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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】FGF21産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/22 20060101AFI20240422BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A61K31/22
A61P43/00 111
A61P3/06
A61P3/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019236209
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104951
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500175325
【氏名又は名称】学校法人愛知学院
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】平居 貴生
(72)【発明者】
【氏名】中島 健一
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴大
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-067249(JP,A)
【文献】特開平10-265328(JP,A)
【文献】特開2016-199536(JP,A)
【文献】特開2017-184718(JP,A)
【文献】特開2019-151572(JP,A)
【文献】国際公開第2019/180964(WO,A1)
【文献】特開2018-135311(JP,A)
【文献】Chemio-Biological Interaction,2010年,Vol.185,pp.59-65
【文献】Drug Development Research,2007年,Vol.68,pp.261-266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00
A61P 3/00
A61P 9/00
A61P 19/00
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-アセチルオレアノール酸及び/又はその薬学的に許容される塩を含有する、FGF21産生促進剤。
【請求項2】
脂質代謝低下又は肥満の予防又は改善に用いられる、請求項1に記載のFGF21産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGF21産生促進剤に関する。より具体的には、本発明は、オレアノール酸及びその誘導体の、FGF21産生促進剤としての新たな用途に関する。
【背景技術】
【0002】
FGF(線維芽細胞増殖因子: fibroblast growth factor)は、線維芽細胞をはじめとする様々な細胞に対して増殖活性や分化誘導など多彩な作用を示す多機能性細胞間シグナル因子である(非特許文献1)。FGFの一つであるFGF21は、分泌サイトカインとして生体に対して様々な作用を及ぼす因子であることから、医療への応用を目指した研究が進められている。
【0003】
近年、FGF21産生を促進する成分がいくつか報告されている。具体的には、生薬オウレンの主要成分であるベルベリン(非特許文献2、3)、及び特定の藻体(特許文献1)に、FGF21産生を促進する作用が見出されている。
【0004】
ところで、トリテルペンは炭素数30を基本骨格とするテルペンであり、様々な生理活性が期待されている。トリペルテンの1種であるオレアノール酸に関しては、抗う蝕作用(特許文献2)、抗癌作用(特許文献3)、抗酸化作用(非特許文献4)、骨粗鬆症予防作用(特許文献4)、幹細胞の未分化状態維持作用(特許文献5)、保湿作用(特許文献6)等が報告されている。一方で、オレアノール酸に関してFGF21産生との関連性は一切報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】生化学 第88巻第1号,pp86-93(2016)
【文献】「Berberine stimulates FGF21 expression via activation of AMP-activated protein kinase in brown and beige adipocytes」、愛知学院大学薬学会誌、第11巻、2018年12月、p.18-19
【文献】「代謝調節因子FGF21 を制御する天然物の探索」、愛知学院大学薬学会誌、第11巻、2018年12月、p.22-23
【文献】食品化学 2005年、92(4)、721-727頁
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-135311号公報
【文献】特開平1-290619号公報
【文献】特開平8-119866号公報
【文献】特開2014-141444号公報
【文献】特開2016-169172号公報
【文献】特開2018-058804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで報告されているFGF21産生を促進する成分はわずかであり、たとえばベルベリンについては特有の副作用(例えば便秘)の可能性があること、特定の藻体については規格化されていない天然物であるために一定の品質保証が困難であること等に鑑みると、FGF21産生を促進する成分について更なる選択肢が望まれる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、FGF21産生を促進する新たな成分を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、オレアノール酸に、FGF21産生を促進する作用があることを見出した。さらに検討を行ったところ、オレアノール酸を誘導体化することによって、FGF21産生促進効果が一層向上することも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記式(I)で表される化合物及び/又はその薬学的に許容される塩を含有する、FGF21産生促進剤。
【化1】
(式中、Rは、水素原子、炭素数2~30のアシル基、又は炭素数1~6のアルキル基である。)
項2. 前記Rが炭素数2~7の脂肪族アシル基である、項1に記載のFGF21産生促進剤。
項3. 脂質代謝低下又は肥満の予防又は改善に用いられる、項1又は2に記載のFGF21産生促進剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、FGF21産生を促進する新たな成分が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のFGF21産生促進剤は、オレアノール酸及びその特定の誘導体を含有することを特徴とする。以下、本発明のFGF21産生促進剤について詳述する。
【0013】
本発明のFGF21産生促進剤に含まれるオレアノール酸及びその特定の誘導体は、下記式(I)で表される化合物及び/又はその薬学的に許容される塩である。
【0014】
【化2】
【0015】
式(I)中、Rは、水素原子、炭素数2~30のアシル基、又は炭素数1~6のアルキル基である。Rが水素原子である場合の化合物(I)はオレアノール酸である。また、Rが上記のアシル基又は上記のアルキル基である場合の化合物(I)は、オレアノール酸の3位の水酸基がエステル又はエーテルに改変された誘導体(エステル型誘導体又はエーテル型誘導体)である。本発明のFGF21産生促進剤においては、オレアノール酸、オレアノール酸のエステル型誘導体、及びオレアノール酸のエーテル型誘導体から1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
化合物(I)が、Rが炭素数2~30のアシル基であるエステル型誘導体である場合、当該アシル基は、脂肪族アシル基及び芳香族アシル基のいずれであってもよい。脂肪族アシル基としては、炭素数2~7の脂肪族アシル基が挙げられ、具体的には、炭素数2~7、好ましくは炭素数2~4の、直鎖又は分岐状の飽和又は不飽和アシル基が挙げられ、より具体的には、アセチル基、n-プロピオニル基、イソプロピオニル基、n-ブチリル基、t-ブチリル基等のアルカノイル基;アクリロイル基(プロペノイル基)、メタクリロイル基、n-ブテノイル基等のアルケノイル基が挙げられる。
【0017】
芳香族アシル基としては、炭素数7~30、好ましくは炭素数7~14の芳香族アシル基が挙げられ、より具体的には、ホルミル基の水素原子が芳香族基で置換された基、及び上記の脂肪族アシル基のいずれかの水素原子が芳香族基で置換された基が挙げられる。ホルミル基の水素原子が芳香族基で置換された基としては、ベンゾイル基、ナフトイル基等が挙げられる。上記の脂肪族アシル基のいずれかの水素原子が芳香族基で置換された基としては、好ましくは、上記の脂肪族アシル基、好ましくはアルケノイル基の末端水素原子が芳香族基(ベンジル基、ナフチル基等)で置換された基が挙げられ、より好ましくは、アクリロイル基(プロペノイル基)、メタクリロイル基の末端水素原子が芳香族基(ベンジル基、ナフチル基等)で置換された基が挙げられ、さらに好ましくはシンナモイル基(3-フェニルプロペノイル基)が挙げられる。
【0018】
これらのエステル型誘導体は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
化合物(I)が、Rが炭素数1~6のアルキル基であるエーテル型誘導体である場合、当該アルキル基は、直鎖又は分岐状のいずれであってもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基またはt-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、2-メチルブチル基、n-へキシル基、イソへキシル基、3-メチルペンチル基、エチルブチル基が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0020】
これらのエーテル型誘導体は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記式(I)で表される化合物の薬学的に許容される塩としては、カルボン酸塩が挙げられ、具体的には、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等);有機塩基との塩(トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチレンジアミン等との塩)等が挙げられる。
【0022】
本発明のFGF21産生促進剤においては、上記式(I)で表される化合物及び/又はその薬学的に許容される塩の中でも、FGF21産生促進効果をより一層高く得る観点から、好ましくは上記式(I)で表される化合物が挙げられ、より好ましくはオレアノール酸の誘導体が挙げられ、さらに好ましくはオレアノール酸のエステル型誘導体が挙げられ、一層好ましくはRが炭素数2~7の脂肪族アシル基であるエステル型誘導体が挙げられ、特に好ましくはRがアセチル基であるエステル型誘導体(つまり、3-アセチルオレアノール酸)が挙げられる。
【0023】
オレアノール酸としては、市販品(例えば、富士フィルム和光純薬(株)より入手可能)を用いてもよいし、公知の製造方法によって得たものであってもよい。公知の製造方法としては、オレアノール酸を含有する植物原料から抽出及び単離精製する方法、及びオレアノール酸を産生する微生物の培養物から単離精製する方法等が挙げられる。オレアノール酸を含有する植物原料としては、オリーブ、ブドウ、ビート、ナツメ、アーモンド、バナバ葉、オリーブ葉、セージ、サンザシ、ラズベリー、カリン、ローズマリー葉、グァバ、シソ葉、ブルーベリー、プルーン、ビワ、ザクロ、レモンバーム、バジル、ローズヒップ、カキ、センブリ等が挙げられる。また、オレアノール酸を産生する微生物としては、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属と類縁関係の藻類、具体的には、AJ7866株(FERM P-22289)、AJ7868株(FERM P-22290)、AJ7867株(FERM P-22304)及びそれらの誘導株が挙げられる。
【0024】
オレアノール酸の誘導体は、オレアノール酸を用い、3位の水酸基を誘導体化する公知の方法を用いて合成することができる。
【0025】
例えば、オレアノール酸のエステル型誘導体は、オレアノール酸の3位の水酸基に対して公知のエステル化法を用いることで合成することができる。具体的には、オレアノール酸のエステル型誘導体は、オレアノール酸に、上記式(I)中のアシル基Rに対応するカルボン酸(ROH)の酸ハロゲン化物(ROX1)、活性エステル(ROX2)、酸無水物(ROR)等を反応させることで得ることができる。上記カルボン酸、酸ハロゲン化物、活性エステル、及び酸無水物において、Rは、上記式(I)中のアシル基Rと同じである。上記酸ハロゲン化物において、X1は、Cl、Br、I等のハロゲンを表す。上記活性エステルにおいて、X2は、活性エステル化剤X2OH由来基を表し、活性エステル化剤としては、N-ヒドロキシスクシンイミド、1-ヒドロキシベンズトリァゾール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネンー2,3-ジカルボキシルイミド等のN-ヒドロキシ化合物;ジピリジルジスルフイド等のジスルフイド化合物;ジシクロへキシルカルボジイミド等のカルボジイミド等が挙げられる。
【0026】
また、オレアノール酸のエーテル型誘導体は、オレアノール酸の3位の水酸基に対して公知のエーテル化法を用いることで合成することができる。具体的には、オレアノール酸のエーテル型誘導体は、オレアノール酸に、上記式(I)中のアルキル基Rに対応するハロゲン化アルキル(RX1)等を反応させることで得ることができる。上記ハロゲン化アルキルにおいて、Rは、上記式(I)中のアルキル基Rと同じである。上記ハロゲン化アルキルにおいて、X1は、Cl、Br、I等のハロゲンを表す。
【0027】
またオレアノール酸の誘導体は、オレアノール酸の誘導体を含有する植物原料から抽出及び単離精製する方法によって得てもよい。例えば、3-アセチルオレアノール酸を含有する植物原料としては、レンギョウ(生薬)、赤小豆等が挙げられる。
【0028】
その他の成分
本発明のFGF21産生促進剤は、有効成分である上記の化合物のみからなるものであってもよいし、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、FGF21産生促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0029】
また、本発明のFGF21産生促進剤は、有効成分である上記の化合物の他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、FGF21産生促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0030】
製剤形態
本発明のFGF21産生促進剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。本発明のFGF21産生促進剤をこれらの製剤形態に調製するには、有効成分である上記の化合物、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0031】
用途
本発明のFGF21産生促進剤は、FGF21の産生を促進させる目的で使用される。FGF21産生促進剤は、生体に投与することにより、生体内のFGF21の発現量を増加させる。FGF21に基づく作用として、糖尿病、脂質異常症、肥満、心血管疾患、心臓障害(肥大心等)、敗血症、関節リウマチ、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)およびメタボリック症候群(インスリン抵抗性、脂質異常症、内臓型肥満および高血圧)等に対する予防・治療効果が知られている。そのため、本発明のFGF21産生促進剤は、FGF21の発現量を増加させることに伴い、FGF21に基づく上記の作用を得る目的で使用することができる。
【0032】
用量・用法
本発明のFGF21産生促進剤は経口投与によって使用される。本発明のFGF21産生促進剤の用量については、有効成分の種類、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、有効成分である上記化合物の量で、例えば0.1~500mg/kg体重程度、好ましくは1~300mg/kg体重程度、より好ましくは2~100mg/kg体重程度となる量で、1日1~3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
試験例1
(1)オレアノール酸
市販品のオレアノール酸(富士フィルム和光純薬(株))を用意した。
【0035】
(2)3-アセチルオレアノール酸の合成
オレアノール酸(38.4mmol)を500mLのジクロロメタン(超脱水)に溶解後、無水酢酸(15.81g)、トリエチルアミン(24.15mL)、ジメチルアミノピリジン(465mg)を順次加え、室温にて12時間撹拌した。反応終了後、反応液を500mLのジエチルエーテルで希釈後、0.1M塩酸500mL(1回)、精製水500mL(2回)、飽和食塩水500mL(1回)で洗浄し、エーテル相を得た。エーテル相に無水硫酸マグネシウムを適量加え、濾過を行った。濾液を減圧下で濃縮し、得られた残留物(25.44g)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:アセトン=15:1)により精製した。薄層クロマトグラフィーにおける標品との比較により3-アセチルオレアノール酸を含有する画分を収集し、濃縮後、n-ヘキサン/ジクロロメタンにより再結晶化を行い、3-アセチルオレアノール酸(5.3g)を白色粉末として得た。
【0036】
(3)3-アセチルオレアノール酸の単離精製
レンギョウ(ツムラ;2kg)を、室温にてメタノール(8L)に24時間浸漬し抽出する工程を3回繰り返すことで、レンギョウ抽出液を得た。得られた抽出液を減圧下濃縮することでレンギョウ抽出物(175.3g)を得た。得られたレンギョウ抽出物をメタノールに再溶解したところ、不溶物(34.4g)が沈殿したため、濾過により不溶物を除去した。得られたろ液を、酢酸エチル(1L)及び精製水(1L)を用いて液-液分配し、酢酸エチル画分(111.3g)を得た。酢酸エチル画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム/メタノール混合溶媒系を用いて溶出させることで、27個の画分を得た。得られた画分のうち1~6番目の画分に活性が認められたため、この画分を濃縮し、n-ヘキサン/アセトン混合溶媒を移動相としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、36個の画分を得た。このうち、27~35番目の画分を濃縮し、n-ヘキサン/ジクロメタンを用いて再結晶化することで、白色粉末(21.2mg)を得た。得られた白色粉末について1H-NMR及び13C-NMRデータを取得し、既知化合物である3-アセチルオレアノール酸のNMRデータとの照合した結果、得られた白色粉末を3-アセチルオレアノール酸と同定した。
【0037】
(2)細胞試験
C2C12細胞を、増殖培地[DMEM(高グルコース)、ペニシリン-ストレプトマイシン(Wako)、及び10%ウシ胎児血清(FBS;Wako)]を入れた培養ディッシュ(48ウェルプレート、corning)に、底面積1cm2あたり25,000個となるように播種した。24時間後、分化培地[DMEM(高グルコース)、ペニシリン-ストレプトマイシン、1%HS(ウマ血清;Thermo Fisher Scientific)]に交換し(0日目)、その後、分化培地で4日間培養した。
【0038】
培養4日目のC2C12細胞に対して、(1)のオレアノール酸の50μM水溶液、又は、(2)で調製した3-アセチルオレアノール酸の50μM水溶液を添加し、20時間インキュベートした。また、コントロールとして、3-アセチルオレアノール酸を加えなかったことを除いて同様の操作を行った。培地を回収し、ELISA法によりFGF21を測定した。FGF21の測定にはMouse/Rat FGF-21 Quantikine ELISA Kit(R&D system)を使用した。コントロールにおけるFGF21量を100%とした場合の3-アセチルオレアノール酸添加によるFGF21量の相対量(%)を導出した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなとおり、オレアノール酸(実施例1)及び3-アセチルオレアノール酸(実施例2)には、FGF21の産生を促進する効果が確認できた。さらに、この効果は、3-アセチルオレアノール酸(実施例2)において顕著であることも確認できた。
【0041】
試験例2
試験例1の(2)で調製した3-アセチルオレアノール酸を用い、p38MAPキナーゼ阻害剤であるSB203580を用いた阻害試験を行った。
【0042】
試験例1と同様にして培養4日目のC2C12細胞を調製し、3-アセチルオレアノール酸の30μM水溶液を添加後、6時間培養した(実施例3)。また、別途、培養4日目のC2C12細胞に、3-アセチルオレアノール酸の30μM水溶液の添加30分前に、p38MAPキナーゼ阻害剤であるSB203580の10μM水溶液を添加し、3-アセチルオレアノール酸添加後6時間培養した(参考例3)。また、コントロールとして、3-アセチルオレアノール酸を加えなかったことを除いて実施例3と同様の操作を行った(参考例2)。
【0043】
培養後の、total RNAを、RNAiso Plus(Takara)を用いて回収した。ReverTra Ace(R) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(Toyobo)を用いて1μgのtotal RNAからcDNAを合成した。合成したcDNAは滅菌水を用いて10倍希釈した後、リアルタイムPCR法に用いた。Realtime PCR Master Mix(THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix; Toyobo)、プライマー、cDNAを調製後、TP800 Thermal cycler Dice(R) Real-time System(Takara)を用いて反応させた。コントロールにおけるFGF21 mRNA量を100%とした場合の実施例3及び参考例3におけるFGF21 mRNAの相対量(%)を導出した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から明らかなとおり、p38MAPキナーゼ阻害剤であるSB203580(10μM)によって、FGF21産生促進剤である3-アセチルオレアノール酸によるFGF21の産生を促進する効果(実施例3)が抑制されたことが確認できた(参考例3)。つまり、3-アセチルオレアノール酸によるFGF21の産生を促進する効果にはp38MAPキナーゼが関与することが確認できた。
【0046】
試験例3
試験例1の(2)で調製した3-アセチルオレアノール酸を用いて、FGF21産生促進効果を確認する動物実験を行った。
【0047】
実験動物として、14日間予備飼育した雄性6週齢のddyマウス(日本エスエルシー株式会社)を用い、予備飼育期間及び実験期間を通して、室温24±1℃の飼育室(照明時間8時~20時)で飼育した。マウスに対して、3-アセチルオレアノール酸を30mg/kgの用量で腹腔内投与した。投与後4時間経過時に、ヘパリンナトリウム添加の注射筒を用いて採血を行った。コントロールとして、同様に予備飼育したddyマウスに3-アセチルオレアノール酸を投与しなかったことを除いて同様の操作を行った。採血した血液を遠心分離(3000rpm、15分)して血漿を分離し、血漿中のFGF21を、ELISA法により測定した。FGF21の測定にはMouse/Rat FGF-21 Quantikine ELISA Kit(R&D system)を使用した。
【0048】
また、マウスに対して3-アセチルオレアノール酸を投与後4時間経過時に、ヒラメ筋を摘出した。摘出した組織の10倍量のRNAiso Plus(Takara)を加え、組織をホモジナイズした後、Total RNAを抽出した。ReverTra Ace(R) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(Toyobo)を用いて1μg total RNA からcDNAを合成した。合成したcDNAは滅菌水を用いて10倍希釈した後、リアルタイムPCR法に用いた。Realtime PCR Master Mix(THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix; Toyobo)、プライマー、cDNAを調製後、TP800 Thermal cycler Dice(R) Real-time System(Takara)を用いて反応させた。
【0049】
コントロールにおける血漿FGF21量を100%とした場合の3-アセチルオレアノール酸投与による血漿FGF21の相対量(%)を導出した。また、コントロールにおけるヒラメ筋のFGF21 mRNA量を100%とした場合の3-アセチルオレアノール酸投与によるヒラメ筋のFGF21 mRNAの相対量(%)を導出した。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3から明らかなとおり、3-アセチルオレアノール酸には、FGF21の産生を促進する効果があることが確認できた。
【0052】
試験例4
試験例1の(2)で調製した3-アセチルオレアノール酸を用いて、脂肪低減効果を確認する動物実験を行った。
【0053】
実験動物として、14日間予備飼育した雄性6週齢のddyマウス(日本エスエルシー株式会社)を用い、予備飼育期間及び実験期間を通して、室温24±1℃の飼育室(照明時間8時~20時)で飼育した。マウスを、通常餌群、高脂肪食群、及び高脂肪食+FGF21産生促進剤群(1群当たり10~12匹)の3群に分けた。通常餌群には、通常飼料(D12450B 35kcal%;Research Diets)を3週間与え、高脂肪食群及び高脂肪食+FGF21産生促進剤群には、高脂肪食飼料(D12492、60kcal%;Research Diets)を3週間与えた。飼料の交換は週2回(毎週月曜日と金曜日)、1回当たり150gとし、飲料水は滅菌蒸留水を給水瓶で自由に与えた。また、高脂肪食+FGF21産生促進剤群には、高脂肪食飼料と共に、3-アセチルオレアノール酸を30mg/kg/日の用量で、週5回(月曜日から金曜日まで毎日)、3週間腹腔内投与した。試験終了時の各群について、体重及び生殖器周囲脂肪組織の重量を測定し、平均値を導出した。結果を表4に示す。
【表4】
【0054】
表4から明らかなとおり、FGF21産生促進剤である3-アセチルオレアノール酸の投与(実施例5)によって、高脂肪食による体重増加及び脂肪量増加(参考例5と対比した参考例6)が抑制されたことが確認できた。3-アセチルオレアノール酸によって、脂肪増加の抑制又は低下の効果が得られることが確認できた。これらの結果から、FGF21産生促進剤である3-アセチルオレアノール酸が、脂質代謝低下又は肥満の予防又は改善に有効であることが認められる。