(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法、これにより形成された高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子及びそれを含む正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240422BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240422BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240422BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022560136
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 KR2021013073
(87)【国際公開番号】W WO2022065935
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0124155
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ホ-ユン・クワク
(72)【発明者】
【氏名】デ-スン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュン-ギュ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェ-ユン・ムン
(72)【発明者】
【氏名】ミュン-ファン・オ
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-175808(JP,A)
【文献】国際公開第2020/082019(WO,A1)
【文献】特表2018-533166(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0129615(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全遷移金属に対するニッケルモル比が80mol%以上になる含量でニッケル原料粉末を含む各遷移金属原料粉末を全遷移金属に対するリチウムのモル比が0.95~1.02になるように、第1リチウム原料物質と混合して第1混合物を製造するステップS1と、
酸素雰囲気で前記第1混合物を固相反応が進行するように1次焼成した後、冷却させるステップS2と、
前記ステップS2の結果物に、全遷移金属に対するリチウムの総モル比が1.00~1.09になるように、第2リチウム原料物質をさらに混合して第2混合物を製造するステップS3と、
酸素雰囲気で前記第2混合物を2次焼成するステップS4と、
を含
み、
前記ステップS2の1次焼成時の温度は780~870℃であり、前記ステップS4の2次焼成時の温度は780~870℃であることを特徴とする高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【請求項2】
前記第2リチウム原料物質の混合量は、全遷移金属に対する前記第2リチウム原料物質のリチウムモル比が0.01~0.07であることを特徴とする、請求項1に記載の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【請求項3】
前記ニッケル原料粉末を含む各遷移金属原料粉末は、ニッケル原料粉末、コバルト原料粉末及びマンガン原料粉末を含むことを特徴とする、請求項1に記載の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【請求項4】
前記ニッケル原料粉末は、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、水酸化ニッケル、リン酸ニッケル、及び硝酸ニッケルからなる群から選択された少なくとも1つであり、
前記コバルト原料粉末は、酸化コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルト、水酸化コバルト、及びリン酸コバルトからなる群から選択された少なくとも1つであり、
前記マンガン原料粉末は、二酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、及び硝酸マンガンからなる群から選択された少なくとも1つであることを特徴とする、請求項3に記載の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【請求項5】
前記コバルト原料粉末及び前記マンガン原料粉末は、互いに独立して全遷移金属に対するコバルト及びマンガンのモル比がそれぞれ10mol%以下になる含量で混合されることを特徴とする、請求項3に記載の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【請求項6】
前記第1リチウム原料物質及び前記第2リチウム原料物質は、互いに独立してそれぞれ水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、及び炭酸リチウムからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【請求項7】
前記高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法は、非水洗工程によって行われ、前記高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質中のリチウム不純物の含量が1重量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【請求項8】
前記高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の平均粒径サイズ(D50)は、3.0~8.0μmであることを特徴とする、請求項1に記載の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物からなる単粒子状の正極活物質の固相合成方法、これにより形成された高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子及びそれを含む正極及びリチウム二次電池に関する。
【0002】
本願は、2020年9月24日付の韓国特許出願第10-2020-0124155号に対する優先権主張出願であって、当該出願の明細書に開示されたあらゆる内容は、引用によって本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
高いエネルギー密度を示す高含量ニッケル含有(Ni‐rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質が注目されているが、ニッケル含量が高くなるにつれて、電池の寿命安定性が急激に減るという問題点がある。寿命減少の原因の1つは、高含量ニッケル含有(Ni‐rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質の構造と関連する。
【0004】
1次粒子が凝集された2次粒子の形態からなる通常の高含量ニッケル含有(Ni‐rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質は、充電と放電とが進行するにつれて、1次粒子間の界面でクラックが発生して、電池の寿命を減少させる。
【0005】
これにより、2次粒子の形態ではない単粒子状の高含量ニッケル含有(Ni‐rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質の開発が行われている。結晶粒界(Grain boundary)のない単粒子状の正極活物質は、マイクロまたはマクロクラック(micro/macro‐crack)の生成を大きく減らしうるので、高含量ニッケル含有(Ni‐rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質の構造的安定性を高める。
【0006】
高含量ニッケル含有(Ni‐rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質の単粒子の製造時に、炭酸リチウムなどのリチウム不純物の残留量が増加するが、このような不純物は、電解液と反応して電池の性能を低下させ、ガスを発生させ、電極スラリーの製造時に、ゲレーション現象を誘発させる。
【0007】
このようなリチウム不純物の含量を下げるために、高含量Ni系(Ni‐rich)リチウム正極活物質の単粒子の製造後、水洗する工程を経る。しかし、水洗工程を経れば、正極材の表面が化学的に不安定になり、これにより多様な電気化学的副反応を発生させる恐れがある。また、高含量ニッケル含有(Ni‐rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質が単粒子状である時、水洗時に、リチウム不純物が少なく除去されるという問題点もある。
【0008】
一方、ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質は、共沈法を用いてニッケルマンガンコバルト水酸化物のような混合遷移金属水酸化物を製造した後、それをリチウム原料物質と混合し、焼成することで製造する。しかし、共沈法を利用した正極活物質の製造方法は、複雑であるという短所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする第1課題は、水洗工程が必要ない程度にリチウム不純物の含量を低く抑制された高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法を提供するところにある。
【0010】
本発明が解決しようとする第2課題は、比較的経済的であり、容易に製造することができる高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法を提供するところにある。
【0011】
本発明が解決しようとする第3課題は、前述した特性を有する高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子を提供するところにある。
【0012】
本発明が解決しようとする第4課題は、前述した特性を有する高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子を含む正極及びリチウム二次電池を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した技術的課題を解決するために、本発明の第1具現例による高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法は、(ステップS1)全遷移金属に対するニッケルモル比が80mol%以上になる含量でニッケル原料粉末を含むそれぞれの遷移金属原料粉末を全遷移金属に対するリチウムのモル比が0.95~1.02になるように、第1リチウム原料物質と混合して第1混合物を製造する段階;(ステップS2)酸素雰囲気で前記第1混合物を固相反応が進行するように1次焼成した後、冷却させる段階;(ステップS3)前記ステップS2の結果物に、全遷移金属に対するリチウムの総モル比が1.00~1.09になるように、第2リチウム原料物質をさらに混合して第2混合物を製造する段階;及び(ステップS4)酸素雰囲気で前記第2混合物を2次焼成する段階;を含む。
【0014】
本発明の第2具現例によれば、第1具現例による固相合成方法において、前記第2リチウム原料物質の混合量は、全遷移金属に対する第2リチウム原料物質のリチウムモル比が0.01~0.07である。
【0015】
本発明の第3具現例によれば、前記第1具現例または第2具現例のうち何れか1つ以上の具現例において、前記ニッケル原料粉末を含むそれぞれの遷移金属原料粉末は、ニッケル原料粉末、コバルト原料粉末及びマンガン原料粉末を含みうる。
【0016】
この際、前記ニッケル原料粉末は、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、水酸化ニッケル、リン酸ニッケル、及び硝酸ニッケルからなる群から選択された少なくとも1つであり、前記コバルト原料粉末は、酸化コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルト、水酸化コバルト、及びリン酸コバルトからなる群から選択された少なくとも1つであり、前記マンガン原料粉末は、二酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、及び硝酸マンガンからなる群から選択された少なくとも1つである。また、前記コバルト原料粉末及びマンガン原料粉末は、互いに独立して全遷移金属に対するコバルト及びマンガンのモル比がそれぞれ10mol%以下になる含量で混合されるが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明の第4具現例によれば、前記第1具現例ないし第3具現例のうち何れか1つ以上の具現例において、前記第1リチウム原料物質及び第2リチウム原料物質は、互いに独立してそれぞれ水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、及び炭酸リチウムからなる群から選択された1種以上である。
【0018】
本発明の第5具現例によれば、前記第1具現例ないし第4具現例のうち何れか1つ以上の具現例において、前記ステップS2の1次焼成時に、温度は760~900℃であり、前記ステップS4の2次焼成時に、温度は760~900℃である。
【0019】
本発明の第6具現例によれば、前記第1具現例ないし第5具現例のうち何れか1つ以上の具現例において、前記高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法は、非水洗工程によって行われ、リチウム不純物の含量が1重量%以下である。
【0020】
本発明の第7具現例によれば、前記第1具現例ないし第6具現例のうち何れか1つ以上の具現例において、前記高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の平均粒径サイズ(D50)は、3.0~8.0μmである。
【0021】
前述した具現例の固相合成方法によって製造された高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子は、正極の正極活物質として含まれ、このような正極は、リチウム二次電池に有用に用いられうる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の固相合成方法によれば、水洗工程が必要ない程度にリチウム不純物含量が低減したリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子を比較的簡単に製造することができる。
【0023】
また、前述した製造方法によって形成された高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の正極活物質は、正極スラリーの製造時に、ゲレーション現象及び電池のガス発生現象を低減させ、それを正極活物質として利用したリチウム二次電池は、特に初期容量が改善されうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1による正極活物質粒子のSEM写真である。
【
図2】実施例2による正極活物質粒子のSEM写真であり。
【
図3】比較例1による正極活物質粒子のSEM写真である。
【
図4】比較例2による正極活物質粒子のSEM写真である。
【
図5】比較例3による正極活物質粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は、通常の、または辞書的な意味として限定して解釈されてはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義できるという原則を踏まえて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されなければならない。
以下、本発明による高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法について説明する。
【0026】
本発明の第1具現例による高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子の固相合成方法によれば、まず、全遷移金属に対するニッケルモル比が80mol%以上になる含量でニッケル原料粉末を含むそれぞれの遷移金属原料粉末を全遷移金属に対するリチウムのモル比が0.95~1.02になるように、第1リチウム原料物質と混合して第1混合物を製造する(ステップS1)。
【0027】
第1リチウム原料物質としては、当該技術分野で知られている多様なリチウム原料物質が制限なしに使われるが、例えば、リチウム含有炭酸塩(例えば、炭酸リチウムなど)、リチウム含有水和物(例えば、水酸化リチウム水和物(LiOH・H2O)など)、リチウム含有水酸化物(例えば、水酸化リチウムなど)、リチウム含有硝酸塩(例えば、硝酸リチウム(LiNO3)など)、リチウム含有塩化物(例えば、塩化リチウム(LiCl)など)などが使われる。望ましくは、前記第1リチウム原料物質は、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、及び炭酸リチウムからなる群から選択された1種以上を使用することができる。
【0028】
全遷移金属に対するニッケルモル比が80mol%以上になる含量でニッケル原料粉末を含むそれぞれの遷移金属原料粉末が、第1リチウム原料物質と混合される。すなわち、ニッケル原料粉末とそれ以外のそれぞれの遷移金属原料粉末との混合物において、全遷移金属に対するニッケルモル比が80mol%以上になるようにニッケル原料粉末の含量を調節する。
【0029】
ニッケル原料粉末とは、遷移金属としてニッケルを提供するために、ニッケルのみを含有する原料粉末を意味し、それぞれの遷移金属原料粉末とは、1種の遷移金属のみを含有する原料粉末のそれぞれを意味するものであって、例えば、コバルトとマンガンとを遷移金属として含ませようとする場合、遷移金属としてコバルトのみを含有する原料粉末と遷移金属としてマンガンのみを含有する原料粉末とを意味する。
【0030】
前記ニッケル原料粉末を含むそれぞれの遷移金属原料粉末は、ニッケル原料粉末、コバルト原料粉末及びマンガン原料粉末を含みうる。
【0031】
前記ニッケル原料粉末は、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、水酸化ニッケル、リン酸ニッケル、及び硝酸ニッケルからなる群から選択された少なくとも1つであり、前記コバルト原料粉末は、酸化コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルト、水酸化コバルト、及びリン酸コバルトからなる群から選択された少なくとも1つであり、前記マンガン原料粉末は、二酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、及び硝酸マンガンからなる群から選択された少なくとも1つである。また、前記コバルト原料粉末及びマンガン原料粉末は、互いに独立して全遷移金属に対するコバルト及びマンガンのモル比がそれぞれ10mol%以下になる含量で混合される。
【0032】
前記第1混合物内の第1リチウム原料物質とニッケル原料粉末を含むそれぞれの遷移金属原料粉末との混合比率は、全遷移金属に対するリチウムのモル比が0.95~1.02になるように混合する。その混合モル比が0.95未満であれば、固相合成による複合遷移金属上の形成に問題点があり、その混合モル比が1.02を超過すれば、残留リチウムが増加し、正極活物質の性能が減少するという問題点がある。
【0033】
一方、ステップS1の第1混合物は、リチウム原料物質と遷移金属原料粉末の以外に正極活物質の安定性及び物性を向上するためのドーピング原料物質とをさらに含みうる。このようなドーピング原料物質としては、W、Cu、Fe、V、Cr、Ti、Zr、Zn、Al、In、Ta、Y、In、La、Sr、Ga、Sc、Gd、Sm、Ca、Ce、Nb、Mg、B、及びMoからなる群から選択された1種以上の元素を含む酸化物、水酸化物、硫化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物またはこれらの混合物などが使われる。
【0034】
引き続き、酸素雰囲気で前記第1混合物を固相反応が進行するように1次焼成した後、冷却させる(ステップS2)。
【0035】
1次焼成は、酸素雰囲気で行われる。ここで、酸素雰囲気とは、あらゆるガスが実質的に酸素になっているか、または1次焼成に十分な程度の酸素を含む雰囲気(例えば、大気雰囲気)を意味する。但し、酸素分圧が大気雰囲気よりも高い条件で行われることが望ましい。
【0036】
1次焼成時に、温度は760~900℃であり、さらに望ましくは、780~870℃である。
【0037】
1次焼成を行えば、リチウム原料物質とそれぞれの遷移金属原料粉末とが固相反応しながら、スピネル構造を有するリチウム複合遷移金属酸化物と層状構造を有するリチウム複合遷移金属酸化物とのシード(seed)が混合された可塑性混合物が形成される。1次焼成後には、通常は放置して自然冷却させるが、これに限定されるものではない。
【0038】
その後、前記ステップS2の結果物に、第2リチウム原料物質を全遷移金属に対するリチウムの総モル比(第1リチウム原料物質と第2リチウム原料物質との総投入モル比)が1.00~1.09になるように、さらに混合して第2混合物を製造する(ステップS3)。
【0039】
このように、本発明者らは、ステップS1によって1次で所定モル比で第1リチウム原料物質を遷移金属原料粉末と混合して1次焼成を実施した後、再び第2リチウム原料物質を所定モル比でさらに混合して2次焼成を実施することにより、リチウム不純物が大きく低減することを確認した。
【0040】
ここで、ステップS2の結果物は、必要に応じて粉砕または分級した後、2次焼成段階に投入することができる。また、第2リチウム原料物質は、前述した第1リチウム原料物質を使用することができる。
【0041】
第2リチウム原料物質としては、独立して前述した第1リチウム原料物質を使用することができる。第2リチウム原料物質を遷移金属に対するリチウムの総モル比が1.00未満になるように混合すれば、複合遷移金属上の形成が難しいという問題点があり、遷移金属に対するリチウムの総モル比が1.09を超過するように混合すれば、残留リチウムが増加するという問題がある。特に、前記第2リチウム原料物質の混合量は、全遷移金属に対する第2リチウム原料物質のリチウムモル比が0.01~0.07である。
【0042】
引き続き、酸素雰囲気で前記第2混合物を2次焼成する(ステップS3)。
【0043】
2次焼成時に、温度は760~900℃であり、さらに望ましくは、780~870℃である。
【0044】
前述した2次焼成を行えば、水洗工程をさらに経ずとも、リチウム不純物の含量が、例えば、1重量%以下に低減した高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質の単粒子を製造することができる。「単粒子」とは、1次粒子が凝集された形態の2次粒子ではない、結晶粒界のない単結晶または多結晶の単一粒子であって、少なくとも80%が単一粒子であることを意味する。
【0045】
単粒子の平均サイズ(D50)は、3.0~8μmであるが、これに限定されるものではない。平均粒径サイズD50は、粒子サイズ分布の50%基準での粒子サイズと定義され、レーザ回折法で測定した粒子のD50値を意味する。
【0046】
このように製造された高含量リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質の単粒子は、正極集電体上にコーティングされて、下記のような方法で正極として用いられうる。
【0047】
例えば、正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せずとも、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使われる。また、正極集電体は、通常の3~500μmの厚さを有することができ、前記集電体表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使われる。
【0048】
正極活物質層は、前記正極活物質と共に、導電材及び必要に応じて選択的にバインダーを含みうる。この際、正極活物質は、正極活物質層の総重量について80~99重量%、より具体的には、85~98.5重量%の含量で含まれうる。前記含量範囲に含まれる時、優れた容量特性を示すことができる。
【0049】
導電材は、電極に導電性を付与するために使われるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こせず、電子導電性を有するものであれば、特別な制限なしに使用可能である。具体例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使われる。前記導電材は、正極活物質層の総重量について0.1~15重量%に含まれうる。
【0050】
バインダーは、正極活物質粒子間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体例としては、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、フッ化ポリビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使われる。前記バインダーは、正極活物質層の総重量について0.1~15重量%に含まれうる。
【0051】
正極は、前記正極活物質を利用することを除いては、通常の正極の製造方法によって製造可能である。具体的に、前記正極活物質及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造することができる。
【0052】
また、他の方法として、正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることで製造されても良い。
【0053】
前述した方法として製造した正極は、リチウム二次電池に用いられうる。
【0054】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、さまざまな他の形態に変形され、本発明の範囲が、後述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0055】
実施例1
Li[Ni0.92Co0.04Mn0.04]O2で表される正極活物質の単粒子の製造を目標として、次のように製造した。
【0056】
ニッケル‐マンガン‐コバルト前駆体としてNi(OH)2、Co3O4及びMnO2を前述した目標組成式を有するように混合した後、これに第1リチウム原料物質として水酸化リチウム水和物(LiOH・H2O)を遷移金属に対するリチウムのモル比が1.00になるように混合して第1混合物を製造した。
【0057】
前記第1混合物をステンレススチール製の坩堝に投入し、酸素を3L/minの速度で投入しながら810℃に昇温した後、10時間温度を保持しながら1次焼成した後、冷却させた後、粒子間のネッキング(necking)を壊すために粉砕した。
【0058】
引き続き、収得された結果物に全遷移金属に対するリチウムの総モル比が1.05になるように、第2リチウム原料物質(水酸化リチウム水和物)をさらに混合して第2混合物を製造した。
【0059】
その後、酸素を3L/minの速度で投入しながら810℃に昇温した後、5時間温度を保持しながら2次焼成した後、冷却させて、目標した組成式の正極活物質の単粒子を得た。
【0060】
実施例2
全遷移金属に対するリチウムのモル比が表1に記載された含量になるように、第1リチウム原料物質及び第2リチウム原料物質の投入量を調節したことを除いては、実施例1と同様に実施した。
【0061】
比較例1ないし比較例3
全遷移金属に対するリチウムのモル比が表1に記載された含量になるように、第1リチウム原料物質及び第2リチウム原料物質の投入量を調節したことを除いては、実施例1と同様に実施した。
【0062】
前述した実施例及び比較例によって製造された正極活物質粒子のSEM写真をそれぞれ
図1ないし
図5に示した。
【0063】
<リチウム不純物含量の測定>
収得された実施例及び比較例のそれぞれの正極活物質の表面に存在するリチウム不純物の残留量を下記のように測定して、表1に示した。
【0064】
収得した正極活物質の表面に存在するLi副産物量を測定するために、pH滴定(titration)を行った。pH meterは、Metrohmを利用し、1mLずつ滴定してpHを記録した。具体的に、正極活物質の表面のリチウム副産物の含量は、Metrohm pHメートルを用いて、0.1N濃度のHClでpHを滴定して測定した。
【0065】
<粒子の平均粒径サイズの測定>
レーザ回折法を用いて粒子のD50を測定した。
【0066】
<初期容量(mA/g)(充電/放電)の測定>
実施例及び比較例によって製造された正極活物質と、フッ化ポリビニリデンバインダー及びカーボンブラックと、を97.5:1.5:1.0の重量比でNMP溶液に分散させてスラリーを製造した後、それをAl集電体に塗布した。以後、ロールプレスで圧延して正極を製造した。
【0067】
また、カウンター電極としてリチウムメタルを使用してコインハーフセルを製造した。
このように製造されたコインハーフセルを常温で充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.5V、0.1C/0.1C条件で1回充電・放電を実施した後、初期容量を測定した。
【0068】
【0069】
表1の結果から、実施例の高含量ニッケル含有リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質は、水洗前にもリチウム不純物の含量が低く、初期容量が高く表われた。一方、比較例1は、リチウム不純物の含量が低いが、初期容量が不良であり、比較例2ないし比較例3は、リチウム不純物の含量が高く、これにより、水洗後の正極活物質を使用した電池も、初期容量が十分ではなかった。