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特許7475414ワイヤソーによって半導体ウェハを製造するための方法、ワイヤソー、および、単結晶シリコンの半導体ウェハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】ワイヤソーによって半導体ウェハを製造するための方法、ワイヤソー、および、単結晶シリコンの半導体ウェハ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240419BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
H01L21/304 611W
H01L21/66 L
【請求項の数】 1
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022171436
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2021531654の分割
【原出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2023015134
(43)【公開日】2023-01-31
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】102018221922.2
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599119503
【氏名又は名称】ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Einsteinstrasse 172,81677 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バイヤー,アクセル
(72)【発明者】
【氏名】ベルシュ,シュテファン
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-109370(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0104806(US,A1)
【文献】特開2018-074018(JP,A)
【文献】特開2009-027095(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0067657(KR,A)
【文献】国際公開第2014/129304(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側面および下側面を有する、単結晶シリコンの半導体ウェハであって、前記上側面は、複数の表面部に分割され、前記複数の表面部は、前記上側面の中心に配置された表面部の周りに配置され、
1.2μm未満の反りと、
THA25 10%として表され、5nm未満である、前記上側面のナノトポグラフィと、
前記表面内の山から谷までの最大距離として表されるとともに、それぞれ25mm×25mmの面積容量を有する前記表面内を基準とし、6nm未満である、前記上側面の表面内基準ナノトポグラフィとを含む、半導体ウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーによってワークピースを処理することによってワークピースから複数の半導体ウェハを製造するための方法、当該方法を実行するためのワイヤソー、および、当該方法によって得られ得る単結晶シリコンの半導体ウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術/課題
ワイヤソーおよびその機能原理が、WO2015/188859A1に詳細に開示されている。
【0003】
JP09109143Aは、ワイヤソーによってワークピース(インゴット)から複数のウェハを製造するための方法を開示する。当該方法は、ワイヤソーのワイヤ領域のうちの複数のワイヤの位置を検出するステップと、当該複数のワイヤの撓みがある場合に当該撓みを補正するためにワイヤガイドローラの補償移動を引起こすステップとを含む。
【0004】
JP11165251は同様の方法を開示している。当該方法は、ワイヤソーのワイヤ領域のうちの複数のワイヤの位置を検出するステップと、当該複数のワイヤの撓みがある場合にワークピースの補償移動を引起こすステップとを含む。
【0005】
US5875770は同様の方法を開示している。当該方法は、ワークピースを処理する前に複数のウェハの反りを検出するステップと、反りの少ない複数のウェハが形成されるような範囲でワークピースの軸方向に沿って当該ワークピースの補償移動を引起こすステップとを含む。
【0006】
JP200961527Aは同様の方法を開示している。当該方法は、ワークピースが熱膨張のために軸方向に移動する可能性があるという事実を考慮して、ワイヤガイドローラを補償移動させるための手段を設けることによるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの有効な解決策にも関わらず、依然として、ワイヤソーによってワークピースから複数の半導体ウェハを製造するための方法の改善が求められている。特に、熱膨張によるワークピースの軸方向の移動が、複数のワイヤガイドローラの対応する軸方向の移動によってのみほぼ補償され得ることが考慮されるべきである。さらに、複数のワイヤガイドローラの温度によって複数のワイヤの軸方向位置を調整するのに比較的時間がかかってしまう。さらに、事前に処理されたワークピースから得られた複数のウェハの反りを測定しても、その反りは、まだ処理されていないワークピースのずれを大まかに表わすことしかできず、ワークピース全体を軸方向に移動させても、そのようなずれを部分的にしか補償することができない。
【0008】
特に、当該方法は、既知の方法で製造されるウェハよりも、特に反りおよびナノトポグラフィに関して平面性が優れている半導体ウェハが得られ得るように改善することが求められている。
【0009】
上記課題は本発明の目的につながった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、ワイヤソーによってワークピースを処理することによって当該ワークピースから複数の半導体ウェハを製造するための方法によって達成される。当該方法は、
複数のワイヤの配置内を通じてワークピースを供給するステップを含み、当該複数のワイヤは、複数のワイヤガイドローラ間で張力をかけられた状態で、複数のワイヤ群に分割されるとともに走行方向に移動し、当該方法はさらに、
当該複数のワイヤが当該ワークピースに係合する際に複数の切り溝を生成するステップと、
当該複数のワイヤ群の各ワイヤ群ごとに、当該ワイヤ群の当該複数の切り溝の配置誤差を判定するステップと、
当該複数のワイヤ群の各ワイヤ群ごとに、少なくとも1つの駆動要素を作動させることにより、複数のワイヤの配置内を通じて当該ワークピースを供給する当該ステップ中に当該ワイヤ群のうちの当該複数のワイヤの当該走行方向に対して垂直な方向に、当該ワイヤ群のうちの当該複数の切り溝についての判定された当該配置誤差の関数として、当該ワイヤ群のうちの当該複数のワイヤの移動を補償するステップとを含む。
【0011】
少なくとも2つのワイヤ群、好ましくは少なくとも3つのワイヤ群、特に好ましくは4つのワイヤ群が設けられるが、各ワイヤを別個のワイヤ群とみなすことも可能であり、すなわち、ワイヤ群の数は複数のワイヤの配置(ワイヤウェブ)におけるワイヤの数に対応している。複数のワイヤ群は好ましくは同じ軸方向幅を有しており、或るワイヤ群のうち隣接するワイヤ同士の間の距離は同じである。
【0012】
本発明に従うと、複数のワイヤ群の各ワイヤ群ごとに、ワイヤ群のうちの複数のワイヤの別個の補償移動は、当該ワイヤ群のうちの複数のワイヤの走行方向に対して垂直な方向、すなわち複数のワイヤガイドローラの回転軸の方向、に引起こされる。この目的のために、少なくとも1つの駆動要素を作動させ、これにより、意図した方向に意図した距離だけ複数のワイヤをずらす。ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動は、独立して引起こされるか、任意には、別のワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動を引起こすのと同時に実行される。
【0013】
駆動要素として、特に電磁アクチュエータ、機械アクチュエータ、油圧アクチュエータ、空気圧アクチュエータ、磁歪アクチュエータ、および好ましくは圧電アクチュエータが想定され得る。たとえば、複数のワイヤを4つのワイヤ群に分割した場合、当該複数のワイヤ群は2つの内側ワイヤ群と2つの外側ワイヤ群とを形成する。ワークピースが熱によって膨張する場合、複数の内側ワイヤ群のうちの一方の内側ワイヤ群のワイヤに割当てられるべき切り溝の配置誤差は、複数の外側ワイヤ群のうちの一方の外側ワイヤ群のワイヤに割当てられるべき切り溝の配置誤差よりも小さくなる。これに応じて、複数の外側ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動の大きさは、複数の内側ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動の大きさよりも大きくなるように選択されなければならない。各ワイヤが別個のワイヤ群と見なされる場合、各ワイヤを、それ自体の大きさだけ、それ自体の方向に補償移動させる。
【0014】
ワークピースから切り出される半導体ウェハは、上側面および下側面と、当該上側面と当該下側面との間に延びる端縁とを有する。ワークピースから切り出した後、上側面および下側面が可能な限り平坦であり、互いから最大限均一な距離を空けていることが従来から望まれている。開始時に上側面および下側面がより平坦であればあるほど、かつ、半導体ウェハの厚さがより均一であればあるほど、ラップ仕上げおよび/または研削、エッチング、研磨、および任意にはコーティングなどの後続のステップによって半導体ウェハを精製する成果がより高まるとともにその費用がより安くなる。これら後続のステップは、電子部品を形成するために半導体ウェハをさらに処理するといった業界の厳しい要件を満
たす目標製品を形成するために行われる。上側面は、半導体ウェハの表面側とも称され、一般に、半導体ウェハのさらに別の処理の過程で電子部品の構造を適用することが意図される面である。
【0015】
本発明は、ワイヤソーによってワークピースを処理する際に、理想と見なされる配置から可能な限りずれの小さい配置で切り溝をワークピースに形成することを確実にすることを目的としている。均一な厚さおよび最大限平坦な両面を有する半導体ウェハが求められる場合、理想的な切り溝は、ワークピースの長手方向軸に対して直角に直線状に延びている。言い換えれば、このような切り溝の中間を通る軌道は、ワークピースの長手方向軸に対して垂直に配向される直線に沿って延びている。以下、このような軌道を目標軌道と称する。したがって、実際軌道が目標軌道からずれると、切り溝の配置誤差が生じる。これは、切り溝の中間を指す位置ベクトルが目標軌道で終端とならない場合に相当する。
【0016】
切り溝の配置誤差は、たとえば、ワークピースへのワイヤの係合中に当該ワイヤがその走行方向に対して垂直に(すなわち、ワイヤに張力をかける両側のワイヤガイドローラの回転軸の方向に)動くときに生じるか、または、ワイヤの配置内を通じてワークピースを供給している最中に熱の発生によってワークピースが軸方向に膨張するときに生じる。後者の場合、切り溝の配置誤差は、切り溝とワークピースの中間との距離が長いほど相応に大きくなる。ワークピースの中間はワークピースの2つの端部間の位置である。
【0017】
本発明の一局面は、各ワイヤ群ごとに別個に、ワークピースとワイヤ群との間の相対的な動きをもたらした理由に関係なく、複数の切り溝の配置誤差を判定することである。このような理由の例として、ワイヤ群の移動、ワークピースの移動、またはワークピースの熱膨張が挙げられる。本発明の別の局面は、特定のワイヤソーを用いた場合に系統的に発生する複数の切り溝の配置誤差と、特定のワイヤソーの使用とは無関係にランダムに発生する複数の切り溝の配置誤差とを区別することである。
【0018】
好適には、各ワイヤ群ごとに別個に、少なくとも1つの閉制御ループが設定される。この場合、制御ずれ(すなわち、ワイヤ群のうちの複数の切り溝について確認された配置誤差)は操作変数の修正(すなわち、ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動を引起こすこと)に応じたものである。
【0019】
本発明に従った方法の第1の構成によれば、ワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差の判定は、複数のワイヤの配置内を通じたワークピースの供給中にワイヤ群ごとに別個に実行される。第1の構成の第1の代替例によれば、好ましくは、固定基準点に対する各切り溝の位置が測定され、設定点位置と比較される。切り溝の設定点位置は、理想的な切り溝が形成されるのに必要となるであろう固定基準点に対する位置である。切り溝の設定点位置からの当該切り溝の測定位置のずれは切り溝の配置誤差に対応している。原則として、このずれはワイヤ群のうちの切り溝ごとに異なっているので、それらずれを平均化することで、ワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差を表す配置誤差が得られる。言い換えれば、ワイヤ群のうちの各切り溝には、同じ平均配置誤差が割当てられる。平均化は重み付けなしで実行されてもよく、または、特定の切り溝の配置誤差が特別に重み付けされる。ワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差から、補正プロファイルを導き出してもよい。この補正プロファイルは、複数の切り溝の配置誤差を排除するためにワークピースの供給中にワイヤ群のうちの複数のワイヤを移動させなければならない大きさおよび方向を指定している。補正プロファイルは、複数のワイヤをワークピースに差込む深さを考慮して、ワイヤ群のうちの複数の切り溝についての確認された配置誤差のプロファイルに対して相補的なプロファイルを有している。
【0020】
ワイヤ群のうちの複数の切り溝の位置の測定は、好ましくは、ワイヤ群のうちの複数の
切り溝に光線、IR線、X線もしくはγ線を照射することによって実行される。さらに、ワイヤ群のうちの複数の切り溝の機械的検知、またはワイヤ群のうちの複数の切り溝の誘導測定もしくは容量測定も想定され得る。ワイヤ群のうちの複数の切り溝をこのように直接観察することで、ワークピースとワイヤ群のうちの複数のワイヤとの間の如何なる相対的な動きも明らかになる。
【0021】
第1の構成の第2の代替例に従うと、固定基準点に対するワイヤ群のうちの各ワイヤの位置およびワークピースの位置は、好ましくは、上記のような相対的な動きを記録するために、同時に測定されて設定点位置と比較される。原則として、ずれはワイヤ群のうちのワイヤごとに異なっているので、これらのずれを平均化することで、ワイヤ群のうちの複数のワイヤの配置誤差を表す配置誤差が得られる。言い換えれば、ワイヤ群のうちの各ワイヤには同じ平均配置誤差が割当てられている。平均化は重み付けなしで実行されてもよく、または、特定の切り溝の配置誤差が特別に重み付けされる。ワイヤの設定点位置は、理想的な切り溝が形成されるのに必要となるであろう固定基準点に対するワイヤの位置である。ワークピースの設定点位置についても同様である。ワイヤおよびワークピースの設定点位置から測定されたずれの合計から、目標軌道からの実際軌道のずれが大まかに判定される。
【0022】
ワイヤ群のうちの複数のワイヤの位置またはワークピースの位置は、ワイヤ群のうちの複数のワイヤまたはワークピースに、光線、IR線、X線もしくはγ線を照射することによって、または容量測定もしくは誘導測定によって、測定される。さらに、ワイヤ群のうちの複数のワイヤもしくはワークピースのそれぞれの機械的検知、または、ワイヤ群のうちの複数のワイヤもしくはワークピースのそれぞれの誘導測定もしくは容量測定も想定され得る。ワークピースの位置は、ワークピースの端面に対して、好ましくはワークピース上にマーク付けされた基準点に対して判定されてもよい。
【0023】
本発明に従った方法の第2の構成によれば、ワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差の判定は、複数のワイヤの配置内を通じてワークピースを供給する前にワイヤ群ごとに別個に実行される。この手順により、特定のワイヤソーを用いた場合に系統的に発生する複数の切り溝の配置誤差が判定される。複数の切り溝の配置誤差を判定するために、特定のワイヤソーによって事前に製造された複数の半導体ウェハの局所形状が測定される。これらの半導体ウェハは、このワイヤソーによって処理された、具体的には複数の切り溝の配置誤差が判定されたワイヤ群のうちの複数のワイヤによって処理された、1つ以上のワークピースから得られる。或る半導体ウェハの局所形状は、当該半導体ウェハに隣接する切り溝の軌道をほぼ複製している。好ましくは、SEMI MF 1390-0218による反り測定値の中位面の局所形状は以下のとおり得られる。具体的には、高さ線(ライン走査(line scan:LS)は、半導体ウェハの中心を通って延びる線上に位置する中位面
のそれらの測定値を選択することによって生成される。これらの測定値は、半導体ウェハの直径に追従する線上であって、好ましくは半導体ウェハを切断する際のワークピース供給方向に位置するか、または、その方向から少なくとも±20°以下だけずれている。
【0024】
特定のワイヤソーを用いる際に系統的に発生する複数の切り溝の配置誤差を識別するために、このワイヤソーによって処理されてワイヤ群のうちの複数のワイヤによって製造された1つ以上のワークピースから得られる複数の半導体ウェハの局所形状を平均化することで、単一の局所形状が得られる。この平均化は重み付けなしに実行されてもよく、または、特定の複数の半導体ウェハの局所形状が、ワークピースにおけるそれら半導体ウェハの相対的配置のせいで特別に重み付けされる。次いで、特定のワイヤソーが用いられるとともに軌道に影響を及ぼす他の影響が無視される場合に複数の切り溝の軌道がどのようになるかが、平均化された局所形状に基づいて推定される。このような軌道を以下、予想軌道と称することとする。ワークピース供給中に予想されるはずであるワイヤ群のうちの複
数の切り溝の配置誤差は、予想軌道と目標軌道との比較から得られる。この比較により、ワイヤソー特有の補正プロファイルが得られる。このワイヤソー特有の補正プロファイルは、複数のワイヤの配置内を通じてワークピースを供給する間に当該複数のワイヤをワークピースに差込む深さの関数として、ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動の方向および大きさを特定するものである。ワイヤソー特有の補正プロファイルのプロファイルは、原則として、平均化された局所形状のプロファイルに対して相補的である。
【0025】
ワイヤソーの性能の変化を迅速に識別して当該変化に対応できるようにするために、ワイヤソー特有の補正プロファイルを用いることも好ましい。ワークピースの処理の過程で起こるワイヤソー特有の補正プロファイルの変化は、ワイヤの摩耗、および/または、ワイヤガイドローラのコーティングの摩耗、または、ワイヤソーのうち摩耗しやすい別の構成要素の摩耗を示す。したがって、ワイヤソー特有の補正プロファイルの変化に関して閾値が定義されてもよく、この閾値に達したときに予測保全測定が開始される。このような閾値に達する前であっても、ワイヤソー特有の補正プロファイルの変化は、作業の結果生じる摩耗関連の劣化を抑制する適合対策を実行するための理由と見なされる可能性がある。このような適合対策は、たとえば、切断媒体懸濁液の組成および/もしくは温度を変化させること、または、冷媒の温度を変化させること、ならびに、ワイヤ速度もしくは他の処理特有のパラメータを変更することを含み得る。
【0026】
本発明の第3の構成は、第1の構成と第2の構成とを組合わせることを含む。ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動の第1の部分は、ワイヤ群のうちの複数のワイヤを差込む深さの関数として、ワークピース供給中にリアルタイムで本発明の第1の構成にしたがって判定される補正プロファイルに基づいて引起こされる。ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動のさらに別の一部は、それぞれのワイヤ群のうちの複数のワイヤの配置内を通じてワークピースを供給する前に、本発明の第2の構成に従って判定されたワイヤソー特有の補正プロファイルに基づいて引起こされる。複数の切り溝の配置誤差に対してランダムに発生するせいで予測不可能である影響と、特定のワイヤソーを使用することで系統的に生じる影響とは、互いに別々に考慮される。
【0027】
当然、ワイヤソー特有の補正プロファイルは、本発明に従った方法の第1の構成に従って導出される補正プロファイルを記録することによって得られてもよい。
【0028】
本発明は、砥粒が固着されているワイヤと共に、または砥粒を含まず切断媒体懸濁液と組合わせてその効果を発揮するワイヤと共に、用いられてもよい。特に、ダイヤモンドが砥粒として想定され得る。ここで該当するワイヤとは、ワイヤソーの複数のワイヤガイドローラに巻回されるワイヤの区域である。ワイヤソーのワイヤガイドローラの数は本発明の使用にとってさほど重要なものではない。たとえば、ワイヤソーは、2つ、3つ、4つ、またはさらに多くの数のワイヤガイドローラを備えてもよい。
【0029】
ワークピースは、好ましくは、多結晶または単結晶の状態で存在し得るシリコンなどの半導体材料からなる。ワークピースの輪郭は、正方形、長方形または円形である。本発明に従った方法は、少なくとも200mm、特に少なくとも300mmの直径を有する単結晶シリコンの円形半導体ウェハの製造に特に適している。
【0030】
本発明の目的は、ワークピースを処理することによって複数の半導体ウェハを製造するためのワイヤソーによって達成される。当該ワイヤソーは、
複数のワイヤガイドローラを備え、当該複数のワイヤガイドローラの間で複数のワイヤに張力をかけて複数のワイヤの配置を形成し、当該複数のワイヤは複数のワイヤ群に分割されるとともに走行方向に移動し、当該ワイヤソーはさらに、
当該複数のワイヤが当該ワークピースに係合するときに複数の切り溝を生成しながら、
当該複数のワイヤの配置内を通じて当該ワークピースを供給するための装置と、
複数の駆動要素とを備え、当該複数の駆動要素のうち少なくとも1つが当該複数のワイヤ群の各々に割当てられ、当該複数の駆動要素は、当該割当てられたワイヤ群のうちの当該複数のワイヤを移動させるためのものであり、当該ワイヤソーはさらに、
当該複数の駆動要素を作動させるための制御ユニットを備え、当該制御ユニットは、当該複数のワイヤ群のうちの当該複数の切り溝の配置誤差が生じた場合、当該ワイヤ群に割当てられた駆動要素を作動させることで、当該ワイヤ群のうちの当該複数のワイヤの走行方向に対して垂直方向の移動を補償するようにする。
【0031】
ワイヤソーは、複数のワイヤガイドローラ間で張力がかけられた複数のワイヤの配置内を通じてワークピースを供給するための装置を備える。当該ワイヤソーは、2つ以上のワイヤガイドローラを備えてもよく、これらワイヤガイドローラの周りにソーイングワイヤが巻かれる。本発明に従ったワイヤソーにおいては、複数のワイヤが複数のグループに分割され、少なくとも1つの駆動要素が当該複数のワイヤ群の各々に割当てられる。駆動要素を作動させると、当該駆動要素に割当てられているワイヤ群のうちの複数のワイヤが当該複数のワイヤの走行方向に対して垂直に、すなわち複数のワイヤガイドローラの回転軸の方向に、動かされる。作動させた駆動要素は、当該駆動要素に割当てられたワイヤ群のうちの複数のワイヤを同じ方向に同じ大きさだけ同時に移動させる。複数の駆動要素に割当てられているので、1つのワイヤ群のうちの複数のワイヤの移動の大きさおよび方向は、別のワイヤ群のうちの複数のワイヤの移動の大きさおよび方向に依存していない。複数のワイヤガイドローラは、複数のワイヤ群に分割された複数のワイヤの両側にあって、当該複数のワイヤに張力をかけて当該複数のワイヤの配置を形成するようにするものであって、複数の駆動要素を備える。当該複数の駆動要素は、複数のワイヤガイドローラのうち少なくとも1つのワイヤガイドローラのワイヤ群同士の間に配置されており、当該複数のワイヤガイドローラの間で、ワークピースが複数のワイヤの配置内を通じて供給される。ワイヤウェブに張力をかける他のワイヤガイドローラが同様にこのような駆動要素を備えることは必ずしも必要はないが、除外されるわけではない。
【0032】
ワイヤソーはさらに、複数の駆動要素を作動させるための制御ユニットを備える。或るワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差がある場合、当該制御ユニットは、当該ワイヤ群に割当てられている駆動要素を作動させ、その結果、このワイヤ群のうちの複数のワイヤが、判定された複数の切り溝の配置誤差を減らすかまたは排除する補償移動を実行する。
【0033】
制御ユニットは、当該方法の第1の構成に従った測定装置によってワークピースの供給中に提供される複数の切り溝の配置誤差に関するデータ、または、当該方法の第2の構成に従ったワークピースの供給前に提供されてデータベースに格納されたワイヤソー特有のデータ、または、これらのデータの両方、にアクセスする。
【0034】
測定装置は、ワイヤ群ごとに別個に用いられて、複数のワイヤの配置内を通じてワークピースを供給する間にそれぞれのワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差を判定する。ワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差に関する情報は、制御ユニットに送信されて、さらにそこで処理されて、対応するワイヤ群に割当てられた駆動要素を作動させるための信号(操作変数)を形成する。測定装置および制御ユニットは、複数の切り溝の配置誤差を最小限にするための第1の閉制御ループの構成要素である。この制御ループにより、各ワイヤ群ごとに別個に、ワイヤ群に割当てられた駆動要素が、複数のワイヤ群のうち別のワイヤ群に割当てられた駆動要素を作動させるのとは無関係に、任意には同時に、作動させられる。
【0035】
データメモリは、複数の駆動要素の作動に関するデータを保持するために用いられる。
当該データは、ワイヤソー特有の補正プロファイルを、具体的には各ワイヤ群ごとに別個に、形成する。このようなワイヤソー特有の補正プロファイルは、ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動の方向および大きさを、当該複数のワイヤをワークピースに差込む深さの関数として特定する。制御ユニットは、複数のワイヤの配置内を通じたワークピースの供給中にこのデータにアクセスし、それぞれのワイヤ群のうちの複数のワイヤに適用可能なワイヤソー特有の補正プロファイルの仕様にしたがって、対応するワイヤ群に割当てられた駆動要素を作動させる。好ましくは、データメモリおよび制御ユニットは、複数の切り溝の配置誤差を最小限にするためのさらに別の閉制御ループの構成要素である。
【0036】
ワイヤソーがデータメモリを有する場合、複数のワークピースの処理の過程でワイヤソー特有の補正プロファイルの変化を追跡するための演算ユニットが設けられることも好ましい。これらの変化について設定された閾値に達すると、演算ユニットは、予測保全測定を開始するための信号を出力する。
【0037】
本発明の目的は、上側面および下側面を有する、単結晶シリコンの半導体ウェハによって達成される。当該半導体ウェハは、
1.2μm未満の反りと、
THA25 10%として表され、5nm未満である、上側面のナノトポグラフィと、
表面内の山から谷までの最大距離として表されるとともに、それぞれ25mm×25mmの面積容量を有する表面内を基準とし、6nm未満である、上側面の表面内基準ナノトポグラフィとを含む。
【0038】
半導体ウェハの直径は、好ましくは少なくとも200mm、特に好ましくは300mmである。反り、ナノトポグラフィおよび表面内基準ナノトポグラフィに関する半導体ウェハの上述の特性は、300mmの直径を有する半導体ウェハに関するものである。
【0039】
半導体ウェハの反りは、規格SEMI MF1390-0218にしたがって判定される。
【0040】
ナノトポグラフィを調べるために、干渉計、たとえばケーエルエー・テンコール株式会社(KLA-Tencor Corp.)製のWaferSight(商標)型の機器を用いてもよい。このような干渉計は、半導体ウェハの上側面のトポグラフィを測定するのに適している。機器が半導体ウェハの上側面の高さマップを画像化し、画像化された高さマップをフィルタリングし、その上で、規定された分析領域を有する分析窓を移動させる。分析窓の高さの差は、規格SEMI M43-0418およびSEMI M78-0618によって設定された方法プロトコルにしたがって閾値高さ分析(threshold height analysis:THA
)によって評価される。THAXX10%<5nmとは、XXで特定された分析領域を有する分析窓における半導体ウェハの上側面の分析済み面積のうち最大でも10%が5nm以上の最大PV距離(山から谷までの距離)を有し得ることを意味する。本発明に従った半導体ウェハの場合、THA25 10%として表される上側面のナノトポグラフィは5nm未満であり、円形輪郭および25mmの直径を有する分析窓が用いられるとともに、未フィルタリングのトポグラフィ信号が単一のガウス高域フィルタで20mmのカットオフ波長でフィルタリングされる。カットオフ波長は、半導体ウェハの端縁に向かって1mmにまで小さくなる。フィルタリング前では5mmのエッジエクスクルージョンが許容され、フィルタリング後では15mmのエッジエクスクルージョンが許容される。
【0041】
半導体ウェハは、上側面のナノトポグラフィの測定中、ワークピースから切断された後の状態であってもよいし、切断後におけるエッチングおよび研磨などの処理工程後の状態であってもよい。好ましくは、半導体ウェハの上側面は研磨された状態である。
【0042】
ナノトポグラフィはまた、表面内基準方式で、すなわち半導体ウェハの上側面のユーザ特有の表面内(部位)を基準として評価されてもよい。PV距離は上述のとおり判定される(円形の範囲および25mmの直径を有する分析窓、単一ガウス高域フィルタ、20mmから半導体ウェハの端縁に向かって1mmにまで短くなるカットオフ波長)。しかしながら、エッジエクスクルージョンは、フィルタリング前では2mm、フィルタリング後では3mmである。半導体ウェハの上側面は表面内に細分され、これらの表面内は、半導体ウェハの上側面の中心に下側左縁が配置されている或る表面内(部位)の周りでグループ化される。本発明に従った半導体ウェハの場合、上側面の表面内基準ナノトポグラフィは、6nm未満であって、表面内での最大PV距離として、25mm×25mmの面積容量を有する表面内を基準として表される。
【0043】
以下、本発明について、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】従来技術に属するワイヤソーの主な特徴を示す図である。
図2】本発明に従ったワイヤソーのワイヤガイドローラの特徴を示す図である。
図3】本発明に従った方法の手順を概略的に示す図である。
図4】実際軌道が切り溝の中間に沿って目標軌道から異なり得る経路を示す図である。
図5】複数のワイヤ群の起こり得る補償移動の方向および大きさを例として示す図である。
図6】複数のワイヤ群の起こり得る補償移動の方向および大きさを例として示す図である。
図7】ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動を引起こす基準となる典型的な補正プロファイルを示す図である。
図8】半導体ウェハの反り測定値の中位面から導出される高さ線を示す図である。
図9】半導体ウェハの反り測定値の中位面から導出される高さ線を示す図である。
図10】半導体ウェハの反り測定値の中位面から導出される高さ線を示す図である。
図11】半導体ウェハの反り測定値の中位面から導出される高さ線を示す図である。
図12】半導体ウェハの反り測定値の中位面から導出される高さ線を示す図である。
図13】半導体ウェハの反り測定値の中位面から導出される高さ線を示す図である。
図14】縦座標のより高分解能のスケーリングの差を示す、図8に対応する図である。
図15】縦座標のより高分解能のスケーリングの差を示す、図9に対応する図である。
図16】縦座標のより高分解能のスケーリングの差を示す、図10に対応する図である。
図17】ワイヤソー特有の補正プロファイルが複数のワークピースの処理の過程で変化し得る態様を示す図である。
図18】ワイヤソー特有の補正プロファイルが複数のワークピースの処理の過程で変化し得る態様を示す図である。
図19】ワイヤソー特有の補正プロファイルが複数のワークピースの処理の過程で変化し得る態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、従来技術に属するワイヤソーの主な特徴を示しており、ワイヤソーによってワ
ークピースを処理することによってワークピースから複数の半導体ウェハを製造するための方法の基本を説明する役割を果たす。
【0046】
好適なワイヤソーはソーイングワイヤ1を含む。ソーイングワイヤ1は、左側ワイヤガイドローラ3および右側ワイヤガイドローラ4の周りに螺旋状に数回かけ回されるとともに、ソーイングワイヤ1は、本発明の記載ではワイヤとも称されるワイヤガイドローラの上側に延びるワイヤ区域が平行に延びてワイヤウェブ11を形成するように、溝2によって案内される。ワークピース15は、たとえば接着剤17によって鋸引き用細片16に固定される。鋸引き用細片16はワークピース15と共に、(図示される)供給装置12によって、ワイヤウェブ11に対して垂直に矢印方向18に供給されて、ワイヤウェブ11の複数のワイヤに係合される。任意には、ワイヤソーは左側ノズル列19および右側ノズル列20を備える。左側ノズル列19および右側ノズル列20は、それぞれ、切断媒体懸濁液を左側の細長い噴射流22および右側の細長い噴射流23の形状で左側ワイヤガイドローラ3および右側ワイヤガイドローラ4上に送達するためのノズル21を備える。
【0047】
これらのワイヤガイドローラは、軸5および軸6を中心として回転可能に装着される。これらの軸およびワークピース15の軸14(この例では円筒形インゴットで図示されている)は互いに対して平行に配向されている。切断処理を開始するために、一方のワイヤガイドローラ(たとえば、左側ワイヤガイドローラ3)(マスタ)が回転7するよう駆動される。他方のワイヤガイドローラ(スレーブ)(この例では右側ワイヤガイドローラ4)は、ワイヤ1によって引張られて同様に回転方向8に共回転する。複数のワイヤがワークピース15に係合すると、複数の切り溝13が形成される。
【0048】
従来より、ワイヤ長手方向移動9、10の方向は、ワークピース15を完全に切断する間に数回反転される。この場合、往復運動と称されるワイヤのこれらの一対の方向変化の各々においては、ワイヤが一方向に移動する長さがより長く、反対方向に移動する長さはより短い。
【0049】
本発明に従ったワイヤソーは、駆動要素を含む少なくとも1つのワイヤガイドローラを有する。このようなワイヤガイドローラの一例を図2に示す。駆動要素を作動させると、作動させたワイヤ群が、当該ワイヤ群のうちの複数のワイヤの走行方向に対して垂直な方向に移動する。図示した例では、5つの駆動要素24a~24eおよび4つのワイヤ群25a~25dが、ワイヤガイドローラの固定軸受26と軸受27との間に設けられている。軸受27は、可脱軸受として構成されてもよく、または固定軸受として構成されてもよい。軸受27が可脱軸受である場合、軸受27に隣接する駆動要素24eは省かれてもよい。これに関係なく、軸受27は、図示の例では可脱軸受として示されている。両方向矢印は、或るワイヤ群に割当てられた駆動要素を作動させたときに当該ワイヤ群が移動する可能性のある移動方向を示す。ワイヤガイドローラは、シャフト上に配置されるワイヤ用の溝を備えたセグメント、たとえばJP11123649A2に開示されるようなセグメントに細分されてもよい。次いで、駆動要素が、複数セグメントの各端部の間に、固定軸受に隣接して配置される。このような構造においては、図2に示されるワイヤガイドローラは、ワイヤ群の数に対応する数のセグメントを有する。
【0050】
図3は、ワイヤ群25のうちの複数のワイヤが補償移動を実行するように、制御ユニット28が、補正プロファイルおよび/またはワイヤソー特有の補正プロファイルに基づく補正信号32でワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差に関連するデータに基づいて駆動要素24に作用する手順を概略的に示す。制御ユニット28は、測定装置30から、および/または、ワイヤソー特有の補正プロファイルが格納されたデータメモリ31から、必要な入力を受信する。
【0051】
図4は、複数の切り溝を観察することによって、または、複数のワイヤをワークピースに係合する間にこれらワイヤおよびワークピースを観察することによって、得られ得る画像を断面で示す。これは、ワークピース15の一部と、当該ワークピース内に延びる切り溝13とを示す。切り溝13の中間を通って延びる実際軌道は、目標軌道32から切り溝を作成している間、多少なりとも有意にずれている。この差は、切り溝13について確認された配置誤差を表している。上述したように、本発明に従うと、各ワイヤ群ごとに、ワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動は、具体的にはそれぞれのワイヤ群に割当てられた駆動要素を作動させることによって、ワイヤ群のうちの複数のワイヤの走行方向に対して垂直な方向に、当該ワイヤ群のうちの複数の切り溝について確認された配置誤差の関数として、引起こされる。
【0052】
図5および図6は、複数のワイヤ群の起こり得る補償移動の方向および大きさについての例をそれぞれ示す。駆動要素24a~24eは、たとえば圧電アクチュエータである。図5の場合、図2に示す駆動要素24a~24dの同じタイプの作動の効果は、圧電アクチュエータがそれぞれ同じ大きさだけ拡張することで、これに対応してワイヤ群25a~25dとワイヤガイドローラの軸受27とを固定軸受26から離れるように移動させることである。補償移動の大きさは、矢印が示すように、ワイヤ群25aからワイヤ群25dまで均一に増加する。しかしながら、たとえば、図6に示されるように、複数のワイヤ群が互いに向かって移動する過程で補償移動が必要となることも必須であるかもしれない。図6は、駆動要素24aが大きさ「a」だけ拡張し、駆動要素24dが軸受27に向かって大きさ「d」(大きさ「d」>大きさ「a」)だけ拡張するとともに、駆動要素24bが大きさ「b」だけ収縮し、駆動要素24cが固定軸受26に向かって大きさ「c」(大きさ「c」>大きさ「d」)だけ収縮するように、図2に示した複数の駆動要素を作動させた場合の結果を示す。全体としては、ワイヤ群のうちの複数のワイヤと軸受27との補償移動が矢印によって示されるように以下のとおりに発生する。具体的には、ワイヤ群25aの複数のワイヤが軸受27に向かって最大の大きさ分だけ移動し、ワイヤ群25bの複数のワイヤは移動せず、ワイヤ群25cの複数のワイヤが固定軸受26に向かって或る大きさ分だけ移動し、ワイヤ群25dの複数のワイヤが軸受27に向かって最小の大きさ分だけ移動する。
【0053】
本発明の第1の構成に従った実際軌道と目標軌道との比較、または本発明の第2の構成に従った予想軌道と目標軌道との比較により、ワークピースにおけるワイヤ群のうちの複数のワイヤの差込み深さの関数として、或るワイヤ群のうちの複数の切り溝の配置誤差のプロファイルと、補正プロファイル(本発明の第1の構成)またはワイヤソー特有の補正プロファイル(本発明の第2の構成)とについての記述が得られる。これら補正プロファイルはそれぞれ、複数の切り溝の配置誤差のプロファイルに対して相補的である。
【0054】
図7は、目標軌道からの実際軌道のずれΔをワイヤ群のうちの複数のワイヤの差込み深さPの関数としてグラフ化した補正プロファイルを示す。ずれΔに対応する方向および大きさを伴ったワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動は、当該ワイヤ群に割り当てられた駆動要素を作動させることによって引起こされる。複数の切り溝の配置誤差がない場合(Δ=0)(図示の例では、おおよそ、-100mmの差込み深さまでの場合には該当しない)にだけ、このような補償移動が引起こされなくなる。
【0055】
図8図13は、或るワイヤ群のうちの複数のワイヤによってワークピースから切り出された3つの半導体ウェハのそれぞれの高さ線LSを示しており、補正プロファイルによって特定されるワイヤ群のうちの複数のワイヤの補償移動が半導体ウェハの切断中に引起こされたものである(図8図10)か、または、このような補償移動は省かれている(図11図13)。高さ線はそれぞれ、反り測定値の中位面から導き出される。この場合、半導体ウェハの切断中に、ワークピースの方向に沿ってそれぞれの半導体ウェハの直径
に追従する線上に位置する中位面の測定値が選択された。ワークピースにおける複数の半導体ウェハの位置は、3つの半導体ウェハを切断する際にこれら3つの半導体ウェハ50の各々の間にさらに別の半導体ウェハが形成されるような位置であった。高さ線の比較から分かるように、本発明を用いる場合の半導体ウェハは、有意にはより平坦であって、ワークピースにおけるこれら半導体ウェハの位置による特別な影響は受けない。このことは図14図16によっても確認される。これら図14図16は、縦軸のスケーリングがより高分解能である点のみが図8図10と異なっている。
【0056】
図17図18および図19は、ワイヤソー特有の補正プロファイルが複数のワークピースの処理の過程で絶えず変化し得る態様を示す。したがって、予測保全測定が開始される際の閾値であるずれΔについての閾値を定義することが有利である。予測保全測定は当該閾値を超えたときに開始される。閾値は、たとえば、図19に示されるように、最大ずれΔmaxを有するワイヤソー特有の補正プロファイルのみが予測保全測定の開始につながるように定義されてもよい。
【0057】
本発明に従った方法の上述の実施形態に関連付けて特定された特徴は、本発明に従った装置に対応して適用されてもよい。逆に、本発明に従った装置の上述の実施形態に関連付けて特定された特徴は、本発明に従った方法に対応して適用されてもよい。本発明に従った実施形態のこれらおよび他の特徴は、図の説明および添付の特許請求の範囲において説明される。個々の特徴は、本発明の実施形態として、別々に、または組合わせて実現され得る。さらに、これら個々の特徴は、独立して保護可能である有利な実施形態を記載し得る。
【0058】
いくつかの実施形態の例についての上述の説明は、例示的なものとして理解されるべきである。これによってなされる開示は、一方では、当業者が本発明およびそれに関する利点を理解することを可能にするとともに、他方では、当業者の理解のために、記載された構造および方法に対する明らかな変更例および変形例も含む。したがって、そのようなすべての変更例および変形例ならびに同等例は、添付の特許請求の保護範囲によって包含されるよう意図されている。
【符号の説明】
【0059】
用いられる参照番号のリスト
1 ソーイングワイヤ、2 溝、3 左側ワイヤガイドローラ、4 右側ワイヤガイドローラ、5 軸、6 軸、7 回転、8 回転方向、9 長手方向ワイヤ移動、10 長手方向ワイヤ移動、11 ワイヤウェブ、12 供給装置、13 切り溝、14 軸、15
ワークピース、16 鋸引き用細片、17 接着剤、18 矢印方向、19 ノズル列、20 ノズル列、21 ノズル、22 噴射流、23 噴射流、24a~24e 駆動要素、25a~25d ワイヤ群、26 固定軸受、27 軸受、28 制御ユニット、29 データ指定、30 測定装置、31 データメモリ、32 目標軌道。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19