(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】付加硬化型シリコーン組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20240422BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20240422BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240422BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240422BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240422BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240422BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240422BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20240422BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C08J3/20 B CFH
C08L83/07
C08L83/05
C08K9/04
C08K3/08
C08K3/26
C08K3/36
C08K5/05
C08K5/5415
(21)【出願番号】P 2021006597
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明田 隆
(72)【発明者】
【氏名】堀江 以気代
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-201934(JP,A)
【文献】特開2003-253121(JP,A)
【文献】特開2004-161155(JP,A)
【文献】特開2006-335872(JP,A)
【文献】特開2005-272703(JP,A)
【文献】特開2002-038016(JP,A)
【文献】特開2003-096301(JP,A)
【文献】特開2006-249416(JP,A)
【文献】特開2009-088115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 7/18
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、
(D)表面が脂肪酸で処理された
銅粉末及び表面が脂肪酸で処理された
銅めっき粉末から選ばれる1種以上、
(E)
体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)が0.5~30μmである、表面が脂肪酸で処理された炭酸カルシウム粉末、
並びに
(F)アセチレンアルコール化合物及び該化合物のアルコール性水酸基がシランまたはシロキサンにより変性された化合物から選ばれる1種以上
を含有する物を混合する付加硬化型シリコーン組成物の製造方法であって、
前記(A)成分と前記(E)成分とを混合した後、
80℃~200℃で熱処理する工程及び
前記熱処理する工程で得られた熱処理物と残りの成分とを混合する工程
を有する付加硬化型シリコーン組成物の製造方法。
【請求項2】
付加硬化型シリコーン組成物が、更に、(G)補強性シリカを含む
請求項1に記載の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法。
【請求項3】
熱処理する工程において、前記(A)成分及び前記(E)成分に加え、更に前記(G)成分を混合する
請求項2に記載の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加硬化型シリコーン組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品のシール材及び接着剤として使用される付加硬化型シリコーンに関する要求特性は年々厳しさを増している。本来シリコーンは気体透過性が高いために、硫黄含有ガスがシリコーンを透過してしまい、電子部品が損傷する。そこで、付加硬化型シリコーン組成物に金属粉末(特に銅粉、銅メッキ粉末)が充填され、これらが自己犠牲的に硫黄含有ガスと反応し電子部品を保護する技術が知られている。
【0003】
また、窒素酸化物や硫黄酸化物に代表される酸性ガスも電子部品を腐食させる。これを解決する手段として、シリコーンゴム組成中に塩基性充填剤を予め添加しておき、これらが反応することで内部の電子部品を保護する機能を発現する技術が知られている。
【0004】
硫黄含有ガスと酸性ガスの双方を1つの材料で捕捉させるには、金属粉末と塩基性充填剤を共存させることが望ましい。金属粉末(特に銅)の表面は粉末同士の凝集を防ぐために表面処理剤で処理されている。この表面処理剤は脂肪酸を使用するのが一般的である。塩基性充填剤とこの脂肪酸で処理された金属粉末が共存していると中和反応が生じ、脂肪酸が金属粉末表面からなくなってしまう。このような状態になった金属粉末は白金触媒に作用し触媒としての機能が著しく低下してしまう。
なお、本発明に関連する従来技術として、下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-96301号公報
【文献】特開平5-230373号公報
【文献】特開2004-83905号公報
【文献】特開2011-201934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、脂肪酸で処理された金属粉末と塩基性充填剤とが共存する場合においても、長期保存後の硬化性が良好なシリコーン組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脂肪酸で処理された塩基性充填剤(炭酸カルシウム)等を予め熱処理を行ったものを使用することで、金属粉末が共存する組成でも長期保存後の硬化性が確保されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法を提供するものである。
[1]
(A)一分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、
(D)表面が脂肪酸で処理された金属粉末及び表面が脂肪酸で処理された金属めっき粉末から選ばれる1種以上、
(E)表面が脂肪酸で処理された炭酸カルシウム粉末、
並びに
(F)アセチレンアルコール化合物及び該化合物のアルコール性水酸基がシランまたはシロキサンにより変性された化合物から選ばれる1種以上
を含有する物を混合する付加硬化型シリコーン組成物の製造方法であって、
前記(A)成分と前記(E)成分とを混合した後、熱処理する工程及び
前記熱処理する工程で得られた熱処理物と残りの成分とを混合する工程
を有する付加硬化型シリコーン組成物の製造方法。
[2]
前記(D)成分が、表面が脂肪酸で処理された銅粉末及び表面が脂肪酸で処理された銅めっき粉末から選ばれる1種以上である[1]に記載の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法。
[3]
付加硬化型シリコーン組成物が、更に、(G)補強性シリカを含む[1]又は[2]に記載の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法。
[4]
熱処理する工程において、前記(A)成分及び前記(E)成分に加え、更に前記(G)成分を混合する[3]に記載の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により製造される付加硬化型シリコーン組成物は、脂肪酸で処理された金属粉末と塩基性充填剤とが共存する場合においても、長期保存後の硬化性が良好である。したがって、本発明の製造方法により、長期保存可能な一液型付加硬化性シリコーン組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明は、下記(A)~(F)成分及び必要に応じて(G)成分並びにその他の成分を混合する付加硬化型シリコーン組成物の製造方法である。
まず、組成物の各成分について説明する。
【0010】
(A)オルガノポリシロキサン
(A)成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンの分子構造については特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状及び三次元網状構造のうち、いずれであってもよい。
【0011】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、特に、ビニル基であることが好ましい。また、分子中のアルケニル基は分子主鎖末端のケイ素原子及び分子鎖途中のケイ素原子のいずれに結合したものであってもよいし、この両方に結合したものであってもよい。
【0012】
アルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブロピル基、プチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられ、特に、メチル基及びフェニル基が好ましい。
【0013】
このような(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフエニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、
式:R1
3SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R1
2R2SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R1
2SiOで示される単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、
式:R1
2R2SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、
式:R1
3SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R1
2R2SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、
式:R1
2R2SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R1
2SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、
式:R1R2SiOで示されるシロキサン単位と式:R1SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:R2SiO1.5で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体
及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。上記式中のR1はアルケニル基以外の有機基であり、R2はアルケニル基であり、それぞれ前記例示されたものが挙げられる。
【0014】
(A)成分の25℃における動粘度は、得られる硬化物の物理的特性及び組成物の作業性の観点から、100~500,000mm2/sの範囲内であることが好ましく、特に、300~100,000mm2/sの範囲内であることが好ましい。なお、本明細書において、動粘度は25℃でキャノンフェンスケ型粘度計により測定した値である。
【0015】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(B)成分は、1分子中に2個以上、好ましくは3~100個のケイ素原子に結合する水素原子(即ち、Si-H基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造については特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状及び三次元網状構造のうち、いずれであってもよい。
【0016】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、下記平均組成式(2)で表されるものが好ましい。
HaR3
bSiO(4-a-b)/2 (2)
式(2)中、R3は、独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、a及びbは、0<a<2、0.8≦b≦2かつ0.8<a+b≦3となる数であり、好ましくは0.05≦a≦1、1.5≦b≦2かつ1.8≦a+b≦2.7となる数である
【0017】
R3の脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、前記成分(A)においてアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基として例示したものと同様のものが挙げられ、代表的なものは炭素原子数が1~10、特に炭素原子数が1~7のものであり、好ましくはメチル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。
【0018】
(B)成分の例としては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7,8-ペンタメチルペンタシクロシロキサン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R3(H)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、任意にR3SiO1/2単位、R3
2SiO2/2単位、R3(H)SiO2/2単位、(H)SiO3/2単位又はR3SiO3/2単位を含み得るシリコーンレジン(式中、R3は前記と同じである)等が挙げられる。
【0019】
(B)成分の使用量は、(B)成分由来のSi-H基が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して好ましくは0.1~5.0個となる量、より好ましくは0.1~2.0個となる量である。
本発明の組成物中、(A)成分及び(B)成分の含有量は、40~95質量%が好ましく、45~90質量%がより好ましく、50~85質量%がさらに好ましい。
【0020】
(C)ヒドロシリル化反応触媒
(C)成分は、(A)成分由来のアルケニル基と、(B)成分由来のヒドロシリル基(Si-H基)との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒を用いることができる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属を酸化アルミニウム、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。
【0021】
これらの触媒の使用にあたっては、それが固体触媒であるときには固体状で使用することも可能であるが、本発明の組成物を均一に硬化させるためには、塩化白金酸や上記錯体及び上記化合物を、例えば、トルエンやエタノール等の適切な溶剤に溶解させて使用することが好ましい。
【0022】
(C)成分の使用量は、所謂触媒量でよく、(A)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1~500ppmが好ましく、0.5~200ppm程度がより好ましい。
【0023】
(D)表面が脂肪酸で処理された金属粉末又は金属めっき粉末
(D)成分は、表面が脂肪酸で処理された金属粉末、表面が脂肪酸で処理された金属めっき粉末又はその両方である。
金属としては、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、錫、亜鉛などが例示される。硫黄含有ガスによって硫化されることにより、硫黄含有ガスの電気・電子部品への到達を防止又は遅延する効果があるものであればよいが、金属の安定性や価格面から銅が好ましい。
金属めっき粉末は、シリカ等の金属酸化物粉末及び有機樹脂粉末等に、上記した金属粉末で例示した金属をめっきしたものであり、めっきする金属としては金、銀、銅が好ましく、特に銅が好ましい。
【0024】
本発明で用いられる金属粉末及び金属めっき粉末は、脂肪酸で表面処理されているものであり、脂肪酸としては、カプリル酸、ウンデシレン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラギン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが例示される。
【0025】
脂肪酸の表面処理方法は特に限定されず、公知の方法で金属粉末又は金属めっき粉末に脂肪酸を表面処理したものを(D)成分として用いることができる。また、(D)成分の形状は、特に限定されないが、樹枝状のものが好ましい。なお、組成物の流動性及び補強性を考慮すると、(D)成分の体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)が好ましくは0.05~50μmであり、より好ましくは0.5~30μmである。
【0026】
(D)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対して0.1~50質量部が好ましく、より好ましくは1~30質量部である。
【0027】
(E)表面が脂肪酸で処理された炭酸カルシウム粉末
(E)成分は、塩基性を有する炭酸カルシウム粉末表面が脂肪酸で処理されているものであり、表面処理に用いる脂肪酸としては、カプリル酸、ウンデシレン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラギン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが例示される。
【0028】
(E)成分の粒子径は、組成物の流動性及び補強性を考慮すると、体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)が好ましくは0.05~50μmであり、より好ましくは0.5~30μmである。
【0029】
このような炭酸カルシウム粉末としては、市販品を使用することができ、例えば、丸尾カルシウム(株)製のMCコートS-20等を用いることができる。
【0030】
(E)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対して0.1~200質量部が好ましく、より好ましくは1~100質量部である。
【0031】
(F)アセチレンアルコール化合物又はその誘導体
(F)成分は、アセチレンアルコール化合物又は該化合物のアルコール性水酸基がシランもしくはシロキサンにより変性された化合物であり、付加硬化型シリコーン組成物において付加反応制御剤として作用する。
【0032】
アセチレンアルコール化合物としては、エチニル基と水酸基が同一分子内に存在するものであればよいが、エチニル基と水酸基は同一炭素原子に結合しているものが好ましい。その具体例としては下記構造式で表される化合物等が挙げられる。
【化1】
【0033】
また、アセチレンアルコール化合物のアルコール性水酸基がシラン又はシロキサンにより変性された化合物とは、アセチレンアルコールの水酸基の水素原子がSi-O-C結合に置換された形でシランもしくはシロキサン部分と結合したものである。その具体例としては下記構造式で表される化合物等が挙げられる。
【化2】
(式中、pは0~50の整数であり、qは1~50、好ましくは3~50の整数である。括弧が付されたシロキサン単位の配列順は任意であってよい。)
【0034】
(F)成分は、1種単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。その配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.0001~5質量部、より好ましくは0.001~3質量部、更に好ましくは0.01~1質量部である。
【0035】
(G)補強性シリカ
前記組成物には、機械的強度を補強するため、補強性シリカを配合してもよい。補強性シリカとしては、例えば煙霧質シリカ、沈降シリカ、焼成シリカ、石英粉末、珪藻土などが挙げられる。また、BET法による比表面積が50m2/g以上、特に50~500m2/gの微粉末シリカが好ましく、このような微粉末シリカはそのまま使用してもよいが、組成物に流動性を付与させるため、メチルクロロシラン類、ジメチルポリシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどの有機ケイ素化合物で処理した微粉末シリカを使用することが好ましい。
【0036】
(G)成分は、1種単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。(G)成分を使用する場合の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~200質量部、より好ましくは1~100質量部である。
【0037】
(H)接着性付与剤
また、硬化物に金属や有機樹脂に対する接着性が必要な場合は、接着性付与剤を配合してもよい。接着性付与剤としては、シランカップリング剤やエポキシ基、アルコキシシリル基、(メタ)アクリル基等の反応性基を有するシロキサンが例示され、エポキシ基、アルコキシシリル基、(メタ)アクリル基等のカルボニル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、シラン及びシロキサンから選ばれる接着性付与剤が好ましい。
【0038】
接着性付与剤を配合する場合の添加量としては、(A)成分100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、ゴム弾性、接着性を考慮すると、0.5~10質量部であることが好ましい。
【0039】
前記組成物には、上記した成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、更に、補強性のシリコーンレジン;ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック等の(G)成分以外の無機充填剤等を配合してもよい。
【0040】
[工程1:熱処理工程]
本発明の付加硬化型シリコーン組成物の製造方法は、前記(A)一分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンの一部又は全部と前記(E)表面が脂肪酸で処理された炭酸カルシウム粉末とを混合し、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃~200℃で、更に好ましくは100℃~180℃で熱処理する工程を有することを特徴とする。この熱処理工程において、減圧条件下で熱処理を行うことが好ましい。
この熱処理工程を行わない場合、組成物が長期保存後の硬化性に劣るものとなる。
【0041】
本熱処理工程において、ヒドロシリル化反応が起こる組み合わせでない限り、前記(A)成分及び前記(E)成分以外の成分を混合してもよく、例えば、前記(A)成分、前記(E)成分及び前記(G)成分を用いることが好ましいものとして挙げられる。
【0042】
[工程2:混合工程]
前記熱処理工程に次いで、前記熱処理工程で得られた熱処理物と、残りの前記各成分とを均一に混合することにより付加硬化型シリコーン組成物が得られる。混合方法は、従来公知の方法に従えばよく、混合する装置としては、プラネタリーミキサー等が挙げられる。
本発明の製造方法により得られた付加硬化型シリコーン組成物は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物と同様に、2液に分け、使用時にこの2液を混合して硬化させる所謂二液型の組成物としてもよいが、組成物を使用する際の作業性等の点から一液型とすることが好ましい。
一液型の付加硬化性シリコーン組成物とする場合、前記熱処理工程後の混合物と、熱処理工程に(A)成分の一部を供した場合は残部の(A)成分を含む残りの各成分とを混合する。残りの各成分の添加順は特に問わない。
このような方法により、長期保存後の硬化性が良好である一液型付加硬化性シリコーン組成物を得ることができる。さらに、本発明の製造方法により得られる付加硬化性シリコーン組成物は、電子部品のシール材及び接着剤として、硫黄含有ガス及び酸性ガスにさらされる環境下においても、電子部品を保護可能な材料として使用することができる。
【0043】
本発明の製造方法により得られる付加硬化型シリコーン組成物は、公知の硬化型シリコーンゴム組成物と同様の方法、条件で硬化し得、例えば常温でも十分硬化し得るが、必要に応じて加熱してもよい。加熱する場合、通常加熱温度60~200℃、特に80~170℃で硬化させることが好ましい。硬化時間は、硬化温度や成形方法等により異なるが、通常1分~24時間程度である。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0045】
[実施例1~3、比較例1~4]
表1に示す配合量(質量部)で下記(A)~(F)成分を用い、以下の手順で付加硬化型シリコーン組成物を製造した。なお、(D)成分のD50は、Microtrac MT3000(日機装社製)を用いて測定した体積基準の粒度分布における値である。
各組成中のうち(A)成分の一部(50質量部)、(E)成分、及び(G)成分(使用する場合)を混合し、150℃2時間の熱処理工程を行った。熱処理工程の際の圧力は、0.08MPa以下であった。(A)成分、(E)成分、及び(G)成分の混合物を、25℃、大気圧まで戻した後、残りの(A)成分、(C)成分、(F)成分、(B)成分、(H)成分(使用する場合)、(D)成分の順で添加し、混合を行った後、減圧脱泡処理を行い、組成物を得た。
[比較例5]
実施例1において熱処理工程を実施しない以外は実施例1と同様の手順で、すなわち、(A)成分の一部(50質量部)、(E)成分、及び(G)成分の混合物に、残りの(A)成分、(C)成分、(F)成分、(B)成分、(D)成分の順で添加し、混合を行った後、減圧脱泡処理を行い、組成物を得た。
[比較例6]
実施例2において熱処理工程を実施しない以外は実施例2と同様の手順で、すなわち、(A)成分の一部(50質量部)、(E)成分、及び(G)成分の混合物に、残りの(A)成分、(C)成分、(F)成分、(B)成分、(H)成分、(D)成分の順で添加し、混合を行った後、減圧脱泡処理を行い、組成物を得た。
【0046】
(A)成分:
(A-1)分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン(25℃における動粘度10,000mm2/s)
(A-2)Vi(Me)2SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなるポリシロキサンレジン(25℃における動粘度5,000mm2/s、SiO4/2単位に対するVi(Me)2SiO1/2単位のモル比:0.8)
【0047】
(B)成分:下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化3】
【0048】
(C)成分:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金元素含有量0.5質量%)
【0049】
(D)成分:
(D-1)銅粉末(福田金属箔粉工業(株)製FCC-SP-99、樹枝状電解銅粉、脂肪酸処理、D50(μm)<13)
(D-2)銅粉末(D-1(市販品)の脂肪酸処理を無しとしたもの)
【0050】
(E)成分:
(E-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製MCコートS-20)
(E-2)表面が無処理の炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製ホワイトンSSB)
【0051】
(F)成分:エチニルシクロヘキサノール
【0052】
(G)成分:ヘキサメチルジシラザンで表面処理された煙霧質シリカ(BET比表面積300m2/g)
【0053】
【0054】
[硬化性の評価]
製造直後及び5℃で6か月保管後の各組成物について、アルファテクノロジー社製レオメーターMDR2000を用いて、各組成物を100℃で加熱し、加熱終了時と比較して10%のトルクに到達した時間をT10、90%のトルクに到達した時間をT90として測定し、組成物の硬化性を下記の指標により評価した。
〇:T10が15分以内かつT90が30分以内
△:T10が30分以内かつT90が30分を超えて60分以内
又はT10が15分を超えて30分以内かつT90が30分以内
×:硬化しない、またはT10が30分を超える
【0055】
【0056】
表1に示されるとおり、本発明の製造方法により得られた組成物は長期保管後の硬化性が維持されていた。
一方、表面に脂肪酸処理を行っていない炭酸カルシウムを用いた比較例1、2では、初期および長期保管後の硬化性が劣り、表面に脂肪酸処理を行っていない銅粉末を用いた比較例3、4、並びに(A)成分と(E)成分との混合物の熱処理工程を行っていない比較例5、6では、長期保管後の硬化性が不十分なものとなった。