(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B26D 3/00 20060101AFI20240423BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20240423BHJP
B26D 3/08 20060101ALI20240423BHJP
B26F 1/00 20060101ALI20240423BHJP
B26F 1/44 20060101ALI20240423BHJP
B26F 1/40 20060101ALI20240423BHJP
B26D 7/18 20060101ALI20240423BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20240423BHJP
B26F 1/38 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
B26D3/00 601B
B26F3/00 S
B26D3/08 Z
B26F1/00 G
B26F1/44 H
B26F1/40 A
B26D7/18 Z
B41M3/14
B26F1/38 A
(21)【出願番号】P 2020029588
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原井 謙一
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189246(WO,A1)
【文献】特開2015-051510(JP,A)
【文献】特開2013-103322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 3/00
B26F 3/00
B26D 3/08
B26F 1/00
B26F 1/44
B26F 1/40
B26D 7/18
B41M 3/14
B26F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、最も外側に配置された薄膜とを含む複層フィルムに、前記薄膜をその厚み方向から見て同一形状の小片に分割する亀裂であって、かつ前記基材層の前記薄膜側の表面より深い位置に達する、亀裂を形成する工程(1)と、
前記亀裂が形成された複層フィルムの前記基材層から、前記薄膜の小片を剥離して、前記薄膜の小片を含む粉体を得る工程(2)とを含み、
前記工程(2)が、前記亀裂が形成された複層フィルムに、
前記薄膜の側から流体を吹き付ける工程(2a)を含み、
前記薄膜が、光硬化性の液晶組成物を硬化してなるコレステリック樹脂層である、粉体の製造方法。
【請求項2】
前記小片の長径が、150μm以下である、請求項1に記載の粉体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、前記複層フィルムの前記薄膜の側に、凹凸形状を有する部材を押圧して、前記亀裂を形成する、請求項1又は2に記載の粉体の製造方法。
【請求項4】
前記押圧を、表面の硬度がD40以上である支持部材により前記複層フィルムを支持した状態で行う、請求項3に記載の粉体の製造方法。
【請求項5】
前記凹凸形状を有する部材を押圧する圧力が、0.5MPa以上である、請求項4に記載の粉体の製造方法。
【請求項6】
前記基材層の厚みが、12μm以上250μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(1)において、前記亀裂を、前記小片の形状が、前記薄膜の厚み方向から見て、三角形、四角形、又は六角形となるように形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクの顔料として、金属、樹脂などで形成された薄膜から形成された薄膜片からなる粉体が用いられることがある。
樹脂薄膜片を製造するために、基材フィルム上に離型層を形成し、離型層上に樹脂薄膜を形成し、樹脂薄膜に割れ目を形成してから、基材フィルムを鋭角に折り曲げて樹脂薄膜を薄膜片として剥落させる方法が知られている(特許文献1参照)。
また、基材フィルム上に樹脂薄膜を形成し、樹脂薄膜に凹凸形状を有する部材を押圧して、樹脂薄膜に亀裂を形成し、亀裂が形成された樹脂薄膜に流体を吹き付けることにより、樹脂薄膜を剥落させる方法も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平07-080248号公報
【文献】国際公開第2019/189246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクは、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷、凹版印刷、オフセット印刷などの印刷に用いられる。インクに含まれる粉体は、印刷物の質感を向上させるために、その粒度分布のピークがよりシャープであることが好ましい。
粉体において、その粒度分布のピークがシャープであるためには、粉体に含まれる薄膜片の形状ができるだけ揃っていることが好ましい。
また、印刷物の真正性を確認するために、例えば顕微鏡で、印刷物に用いられたインクに含まれる粉体を観察する場合がある。この場合に、粉体に含まれる薄膜片の形状が揃っていることを確認できれば、印刷物の真正性を、容易に判定することができ、印刷物のセキュリティ性能を向上させることができる。
したがって、粉体に含まれる薄膜片は、その形状ができるだけ揃っていることが好ましい。
しかし、従来の技術で薄膜片からなる粉体を製造すると、薄膜が、亀裂に沿って分割されずに基材フィルムから剥離し、その結果薄膜片からなる粉体に、亀裂に沿った一定形状とは異なる形状の薄膜片が、相当量混入する場合があった。
したがって、亀裂に沿った一定形状を有する薄膜片の割合が多い粉体を製造できる製造方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、複層フィルムに所定の亀裂を形成することによって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0006】
[1] 基材層と、最も外側に配置された薄膜とを含む複層フィルムに、前記薄膜をその厚み方向から見て同一形状の小片に分割する亀裂であって、かつ前記基材層の前記薄膜側の表面より深い位置に達する、亀裂を形成する工程(1)と、
前記亀裂が形成された複層フィルムの前記基材層から、前記薄膜の小片を剥離して、前記薄膜の小片を含む粉体を得る工程(2)とを含む、粉体の製造方法。
[2] 前記小片の長径が、150μm以下である、[1]に記載の粉体の製造方法。
[3] 前記工程(1)において、前記複層フィルムの前記薄膜の側に、凹凸形状を有する部材を押圧して、前記亀裂を形成する、[1]又は[2]に記載の粉体の製造方法。
[4] 前記押圧を、表面の硬度がD40以上である支持部材により前記複層フィルムを支持した状態で行う、[3]に記載の粉体の製造方法。
[5] 前記凹凸形状を有する部材を押圧する圧力が、0.5MPa以上である、[4]に記載の粉体の製造方法。
[6] 前記工程(2)が、前記亀裂が形成された複層フィルムに、流体を吹き付ける工程(2a)を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の粉体の製造方法。
[7] 前記基材層の厚みが、12μm以上250μm以下である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の粉体の製造方法。
[8] 前記工程(1)において、前記亀裂を、前記小片の形状が、前記薄膜の厚み方向から見て、三角形、四角形、又は六角形となるように形成する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、亀裂に沿った一定形状を有する薄膜片の割合が多い粉体を製造できる製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る工程(1)で用いられる複層フィルムの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る、亀裂が形成された複層フィルムの薄膜側の面を、複層フィルムの厚み方向から見た模式的な平面図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III切断面を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る亀裂が形成された複層フィルムの薄膜側の面を、複層フィルムの厚み方向から見た模式的な平面図である。
【
図5】
図5は、
図4のV-V切断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態の粉体の製造方法で用いうる凹凸形状を有する部材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す凹凸形状を有する部材を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7の部材をX1-X1線で切断して展開した状態を模式的に示す平面図である。
【
図9】
図9は、
図8のY1-Y1線における一部断面図である。
【
図10】
図10は、一実施形態の粉体の製造方法で用いうる凹凸形状を有する部材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図12】
図12は、
図11の部材をX2-X2線で切断して展開した状態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0011】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の文言は、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0012】
以下の説明において、要素の方向が「平行」及び「垂直」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0013】
[1.粉体の製造方法の概要]
本発明の一実施形態に係る粉体の製造方法は、基材層と、最も外側に配置された薄膜とを含む複層フィルムに、前記薄膜をその厚み方向から見て同一形状の小片に分割する亀裂であって、かつ前記基材層の前記薄膜側の表面より深い位置に達する、亀裂を形成する工程(1)と、前記亀裂が形成された複層フィルムの基材層から、前記薄膜の小片を剥離して、前記薄膜の小片を含む粉体を得る工程(2)とを含む。これにより、亀裂に沿った一定形状を有する薄膜片の割合が多い粉体を製造できる。
【0014】
[2.工程(1)]
工程(1)では、基材層と、最も外側に配置された薄膜とを含む複層フィルムに、前記薄膜をその厚み方向から見て同一形状の小片に分割する亀裂であって、かつ前記基材層の前記薄膜側の表面より深い位置に達する、亀裂を形成する。
【0015】
[2.1.複層フィルム]
工程(1)で用いられる複層フィルムは、基材層と薄膜とを含む。薄膜は、複層フィルムの最も外側に配置されている。ここで、最も外側に配置されているとは、薄膜は、複層フィルムの厚み方向における最も外側に配置されていることをいう。そのため、薄膜の面が、複層フィルムの一方の面に露出している。複層フィルムは、薄膜と基材層との間に、任意の層を備えていてもよい。
複層フィルムは、効率的に亀裂を形成するために、長尺であることが好ましい。
図1は、一実施形態に係る工程(1)で用いられる複層フィルムの一例を示す断面図である。
図1に示すように、複層フィルム10は、基材層12と、基材層12の上に直接設けられた薄膜11とを含む。
【0016】
(基材層)
基材層は、効率的に薄膜を形成するために、長尺であることが好ましい。
基材層を形成する材料の例としては、特に限定されず、重合体を含む樹脂、紙、及び金属が挙げられ、可撓性及び機械的強度に優れることから、重合体を含む樹脂が好ましい。
基材層を形成しうる樹脂に含まれる重合体の例としては、セルロース系重合体(例、トリアセチルセルロース);脂環式構造を含有する重合体(例:シクロオレフィン重合体);ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート);アクリル重合体(例、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル);及び、ポリカーボネート;が挙げられる。基材層を形成しうる樹脂は、重合体を一種単独で含んでいてもよく、二種以上の組み合わせとして含んでいてもよい。また、重合体は、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。樹脂は、重合体の他に、任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0017】
脂環式構造を含有する重合体の例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。これらの中でも、透明性及び成形性の観点から、ノルボルネン系重合体及びこれらの水素化物が好ましい。
【0018】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体の開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体の付加共重合体が挙げられる。これらの重合体としては、例えば、特開2002-321302号公報等に開示されている重合体が挙げられる。
【0019】
ノルボルネン系重合体及びこれらの水素化物の好適な具体例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア」;JSR社製「アートン」;TOPAS ADVANCED POLYMERS社製「TOPAS」が挙げられる。
【0020】
基材層の厚みは、好ましくは12μm以上、より好ましくは25μm以上、更に好ましくは50μm以上であり、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは188μm以下である。基材層の厚みが、前記下限値以上であることにより、基材層の機械的強度をより優れたものとしうる。基材層の厚みが、前記上限値以下であることで、基材層の可撓性を向上させ、製造時のハンドリングを容易としうる。
【0021】
基材層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0022】
基材層が、多層構造を有している場合、基材層に含まれる各層は、工程(1)及び工程(2)において、互いに剥離しない程度の剥離強度を有していることが好ましい。
基材層は、好ましくは単層構造を有する。
【0023】
基材層は、その表面に、ラビング処理、コロナ処理などの処理がされていてもよい。
基材層は、延伸されていない未延伸の層であっても、延伸された層であってもよい。
【0024】
複層フィルムは、基材層及び薄膜のみからなるフィルムであってもよく、基材層及び薄膜に加えて、任意の層を備えていてもよい。例えば、薄膜を形成する組成物として液晶組成物を用いる場合、液晶組成物を良好に配向させる観点から、複層フィルムは、基材層と薄膜との間に、配向膜を有していてもよい。配向膜は、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド等の重合体を含む樹脂により形成しうる。また、これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。配向膜は、前記の重合体を含む溶液を塗布し、乾燥させ、ラビング処理を施すことにより製造しうる。
【0025】
(薄膜)
薄膜は、単層構造、多層構造のいずれの構造であってもよい。また、薄膜は、導電体及び誘電体のいずれであってもよい。さらに薄膜は、無機物の膜及び有機物の膜のいずれであってもよい。薄膜の例としては、アルミニウム、銀などの金属の膜;酸化チタン、酸化シリコン、酸化ニオブ、酸化タンタル、フッ化マグネシウムなどの、誘電体で形成された誘電体多層膜;及び、樹脂膜が挙げられる。
樹脂膜を形成するための樹脂材料の例としては、光硬化性の液晶組成物、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、セルロース系重合体(例、トリアセチルセルロース)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリオレフィン、脂環式構造含有重合体、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、及びこれらの組み合わせが挙げられる。樹脂材料に含まれうる重合体は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。樹脂材料は、重合体の他に、硬化剤、酸化防止剤などの任意の添加剤を含みうる。
【0026】
薄膜の厚みは、薄膜の材料、粉体の使用目的などに応じて適宜設定できるが、薄膜の反射率を確保する観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下である。薄膜の厚みを前記上限値以下にすることにより、得られる粉体を、様々な厚みの印刷層に対応したインクに好適に用いうる。
【0027】
薄膜として、例えば、樹脂を含む組成物として光硬化性の液晶組成物を用いて硬化させた硬化物からなる膜を用いうる。すなわち、薄膜を形成する樹脂としては、例えば、光硬化性の液晶組成物の硬化物を用いうる。ここで便宜上「液晶組成物」と称する材料は、2種類以上の物質の混合物のみならず、単一の物質からなる材料をも包含する。
【0028】
また、薄膜としては、例えば、コレステリック樹脂層を用いてもよい。コレステリック樹脂層とは、コレステリック規則性を有する樹脂層のことをいう。コレステリック規則性を有する樹脂層が有するコレステリック規則性とは、一平面上では分子軸が一定の方向に並んでいるが、それに重なる次の平面では分子軸の方向が少し角度をなしてずれ、更に次の平面では更に角度がずれるというように、重なって配列している平面を順次透過して進むに従って当該平面中の分子軸の角度がずれて(ねじれて)いく構造である。即ち、層内の分子がコレステリック規則性を有する場合、分子は、樹脂層内において、多数の分子の層をなす態様で整列する。かかる多数の分子の層の中のある層Aにおいては、分子の軸がある一定の方向となるよう分子が整列し、それに隣接する層Bでは、層Aにおける方向と角度を成してずれた方向に分子が整列し、それに更に隣接する層Cでは層Bにおける方向と角度を成して更にずれた方向に分子が整列する。このように、多数の分子の層において、分子の軸の角度が連続的にずれて、分子がねじれる構造が形成される。このように分子軸の方向がねじれてゆく構造は光学的にカイラルな構造となる。
【0029】
コレステリック樹脂層は、通常、円偏光分離機能を有する。すなわち、右円偏光及び左円偏光のうちの一方の円偏光を透過させ、他方の円偏光の一部又は全部を反射させる性質を有する。また、コレステリック樹脂層における反射は、円偏光を、そのキラリティを維持したまま反射する。
【0030】
薄膜として前記のようなコレステリック樹脂層を用いた場合、本実施形態の製造方法によって、円偏光分離機能を活かした樹脂膜の小片からなる粉体であって、一定形状を有する薄膜片の割合が多い粉体を製造できる。
【0031】
薄膜は、薄膜の材料などに応じて、任意の方法により形成できる。例えば、薄膜は、蒸着法、スパッタリング法、塗布法などにより形成できる。ここで、塗布法の例としては、ダイコーティング法、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、及びギャップコーティング法が挙げられる。
【0032】
[2.2.亀裂の形成]
(亀裂)
工程(1)において形成される亀裂は、複層フィルムに含まれる薄膜をその厚み方向から見て同一形状の小片に分割する。また、亀裂は、基材層の薄膜側の表面より深い位置に達するように形成される。また、亀裂は、複層フィルムの全面において基材層の薄膜側の表面より深い位置に達するように、形成される。
【0033】
薄膜の厚み方向から見た小片の形状は、特に限定されず、三角形、四角形、六角形などの多角形、十字型、円などが挙げられ、好ましくは三角形、四角形、又は六角形である。
【0034】
薄膜の厚み方向から見た小片の長径は、印刷版にインクが目詰まりすることを抑制する観点から、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは175μm以下、更に好ましくは150μm以下であり、インクにより形成された印刷層の視認性向上の観点から、通常0μmより大きく、好ましくは10μm以上である。ここで、長径は、小片の輪郭に接するように平行線を複数引いたときに、平行線間の距離のうちで最も長い距離をいう。
【0035】
以下、工程(1)において形成される亀裂の例について説明する。
図2は、一実施形態に係る、亀裂が形成された複層フィルムの薄膜側の面を、複層フィルムの厚み方向から見た模式的な平面図である。
図3は、
図1のIII-III切断面を模式的に示す断面図である。
【0036】
図2に示すように、複層フィルム100には、格子状の亀裂100Cが形成されている。亀裂100Cは、複層フィルム100の幅方向WDに対して、θ1の角度をなして、右下がりに延びる直線状の複数の刻み目100C1と、θ2の角度をなして、右上りに延びる直線状の複数の刻み目100C2とから構成されている。ここで、
図2における複層フィルム100の幅方向WDに対して、時計回りの方向の角度を正とし、反時計回りの方向の角度を負とすると、θ1は45°であり、θ2は-45°である。
【0037】
本実施形態では、隣り合う刻み目100C1同士の間隔P11は、隣り合う刻み目100C2同士の間隔P12と略同一である。ここで、略同一であるとは、P12が、P11の90%以上110%以下であることを意味する。このような複数の刻み目100C1及び複数の刻み目100C2を備える、格子状の亀裂100Cは、複層フィルム100の最も外側に配置された薄膜を、略正方形である複数の小片101に分割している。複数の小片101は、間隔P11及び間隔P12に対応する長さの辺を有しており、本実施形態では、複数の小片101の一辺の長さは、P11である。
【0038】
図3に示すように、複層フィルム100は、基材層120と、基材層120の上に直接形成された薄膜110とを備える。亀裂100Cの深さ100Cdは、複層フィルム100の薄膜110側の表面110Uから、亀裂100Cの先端100Ctまでの距離である。亀裂100Cの深さ100Cdは、薄膜110の厚み110Tよりも大きい。そのため、亀裂100Cの先端100Ctは、基材層120の、薄膜110側の表面120Uよりも深い位置に達している。
【0039】
図4は、別の実施形態に係る亀裂が形成された複層フィルムの薄膜側の面を、複層フィルムの厚み方向から見た模式的な平面図である。
図5は、
図4のV-V切断面を模式的に示す断面図である。
【0040】
図4に示すように、複層フィルム200には、ハニカム状の亀裂200Cが形成されている。ハニカム状の亀裂200Cは、複層フィルム200の最も外側に配置された薄膜を、略正六角形である複数の小片201に分割している。
図5に示すように、複層フィルム200は、基材層220と、基材層220の上に直接形成された薄膜210とを備える。本実施形態においても、亀裂200Cの先端200Ctは、基材層220の、薄膜210側の表面220Uよりも深い位置に達している。
【0041】
また別の実施形態では、複層フィルムに、複層フィルムの厚み方向から見て、連続する三角形の亀裂を形成してもよい。
【0042】
(亀裂の形成方法)
亀裂は、例えば、複層フィルムの薄膜の側に、凹凸形状を有する部材を押圧することにより、形成されうる。更に具体的には、複層フィルムを、支持部材により支持した状態で、複層フィルムを支持部材と凹凸形状を有する部材とに挟んで、凹凸形状を有する部材を押圧することにより、亀裂を形成しうる。
【0043】
凹凸形状を有する部材として、複層フィルムの厚み方向から見た亀裂の形状に対応する凸部を表面に有する部材を用いうる。例えば、複層フィルムの厚み方向から見た亀裂の形状が、格子状である場合は、格子状の凸部を表面に有する部材を用いうる。また、複層フィルムの厚み方向からみた亀裂の形状が、ハニカム状である場合は、ハニカム状の凸部を表面に有する部材を用いうる。
【0044】
また、凹凸形状を有する部材として、複数の部材を用いてもよい。例えば、亀裂の一部分に対応する凸部を表面に有する部材及び亀裂の別の一部分に対応する凸部を表面に有する部材を用いてもよい。例えば、亀裂が格子状であって、薄膜をその厚み方向から見て正方形に分割するものである場合は、亀裂を構成する、一の方向の刻み目に対応する凸部を表面に有する、凹凸形状を有する第一の部材と、亀裂を構成する、別の方向の刻み目に対応する凸部を表面に有する、凹凸形状を有する第二の部材とを、複層フィルムに押圧することにより、亀裂を形成してもよい。
【0045】
また、凹凸形状を有する同一の部材を、複層フィルムに対して異なる配置で複数回押圧して、亀裂を形成してもよい。
【0046】
凹凸形状を有する部材を円筒形として、複層フィルムに連続的に亀裂を形成してもよい。
【0047】
凹凸形状を有する部材として、複層フィルムを押圧しても破損が生じない強度を有し、凹凸構造を形成可能な材料を採用しうる。かかる材料の例としては、炭素鋼及びステンレス鋼が挙げられる。また、凹凸形状を有する部材は、耐食性や強度、熱伝導率を高める目的等で、表面に1層又は2層以上の多層の皮膜を有していても良い。このような皮膜としては、特に限定されないが、例えば、ニッケル、ニッケルリン、シリコン、銅等のメッキ皮膜や、セラミック溶射により形成された皮膜等が挙げられる。凹凸形状を有する部材には、例えばヒーター、熱媒、誘電加熱、誘導加熱等を用いた加熱手段や、静電気対策用の除電装置、アース等が取り付けられていてもよい。
【0048】
凹凸形状を有する部材は、従来公知の任意の方法により、製造しうる。例えば、円筒形の金属ロールなどの部材を、ダイヤモンドバイトなどの切削工具を用いて切削したり、レーザ加工装置を用いて加工するなどして、所望の凹凸形状を有する部材を形成しうる。
【0049】
凹凸形状を有する部材を、複層フィルムの薄膜の側に押圧する際の圧力は、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上、更に好ましくは5MPa以上であり、好ましくは100MPa以下、より好ましくは75MPa以下である。圧力を下限値以上とすることにより、複層フィルムに充分な深さの亀裂を形成することができ、圧力を上限値以下とすることにより複層フィルムの破損を抑制することができる。複層フィルムに亀裂を形成するために、一種以上の凹凸形状を有する部材を複数回複層フィルムに押圧する場合、複数回の押圧は、同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、複数回の押圧は、同一の圧力で行う。
【0050】
支持部材は、通常複層フィルムが含む薄膜の側とは反対側の面を支持する支持面を有する。複層フィルムの面を支持する支持面の硬度は、好ましくはD40以上、より好ましくはD60以上、更に好ましくはD70以上であり、好ましくはD99以下、より好ましくはD97以下、更に好ましくはD95以下である。ここで、硬度は、JIS K-6253に従い、デュロメータ(タイプD)により測定した値である。支持部材の支持面の硬度を、前記範囲とすることにより、複層フィルムに、適切な深さの亀裂を容易に形成できる。支持部材としては、凹凸形状を有する部材により複層フィルムを押圧しても破損が生じない強度を有する材料を採用しうる。支持部材の表面の材料としては、例えば、ゴム、樹脂が挙げられる。
【0051】
支持部材の形状は、例えば、複層フィルムの搬送方法、凹凸形状を有する部材を複層フィルムに押圧する方法に応じて、任意の形状(例えば、ロール形状、平板形状)としうる。長尺の複層フィルムを用いて、連続的に複層フィルムに亀裂を形成できるので、支持部材は、好ましくはロール形状である。
【0052】
以下、凹凸形状を有する部材の例、及び当該部材を用いる工程(1)について、説明する。
【0053】
図6は、本実施形態の粉体の製造方法で用いうる凹凸形状を有する部材の一例を模式的に示す斜視図である。
図7は、
図6に示す凹凸形状を有する部材を模式的に示す斜視図である。
図8は、
図7の部材をX1-X1線で切断して展開した状態を模式的に示す平面図である。
図9は、
図8のY1-Y1線における一部断面図である。
図10は、本実施形態の粉体の製造方法で用いうる凹凸形状を有する部材の一例を模式的に示す斜視図である。
図11は、
図10に示す凹凸形状を有する部材を模式的に示す斜視図である。
図12は、
図11の部材をX2-X2線で切断して展開した状態を模式的に示す平面図である。
図13は、
図12のY2-Y2線における一部断面図である。
【0054】
図6に示すように、凹凸形状を有する部材1110は、複層フィルム10の薄膜11側の面と接するように配置され、複層フィルム10を押圧する。また
図10に示すように、凹凸形状を有する部材1115は、複層フィルム10の薄膜11側の面と接するように配置され、複層フィルム10を押圧する。凹凸形状を有する部材1110による複層フィルム10の押圧及び凹凸形状を有する部材1115による複層フィルム10の押圧の順序は特に限定されず、例えば、複層フィルム10を、凹凸形状を有する部材1110により押圧し、次いで凹凸形状を有する部材1115により押圧してもよく、複層フィルム10を、凹凸形状を有する部材1115により押圧し、次いで凹凸形状を有する部材1110により押圧してもよい。
【0055】
凹凸形状を有する部材1110の外側面(複層フィルム10と接触する面)には、
図6に示すように、凹凸が設けられている。凹凸形状を有する部材1115の外側面にも、
図10に示すように、凹凸が設けられている。凹凸形状を有する部材1110及び1115は、
図6及び
図10に示すように円筒状であり、複層フィルム10上を回転移動が可能である。
【0056】
複層フィルム10の基材層12側の面に配されている支持部材1120は、凹凸形状を有する部材1110とともに、複層フィルム10を挟んで押圧する部材である。
複層フィルム10の基材層12側の面に配されている支持部材1125は、凹凸形状を有する部材1115とともに、複層フィルム10を挟んで押圧する部材である。支持部材1120及び支持部材1125はそれぞれ円筒状であり、複層フィルム10の下側において回転移動が可能である。
【0057】
複層フィルム10の面のうち、凹凸形状を有する部材1110,1115と接触する側の面(図示上面)は、薄膜11が形成されている面である。凹凸形状を有する部材1110と支持部材1120との間に複層フィルム10を挟むと、凹凸形状を有する部材1110の凸部1110Tが薄膜11と接触する。複層フィルム10を、凹凸形状を有する部材1110と支持部材1120とで挟んだ状態で圧することにより、凹凸形状を有する部材1110の凸部1110Tが薄膜11及び基材層12の内部に入りこみ、亀裂100Cを構成する刻み目100C1が形成される。さらに、凹凸形状を有する部材1115と支持部材1125との間に複層フィルム10を挟むと、凹凸形状を有する部材1115の凸部1115Tが薄膜11と接触する。複層フィルム10を、凹凸形状を有する部材1115と支持部材1125とで挟んだ状態で圧することにより、凹凸形状を有する部材1115の凸部1115Tが薄膜11及び基材層12の内部に入りこみ、亀裂100Cを構成する刻み目100C2が形成される。このようにして、亀裂100Cが形成された複層フィルム10が得られる(
図2及び
図3を参照)。
【0058】
凹凸形状を有する部材1110の外側面には、凹凸形状が形成されている。凹凸形状は、
図8に示すように、L1で示す方向に対して角度θx分傾いた方向に延びる凸部1110Tと凹部1110Dとが、凸部1110Tの形成方向に対して垂直な方向に交互に繰り返し形成された形状である。θxは特に限定はなく例えば45°としうる。凹凸形状を有する部材1110の凹凸形状は、
図8に示すように、紙面上から見ると、右下がりの直線が並んだ形状である。隣り合う2つの凸部1110T間の距離(
図9に示す凸部1110T1と凸部1110T2との間の距離Q1)は適宜設定することができる。
図7及び
図8において、端部1111,1112は凹凸形状を有する部材1110の端部である。
【0059】
凸部1110Tは、
図9に示すように、断面視、鋭角状の頂点1110tを有する山形状としうる。
図9においてθ11は凸部の頂点の角度である。θ11は小さい方が好ましいが、例えば10°以上、20°以上、又は30°以上とすることができ、例えば90°以下、80°以下、70°以下、又は60°以下としうる。凸部1110Tの頂点形状は薄膜及び基材層に亀裂を形成することが可能であれば、丸みを帯びた形状や面取り形状であってもよい。
【0060】
凹凸形状を有する部材1115の外側面には、凹凸形状が形成されている。凹凸形状は、
図12に示すように、L2で示す方向に対して角度θy分傾いた方向に延びる凸部1115Tと凹部1115Dとが、凸部1115Tの形成方向に対して垂直な方向に交互に繰り返し形成された形状である。θyは特に限定はなく例えば45°としうる。凹凸形状を有する部材1115の凹凸形状は、
図12に示すように、紙面上から見ると、右上がりの直線が並んだ形状である。隣り合う2つの凸部1115T間の距離(
図13に示す凸部1115T1と凸部1115T2との間の距離Q2)は適宜設定することができる。
図11び
図12において、端部1116,1117は凹凸形状を有する部材1115の端部である。
【0061】
凸部1115Tは、
図13に示すように、断面視、鋭角状の頂点1115tを有する山形状としうる。
図13においてθ12は凸部1115Tの頂点の角度である。θ12は小さい方が好ましいが、例えば10°以上、20°以上、又は30°以上とすることができ、例えば90°以下、80°以下、70°以下、又は60°以下としうる。凸部1115Tの頂点形状は薄膜及び基材層に亀裂を形成することが可能であれば、丸みを帯びた形状や面取り形状であってもよい。
工程(1)を行うことにより、複層フィルムには、亀裂が形成される(例えば、
図3及び
図5に示すように、複層フィルム10に、亀裂100C又は亀裂200Cが形成される。)。亀裂が形成された複層フィルム(例えば、複層フィルム100,200)は工程(2)に供される。
【0062】
亀裂の形状は凹凸形状を有する部材の凸部の形状が反映される。例えば、展開形状が
図8に示す形状の凹凸形状を有する部材1110を、
図8のL1方向が複層フィルムの長手方向と平行になるように配して押圧した場合、複層フィルム10の長手方向に対して斜め方向に刻み目を形成することができる。これに次いで展開形状が
図12に示す形状の凹凸形状を有する部材1115を、
図12のL2方向が複層フィルムの長手方向と平行になるように配して押圧すると、
図2に示すような格子状の亀裂100Cを形成しうる。
図2において、右下がりの直線状の刻み目100C1は凹凸形状を有する部材1110の凸部の形状が反映されたものであり、右上がりの直線状の刻み目100C2は凹凸形状を有する部材1115の凸部の形状が反映されたものである。
【0063】
[3.工程(2)]
工程(2)では、亀裂が形成された複層フィルムの基材層から、前記薄膜の小片を剥離して、前記薄膜の小片を含む粉体を得る。
【0064】
基材層から、薄膜の小片を剥離する方法は特に限定されず、例えば、(1)亀裂が形成された複層フィルムをブレード上で摺動させて、小片を剥離する方法;(2)水、空気などの流体を、亀裂が形成された複層フィルムに吹き付けて、小片を剥離する方法;(3)薄膜(例えば、コレステリック樹脂層)を溶解させにくいが、基材層又は薄膜と基材層との間に存在する層(例えば、ポリビニルアルコールで形成された配向膜)を溶解させる溶媒(例えば、水)に、亀裂が形成された複層フィルムを浸漬して、基材層から薄膜の小片を剥離する方法;(4)亀裂が形成された複層フィルムの薄膜側を水溶性接着剤を用いて転写用基材フィルムに貼り合わせ、次いで複層フィルムから基材層を剥離することにより、基材層から薄膜の小片を剥離する方法;これらの組み合わせ;が挙げられる。
前記(4)の方法では、通常(転写用基材フィルム)/(水溶性接着剤の層)/(亀裂が形成された薄膜)の層構成を有する積層体が得られる。この積層体を適当な温度の水に浸漬するなどして、積層体から水溶性接着剤の層を除去することにより、薄膜の小片を含む粉体を得ることができる。
【0065】
亀裂が形成された複層フィルムが、長尺である場合には、連続的に前記の剥離工程を行うことで、効率よく粉体を製造できる。
【0066】
例えば、工程(2)は、亀裂が形成された複層フィルムに流体を吹き付ける工程(2a)を含んでいてもよい。
工程(2a)では、流体を、亀裂が形成された複層フィルムの、亀裂が形成された側(すなわち、薄膜側)に吹き付ける。吹き付け装置として、公知の流体吐出装置を用いうる。流体吐出装置から吐出される流体の圧力は、流体の密度、基材層と薄膜との剥離強度などに応じて、適宜調整しうる。吐出圧力は、特に限定されないが、好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上であり、好ましくは50MPa以下、より好ましくは35MPa以下である。
【0067】
工程(2)は、前記薄膜の小片を剥離した後に、小片をふるいに通す工程(2b)を含んでいてもよい。
例えば、亀裂が形成された複層フィルムに流体を吹き付ける工程(2a)の後、基材層から剥離された小片を、所定の目開きを有するフィルターを通過させてもよい。
また工程(2)は、前記薄膜の小片を剥離した後に、小片を回収する工程(2c)を含んでいてもよい。
例えば、亀裂が形成された複層フィルムに流体を吹き付ける工程(2a)の後、基材層から剥離された小片を、流体とともに回収路に導き、回収器により小片を回収して、小片の集合体である粉体を得てもよい。回収器としては、例えば、サイクロン型の分離器及び各種フィルターを用いうる。
【0068】
[4.粉体の特性]
本実施形態の製造方法で得られる粉体は、亀裂に沿った一定形状を有する薄膜片の割合が多い。該割合は、例えば以下の方法により評価できる。
粉体を10重量%の水分散液とする。該水分散液をプレパラート上に滴下し、水分を蒸発させて、粉体(薄膜片)をプレパラートに付着させる。プレパラート上の、薄膜片が付着した部分を顕微鏡で観察する。1mm四方の領域内で、一定形状の薄膜片の個数(A)と、非定形の薄膜片の個数(B)とをカウントし、下記式に従い個数(B)の個数(A)に対する百分率Xを求める。X=B/A×100(%)
百分率Xが小さいほど、亀裂に沿った一定形状を有する薄膜片の割合が高い。
【0069】
粉体は、百分率Xが、好ましくは5%以下であり、より好ましくは4%以下であり、更に好ましくは3%以下であり、0%であることが好ましいが、0%以上又は1%以上であってもよい。
【0070】
[5.粉体の用途]
本実施形態の製造方法により製造された粉体は、亀裂に沿った一定形状を有する薄膜片の割合が多い。したがって、粉体を含むインクを用いて、質感の良好な印刷物を得ることができる。また、粉体を含むインクを用いた印刷物の真正性を容易に判定しうる。よって、粉体をインクの材料として好適に利用できる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0072】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0073】
[評価]
(亀裂の状態の評価)
亀裂を入れた各例の複層フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡で観察し、亀裂が、複層フィルムの基材層の表面より深い位置に達しているか否かを評価した。観察は、複層フィルムの任意の位置の、面方向の長さが500μmの断面について行った。観察範囲において、亀裂が複層フィルムの基材層の表面より深い位置に達している場合は、複層フィルムの全面において、亀裂が複層フィルムの基材層の表面より深い位置に達しているとみなした。観察範囲において、一部の亀裂が複層フィルムの基材層の表面よりも深い位置に達していない場合、または、すべての亀裂が複層フィルムの基材層の表面より深い位置に達していない場合は、亀裂が複層フィルムの複層フィルムの基材層の表面より深い位置に達していないとした。
【0074】
(粉体(薄膜片)の形状一致性の評価)
各例で得られた粉体(薄膜片)を、10重量%の水分散液とした。次いで、該水分散液をプレパラート上に滴下し、水分を蒸発させて、薄膜片をプレパラートに付着させた。プレパラート上の、薄膜片が付着した部分を光学顕微鏡で観察した。1mm四方の領域内で、各例における凹凸形状を有する部材の凹凸に対応する、定形の薄膜片の個数(A)と、非定形の薄膜片の個数(B)とをカウントし、下記式に従い個数(B)の個数(A)に対する百分率Xを求めた。X=B/A×100(%)
百分率Xが小さいほど、亀裂に沿った一定形状を有する薄膜片の割合が高い。すなわち形状一致性が高い。
下記基準に従い薄膜片の形状一致性を評価した。
「良」:X≦5%
「不良」:5%<X、又はA=0
【0075】
[実施例1]
(1-1.光硬化性の液晶組成物の調製)
BASF社製光重合性液晶性化合物「Paliocolor LC242」を18.1部、カイラル剤としてBASF社製「LC756」を1.3部、光重合開始剤としてチバ・ジャパン社製「イルガキュアOXEO2」を0.6部、界面活性剤としてネオス社製「フタージェント209F」を0.02部、及びシクロペンタノンを80部を混合して、光硬化性の液晶組成物を調製した。
【0076】
(1-2.長尺の複層フィルムの製造)
基材フィルムとして、長尺のシクロオレフィン重合体(COP)フィルム(日本ゼオン社製「ZF16-100」;厚み100μm)を用意した。この基材フィルムをフィルム搬送装置の繰り出し部に取り付け、当該基材フィルムを長手方向に搬送しながら以下の操作を行った。まず、搬送方向と平行な長手方向にラビング処理を施した。次に、ラビング処理を施した面に、(1-1)で調製した液晶組成物をダイコーターを使用して塗布した。これにより、基材フィルムの片面に、未硬化状態の液晶組成物の膜を形成した。
【0077】
得られた液晶組成物の膜に100℃で5分間配向処理を施し、その後、液晶組成物の膜に、窒素雰囲気下で800mJ/cm2の紫外線を照射して、液晶組成物の膜を完全に硬化させた。これにより、長尺の基材フィルムの片面に、3.5μmの厚みの樹脂薄膜を備える複層フィルムを得た。複層フィルムは、(基材層としての基材フィルム)/(樹脂薄膜)の層構成を有する。樹脂薄膜は、コレステリック樹脂層としての機能を有していた。
【0078】
(1-3.凹凸形状を有する部材(ロール)の製造)
表面に無電解ニッケルメッキ(NiPメッキ)が施された、ステンレス鋼で形成された金属ロールを用意した。メッキが施されたロールの表面をダイヤモンドバイト(頂角60°)で切削し、複数の凸部を有するロールA及びロールBを得た。
ロールAでは、複数の凸部を、ロール軸と平行なロール周面上の直線に対して、右上がりに45°の角度をなす方向に凸部が延びるように、また、凸部のピッチが50μmとなるように、更に凸部が延びる方向に垂直な断面において、凸部の頂点の角度が、60°となるように形成した。
ロールBでは、複数の凸部を、ロール軸と平行なロール周面上の直線に対して、左上がりに45°の角度をなす方向に凸部が延びるように、また、凸部のピッチが50μmとなるように、更に凸部が延びる方向に垂直な断面において、凸部の頂点の角度が、60°となるように形成した。
【0079】
(1-4.工程(1):亀裂形成工程)
(1-2)で製造した複層フィルムに、樹脂薄膜側から、(1-3)で製造したロールAを押圧し(プレス圧10MPa)、次いでロールBを押圧して(プレス圧10MPa)、複層フィルムに亀裂を形成した。その際、複層フィルムの樹脂薄膜とは反対側(基材フィルム側、バックアップロール側)を、バックアップロールで支持した。バックアップロールは、表面の硬度がD70のロールを使用した。ここで、硬度は、JIS K-6253に従い、デュロメータ(タイプD)により測定した値である。以下同様である。これにより、複層フィルムの樹脂薄膜を、樹脂薄膜の厚み方向から見て、一辺が50μmである正方形の小片(長径70μm)に分割した。
【0080】
ロールA及びロールBを押圧された後の複層フィルムについて、亀裂の状態を前記の方法により評価した。その結果、複層フィルムの全面において、複層フィルムが備える基材フィルムの表面よりも深い位置まで、亀裂が形成されていることが分かった。
【0081】
(1-5.工程(2):粉体製造工程)
次いで、亀裂を入れた複層フィルムに対して、樹脂薄膜の側から、吐出圧力60MPaで水を吹き付けて、基材フィルムから樹脂薄膜の小片を剥離した。
【0082】
次いで、剥離した樹脂薄膜の小片を、公称目開き53μmのふるいに通し、ふるい下の小片を、フィルター回収器(3M社製、オールポリプロピレン製フィルター)により回収して、樹脂薄膜の小片を含む粉体を得た。得られた粉体の形状一致性を、前記の方法により評価した。結果を下表に示す。
【0083】
[実施例2]
(2-1~2-2)
基材フィルムとして、長尺のトリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製「KC6UY」;厚み60μm)を用いた。以上の事項以外は、実施例1の(1-1)~(1-2)と同様にして、複層フィルムを製造した。
【0084】
(2-3.凹凸形状を有する部材(ロール)の製造)
実施例1の(1-3)と同様の金属ロールを用意し、メッキが施されたロールの表面をダイヤモンドバイト(頂角60°)で切削し、複数の凸部を有するロールCを得た。
ロールCでは、複数の凸部をロール軸と平行なロール周面上の直線に対して、左上がりに45°の角度をなす方向に凸部が延びるように、また、凸部のピッチが100μmとなるように形成した。
【0085】
(2-4.工程(1):亀裂形成工程)
・ロールBの代わりに、ロールCを用いた。
・ロールA及びロールCのプレス圧を、それぞれ8MPaとした。
・バックアップロールとして、表面の硬度がD90のロールを使用した。
以上の事項以外は、実施例1の(1-4)と同様に操作して、複層フィルムに亀裂を形成した。これにより、複層フィルムの樹脂薄膜を、樹脂薄膜の厚み方向から見て、50μm×100μmである長方形の小片(長径112μm)に分割した。
【0086】
ロールA及びロールCを押圧された後の複層フィルムについて、亀裂の状態を前記の方法により評価した。その結果、複層フィルムの全面において、複層フィルムが備える基材フィルムの表面よりも深い位置まで、亀裂が形成されていることが分かった。
【0087】
(2-5.工程(2):粉体製造工程)
剥離した樹脂薄膜の小片を通すふるいの目開きを、公称目開き53μmから公称目開き106μmに変更した。以上の事項以外は、実施例1の(1-5)と同様にして、粉体を得て、得られた粉体を評価した。結果を下表に示す。
【0088】
[実施例3]
(3-1~3-2)
複層フィルムとして、12μmの厚みでアルミニウムが蒸着されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レフィルム加工社製「VMPET1519」)を用意した。複層フィルムは、(薄膜としてのアルミニウム膜)/(基材層としてのPETフィルム)の層構成を有する。
【0089】
(3-3.凹凸形状を有する部材(ロール)の製造)
実施例1の(1-3)と同様の金属ロールを用意した。メッキが施されたロールの表面に極短パルスレーザで窪みを形成し(ディンプル加工)、ロールDを得た。
ロールDでは、長径が50μmであり、一辺が25μmである、連続した六角形の凸部が形成されている。
【0090】
(3-4.工程(1):亀裂形成工程)
・ロールAの代わりに、ロールDを用いた。
・ロールBによる複層フィルムの押圧を行わなかった。
・ロールDのプレス圧を12MPaとした。
・バックアップロールとして、表面の硬度がD88のロールを使用した。
以上の事項以外は、実施例1の(1-4)と同様に操作して、複層フィルムに亀裂を形成した。これにより、複層フィルムのアルミニウム膜を、該膜の厚み方向から見て、長径が50μmであり、一辺が25μmの六角形の小片に分割した。
【0091】
ロールDを押圧された後の複層フィルムについて、亀裂の状態を前記の方法により評価した。その結果、複層フィルムの全面において、複層フィルムが備える基材フィルムの表面よりも深い位置まで、亀裂が形成されていることが分かった。
【0092】
(3-5.工程(2):粉体製造工程)
実施例1の(1-5)と同様にして、粉体を得て、得られた粉体を評価した。結果を下表に示す。
【0093】
[比較例1]
・バックアップロールを、ステンレス鋼を硬度がD20であるシリコンゴムで被覆して形成されたロールに変更した。
・ロールA及びロールBのプレス圧を、それぞれ70MPaとした。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、粉体を得て、得られた粉体を評価した。結果を下表に示す。
また、ロールA及びロールBを押圧された後の複層フィルムにおいて、亀裂の状態を前記の方法により評価した。その結果、観察範囲において、複層フィルムが備える基材フィルムの表面よりも深い位置まで達している亀裂はなかった。
【0094】
下表において、略号は以下の意味を表す。
「コレステリック樹脂層」:液晶組成物の硬化物の層
「Al膜」:蒸着されたアルミニウム膜
「COP」:シクロオレフィン重合体フィルム
「TAC」:トリアセチルセルロースフィルム
「PET」:ポリエチレンテレフタレートフィルム
【0095】
【0096】
以上の結果より、基材層の薄膜側の表面より深い位置に達する亀裂を形成していない比較例1の製造方法では、得られる粉体の形状一致性が不良である。一方、基材層の薄膜側の表面より深い位置に達する亀裂を形成する実施例の製造方法では、得られる粉体の形状一致性が良好である。
以上の結果は、本発明に係る粉体の製造方法により、所望とする形状を有する薄膜片の割合が多い粉体を製造できることが分かる。
【符号の説明】
【0097】
10 複層フィルム
11 薄膜
12 基材層
100 複層フィルム
100C 亀裂
100C1 刻み目
100C2 刻み目
100Cd 深さ
100Ct 先端
101 小片
110 薄膜
110T 厚み
110U 表面
120 基材層
120U 表面
200 複層フィルム
200C 亀裂
200Ct 先端
201 小片
210 薄膜
220 基材層
220U 表面
1110 凹凸形状を有する部材
1110T 凸部
1110T1 凸部
1110T2 凸部
1110t 頂点
1110D 凹部
1111 端部
1112 端部
1115 凹凸形状を有する部材
1115T 凸部
1115T1 凸部
1115T2 凸部
1115t 頂点
1115D 凹部
1116 端部
1117 端部
1120 支持部材
1125 支持部材