(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】吸着材粒子、基材粒子、充填カラム、及び、希土類元素を回収する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20240423BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240423BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240423BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240423BHJP
B01D 15/38 20060101ALI20240423BHJP
C01F 17/13 20200101ALI20240423BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20240423BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B01J20/26 E
B01J20/28 Z
B01J20/34 G
C02F1/28 B
B01D15/38
C01F17/13
C08F8/46
C08F8/30
(21)【出願番号】P 2021526145
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023134
(87)【国際公開番号】W WO2020251000
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019110463
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】青嶌 真裕
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/137451(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/078368(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047700(WO,A1)
【文献】特開2017-035671(JP,A)
【文献】特開2019-025472(JP,A)
【文献】特開昭61-257236(JP,A)
【文献】特開2020-196925(JP,A)
【文献】特許第6103611(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/30、20/32-20/34、
B01D 15/00-15/42
C02F 1/28
C01F 17/13
C08F 8/46
C08F 8/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系モノマーに由来するモノマー単位を含む有機ポリマーを含有する担体粒子と、
前記担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物と、
前記親水性有機化合物に結合したジグリコール酸残基と、
を含む、吸着材粒子であって
窒素ガスの吸着によって求められる当該吸着材粒子のBET比表面積がX
0で、水蒸気の吸着によって求められる当該吸着材粒子のBET比表面積がX
1であるとき、X
1/X
0が0.10~1.0であ
り、
前記親水性有機化合物が、アミノ基を有する構成単位を含むアミノ基含有ポリマーであり、前記ジグリコール酸残基が前記アミノ基に結合している、吸着材粒子。
【請求項2】
前記担体粒子が多孔質ポリマー粒子である、請求項1に記載の吸着材粒子。
【請求項3】
当該吸着材粒子におけるアミノ基の量が、当該吸着材粒子1gあたり0.1~100mmolである、請求項
1又は2に記載の吸着材粒子。
【請求項4】
希土類元素を回収するために用いられる、請求項1~
3のいずれか一項に記載の吸着材粒子。
【請求項5】
スチレン系モノマーに由来するモノマー単位を含む有機ポリマーを含有する担体粒子と、
前記担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物と、
を含む、基材粒子であって、
窒素ガスの吸着によって求められる当該基材粒子のBET比表面積がY
0で、水蒸気の吸着によって求められる当該基材粒子のBET比表面積がY
1であるとき、Y
1/Y
0が0.05~1.0であ
り、
前記親水性有機化合物が、アミノ基を有する構成単位を含むアミノ基含有ポリマーである、基材粒子。
【請求項6】
前記担体粒子が多孔質ポリマー粒子である、請求項5に記載の基材粒子。
【請求項7】
当該基材粒子におけるアミノ基の量が、当該基材粒子1gあたり0.1~100mmolである、請求項
5又は6に記載の基材粒子。
【請求項8】
前記親水性有機化合物に結合したジグリコール酸残基を含む吸着材粒子を形成するために用いられる、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の基材粒子。
【請求項9】
カラム本体部と、前記カラム本体部に充填された請求項1~
4のいずれか一項に記載の吸着材粒子と、を備える、充填カラム。
【請求項10】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の吸着材粒子に、希土類元素を含む溶液を接触させ、それにより前記希土類元素を前記吸着材粒子に吸着させることと、
酸を含む酸性溶液との接触によって、前記吸着材粒子から前記希土類元素を脱離させることと、
を含む、希土類元素を回収する方法。
【請求項11】
前記酸性溶液の酸濃度が0.5規定以下である、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材粒子、基材粒子、充填カラム、及び、希土類元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素を選択的に吸着及び脱離する吸着材として、各種の粒子の表面にジグリコール酸を導入したものが提案されている(特許文献1、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Takeshi Ogata,Hydrometallurgy,152 (2015) 178-182
【文献】Tomohiro Shinozaki, Ind. Eng.Chem. Res., 57 (2018) 11424-11430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一側面は、希土類元素の吸着量が大きく、しかも吸着した希土類元素を高い割合で脱離させることのできる吸着材粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、有機ポリマーを含有する担体粒子と、前記担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物と、前記親水性有機化合物に結合したジグリコール酸残基と、を含む、吸着材粒子に関する。窒素ガスの吸着によって求められる当該吸着材粒子のBET比表面積がX0で、水蒸気の吸着によって求められる当該吸着材粒子のBET比表面積がX1であるとき、X1/X0が0.10~1.0である。
【0007】
本発明の別の一側面は、有機ポリマーを含有する担体粒子と、前記担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物と、を含む、基材粒子に関する。窒素ガスの吸着によって求められる当該基材粒子のBET比表面積がY0で、水蒸気の吸着によって求められる当該基材粒子のBET比表面積がY1であるとき、Y1/Y0が0.05~1.00である。
【0008】
本発明の更に別の一側面は、カラム本体部と、前記カラム本体部に充填された上記吸着材粒子と、を備える、充填カラムに関する。
【0009】
本発明の更に別の一側面は、上記吸着材粒子に、希土類元素を含む溶液を接触させ、それにより前記希土類元素を前記吸着材粒子に吸着させることと、酸を含む酸性溶液との接触により前記吸着材粒子から前記希土類元素を脱離させることと、を含む、希土類元素を回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面は、希土類元素の吸着量が大きく、しかも吸着した希土類元素を高い割合で脱離させることのできる吸着材粒子を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】充填カラムの一実施形態を示す模式図である。
【
図2】脱離試験におけるジスプロシウムイオンの脱離量と、X
1/X
0との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
一実施形態に係る吸着材粒子は、有機ポリマーを含有する担体粒子と、担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物と、親水性有機化合物に結合したジグリコール酸残基とを含む。
【0014】
担体粒子は、有機ポリマーを主成分として含有するポリマー粒子である。有機ポリマーは架橋されていてもよい。担体粒子における有機ポリマーの割合は、50~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、又は90~100質量%であってもよい。
【0015】
一実施形態に係る担体粒子を形成する有機ポリマーは、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位を含むポリマー(以下「スチレン系ポリマー」ということがある。)である。スチレン系モノマーは、スチレン又はスチレン誘導体であり、後述の架橋性モノマー、単官能性モノマー、又はこれらの組み合わせであることができる。スチレン系ポリマーにおけるスチレン系モノマーの割合は、スチレン系ポリマーを構成するモノマー単位の全量に対して、20~85モル%、又は35~70モル%であってもよい。
【0016】
有機ポリマーは、架橋性モノマーをモノマー単位として含む重合体であることができる。架橋性モノマーは、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、及びジビニルフェナントレン等のジビニル化合物であってもよい。これらの架橋性モノマーは、1種単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。耐久性、耐酸性、及び耐アルカリ性の観点から、架橋性モノマーが、スチレン系モノマーであるジビニルベンゼンであってもよい。有機ポリマーにおける架橋性モノマーに由来するモノマー単位の割合は、有機ポリマーを構成するモノマー単位の全量に対して、1~80モル%、1~60モル%、又は1~40モル%であってよい。
【0017】
有機ポリマーは、架橋性モノマーと、単官能性モノマーとの共重合体であってもよい。単官能性モノマーの例としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、及び3,4-ジクロロスチレン等のスチレン系モノマーが挙げられる。これらは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。耐酸性及び耐アルカリ性の観点から、単官能性モノマーがスチレンであってもよい。
【0018】
有機ポリマーは、親水性有機化合物と反応する反応性基を有するモノマーをモノマー単位として含んでいてもよく、架橋性モノマー及び反応性基を有するモノマーをモノマー単位として含む共重合体であってもよい。反応性基は、例えば、エポキシ基、クロロ基又はこれらの組み合わせであってもよい。エポキシ基を有するモノマーの例としては、グリシジルメタクリレートが挙げられる。クロロ基を有するモノマーの例として、4-クロロメチルスチレンが挙げられる。有機ポリマーにおける反応性基を有するモノマーに由来するモノマー単位の割合は、有機ポリマーを構成するモノマー単位の全量に対して、15~80モル%、又は30~65モル%であってもよい。
【0019】
担体粒子の平均粒径は、100~1000μm、又は200~1000μmであってもよい。担体粒子の平均粒径が小さくなると、吸着材粒子が充填された充填カラムの圧力が増加する可能性がある。ここで、担体粒子の平均粒径は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の粒子を含む分散液を調製する。
2)フロー式粒子像分析装置を用いて、分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径を測定する。
【0020】
担体粒子は、多孔質ポリマー粒子であってもよい。多孔質ポリマー粒子の場合、多孔内部の表面も「担体粒子の表面」に含まれる。担体粒子が多孔質ポリマー粒子である場合、その比表面積が50m2/g以上であってもよく、1000m2/g以下であってもよい。比表面積が大きいと、物質の吸着量がより大きくなる傾向がある。ここでの比表面積は、窒素ガスの吸着によるBET比表面積を意味する。
【0021】
親水性有機化合物は、アミノ基等の親水基を有する有機化合物であり、例えば、アミノ基を有する構成単位を含むアミノ基含有ポリマーであってもよい。アミノ基含有ポリマーが、アミノ基を有するモノマーのホモポリマーであってもよい。アミノ基を有する構成単位は、アミノ基及び脂肪族基からなる基、又は、脂肪族アミノ酸の残基であってもよい。アミノ基含有ポリマーの例としては、ポリエチレンイミン、及びポリリジンが挙げられる。ポリエチレンイミンは、分岐状又は直鎖状であってもよく、アジリジンに由来する構成単位を3以上含んでいてもよい。
【0022】
アミノ基含有ポリマーの分子量は、200以上、又は250以上であってもよい。アミノ基含有ポリマーの分子量は、100000以下、70000以下、10000以下、又は7000以下であってもよい。アミノ基含有ポリマーの分子量は、200以上で100000以下、70000以下、10000以下、又は7000以下であってもよく、250以上で100000以下、70000以下、10000以下、又は7000以下であってもよい。
【0023】
担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物(又はアミノ基含有ポリマー)のうち少なくとも一部が、有機ポリマーとの共有結合によって結合していてもよい。例えば、有機ポリマーが反応性基を有する場合、その反応性基と親水基との反応により、親水性有機化合物が有機ポリマーと共有結合によって結合することができる。
【0024】
担体粒子の質量に対する親水性有機化合物(又はアミノ基含有ポリマー)の量の比は、例えば5~50重量%、又は10~40重量%であってもよい。親水性有機化合物がアミノ基含有ポリマーである場合、吸着材粒子におけるアミノ基の量が、吸着材粒子1gあたり0.1~100mmol、0.5~100mmol、0.1~20mmol、又は0.5~20mmolであってもよい。
【0025】
吸着材粒子、又は後述の基材粒子におけるアミノ基の量は、アミノ基との反応により消費される硫酸の量を、水酸化ナトリウムを用いた滴定によって測定する方法によって求めることができる。基材粒子におけるアミノ基の量を測定する方法は、以下の操作を含む。
1)基材粒子(A)gにメタノールを加え、得られた分散液を75℃で30分間加熱する。
2)分散液から、吸引濾過により基材粒子を濾過器上に回収する。吸引を継続しながら、濾過器上の基材粒子に純水を加えることにより、メタノールを純水に置換し、次いで少量の0.1M水酸化ナトリウム水溶液を用いて基材粒子をコンディショニングする。その後、濾液が中性になるまで純水で基材粒子を洗浄する。
3)洗浄後の基材粒子を、少量の純水を用いてガラス製の容器に移し替える。容器中の純水の総量が(B)gとなるように調整する。
4)容器内の分散液に0.05M硫酸を(C)g加え、その後、室温で30分、150rpmで容器内の分散液を撹拌する。
5)分散液の上澄みを(D)g分取し、そこに純水を加えて液量を調整する。
6)希釈後の上澄みを、0.01M水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定し、中和に要した水酸化ナトリウム水溶液の量(E)mLを記録する。
7)アミノ基の量を、以下の式によって算出する。
アミノ基の量(mmol/g)=[{0.1×C×D/(B+C)-0.01×E}×(B+C)/D]/A
【0026】
ジグリコール酸残基は、例えば下記式(1)又は(2)で表されるように、アミノ基含有ポリマーのアミノ基に結合した1価の基であってもよい。式中のアミノ基は、アミノ基含有ポリマーのアミノ基であり、アミノ基を除く部分がジグリコール酸残基である。ジグリコール酸残基が希土類錯体と相互作用することによって、吸着材粒子が希土類元素を吸着することができる。
【化1】
【0027】
吸着材粒子が高い親水性を有すると、希土類元素の吸着量及び脱離量が向上する傾向がある。その理由の一つは、高い親水性を有する吸着材粒子は希土類元素を含有する水溶液に湿潤し易く、その結果希土類元素が吸着材粒子と接触する機会が増加することにあると考えられる。
【0028】
吸着材粒子の親水性は、窒素ガスの吸着によって求められる吸着材粒子のBET比表面積がX0で、水蒸気の吸着によって求められる吸着材粒子のBET比表面積がX1であるとき、両者の比X1/X0に基づいて評価することができる。X1/X0が大きいことは、吸着材粒子の親水性が高いことを意味する。希土類元素の吸着量及び脱離量の改善の観点から、一実施形態に係る吸着材粒子のX1/X0は、0.10~1.0である。X1/X0は、0.11以上、又は0.26以上であってもよく、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下であってもよい。X1/X0は、0.10以上で0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下であってもよく、0.11以上で0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下であってもよく、0.26以上で0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下であってもよい。適切に選択された親水性有機化合物(例えばアミノ基含有ポリマー)を担体粒子の表面に付着させることにより、上記範囲内のX1/X0を示す吸着材粒子を容易に得ることができる。
【0029】
吸着材粒子の親水性を反映したBET比表面積の比X1/X0と同様に、ジグリコール酸残基が導入される前の基材粒子の親水性を表すBET比表面積の比に基づいて、希土類元素の吸着量及び脱離量の改善を図ることもできる。そのために、窒素ガスの吸着によって求められる基材粒子のBET比表面積がY0、水蒸気の吸着によって求められる基材粒子のBET比表面積がY1であるとき、両者の比Y1/Y0が、0.05以上、0.06以上、又は0.26以上であってもよく、1.0以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、0.1以下であってもよい。Y1/Y0は、0.05以上で1.0以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、又は0.1以下であってもよく、0.06以上で1.0以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、又は0.1以下であってもよく、0.26以上で1.0以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、又は0.1以下であってもよい。
【0030】
吸着材粒子は、例えば、担体粒子と担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物とを含む、ジグリコール酸残基を有しない基材粒子を準備することと、親水性有機化合物にジグリコール酸又はその無水物を結合させ、それにより吸着材粒子を形成することとを含む方法によって、製造することができる。親水性有機化合物がアミノ基含有ポリマーである場合、アミノ基含有ポリマーのアミノ基に、ジグリコール酸又はその酸無水物を結合させることができる。
【0031】
基材粒子は、担体粒子の表面に親水性有機化合物を付着させることにより、作製される。担体粒子が反応性基を有する有機ポリマーを含有する場合の基材粒子を準備する方法の一例は、反応性基を有するモノマーを含むモノマー成分と多孔化剤と水性媒体とを含有する反応液中での懸濁重合により、多孔質粒子である担体粒子を生成させることと、反応性基と親水性有機化合物との反応により親水性有機化合物を有機ポリマーと結合させることとを含む。
【0032】
多孔質粒子を形成するために用いられる多孔化剤は、重合時に粒子の相分離を促し、それにより多孔質ポリマー粒子を形成させる成分である。多孔化剤の一例は有機溶媒である。多孔化剤として用いられ得る有機溶媒の例としては、脂肪族又は芳香族の炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、及びアルコールが挙げられる。多孔化剤は、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1-ヘキサノール、2-オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、及びシクロヘキサノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
【0033】
多孔化剤の量は、モノマー成分の合計量に対して0~300質量%であってもよい。多孔化剤の量によって、多孔質ポリマー粒子の空孔率をコントロールできる。多孔化剤の種類によって、多孔質ポリマー粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
【0034】
水性媒体が水を含んでいてもよい。この水を多孔化剤として機能させてもよい。例えば、反応液に油溶性界面活性剤を加えると、モノマー及び油溶性界面活性剤を含む粒子が形成され、この粒子が水を吸収することにより粒子内の相分離を促すことが可能である。相分離した粒子から一方の相を除去することにより、粒子が多孔質化される。
【0035】
水性媒体は、水、又は、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合溶媒を含む。水性媒体は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系又は両性イオン系の界面活性剤であってもよい。
【0036】
懸濁重合のための反応液は、重合開始剤を含んでもよい。重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤の量は、モノマー成分100質量部に対して、0.1~7.0質量部であってもよい。
【0037】
モノマー成分を含む粒子の分散安定性を向上させるために、反応液が分散安定剤を含んでいてもよい。分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられる。これらとトリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物とを併用してもよい。分散安定剤がポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンであってもよい。分散安定剤の量は、モノマー100質量部に対して1~10質量部であってもよい。
【0038】
懸濁重合のための反応液は、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を含んでもよい。
【0039】
懸濁重合のための重合温度は、モノマー及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25~110℃、又は50~100℃であってもよい。
【0040】
親水性有機化合物がアミノ基含有ポリマーである場合、生成した多孔質粒子(担体粒子)を、必要により洗浄及び乾燥してから、アミノ基含有ポリマーのアミノ基を有機ポリマーの反応性基と反応させる。この反応は、例えば、担体粒子と、アミノ基含有ポリマーと、溶媒とを含有する反応液中で、必要により加熱しながら行うことができる。溶媒は特に制限されないが、例えば水であってもよい。
【0041】
基材粒子を必要により洗浄及び乾燥してから、担体粒子に付着したアミノ基含有ポリマーのアミノ基に、ジグリコール酸又はその無水物を結合させる。この反応は、例えば、基材粒子と、ジグリコール酸又はその無水物と、溶媒とを含有する反応液中で、必要により加熱しながら行うことができる。溶媒は特に制限されないが、例えばテトラヒドロフランであってもよい。この反応により、ジグリコール酸残基が導入された吸着材粒子が形成される。形成された吸着材粒子は、必要により洗浄及び乾燥される。
【0042】
担体粒子と担体粒子の表面に付着した親水性有機化合物とを含む基材粒子を、ジグリコール酸残基以外のリガンドが導入された吸着材粒子又は分離材粒子を得るために用いてもよい。基材粒子の平均粒径は、通常、吸着材粒子の平均粒径と実質的に同じである。
【0043】
吸着材粒子に、希土類元素を含む溶液を接触させ、それにより希土類元素を吸着材粒子に吸着させることと、酸を含む酸性溶液中で吸着材粒子から希土類元素を脱離させることとを含む方法によって、希土類元素を効率的に回収することができる。
【0044】
吸着のための溶液、及び脱離のための酸性溶液の温度は、特に限定されないが、例えば15~35℃であってもよい。吸着のための溶液と吸着材粒子との接触時間は、例えば20秒以上、又は40秒以上であってもよく、48時間以下であってもよい。脱離のための酸性溶液と吸着材粒子との接触時間は、例えば5秒以上、又は10秒以上であってもよく、6時間以下であってもよい。
【0045】
本実施形態に係る吸着材粒子を用いた回収方法は、吸着材粒子による大きな吸着量と、吸着した希土類元素の効率的な脱離に基づいて、希土類元素の効率的な回収を可能にする。また、本実施形態に係る吸着材粒子は、シリカ粒子を担体粒子として含む吸着材と比較して、酸に対する耐性が高いため、繰り返し使用されたときの劣化が小さい点でも有利である。
【0046】
吸着材粒子に希土類元素を吸着させるときの溶液のpHは、1.0~2.0程度であってもよい。酸性度希土類元素を脱離させるための酸性溶液の酸性は、希土類元素が適切に脱離する程度の強さに調整される。例えば、酸性溶液の酸濃度は、2規定以下、1規定以下、又は0.5規定以下であってもよい。本実施形態に係る吸着材粒子は、比較的弱い酸性の酸性溶液を用いた場合であっても、希土類元素を高い効率で脱離することができる。弱い酸性の酸性溶液を用いることは、吸着材の劣化抑制だけでなく、環境負荷の低減の点からも有益である。酸性溶液は、例えば塩酸であってもよい。
【0047】
回収される希土類元素は、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドのうちいずれであってもよく、ジスプロシウム、ネオジム等のランタノイドであってもよい。回収される希土類元素が含まれる溶液は、水溶液であってもよい。溶液中の希土類元素は、通常、陽イオンとして溶媒(例えば水)に溶解している。
【0048】
吸着材粒子を、カラム充填剤として用いてもよい。
図1は、充填カラムの一実施形態を示す模式図である。
図1に示される充填カラム10は、カラム本体部11(カラム管)と、接続部12と、上述した実施形態に係る吸着材粒子を含むカラム充填剤13とを備えている。接続部12は、カラム本体部11をカラムクロマトグラフィー装置に接続するために、カラム本体部11の両端に配置される。カラム充填剤13は、筒状のカラム本体部11に充填されている。カラム本体部11及び接続部12の材質は、特に制限されず、ステンレスであってもよく、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂であってもよい。
【0049】
吸着材粒子を含むカラム充填剤13は、通常、溶媒とともにカラム本体部11に充填される。溶媒としては、吸着材粒子が分散する溶媒であれば特に制限されないが、例えば水であってもよい。
【0050】
充填カラムを用いて希土類元素を回収する場合、例えば、充填カラムに希土類元素を含む溶液を通過させ、続いて充填カラムに酸性溶液を通過させる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
1.吸着材粒子の作製
実施例1
基材粒子
スチレン系ポリマーであるジビニルベンゼン-グリシジルメタクリレート共重合体からなる多孔質ポリマー粒子(比表面積:330m2/g)を担体粒子として準備した。この多孔質ポリマー粒子をメタノールに加え、懸濁液を揺動撹拌することで多孔質ポリマー粒子をメタノールで湿潤した。その後、懸濁液を、純水を用いて湿潤状態を維持しながらろ過することにより、メタノールを純水に置換した。純水及び湿潤した多孔質ポリマー粒子を含む懸濁液に、水:ポリエチレンイミンが質量比で1:2となる量のポリエチレンイミン(分子量300、アミン価21mmol/g)を加え、続いて懸濁液を80℃で8時間加熱することにより、多孔質ポリマー粒子のエポキシ基とポリエチレンイミンとの反応を進行させた。ろ過により取り出した多孔質ポリマー粒子を、エタノール及び水で十分洗浄してから、80℃で15時間乾燥させることで、ポリエチレンイミンが導入された基材粒子を得た。得られた基材粒子の平均粒径は400μm、基材粒子1gあたりのアミノ基の量は2.5mmolであった。
【0053】
吸着材粒子
基材粒子1.2gとジグリコール酸無水物5.6gとを、テトラヒドロフラン中、50℃で8時間反応させた。ろ過により取り出した粒子を、エタノール及び水で十分洗浄してから、80℃で15時間乾燥させることで、ジグリコール酸残基が導入された吸着材粒子を得た。
【0054】
実施例2
ポリエチレンイミンとして分子量1200、アミン価19mmol/gのものを使用したこと以外は実施例1と同様の操作により、ジグリコール酸残基が導入された吸着材粒子を得た。基材粒子の平均粒径は400μm、基材粒子1gあたりのアミノ基の量は3.5mmolであった。
【0055】
実施例3
実施例1と同じジビニルベンゼン-グリシジルメタクリレート共重合体からなる多孔質ポリマー粒子を担体粒子として準備した。この多孔質ポリマー粒子をメタノールに加え、懸濁液を揺動撹拌することで多孔質ポリマー粒子をメタノールで湿潤した。その後、懸濁液を純水を用いて湿潤状態を維持しながらろ過することにより、メタノールを純水に置換した。続いて、懸濁液の溶媒を、純水からポリリジン水溶液(濃度0質量%、分子量:約5000)に置換した。80℃で8時間の加熱により多孔質ポリマー粒子のエポキシ基とポリリジンとの反応を進行させた。ろ過により取り出した多孔質ポリマー粒子を、エタノール及び水で十分洗浄してから、80℃で15時間乾燥させることで、ポリリジンが導入された基材粒子を得た。基材粒子の平均粒径は400μm、基材粒子1gあたりのアミノ基の量は3.4mmolであった。
得られた基材粒子を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ジグリコール酸残基が導入された吸着材粒子を得た。
【0056】
比較例1
実施例1と同じジビニルベンゼン-グリシジルメタクリレート共重合体からなる多孔質ポリマー粒子を担体粒子として準備した。この多孔質ポリマー粒子をメタノールに加え、懸濁液を揺動撹拌することで多孔質ポリマー粒子をメタノールで湿潤した。その後、懸濁液を純水を用いて湿潤状態を維持しながらろ過することにより、メタノールを純水に置換した。続いて、懸濁液の溶媒を、同様の方法で純水からエチレンジアミンに置換した。懸濁液を80℃で8時間加熱することにより、多孔質ポリマー粒子のエポキシ基とエチレンジアミンとの反応を進行させた。ろ過により取り出した多孔質ポリマー粒子を、エタノール及び水で十分洗浄してから、80℃で15時間乾燥させることで、エチレンジアミンが導入された基材粒子を得た。基材粒子の平均粒径は400μm、基材粒子1gあたりのアミノ基の量は2.4mmolであった。
得られた基材粒子を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ジグリコール酸残基が導入された吸着材粒子を得た。
【0057】
比較例2
エチレンジアミンの代わりにジエチレントリアミンを使用したこと以外は比較例1と同様の操作により、ジグリコール酸残基が導入された吸着材粒子を得た。基材粒子の平均粒径は400μm、基材粒子1gあたりのアミノ基の量は2.6mmolであった。
【0058】
比較例3
エポキシ基が導入された、アクリル系ポリマーであるメタクリレート共重合体からなるポリマー粒子を担体粒子として準備した。このポリマー粒子1gあたりのエポキシ基の量は、0.6~1.0mmolであった。このポリマー粒子にエチレンジアミンを加え、続いて80℃で8時間加熱することにより、ポリマー粒子のエポキシ基とエチレンジアミンとの反応を進行させた。ろ過により取り出したポリマー粒子を、エタノール及び水で十分洗浄してから、80℃で15時間乾燥させることで、エチレンジアミンが導入された基材粒子を得た。基材粒子1gあたりのアミノ基の量は1.2mmolであった。
得られた基材粒子を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、ジグリコール酸残基が導入された吸着材粒子を得た。
【0059】
2.評価
2-1.親水性評価
各吸着材粒子の試料から前処理によって水分を除去した。次いで、BETガス吸着装置(3Flex、マイクロメリティックス社製)を用いた窒素ガス又は水蒸気の吸着量の測定により、試料の吸着等温線を相対圧0.1以下の範囲で得た。測定温度は、窒素ガス吸着の場合は液体窒素温度(-196℃)、水蒸気の場合は25℃とした。得られた吸着等温線から、窒素ガスの吸着によって求められる吸着材粒子のBET比表面積X0、及び、水蒸気の吸着によって求められる吸着材粒子のBET比表面積X1を求めた。次いで両者の比X1/X0を算出した。
同様の方法で、実施例3で作製した、ジグリコール酸残基を導入する前の基材粒子の親水性も評価した。窒素ガスの吸着によって求められる基材粒子のBET比表面積Y0は144m2/g、水蒸気の吸着によって求められる基材粒子のBET比表面積Y1は13.4m2/gであり、両者の比Y1/Y0は0.093であった。
【0060】
2-2.吸着試験
濃度160ppmでジスプロシウム(Dy)を含み、pHが1.3に調整された吸着試験用の水溶液5mLを準備した。この水溶液に各吸着材粒子50mgを加えた。吸着材粒子を含む懸濁液を、25℃に維持しながら振とうした。24時間の振とうによってジスプロシウムイオンを吸着材粒子に吸着させた後、懸濁液から採取した水溶液のICP発光分析装置により、水溶液中のジスプロシウムイオン濃度を測定した。吸着前後のイオン濃度の差から、吸着材粒子1gあたりのジスプロシウムイオンの吸着量(μmol/g)を算出した。
【0061】
2-3.脱離試験
吸着試験終了後の吸着材粒子を含む懸濁液に塩酸を加えることにより、そのpHを、2規定の塩酸濃度に相当する-0.3に調整した。pH=-0.3の懸濁液を、温度25℃に維持しながら3時間振とうすることにより、ジスプロシウムイオンを吸着材粒子から脱離させた。懸濁液から採取した水溶液のICP発光分析装置により、水溶液中のジスプロシウムイオン濃度を測定した。脱離前後のイオン濃度の差から、吸着材粒子1gあたりの脱離したジスプロシウムイオンの量(脱離量、μmol/g)を算出した。
脱離のための懸濁液のpHを0.5規定の塩酸濃度に相当する0.3に変更したこと以外は上記と同様の方法により、吸着材粒子1gあたりの脱離したジスプロシウムイオンの量(脱離量、μmol/g)を求めた。
【0062】
【0063】
表1は評価結果を示す。
図2は、脱離試験におけるジスプロシウムイオンの脱離量と、親水性の指標であるX
1/X
0との関係を示すグラフである。これら結果から、担体粒子がスチレン系ポリマー粒子であり、且つ、X
1/X
0が0.10~1.0であるときに、希土類元素の吸着量が大きく、しかも吸着した希土類元素が高い割合で脱離することが確認された。実施例3の吸着材粒子を構成する基材粒子の親水性の指標Y
1/Y
0は上述のとおり0.093であり、これは吸着材粒子の親水性の指標X
1/X
0よりもやや小さい。このようにY
1/Y
0の値は、親水性のジグリコール酸残基の有無の影響でX
1/X
0と比較すれば小さいものの、Y
1/Y
0も、X
1/X
0と同様に希土類元素の吸着量及び脱離量と相関すると考えられる。
【符号の説明】
【0064】
10…充填カラム、11…カラム本体部、12…接続部、13…カラム充填剤。