検出波長280nm)、MabPac SCX-10、4mm×150mmカラムを取り付けたWaters Alliance 2695 HPLC機器を使用した。5mM MES、15mM NaCl、pH6.5および5mM BICINE、30mM NaCl、pH8.5および5mM BICINE、1M NaCl、pH8.5をそれぞれ、0.5mL/分の流速で移動相A、BおよびCとして使用した。
【表3】
【0098】
透明度および乳白度は、比濁分析方法によって、Formazine Turbidity Units(FTU)として測定された。未希釈試料を、直径11mmの透明ガラスチューブに移し、HACH 2100AN濁度計に入れた。
【0099】
分析タンパク質Aクロマトグラフィーを行い、抗CSF-1R抗体のFc部分内の4つの保存されたメチオニン側鎖の酸化状態をモニタリングした。この方法は、Waters W2487 Dual Absorbance Detector(検出波長280nm)を有し、Applied Biosystems,USA製のPoros A720 4.6mm×50mmカラムを取り付けたWaters Alliance 2695 HPLC機器で行った。Gibco,Invitrogen製のPBSおよび0.1Mの酢酸、0.15Mの塩化ナトリウム、pH2.8を、それぞれ移動相AおよびBとして、2.0mL/分の流速で使用した。
【表4】
【0100】
Simplex Ampoule Testing Apparatus OPTIMA Iを用いることによって、目に見える粒子の存在について試料を観察した。
【0101】
製剤F1~F16についての安定性試験の結果が、以下の表に示される。製剤F2は、最大の抗体安定性および粒子を含まない抗体製剤を得るのに最も望ましいものであると決定された。
【0102】
実施例1:液体抗CSF-1R抗体製剤の組成および安定性データ
F1は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、220mMのスクロース、0.04%のポリソルベート20の組成を有する液体製剤である。
【表5】
【表6】
【0103】
F2は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、220mMのスクロース、0.04%のポリソルベート20、10mMのメチオニンの組成を有する液体製剤である。
【表7】
【表8】
【表9】
【0104】
F3は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、220mMのスクロース、0.04%のポロキサマー188の組成を有する液体製剤である。
【表10】
【表11】
【0105】
F4は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、130mMのNaCl、0.04%のポリソルベート20の組成を有する液体製剤である。
【表12】
【表13】
【0106】
F5は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、130mMのNaCl、0.04%のポリソルベート20、10mMのメチオニンの組成を有する液体製剤である。
【表14】
【表15】
【0107】
F6は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、130mMのNaCl、0.04%のポロキサマー188の組成を有する液体製剤である。
【表16】
【表17】
【0108】
F7は、pH5.5で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジン酢酸塩、220mMのスクロース、0.04%のポリソルベート20の組成を有する液体製剤である。
【表18】
【表19】
【0109】
F8は、pH5.5で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジン酢酸塩、220mMのスクロース、0.04%のポリソルベート20、10mMのメチオニンの組成を有する液体製剤である。
【表20】
【表21】
【0110】
F9は、pH5.5で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジン酢酸塩、220mMのスクロース、0.04%のポロキサマー188の組成を有する液体製剤である。
【表22】
【表23】
【0111】
F10は、pH5.5で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジン酢酸塩、130mMのNaCl、0.04%のポリソルベート20の組成を有する液体製剤である。
【表24】
【表25】
【0112】
F11は、pH5.5で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジン酢酸塩、130mMのNaCl、0.04%のポリソルベート20、10mMのメチオニンの組成を有する液体製剤である。
【表26】
【表27】
【0113】
F12は、pH5.5で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジン酢酸塩、130mMのNaCl、0.04%のポロキサマー188の組成を有する液体製剤である。
【表28】
【表29】
【0114】
F13は、pH6.0で、25mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、240mMのトレハロース、0.02%のポリソルベート20の組成を有する液体製剤である。
【表30】
【表31】
【0115】
F14は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、240mMのトレハロース、0.04%のポリソルベート20の組成を有する液体製剤である。
【表32】
【表33】
【0116】
F15は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、240mMのトレハロース、0.04%のポリソルベート20、10mMのメチオニンの組成を有する液体製剤である。
【表34】
【表35】
【0117】
F16は、pH6.0で、50mg/mLの抗CSF-1R抗体、20mMのヒスチジンHCl、240mMのトレハロース、0.04%のポロキサマー188の組成を有する液体製剤である。
【表36】
【表37】
【0118】
実施例2:バイアル中に製剤F2を含む液体抗CSF-1R抗体薬物製品の組成および安定性データ
製剤F2に基づく2つの薬物製品を製造し、良好な安定性を示した。薬物製品1は、20mlガラスバイアル中に9.0mLの製剤F2を含有し、薬物製品2は、50mlガラスバイアル中に46.4mLの製剤F2を含有する。
【表38】
【表39】
【配列表】