(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】SiC単結晶インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240423BHJP
C30B 23/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/00
(21)【出願番号】P 2021522743
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2020020450
(87)【国際公開番号】W WO2020241541
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019098446
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄内 智博
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/116581(WO,A1)
【文献】特開2008-280196(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151412(WO,A1)
【文献】特開2011-241096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si原料が付着されたSiC種結晶を用意し、前記SiC種結晶を加熱することで、前記SiC種結晶をSiC改質シードに改質する第1工程と、
前記SiC改質シード上に、昇華法によりSiC単結晶を成長させる第2工程と、を有
し、
前記Si原料は、平板形状のSi単結晶及び粒状のSi単結晶の両方又は一方であり、
前記第1工程では、前記SiC種結晶及び前記Si原料を1400℃以上2400℃以下の温度で加熱する、SiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項2】
Si原料が付着されたSiC種結晶を用意し、前記SiC種結晶を加熱することで、前記SiC種結晶をSiC改質シードに改質する第1工程と、
前記SiC改質シード上に、昇華法によりSiC単結晶を成長させる第2工程と、を有
し、
前記Si原料は、平板形状のSi多結晶及び粒状のSi多結晶の両方又は一方であり、
前記第1工程では、前記SiC種結晶及び前記Si原料を1350℃以上2400℃以下の温度で加熱する、SiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項3】
Si原料が付着されたSiC種結晶を用意し、前記SiC種結晶を加熱することで、前記SiC種結晶をSiC改質シードに改質する第1工程と、
前記SiC改質シード上に、昇華法によりSiC単結晶を成長させる第2工程と、を有
し、
前記第2工程においてSiC単結晶インゴットが得られ、
前記SiC単結晶インゴットから形成される、SiCウェハのマイクロパイプの平均密度が0個/cm
2
以上0.1個/cm
2
個以下である、SiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項4】
前記SiC単結晶は4H-SiCであり、前記Si原料と接触する前記SiC種結晶の面がカーボン面である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項5】
前記第1工程と前記第2工程が、同じ坩堝を用いて行われ、
前記Si原料が付着されたSiC種結晶の前記Si原料を、前記第2工程を行う坩堝の上部に貼り付けて、前記第1工程を行い、
前記第1工程後に前記第2工程を行う、請求項1
~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項6】
前記第1工程と、前記第2工程との間に、前記
坩堝内に、前記第2工程で用いる原料を配置する準備工程を有する、請求項
5に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項7】
前記第1工程と前記第
2工程が、互いに別の装置を用いて行われ、
前記Si原料が付着されたSiC種結晶の前記Si原料が取付手段を有する台座に固定された状態で、前記第1工程が行われ、
前記第1工程を終了後、前記第1工程が行われる装置から前記台座ごと前記SiC改質シードを取り外し、前記取付手段を用いて前記台座ごと前記SiC改質シードを前記第2工程が行われる装置に取り付ける工程を含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項8】
前記第1工程と前記第
2工程が、互いに異なる装置を用いて行われ、
前記SiC種結晶の前記Si原料が、装置の蓋に取り付けられて、前記第1工程が行われ、
前記第1工程の終了後、前記装置から前記蓋が外され、第2工程を行う別の装置に取り付けられて、前記第2工程が行われる、請求項1
~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項9】
前記SiC単結晶は4H-SiCであり、前記Si原料と接触する前記SiC種結晶の面がシリコン面である、請求項
5~8のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項10】
前記第1工程と、前記第2工程との間に、Si残渣除去工程をさらに有し、
前記Si残渣除去工程は、前記SiC改質シード表面から前記Si原料または過剰なSiを除去する工程である、請求項1~9のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項11】
前記第1工程において、前記SiC種結晶または前記Si原料に、さらにC原料を付着させる、請求項1~10のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項12】
前記第1工程において、改質が行われる雰囲気中にC元素を含むガスを含ませる、請求項1~10のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項13】
前記第1工程は、加圧環境下で加熱を行う、請求項1~12のいずれか一項に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【請求項14】
前記第2工程においてSiC単結晶インゴットが得られ、
前記SiC単結晶インゴットから形成される、SiCウェハのマイクロパイプの平均密度が0個/cm
2以上0.1個/cm
2個以下である、
請求項1
又は2に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶インゴットの製造方法及びSiC改質シードの製造方法に関する。
本願は、2019年5月27日に、日本に出願された特願2019-098446号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素はこれらの特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition Method:CVD法)によって設けられたエピタキシャル膜が、SiC半導体デバイスの活性領域となる。SiCウェハは、SiC単結晶インゴットを加工して得られる。
【0004】
SiC単結晶インゴットは、昇華再結晶法(以下、昇華法という)等の方法で作製できる。昇華法は、原料から昇華した原料ガスを種結晶上で再結晶化することで、大きな単結晶を得る方法である。高品質なSiC単結晶インゴットを得るために、欠陥や異種多形(ポリタイプの異なる結晶が混在すること)を抑制する方法が求められている。ここでいう異種多形とは、ポリタイプの異なる結晶が混在することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のSiC単結晶インゴットの製造方法では、マイクロパイプと呼ばれる、直径数μmから数十μm程度、場合によっては直径100μm以上程度の、中空パイプ形状の欠陥が発生してしまう。マイクロパイプは、電子デバイス作成にあたっては、キラー欠陥となってしまう。従って、マイクロパイプの発生を抑制するSiC単結晶インゴットを製造することが求められている。
【0007】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、マイクロパイプ密度の低減されたSiC単結晶インゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、マイクロパイプ密度の低減されたSiC改質層を形成し、この上に昇華法によりSiC単結晶インゴットを成長することで、マイクロパイプ密度の低減をされたSiC単結晶インゴットを提供できることを見出した。すなわち、本発明は上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)本発明の第1の態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、Si原料が付着されたSiC種結晶を用意し、前記SiC種結晶を加熱することで、前記SiC種結晶をSiC改質シードに改質する第1工程と、前記SiC改質シード上に、昇華法によりSiC種結晶を成長させる第2工程と、を有する。
前記第1の態様の製造方法は、以下の(2)~(8)の特徴を好ましく含む。これら特徴は単独でも、あるいは2つ以上を組み合わせても良い。
【0010】
(2)上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法において、前記第1工程と前記第2工程が、同じ坩堝を用いて行われ、前記Si原料が付着されたSiC種結晶の前記Si原料を、前記第2工程を行う坩堝の上部に貼り付けて、前記第1工程を行い、前記第1工程後に前記第2工程を連続して行ってもよい。
【0011】
(3)上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法において、前記第1工程と前記第2工程が、互いに別の装置を用いて行われ、前記Si原料が付着されたSiC種結晶の前記Si原料が取付手段を有する台座に固定された状態で、前記第1工程が行われ、前記第1工程を終了後、前記第1工程が行われる装置から前記台座ごと前記SiC改質シードを取り外し、前記取付手段を用いて前記台座ごと前記SiC改質シードを前記第2工程が行われる装置に取り付けてもよい。
【0012】
(4)上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法において、前記Si原料は、平板形状のSi単結晶及び粒状のSi単結晶の両方又は一方であり、前記第1工程では、前記SiC種結晶及び前記Si原料を1400℃以上2400℃以下の温度で加熱してもよい。
【0013】
(5)上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法において、前記Si原料は、平板形状のSi多結晶及び粒状のSi多結晶の両方又は一方であり、前記第1工程では、前記SiC種結晶及び前記Si原料を1350℃以上2400℃以下の温度で加熱してもよい。
【0014】
(6)上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法において、前記第1工程と、前記第2工程との間に、Si残渣除去工程をさらに有し、前記Si残渣除去工程は、前記SiC改質シード表面から前記Si原料を除去する工程であってもよい。
【0015】
(7)上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法において、前記第1工程は、前記SiC種結晶または前記Si原料に、さらにC原料を付着させてもよい。
【0016】
(8)上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法において、前記第1工程は、加圧環境下で加熱してもよい。
【0017】
(9)本発明の第2の態様にかかるSiC改質シードの製造方法は、Si原料が付着されたSiC種結晶を加熱し、SiC改質シードを形成する。
前記第2の態様の製造方法は、上記(4)又は(5)に記載された特徴と同等の特徴をさらに含んでも良い。
(10)本発明の第2の態様にかかるSiC改質シードの製造方法は、Si原料が付着されたSiC種結晶を加熱し、SiC改質シードに改質する、SiC改質シードの製造方法である。
第2の態様のSiC改質シードの製造方法は、第1の態様のSiC単結晶インゴットの製造方法の第1工程であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
上記態様にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法によれば、SiC単結晶インゴットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態にかかるSiC改質シード形成装置の好ましい一例を示す模式断面図である。
【
図2A】第1実施形態にかかる台座の好ましい一例を示す模式斜視図である。
【
図2B】第1実施形態にかかる台座の好ましい一例を示す模式断面図である。
【
図3】第1実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造装置の好ましい一例を示す模式断面図である。
【
図4】第2実施形態にかかるSi原料およびSiC種結晶の配置の仕方の好ましい一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態の好ましい例について、添付図面を参照して、詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴を分かりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。例えば、発明を逸脱しない範囲で、数、位置、大きさ、数値、材料、形状、比率などの、変更や追加及び省略をする事ができる。また特に問題が無ければ好ましい条件同士を組み合わせてもよい。
【0021】
<SiC単結晶インゴットの製造方法>
(第1実施形態)
本実施形態に係るSiC単結晶インゴットの製造方法は、SiC種結晶をマイクロパイプ密度の低減されたSiC改質シードに改質する第1工程と、SiC改質シード上にSiC単結晶インゴットを成長する第2工程と、を有する。
なお改質とは、Si原料が少なくとも一部に付着したSiC種結晶を加熱することにより、種結晶のマイクロパイプ密度を低減することを意味する。本発明の製法で得られるSiC改質シードのマイクロパイプの低減率は、条件によって変化するが、例えば5~80%であり、10~70%や、20~65%や、30~60%などであってもよい。ただしこれらの例のみに限定されない。
本発明で得られるSiC単結晶インゴットから、マイクロパイプの平均密度が0個/cm2以上0.1個/cm2個以下のSiCウェハを形成できる。
【0022】
(第1工程)
第1工程は、Si原料が付着されたSiC種結晶を加熱することで、前記SiC種結晶をマイクロパイプ密度の低減されたSiC改質シードに改質する工程である。第1工程は、SiC改質シード形成装置を用いて行うことができる。ここでいうSiC改質シードとは、第2工程で行う昇華法によるSiC単結晶の成長の起点になる、SiC単結晶である。尚、本明細書では記載を省略するが、第1工程を行う前に、SiC種結晶を準備する必要がある。本実施形態において、SiC種結晶は、SiC単結晶からなり、公知の方法を用いて準備することができる。尚、ここでSi原料が付着されたとは、接着剤や外圧により互いが固定され動かない状態になることを意味して良いが、これに限らない。例えば、載置などにより互いが単に接触している状態となることも含む。また、スパッタリング法等によりSiC種結晶の表面にSi膜を形成した状態も含む。なお第1工程を行う方法は、以下の例に限定されず、必要に応じて、適宜変更して行うことができる。
従来の方法では、昇華法で製造されたSiC単結晶インゴットから切り出されたSiC単結晶を、種結晶として用いる場合が多かった。しかしながら、従来の種結晶には、マイクロパイプが多く存在していた。昇華法により製造されたSiC単結晶インゴットから切り出された従来のSiC単結晶と比べて、本実施形態の第1工程を行い、製造されたSiC改質シードは、マイクロパイプが大幅に低減される。そのため本発明では優れたSiC単結晶インゴットを製造することができる。
【0023】
図1は、第1工程を行う改質シード形成装置の好ましい一例を示す、模式断面図である。本実施形態の製造方法では、改質シード形成装置として、加熱機構を備え、内部に成長空間を有する装置を用いて改質を行うことができる。例えば、
図1に示す改質シード形成装置100のような、坩堝1と、坩堝1の周囲に配置されたヒータ2からなる改質シード形成装置100を用いることができる。本実施形態は、改質シード形成装置100を用いて改質シードを形成する方法を例に記載するが、SiC改質シードを形成する方法は、この例のみに限定されない。
【0024】
図1に記載されるSiC改質シード形成装置100の坩堝1は、蓋11と本体部12とを好ましく有する。坩堝1は、SiC改質シードの形成中、高温に加熱されるため、高温に耐えられる材料を用いることができる。例えば、黒鉛、TaC及びTaCコートされた黒鉛等を用いることができる。
【0025】
坩堝1の蓋11は、内側に設置部11Aを好ましく有する。設置部11Aには、Si原料111およびSiC改質シードの原料となるSiC種結晶110が載置される。Si原料111、及び、SiC種結晶110は、取付手段41を有する台座4に載置及び固定され、坩堝1の設置部11Aに設置される。設置部11Aの形状は任意に選択でき、設置される台座4に合わせて、台座4またはSi原料110が設置されやすいように、適宜選択することができる。
【0026】
図2Aと
図2Bは、台座4の模式図である。
図2Aは、台座4の模式斜視図であり、
図2Bは、台座4の模式断面図である。便宜上理解を容易にするために、
図2Bに、台座4に設置されるSiC種結晶110およびSi原料111も合わせて示す。台座4の構成は、SiC種結晶110およびSi原料111が固定された状態で蓋11に設置可能な構成であればよく、任意に選択できる。
図2Aと
図2Bに示すように、台座4は、主部40と、取付手段41と、側部42と、を有する。台座4は、中空の円筒部分を好ましく有する。台座4の材料は、例えば、黒鉛やTaC等を用いることができる。主部40の一面(主面)に対して、直交する方向に、取付手段41が備えられる。主部40の主面のうち、取付手段41が備えられない面を載置面40Aとし、取付手段41が備えられる面を設置面40Bとする。設置面40Bは、取付手段41を設置部11Aに設置する構成である。取付手段41は、坩堝1の蓋11に安定して固定できる構成であれば任意に選択でき、形状等は特に限定されない。
図2Aや
図2Bに記載のねじ式の取付手段41であってもよいし、図示しないフック式等の取付手段等であってもよい。
【0027】
側部42は、主部40の側周に位置し、載置面40Aの有する方向に延在する、言い換えると主部40の一面(主面)に対して直交する方向に延在する、構成を有する。載置面40Aと側部42とで囲まれる領域には、SiC種結晶110およびSi原料111が載置される。台座4は、載置面40Aに載置したSi原料111およびSiC種結晶110を固定する。Si原料111およびSiC種結晶110の台座4への固定方法は、必要に応じて選択できる。例えば、接着剤を用いて固定してもよいし、側部42からの圧力や自重を利用して固定してもよい。
【0028】
Si原料111としては、純度5N以上のSi原料を好ましく用いることができる。またSi原料111のサイズや形状や厚さは任意に選択できる。例えば、平面板状のSi原料や、粒状のSi原料を用いることができる。Si原料はディスク状であっても良いし、ディスク状のSi原料の直径は100mm以上であっても良い。また、Si原料111は、Si単結晶であってもよいし、Si多結晶であってもよい。SiC種結晶110と接するSi原料111の表面は、SiC種結晶110の表面と同じ形やサイズを有しても良い。
【0029】
後述する第2工程では、昇華法によりSiC単結晶を成長させるが、SiC種結晶110として4H-SiCを用いる場合、カーボン面上に結晶成長させることが通常行われる。そのため、Si原料111と接触するSiC種結晶110の面がカーボン面となるように載置することで、短時間で改質シードを得ることができる。
【0030】
台座4が取付手段41により坩堝1に設置された状態で、ヒータ2により坩堝1を加熱する。その結果、SiC改質シードが形成される。坩堝1内の環境は、必要に応じて加圧しても加圧しなくても良い。SiC改質シードを形成する際、坩堝1内の雰囲気をAr等の不活性ガス雰囲気や空気雰囲気又は真空とすることができる。また、坩堝1内の前記雰囲気にさらに、メタンガスやプロパンガス等のC元素を含むガスを含ませても良い。前記雰囲気に含まれる前記C元素を含むガスは、C原料として作用しても良い。不活性ガス中にC元素を含むガスを含ませる場合、雰囲気ガス中のC元素の比率、つまり、(C元素)/(不活性ガスの元素+C元素)のモル比は、0.1~0.5であることが好ましい。C元素の比率が高い方が改質シードを効率よく形成できるが、0.5を超えるとSi原料111の表面にSiCが析出して、Si内部にCが拡散しにくくなる。
さらにまた、第1工程において、前記SiC種結晶または前記Si原料に黒鉛等のC元素を含む固体を付着させてもよい。C元素を含む固体の形状は任意に選択でき、板状、粒状、粉末状のいずれでもよい。雰囲気中にC元素を含むガスを含ませた場合や、SiC種結晶またはSi原料にC元素を含む固体を付着させた場合、坩堝1の加熱は、加圧環境下で行うことが好ましい。加圧環境下でSiC改質シードを形成することにより、CをSiC種結晶110のSiに溶け込みやすくすることができる。Cが溶け込みやすくなる結果、改質シードの内部に未反応のSiが取り込まれる確率を低減させるという効果が得られる。
【0031】
SiC改質シード形成時の加熱温度は任意に選択できる。Si原料111がSi単結晶である場合、加熱温度は、1400℃以上2400℃以下とすることが好ましい。単結晶Siの融点以上である1420℃以上であることがより好ましく、さらに好ましくは1450℃以上である。また上限は好ましくは、2300℃以下である。Si原料がSi多結晶である場合、加熱温度は、1350℃以上2400℃以下とすることが好ましい。より好ましくは、1400℃以上である。上限は好ましくは、2300℃以下である。当該範囲で加熱することで、SiC種結晶のマイクロパイプを低減したSiC改質シードを形成することができる。また、加熱温度を当該範囲とすることで、過度な高温とならず、SiC種結晶110の融解を抑制することができる。
SiC改質シード形成時の加熱時間は、必要に応じて任意に選択できる。例を挙げれば、1時間~10日間、好ましくは、10時間~10日間、さらに好ましくは1日~10日間などが挙げられる。その他、必要に応じて、1時間~1日、1時間~7日、1日~3日、10日間~14日間や、2週間~3週間、3週間~1ヵ月間などが挙げられる。ただしこれらの時間のみに限定されない。
【0032】
本実施形態の第1工程に係るSiC改質シードの形成方法により、マイクロパイプ密度の低減されたSiC改質シードを形成することができる。マイクロパイプ密度の低減されたSiC改質シードを用いて第2工程の昇華法を行い、SiC単結晶インゴットを製造することで、マイクロパイプ密度の低減されたSiC単結晶インゴットを製造することができる。第1工程は、SiC改質シードを形成できる方法であればよく、例えば、
図1に記載の装置以外の装置を用いて、それにSiC種結晶とSi原料とを付着させて加熱することで第1工程を行うことができる。尚、
図1に示す装置を用いる場合でも、例えば改質シード形成装置100を、
図1に示す装置の向きとは異なる向き、例えば逆さ向き等の適宜回転等させた向きで行っても良い。
【0033】
第1工程により、SiC改質シードを形成した後には、準備工程を行うことが好ましい。準備工程とは、例えば、第1工程で形成したSiC改質シードを台座4ごと坩堝1から取り外し、取付手段41を用いて、台座4ごと、第2工程が行われる、別の装置に取り付ける工程である。準備工程は、第1工程と、第2工程との間に、装置内に第2工程で用いる原料を配置する工程であってもよい。第2工程が行われる装置は、予め所望の状態にしても良く、例えば所望の温度に加熱しておいても良い。
準備工程を行うことで、第1工程を行うSiC改質シード形成装置および第2工程を行う装置の昇降温にかかる時間を短縮することができる。また、SiC改質シードを台座4から取り外し、新しい台座に取り付ける工程を省略できるので、第1工程から第2工程に移行する時間を短縮することができる。すなわち、準備工程は、SiC単結晶インゴット製造のスループットを向上することができる。
【0034】
また、準備工程は任意に選択でき、SiC改質シードを台座4ごと坩堝1から取り外し、第2工程で使用する別の装置に移動する工程のみには、限定されない。SiC種結晶のSi原料が装置の蓋に取り付けられて、第1工程が行われた後に、前記装置から前記蓋が外され、第2工程を行う別の装置に取り付けられて、第2工程が行われてもよい。例えば、第1工程で使用した坩堝1の蓋11を台座4ごと取り外し、第1工程を行うSiC改質シード形成装置内に、第2工程で用いる原料を配置し、再度蓋11を台座4ごと取り付ける工程であってもよい。また、坩堝1の蓋11を台座4ごと外し、第2工程を行う別の装置である昇華炉に取り付ける工程であってもよい。上述の準備工程を行った場合も、SiC単結晶インゴット製造のスループットを向上することができる。
後述する第2工程では、昇華法によりSiC単結晶を成長させるが、SiC種結晶として4H-SiCを用いる場合、カーボン面上に結晶成長させることが通常行われる。そのため、この様な準備工程を行う場合、SiC種結晶110のSi原料111と接触する面はシリコン面であることが好ましい。
【0035】
(第2工程)
本実施形態に係るSiC単結晶インゴットの製造方法にかかる第2工程は、SiC改質シード上に、昇華法によりSiC単結晶を成長させる工程である。
【0036】
図3は、本実施形態に係るSiC単結晶インゴットの製造方法において、第2工程を行うことのできる昇華炉5の一例を示す、模式断面図である。
【0037】
図3に示す昇華炉は、炉体50と、炉体50の周囲に配置された加熱手段51と、を備える。炉体50は、蓋501と本体部502とを有する。
【0038】
炉体50の蓋501の内側501Aには、設置部510が備えられる。設置部510には、SiC改質シード110Aが固定される。より具体的には、SiC改質シード110Aは、台座4ごと設置部510に固定される。台座4ごと設置部510に固定される場合、台座4は、取付手段41を介して、設置部510に取り付けられることが好ましい。取付手段41を介して取り付けが行われる場合、設置部510は、取付手段41により、安定して台座4を固定することのできる構成を有することができる。
【0039】
昇華法に用いる単結晶用原料M2は、蓋501と対向する位置である本体部502に収容される。収容される単結晶用原料M2は、SiCの粉末を使用することができる。単結晶用原料M2は、炉体50の周囲に配置された加熱手段により加熱されることで、昇華する。単結晶用原料M2を加熱する温度は、公知のSiCの昇華法の温度とすることができる。温度は任意に選択できるが、例えば、2250 ~2600℃が例として挙げられ、より好ましくは2300~2550℃であり、さらに好ましくは2350~2500である。ただしこれらの例のみに限定されない。その他の環境は、必要に応じて任意に選択することができる。単結晶用原料M2が昇華すると、SiC改質シード110A上にSiC単結晶として成長し、SiC単結晶インゴットを形成する。このインゴットのマイクロパイプの密度は、従来の種結晶を用いた場合と比較して、低減されている。
【0040】
SiC単結晶インゴットの成長後、SiC単結晶インゴットは、炉体50の蓋501から台座を取り外し、回収することができる。
【0041】
(SiCウェハ製造)
本実施形態に係るSiC単結晶インゴットの製造方法によって製造されたSiC単結晶インゴットを、適度な厚さに切断することで、SiCウェハを製造することができる。
【0042】
本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、マイクロパイプ密度の低減されたSiC単結晶インゴットを製造することができる。本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法で製造されるSiC単結晶インゴットから切り出された、直径100mm以上のSiCウェハのマイクロパイプ密度は、実質的にゼロである。ここでいう、マイクロパイプ密度が実質的にゼロであるとは、マイクロパイプの平均密度が0個/cm2以上0.1個/cm2個以下のことである(0を含む)。
(マイクロパイプの評価方法)
マイクロパイプは、直径数μmから数十μm程度、場合によっては直径100μm以上程度の、中空パイプ形状の欠陥である。マイクロパイプの評価は以下のようにして行うことができる。以下の方法は、SiC改質シードのマイクロパイプの評価にも使用してよい。
まず、単結晶の表面を研磨したのち、X線トポグラフ像を撮影することによりマイクロパイプを検出することができる。X線源の出力と単結晶の厚みに応じ、透過像と反射像を使い分けることが好ましい。一般に透過像を得る時間は反射像を得る時間よりも短い。このため、単結晶の厚みが大きく透過できるX線量が小さい場合に反射像を用いる。トポグラフ像に写っているマイクロパイプの数をカウントして、トポグラフ像の面積で割ることで、マイクロパイプの密度を得ることができる。
【0043】
(第2実施形態)
本実施形態に係るSiC単結晶インゴットの製造方法は、第1工程において、Si原料111をSiC種結晶110の両面に付着する点が、第1実施形態に係るSiC単結晶インゴットの製造方法と異なる。第1実施形態と同一の構成に対しては、第1実施形態と同一の構成を付し、説明を省略する。第1実施形態における例や条件は、特に問題のない限り、本実施形態で好ましく使用することができる。
【0044】
第2実施形態に係るSiC単結晶インゴットの製造方法において、第1工程では、SiC種結晶110の両面にSi原料111を付着し、SiC改質シードの形成を行う。SiC改質シードは、第1実施形態と同様の条件を用いて形成するができる。SiC種結晶110は、例えば、両面にSi原料111が付着した状態で台座4に載置され、設置部11Aに設置される。その結果、主部40側に配置したSi原料111と、空間に露出する側のSi原料111が、SiC種結晶110を間に挟んで配置される。
図4は、第2実施形態にかかるSi原料およびSiC種結晶の配置の仕方の一例を示す模式断面図である。
【0045】
本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、第1工程を行った後、Si残渣除去工程を行う。Si残渣除去工程は、第1工程によりSiC改質シードを形成した後、SiC改質シードの少なくとも一面の表面に残るSi残渣を除去する工程である。言い換えると、Si残渣除去工程は、第1工程後に、少なくとも空間側に露出するSi原料111を取り除く工程である。Si残渣除去工程は任意に選択される方法で、SiC改質シード表面のSi残渣を除去することができる。例えば、Si残渣部分を研磨することによりSi残渣を除去することができる。また、Si残渣を酸化し、フッ酸を塗布することでSiO2を除去してもよい。
Si残渣除去工程は、SiC改質シードが台座4に固定された状態で行ってもよいし、台座4から外した状態で行ってもよい。また必要に応じて、主部40側に配置されていたSi原料111も取り除いても良い。
【0046】
Si残渣除去工程を行った後、第1実施形態と同様の条件でSiC単結晶インゴットを製造することができる。
【0047】
Si残渣の除去をSiC改質シードの片面にしか行わない場合、Si残渣を除去した面上に昇華法によりSiC単結晶インゴットを成長する。除去をSiC改質シードの両面に行った場合は、必要に応じて選択する面に成長を行う。また、第1実施形態の
図1に示す方法で第1工程を行った場合、過剰なSiがSiC種結晶110の表面に付着することがある。そのような場合、Si残差除去工程を行うことが好ましい。
【0048】
本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、マイクロパイプ密度の低減されたSiC単結晶インゴットを製造することができる。本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法で製造されるSiC単結晶インゴットから切り出された、直径100mm以上のSiCウェハのマイクロパイプ密度は、実質的に0個/cm2である。また本実施形態では、SiC種結晶110の両面にSi原料111を付着させ、SiC改質シードを形成する。このため、効率よく改質が行われ、第1工程にかかる時間を低減し、スループットを向上することができる。
【0049】
(第3実施形態)
本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、第1工程において、SiC種結晶110およびSi原料111を、直接坩堝1の蓋11の設置部11Aに設置する点が、第1実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法と異なる。すなわち、本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、SiC種結晶110およびSi原料111を載置する台座4を使用しない。第1実施形態と同一の構成に対しては、第1実施形態と同一の符号を付し、説明を省略する。第1実施形態における例や条件は、特に問題のない限り、本実施形態で好ましく使用することができる。
【0050】
本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、坩堝1の蓋11の設置部11Aに、まずSi原料111を付着し、次に、Si原料111上にSiC種結晶110を設置する。SiC種結晶110およびSi原料111の付着および設置には、必要に応じて選択される材料、例えば、接着剤等を用いることができる。なお接着剤等は、必ずしも使用する必要はない。例えば、坩堝1の蓋11の設置部11Aが坩堝の底部に設けられる場合、単にその上にSi原料111上とSiC種結晶110を順に設置してもよい。
【0051】
SiC種結晶110およびSi原料111が付着した坩堝1を加熱し、SiC改質シードを形成する。SiC改質シードは、第1実施形態と同様の条件で形成することができる。形成したSiC改質シードに対し、第2工程を行うことにより、SiC単結晶インゴットを製造する。
【0052】
第1工程で形成したSiC改質シードは、坩堝1の蓋11に設置された状態で第2工程を行う炉体へ、蓋11ごと移動することもできる。また、第1工程を行った坩堝1に、SiC単結晶成長用原料を配置し、加熱することで、SiC単結晶インゴットを成長してもよい。すなわち第1工程と第2工程で同じ坩堝を用いても良い。
【0053】
本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法は、マイクロパイプ密度の低減されたSiC単結晶インゴットを製造することができる。本実施形態にかかるSiC単結晶インゴットの製造方法で製造されるSiC単結晶インゴットから切り出された、直径100mm以上のSiCウェハのマイクロパイプ密度は、実質的に0個/cm2である。また本実施形態では台座を使用しないので、台座4にSiC種結晶110およびSi原料111を設置する必要がない。このため、台座4を用意する必要はなく、また台座4にSiC種結晶110およびSi原料111を載置する工程を有さずに、SiC単結晶インゴットの製造をすることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
まず処理温度及び処理雰囲気の条件を変えて、SiC改質シードを製造する実験を行った。表1は、下記の実施例1~4を行った際の、各処理温度と、各処理温度でのマイクロパイプの低減率を示す表である。ここでいう、マイクロパイプの低減率とは、処理前のSiC種結晶のマイクロパイプの密度と比較して、処理後のSiC改質シードのマイクロパイプの密度が、どの程度低減されたかを示す割合を意味する。すなわち、100×{(処理前のマイクロパイプの密度)―(処理後のマイクロパイプの密度)}/(処理前のマイクロパイプの密度)で表される。
【0055】
「実施例1」
実施例1にかかるSiC改質シードは、本発明の第1工程を1日かけて行い、形成した。このとき、処理温度を1350℃から2400℃の間で変化させた。本実施例では、Ar雰囲気中で、Si原料として平板形状のSi単結晶を用いて、SiC種結晶を改質した。第1工程の加熱は、SiC種結晶を黒鉛製の皿に載置し、SiC種結晶上に、Si単結晶を載せた状態で行った。なお使用した平板形状のSi単結晶の大きさは、直径100mmであり、SiC種結晶の大きさは、直径100mmである。
【0056】
「実施例2」
実施例2にかかるSiC改質シードは、ArおよびC雰囲気中で、すなわちArとCを含む雰囲気で、Si原料として平板形状のSi単結晶を用いて、SiC種結晶を改質し形成した。C雰囲気として、すなわちCを含むガスとして、メタンガスを使用した。前記雰囲気中のメタンガスの比率は、すなわち(CH4)/(Ar+CH4)のモル比は、0.2とした。SiC改質シードの製造時の雰囲気にCが含まれること以外の条件は、実施例1と同一の条件を用いた。
【0057】
「実施例3」
実施例3にかかるSiC改質シードは、Ar雰囲気中で、Si原料として平板形状のSi多結晶を用いて、SiC種結晶を改質し形成した。Si原料としてSi多結晶を用いたこと以外の条件は、実施例1と同一の条件を用いた。
【0058】
「実施例4」
実施例4にかかるSiC改質シードは、ArおよびC雰囲気中で、Si原料として平板形状のSi多結晶を用いて、SiC種結晶を改質し形成した。SiC改質シードの製造時の雰囲気にCが含まれること以外の条件は、実施例3と同一の条件を用いた。C雰囲気は実施例2と同一の条件とした。
【0059】
【0060】
実施例1~4の結果より、第1工程を行うことで、SiC種結晶のマイクロパイプを低減できることを確認することができた。実施例1および実施例2の結果より、Si原料としてSi単結晶を用いた場合は、Cを含む雰囲気中で第1工程を行った方が効果的にマイクロパイプを低減することができることが示された。これは、成長雰囲気にCが含まれることで、Si原料の融解を促進することができるためであることが確認されている。実施例1~4の結果から、第1工程は1350℃~2400℃の領域のうち、2300℃に近い温度で加熱を行った場合に、より効果的にマイクロパイプを低減することができることが示された。なお、Si原料がSi単結晶の場合は、1350℃の加熱温度では、マイクロパイプの低減は確認されておらず、Si原料がSi多結晶の場合は、1350℃の加熱温度でもマイクロパイプが低減された。
本実施例では、平板形状のSi単結晶およびSi多結晶を用いた。なお、粒状のSi単結晶およびSi多結晶を用いた場合でも、平板形状のものと同様の効果が得られること、すなわちマイクロパイプを低減する効果が得られることが、別途確認された。また、本実施例では黒鉛製の皿にSiC種結晶とSi原料とを載置して第1工程を行った。しかしながら、加熱により融解したSi原料がこぼれない構成であればいずれの構成でもよい。例えば、皿以外の容器、例えば坩堝などを用いても良い。
【0061】
次に、処理時間及び処理雰囲気条件を変える実験を行った。表2は、下記の実施例5及び6を行った際の、処理時間と各処理時間でのマイクロパイプの低減率を示す表である。ここでいう、処理時間とは、2000℃で加熱した時間のことをいう。
【0062】
「実施例5」
実施例5にかかるSiC改質シードは、Ar雰囲気中で、Si原料として平板形状のSi単結晶を用いて、SiC種結晶を改質し形成した。加熱温度は、2000℃とし、処理時間を1時間から1週間の間で変化させた。加熱は、SiC種結晶を黒鉛製の皿に載置し、SiC種結晶にSi単結晶を載せた状態で行った。
【0063】
「実施例6」
実施例6にかかるSiC改質シードは、ArおよびC雰囲気中で、Si原料として平板形状のSi単結晶を用い、SiC種結晶を改質し形成した。SiC改質シードの製造時の雰囲気にCが含まれること以外の条件は、実施例5と同一の条件を用いた。C雰囲気は実施例2と同一の条件とした。
【0064】
【0065】
実施例5,6の結果から、表に示された時間の範囲では、加熱時間が長い程、マイクロパイプが低減される傾向があることがわかった。また、雰囲気中にカーボンが含まれていた場合の方が、効果的にマイクロパイプ密度を低減することができることがわかる。本実施例では、平板形状のSi単結晶を用いた。なお粒状のSi単結晶やSi多結晶を用いた場合でも、同様の効果を得られることが別途確認された。
また実施例1~6で得られたような、マイクロパイプ密度が低減されたSiC改質シードを用いて、SiC単結晶インゴットを製造し、その結果、従来の種結晶を用いた場合よりも、マイクロパイプ密度が低減されたウエハを供するSiC単結晶インゴットが得られることが、別途確認された。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、本明細書の実施の形態では、第1工程においてSiC種結晶およびSi原料を、坩堝の蓋に、台座を介す等して、付着させる構成を例に記載した。しかしながら、本発明は、当該構成に限定されない。SiC種結晶およびSi原料が接して配置されていれば、両者が直接または間接的に坩堝の蓋に付着された構成であってもよく、あるいは、両者が直接または間接的に坩堝の蓋に付着されない構成であっても良い。例えば、前記SiC種結晶に付着する前記Si原料が、装置の蓋に、直接又は間接的に取り付けられて、前記第1工程が行われ、前記第1工程の終了後、前記装置から前記蓋が外され、前記蓋が第2工程を行う別の装置に取り付けられても良い。あるいは、SiC種結晶およびSi原料が互いに接するように、所定の装置に直接又は間接的に取り付けられ、加熱されてSiC改質シードを形成し、このシードを、前記装置と同じあるいは別の装置にて、インゴット製造に用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、マイクロパイプの低減されたSiC単結晶インゴットの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 坩堝
11 蓋部
11A 設置部
12 本体部
100 SiC改質シード形成装置
110 SiC種結晶
110A SiC改質シード
111 Si原料
2 ヒータ
4 台座
40 主部
40A 載置面
40B 設置面
41 取付手段
42 側部
5 昇華炉
50 炉体
51 加熱手段
501 蓋
501A 蓋の内側
502 本体部
510 設置部
M2 単結晶用原料
R 炉体内空間