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特許7476762活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、被膜および物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、被膜および物品
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/14 20060101AFI20240423BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20240423BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20240423BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08F290/14
C09D4/02
C09D183/07
C09D183/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020183658
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073585
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 千幸
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/142567(WO,A1)
【文献】特許第6777212(JP,B1)
【文献】特開2017-002216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01;290/00-290/14
C08F 299/00-299/08
C09D 4/02
C09D 183/07
C09D 183/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化1】
[式中、PFPE1は、下記式(5)で表される数平均分子量3,500~6,500の2価のパーフルオロポリエーテル鎖を表し、X1、下記式(2)で表されるシロキサン鎖であり、
【化2】
{式(2)中、R1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Qは、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基であり、
【化3】
(式中、破線は、結合手を表し、*印は、ケイ素原子との結合部位を表す。)
aは、1~5の整数であり、bは、0であり、破線は、結合手を表す。なお、式(2)において、シロキサン単位の配列順は任意であってよい。
式(5)中、破線は、結合手を表し、pおよびqが付された括弧内の繰り返し単位の配列は、任意であってよく、pは、p≧1の数であり、qは、q≧1の数であり、p/qは、1/10~10/1の数である。
1は、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基である。
【化4】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE1との結合部位を表す。)]
(B)下記式(1’)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化5】
[式中、PFPE2は、下記式(5)で表される数平均分子量500~2,500の2価のパーフルオロポリエーテル鎖を表し、X2、下記式(3)で表されるシロキサン鎖であり、
【化6】

(式(3)中、R 1 、R 2 およびQは、上記と同じ意味を表し、Gは、それぞれ独立して、炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、cは、0~2の整数であり、dは、1~3の整数であり、eは、0であり、c+d+eは、3である。破線は、結合手を表す。
式(5)中、破線は、結合手を表し、pおよびqは、上記と同じ意味を表し、pおよびqが付された括弧内の繰り返し単位の配列は、任意であってよい。)
2は、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基である。
【化7】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE2との結合部位を表す。)]
(C)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤
(D)フッ素原子を含まない2~6官能の(メタ)アクリレー
(E)溶剤
を含み、(A)成分と(B)成分の配合比が、質量比で、1/9~9/1であり、各成分の配合量が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、(C)成分が、0.01~10質量部、(D)成分が、5~300質量部、(E)成分が、50~1,000質量部である活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
式(2)において、aが、2~4の整数であり、かつ、式(3)において、c=0である、請求項1記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(D)成分が、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびソルビトールヘキサ(メタ)アクリレートから選ばれるものである請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(E)成分が、炭化水素、ケトン、エステルおよびアルコールから選ばれるものである請求項1~3のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から形成される硬化被膜。
【請求項6】
平均表面粗さが1nm以下である請求項記載の硬化被膜。
【請求項7】
基材と、該基材の少なくとも一方の面に直接または少なくとも1種のその他の層を介して積層された硬化被膜とを有し、該硬化被膜が、請求項または記載の硬化被膜である被覆物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関し、さらに詳述すると、光硬化可能なパーフルオロポリエーテル基を有するシロキサンアクリレート(以下、「含フッ素シロキサンアクリレート」という)を含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、その硬化被膜および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線などの光照射により硬化可能なフッ素化合物としては、パーフルオロアルキル基を有する重合性モノマー、アクリル酸含フッ素アルキルエステルや、メタクリル酸含フッ素アルキルエステルを含む重合体が広く知られている。代表的なものとして、下記構造式で表される化合物が、基材表面に低反射性、撥水撥油性、防汚性、耐摩耗性、耐擦傷性等を付与する目的で広く用いられてきた。
【0003】
【化1】
【0004】
ところが、近年、環境負荷の懸念から、炭素原子数8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を含有する化合物の利用を制限する動きが強まっている。しかし、炭素原子数8未満のパーフルオロアルキル基を含有するアクリル化合物は、炭素原子数8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を持つものに比べ、その表面特性が顕著に悪いことが知られている(非特許文献1)。
【0005】
一方、連続する炭素原子数が3以下のパーフルオロアルキレン基と、エーテル結合性酸素原子とからなるパーフルオロポリエーテル基を導入した光硬化可能なフッ素化合物が知られている。例えば、ヘキサフルオロプロピレンオキシドオリゴマーから誘導される含フッ素アクリル化合物(特許文献1)や、フッ素含有ポリエーテルジオールと、2-イソシアネートエチルメタクリレートとの反応物からなるウレタンアクリレートが提案されている(特許文献2)。しかし、フッ素含有化合物の撥水撥油特性から、光重合開始剤、非フッ素化アクリレート、および非フッ素化有機溶剤との相溶性が低く、配合可能な成分および用途が限定的である。
【0006】
これに対し、環状シロキサン構造とウレタン構造を備え、非フッ素系溶剤との相溶性に優れた含フッ素アクリレート化合物が提案されている(特許文献3)。しかし、上記のような含フッ素アクリレート化合物から形成した防汚膜は、水滴や油滴の転落性と、膜の平滑性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-194322号公報
【文献】特開平11-349651号公報
【文献】特許第4873666号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】高分子諭文集Vol.64,No.4,pp.181-190(A pr.2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水滴や油滴の転落性と、平滑性に優れる硬化被膜を形成可能な活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、下記含フッ素シロキサンアクリレートを含む組成物が、水滴および油滴の転落性と、平滑性を両立した硬化被膜を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、
1.(A)下記式(1)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化2】
[式中、PFPE1は、数平均分子量3,500~10,000の2価のパーフルオロポリエーテル鎖を表し、X1は、それぞれ独立して、下記式(2)で表されるシロキサン鎖および下記式(3)で表されるシロキサン鎖から選ばれる基であり、
【化3】

{式(2)および式(3)中、R1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Gは、それぞれ独立して、炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Qは、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基であり、
【化4】

(式中、破線は、結合手を表し、*印は、ケイ素原子との結合部位を表す。)
aは、1~5の整数であり、bは、0~3の整数であり、a+bは、3~6の整数であり、cは、0~2の整数であり、dは、1~3の整数であり、eは、0~2の整数であり、c+d+eは、3である。破線は、結合手を表す。なお、式(2)において、シロキサン単位の配列順は任意であってよい。}
1は、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基である。
【化5】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE1との結合部位を表す。)]
(B)下記式(1’)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化6】
[式中、PFPE2は、数平均分子量500以上3,500未満の2価のパーフルオロポリエーテル鎖を表し、X2は、それぞれ独立して、上記式(2)で表されるシロキサン鎖および上記式(3)で表されるシロキサン鎖から選ばれる基であり、Z2は、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基である。
【化7】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE2との結合部位を表す。)]
(C)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤
(D)フッ素原子を含まないアクリレート、フッ素原子を含まないウレタンアクリレートまたはこれらの両方
を含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
2. 式(1)におけるPFPE1および式(1’)におけるPFPE2が、下記式(5)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖であり、PFPE1の数平均分子量が、3,500~6,500であり、PFPE2の数平均分子量が、500~2,500である1記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
【化8】
(式中、破線は、結合手を表し、pおよびqが付された括弧内の繰り返し単位の配列は、任意であってよく、pは、p≧1の数であり、qは、q≧1の数であり、p/qは、1/10~10/1の数である。)
3. 式(1)におけるZ1および式(1’)におけるZ2が、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基である1または2記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
【化9】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE1またはPFPE2との結合部位を表す。)
4. 式(2)および式(3)において、Qが、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基から選択される1種以上である1~3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
【化10】

(式中、破線は、結合手を表し、*印は、ケイ素原子との結合部位を表す。)
5. 式(1)において、X1が、それぞれ独立して、上記式(2)で表される基であり、かつ、式(1’)において、X2が、それぞれ独立して、上記式(3)で表される基である1~4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
6. 式(2)において、aが、2~4の整数であり、bが、0~2の整数であり、a+bが、3または4であり、かつ、式(3)において、c=0である、1~5のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
7. 前記式(2)において、b=0であり、かつ、式(3)においてe=0である1~6のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
8. (A)成分と(B)成分の配合比が、質量比で、1/9~9/1である1~7のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
9. (A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、(C)成分が、0.01~10質量部、(D)成分が、5~300質量部含まれる1~8のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
10. さらに、(E)溶剤が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、10~100,000質量部含まれる1~9のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
11. 1~10のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から形成される硬化被膜、
12. 平均表面粗さが1nm以下である11記載の硬化被膜、
13. 基材と、該基材の少なくとも一方の面に直接または少なくとも1種のその他の層を介して積層された硬化被膜とを有し、該硬化被膜が、11または12記載の硬化被膜である被覆物品
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、水滴および油滴の転落性と、平滑性を両立した硬化被膜を形成できる。さらに、このような硬化被膜を有する物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、下記(A)~(D)成分を含むものである。
(A)下記式(1)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化11】
(B)下記式(1’)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化12】
(C)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤
(D)フッ素原子を含まないアクリレート、フッ素原子を含まないウレタンアクリレートまたはこれらの両方
【0014】
[(A)成分]
(A)成分は、下記式(1)で表される含フッ素シロキサンアクリレートである。
【0015】
【化13】
【0016】
式(1)中、PFPE1は、数平均分子量3,500~10,000、好ましくは3,500~7,500、より好ましくは3,500~6,500の2価のパーフルオロポリエーテル鎖である。特に、下記構造式(4)で表されるパーフルオロアルキレン基と酸素原子とが交互に連結した構造を有するものが好ましい。なお、本発明において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値である。
【0017】
【化14】
(式中、破線は、Z1との結合手を表す。)
【0018】
式(4)において、Aは、炭素原子数1~3のパーフルオロアルキレン基を表し、同一でも異なっていてもよく、配列は任意であってよい。nは、上記数平均分子量を満たす数である。
【0019】
Aで表される炭素原子数1~3のパーフルオロアルキレン基の具体例としては、下記に示す構造が挙げられる。
【0020】
【化15】
(式中、破線は、Z1との結合手を表す。)
【0021】
PFPE1で表される2価のパーフルオロポリエーテル鎖において、すべり性を発現する屈曲点となる酸素原子が多く存在する点、鎖の屈曲運動を阻害する枝分かれ構造がない点などから、Aとしては、上記式(i)で表されるパーフルオロメチレン基、上記式(ii)で表されるパーフルオロエチレン基がより好ましい。
【0022】
特に、PFPE1で表される2価のパーフルオロポリエーテル鎖は、工業的に得られやすい点を考慮すると、オキシジフルオロメチレン基とオキシテトラフルオロエチレン基とが共存する、下記式(5)で表されるものが特に好ましい。
【0023】
【化16】

(式中、破線は、Zとの結合手を表し、pおよびqが付された括弧内の繰り返し単位の配列は、任意であってよい。)
【0024】
式(5)において、パーフルオロオキシメチレン基の数(p)は、p≧1の数であり、パーフルオロオキシエチレン基の数(q)は、q≧1の数である。
式(5)において、パーフルオロオキシメチレン基の数(p)と、パーフルオロオキシエチレン基の数(q)の比(p/q)は、特に限定されるものではないが、1/10~10/1が好ましく、3/10~10/3がより好ましい。
【0025】
上記式(1)において、X1は、それぞれ独立して、下記式(2)で表されるシロキサン鎖および下記式(3)で表されるシロキサン鎖から選ばれる基である。(A)成分としては、X1が、それぞれ独立して、式(2)で表される基が好ましいが、製造の簡便さ等を考慮すると、2つのX1は同一の基であることが好ましい。
【0026】
【化17】
(式中、破線は、結合手を表す。なお、式(2)において、シロキサン単位の配列順は任意であってよい。)
【0027】
1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~6、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基であり、具体的には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル等のアルキル基;フェニル等のアリール基などが挙げられる。R1としては、炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基がより好ましい。
【0028】
2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、フッ素原子、またはトリフルオロメチル基であり、水素原子、メチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0029】
Gは、それぞれ独立して、炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~6、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル等のアルキル基が挙げられる。Gは、好ましくは炭素原子数1~6、より好ましくは炭素原子数1~4、さらに好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n-プロピル基が特に好ましい。
【0030】
Qは、それぞれ独立して、エーテル結合を含んでもよく、環状構造または分岐構造を有してもよい炭素原子数1~20の2価の有機基であるが、本発明では、特に、下記式で表されるものが好ましい。
【0031】
【化18】
(式中、破線は、結合手を表し、*印は、ケイ素原子との結合部位を表す。)
【0032】
Qは、それぞれ独立して、好ましくは以下の構造式で表される2価の有機基である。
【化19】
(式中、破線は、結合手を表し、*印は、ケイ素原子との結合部位を表す。)
【0033】
aは、1~5の整数であり、好ましくは2~4、より好ましくは3である。
bは、0~3の整数であり、好ましくは0~2、より好ましくは0である。
a+bは、3~6の整数であり、好ましくは3または4、より好ましくは3である。
cは、0~2の整数であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。
dは、1~3の整数であり、好ましくは3である。
eは、0~2の整数であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。
c+d+eは、3である。
【0034】
1は、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基から選ばれる基であるが、原料の入手容易性や製造の簡便さ等を考慮すると、2つのZ1は同一の基であることが好ましい。
【0035】
【化20】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE1との結合部位を表す。)
【0036】
これらの中でも、Z1としては、下記式で表される基が好ましい。
【化21】

(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE1との結合部位を表す。)
【0037】
式(1)におけるX1が、式(2)で表される基である場合、(A)成分は、例えば、特開2010-285501号公報に記載の方法で製造することができる。
【0038】
また、式(1)におけるX1が、式(3)で表される基である場合、(A)成分は、例えば、以下の方法で製造することができる。
〔1〕ハイドロジェンシロキサンの合成
先ず、下記式(8)で表される、両末端にアルコキシシリル基を有するパーフルオロポリエーテルを、下記式(9a)および/または(9b)で表されるSi-H結合を有する化合物と共加水分解縮合することにより、下記式(10)で表されるパーフルオロポリエーテル基を有するハイドロジェンシロキサンを製造する。
【0039】
【化22】
【0040】
式中、R3、R4は、それぞれ独立して、炭素原子数1~12、好ましくは1~6、より好ましくは1~4のアルキル基であり、R5は炭素原子数1~12、好ましくは1~6、より好ましくは1~4のアルキル基である。wは、それぞれ独立して、0~2の整数であり、PFPE1およびZ1は上記のとおりである。
【0041】
3、R4、R5としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル等のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基である。
【0042】
共加水分解において、化合物(8)に対する、化合物(9a)および/または(9b)の配合量は、化合物(8)どうしの架橋を防ぐため、化合物(8)のアルコキシ基1当量に対し、化合物(9a)および/または(9b)をケイ素原子換算で2当量以上用いて共加水分解を行った後に、未反応の化合物(9a)および/または(9b)を減圧留去により除去することが好ましく、化合物(8)のアルコキシ基1当量に対し、化合物(9a)および/または(9b)をケイ素原子換算で2~10当量、特に2~6当量の存在下で反応させるのが好ましい。なお、化合物(9a)と化合物(9b)を併用する際は、化合物(9a)と化合物(9b)の添加量(質量比)は、(9a)/(9b)=50/1~1/50の割合が好ましい。
【0043】
共加水分解を実施するに際しては、加水分解触媒を用いることが好ましい。
加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、ハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸等の酸;酸性または弱酸性の無機塩;イオン交換樹脂等の固体酸;アンモニア、水酸化ナトリウム等の無機塩基類;トリブチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等の有機塩基類;有機スズ化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物などが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上の複数種を併用しても構わない。
【0044】
これらの加水分解触媒の中でも、特に、塩酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸等の酸;有機スズ化合物、有機チタニウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる有機金属化合物が好ましい。
好適な有機金属化合物としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、テトラキスエチレングリコールメチルエーテルチタネート、テトラキスエチレングリコールエチルエーテルチタネート、ビス(アセチルアセトニル)ジプロピルチタネート、アセチルアセトンアルミニウム、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノノルマルブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジノルマルブチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、それらの加水分解物などが挙げられる。
特に、反応性の観点から、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸等の酸;テトラブチルチタネート、アルミニウムエチルアセトアセテートジノルマルブチレート、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノノルマルブチレートおよびそれらの加水分解物が好ましく、メタンスルホン酸が特に好ましい。
【0045】
加水分解触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、式(8)の化合物のケイ素原子上のアルコキシ基1モルに対して0.001~15モル%が好ましく、0.001~10モル%が特に好ましい。
【0046】
上記共加水分解・縮合反応は、有機溶媒の存在下で行ってもよい。
有機溶媒としては、上記の各原料化合物と相溶するものであれば特に制限されず、その具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、オクタン等の炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;フッ素系溶媒などが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0047】
フッ素系溶媒としては、例えば、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、トリフルオロトルエン等の含フッ素芳香族炭化水素類;パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン等の炭素原子数3~12のパーフルオロカーボン類;1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン等のハイドロフルオロカーボン類;C37OCH3、C49OCH3、C49OC25、C25CF(OCH3)C37等のハイドロフルオロエーテル類;フォンブリン、ガルデン(ソルベイ製)、デムナム(ダイキン工業(株)製)、クライトックス(ケマーズ製)等のパーフルオロアルキレンエーテル類などが挙げられる。
【0048】
上記反応では、水を添加することが好ましい。加水分解時に使用する水の添加量は、原料のアルコキシ基の全てを加水分解するために必要な量1倍量~5倍量が好ましく、1.5倍量~3倍量が特に好ましい。
反応条件は、通常-5~20℃で、15~300分間が好ましく、0~10℃で30~180分間がより好ましい。
【0049】
上記反応で得られる多官能ハイドロジェンシロキサンの具体例としては、下記式で表されるもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
【化23】

(式中、PFPE1は、上記と同じ意味を表す。)
【0051】
〔2〕ヒドロシリル化反応
次に、ハイドロジェンシロキサン(10)に対し、下記式(11a)で表されるオレフィン化合物、および必要に応じて式(11b)で表されるオレフィン化合物をヒドロシリル化で付加反応させる。
【0052】
【化24】
【0053】
6はSi-H基と付加反応可能なオレフィン基であり、炭素原子数2~8のアルケニル基が好ましく、例えば、ビニル、アリル、1-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、イソブテニル等が挙げられる。これらの中でもビニル基、アリル基が好ましい。
A’は、水素原子または-SiR7(R7は、R1と同じである。)である。
1は、上記と同じである。
Yは、単結合またはエーテル結合を含んでもよい2価の有機基であり(但し、酸素原子との結合末端にOを含み、-O-O-結合を生じるものを除く)、環状構造や分岐構造を有してもよい。
Yの2価の有機基としては、炭素原子数1~18、好ましくは1~8のアルキレン基などが挙げられるが、具体的には、例えば、下記構造式で表されるものが挙げられる。
【0054】
【化25】
(式中、破線は、結合手を表し、・印は、オレフィン基R6との結合部位を表す。)
【0055】
Yは、単結合、下記構造式で表される2価の有機基が好ましい。
【化26】
【0056】
式(11a)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
【化27】
【0058】
また、式(11b)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
【化28】
【0060】
上記ヒドロシリル化反応において、化合物(11a)の添加量は、ハイドロジェンシロキサン(10)のヒドロシリル基1当量に対して0.2~5当量が好ましく、より好ましくは0.5~3当量である。
化合物(11b)を用いる場合、その添加量は、ハイドロジェンシロキサン(10)のヒドロシリル基1当量に対して0.1~0.8当量が好ましく、より好ましくは0.1~0.5当量である。
化合物(11a)および化合物(11b)を併用する場合は、化合物(11a)と化合物(11b)の添加量(質量比)は、(11a)/(11b)=50/1~0.5/1の割合が好ましい。
【0061】
ヒドロシリル化反応は、溶媒を使用しなくても進行するが、必要に応じて溶媒を用いてもよい。
溶媒としては、ヒドロシリル化反応を阻害せず、反応後に生成する下記化合物(12a)が可溶であることが好ましく、目的の反応温度で化合物(10)、化合物(11a)および必要により用いられる化合物(11b)を溶解するものが好ましい。
具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;m-キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド等のフッ素変性芳香族炭化水素類;メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素変性エーテル類などが好ましく、これらの中でも、トルエン、キシレン、m-キシレンヘキサフルオライドが好ましい。
【0062】
ヒドロシリル化反応には、触媒を用いることが好ましい。触媒は、例えば、白金、ロジウム、パラジウム等の白金族金属を含む化合物を使用することができる。これらの中でも白金を含む化合物が好ましく、例えば、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金-オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサンまたはアセチレンアルコール類等との錯体、活性炭に担持された白金などを用いることができる。
触媒の配合量は、反応系全体の質量に対し、含まれる白金族金属量が0.1~5,000ppmとなる範囲が好ましく、より好ましくは1~1,000ppmである。
【0063】
ヒドロシリル化反応において、各成分を混合する順序は、特に制限されないが、例えば、化合物(10)と、化合物(11a)と、必要に応じて化合物(11b)と、触媒を含む混合物を室温から徐々に付加反応温度まで加熱する方法、化合物(10)と、化合物(11a)と、必要に応じて化合物(11b)と、溶媒を含む混合物を目的とする反応温度にまで加熱した後に触媒を添加する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(11a)と、必要により化合物(11b)と、触媒を含む混合物に、化合物(10)を滴下する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(10)に、化合物(11a)と、必要に応じて化合物(11b)と、触媒を含む混合物を滴下する方法などを採用することができる。
これらの中でも、化合物(10)と、化合物(11a)と、必要に応じて化合物(11b)と、溶媒を含む混合物を目的とする反応温度まで加熱した後に、触媒を添加する方法、あるいは、目的とする反応温度まで加熱した化合物(10)に、化合物(11a)と、必要に応じて化合物(11b)と、触媒を含む混合物を滴下する方法が特に好ましい。これらの方法は、各成分あるいは混合物を必要に応じて溶媒で希釈して用いることができる。
【0064】
化合物(10)に、化合物(11a)および(11b)を付加反応させる場合は、化合物(10)と、化合物(11b)の付加反応を行った後に、過剰量の化合物(11a)を用いて付加反応させ、未反応の化合物(11a)を除去精製することが望ましい。このとき、化合物(11a)および化合物(11b)において、R6、Y、R7、A’が互いに異なる化合物を混合して用いてもよい。
付加反応は、通常20~120℃で、30~300分間行うことが好ましく、50~100℃で30~120分間行うことがより好ましい。
【0065】
上記の方法により、下記式(12a)で表される化合物が得られる。
【化29】
【0066】
式(12a)において、X0は、それぞれ独立に、下記の基である。
【化30】
(A’、Q、R4、R7、wは上記のとおりであり、hは1~3の整数であり、iは0~2の整数であり、h+i+w=3である。)
【0067】
〔3〕脱保護反応
次いで、シリル基の全てを脱保護することで水素原子に変換し、次に反応させる(メタ)アクリル基を含む酸クロライド化合物との反応点を構築する。なお、本発明において、(メタ)アクリル基とは、アクリル基またはメタクリル基を表す。
【0068】
脱保護の条件は、従来公知の手法を用いることができ、特に限定されず、フッ化物イオンによる方法、酸(ブレンステッド酸、ルイス酸)による方法、塩基(ブレンステッド塩基、ルイス塩基)による方法、中性条件下にて過剰のアルコールを作用させる方法、N-ブロモスクシンイミドや水素化ジイソブチルアルミニウム、パラジウム錯体等による方法などを挙げることができる。
これらの中でも酸(ブレンステッド酸、ルイス酸)による方法と、中性条件下にて過剰のアルコールを作用させる方法が好ましく、中性条件下にて過剰のアルコールを作用させる方法が特に好ましい。この際、作用させるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどが好ましく、特にメタノール、エタノールが好ましい。
アルコールの添加量は、A’のシリル基1当量に対して、1~50当量が好ましい。反応条件は、通常50~100℃で、60~1,440分間が好ましい。
【0069】
〔4〕エステル化反応
上記式(12a)におけるシリル基を脱保護した化合物(12b)に含まれるヒドロキシ基の全て、または化合物(12a)のA’が水素原子である場合(化合物(12c))のヒドロシリル基の全部を、下記式(13)で表される(メタ)アクリル酸クロライドと反応させ、エステル結合を形成することで、式(3)で表される含フッ素シロキサンアクリレートを得ることができる。
【0070】
【化31】
(式中、R2は上記のとおりである。)
【0071】
化合物(12b)または(12c)と化合物(13)との反応は、副生する塩酸を中和するために、塩基の存在下で、0~100℃、好ましくは0~80℃の条件で30~180分間両者を混合することで進行する。
塩基の種類は特に限定されないが、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリプロピルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等のアミン化合物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等の無機塩基;これらの水溶液などが挙げられる。これらはその1種に限定されず、2種もしくはそれ以上の混合物として使用してもよい。
これらの中でも、トリエチルアミン、ピリジン、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0072】
化合物(12c)または(12b)に対する化合物(13)の配合量は、化合物(12c)または(12b)が有する水酸基に対して1~10当量が好ましく、1~5当量がより好ましく、1~3当量が特に好ましい。
化合物(13)に対する塩基の配合量は、化合物(13)から発生する塩酸に対して1~10当量が好ましく、1~5当量がより好ましく、1~3当量が特に好ましい。
【0073】
上記エステル化反応において、各成分の混合順序は特に制限されないが、例えば、化合物(12b)または(12c)と、化合物(13)と、塩基を含む混合物を室温から徐々にエステル化反応温度まで加熱する方法、化合物(12b)または(12c)と、化合物(13)を含む混合物を目的の反応温度に加熱した後に塩基を加える方法、化合物(12b)または(12c)と、塩基を含む混合物を目的の反応温度に加熱した後に化合物(13)を加える方法、化合物(13)と、塩基を含む混合物を目的の反応温度に加熱した後に化合物(12b)または(12c)を加える方法、化合物(13)を目的の温度に加熱した後に、化合物(12b)または(12c)と塩基を含む混合物を滴下する方法などを取ることができる。これらの中でも、化合物(12b)または(12c)と塩基を含む混合物を目的とする反応温度まで加熱した後に、化合物(13)を滴下する方法が特に好ましい。
【0074】
これらの方法では、必要に応じて溶媒を用いることができる。
溶媒としては、水酸基および酸クロライドと反応しないものであれば特に制限なく用いることができるが、具体的には、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン);フッ素変性芳香族炭化水素類(m-キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド等);フッ素変性エーテル類(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)等);ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);エーテル類(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)などが好ましい。
これらの中でも、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、m-キシレンヘキサフルオライドが好ましい。
【0075】
[(B)成分]
(B)成分は、下記式(1’)で表される含フッ素シロキサンアクリレートである。
【0076】
【化32】
【0077】
式(1’)において、PFPE2は、数平均分子量500以上3,500未満の2価のパーフルオロポリエーテル鎖である。好ましくは700~2,500であり、より好ましくは1,000~2,000であって、上記構造式(4)で表されるパーフルオロアルキレン基と酸素原子とが交互に連結した構造を有するものが好ましい。式(4)のAについての具体例および好ましい例は、(A)成分について説明したものと同じである。
また、PFPE2としては、上記式(5)で表されるものが特に好ましく、式(5)のpおよびqは、(A)成分について説明したものと同じである。
【0078】
式(1’)において、X2は、それぞれ独立して、上記式(2)で表されるシロキサン鎖および上記式(3)で表されるシロキサン鎖から選ばれる基である。上記式(2)および式(3)で表されるシロキサン鎖におけるR1、R2、Q、G、a~eは、上記(A)成分においてX1として例示されたものと同様のものが挙げられる。
(B)成分において、X2は、それぞれ独立して、式(3)で表される基が好ましいが、製造の簡便さ等を考慮すると、2つのX2は同一の基であることが好ましい。
【0079】
2は、それぞれ独立して、下記式で表される2価の有機基である。
【化33】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE2との結合部位を表す。)
【0080】
これらのうち、下記式で表される基が好ましい。
【化34】
(式中、破線は、結合手を表し、**印は、前記PFPE2との結合部位を表す。)
【0081】
(B)成分は、(A)成分と同じ方法で製造することができる。
【0082】
(A)成分と(B)成分は、これらの合計量が100質量部となるように配合する。
(A)成分と(B)成分との混合比は、質量比で、1/9~9/1が好ましく、より好ましくは2/8~8/2である。
【0083】
[(C)成分]
(C)成分は、活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤であり、例えば、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の公知の光重合開始剤から適宜選択すればよい。その具体例としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、チオキサントン誘導体、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アシルフォスフィンオキサイド誘導体、2-メチル-1-{4-(メチルチオ)フェニル}-2-モルフォリノプロパン-1-オン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
また、重合開始剤は、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、Omnirad 1173、Omnirad MBF、Omnirad 127、Omnirad 184、Omnirad 369、Omnirad 379、Omnirad 379EG、Omnirad 651、Omnirad 754、Omnirad 784、Omnirad 819、Omnirad 819DW、Omnirad 907、Omnirad 1800、Omnirad 2959、Omnirad TPO H(いずれもIGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0085】
(C)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0086】
[(D)成分]
(D)成分は、フッ素原子を含まないアクリレートおよびフッ素原子を含まないウレタンアクリレートから選択される1種以上である。(D)成分は、硬化の際の架橋密度を調節し、得られる硬化被膜の硬度を調節するうえで重要な成分である。
【0087】
フッ素原子を含まないアクリレートとしては、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素-(2,2,2-トリ-(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2~6官能の(メタ)アクリレート化合物、これらの(メタ)アクリレート化合物のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル、ウレタン変性品、エポキシ樹脂にアクリル酸を付加させて得られるエポキシアクリレート類、アクリル酸エステル共重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合体等を含むものが挙げられる。
【0088】
フッ素原子を含まないウレタンアクリレートとしては、ポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリイソシアネートと末端ジオールのポリエステルに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリオールに過剰のジイソシアネートを反応させて得られるポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるものなどが挙げられる。これらの中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、およびペンタエリスリトールトリアクリレートから選ばれる水酸基を有する(メタ)アクリレートと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、およびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるポリイソシアネートとを反応させたウレタンアクリレート類を含むものが好ましい。
【0089】
(D)成分としては、このようなアクリレートまたはウレタンアクリレートを含むコーティング組成物を用いてもよい。このような組成物としては、市販品を用いてもよく、例えば、「ビームセット」(荒川化学工業(株)製)、「ユービック」(大橋化学工業(株)製)、「UVコート」(オリジン電気(株)製)、「カシューUV」(カシュー(株)製)、「デソライト」(JSR(株)製)、「セイカビーム」(大日精化工業(株)製)、「紫光」(日本合成化学(株)製)、「フジハード」(藤倉化成(株)製)、「ダイヤビーム」(三菱レイヨン(株)製)、「ウルトラバイン」(武蔵塗料(株)製)等が挙げられる。
【0090】
(D)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは5~300質量部であり、より好ましくは5~200質量部、さらに好ましくは5~100質量部である。このような範囲であれば、被膜の水滴および油滴の転落性と膜の平滑性を損なうことなく硬度を向上させることができる。なお、組成物を用いる場合は、アクリレートまたはウレタンアクリレートとしての配合量である。
【0091】
[(E)成分]
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、さらに、(E)成分として溶剤を含んでいてもよい。本成分は、組成物の粘度を適度に下げ、コーティングの作業性の向上に寄与する成分である。溶剤としては、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を構成する(A)成分、(B)成分、(C)成分を溶解ないしは分散するものであれば特に制限されない。
その具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、オクタン等の炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、トリフルオロトルエン等の含フッ素芳香族炭化水素類;パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン等の炭素原子数3~12のパーフルオロカーボン類;1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン等のハイドロフルオロカーボン類;C37OCH3、C49OCH3、C49OC25、C25CF(OCH3)C37等のハイドロフルオロエーテル類;フォンブリン、ガルデン(ソルベイ製)、デムナム(ダイキン工業(株)製)、クライトックス(ケマーズ製)等のポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)類などのフッ素系溶剤が挙げられる。
溶剤を使用する場合、その配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して10~100,000質量部が好ましく、10~10,000質量部がより好ましく、さらに好ましくは50~1,000質量部である。
【0092】
なお、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の添加剤を加えることができる。添加剤の具体例としては、非反応性シリコーンオイル、反応性シリコーンオイル、反応性シリカ微粒子、非反応性シリカ微粒子、反応性中空シリカ微粒子、非反応性中空シリカ微粒子、シランカップリング剤等の密着付与剤、老化防止剤、防錆剤、着色剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光剤、研磨剤、香料、充填剤、フィラー、染顔料、レベリング剤、反応性希釈剤、非反応性高分子樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、分散剤、帯電防止剤、チキソトロピー付与剤などが挙げられる。特に、本発明を反射防止膜として使用するにあたり、屈折率を下げるために、反応性中空シリカ微粒子、非反応性中空微粒子またはこれらの両方を加えても何ら問題ない。
【0093】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、上記各成分を常法に準じて均一に混合することにより得られる。
【0094】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から得られる硬化被膜は、優れた水滴、油滴転落性と平滑性を両立することができ、基材表面に、防汚性、撥水性、撥油性、耐指紋性、平滑性を付与するのに有用である。さらに、本組成物から形成される被膜は、含フッ素シロキサンアクリレートを含むものであるため、低反射性にも優れることが期待される。これらの特性により、指紋、皮脂、汗等の人脂、化粧品等により汚れ難くなり、汚れが付着した場合であっても、拭き取り性に優れ、光の映り込みが抑制された被膜を与える。このため、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、人体が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある物品の表面に施与される塗装膜や保護膜を形成するためのコーティング剤として有用である。
【0095】
このようなコーティング処理される物品としては、例えば、光磁気ディスク、CD・LD・DVD・ブルーレイディスク等の光ディスク、ホログラム記録等に代表される光記録媒体;メガネレンズ、プリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルター、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、反射防止膜、光ファイバーや光カプラー等の光学部品・光デバイス;CRT、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッシプロジェクションディスプレイ、トナー系ディスプレイ等の各種画面表示機器;特にPC、携帯電話、携帯情報端末、ゲーム機、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、自動現金引出し預け入れ装置、現金自動支払機、自動販売機、自動車用等のナビゲーション装置、セキュリティーシステム端末等の画像表示装置、およびその操作も行うタッチパネル(タッチセンサー、タッチスクリーン)式画像表示入力装置;携帯電話、携帯情報端末、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機、リモートコントローラ、コントローラ、キーボード等、車載装置用パネルスイッチ等の入力装置;携帯電話、携帯情報端末、カメラ、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機等の筐体表面;自動車の外装、ピアノ、高級家具、大理石等の表面;美術品展示用保護ガラス、ショーウインドー、ショーケース、広告用カバー、フォトスタンド用のカバー、腕時計、自動車用フロントガラス、列車、航空機等の窓ガラス、自動車ヘッドライト、テールランプ等の透明なガラス製または透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネート等)部材;各種ミラー部材などが挙げられる。
【0096】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、これらの基材の少なくとも一方の面に、直接または少なくとも1種のその他の層を介して塗布し、それを硬化させることにより被膜を形成した被覆物品を得ることができる。
【0097】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が適用される基材は、表面が、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液で処理されている基材や、基材本体と表層が異なる種類の塗料で被覆された化粧合板等も用いることもできる。
【0098】
さらに、予めその他の機能層が形成された基材表面に、本発明のコーティング剤による被覆を施してもよく、その他の機能層としては、プライマー層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層等が挙げられ、これらのいずれか一層または複数層が基材上に予め形成されていてもよい。
【0099】
被覆物品は、本発明の組成物からなる被膜が形成された面に、さらに、CVD(化学気相成長)法による蒸着層、ハードコート層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層、防汚層、光触媒層、帯電防止層等の一層または複数層によって被覆されていてもよい。
【0100】
さらに、被覆物品は、本発明の組成物からなる被膜が形成された面とは反対側の面が、ハードコート層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層、防汚層、光触媒層、帯電防止層等の一層または複数層によって被覆されていてもよい。
【0101】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、反射防止コーティング組成物として使用することができる。この場合、含フッ素シロキサンアクリレートの配合量は、コーティング組成物の有効成分100質量部に対して、(A)および(B)成分の合計量として、好ましくは5~100質量部であり、より好ましくは5~50質量部である。このような範囲であれば、被膜の強度を保ちながら、良好な水滴および油滴の転落性と、膜の平滑性を有する反射防止膜を得ることができる。
【0102】
さらに、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、紫外線硬化型レジスト液に添加し、露光を行うことで、硬化後のレジスト表面とレジストが除去された部分の撥液性に大きな差を付けることが可能であり、レジスト樹脂表面への現像液や液晶溶液の残存、汚染を防ぐことができる。
【0103】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗布方法としては、公知の手法から適宜選択すればよく、例えば、バーコーター、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を用いることができる。
【0104】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させるための光源としては、通常、200~450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯等が挙げられる。照射量は特に制限されないが、10~5,000mJ/cm2が好ましく、20~2,000mJ/cm2がより好ましい。硬化時間は、通常0.5秒~2分であり、好ましくは1秒~1分である。
【0105】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いた硬化被膜の膜厚は、透明性を考慮すると、0.01~50μmが好ましく、1~20μmがより好ましく、5~15μmがさらに好ましい。
本発明の組成物から得られる硬化被膜の表面粗さは、1nm以下が好ましく、より好ましくは0.98nm以下である。下限値は、特に制限されないが、0.1nm以上程度である。なお、表面粗さの測定方法は、後述するとおりである。
【実施例
【0106】
以下、合成例、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
下記例において、1H-NMR測定は、ULTRA SHIELD 400 Plus(Bruker社製)を用いて行った。なお、下記例において、Meはメチル基を表す。
【0107】
[1]原料化合物の合成
[合成例1-1]
特開2010-285501号公報の実施例1に従い、下記式(6)で表される含フッ素シロキサンアクリレートを得た。
【化35】
(式中、p1≧1、q1≧1、p1/q1=1.1であり、p1およびq1が付された括弧内の繰り返し単位の配列は不定であり、パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は4,000である。)
【0108】
[合成例1-2]
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と撹拌装置を備えた5,000mL三口フラスコに、下記式(14)で表される化合物1,255g、テトラメチルジシロキサン665g、メチルエチルケトン1,255g、メタンスルホン酸20gを加え、撹拌しながら5℃まで冷却した。ここにイオン交換水71gを滴下し、内温を0~10℃に維持したまま3時間撹拌を継続した。その後、ハイドロタルサイト(キョーワード500SH、協和化学工業(株)製)を100g加え、内温を0~10℃に維持したまま2時間撹拌を行い、溶剤や過剰のテトラメチルジシロキサンを減圧留去後、ハイドロタルサイトを濾別して下記式(15)で表される無色透明の液体1,130gを得た。
【0109】
【化36】
(式中、p2≧1、q2≧1、p2/q2=0.76であり、p2およびq2が付された括弧内の繰り返し単位の配列は不定であり、パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は1,500である。)
【0110】
乾燥窒素雰囲気下で、化合物(15)190gに対して、アリルオキシトリメチルシラン117g、トルエン229g、および塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液4.3g(Pt単体として8.3×10-5モルを含有)を混合し、80℃で2時間撹拌した。1H-NMR測定およびFT-IR測定でSi-H基由来のシグナル消失を確認した後、溶剤と過剰のアリルオキシトリメチルシランを減圧留去し、活性炭処理を行った後、濾過することで、下記式(16)で表される淡黄色透明の液体230gを得た。
【0111】
【化37】
(式中、p2≧1、q2≧1、p2/q2=0.76であり、p2およびq2が付された括弧内の繰り返し単位の配列は不定であり、パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は1,500である。)
【0112】
乾燥窒素雰囲気下で、化合物(16)230gに対して、メタノール2,300gを加え、67℃で12時間加熱撹拌することで、副生するトリメチルメトキシシランを常圧留去した後、過剰のメタノールとトリメチルシランとを減圧留去し、下記式(17)で表される淡黄色透明の液体197gを得た。
【0113】
【化38】
(式中、p2≧1、q2≧1、p2/q2=0.76であり、p2およびq2が付された括弧内の繰り返し単位の配列は不定であり、パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は1,500である。)
【0114】
乾燥窒素雰囲気下で、化合物(17)101gに対して、トリエチルアミン41g、ヘキサフルオロ-m-キシレンを505g加え、撹拌しながら60℃まで昇温した。ここにアクリル酸クロライド25gをトルエン50gで希釈した混合物を、内温を55~60℃に維持しながら滴下し、30分撹拌を継続した。次に、エタノール5.8gを内温を55~60℃に維持したまま滴下し、1時間撹拌を継続した。析出した塩を濾別して得られた濾液にハイドロタルサイト(キョーワード500SH、協和化学工業(株)製)5.6gとケイ酸アルミニウム(キョーワード700、協和化学工業(株)製)5.6gとを加えて2時間撹拌後、減圧留去し、ハイドロタルサイトおよびケイ酸アルミニウムを濾別することで淡黄色透明の液体56gを得た。
得られた生成物は1H-NMR測定により下記式(7)で表される含フッ素シロキサンアクリレートであることが確認された。1H-NMRスペクトルのケミカルシフトを表1に示す。
【0115】
【化39】
(式中、p2≧1、q2≧1、p2/q2=0.76であり、p2およびq2が付された括弧内の繰り返し単位の配列は不定であり、パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は1,500である。)
【0116】
【表1】
【0117】
[2]組成物の調製
[実施例1~9および比較例1,2]
下記の各成分を表2および表3に記載する質量比にて混合して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。
得られた組成物をそれぞれポリカーボネート板上にスピンコートし、コンベア型紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製)を用いて、窒素雰囲気中1,200mJ/cm2の紫外線を照射して硬化被膜を形成した。
接触角計(協和界面科学(株)製)を用いて、水転落角、ヘキサデカン転落角を測定した。表面粗さは、走査型プローブ顕微鏡(装置名:SI-DF3、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定した。
【0118】
[(A)成分]
合成例1-1で得られた下記式(6)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化40】
(式中、p2≧1、q2≧1、p1/q1=1.1であり、p1およびq1が付された括弧内の繰り返し単位の配列は不定であり、パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は4,000である。)
【0119】
[(B)成分]
合成例1-2で得られた下記式(7)で表される含フッ素シロキサンアクリレート
【化41】

(式中、p2≧1、q2≧1、p2/q2=0.76であり、p2およびq2が付された括弧内の繰り返し単位の配列は不定であり、パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は1,500である。)
【0120】
[(C)成分]
(C-1):2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキシド(Omnirad TPO H、IGM Resins B.V.社製)
(C-2):1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(Omnirad 184、IGM Resins B.V.社製)
[(D)成分]
4官能アクリレート(A-TMMT、新中村化学工業(株)製)
[(E)成分]
メチルイソブチルケトン(東京化成工業(株)製)
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
実施例1~9に示されるように、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から得られる硬化被膜は、優れた水滴、油滴転落性と平滑性を両立することができ、基材に対して防汚性を付与する防汚膜、反射防止膜を形成するコーティング剤等に有用である。
一方、(B)成分を含まない組成物から得られた硬化被膜(比較例1)は、水およびヘキサデカンの転落角に優れるが、表面粗さが大きい。また、(A)成分を含まない組成物から得られた硬化被膜は、表面が平滑であるが、水およびヘキサデカンの転落性に劣る(比較例2)。