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特許7476712シール構造体の製造方法、およびシール構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】シール構造体の製造方法、およびシール構造体
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20240423BHJP
   F16J 15/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F16J15/10 W
F16J15/06 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020132009
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028540
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】谷井 史朗
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-267559(JP,A)
【文献】特開平8-120276(JP,A)
【文献】特開2007-145890(JP,A)
【文献】特開2004-168586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
F16J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、
被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、
前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する工程を有し、
前記原料液は、溶媒と、前記被膜成分の粒子とを含み、前記被膜成分の粒子の濃度は、1質量%~20質量%(ただし、20質量%を除く)の範囲であり、
前記原料液をミスト化することにより形成される、液体を含む粒子であるミスト化粒子の直径は、2μm~50μmの範囲である、製造方法。
【請求項2】
前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびイソプロパノールの少なくとも一つを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料液は、ケイ酸アルカリ溶液、シリカゾル、またはアルミナゾルである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記被膜は、厚さが1μm~20μmの範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記被コーティング部は、シール部材の一部である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
シール構造体であって、
多孔質な下地部材と、
該下地部材の上に配置された被膜と、
を有し、
前記被膜は、非有機物膜であり、シリカ、アルミナ、および炭素の少なくとも一つを含み、
前記下地部材の表面粗さRaは、1mm以上であり、
前記被膜の厚さは、1μm~20μmの範囲である、シール構造体。
【請求項7】
高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、
被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、
前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する工程を有し、
前記被膜成分は、炭素を含む熱分解物質の形態であり、前記被膜は、炭素で構成される、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造体の製造方法、およびシール構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
高温雰囲気炉のような、雰囲気制御が可能な内部空間を有する高温装置は、各種分野において、幅広く使用されている。
【0003】
そのような高温装置において、該高温装置の使用中に、内部空間と外界とをシールするシール部材のシール性が低下することがある。また、その場合、しばしば、高温装置を高温状態に維持したままで、シール部材に対して補修を実施する必要が生じ得る。
【0004】
このような高温装置の、いわゆるin-situ補修のため、これまでに各種方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-3313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温装置のin-situ補修の一つの案として、シール部材の劣化部分に、水ガラスのような被膜成分を上塗りすることが考えられる。
【0007】
しかしながら、高温に維持されたシール部材の上に水ガラスの被膜を設置した場合、水ガラスから水分が蒸発する際に、被膜に貫通孔が形成されるという問題が生じる。この場合、得られる被膜は多孔質となり、良好なシール効果を発揮することができなくなる。
【0008】
このように、高温装置のin-situ補修の際に、緻密なシール構造体を製造する方法に対して要望がある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、高温装置のin-situ補修に有意に適用できるシール構造体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、そのようなシール構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する、製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明では、シール構造体であって、多孔質な下地部材と、該下地部材の上に配置された被膜と、を有し、前記被膜は、非有機物膜であり、シリカ、アルミナ、および炭素の少なくとも一つを含み、前記下地部材の表面粗さRaは、1mm以上であり、前記被膜の厚さは、1μm~20μmの範囲である、シール構造体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、高温装置のin-situ補修に有意に適用できるシール構造体の製造方法を提供することができる。また、本発明では、そのようなシール構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法のフローを模式的に示した図である。
図2】高温装置のシール部に形成された、本発明の一実施形態によるシール構造体を模式的に示した断面図である。
図3】試験装置の構成を模式的に示した図である。
図4】各例に係るシール構造体における200℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
図5】各例に係るシール構造体における300℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
図6】各例に係るシール構造体における400℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
図7】各例に係るシール構造体における500℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
図8】本発明の一実施形態によるシール構造体の断面の一例を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本発明の一実施形態では、高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する、製造方法が提供される。
【0016】
本発明の一実施形態では、200℃以上の高温に維持された被コーティング部に、ミスト化された原料液が吹き付けられる。
【0017】
原料液は、被膜成分を含む。従って、この原料液をミスト化することにより、液体をまとった被膜成分が、ミストとして形成される。
【0018】
このようなミストを被コーティング部に吹き付けた場合、ミストが被コーティング部の表面と接触した際に、ミストに含まれる溶媒が気化される。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まない被膜成分が堆積される。
【0019】
このようなミストの被コーティング部との接触、および溶媒の気化が繰り返し継続されることにより、被コーティング部の表面に、被膜成分が逐次堆積される。
【0020】
例えば、原料液に含まれる被膜成分が粒子の形態の場合、原料液をミスト化することにより、液体を含む粒子(以下、特に、「ミスト化粒子」ともいう。)が形成される。このようなミスト化粒子を被コーティング部に吹き付けた場合、ミスト化粒子が被コーティング部の表面と接触した際に、溶媒が気化される。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まない被膜成分の粒子が堆積される。
【0021】
あるいは、原料液に含まれる被膜成分が炭素を含む熱分解物質の形態の場合、原料液をミスト化することにより、液体をまとった熱分解物質(以下、特に、「ミスト化成分」ともいう。)が形成される。このミスト化成分が被コーティング部の表面と接触した際に、溶媒の気化と、熱分解物質の分解とが同時に生じる。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まないカーボンが堆積される。
【0022】
このような「ミスト化粒子」または「ミスト化成分」を経由して形成される堆積物には、溶媒が実質的に含まれていない。このため、堆積物には、溶媒が気化する結果として生じる貫通孔は、形成されない。
【0023】
従って、本発明の一実施形態では、被コーティング部に、緻密な被膜を形成することができる。また、これにより、本発明の一実施形態では、良好なシール性能を発揮するシール構造体を製造することができる。
【0024】
(本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法)
次に、図面を参照して、本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法について、より詳しく説明する。
【0025】
図1には、本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法のフローを模式的に示す。
【0026】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する。)は、
(1)原料液を調製する工程(工程S110)と、
(2)原料液をミスト化する工程(工程S120)と、
(3)ミスト化した原料液を、高温装置の被コーティング部に吹き付ける工程(工程S130)と、
を有する。
【0027】
以下、各工程について説明する。
【0028】
なお、ここでは、一例として、原料液が被膜成分の粒子を含み、従って、原料液をミスト化することにより、「ミスト化粒子」が形成される場合を想定して、第1の製造方法の各工程を説明する。
【0029】
(工程S110)
まず、高温装置の被コーティング部に設置される被膜用の原料液が調製される。
【0030】
原料液は、溶媒と、該溶媒中に分散された粒子とを有する。
【0031】
溶媒は、これに限られるものではないが、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびイソプロパノールの少なくとも一つを含んでもよい。安全上の観点から、溶媒は、特に、水であることが好ましい。
【0032】
粒子は、後に形成される被膜の成分で構成される。粒子は、例えば、アルミナ、またはシリカを含んでもよい。
【0033】
原料液は、例えば、ケイ酸アルカリ溶液、シリカゾル、またはアルミナゾルであってもよい。ケイ酸アルカリ溶液は、ケイ酸ナトリウム溶液(いわゆる水ガラス)であってもよい。
【0034】
原料液に含まれる固形分粒子の濃度は、特に限られないが、例えば、1質量%~20質量%の範囲である。固形分粒子の濃度が20質量%を超えると、原料液の粘度が高くなり、所定のミスト化状態の維持、およびミスト化粒子の安定した供給が難しくなる場合がある。
【0035】
(工程S120)
次に、前述の方法で調製された原料液がミスト化される。すなわち、原料液から、固形分粒子を含む液体粒子、すなわち「ミスト化粒子」が形成される。
【0036】
原料液をミスト化する方法は、特に限られない。原料液は、例えば、スプレーガン、エアブラシ、または超音波ブラシ等を用いて、ミスト状にされてもよい。
【0037】
ミスト化粒子の直径は、含まれる固形分粒子の濃度や粒径にも依存するが、例えば、2μm~50μmの範囲である。ミスト化粒子の直径を50μm以下とすることにより、以降の工程S130において、ミスト化粒子が被コーティング部の表面と接触し、次のミスト化粒子が到達する前に、ミスト化粒子に含まれる溶媒を迅速に気化させることができる。また、ミスト化粒子の直径を2μm以上とすることにより、以降の工程S130において、現実的な時間で、被コーティング部に被膜を形成することができる。
【0038】
なお、本願において、ミスト化粒子の直径は、レーザー回折式粒子分析で測定される。また、「ミスト化粒子」のキャリアガスとしては、空気の他、アルゴン、窒素、酸素等が使用され得る。
【0039】
(工程S130)
次に、ミスト化された原料液が、被コーティング部に供給される。例えば、被コーティング部は、高温装置のシール部材の一部、例えば、シール部材の一表面であってもよい。
【0040】
高温装置は、これに限られるものではないが、例えば、石炭のコークス炉、鉄鉱石の高炉、ガラスの溶解炉、およびガラスの成形炉等の各種窯炉が含まれる。これらの高温装置のシール部材の温度は、200℃~500℃の範囲になり得る。
【0041】
原料液の供給速度は、原料液の組成、含まれる固形分粒子の濃度、および設置対象の温度等によっても変化する。概して、原料液の供給速度は、例えば、0.0001~0.1cc/(sec・cm)の範囲であってもよい。
【0042】
なお、供給速度が大き過ぎると、ミスト化粒子からの溶媒の気化が間に合わず、被膜に溶媒が含まれる可能性がある。
【0043】
従って、そのような問題を回避または抑制するため、ミスト化粒子を間欠的に供給してもよい。例えば、ミスト化された原料液の供給と停止を、周期的に繰り返してもよい。
【0044】
被コーティング部が高温に維持されているため、ミスト化粒子が被コーティング部の表面に到達すると、ミスト化粒子に含まれる溶媒は、気化され逸散される。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まない被膜成分の粒子が、気孔を含まずに緻密な状態で堆積される。また、ミスト化された原料液は、継続して被コーティング部に供給される。このため、被コーティング部では、ミスト化粒子の溶媒気化、および固形分粒子の堆積が繰り返される。また、これに伴い、被コーティング部の表面に、被膜の成分の固形分粒子が逐次堆積される。
【0045】
このような現象が繰り返される結果、被コーティング部に被膜が形成される。被膜の厚さは、特に限られないが、例えば1μm~20μmの範囲である。
【0046】
第1の製造方法により得られる被膜は、貫通孔を含まず、緻密な形態を有する。
【0047】
従って、第1の製造方法では、シール性の良好な緻密な被膜をin-situで形成することができる。
【0048】
また、第1の製造方法では、ミスト化粒子が脱溶媒化され、粒子成分のみが逐次的に堆積され、これにより被膜が形成される。このような成膜方法では、被コーティング部の表面が比較的大きな凹凸を有する場合でも、緻密な被膜を形成することができる。
【0049】
例えば、第1の製造方法では、被コーティング部の表面粗さRaが1mm以上の場合でも、緻密な連続被膜を形成することができる。
【0050】
以上、原料液が被膜成分の固形分粒子を含む場合を例に、第1の製造方法について説明した。
【0051】
しかしながら、これは単なる一例であって、第1の製造方法は、別の構成を有してもよい。例えば、原料液は、被膜成分の粒子の代わりに、炭素を含む熱分解物質を含んでもよい。この場合、炭素を含む熱分解物質は、原料液中に溶解していてもよい。
【0052】
そのような原料液を使用した場合、工程S120において、「ミスト化粒子」の代わりに、「ミスト化成分」が形成される。従って、後続の工程S130では、「ミスト化成分」が被コーティング部の表面と接触した際に、熱分解物質の分解と、溶媒の気化とが同時に生じる。その結果、被コーティング部には、炭素被膜が形成される。
【0053】
この他にも各種変更が可能であることは、当業者には容易に理解される。
【0054】
(本発明の一実施形態によるシール構造体)
次に、図2を参照して、本発明の一実施形態によるシール構造体について説明する。
【0055】
図2は、高温装置のシール部に形成された、本発明の一実施形態によるシール構造体を模式的に示した断面図である。
【0056】
図2に示すように、本発明の一実施形態によるシール構造体(以下、「第1のシール構造体」と称する。)100は、高温装置10の隙間15を塞ぐシール部20に設置される。
【0057】
より具体的には、高温装置10は、第1の壁部材30および第2の壁部材31を有し、第1および第2の壁部材30、31等により、高温装置10の内部に内部空間40が形成される。ただし、第1の壁部材30と第2の壁部材31との間には隙間15が存在し、この隙間15を封止するため、隙間15にシール部材42(下地部材)が充填される。これによりシール部20が構成され、内部空間40が外界と遮断される。
【0058】
しかしながら、高温装置10を例えば長期間使用すると、シール部材42が劣化し、そのシール性能が低下する。そのような場合、高温装置10を使用した状態で、すなわち、シール部20が高温の状態で、シール部材42を補修する必要が生じ得る。
【0059】
第1のシール構造体100は、そのようなin-situ補修により形成される。
【0060】
第1のシール構造体100は、(劣化した)シール部材42と、被膜120とを有する。
【0061】
被膜120は、前述のような本発明の一実施形態による製造方法、例えば第1の製造方法により製造される。従って、被膜120は、貫通孔が有意に抑制された、緻密な構造を有する。
【0062】
被膜120は、非有機物膜で構成される。被膜120は、シリカ、アルミナ、および炭素の少なくとも一つを含む。
【0063】
また、シール部材42は、表面44に大きな凹凸を有し得る。表面44の表面粗さRaは、例えば、1mm以上である。通常、このような大きな凹凸を有する表面44上に、in-situで均一な連続被膜を形成することは容易ではない。従って、従来の方法では、表面44上に被膜を形成することができたとしても、そのような被膜は、不連続なものになり、および/または良好な密着性を有しない。すなわち、長期にわたって良好なシール性を発揮する被膜を形成することは難しい。
【0064】
しかしながら、第1のシール構造体100においては、被膜120は、前述のような本発明の一実施形態による製造方法で形成される。すなわち、被膜120がアルミナおよび/またはシリカを含む場合、被膜120は、ミスト化粒子が脱溶媒され、粒子が表面に逐次堆積される現象を利用して形成される。また、被膜120が炭素を含む場合、被膜120は、ミスト化成分の脱溶媒および熱分解により、炭素が表面に逐次堆積される現象を利用して形成される。そのため、被膜120は、大きな凹凸を有する表面44上にも、均一に、適正な密着力で設置することができる。
【0065】
従って、第1のシール構造体100は、シール部材42の凹凸の表面44に、長期にわたって良好なシール性を発揮する被膜120を配置することができる。また、これにより、第1のシール構造体100では、長期にわたって、高温装置10に良好なシール性を確保することができる。
【0066】
なお、シール構造体100が設置されるシール部20を形成する第1の壁部材30および第2の壁部材31は、金属(例えば耐熱金属)、およびセラミックス(例えば耐火レンガ)など、耐熱性を備えた材料であれば、いかなる材料で構成されてもよい。
【0067】
また、シール構造体100が適用されるシール部20の温度は、高温装置10によって変化する。一例では、シール構造体100が適用されるシール部20の温度は、200℃~500℃の範囲である。
【実施例
【0068】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例5は実施例であり、例11は、比較例である。
【0069】
(例1)
以下の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0070】
(被膜用原料液の調製)
被膜の原料液には、水ガラス3号(富士化学社製)を水で希釈した溶液(水ガラス:水=2:1(質量比))を使用した。原料液に含まれる二酸化ケイ素粒子の濃度は、5質量%である。また、二酸化ケイ素のミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。例1~例4のミスト化粒子の直径は、シンパテックス社のレーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS)を用いて測定した。
【0071】
以下、調製された原料液を、「A液」と称する。
【0072】
(試験装置による評価)
図3には、試験装置の構成を模式的に示す。図3に示すように、この試験装置210は、金属管220と、該金属管220を収容する電気炉230とを備える。
【0073】
金属管220は、ステンレス鋼製で、略円柱形状を有する。金属管220の一つの面は開口226となっており、この開口226は、直径が25mmとなっている。なお、金属管220の内部の容積は約1Lである。
【0074】
金属管220は、開口226が電気炉230の先端と一致するようにして、電気炉230内に配置される。また、金属管220の一部には、別の開口が設けられており、この開口は、窒素ガスを安定して供給するためのバッファタンク240と接続されている。
【0075】
金属管220の開口226の内部には、予めシール部材228が設置されている。
【0076】
シール部材228は、ケイ砂による下地層(第1層)と、その上のモルタルによる第2層の2層構成とした。シール部材228は、以下のように形成した。
【0077】
まず、バインダー(水ガラス)を用いて円柱状のケイ砂下地層(直径25mm×長さ30mm)を作製し、それを開口226に設置した。次に、試験温度まで昇温した後、その表面にモルタルによる第2層を形成した。
【0078】
得られたシール部材228には、多くの通気孔が認められた。また、シール部材228の表面は、凹凸が激しく、表面粗さRaは、約0.1mmであった。
【0079】
試験装置を使用する際には、電気炉230を昇温し、金属管220の開口226を所定の温度に維持した。試験装置の各部材の温度が十分に安定してから、エアブラシ(カスタムマイクロンシリーズCM-CP2;アネスト岩田社製)を用いて、金属管220の開口226に向かって、前述のA液を吹き付けた。
【0080】
エアブラシと開口226との間の距離は、約100mmであった。また、A液の吹き付けは、0.0005cc/(sec・cm)における10秒間の供給および10秒間の停止を1サイクルとし、3サイクル実施した。
【0081】
A液の吹き付けを完了してから3分経過後に、バッファタンク240から金属管220内に窒素ガスを供給した。窒素ガスの圧力が0.7kPaに達した時点で窒素ガスの供給を停止した。窒素ガスを停止した時点を時間の0(ゼロ)点とし、金属管220内の圧力の経時変化を測定した。
【0082】
(例2)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0083】
ただし、この例2では、被膜の原料液として、シリカゾル(カタロイドS-20L;日揮触媒化成社製)を水で希釈した溶液を使用した。原料液に含まれる二酸化ケイ素粒子の濃度は、5質量%である。また、二酸化ケイ素のミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。
【0084】
以下、調製された原料液を、「B液」と称する。
【0085】
(例3)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0086】
ただし、この例3では、被膜の原料液として、シリカゾル(スノーテックスC;日産化学社製)を水で希釈した溶液を使用した。原料液に含まれる二酸化ケイ素粒子の濃度は、5質量%である。また、二酸化ケイ素のミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。
【0087】
以下、調製された原料液を、「C液」と称する。
【0088】
(例4)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0089】
ただし、この例4では、被膜の原料液として、アルミナゾル(カタロイド特殊品;日揮触媒化成社製)を水で希釈した溶液を使用した。原料液に含まれるアルミナゾルの濃度は、5質量%である。また、アルミナゾルのミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。
【0090】
以下、調製された原料液を、「D液」と称する。
【0091】
(例5)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0092】
ただし、この例5では、被膜の原料液として、ショ糖(富士フィルム和光純薬製スクロース)溶液を使用した。原料液に含まれるショ糖の濃度は、5質量%である。
【0093】
以下、調製された原料液を、「E液」と称する。
【0094】
(例11)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0095】
ただし、この例11では、シール部材228の上に、被膜を設置しなかった。すなわち、例11では、開口226にシール部材228のみを設置した状態で、金属管220内の圧力の経時変化を測定した。
【0096】
(結果)
図4図7には、各例に係る評価試験によって得られた結果をまとめて示す。図4には、開口226が200℃の場合の試験結果を示し、図5には、開口226が300℃の場合の試験結果を示し、図6には、開口226が400℃の場合の試験結果を示し、図7には、開口226が500℃の場合の試験結果を示す。
【0097】
これらの試験結果から、いずれの温度においても、例1~例5では、例11に比べて、圧力の低下が抑制されていることがわかる。吹付部の温度によって溶媒の揮散速度、粒子の結合度合いが変化するため、温度毎に各被膜のシール性能は変化している。
【0098】
図8には、例1におけるシール部材228の表面近傍における試験後の断面の一例を示す。
【0099】
図8から、例1では、シール部材228の上に、薄くて均一な被膜が形成されていることがわかる。また、この被膜には、貫通孔がほとんど認められないことがわかる。SEM-EDXを用いた分析の結果、この被膜は、シリカで構成されていることがわかった。
【0100】
また、図には示さないが、例2~例5におけるシール構造体の被膜部分においても、同様の形態が認められた。
【0101】
なお、例2および例3におけるシール構造体の被膜は、シリカで構成されていることがわかった。また、例4におけるシール構造体の被膜は、アルミナで構成されていることがわかった。さらに、例5におけるシール構造体の被膜は、炭素で構成されていることがわかった。
【0102】
このように、例1~例5において調製した原料液をミスト化して、対象部分に吹き付けることにより、良好なシール性を有するシール構造体が得られることが確認された。
【0103】
(まとめ)
以上によれば、例1~例5において調製した原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付けることにより、高温装置のin-situ補修に有意に適用できるシール構造体の製造方法を提供することができる。また、そのようなシール構造体を提供することができる。
【符号の説明】
【0104】
10 高温装置
15 隙間
20 シール部
30 第1の壁部材
31 第2の壁部材
40 内部空間
42 シール部材
44 表面
100 第1のシール構造体
120 被膜
210 試験装置
220 金属管
226 開口
228 シール部材
230 電気炉
240 バッファタンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8