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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】電気脱イオン装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20230101AFI20240423BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20240423BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/42 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023055341
(22)【出願日】2023-03-30
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田部井 麗奈
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-047560(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092395(WO,A1)
【文献】特開2000-051665(JP,A)
【文献】特開2002-066259(JP,A)
【文献】特開2004-261648(JP,A)
【文献】特開2023-112836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46- 1/48
C02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気脱イオン装置の脱塩室にpH8以上の給水を通水するとともに該電気脱イオン装置の濃縮室に濃縮水として前記脱塩室と逆方向に前記脱塩室の処理水又は前記脱塩室の給水を通水前記電気脱イオン装置の濃縮室に通水する濃縮水を前記電気脱イオン装置の給水の無機炭酸濃度に応じて前記脱塩室の処理水と前記脱塩室の給水とに切り替える、電気脱イオン装置の運転方法。
【請求項2】
前記電気脱イオン装置の給水のpHが8~11である、請求項1に記載の電気脱イオン装置の運転方法。
【請求項3】
前記電気脱イオン装置の濃縮室に通水する濃縮水を、前記電気脱イオン装置の給水の無機炭酸濃度が1mg/LasCO を超える場合には前記脱塩室の処理水に切り替える、請求項2に記載の電気脱イオン装置の運転方法。
【請求項4】
前記電気脱イオン装置の給水が逆浸透膜の透過水である請求項3に記載の電気脱イオン装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気脱イオン装置の運転方法に関し、特に電気脱イオン装置にpHが高い給水を供給しても高水質の処理水を製造することの可能な電気脱イオン装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体等の電子産業分野で用いられている超純水は、前処理システム、一次純水製造装置及び一次純水を処理するサブシステム(二次純水製造装置)で構成される超純水製造システムで原水を処理することにより製造されている。
【0003】
例えば、図1に示すように超純水製造システム1は、前処理装置2と一次純水製造装置(純水製造装置)3とサブシステム4といった3段の装置で構成されている。このような超純水製造システム1の前処理装置2では、原水Wの濾過、凝集沈殿、精密濾過膜などによる前処理が施され、主に懸濁物質が除去される。
【0004】
一次純水製造装置3は、前処理水W1を処理する逆浸透膜装置5と、紫外線酸化装置6と、電気脱イオン装置8と、この電気脱イオン装置8に給水を供給する給水ポンプ7とを有する。この一次純水製造装置3で前処理水W1中の大半の電解質、微粒子、生菌等の除去を行うとともに有機物を分解して、一次純水(純水)W2を得る。
【0005】
そして、サブシステム4は、サブタンク10と供給ポンプ11と紫外線酸化装置12と非再生型混床式イオン交換装置13と限外ろ過膜(UF膜)14とを有し、限外ろ過膜(UF膜)14からユースポイント15を経由してサブタンク10に還流する構成となっている。このサブシステム4では、一次純水製造装置3で製造された一次純水W2中に含まれる微量の有機物(TOC成分)を酸化分解し、炭酸イオン、有機酸類、アニオン性物質、さらには金属イオンやカチオン性物質を除去し、最後に限外濾過(UF)膜14で微粒子を除去して超純水W3とし、これをユースポイント15に供給して、未使用の超純水W3はサブタンク10に還流する。
【0006】
上述したような超純水製造システム1の一次純水製造装置3では、逆浸透膜装置5におけるホウ素の濃度低減などの処理性能向上を目的に、逆浸透膜装置の給水にNaOH等のアルカリを注入してpH8以上とし、各種成分のイオン化を促進して処理することが行われている。
【0007】
このような一次純水製造装置3に用いられる電気脱イオン装置8は、一般に陰極(カソード)及び陽極(アノード)間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とを交互に配置し、これらカチオン交換膜及びアニオン交換膜により区画を構成することで脱塩室及び濃縮室を形成し、この脱塩室及び前記濃縮室にイオン交換樹脂を充填したものである。カチオン交換膜やアニオン交換膜などのイオン交換膜としては、粉末状のイオン交換樹脂にポリスチレンなどの結合剤を加えて製膜した不均質膜や、スチレン-ジビニルベンゼン等の重合によって製膜した均質膜などのほか、各種アニオン交換機能あるいはカチオン交換機能を有する単量体をグラフト重合により製膜したものなどが用いられている。
【0008】
また、脱塩室には、イオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が混合もしくは複層状に充填されている。また、濃縮室と、陽極室及び陰極室にも、イオン交換体が充填されている。
【0009】
この電気脱イオン装置8には、脱塩室に被処理水(給水)を通水して処理水を取り出す通水手段と、濃縮室に濃縮水を通水する濃縮水通水手段とが設けられていて、通常は脱塩室に被処理水を通水する方向と、濃縮室に濃縮水を通水する方向を同じくすることが行われている。
【0010】
このような電気脱イオン装置を用いた純水製造装置(超純水製造装置における一次純水製造装置)としては、逆浸透膜装置の処理水を電気脱イオン装置の給水とする、あるいは逆浸透膜装置の処理水を紫外線酸化装置で処理した後電気脱イオン装置の給水とすることが汎用的に行われている。さらに、ホウ素の濃度低減を目的に逆浸透膜装置の給水にアルカリを添加し、pHを8以上に調整することも行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電気脱イオン装置の給水のpHが高い場合、脱塩室の被処理水と濃縮室の濃縮水を並流で通水する方式では、処理水の抵抗率が低下する、すなわち処理水の水質が低下する、という問題点があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電気脱イオン装置にpHが高い給水を供給しても高水質の処理水を製造することの可能な電気脱イオン装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、電気脱イオン装置の脱塩室にpH8以上の給水を通水するとともに該電気脱イオン装置の濃縮室に前記脱塩室と逆方向に前記脱塩室の処理水又は前記脱塩室の給水を通水する、電気脱イオン装置の運転方法を提供する(発明1)。特に上記発明(発明1)においては、前記電気脱イオン装置の給水のpHが8~11であることが好ましい(発明2)。
【0014】
かかる発明(発明1,2)によれば、電気脱イオン装置にpH8以上、特にpHが8~11の給水を供給すると処理水(脱塩水)の水質が低下するが、電気脱イオン装置の濃縮水に給水または処理水を用い、脱塩室と濃縮室の通水方向を向流(逆方向)に通水することにより、処理水の水質(例えば抵抗率)の低下を防ぐことができる。
【0015】
上記発明(発明2)においては、前記電気脱イオン装置の給水の無機炭酸濃度が1mg/LasCO以下であることが好ましい(発明3)。
【0016】
かかる発明(発明3)によれば、このような給水を電気脱イオン装置で処理することにより、電気脱イオン装置の脱塩室出口付近における濃縮室から脱塩室への無機炭酸イオンの移動を低減し、処理水の抵抗率の低下を防ぐことができる。また、このような給水であれば、濃縮水の給水として好適に用いることができる。
【0017】
上記発明(発明3)においては、前記電気脱イオン装置の給水が逆浸透膜の透過水であることが好ましい(発明4)。
【0018】
かかる発明(発明4)によれば、pHが8~11の被処理水を逆浸透膜で処理すると、無機炭酸やホウ素などの弱イオン性の不純物の除去率が向上するので、電気脱イオン装置の脱塩室の給水として好適とすることができるばかりか、濃縮室に供給する濃縮水としても好適である。
【0019】
上記発明(発明1~4)においては、前記電気脱イオン装置の濃縮室に通水する濃縮水を前記電気脱イオン装置の給水の無機炭酸濃度に応じて前記脱塩室の処理水と前記脱塩室の給水とに切り替えることが好ましい(発明5)。
【0020】
かかる発明(発明5)によれば、電気脱イオン装置の給水の無機炭酸濃度が低い場合は、給水を濃縮水としても流通させる一方、電気脱イオン装置の給水の無機炭酸濃度が高い場合は、脱塩室で脱塩処理した処理水を濃縮水として流通させることで、電気脱イオン装置の水質を維持しつつ、水使用量の点でも効率的に脱イオン水を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電気脱イオン装置の運転方法によれば、電気脱イオン装置にpH8以上の給水を供給し、前記電気脱イオン装置の脱塩室にこの給水を通水するとともに前記電気脱イオン装置の脱塩室に前記脱塩室と逆方向に前記脱塩室の処理水又は前記脱塩室の給水を通水することにより、電気脱イオン装置の水質の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の電気脱イオン装置の運転方法を適用可能な超純水製造システムを示すフロー図である。
図2】本発明の第一の実施形態による電気脱イオン装置の運転方法における脱塩室及び濃縮室の水の流れを示す概略図である。
図3】本発明の第二の実施形態による電気脱イオン装置の運転方法における脱塩室及び濃縮室の水の流れを示す概略図である。
図4】本発明の第三の実施形態による電気脱イオン装置の運転方法における脱塩室及び濃縮室の水の流れを示す概略図である。
図5】実施例1における処理水カウンター通水時の電気脱イオン装置の処理水の抵抗率の測定結果を示すグラフである。
図6】給水パラレルフロー通水時の電気脱イオン装置の処理水の抵抗率の測定結果を示すグラフである。
図7】無機炭酸の濃度とpHとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第一の実施形態]
以下、本発明の第一の実施形態による電気脱イオン装置の運転方法について添付図面を参照して説明する。
【0024】
(電気脱イオン装置)
図2は、本実施形態の運転方法を適用可能な電気脱イオン装置における脱塩室及び濃縮室の水の流れを示している。図2において、電気脱イオン装置8は、電極(陽極21、陰極22)の間に複数のアニオン交換膜23及びカチオン交換膜24を交互に配列して脱塩室25と濃縮室26とを交互に形成し、両側に陽極室27と陰極室28を形成したものであり、脱塩室25にはイオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなる図示しないイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が混合もしくは複層状に充填されている。また、濃縮室26と、陽極室27及び陰極室28にも、同様にイオン交換体が充填されている。
【0025】
そして、この電気脱イオン装置8には、脱塩室25に被処理水(給水)W4を通水して脱塩水(処理水)W5を取り出し、濃縮室26にこの脱塩水W5を分取して通水する濃縮室通水手段(図示せず)が設けられていて、脱塩水W5を脱塩室25の脱塩水W5の取り出し口に近い側から濃縮室26内に導入すると共に、脱塩室25の処理原水(被処理水W4)の入口に近い側から流出する、すなわち脱塩室25における被処理水W4の流通方向と反対方向から脱塩水W5を濃縮室26に導入して濃縮水W6を吐出する構成となっている。一方、陽極室27及び陰極室28には被処理水W4を電極水として流通させ、それぞれ陽極排出水W7、陰極排出水W8として排出する構造となっている。
【0026】
(電気脱イオン装置の給水(被処理水))
本実施形態においては、図2に示す電気脱イオン装置8は、一次純水装置の前処理水を処理する逆浸透膜装置、及び必要に応じ紫外線酸化装置の後段に位置するものとする。そして、電気脱イオン装置8の被処理水(給水)W4として、逆浸透膜装置の処理水を供給する。この逆浸透膜装置8においては、ホウ素の濃度低減を目的として、アルカリを添加しているため、pH8以上の処理水が電気脱イオン装置8に供給される。この逆浸透膜装置の給水のpHを11以上とすると使用する薬品量が増加し、薬品にかかる費用が増加するばかりか、それに見合う効果の向上が得られず、費用対効果が低下することから、pH8~11程度とすることが望ましい。さらに、電気脱イオン装置の給水W4の無機炭酸濃度(IC)は1mg/LasCO以下であることが好ましい。逆浸透膜(RO)装置で塩類のほかイオン性、コロイド性のTOCを除去するとともに炭酸ガスをイオン化して除去する。そして、必要に応じ紫外線酸化装置6において残存する有機物を分解する。
【0027】
[電気脱イオン装置の運転方法]
次に上述したような構成を有する電気脱イオン装置8を用いた本実施形態の電気脱イオン装置の運転方法について説明する。
【0028】
まず、電気脱イオン装置8の脱塩室25にpH8以上の被処理水(給水)W4を通水して、イオン性の不純物などを除去する。
【0029】
具体的には、図2に示すように電気脱イオン装置8の脱塩室25に被処理水W4を供給する。そして、この脱塩室25を透過した脱塩水W5を分取して濃縮室26に脱塩室25とは逆方向に供給する。このように脱塩室25を通過した処理水W5の一部を被濃縮水として濃縮室26に脱塩室25の通水方向とは逆方向に向流一過式で通水し、濃縮室26から濃縮水W6を系外へ排出させることにより、脱塩室25の取り出し側ほど濃縮室26の被濃縮水中のイオン濃度が低いものとなるので、濃縮室26から脱塩室25への拡散を抑制し処理水W5の水質を良好なものとすることができる。特に電気脱イオン装置8の脱塩室の出口付近における濃縮室26から脱塩室25への無機炭酸イオンの移動を低減し、脱塩水W5の抵抗率の低下を防ぐことができる。
【0030】
上述したような第一の実施形態の電気脱イオン装置の運転方法は、脱塩水W5を分取して濃縮室26に脱塩室25とは逆方向に供給することにより。無機炭酸に起因するイオンの除去性能に優れることから、電気脱イオン装置の給水W4の無機炭酸濃度(IC)が1mg/LasCOを超える場合に、特に有効である。
【0031】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態による電気脱イオン装置の運転方法について添付図面を参照して説明する。
【0032】
(電気脱イオン装置)
図3は、本実施形態の運転方法を適用可能な電気脱イオン装置における脱塩室及び濃縮室の水の流れを示している。図3において、電気脱イオン装置8は、電極(陽極21、陰極22)の間に複数のアニオン交換膜23及びカチオン交換膜24を交互に配列して脱塩室25と濃縮室26とを交互に形成し、両側に陽極室27と陰極室28を形成したものであり、脱塩室25にはイオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなる図示しないイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が混合もしくは複層状に充填されている。また、濃縮室26と、陽極室27及び陰極室28にも、同様にイオン交換体が充填されている。
【0033】
そして、この電気脱イオン装置8には、脱塩室25に被処理水(給水)W4を通水して脱塩水(処理水)W5を取り出すとともに、被処理水(給水)W4を濃縮室26に通水する濃縮室通水手段(図示せず)が設けられていて、濃縮室26に脱塩室25とは逆方向に被処理水(給水)W4を供給して、脱塩室25の処理原水(被処理水W4)の出口に近い側から流出する、すなわち脱塩室25における被処理水W4の流通方向と反対方向から被処理水(給水)W4を流通して濃縮水W6を吐出する構成となっている。一方、陽極室27及び陰極室28には被処理水W4を電極水として流通させ、それぞれ陽極排出水W7、陰極排出水W5として排出する構造となっている。
【0034】
(電気脱イオン装置の給水(被処理水))
本実施形態においては、電気脱イオン装置の給水(被処理水)としては、前述した第一の実施形態と同じものを用いることができる。
【0035】
[電気脱イオン装置の運転方法]
次に上述したような構成を有する電気脱イオン装置8を用いた本実施形態の電気脱イオン装置の運転方法について説明する。
【0036】
まず、電気脱イオン装置8の脱塩室25にpH8以上の被処理水(給水)W4を通水して、イオン性の不純物などを除去する。
【0037】
具体的には、図3に示すように電気脱イオン装置8の脱塩室25に被処理水W4を供給する。一方、濃縮室26にも被処理水W4を脱塩室25とは逆方向に供給する。このように被処理水W4を被濃縮水として濃縮室26に脱塩室25の通水方向とは逆方向に向流一過式で通水し、濃縮室26から濃縮水W6を系外へ排出させることにより、被処理水(給水)W4のpHが8以上であっても脱塩室25の取り出し側ほど濃縮室26の被濃縮水中のイオン濃度が低いものとなるので、濃縮室26から脱塩室25への拡散を抑制し処理水W5の水質を良好なものとすることができる。特に電気脱イオン装置8の脱塩室の出口付近における濃縮室26から脱塩室25への無機炭酸イオンの移動を低減し、脱塩水W5の抵抗率の低下を防ぐことができる。
【0038】
上述したような第二の実施形態の電気脱イオン装置の運転方法は、濃縮室26に被処理水W4を脱塩室25とは逆方向に供給しているので、被処理水W4の無機炭酸が少ない方が電気脱イオン装置の脱塩水W5の水質を高度に維持することができることから、電気脱イオン装置の給水W4の無機炭酸濃度(IC)が1mg/LasCO以下の場合に、特に有効である。
【0039】
[第三の実施形態]
次に、本発明の第三の実施形態による電気脱イオン装置の運転方法について添付図面を参照して説明する。
【0040】
(電気脱イオン装置)
図4は、本実施形態の運転方法を適用可能な電気脱イオン装置における脱塩室及び濃縮室の水の流れを示している。図4において、電気脱イオン装置8は、電極(陽極21、陰極22)の間に複数のアニオン交換膜23及びカチオン交換膜24を交互に配列して脱塩室25と濃縮室26とを交互に形成し、両側に陽極室27と陰極室28を形成したものであり、脱塩室25にはイオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなる図示しないイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が混合もしくは複層状に充填されている。また、濃縮室26と、陽極室27及び陰極室28にも、同様にイオン交換体が充填されている。
【0041】
そして、この電気脱イオン装置8には、脱塩室25に被処理水(給水)W4を通水して脱塩水(処理水)W5を取り出し、濃縮室26にこの脱塩水W5を分取して通水する濃縮室通水手段(図示せず)が設けられていて、脱塩水W5を脱塩室25の脱塩水W5の取り出し口に近い側から濃縮室26内に導入するか、被処理水(給水)W4を脱塩室25の脱塩水W5の取り出し口に近い側から濃縮室26内に導入するかを図示しない切替初段により切り替え可能となっている。そして、図示しない被処理水(給水)W4の無機炭酸濃度(IC)の計測手段(類推手段を含む)が設けられていて、この無機炭酸濃度(IC)の計測手段の計測結果に基づいて、濃縮室26に脱塩水W5を導入するか、被処理水(給水)W4を導入するかを切り替え可能となっている。
【0042】
(電気脱イオン装置の給水(被処理水))
本実施形態においては、電気脱イオン装置の給水(被処理水)としては、前述した第一の実施形態と同じものを用いることができる。
【0043】
[電気脱イオン装置の運転方法]
次に上述したような構成を有する電気脱イオン装置8を用いた本実施形態の電気脱イオン装置の運転方法について説明する。
【0044】
まず、電気脱イオン装置8の脱塩室25にpH8以上の被処理水(給水)W4を通水して、イオン性の不純物などを除去する。
【0045】
具体的には、図4に示すように電気脱イオン装置8の脱塩室25に被処理水W4を供給する。一方、図示しない無機炭酸濃度(IC)の計測手段の計測結果に基づいて、濃縮室26に脱塩水W5を導入するか被処理水(給水)W4を導入するかを切り替えて、濃縮室26に脱塩水W5又は被処理水W4を脱塩室25とは逆方向に供給する。このように濃縮室26に脱塩室25の通水方向とは逆方向に向流一過式で通水し、濃縮室26から濃縮水W6を系外へ排出させることにより、被処理水(給水)W4のpHが8以上であっても脱塩室25の取り出し側ほど濃縮室26の被濃縮水中のイオン濃度が低いものとなるので、濃縮室26から脱塩室25への拡散を抑制し処理水W5の水質を良好なものとすることができる。特に電気脱イオン装置8の脱塩室の出口付近における濃縮室26から脱塩室25への無機炭酸イオンの移動を低減し、脱塩水W5の抵抗率の低下を防ぐことができる。
【0046】
上述したような第三の実施形態の電気脱イオン装置の運転方法は、電気脱イオン装置の給水W4の無機炭酸濃度(IC)に応じて、濃縮室26に脱塩水W5を導入するか被処理水(給水)W4を導入するかを切り替えることにより、脱塩水W5の水質を維持しつつ、脱塩水W5の利用率を高めることができる。
【0047】
以上、本発明の電気脱イオン装置の運転方法について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。例えば、前記実施形態においては、逆浸透膜装置の処理水を電気脱イオン装置の給水としているが、電気脱イオン装置の給水のpHが8以上であればこれに限定されない。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〕
図2に示す構造で表1に示すセル数の試験用の電気脱イオン装置8を用意し、表2に示す通水条件で表3に示す給水(被処理水)W4を脱塩室25に通水し、処理水W5を分取して濃縮室26に脱塩室25とは逆方向に供給(処理水カウンターフロー)し、電気脱イオン装置8は定電流運転とした。そして、給水(被処理水)W4にNaOHを添加して、pH10.5とした後の処理水W5の抵抗率を測定した。結果を図5に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
図5から明らかなとおり、給水(被処理水)W4にNaOHを添加して、pH10.5とした後も、電気脱イオン装置8の処理水W5の抵抗率の変動はほとんどなかった。これは、処理水W5を濃縮室26に通水することにより、濃縮室26から脱塩室25へのイオンの拡散が防止されたため、水質が維持され処理水の抵抗率が低下しなかったと考えられる。
【0054】
〔比較例1〕
図2に示す構造で表1に示すセル数の試験用の電気脱イオン装置8を用意し、表4に示す通水条件で表3に示す給水(被処理水)W4を脱塩室25及び濃縮室26に同方向に供給(給水パラレルフロー)するように変更して電気脱イオン装置8を定電流運転した。そして、給水(被処理水)W4にNaOHを添加して、pH10.5とした後の処理水W5の抵抗率を測定した。結果を図6に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
図6から明らかなとおり、給水(被処理水)W4にNaOHを添加して、pH10.5とした後に電気脱イオン装置8の処理水W5の抵抗率が大きく低下した。これは、濃縮室26のイオン濃度が増加したことにより、濃縮室26から脱塩室25へのイオンの拡散が起こったためであると考えられる。
【0057】
[参考例1]
図2に示す構造で表5に示すセル数の試験用の電気脱イオン装置8を用意し、表6に示す通水条件で表7に示す給水(被処理水)W4を脱塩室25及び濃縮室26に同方向に供給(給水パラレルフロー)するように変更して電気脱イオン装置8を定電流運転した。そして、給水(被処理水)W4にNaOHを添加して、pH10.5とした後の処理水W5の、抵抗率、ホウ素濃度、ナトリウム濃度及び塩化物イオン濃度を測定した。結果を表8に示す。
【0058】
[参考例2]
参考例1において、参考例1とNaの給水濃度が同等となるようにNaOHの代替としてNaOHを添加して、pHを約7とした以外は同様にして電気脱イオン装置8を定電流運転した。そして、給水(被処理水)W4にNaOHを添加して、pH10.5とした後の処理水W5の、抵抗率、ホウ素濃度、ナトリウム濃度及び塩化物イオン濃度を測定した。結果を表8にあわせて示す。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
表8から明らかなとり、給水W4が高pHである参考例1と、この参考例1と同等のNa負荷を加えた参考例2とを比較すると、参考例1の処理水W5の方が低い抵抗率を示した。一方、処理水W5のイオン分析の結果を参考例1と参考例2とで比較すると、ホウ素濃度は同等で、NaイオンとClイオンについては、参考例1の方が低い値を示している。したがって、参考例1において、処理水W5の抵抗率を低下させているイオンは、NaHCOに起因する無機炭酸に由来すると推測できる。このことから、給水W4のpHが高い場合、無機炭酸イオンは脱塩室出口付近において、濃縮室から脱塩室へ容易に移動するイオンであると考えられる。したがって、給水W4のpHが高い場合に電気脱イオン装置8の処理水W5の水質を維持するためには、給水W4の無機炭酸イオン濃度を低くすることが効果的であるといえる。
【0064】
[実施例2]
逆浸透膜装置の給水のpHを変動させ、この変動に伴う無機炭酸(IC)の除去率の変化を確認した。逆浸透膜装置としてはES-20-D4(日東電工(株)製)を用いた。給水の圧力が0.75MPa、濃縮水流量が1.0m/hとなるように運転を調整した。表9に示す給水条件にて、pHを変動させた際の無機炭酸イオンの除去率を確認した。結果を図7に示すとともに逆浸透膜装置の給水のpH7.5~9.5の範囲における無機炭酸イオンの除去率を表10に示す。
【0065】
【表9】
【0066】
【表10】
【0067】
図7及び表10から明らかなとおり、逆浸透膜装置による無機炭酸の除去率は、各イオンの存在比率と相関があり、HCO またはCO での存在率が高まると、逆浸透膜装置での無機炭酸の除去率が高くなることがわかる。そして、逆浸透膜装置の給水のpHを8.0以上とすることでHCO またはCO3 での存在率が高まるので、逆浸透膜処理における無機炭酸の除去率を高めることができる。この逆浸透膜装置の給水のpHを11以上とすると用いる薬品量が増加し、薬品にかかる費用が増加するため、処理水の水質向上に貢献する費用対効果が低下することから、pH8~11程度とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0068】
1 超純水製造システム
2 前処理装置
3 一次純水製造装置(純水製造装置)
4 サブシステム
5 逆浸透膜装置
6 紫外線酸化装置
7 給水ポンプ
8 電気脱イオン装置
10 サブタンク
11 供給ポンプ
12 紫外線酸化装置
13 非再生型混床式イオン交換装置
14 限外ろ過膜(UF膜)
15 ユースポイント
21 陽極(電極)
22 陰極(電極)
23 アニオン交換膜
24 カチオン交換膜
25 脱塩室
26 濃縮室
27 陽極室
28 陰極室
W 原水
W1 前処理水
W2 一次純水(純水)
W3 超純水
W4 被処理水(給水)
W5 脱塩水(処理水)
W6 濃縮水
W7 陽極排出水
W8 陰極排出水
【要約】
【課題】 電気脱イオン装置にpHが高い給水を供給しても高水質の処理水を効率よく製造することの可能な電気脱イオン装置の運転方法を提供する。
【解決手段】 電気脱イオン装置8にpH8以上の被処理水(給水)W4を電気脱イオン装置8の脱塩室25に被処理水W4を供給する。そして、この脱塩室25を透過した脱塩水W5を分取して濃縮室26に脱塩室25とは逆方向に供給する。これにより、被処理水(給水)W4のpHが8以上であっても脱塩室25の取り出し側ほど濃縮室26の被濃縮水中のイオン濃度が低いものとなる。特に電気脱イオン装置8の脱塩室の出口付近における濃縮室26から脱塩室25への無機炭酸イオンの移動を低減し、脱塩水W5の抵抗率の低下を防ぐことができる。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7