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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】調光部材
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/19 20190101AFI20240423BHJP
   E06B 9/24 20060101ALI20240423BHJP
   G02F 1/061 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
G02F1/19
E06B9/24 C
G02F1/061 503
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020136426
(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2022032551
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤井 日出子
(72)【発明者】
【氏名】小川 光敏
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120947(JP,A)
【文献】特開2018-105055(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110780504(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
G02F 1/13
E06B 9/24
G02F 1/061
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、該負極と該正極とで挟持され、誘電性高分子材料を含むゲル層とを有し、かつ、前記負極及び前記正極のうち少なくともいずれか一方が、透光性を有し、かつ、前記正極と前記ゲル層との接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さく、前記正極の負極側の面が、ゲルに接触していない部分を有する、調光部材。
【請求項2】
前記ゲル層が、誘電性高分子材料を含むシート部を有し、かつ、該シート部の前記正極側に突部が形成されている、請求項1に記載の調光部材。
【請求項3】
前記突部の頂部が平面を有する、請求項2に記載の調光部材。
【請求項4】
前記突部の底面の最小幅が1mm以下となる、請求項2又は3に記載の調光部材。
【請求項5】
前記突部の底面の最小幅が50μm以上となる、請求項2~4のいずれか一項に記載の調光部材。
【請求項6】
前記突部の高さが、2mm以下である、請求項2~5のいずれか一項に記載の調光部材。
【請求項7】
前記突部の高さが、25μm以上である、請求項2~6のいずれか一項に記載の調光部材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の調光部材が複数個積層される、積層型調光部材。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の調光部材、又は請求項8に記載の積層型調光部材を有するスマートウィンドウ。
【請求項10】
負極と、正極と、該負極と正極とで挟持され、誘電性高分子材料を含むゲル層とを有し、かつ、前記負極及び前記正極のうち少なくともいずれか一方が、透光性を有し、かつ、前記正極と前記ゲル層との接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さ
、前記正極の負極側の面が、ゲルに接触していない部分を有する調光部材を用い、
前記正極と前記負極との間に電圧を印加することにより、前記ゲル層の前記正極に接する部分の面積を増大させて透明度を増大させるステップを有する、調光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光部材及び該調光部材を有するスマートウィンドウ、並びに調光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気や熱、光等の外部からの刺激に応じて光学的特性が変化することで光透過率を制御することができるスマートウィンドウ(調光窓や調光ガラスとも呼ばれる)が実用化されている。人為的な操作によって光透過率を制御することができるスマートウィンドウは、オフィスや店舗等の空間を分割するための仕切りや、ショーウィンドウ等のディスプレイ、日光や照明光を遮るための遮蔽板等の幅広い分野で利用されている。
現在、スマートウィンドウに備えられ、外部からの刺激に対して特性が変化する調光部材の研究開発が幅広く行われている。該調光部材には様々な態様があるが、特に、外部からの印加電圧によって特性を変化させることができる液晶の配向を利用して光透過率を制御することができる調光部材の技術が注目されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-110085号公報
【文献】特表2019-533828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、スマートウィンドウに備え得る調光部材として、液晶を利用した調光部材が知られている。しかしながら、液晶を利用した調光部材は、偏光板が必要であるために構造が複雑化し易く、大面積にするにあたり手間を要する。
そこで、本発明は、容易に大面積とすることができる調光部材、及び該調光部材を有するスマートウィンドウを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、所望の形状を有するゲルを備える調光部材とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]負極と、正極と、該負極と該正極とで挟持され、誘電性高分子材料を含むゲル層とを有し、かつ、前記負極及び前記正極のうち少なくともいずれか一方が、透光性を有し、かつ、前記正極と前記ゲル層との接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さい、調光部材。
[2]前記ゲル層が、誘電性高分子材料を含むシート部を有し、かつ、該シート部の前記正極側に突部が形成されている、[1]に記載の調光部材。
[3]前記突部の頂部が平面を有する、[2]に記載の調光部材。
[4]前記突部の底面の最小幅が1mm以下となる、[2]又は[3]に記載の調光部材。
[5]前記突部の底面の最小幅が50μm以上となる、[2]~[4]のいずれかに記載の調光部材。
[6]前記突部の高さが、2mm以下である、[2]~[5]のいずれかに記載の調光部材。
[7]前記突部の高さが、25μm以上である、[2]~[6]のいずれかに記載の調光
部材。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の調光部材が複数個積層される、積層型調光部材。
[9][1]~[7]のいずれかに記載の調光部材、又は請求項8に記載の積層型調光部材を有するスマートウィンドウ。
[10]負極と、正極と、該負極と正極とで挟持され、誘電性高分子材料を含むゲル層とを有し、かつ、前記負極及び前記正極のうち少なくともいずれか一方が、透光性を有し、かつ、前記正極と前記ゲル層との接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さい、調光部材を用い、
前記正極と前記負極との間に電圧を印加することにより、前記ゲル層の前記正極に接する部分の面積を増大させて透明度を増大させるステップを有する、調光方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、容易に大面積とすることができる調光部材、及び該調光部材を有するスマートウィンドウを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電圧の印加によるゲルの変位を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態である、ゲル層と該ゲル層を挟持する2つの電極とからなる単位構造を備える調光部材の構成を模式的に表す図である。
図3】本発明の一実施形態である、ゲル層と該ゲル層を挟持する2つの電極とからなる単位構造を備える調光部材の構成を模式的に表す図である。
図4】本発明の一実施形態である、ゲル層と該ゲル層を挟持する2つの電極とからなる単位構造を備える調光部材の構成を模式的に表す図である。
図5】本発明の一実施形態である、ゲル層と該ゲル層を挟持する2つの電極とからなる単位構造を備える調光部材の構成を模式的に表す図である。
図6】本発明の一実施形態である、ゲル層と該ゲル層を挟持する2つの電極とからなる単位構造を備える調光部材の構成を模式的に表す図である。
図7】本発明の一実施形態である、ゲル層と該ゲル層を挟持する2つの電極とからなる単位構造を備える調光部材の構成を模式的に表す図である。
図8A】本発明の一実施形態である調光部材における突部及びシート部を模式的に表す図である。
図8B】本発明の一実施形態である調光部材における突部を模式的に表す図である。
図8C】本発明の一実施形態である調光部材における突部及びシート部を模式的に表す図である。
図9】突部の形状の一例を説明するための図である。
図10】突部の形状の一例を説明するための図である。
図11】本発明の一実施形態である、隣接する調光部材の間に絶縁層を備える積層型の調光部材の構成を模式的に表した図である。
図12】本発明の一実施形態である、隣接する調光部材の間にゲル層を備える積層型の調光部材の構成を模式的に表す図である。
図13】実施例で用いた凹型の金型の成型側の面の平面図である。
図14】実施例で用いた凹型の金型における凹部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であること
を意味する。
また、本願図面における調光部材の構成等を示す図は、ゲル層や調光部材等の各構成を模式的に表したものであり、本発明は、これらの図中で表される各構成の大きさや各構成の大きさの比率に限定されない。
【0010】
また、本明細書において、「ゲル状」とは、流動性のあるゾル状の液体分散媒のコロイドが固化して弾性を維持しつつ自発的な流動性を喪失した状態をいい、そのような状態の物質を「ゲル状物質」(または、単に「ゲル」)と称する。
また、本明細書において、「複数」とは、「2以上」を意味する。
【0011】
<1.調光部材の構成>
本発明の一実施形態である調光部材(単に「調光部材」とも称する)は、負極と、正極と、該負極と該正極とで挟持され、誘電性高分子材料を含むゲル層とを有し、かつ、前記負極及び前記正極のうち少なくともいずれか一方が、透光性を有し、かつ、前記正極と前記ゲル層との接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さい、調光部材である。
【0012】
誘電性高分子を含むゲルに電圧を印加した場合のゲルの挙動を図1を用いて説明する。図1(A)は、正極と負極とで、誘電性高分子材料を含むゲルを挟持した構造を示す。このような構造、正極と負極との間に電圧を印加すると、図1(B)に示すように、負極からゲル状物質に電荷が流入する。その後、電圧を印加し続けると、図1(C)に示すように、電荷が正極付近に偏在し、正極の引力と電荷同士の反発力とから、正極上に電荷が広がり、負極上を這うようにゲルが移動する吸着作用が生じる。そして、この吸着作用によって、ゲルの厚さが減少するとともに、ゲル全体が電極に対して水平方向に広がる方向に変位する。電圧の印加を解除すると、図1(D)に示すように、電圧印加前の状態に戻る。
【0013】
上述のように、誘電性高分子を含むゲルは、電圧の印加によって電極に対して水平方向に広がるため、図2に示すように、正極とゲルとの接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さい構造とした場合、正極とゲルとが接触していない部分、つまり、正極と負極との間に存在する空気部分にゲルが移動する。電圧を印加していない状態、つまり、正極とゲル層とが接触していない部分が存在する場合、空気と、ゲルや正極との境界面が存在し、該境界面に起因して光が散乱してしまうため、調光部材の光透過率が低下する。例えば、ゲル層中のゲルが凹凸形成を有している場合、その凹凸の程度(例えば表面粗さ)が大きいほど、空気とゲルとの境界面が増加するため、光散乱の程度が増加して光透過率が低減する。一方で、電圧を印加すると、正極とゲル層とが接触していない部分にゲルが移動し、上記の境界面が減少するため、調光部材の光透過率が向上する。最も光透過率が高くなるのは、電極間がゲルで充たされたとき、つまり、空気とゲルや正極との境界がなくなったときである。さらに、ゲルの変化量は、印加する電圧の大きさによって変化させることができ、具体的には、印加する電圧を大きくすることによりゲルの変化量を大きくすることができるため、印加する電圧の大きさを制御することによって、調光部材の光透過率を制御することができる。なお、厳密には、光の散乱はゲルと正極との境界面でも生じる。しかし、通常、ゲルと正極との境界面における光の散乱の程度は、空気とゲルとの境界面や、空気と電極との境界面における光の散乱の程度よりも小さいため、電圧の印加による空気層とゲル層や電極との境界面の減少により、つまりゲルの凹凸の程度の減少により光透過率が向上する。
上述のように、正極とゲルとの接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さい構造を有する部材は、印加する電圧の大きさによって光透過率を変化させることができるため、調光部材として用いることができる。特に、図2のように、突形状のゲルを用いることにより、ゲルの移動量を大きくする構造を採用した場合、制御できる光の透過
率の範囲を広くすることができる。
なお、上記の説明では、ゲルが存在しない領域に存在する物質が空気であるとしたが、ゲルと光透過率の異なる物質であれば、任意の物質としてよい。
【0014】
調光部材として液晶の配向を利用した部材では、偏光板を要するために構造が複雑化してしまう問題が生じ、また、液晶分子の電圧印加時の配向を制御する手間を要するだけでなく、初期の液晶の配向を所望の状態にする手間も要する。さらに、液晶の流動性は液体の流動性に近い状態であるため、液晶漏れ等の安全面の問題や部材が肥大化してしまう問題も生じている。部材の面積の増大に伴い、これらの手間や問題の影響は大きくなる。
一方で、ゲルを利用する調光部材は、構造を簡易なものとすることができ、電圧の印加に伴う液晶における配向の制御は不要であり、電圧の印加に伴うゲルの移動量を制御することのみで調光することができ、上記の液晶と比較して、手間を要しない。構造の簡易性について、本実施形態に係るゲル層は、型押し等で簡単に作製することができる。さらに、ゲルは液晶よりも流動性が小さいため、液晶と比較して、安全面に優れ、薄膜化等のコンパクト化に対応しやすい。したがって、本実施形態に係る調光部材は、容易に大面積化することができる。
【0015】
<1-1.ゲル層>
ゲル層は、正極と負極とに挟持されており、正極との接触面積が負極との接触面積よりも小さければ、その態様は特段制限されない。本明細書において、ゲル層とは、特段の断りがない限り、正極と負極との間に存在するゲル全体を示す。
ゲル層中のゲルの形状は、少なくとも接触面積が上述の条件を充たしていれば特段制限されず、例えば、凸形状が正極方向になるように凹凸を有する形状であってよく、具体的には、図2に示すように、複数の突形状のゲルを有する形状であってもよい。ゲルが複数個で存在する場合、各々のゲルをゲル層として扱うのでなく、正極と負極との間に存在する複数のゲルをまとめて一つのゲル層として扱う。
以下、図2に示す複数の突形状のゲルを有する態様について詳細に説明するが、該説明における構造等の条件(例えば、ゲル層の厚さや、ゲル層と正極との接触面積等の条件)は、図2の態様に限定されるものではない。
なお、本明細書では、特段の断りがない限り、正極から負極に向かう方向を光の照射方向とする。
また、ゲル層に電圧を印加すると、吸着作用によって、図1に示すような正極へのゲルの広がりが生じるが、図2以降の図では、この広がりの描写は要略する。
【0016】
図2は、頂部と底面とを有する突部10を備えるゲル層11と、該突部10の頂部に接して配される正極12と、該正極12とともに該ゲル層を挟持する負極13と、を備える調光部材1である。本明細書では、この構成を有する調光部材の構造を「単位構造」と称する。なお、図2~7、9、及び10では、突部を複数備える態様を示しているが、ゲル層に備えられる突部の個数は1つであってもよく、複数であってもよい。
【0017】
図2に示す調光部材1について、図2の左図に示すように、正極と負極との間に電位差(電圧)が生じていない状態(電位差がゼロの状態)では、突部10は変位していないが、電位差が生じると、図2の右図に示すように、誘電性高分子材料を含む突部10が変位する。そして、正極と負極との間の電位差をゼロにすると、図2の左図の状態に戻る。さらに、突部10の変位の大きさは、正極と負極との間の電位差に応じて変化し、電位差が大きいほど突部10の変位量も大きくなる。
このように、調光部材1は、簡単な構造であるにも関わらず、正極と負極との間の空間の電極水平方向におけるゲルと空気との存在割合を容易に制御することができる、つまり容易に調光することできるため、大面積化を容易に達成することができる
【0018】
図2に示す調光部材1は、誘電性高分子材料を含む突部10が突形状であるため、平面方向へ突部10が変形し易い。これにより、調光部材全体の厚さを薄くしたり、製造工程を簡素化できたりする。また、平面構造だけでなく、任意の平面形状を有する構造又は曲面を有する構造に変形することも容易である。さらに、突部10を小さくすること等により、2つの電極の間の体積から突部10が占める体積部を除いた空間部を大きくすることにより、突部10の変位量を増大させることができる。
以上の点を踏まえて、本実施形態である調光部材の態様を詳細に説明する。
【0019】
[突部の構成]
以下、突部10の態様について説明するが、ゲル層11に備えられる突部10を複数個で用いる場合、それらの態様は、同じであっても、異なっていてもよい。また、ゲル層11に備えられる突部10を複数個で用いる場合、「突部」に関するサイズ又は特性値は、特段の断りがない限り、これらの複数の突部10の各々のサイズ又は特性値の平均値として算出する。例えば、「突部の高さ」とは、ゲル層に備えられる複数の突部の各々の高さの合計値を突部の個数で除して算出した値を意味する。
ゲル層11が突部10を備える態様は特段制限されず、例えば、図3に示すように、突部10と負極13との間に、誘電性高分子材料を含むシート部14を設ける態様(シート部の正極側に突部が形成される態様)とすることができ、また、図2に示すように、該シート部14を設けずに複数の突部10を直接負極13に設ける態様とすることもできるが、ゲル層の一体的成型が可能となり、生産性を向上させることができる観点、また、個々の突部10の脱落を抑制することができる観点から、複数の突部10と負極13との間に、誘電性高分子材料を含むシート部14を設ける態様が好ましい。さらに、突部、シート部、及び突部の順番で積層させるように、各部材の層を2層以上設けた態様としてもよい。
また、複数の突部10と負極13との間に、誘電性高分子材料を含むシート部14を設ける態様としては、図3に示すようにシート部上に複数の突部10同士が重ならずに密に配する構造としてもよく、また、図4に示すように突部10同士の間に隙間を設けるように複数の突部10を配する構造としてもよい。また、一部の突部10同士が近接し、その底面の一部が重なるような構造をしていてもよい。この場合、底面の大きさは、2つ以上の突部を有する1つの突部と見るのではなく、それぞれの突部の側面が、底面あるいは隣接する突部と接触している位置での一次元の大きさを考えればよい。また、上記の複数の構造を組み合わせた構造としてもよい。
なお、ゲル層11について、ゲル層11の全体が2つの電極の間の空間に存在するような態様としてもよく、また、ゲル層11の一部が2つの電極の間の空間の外にも飛び出して存在するような態様としてもよい。この場合、ゲル層の条件は、飛び出しているゲル層は考慮せず、2つの電極に挟持された領域に存在するゲル層に基づき求められる。
なお、本明細書における「突部」の記載は、特段の断りがない限り、ゲル層に備えられる1つの独立した、頂部と底面とを有する突形状のゲル状物質を示し、さらに、「ゲル層」の記載は、特段の断りが無い限り、1つのゲル層に備えられる全ての突部を含む概念である。
【0020】
また、本明細書において、突部の形状を表す「突形状」とは、柱形状や、底面から頂部に向かって側面の面積が減少する形状を意味するが、小さな電圧で大きなゲルの変位を確保できる、またゲルの変位幅を大きくできる観点から、特に底面から頂部に向かって側面の面積が減少する形状であることが好ましく、この場合、どのように減少するかは特段制限されないが、この面積が単調に減少する形状であることが好ましい。柱形状の場合、正極とゲル層との接触面積が、負極とゲル層との接触面積よりも小さい、という要件を満たすため、例えば、図5(a)に示すように、柱形状の突部の負極側に該柱形状の底面より大きな土台となるゲルを設ける態様としたり、また、図5(b)に示すように、後述するシート部を設ける態様としたりすることができる。また、底面から頂部に向かって側面の
面積が減少する形状の場合、シート例えば、図6に示すように錐の形状である態様(突部10と正極12が点で接している態様)、また、図2や3に示すように錐の頂部が切り取られて平面となっている(頂部が平面を有する)形状、つまり、断面が台形となっている形状である態様(突部10と正極12が面で接している態様)のどちらも含むが、電極との接する部分がある程度の面積を有することで、ゲルが変形しやすくなり元の形に戻りやすく、また応答速度が向上する観点から、頂部が平面を有する形状であることが好ましい。なお、後者の態様において、実質的に、錐の一部が切り取られていると認識し得る範囲で切り取られていれば、頂部が切り取られる位置は特段制限されず、例えば、錐の頂点から錐の高さの30%の長さまでの範囲で切り取られる態様が挙げられる。
また、底面から頂部に向かって側面の面積が減少する形状としては、図2に示す突部の側面の面積が直線的に(単調に)減少する形状以外に、図7に示すように、曲線的に減少する形状であってもよい(図7(a)は、突部の側面が負極から正極にかけて上に凸の二次曲線的に増加する態様であり、図7(b)は、下に凸の二次曲線的に増加する態様である)。なお、該図7では、電圧の印加によるゲルの変位は示していない。
また、図3や4等には、後述するシート部14を設ける態様が示されているが、該シート部14も誘電性高分子材料を含んでいるため、突部10と同様に、電圧の印加により変位する。突部10とシート部14とが異なる部材として備えられる場合、突部10とシート部14とでそれぞれ変位が生じ、また、突部10とシート部14とが一体の部材として備えられる場合、突部10とシート部14との一体の部材として変位が生じる。
以下、突部の形状が底面から頂部に向かって側面の面積が減少する形状である態様の説明を行う。
【0021】
突部10の形状は、突形状であれば特段制限されない。また、突部10の底面の形状は特段制限されず、例えば、円(この場合、突部は円錐型となる)や多角形(この場合、突部10は多角錐型となる)とすることができる。突部10の形状は、製造しやすさの観点から、多角錐型、特に、四角錐型、さらには、正四角錐型が好ましい。
【0022】
突部のサイズは、特段制限されず、例えば、図8A及び図8Bに示す、底面の最小幅W、突部の高さHp、及び頂角θは、以下の条件とすることができる。なお、図8Aは、シート部を備える態様であり、図8Bは、シート部を備えない態様である。また、シート部を備える図8Aの態様においては、突部の高さHpとシート部の高さHsとの合計がゲル層の高さHgとなり、シート部を備えない図8Bの態様においては、ゲル層の高さHgと突部の高さHpとは同一となる。また、一部の突部10同士が近接し、その底面の一部が重なるような構造となっており、かつ、シート部を備える場合には、図8Cに示すような態様でW、Hp、Hp、Hg及びθを求める。この場合、Hp及びHpは、隣接する突部同士から形成される谷部の頂点から頂点とは反対側の電極に対して垂直に下した線の長さ(「谷部の長さ」とも称する。)であり、突部の高さHpは、Hp及びHpの平均値で算出される。複数の異なる谷部の長さを有する構造において、図8Cでは、谷部の長さとしてHp及びHpの2つの長さのみが示されているが、3つ以上の異なる谷部の長さを有する場合には、それぞれの谷部の長さを、その存在比によって重みづけした平均値としてHpを算出する。さらに、図8Cの場合において、シート部の高さHsは、ゲル層の高さHgから、谷部の長さの平均値として算出されたHpを減じた値となる。
なお、突部の形状が複雑であったり、シート部が曲面であったりする場合には、底面の最小幅Wを求める際に、便宜上その突起の裾を周とする底面の最小幅W’で考えてよい。通常はW≦W’となるため、例えば、W’が1mm以下であれば当然Wも1mm以下になるため、そのように考えてもよい。
また、下記の突部の各サイズの条件は、特段の断りがない限り、変位させる前における条件である。
また、複数の突部のサイズは、それぞれが同一であっても、異なっていてもよいが、例えば、生産性を向上させる観点からは、同一であることが好ましい。また、平面の高さ方
向に変形する調光部材において、ゲルの変位量を面内で不均等としたい場合(あるいは印加電圧が面方向で均等でない場合)、複数の突部の高さをそれぞれ調整することが好ましい。逆に言えば面内でのゲルの変位量を均等にしたい場合には、突部の形状を均一にすることが好ましく、具体的には、隣接する突部同士の1次元のスケールが10%以下でそろっているものが好ましい。
【0023】
突部の底面の最小幅Wは、特段制限されないが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、また、1mm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、700μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましく、400μm以下であることが特に好ましい。突部の底面の最小幅が上記各上限以下とすることで突部体積がより小さくなるため変形がより容易になり、一方で、上記各下限より大きいことで所望のゲルの変位量を確保することができる。なお、突部の底面の最小幅とは、突部の底面の重心を通る線と底面の周を形成する線との交点である2つの点で結ばれ得る線のうち、最も長さが短くなる線の長さ、という意味であり、例えば、突部の底面の形状が円である場合、その円の直径であり、また、突部の底面の形状が正方形である場合、その正方形の縦(又は横)の長さである。また、突部の個数が複数である場合、複数の突部において、底面の形状が2種類以上存在する場合には、それぞれの突部の底面の最小幅を、その存在比によって重みづけした平均値とする。
突部の高さ(突部の底面から頂点までの長さ)Hpは特段制限されないが、所望のゲルの変位量を確保する観点から、通常20μm以上であり、25μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、また、通常3mm以下であり、2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
突部の頂角θは特段制限されないが、所望のゲルの変位量を確保する観点から、通常15°以上であり、30°以上であることが好ましく、45°以上であることがより好ましく、また、通常75°以下であり、70°以下であることが好ましく、65°以下であることがより好ましい。突部の頂角θとは、突部の頂部から取り得る角度の平均値である。なお、頂部から取り得る角度が複数ある場合、それぞれの頂角θを、その存在比によって重みづけした平均値として頂角θを求める。
【0024】
突部の底面積は特段制限されないが、所望のゲルの変位量を確保する観点から、通常80μm以上であり、100μm以上であることが好ましく、1000μm以上であることがより好ましい。突部10の底面積の上限は特段制限されず、電極面積より小さくすることが挙げられる。
【0025】
突部10が、図2に示すように、錐の頂部が切り取られて平面となっている形状である態様(突部10と正極12が面で接している態様)の場合、突部10の頂部と正極12とが接する面の最小幅は、特段制限されないが、調光部材1の耐久性や、応答速度の観点から、通常0.1μm以上であり、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、また、通常300μm以下であり、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。なお、突部10の頂部と正極12とが接する面の最小幅は、上述の突部10の底面の最小幅と同様にして長さを選定する。以下、上記の平面を「頂面」とも称する。
また、上記の態様の場合、突部10の頂面の面積は、用途や電極の面積に応じて任意に設計し得るが、調光部材1の耐久性や、応答速度の観点から、通常0.008μm以上であり、0.01μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。突部10の頂面の面積の上限は特段制限されず、電極面積より小さくすることが挙げられる。
また、上記の態様の場合、突部10の頂面の周長は、用途や電極の面積に応じて任意に
設計し得るが、調光部材1の耐久性や、応答速度の観点から、通常0.3μm以上であり、1.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。突部10の頂面の周長の上限は特段制限されず、例えば、100000μm以下とすることが挙げられる。
また、上記の態様の場合、突部10の底面の面積に対する頂面の面積の比率は、特段制限されないが、用途や電極の面積に応じて任意に設計し得るが、繰り返し変形させる観点から、通常1/10000以上であり、1/5000以上であることが好ましく、1/1000以上であることがより好ましく、また、通常1/1以下であり、1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4以下であることがさらに好ましく、1/10以下であることが特に好ましい。
【0026】
ゲル層11に備えられる突部10の個数は、特段制限されず、1であっても複数であってもよいが、用途や電極の面積に応じて適宜設計し得るが、効率的な動作を実現する観点から、複数個であることが好ましく、さらに、均等な変形を促すための観点から、1mmあたり通常1以上であり、好ましくは4以上であり、より好ましくは10以上であり、一方で、通常20000以下であり、好ましくは10000以下であり、より好ましくは5000以下であり、特に好ましくは1000以下であり、最も好ましくは500以下である。
なお、複数の突部10は、規則的に配置されてよく、不規則であってよい。
【0027】
調光部材1の全体の重量に対するゲル層11の総重量は、調光部材1の用途に応じて任意に選択できるが、特に調光部材1の変位長を確保する観点から、通常10重量%以上であり、好ましくは15重量%以上であり、より好ましくは18重量%以上であり、さらに好ましくは20重量%以上であり、特に好ましくは22重量%以上であり、また、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは45重量%以下であり、さらに好ましくは43重量%以下であり、特に好ましくは40重量%以下である。
ゲル層11の全体の重量に対する複数の突部10の総重量の割合は、調光部材1の用途に応じて任意に選択できるが、特に調光部材の変位長を確保する観点から、通常0.7重量%以上であり、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上であり、特に好ましくは8重量%以上であり、また、好ましくは99.9重量%以下であり、より好ましくは90重量%以下であり、さらに好ましくは80重量%以下であり、特に好ましくは70重量%以下である。
調光部材1の全体の厚さに対するゲル層11の厚さの割合は、調光部材1の用途に応じて任意に選択できるが、通常0.1~99.98%であり、1~95%であることが好ましく、5~90%であることがより好ましく、10~85%であることがさらに好ましい。上記の下限以上とすることにより、無荷電状態でゲル層が潰れてしまうことにより、調光部材の正確な制御ができなくなってしまう影響を小さくできるため好ましく、また、上記の上限以下とすることにより、電極との接触確率を十分に維持でき、所望のゲルの変位量を確保することができる。
【0028】
上述の突部に関する説明は、図9に示すような山形状を有することを想定して行われている。ただし、山形状の突部の態様が図9の形状に限定されないことは、上述の通りである。また、図9に示すように、突部の底面が円形である場合、図9におけるW1は、となり、W2は突部の頂面の幅、突部の底面の幅となる。なお、図9では、正極を省略している。
一方で、本実施形態に係る突部は、図9に示すような山形状のみでなく、図10に示すような山脈形状を有していてもよい。この山脈形状は、図9の山形状を一方向に長くした態様であると考えることができる。また、山形状と同様に、山脈形状もその態様は特段制限されず、上述した山形状の種々の態様に準じて種々の態様で変形し得る。例えば、図10におけるW3の条件は、上述した「突部10の頂部と正極12とが接する面の最小幅」
の条件を適用することができ、また、W4の条件は、上述した「突部の底面の最小幅W」の条件を適用することができる。なお、図10では、正極を省略している。
なお、図9におけるP-P’矢視断面図、及び図10におけるQ-Q’矢視断面図は、いずれも、図3に示す態様の正極を省略した形状と同一となる。
【0029】
[突部の材料]
ゲル層に備えられる突部の材料は、誘電性高分子材料を含んでいれば、特段限定されず、以下に示す態様以外だけでなく、特開2012-23843号公報や特開2014-32162号公報等に開示されるアクチュエータやセンサーに用い得るゲルの原料を用いることができる。また、ゲル層が備える突部の材料は、同じであっても、異なっていてもよいが、印加電圧に対するゲルの変位量を均一にできる観点から、同じであることが好ましい。
突部の材料は、電圧の印加により変形する誘電性高分子材料を含めば特段制限されない。突部10に含まれる誘電性高分子材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン6、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタレート、及びポリアクリロニトリル、シリコーンゴム等を用いることができる。これらの中でも、印加電圧に対するゲルの変位量を大きくできる観点から、ポリ塩化ビニル及びポリビニルブチラールが好ましく、ポリ塩化ビニルが特に好ましい。これらの誘電性高分子材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで用いてもよい。また、これらの誘電性高分子材料の製法は、特段限定されず、一般に市販されているものを用いることができる。
【0030】
突部中の誘電性高分子材料の含有量は、特段制限されないが、十分なゲルの変位量を確保する観点から、通常5重量%以上であり、好ましくは8重量%以上であり、より好ましくは10重量%以上であり、さらに好ましくは12重量%以上であり、特に好ましくは15重量%以上であり、また、好ましくは60重量%以下であり、より好ましくは50重量%以下であり、さらに好ましくは45重量%以下であり、特に好ましくは40重量%以下である。
【0031】
誘電性高分子材料として、ポリ塩化ビニルを用いる場合、その数平均分子量(Mn)は、特段制限されないが、十分なゲルの変位量を確保する観点から、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算で、7万以上20万以下であるが、好ましくは7.5万以上であり、より好ましくは8万以上であり、さらに好ましくは8.5万以上であり、特に好ましくは9万以上であり、また、好ましくは18万以下であり、より好ましくは16万以下であり、さらに好ましくは14万以下であり、特に好ましくは12万以下である。ポリ塩化ビニルの数平均分子量(Mn)を7万以上とすることで、得られたゲルの強度が安定し、電気的特性が安定しやすくなる。一方で、20万以下とすることにより、得られたゲルが固くなりすぎず、ゲルが容易に変形できる。
【0032】
また、誘電性高分子材料として、ポリビニルブチラールを用いる場合、その数平均分子量(Mn)は、十分なゲルの変位量を確保する観点から、6万以上15万以下であるが、好ましくは7万以上であり、より好ましくは8万以上であり、また、好ましくは14万以下であり、より好ましくは13万以下である。ポリビニルブチラールの数平均分子量を上述のそれぞれの数平均分子量以上とすることで、連続したシート化を容易にすることができ、取り扱いが容易になる。一方上述のそれぞれの数平均分子量以下とすることで、適度な硬度となり、ゲルの変位を安定して確保できる。
なお、ここでいう数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の値を用いる。また市販品を使用する場合には、使用する製品によっては数平均分子量ではなく、計算分子量が記載されていることがあるが、数平均分子量と計算分
子量は実質的に同様の値になるため、計算分子量も同様の範囲で用いることができる。
【0033】
突部は、本発明の効果が発揮される範囲において、上記の誘電性高分子材料以外の材料を含んでいてもよく、例えば、可塑剤や電荷補足剤等が挙げられる。
【0034】
可塑剤の種類は、特段限定されないが、電圧印可時のゲルの変位量の大きさや応答速度の観点から、エステル系可塑剤であることが好ましく、例えば、ジオールジエステル、ジカルボン酸ジエステル、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジエタノールアミン(DEA)等が挙げられる。ジカルボン酸エステルとしては、例えばアジピン酸ジブチル(DBA)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、コハク酸ジエチル(DESuc)、アジピン酸ジメチル(DMA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジブチル(DBSeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)等が挙げられる。これらの中でも、比較的取扱いやすく安定なゲル物質を得るための観点から、ジオールジエステル及びジカルボン酸ジエステルが好ましく、特に、誘電性高分子としてポリ塩化ビニルを用いた場合にはジオールジエステルやジカルボン酸ジエステルを用いることが好ましく、また、誘電性高分子としてポリビニルブチラールを用いた場合にはジカルボン酸ジエステルを用いることが好ましい。これらの誘電性高分子材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで用いてもよい。また、これらの誘電性高分子材料の製法は、特段限定されず、一般に市販されているものを用いることができる。
【0035】
突部中の可塑剤の含有量は、特段制限されないが、良好な変位長の確保とゲル表面のべたつき抑制の観点から、通常55重量%以上であり、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは65重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上であり、特に好ましくは75重量%以上であり、また、好ましくは95重量%以下であり、より好ましくは93重量%以下であり、さらに好ましくは90重量%以下であり、特に好ましくは85重量%以下である。
【0036】
電荷補足剤の種類は、特段限定されないが、例えば、テトラシアノキノジメタン、2,4,7-トリニトロフルオレン-9-オンが挙げられる。
【0037】
突部中の電荷補足剤の含有量は、特段制限されないが、良好な変位長の確保の観点から、通常0.01重量%以上であり、好ましくは0.02重量%以上であり、より好ましくは0.03重量%以上であり、さらに好ましくは0.05重量%以上であり、特に好ましくは0.1重量%以上であり、また、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以下である。
【0038】
突部の密度は、通常0.7~1.5g/cmであり、0.8~1.4g/cmであることが好ましく、0.85~1.35g/cmであることがより好ましい。
突部の密度が上記範囲内であると、厚みが薄くなっても荷重を支えることが可能であり、厚みが厚くなっても調光部材の重量の増加を抑えることが可能であるという利点がある。なお、測定方法については、一般的な密度の測定方法を適用できる。
【0039】
[シート部の構成]
上述したように、ゲル層11は、図3に示すように、突部10と負極13との間に、誘電性高分子材料を含むシート部14を設けてもよい。シート部14の態様は、シート形状であり、負極と接する側と反対側の面に突部10を設けることができれば特段制限されない。
シート部14の高さHsは、用途や電極の面積に応じて適宜設計し得るが、軽量化の観点から、通常1μm以上であり、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、また、通常1000μm以下であり、900μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましい。
シート部のサイズは、特段制限されず、例えば、接触する電極と同じサイズ、又はそれより小さいサイズとすることができる。
【0040】
[シート部の材料]
シート部14の材料は、誘電性高分子材料を含んでいれば特段制限されず、具体的な条件は、上述の突部10で示した条件と同様とすることができる。
シート部14の材料は、突部10と同一であってもよく、異なっていてもよいが、生産性向上の観点及び均質な特性が得られる観点から、同一であることが好ましく、同一とする場合には、例えば、凹部を有する鋳型に材料を供給することにより、突部10とシート部14とが一体成型したゲル層を得ることができる。
【0041】
<1.2.電極>
負極13及び正極12は、これらのうち少なくともいずれか一方が、透光性を有していれば、その態様は特段制限されない。つまり、負極13又は正極12の一方が透光性を有しており、もう一方が透光性を有していない態様であっても、双方が透光性を有していてもよい。
負極13又は正極12の一方が透光性を有しており、もう一方が透光性を有していない態様では、例えば、透光性を有していない電極のゲル層が存在する側の面に観察対象となる文字や図等が記載される調光部材であって、かつ該調光部材の透光性を有する電極側の面を外部から観察する際において、電圧印加のオン/オフにより、透光性を有していない電極に記載される観察対象を視認できるか否かを制御することができる(電圧を印加していないときには対象を視認できないが、電圧を印加することにより対象を視認できるになる)。
負極13及び正極12の双方が透光性を有する場合、例えば、調光部材の一方の面を外部から観察する際において、電圧印加のオン/オフにより、調光部材を挟んで反対側に存在する対象を視認できるか否かを制御することができる(電圧を印加していないときには対象を視認できないが、電圧を印加することにより対象を視認できるになる)。
【0042】
以下、負極13及び正極12の態様について説明するが、特段の断りなく「電極」と記載するものは、負極13及び正極12のいずれも対象となることを意味する。なお、負極と正極とは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
電極12の形状は、特段制限されず、ゲルが移動できる空間がある形状であってもよく、また、当該空間がない形状であってもよい。ゲルが移動できる空間がある形状とは、例えば、正極のゲル層が存在する側の面の一部に切欠きを有する形状、凹凸を有する形状等が挙げられる。電極の面積は、用途に応じて任意に選択することができる。
上記の空間がある形状の場合、ゲルの変形の制御が難しくなるため、空間がない形状である方が好ましい。
【0043】
電極の厚さは、調光部材の用途に応じて任意に選択することができ、通常0.01~2mmであり、0.012~0.9mmであることが好ましく、0.015~0.8mmであることがより好ましい。
【0044】
電極の材料は、導電性を有していれば特段制限されず、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属あるいはそれらの合金(例えば、ステンレス鋼や黄銅)あるいはそれらの金属や合金を含む化合物(ZnO等);これらの金属や合金等からなるワイヤ;酸化インジウムや酸
化錫等の金属酸化物、あるいはその合金(酸化インジウムスズ(ITO)等);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを含有させたもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に、電気特性や加工性、生産性の観点からは、ステンレス鋼や黄銅が好ましい。
透光性を有する電極の材料としては、上述した材料のうち、透光性を有するものを選択すればよく、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、Agワイヤ等の金属ワイヤ、導電性高分子、ZnO、カーボンナノチューブ等が挙げられ、透明性と抵抗値の観点から、酸化インジウムスズ、Agワイヤ、導電性高分子であることが好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、負極13及び正極12は、これらのうち少なくともいずれか一方が、透光性を有していればよいが、電圧印可時のゲルの動作と調光性の制御性の観点から、正極が透光性を有していることが好ましい。
【0045】
透光性を有する電極の光の透過率は、用途に応じて適宜変更できるが、オン状態とオフ状態の透過率の差を大きくする観点から、通常40%以上であり、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましく、また、上限を設定することは要しないが、通常92%以下である。透過率は、例えば、日本電色工業社製HazeMeterNDH7000SPII等によりJIS K7361-1に準拠して測定することができる。
【0046】
透光性を有する電極のHazeは、用途に応じて適宜変更できるが、オン状態とオフ状態のHazeの差を大きくする観点から、印加電圧400VのときのHazeとして、通常90%以下であり、85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることがさらに好ましく、70%以下であることが特に好ましく、また、下限を設定することは要しないが、通常0.1%以上である。Hazeは、例えば、日本電色工業社製HazeMeterNDH7000SPII等によりJIS K7136に準拠して、測定することができる。
【0047】
<その他の部材>
調光部材は、上記のゲル層、正極、及び負極以外の部材を有していてよく、例えば、正極と負極との間の短絡を防止するために、正極と負極との間の空間におけるゲルが存在する領域以外の領域にPETフィルム等の絶縁性のフィルムを配置してよい。
【0048】
<1.3.積層型調光部材>
調光部材は、上記の単位構造を、単独で用いる、又は厚さ方向(突起部の高さ方向)に複数個積層させて作製した積層型調光部材として用いることができる。積層する態様は特段制限されず、例えば、調光部材と調光部材とを電気的に絶縁する配置で積層する態様であってもよく、また、上記のゲル層のような分極を生じ得る材料を介して積層する態様であってもよい。具体的には、図11に示すように、隣接する調光部材の間に絶縁層を備えて積層させる態様、また、図12に示すように、隣接する調光部材の間にゲル層を備えて積層させる態様とすることができる。
上記の絶縁層の種類は、特段限定されず、例えば、上記の短絡防止用の絶縁性のフィルムに用い得るPETフィルムを用いてよく、また、シリコンの熱酸化膜(SiO)、Si、ZrO、Y、ZnO、Al等を用いてもよいが、透光性を有するPETフィルムが好ましい。また、絶縁層の厚さは、用途に応じて適宜選択することができるが、良好な絶縁性を保持しつつ小型化を可能とする観点から、通常10nm~10
mmであり、好ましくは1μm~5mmである。
なお、積層型調光部材において、該積層型調光部材を構成する各部材の特性は、積層型調光部材全体で評価してもよく、ゲル層と該ゲル層を厚さ方向に挟持する2つの電極とからなる単位構造ごとに評価してもよい。
【0049】
積層型調光部材の別の実施形態として、上記の単位構造に、さらに第二のゲル層及び第三の電極が積層される構造、つまり、正極、第一ゲル層、負極、第二ゲル層、正極(又は、負極、第一ゲル層、正極、第二ゲル層、負極)が積層される構造を有する調光部材とすることもできる。
【0050】
積層型は、単層型と比較して、より微細な範囲で透過率の制御を行うことが可能であるという点でメリットがあるが、光の透過率の数値自体が小さくなってしまうという点でデメリットがある。
【0051】
<1.4.調光部材の特性>
[透過率]
負極及び正極が透光性を有する場合、調光部材の光の透過率は、用途に応じて適宜変更できるが、オン状態とオフ状態の透過率の差を大きくする観点から、印加電圧400Vのときの透過率として、通常40%以上であり、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましく、また、上限を設定することは要しないが、通常92%以下である。透過率は、例えば、日本電色製分HazeMeterNDH7000SPII等によりJIS K7361-1に準拠して測定することができる。
また、調光部材について、電圧を印加していないときの光の透過率と、400Vの電圧を印加した際の光の透過率との差は、用途に応じて適宜変更できるが、幅広い用途で用いることができる観点から、通常1%以上であり、2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましく、5%以上であることが特に好ましく、また、上限を設定することは要しないが、通常92%以下である。
調光部材の光の透過率は、上述した正極の光の透過率の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0052】
[Haze]
負極及び正極が透光性を有する場合、調光部材のHazeは、用途に応じて適宜変更できるが、オン状態とオフ状態のHazeの差を大きくする観点から、印加電圧400VのときのHazeとして、通常90%以下であり、85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることがさらに好ましく、70%以下であることが特に好ましく、また、上限を設定することは要しないが、通常0.1%以上である。
調光部材のHazeは、上述した正極のHazeの測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0053】
<2.調光部材の製造方法>
上述の調光部材の製造方法は、特段制限されず、ゲルセンサーやゲルアクチュエータを製造するために用いられる公知の方法を採用することができる。以下に該製造方法の一例を示す。以下に説明する方法は、シート部を有するゲル層を備えた調光部材の製造方法であるが、型の形状の変更等により、シート部を有さないゲル層を備えた調光部材の製造方法にも適用できる。
【0054】
<2.1.ゲル層の製造>
まず、上述の調光部材を製造するため、ゲル層として誘電性高分子ゲルを製造する。
誘電性高分子ゲルの製造方法の一つであり、本発明の別の実施形態であるゲルの製造方法(単に「ゲル製造方法」とも称する)は、
誘電性高分子材料を含む組成物を加熱によりゲル化させてゲルを得る第一工程、
該ゲルを型に仕込み、加熱及び加圧することによりゲルシートを得る第二工程、及び
該ゲルシートを加熱した後、突部を形成するための凹型の型を該ゲルシートに圧着し、冷却することで、該ゲルシートの表面に突部を形成する第三工程、
を含む、突型誘電性高分子ゲルの製造方法である。
以下、この製造方法について説明するが、該方法は、下記の第一工程、第二工程及び第三工程以外に任意の工程を含んでよい。例えば、第一工程の前、各工程間、第三工程の後に任意の工程を設けることができる。また、第一工程から第三工程を連続的に行ってもよく、第二工程と第三工程は同時に行うことも可能である。
【0055】
第一工程(ゲル化工程)では、誘電性高分子材料を含む組成物を混合し、加熱することにより、該組成物をゲル化してゲルを得る。誘電性高分子材料の条件や誘電性高分子材料以外に該組成物に含まれ得る材料としては、上述の突部の材料に記載した条件や材料が挙げられ、特に、誘電性高分子材料としてポリ塩化ビニルを用いること、さらに、エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0056】
以下、ポリ塩化ビニル及びエステル系可塑剤を用いた場合に特に好適な条件ついて述べる。これらの材料を用いた場合、材料の乾燥収縮が非常に小さいため、所望の形状が得やすくなる。
加熱することで、エステル系可塑剤がポリ塩化ビニルに含浸し、一体化する。加熱温度は、エステル系可塑剤の種類によって異なるが、概ね80℃~200℃の範囲である。80℃より低いと、エステル系可塑剤がポリ塩化ビニルに含浸しにくくなる。また、加熱温度は、200℃より高いとポリ塩化ビニルが熱分解しやすくなり好ましくない。より好ましくは90℃以上であり、さらに好ましくは100℃以上である。また、より好ましくは190℃以下であり、さらに好ましくは180℃以下である。
混合時間は1分~5時間程度である。混合時間が1分より短いと、エステル系可塑剤の含浸が不十分となり、後の工程で、エステル系可塑剤がしみ出る可能性がある。混合時間が5時間より長いとポリ塩化ビニルが熱分解しやすくなり好ましくない。
第一工程は、バッチ式の容器にポリ塩化ビニルとエステル系可塑剤を仕込み、混合しながら加熱してもよいし、連続式の混練機等に、定量的にポリ塩化ビニルとエステル系可塑剤投入しながら、加熱混練してもよい。
【0057】
第二工程(シート成型工程)では、第一工程で得られた高分子ゲルを型に仕込み、加熱及び加圧することにより高分子ゲルシートを得る。加熱温度は、エステル系可塑剤の種類によって異なるが、概ね130℃~200℃の範囲である。130℃より低いと、高分子ゲルが可塑化せず、シート状に成形することが困難になる。また、200℃より高いとポリ塩化ビニルが熱分解しやすくなり好ましくない。
加圧はエステル系可塑剤の種類によって異なるが、一般的な圧力の範囲でよく、例えば0.1MPa以上であり、20MPa以下である。
また、成型に際し、スペーサー等を用い、適当な大きさ、厚みに加工することが可能である。加熱、加圧により適当なシートに成形した後は、冷却により再度ゲル化させる。
【0058】
第三工程(突部成型工程)では、第二工程で得られた高分子ゲルシートを加熱した後、突部を形成するための凹型の型を該高分子ゲルシートに圧着し、冷却することで、高分子ゲルシート表面に突部を形成する。
この際、凹型は、樹脂型であっても金型であっても構わないが、金型の方が、強度および耐熱性の点で好ましい。また、凹型の形状の条件は、上述のゲル層を得られるような数値に設定することが好ましい。加熱温度は、エステル系可塑剤の種類によって異なるが、
概ね130℃~200℃の範囲である。130℃より低いと、高分子ゲルが可塑化せず、突形状を形成することが困難になる。また、200℃より高いとポリ塩化ビニルが熱分解しやすくなり好ましくない。また、高分子ゲルシートと凹型の間を減圧してから、圧着してもよい。圧着するための加圧は、一般的な圧力の範囲でよく、例えば0.1MPa以上であり、20MPa以下である。圧着後は冷却し、凹型を除去することで、高分子ゲルシート表面に突形状を形成することができる。
【0059】
<2.2.ゲル層と電極との組合せ>
調光部材は、最終的に、ゲル層を2つの電極で挟持する工程を経て製造される。
ゲル層としては、上述したゲル層や、上述の方法により製造された突型誘電性高分子ゲルを用いることができる。
ゲル層と電極とを組み合わせる方法は、特段制限されず、接着剤を用いずにゲル層を電極で単に挟持する方法でもよく、また、接着剤を用いてゲル層と電極とを接着する方法でもよい。
接着剤としては、印加電圧によるゲルの変位を抑制しないものが好ましく、例えば、ポリビニルブチラールを用いることができる。
【0060】
<3.調光部材の用途>
上記の調光部材や積層型調光部材は、調光性が要求される製品であれば用途は限定されず、例えば、オフィスや店舗等の空間を分割するための仕切りや、ショーウィンドウ等のディスプレイ、日光や照明光を遮るための遮蔽板等に用いられるスマートウィンドウや、SWを入れると表示が現れるような表示板やミラー及び反射板、等に用いる(備える)ことができる。
【0061】
<4.調光方法>
本発明の別の実施形態である調光方法(単に「調光方法」とも称する)は、負極と、正極と、該負極と正極とで挟持され、誘電性高分子材料を含むゲル層とを有し、かつ、前記負極及び前記正極のうち少なくともいずれか一方が、透光性を有し、かつ、前記正極と前記ゲル層との接触面積が、前記負極と前記ゲル層との接触面積よりも小さい、調光部材を用い、
前記正極と前記負極との間に電圧を印加することにより、前記ゲル層の前記正極に接する部分の面積を増大させて透明度を増大させるステップを有する、調光方法である。
この調光方法は、上記の透明度を増大させるステップ以外の任意のステップを有していてよい。
また、調光部材の構造や特性の条件は、上述した実施形態である調光部材の構造や特性の条件を適用することができる。
【0062】
調光方法は、上記の透明度を増大させるステップだけでなく、電圧の印加を解除することにより、前記ゲル層の前記正極に接する部分の面積を減少させて透明度を減少させるステップを有していてよく、これらのステップを任意に組み合わせることにより、光の透過を任意に制御することができる。
【実施例
【0063】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
[調光部材の作製]
<実施例1>
セパラブルフラスコにポリ塩化ビニル(新第一塩ビ社製1700Z)20重量部、ジブチルアジぺート(東京化成社製)80重量部を測り取った。このセパラブルフラスコに攪
拌翼をセットし、90rpmで攪拌しながら、120℃の油浴中で30分加熱し、高分子ゲルを得た。該高分子ゲルを冷却後に取り出し、70mmφ×0.7mmのスペーサー中に3.6gの高分子ゲルを仕込み、フェロ板ではさんだ。井元製作所製手動油圧加熱プレス機を用いて、150℃で、スペーサー圧力2MPaで加圧し、冷却して、高さ0.63mmの高分子ゲルシートを得た。
凹型として、図13及び図14に示すような、1辺約100μm(図13及び図14中のm)、高さ約69μm(図14中のh)、先端断面(頂面)の1辺約10μm(図14中のn)、頂角65°(図14中のθ)の錐型の凹部(空洞部)を250個×250個で並べた1辺25000μm(図13中のM)の金型を準備した。なお、図14の下図は、図14の上図におけるA-A’矢視断面図である。
先に得られた高分子ゲルシート上に図13に示す凹型をあて、真空加熱プレス機にセットし、真空下、150℃、0.1MPaでプレスを行い、表面に錐型を形成した突部付き高分子ゲルシートを得た。
レーザー顕微鏡で観察した結果、突部の高さ(Hp)は63μmであった。また突部の高さはほぼ均一であり、最近接している4つの突部と測定した突部の高さの差は、型を使用しているため5%以下となる。なお、上から型押ししているため、m、n、突部の底面の最小幅(1辺の長さと同じ)については上記の凹型の金型とほぼ同じ大きさになる。
最後に、得られた突部付き高分子ゲルシート(ゲル層)の両面を0.71mm厚の透明電極(ITOガラス)(透過率88%、Haze0.5%)ではさみ、調光部材を作製した。
【0065】
<実施例2>
実施例1と同様の方法で高分子ゲルシートを得た。
凹型として、図13及び図14に示すような、1辺約250μm(図13及び図14中のm)、高さ約180μm(図14中のh)、先端断面(頂面)の1辺約20μm(図14中のn)、頂角65°(図14中のθ)の錐型の凹部(空洞部)を100個×100個で並べた1辺25000μm(図13中のM)の金型を準備した。なお、図14の下図は、図14の上図におけるA-A’矢視断面図である。
先に得られた高分子ゲルシート上に図13に示す凹型をあて、真空加熱プレス機にセットし、真空下、150℃、0.1MPaでプレスを行い、表面に錐型を形成した突部付き高分子ゲルシートを得た。
レーザー顕微鏡で観察した結果、突部の高さ(Hp)は152μmであった。また突部の高さはほぼ均一であり、最近接している4つの突部と測定した突部の高さの差は、型を使用しているため5%以下となる。なお、上から型押ししているため、m、n、突部の底面の最小幅(1辺の長さと同じ)については上記の凹型の金型とほぼ同じ大きさになる。
最後に、得られた突部付き高分子ゲルシート(ゲル層)の両面を0.71mm厚の透明電極(ITOガラス)(透過率88%、Haze0.5%)ではさみ、調光部材を作製した。
【0066】
<実施例3>
実施例1と同様の方法で高分子ゲルシートを得た。
凹型として、図13及び図14に示すような、1辺約50μm(図13及び図14中のm、最小幅は50μm)、高さ約43μm(図14中のh)、先端断面(頂面)の1辺約2.5μm(図14中のn)、頂角65°の錐型の凹部(空洞部)を1000個×1000個で並べた1辺50000μm(図13中のM)の凹型金型を準備した。なお、図14の下図は、図14の上図におけるA-A’矢視断面図である。
先に得られた高分子ゲルシート上に図13に示す凹型をあて、真空加熱プレス機にセットし、真空下、160℃、0.1MPaでプレスを行い、表面に錐型を形成した突部付き高分子ゲルシートを得た。
レーザー顕微鏡で観察した結果、突部の高さ(Hp)は36μmであった。また突部の
高さはほぼ均一であり、最近接している4つの突部と測定した突部の高さの差は、型を使用しているため5%以下となる。なお、上から型押ししているため、m、n、突部の底面の最小幅(1辺の長さと同じ)については上記の凹型の金型とほぼ同じ大きさになる。
最後に、得られた突部付き高分子ゲルシート(ゲル層)の両面を0.71mm厚の透明電極(ITOガラス)(透過率88%、Haze0.5%)ではさみ、調光部材を作製した。
【0067】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で高分子ゲルシートを得た。この突部を有さない高分子ゲルシート(ゲル層)の両面を0.71mm厚の透明電極(ITOガラス)(透過率88%、Haze0.5%)ではさみ、調光部材を作製した。
【0068】
[調光性の評価]
上記で得られた各調光部材において、突部が形成された側の透明電極を直流電源装置(松定社製P4L650-0.1)の正極に接続し、反対側の透明電極を同装置の負極に接続した。電源装置を用いて直流100~600VをON/OFFし、ON/OFF時の透過率とHazeを測定した。
透過率は、日本電色工業社製HazeMeterNDH7000SPIIを用い、JIS
K7361-1に準拠して測定した。
Hazeは、日本電色工業社製HazeMeterNDH7000SPIIを用い、JIS K7136に準拠して、測定した。
【0069】
【表1】
【0070】
上記の表1より、突部を有する高分子ゲルシートを用いた実施例1~3では、印加電圧の増加に伴い、調光部材の光の透過率が増加し、かつ、Hazeが減少することが分かった。一方で、突部を有さない高分子ゲルシートを用いた比較例1では、印加電圧による調光部材の光の透過率及びHazeの変化は観測されないことが分かった。
【0071】
以上より、本発明によれば、容易に大面積とすることができる調光部材、及び該調光部材を有するスマートウィンドウを提供することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 調光部材
10 突部
11 ゲル層
12 正極
13 負極
14 シート部
15 絶縁層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
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図14