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特許7476544色素増感型太陽電池用色素液および色素増感型太陽電池用光電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】色素増感型太陽電池用色素液および色素増感型太陽電池用光電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
H01G9/20 113Z
H01G9/20 113B
H01G9/20 113D
H01G9/20 113C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020014089
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120995
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】成田 智幸
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-186669(JP,A)
【文献】特開2009-205818(JP,A)
【文献】特開2005-097561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H10K 30/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増感色素、共吸着剤、増粘剤、および溶媒を含む色素増感型太陽電池用色素液であって、
前記溶媒が、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
前記溶媒中に占める前記脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドの合計量が70体積%以上であり、
前記増感色素の濃度が6mmol/L以上である、色素増感型太陽電池用色素液。
【請求項2】
前記増粘剤の濃度が、0.5質量%以上25質量%以下である、請求項に記載の色素増感型太陽電池用色素液。
【請求項3】
前記増粘剤が、炭素原子、水素原子および酸素原子のみからなる重合体、炭素原子および水素原子のみからなる重合体、ならびにそれらの重合体の末端が修飾されてなる重合体から選択される少なくとも1つである、請求項またはに記載の色素増感型太陽電池用色素液。
【請求項4】
前記増粘剤が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、末端修飾ポリエチレングリコール、および末端修飾ポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項またはに記載の色素増感型太陽電池用色素液。
【請求項5】
前記溶媒が、イソホロン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンズアルデヒド、o-トルアルデヒド、p-トルアルデヒドおよびp-アニスアルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~の何れかに記載の色素増感型太陽電池用色素液。
【請求項6】
増感色素、共吸着剤、および溶媒を含む色素増感型太陽電池用色素液であって、
前記溶媒が、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
前記溶媒中に占める前記脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドの合計量が70体積%以上であり、
前記溶媒が、イソホロン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンズアルデヒド、o-トルアルデヒド、p-トルアルデヒドおよびp-アニスアルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
前記増感色素の濃度が6mmol/L以上である、色素増感型太陽電池用色素液。
【請求項7】
前記共吸着剤の濃度が、20mmol/L以上120mmol/L以下である、請求項1~6の何れかに記載の色素増感型太陽電池用色素液。
【請求項8】
多孔質半導体層を備える基材に対して、請求項1~7の何れかに記載の色素増感型太陽電池用色素液を噴霧状に吐出し、前記多孔質半導体層に前記増感色素を吸着させる工程を含む、色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用色素液および色素増感型太陽電池用光電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光エネルギーを電力に変換する光電変換素子として、太陽電池が注目されている。中でも、色素増感型太陽電池(以下、単に「太陽電池」と略記する場合がある。)は、シリコン型太陽電池等に比べて軽量化が期待でき、また、広い照度範囲で安定して発電できることや、大掛かりな設備を必要とすることなく、比較的安価な材料を用いて製造し得ることなどから、注目されている。
【0003】
ここで、色素増感型太陽電池は、通常、増感色素を吸着させた多孔質半導体層を備える色素増感型太陽電池用光電極(以下、単に「光電極」と略記する場合がある。)と、電解質層と、触媒層を備える対向電極とがこの順に並んでなる構造を有する。
【0004】
そして、光電極の製造プロセスにおいて、多孔質半導体層への増感色素の吸着は、例えば、増感色素を有機溶媒に溶解させて得た色素増感型太陽電池用色素液(以下、単に「色素液」と略記する場合がある。)を貯留した定着槽中に、多孔質半導体層を備えた基材を浸漬することによりなされている。
【0005】
例えば、特許文献1では、所定の金属錯体色素の少なくとも1種と、ケトン溶媒の少なくとも1種を含む溶媒とを含有する光電変換素子用色素溶液を使用することにより、吸着時間を短くしても、得られる光電変換素子の光電変換効率を高め、しかも高温環境下での低下を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6616884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで近年、多孔質半導体層に増感色素を吸着させて光電極を作製するに際し、色素液をノズル等から吐出することで多孔質半導体層に供給する手法(以下、このような手法を纏めて「インクジェット法等」と略記する。)が検討されている。
そこで、本発明者はインクジェット法等を用いて、上記従来の色素液の多孔質半導体層への供給を試みた。しかしながら、本発明者の検討によれば、上記従来の色素液を用いても、光電極を高い生産効率(即ち、優れた生産性)で製造すると共に、得られる光電極により太陽電池に優れた光電変換効率を発揮させることは困難であることが明らかになった。
【0008】
そこで、本発明は、光電極の生産性を向上させ得ると共に、光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を形成可能な色素増感型太陽電池用色素液の提供を目的とする。
また、本発明は、生産性に優れると共に、色素増感型太陽電池に高い光電変換効率を発揮させ得る光電極を製造可能な色素増感型太陽電池用光電極の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の濃度以上の増感色素、共吸着剤、および所定の溶媒を含む色素液を用いれば、光電極の生産性を向上させ得ると共に、光電変換効率の高い太陽電池を形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、増感色素、共吸着剤、および溶媒を含む色素増感型太陽電池用色素液であって、前記溶媒が、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含み、前記増感色素の濃度が6mmol/L以上であることを特徴とする。このように、濃度が上記値以上である増感色素、共吸着剤、および所定の溶媒を含む色素液によれば、光電極の生産性を向上させると共に、太陽電池に高い光電変換効率を発揮させることができる。
【0011】
ここで、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、増粘剤を更に含むことが好ましい。色素液が増粘剤を含めば、光電極の生産性を更に向上させることができる。
【0012】
そして、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、前記増粘剤の濃度が、0.5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。色素液中の増粘剤の濃度が上述の範囲内であれば、光電極の生産性を更に向上させることができる。
【0013】
また、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、前記増粘剤が、炭素原子、水素原子および酸素原子のみからなる重合体、炭素原子および水素原子のみからなる重合体、ならびにそれらの重合体の末端が修飾されてなる重合体から選択される少なくとも1つであることが好ましい。増粘剤が、炭素原子、水素原子および酸素原子のみからなる重合体、炭素原子および水素原子のみからなる重合体、ならびにそれらの重合体の末端が修飾されてなる重合体から選択される少なくとも1つであれば、得られる太陽電池の光電変換効率を一層高めることができる。
【0014】
更に、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、前記増粘剤が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、末端修飾ポリエチレングリコール、および末端修飾ポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。増粘剤が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、末端修飾ポリエチレングリコール、および末端修飾ポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つであれば、得られる太陽電池の光電変換効率を一層高めることができる。
【0015】
また、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、前記溶媒が、イソホロン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンズアルデヒド、o-トルアルデヒド、p-トルアルデヒドおよびp-アニスアルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。溶媒が、イソホロン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンズアルデヒド、o-トルアルデヒド、p-トルアルデヒドおよびp-アニスアルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含めば、得られる太陽電池の光電変換効率を一層高めることができる。
【0016】
ここで、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、前記共吸着剤の濃度が、20mmol/L以上120mmol/L以下であることが好ましい。色素液中の共吸着剤の濃度が上述の範囲内であれば、得られる太陽電池の光電変換効率を一層高めることができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法は、多孔質半導体層を備える基材に対して、上述した何れかの色素増感型太陽電池用色素液を噴霧状に吐出し、前記多孔質半導体層に前記増感色素を吸着させる工程を含むことを特徴とする。このように、多孔質半導体層を備える基材に対して、上述した何れかの色素液を噴霧状に吐出する工程を含む光電極の製造方法は、生産性に優れる。また、当該方法により製造された光電極によれば、色素増感型太陽電池に高い光電変換効率を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光電極の生産性を向上させ得ると共に、光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を形成可能な色素増感型太陽電池用色素液を提供することができる。
また、本発明によれば、生産性に優れると共に、色素増感型太陽電池に高い光電変換効率を発揮させ得る光電極を製造可能な色素増感型太陽電池用光電極の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、色素増感型太陽電池用光電極の作製に用いることができる。そして、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法は、多孔質半導体層を備える基材に対して、本発明の色素増感型太陽電池用色素液を噴霧状に吐出し、多孔質半導体層に増感色素を吸着させる工程を含むことを特徴とする。
【0020】
(色素増感型太陽電池用色素液)
本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、増感色素、共吸着剤、および溶媒を含み、任意に、増粘剤およびその他の成分を更に含有する。
ここで、本発明の色素増感型太陽電池用色素液は、上述した溶媒が、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含み、前記増感色素の濃度が6mmol/L以上であることを特徴とする。
【0021】
そして、本発明の色素液は、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つと、共吸着剤と、所定の濃度以上の増感色素とを含んでいるため、当該色素液を用いれば、光電極の生産性を向上させると共に、光電変換効率の高い太陽電池を作製することができる。このように、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つと、共吸着剤と、所定の濃度以上の増感色素とを含有する色素液を用いることで、上記の効果が得られる理由は定かではないが、以下の通りであると推察される。
【0022】
まず、本発明の色素液は、6mmol/L以上と比較的高濃度の増感色素を含むため、本発明の色素液を用いれば、多孔質半導体層に十分な量の増感色素を吸着させることができる。加えて、本発明の色素液中に含まれる共吸着剤は、増感色素が多孔質半導体層に吸着される際に、増感色素の会合や凝集を抑制する機能を有する。更に、本発明の色素液に溶媒として含まれる脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドは、金属錯体色素等で構成される増感色素と電子的な相互作用をすることで、高濃度の増感色素を溶解させることができる。以上のような効果が相まって、本発明の色素液を用いれば、多孔質半導体層に十分な量の増感色素を均一に吸着させることができる。そのため、太陽電池の光電変換効率を優れたものとすることができると考えられる。
また、上述のように、本発明の色素液は比較的高濃度の増感色素を含むため、本発明の色素液を用いれば、多孔質半導体層に増感色素を短時間で効率よく吸着させることができる。そのため、光電極の生産性を向上させることができると考えられる。
従って、本発明の色素液を使用すれば、光電極の生産性を向上させると共に、光電変換効率の高い太陽電池を良好に作製することができる。
【0023】
<増感色素>
増感色素は、光によって励起されて多孔質半導体層に電子を渡し得る化合物である。このような増感色素としては、特に限定されないが、例えば、アゾ色素、シアニン色素、メロシアニン色素、オキソノール色素、キサンテン色素、スクワリリウム色素、ポリメチン色素、クマリン色素、リボフラビン色素、ペリレン色素等の有機色素;鉄、銅、ルテニウム等の金属のフタロシアニン錯体やポルフィリン錯体色素、以下のSK-1、CYC-B11、Z907、N719などのルテニウムビピリジン錯体色素等の金属錯体色素;等が挙げられる。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0024】
そして、これらの中でも、太陽電池の光電変換効率を一層高める観点から、金属錯体色素が好ましく、ルテニウム錯体色素がより好ましく、ルテニウムビピリジン錯体色素が更に好ましく、上記のSK-1、CYC-B11、Z907が特に好ましい。
なお、これらの増感色素は、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ここで、色素液中の増感色素の濃度は、6mmol/L以上であることが必要であり、8mmol/L以上であることが好ましく、10mmol/L以上であることがより好ましい。色素液中の増感色素の濃度が6mmol/L未満であると、光電極の生産性が低下し、また得られる太陽電池の光電変換効率を十分なものとすることができない。なお、増感色素の濃度の上限値は、特に限定されないが、色素液中における増感色素の溶解性の観点から、30mmol/L以下とすることが好ましく、20mmol/L以下とすることがより好ましく、15mmol/L以下とすることが更に好ましい。
【0026】
<共吸着剤>
共吸着剤は、増感色素の多孔質半導体層への吸着時に、増感色素の会合や凝集を抑制し得る成分である。このような共吸着剤としては、特に限定されないが、例えば、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、コール酸、セバシン酸などのカルボン酸類が挙げられる。中でも、太陽電池の光電変換効率を一層高める観点から、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸が好ましい。
なお、これらの共吸着剤は、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ここで、色素液中の共吸着剤の濃度は、20mmol/L以上であることが好ましく、50mmol/L以上であることがより好ましく、70mmol/L以上であることが更に好ましく、120mmol/L以下であることが好ましい。色素液中の共吸着剤の濃度が20mmol/L以上であれば、増感色素の会合や凝集が抑制されるため、太陽電池の光電変換効率を一層高めることができる。一方、色素液中の共吸着剤の濃度が120mmol/L以下であれば、増感色素が多孔質半導体層に良好に吸着されるため、太陽電池の光電変換効率を一層高めることができる。
【0028】
<溶媒>
本発明の色素液に含まれる溶媒は、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが必要である。溶媒が、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドの何れも含まないと、光電極の生産性が低下し、また得られる太陽電池の光電変換効率を十分なものとすることができない。
【0029】
ここで、脂環式ケトン、芳香族ケトン、および芳香族アルデヒドとしては、特に限定されないが、得られる太陽電池の光電変換効率を更に向上させる観点から、イソホロン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンズアルデヒド、o-トルアルデヒド、p-トルアルデヒド、p-アニスアルデヒド、シンナミルアルデヒド、α-ヘキシルシンナミルアルデヒドを用いることが好ましく、イソホロン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンズアルデヒド、o-トルアルデヒド、p-トルアルデヒド、p-アニスアルデヒドを用いることがより好ましい。
なお、これらの脂環式ケトン、芳香族ケトン、および芳香族アルデヒドは、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、本発明の溶媒は、脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒド以外の溶媒を任意に含み得る。このような脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒド以外の溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;ジエチルエーテルなどのエーテル類;アセトンなどの非環式脂肪族ケトン類;アセトニトリルなどのニトリル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホン類;N-メチルピロリドンなどのアミン類;N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類などが挙げられる。
なお、これらは、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
そして、溶媒中に占める脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドの合計量は、得られる太陽電池の光電変換効率を一層高める観点から、50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが更に好ましく、100体積%であることが特に好ましい。
【0032】
<増粘剤>
増粘剤は、色素液の粘度を調整するために使用し得る成分である。色素液が増粘剤を含めば、色素液の粘度が高まることで、色素液の吐出後のメニスカスの振動が抑制されるためと推察されるが、吐出速度を上げても色素液の吐出が乱れにくい。そのため、光電極の生産性を更に向上させることができる。
【0033】
ここで、増粘剤としては、特に限定されることなく、既知の一般的な増粘剤を用いることができる。特に、増感色素として上述した金属錯体色素を用いる場合には、増粘剤は、炭素原子、水素原子および酸素原子のみからなる重合体、炭素原子および水素原子のみからなる重合体、それらの重合体の末端が修飾されてなる重合体(末端修飾重合体。即ち、一方または両方の末端に修飾を有する重合体)であることが好ましい。増粘剤と金属錯体色素との間の錯形成が防止され、色素液中における増感色素の溶解性が十分に確保されることで、太陽電池の光電変換効率を一層高めることができるからである。
【0034】
そして、増粘剤は、太陽電池の光電変換効率をより一層高める観点から、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリスチレン(PS)、それらの末端が修飾されてなる重合体(末端修飾重合体。即ち、一方または両方の末端に修飾を有する重合体)であることがより好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、末端修飾ポリエチレングリコール、および末端修飾ポリプロピレングリコールであることが更に好ましい。また、上述した末端修飾重合体がその末端に有する修飾(化学構造)は、特に限定されず、任意の修飾であり得る。
なお、これらの増粘剤は、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ここで、色素液中の増粘剤の濃度は、0.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが更に好ましく、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。色素液中の増粘剤の濃度が0.5質量%以上であれば、吐出速度を上げても色素液の吐出が乱れにくいため、光電極の生産性を更に向上させることができる。一方、色素液中の増粘剤の濃度が25質量%以下であれば、色素液の粘度が過度に高まることもない。そのため、吐出速度の低下が抑制され、光電極の生産性を更に向上させることができる。
【0036】
<その他の成分>
本発明の色素液は、上述した増感色素、共吸着剤、溶媒および増粘剤以外のその他の成分を含有していてもよい。これらは、色素液に通常用いられるものであれば特に限られず、界面活性剤や充填剤などの公知のものを使用することができる。また、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
[色素液の調製方法]
上述した色素液は、特に限定されることなく、既知の方法により調製することができる。例えば、増感色素、共吸着剤、ならびに任意の増粘剤およびその他の成分を溶媒に添加した後、既知の手法で混合して、増感色素を溶解させることにより色素液とすることができる。なお、色素液の調製に用いる溶媒は、精製されたものを用いることが好ましい。
【0038】
(色素増感型太陽電池用光電極の製造方法)
本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法は、多孔質半導体層を備える基材に対して、上述した色素液を噴霧状に吐出し、多孔質半導体層に増感色素を吸着させる工程(供給工程)を含む。なお、本発明の光電極の製造方法は、上述した供給工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、本発明の光電極の製造方法は、任意に、供給工程の後に多孔質半導体層から未吸着の増感色素を除去する工程(除去工程)を含み得る。
【0039】
そして、本発明の光電極の製造方法は、供給工程において、上述した本発明の色素液を噴霧状に吐出することで、多孔質半導体層に色素液を吸着させるので、用いる色素液の量を減少させることができる。また、色素液の吸着に要する時間が大幅に短縮され、光電極の生産性を向上させることができる。さらに、本発明の光電極の製造方法は、上述した本発明の色素液を用いるため、太陽電池に高い光電変換効率を発揮させることができる。
【0040】
[供給工程]
供給工程では、上述した色素液を噴霧状に吐出することにより、多孔質半導体層に増感色素を吸着させる。ここで、色素液の吐出方法としては、色素液を微細な粒子として(即ち、噴霧状に)吐出可能なものであれば特に限定されず、例えば、インクジェット印刷装置を用いたインクジェット法、スプレーコート法、マイクロミストコート法などを用いることができる。中でも、色素液の量および塗布箇所を精密に制御し、光電極の生産性を更に向上させる観点から、インクジェット法を用いることが好ましい。
【0041】
ここで、供給工程における多孔質半導体層への色素液の吐出は、1回だけでもよく、複数回にわけて行ってもよい。また、2種類以上の増感色素を多孔質半導体層に吸着させる場合においては、各増感色素の吸着量を定量的に制御する観点から、増感色素を1種類ずつ含む複数の色素液を用いることが好ましい。なお、上述した複数の色素液は同時に吐出させてもよいし、任意の時間間隔で順次吐出させてもよい。
【0042】
また、多孔質半導体層を備えた基材は、色素液の吐出時、室温下にあってもよいし、加温されていてもよい。そして、色素液の吐出時に基材を加温する場合、基材の温度は、色素液中の溶媒を短時間で留去し、光電極の生産性を更に向上させる観点から30℃以上とすることが好ましく、増感色素の多孔質半導体層への吸着性を十分に確保して、太陽電池の光電変換効率を一層高める観点から200℃以下とすることが好ましい。
【0043】
更に、多孔質半導体層を備えた基材に対して色素液を噴霧状に吐出した後に、当該基材を加温することもできる。そして、その際の基材の温度は、色素液中の溶媒を短時間で留去し、光電極の生産性を更に向上させる観点から30℃以上とすることが好ましく、増感色素の多孔質半導体層への吸着性を十分に確保して、太陽電池の光電変換効率を一層高める観点から200℃以下とすることが好ましい。なお、色素液中の溶媒を効率的に留去し、光電極の生産性を更に向上させる観点から、色素液の吐出時または吐出後に、基材を加温することが好ましい。また、色素液の吐出は、必要に応じて、加圧下または減圧下で行うことができる。
【0044】
<基材>
基材は、金属、金属酸化物、炭素材料、導電性高分子などを用いて形成された導電性のシートや、樹脂、ガラス、およびシリコンからなる非導電性のシートでありうる。中でも、軽量で、光電変換効率に優れる太陽電池を効率よく形成することができることから、基材としては、樹脂、ガラス、およびシリコンからなる非導電性のシートであることが好ましく、軽量で、光電変換効率に優れ、安価な太陽電池が得られやすいことから、透明樹脂であることがより好ましい。透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルホン(PSF)、ポリエステルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、透明ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の合成樹脂が挙げられる。
【0045】
<多孔質半導体層>
多孔質半導体層は、多孔質状の半導体層である。多孔質状の半導体層であることで、増感色素の吸着量が増え、光電変換効率が高い太陽電池が得られやすくなる。多孔質半導体層を形成する多孔質材料としては、特に限定されることなく、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン等の各種金属酸化物半導体、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等の各種複合金属酸化物半導体、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガン等の遷移金属酸化物、酸化セリウム、酸化ガドリニウム、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム等のランタノイド酸化物、およびシリカに代表される天然または合成の珪酸化合物等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いられてもよく、複数組み合わせて使用されてもよい。
【0046】
ここで、多孔質半導体層は、半導体微粒子により構成されていてもよい。半導体微粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物の粒子が挙げられる。また、半導体微粒子の粒子径(一次粒子の平均粒子径)は、好ましくは2~80nm、より好ましくは2~60nmである。半導体微粒子の粒子径が上記範囲内であれば、表面積が大きくて増感色素の担持量が多くなり、電解液が半導体微粒子からなる多孔質半導体層の細部にまで拡散できる。
【0047】
そして、多孔質半導体層の厚みは、特に限定されないが、通常、0.1~50μm、好ましくは5~30μmである。多孔質半導体層は、プレス法、水熱分解法、泳動電着法、コーティング法、およびバインダーフリーコーティング法等の公知の方法により形成することができる。
【0048】
また、本発明の光電極の製造方法により製造される光電極は、上述した基材と多孔質半導体層の間に、導電層を有し得る。このような導電層としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン等の金属;酸化スズ、酸化亜鉛等の導電性金属酸化物;インジウム-スズ酸化物(ITO)やインジウム-亜鉛酸化物(IZO)等の複合金属酸化物;カーボンナノチューブやグラフェン等の炭素材料;金属箔等の金属材料;などからなる既知の導電層を用いることができる。
【0049】
[除去工程]
本発明の光電極の製造方法においては、任意に、上述した供給工程の後に、多孔質半導体層から未吸着の増感色素を除去する工程(除去工程)を実施してもよい。ここで、未吸着の増感色素の除去方法としては、特に限定されることなく、吸引による色素液の除去および/または洗浄を用いることができる。そして、吸引による色素液の除去は、例えば、チュービングポンプを用いて、多孔質半導体層上の色素液を吸引することにより実施することができる。また、洗浄は、例えば、多孔質半導体層を備えた基材を適当な溶媒に接触させることにより行うことができる。このような溶媒としては、特に限定されず、例えば、アセトニトリルなどの有機溶媒を用いることができる。なお、溶媒は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、洗浄に用いた溶媒は、乾燥などの任意の方法により除去することができる。
【実施例
【0050】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、色素液の吐出状態、光電極の生産性、および太陽電池の光電変換効率は、以下の方法で評価した。
<色素液の吐出状態>
実施例および比較例で調製した色素液の吐出状態の確認に関しては、吐出された液滴の飛翔状態、および吐出後のメニスカスの振動状態を、カメラを用いて目視確認することで行った。そして、以下の基準で評価した。
A:吐出された液滴が単一で、且つメニスカスの振動が次吐出までに停止する。
B:吐出された液滴が複数に分裂していて、且つメニスカスの振動が次吐出までに停止する。
C:メニスカスの振動が次吐出までに停止しない。
<光電極の生産性>
以下の「光電極の作製」の項に記載の要領で、成形した積層体を作製した。そして、インクジェット印刷装置(DMP-2850、FujiFilm Dimatix社製)およびカートリッジ(DMC-11610、FujiFilm Dimatix社製)、ならびに実施例および比較例で調製した色素増感型太陽電池用色素液を用いて、成形した積層体のITO表面上にセルを印刷した(10pL/1滴、ドットピッチ20μm)。印刷条件は、使用ノズル数16ノズル、パルス波形Slow Slew rate 1.0、駆動周波数2kHzを用いた。そして、単位面積あたりの酸化物半導体に供給する色素量が同一になるように、ベタ濃度、印刷回数を変更した。セルの印刷にかかった所要時間(印刷時間)を測定し、以下の基準で評価した。この印刷時間が短いほど、光電極の生産性に優れていることを示す。
A:印刷時間が8分未満かつ色素液の吐出状態がA評価
B:印刷時間が8分以上18分未満、または印刷時間が8分未満かつ色素液の吐出状態がBまたはC評価
C:印刷時間が18分以上30分未満かつ色素液の吐出状態がAまたはB評価
D:印刷時間が30分以上、または印刷時間が18分以上30分未満かつ色素液の吐出状態がC評価
<太陽電池の光電変換効率>
光源として、150Wキセノンランプ光源にAM1.5Gフィルタを装着した擬似太陽光照射装置(PEC-L11型、ペクセル・テクノロジーズ社製)を用いた。光量は、1sun(AM1.5G、100mW/cm(JIS C8912のクラスA))に調整した。
実施例および比較例で作製した色素増感型太陽電池をソースメータ(2400型ソースメータ、Keithley社製)に接続し、以下の電流電圧特性の測定を行なった。1sunの光照射下、バイアス電圧を0Vから0.8Vまで0.01V単位で変化させながら出力電流を測定した。出力電流の測定は、各電圧ステップにおいて、電圧を変化させた後、0.05秒後から0.15秒後までの値を積算することで行った。バイアス電圧を、逆方向に0.8Vから0Vまで変化させる測定も行い、順方向と逆方向の測定の平均値を光電流とした。上記の電流電圧特性の測定結果より、光電変換効率(%)を算出し、以下の基準で評価した。
A:光電変換効率が4.0%以上
B:光電変換効率が3.0%以上4.0%未満
C:光電変換効率が2.5%以上3.0%未満
D:光電変換効率が2.5%未満
なお、上記の評価がA~Cであれば、太陽電池に高い光電変換効率を発揮させることができている。
【0051】
(実施例1)
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのイソホロンに、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸、増粘剤としてのポリプロピレングリコール(PPG1500)、および増感色素としてのSK-1(神戸天然物化学社製)を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ケノデオキシコール酸、60mmol/L;ポリプロピレングリコール(PPG1500)、10%;SK-1、6mmol/L
<光電極の作製>
インジウム-スズ酸化物(ITO)をスパッタ処理して形成した導電層(厚み125nm、表面抵抗15Ω/sq.)を備える、基材としてのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(フィルム厚み200μm)のITO表面上に、バインダーフリーの酸化チタンペースト(PECC-C01-06、平均粒子径50nm、ペクセル・テクノロジーズ社製)を、ベーカー式アプリケーターを用いて、塗布厚み20μmとなるように塗布した。得られた塗膜を常温で10分間乾燥させた後、150℃の恒温槽中でさらに5分間加熱乾燥して、ITO-PENフィルムと多孔質半導体層とからなる積層体を得た。
このようにして得られた積層体を幅1.2cm、長さ2.0cmの大きさにカットし、さらに積層体の短辺の2mm内側より、多孔質半導体層を8mm×12.5mmの矩形状に成形した。そして、このようして成形した積層体のITO表面上に、上述のようにして調製した色素液をインクジェット印刷装置(FujiFilm Dimatix社製、DMP-2850)およびカートリッジ(FujiFilm Dimatix社製、DMC-11610)を用いて噴霧し、増感色素を多孔質半導体層に吸着させた。さらに、インクジェット処理の後、積層体を加温して乾燥させることで光電極を得た。
<色素増感型太陽電池の作製>
上述のようにして得られた光電極の多孔質半導体層に対応する位置に、電解質用孔を形成するように、脂環式エポキシ系樹脂(スコッチウェルドEW2050、スリーエム製、硬化温度120℃)を配置した。そして、ディスペンサーを用いて、電解液(PECE-G3、ペクセル・テクノロジーズ(株)社製)を電解質用孔に充填した。アルミニウム製の貼り合せ用の治具の下基板に電解質層を形成した光電極を載置し、その上に、対向電極として、光電極の形成に用いたものと同じ、インジウム-スズ酸化物(ITO)をスパッタ処理して形成した導電層を備える基材を重ねた。その後、治具の上部を組み合わせてから、120℃に設定したホットプレート上に載置し、500gの重りをのせて、15分間熱圧着した。その後、ホットプレートから治具をおろし、圧力をかけたまま放冷した。その後、得られた太陽電池を治具から取り出した。この太陽電池の光電変換効率を評価した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、増感色素としてのSK-1の濃度を8mmol/L、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸の濃度を80mmol/Lに変更した以外は、実施例1と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3~5)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、増感色素としてのSK-1の濃度を10mmol/L(実施例3)、12mmol/L(実施例4)、15mmol/L(実施例5)にそれぞれ変更した以外は、実施例2と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例6)
以下のようにして調製した色素増感型太陽電池用色素液を使用した以外は、実施例1と同様にして、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのイソホロンに、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸、増粘剤としてのポリプロピレングリコール(PPG4000)、および増感色素としてのSK-1を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ケノデオキシコール酸、80mmol/L;ポリプロピレングリコール(PPG4000)、6%;SK-1、10mmol/L
【0055】
(実施例7~9)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、増粘剤として、ポリプロピレングリコール(PPG1500)に代えて、ポリエチレングリコール(PEG400)(実施例7)、ポリエチレングリコール(PEG600)(実施例8)、ポリエチレングリコールモノオレエート(実施例9)をそれぞれ使用した以外は、実施例3と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例10)
以下のようにして調製した色素増感型太陽電池用色素液を使用した以外は、実施例1と同様にして、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのイソホロンに、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸、増粘剤としてのジステアリン酸ポリエチレングリコール、および増感色素としてのSK-1を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ケノデオキシコール酸、80mmol/L;ジステアリン酸ポリエチレングリコール、2%;SK-1、10mmol/L
【0057】
(実施例11)
以下のようにして調製した色素増感型太陽電池用色素液を使用した以外は、実施例1と同様にして、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのイソホロンに、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸、増粘剤としての酢酸セルロース、および増感色素としてのSK-1を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ケノデオキシコール酸、80mmol/L;酢酸セルロース、0.5%;SK-1、10mmol/L
【0058】
(実施例12~13)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、増粘剤として、ジステアリン酸ポリエチレングリコールに代えて、ポリスチレン(実施例12)、ポリメタクリル酸メチル(実施例13)をそれぞれ使用した以外は、実施例10と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例14)
以下のようにして調製した色素増感型太陽電池用色素液を使用した以外は、実施例1と同様にして、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのイソホロンに、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸、増粘剤としてのポリビニルピロリドン(PVP K30)、および増感色素としてのSK-1を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ケノデオキシコール酸、80mmol/L;ポリビニルピロリドン(PVP K30)、5%;SK-1、10mmol/L
【0060】
(実施例15~16)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、増感色素として、SK-1に代えて、CYC-B11(田中貴金属社製)(実施例15)、Z907(Aldrich社製)(実施例16)をそれぞれ使用した以外は、実施例3と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
(実施例17~20)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸の濃度を20mmol/L(実施例17)、60mmol/L(実施例18)、100mmol/L(実施例19)、120mmol/L(実施例20)にそれぞれ変更した以外は、実施例3と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
(実施例21~30)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、溶媒として、イソホロンに代えて、シクロペンタノン(実施例21)、シクロヘキサノン(実施例22)、アセトフェノン(実施例23)、プロピオフェノン(実施例24)、ベンズアルデヒド(実施例25)、o-トルアルデヒド(実施例26)、p-トルアルデヒド(実施例27)、p-アニスアルデヒド(実施例28)、シンナミルアルデヒド(実施例29)、α-ヘキシルシンナミルアルデヒド(実施例30)をそれぞれ使用した以外は、実施例3と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0063】
(実施例31~34)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、共吸着剤として、ケノデオキシコール酸に代えて、ウルソデオキシコール酸(実施例31)、デオキシコール酸(実施例32)、コール酸(実施例33)、セバシン酸(実施例34)をそれぞれ使用した以外は、実施例3と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
(比較例1)
以下のようにして調製した色素増感型太陽電池用色素液を使用した以外は、実施例1と同様にして、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのメチルエチルケトンに、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸、増粘剤としてのポリプロピレングリコール(PPG1500)、および増感色素としてのSK-1を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ケノデオキシコール酸、5mmol/L;ポリプロピレングリコール(PPG1500)、10%;SK-1、0.5mmol/L
【0065】
(比較例2)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、増感色素としてのSK-1の濃度を3mmol/L、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸の濃度を30mmol/Lに変更した以外は、比較例1と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0066】
(比較例3)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、増感色素としてのSK-1の濃度を5mmol/L、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸の濃度を50mmol/Lに変更した以外は、比較例1と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0067】
(比較例4)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、溶媒として、メチルエチルケトンに代えてイソホロンを使用した以外は、比較例3と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0068】
(比較例5)
以下のようにして調製した色素増感型太陽電池用色素液を使用した以外は、実施例1と同様にして、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのイソホロンに、増粘剤としてのポリプロピレングリコール(PPG1500)、および増感色素としてのN719(Aldrich社製)を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ポリプロピレングリコール(PPG1500)、10%;N719、1mmol/L
【0069】
(比較例6)
以下のようにして調製した色素増感型太陽電池用色素液を使用した以外は、実施例1と同様にして、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
<色素増感型太陽電池用色素液の調製>
溶媒としてのジメチルスルホキシドに、共吸着剤としてのケノデオキシコール酸、増粘剤としてのポリプロピレングリコール(PPG1500)、および増感色素としてのSK-1を、それぞれ以下の濃度となるように添加して溶解させることで、色素液を調製した。
ケノデオキシコール酸、80mmol/L;ポリプロピレングリコール(PPG1500)、10%;SK-1、10mmol/L
【0070】
(比較例7)
色素増感型太陽電池用色素液の調製時に、溶媒として、ジメチルスルホキシドに代えてN,N-ジメチルホルムアミドを使用した以外は、比較例6と同様にして、色素液、光電極および太陽電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0071】
なお、以下に示す表1~3中、
「CDCA」は、ケノデオキシコール酸を示し、
「UDCA」は、ウルソデオキシコール酸を示し、
「DCA」は、デオキシコール酸を示し、
「CA」は、コール酸を示し、
「IP」は、イソホロンを示し、
「CP」は、シクロペンタノンを示し、
「CH」は、シクロヘキサノンを示し、
「AP」は、アセトフェノンを示し、
「PP」は、プロピオフェノンを示し、
「BA」は、ベンズアルデヒドを示し、
「o-TA」は、o-トルアルデヒドを示し、
「p-TA」は、p-トルアルデヒドを示し、
「p-AA」は、p-アニスアルデヒドを示し、
「CNA」は、シンナミルアルデヒドを示し、
「HCNA」は、α―ヘキシルシンナミルアルデヒドを示し、
「DMSO」は、ジメチルスルホキシドを示し、
「DMF」は、N,N-ジメチルホルムアミドを示し、
「MEK」は、メチルエチルケトンを示し、
「PPG1500」は、ポリプロピレングリコール1500を示し、
「PPG4000」は、ポリプロピレングリコール4000を示し、
「PEG400」は、ポリエチレングリコール400を示し、
「PEG600」は、ポリエチレングリコール600を示し、
「PEGM」は、ポリエチレングリコールモノオレエートを示し、
「PEGD」は、ジステアリン酸ポリエチレングリコールを示し、
「AC」は、酢酸セルロースを示し、
「PS」は、ポリスチレンを示し、
「PMMA」は、ポリメタクリル酸メチルを示し、
「PVP」は、ポリビニルピロリドンを示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
表1~3より、脂環式ケトン、芳香族ケトンまたは芳香族アルデヒドと、所定の濃度以上の増感色素と、共吸着剤とを含む色素液を用いた実施例1~34では、生産性に優れる光電極、および光電変換効率の高い太陽電池を作製できていることが分かる。
一方、増感色素の濃度が所定値未満であり、且つ溶媒として脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドの何れも含まない色素液を用いた比較例1~3では、光電極の生産性が低下していることが分かる。
また、増感色素の濃度が所定値未満である色素液を用いた比較例4では、光電極の生産性が低下していることが分かる。
そして、増感色素の濃度が所定値未満であり、且つ共吸着剤を含まない色素液を用いた比較例5では、光電極の生産性が低下しており、また光電変換効率の高い太陽電池を作製できていないことが分かる。
更に、溶媒として脂環式ケトン、芳香族ケトンおよび芳香族アルデヒドの何れも含まない色素液を用いた比較例6および7では、光電変換効率の高い太陽電池を作製できていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、光電極の生産性を向上させ得ると共に、光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を形成可能な色素増感型太陽電池用色素液を提供することができる。
また、本発明によれば、生産性に優れると共に、色素増感型太陽電池に高い光電変換効率を発揮させ得る光電極を製造可能な色素増感型太陽電池用光電極の製造方法を提供することができる。