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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】中空樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/18 20060101AFI20240423BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20240423BHJP
   C08F 6/10 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08F2/18
C08J3/12 CEY
C08F6/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020571129
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003335
(87)【国際公開番号】W WO2020162300
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019019441
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 隆志
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 希
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-007056(JP,A)
【文献】特開2010-149024(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014279(WO,A1)
【文献】特開2010-185064(JP,A)
【文献】特開2013-221070(JP,A)
【文献】特開2004-137341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 6/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの非架橋性単量体及び少なくとも1つの架橋性単量体を含む重合性単量体、炭化水素系溶剤、並びに、水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製し、前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を形成し、前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより中空樹脂粒子を製造する方法であって、
前記混合液中に、前記重合性単量体の総質量100質量部に対し前記架橋性単量体を35~95質量部含み、
前記重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)が9.33~9.42であり、且つ、
前記重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と前記炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差が0.60以上
であることを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記中空樹脂粒子の空隙率が60~95%であることを特徴とする請求項1に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記中空樹脂粒子の個数平均粒径が0.1~10μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記非架橋性単量体が、酸基含有単量体を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
前記非架橋性単量体が、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートとを(メタ)アクリル酸:(メタ)アクリレート=100:0~30:70の質量比で含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
前記架橋性単量体が、ジビニルベンゼン及びエチレングリコールジメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1~5のいずれか1項に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空隙率が高い中空樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空樹脂粒子は、内部に実質的に空隙を有しない樹脂粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くできるため、不透明度、白色度などの光学的性質に優れた有機顔料や隠蔽剤として水系塗料、紙塗被組成物などの用途で汎用されている。
【0003】
ところで、水系塗料、紙塗被組成物などの用途においては、塗料や紙塗被組成物等の軽量化、断熱化、及び不透明化等の効果を向上させるため、配合する中空樹脂粒子の空隙率を高めることが望まれている。しかし、従来知られている製造方法では、所望の物性が得られるような製造条件を満たしながら、空隙率が高い中空樹脂粒子を安定して製造することは困難であった。
【0004】
例えば、特許文献1には、重合性モノマー成分を、これとは異なる組成の異種ポリマー微粒子の存在下において水性分散媒体中に分散させて当該異種ポリマー微粒子に前記重合性モノマー成分を吸収させ、次に前記重合性モノマー成分を重合させる技術が開示されている。当該文献には、水性分散媒体中に、重合性モノマー成分の他に異種ポリマーを微粒子又は溶液の状態で共存させること、そのことによって重合時に、異種ポリマーの相分離により分散粒子内に核が形成され、この核に生成しつつあるポリマーの重合収縮が生じること、及びその結果としてポリマーの内部に孔が形成されることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性溶剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、前記種粒子に前記ラジカル重合性モノマー、前記油溶性溶剤及び前記油溶性重合開始剤を吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程と、前記膨潤粒子液滴中の上記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程とを有する単孔中空ポリマー微粒子の製造方法であって、前記ラジカル重合性モノマーを重合して得られるポリマーのSP値(SPp)と前記油溶性溶剤のSP値(SPs)との関係が下記式(1):
2.1≦SPp-SPs≦7.0 (1)
を満たすことを特徴とする単孔中空ポリマー微粒子の製造方法が開示されている。
当該文献には、ラジカル重合性モノマー成分を種粒子に吸収させたうえでラジカル重合させるポリマー微粒子の製造方法において、上記ラジカル重合性モノマーを重合して得られるポリマーのSP値と、造孔剤として用いる油溶性溶剤のSP値との差が一定範囲となるようにした場合、外径及び内径が極めて均一な単孔中空ポリマー微粒子を容易に製造できることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、多官能モノマーを含む重合用モノマー成分100重量部を重合用モノマーとは反応しない有機溶剤1~400重量部と混合した重合用モノマー溶液を、分散安定剤を含む極性溶媒に懸濁せしめた後、重合用モノマー成分を重合させて、有機溶剤を内包するポリマー粒子を得て、得られたポリマー粒子中の有機溶剤を除去する多孔質中空ポリマー粒子の製造方法であって、混合される重合用モノマー成分と有機溶剤の溶解度パラメータ(SP値)の差が1.0MPa0.5未満の時は、重合用モノマー成分に占める多官能モノマーの割合が少なくとも5重量%以上であり、1.0以上1.5MPa0.5未満の時は、重合用モノマー成分に占める多官能モノマーの割合が少なくとも20重量%以上である多孔質中空ポリマー粒子の製造方法が開示されている。
当該文献には、上記の製造方法は、重合用モノマー成分と有機溶剤のSP値の差を2.0MPa0.5未満とし、重合用モノマー成分に占める多官能モノマーの割合を5重量%以上することが特徴であり、SP値の差を2.0MPa0.5未満とする理由として、重合用モノマーと有機溶剤のSP値を近づけることで、重合中にポリマー成分と有機溶剤が相分離することが抑制されること、及び、多官能モノマーの割合を5重量%以上する理由として、多官能性モノマーが少ないとSP値の差が大きいときには粒子が異形化し、SP値の差が小さいときには粒子内部の中空部が収縮する問題が生じることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭62-127336号公報
【文献】国際公開WO2012/014279号公報
【文献】特開2006-336021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載されたポリマー粒子は、外径、内径ともに均一な中空ポリマー微粒子を得ることが難しいという問題がある。
また、特許文献2に記載された単孔中空ポリマー微粒子の製造方法は、非架橋性モノマーと架橋性モノマーとの合計に占める架橋性モノマーの配合量が5重量%を超えると、得られる種粒子へのラジカル重合性モノマー等の吸収性が低下し、膨潤粒子液滴が形成されないことがあるため、架橋性モノマーの配合量の好ましい上限は5重量%であるとされる。
このように特許文献2の方法においては、架橋モノマーの使用量が少量の範囲に制約されるため、中空ポリマー粒子のシェル強度が劣るという問題がある。
また、特許文献3に記載された多孔質中空ポリマー粒子の製造方法は、多孔質であるため、高い空隙率を有する中空ポリマー粒子を製造することが難しいという問題がある。
また、空隙率を高くするために、粒子内部に多孔質ではない大きな空洞を一つだけ有し、シェル(殻)が薄い単孔中空樹脂粒子を形成する場合には、粒子強度が不十分となり粒子がつぶれやすくなるという問題がある。
【0009】
本開示の課題は、従来よりも空隙率が高い中空樹脂粒子の製造方法を提供することにある。また本発明の他の課題は、空隙率が高く且つ粒子強度が大きい中空樹脂粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、懸濁重合により中空樹脂粒子を得る方法において、中空樹脂粒子の空隙率を大きくするためには、重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)、及び、重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と中空部を形成するためにモノマー液滴に取り込まれる炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差が重要であることに着目した。
また、中空樹脂粒子の空隙率が大きくなると中空樹脂粒子のシェル強度低下を引き起こしやすいことから、中空樹脂粒子のシェルを補強するために架橋性単量体の使用量が重要になってくることに着目した。
【0011】
本開示によれば、少なくとも1つの非架橋性単量体及び少なくとも1つの架橋性単量体を含む重合性単量体、炭化水素系溶剤、並びに、水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製し、前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を形成し、前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより中空樹脂粒子を製造する方法であって、
前記混合液中に、前記重合性単量体の総質量100質量部に対し前記架橋性単量体を35~95質量部含み、
前記重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)が8.70~9.42であり、且つ、
前記重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と前記炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差が0.60以上であることを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法が提供される。
本開示の上記製造方法においては、前記中空樹脂粒子の空隙率を、60~95%とすることができる。
また本開示の上記製造方法においては、前記中空樹脂粒子の個数平均粒径を、0.1~10μmとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
上記の如き本開示の製造方法によれば、従来よりも空隙率の高い中空樹脂粒子を製造することができる。また、本開示の好ましい実施形態においては、空隙率が高く且つ粒子強度が大きい中空樹脂粒子を製造することができる。さらに、本開示の他の好ましい実施形態においては、空隙率が高く且つ粒子強度が大きい単孔構造の中空樹脂粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の製造方法の一例を説明する図である。
図2】懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。
図3】従来の乳化重合用の分散液を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の中空樹脂粒子は、樹脂を含有するシェル(外殻)と、当該シェルに取り囲まれた中空部とを備える粒子である。
本開示において、「中空部」は、樹脂材料により形成される中空粒子のシェルから明確に区別される空洞状の空間である。中空樹脂粒子のシェルは多孔質構造を有していても良いが、その場合には、中空部は、多孔質構造内に均一に分散された多数の微小な空間とは明確に区別できる大きさを有している。
中空粒子が有する中空部は、例えば、粒子断面のSEM観察等により、又は粒子をそのままTEM観察等することにより確認することができる。
また、中空粒子が有する中空部は、空気等の気体で満たされていてもよいし、溶剤等の液体を含有していてもよい。
粒子における樹脂のシェルが連通孔を有さず、本開示における「中空部」が粒子のシェルによって粒子外部から隔絶されていてもよい。
粒子における樹脂のシェルが1又は2以上の連通孔を有し、本開示における「中空部」が当該連通孔を介して粒子外部と繋がっていてもよい。
本開示において「前駆体粒子」とは、重合工程で得られる中間体であって、中空部を有する樹脂粒子であって、その中空部が、重合工程において中空部を形成するために用いた炭化水素系溶剤により満たされた粒子を意味する。本開示において「前駆体組成物」とは、前駆体粒子を含む組成物を意味する。
【0015】
本開示における中空樹脂粒子の製造方法は、少なくとも1つの非架橋性単量体及び少なくとも1つの架橋性単量体を含む重合性単量体、炭化水素系溶剤、並びに、水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製し、前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を形成し、前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより中空樹脂粒子を製造する方法において、
前記混合液中に、前記重合性単量体の総質量100質量部に対し前記架橋性単量体を35~95質量部含み、
前記重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)が8.70~9.42であり、且つ、
前記重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と前記炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差が0.60以上であることを特徴とする。
【0016】
上記方法は、基本的に混合液調製工程、懸濁液調製工程、重合工程、及び、溶剤除去工程を含むが、これら以外の工程を含んでもよい。
例えば、重合工程後に固液分離工程を行い、前駆体粒子内の炭化水素系溶剤を除去する溶剤除去工程を空気雰囲気下で行ってもよい。あるいは、非架橋性単量体の少なくとも一部として親水性単量体を用い、重合工程後に塩基添加工程を行い、前駆体粒子を膨潤させた後で、前駆体粒子内の炭化水素系溶剤を水系媒体で置換してもよい。
【0017】
1.中空樹脂粒子の製造方法
本開示における製造方法の好ましい一例は以下の工程を含む。
(1)混合液調製工程
少なくとも1つの非架橋性単量体及び少なくとも1つの架橋性単量体を含む重合性単量体、炭化水素系溶剤、並びに、水系媒体を含む混合液を調製する工程
(2)懸濁液調製工程
前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程
(3)重合工程
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程
(4)固液分離工程
前記前駆体組成物を固液分離することにより前記前駆体粒子を得る工程、及び
(5)溶剤除去工程
前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより、中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子を得る工程
【0018】
図1は、本開示の製造方法の一例を示す模式図である。図1中の(1)~(5)は、上記各工程(1)~(5)に対応する。各図の間の白矢印は、各工程の順序を指示するものである。なお、図1は説明のための模式図に過ぎず、本開示の製造方法は図に示すものに限定されない。また、本開示の各製造方法に使用される材料の構造、寸法及び形状は、これらの図における各種材料の構造、寸法及び形状に限定されない。
図1の(1)は、混合液調製工程における混合液の一実施形態を示す断面模式図である。この図に示すように、混合液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する親油性材料2を含む。ここで、親油性材料2とは、例えば炭化水素系溶剤等の、極性が低く水系媒体1と混ざり合いにくい材料を意味する。
図1の(2)は、懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す断面模式図である。懸濁液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散するミセル10(モノマー液滴)を含む。ミセル10は、油溶性の単量体組成物4(油溶性重合開始剤5等を含む)の周囲を、懸濁安定剤3(例えば、界面活性剤等)が取り囲むことにより構成される。
図1の(3)は、重合工程後の前駆体組成物の一実施形態を示す断面模式図である。前駆体組成物は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する前駆体粒子20を含む。この前駆体粒子20の外表面を形成するシェル6は、上記ミセル10中の単量体等の重合により形成されたものである。シェル6内部の中空部は、炭化水素系溶剤7を内包する。
図1の(4)は、固液分離工程後の前駆体粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この図1の(4)は、上記図1の(3)の状態から水系媒体1を分離した状態を示す。
図1の(5)は、溶剤除去工程後の中空樹脂粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この図1の(5)は、上記図1の(4)の状態から炭化水素系溶剤7を除去した状態を示す。その結果、シェル6の内部に中空部8を有する中空樹脂粒子100が得られる。
以下、上記5つの工程及びその他の工程について、順に説明する。
【0019】
(1)混合液調製工程
本工程は、少なくとも1つの非架橋性単量体及び少なくとも1つの架橋性単量体を含む重合性単量体、炭化水素系溶剤、並びに、水系媒体を含む混合液を調製する工程である。
本開示においては、重合性単量体として、少なくとも1つの非架橋性単量体及び少なくとも1つの架橋性単量体を組み合わせて用いる。重合性単量体とは、重合可能な官能基を有する化合物である。非架橋性単量体は重合可能な官能基を1つだけ有する重合性単量体であり、架橋性単量体は重合可能な官能基を2つ以上有し、重合反応により樹脂中に架橋結合を形成する重合性単量体である。重合性単量体としては、重合可能な官能基としてエチレン性不飽和結合を有する化合物が一般に用いられる。
混合液中には、さらに油溶性重合開始剤や懸濁安定剤等の他の材料を含有させても良い。混合液の材料について、(A)重合性単量体、(B)油溶性重合開始剤、(C)炭化水素系溶剤、(D)懸濁安定剤、(E)水系媒体の順に説明する。
【0020】
(A)重合性単量体
[非架橋性単量体]
非架橋性単量体としては、モノビニル単量体が好ましく用いられる。モノビニル単量体とは、重合可能なビニル官能基を1つ有する化合物である。モノビニル単量体としては、例えば、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1つの(メタ)アクリル系モノビニル単量体;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体及びその誘導体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;等が挙げられる。モノビニル単量体は、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1つの(メタ)アクリル系モノビニル単量体であってもよい。
(メタ)アクリル系モノビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、本開示において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルの各々を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各々を意味する。
上記(メタ)アクリル系モノビニル単量体のうち、好適には、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1つを使用する。
【0021】
非架橋性単量体として親水性単量体を用いてもよい。親水性単量体としては、水に可溶なモノビニル単量体が好適に用いられる。親水性単量体は、20℃の水に対する溶解度が1質量%以上であることが好ましい。
親水性単量体としては、例えば、酸基含有単量体、ヒドロキシ基含有単量体、アミド基含有単量体、ポリオキシエチレン基含有単量体等の親水基を有する単量体が挙げられる。
酸基含有単量体は、酸基を含む単量体を意味する。ここでいう酸基とは、プロトン供与基(ブレンステッド酸基)、電子対受容基(ルイス酸基)のいずれも含む。親水性単量体として酸基含有単量体を用いる場合には、耐熱性が高い中空樹脂粒子が得られる点で好ましい。
酸基含有単量体は、酸基を有していれば特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体、イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル等のカルボキシル基含有単量体;ならびにスチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体等が挙げられる。酸基含有単量体の中でも、好適にはエチレン性不飽和カルボン酸単量体が、より好適にはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つのアクリル系親水性単量体並びにマレイン酸単量体が、さらに好適にはアクリル系親水性単量体が使用される。アクリル系親水性単量体((メタ)アクリル酸)と上述した(メタ)アクリル系モノビニル単量体((メタ)アクリレート)とを併用する場合、好適な質量比は、(メタ)アクリル酸:(メタ)アクリレート=100:0~30:70であり、より好適な質量比は、(メタ)アクリル酸:(メタ)アクリレート=95:5~35:65である。このように、(メタ)アクリル酸及び上述した(メタ)アクリレートのような比較的高温条件に強い単量体を併用することにより、例えばニトリル基等を有する単量体を使用する場合と比較して、得られる中空樹脂粒子の耐熱性を高めることができる。
ヒドロキシ基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート単量体等が挙げられる。
アミド基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体が挙げられる。
ポリオキシエチレン基含有単量体としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単量体等が挙げられる。
ただし、親水性単量体として、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルをいずれも使用しないことが望ましい。熱に弱いニトリル基を含むこれらの単量体は耐熱性に劣るため、得られる粒子の空隙率が低下するおそれがあるからである。
非架橋性単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
非架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、非架橋性単量体中の親水性単量体の含有量は、好適には10~50質量部であり、より好適には15~40質量部である。親水性単量体の含有量が10~50質量部であることにより、後述する塩基添加工程において粒子中に塩基が浸透し易くなることが多く、粒子中の中空部が速やかに形成されやすくなり、さらに前記モノビニル単量体及び親水性単量体による共重合反応が安定して進行しやすい。
【0022】
[架橋性単量体]
本開示においては、架橋性単量体を非架橋性単量体と組み合わせて用いることにより、得られる中空樹脂粒子シェルの機械的特性を高めることができる。また、架橋性単量体は重合可能な官能基を複数有するため、重合体鎖同士を連結することができ、特に親水性単量体(その中でも特に酸基含有単量体)が中空樹脂粒子外部に溶出することを抑えることができ、かつ得られる中空樹脂粒子の耐熱性を高めることができる。
架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、このうちジビニルベンゼン及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0023】
混合液中の重合性単量体(非架橋性単量体と架橋性単量体の全て)の含有量は、水系媒体を除く混合液中成分の総質量を100質量部としたとき、好適には6質量部以上とし、より好適には12質量部以上とする。重合性単量体の含有量が6質量部以上であることにより、得られる中空樹脂粒子の中空構造を維持できる程度に当該中空樹脂粒子の機械的特性を従来よりも向上させることができる。
【0024】
本開示においては、非架橋性単量体及び架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、架橋性単量体の含有量を35~95質量部とし、好適には38~93質量部、より好適には40~90質量部、さらに好適には50~90質量部、特に好適には70~90質量部とする。架橋性単量体の含有量が35~95質量部であれば、得られる中空樹脂粒子の空隙率を高くした場合でも十分な粒子強度を維持し粒子のへこみを抑制するだけでなく、耐熱性も向上する。
【0025】
本開示においては、重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)を、8.70~9.42とし、好適には8.71~9.41とし、より好適には8.72~9.40とする。重合性単量体のSP値が8.70未満の場合、及び9.42を超える場合には、懸濁液の重合安定性が悪くなり、得られる樹脂粒子が凝集するおそれがある。
また本開示においては、重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差を0.60以上とし、好適には0.65以上、より好適には0.70以上、さらに好適には1.00以上、特に好適には1.25以上とする。重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差が0.60未満の場合には生成するポリマーと炭化水素系溶剤が相分離しにくく、単孔の中空樹脂粒子のみではなく、中実微粒子や多孔性の中空樹脂粒子となるおそれがある。
また 本開示においては、重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差を好適には3.00以下とし、より好適には2.75以下、さらに好適には2.50以下、特に好適には2.30以下とする。重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差が3.00以下の場合には、懸濁液の重合安定性が良好になり、得られる樹脂粒子の凝集が抑制されやすい。
なお、本開示において、“重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)(SP1)”と“炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)(SP2)”との差は、“前記重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)(SP1)”-“炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)(SP2)”の式で求められる。例えば、当該差が-0.70の場合には、重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差が0.60以上である場合には含まれない。
重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)を上記範囲内とし、且つ、重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差を上記範囲内とすることによって、炭化水素系溶剤がモノマー液滴の内部に集まりやすくなることにより、樹脂粒子の内部に大きな単孔構造の中空部を形成することができるため、空隙率が高い単孔構造の中空樹脂粒子を形成することができる。
【0026】
本開示においてSP値とは、沖津俊直、「接着」、高分子刊行会、40巻8号(1996)p342-350に記載された、下記表1に記載した沖津による各種原子団のΔF、Δv値を用い、下記式(1)により算出した溶解性パラメーターδを意味する。また、混合溶剤、共重合体の場合は、下記式(2)により算出した溶解性パラメーターδmixを意味する。
δ=ΣΔF/ΣΔv 式(1)
δmix=φ1δ1+φ2δ2+・・・φnδn 式(2)
[式中、ΔFは、下記表1におけるΔFを表し、Δvは、下記表1におけるモル容積Δvを表す。φは、容積分率又はモル分率を表し、φ1+φ2+・・・φn=1である。]
【0027】
【表1】
【0028】
例えば、溶剤としてのシクロヘキサンのSP値は以下のように求める。
シクロヘキサンは、原子団として、-CH-を6個有する。この原子団について表1よりΔF、Δv値を求める。
ΣΔF=132×6=792 ΣΔv=16.5×6=99
従って、上記式(1)よりシクロヘキサンのδhexは、以下のように求められる。
δhex=ΣΔF/ΣΔv=792/99=8.00
例えば、メタクリル酸40部、エチレングリコールジメタクリレート60部の共重合体のSP値は以下のようにして求める。メタクリル酸単独のSP値は9.40、エチレングリコールジメタクリレート単独のSP値は9.42である。メタクリル酸の分子量は86、エチレングリコールジメタクリレートの分子量は198であることから、共重合体のモル分率は、メタクリル酸:エチレングリコールジメタクリレート=40/86:60/198=0.46:0.30となる。上記式より、共重合体のSP値は、以下のように求められる。
δmix=0.46/(0.46+0.30)×9.40+0.30/(0.46+0.30)×9.42=9.41
【0029】
(B)油溶性重合開始剤
本開示においては、混合液中に油溶性重合開始剤を含有させることが好ましい。混合液を懸濁後にモノマー液滴を重合する方法として、水溶性重合開始剤を用いる乳化重合法と、油溶性重合開始剤を用いる懸濁重合法があるが、油溶性重合開始剤を用いることにより懸濁重合を行うことができる。
油溶性重合開始剤は、20℃の水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されない。油溶性重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t一ブチルペルオキシド一2-エチルヘキサノエート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
混合液中の重合性単量体の総質量を100質量部としたとき、油溶性重合開始剤の含有量は、好適には0.1~10質量部であり、より好適には0.5~7質量部であり、さらに好適には1~5質量部である。油溶性重合開始剤の含有量が0.1~10質量部であることにより、重合反応を十分進行させ、かつ重合反応終了後に油溶性重合開始剤が残存するおそれが小さく、予期せぬ副反応が進行するおそれも小さい。
【0030】
(C)炭化水素系溶剤
炭化水素系溶剤は、非重合性の炭化水素系有機溶剤であり、粒子内部に中空部を形成する働きを有する。後述する懸濁液調製工程において、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液が得られる。懸濁液調製工程においては、モノマー液滴において相分離が発生する結果、極性の低い炭化水素系溶剤がモノマー液滴の内部に集まりやすくなる。最終的に、モノマー液滴においては、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の他の材料が各自の極性に従って分布することとなる。
そして、後述する重合工程において、炭化水素系溶剤を内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物が得られる。すなわち、炭化水素系溶剤が粒子内部に集まることにより、得られる前駆体粒子の内部には、炭化水素系溶剤で満たされた中空部が形成されることとなる。
炭化水素系溶剤の種類は、前記の重合性単量体の溶解度パラメータ(SP値)と炭化水素系溶剤の溶解度パラメータ(SP値)との差の範囲を満たすものであれば、特に限定されない。炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、及び炭化水素系エステル溶剤からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ブタン、ペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を挙げることができる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。炭化水素系エステル溶剤としては、極性の点からSP値が8.82以下の溶剤が挙げられ、例えば、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル等を挙げることができる。
【0031】
本開示に使用される炭化水素系溶剤は、20℃における比誘電率が3以下であることが好ましい。比誘電率は、化合物の極性の高さを示す指標の1つである。炭化水素系溶剤の比誘電率が3以下と十分に小さい場合には、モノマー液滴中で相分離が速やかに進行し、中空が形成されやすいと考えられる。
20℃における比誘電率が3以下の溶剤の例は、以下の通りである。カッコ内は比誘電率の値である。
ヘプタン(1.9)、シクロヘキサン(2.0)、ベンゼン(2.3)、トルエン(2.4)。
20℃における比誘電率に関しては、公知の文献(例えば、日本化学会編「化学便覧基礎編」、改訂4版、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、II-498~II-503ページ)に記載の値、及びその他の技術情報を参照できる。20℃における比誘電率の測定方法としては、例えば、JISC 2101:1999の23に準拠し、かつ測定温度を20℃として実施される比誘電率試験等が挙げられる。
【0032】
本開示に使用される炭化水素系溶剤は、炭素数5~7の炭化水素化合物であってもよい。炭素数5~7の炭化水素化合物は、重合工程時に前駆体粒子中に容易に内包され、かつ溶剤除去工程時に前駆体粒子中から容易に除去することができる。中でも、炭化水素系溶剤は、炭素数6の炭化水素化合物であることが好ましく、シクロヘキサン及びノルマルヘキサンの少なくとも1種が好適に用いられる。
【0033】
混合液中の重合性単量体の総質量を100質量部としたとき、炭化水素系溶剤の含有量は、好適には100~900質量部であり、より好適には150~700質量部であり、さらに好適には200~500質量部である。炭化水素系溶剤の前記含有量が100~900質量部であることにより、得られる中空樹脂粒子の空隙率が従来よりも高くなるとと共に、中空を維持できる程度に当該中空樹脂粒子の機械的特性を向上させることができる。
【0034】
(D)懸濁安定剤
懸濁安定剤は、後述する懸濁重合法における懸濁液中の懸濁状態を安定化させる剤である。懸濁安定剤は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤は、後述する懸濁重合法において、非架橋性単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤及び炭化水素系溶剤などの親油性成分を含むミセルを形成する材料である。
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも用いることができ、それらを組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が好ましく、陰イオン性界面活性剤がより好ましい。
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
懸濁安定剤は、難水溶性無機化合物や水溶性高分子等を含有していてもよい。
【0035】
混合液中の重合性単量体の総質量を100質量部としたとき、懸濁安定剤の含有量は、通常0.1~6質量部、好適には0.1~5質量部、より好適には0.1~4質量部、さらに好適には0.5~4質量部、特に好適には1~4質量部、最も好適には2~4質量部である。懸濁安定剤の前記含有量が0.1質量部以上の場合には、水系媒体中にミセルを形成しやすい。一方、懸濁安定剤の前記含有量が6質量部以下の場合には、炭化水素系溶剤を除去する工程において発泡による生産性の低下が起きにくい。
【0036】
(E)水系媒体
本開示において水系媒体とは、水、親水性溶媒、及び、水と親水性溶媒との混合物からなる群より選ばれる媒体を意味する。
本開示における親水性溶媒は、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されない。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO)等が挙げられる。
水系媒体の中でも、その極性の高さから、水を用いることが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、モノマー液滴を形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが重要である。この場合、例えば、水と親水性溶媒との混合比(質量比)を、水:親水性溶媒=99:1~50:50等としてもよい。
【0037】
前記の各材料及び必要に応じ他の材料を単に混合し、適宜攪拌等することによって混合液が得られる。当該混合液においては、上記(A)重合性単量体、(B)油溶性重合開始剤、及び(C)炭化水素系溶剤などの親油性材料を含む油相が、(D)懸濁安定剤及び(E)水系媒体などを含む水相中において、粒径数mm程度の大きさで分散している。混合液におけるこれら材料の分散状態は、材料の種類によっては、肉眼でも観察が可能である。
混合液調製工程は、上記(A)重合性単量体、(B)油溶性重合開始剤、及び(C)炭化水素系溶剤などの親油性材料を含む油相と、(D)懸濁安定剤及び(E)水系媒体などを含む親水性材料を含む水相とを予め別に調製し、これらを混合する工程であってもよい。このように油相と水相を予め別に調製した上で、これらを混合することにより、シェル部分の組成が均一な中空樹脂粒子を製造することができる。
【0038】
(2)懸濁液調製工程
本工程は、上述した混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程である。
モノマー液滴を形成するための懸濁方法は特に限定されないが、例えば、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)、高速乳化分散機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
本工程で調製される懸濁液においては、上記親油性材料を含みかつ0.1μm~10μm程度の粒径を持つモノマー液滴が、水系媒体中に均一に分散している。このようなモノマー液滴は肉眼では観察が難しく、例えば光学顕微鏡等の公知の観察機器により観察できる。
本工程においては、モノマー液滴中に相分離が生じるため、極性の低い炭化水素系溶剤がモノマー液滴の内部に集まりやすくなる。その結果、得られるモノマー液滴は、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の材料が分布することとなる。
【0039】
上述したように、本開示においては、乳化重合法ではなく懸濁重合法を採用する。そこで以下、乳化重合法と対比しながら、懸濁重合法及び油溶性重合開始剤を用いる利点について説明する。
図3は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。図3中のミセル60は、その断面を模式的に示すものとする。
図3には、水系媒体51中に、ミセル60、ミセル前駆体60a、溶媒中に溶出した単量体53a、及び水溶性重合開始剤54が分散している様子が示されている。ミセル60は、油溶性の単量体組成物53の周囲を、界面活性剤52が取り囲むことにより構成される。単量体組成物53中には、重合体の原料となる単量体等が含まれるが、重合開始剤は含まれない。
一方、ミセル前駆体60aは、界面活性剤52の集合体ではあるものの、その内部に十分な量の単量体組成物53を含んでいない。ミセル前駆体60aは、溶媒中に溶出した単量体53aを内部に取り込んだり、他のミセル60等から単量体組成物53の一部を調達したりすることにより、ミセル60へと成長する。
水溶性重合開始剤54は、水系媒体51中を拡散しつつ、ミセル60やミセル前駆体60aの内部に侵入し、これらの内部の油滴の成長を促す。したがって、乳化重合法においては、各ミセル60は水系媒体51中に単分散しているものの、ミセル60の粒径は数百nmまで成長することが予測される。
【0040】
図2は、本工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。図2中のミセル10は、その断面を模式的に示すものとする。なお、図2はあくまで模式図であり、本開示における懸濁液は、必ずしも図2に示すものに限定されない。図2の一部は、上述した図1の(2)に対応する。
図2には、水系媒体1中に、ミセル10及び水系媒体中に分散した重合性単量体4a(非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む。)が分散している様子が示されている。ミセル10は、油溶性の単量体組成物4の周囲を、界面活性剤3が取り囲むことにより構成される。単量体組成物4中には油溶性重合開始剤5、並びに、重合性単量体(非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む。)及び炭化水素系溶剤(いずれも図示せず)が含まれる。
図2に示すように、本工程においては、ミセル10の内部に単量体組成物4を含む微小油滴を予め形成した上で、油溶性重合開始剤5により、重合開始ラジカルが微小油滴中で発生する。したがって、微小油滴を成長させ過ぎることなく、目的とする粒径の前駆体粒子を製造することができる。
また、懸濁重合(図2)と乳化重合(図3)とを比較すると分かるように、懸濁重合(図2)においては、油溶性重合開始剤5が、水系媒体1中に分散した重合性単量体4aと接触する機会は存在しない。したがって、油溶性重合開始剤を使用することにより、目的とする中空部を有する樹脂粒子の他に、余分なポリマー粒子が生成することを防止できる。
【0041】
(3)重合工程
本工程は、上述した懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程である。ここで、前駆体粒子とは、主に上述した非架橋性単量体と架橋性単量体との共重合により形成される粒子である。
重合方式に特に限定はなく、例えば、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式等が採用できる。重合温度は、好ましくは40~80℃であり、更に好ましくは50~70℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、更に好ましくは2~15時間、特に好ましくは2.5~8時間である。
炭化水素系溶剤を内部に含むモノマー液滴を用いるため、前駆体粒子の内部には、炭化水素系溶剤を含む中空が形成される。
【0042】
(4)固液分離工程
本工程は、上述した前駆体組成物を固液分離することにより前駆体粒子を得る工程である。
水系媒体を含むスラリー中で、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤をスラリーの水系媒体に置換した後、スラリーを乾燥し、水系媒体を除去する方法により、前駆体粒子内の炭化水素系溶剤を除去することもできる。この場合、中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子を得るためには、水を内包する前駆体粒子から、水を除去する必要がある。
これに対し、本例の製造方法においては、重合工程後のスラリーを固液分離した上で、得られる固形分を気中で乾燥する。この場合、前駆体粒子内部から抜けた炭化水素系溶剤と同体積の空気が容易に粒子内に入り込むため、中空形状を保った中空樹脂粒子が得られる。そして、炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子は、水を内包する前駆体粒子よりも潰れにくい傾向にある。
【0043】
炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子が水を内包する前駆体粒子よりも潰れにくい理由は、未だ明らかではない。しかし、シェルを構成するポリマーの自由体積を考慮した場合、以下のようなメカニズムが推定される。
H.Eyringらによって提唱された液体の構造を説明する模型において、液体は、分子と、自由体積(すなわち、分子が存在しない空間)とからなるとされる。この自由体積は、液体中において分子程度の大きさの空孔の集まりからなり、通常の温度と圧力の下では、約3%程度の自由体積が液体中を占めるとされる。この模型は、ポリマー等の規則性を有する分子を含む固体構造にも適用できる。
本開示においては、前駆体粒子のシェルを構成するポリマーの極性は一般的に高い。したがって、水はポリマーと馴染みやすく、水分子はポリマーの自由体積に取り込まれ易いと考えられる。換言すると、水分子のポリマーに対する溶解度係数は高い。一方、炭化水素系溶剤は、その低い極性のためポリマーと馴染みにくい。換言すると、炭化水素系溶剤分子のポリマーに対する溶解度係数は低い。その結果、炭化水素系溶剤分子は、ポリマーの自由体積に取り込まれにくい。
したがって、水を内包する粒子においては、水分子がシェルを構成するポリマーの自由体積に取り込まれるため、シェル中に分子が存在しない空間が減る結果、シェル中の気体透過性が低下し、乾燥時の水の蒸発に伴う空気の流入が進行しにくくなり、粒子が潰れやすくなる。これに対し、炭化水素系溶剤を内包する粒子においては、炭化水素系溶剤分子がポリマーの自由体積に取り込まれにくいため、シェル中の気体透過性が比較的高く保たれる結果、溶剤除去工程において炭化水素系溶剤と空気との置換が速やかに進行し、中空部を維持した中空樹脂粒子が生成される。
【0044】
前駆体組成物を固液分離する方法は、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することなく、前駆体粒子を含む固形分と、水系媒体を含む液体分を分離する方法であれば特に限定されず、公知の方法を用いることができる。固液分離の方法としては、例えば、遠心分離法、ろ過法、静置分離等が挙げられ、この中でも遠心分離法又はろ過法であってもよく、操作の簡便性の観点から遠心分離法を採用してもよい。
固液分離工程後、後述する溶剤除去工程を実施する前に、予備乾燥工程等の任意の工程を実施してもよい。予備乾燥工程としては、例えば、固液分離工程後に得られた固形分を、乾燥機等の乾燥装置や、ハンドドライヤー等の乾燥器具により予備乾燥する工程が挙げられる。
【0045】
(5)溶剤除去工程
本工程は、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより、中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子を得る工程である。
【0046】
本工程における「気中」とは、厳密には、前駆体粒子の外部に液体分が全く存在しない環境下、及び、前駆体粒子の外部に、炭化水素系溶剤の除去に影響しない程度のごく微量の液体分しか存在しない環境下を意味する。「気中」とは、前駆体粒子がスラリー中に存在しない状態と言い替えることもできるし、前駆体粒子が乾燥粉末中に存在する状態と言い替えることもできる。すなわち、本工程においては、前駆体粒子が外部の気体と直に接する環境下で炭化水素系溶剤を除去することが重要である。
【0047】
前駆体粒子中の炭化水素系溶剤を気中にて除去する方法は、特に限定されず、公知の方法が採用できる。当該方法としては、例えば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、気流乾燥法又はこれらの方法の併用が挙げられる。
特に、加熱乾燥法を用いる場合には、加熱温度は炭化水素系溶剤の沸点以上、かつ前駆体粒子のシェル構造が崩れない最高温度以下とする必要がある。したがって、前駆体粒子中のシェルの組成と炭化水素系溶剤の種類によるが、例えば、加熱温度を50~200℃としてもよく、70~180℃としてもよく、100~150℃としてもよい。
気中における乾燥操作によって、前駆体粒子内部の炭化水素系溶剤が、外部の気体により置換される結果、中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子が得られる。
【0048】
乾燥雰囲気は特に限定されず、中空樹脂粒子の用途によって適宜選択することができる。乾燥雰囲気としては、例えば、空気、酸素、窒素、アルゴン等が考えられる。また、いったん気体により中空樹脂粒子の中空部を満たした後、減圧乾燥することにより、一時的に中空部が真空である中空樹脂粒子も得られる。
【0049】
(6)その他
上記(1)~(5)以外の工程としては、例えば、中空部の再置換工程や塩基添加工程を付加しても良い。
[中空部の再置換工程]
本工程は、中空樹脂粒子の中空部の気体を、他の気体や液体により置換する工程である。このような置換により、中空樹脂粒子の中空部の環境を変えたり、中空樹脂粒子の中空部に選択的に分子を閉じ込めたり、用途に合わせて中空樹脂粒子の中空部の化学構造を修飾したりすることができる。
【0050】
[塩基添加工程]
本工程は、混合液中の重合性単量体の一部として親水性単量体を用い、重合工程により得られた前駆体組成物に塩基を添加することにより、当該前駆体組成物のpHを6.0以上とする工程である。親水性単量体を適量用いる場合には、重合工程により中空構造の前駆体粒子を得た後、塩基を添加することにより前駆体粒子のシェルを膨潤させ、炭化水素系溶剤の除去を容易にし、中空樹脂粒子の空隙率を大きくすることができる。
【0051】
2.中空樹脂粒子
ア.中空樹脂粒子の個数平均粒径
本開示の製造方法で得られる中空樹脂粒子の個数平均粒径は、好適には0.1~10μm、より好適には0.5~8μm、さらに好適には1~6μm、よりさらに好適には1.5~5μm、特に好適には2~4μmである。
中空樹脂粒子の個数平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により、粒度分布を測定し、その個数平均を算出することにより求めることができる。
【0052】
中空樹脂粒子の個数平均粒径の変動係数は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により、個数基準の粒度分布を測定し、その標準偏差を個数平均粒径で除することにより求めることができる。
本開示の製造方法においては、シェルを膨張させずに中空を形成するため、このように比較的個数平均粒径の変動係数が小さい中空樹脂粒子(すなわち、粒度分布がシャープである中空樹脂粒子)が得られる。そして、中空樹脂粒子の粒度分布がシャープであるほど、中空樹脂粒子を含む塗膜を平坦に形成することができる。
【0053】
イ.中空樹脂粒子の形状(モルホロジー)
中空樹脂粒子の形状は、内部に中空部が形成されていれば特に限定されず、例えば、球形、楕円球形、不定形等が挙げられる。これらの中でも、製造の容易さから球形が好ましい。
粒子内部は、1又は2以上の中空部を有していてもよく、多孔質状となっていてもよい。粒子内部は、中空樹脂粒子の高い空隙率と、中空樹脂粒子の機械強度との良好なバランスを維持するために、中空部を1つのみ有するものが好ましい。
中空樹脂粒子は、平均円形度が、0.950~0.995であってもよい。
中空樹脂粒子の形状のイメージの一例は、薄い皮膜からなりかつ気体で膨らんだ袋であり、その断面図は、後述する図1の(5)中の中空樹脂粒子100の通りである。この例においては、外側に薄い1枚の皮膜が設けられ、その内部が気体で満たされる。
粒子形状は、例えば、SEMやTEMにより確認することができる。また、粒子内部の形状は、粒子を公知の方法で輪切りにした後、SEMやTEMにより確認することができる。
【0054】
ウ.中空樹脂粒子の空隙率
本開示の製造方法において、中空樹脂粒子の空隙率は、60%以上とすることができ、より好適には65%以上、さらに好適には70%以上、特に好適には75%以上とすることができる。粒子の強度を維持する観点から、中空樹脂粒子の空隙率は、好適には95%以下、さらにより好適には93%以下、さらに好適には90%以下とする。
【0055】
中空樹脂粒子の空隙率(%)は、中空樹脂粒子の見かけ密度Dと真密度Dにより、下記式(I)により算出される。
式(I)
空隙率(%)=100-(見かけ密度D/真密度D)×100
中空樹脂粒子の見かけ密度Dの測定法は以下の通りである。まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空樹脂粒子を充填し、充填した中空樹脂粒子の質量を精確に秤量する。次に、中空樹脂粒子の充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たす。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空樹脂粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算する。
式(II)
見かけ密度D=[中空樹脂粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
見かけ密度Dは、中空部が中空樹脂粒子の一部であるとみなした場合の、中空樹脂粒子全体の比重に相当する。
【0056】
中空樹脂粒子の真密度Dの測定法は以下の通りである。中空樹脂粒子を予め粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空樹脂粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量する。あとは、上記見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(III)に基づき、中空樹脂粒子の真密度D(g/cm)を計算する。
式(III)
真密度D=[中空樹脂粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
真密度Dは、中空樹脂粒子のうちシェル部分のみの比重に相当する。上記測定方法から明らかなように、真密度Dの算出に当たっては、中空部は中空樹脂粒子の一部とはみなされない。
中空樹脂粒子の空隙率は、中空樹脂粒子の比重において中空部が占める割合であると言い替えることができる。
【0057】
オ.中空樹脂粒子の耐圧性
本開示の中空樹脂粒子は、粒子強度が強いため、強い外力が付加された場合でもその外形及び内部形状が崩れにくく、中空を維持することができる。
圧縮強度は、以下の方法で測定することができる。
中空樹脂粒子の圧縮強度の測定方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
微小圧縮試験機(例えば、MCTM-500、島津製作所社製等)を用いて、下記試験条件の下、粒子の10%圧縮強度を測定する。
(試験条件)
圧子の種類:FLAT50
対物レンズ倍率:50
負荷速度:0.8924 mN/sec
中空樹脂粒子の用途にもよるが、例えば、中空樹脂粒子の圧縮強度が5.0MPa以上であれば、その中空樹脂粒子は高い圧縮強度を有すると評価できる。
【0058】
3.中空樹脂粒子の用途
中空樹脂粒子の用途としては、例えば、感熱紙のアンダーコート材等が考えられる。一般的に、アンダーコート材には断熱性、緩衝性(クッション性)が要求され、これに加えて感熱紙用途に即した耐熱性も要求される。本開示の中空樹脂粒子は、その高い空隙率、潰れにくい中空形状、比較的小さい個数平均粒径、及び高い耐熱性により、これらの要求に応えることができる。
また、中空樹脂粒子は、例えば、光沢、隠ぺい力等に優れたプラスチックピグメントとして有用である。また、内部に香料、薬品、農薬、インキ成分等の有用成分を浸漬処理、減圧または加圧浸漬処理等の手段により封入して得られる中空樹脂粒子は、内部に含まれる成分に応じて各種用途に利用することができる。
【実施例
【0059】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
本実施例及び比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
なお、以下実施例4及び6については、参考例とする。
【0060】
1.溶解性パラメーター(SP値)の計算
重合性単量体、溶剤のSP値(δ)は、上記したように沖津俊直、「接着」、高分子刊行会、40巻8号(1996)p342-350に記載された、前記表1に記載した沖津による各種原子団のΔF、Δv値を用い、下記式(1)により算出した。また、混合溶剤、共重合体ののSP値(δmix)は、下記式(2)により算出した。
δ=ΣΔF/ΣΔv 式(1)
δmix=φ1δ1+φ2δ2+・・・φnδn 式(2)
[式中、ΔFは、下記表1におけるΔFを表し、Δvは、下記表1におけるモル容積Δvを表す。φは、容積分率又はモル分率を表し、φ1+φ2+・・・φn=1である。]
式中、ΔF、Δvは、下記表1におけるモル容積Δvを表す。φは、物質量を表す。]
【0061】
2.中空樹脂粒子の個数平均粒径
上記したように、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、商品名:LA-960)により中空樹脂粒子の粒径を測定し、その個数平均を算出し、得られた値をその粒子の個数平均粒径とした。
【0062】
3.粒子内部のモルホロジー
中空樹脂粒子の断面をイオンミリングにて露出させ、透過型電子顕微鏡にて観察した。
【0063】
4.中空樹脂粒子の空隙率
上記方法に従って中空樹脂粒子の見かけ密度Dと真密度Dを測定し、下記式(I)により空隙率(%)を算出した。
式(I)
空隙率(%)=100-(見かけ密度D/真密度D)×100
【0064】
5.耐圧性
上記方法に従って中空樹脂粒子の圧縮強度を測定した。
【0065】
[実施例1]
(1)混合液調製工程
メタクリル酸40部、エチレングリコールジメタクリレート60部(これらの重合性単量体の混合物のSP値は9.41である)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、和光純薬社製、商品名:V-65)3.0部、およびシクロヘキサン310部(SP値は8.00である)を混合し、これを油相とした。
次いで、イオン交換水800部に、界面活性剤4.0部を混合し、これを水相とした。そして、水相と油相とを混合することにより、混合液を調製した。
(2)懸濁液調製工程
上記混合液調製工程で得られた混合液を、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により、回転数15,000rpmの条件下で5分間攪拌して懸濁させ、シクロヘキサンを内包したモノマー液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
(3)重合工程
上記懸濁液調製工程で得られた懸濁液を、窒素雰囲気で65℃の温度条件下で4時間攪拌し、重合反応を行った。この重合反応により、シクロヘキサンを内包した中空樹脂粒子前駆体を含む前駆体組成物を調製した。
(4)固液分離工程
上記重合工程で得られた前駆体組成物につき、冷却高速遠心機(コクサン社製、商品名:H-9R)により、ローターMN1、回転数3,000rpm、遠心分離時間20分間の条件で遠心分離を行い、固形分を脱水した。脱水後の固形分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させ、シクロヘキサンを内包した中空樹脂粒子前駆体を得た。
(5)溶剤除去工程
上記固液分離工程で得られた中空樹脂粒子前駆体を、真空乾燥機にて、気中で80℃、15時間加熱処理することで、中空樹脂粒子を得た。得られた中空樹脂粒子について、上記方法にしたがって、個数平均粒径、空隙率および圧縮強度の測定を行った。結果を表1に示す。なお、得られた中空樹脂粒子は、走査型電子顕微鏡の観察結果および空隙率の値から、これらの粒子が球状であり、かつ中空部を1つのみ有するものであることが確認され、また、その樹脂部を構成する単量体単位の割合は、仕込み量とほぼ同じであった。
【0066】
[実施例2~6、比較例1~4]
重合性単量体(非架橋性単量体、架橋性単量体)、重合開始剤、炭化水素系溶剤の種類及び含有量を表2の記載に従って変更した以外は実施例1と同様の手順で、中空樹脂粒子を製造した。
【0067】
[比較例5]
重合用モノマー成分(非架橋性単量体としてメタクリル酸メチル56部、メタクリル酸イソブチル24部、及び、架橋性単量体としてトリメチロールプロパントリアクリレート20部)、有機溶剤としてシクロヘキサン100部、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5部を混合、撹拌し、重合用モノマー溶液を調製した。ついで極性溶媒としてのイオン交換水(全使用量の50重量%)および分散剤(界面活性剤)として水溶性高分子水溶液(PVA:部分ケン化ポリ酢酸ビニル水溶液)を添加、ホモジナイザーにて撹拌し、懸濁液を調製した。一方、撹拌機、ジャケット、還流冷却器、および温度計を備えた20リットルの重合器に、残りのイオン交換水、水溶性重合禁止剤としての亜硫酸ナトリウムを入れて、攪拌を開始した。重合器内を減圧して容器内の脱酸素をおこなった後、窒素により圧力を大気圧まで戻して、内部を窒素雰囲気とした後、上記懸濁液を重合槽に一括投入したのち、重合槽を60℃まで昇温し重合を開始した。4時間で重合を終了し、その後1時間の熟成期間をおいた後、重合槽を室温まで冷却した。スラリーを遠心分離機にて脱水し、その後真空乾燥により有機溶剤を除去し中空ポリマー粒子を得た。
【0068】
[比較例6]
異種ポリマーとしての市販のポリスチレン樹脂(新日鉄化学(株)製、数平均分子量15万)10部を、トルエン300部、メチルメタクリレート90部、ジビニルベンゼン10部およびベンゾイルペルオキシド3部の混合物に溶解した。この溶液を、分散剤(界面活性剤)としてポリビニルアルコールを水800部に溶解した水溶液に入れ、撹拌しながら80℃で4時間重合を行なったところ、重合収率98%で粒子径2~10μmのポリマー粒子の分散液が得られた。これを光学顕微鏡で観察したところ、ポリマー粒子は二重の輪郭を有するカプセル粒子であることが分った。次に、このポリマー粒子の分散液にスチームを吹き込んでスチームストリップ処理を行なったところ、ポリマー粒子内部のトルエンが除去され、内部に水を含む含水中空ポリマー粒子が得られた。また、上記含水中空ポリマー粒子およびスチームストリップ処理を行う前のトルエンを内部に含むカプセル粒子をスライドガラス上に乗せカバーグラスを乗せずに顕微鏡で観察したところ、1~2分でともに粒子内部の水あるいはトルエンが蒸発し、中空の粒子になる様子が見られた。
【0069】
[結果]
表2に、各実験例で用いた材料の種類、使用量、SP値、及び試験結果を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
[考察]
以下、表2を参照しながら、各実験例の評価結果について検討する。
比較例1においては、非架橋性単量体と架橋性単量体の総量100部に対し架橋性単量体を60部含み、架橋性単量体の量が充分だったため、中空樹脂粒子の圧縮強度は15.5MPaとなり、粒子強度が大きかった。しかし、重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差が0.38と小さかったため、空隙率は30%と低く、中空性の程度が劣っていた。また、粒子内部のモルホロジーでは多孔質構造が観察され、単孔構造を形成することができなかった。
【0072】
比較例2においては、非架橋性単量体と架橋性単量体の総量100部に対し架橋性単量体を50部含み、架橋性単量体の量が充分だったため、中空樹脂粒子の圧縮強度は10.1となり、粒子強度が大きかった。しかし、重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差が-0.27と小さかったため、空隙率は20%と低く、中空性の程度が劣っていた。また、粒子内部のモルホロジーでは多孔質構造が観察され、単孔構造を形成することができなかった。
【0073】
比較例3においては、重合性単量体のSP値が8.60であり低すぎたため、重合安定性が悪くなり、重合時に樹脂粒子が凝集した。中空樹脂粒子として使用可能な物性が得られなかったため、空隙率、圧縮強度、モルホロジー観察は実施しなかった。
【0074】
比較例4においては、重合性単量体のSP値が9.43であり高すぎたため、重合安定性が悪くなり、重合時に樹脂粒子が凝集した。中空樹脂粒子として使用可能な物性が得られなかったため、空隙率、圧縮強度、モルホロジー観察は実施しなかった。
【0075】
比較例5においては、重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差が-0.25と小さかったため、空隙率は50%と低く、中空性の程度が劣っていた。また、粒子内部のモルホロジーでは多孔質構造が観察され、単孔構造を形成することができなかった。また個数平均粒径が40μmであり、粒子サイズが大きすぎた。
【0076】
比較例6においては、重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差が-0.26と小さかったが、重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差を利用する方法ではないため、単孔構造で高い空隙率(75%)の中空樹脂粒子が得られた。しかし、中空樹脂粒子の圧縮強度は2.1MPaと小さかった。従って、比較例6においては、空隙率が高く且つ粒子強度が大きい中空樹脂粒子は得られなかった。
【0077】
一方、実施例1~実施例6においては、個数平均粒径が2.8μm~3.1μmであり、高い空隙率(70%~90%)、及び、十分な圧縮強度(7.0MPa~13.8MPa)を有する、単孔構造の中空樹脂粒子が得られた。特に、実施例3の中空樹脂粒子は、架橋性単量体の含有量(重合性単量体100部に対し90部)が大きかったため、圧縮強度が実施例のなかで最も大きかった。また実施例2の中空樹脂粒子は、重合性単量体のSP値と炭化水素系溶剤のSP値との差が2.17と大きかったため、空隙率が実施例のなかで最も大きかった。
【符号の説明】
【0078】
1 水系媒体
2 親油性材料
3 懸濁安定剤
4 単量体組成物
4a 水系媒体中に分散した単量体
5 油溶性重合開始剤
6 シェル
7 炭化水素系溶剤
8 中空部
10 ミセル
20 前駆体粒子
51 水系媒体
52 界面活性剤
53 単量体組成物
53a 水系媒体中に溶出した単量体
54 水溶性重合開始剤
60 ミセル
60a ミセル前駆体
100 中空樹脂粒子
図1
図2
図3