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特許7476884塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20240423BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240423BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20240423BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20240423BHJP
   B29C 41/18 20060101ALI20240423BHJP
   B29C 41/36 20060101ALI20240423BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240423BHJP
   B32B 27/22 20060101ALI20240423BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240423BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240423BHJP
   B29K 27/06 20060101ALN20240423BHJP
   B29L 31/58 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L67/02
C08K5/12
C08K5/11
B29C41/18
B29C41/36
B32B5/18
B32B27/22
B32B27/30 101
B32B27/40
B29K27:06
B29L31:58
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021509389
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012693
(87)【国際公開番号】W WO2020196396
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019058693
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019204963
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇倫
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-337700(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087522(WO,A1)
【文献】特開平07-268207(JP,A)
【文献】特開平07-268159(JP,A)
【文献】特開2012-197394(JP,A)
【文献】特開2014-172993(JP,A)
【文献】特開平03-135505(JP,A)
【文献】特開平10-045882(JP,A)
【文献】特開2003-070902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B29C 41/18
B29C 41/36
B32B 5/18
B32B 27/22
B32B 27/30
B32B 27/40
B29K 27/06
B29L 31/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩化ビニル樹脂と、(x)可塑剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物であって、
粉体成形に用いられ、
前記(x)可塑剤が、
(b)トリメリット酸エステルと、
(c)アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位を含有するポリエステルと、を含み、
前記(b)トリメリット酸エステルおよび前記(c)ポリエステルの合計含有量が、前記(a)塩化ビニル樹脂100質量部当たり、90質量部以上140質量部以下であり、
前記(b)トリメリット酸エステルおよび前記(c)ポリエステルの合計含有量に占める前記(c)ポリエステルの含有量の割合が50質量%超であり、
前記(a)塩化ビニル樹脂が、体積平均粒子径が30μm以上500μm以下である塩化ビニル樹脂粒子と、体積平均粒子径が30μm未満である塩化ビニル樹脂微粒子とを含有する、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が5000以下である、請求項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が2600以下である、請求項またはに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(x)可塑剤が、
前記(b)トリメリット酸エステルを7質量%以上49.5質量%未満含み、
前記(c)ポリエステルを37.5質量%超75質量%以下含み、
(d)ドデカン二酸ジエステルを1質量%以上20質量%以下含み、
(e)前記(b)、(c)および(d)以外の可塑剤を0質量%以上5質量%以下含む、請求項1~の何れかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり、前記(b)トリメリット酸エステル、前記(c)ポリエステル、および前記(d)ドデカン二酸ジエステルを合計で66質量部以上200質量部以下含む、請求項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
前記(c)ポリエステルと前記(d)ドデカン二酸ジエステルとの質量比(c/d)が3/2以上10/1以下である、請求項またはに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
パウダースラッシュ成形に用いられる、請求項1~の何れかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~の何れかに記載の塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる、塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項9】
自動車インスツルメントパネル表皮用である、請求項に記載の塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項10】
発泡ポリウレタン成形体と、請求項またはに記載の塩化ビニル樹脂成形体とを有する、積層体。
【請求項11】
自動車インスツルメントパネル用である、請求項10に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、一般に、耐寒性、耐熱性、耐油性などの特性に優れているため、種々の用途に用いられている。
具体的には、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の形成には、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮や塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体などの自動車内装材が用いられている。
【0003】
そして、自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の表皮を構成する塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、顔料等の添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形などの既知の成形方法を用いて成形することにより製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、例えば特許文献1では、塩化ビニル樹脂粒子と、トリメリット酸エステル系可塑剤と、フタロシアニンブルー、酸化チタンおよびカーボンの混合品よりなる顔料等の添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形することにより、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-291243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、自動車内装部品の表皮等として用いられる塩化ビニル樹脂成形体は、低温下で評価した場合の柔軟性(以下、「低温柔軟性」と称することがある。)に優れることが求められる。そして、塩化ビニル樹脂成形体は、加熱された場合に、熱老化等によって低温柔軟性が低下する。そこで、塩化ビニル樹脂成形体は、加熱による低温柔軟性の低下が小さいこと、即ち、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持することが更に求められている。
しかしながら、上記従来技術の塩化ビニル樹脂組成物を成形して得られる塩化ビニル樹脂成形体は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持する点に改善の余地があった。
【0007】
また、塩化ビニル樹脂組成物は、成形して得られた塩化ビニル樹脂成形体を脱型した後の金型の汚染を抑制できること、即ち、耐金型汚染性に優れることが求められている。
しかしながら、上記従来技術の塩化ビニル樹脂組成物は、耐金型汚染性に改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であり、且つ、耐金型汚染性に優れた塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、可塑剤として、トリメリット酸エステルおよび所定の構造単位を含有するポリエステルを使用し、トリメリット酸エステルおよび上記ポリエステルの合計含有量を所定値以上とし、且つ、当該合計含有量に占める上記ポリエステルの含有量の割合が所定値を超えるようにして得られた塩化ビニル樹脂組成物であれば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であると共に、耐金型汚染性にも優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(x)可塑剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物であって、前記(x)可塑剤が、(b)トリメリット酸エステルと、(c)アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位を含有するポリエステルと、を含み、前記(b)トリメリット酸エステルおよび前記(c)ポリエステルの合計含有量が、前記(a)塩化ビニル樹脂100質量部当たり、65質量部以上であり、前記(b)トリメリット酸エステルおよび前記(c)ポリエステルの合計含有量に占める前記(c)ポリエステルの含有量の割合が50質量%超であることを特徴とする。このように、塩化ビニル樹脂と、可塑剤としてのトリメリット酸エステルおよび所定の構造単位を含有するポリエステルとを含み、トリメリット酸エステルおよび上記ポリエステルの合計含有量が所定値以上であり、且つ、当該合計含有量に占める上記ポリエステルの含有量の割合が所定値を超える塩化ビニル樹脂組成物であれば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であると共に、優れた耐金型汚染性を発揮することができる。
【0011】
ここで、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記(b)トリメリット酸エステルおよび前記(c)ポリエステルの合計含有量が、前記(a)塩化ビニル樹脂100質量部当たり、90質量部以上であることが好ましい。このように、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)ポリエステルの合計含有量が上記所定値以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めることができる。
【0012】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記(a)塩化ビニル樹脂が、体積平均粒子径が30μm以上500μm以下である塩化ビニル樹脂粒子と、体積平均粒子径が30μm未満である塩化ビニル樹脂微粒子とを含有することが好ましい。このように、(a)塩化ビニル樹脂が、体積平均粒子径が所定範囲内である塩化ビニル樹脂粒子と、体積平均粒子径が所定値未満である塩化ビニル樹脂微粒子とを含有すれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めることができる。
なお、本発明において、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子の「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折法により測定することができる。
【0013】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が5000以下であることが好ましい。塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記所定値以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を更に高めることができる。
なお、本発明において、塩化ビニル樹脂の「平均重合度」は、JIS K6720-2に準拠して測定することができる。
【0014】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が2600以下であることが好ましい。塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記所定値以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を更に高めることができる。
【0015】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記(x)可塑剤が、前記(b)トリメリット酸エステルを7質量%以上49.5質量%未満含み、前記(c)ポリエステルを37.5質量%超75質量%以下含み、(d)ドデカン二酸ジエステルを1質量%以上20質量%以下含み、(e)前記(b)、(c)および(d)以外の可塑剤を0質量%以上5質量%以下含むことが好ましい。(x)可塑剤が、(b)トリメリット酸エステル、(c)ポリエステル、(d)ドデカン二酸ジエステル、および、(e)上記(b)~(d)以外の可塑剤をそれぞれ上記所定の割合で含めば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の加熱後に低温下で評価した場合の引張伸び(以下、「低温引張伸び」と称することがある)を高めることができる。
【0016】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり、前記(b)トリメリット酸エステル、前記(c)ポリエステル、および前記(d)ドデカン二酸ジエステルを合計で66質量部以上200質量部以下含むことが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物が(b)トリメリット酸エステル、(c)ポリエステル、および(d)ドデカン二酸ジエステルを合計で上記所定の量含めば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0017】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記(c)ポリエステルと前記(d)ドデカン二酸ジエステルとの質量比(c/d)が3/2以上10/1以下であることが好ましい。(c)ポリエステルと(d)ドデカン二酸ジエステルとの質量比(c/d)が上記所定範囲内であれば、塩化ビニル樹脂成形体の加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0018】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましい。このように、塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体が容易に得られる。
【0019】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、パウダースラッシュ成形に用いられることが好ましい。このように、塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体がより容易に得られる。
【0020】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物の何れかを成形してなることを特徴とする。このように、上述した塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形体は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持することができる。
【0021】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車インスツルメントパネル表皮用であることが好ましい。このように、塩化ビニル樹脂成形体を自動車インスツルメントパネルの表皮に用いれば、製造される自動車インスツルメントパネルは、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る表皮を有する。
【0022】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体の何れかとを有することを特徴とする。発泡ポリウレタン成形体および上述した塩化ビニル樹脂成形体を有する積層体は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体部分を備えている。
【0023】
そして、本発明の積層体は、自動車インスツルメントパネル用であることが好ましい。このように、積層体を自動車インスツルメントパネルに用いれば、製造される自動車インスツルメントパネルが有する表皮は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であり、且つ、耐金型汚染性に優れた塩化ビニル樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品が備える表皮などの、自動車内装材として好適に用いることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、本発明の積層体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を用いて形成した積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を製造する際に用いる自動車内装材として好適に用いることができる。
【0026】
(塩化ビニル樹脂組成物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(x)可塑剤とを含んでいる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(x)可塑剤として、(b)トリメリット酸エステルと、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとを含み、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が、(a)塩化ビニル樹脂100質量部当たり、65質量部以上であり、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量に占める(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が50質量%を超えることを特徴とする。
なお、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、任意に、上記(a)塩化ビニル樹脂、および(x)可塑剤以外のその他の成分を更に含んでいてもよい。
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(x)可塑剤として、任意に、上記(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステル以外のその他の可塑剤を更に含んでいてもよい。
【0027】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であり、且つ、耐金型汚染性に優れている。
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を使用すれば、例えば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る自動車インスツルメントパネル用表皮およびドアトリム用表皮などの、自動車内装材として好適な塩化ビニル樹脂成形体を得ることができる。
なお、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて、自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体を容易に得る観点からは、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましく、パウダースラッシュ成形に用いられることがより好ましい。
【0028】
<(a)塩化ビニル樹脂>
(a)塩化ビニル樹脂としては、通常、粒子状の塩化ビニル樹脂を用いる。そして、(a)塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、(a)塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。
そして、(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造し得る。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0029】
また、(a)塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。そして、塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0030】
<<塩化ビニル樹脂粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0031】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1300以上であることが更に好ましく、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2800以下であることが更に好ましく、2300以下であることが特に好ましく、1900以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ、例えば、引張特性、特には引張伸びをより良好にできるからである。そして、引張伸びが良好な塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、エアバッグが膨張、展開した際に、破片が飛散することなく設計通りに割れる、延性に優れた自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。また、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させることができるからである。
【0032】
[体積平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂粒子の体積平均粒子径は、通常30μm以上であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。塩化ビニル樹脂粒子の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性がより向上するからである。また、塩化ビニル樹脂粒子の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性が向上すると共に、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上できるからである。
【0033】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%とすることができ、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ引張伸びを良好にできるからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が向上するからである。
【0034】
<<塩化ビニル樹脂微粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0035】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、500以上が好ましく、700以上がより好ましく、2600以下が好ましく、2400以下がより好ましい。ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性がより良好になると共に、当該組成物を用いて得られる成形体の引張伸びがより良好になるからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性が向上し、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性が向上するからである。
【0036】
[体積平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂微粒子の体積平均粒子径は、通常30μm未満であり、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂微粒子の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、例えばダスティング剤としてのサイズを過度に小さくすることなく、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を更に良好にすることができるからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性が高まり、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を更に向上させることができるからである。
【0037】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合は、0質量%であってもよいが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が更に向上するからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度をより高めることができるからである。
【0038】
<(x)可塑剤>
(x)可塑剤は、(b)トリメリット酸エステルと、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルと、を含んでいる。また、(x)可塑剤は、(d)ドデカン二酸ジエステルを更に含んでいてもよい。また、(x)可塑剤は、(b)トリメリット酸エステル、(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、および(d)ドデカン二酸ジエステル以外の、(e)その他の可塑剤を更に含んでいてもよい。
【0039】
なお、塩化ビニル樹脂組成物中における(x)可塑剤の含有量(上記(b)トリメリット酸エステル、(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、(d)ドデカン二酸ジエステル、および(e)その他の可塑剤の含有量の合計)は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは70質量部以上であり、より好ましくは85質量部以上であり、更に好ましくは95質量部以上であり、好ましくは200質量部以下であり、より好ましくは160質量部以下であり、更に好ましくは140質量部以下である。(x)可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は加熱前後で低温柔軟性を更に良好に維持することができる。また、(x)可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性を高めることができる。さらに、(x)可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めることができる。一方、(x)可塑剤の含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面がべた付くことを抑制することができる。
【0040】
<<(b)トリメリット酸エステル>>
(b)トリメリット酸エステルは、好ましくは、トリメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物である。
【0041】
上記一価アルコールの具体例としては、特に限定されることなく、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール等の脂肪族アルコールが挙げられる。中でも、一価アルコールとしては、炭素数6~18の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数6~18の直鎖脂肪族アルコールがより好ましい。
【0042】
中でも、上記(b)トリメリット酸エステルとしては、上述した一価アルコールによりトリメリット酸のカルボキシ基を実質的に全てエステル化したトリエステル化物が好ましい。トリエステル化物におけるアルコール残基部分は、同一のアルコール由来のものであってもよく、それぞれ異なるアルコール由来のものであってもよい。
上記(b)トリメリット酸エステルは、単一の化合物からなるものであってもよいし、異なる化合物の混合物であってもよい。
【0043】
好適な(b)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリ-n-ウンデシル、トリメリット酸トリ-n-ドデシル、トリメリット酸トリアルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、及びこれらの混合物等である。
より好ましい(b)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、及びこれらの混合物等である。
【0044】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上であり、更に好ましくは15質量部以上であり、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下であり、更に好ましくは50質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めることができる。また、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の耐金型汚染性を更に高めることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は加熱前後で低温柔軟性を更に良好に維持することができる。また、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性を高めることができる。
【0045】
<<(c)所定の構造単位を含有するポリエステル>>
(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、アジピン酸由来の構造単位と、3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位とを含有する。
なお、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位以外の構造単位を有していてもよいが、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位の合計が、全構造単位の50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。また、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、繰り返し単位としてアジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位のみを有することが好ましい。
【0046】
ここで、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、特に限定されることなく、アジピン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを縮合重合することにより得ることができる。なお、上述した縮合重合は、触媒の存在下で実施することができる。また、上述した縮合重合は、末端停止成分としてアルコールおよび/または一塩基酸を用いて実施することができる。更に、アジピン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを縮合重合と、得られた縮合重合物と上記末端停止成分との停止反応とは、一括して行なってもよいし、別々に行なってもよいものとする。また、縮合重合および停止反応を経て得られる生成物には、蒸留等の後処理を施してもよい。そして、上述した単量体、触媒および末端停止成分の使用量などの縮合重合の反応条件としては、公知の条件を採用することができる。
なお、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとしては、市販品を用いてもよい。
【0047】
縮合重合反応に用いる触媒としては、特に限定されることなく、例えば、ジブチル錫オキサイド、テトラアルキルチタネートなどが挙げられる。
【0048】
また、末端停止成分として使用し得るアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、ヘプタノール、イソヘプタノール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、イソウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、セロソルブ、カルビトール、フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコールおよびそれらの混合物が挙げられる。
更に、末端停止成分として使用し得る一塩基酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、安息香酸およびそれらの混合物が挙げられる。
中でも、末端停止成分としては、2-エチルヘキサノールが好ましい。
【0049】
そして、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、数平均分子量が1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、10000以下であることが好ましく、7000以下であることがより好ましい。
なお、「数平均分子量」は、VPO(蒸気圧浸透圧)法にて測定することができる。
また、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、酸価が1以下であることが好ましい。
更に、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、水酸基価が30以下であることが好ましい。
【0050】
更に、上記(c)所定のポリエステルは、粘度が500mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、8000mPa・s以下であることが好ましく、5000mPa・s以下であることがより好ましい。
なお、「粘度」は、JIS Z8803に準拠し、温度23℃で測定することができる。
【0051】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは40質量部以上であり、更に好ましくは50質量部以上であり、好ましくは150質量部以下であり、より好ましくは100質量部以下であり、更に好ましくは90質量部以下であり、特に好ましくは80質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は加熱前後で低温柔軟性を更に良好に維持することができる。また、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性を高めることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めることができる。また、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の耐金型汚染性を更に高めることができる。
【0052】
<<(b)および(c)の関係性>>
塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、65質量部以上であることが必要であり、80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、200質量部以下であることが好ましく、160質量部以下であることがより好ましく、140質量部以下であることが更に好ましい。(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が上記下限以上であると、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持することができる。また、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性を更に高めることができる。さらに、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して90質量部以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物は優れた溶融性を発揮することができる。一方、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面がべた付くことを抑制することができる。
【0053】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量に占める上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合は、50質量%超であることが必要であり、52質量%超であることが好ましく、55質量%超であることがより好ましく、70質量%超であることが更に好ましい。(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量に占める上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が50質量%を超えると、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は加熱前後で低温柔軟性を良好に維持することができる。また、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量に占める上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が上記下限を超えていれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性を高めることができる。
なお、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量に占める上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合は、100質量%未満であることが必要であり、98質量%未満であることが好ましく、95質量%未満であることがより好ましく、92質量%未満であることが更に好ましい。(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量に占める上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が上記100質量%未満であると、塩化ビニル樹脂組成物の耐金型汚染性を十分に高めることができる。また、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量に占める上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が上記上限未満であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めることができる。
【0054】
<<(d)ドデカン二酸ジエステル>>
(x)可塑剤は、上述した(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルに加えて、(d)ドデカン二酸ジエステルを更に含んでいてもよい。(x)可塑剤が上述した(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルに加えて、(d)ドデカン二酸ジエステルを更に含むことにより、形成される塩化ビニル樹脂成形体の加熱後の低温引張伸びを高めることができる。
【0055】
ここで、国際公開第2015/141181号の段落[0082]の表2によると、(d)ドデカン二酸ジエステル(ドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)を含む実施例2~6の塩化ビニル樹脂組成物を成形して得られた塩化ビニル樹脂成形体は、(d)ドデカン二酸ジエステルを含まない比較例1の塩化ビニル樹脂組成物を成形して得られた塩化ビニル樹脂成形体と比較して、ピークトップ温度および脆化温度の値は低く良好であるものの、250時間加熱(130℃)後の低温(-35℃)引張伸びの値は同等以下であった。そのため、従来、塩化ビニル樹脂組成物中の(d)ドデカン二酸ジエステルは、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性の向上には寄与するものの、加熱後の低温引張伸びの向上には寄与しないものと考えられてきた。
しかしながら、可塑剤として、上述した(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルに加えて、(d)ドデカン二酸ジエステルを更に使用して得られる塩化ビニル樹脂組成物であれば、理由は明らかではないが、加熱後の低温引張伸びに優れた塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であることがわかった。
【0056】
また、(x)可塑剤が上述した(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルに加えて(d)ドデカン二酸ジエステルを更に含むことにより、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性を高めることもできる。
【0057】
(x)可塑剤に含まれ得る(d)ドデカン二酸ジエステルは、ドデカン二酸またはそのアルキル化物とアルコールとをエステル化して得られるジエステルからなる。ドデカン二酸とエステル化されるアルコールは、脂肪族アルコールでも、脂環式アルコールでも、芳香族アルコールでもよい。好ましいアルコールは、脂肪族アルコールである。当該アルコールは、1種類でも、2種以上のアルコールの組み合わせでもよい。当該アルコールの炭素数は、好ましくは6以上12以下であり、より好ましくは8以上10以下である。
【0058】
ここで、ドデカン二酸ジエステルの具体例は、ドデカン二酸ジメチル、ドデカン二酸ジエチル、ドデカン二酸ジプロピル、ドデカン二酸ジイソプロピル、ドデカン二酸ジブチル、ドデカン二酸ジイソブチル、ドデカン二酸ジペンチル、ドデカン二酸ジイソペンチル、ドデカン二酸ジヘキシル、ドデカン二酸ジイソヘキシル、ドデカン二酸ジヘプチル、ドデカン二酸ジイソヘプチル、ドデカン二酸ジ-n-オクチル、ドデカン二酸ジイソオクチル、ドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、ドデカン二酸n-オクチル(2-エチルヘキシル)、ドデカン二酸ジ-n-ノニル、ドデカン二酸ジイソノニル、ドデカン二酸n-ノニル(イソノニル)、ドデカン二酸ジ-n-デシル、ドデカン二酸ジイソデシル、ドデカン二酸n-デシル(イソデシル)、ドデカン二酸n-オクチル(n-デシル)、ドデカン二酸n-デシル(2-エチルヘキシル)、ドデカン二酸ジ-n-ウンデシル、ドデカン二酸ジイソウンデシル、ドデカン二酸n-ウンデシル(イソウンデシル)、ドデカン二酸ジ-n-ドデシル、ドデカン二酸ジイソドデシル、ドデカン二酸n-ドデシル(イソドデシル)、ドデカン二酸n-オクチル(n-ドデシル)、ドデカン二酸n-ドデシル(2-エチルヘキシル)、ドデカン二酸n-デシル(n-ドデシル)、α-メチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、α-エチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、α-イソプロピルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、β-メチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、β-エチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、β-イソプロピルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、γ-メチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、γ-エチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、γ-イソプロピルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、α,β-ジメチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、α,β-ジエチルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、α,β-ジイソプロピルドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)等である。好ましい(b)ドデカン二酸ジエステルは、ドデカン二酸と炭素数6~12の脂肪族アルコールとからなるドデカン二酸ジエステルであり、より好ましい(b)ドデカン二酸ジエステルは、ドデカン二酸と炭素数8~10の脂肪族アルコールとからなるドデカン二酸ジエステルであり、更に好ましい(b)ドデカン二酸ジエステルは、ドデカン二酸と炭素数8の脂肪族アルコールとからなるドデカン二酸ジエステルであり、特に好ましい(b)ドデカン二酸ジエステルは、ドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)である。(b)ドデカン二酸ジエステルは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
(d)ドデカン二酸ジエステルとして上記のものを用いることにより、塩化ビニル樹脂組成物を成形して得られる塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性および加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0060】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における上記(d)ドデカン二酸ジエステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは4質量部以上であり、より好ましくは6質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上であり、好ましくは24質量部以下であり、より好ましくは21質量部以下であり、更に好ましくは18質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中における(d)ドデカン二酸ジエステルの含有量が上記範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性および加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0061】
<<各可塑剤の含有割合>>
(x)可塑剤が、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルに加えて、(d)ドデカン二酸ジエステルを更に含んでいる場合、(x)可塑剤中における(b)トリメリット酸エステル、(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、(d)ドデカン二酸ジエステル、および(e)その他の可塑剤の各可塑剤の含有割合が所定範囲内であることが好ましい。(x)可塑剤が、(b)トリメリット酸エステル、(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、(d)ドデカン二酸ジエステル、および(e)その他の可塑剤をそれぞれ所定の含有割合で含んでいれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性および加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0062】
具体的には、(x)可塑剤中における(b)トリメリット酸エステルの含有割合は、7質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、49.5質量%未満であることが好ましい。(x)可塑剤中における(b)トリメリット酸エステルの含有割合が上記所定範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性および加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0063】
また、(x)可塑剤中における上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有割合は、37.5質量%超であることが好ましく、49質量%超であることがより好ましく、75質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、54質量%以下であることが更に好ましく、53質量%以下であることが一層好ましい。(x)可塑剤中における(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有割合が上記範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性および加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0064】
さらに、(x)可塑剤中における上記(d)ドデカン二酸ジエステルの含有割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが更に好ましく、7質量%以上であることが一層好ましく、20質量%以下であることが好ましく、19質量%以下であることがより好ましく、18質量%以下であることが更に好ましい。(x)可塑剤中における(d)ドデカン二酸ジエステルの含有割合が上記範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性および加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0065】
また、(x)可塑剤中における上記(e)その他の可塑剤の含有割合は、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。(x)可塑剤中における(e)その他の可塑剤の含有割合が上記範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0066】
<<(b)、(c)および(d)の関係性>>
さらに、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステル、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、および(d)ドデカン二酸ジエステルの含有量の合計は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは60質量部以上であり、更に好ましくは66質量部以上であり、一層好ましくは80質量部以上であり、好ましくは200質量部以下であり、より好ましくは160質量部以下であり、更に好ましくは140質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中における(b)トリメリット酸エステル、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、および(d)ドデカン二酸ジエステルの含有量の合計が上記範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温柔軟性および加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0067】
<<(c)と(d)との関係性>>
塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ポリエステルと(d)ドデカン二酸ジエステルとの質量比(c/d)は、好ましくは3/2以上であり、より好ましくは7/4以上であり、更に好ましくは2/1以上であり、好ましくは10/1以下であり、より好ましくは6/1以下であり、更に好ましくは3/1以下である。(c)ポリエステルと(d)ドデカン二酸ジエステルとの質量比(c/d)が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の加熱後の低温引張伸びを更に高めることができる。
【0068】
<<その他の可塑剤>>
塩化ビニル樹脂組成物に含まれる(x)可塑剤は、任意で、上述した(b)トリメリット酸エステル、(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、および(d)ドデカン二酸ジエステル以外の可塑剤((e)その他の可塑剤)を含んでいてもよい。
【0069】
(e)その他の可塑剤の具体例としては、国際公開第2016/098344号に記載の可塑剤のうち、上述した(b)トリメリット酸エステル、(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、および(d)ドデカン二酸ジエステル以外の可塑剤などが挙げられる。中でも、形成される塩化ビニル樹脂成形体の加熱前後での低温柔軟性の低下を抑制する観点から、エポキシ化大豆油を用いることが好ましい。
【0070】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における上記(e)その他の可塑剤の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0質量部以上5質量部以下とすることができる。
【0071】
<添加剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、滑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β-ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のその他のダスティング剤;耐衝撃性改良剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等);酸化防止剤;防カビ剤;難燃剤;帯電防止剤;充填剤;光安定剤;発泡剤;顔料;などが挙げられる。
【0072】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物が含み得る上述した添加剤としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができ、その好適含有量も国際公開第2016/098344号の記載と同様とすることができる。
【0073】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、シリコーンオイルを含むことが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物を含んでいれば、塩化ビニル樹脂組成物の耐金型汚染性を更に高めることができる。
なお、塩化ビニル樹脂組成物が含み得るシリコーンオイルとしては、例えば、特開2018-35304号公報に記載のシリコーンオイルなどが挙げられる。
そして、塩化ビニル樹脂組成物中におけるシリコーンオイルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、1質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中におけるシリコーンオイルの含有量が上記所定範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の耐金型汚染性を一層高めることができる。
【0074】
<塩化ビニル樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルを少なくとも含む(x)可塑剤と、必要に応じて更に配合される各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、ダスティング剤(塩化ビニル樹脂微粒子を含む)を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0075】
<塩化ビニル樹脂組成物の用途>
そして、得られた塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に好適に用いることができ、パウダースラッシュ成形により好適に用いることができる。
【0076】
(塩化ビニル樹脂成形体)
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を、任意の方法で成形することにより得られることを特徴とする。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成されているため、通常、少なくとも、(a)塩化ビニル樹脂と、(x)可塑剤としての(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとを含み、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が上述した所定値以上であり、当該合計含有量に占める(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が50質量%を超えている。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持することができる。
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、高温下に置かれた後に更に低温下に置かれた状態であっても、例えば、エアバッグが膨張、展開した際に、破片が飛散することなく設計通りに割れる、延性に優れた自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。
【0077】
<塩化ビニル樹脂成形体の形成方法>
ここで、パウダースラッシュ成形により塩化ビニル樹脂成形体を形成する場合、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0078】
そして、塩化ビニル樹脂成形体を製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型する。そして、金型の形状をかたどったシート状の成形体を得る。
なお、上記方法では、上述した本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いているため、得られた塩化ビニル樹脂成形体を脱型した後の金型の汚染を抑制することができる。
【0079】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体とを有する。なお、塩化ビニル樹脂成形体は、通常、積層体の一方の表面を構成する。
そして、本発明の積層体は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成され、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を有しているため、自動車内装部品、特に、自動車インスツルメントパネルを形成する自動車内装材として好適に用いられる。
【0080】
ここで、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形体との積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後に、熱融着、熱接着、または、公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;(2)塩化ビニル樹脂成形体上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂成形体上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においても塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)が好適である。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、塩化ビニル樹脂組成物の溶融温度および耐金型汚染性、並びに、塩化ビニル樹脂成形体の加熱前(初期)および加熱(熱老化試験)後の低温柔軟性および低温引張伸びは、下記の方法で測定および評価した。
【0082】
<溶融温度>
実施例および比較例で得られた塩化ビニル樹脂組成物の溶融温度は、加熱した金型を用いて測定した。具体的には、金型を170℃から270℃までの範囲で等間隔に段階的に加熱した熱板上に置き、段階的に加熱した金型を得た。そして、塩化ビニル樹脂組成物を、当該段階的に加熱した金型に厚みが1mmとなるように振りかけ、30秒間放置することにより溶融させた。次に、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、金型を水で冷却することにより、塩化ビニル樹脂がベルト状に成形された塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。脱型した塩化ビニル樹脂成形シート表面を目視で観察し、溶融した箇所の温度を溶融温度とした。なお、当該溶融した箇所は、成形された塩化ビニル樹脂成形シートにおいて、粒子形状を残すことなく平滑な表面を有する箇所として判断した。溶融温度が低いほど、塩化ビニル樹脂組成物が溶融性に優れることを示す。
【0083】
<耐金型汚染性>
金型をサンドブラストにより洗浄した後、温度250℃に加熱したシボ付き金型に対して、実施例および比較例で得られた塩化ビニル樹脂組成物を振りかけ、任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体としての、145mm×175mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートをシボ付き金型から脱型した。上述した加熱、成形、および冷却の操作を5回繰り返した後、マイクロスコープでシボ付き金型の表面の10cm×10cmの領域を観察した。当該領域内において、円相当径が100μm以上である粒子の数を計測して、下記の基準に従って、塩化ビニル樹脂組成物の耐金型汚染性を評価した。なお、円相当径が100μm以上である粒子の数が少ないほど、塩化ビニル樹脂組成物は耐金型汚染性に優れることを示す。
A:500個未満
B:500個以上1000個未満
C:1000個以上
【0084】
<低温柔軟性>
<<加熱前(初期)>>
実施例および比較例で得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:145mm×175mm×1mm)を10mm×40mmの寸法で打ち抜き、JIS K7244-4に準拠して、周波数10Hz、測定温度範囲-90℃~+100℃、昇温速度2℃/分で損失弾性率のピークトップ温度を測定した。塩化ビニル樹脂成形シートは、当該ピークトップ温度が低いほど、加熱前(初期)の低温柔軟性に優れている。
<<加熱(熱老化試験)後>>
実施例および比較例で得られた塩化ビニル樹脂成型シート(寸法:145mm×175mm×1mm)を、DURO-A硬度が90°のポリウレタン製の板(寸法:230mm×320mm×3mm)の上に乗せ、250mm×340mm×2mmのアルミ板で上下を挟んだ。その上に2kgの重りを載せた状態にし、オーブンに入れて、120℃にて1週間加熱を行った。その後、重りを取り除き、オーブンから取り出して室温に戻した後、アルミ板を除いてからポリウレタン製の板から塩化ビニル樹脂成形シートを剥がした。得られた加熱(熱老化試験)後の塩化ビニル樹脂成形シートを用いて、上記加熱前の場合と同じ操作および条件で、損失弾性率のピークトップ温度を測定した。当該ピークトップ温度が低いほど、塩化ビニル樹脂成形シートは加熱(熱老化試験)後の低温柔軟性に優れている。
<<加熱前後での低温柔軟性の維持>>
塩化ビニル樹脂成形シートの加熱前の損失弾性率のピークトップ温度と、加熱後の損失弾性率のピークトップ温度との差を求めることにより、加熱前後での低温柔軟性の維持の程度を評価した。なお、加熱前の損失弾性率のピークトップ温度と、加熱後の損失弾性率のピークトップ温度との差が小さいほど、塩化ビニル樹脂成形シートは加熱前後で低温柔軟性を良好に維持できていることを示す。
【0085】
<低温引張伸び>
<<加熱前(初期)>>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートを、JIS K6251に記載の1号ダンベルで打ち抜き、JIS K7113に準拠して、引張速度200mm/分で、-10℃の低温下における引張破断伸び(%)を測定した。引張破断伸びの値が大きいほど、塩化ビニル樹脂成形シートは加熱前(初期)の低温引張伸びに優れている。
<<加熱(熱老化試験)後>>
発泡ポリウレタン成形体が裏打ちされた積層体を試料とした。当該試料をオーブンに入れ、温度120℃の環境下で500時間加熱を行った。次に、加熱後の積層体から発泡ポリウレタン成形体を剥離して、塩化ビニル樹脂成形シートのみを準備した。そして、上記初期の場合と同様の条件にて、500時間加熱後の塩化ビニル樹脂成形シートの引張破断伸び(%)を測定した。引張破断伸びの値が大きいほど、塩化ビニル樹脂成形シートは加熱(熱老化試験)後の低温引張伸びに優れている。
【0086】
(製造例)
実施例および比較例で使用したポリエステルは、以下のようにして調製した。
<ポリエステルA>
多価カルボン酸としてのアジピン酸、多価アルコールとしての3-メチル-1,5-ペンタンジオール、及びストッパー(末端停止成分)としての2-エチルヘキサノールを反応容器に仕込み、触媒としてテトライソプロピルチタネートを加え、適宜溶剤を添加し、攪拌しながら昇温した。副生する水は常圧および減圧で除去し、最終的に220~230℃まで温度を上げて脱水縮合反応を完結させた。得られた生成物について、圧力4~80Pa、外套温度250℃の条件下で薄膜蒸留を行なうことで、末端が2-エチルヘキソキシ基からなるポリエステルA(粘度:3600mPa・s、数平均分子量:5300、酸価:0.32、水酸基価:12.7)を得た。
【0087】
(実施例1)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル、ポリエステルA、およびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度70℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
得られた塩化ビニル樹脂組成物を用いて、溶融温度および耐金型汚染性を評価した。結果を表1に示す。
<塩化ビニル樹脂成形体の形成>
以下のようにして、寸法が145mm×175mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを作製した。
具体的には、上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体としての塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
そして、得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:145mm×175mm×1mm)について、上述の方法に従って、加熱前(初期)および加熱(熱老化試験)後の低温柔軟性を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例2~7、比較例1~5)
トリメリット酸エステル、およびポリエステルAの使用量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
なお、比較例5で得られた塩化ビニル樹脂組成物は、十分な溶融性を発揮しなかったため、溶融温度を測定することができなかった。また、比較例5で得られた塩化ビニル樹脂組成物を用いて塩化ビニル樹脂成形体の形成を試みたが、未溶融部分が多く、引裂けやすい脆い成形品しか得られず、適切に粉体成形をすることができなかったため、耐金型汚染性および低温柔軟性の評価を行うことができなかった。
【0089】
(実施例8)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表2に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル、ポリエステルA、およびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度70℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
<塩化ビニル樹脂成形体の形成>
以下のようにして、寸法が145mm×175mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートおよび寸法が200mm×300mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートをそれぞれ調製した。
具体的には、上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体としての塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
そして、得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:145mm×175mm×1mm)について、上述の方法に従って、加熱前(初期)の低温柔軟性を測定、評価した。また、得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:200mm×300mm×1mm)について、上述の方法に従って、加熱前(初期)の低温引張伸びを測定、評価した。結果を表2に示す。
<積層体の形成>
得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:200mm×300mm×1mm)を、200mm×300mm×10mmの金型の中に、シボ付き面を下にして敷いた。
別途、プロピレングリコールのPO(プロピレンオキサイド)・EO(エチレンオキサイド)ブロック付加物(水酸基価28、末端EO単位の含有量=10%、内部EO単位の含有量4%)を50部、グリセリンのPO・EOブロック付加物(水酸基価21、末端EO単位の含有量=14%)を50部、水を2.5部、トリエチレンジアミンのエチレングリコール溶液(東ソー社製、商品名「TEDA-L33」)を0.2部、トリエタノールアミンを1.2部、トリエチルアミンを0.5部、および整泡剤(信越化学工業製、商品名「F-122」)を0.5部混合して、ポリオール混合物を得た。また、得られたポリオール混合物とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)とを、インデックスが98になる比率で混合した混合液を調製した。そして、調製した混合液を、上述の通り金型内に敷かれた塩化ビニル樹脂成形シートの上に注いだ。その後、348mm×255mm×10mmのアルミニウム板で上記金型に蓋をして、金型を密閉した。金型を密閉してから5分間放置することにより、表皮としての塩化ビニル樹脂成形シート(厚さ:1mm)に、発泡ポリウレタン成形体(厚み:9mm、密度:0.2g/cm3)が裏打ちされた積層体が、形成された。
そして、形成された積層体を金型から取り出し、積層体における塩化ビニル樹脂シートについて、上述の方法に従って、加熱(熱老化試験)後の低温引張伸びを測定、評価した。結果を表2に示す。
【0090】
(実施例9~10)
表2に示す配合量のドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)を可塑剤として更に使用した以外は、実施例8と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体、および積層体を作製した。そして、実施例8と同様にして測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
1)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)1700ZI」(懸濁重合法で調製、平均重合度:1700、体積平均粒子径:129μm)
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法で調製、平均重合度:800、体積平均粒子径:1.8μm)
3)東ソー社製、製品名「リューロンペースト761」(乳化重合法で調製、平均重合度:2100、体積平均粒子径:1.7μm)
4)花王社製、製品名「トリメックスN-08」
5)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O-130S」
6)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
7)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
8)昭和電工社製、製品名「カレンズDK-1」
9)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ SC-131」
10)ADEKA社製、製品名「LA-72」
11)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
12)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS-12」
13)信越シリコーン社製、製品名「KF-96H-30万cs」(未変性シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン)、粘度:30×104cs)
14)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
15)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)1300S」(懸濁重合法で調製、平均重合度:1300、体積平均粒子径:132μm)
16)和光純薬工業社製
【0094】
表1より、可塑剤として、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルを使用し、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)ポリエステルの合計含有量を所定値以上とし、且つ、当該合計含有量に占める上記(c)ポリエステルの含有量の割合が所定値を超えるようにして得られた実施例1~7の塩化ビニル樹脂組成物であれば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であると共に、耐金型汚染性に優れていることが分かる。
一方、可塑剤として、(b)トリメリット酸エステルを使用せず、上記(c)ポリエステルのみを使用した比較例1の塩化ビニル樹脂組成物は、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であるが、耐金型汚染性に劣ることが分かる。
また、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルを使用し、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)ポリエステルの合計含有量を所定値以上としたが、当該合計含有量に占める上記(c)ポリエステルの含有量の割合が所定値以下である比較例2~4の塩化ビニル樹脂組成物は、耐金型汚染性は良好であるが、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成できないことが分かる。
さらに、(b)トリメリット酸エステルおよび上記(c)ポリエステルの合計含有量が所定値未満である比較例5の塩化ビニル樹脂組成物は、十分な溶融性を有さず、適切に塩化ビニル樹脂成形体を形成することができないことが分かる。
【0095】
また、表2より、(b)トリメリット酸エステル、(c)所定の構造単位を含有するポリエステル、(d)ドデカン二酸ジエステル、および、(e)上記(b)~(d)以外の可塑剤をそれぞれ所定の割合で含む可塑剤を使用した実施例9~10の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体は、(d)ドデカン二酸ジエステルを含まない可塑剤を使用した実施例8の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体と比較して、加熱後の低温引張伸びに優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であり、且つ、耐金型汚染性に優れた塩化ビニル樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、加熱前後で低温柔軟性を良好に維持し得る塩化ビニル樹脂成形体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することができる。