(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】積層板の製造方法及び積層板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/082 20060101AFI20240423BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240423BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B32B15/082 B
B32B27/30 D
H05K1/03 630H
(21)【出願番号】P 2020140365
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/059606(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043683(WO,A1)
【文献】特開2017-183459(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】特開2019-000902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
B29C 63/00 - 65/00
C08J 5/00
H05K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマー及び
芳香族ポリイミド、芳香族ポリマレイミド、芳香族ポリフェニレンエーテル、芳香族スチレンエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である熱可塑性の芳香族ポリマーを含有
し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記芳香族ポリマーとの合計の含有量に対する前記芳香族ポリマーの含有量が0.1質量%以上10質量%以下である、表面を備えるポリマーフィルムと金属基板とを、前記表面が前記金属基板に接触するように配置し、前記芳香族ポリマーのガラス転移点より低い温度で、前記ポリマーフィルムと前記金属基板とを熱圧着して積層板を得る、積層板の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族ポリマーのガラス転移点より40~70℃低い温度で、前記ポリマーフィルムと前記金属基板とを熱圧着して積層板を得る、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族ポリマーのガラス転移点が、300~350℃である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱圧着時の温度が、250~300℃である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリマーフィルムが、前記表面を有する表面層と、前記表面層を支持し、ベースポリマーを含有する支持層とを備え、前記芳香族ポリマーのガラス転移点と前記ベースポリマーのガラス転移点との差の絶対値が、20℃以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ベースポリマーのガラス転移点が、230~340℃である、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ベースポリマーが、芳香族ポリイミドである、請求項
5又は
6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1.5~5.0モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ポリマーフィルムおよび前記金属基板が、それぞれ長尺である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記積層板において、前記金属基板の前記ポリマーフィルムと反対側の表面の短手方向に沿った最大高さうねりWzが、100μm以下である、請求項
10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記積層板において、前記金属基板と前記ポリマーフィルムとの剥離強度が、10N/cm以上である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
長尺の金属層と、前記金属層に接合され、前記金属層側の表面にテトラフルオロエチレン系ポリマー及び
芳香族ポリイミド、芳香族ポリマレイミド、芳香族ポリフェニレンエーテル、芳香族スチレンエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である熱可塑性の芳香族ポリマーを含有
し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記芳香族ポリマーとの合計の含有量に対する前記芳香族ポリマーの含有量が0.1質量%以上10質量%以下である、長尺のポリマー層とを有し、前記金属層の前記ポリマー層と反対側の表面の短手方向に沿った最大高さうねりWzが、100μm以下である、積層板。
【請求項14】
前記金属層と前記ポリマー層との剥離強度が、10N/cm以上である、請求項
13に記載の積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマー及び熱可塑性の芳香族ポリマーを含有するポリマーフィルムと金属基板とを所定の温度で熱圧着して積層板を得る、積層板の製造方法、及び、長尺の金属層と金属層に接合された長尺のポリマー層とを有し、金属層の、ポリマー層と反対側の表面におけるシワの発生が防止又は抑制された積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、離型性、電気絶縁性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、種々の成形物(含浸基材、担持基材、層状基材等)の形成に使用できる。
特許文献1には、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む樹脂フィルムを金属箔に熱圧着した後、樹脂フィルムに耐熱性樹脂フィルムを熱圧着して積層板を得、さらに、得られた積層板を加工して、フレキシブルプリント基板を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らの検討によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーは線膨張係数が大きいため、上記樹脂フィルムを金属箔に熱圧着する際に、その条件等によっては、樹脂フィルム(ポリマーフィルム)と金属箔(金属基板)との熱膨張率の差により、金属箔にシワが生じやすいという課題が存在した。
本発明者らは、上記課題を解消すべく、さらに検討した結果、ポリマーフィルムに熱可塑性の芳香族ポリマーを添加し、この芳香族ポリマーのガラス転移点より低い温度でポリマーフィルムと金属基板とを熱圧着すれば、積層板(金属基板)にシワが発生するのを防止又は抑制できる点を知見した。
【0005】
本発明は、かかる知見に基づいてなされた発明であり、その目的は、シワの発生が防止又は抑制された積層板、及びその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> テトラフルオロエチレン系ポリマー及び熱可塑性の芳香族ポリマーを含有する表面を備えるポリマーフィルムと金属基板とを、前記表面が前記金属基板に接触するように配置し、前記芳香族ポリマーのガラス転移点より低い温度で、前記ポリマーフィルムと前記金属基板とを熱圧着して積層板を得る、積層板の製造方法。
<2> 前記芳香族ポリマーのガラス転移点より40~70℃低い温度で、前記ポリマーフィルムと前記金属基板とを熱圧着して積層板を得る、<1>の製造方法。
<3> 前記芳香族ポリマーのガラス転移点が、300~350℃である、<1>又は<2>の製造方法。
<4> 前記芳香族ポリマーが、芳香族ポリイミド、芳香族ポリマレイミド、芳香族ポリフェニレンエーテル、芳香族スチレンエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれかの製造方法。
<5> 前記熱圧着時の温度が、250~300℃である、<1>~<4>のいずれかの製造方法。
<6> 前記ポリマーフィルムが、前記表面を有する表面層と、前記表面層を支持し、ベースポリマーを含有する支持層とを備え、前記芳香族ポリマーのガラス転移点と前記ベースポリマーのガラス転移点との差の絶対値が、20℃以下である、<1>~<5>のいずれかの製造方法。
<7> 前記ベースポリマーのガラス転移点が、230~340℃である、<6>の製造方法。
<8> 前記ベースポリマーが、芳香族ポリイミドである、<6>又は<7>の製造方法。
<9> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーである、<1>~<8>のいずれかの製造方法。
<10> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、及び、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<9>のいずれかの製造方法。
<11> 前記ポリマーフィルムおよび前記金属基板が、それぞれ長尺である、<1>~<10>のいずれかの製造方法。
<12> 前記積層板において、前記金属基板の前記ポリマーフィルムと反対側の表面の短手方向に沿った最大高さうねりWzが、100μm以下である、<11>の製造方法。
<13> 前記積層板において、前記金属基板と前記ポリマーフィルムとの剥離強度が、10N/cm以上である、<1>~<12>のいずれかの製造方法。
<14> 長尺の金属層と、前記金属層に接合され、前記金属層側の表面にテトラフルオロエチレン系ポリマー及び熱可塑性の芳香族ポリマーを含有する長尺のポリマー層とを有し、前記金属層の前記ポリマー層と反対側の表面の短手方向に沿った最大高さうねりWzが、100μm以下である、積層板。
<15> 前記金属層と前記ポリマー層との剥離強度が、10N/cm以上である、<14>の積層板。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シワの発生が防止又は抑制された積層板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物(パウダー又は無機フィラー)の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、同様にして測定される、対象物の体積基準累積90%径である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「降伏強度」とは、歪みが大きくなると、歪みと応力との関係が比例しなくなり、応力を除去しても歪みが残る現象が起き始める応力を意味し、ASTM D882に従って、支持層の引張弾性率を測定した際の「5%ひずみ時応力」の値で規定する。
「難塑性変形性」とは、支持層を塑性変形させた際に応力が増加していく特性、又は塑性変形させた際に必要な応力が大きい特性を意味し、ASTM D882に従って、支持層の引張弾性率を測定した際の「15%ひずみ時応力」の値で規定する。
「フィルムの引張弾性率」は、広域粘弾性測定装置を用いて、測定周波数10Hzにて測定される値である。
「金属箔(金属基板)の表面の十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAで規定される値である。
「最大高さうねりWz」は、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997、Amd.1:2009)に従って測定される、積層板の外表面における値である。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーから直接形成された原子団であってもよく、得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
【0009】
本発明の製造方法(以下、「本法」とも記す。)は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)及び熱可塑性の芳香族ポリマー(以下、「ARポリマー」とも記す。)を含有する表面を備えるポリマーフィルムと金属基板とを、かかる表面が金属基板に接触するように配置し、ARポリマーのガラス転移点より低い温度で、ポリマーフィルムと金属基板とを熱圧着して積層板を得る方法である。
したがって、得られる積層板は、金属層と、金属層に接合されたポリマー層とを有する積層体である。
かかる積層板では、その外表面(金属層のポリマー層と反対側の表面)におけるシワの発生が防止又は抑制される。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の通りであると考えられる。
【0010】
本法においては、ポリマーフィルムの表面が、線膨張係数が大きいFポリマーに加えて、Fポリマーより線膨張係数の小さいARポリマーを含有する。このため、ポリマーフィルムは加熱及び冷却時において、その表面(金属基板との接触面)に加熱及び冷却による変形が生じにくい。また、本法においては、ARポリマーのガラス転移点より低い温度で熱圧着する。このため、ARポリマーは加熱時に過度に軟化することなく、高度に金属層との接着成分として機能すると考えられる。その結果、ポリマーフィルムが、加熱時に形状安定性に優れた状態で金属基板と熱圧着されるため、ポリマーフィルムの表面は変形しにくく、ポリマーフィルムの表面の形状が反映されて金属基板にも変形が生じにくい。
その結果として、積層板(金属基板)の外表面におけるシワの発生が防止又は抑制されたと考えられる。
【0011】
ポリマーフィルムは、その表面にFポリマー及びARポリマーを含有すればよい。したがって、ポリマーフィルムは、Fポリマー及びARポリマーを含有する単層フィルムであってもよく、上記表面を有する表面層と、表面層を支持し、ベースポリマーを含有する支持層とを備える積層フィルムであってもよい。支持層に線膨張係数の低いベースポリマーを含む積層フィルムによれば、加熱による変形がより高度に抑制できる。
積層フィルムは、支持層の一方の表面にのみ表面層を有していてもよく、支持層の両方の表面に表面層を有していてもよい。後者の場合、積層フィルムの反りの発生、ひいては積層板の反りの発生をより防止しやすい。
【0012】
本法におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。
Fポリマーは、熱溶融性であるのが好ましく、その溶融温度は、260~320℃が好ましく、285~320℃がより好ましい。この場合、ポリマーフィルム及びポリマー層において、FポリマーとARポリマーとがより均一に分布しやすい。
Fポリマーのガラス転移点(Tg)は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
Fポリマーの溶融粘度は、380℃において1×102~1×106Pa・sが好ましく、1×103~1×106Pa・sがより好ましい。
【0013】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)、TFE単位とフルオロアルキルエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とクロロトリフルオロエチレンに基づく単位とを含むポリマーが挙げられ、PFA又はFEPが好ましく、PFAがより好ましい。上記ポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3又はCF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0014】
Fポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。この場合、ポリマーフィルム及びポリマー層が、電気特性、表面平滑性等の物性に優れやすい。
極性官能基は、Fポリマーが含有する単位に含まれていてもよく、Fポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のFポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するポリマーや、プラズマ処理や電離線処理によって調製された、極性官能基を有するポリマーが挙げられる。
【0015】
極性官能基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基及びホスホノ基含有基が好ましく、水酸基含有基及びカルボニル基含有基がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基含有基が好ましく、-CF2CH2OH、-C(CF3)2OH及び1,2-グリコール基(-CH(OH)CH2OH)がより好ましい。
カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0016】
Fポリマーとしては、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1.5~5.0モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマーが好ましく、TFE単位及びPAVE単位を含み、極性官能基を有するポリマー(1)、又は、TFE単位及びPAVE単位を含み、全モノマー単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないポリマー(2)がより好ましい。これらのポリマーは、ポリマーフィルム及びポリマー層中において微小球晶を形成するため、得られるポリマーフィルム及びポリマー層の物性が向上しやすい。
【0017】
ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、PAVE単位を0.5~9.97モル%及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0018】
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたり、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
【0019】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有するポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマー鎖の末端基に有するポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。
フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0020】
本法におけるARポリマーは、そのガラス転移点が300~350℃が好ましく、315~335℃がより好ましい。この場合、ポリマーフィルムが単層フィルムであっても、単層フィルム全体としての線膨張係数を低減して、加熱による変形を充分に防止又は抑制しやすい。
ARポリマーの5%重量減少温度は、260℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。ARポリマーの5%重量減少温度は、600℃以下が好ましい。上記範囲において、ARポリマーの分解ガス(気泡)やARポリマー自体の反応に伴う副生物によるガス(気泡)によって、積層板においてポリマー層の金属層との界面荒れを効果的に抑制しやすい。
【0021】
ARポリマーは、熱可塑性である。かかるARポリマーは、その可塑性により、ポリマーフィルム中における分散性がより向上し、緻密かつ均一なポリマー層が形成されやすい。
ARポリマーは、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、芳香族ポリフェニレンエーテル、芳香族スチレンエラストマー、液晶ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、芳香族ポリイミドがより好ましい。ここで、熱可塑性のポリイミドとは、イミド化が完了した、イミド化反応がさらに生じないポリイミドを意味する。
かかるARポリマーを使用すれば、ポリマーフィルムが積層フィルムである場合において、表面層の支持層に対する密着性が向上しやすいだけでなく、フィルム物性(UV吸収性等)が向上しやすい。
【0022】
ARポリマーの具体例としては、芳香族ポリアミドイミドである「HPC」シリーズ(日立化成社製)等、芳香族性ポリイミドである「ネオプリム」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)及び「ユピア-AT」シリーズ(宇部興産社製)等が挙げられる。
なお、ARポリマーである芳香族ポリイミドとしては、後述するベースフィルムで説明する芳香族ポリイミドを使用してもよい。
【0023】
本法におけるFポリマー及びARポリマーの好適な態様としては、Fポリマーの溶融温度が285~320℃であり、ARポリマーのガラス転移点が315~335℃である態様が挙げられる。
上記態様においては、ポリマーフィルム中において、FポリマーとARポリマーとが均一に分散してフィルム物性が向上しやすいだけでなく、高温環境下において、FポリマーとARポリマーとが高度に相互作用して、ポリマーフィルムの耐熱性がより向上しやすい。
【0024】
ポリマーフィルム(積層フィルムの場合、表面層)において、FポリマーとARポリマーとの合計の含有量に対するARポリマーの含有量は、10質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。また、上記ARポリマーの含有量は、0.1質量%以上が好ましい。
ポリマーフィルム中のFポリマー及びARポリマーのそれぞれの含有量が上記比率を満たし、Fポリマーの含有量に対するARポリマーの含有量が低い状態にあれば、ポリマーフィルムにおいて、ARポリマーがFポリマー中に高度に分散した状態を形成しやすい。その結果、ポリマーフィルムにおいて、Fポリマーに基づく物性(電気特性、低吸水性等)が高度に発現しやすい。また、かかるポリマーフィルムから製造する積層板において、シワが発生しにくく、積層板の剥離強度が向上しやすい。ポリマーフィルムが積層フィルムの場合、支持層と表面層との接着性が向上しやすく、積層フィルムの反り及び剥離が発生しにくい。
【0025】
ポリマーフィルムの表面(Fポリマー及びARポリマーを含有する表面)には、極性官能基が存在するのが好ましい。極性官能基がポリマーフィルムの表面に存在すれば、その表面の接着性が増大するため、金属基板との接着強度を向上できる。また、ポリマーフィルムの線膨張係数を低減する効果も期待できる。
ポリマーフィルムの表面に存在する極性官能基は、水酸基含有基又はカルボニル基含有基が好ましい。
ポリマーフィルムの表面に極性官能基を存在させる方法としては、極性官能基を有するFポリマー又はARポリマーを使用する方法、ポリマーフィルムの表面に対して、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング処理等の表面処理をして、極性官能基を導入する方法を採用できる。
【0026】
コロナ放電処理は、効率的に極性官能基を導入できる観点から、可燃性ガス(酢酸ビニル等)の存在下に行うのが好ましい。
プラズマ処理におけるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。
プラズマ処理に用いるガスは、希ガス、水素ガス又は窒素ガスが好ましい。かかるガスの具体例としては、アルゴンガス、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス、水素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスが挙げられる。
さらに、ポリマーフィルムは、アニール処理に供して、その残留応力が調整されてもよい。アニール処理における条件は、温度120~180℃、圧力0.005~0.015MPa、時間30~120分間が好ましい。
【0027】
ポリマーフィルムが積層フィルムである場合、表面層に含まれるARポリマーのガラス転移点と、支持層に含まれるベースポリマーのガラス転移点との差の絶対値は、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。なお、ガラス転移点の差の絶対値は、0℃であってもよい。この場合、ARポリマーのガラス転移点とベースポリマーのガラス転移点とが近づくので、ポリマーフィルム全体として、加熱による変形がより発生しにくくなる。
支持層に含まれるベースポリマーのガラス転移点の具体的な値は、230~340℃が好ましく、250~320℃がより好ましい。この場合、支持層の加熱による変形の程度が充分に低くなる。
【0028】
ガラス転移点の差の絶対値及びベースポリマーのガラス転移点の具体的な値が上記範囲を満たせば、得られる積層板の外表面におけるシワの発生をより確実に防止又は抑制できる。
支持層に含まれるベースポリマーは、芳香族ポリイミドであるのが好ましい。芳香族ポリイミドを使用すれば、支持層の加熱による変形の程度がより低くなりやすい。
支持層中のベースポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。上記含有量は、100質量%であってもよい。
【0029】
ベースポリマーである芳香族ポリイミドのイミド基密度は、0.20~0.35が好ましい。イミド基密度が上記上限値以下であれば、支持層の吸水率がより低くなり、ポリマーフィルムの誘電特性の変化を抑制しやすい。イミド基密度が上記下限値以上であれば、イミド基が極性基として機能して、支持層と表面層との密着力がより向上するだけでなく、吸水率が顕著に低下しやすい。
また、上記イミド基密度がかかる範囲にあれば、ポリマーフィルムにおけるシワがより発生しにくくなりやすい。かかるシワは、支持層における芳香族ポリイミドのガラス転移点が高い場合に生じにくい。
【0030】
なお、イミド基密度は、ポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドにおいて、イミド基部分の単位当たりの分子量(140.1)をポリイミドの単位当たりの分子量で除した値である。例えば、ピロメリット酸二無水物(分子量:218.1)の1モルと3,4’-オキシジアニリン(分子量:200.2)の1モルとの2成分からなるポリイミド前駆体をイミド化したポリイミド(単位当たりの分子量:382.2)のイミド基密度は、140.1を382.2で除した値である0.37となる。
【0031】
芳香族ポリイミドとしては、ジアミンとカルボン酸二無水物とを反応させてポリアミック酸を合成し、このポリアミック酸を熱イミド化法又は化学イミド化法によりイミド化して得られるポリイミドが挙げられる。
ポリアミック酸を合成するための溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0032】
ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル、2,4-ジアミノトルエンが挙げられる。これらのジアミン成分は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
カルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、ジアミンとカルボン酸二無水物との合計モル数に対する、ジアミン及びカルボン酸二無水物が含有するエーテル結合に由来する酸素原子の総モル数は、35~70%が好ましく、45~65%がより好ましい。この場合、芳香族ポリイミドのポリマー主鎖の柔軟性が高まり、芳香族環のスタック性が向上して、支持層と表面層との接着性がより向上する。また、この場合、ポリマーフィルムのUV加工性もより良好になる。
かかる支持層には、降伏強度、難塑性変形性、熱伝導性、ループスティフネス等の特性を高める目的で、無機フィラーを添加してもよい。かかる無機フィラーとしては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムが挙げられる。
【0035】
積層フィルムにおける支持層は、高い降伏強度を有するのが好ましい。具体的には、支持層の5%ひずみ時応力は、180MPa以上が好ましく、210MPa以上がより好ましい。上記5%ひずみ時応力は、500MPa以下が好ましい。
さらに、支持層は、難塑性変形性であるのが好ましい。具体的には、支持層の15%ひずみ時応力は、225MPa以上が好ましく、245MPa以上がより好ましい。上記15%ひずみ時応力は、580MPa以下が好ましい。
支持層が、高い降伏強度、特に難塑性変形性を有すれば、積層フィルムの線膨張係数の絶対値を充分に低くしやすく、反りの発生をより確実に防止できる。
【0036】
支持層の320℃における引張弾性率は、0.2GPa以上が好ましく、0.4GPa以上がより好ましい。その引張弾性率は、10GPa以下が好ましく、5GPa以下がより好ましい。
この場合の積層フィルムは、それを加工する際に加熱及び冷却してもハンドリング性に優れている。つまり、支持層の引張弾性率が、上記下限値以上であれば、加工時の加熱及び冷却に際して、表面層の収縮が支持層の弾性により効果的に緩和され、積層フィルムにシワが生じにくくなり、得られる積層板の物性(表面平滑性等)が向上しやすい。かかる傾向は、表面層中のFポリマーの含有量や表面層の厚さが大きい場合に顕著になる。また、支持層の引張弾性率が、上記上限値以下であれば、積層フィルムの柔軟性が一層高まりやすい。
【0037】
積層フィルムでは、支持層と表面層とが直接接触しているのが好ましい。すなわち、支持層の表面に、シランカップリング剤、接着剤等による表面処理を施すことなく、表面層が直接形成(積層)されているのが好ましい。この場合、フィルム物性が低下しにくい。なお、積層フィルムによれば、上述した構成により、支持層と表面層とが直接接触していても、支持層と表面層との間に高い接着性が発現する。
本法におけるポリマーフィルムの厚さ(積層フィルムの場合、総厚)は、25μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。上記厚さは、1000μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
【0038】
積層フィルムが支持層の両方の表面に表面層を有する場合、支持層の厚さに対する、2つの表面層の合計での厚さの比は、1以上が好ましい。上記比は、3以下が好ましい。この場合、支持層におけるベースポリマーの物性(高降伏強度、難塑性変形性等)と、表面層におけるFポリマー物性(低誘電率、低誘電正接等の電気特性、低吸水性等)とがバランスよく発現しやすい。また、上記比が大きく、表面層が厚いポリマーフィルムにおいても、反りや剥離が抑制されやすい。特に、支持層の引張弾性率が上述した下限値以上であると、この傾向が顕著になりやすい。
【0039】
また、2つのポリマー層の厚さは等しいのが好ましい。この場合、2つのポリマー層の線膨張係数がより近づくため、積層フィルムに反りが一層発生しにくくなる。
ポリマーフィルムの誘電率は、2.0~3.0が好ましい。この場合、低誘電率が求められるプリント基板材料等に、本発明の積層板を好適に使用できる。
ポリマーフィルムの誘電正接は、0.0001~0.003が好ましい。
【0040】
積層フィルムの線膨張係数の絶対値は、30ppm/℃以下が好ましく、20ppm/℃以下がより好ましく、10ppm/℃以下がさらに好ましい。この場合、積層フィルムが配置される雰囲気の温度等に依らず、積層フィルムの反りの発生が効果的に防止される。積層フィルムの線膨張係数の絶対値の下限は、0ppm/℃である。
積層フィルムにおける表面層と支持層との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましく、20N/cm以上がさらに好ましい。積層フィルムの剥離強度の上限は、100N/cmである。
【0041】
また、積層フィルムは、低い吸水性(高い水バリア性)を発揮する。この要因は、表面層と支持層とが相溶した一体化物でなく、互いに独立して存在するため、Fポリマーの低吸水性がベースポリマーの高吸水性を補完するためであると考えられる。
積層フィルムの吸水率は、0.1%以下が好ましく、0.07%以下がより好ましく、0.05%以下がさらに好ましい。積層フィルムの吸水率の下限は、0%である。
【0042】
なお、本発明におけるポリマーフィルム(単層フィルム及び積層フィルム)は、紫外線(UV)吸収性が高く、UV-YAGレーザー等のレーザーによる加工に適する。この要因は、ポリマーフィルム又は表面層中において、ARポリマーが、高度に分散し、ある種のマトリックスを形成しつつ、均一に分布するため、ARポリマーが有する芳香族環の良好なUV吸収性が発現した点にあると考えられる。
かかるポリマーフィルムから形成されるポリマー層は、レーザー加工により、良好な形状を有するビアホールを簡便に形成できるため、かかるポリマー層を有する積層板は、特に、プリント基板材料として好適に使用できる。
【0043】
本発明におけるポリマーフィルムは、FポリマーとARポリマーとを溶融混練し、押出成形して得てもよい。この場合、積層フィルムは、FポリマーとARポリマーとを含有するフィルムと、支持層とを熱圧着して得られる。
ポリマーフィルムは、FポリマーのパウダーとARポリマーと液状分散媒とを含むパウダー分散液を基材に塗布、加熱して得てもよい。この場合、基材からポリマーフィルムを剥離すれば、単層のポリマーフィルムが得られ、剥離しなければ、基材を支持層とする、積層フィルムが得られる。
【0044】
本法における金属基板(積層板の金属層)としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む。)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等の金属箔が挙げられる。
金属箔としては、銅箔が好ましく、表裏の区別のない圧延銅箔又は表裏の区別のある電解銅箔がより好ましく、圧延銅箔がさらに好ましい。圧延銅箔は、表面粗さが小さいため、積層板をプリント基板に加工した場合でも、伝送損失を低減できる。また、圧延銅箔は、炭化水素系有機溶剤に浸漬し圧延油を除去してから使用するのが好ましい。
【0045】
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.01~4μmが好ましい。この場合、ポリマーフィルムとの接着性が良好となり、伝送特性に優れたプリント基板を作製し得る積層板が得られやすい。
金属箔の表面は、粗化処理されていてもよい。粗化処理の方法としては、粗化処理層を形成する方法、ドライエッチング法、ウエットエッチング法が挙げられる。
金属箔の厚さは、積層板の用途において充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、20μm未満が好ましく、2~15μmがより好ましい。
また、金属箔の表面は、その一部又は全部がシランカップリング剤により処理されていてもよい。
【0046】
本法では、ARポリマーのガラス転移点より低い温度で、ポリマーフィルムと金属基板とを熱圧着して、積層板を得る。
ポリマーフィルムは、金属基板と積層する表面とは反対側の表面に、他の層を有していてもよい。他の層としては、上述の金属基板と同様の基板、プリプレグ(繊維強化樹脂基板の前駆体)が挙げられる。
熱圧着時の温度は、ARポリマーのガラス転移点より40~70℃低い温度が好ましく、45~65℃低い温度がより好ましい。かかる温度で熱圧着を行えば、ARポリマーが必要以上に軟化するのを防止して、ポリマーフィルムの変形を防止又は抑制する効果がより高まり、剥離強度と平面性とに優れた積層体が得られる。
熱圧着時の具体的な温度は、250~300℃が好ましく、260~280℃がより好ましい。この場合、熱圧着時のARポリマーの不要な軟化をより確実に防止できる。
【0047】
熱圧着は、気泡混入を抑制し、酸化による劣化を抑制する観点から、20kPa以下の真空度で行うのが好ましい。
また、熱圧着時には上記真空度に到達した後に昇温することが好ましい。上記真空度に到達する前に昇温すると、ポリマーフィルムが軟化した状態、すなわち一定程度の流動性、密着性がある状態にて圧着されてしまい、気泡の原因となる場合がある。
熱圧着における圧力は、金属基板の破損を抑制しつつ、ポリマーフィルムと金属基板とを強固に密着させる観点から、0.2~10MPaが好ましい。
【0048】
本法において、ポリマーフィルムおよび金属基板は、それぞれ長尺であるのが好ましい。この場合、ポリマーフィルムと金属基板とは、ロールツーロールで熱圧着される。したがって、ポリマーフィルムと金属基板とは、それらの長手方向に引張された状態で熱圧着される。このため、ポリマーフィルムの加熱による変形量が大きい場合、得られる積層板において、その外表面(金属層のポリマー層と反対側の表面)の長手方向に沿った細長いシワが生じやすい。すなわち、積層板の外表面の短手方向に沿って波状にうねった状態となりやすい。
【0049】
本法では、ポリマーフィルムは、その表面にFポリマー及びARポリマーを含有するので、加熱による変形量が少なく、結果として、積層板の外表面にシワが発生しにくく、発生してもシワの程度(本数、高低差等)が小さくなる。
具体的には、積層板の外表面の最大高さうねりWzが、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。最大高さうねりWzの下限値は0μmである。
このように最大高さうねりWzが小さい積層板は、プリント基板への加工が容易であり、特性(低誘電正接等)に優れるプリント基板を得やすい。
【0050】
積層板において、金属基板とポリマーフィルムとの剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましく、20N/cm以上がさらに好ましい。金属基板とポリマーフィルムとの剥離強度の上限は、通常、100N/cmである。本法によれば、熱圧着時に、ポリマーフィルムの変形が抑制されるため、金属基板とポリマーフィルムとが高い密着性で接合され、剥離強度の高い積層板が得られやすい。
本発明の積層板(以下、「本積層板」とも記す。)は、長尺の金属層と、金属層に接合され、金属層側の表面にFポリマー及びARポリマーを含有する長尺のポリマー層とを有する。そして、かかる積層板の外表面(金属層のポリマー層と反対側の表面)の短手方向に沿った最大高さうねりWzが、100μm以下である。
【0051】
本積層板におけるFポリマー及びARポリマーの定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本法におけるそれらと同様である。また、本積層板における構成及び物性(最大高さうねりWz、金属層とポリマー層との剥離強度等)の範囲は、好適な態様も含めて、本法におけるそれらと同様である。
本積層板は、フレキシブル銅張積層板やリジッド銅張積層板として、プリント基板の製造に使用できる。
プリント基板は、例えば、本積層板における金属層をエッチング等によって所定のパターンの導体回路(パターン回路)に加工する方法や、本積層体を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法)等)によってパターン回路に加工する方法を使用して製造できる。
プリント基板の製造においては、パターン回路を形成した後に、パターン回路上に層間絶縁膜、ソルダーレジスト又はカバーレイフィルムを積層してもよい。
【0052】
以上、本発明の積層板の製造方法及び積層板について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の積層板は、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明の積層板の製造方法は、上述した実施形態の構成において、他の任意の工程を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の工程と置換されていてよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
Fポリマー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含むPFA系ポリマー(溶融温度:300℃)
Fポリマー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含むPFA系ポリマー(溶融温度:305℃)
[パウダー]
パウダー1:D50が1.9μmである、Fポリマー1からなるパウダー
パウダー2:D50が2.0μmである、Fポリマー2からなるパウダー
【0054】
[ARポリマーのワニス]
ワニス1:芳香族ポリイミドであるARポリマー1(ガラス転移点:315℃)を含むN-メチル-2-ピロリドン溶液(固形分:10重量%)
なお、ARポリマー1は、3,3’4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、2,4-ジアミノトルエンと、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンとのブロックコポリマー(モル比=1:1:1:1)である。また、以下では、N-メチル-2-ピロリドンを「NMP」と記す。
ワニス2:芳香族ポリイミドであるARポリマー2(ガラス転移点:350℃)を含むNMP溶液(固形分:10重量%)
【0055】
[分散剤]
分散剤1:CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)6FとCH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)23OHとのコポリマーであり、フッ素含有量が、35質量%であるノニオン性ポリマー
[ベースフィルム]
ポリイミドフィルム1:厚さが50μm、ガラス転移点が315℃、イミド基密度が0.25、320℃における引張弾性率が0.3GPaの芳香族ポリイミドフィルム
ポリイミドフィルム2:厚さが50μm、ガラス転移点が340℃、イミド基密度が0.38、320℃における引張弾性率が5GPaの芳香族ポリイミドフィルム
[金属基板]
電解銅箔1:福田金属箔粉工業社製の「CF-T49A-DS-HD2」(厚み:12μm、Rzjis:1.2μm)
【0056】
2.パウダー分散液の調製
(パウダー分散液1)
まず、47質量部のNMPと、3質量部の分散剤1と、49.5質量部のパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpm×1時間の条件でポットをころがし、パウダー1を分散して、混合液を得た。
次に、この混合液に、ARポリマー1のワニスを、攪拌機を500rpmの回転数で撹拌しつつ、パウダー分散液中のARポリマー1の量(固形分)が0.5質量%となるように添加して、パウダー分散液1を調製した。つまり、Fポリマー1とARポリマー1との合計量に対するARポリマー1の量は、1質量%である。
(パウダー分散液2)
パウダー1をパウダー2に変更した以外は、パウダー分散液1と同様にして、パウダー分散液2を調製した。
【0057】
3.ポリマーフィルムの作製
(ポリマーフィルム1)
ポリイミドフィルム1の一方の面に、パウダー分散液1を小径グラビアリバース法で塗布し、通風乾燥炉(炉温:150℃)に3分間で通過させて、NMPを除去して乾燥被膜を形成した。
さらに、ポリイミドフィルム1の他方の面にも、同様に、パウダー分散液1を塗布、乾燥し、乾燥被膜を形成した。
次いで、両面に乾燥被膜が形成されたポリイミドフィルム1を、遠赤外線炉(炉温:320℃)に20分間で通過させて、パウダー1を溶融焼成させた。これにより、ポリイミドフィルム1からなる支持層の両面にFポリマー1及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記支持層、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルムとして、ポリマーフィルム1を得た。
【0058】
(ポリマーフィルム2)
パウダー分散液1に代えて、パウダー分散液2を使用した以外は、ポリマーフィルム1と同様にして、ポリイミドフィルム1からなる支持層の両面にFポリマー2及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記支持層、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルムとして、ポリマーフィルム2を得た。
(ポリマーフィルム3)
ARポリマー1のワニスに代えて、ARポリマー2のワニスを使用した以外は、ポリマーフィルム1と同様にして、ポリイミドフィルム1からなる支持層の両面にFポリマー1及びARポリマー2を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記支持層、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルムとして、ポリマーフィルム3を得た。
(ポリマーフィルム4)
ポリイミドフィルム1に代えて、ポリイミドフィルム2を使用した以外は、ポリマーフィルム1と同様にして、ポリイミドフィルム2からなる支持層の両面にFポリマー1及びARポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記支持層、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルムとして、ポリマーフィルム4を得た。
【0059】
4.積層板の製造
(例1)
ポリマーフィルム1の両方の表面に電解銅箔1をロールツーロールで熱圧着して、積層板1を製造した。なお、熱圧着時の条件は、温度を270℃、圧力を1MPa、雰囲気を10kPaの真空度とした。
(例2)
ポリマーフィルム1をポリマーフィルム2に変更した以外は、例1と同様にして、積層板2を製造した。
【0060】
(例3)
熱圧着時の温度を220℃とした以外は、例2と同様にして、積層板3を製造した。
(例4)
熱圧着時の温度を340℃とした以外は、例2と同様にして、積層板4を製造した。
(例5)
ポリマーフィルム1をポリマーフィルム3に変更した以外は、例1と同様にして、積層板5を製造した。
(例6)
ポリマーフィルム1をポリマーフィルム4に変更した以外は、例1と同様にして、積層板6を製造した。
【0061】
5.評価
5-1.シワの発生
各積層板(電解銅箔1のポリマーフィルムと反対側の表面)の短手方向に沿った最大高さうねりWzを、JIS B 0601:2013に準拠して測定し、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:最大高さうねりWzが50μm以下である。
△:最大高さうねりWzが50μm超100μm以下である。
×:最大高さうねりWzが100μm超である。
【0062】
5-2.剥離強度
各積層板から、長さ100mm、幅10mmの矩形状の試験片を切り出した。その後、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置まで、電解銅箔1とポリマーフィルムとを剥離した。次いで、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を中央にして、引張り試験機(オリエンテック社製)を用いて、引張り速度50mm/分で90度剥離し、最大荷重を剥離強度(N/cm)とし、以下の評価基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:剥離強度が15N/cm以上である。
△:剥離強度が10N/cm以上15N/cm未満である。
×:剥離強度が10N/cm未満である。
以上の結果を、以下の表1に示す。
【0063】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の積層板は、シワの発生が防止又は抑制されている。このため、かかるフィルムを含む積層板は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品等に加工して使用できる。