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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】発熱シート及び積層体
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20240423BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H05B3/20 316
H05B3/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019141660
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021026828
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大道
(72)【発明者】
【氏名】小原 禎二
(72)【発明者】
【氏名】池田 顕
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-276649(JP,A)
【文献】特開2018-199602(JP,A)
【文献】特開2017-045688(JP,A)
【文献】特開2009-140735(JP,A)
【文献】特表2018-513544(JP,A)
【文献】特表2012-516536(JP,A)
【文献】特開2018-039226(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00999727(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02- 3/86
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシリル基含有重合体を主成分とする樹脂シートと、
前記樹脂シートの少なくとも一方の表面上に設けられ、電圧を印加することにより発熱する発熱体層と、
前記発熱体層に電圧を印加するための一対の主電極と、
前記一対の主電極間にて、前記発熱体層の面内に相互に離隔配置されてなり、且つ、前記発熱体層に対して電気的に接続されてなる複数対の線状電極とを備え、
前記複数対の線状電極は、前記一対の主電極のうちの第1の主電極に電気的に接続された少なくとも1つの第1の線状電極と、前記一対の主電極のうちの第2の主電極に電気的に接続された少なくとも1つの第2の線状電極とを含み、
前記線状電極の電気抵抗率が10.0×10-8Ω・m以下であり、
前記複数対の線状電極が、0.5cm以上5cm以下の間隔で配置されてなり、
前記線状電極は、金属からなる金属線あるいは、金属からなる金属粒子を少量のバインダーでインキ化してなる導電ペーストを用いて描画パターンを形成して得られた導電ペースト形成物からなり、
前記金属線もしくは前記導電ペースト形成物の断面積は、75μm以上30000μm以下であり、
全光線透過率が70%以上である、発熱シート。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基含有重合体が、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを有するブロック共重合体[C]を水素化してなるブロック共重合体[D]に、アルコキシシリル基を導入してなる変性ブロック共重合水素化物[E]であって、前記ブロック共重合体[C]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕の全量が、前記ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwaとし、前記鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕の全量が、前記ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwbとしたときに、前記waと前記wbとの比(wa:wb)が、20:80~65:35である、請求項1に記載の発熱シート。
【請求項3】
前記発熱体層の表面抵抗率が10Ω/sq.以上1000Ω/sq.以下である、請求項1又は2に記載の発熱シート。
【請求項4】
前記発熱体層が、金属ナノワイヤー及びカーボンナノチューブの少なくとも一方を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の発熱シート。
【請求項5】
前記発熱体層が、導電膜、又は、微細な導電体を含む導電体含有層からなり、前記導電体含有層の厚さが、0.1μm以上50μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の発熱シート。
【請求項6】
前記発熱体層の最表面に樹脂層を更に備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の発熱シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の発熱シートと被加熱体とを少なくとも備えた、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱シート及び積層体に関し、特に、電圧を印加することにより発熱する発熱シート、及び該発熱シートを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電圧を印加することにより発熱する発熱シートが知られている。発熱シートは、例えば、電気自動車では温風吹込み方式の暖房に代わる面状発熱体、窓ガラスや自動車ガラスの凍結防止用の透明発熱シート、電子機器用の発熱シート、電池の加熱用の発熱シート、床暖房システム用の発熱シート等に使用される。
【0003】
特許文献1には、カーボンナノチューブ(CNT)溶液をグラビア印刷でコーティングした高分子面状発熱シートが記載されている。この発熱シートは、グラビア印刷による面状発熱体として、二軸に延伸した透明PETやOPSフィルムの間にジグザグ状に配列された銀ペーストを形成した後、CNTインクを面状にコーティングすることで得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2012-516536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の発熱シートは発熱性が不十分な場合があった。そのため、上記従来の技術には、発熱シートの発熱性をさらに向上させるという点において、改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、発熱性に優れた発熱シート、及び、該発熱シートを備えた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、特定の樹脂を主成分とする樹脂シートと、電圧を印加することにより発熱する発熱体層と、該発熱体層に電圧を印加するための一対の主電極と、該一対の主電極間にて前記発熱体層の面内に相互に離隔配置されてなり、且つ、前記発熱体層に対して電気的に接続されてなる特定の線状電極とを備えた発熱シートとすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
かくして本発明によれば、下記(1)~(6)の発熱シートおよび(7)の積層体が提供される。
(1)アルコキシシリル基含有重合体を主成分とする樹脂シートと、前記樹脂シートの少なくとも一方の表面上に設けられ、電圧を印加することにより発熱する発熱体層と、前記発熱体層に電圧を印加するための一対の主電極と、前記一対の主電極間にて、前記発熱体層の面内に相互に離隔配置されてなり、且つ、前記発熱体層に対して電気的に接続されてなる複数対の線状電極とを備え、前記複数対の線状電極は、前記一対の主電極のうちの第1の主電極に電気的に接続された少なくとも1つの第1の線状電極と、前記一対の主電極のうちの第2の主電極に電気的に接続された少なくとも1つの第2の線状電極とを含み、前記線状電極の電気抵抗率が10.0×10-8Ω・m以下である発熱シート。
(2)前記アルコキシシリル基含有重合体が、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを有するブロック共重合体[C]を水素化してなるブロック共重合体[D]に、アルコキシシリル基を導入してなる変性ブロック共重合水素化物[E]であって、前記ブロック共重合体[C]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕の全量が、前記ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwaとし、前記鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕の全量が、前記ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwbとしたときに、前記waと前記wbとの比(wa:wb)が、20:80~65:35である、上記(1)に記載の発熱シート。
(3)前記発熱体層の表面抵抗率が10Ω/sq.以上1000Ω/sq.以下である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の発熱シート。
(4)前記複数対の線状電極が、0.5cm以上10cm以下の間隔で配置されてなる、上記(1)~(3)のいずれかに記載の発熱シート。
(5)前記発熱体層が、金属ナノワイヤー及びカーボンナノチューブの少なくとも一方を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の発熱シート。
(6)前記発熱体層の最表面に樹脂層を更に備える、上記(1)~(5)のいずれかに記載の発熱シート。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の発熱シートと被加熱体とを備え、前記発熱体層の表面に前記被加熱体が積層されてなる、積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発熱性に優れた発熱シートと、該発熱シートを備えた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態に係る発熱シートの概略構成を示す平面図である。
図2図1に対応する図であって、図1に示したA-A線の断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る発熱シートの概略構成を示す断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る発熱シートの概略構成を示す平面図である。
図5】本発明の第4の実施形態に係る発熱シートの概略構成を示す平面図である。
図6】本発明の第5の実施形態に係る発熱シートの概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発熱シートは、下記(i)~(iv)で規定されるものである。
(i)樹脂シートと、樹脂シートの少なくとも一方の表面上に設けられ、電圧を印加することにより発熱する発熱体層と、発熱体層に電圧を印加するための一対の主電極と、一対の主電極間にて、発熱体層の面内に相互に離隔配置されてなり、且つ、発熱体層に対して電気的に接続されてなる複数対の線状電極とを備える。
(ii)樹脂シートは、アルコキシシリル基含有重合体を主成分とする。
(iii)複数対の線状電極は、一対の主電極のうちの第1の主電極に電気的に接続された少なくとも1つの第1の線状電極と、一対の主電極のうちの第2の主電極に電気的に接続された少なくとも1つの第2の線状電極とを含む。
(iv)線状電極の電気抵抗率が10.0×10-8Ω・m以下である。
【0012】
以下、本発明の発熱シートについて、(a)アルコキシシリル基含有重合体、(b)樹脂シート、(c)発熱体層、(d)主電極、(e)線状電極、(f)発熱シート、(g)発熱シートの製造方法、及び、(h)積層体に項分けして、詳細に説明する。
【0013】
(a)アルコキシシリル基含有重合体
アルコキシシリル基含有重合体は、任意の重合体にアルコキシシリル基が導入されたものである。ここで、アルコキシシリル基含有重合体は、好ましくは熱可塑性樹脂等であり、より好ましくは、ポリオレフィン、ブロック共重合体水素化物、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選択される重合体にアルコキシシリル基が導入された重合体である。これらのアルコキシシリル基含有重合体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
<ポリオレフィン>
ポリオレフィンは、エチレン由来の構造単位を有するエチレン系ポリオレフィンである。ここで、エチレン由来の構造単位がエチレン系ポリオレフィンを構成する全構造単位に対して占める割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0015】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレンの単独重合体や、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0016】
[エチレンの単独重合体]
エチレンの単独重合体は、エチレン由来の構造単位からなる線状もしくは分岐状のポリエチレンである。ここで、透明性の観点から、エチレンの単独重合体は、低密度ポリエチレンであることが好ましく、直鎖状低密度ポリエチレンであることがより好ましい。
【0017】
[エチレン-α-オレフィン共重合体]
エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレン由来の構造単位と、α-オレフィン由来の構造単位とを有するものである。α-オレフィン由来の構造単位を形成しうるα-オレフィンとしては、特に限定されず、エチレン由来の構造単位を形成しうるエチレンと共重合が可能なα-オレフィンを適宜使用することができる。α-オレフィンの炭素数は、通常3以上、好ましくは4以上であり、通常20以下、好ましくは8以下である。
【0018】
α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が挙げられる。中でも、入手の容易さ及び透明性の観点から、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。なお、エチレン-α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、透明性を向上させる観点から、ランダム共重合体であることが好ましい。
エチレン-α-オレフィン共重合体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
ここで、エチレン-α-オレフィン共重合体における、エチレンとα-オレフィンとの割合は特に限定されないが、エチレン由来の構造単位がエチレン-α-オレフィン共重合体を構成する全構造単位に対して占める割合は、通常30質量%以上、好ましくは50質量%であり、通常99質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。また、α-オレフィン由来の構造単位がエチレン-α-オレフィン共重合体を構成する全構造単位に対して占める割合は、通常70質量%以下、好ましくは50質量%以下であり、通常1質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。エチレン由来の構造単位及びα-オレフィン由来の構造単位が上記範囲内であれば、本発明の発熱シートの透明性、耐光性等がより向上する。
なお、エチレン-α-オレフィン共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲において、エチレン及びα-オレフィン以外の他の単量体に由来する構造単位を含みうる。他の単量体としては、プロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸などの不飽和カルボン酸、ビニルアルコールなどの不飽和アルコール、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0020】
<ブロック共重合体水素化物>
ブロック共重合体水素化物は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック(以下、「重合体ブロック[A]」という。)と、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック(以下、「重合体ブロック[B]」という。)とからなるブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体[C]」という。)を水素化したブロック共重合体水素化物(以下、「ブロック共重合体水素化物[D]」ともいう。)が好ましい。中でも、ブロック共重合体[C]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕の全量が、ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwaとし、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕の全量が、ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwbとしたときに、waと前記wbとの比(wa:wb)が、20:80~65:35であるものがより好ましい。
【0021】
以下、重合体ブロック[A]、重合体ブロック[B]、ブロック共重合体[C]、ブロック共重合体水素化物[D]の順に、詳細に説明する。
【0022】
[重合体ブロック[A]]
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕を主成分とする重合体ブロックである。ここで、「芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕を主成分とする」とは、「重合体ブロック[A]中の、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕の含有量が、50質量%超である」ことを意味する。重合体ブロック[A]中の、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕の含有量は、通常90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕の含有量が上記下限以上であれば、本発明の発熱シートは良好な耐熱性を有する。重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕以外の成分を含有していてもよい。他の成分としては、鎖状共役ジエン由来の構造単位〔b〕及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位〔m〕が挙げられる。構造単位〔b〕及び/又は構造単位〔m〕の含有量は、重合体ブロック[A]に対し、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0023】
ブロック共重合体[C]に含まれる複数の重合体ブロック[A]中の構造単位の組成及びブロック長は、上記の範囲を満足するものであれば、互いに同一であっても、相異なっていてもよい。
【0024】
<重合体ブロック[B]>
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕を主成分とする重合体ブロックである。ここで、「鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕を主成分とする」とは、「重合体ブロック[B]中の、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕の含有量が、50質量%超である」ことを意味する。重合体ブロック[B]中の、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕の含有量は、通常90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕の含有量が上記下限以上であれば、本発明の発熱シートは良好な柔軟性及び耐衝撃性を有する。重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕以外の成分を含有していてもよい。他の成分としては、芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位〔m〕が挙げられる。構造単位〔a〕及び/又は構造単位〔m〕の含有量は、重合体ブロック[B]に対し、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0025】
ブロック共重合体[C]が重合体ブロック[B]を複数有する場合、重合体ブロック[B]中の構造単位の組成及びブロック長は、互いに同一であっても、相異なっていても良い。
【0026】
ここで、上述した構造単位〔a〕を形成しうる芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;等が挙げられる。これらの中でも、吸湿性の観点から、スチレン、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的な入手の容易さから、スチレンが特に好ましい。
【0027】
また、上述した構造単位〔b〕を形成しうる鎖状共役ジエン系化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらの中でも、吸湿性の観点から、極性基を含有しない鎖状共役ジエン系化合物が好ましく、工業的な入手の容易さから、1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0028】
さらに、上述した構造単位〔m〕を形成しうるその他のビニル系化合物としては、例えば、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物、不飽和の環状酸無水物、不飽和イミド化合物等が挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、吸湿性の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン等の炭素数2~20の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン等の炭素数5~20の環状オレフィン;等の、極性基を含有しないものが好ましく、炭素数2~20の鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0029】
<ブロック共重合体[C]>
ブロック共重合体[C]は、ブロック共重合体水素化物[D]の前駆体であり、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と少なくとも1つの重合体ブロック[B]とを含有する高分子である。
【0030】
ブロック共重合体[C]中の重合体ブロック[A]の数は、通常3個以下、好ましくは2個である。ブロック共重合体[C]中の重合体ブロック[B]の数は、通常2個以下、好ましくは1個である。
【0031】
ブロック共重合体[C]のブロックの形態は、特に限定されず、鎖状型ブロックでもラジアル型ブロックでも良いが、鎖状型ブロックであるほうが、機械的強度に優れ好ましい。
ブロック共重合体[C]の最も好ましい形態は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体([A]-[B]-[A])である。
【0032】
ここで、ブロック共重合体[C]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位〔a〕の全量が、ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwaとし、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位〔b〕の全量が、ブロック共重合体[C]全体に占める重量分率をwbとしたときに、waとwbとの比(wa:wb)は、好ましくは20:80~65:35、より好ましくは30:70~60:40、更に好ましくは40:60~55:45である。waが多過ぎる場合は、本発明の発熱シートの耐熱性は高くなるが、柔軟性は低下し、被加熱体に対する接着性が低下する虞がある。一方、waが少な過ぎる場合には、本発明の発熱シートの柔軟性が高くなり、被加熱体に対する接着性が高まるが、耐熱性が低下する虞がある。
なお、wA及びwBは、全重合体ブロック[A]の重量及び全重合体ブロック[B]の重量に基づいて算出することができる。また、全重合体ブロック[A]の重量及び全重合体ブロック[B]の重量は、1H-NMRを測定することにより算出することができる。
【0033】
そして、ブロック共重合体[C]の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常35,000~200,000、好ましくは38,000~150,000、より好ましくは40,000~100,000である。また、ブロック共重合体[C]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.6以下である。Mw及びMw/Mnを上記範囲内とすれば、本発明の発熱シートの耐熱性及び機械的強度が向上する。
【0034】
また、ブロック共重合体[C]を含有する試料のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定される溶出曲線は、主ピークと、主ピークのピークトップが示す分子量よりも小さい分子量を示すピークトップを有する第2のピークとを有するものであってもよい。第2のピークのピークトップが示す分子量は1000以上であることが好ましい。主ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(単位:mV)に対する第2のピークのピークトップが示すRIの検出感度(第2のピークトップ感度)(mV)の比(第2ピークトップ感度/主ピークトップ感度)は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下である。第2のピークは重合工程で触媒の一部が失活する等により生じることがある。
【0035】
ブロック共重合体[C]の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。具体的には、ブロック共重合体[C]の製造方法としては、例えば、国際公開第2003/018656号、国際公開第2011/096389号等に記載の方法が挙げられる。
【0036】
<ブロック共重合体水素化物[D]>
ブロック共重合体水素化物[D]は、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化した高分子であってもよいし、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化した高分子であってもよいし、これらの混合物であってもよい。
本発明の発熱シートとしては、芳香族ビニル化合物由来の芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化しない場合と水素化した場合とで、機械的な弾性率に顕著な差異は生じない。
【0037】
ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化する場合、主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、通常95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上であり、芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率が高いほど、本発明の発熱シートの耐候性、耐熱劣化性が良好である。また、芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化を抑制することにより、本発明の発熱シートの耐熱劣化性を維持し易くなる。
【0038】
ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化する場合、水素化率は、全炭素-炭素不飽和結合の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。ブロック共重合体水素化物[D]の水素化率が上記下限以上であれば、本発明の発熱シートは、透明性、耐熱劣化性に優れ、また、鎖状共役ジエン化合物に由来する炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化したブロック共重合体水素化物[D]を使用した場合に比較して、耐光性が更に優れ、耐熱変形温度も高くなるため特に好ましい。
【0039】
ブロック共重合体水素化物[D]の、鎖状共役ジエン化合物に由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率、並びに、芳香族ビニル化合物に由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、例えば、ブロック共重合体[C]及びブロック共重合体水素化物[D]の1H-NMRを測定することにより求めることができる。
【0040】
ここで、ブロック共重合体[C]中の不飽和結合の水素化方法や反応形態等は特に限定されず、公知の方法に従って行えばよい。
【0041】
そして、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合を選択的に水素化する方法としては、例えば、特開2015-78090号公報等に記載された公知の水素化方法が挙げられる。
【0042】
また、ブロック共重合体[C]の鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合並びに芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合を水素化する方法としては、例えば、国際公開第2011/096389号、国際公開第2012/043708号等に記載された方法が挙げられる。
【0043】
更に、ブロック共重合体水素化物[D]の分子量は、THFを溶媒としたGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常35,000~200,000、好ましくは38,000~150,000、より好ましくは40,000~100,000である。また、ブロック共重合体水素化物[D]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.6以下である。Mw及びMw/Mnが上記範囲内であれば、本発明の発熱シートの耐熱性及び機械的強度がより一層向上する。
【0044】
そして、ブロック共重合体水素化物[D]を含有する試料のGPCにより測定される溶出曲線は、主ピークと、主ピークのピークトップが示す分子量よりも小さい分子量を示すピークトップを有する第2のピークとを有するものであってもよい。第2のピークのピークトップが示す分子量は1000以上であることが好ましい。主ピークのピークトップが示す示差屈折計(RI)の検出感度(主ピークトップ感度)(mV)に対する第2のピークのピークトップが示すRIの検出感度(第2ピークトップ感度)(mV)は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下である。第2のピークは重合工程で触媒が失活したり、水素化工程で重合体が一部切断されたりすること等により生じることがある。アルコキシシリル基含有重合体として、第2のピークを有するブロック共重合体水素化物[D]にアルコキシシリル基を導入してなる変性ブロック共重合体水素化物[E]を用いれば、被加熱体に対する接着性が更に優れた発熱シートを提供することができる。
【0045】
<エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体>
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレンとアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルに由来する構造単位を有する高分子である。
【0046】
アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルは特に限定されず、エチレンと共重合が可能なアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを適宜使用することができる。通常は、単素数が4~20のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを、1種又は2種以上組み合わせて使用すればよい。中でも好ましいのは、炭素数が4~10のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルある。
【0047】
このようなアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられる。中でも、入手の容易さや、透明性及び耐熱性の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルが好ましい。
なお、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、透明性の観点から、ランダム共重合体であることが好ましい。
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
そして、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体において、エチレン由来の構造単位は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する全構造単位に対して、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上であり、通常99質量%以下、好ましくは95質量%以下である。また、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する全構造単位に対して、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下であり、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上である。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中のエチレン由来の構造単位及び(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位の割合が上記範囲内であれば、本発明の発熱シートの耐熱性や透明性がより一層向上する。
【0049】
<アイオノマー>
アイオノマーは、エチレンと不飽和カルボン酸とをランダム共重合させてなる共重合体(以下、「エチレン-不飽和カルボン酸共重合体」と表記する。)を、イオン源となる金属と反応させて得られる重合体である。アイオノマーは、例えば、スクリュー押出機中で、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体を溶融混練しながら、イオン源となる金属化合物と反応させて得ることができる。
【0050】
以下、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体を金属化合物と反応させる方法について、詳細に説明する。
【0051】
[不飽和カルボン酸]
エチレンと反応させる不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル等が挙げられる。中でも、金属化合物との反応性が高いことから、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
これらの不飽和カルボン酸は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
エチレン-不飽和カルボン酸共重合体において、エチレン由来の構造単位は、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体を構成する全構造単位に対して、通常60質量%以上、好ましくは70質量%以上であり、通常96質量%以下、好ましくは90質量%以下である。また、不飽和カルボン酸由来の構造単位は、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体を構成する全構造単位に対して、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下であり、通常4質量%以上、好ましくは10質量%以上である。エチレン由来の構造単位及び不飽和カルボン酸由来の構造単位が上記範囲内であれば、本発明の樹脂シートの透明性、機械的強度、加工性等がより一層向上する。
また、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲において、エチレン及び不飽和カルボン酸以外の他の単量体に由来する構造単位を含みうる。ここで、他の単量体としては、例えば、アクリル酸やメタクリル酸等のエステル化合物が挙げられ、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
【0053】
[金属化合物]
エチレン-不飽和カルボン酸共重合体と反応させる金属化合物としては、各種金属の、酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩等が挙げられる。また、金属化合物に含まれる金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;亜鉛、コバルト、クロム、銅等の遷移金属;アルミニウム等の典型金属;が挙げられる。
【0054】
金属化合物の使用量は、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基を所望の中和度にするための化学量論的量であればよく、具体的には、例えば、中和度が10%~90%になるような量である。中和度が上記範囲内にあれば、本発明の発熱シートの透明性、耐光性等がより一層良好である。
【0055】
<エチレン-酢酸ビニル共重合体>
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、エチレン由来の構造単位と、酢酸ビニル由来の構造単位とを有する共重合体であって、エチレン-酢酸ビニル共重合体を構成する全構造単位に対して、酢酸ビニル由来の構造単位が占める割合が20質量%未満のものである。
【0056】
エチレン-酢酸ビニル共重合体中、酢酸ビニル由来の構造単位は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を構成する全構造単位に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、通常19質量%以下、好ましくは10質量%以下である。エチレン-酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル由来の構造単位の含有割合が少ないほど、本発明の発熱シートは耐熱性及び電気絶縁性に優れる。
【0057】
[アルコキシシリル基]
そして、上述した重合体に導入されるアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等の、炭素数1~6のトリアルコキシシリル基;メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基等の、炭素数1~20アルキルジシリル基;フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基等の、炭素数1~6のアリールジアルコキシシリル基;等が挙げられる。中でも、被加熱体に対する強固な接着性が得られる観点から、トリメトキシシリル基が特に好ましい。
これらのアルコキシシリル基は、アルコキシシリル基含有重合体中に、1種単独で含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
さらに、アルコキシシリル基は、上述した重合体に直接結合していてもよく、あるいは、炭素数1~20のアルキレン基や、炭素数2~20のアルキレンオキシカルボニルアルキレン基等の2価の有機基を介して結合していても良い。
【0058】
〔アルコキシシリル基の導入方法〕
ここで、アルコキシシリル基を重合体に導入する方法は、特に限定されず、例えば、上述した重合体とエチレン性不飽和シラン化合物とを、過酸化物の存在下で反応させる方法等が挙げられる。
【0059】
上述した重合体にアルコキシシリル基を導入する方法は、例えば、国際公開第2012/043708号、特開2015-78090号公報等に記載された方法を参考にすることができる。
【0060】
以下、上述した重合体とエチレン性不飽和シラン化合物とを、過酸化物の存在下で反応させて、アルコキリシリル基を導入する方法について具体的に説明する。
【0061】
-エチレン性不飽和シラン化合物-
エチレン性不飽和シラン化合物としては、上述した重合体とグラフト重合することで、重合体にアルコキシシリル基を導入することができるものであれば特に限定されない。このようなエチレン性不飽和シラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等が好適に用いられる。
これらのエチレン性不飽和シラン化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
エチレン性不飽和シラン化合物の使用量は、上述した重合体100質量部に対して、通常0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0063】
-過酸化物-
過酸化物としては、特に限定されないが、1分間半減期温度が170以上190℃以下のものが好ましい。過酸化物として、例えば、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド等が挙げられる。
過酸化物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
過酸化物の使用量は、上述した重合体100質量部に対して、通常0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。
【0065】
上述した重合体とエチレン性不飽和シラン化合物とを反応させる方法は特に限定されず、例えば、過酸化物の存在下、上述した重合体とエチレン性不飽和シラン化合物とを二軸混練機を用いて所望の温度及び時間で混練することで、重合体にアルコキシシリル基を導入することができる。その際、混練温度は、通常180℃以上、好ましくは185℃以上、より好ましくは190℃以上であり、通常220℃以下、好ましくは210℃以下、より好ましくは200℃以下である。また混練時間は、通常0.1分以上、好ましくは0.2分以上、より好ましくは0.3分以上であり、通常10分以下、好ましくは5分以下、より好ましくは2分以下である。上記混練温度及び混練時間で連続的に混練し、押出しをすることで、アルコキシシリル基が重合体に導入されたアルコキシシリル基含有重合体を効率的に得ることができる。
【0066】
ここで、アルコキシシリル基の導入量は、上述した重合体100質量部に対して、通常0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。アルコキシシリル基の導入量が上記上限以下であれば、アルコキシシリル基含有重合体を主成分として含む樹脂を溶融して所望のシート形状とする前に、微量の水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が高くなるのを低減し、ゲル化の発生や溶融時の流動性の低下を抑制することができるため、成形性を向上させることができる。一方、アルコキシシリル基の導入量が上記下限以上であれば、樹脂シートの発熱体層又は被加熱体に対する接着性が向上する。
アルコキシシリル基が重合体に導入されたことは、IRスペクトルで確認することができる。また、アルコキシシリル基の導入量は、1H-NMRスペクトルやケイ素の元素分析等の方法にて算出することができる。
【0067】
(b)樹脂シート
樹脂シートは、上述したアルコキシシリル基含有重合体を主成分として含有し、任意に、他の樹脂及び/又は配合剤を含みうる。
【0068】
ここで、他の樹脂及び/又は配合剤とは、アルコキシシリル基含有重合体を含まない樹脂及び/又は配合剤、あるいは、アルコキシシリル基を主成分として含むとしても、上記列挙した各種成分とは骨格構造が異なる樹脂及び/又は配合剤である。
【0069】
そして、樹脂シート中のアルコキシシリル基含有重合体の含有割合は、通常70質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、通常99.99質量%以下、好ましくは99.98質量%以下、より好ましくは99.97質量%以下である。樹脂シート中のアルコキシシリル基含有重合体の含有割合が上記下限以上であれば、被加熱体に対する樹脂シートの接着性及び耐熱性を良好に維持することができる。
【0070】
<他の樹脂>
そして、樹脂シート中に含み得る他の樹脂としては、特に限定されず、発熱シートの材料として一般的に使用される公知の樹脂を用いることができる。
【0071】
<配合剤>
また、樹脂シート中に含みうる配合剤としては、例えば、粘着性付与剤、接着性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、光安定剤等が挙げられる。以下、これらの配合剤について、具体的に説明する。
【0072】
[粘着性付与剤]
粘着性付与剤は、本発明の発熱シートと被加熱体との粘着性を調整するために用いられる。粘着性付与剤としては、数平均分子量300~10,000の炭化水素系重合体が好ましい。粘着性付与剤としては、例えば、流動パラフィン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン、ポリ-1-オクテン、エチレン・α-オレフィン共重合体等及びその水素化物;ポリイソプレン、ポリイソプレン-ブタジエン共重合体、スチレンーイソプレン共重合体等及びその水素化物等が挙げられる。これらの中でも、特に透明性、耐光性を維持し、粘着性付与の効果に優れている観点から、低分子量のポリイソブチレン水素化物、ポリイソプレン水素化物、及び低分子量のスチレン-イソプレン共重合体水素化物が好ましい。
【0073】
樹脂シート中の粘着性付与剤の含有割合は、通常25質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。粘着性付与剤の含有割合が上記上限以下であれば、本発明の発熱シートの耐熱性の低下を防ぐことができる。
【0074】
[接着性付与剤]
接着性付与剤は、本発明の発熱シートと被加熱体との接着性を調整するために用いられる。接着性付与剤としては、例えば、1,3-ペンタジエン系石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂、スチレン・インデン系石油樹脂等の石油樹脂及びその水素化物;ビニルシラン系、エポキシシラン系、アクリルシラン系、アミノシラン系等のシランカップリング剤;等が挙げられる。
【0075】
樹脂シート中の接着性付与剤の含有割合は、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。接着性付与剤の含有割合が上記上限以下であれば、本発明の発熱シートの耐熱性の低下を抑制することができる。
【0076】
[紫外線吸収剤]
紫外線吸収剤は、本発明の発熱シートから紫外線を遮蔽するために用いられる。紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物等が使用できる。
【0077】
樹脂シート中の紫外線吸収剤の含有割合は、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。紫外線吸収剤の含有割合が上記上限以下であれば、本発明の発熱シートの透明性の低下を抑制することができる。
【0078】
[酸化防止剤]
酸化防止剤は、本発明の発熱シートの酸化を防ぐために用いられる。酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、フェノ-ル系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が使用できる。
【0079】
樹脂シート中の酸化防止剤の含有割合は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上であり、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。酸化防止剤の含有割合が上記下限以上であれば、樹脂シートの溶融成形加工時や長期保存中に、樹脂シートが劣化するのを防止することができる。また、酸化防止剤の含有割合が上記上限以下であれば、樹脂シートの透明性の低下をより抑制することができる。
【0080】
[ブロッキング防止剤]
ブロッキング防止剤は、樹脂シートのブロッキングを防止するために用いられる。ブロッキング防止剤としては、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ミリスチン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸亜鉛、リシノール酸バリウム、ベヘン酸亜鉛、モンタン酸ナトリウム、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、エチレンビスステアリン酸アマイドなどが挙げられる。
【0081】
[光安定剤]
光安定剤は、樹脂シートの耐久性を高めるために用いられる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
【0082】
樹脂シート中の光安定剤の含有割合は、通常3質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。光安定剤の含有割合が上記上限以下であれば樹脂シートの透明性の低下を十分に抑制することができる。
【0083】
なお、上述した配合剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
(樹脂シートの製造方法)
樹脂シートの製造方法としては、一般に用いられる公知の方法が適用でき、例えば、主成分としてのアルコキシシリル基含有重合体のペレット、及び、任意に、アルコキシシリル基含有重合体以外のその他の樹脂のペレット、並びに配合剤を、タンブラー、リボンブレンダー、ヘンシェルタイプミキサー等の混合機を使用して均等に混合した後、二軸押出し機等の連続式溶融混練機により溶融混合し、押出してペレット状の混合物にした後、当該混合物を溶融押し出し等することでシート状に加工する方法;主成分としてのアルコキシシリル基含有重合体のペレット、及び、任意に、アルコキシシリル基含有重合体以外のその他の樹脂のペレット、並びに配合剤を、上記と同様にして均等に混合した後、二軸押出し機等の連続式溶融混練機により溶融混合し、Tダイ等から押出してシート状に加工する方法;サイドフィーダーを備えた二軸押出し機により、主成分としてのアルコキシシリル基含有重合体、及び、任意にアルコキシリリル基重合体以外のその他の樹脂をホッパーから供給し、サイドフィーダーから配合剤を連続的に添加しながら、両者を溶融混練して押出し、シート状に加工する方法;等が挙げられる。
【0085】
<樹脂シートの厚さ>
樹脂シートの厚さは、特に制限されないが、通常0.02mm以上、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、通常5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下である。樹脂シートの厚さが上記範囲内にあれば、本発明の発熱シートを被加熱体に貼り合わせる際の作業性が良くなる。また、発熱体層で発生した熱の一部が、樹脂シートを介して発熱シートと被加熱体との貼り合せ面とは反対側の発熱シートの表面に伝達し、該表面から失われるのを抑制できるため、熱損失を低減することができる。なお、樹脂シートの厚さは均一であっても不均一であっても良い。また、樹脂シートは、凹凸パターン、エンボス形状、段差、溝形状、貫通孔等の不均一構造を有するものであっても良い。また、樹脂シートのブロッキングを防止する観点から、樹脂シートの表面にエンボス加工を施すことが好ましい。
【0086】
ここで、樹脂シートの表面に形成されるエンボスの形状は、特に限定されず、例えば、梨地形状、連続した溝形状、下に凸の四角錐状、上に凸の四角錐状、及びこれらの形状を組み合わせた形状等が挙げられる。
【0087】
<樹脂シートの熱伝導率>
そして樹脂シートの熱伝導率は、通常0.35W/(m・K)以下、好ましくは0.25W/(m・K)以下、より好ましくは0.20W/(m・K)以下である。樹脂シートの熱伝導率が小さい場合、発熱体層で発生した熱の一部が、上述のようにして被加熱体と発熱シートの貼り合せ面とは反対側の発熱シートの表面から失われていくのを低減することがきる。また、樹脂シートの熱伝導率が上記上限以下であれば、本発明の発熱シートを例えば被加熱体としてのガラス板(熱伝導率:約1.0W/(m・K))に直接的に貼り合せることで、該発熱シートを接着剤からなる接着剤層を介して間接的に貼り合せた場合と比較して、ガラス板に対し、より効率的に熱を伝達することができる。
【0088】
[発熱体層の非存在領域]
そして、樹脂シートは、発熱体層側に、発熱体層が設けられていない非存在領域を有していてもよい。このような非存在領域を有する樹脂シートとすれば、非存在領域における樹脂シートの接着性を利用して、本発明の発熱シートを被加熱体に対してより強固に接着することができる。
【0089】
ここで、樹脂シートが上記非存在領域を有する場合、非存在領域の面積は、発熱体層側の樹脂シートの全表面積に対して、好ましくは1/50以上、より好ましくは1/30以上、更に好ましくは1/20以上である。
【0090】
(c)発熱体層
発熱体層は、樹脂シートの少なくとも一方の表面上、好ましくは樹脂シートの片面上に設けられ、電圧を印加することにより発熱するものである。発熱体層は、一対の主電極に電圧を印加することにより発熱するものであれば、特に限定されるものではない。したがって、発熱体層が樹脂シートの表面全体を覆うような面状としてもよく、あるいは、発熱体層が樹脂シートを部分的に覆うような形状とすることで、樹脂シートが上記非存在領域を有する構成としてもよい。なお、樹脂シートの表面を部分的に覆う形状とは、例えば、樹脂シートの上に形成された発熱体層が、樹脂シートを平面視したときに線状、網状等の形状である場合をいう。
【0091】
そして、発熱体層としては、例えば、導電膜や、微細な導電体を含む導電体含有層を用いることができる。
【0092】
<導電膜>
導電膜としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、チタン、ニッケル等から選択される1種あるいは2種以上の金属からなる金属膜;酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物、酸化亜鉛、ガリウム亜鉛酸化物、亜鉛アルミニウム酸化物、亜鉛錫酸化物、マグネシウム亜鉛酸化物、等の金属酸化物膜;窒化ガリウム、窒化アルミニウムガリウム、等の窒化物膜;等が挙げられる。
【0093】
[導電膜の形成]
ここで、導電膜の形成方法は特に限定されず、例えばスパッタリング等により形成することができる。
【0094】
〔導電膜の膜厚〕
さらに、導電膜の膜厚は、通常0.01μm以上、好ましくは0.015μm以上、より好ましくは0.02μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。導電膜の膜厚が上記下限以上であれば、発熱体層の発熱に対する長期信頼性が良好になる。また、導電膜の膜厚が上記上限以下であれば、スパッタリングで導電膜を成膜した際に、成膜時間を短くして、生産性を向上させるとともに、低コスト化を実現することができる。
【0095】
<導電体含有層>
また、導電体含有層に含まれる微細な導電体としては、例えば、粒子状導電体、線状導電体等が挙げられる。
【0096】
[粒子状導電体]
そして、粒子状導電体としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン等の炭素粒子;銀、金、白金、銅、ニッケル、アルミニウム、チタニウム、パラジウム、ロジウム等の金属粒子;及びこれらの組み合わせからなる複合粒子;等が挙げられる。
【0097】
ここで、粒子状導電体の粒子径は、好ましくは0.003μm以上、より好ましくは0.005μm以上、更に好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下、更に好ましくは5μm以下である。粒子状導電体の粒子径が上記下限以上であれば、導電体含有層を形成する際に粒子状導電体が飛散するのを防止して、作業性を向上させることができる。また、粒子状導電体の粒子径が上記上限以下であれば、粒子状導電体を含む分散体を用いて導電性含有層を形成するときに、粒子状導電体の分散性が良好となるため、発熱体層の発熱性をより均一にすることができる。
【0098】
[線状導電体]
線状導電体としては、例えば、金属ナノワイヤー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。線状導電体のアスペクト比は、好ましくは50以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは1000以上である。線状導電体のアスペクト比が上記下限以上であれば、線状導電体を含む分散液中でそれぞれの線状導電体の接触点が増加するため、導電性効率に優れた分散液が得られる。したがって、アスペクト比が上記下限以上の線状導電体を含む分散液を用いて導電性含有層を形成すれば、発熱体層の発熱効率を向上させることができる。なお、本明細書において、線状導電体には、直線状の導電体だけではなく、曲線状の導体も含まれるものとする。
【0099】
〔金属ナノワイヤー〕
そして、金属ナノワイヤーとしては、例えば、銀、金、パラジウム、イリジウム、白金、オスミウム、ロジウム等の金属からなるワイヤーが挙げられる。
【0100】
また、金属ナノワイヤーの直径は、好ましくは0.002μm以上、より好ましくは0.005μm以上であり、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.2μm以下である。また、金属ナノワイヤーの長さは、好ましくは0.02μm以上、より好ましくは0.05μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下である。金属ナノワイヤーの直径及び長さが上記範囲内であれば、透過視認性に優れた導電体含有層を形成し易くなる。また、発熱シートを屈曲させたり、延伸させたりした場合にも、発熱シートの発熱性を維持し易い。
【0101】
〔カーボンナノチューブ〕
そして、カーボンナノチューブとしては、例えば、単層又は多層のカーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0102】
ここで、カーボンナノチューブの直径は、好ましくは0.0004μm以上、より好ましくは0.0005μm以上、さらに好ましくは0.001μm以上であり、好ましくは0.05μm以下、より好ましくは0.015μm以下、更に好ましくは0.001μm以下である。また、カーボンナノチューブの長さは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、好ましくは10,000μm以下、より好ましくは1,000μm以下である。カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であれば、透過視認性及び耐屈曲性に優れた発熱体層を形成し易くなる。また、発熱シートを屈曲させたり、延伸させたりした場合に、発熱シートの発熱性を維持し易い。なお、本明細書において、多層カーボンナノチューブの場合には、多層カーボンナノチューブの外径をカーボンナノチューブの直径とする。
【0103】
[導電体含有層の形成]
導電体含有層の形成方法は特に限定されず、例えば、導電体を分散させてなる分散体を樹脂シートの表面に塗布することで形成することができる。
【0104】
ここで、導電体を含む分散体は、導電体が分散されたものであれば特に限定されず、例えば、導電体を結着樹脂に分散させてなる分散体を用いることができる。このような分散体を用いれば、導電体同士の接触を安定させて、樹脂シートの表面上に導電体含有層を容易に形成することができる。
【0105】
そして、上記分散体が含みうる結着樹脂としては、特に限定されないが、極性官能基を有する樹脂が好ましい。極性官能基としては、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、ケトン基、ニトリル基、アミノ基、燐酸基、スルホニル基、スルホン酸基、アルコール性水酸基等などが挙げられる。結着樹脂の例として、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、デンプン、天然ガム、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0106】
上記分散体が結着樹脂を含有する場合、該結着樹脂の含有量は、導電体100質量部に対して、通常100質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。結着樹脂の含有量が上記範囲内であれば、導電体の導電性を低下させることなく、発熱性を維持し易くなる。
【0107】
<導電体含有層の厚さ>
導電体含有層の厚さは、通常0.1μm、好ましくは0.15μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。導電体含有層の厚さが上記下限以上であれば、本発明の発熱シートの発熱性が十分となる。また、導電体含有層の厚さが上記上限以下であれば、本発明の発熱シートの透過視認性を良好にすることができる。
ここで、発熱体層の表面抵抗率を小さくし、低電圧にて発熱を行うためには、導電体含有層の厚さを厚くすることが好ましいが、導電体含有層の厚さを厚くすると、発熱シートの透過視認性の指標となる光線透過率が減少する。そこで、導電体含有層の厚さは、透過視認性の観点から、発熱シートの全光線透過率が、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上となるように調整することが好ましい。なお、全光線透過率は、本明細書の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0108】
<発熱体層の表面抵抗率>
発熱体層の表面抵抗率は、温度25℃において、通常10Ω/sq.以上、好ましくは20Ω/sq.以上であり、通常1000Ω/sq.以下、好ましくは500Ω/sq.以下、より好ましくは250Ω/sq.以下である。発熱体層の表面抵抗率が上記範囲内であれば、本発明の発熱シートの透過視認性がより良好になるとともに、発熱シートの部位によらず均等な発熱性が得られる。
【0109】
なお、発熱体層は、樹脂シートの表面上に直接的に設けられていてもよく、樹脂シートの表面上に、接着剤を介して間接的に設けられていてもよい。
【0110】
(d)主電極
主電極は、発熱体層に電圧を印加するために設けられるものであり、一対の主電極(第1の主電極及び第2の主電極)より構成されている。本発明の発熱シートにおいて、一対の主電極は、発熱体層を挟んで互いに対向する位置に設けることができ、さらには発熱体層の両端部に設けることができる。
【0111】
(e)線状電極
線状電極は、一対の主電極間にて、発熱体層の面内に相互に離隔配置されてなり、且つ、発熱体層対して電気的に接続されてなるものである。ここで、複数対の線状電極は、一対の主電極のうちの第1の主電極に接続された少なくとも1つの第1の線状電極と、一対の主電極のうちの第2の主電極に電気的に接続された少なくとも1つの第2の線上電極とを含み、線状電極の電気抵抗率が10.0×10-8Ω・m以下、好ましくは6.0×10-8Ω・m以下、より好ましくは3.0×10-8Ω・m以下であれば、特に限定されるものではない。なお、本明細書において、線状電極は、長軸と短軸とを含む電極であればよく、線状電極の形状は特に限定されるものではない。
【0112】
このような線状電極として、例えば、銀(電気抵抗率:1.6×10-8Ω・m)、銅(電気抵抗率:1.7×10-8Ω・m)、金(電気抵抗率:2.4×10-8Ω・m)、アルミニウム(電気抵抗率:2.8×10-8Ω・m)、ロジウム(電気抵抗率:4.3×10-8Ω・m)、イリジウム(電気抵抗率:4.7×10-8Ω・m)、タングステン(電気抵抗率:5.6×10-8Ω・m)、モリブデン(電気抵抗率:5.3×10-8Ω・m)、亜鉛(電気抵抗率:6.0×10-8Ω・m)、ニッケル(電気抵抗率:6.9×10-8Ω・m)、黄銅(電気抵抗率:5.0×10-8Ω・m)、鉄(電気抵抗率:1.6×10-8Ω・m)、白金(電気抵抗率:9.9×10-8Ω・m)等の金属からなる金属線を用いることができる。あるいは、上述した金属からなる金属粒子を少量のバインダーでインキ化してなる導電ペーストを用いて描画パターンを形成し、得られた導電ペースト形成物を線状電極としてもよい。中でも、コスト面と電気抵抗率の観点から、金属線として銅線を用いることが好ましい。また、線状電極の描画パターンの形成し易さと電気抵抗率の観点から、導電ペーストとしては銀ペーストを用いることが好ましい。
【0113】
ここで、上記金属線もしくは導電ペースト形成物の断面積は、通常75μm2以上、好ましくは300μm2以上、より好ましくは675μm2以上であり、通常30000μm2以下、好ましくは7500μm2以下、より好ましくは1875μm2以下である。金属線もしくは導電ペースト形成物の断面積が上記範囲内であれば、線状電極自体の電気抵抗率が十分に小さくなる。また、透過視認性が良好な発熱シートが得られ易くなる。
【0114】
複数対の線状電極の間隔は、特に限定されないが、好ましくは、0.5cm以上、より好ましくは3cm以上であり、好ましくは10cm以下、より好ましくは5cm以下である。複数対の線状電極の間隔が上記下限以上であれば、発熱体層の上に線状電極を形成し易くなる。また、複数の線状電極の間隔が上記上限以下であれば、発熱シートの供給電圧の上昇が抑えられ、発熱性がより一層優れたものとなる。
【0115】
線状電極は、接着剤を用いて発熱体層の上に固定してもよい。その際、接着剤として、例えば、一般に使用されている接着剤を用いることができる。また、導電ペーストを用いて線状電極を形成する方法は特に限定されず、例えば、シルクスクリーン印刷、アプリケーターでの描画などが挙げられる。なお、樹脂シートが上述した非存在領域を有する場合、非存在領域の上に重なった線状電極については、接着剤を用いずに、線状電極を樹脂シートの表面に熱圧着することにより固定してもよい。
【0116】
(f)発熱シート
本発明における発熱シートは、少なくとも上述した樹脂シートと、発熱体層と、一対の主電極と、複数の線状電極とを備え、複数の線状電極のそれぞれが上述したように一対の主電極の第1の主電極及び第2の主電極のいずれかに接続されており、且つ、線状電極の電気抵抗率が上述した上限値以下であれば、さらに他の構成部材を備えるものであってもよい。
【0117】
したがって、例えば、発熱シートが、発熱体層の最表面に樹脂層を更に備える構成としてもよい。このような構成とすれば、発熱シートを被加熱体に貼り合せたときに、発熱シートと被加熱体との間を絶縁することができる。ここで、樹脂層は、例えば樹脂組成物等を用いて形成することができる。そして、樹脂組成物としては、特に限定されず、例えば、本発明の樹脂シートと同様の成分からなる樹脂層としてもよい。
【0118】
<全光線透過率>
本発明の発熱シートは、透過視認性を有していてもよい。発熱シートが透過視認性を有していれば、発熱シートをガラスや透明な樹脂板等の透明な被加熱体に貼り合せた場合でも、好適に使用することができる。発熱シートが透過視認性を有する場合、発熱シートの透過視認性の指標となる全光線透過率は、発熱シートの厚さ方向において、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。
なお、全光線透過率は、JIS K7375:2008(プラスチック-全光線透過率及び全光線反射率の求め方)に準拠して測定することができる。
【0119】
<剥離強度>
本発明の発熱シートは、該発熱シートの発熱体層が被加熱体の表面と接するようにして接着した場合、発熱シートと被加熱体との接着面の剥離強度は、好ましくは4N/cm以上、より好ましくは8N/cm以上である。剥離強度が上記下限以上であれば、本発明の発熱シートを貼り合せた被加熱体としてのガラスが衝撃によって割れた際、ガラス破片の飛散を低減することができる。
なお、剥離強度は、JIS K6854-2(接着剤-はく離接着強さ試験方法)に準拠して測定することができる。
【0120】
本発明の発熱シートによれば、発熱シートの発熱体層が被加熱体に接するようにして貼り合わせることで、被加熱体に熱を効率的に伝達することができる。本発明の発熱シートは、例えば、自動車等の窓ガラスの凍結防止用の発熱シート、窓ガラスや鏡等の結露防止用の発熱シート、電気自動車の暖房用面状発熱シート、電子機器用の発熱シート、電池の加熱用発熱シート、床暖房システム用の発熱シート等として好適に使用することができる。
【0121】
以下、本発明の第1及び第2の実施形態に係る発熱シートについて、図を用いて説明する。なお、本発明の発熱シートは、以下の実施形態に示す構成に限定されるものではない。
【0122】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る発熱シートの概略構成を示す平面図である。図2は、図1に対応する図であって、図1に示したA-A線の断面図である。
【0123】
図1及び図2を参照して説明すると、発熱シート1は、樹脂シート2と、樹脂シート2の表面上に設けられた発熱体層3と、発熱体層3の上に設けられた第1の主電極4及び第2の主電極5と、発熱体層3の上に設けられた第1の線状電極6及び第2の線状電極7とを備えている。第1の線状電極6及び第2の線状電極7は、それぞれ第1の接続部8及び第2の接続部9を介して第1の主電極4及び第2の主電極5に電気的に接続されている。これにより、第1の線状電極6及び第2の線状電極は、発熱体層3に対して電気的に接続された構成となっている。
【0124】
このような構成において、第1の主電極4及び第2の主電極5に電圧を印加すると、発熱体層3が発熱するとともに、発熱体層3に対して電気的に接続された第1の線状電極6及び第2の線状電極7も発熱する。そのため、発熱シート1によれば、第1の主電極4及び第2の主電極5の近傍領域だけでなく、発熱シート1の内方も効率良く発熱させることができる。したがって、発熱シート1によれば、発熱シート1を表面積が大きい被加熱体(図示せず)に貼り合せた場合でも、第1の主電極4及び第2の主電極5に高い電圧を印加することなく、被加熱体に熱を効率的に伝達することができる。具体的には、発熱シート1によれば、窓ガラスや自動車ガラス等の表面積の大きい被加熱体に貼り合せた場合でも、第1の主電極4と第2の主電極5との間12V以上の高い電圧を印加する必要なく、熱を被加熱体へと効率良く伝達することができる。
【0125】
より具体的には、例えば、発熱シートの大きさが、該発熱シートを貼り合せるガラス(縦:90cm、横;150cm、厚さ;0.1cm)の大きさに合うように調整し、さらに、該発熱シートの縦方向上下に、90cmの間隔で相互に離隔配置された一対の主電極を設け、主電極間の発熱体層の面内に6本以上62本以下の線状電極を、主電極に対して平行に配置してなる発熱シートを、縦90cm、横150cm、厚さ0.1cmのガラス板に対し発熱体層が対向するように貼り合せた場合、上記一対の主電極間に12Vの電圧を印加することで、ガラス板の表面温度を周囲の温度(室温:25℃)よりも10℃以上高く、且つ、均一に加熱することができる。
【0126】
<第2の実施形態>
図3は、本発明の第2の実施形態に係る発熱シートの概略構成を示す平面図である。なお、第1の実施形態で説明した構成部材と同じ構成部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0127】
図3を参照して説明すると、発熱シート11は、樹脂シート2と、発熱体層3と、第1の主電極4及び第2の主電極5と、第1の線状電極6及び第2の線状電極7とを覆う樹脂層21を備えている。このような構成にすれば、発熱シート11を被加熱体(図示せず)に貼り合せたときに、発熱シート11と被加熱体との間を絶縁させることができる。なお、図3では、樹脂層21が発熱シート2を覆う構成としているが、樹脂層21が少なくとも第1の主電極4及び第5の主電極、並びに、第1の線状電極6及び第2の線状電極7を覆う構成としてもよい。
【0128】
なお、上述した実施形態では、第1の線状電極および第2の線状電極がそれぞれ1つずつの構成について説明したが、これに限定されず、例えば、本発明の第3の実施形態として、図4に示すように、発熱シート41は、複数の第1の線状電極6および複数の第2の線状電極7が、それぞれ、接続部8および接続部9を介して主電極4および主電極5に電気的に接続された構成としてもよい。
【0129】
また、上述した各実施形態では、第1の線状電極及び第2の線状電極が、それぞれ接続部を介して第1の主電極および第2の主電極に電気的に接続された構成としているが、これに限定されず、第1の線状電極および第2の線状電極は、それぞれが接続部を介さずに第1の主電極および第2の主電極に直接的に接続された構成としてもよい。
【0130】
具体的には、例えば、本発明の第4の実施形態として、図5に示すように、発熱シート51は、複数の第1の線状電極6および複数の第2の線状電極7のそれぞれが、第1の主電極4および第2の主電極5に対して直接的に接続された構成としてもよい。
【0131】
また、第1の線状電極および第2の線状電極の形状は、上述した形状に限定されない。例えば、本発明の第5の実施形態として、図6に示すように、発熱シート61は、第1の線状電極6および第2の線状電極7のそれぞれが、平面視渦巻き状になるようにして配置された構成としてもよい。
【0132】
(g)発熱シートの製造方法
本発明の発熱シートの製造方法は特に限定されず、例えば、樹脂シート形成工程と、発熱体層を形成する発熱体層形成工程と、主電極を形成する主電極形成工程と、線状電極を形成する線状電極形成工程とを含み、任意に、更に、樹脂層を形成する樹脂層形成工程を含み得る。
【0133】
<樹脂シート形成工程>
樹脂シート形成工程では、本発明の発熱シートの項で説明したアルコキシシリル基含有重合体を主成分とする樹脂をシート状に成形して樹脂シートを得ることができる。その際、アルコキシシリル基含有重合体を主成分とする樹脂をシート状に成形する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0134】
<発熱体層形成工程>
発熱体層形成工程では、上述のようにして得られた樹脂シートの少なくとも一方の表面上に、本発明の発熱シートの項で説明した発熱体層を形成する。ここで、発熱体層は、例えば、粒子状導電体又は線状導電体を含む導電体含有組成物を発熱体層の上に塗布及び乾燥し、得られた導電体含有層を発熱体層として用いることができる。あるいは、例えばスパッタリング等によって発熱体層上に金属膜を形成し、得られた金属膜を発熱体層として用いてもよい。
【0135】
ここで、上記導電体含有組成物としては、例えば、本発明の発熱シートの項で説明した導電体及び接着樹脂を含む組成物を用いてもよい。その際、導電体及び接着樹脂の種類及び使用量は、本発明の発熱シートの項で説明したものと同じとすることができる。
【0136】
そして、上記導電体含有組成物を樹脂シートの上に塗布する方法としては、特に限定されず、例えばバーコーター法等の公知を用いることができる。また、塗布された導電体含有組成物を乾燥する方法は、特に限定されず、公知の方法で乾燥すればよい。
【0137】
<主電極形成工程>
主電極形成工程では、例えば、発熱体層の上であって該発熱体層の両端部に、本発明の発熱シートの項で説明した一対の主電極を形成する。ここで、主電極の形成方法は特に限定されず、例えば発熱体層の上に銀等を含む金属ペーストを公知の方法で塗布及び乾燥して形成することができる。
【0138】
<線状電極形成工程>
線状電極形成工程では、一対の主電極間であって発熱体層の面内に、例えば、複数の線状電極を主電極と平行に配置し、各線状電極を一対の主電極のうちの第1の主電極又は第2の主電極のいずれかに対して電気的に接続する。ここで、線状電極と主電極との接続方法は特に限定されず、例えば、線状電極と主電極との間に銅箔等を介在させて、線状電極及び銅箔の接続、並びに、主電極及び銅箔を、上述した銀ペースト等の導電ペーストを用いて接続することができる。なお、樹脂シートが本発明の発熱シートの項で説明した非存在領域を有する場合には、発熱体層の上に形成された線状電極の一部が樹脂シートの非存在領域に重なっていてもよい。
【0139】
<樹脂層形成工程>
樹脂層形成工程では、発熱体層の最表面に樹脂層を形成する。ここで、樹脂層の形成方法は特に限定されず、例えば樹脂組成物を発熱体層に公知の方法で塗布及び乾燥することで形成することができる。その際用いる樹脂組成物は、特に限定されず、例えば、樹脂シート形成工程で用いた樹脂と同様のものを使用してもよい。
【0140】
(h)積層体
本発明の積層体は、上述した本発明の発熱シートと、被加熱体とを少なくとも備え、発熱シートの発熱体層の表面に被加熱体が積層されてなるものである。
【0141】
<被加熱体>
本発明の積層体が備える被加熱体は、特に限定されず、例えば、ガラス、セラミックス及び樹脂からなる群より選択される少なくとも1種から構成することができる。
【0142】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法は、特に限定されず、例えば、本発明の発熱シートを上述した方法によって製造し、得られた発熱シートの発熱体層の表面に対して、被加熱体の表面を接着する方法等を採用することができる。あるいは、得られた発熱シートの発熱体層の表面に樹脂層を重ねて、その上に被加熱体の表面を接着してもよい。なお、接着方法は特に限定されず、例えば熱溶着、接着剤を用いた接合等が挙げられる。
【0143】
ここで、発熱体層が本発明の発熱シートの項で説明した結着樹脂を含む導電体含有層からなる場合には、導電体組成物中の結着樹脂を利用して、発熱体層の表面に対して被加熱体の表面を直接的に接着することができる。
【0144】
また、樹脂シートが本発明の発熱シートの項で説明した非存在領域を有する場合には、該被存在領域に位置する樹脂シートの成分を利用して、発熱体層の表面に対して被加熱体の表面を直接的に接着することができる。
【0145】
さらに、発熱体層の表面と被加熱体との表面とを公知の接着剤等を用いて接着することで、発熱体層の表面と被加熱体との表面が接着剤等からなる接着層を介して間接的に接着されたものとしてもよい。
【0146】
本発明の発熱シートは、特に限定されず、例えば、ガラス間に用いる中間膜、保温容器等として好適に使用することができる。
【実施例
【0147】
以下に実施例を示しながら、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
また、複数種類の化合物を共重合して調製される重合体において、ある化合物に由来する構造単位の当該重合体全体に占める質量分率は、別に断らない限り、通常、その重合体の調製時に重合する全化合物の総質量に占める当該ある化合物の質量の比率(仕込み比)と一致する。
【0148】
本実施例における測定及び評価は、以下の方法によって行った。
【0149】
(1)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
ブロック共重合体[C]及びブロック共重合体水素化物[D]の分子量は、THFを溶離液とするGPCによる標準ポリスチレン換算値として40℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8320GPCを用いた。
【0150】
(2)水素化率
ブロック共重合体水素化物[D]の、鎖状共役ジエンに由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率、芳香族ビニル化合物の芳香環に由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、ブロック共重合体[C]及びブロック共重合体水素化物[D]の1H-NMRを測定して算出した。
【0151】
(3)waとwbとの重量分率の比(wa:wb)
ブロック共重合体[C]において、全重合体ブロック[A]がブロック共重合体全体に占める重量分率をwaとし、全重合体ブロック[B]がブロック共重合体全体に占める重量分率をwbとしたときの、waとwbとの重量分率の比(wa:wb)は、重合体ブロック[A]及び重合体ブロック[B]の1H-NMRを測定して算出した。
【0152】
(4)発熱体層の表面抵抗率の測定
発熱体層の表面抵抗率は抵抗率計(ロレスタ-GX MCP-T700、 三菱ケミカルアナリテック社製)にESPプローブを接続し、4端子法によって測定した。
【0153】
(5)発熱性試験
シート体に設けられた主電極間に青板ガラス(長さ:30cm、幅:30cm、厚さ:1mm)を重ね、オートクレーブで加熱加圧(140℃、0.8MPa、30分)して、シート体を青板ガラスに貼り付けた。
次いで、一対の主電極間に12Vの電圧を印加して、シート体が貼り合わされた側とは反対側の青板ガラスの表面温度を、非接触型表面温度計を用いて測定した。
なお、実施例3の場合のみ、上記青板ガラスに替えて、コロナ放電処理したポリカーボネート製シート(品番:パンライトPC1152、帝人社製、長さ:30cm、幅:30cm、厚さ:1mm)を使用した。
シート体の発熱性については、青板ガラス又はポリカーボネートシートの表面温度と、周囲の温度(室温:25℃)との差が10℃以上である場合、発熱性を良好、その差が10℃未満である場合、発熱性を不良と評価した。
【0154】
(6)接着性試験
シート体から長さ20cm、幅4cmのシート体試験片を切り出した。得られたシート体試験片と青板ガラス(長さ:15cm、幅:4cm、厚さ:2mm)とを、シート体試験片と青板ガラスとの間の一部に非接触部位を設けた状態で重ね合わせて積層物を得た。
得られた積層物を、透明レトルト用包装袋(ポリエチレンテレフタレートフィルム12μm/ナイロンフィルム15μm/ポリプロピレンフィルム60μm)に入れ、真空包装機(T-100、日本真空包装機械社製)を使用して、袋内を脱気しながら開口部をヒートシールして、積層物を密封包装した。その後、密封包装した積層物をオートクレーブに入れて、温度120~140℃、圧力0.8MPaで30分間処理して、シート体試験片と青板ガラスとを貼り合せた。
青板ガラスに貼り合せたシート体試験片のシート面に20mm幅の切り目を入れ、オートグラフ(島津製作所製、AGS-X)を使用して、シート体試験片と青板ガラスとの間に設けた非接触部位から、剥離速度50mm/分で、180度剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
なお、実施例3の場合のみ、上記青板ガラスに替えて、コロナ放電処理したポリカーボネート製シート(品番:パンライトPC1152、帝人社製、長さ:15cm、幅:4cm、厚さ:0.5mm)を使用した。
シート体の接着性については、剥離強度が4N/cm以上の場合を良好、4N/cmを下回る場合を不良と評価した。
【0155】
(7)透過視認性試験
シート体を2枚の白板ガラス(幅:50mm、長さ:50mm、厚さ:1.0mm)もしくはポリカーボネート板(品番:パンライトPC1151、帝人社製、幅:50mm、長さ:50mm、厚さ:1.0mm)の間に挟み、真空ラミネータ(PVL0202S、日清紡メカトロニクス社製)を使用して、温度140℃で、5分間真空脱気した後、10分間真空加圧成形して、光線透過率測定用の試験片を作成した。得られた試験片について、JIS K7375:2008に準拠して、全光線透過率を測定した。
シート体の透過視認性については、全光線透過率が50%以上の場合を良好、50%を下回る場合を不良と評価した。
【0156】
[製造例1]樹脂シート(1)の製造
<ブロック共重合体[C1])>
攪拌装置を備え、内部が十分に窒素置換された反応器に、脱水シクロヘキサン400部、脱水スチレン10部及びジブチルエーテル0.475部を入れた。全容を60℃で攪拌しながら、n-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.88部を加えて重合を開始させた。引続き全容を60℃で攪拌しながら、脱水スチレン15部を40分間に亘って連続的に反応器内に添加して重合反応を進め、添加終了後、そのままさらに60℃で20分間全容を攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィー(GC)により測定したところ、この時点での重合転化率は99.5%であった。
次に、反応液に、脱水イソプレン50.0部を130分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま30分間攪拌を続けた。この時点で、反応液をGCにより分析した結果、重合転化率は99.5%であった。
その後、更に、反応液に脱水スチレン25.0部を、70分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま60分攪拌した。この時点で、反応液をGCにより分析した結果、重合転化率はほぼ100%であった。
【0157】
ここで、イソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させることによって、[A]-[B]-[A]型のブロック共重合体[C1]を含む重合体溶液を得た。ブロック共重合体[C1]の重量平均分子量(Mw)は47,200、分子量分布(Mw/Mn)は1.34、waとwbとの重量分率の比(wa:wb)は50:50であった。
【0158】
<ブロック共重合体水素化物[D1]>
次に、上記の重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒として、珪藻土担持型ニッケル触媒(製品名「E22U」、ニッケル担持量60%、日揮触媒化成社製、)4.0部、及び脱水シクロヘキサン30部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度190℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行った。
水素化反応により得られた反応溶液に含まれるブロック共重合体水素化物[D1]の重量平均分子量(Mw)は49,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.36であった。
【0159】
水素化反応終了後、反応溶液を濾過して水素化触媒を除去した後、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリトール・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](製品名「Songnox(登録商標)1010」、松原産業社製)0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加して溶解させた。
次いで、円筒型濃縮乾燥器(製品名「コントロ」、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、上記溶液から、シクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去した。溶融ポリマーをダイからストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーによりブロック共重合体水素化物[D1]のペレット95部を作製した。
得られたペレット状のブロック共重合体水素化物[D1]の重量平均分子量(Mw)は49,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.40、鎖状共役ジエンに由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率、並びに、芳香族ビニル化合物の芳香環に由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、いずれもほぼ100%であった。
【0160】
(アルコキシシリル基含有重合体[1])
得られたブロック共重合体水素化物[D1]のペレット100部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.0部及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(製品名「パーヘキサ(登録商標)25B」、日油社製、)0.1部を添加した。混合物を、二軸押出機を用いて、混練温度230℃、混練時間70~90秒で混練し、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、ブロック共重合体水素化物[D1]にアルコキシシリル基を導入して、アルコキシシリル基含有重合体[1]のペレット96部を得た。
【0161】
得られたアルコキシシリル基含有重合体[1]のペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解した後、脱水メタノール400部中に注いで、アルコキシシリル基含有重合体を凝固させ、凝固物を濾取した。濾過物を25℃で真空乾燥して、アルコキシシリル基含有重合体[1]のクラム9.0部を単離した。
アルコキシシリル基含有重合体[1]のクラムのFT-IRスペクトルを測定したところ、1090cm-1にSi-OCH3基、825cm-1と739cm-1にSi-CH2基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのSi-OCH3基、Si-CH2基に由来する吸収帯(1075cm-1、808cm-1及び766cm-1)と異なる位置に観察された。
また、アルコキシシリル基含有重合体[1]の1H-NMRスペクトル(重クロロホルム中)を測定したところ、3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づくピークが観察され、ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[D1]100部に対してビニルトリメトキシシラン1.8部が結合したことが確認された。
【0162】
<樹脂シート[1]>
上記のようにして得たアルコキシシリル基含有重合体[1]のペレット100部に対して、紫外線吸収剤としての2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール(住友化学社製、製品名「SUMISORB(登録商標)300」)0.3部を配合し、得られた混合物を、37mmφのスクリューを備えた二軸混練機(東芝機械社製、TEM37B)を有するTダイ式フィルム溶融押出し成形機(Tダイ幅400mm)、キャストロール(エンボスパターン付き)及びシート引き取り装置を備えた押出しシート成形機を使用して、溶融温度200℃、Tダイ温度200℃、キャストロール温度60℃の条件にて押出し成形し、アルコキシシリル基含有重合体[1]を主成分とする樹脂シート[1](厚さ:0.76mm、幅:330mm、熱伝導率:0.17W/(m・K))を製造した。
【0163】
[製造例2]樹脂シート[2]の製造
<ブロック共重合体[C2]>
製造例1と同様の反応器を使用し、脱水シクロヘキサン400部、脱水スチレン10部及びジブチルエーテル0.475部を入れた。全容を60℃で攪拌しながら、n-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.68部を加えて重合を開始させた。引続き全容を60℃で攪拌しながら、脱水スチレン10部を25分間に亘って連続的に反応器内に添加して重合反応を進め、添加終了後、そのままさらに60℃で20分間全容を攪拌した。反応液をGCにより測定したところ、この時点での重合転化率は99.5%であった。
次に、反応液に、脱水イソプレン60.0部を150分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま30分間攪拌を続けた。この時点で、反応液をGCにより分析した結果、重合転化率は99.5%であった。
その後、更に、反応液に脱水スチレン20.0部を、50分間に亘って連続的に添加し、添加終了後そのまま60分攪拌した。この時点で、反応液をGCにより分析した結果、重合転化率はほぼ100%であった。
【0164】
ここで、イソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させることによって、[A]-[B]-[A]型のブロック共重合体[C2]を含む重合体溶液を得た。ブロック共重合体[C2]の重量平均分子量(Mw)は61,600、分子量分布(Mw/Mn)は1.35、waとwbとの重量分率の比(wa:wb)は40:60であった。
【0165】
<ブロック共重合体水素化物[D2]>
次に、上記の重合体溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒として、トルエン1.0部中で、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド0.042部とジエチルアルミニウムクロライド0.122部を混合した溶液を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、更に溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度90℃、圧力1.0MPaにて5時間水素化反応を行った。
水素化反応後のブロック共重合体水素化物[D2]の重量平均分子量(Mw)は62,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.35であった。
【0166】
水素化反応終了後、反応溶液に水0.10部を添加して、60℃で60分間攪拌した。その後、30℃以下まで冷却し、活性白土(製品名「ガレオンアース(登録商標)」、水澤化学工業社製)1.5部及びタルク(製品名「ミクロエース(登録商標)」、日本タルク社製)1.5部を添加して、反応溶液を濾過ろ過して不溶物を除去した。濾過された溶液にフェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.1部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させた。
次いで、製造例1と同様にして、ブロック共重合体水素化物[D2]のペレット92部を作製した。
得られたペレット状のブロック共重合体水素化物[D2]の重量平均分子量(Mw)は62,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.35、鎖状共役ジエン化合物に由来する主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は99%、芳香族ビニル化合物の芳香環に由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率は5%未満であった。
【0167】
(アルコキシシリル基含有重合体[2])
ブロック共重合体水素化物[D1]のペレットに替えて、ブロック共重合体水素化物[D2]のペレットを使用したこと以外は、製造例1と同様にして、アルコキシシリル基含有重合体[2]のペレット96部を得た。
【0168】
得られたアルコキシシリル基含有重合体[2]について、製造例1と同様にして分析した結果、ブロック共重合体水素化物[D2]100部に対してビニルトリメトキシシラン1.8部が結合したことが確認された。
【0169】
<樹脂シート[2]>
アルコキシシリル基含有重合体[1]に替えてアルコキシシリル基含有重合体[2]を使用し、溶融温度190℃、Tダイ温度190℃、キャストロール温度40℃の条件に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、アルコキシシリル基含有重合体[2]を主成分とする樹脂シート[2](厚さ:0.76mm、幅:330mm)を製造した。
【0170】
[製造例3]樹脂シート[3]の製造
<アルコキシシリル基含有重合体[3]>
市販の低密度ポリエチレン(製品名「ノバテック(登録商標) LF342M1」、融点113℃、日本ポリエチレン社製)のペレット100質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン1.5部及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.15部を添加し、混合した。この混合物を、二軸押出機(製品名「TEM37B」、東芝機械社製)を用いて、混練温度200℃、混練時間80~90秒で混練しながら、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーで切断して、アルコキシシリル基含有樹脂[3]のペレット97部を得た。
【0171】
得られたアルコキシシリル基含有重合体[3]のFT-IRスペクトルを測定したところ、1090cm-1にSi-OCH3基、825cm-1と739cm-1にSi-CH2基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのSi-OCH3基、Si-CH2基に由来する吸収帯(1075cm-1、808、766cm-1)と異なる位置に観察された。このことから、得られたアルコキシリル基含有樹脂[3]はメトキシシリル基を有することが確認された。
【0172】
<樹脂シート[3]>
アルコキシシリル基含有重合体[1]に替えて、アルコキシシリル基含有重合体[3]を使用し、溶融温度190℃、Tダイ温度190℃、キャストロール温度40℃の条件に変えたこと以外は、製造例1と同様にして、アルコキシシリル基含有重合体[3]を主成分とする樹脂シート[3](厚さ:0.20mm、幅:330mm)を製造した。
【0173】
[実施例1]
製造例1で製造した樹脂シート[1]から長さ35cmの樹脂シート[1]を準備した。樹脂シート[1]の一方の表面上の中央部(長さ:32cm、幅:30cm)の領域に、導電性水性インク(品番:SWeNT AC200、Merck KGaA社製、SWCNT 1.00mg/mL、直径:0.7~1.4nm、平均長さ:1μm)を、バーコーターを用いて塗布した後、オーブン中、100℃で乾燥して発熱体層[1]を形成した。得られた発熱体層[1]の表面抵抗率は200Ω/sq.であった。
【0174】
発熱体層[1]の長手方向の両端部の表面上に、銀ペーストを用いて主電極(長さ:30cm、幅:1cm)を1つずつ配置した。その際、主電極間の発熱体層の長さを30cmにした。
主電極間の発熱体層[1]の上に、線状電極[1]として10本の銅線(線径:50μm)を主電極と平行に幅30cmに亘って等間隔に配置し、粘着テープで仮止めした。2つの主電極のそれぞれから銅箔(厚さ:50μm、幅:5mm)を樹脂シート[1]の長手方向に沿うように延伸して仮止めした。銀ペーストを用いて、上記10本の銅線を発熱体層上に接合するとともに、それぞれの上記銅箔に互い違いに接続して、銅線と銅箔とが櫛状に接続されるようにした。
【0175】
樹脂シート[1]の上に、発熱体層[1]と、線状電極[1]と、銅箔とが積層されてなる積層物をポリプロピレン製の袋に密封包装し、密封包装した積層物をオートクレーブで加熱加圧した(加熱温度:100℃、加圧:0.8MPa、加熱時間:10分)。加熱加圧後、仮止めしていた粘着テープを除去し、発熱体層[1]、線状電極[1]及び銅箔が固定されたシート体(発熱シート)[1]を得た。
【0176】
得られたシート体[1]を用いて、発熱性試験、接着性試験、及び透過視認性試験を行った。その結果、青板ガラスの表面温度(39℃)と周囲の温度(室温25℃)との差は14℃、剥離強度は11N/cmであり、発熱体層を含む領域の全光線透過率は81%であり、シート体[1]の発熱性、接着性、及び透過視認性はいずれも良好であった。
【0177】
[実施例2]
製造例2で製造した樹脂シート[2]から長さ35cmの樹脂シート[2]準備した。樹脂シート[2]の一方の表面上の中央部に(長さ:32cm、幅:30cm)スパッタリング領域を設けるとともに、スパッタリング領域以外にマスキングテープを貼り、スパッタリング領域以外がスパッタリングの影響を受けないように保護した。
【0178】
上記スパッタリング領域の上に、2極マグネトロンスパッター装置(日本真空技術社製、製品番号「SPW-020」)を用いてスパッタリングを行った。スパッタリング条件を以下の通りとした。
電源:高周波13.56MHz
スパッタリング温度:50℃
ターゲット:In23/SnO2=90/10(質量%)の合金ターゲット
流入ガス:Arガス
スパッタリング圧力:1×10-2Torr
RF出力:50W
スパッタリング速度:25nm/分
【0179】
スパッタリングの終了後、マスキングテープを除去し、スパッタリング領域の上に、ITOからなる透明な発熱体層[2]を得た。得られた発熱体層[2]の膜厚は150nm、表面抵抗率は70Ω/sq.であった。
【0180】
主電極間の発熱体層[2]の上に、線状電極[2]として6本の銅線(線径:50μm)を、主電極間の発熱体層上に4.3cmの間隔で配置した。次いで、銀ペーストを用いて配置された銅線を発熱体層の上に固定した。それ以外は実施例1と同様の操作を行うことで、樹脂シート[2]と、発熱体層[1]と、線状電極と、銅箔とを備えた積層物[2]を得た。
【0181】
得られた積層物[2]の上に、発熱体層[2]、線状電極[2]、及び銅線を覆うようにして、樹脂層(幅:33cm、長さ:30cm、厚さ:0.1mm)を重ねた。この際、樹脂層として、樹脂シート[1]と同じ成分からなる樹脂層を用いた。樹脂層を重ねた後、オートクレーブで加熱加圧を行った(加熱時間:125℃、加圧:0.8MPa、加熱時間:30分)。加熱加圧後、シート体(発熱シート)[2]を得た。
【0182】
得られたシート体[2]を用いて、実施例1同様にして発熱性試験、接着性試験、及び視認透過性試験を行った。その結果、青板ガラスの表面温度(40℃)と周囲の温度(室温:25℃)との差は15℃、剥離強度は19N/cmであり、発熱体層を含む全光線透過率は87%であり、シート体[2]の発熱性、接着性、及び透過視認性はいずれも良好であった。
【0183】
[実施例3]
実施例1で作成したシート体(発熱シート)[1]を使用した。そして、発熱性試験において、青板ガラスに替えてポリカーボネート製シートを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、発熱性試験、接着性試験、及び透過視認性試験を行った。その結果、ポリカーボネート製シートの表面温度(46℃)と周囲の温度(室温:25℃)との差は21℃、剥離強度は9N/cmであり、発熱体層を含む全光線透過率は82%であり、シート体[1]の発熱性、接着性及び透過視認性は良好であった。
【0184】
[実施例4]
樹脂シート[1]に替えて、製造例3で製造した樹脂シート[3]を使用したこと以外は実施例1と同様にして、シート体(発熱シート)[4]を作成した。得られたシート体[4]について、実施例1と同様にして、発熱性試験、接着性試験、及び透過視認性試験、並びにシート体[4]の発熱体層[4]の表面抵抗率を測定した。その結果、青板ガラスの表面温度(38℃)と周囲の温度(室温:25℃)との差は13℃、剥離強度は13N/cmであり、発熱体層を含む全光線透過率は71%であり、シート体[4]の発熱性、接着性、及び透過視認性は、いずれも良好であった。また、発熱体層[4]の表面抵抗率は200Ω/sq.であった。
【0185】
[比較例1]
発熱体層[1]の上に線状電極[1]を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、シート体[C1]を作製した。得られたシート体[C1]について、実施例1と同様にして発熱性試験、接着性試験、及び透過視認性試験、並びに発熱体層[1]の表面抵抗率を行った。その結果、剥離強度は11N/cm、発熱体層を含む全光線透過率は81%となり接着性及び透過視認性は良好であったものの、青板ガラスの表面温度は25℃であり、周囲の温度(室温:25℃)変わらず、シート体[C1]の発熱性は不良であった。
【0186】
[比較例2]
樹脂シート[1]の表面上に発熱体層[1]及び線状電極[1]を設けなかったこと、及び、銅線に替えてニクロム線(線径:0.2mm、長さ:30cm)4本を、7.5cm間隔で配置したこと以外は、実施例1と同様にして、シート体[C2]を作製した。得られたシート体[C2]について、実施例1と同様にして発熱性試験、接着性試験、及び透過視認性試験を行った。その結果、剥離強度は21N/cm、全光透過率は81%となり、接着性及び透過視認性は良好であった。しかしながら、青板ガラスの表面温度は、ニクロム線の配置された場所では50℃であったが、ニクロム線の線間では26℃あり、シート体[C1]による均一な発熱性を確保できず、発熱性は不良であった。
【0187】
[比較例3]
発熱体層[2]の上に線状電極[2]を設けなかったこと以外は実施例2と同様にして、シート体[C3]を作製した。得られたシート体[C3]について、実施例2と同様にして発熱性試験、接着性試験、及び透過視認性試験、並びに発熱体層[1]の表面抵抗率を行った。その結果、剥離強度は19N/cm、全光透過率は87%となり接着性及び透過視認性は良好であったものの、青板ガラスの表面温度は25℃であり、周囲の温度(室温:25℃)と変わらず、シート体[C3]の発熱性は不良であった。
【0188】
実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0189】
【表1】
【0190】
実施例及び比較例の結果から以下のことがわかる。
樹脂シートの表面上に、本発明で規定する発熱体層及び線状電極を設けることで、発熱性に優れたシート体(発熱シート)が得られる(実施例1~4)。
これに対し、発熱体層の上に本発明で規定する線状電極を設けなかった場合(比較例1、3)、及び、樹脂シートの表面上に本発明で規定する発熱体層及び線状電極を設けなかった場合(比較例2)には、得られるシート体の発熱性は不良になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明によれば、発熱性に優れた発熱シートと該発熱シートを備えた積層体が提供される。
【符号の説明】
【0192】
1,11,41,51,61 発熱シート
2 樹脂シート
3 発熱体層
4 第1の主電極
5 第2の主電極
6 第1の線状電極
7 第2の線状電極
8,9 接続部
21 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6