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特許7477095デバイス、核酸の検査方法及び核酸の検査装置、並びに遺伝子検査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】デバイス、核酸の検査方法及び核酸の検査装置、並びに遺伝子検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240423BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20240423BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/6888 Z
C12N1/00 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019219787
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2020096590
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018236805
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】503335179
【氏名又は名称】株式会社ファスマック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 みちえ
(72)【発明者】
【氏名】海野 洋敬
(72)【発明者】
【氏名】中澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】米川 侑希
(72)【発明者】
【氏名】布藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】リズティアン
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103571960(CN,A)
【文献】国際公開第2006/026388(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/151511(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0169650(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108130363(CN,A)
【文献】特開2017-093367(JP,A)
【文献】BMC Microbiol.,2012年11月08日,Vol.12, No.255,pp.1-11
【文献】J. Appl. Phycol.,2010年,Vol.22,pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのウェルを有し、
少なくとも1つの前記ウェルが特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含み、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の前記特定コピー数が1,000以下であり、
前記特定コピー数の変動係数CVが、平均コピー数xに対してCV<1/√xを満たし、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、
ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、
又は、
ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸である、ことを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、担体に含まれている請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記担体が、細胞、ファージ、及びウイルスのいずれかである請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記細胞が、酵母菌、動物細胞、及び植物細胞のいずれかである請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルの開口部を密閉する密閉部材を有する請求項1から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルの数が2以上であり、
一の前記ウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数と、
他の前記ウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数と、が異なる請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルとは異なるウェルであって、検査対象の試料が配されるウェルが、前記検査対象の試料とは異なる増幅可能な試薬を含む請求項1から6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、
ブタ 12S rDNAの塩基配列である配列番号1の塩基配列の全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれか、
又は、
ウナギ 16S rDNAの塩基配列である配列番号5の塩基配列の全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有し、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の全長が50塩基以上である、
請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号1の塩基配列である塩基配列を含む、
又は、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号5の塩基配列である塩基配列を含む、
請求項1からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号1の塩基配列と、5'末端側、又は3'末端側に1,000塩基以下の任意の長さの塩基配列とを含む塩基配列Xを含む、
又は、
前記ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号5の塩基配列と、5'末端側、又は3'末端側に1,000塩基以下の任意の長さの塩基配列とを含む塩基配列Xを含む、
請求項からのいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、
PCR反応用として、配列番号2及び3のプライマー、配列番号4のプローブ、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、若しくは、
LAMP反応用として、配列番号9、10、11、12、13、及び14のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
又は、
前記ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、
PCR反応用として、配列番号6及び7のプライマー、配列番号8のプローブ、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、若しくは、
LAMP反応用として、配列番号15、16、17、18、19、及び20のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
請求項及び10のいずれかに記載のデバイス。
【請求項12】
前記ウナギが、ニホンウナギであり、
前記ニホンウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、
PCR反応用として、配列番号21及び22のプライマー、配列番号23のプローブ、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
又は、
LAMP反応用として、配列番号24、25、26、27、28、及び29のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
請求項10及び11のいずれかに記載のデバイス。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のデバイスを用い、検査対象の試料、及び特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を、増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出することを特徴とする核酸の検査方法。
【請求項14】
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記検査対象の試料のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在し、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定工程を含む請求項13に記載の核酸の検査方法。
【請求項15】
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含むウェルとは異なるウェルであって、検査対象の試料が配されるウェルに対し、前記検査対象の試料とは異なる増幅可能な試薬を充填し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、前記検査対象の試料、及び前記増幅可能な試薬を、増幅反応に供することにより、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、前記検査対象の試料、及び前記増幅可能な試薬のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在し、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸及び前記増幅可能な試薬が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定工程を含む請求項13から14のいずれかに記載の核酸の検査方法。
【請求項16】
前記デバイスにおける、前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、所定の特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む一のウェルと、前記一のウェルにおける前記特定コピー数と異なる特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む他のウェルとを含み、
前記特定コピー数が異なる前記一のウェル及び前記他のウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸と、前記検査対象の試料とを増幅反応に供し、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、前記検査対象の試料の増幅結果とを比較することにより、前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAの量を判定する請求項13から15のいずれかに記載の核酸の検査方法。
【請求項17】
特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び検査対象の試料を増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出する際に用いる核酸の検査装置であって、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記検査対象の試料のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在し、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定手段を、
有し、
前記特定コピー数の変動係数CVが、平均コピー数xに対してCV<1/√xを満たし、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、
ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、
又は、
ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸である、ことを特徴とする核酸の検査装置。
【請求項18】
特定コピー数のrRNA又はrDNAをターゲットにした遺伝子検査方法であって、
前記rRNA又はrDNAの数をカウントすることで不確かさを含む絶対数を規定した標準物質で精度を管理する対象の精度を管理し、
前記特定コピー数の変動係数CVが、平均コピー数xに対してCV<1/√xを満たし、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、
ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、
又は、
ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸である、ことを特徴とする遺伝子検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス、核酸の検査方法及び核酸の検査装置、並びに遺伝子検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査のターゲットとして、核ゲノムを調べる以外にrRNA、rDNAを検出する用途がある。rDNA遺伝子(rDNA)はrRNAをコードしている遺伝子で、rRNAはリボソームを構成するRNAである。細菌には、その大きさによって、23S rRNA、16S rRNA、5S rRNAがある。真核生物には、28S rRNA、18S rRNA、5.8S rRNA、5S rRNAがある。これらのrRNAは、配列の保存性が高いため、広く様々な生物種の検出に利用可能である。一方で、種毎に異なった変異箇所も存在するため、生物種・品種・系統を判別する目的にも用いられる。こうした手法は、例えば、ブタ肉の特異検出やウナギの品種判別に利用することが可能である。
【0003】
そのrRNA又はrDNAの検出方法としては、例えば、生物種の特定に利用可能な配列に対するプライマーを設計し、PCR法やリアルタイムPCR法による検査方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、例えば、検査対象のrRNA又はrDNAの標的領域と同一PCR条件及び同一反応容器内で増幅することができる人為的DNA配列と、検査対象DNAの標的配列の両方を含むリアルタイムPCR検査用標準分子を用いることで、偽陰性判定を判別する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、試料に含まれるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を検出することができ、特にこのrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が低コピー数である場合であっても、偽陰性の判定をより確実に回避し、陽性及び陰性の正確な定性検査を行うことができ、さらに定量PCRの場合においては、より正確なコピー数を測定可能なデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段としての本発明のデバイスは、少なくとも1つのウェルを有し、少なくとも1つの前記ウェルが特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含み、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数が1,000以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、試料に含まれるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を検出することができ、特にこのrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が低コピー数である場合であっても、偽陰性の判定をより確実に回避し、陽性及び陰性の正確な定性検査を行うことができるデバイスを提供することを目的とする。また、本発明は、試料に含まれるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の正確な定量検査を行うことができるデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明のデバイスの一例を示す斜視図である。
図2図2は、本発明のデバイスの他の一例を示す斜視図である。
図3図3は、図2の側面図である。
図4図4は、本発明のデバイスの他の一例を示す斜視図である。
図5図5は、本発明のデバイスにおける特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を充填するウェルの位置の一例を示す図である。
図6図6は、本発明のデバイスにおける特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を充填するウェルの位置の他の一例を示す図である。
図7図7は、ポアソン分布に基づくばらつきを持ったコピー数と変動係数CVとの関係を示すグラフである。
図8図8は、DNA複製済みの細胞の頻度と、蛍光強度との関係の一例を示すグラフである。
図9A図9Aは、電磁バルブ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。
図9B図9Bは、ピエゾ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。
図9C図9Cは、図9Bにおけるピエゾ方式の吐出ヘッドの変形例の模式図である。
図10A図10Aは、圧電素子に印加する電圧の一例を示す模式図である。
図10B図10Bは、圧電素子に印加する電圧の他の一例を示す模式図である。
図11A図11Aは、液滴の状態の一例を示す模式図である。
図11B図11Bは、液滴の状態の一例を示す模式図である。
図11C図11Cは、液滴の状態の一例を示す模式図である。
図12図12は、ウェル内に順次液滴を着弾させるための分注装置の一例を示す概略図である。
図13図13は、液滴形成装置の一例を示す模式図である。
図14図14は、図13の液滴形成装置の制御手段のハードウェアブロックを例示する図である。
図15図15は、図14の液滴形成装置の制御手段の機能ブロックを例示する図である。
図16図16は、液滴形成装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図17図17は、液滴形成装置の変形例を示す模式図である。
図18図18は、液滴形成装置の他の変形例を示す模式図である。
図19A図19Aは、飛翔する液滴に2個の蛍光粒子が含まれる場合を例示する図である。
図19B図19Bは、飛翔する液滴に2個の蛍光粒子が含まれる場合を例示する図である。
図20図20は、粒子同士の重なりが生じない場合の輝度値Liと、実測される輝度値Leとの関係を例示する図である。
図21図21は、液滴形成装置の他の変形例を示す模式図である。
図22図22は、液滴形成装置の他の一例を示す模式図である。
図23図23は、マイクロ流路中を通過してきた細胞をカウントする方法の一例を示す模式図である。
図24図24は、吐出ヘッドのノズル部近傍の画像を取得する方法の一例を示す模式図である。
図25図25は、確率P(>2)と平均細胞数の関係を表すグラフである。
図26図26は、核酸の検査装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図27図27は、核酸の検査装置の機能構成の一例を示す図である。
図28図28は、核酸の検査装置プログラム処理の一例を示すフローチャートである。
図29図29は、本発明の実施例における核酸のサンプルの配置の一例を示す図である。
図30図30は、本発明の実施例における定量的PCRの結果を示す図である。
図31図31は、本発明の実施例における定量的PCRの結果を示す図である。
図32図32は、本発明の実施例における定量的PCRの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(デバイス)
本発明のデバイスは、少なくとも1つのウェルを有し、少なくとも1つの前記ウェルが特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含み、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数が1,000以下であり、識別手段、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0009】
本発明は、従来のデバイスでは、ウェルに含まれる参照用の核酸のコピー数が特定されていないため、増幅反応に供しても、その参照用の核酸の増幅結果の信頼性が低いという知見に基づくものである。
本発明のデバイスは、参照用の核酸であるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、特定コピー数各ウェルに一定以上の充填精度(一定以下の変動係数)で配されている。
本発明のデバイスは、ウェルに含まれる参照用の核酸であるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定コピー数であるため、偽陰性の判定をより確実に回避でき、陰性の判定精度をより向上させた定性検査に用いることができる。つまり、本発明のデバイスは、陽性又は陰性の正確な定性検査に用いることができる。また、本発明のデバイスは、ウェルに含まれる参照用の核酸であるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定数であるため、試料に含まれるrRNA又はrDNAの正確な定量検査に用いることができる。
【0010】
以下、本発明のデバイスについて説明する。
なお、本明細書において、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれるデバイスを「デバイス」と称する。また、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれていないデバイスを「プレート」と称することもある。
【0011】
図1は、本発明のデバイスの一例を示す斜視図である。図2は、本発明のデバイスの他の一例を示す斜視図である。図3は、図2のデバイスの側面図である。
図中、デバイス1は、基材2に複数のウェル3が設けられている。前記ウェルには、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸4が充填されるウェルが存在する。また、他のウェル(図における空のウェル)には、試料が充填される。後述するが、本発明のデバイスが、検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)とは異なる増幅可能な試薬を充填する態様で構成される場合には、前記増幅可能な試薬は、前記検査対象の試料が配されるウェルに充填されるとよい。なお、図2及び図3中符号5は、密閉部材である。
また、デバイス1は、図2及び図3に示すように、各ウェル3に充填する試薬の数とその数の不確かさ(確からしさ)の情報、もしくはこれらの情報と関連付けられた情報を記憶するICチップ又はバーコード(識別手段6)を、密閉部材5と基材2との間で且つウェルの開口部以外の位置に有していてもよい。これは、識別手段の意図しない改変等を防止するのに好適である。
また、デバイス1が識別手段を有することで、識別手段を有しない一般のウェルプレートとの区別可能である。このため、取り違えを防止することが可能である。
図4は、本発明のデバイスの他の一例を示す斜視図である。この図4のデバイスでは、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が1、2、3、4、5の5水準設けられている。
【0012】
図5は、本発明のデバイスの特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を充填するウェルの位置の一例を示す図である。図5中のウェル内の数字は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定数を表す。図5中の数字が記載していないウェルには、前記検査対象の試料が充填される。また、図5中の数字が記載していないウェルには、前記検査対象の試料の他に、増幅可能な試薬を充填してもよい。
図6は、本発明のデバイスの特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を充填するウェルの位置の他の一例を示す図である。図6中のウェル内の数字は特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定数を表す。図6中の数字が記載していないウェルには、前記検査対象の試料が充填される。また、図6中の数字が記載していないウェルには、前記検査対象の試料の他に、増幅可能な試薬を充填してもよい。
【0013】
本発明において、コピー数とは、前記ウェルに含まれるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の塩基配列(標的の塩基配列)の数を意味している。
前記標的の塩基配列とは、少なくともプライマー及びプローブ領域の塩基配列が決まっているものを指し、特に、塩基配列の全長が定められているものを特定の塩基配列とも呼称する。
本発明において、特定コピー数とは、前記コピー数のうち、標的の塩基配列の数が一定以上の精度で特定されていることを意味する。
すなわち、実際にウェルに含まれている標的の塩基配列の数として既知ということができる。つまり、本発明における特定コピー数は、従来の系列希釈により得られる所定のコピー数(算出推定値)よりも、数としての精度、信頼性が高く、特に、1,000以下の低コピー数領域であってもポアソン分布によらない制御された値となる。制御された値は、概ね、不確かさを表す変動係数CVが平均コピー数xに対し、CV<1/√xもしくはCV≦20%のどちらか値の大きさの中に収まっていることが好ましい。それゆえ、当該特定コピー数の標的の塩基配列を含むウェルを有するデバイスを用いることで、従来よりも正確に標的の塩基配列を有する試料の定性的、定量的な検査を行うことが可能となる。
なお、ここで標的の塩基配列の数とその配列を有する核酸の分子数とが一致する場合には、「コピー数」と「分子数」は対応付けられる場合もある。
具体的には、例えば、ノロウイルスの場合は、ウイルスの個数=1なら核酸分子数=1、コピー数=1で、GI期の酵母の場合は、酵母数=1なら核酸分子数(同一の染色体数)=1、コピー数=1で、G0/GI期のヒト細胞の場合は、ヒト細胞数=1なら核酸分子数(同一の染色体数)=2、コピー数=2である。
さらに、標的の塩基配列を2箇所に導入したGI期の酵母の場合は、酵母数=1なら核酸分子数(同一の染色体数)=1、コピー数=2となる。
また、本発明においては、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数は、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の所定数又は絶対数と称することもある。
【0014】
前記特定コピー数は、異なる2種類以上の整数であることが好ましい。
前記特定コピー数(特定数)の組み合わせとしては、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の場合、1、3、5、7、9の場合、2、4、6、8、10の場合などが挙げられる。
また、前記特定コピー数(特定数)の組み合わせは、例えば、1、10、100、1,000の4水準などとしてもよい。
前記特定コピー数(特定数)が異なる複数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果を利用すると、検量線を作成することができる。この検量線を利用すれば、前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAなどの核酸の正確な定量を行うことができる。
【0015】
<rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸>
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は、細胞が有するrRNA又はrDNAの塩基配列である。
前記rRNAは、リボソームRNAである。
前記rRNAとしては、例えば、細菌においては、その大きさによって、23S rRNA、16S rRNA、5S rRNAなどが挙げられる。真核生物においては、その大きさによって、28S rRNA、18S rRNA、5.8S rRNA、5S rRNAなどが挙げられる。
前記12S rRNAは、細胞小器官であるリボソームが有するサブユニットのひとつである12Sサブユニットが有するRNAである。
前記rDNAは、リボソームRNA遺伝子である。
前記rDNAは、前記rRNAをコードしているDNAを意味する。
また、本明細書において、「rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれか」とは、以下の態様を意味している。
(1-1)rRNAの全長の塩基配列
(1-2)rRNAの一部の塩基配列
(1-3)rRNAの全長の塩基配列、及びrRNAの一部の塩基配列の両方
(2-1)rDNAの全長の塩基配列
(2-2)rDNAの一部の塩基配列
(2-3)rDNAの全長の塩基配列、及びrDNAの一部の塩基配列の両方
【0016】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸としては、特に制限はなく、例えば、ブタの組織から採取された細胞から抽出した12S rRNAの塩基配列を組み込んだ核酸、人工的に合成した12S rRNAの塩基配列を組み込んだ核酸、ウナギの組織から採取された細胞から抽出した16S rDNAの塩基配列、人工的に合成した16S rRNAの塩基配列を組み込んだ核酸、各種細菌の16S rRNAなどが挙げられる。
【0017】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は、プラス鎖の一本鎖RNAからなる核酸を有する。前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は、修飾又は変異されていてもよい。
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は、ウェル内で剥き出しの状態でもよいし、担体に担持された状態でもよいが、担体に担持された状態が好ましい。
前記担体としては、核酸を担持することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞、リポソーム、マイクロカプセル、ファージ、ウイルスなどが挙げられる。これらの中でも、細胞が好ましい。
前記細胞自身の核酸の中に、組織から抽出した塩基配列の一部をRNA、及びDNAとして遺伝子導入した後、1担体中に1核酸(コピー数)を有することから、遺伝子導入した前記担体の数を測定することにより、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の塩基配列の存在数を求めることができる。
【0018】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の塩基配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブタやウナギの検出、品種判別を目的とする場合には、ブタ 12S rRNA又はrDNA、ウナギ 16S rRNA又はrDNAなどが挙げられる。
前記ブタとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ウナギとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ニホンウナギなどが挙げられる。
前記ブタ 12S rDNAの塩基配列としては、例えば、配列番号1などが挙げられる。
前記ウナギ 16S rDNAの塩基配列としては、例えば、配列番号5などが挙げられる。
また、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の塩基配列において、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の全長が50塩基以上であることが好ましい。
【0019】
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸としては、配列番号1の塩基配列若しくは任意の長さの塩基配列に対し相同性が80%以上である塩基配列を含むことが好ましい。
又は、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸としては、配列番号5の塩基配列若しくは任意の長さの塩基配列に対し相同性が80%以上である塩基配列を含むことが好ましい。
【0020】
前記ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸としては、配列番号1の塩基配列と、5’末端側、又は3’末端側に1,000塩基以下の任意の長さの塩基配列とを含む塩基配列X及び前記塩基配列Xに対し相同性が80%以上である塩基配列Yとを含むことが好ましい。
又は、前記ウナギ 16S rRNA及びrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸としては、配列番号5の塩基配列と、5’末端側、又は3’末端側に1,000塩基以下の任意の長さの塩基配列とを含む塩基配列X、及び前記塩基配列Xに対し相同性が80%以上である塩基配列Yを含むことが好ましい。
【0021】
前記配列番号1の塩基配列と、5’末端側、又は3’末端側に1,000塩基以下の任意の長さの塩基配列とを含む塩基配列Xとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記塩基配列Xに対し相同性が80%以上である塩基配列Yとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
前記塩基配列X、及び前記塩基配列Yの順序としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5’末端側から前記塩基配列Xの後に、前記塩基配列Yを有してもよいし、5’末端側から前記塩基配列Yの後に、前記塩基配列Xを有してもよい。
【0023】
前記ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、PCR反応用として配列番号2及び3のプライマー、配列番号4のプローブ、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、若しくは、LAMP反応用として、配列番号9、10、11、12、13、及び14のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有することが好ましい。
又は、前記ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、PCR反応用として配列番号6及び7のプライマー、配列番号8のプローブ、及び増幅試薬の少なくともいずれかを有する、若しくは、LAMP反応用として、配列番号15、16、17、18、19、及び20のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有することが好ましい。
また、前記ウナギが二ホンウナギである場合、前記ニホンウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、PCR反応用として配列番号21及び22のプライマー、配列番号23のプローブ、及び増幅試薬の少なくともいずれかを有する、若しくは、LAMP反応用として、配列番号24、25、26、27、28、及び29のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有することが好ましい。
前記LAMPとは、遺伝子増幅法の一つであり、Loop-Mediated Isothermal Amplificationの略称である。PCRが2種類のプライマーで増幅可能であるのに対し、6種の領域を使った4種類のプライマーを必要とすることと、PCRがdenature, annealing, extensionの3段階の温度変化を必要とするのに対し、60℃~65℃付近の一定の温度で反応が進むことが特徴である。前記LAMPは、5’→3’DNAポリメラーゼ活性と鎖置換活性を有する酵素を用いて、プライマー自身の配列を鋳型して起こる連続的なDNA伸長起こすことで、短時間に爆発的な増幅反応を可能にした遺伝子増幅法である。
【0024】
遺伝子導入により導入されたrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は、1細胞に1コピー(1分子数)のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が導入されていることを確認することが好ましい。なお、ここでrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸(特定の塩基配列)のコピー数とその配列を有する核酸の分子数が一致する場合には、「コピー数」と「分子数」は対応付けられる場合もある。
1コピー(1分子数)のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が導入されていることの確認方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シーケンサー、PCR法、サザンブロット法などを用いて確認することができる。
遺伝子導入により導入されるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、遺伝子導入により導入される核酸の数が1種類の場合にも、目的に応じてタンデムに同様の塩基配列を導入してもよい。
【0025】
前記遺伝子導入の方法としては、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が狙いの場所に狙いのコピー数導入できれば特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、相同組換え、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、TALEN、Zinc finger nuclease、Flip-in、Jump-inなどが挙げられる。これらの中でも、前記担体が酵母菌の場合は、遺伝子導入の効率の高さ、及び制御のしやすさの点から、相同組換えが好ましい。
【0026】
前記デバイスは、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルの数が2以上であり、一の前記ウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の特定コピー数と、他の前記ウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の特定コピー数とが異なることが好ましい。
【0027】
本発明のデバイスは、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を配するウェル以外に検査対象の試料を配するウェルを有する。また、検査対象の試料が配されるウェルには、前記検査対象の試料とは異なる増幅可能な試薬を所定量充填してもよい。ここで、所定量とは、十分に検出可能な量であるとよい。増幅可能な試薬が増幅されれば、増幅可能な試薬が配されているウェルにおいて、増幅反応が成功していると認められる。そのため、その増幅可能な試薬と同じウェルにおける検査対象の試料の増幅結果の信頼性がより担保される。
【0028】
前記増幅可能な試薬としては、核酸が好ましい。前記核酸が細胞の核酸中に組み込まれていることが好ましい。
以下、本発明のデバイスで用いられる、増幅可能な試薬である「核酸」、及び担体としての「細胞」について、以下詳しく説明する。
【0029】
-核酸-
前記核酸とは、プリン又はピリミジンから導かれる含窒素塩基、糖、及びリン酸が規則的に結合した高分子の有機化合物を意味し、核酸の断片、あるいはこれら核酸又はその断片のアナログなども含まれる。
前記核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNA、cDNAなどが挙げられる。
【0030】
前記核酸又は核酸断片としては、生物から得られる天然物又はそれらの加工物であってもよく、また、遺伝子組換技術を利用して製造されたもの、化学的に合成された人工合成核酸分子などでもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記人工合成核酸分子とすることにより、不純物が少なくなり、低分子化することが可能となるため、初期反応効率を向上させることができる。
なお、前記人工合成核酸分子としては、天然に存在するDNA又はRNAと同様の構成成分(塩基、デオキシリボース、リン酸)からなる核酸を人工的に合成した核酸を意味する。人工合成核酸としては、例えば、タンパク質をコードする塩基配列を有する核酸に限らず、任意の塩基配列を有する核酸を含む。
【0031】
前記核酸の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、二本鎖核酸、一本鎖核酸、部分的に二本鎖又は一本鎖核酸などが挙げられ、環状又は直鎖状のプラスミドも使用することができる。
また、前記核酸は修飾又は変異されていてもよい。
【0032】
前記核酸は、特定の塩基配列を有することが好ましい。特定とは、特に定められていることを意味する。
前記特定の塩基配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、感染症検査に用いられる塩基配列、自然界には存在しない非天然の塩基配列、動物細胞由来の塩基配列、植物細胞由来の塩基配列、真菌の細胞由来の塩基配列、細菌由来の塩基配列、ウイルス由来の塩基配列などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記非天然の塩基配列を用いる場合、GC含有率が特定の塩基配列の30%以上70%以下であることが好ましく、GC含量が一定であることが好ましい(例えば、配列番号1など参照)。
前記特定の塩基配列の塩基長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、20塩基対(又はmer)以上10,000塩基対(又はmer)以下の塩基長などが挙げられる。
前記感染症検査に用いられる塩基配列を用いる場合、その感染症特有の塩基配列を含んでいれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、公定法や通知法で指定されている塩基配列を含んでいることが好ましい(例えば、配列番号2及び3など参照)。
【0033】
前記核酸としては、使用する細胞由来の核酸であってもよく、遺伝子導入により導入された核酸であってもよい。核酸として、遺伝子導入により導入された核酸、及びプラスミドを使用する場合は、1細胞に1コピー数の核酸が導入されていることを確認することが好ましい。1コピー数の核酸が導入されていることの確認方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シーケンサー、PCR法、サザンブロット法などを用いて確認することができる。
【0034】
前記遺伝子導入により導入される特定の塩基配列を有する核酸の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、遺伝子導入により導入される核酸の数が1種類の場合にも、目的に応じてタンデムに同様の塩基配列を導入してもよい。
【0035】
前記遺伝子導入の方法としては、特定の核酸配列が狙いの場所に狙いのコピー数導入できれば特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、相同組換え、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、TALEN、Zinc finger nuclease、Flip-in、Jump-inなどが挙げられる。これらの中でも、酵母菌の場合は、効率の高さ、及び制御のしやすさの点から、相同組換えが好ましい。
【0036】
-担体-
前記増幅可能な試薬は、担体に担持された状態で扱われることが好ましい。なお、増幅可能な試薬が核酸である場合には、核酸が粒子形状をした担体(担体粒子)に担持(より好ましくは内包)されている態様などが好ましい。
前記担体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞、樹脂、ファージ、ウイルス、リポソーム、マイクロカプセルなどが挙げられる。
【0037】
-細胞-
前記細胞は、増幅可能な試薬(例えば、核酸)を有し、生物体を形成する構造的及び機能的単位を意味する。
前記細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真核細胞、原核細胞、多細胞生物細胞、単細胞生物細胞を問わず、すべての細胞について使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記真核細胞としては、特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができ、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌、藻類、原生動物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、動物細胞、真菌が好ましい。
【0039】
前記接着性細胞としては、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、組織や器官から直接採取した初代細胞を何代か継代させたものでもよく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分化した細胞、未分化の細胞などが挙げられる。
【0040】
前記分化した細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞;星細胞;クッパー細胞;血管内皮細胞;類道内皮細胞、角膜内皮細胞等の内皮細胞;繊維芽細胞;骨芽細胞;砕骨細胞;歯根膜由来細胞;表皮角化細胞等の表皮細胞;気管上皮細胞;消化管上皮細胞;子宮頸部上皮細胞;角膜上皮細胞等の上皮細胞;乳腺細胞;ペリサイト;平滑筋細胞、心筋細胞等の筋細胞;腎細胞;膵ランゲルハンス島細胞;末梢神経細胞、視神経細胞等の神経細胞;軟骨細胞;骨細胞などが挙げられる。
【0041】
前記未分化の細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞;単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞;iPS細胞などが挙げられる。
【0042】
前記真菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カビ、酵母菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞周期を調節することができ、1倍体を使用することができる点から、酵母菌が好ましい。
前記細胞周期とは、細胞が増えるとき、細胞分裂が生じ、細胞分裂で生じた細胞(娘細胞)が再び細胞分裂を行う細胞(母細胞)となって新しい娘細胞を生み出す過程を意味する。
【0043】
前記酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞周期をG1期に制御するフェロモン(性ホルモン)の感受性が増加したBar-1欠損酵母が好ましい。酵母菌がBar-1欠損酵母であると、細胞周期が制御できていない酵母菌の存在比率を低くすることができるため、ウェル内に収容された細胞の特定の核酸の数の増加等を防ぐことができる。
【0044】
前記原核細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真正細菌、古細菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記細胞としては、死細胞が好ましい。前記細胞が死細胞であると、分取後に細胞分裂が起こることを防ぐことができる。
前記細胞としては、光を受光したときに発光可能な細胞であることが好ましい。光を受光したときに発光可能な前記細胞であると、細胞の数を高精度に制御してウェル内に着弾させることができる。
前記受光とは、光を受けることを意味する。
前記光学センサとは、人間の目で見ることができる可視光線と、それより波長の長い近赤外線や短波長赤外線、熱赤外線領域までの光のいずれかの光をレンズで集め、対象物である細胞の形状などを画像データとして取得する受動型センサを意味する。
【0046】
--光を受光したときに発光可能な細胞--
光を受光したときに発光可能な前記細胞としては、光を受光したときに発光可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、蛍光色素によって染色された細胞、蛍光タンパク質を発現した細胞、蛍光標識抗体により標識された細胞などが挙げられる。
前記細胞における蛍光色素による染色部位、蛍光タンパク質の発現部位、又は蛍光標識抗体による標識部位としては、特に制限はなく、細胞全体、細胞核、細胞膜などが挙げられる。
【0047】
--蛍光色素--
前記蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類が好ましく、エオシン、エバンスブルー、トリパンブルー、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123がより好ましい。
【0048】
前記蛍光色素としては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば、商品名:EosinY(和光純薬工業株式会社製)、商品名:エバンスブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:トリパンブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン6G(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミンB(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン123(和光純薬工業株式会社製)などが挙げられる。
【0049】
--蛍光タンパク質--
前記蛍光タンパク質としては、例えば、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGRなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
--蛍光標識抗体--
前記蛍光標識抗体としては、蛍光標識されていれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CD4-FITC、CD8-PEなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記細胞の体積平均粒径としては、遊離状態において、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が特に好ましい。体積平均粒径が、30μm以下であれば、インクジェット法やセルソーターなどの液滴吐出手段に好適に用いることができる。
【0052】
前記細胞の体積平均粒径としては、例えば、下記の測定方法で測定することができる。
作製した染色済み酵母分散液から10μL取り出してPMMA製プラスチックスライドに載せ、自動セルカウンター(商品名:Countess Automated Cell Counter、invitrogen社製)を用いることにより体積平均粒径を測定することができる。なお、細胞数も同様の測定方法により求めることができる。
【0053】
前記細胞懸濁液における細胞の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5×10個/mL以上5×10個/mL以下が好ましく、5×10個/mL以上5×10個/mL以下がより好ましい。細胞数が、5×10個/mL以上5×10個/mL以下であると、吐出した液滴中に細胞を確実に含むことができる。細胞数としては、体積平均粒径の測定方法と同様にして、自動セルカウンター(商品名:Countess Automated Cell Counter、invitrogen社製)を用いて測定することができる。
【0054】
前記核酸を有する細胞の細胞数は、複数であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
-樹脂-
前記樹脂としては、増幅可能な試薬(例えば、核酸)を担持することができれば、その材質、形状、大きさ、構造については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0056】
-リポソーム-
前記リポソームとは、脂質分子を含む脂質二重層から形成される脂質小胞体であり、具体的には、脂質分子の疎水性基と親水性基の極性に基づいて生じる脂質二重層により外界から隔てられた空間を有する閉鎖された脂質を含む小胞体を意味する。
前記リポソームは、脂質を用いた脂質二重膜で形成される閉鎖小胞体であり、その閉鎖小胞の空間内に水相(内水相)を有する。内水相には、水等が含まれる。リポソームはシングルラメラ(単層ラメラ、ユニラメラ、二重層膜が一重)であっても、多層ラメラ(マルチラメラ、タマネギ状の構造をした多数の二重層膜で、個々の層は水様の層で仕切られている)であってもよい。
前記リポソームとしては、増幅可能な試薬(例えば、核酸)を内包することのできるリポソームが好ましく、その形態は特に限定されない。「内包」とは、前記リポソームに対して核酸が内水相および膜自体に含まれる形態をとることを意味する。例えば、膜で形成された閉鎖空間内に核酸を封入する形態、膜自体に内包する形態などが挙げられ、これらの組合せでもよい。
前記リポソームの大きさ(平均粒子径)は、増幅可能な試薬(例えば、核酸)を内包することができれば特に限定されないが、球状又はそれに近い形態をとることが好ましい。
前記リポソームの脂質二重層を構成する成分(膜成分)は、脂質から選ばれる。脂質として、水溶性有機溶媒及びエステル系有機溶媒の混合溶媒に溶解するものであれば任意に使用することができる。脂質として、具体的には、リン脂質、リン脂質以外の脂質、コレステロール類及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの成分は、単一種又は複数種の成分から構成されてよい。
【0057】
-マイクロカプセル-
前記マイクロカプセルとは、壁材と中空構造とを有する微小な粒体を意味し、中空構造に増幅可能な試薬(例えば、核酸)を内包することができる。
前記マイクロカプセルとしては、特に制限はなく、適宜目的に応じて、壁材、大きさ等を選択することができる。
前記マイクロカプセルの壁材としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリ尿素、ポリ尿素-ポリウレタン樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホンアミド、ポリカーボネート、ポリスルフィネート、エポキシリ、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、ゼラチンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記マイクロカプセルの大きさとしては、増幅可能な試薬(例えば、核酸)を内包することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記マイクロカプセルの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、in-situ法、界面重合法、コアセルベーション法などが挙げられる。
【0058】
本発明のデバイスは、少なくとも1つのウェルを有し、基材、識別手段を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部材を有する。
本発明では、プレートには、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を充填するウェル以外にも、前記検査対象の試料を充填するウェル(この試料を充填するウェルには、上述したように増幅可能な試薬を充填してもよい)を配してもよく、以下では、これらウェル全般について説明する。
【0059】
<ウェル>
前記ウェルは、その形状、数、容積、材質、色などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ウェルの形状としては、核酸などを配することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平底、丸底、U底、V底等の凹部、基板上の区画などが挙げられる。
前記ウェルの数は、少なくとも1つであり、2以上の複数であることが好ましく、5以上がより好ましく、50以上が更に好ましい。
前記ウェルの数が1つであるものとしては、例えば、PCRチューブなどが挙げられる。
前記ウェルの数が2以上であるものとしては、例えば、マルチウェルプレートが好適に用いられる。
前記マルチウェルプレートとしては、例えば、24、48、96、384、又は1,536のウェルプレートが挙げられる。
前記ウェルの容積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、一般的な核酸検査装置に用いられる試料量を考慮すると、10μL以上1,000μL以下が好ましい。
前記ウェルの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ふっ素樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
前記ウェルの色としては、例えば、透明、半透明、着色、完全遮光などが挙げられる。
前記ウェルの濡れ性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、撥水性であることが好ましい。ウェルの濡れ性が、撥水性であると、ウェル内壁へのrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の吸着を低減化できる。また、ウェルの濡れ性が、撥水性であると、ウェル内のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、プライマー、及び増幅試薬を溶液状態で移動することができる。
前記ウェル内壁の撥水化の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ふっ素系樹脂被膜を形成する方法、ふっ素プラズマ処理、エンボス加工が挙げられる。特に、接触角が100°以上となる撥水化処理を施すことで、液体の取りこぼしによるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の減少及び不確かさ(又は変動係数)の増大を抑えることができる。
【0060】
<基材>
デバイスは、ウェルが基材に設けられたプレート状のものが好ましいが、8連チューブ等の連結タイプのウェルチューブであってもよい。
前記基材としては、その材質、形状、大きさ、構造などについて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記基材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、半導体、セラミックス、金属、ガラス、石英ガラス、プラスチックスなどが挙げられる。これらの中でも、プラスチックスが好ましい。
前記プラスチックスとしては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ふっ素樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
前記基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、板状、プレート状などが好ましい。
前記基材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造であっても複数層構造であっても構わない。
【0061】
<識別手段>
デバイスは、前記ウェルにおける特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の変動係数CV値の情報、及び不確かさの情報を識別可能な識別手段を有することが好ましい。なお、CV値の情報、及び不確かさの情報についての詳しい説明は、後述する。
前記識別手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メモリ、ICチップ、バーコード、QRコード(登録商標)、Radio Frequency Identifier(以下、「RFID」とも称することがある)、色分け、印刷などが挙げられる。
前記識別手段を設ける位置及び識別手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記識別手段に記憶させる情報としては、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸がウェルにおいて特定コピー数で存在している存在確率以外にも、例えば、分析結果(活性値、発光強度等)、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数(例えば、細胞の数)、細胞の生死、特定塩基配列のコピー数、複数のウェルのうちどのウェルに特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が充填されているのか、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の種類、測定日時、測定者の氏名などが挙げられる。
前記識別手段に記憶された情報は、各種読取手段を用いて読み取ることができ、例えば、識別手段がバーコードであれば読取手段としてバーコードリーダーが用いられる。
【0062】
前記識別手段に情報を書き込む方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、手入力、ウェルに特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を分注する際に特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の個数を計数する液滴形成装置から直接データを書き込む方法、サーバに保存されているデータの転送、クラウドに保存されているデータの転送などが挙げられる。
【0063】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、密閉部材などが挙げられる。
【0064】
-密閉部材-
前記デバイスは、ウェルへの異物混入は充填物の流出などを防ぐために、密閉部材を有することが好ましい。
前記密閉部材としては、少なくとも1つのウェルの開口部を密閉可能であり、1つ1つのウェルを個別に密閉乃至開封できるように、切り取り線により切り離し可能に構成することが好ましい。
前記密閉部材の形状としては、ウェル内壁径と一致するキャップ状、又はウェル開口部を被覆するフィルム状であることが好ましい。
前記密閉部材の材質としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
前記密閉部材としては、全てのウェルを一度に密閉可能なフィルム状であることが好ましい。また、使用者の誤使用を低減化できるように再開封が必要なウェルと不必要なウェルとの接着強度が異なるように構成されていることが好ましい。
【0065】
前記ウェルは、プライマー及び増幅試薬の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
前記プライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において、鋳型DNAに特異的な18塩基~30塩基の相補的塩基配列を持つ合成オリゴヌクレオチドであり、増幅したい領域を挟むようにフォワードプライマーとリバースプライマーとの2か所(一対)設定される。
前記増幅試薬としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において、例えば、酵素としてDNAポリメラーゼ、基質として4種の塩基(dGTP、dCTP、dATP、dTTP)、Mg2+(2mMの塩化マグネシウム)、最適pH(pH7.5~9.5)を保持するバッファーなどが挙げられる。
【0066】
前記ウェル内のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、プライマー、及び増幅試薬の状態は、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液又は固体のいずれかの状態であってもよい。使用性の観点からは、特に、溶液状態であることが好ましい。溶液状態であると、使用者はすぐに試験に用いることができる。輸送上の観点からは、特に、固体状態であることが好ましく、固体乾燥状態がより好ましい。固体乾燥状態であると、分解酵素等によるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の分解の反応速度を低減化することができ、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、プライマー、及び増幅試薬の保存性を向上させることができる。
また、固体乾燥状態のデバイスの使用直前に、バッファーや水に溶解させることで、すぐに反応液として用いることができるよう、適正量のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、プライマー、及び増幅試薬が充填されていることが望ましい。
前記ウェル内のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、プライマー、及び増幅試薬の乾燥方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、蒸気乾燥、吸引乾燥、赤外線乾燥、バレル乾燥、スピン乾燥などが挙げられる。
【0067】
前記ウェルの変動係数は、CV値20%以下であると好ましく、CV値10%以下であるとより好ましい。
また、前記ウェルは、前記特定数及び前記特定数に基づく不確かさの情報を有しているとよい。
前記CV値、前記不確かさの情報について、以下説明する。
【0068】
核酸試料のような溶質分子は溶媒分子に溶解した状態において、熱運動によって溶媒分子中を運動している。その際の分子の分布状態は一般的にポアソン分布に従うとされる。このことは、規定濃度の溶液をいかなる精度で量り取り、容器に充填した場合でも、充填された溶液中の分子数は分布、つまり、ばらつき(変動係数)を有することを示している。
【0069】
ここで、変動係数とは、核酸(細胞、又は増幅可能な試薬の場合も同じ)を凹部に充填する際に生じる各凹部に充填される核酸数のばらつきの相対値を意味する。即ち、変動係数とは、凹部に充填した核酸の数の変動係数を意味する。変動係数とは、標準偏差σを平均値xで除した値である。ここで、標準偏差σを平均コピー数(平均充填コピー数)xで除した値を変動係数CVとすると、下記式1の関係式になる。
【0070】
【数1】
【0071】
一般的に、核酸は分散液中でポアソン分布のランダムな分布状態を取っています。そのため、段階希釈法、即ち、ポアソン分布におけるランダムな分布状態では、標準偏差σは、平均コピー数xと下記式2の関係式を満たすとみなすことができる。これより、核酸の分散液を段階希釈法により希釈した場合、標準偏差σと平均コピー数xとから平均コピー数xの変動係数CV(CV値)を、上記式1及び式2から導出された下記式3を用いて求めると、表1及び図7に示すようになる。
【0072】
【数2】
【0073】
【数3】
【0074】
【表1】
【0075】
表1及び図7の結果から、例えば、ウェルに100コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を段階希釈法により充填する場合には、最終的に反応溶液中に充填されるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数はその他の精度を無視しても、少なくとも10%の変動係数(CV値)を持つことがわかる。
ここで、変動係数とは、標準偏差σを平均コピー数xで除した値であり、略称としてCV値が用いられる。なお、ポアソン分布に基づくばらつきを持ったコピー数の変動係数CV値は、図7から求めることができる。
【0076】
また、前記ウェルは、ウェルにおけるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数について、特定コピー数に基づく不確かさの情報を有することが好ましい。
不確かさとは、「測定の結果に付随した、合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」とISO/IEC Guide99:2007[国際計量計測用語-基本及び一般概念並びに関連用語(VIM)]に定義されている。ここで、「合理的に測定量に結びつけられ得る値」とは、測定量の真の値の候補を意味する。即ち、不確かさとは、測定対象の製造に係る操作、機器などに起因する測定結果のばらつきの情報を意味する。不確かさが大きいほど、測定結果として予想されるばらつきが大きくなる。
不確かさとしては、例えば、測定結果から得られる標準偏差であってもよく、真の値が所定の確率以上で含まれている値の幅として表す信頼水準の半分の値としてもよい。
不確かさを算出する方法としては、Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement(GUM:ISO/IEC Guide98-3)、及びJapan Accreditation Board Note 10 試験における測定の不確かさに関するガイドラインなどに基づき算出することができる。不確かさを算出する方法としては、例えば、測定値などの統計を用いたタイプA評価法と、校正証明書、製造者の仕様書、公表されている情報などから得られる不確かさの情報を用いたタイプB評価法の2つの方法を適用することができる
不確かさは、操作及び測定などの要因から得られる不確かさを全て標準不確かさに変換することにより、同じ信頼水準で表現することができる。標準不確かさとは、測定値から得られた平均値のばらつきを示す。
不確かさを算出する方法の一例としては、例えば、不確かさを引き起こす要因を抽出し、それぞれの要因の不確かさ(標準偏差)を算出する。さらに、算出したそれぞれの要因の不確かさを平方和法により合成し、合成標準不確かさを算出する。合成標準不確かさの算出において、平方和法を用いるため、不確かさを引き起こす要因の中で不確かさが十分に小さい要因については無視することができる。
不確かさを引き起こす要因としてはいくつか考えられ、例えば、目的の核酸を細胞に導入し、当該細胞をカウント・分注して作製する場合、各ウェル内の目的のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数の不確かさの要因としては、細胞内のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数(例えば、細胞の細胞周期など)、細胞をプレートに配置する手段(インクジェット装置、又はその装置の動作のタイミングなどの装置における各部位の動作による結果を含む。例えば、細胞懸濁液を液滴化した時の液滴に含まれる細胞数など)、配置された細胞がプレートの適切な位置に配置された頻度(例えば、ウェル内に配置された細胞数など)、試薬のコンタミネーションなどが挙げられる。
変動係数CV値は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の平均特定コピー数及び不確かさの実験結果をもとに算出し、不確かさ(標準偏差σ)を平均特定コピー数xで除することにより求めることもできる。
【0077】
<デバイスの製造方法>
以下、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を有するデバイスの製造方法について説明する。
本発明のデバイスの製造方法は、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を有する複数の細胞、及び溶剤を含む細胞懸濁液を生成する細胞懸濁液生成工程と、細胞懸濁液を液滴として吐出することによりプレートのウェル内に液滴を順次着弾させる液滴着弾工程と、液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、前記液滴に含まれる細胞数をセンサによって計数する細胞数計数工程と、ウェル内の細胞から核酸を抽出する核酸抽出工程と、を含み、細胞懸濁液生成工程、液滴着弾工程、及び細胞数計数工程における推定する核酸の数の確からしさを算出する工程、出力工程、記録工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0078】
<<細胞懸濁液生成工程>>
前記細胞懸濁液生成工程は、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を有する複数の細胞、及び溶剤を含む細胞懸濁液を生成する工程である。
前記溶剤とは、細胞を分散させるために用いる液体を意味する。
前記細胞懸濁液における懸濁とは、細胞が溶剤中に分散して存在する状態を意味する。
生成とは、作り出すことを意味する。
【0079】
-細胞懸濁液-
前記細胞懸濁液は、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を有する複数の細胞、及び溶剤を含み、添加剤を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を有する複数の細胞については、上述したとおりである。
【0080】
--溶剤--
前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、培養液、分離液、希釈液、緩衝液、有機物溶解液、有機溶剤、高分子ゲル溶液、コロイド分散液、電解質水溶液、無機塩水溶液、金属水溶液、及びこれらの混合液体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水、緩衝液が好ましく、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris-EDTA緩衝液(TE)がより好ましい。
【0081】
--添加剤--
前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、核酸、樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
前記界面活性剤は、細胞同士の凝集を防止し、連続吐出安定性を向上することができる。
【0083】
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、添加量にもよるが、タンパク質を変性及び失活させない点から、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0084】
前記イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、脂肪酸ナトリウムが好ましく、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)がより好ましい。
【0085】
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルグリコシド、アルキルポリオキシエチレンエーテル(Brijシリーズ等)、オクチルフェノールエトキシレート(Triton Xシリーズ、Igepal CAシリーズ、Nonidet Pシリーズ、Nikkol OPシリーズ等)、ポリソルベート類(Tween20等のTweenシリーズなど)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルマルトシド、ショ糖脂肪酸エステル、グリコシド脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリソルベート類が好ましい。
【0086】
前記界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、細胞懸濁液全量に対して、0.001質量%以上30質量%以下が好ましい。含有量が、0.001質量%以上であると、界面活性剤の添加による効果を得ることができ、30質量%以下であると、細胞の凝集を抑制することができるため、細胞懸濁液中の核酸の分子数を厳密に制御することができる。
【0087】
前記核酸としては、検出対象の核酸の検出に影響しないものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ColE1 DNAなどが挙げられる。前記添加剤が、核酸(検出対象の核酸の検出に影響しないもの)であると、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、ウェルの壁面などに付着することを防ぐことができる。
【0088】
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンイミドなどが挙げられる。
【0089】
--その他の材料--
前記その他の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、架橋剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、湿潤剤、分散剤などが挙げられる。
【0090】
[細胞を分散する方法]
前記細胞を分散する方法としては、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビーズミル等のメディア方式、超音波ホモジナイザー等の超音波方式、フレンチプレス等の圧力差を利用する方式などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞へのダメージが少ないことから超音波方式がより好ましい。メディア方式では、解砕能力が強く、細胞膜や細胞壁を破壊する可能性やメディアがコンタミとして混入することがある。
【0091】
[細胞のスクリーニング方法]
前記細胞のスクリーニング方法としては、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、湿式分級、セルソーター、フィルタによるスクリーニングなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞へのダメージが少ないことから、セルソーター、フィルタによるスクリーニングが好ましい。
【0092】
前記細胞は、細胞周期を測定することにより、細胞懸濁液に含まれる細胞数から前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数を推定することが好ましい。
前記細胞周期を測定するとは、細胞分裂による細胞数を数値化することを意味する。
前記核酸の数を推定するとは、細胞数から、核酸の分子(コピー)数を求めることを意味する。
【0093】
計数対象が細胞数ではなく前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が何個入っているかであってもよい。通常は、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は細胞1個につき1つの領域が入っていないものを選択する、あるいは遺伝子組み換えにより導入するため、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数は細胞数と等しいと考えてよい。ただし、細胞は特定の周期で細胞分裂を起こすために細胞内で核酸の複製が行われる。細胞周期は細胞の種類によって異なるが、細胞懸濁液から所定量の溶液を抜き取り複数細胞の周期を測定することによって、細胞1個中に含まれるrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸数に対する期待値及びその確からしさを算出することが可能である。これは、例えば、核染色した細胞をフローサイトメーターによって観測することによって可能である。
確からしさとは、いくつかの事象の生じる可能性がある時、特定の1つの事象が起こる可能性の程度を事前に予測して、その事象の起こる確率を意味する。
算出とは、計算して求める数値を出すことを意味する。
【0094】
図8は、DNA複製済みの細胞の頻度と、蛍光強度との関係の一例を示すグラフである。図8に示すように、ヒストグラム上で前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の複製有無により2つのピークが現れるため、DNA複製済みの細胞がどの程度の割合で存在するかを算出することが可能である。この算出結果から1細胞中に含まれる平均的な前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数を算出することが可能であり、前述の細胞数計数結果に乗じることにより、前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の推定数を算出することが可能である。
また、細胞懸濁液を作製する前に細胞周期を制御する処理を行うことが好ましく、前述のような複製が起きる前、又は後の状態に揃えることによって、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の数を細胞数からより精度良く算出することが可能になる。
【0095】
推定する前記特定コピー数は、確からしさ(確率)を算出することが好ましい。確からしさ(確率)を算出することにより、これらの数値に基づき確からしさを分散又は標準偏差として表現して出力することが可能である。複数因子の影響を合算する場合には、一般的に用いられる標準偏差の二乗和平方根を用いることが可能である。例えば、因子として吐出した細胞数の正答率、細胞内のDNA数、吐出された細胞がウェル内に着弾する着弾率などを用いることができる。これらの中で影響の大きい項目を選択して算出することもできる。
【0096】
<<液滴着弾工程>>
前記液滴着弾工程は、前記細胞懸濁液を液滴として吐出することによりプレートのウェル内に液滴を順次着弾させる工程である。
前記液滴とは、表面張力によりまとまった液体のかたまりを意味する。
前記吐出とは、細胞懸濁液を液滴として飛翔させることを意味する。
前記順次とは、次々に順序どおりにすることを意味する。
前記着弾とは、液滴をウェルに到達させることを意味する。
【0097】
吐出手段としては、前記細胞懸濁液を液滴として吐出する手段(以下、「吐出ヘッド」とも称することがある)を好適に用いることができる。
【0098】
前記細胞懸濁液を液滴として吐出する方式としては、例えば、インクジェット法におけるオンデマンド方式、コンティニュアス方式などが挙げられる。これらの中でも、前記コンティニュアス方式の場合、安定的な吐出状態に至るまでの空吐出、液滴量の調整、ウェル間を移動する際にも連続的に液滴形成を行い続ける等の理由から、用いる前記細胞懸濁液のデッドボリュームが多くなる傾向にある。本発明では、細胞数を調整する観点からデッドボリュームによる影響を低減させることが好ましく、そのため上記2つの方式では、オンデマンド方式の方がより好適である。
【0099】
前記オンデマンド方式としては、例えば、液体に圧力を加えることによって液体を吐出する圧力印加方式、加熱による膜沸騰によって液体を吐出するサーマル方式、静電引力によって液滴を引っ張ることによって液滴を形成する静電方式等の既知の複数の方式などが挙げられる。これらの中でも、以下の理由から、圧力印加方式が好ましい。
【0100】
前記静電方式は、細胞懸濁液を保持して液滴を形成する吐出部に対向して電極を設置する必要がある。デバイスの製造方法では、液滴を受けるためのプレートが対向して配置されており、プレート構成の自由度を上げるため電極の配置は無いほうが好ましい。
前記サーマル方式は、局所的な加熱が発生するため生体材料である細胞への影響や、ヒーター部への焦げ付き(コゲーション)が懸念される。熱による影響は、含有物やプレートの用途に依存するため、一概に除外する必要はないが、圧力印加方式は、サーマル方式よりヒーター部への焦げ付きの懸念がないという点から好ましい。
【0101】
前記圧力印加方式としては、ピエゾ素子を用いて液体に圧力を加える方式、電磁バルブ等のバルブによって圧力を加える方式などが挙げられる。細胞懸濁液の液滴吐出に使用可能な液滴生成デバイスの構成例を図9A図9Cに示す。
図9Aは、電磁バルブ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。電磁バルブ方式の吐出ヘッドは、電動機13a、電磁弁112、液室11a、細胞懸濁液300a、及びノズル111aを有する。
電磁バルブ方式の吐出ヘッドとしては、例えば、TechElan社のディスペンサなどを好適に用いることができる。
また、図9Bは、ピエゾ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。ピエゾ方式の吐出ヘッドは、圧電素子13b、液室11b、細胞懸濁液300b、及びノズル111bを有する。
前記ピエゾ方式の吐出ヘッドとしては、Cytena社のシングルセルプリンターなどを好適に用いることができる。
これらの吐出ヘッドのいずれも用いることが可能であるが、電磁バルブによる圧力印加方式では高速に繰り返し液滴を形成することができないため、プレートの生成のスループットを上げるためにはピエゾ方式を用いることが好ましい。また、一般的な圧電素子13bを用いたピエゾ方式の吐出ヘッドでは、沈降によって細胞濃度のムラが発生することや、ノズル詰まりが生じることが問題として生じることがある。
このため、より好ましい構成として図9Cに示した構成などが挙げられる。図9Cは、図9Bにおける圧電素子を用いたピエゾ方式の吐出ヘッドの変形例の模式図である。図9Cの吐出ヘッドは、圧電素子13c、液室11c、細胞懸濁液300c、及びノズル111cを有する。
図9Cの吐出ヘッドでは、図示していない制御装置からの圧電素子13cに対して電圧印加することにより、紙面横方向に圧縮応力が加わりメンブレンを紙面上下方向に変形させることができる。
【0102】
前記オンデマンド方式以外の方式としては、例えば、連続的に液滴を形成させるコンティニュアス方式などが挙げられる。前記コンティニュアス方式では、液滴を加圧してノズルから押し出す際に圧電素子やヒーターによって定期的なゆらぎを与え、それによって微小な液滴を連続的に作り出すことができる。更に、飛翔中の液滴の吐出方向を電圧印加によって制御することにより、ウェルに着弾させるか、回収部に回収するかを選ぶことも可能である。このような方式は、セルソーター、又はフローサイトメーターで用いられており、例えば、ソニー株式会社製の装置名:セルソーターSH800Zを用いることができる。
【0103】
図10Aは、圧電素子に印加する電圧の一例を示す模式図である。また、図10Bは、圧電素子に印加する電圧の他の一例を示す模式図である。図10Aは、液滴を形成するための駆動電圧を示す。電圧(V、V、V)の強弱により、液滴を形成することができる。図10Bは、液滴の吐出を行わずに細胞懸濁液を撹拌するための電圧を示している。
【0104】
液滴を吐出しない期間中に、液滴を吐出するほどには強くない複数のパルスを入力することによって、液質内の細胞懸濁液を撹拌することが可能であり、細胞沈降による濃度分布の発生を抑制することができる。
【0105】
本発明において使用することができる吐出ヘッドの液滴形成動作に関して、以下に説明する。
前記吐出ヘッドは、圧電素子に形成された上下電極に、パルス状の電圧を印加することにより液滴を吐出することができる。図11A図11Cは、それぞれのタイミングにおける液滴の状態を示す模式図である。
図11Aは、まず、圧電素子13cに電圧を印加することにより、メンブレン12cが急激に変形することによって、液室11c内に保持された細胞懸濁液とメンブレン12cとの間に高い圧力が発生し、この圧力によってノズル部から液滴が外に押し出される。
次に、図11Bに示すように、圧力が上方に緩和するまでの時間、ノズル部からの液押し出しが続き液滴が成長する。
最後に、図11Cに示すように、メンブレン12cが元の状態に戻る際に細胞懸濁液とメンブレン12cとの界面近傍の液圧力が低下し、液滴310’が形成される。
【0106】
デバイスの製造方法では、ウェルが形成されたプレートを移動可能なステージ上に固定し、ステージの駆動と吐出ヘッドとからの液滴形成を組み合わせることにより、凹部に順次液滴を着弾させる。ここで、ステージの移動としてプレートを移動させる方法を示したが、当然のことながら吐出ヘッドを移動させてもよい。
【0107】
前記プレートとしては、特に制限はなく、バイオ分野において一般的に用いられるウェルが形成されたものを用いることが可能である。
前記プレートにおけるウェルの数は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単数であってもよく、複数であってもよい。
【0108】
図12は、プレートのウェル内に順次液滴を着弾させるための分注装置400の一例を示す概略図である。
図12に示すように、液滴を着弾させるための分注装置400は、液滴形成装置401と、プレート700と、ステージ800と、制御装置900とを有している。
【0109】
分注装置400において、プレート700は、移動可能に構成されたステージ800上に配置されている。プレート700には液滴形成装置401の吐出ヘッドから吐出された液滴310が着滴する複数のウェル710(凹部)が形成されている。制御装置900は、ステージ800を移動させ、液滴形成装置401の吐出ヘッドとそれぞれのウェル710との相対的な位置関係を制御する。これにより、液滴形成装置401の吐出ヘッドからそれぞれのウェル710中に順次、蛍光染色細胞350を含む液滴310を吐出することができる。
【0110】
制御装置900は、例えば、CPU、ROM、RAM、メインメモリ等を含む構成とすることができる。この場合、制御装置900の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。ただし、制御装置900の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、制御装置900は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。
【0111】
吐出する前記液滴としては、ウェル内に細胞懸濁液を着弾させる際に、複数の水準を得るように液滴をウェル内に着弾させることが好ましい。
前記複数の水準とは、標準となる複数の基準を意味する。
前記複数の水準としては、ウェル内にrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を有する複数の細胞が所定の濃度勾配を有することが好ましい。濃度勾配を有することにより、検量線用試薬として好適に使用することができる。前記複数の水準は、センサによって計数される値を用いて制御することができる。
【0112】
前記プレートとしては、1穴マイクロチューブ、8連チューブ、96穴、384穴のウェルプレートなどを用いることが好ましいが、ウェルが複数である場合には、これらのプレートにおけるウェルには同じ個数の細胞を分注することも可能であるし、異なる水準の個数を入れることも可能である。また、細胞が含まれないウェルが存在していてもよい。特に核酸の量を定量的に評価するリアルタイムPCR装置やデジタルPCR装置の評価に用いるプレートを作成する際には、複数水準の数の核酸が分注されたものを用いることが好ましい。例えば、細胞(又は核酸)が、おおよそ1個、2個、4個、8個、16個、32個、64個の7水準で分注したプレートを作製することが考えられる。このようなプレートを用いることによって、リアルタイムPCR装置やデジタルPCR装置の定量性、線形性、評価下限値などを調べることが可能である。
【0113】
<<細胞数計数工程>>
前記細胞数計数工程は、液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数をセンサによって計数する工程である。
前記センサとは、自然現象や人工物の機械的・電磁気的、熱的、音響的、又は化学的性質、或いはそれらにより示される空間情報・時間情報を、何らかの科学的原理を応用して、人間や機械が扱い易い別媒体の信号に置き換える装置を意味する。
前記計数とは、数を数えることを意味する。
【0114】
前記細胞数計数工程としては、液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数をセンサによって計数すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、吐出前に細胞を観測する処理、着弾後の細胞をカウントする処理を含んでもよい。
【0115】
液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数の計数としては、液滴がプレートのウェルに確実に入ることが予測されるウェル開口部の直上の位置にあるタイミングにて液滴中の細胞を観測することが好ましい。
【0116】
液滴中の細胞を観測する方法としては、例えば、光学的に検出する方法、電気的・磁気的に検出方法などが挙げられる。
【0117】
-光学的に検出する方法-
図13図17、及び図18を用いて、光学的に検出する方法に関して以下に述べる。
図13は、液滴形成装置401の一例を示す模式図である。図17、及び図18は、液滴形成装置401A、401Bの他の一例を示す模式図である。図13に示すように、液滴形成装置401は、吐出ヘッド(液滴吐出手段)10と、駆動手段20と、光源30と、受光素子60と、制御手段70とを有する。
【0118】
図13では、細胞懸濁液として細胞を特定の色素によって蛍光染色した後に所定の溶液に分散した液を用いており、吐出ヘッドから形成した液滴に光源から発せられる特定の波長を有する光を照射し細胞から発せられる蛍光を受光素子によって検出することによって計数を行う。このとき、蛍光色素によって細胞を染色する方法に加え、細胞中に元々含まれる分子が発する自家蛍光を利用してもよいし、細胞に蛍光タンパク質(例えば、GFP(Green Fluorescent Protein))を生産するための遺伝子を予め導入しておき細胞が蛍光を発するようにしておいてもよい。
光を照射とは、光をあてることを意味する。
【0119】
吐出ヘッド10は、液室11と、メンブレン12と、駆動素子13とを有しており、蛍光染色細胞350を懸濁した細胞懸濁液300を液滴として吐出することができる。
【0120】
液室11は、蛍光染色細胞350を懸濁した細胞懸濁液300を保持する液体保持部であり、下面側には貫通孔であるノズル111が形成されている。液室11は、例えば、金属やシリコン、セラミック等から形成することができる。蛍光染色細胞350としては、蛍光色素によって染色された無機微粒子や有機ポリマー粒子などが挙げられる。
【0121】
メンブレン12は、液室11の上端部に固定された膜状部材である。メンブレン12の平面形状は、例えば、円形とすることができるが、楕円状や四角形等としてもよい。
【0122】
駆動素子13は、メンブレン12の上面側に設けられている。駆動素子13の形状は、メンブレン12の形状に合わせて設計することができる。例えば、メンブレン12の平面形状が円形である場合には、円形の駆動素子13を設けることが好ましい。
【0123】
駆動素子13に駆動手段20から駆動信号を供給することにより、メンブレン12を振動させることができる。メンブレン12の振動により、蛍光染色細胞350を含有する液滴310を、ノズル111から吐出させることができる。
【0124】
駆動素子13として圧電素子を用いる場合には、例えば、圧電材料の上面及び下面に電圧を印加するための電極を設けた構造とすることができる。この場合、駆動手段20から圧電素子の上下電極間に電圧を印加することによって紙面横方向に圧縮応力が加わり、メンブレン12を紙面上下方向に振動させることができる。圧電材料としては、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を用いることができる。この他にも、ビスマス鉄酸化物、ニオブ酸金属物、チタン酸バリウム、或いはこれらの材料に金属や異なる酸化物を加えたもの等、様々な圧電材料を用いることができる。
【0125】
光源30は、飛翔中の液滴310に光Lを照射する。なお、飛翔中とは、液滴310が液滴吐出手段10から吐出されてから、着滴対象物に着滴するまでの状態を意味する。飛翔中の液滴310は、光Lが照射される位置では略球状となっている。又、光Lのビーム形状は略円形状である。
【0126】
ここで、液滴310の直径に対し、光Lのビーム直径が10倍~100倍程度であることが好ましい。これは、液滴310の位置ばらつきが存在する場合においても、光源30からの光Lを確実に液滴310に照射するためである。
【0127】
ただし、液滴310の直径に対し、光Lのビーム直径が100倍を大きく超えることは好ましくない。これは、液滴310に照射される光のエネルギー密度が下がるため、光Lを励起光として発する蛍光Lfの光量が低下し、受光素子60で検出し難くなるからである。
【0128】
光源30から発せられる光Lはパルス光であることが好ましく、例えば、固体レーザー、半導体レーザー、色素レーザー等が好適に用いられる。光Lがパルス光である場合のパルス幅は10μs以下が好ましく、1μs以下がより好ましい。単位パルス当たりのエネルギーとしては、集光の有無等、光学系に大きく依存するが、概ね0.1μJ以上が好ましく、1μJ以上がより好ましい。
【0129】
受光素子60は、飛翔中の液滴310に蛍光染色細胞350が含有されていた場合に、蛍光染色細胞350が光Lを励起光として吸収して発する蛍光Lfを受光する。蛍光Lfは、蛍光染色細胞350から四方八方に発せられるため、受光素子60は蛍光Lfを受光可能な任意の位置に配置することができる。この際、コントラストを向上するため、光源30から出射される光Lが直接入射しない位置に受光素子60を配置することが好ましい。
【0130】
受光素子60は、蛍光染色細胞350から発せられる蛍光Lfを受光できる素子であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液滴に特定の波長を有する光を照射して液滴内の細胞からの蛍光を受光する光学センサが好ましい。受光素子60としては、例えば、フォトダイオード、フォトセンサ等の1次元素子が挙げられるが、高感度な測定が必要な場合には、光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードを用いることが好ましい。受光素子60として、例えば、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、ゲートCCD等の2次元素子を用いてもよい。
【0131】
なお、光源30が発する光Lと比較して蛍光染色細胞350の発する蛍光Lfが弱いため、受光素子60の前段(受光面側)に光Lの波長域を減衰させるフィルタを設置してもよい。これにより、受光素子60において、非常にコントラストの高い蛍光染色細胞350の画像を得ることができる。フィルタとしては、例えば、光Lの波長を含む特定波長域を減衰させるノッチフィルタ等を用いることができる。
【0132】
また、前述のように、光源30から発せられる光Lはパルス光であることが好ましいが、光源30から発せられる光Lを連続発振の光としてもよい。この場合には、連続発振の光が飛翔中の液滴310に照射されるタイミングで受光素子60が光を取り込み可能となるように制御し、受光素子60に蛍光Lfを受光させることが好ましい。
【0133】
制御手段70は、駆動手段20及び光源30を制御する機能を有している。また、制御手段70は、受光素子60が受光した光量に基づく情報を入手し、液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数(ゼロである場合も含む)を計数する機能を有している。以下、図14図16を参照し、制御手段70の動作を含む液滴形成装置401の動作について説明する。
【0134】
図14は、図13の液滴形成装置の制御手段のハードウェアブロックを例示する図である。図15は、図13の液滴形成装置の制御手段の機能ブロックを例示する図である。図16は、液滴形成装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【0135】
図14に示すように、制御手段70は、CPU71と、ROM72と、RAM73と、I/F74と、バスライン75とを有している。CPU71、ROM72、RAM73、及びI/F74は、バスライン75を介して相互に接続されている。
【0136】
CPU71は、制御手段70の各機能を制御する。記憶手段であるROM72は、CPU71が制御手段70の各機能を制御するために実行するプログラムや、各種情報を記憶している。記憶手段であるRAM73は、CPU71のワークエリア等として使用される。また、RAM73は、所定の情報を一時的に記憶することができる。I/F74は、液滴形成装置401を他の機器等と接続するためのインターフェイスである。液滴形成装置401は、I/F74を介して、外部ネットワーク等と接続されてもよい。
【0137】
図15に示すように、制御手段70は、機能ブロックとして、吐出制御手段701と、光源制御手段702と、細胞数計数手段(細胞数検知手段)703とを有している。
【0138】
図15及び図16を参照しながら、液滴形成装置401の細胞数(粒子数)計数について説明する。
まず、ステップS11において、制御手段70の吐出制御手段701は、駆動手段20に吐出の指令を出す。吐出制御手段701から吐出の指令を受けた駆動手段20は、駆動素子13に駆動信号を供給してメンブレン12を振動させる。メンブレン12の振動により、蛍光染色細胞350を含有する液滴310が、ノズル111から吐出される。
【0139】
次に、ステップS12において、制御手段70の光源制御手段702は、液滴310の吐出に同期して(駆動手段20から液滴吐出手段10に供給される駆動信号に同期して)光源30に点灯の指令を出す。これにより、光源30が点灯し、飛翔中の液滴310に光Lを照射する。
【0140】
なお、ここで、同期するとは、液滴吐出手段10による液滴310の吐出と同時に(駆動手段20が液滴吐出手段10に駆動信号を供給するのと同時に)発光することではなく、液滴310が飛翔して所定位置に達したときに液滴310に光Lが照射されるタイミングで、光源30が発光することを意味する。つまり、光源制御手段702は、液滴吐出手段10による液滴310の吐出(駆動手段20から液滴吐出手段10に供給される駆動信号)に対して、所定時間だけ遅延して発光するように光源30を制御する。
【0141】
例えば、液滴吐出手段10に駆動信号を供給した際に吐出する液滴310の速度vを予め測定しておく。そして、測定した速度vに基づいて液滴310が吐出されてから所定位置まで到達する時間tを算出し、液滴吐出手段10に駆動信号を供給するタイミングに対して、光源30が光を照射するタイミングをtだけ遅延させる。これにより、良好な発光制御が可能となり、光源30からの光を確実に液滴310に照射することができる。
【0142】
次に、ステップS13において、制御手段70の細胞数計数手段703は、受光素子60からの情報に基づいて、液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数(ゼロである場合も含む)を計数する。ここで、受光素子60からの情報とは、蛍光染色細胞350の輝度値(光量)や面積値である。
【0143】
細胞数計数手段703は、例えば、受光素子60が受光した光量と予め設定された閾値とを比較して、蛍光染色細胞350の個数を計数することができる。この場合には、受光素子60として1次元素子を用いても2次元素子を用いても構わない。
【0144】
受光素子60として2次元素子を用いる場合は、細胞数計数手段703は、受光素子60から得られた2次元画像に基づいて、蛍光染色細胞350の輝度値或いは面積を算出するための画像処理を行う手法を用いてもよい。この場合、細胞数計数手段703は、画像処理により蛍光染色細胞350の輝度値或いは面積値を算出し、算出された輝度値或いは面積値と、予め設定された閾値とを比較することにより、蛍光染色細胞350の個数を計数することができる。
【0145】
なお、蛍光染色細胞350は、細胞や染色細胞であってもよい。染色細胞とは、蛍光色素によって染色された細胞、又は、蛍光タンパク質を発現可能な細胞を意味する。
【0146】
染色細胞において、蛍光色素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類、アゾ類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、エオシン、エバンスブルー、トリパンブルー、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123がより好ましい。
蛍光タンパク質としては、例えば、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGRなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0147】
このように、液滴形成装置401では、蛍光染色細胞350を縣濁した細胞懸濁液300を保持する液滴吐出手段10に、駆動手段20から駆動信号を供給して、蛍光染色細胞350を含有する液滴310を吐出させ、飛翔中の液滴310に光源30から光Lを照射する。そして、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350が光Lを励起光として蛍光Lfを発し、蛍光Lfを受光素子60が受光する。更に、受光素子60からの情報に基づいて、細胞数計数手段703が、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数を計数(カウント)する。
【0148】
つまり、液滴形成装置401では、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数を実際にその場で観察するため、蛍光染色細胞350の個数の計数精度を従来よりも向上することが可能となる。又、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350に光Lを照射して蛍光Lfを発光させて蛍光Lfを受光素子60で受光するため、高いコントラストで蛍光染色細胞350の画像を得ることが可能となり、蛍光染色細胞350の個数の誤計数の発生頻度を低減できる。
【0149】
図17は、図13の液滴形成装置401の変形例を示す模式図である。図17に示すように、液滴形成装置401Aは、受光素子60の前段にミラー40を配置した点が、液滴形成装置401(図13参照)と相違する。なお、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0150】
このように、液滴形成装置401Aでは、受光素子60の前段にミラー40を配置したことにより、受光素子60のレイアウトの自由度を向上することができる。
【0151】
例えば、ノズル111と着滴対象物を近づけた際に、図13のレイアウトでは着滴対象物と液滴形成装置401の光学系(特に受光素子60)との干渉が発生するおそれがあるが、図17のレイアウトにすることで、干渉の発生を回避することができる。
【0152】
図17に示すように、受光素子60のレイアウトを変更することにより、液滴310が着滴する着滴対象物とノズル111との距離(ギャップ)を縮めることが可能となり、着滴位置のばらつきを抑制することができる。その結果、分注の精度を向上することが可能となる。
【0153】
図18は、図13の液滴形成装置401の他の変形例を示す模式図である。図18に示すように、液滴形成装置401Bは、蛍光染色細胞350から発せられる蛍光Lfを受光する受光素子60に加え、蛍光染色細胞350から発せられる蛍光Lfを受光する受光素子61を設けた点が、液滴形成装置401(図13参照)と相違する。なお、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0154】
ここで、蛍光Lf及びLfは、蛍光染色細胞350から四方八方に発せられる蛍光の一部を示している。受光素子60及び61は、蛍光染色細胞350から異なる方向に発せられる蛍光を受光できる任意の位置に配置することができる。なお、蛍光染色細胞350から異なる方向に発せられる蛍光を受光できる位置に3つ以上の受光素子を配置してもよい。又、各受光素子は同一仕様としてもよいし、異なる仕様としてもよい。
【0155】
受光素子が1つであると、飛翔する液滴310に複数個の蛍光染色細胞350が含まれる場合に、蛍光染色細胞350同士が重なることに起因して、細胞数計数手段703が液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数を誤計数する(カウントエラーが発生する)おそれがある。
【0156】
図19A及び図19Bは、飛翔する液滴に2個の蛍光染色細胞が含まれる場合を例示する図である。例えば、図19Aに示すように、蛍光染色細胞350と350とに重なりが発生する場合や、図19Bに示すように、蛍光染色細胞350と350とに重なりが発生しない場合があり得る。受光素子を2つ以上設けることで、蛍光染色細胞が重なる影響を低減することが可能である。
【0157】
前述のように、細胞数計数手段703は、画像処理により蛍光粒子の輝度値或いは面積値を算出し、算出された輝度値或いは面積値と、予め設定された閾値とを比較することにより、蛍光粒子の個数を計数することができる。
【0158】
受光素子を2つ以上設置する場合,それぞれの受光素子から得られる輝度値或いは面積値のうち、最大値を示すデータを採択することで、カウントエラーの発生を抑制することが可能である。これに関して、図20を参照して、より詳しく説明する。
【0159】
図20は、粒子同士の重なりが生じない場合の輝度値Liと、実測される輝度値Leとの関係を例示する図である。図20に示すように、液滴内の粒子同士の重なりがない場合には、Le=Liとなる。例えば、細胞1個の輝度値をLuとすると、細胞数/滴=1個の場合はLe=Luであり、粒子数/滴=n個の場合はLe=nLuである(n:自然数)。
【0160】
しかし、実際には、nが2以上の場合には粒子同士の重なりが発生し得るため、実測される輝度値はLu≦Le≦nLu(図20の網掛部分)となる。そこで、細胞数/滴=n個の場合、例えば閾値を(nLu-Lu/2)≦閾値<(nLu+Lu/2)と設定することができる。そして、複数の受光素子を設置する場合、それぞれの受光素子から得られたデータのうち最大値を示すものを採択することで、カウントエラーの発生を抑制することが可能となる。なお、輝度値に代えて面積値を用いてもよい。
【0161】
また、受光素子を複数設置する場合、得られる複数の形状データを基に、細胞数を推定するアルゴリズムにより粒子数を決定づけてもよい。
このように、液滴形成装置401Bでは、蛍光染色細胞350が異なる方向に発した蛍光を受光する複数の受光素子を有しているため、蛍光染色細胞350の個数の誤計数の発生頻度を更に低減できる。
【0162】
図21は、図13の液滴形成装置401の他の変形例を示す模式図である。図21に示すように、液滴形成装置401Cは、液滴吐出手段10が液滴吐出手段10Cに置換された点が、液滴形成装置401(図13参照)と相違する。なお、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0163】
液滴吐出手段10Cは、液室11Cと、メンブレン12Cと、駆動素子13Cとを有している。液室11Cは、液室11C内を大気に開放する大気開放部115を上部に有しており、細胞懸濁液300中に混入した気泡を大気開放部115から排出可能に構成されている。
【0164】
メンブレン12Cは、液室11Cの下端部に固定された膜状部材である。メンブレン12Cの略中心には貫通孔であるノズル121が形成されており、液室11Cに保持された細胞懸濁液300はメンブレン12Cの振動によりノズル121から液滴310として吐出される。メンブレン12Cの振動の慣性により液滴310を形成するため、高表面張力(高粘度)の細胞懸濁液300でも吐出が可能である。メンブレン12Cの平面形状は、例えば、円形とすることができるが、楕円状や四角形等としてもよい。
【0165】
メンブレン12Cの材質としては特に限定はないが、柔らか過ぎるとメンブレン12Cが簡単に振動し、吐出しないときに直ちに振動を抑えることが困難であるため、ある程度の硬さがある材質を用いることが好ましい。メンブレン12Cの材質としては、例えば、金属材料やセラミック材料、ある程度硬さのある高分子材料等を用いることができる。
【0166】
特に、蛍光染色細胞350として細胞を用いる際には、細胞やタンパク質に対する付着性の低い材料であることが好ましい。細胞の付着性は一般的に材質の水との接触角に依存性があると言われており、材質の親水性が高い又は疎水性が高いときには細胞の付着性が低い。親水性の高い材料としては各種金属材料やセラミック(金属酸化物)を用いることが可能であり、疎水性が高い材料としてはフッ素樹脂等を用いることが可能である。
【0167】
このような材料の他の例としては、ステンレス鋼やニッケル、アルミニウム等や、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等を挙げることができる。これ以外にも、材料表面をコーティングすることで細胞接着性を低下させることも考えられる。例えば、材料表面を前述の金属又は金属酸化物材料でコーティングすることや、細胞膜を模した合成リン脂質ポリマー(例えば、日油株式会社製、Lipidure)によってコーティングすることが可能である。
【0168】
ノズル121は、メンブレン12Cの略中心に実質的に真円状の貫通孔として形成されていることが好ましい。この場合、ノズル121の径としては特に限定はないが、蛍光染色細胞350がノズル121に詰まることを避けるため、蛍光染色細胞350の大きさの2倍以上とすることが好ましい。蛍光染色細胞350が例えば動物細胞、特にヒトの細胞である場合、ヒトの細胞の大きさは一般的に5μm~50μm程度であるため、ノズル121の径を、使用する細胞に合わせて10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。
【0169】
一方で、液滴が大きくなり過ぎると微小液滴を形成するという目的の達成が困難となるため、ノズル121の径は200μm以下であることが好ましい。つまり、液滴吐出手段10Cにおいては、ノズル121の径は、典型的には10μm~200μmの範囲となる。
【0170】
駆動素子13Cは、メンブレン12Cの下面側に形成されている。駆動素子13Cの形状は、メンブレン12Cの形状に合わせて設計することができる。例えば、メンブレン12Cの平面形状が円形である場合には、ノズル121の周囲に平面形状が円環状(リング状)の駆動素子13Cを形成することが好ましい。駆動素子13Cの駆動方式は、駆動素子13と同様とすることができる。
【0171】
駆動手段20は、メンブレン12Cを振動させて液滴310を形成する吐出波形と、液滴310を形成しない範囲でメンブレン12Cを振動させる撹拌波形とを駆動素子13Cに選択的に(例えば、交互に)付与することができる。
【0172】
例えば、吐出波形及び撹拌波形を何れも矩形波とし、吐出波形の駆動電圧よりも撹拌波形の駆動電圧を低くすることで、撹拌波形の印加により液滴310が形成されないようにすることができる。つまり、駆動電圧の高低により、メンブレン12Cの振動状態(振動の程度)を制御することができる。
【0173】
液滴吐出手段10Cでは、駆動素子13Cがメンブレン12Cの下面側に形成されているため、駆動素子13Cによりメンブレン12が振動すると、液室11Cの下部方向から上部方向への流れを生じさせることが可能である。
【0174】
この時、蛍光染色細胞350の動きは下から上への運動となり、液室11C内で対流が発生して蛍光染色細胞350を含有する細胞懸濁液300の撹拌が起きる。液室11Cの下部方向から上部方向への流れにより、沈降、凝集した蛍光染色細胞350が液室11Cの内部に均一に分散する。
【0175】
つまり、駆動手段20は、吐出波形を駆動素子13Cに加え、メンブレン12Cの振動状態を制御することにより、液室11Cに保持された細胞懸濁液300をノズル121から液滴310として吐出させることができる。又、駆動手段20は、撹拌波形を駆動素子13Cに加え、メンブレン12Cの振動状態を制御することにより、液室11Cに保持された細胞懸濁液300を撹拌することができる。なお、撹拌時には、ノズル121から液滴310は吐出されない。
【0176】
このように、液滴310を形成していない間に細胞懸濁液300を撹拌することにより、蛍光染色細胞350がメンブレン12C上に沈降、凝集することを防ぐと共に、蛍光染色細胞350を細胞懸濁液300中にムラなく分散させることができる。これにより、ノズル121の詰まり、及び吐出する液滴310中の蛍光染色細胞350の個数のばらつきを抑えることが可能となる。その結果、蛍光染色細胞350を含有する細胞懸濁液300を、長時間連続して安定的に液滴310として吐出することができる。
【0177】
また、液滴形成装置401Cにおいて、液室11C内の細胞懸濁液300中に気泡が混入する場合がある。この場合でも、液滴形成装置401Cでは、液室11Cの上部に大気開放部115が設けられているため、細胞懸濁液300中に混入した気泡を、大気開放部115を通じて外気に排出できる。これによって、気泡排出のために大量の液を捨てることなく、連続して安定的に液滴310を形成することが可能となる。
【0178】
即ち、ノズル121の近傍に気泡が混入した場合や、メンブレン12C上に多数の気泡が混入した場合には吐出状態に影響を及ぼすため、長い時間安定的に液滴の形成を行うためには、混入した気泡を排出する必要がある。通常、メンブレン12C上に混入した気泡は、自然に若しくはメンブレン12Cの振動によって上方に移動するが、液室11Cには大気開放部115が設けられているため、混入した気泡を大気開放部115から排出可能となる。そのため、液室11Cに気泡が混入しても不吐出が発生することを防止可能となり、連続して安定的に液滴310を形成することができる。
【0179】
なお、液滴を形成しないタイミングで、液滴を形成しない範囲でメンブレン12Cを振動させ、積極的に気泡を液室11Cの上方に移動させてもよい。
【0180】
-電気的又は磁気的な検出する方法-
電気的又は磁気的な検出する方法としては、図22に示すように、液室11’から細胞懸濁液を液滴310’としてプレート700’に吐出する吐出ヘッドの直下に、細胞数計数のためのコイル200がセンサとして設置されている。細胞は特定のタンパク質によって修飾され細胞に接着することが可能な磁気ビーズによって覆うことにより、磁気ビーズが付着した細胞がコイル中を通過する際に発生する誘導電流によって、飛翔液滴中の細胞の有無を検出することが可能である。一般的に、細胞はその表面に細胞特有のタンパク質を有しており、このタンパク質に接着することが可能な抗体を磁気ビーズに修飾することによって、細胞に磁気ビーズを付着させることが可能である。このような磁気ビーズとしては既製品を用いることが可能であり、例えば、株式会社ベリタス製のDynabeads(登録商標)が利用可能である。
【0181】
[吐出前に細胞を観測する処理]
吐出前に細胞を観測する処理としては、図23に示すマイクロ流路250中を通過してきた細胞350’をカウントする方法や、図24に示す吐出ヘッドのノズル部近傍の画像を取得する方法などが挙げられる。図23はセルソーター装置において用いられている方法であり、例えば、ソニー株式会社製のセルソーターSH800Zを用いることができる。
図23では、マイクロ流路250中に光源260からレーザー光を照射して散乱光や蛍光を、集光レンズ265を用いて検出器255により検出することによって細胞の有無や、細胞の種類を識別しながら液滴を形成することが可能である。本方法を用いることによって、マイクロ流路250中に通過した細胞の数から所定のウェル中に着弾した細胞の数を推測することが可能である。
また、図24に示す吐出ヘッド10’としては、Cytena社製のシングルセルプリンターを用いることが可能である。図24では、吐出前において、ノズル部近傍をレンズ265’を介して、画像取得部255’において画像取得した結果からノズル部近傍の細胞350”が吐出されたと推定することや、吐出前後の画像から差分により吐出されたと考えられる細胞の数を推定することによって、所定のウェル中に着弾した細胞の数を推測することができる。図23に示すマイクロ流路中を通過してきた細胞をカウントする方法では、液滴が連続的に生成されるのに対して、図24は、オンデマンドで液滴形成が可能であるため、より好ましい。
【0182】
[着弾後の細胞をカウントする処理]
着弾後の細胞をカウントする処理としては、プレートにおけるウェルを蛍光顕微鏡などにより観測することにより、蛍光染色した細胞を検出する方法を取ることが可能である。この方法は、例えば、Sangjun et al.,PLoS One,Volume 6(3),e17455などに記載されている。
【0183】
液滴の吐出前及び着弾後に、細胞を観測する方法では、以下に述べる問題があるが、生成するプレートの種類によっては吐出中の液滴内の細胞を観測することがもっとも好ましい。吐出前に細胞を観測する手法においては、流路中を通過した細胞数や吐出前(及び吐出後)の画像観測から、着弾したと思われる細胞数を計数するため、実際にその細胞が吐出されたのかどうかの確認は行われておらず、思いがけないエラーが発生することがある。例えば、ノズル部が汚れていることにより液滴が正しく吐出せず、ノズルプレートに付着し、それに伴い液滴中の細胞も着弾しない、といったケースが発生する。他にも、ノズル部の狭い領域に細胞が残留することや、細胞が吐出動作によって想定以上に移動し観測範囲外に出てしまうといった問題の発生も起こりうる。
また、着弾後のプレート上の細胞を検出する手法においても問題がある。まず、プレートとして顕微鏡観察が可能であるものを準備する必要がある。観測可能なプレートとして、一般的に底面が透明かつ平坦なプレート、特に底面がガラス製となっているプレートが用いられるが、特殊なプレートとなってしまうため、一般的なウェルを使用することができなくなる問題がある。また、細胞数が数十個など多いときには、細胞の重なりが発生するため正確な計数ができなくなる問題もある。そのため、液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数をセンサ及び粒子数(細胞数)計数手段によって計数することに加えて、吐出前に細胞を観測する処理、着弾後の細胞をカウントする処理を行うことが好ましい。
【0184】
また、受光素子としては1又は少数の受光部を有する受光素子、例えば、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、光電子増倍管を用いることが可能であるし、その他に2次元アレイ状に受光素子が設けられたCCD(Charge Copuled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、ゲートCCDなど二次元センサを用いることも可能である。
1又は少数の受光部を有する受光素子を用いる際には、蛍光強度から細胞が何個入っているかを予め用意された検量線を用いて決定することも考えられるが、主として飛翔液滴中の細胞有無を二値的に検出することが行われる。細胞懸濁液の細胞濃度が十分に低く、液滴中に細胞が1個又は0個しかほぼ入らない状態で吐出を行う際には、二値的な検出で十分精度よく計数を行うことが可能である。細胞懸濁液中で細胞はランダムに配置していることを前提とすれば、飛翔液滴中の細胞数はポアソン分布に従うと考えられ、液滴中に細胞数が2個以上入る確率P(>2)は下記式(1)で表される。図25は、確率P(>2)と平均細胞数の関係を表すグラフである。ここで、λは液滴中の平均細胞数であり、細胞懸濁液中の細胞濃度に吐出液滴の体積を乗じたものになる。
P(>2)=1-(1+λ)×e-λ ・・・ 式(1)
【0185】
二値的な検出で細胞数計数を行う場合には、確率P(>2)が十分小さい値であることが精度を確保する上では好ましく、確率P(>2)が1%以下となるλ<0.15であることが好ましい。光源としては、細胞の蛍光を励起できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、水銀ランプやハロゲンランプなどの一般的なランプに特定の波長を照射するようにフィルタをかけたものや、LED(Light Emitting Diode)、レーザーなどを用いることが可能である。ただし、特に1nL以下の微小な液滴を形成するときには、狭い領域に高い光強度を照射する必要があるため、レーザーを用いるのが好ましい。レーザー光源としては、固体レーザーやガスレーザー、半導体レーザーなど一般的に知られている多種のレーザーを用いることが可能である。また、励起光源としては、液滴が通過する領域を連続的に照射したものであってもよいし、液滴の吐出に同期して液滴吐出動作に対して所定時間遅延を付けたタイミングでパルス的に照射するものであってもよい。
【0186】
<<細胞懸濁液生成工程、液滴着弾工程、及び細胞数計数工程における推定する核酸の数の確からしさを算出する工程>>
細胞懸濁液生成工程、液滴着弾工程、及び細胞数計数工程における推定する核酸の数の確からしさを算出する工程は、細胞懸濁液生成工程、液滴着弾工程、及び細胞数計数工程それぞれの工程における確からしさを算出する工程である。
当該推定する核酸の数の確からしさの算出は、細胞懸濁液生成工程における確からしさと同様に算出することができる。
なお、確からしさの算出タイミングは、細胞数計数工程の次工程で、纏めて算出してもよいし、細胞懸濁液生成工程、液滴着弾工程、及び細胞数計数工程の各工程の最後に算出し、細胞数計数工程の次工程で各不確かさを合成して算出してもよい。言い換えれば、上記各工程での確からしさは、合成算出までに適宜算出しておけばよい。
【0187】
<<出力工程>>
出力工程は、ウェル内に着弾した細胞懸濁液に含まれる細胞数を、センサにより測定された検出結果に基づいて細胞数計数手段にて計数された値を出力する工程である。
計数された値とは、センサにより測定された検出結果から、細胞数計数手段にて当該ウェルに含まれる細胞数を意味する。
出力とは、原動機、通信機、計算機などの装置が入力を受けて計数された値を外部の計数結果記憶手段としてのサーバに電子情報として送信することや、計数された値を印刷物として印刷することを意味する。
【0188】
出力工程は、プレートの生成時に、プレートにおける各ウェルの細胞数又は核酸数を観察又は推測し、観測値又は推測値、外部の記憶部に出力する。
出力は、細胞数計数工程と同時に行ってもよく、細胞数計数工程の後に行ってもよい。
【0189】
<<記録工程>>
記録工程は、出力工程において、出力された観測値又は推測値を記録する工程である。
記録工程は、記録部において好適に実施することができる。
記録は、出力工程と同時に行ってもよく、出力工程の後に行ってもよい。
記録とは、記録媒体に情報を付与することだけでなく、記録部に情報を保存することも含む意味である。
【0190】
<<核酸抽出工程>>
核酸抽出工程は、ウェル内の細胞からrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を抽出する工程である。
抽出とは、細胞膜や細胞壁などを破壊し、rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸をぬき出すことを意味する。
【0191】
細胞からrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を抽出する方法としては、90℃~100℃で熱処理する方法が知られている。90℃以下で熱処理すると核酸が抽出されない可能性があり、100℃以上で熱処理すると核酸が分解される可能性がある。このとき界面活性剤を添加し熱処理することが好ましい。
【0192】
界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、添加量にもよるが、タンパク質を変性・失活させない点から、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0193】
イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、脂肪酸ナトリウムが好ましく、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)がより好ましい。
【0194】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルグリコシド、アルキルポリオキシエチレンエーテル(Brijシリーズ等)、オクチルフェノールエトキシレート(Totiton Xシリーズ、Igepal CAシリーズ、Nonidet Pシリーズ、Nikkol OPシリーズ等)、ポリソルベート類(Tween20等のTweenシリーズなど)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルマルトシド、ショ糖脂肪酸エステル、グリコシド脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリソルベート類が好ましい。
【0195】
界面活性剤の含有量としては、ウェル中の細胞懸濁液全量に対して、0.01質量%以上5.00質量%以下が好ましい。含有量が、0.01質量%以上であると、核酸抽出に対して効果を発揮でき、5.00質量%以下であると、PCRの際に増幅の阻害を防止することができるため、両方の効果を得られる数値範囲として上記0.01質量%以上5.00質量%以下が好適である。
細胞壁を保有している細胞に関しては、上記の方法で十分に核酸抽出されないことがある。その場合、例えば、浸透圧ショック法、凍結融解法、酵素消化法、核酸抽出用キットの使用、超音波処理法、フレンチプレス法、ホモジナイザーなどの方式などが挙げられる。これらの中でも、抽出核酸のロスが少ないことから、酵素消化法が好ましい。
【0196】
<<その他の工程>>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酵素失活工程などが挙げられる。
【0197】
-酵素失活工程-
酵素失活工程は、酵素を失活させる工程である。
酵素としては、例えば、DNase、RNase、核酸抽出工程においてrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を抽出するために使用した酵素などが挙げられる。
酵素を失活させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法を好適に用いることができる。
【0198】
次に、本発明のデバイスを用いた核酸の検査方法、核酸の検査装置、及び核酸の検査プログラムについて以下に詳しく説明する。
【0199】
(核酸の検査方法、核酸の検査装置、及び核酸の検査プログラム)
本発明の核酸の検査方法は、
本発明のデバイスを用い、検査対象の試料、及び特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を、増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出する工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
また、本発明の核酸の検査方法は、
検査対象の試料、及び特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を、増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出する核酸の検査方法であって、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記検査対象の試料のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定工程を含み、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果、及び前記検査対象の試料の増幅結果を取得する、取得工程と、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と前記検査対象の試料の増幅結果とを分析する、分析工程とを含むことがより好ましく、
更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0200】
本発明の核酸の検査装置は、
特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び検査対象の試料を増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出する際に用いる核酸の検査装置であって、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記検査対象の試料のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定手段を、有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0201】
本発明の核酸の検査プログラムは、
特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び検査対象の試料を増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出する際に用いる核酸の検査プログラムであって、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記検査対象の試料のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、処理をコンピュータに実行させ、更に必要に応じてその他の処理を実行させる。
【0202】
本発明の核酸の検査装置における制御部等が行う制御は、本発明の核酸の検査方法を実施することと同義であるので、本発明の核酸の検査装置の説明を通じて本発明の核酸の検査方法の詳細についても明らかにする。また、本発明の核酸の検査プログラムは、ハードウェア資源としてのコンピュータ等を用いることにより、本発明の核酸の検査装置として実現させることから、本発明の核酸の検査装置の説明を通じて本発明の核酸の検査プログラムの詳細についても明らかにする。
【0203】
本発明の核酸の検査方法、本発明の核酸の検査装置、及び核酸の検査プログラムは、本発明では、一定の精度で特定のコピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を各ウェルに一定以下の変動係数(一定以上の充填精度)で分注した本発明のデバイスを用いることを前提とする。
本発明のデバイスを用いて、検査対象の試料において増幅反応を行うことにより、試料に含まれる核酸を検出することができ、特にこの核酸が低コピー数である場合であっても、偽陰性の判定をより確実に回避し、陽性及び陰性の正確な定性検査を行うことができ、陰性の判定精度をより向上させることができる。
また、本発明によれば、陰性との判定結果となった場合には、検査対象の試料にrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が存在するとしても、少なくとも参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数以下、検出限界以下であることを保証する。つまり、本発明は、検査対象の試料にrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が存在しなかったというあいまいな「陰性」という判定結果に対し、量的な観点からも保証している。
本発明において、「低コピー数」とは、コピー数が少ないことをいう。
本発明の核酸の検査方法、本発明の核酸の検査装置、及び核酸の検査プログラムは、低コピー数の核酸を含む検査対象の試料に対し、より効果を発揮するものである。例えば、検査対象の試料に含まれているrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数は1,000以下であり、500以下が好ましく、200以下がより好ましく、100以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましい。
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸である参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は、その核酸のコピー数が特定の数であり、そのコピー数が既知である。前記特定コピー数としては、本発明のデバイスと同様のものであるため、説明を省略する。
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数は1,000以下であり、500以下が好ましく、200以下がより好ましく、100以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましい。
【0204】
<判定工程及び判定部>
前記判定工程は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を用い、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、かつ前記検査対象の試料が増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、かつ前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する工程であり、判定部により実施される。
【0205】
従来技術のように、定量的PCRを行う際のコントロールに用いる参照用の核酸は段階希釈法により調製されているため、低コピー数の核酸においては、定量的PCRの測定結果のばらつき(例えば、CT(Threshold cycle)値のばらつき)が大きく高精度な検出結果の判定ができない可能性がある。
これに対して、本発明の核酸の検査方法は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を高精度にウェル内に配した本発明のデバイスを用いることにより、低コピー数の核酸においても、定量的PCRの測定結果のばらつき(例えば、CT値のばらつき)を小さくすることができ、高精度な検出結果の判定ができる。
よって、本発明の核酸の検査方法は、低コピー数の核酸における定量的PCRの測定結果のばらつき(例えば、CT値のばらつき)が小さく、参照用の核酸の検出結果の信頼性が高いため、検査対象の試料に含まれる核酸が低コピー数であっても、検出結果を偽陰性とする判定をより確実に回避することができる。そして、陰性の判定精度をより向上させることができ、陽性及び陰性の正確な定性を行うことができる。
さらに、本発明の核酸の検査方法は、コピー数の異なる特定コピー数の核酸を低コピー数であっても高精度にウェル内に配することができるため、検査対象の試料に含まれる核酸が低コピー数であっても検査対象の試料に含まれる核酸の量を正確に定量することができる。
【0206】
例えば、従来技術のように、コントロールに用いる参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定できていない場合には、例えば、検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果及び参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果から、rRNA又はrDNAなどの核酸の検出について判定すると、下記表2で示されるような結果となる。
【0207】
【表2】
【0208】
表2で示されるように、増幅反応結果には、(1)前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)、及び参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の両方に増幅が認められる場合と、(2)参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸には増幅が認められ、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)には増幅が認められない場合と、(3)前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)には増幅が認められ、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸には増幅が認められない場合と、(4)前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)、及び参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の両方に増幅が認められない場合の4通りのパターンが存在する。
表2で示されるように、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定できていない場合には、上記(1)から(4)の結果に対し、以下のように判定できる。
(1)の場合は、PCR反応による実験が成功したことが確認できる。さらに、前記検査対象の試料中に検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)が存在していることが確認できる。
(2)の場合は、PCR反応による実験が成功したことが確認できる。しかし、前記検査対象の試料中に検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)が存在しているか否かについては特定できない。参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定できていないので、前記検査対象の試料中に検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)が存在していないのか(陰性)、それとも存在するが判別できず陰性と誤って判定したのか(偽陰性)、いずれの場合であるか特定できない。特に、核酸のコピー数が低コピー数である場合には、この陰性か偽陰性かの判断はより困難となる。
(3)及び(4)の場合は、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸に増幅が認められないことから、何らかの原因(例えば、反応温度条件、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の調製、サーマルサイクラー、及びリアルタイムPCR装置の設定など)によりPCR反応が進行しなかったこと、又は参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が検出限界値に対して不十分であったことなどが想定され、「PCR反応系や参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数を見直す必要あり」と判定される。参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定できていない場合には、コピー数のばらつきが大きいため、検出限界値以上のコピー数である確率が低下し、必然的に(3)及び(4)の試験結果となる頻度が増大する。そのため、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定できていない場合には、検出限界値よりも2~3倍程度多いコピー数で試験を行うこと必要がある。
【0209】
一方、本発明のように、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定できている場合には、例えば、検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果及び特定コピー数の参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果から、検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の検出について判定すると、下記表3で示されるような結果となる。
【0210】
【表3】
【0211】
表3で示されるように、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定されている場合には、上記(1)から(4)の結果に対し、以下のように判定できる。
(1)の場合は、PCR反応による実験が成功したことが確定できる。さらに、前記検査対象の試料中に検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)が存在していることが確定できる。核酸のコピー数が低コピー数の場合であっても、「陽性」との判定結果を保証することができる。
(2)の場合は、検出限界以下で検出が認められないため、前記検査対象の試料中に検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)は存在しないといえる。上記表2において、(2)の場合には、陰性か偽陰性か特定できなかったのが、本発明による表3の結果では、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が特定できているため、「陰性」と結論付けることが可能になる。
本発明により、偽陰性の判定をより確実に排除することができる。本発明は、偽陰性を低減化するとともに、少なくとも参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数以下、検出限界以下であるとして「陰性」という判定結果を保証することができる。
(3)及び(4)の場合は、参照用の特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸に増幅が認められないことから、何らかの原因(例えば、反応温度条件、参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の調製、サーマルサイクラー、及びリアルタイムPCR装置の設定など)によりPCR反応が進行しなかったこと、又は参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸のコピー数が検出限界値に対して不十分であったことなどが想定され、「PCR反応系や参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数を見直す必要あり」と判定される。
【0212】
本発明の核酸の検査方法において、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の検出限界値と、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の検出限界値とは同等であるとよい。
それにより、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果をもとに得られた検出限界値を使って、検査対象である核酸の検出限界値とみなすことができる。
【0213】
また、本発明の核酸の検査方法は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含むウェルとは異なるウェルであって、検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)が配されるウェルに対し、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)とは異なる増幅可能な試薬を充填し、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)、及び前記増幅可能な試薬を、増幅反応に供するとよい。
即ち、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)とは異なる前記増幅可能な試薬を、一定量用いて、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)と同一のウェルに配し、増幅反応を行う。前記増幅可能な試薬が増幅されれば、前記増幅可能な試薬が配されているそのウェルにおいて、増幅反応が成功したと認められる。これにより、前記増幅可能な試薬と同じウェルにおける前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果の信頼性がより担保される。ここで、一定量とは十分に検出可能な量であるとよい。
よって、核酸の検査方法は、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、前記増幅可能な試薬、及び前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)は存在、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記増幅可能な試薬が増幅され、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)が増幅されない場合には、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると、より確実に結果を判定することができる。
前記増幅可能な試薬としては、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)とは異なる核酸であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述した「-核酸-」の項で説明した核酸を用いることができる。本発明の核酸の検査方法においては、前記増幅可能な試薬としては、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)とは明確に区別することができるため、自然界に存在しない非天然の核酸を用いてもよい。
【0214】
さらに、本発明の核酸の検査方法は、前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、所定の特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む一のウェルと、前記一のウェルにおける前記特定コピー数と異なる特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む他のウェルとを含み、
前記特定コピー数が異なる前記一のウェル及び前記他のウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸と、前記検査対象の試料とを増幅反応に供し、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、前記検査対象の試料の増幅結果とを比較することにより、前記検査対象試料に含まれるrRNA又はrDNAの量を判定することが好ましい。
このように、異なる特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む一のウェルと他のウェルを有する本発明のデバイスを用いることにより、前記検査対象の試料に含まれる検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)の量を定量することができる。
即ち、該デバイスを用いて、前記異なる特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、検査対象の試料rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを比較することにより、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)の量を判定することができる。
前記異なる特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを比較して検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)の量を判定する方法としては、例えば、前記異なる特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果から検量線を作成し、検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)の増幅結果から検量線に基づき定量する方法などが挙げられる。
【0215】
<検査結果取得工程及び検査結果取得部>
前記検査結果取得工程は、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを取得する工程であり、検査結果取得部により実施される。
前記検査結果取得部131は、PCR反応により得られた、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを取得する。尚、係る取得した増幅結果のデータは、検査結果データベース141に記憶される。
【0216】
<検査結果分析工程及び検査結果分析部>
前記検査結果分析工程は、取得した特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、取得した検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを分析する工程であり、検査結果分析部により実施される。
前記検査結果分析部132は、検査結果データベース141に記憶された増幅結果のデータを取得する。そして、そのデータをもとに、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸について増幅が認められたか否か、検査対象の試料(rRNA又はrDNAが含まれている可能性のある試料)について増幅が認められたか否かを分析する。
【0217】
本発明に係る核酸の検査プログラムによる処理は、核酸の検査装置を構成する制御部を有するコンピュータを用いて実行することができる。
以下、核酸の検査装置のハードウェア構成、及び機能構成について説明する。
【0218】
<核酸の検査装置のハードウェア構成>
図26は、核酸の検査装置100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図26で示すように、核酸の検査装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、主記憶装置102、補助記憶装置103、出力装置104、入力装置105の各部を有する。これらの各部は、バス106を介してそれぞれ接続されている。
CPU101は、種々の制御や演算を行う処理装置である。CPU101は、主記憶装置102などが記憶するOS(Operating System)やプログラムを実行することにより、種々の機能を実現する。即ち、CPU101は、本実施例では、核酸の検査プログラムを実行することにより、核酸の検査装置100の制御部130として機能する。
また、CPU101は、核酸の検査装置100全体の動作を制御する。尚、本実施例では、核酸の検査装置100全体の動作を制御する装置をCPU101としたが、これに限ることなく、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などとしてもよい。
【0219】
核酸の検査プログラムや各種データベースは、必ずしも主記憶装置102や、補助記憶装置103などに記憶されていなくともよい。インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)などを介して、核酸の検査装置100に接続される他の情報処理装置などに核酸の検査プログラムや各種データベースを記憶させてもよい。核酸の検査装置100がこれら他の情報処理装置から核酸の検査プログラムや各種データベースを取得して実行するようにしてもよい。
主記憶装置102は、各種プログラムを記憶し、各種プログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。
主記憶装置102は、図示しない、ROM(Reed Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、を有する。
ROMは、BIOS(Basic Input/Output System)等の各種プログラムなどを記憶している。
RAMは、ROMに記憶された各種プログラムがCPU101により実行される際に展開される作業範囲として機能する。RAMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。RAMとしては、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが挙げられる。
補助記憶装置103としては、各種情報を記憶できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブなどが挙げられる。また、補助記憶装置103は、例えば、CD(Compact Disc)ドライブ、DVD(Digital Versatile Disc)ドライブ、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)ドライブなどの可搬記憶装置としてもよい。
【0220】
出力装置104は、ディスプレイやスピーカーなどを用いることができる。ディスプレイとしては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイが挙げられる。
入力装置105は、核酸の検査装置100に対する各種要求を受け付けることができれば、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどが挙げられる。
以上のようなハードウェア構成によって、核酸の検査装置100の処理機能を実現することができる。
【0221】
<核酸の検査装置の機能構成>
図27は、核酸の検査装置100の機能構成の一例を示す図である。
この図27に示すように、核酸の検査装置100は、入力部110、出力部120、制御部130、記憶部140、を有する。
制御部130は、検査結果取得部131と、検査結果分析部132と、判定部133と、を有する。制御部130は、核酸の検査装置100全体を制御する。
記憶部140は、検査結果データベース141と、判定結果データベース142と、を有する。以下、「データベース」を「DB」と称することもある。
【0222】
検査結果取得部131は、PCR反応により得られた、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを取得する。制御部130は、係る取得した増幅結果のデータを、検査結果DB141へ記憶する。
検査結果分析部132は、記憶部140の検査結果DB141で記憶されている増幅結果のデータを用い、前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを分析する。
判定部133は、検査結果分析部132での分析結果をもとに、以下の分類に該当する場合には、「陽性」、及び「陰性」と判定する。
(1)前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、かつ前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)が増幅される場合には、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)は存在、検査結果は陽性であると判定する。
(2)前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、かつ前記検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)が増幅されない場合には、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)は不存在又は検出限界以下であり、検査出結果は陰性であると判定する。
尚、判定部133は、上記(1)及び(2)の判定を行う他に、さらに上記表3の(3)や(4)に該当する場合について、実験失敗等の判定を行ってもよい。
制御部130は、判定部133において行われた判定結果を、判定結果DB142へ記憶する。
【0223】
次に、本発明に係る核酸の検査プログラムの処理手順を示す。図28は、核酸の検査装置100の制御部130における核酸の検査プログラムの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0224】
ステップS101では、核酸の検査装置100の制御部130の検査結果取得部131は、PCR反応により得られた、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)の増幅結果とを取得し、処理をS102に移行する。ステップS101では、制御部130は、検査結果取得部131で取得した増幅結果のデータを、記憶部140にある検査結果DB141へ記憶する。
ステップS102では、核酸の検査装置100の制御部130の検査結果分析部132は、検査結果DB141に記憶された増幅結果のデータを取得する。そして、検査結果分析部132は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸について増幅が認められたか否か、検査対象である核酸について増幅が認められたか否か、それぞれの結果を分析し、処理をS103に移行する。
ステップS103では、核酸の検査装置100の制御部130の判定部133は、検査結果分析部132での分析結果を用いて、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸について増幅が認められた場合には、処理をS104に移行する。一方、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列について増幅が認められない場合には、処理をS107に移行する。
ステップS104では、判定部133は、検査結果分析部132での分析結果を用いて、検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)について増幅が認められた場合には、処理をS105に移行する。一方、検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)について増幅が認められない場合には、処理をS106に移行する。
ステップS105では、判定部133は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、かつ検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)が増幅された結果をもとに、検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)は存在、検査結果は陽性であるとの判定を行い、処理をS110に移行する。
ステップS106では、判定部133は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、かつ検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)が増幅されない結果をもとに、前記検査対象の核酸(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸)は不存在又は検出限界以下であり、検査結果は陰性であると判定を行い、処理をS110に移行する。
ステップS107では、判定部133は、検査結果分析部132での分析結果を用いて、検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)について増幅が認められた場合には、処理をS108に移行する。一方、検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)について増幅が認められない場合には、処理をS109に移行する。
ステップS108では、判定部133は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅されず、かつ検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)が増幅された結果をもとに、PCR反応系や参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数を見直す必要ありとの判定を行い、処理をS110に移行する。
ステップS109では、判定部133は、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸である核酸が増幅されず、かつ検査対象の試料(rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が含まれている可能性のある試料)が増幅されない結果をもとに、PCR反応系や参照用のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数を見直す必要ありとの判定を行い、処理をS110に移行する。
ステップS110では、制御部130は、判定部133により判定された結果を記憶部140の判定結果DB142に記憶し、本処理を終了する。
尚、本発明では、上記ステップS105とステップS106の判定が行われればよく、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸について増幅が認められない場合には、処理をS107に移行することなく、本処理を終了する態様でも構わない。
【0225】
(遺伝子検査方法)
本発明の遺伝子検査方法は、rRNA又はrDNAをターゲットにした遺伝子検査方法であって、前記rRNA又はrDNAをカウントすることで不確かさを含む絶対数を規定した標準物質で精度を管理する対象の精度を管理する。
精度を管理する対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遺伝子検査方法に用いる遺伝子検査解析機器、試薬、プライマーなどが挙げられる。
本発明の遺伝子検査方法は、本発明のデバイスを用いることを前提とする。本発明のデバイスを用いることにより、遺伝子検査を高感度及び高精度に行うことができる。
なお、標準物質とは、本発明のデバイスに用いられる特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸と同様の意味であるため、説明を省略する。その他の用語についても、本発明のデバイスと同様の意味であるため、説明を省略する。
【実施例
【0226】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0227】
(実施例)
<デバイスの作製>
以下のようにして、デバイスを作製した。
【0228】
[核酸試料の調製]
-遺伝子組換え酵母-
出芽酵母YIL015W BY4741(ATCC社製、ATCC4001408)を1コピーの特定の塩基配列のキャリア細胞として組換え体の作製に使用した。
特定の塩基配列は、ブタ 12S rRNAの塩基配列(合成メーカー:株式会社ファスマック、配列番号1参照)と選択マーカーとしたURA3とがタンデムに並ぶように作出したプラスミドとして、キャリア細胞のBAR1領域を対象に相同組換えによって1コピーの特定の塩基配列を酵母ゲノムDNAに導入し、遺伝子組換え酵母を作製した。なお、本実施例では特定の塩基配列としてブタ 12S rRNAの塩基配列の一部の配列のみを使用したが、その他の特定の塩基配列を各ウェルに配して1プレート(デバイス)上で同時に複数の検体に対して検査を行うこともできる。
【0229】
--培養及び細胞周期制御--
50g/LのYPD培地(タカラバイオ株式会社製、CLN-630409)で培養した遺伝子組換え酵母を90mL分取した三角フラスコに、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、14190-144、以下、「DPBS」と称する)を用いて500μg/mLとなるように調製したα1-Mating Factor acetate salt(Sigma-Aldrich社製、T6901-5MG、以下、「αファクター」という)を900μL添加した。
次いで、バイオシェイカー(タイテック株式会社製、BR-23FH)を用いて、振盪速度:250rpm、温度:28℃にて2時間インキュベートし、酵母をG0/G1期に同調して酵母懸濁液を得た。
【0230】
-固定化-
同調確認済み酵母懸濁液を遠心管(アズワン株式会社製、VIO-50R)に45mL移し、遠心分離機(株式会社日立製作所製、F16RN)を用いて、回転速度:3,000rpmにて5分間遠心し、上澄み液を除去して酵母ペレットを得た。
得られた酵母ペレットにホルマリン(和光純薬工業株式会社製、062-01661)を4mL添加し、5分間静置後、遠心して上澄み液を除去し、エタノールを10mL添加して懸濁させることにより、固定化済みの酵母懸濁液を得た。
【0231】
-核染色-
固定化済みの酵母懸濁液は、固定化済み酵母懸濁液を200μL分取し、DPBSで1回洗浄した後、480μLのDPBSに再懸濁した。
次に、20μLの20mg/mL RNase A(株式会社ニッポンジーン製、318-06391)を添加後、バイオシェイカーを用いて37℃で2時間インキュベートした。
次に、25μLの20mg/mLプロテイナーゼK(タカラバイオ株式会社製、TKRー9034)を添加し、プチクール(ワケンビーテック株式会社製、プチクール MiniT-C)を用いて、50℃で2時間インキュベートした。
最後に、6μLの5mM SYTOX Green Nucleic Acid Stain(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、S7020)を加えて、遮光下で30分間染色した。
【0232】
-分散-
染色済みの酵母懸濁液を超音波ホモジナイザー(ヤマト科学株式会社製、LUH150)を用いて、出力:30%、10秒間分散処理して、酵母懸濁インクを得た。
【0233】
<核酸試料の充填>
-低濃度核酸試料系列の充填-
--酵母懸濁液の個数計測分注--
低濃度の核酸試料系列は、充填容器(96穴平底プレート(ワトソン株式会社製、4846-96-FS))に予め細胞壁溶解用の溶解液を各ウェルに4μLずつ充填した後に、セルソーター(ソニー株式会社製、SH800Z)により各ウェルに1細胞ずつ分注した。
次に、細胞壁溶解液としてTris-EDTA(TE) Buffer(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、AM9861)を用いて、ColE1 DNA(株式会社ニッポンジーン製、312-00434)を5ng/μLとなるようにColE1/TEを調製し、このColE1/TEを用いて、Zymolyase(R) 100T(ナカライテスク株式会社製、07665-55)を1mg/mLとなるように調製したZymolyase溶液を使用した。
なお、セルソーターによる分注は、励起波長488nmで細胞周期の分析を行い、G0/G1期の領域のみを選択して、シングルセルモードにより行った。
【0234】
-分注酵母からの核酸抽出-
酵母からの核酸抽出は、充填容器を37℃にて30分間インキュベートすることにより、細胞壁を溶解(核酸抽出)した後、95℃で2分間熱処理した。
【0235】
<ブタ由来の核酸検査用標準物質によるプライマー性能評価試験>
qPCR反応の効率や感度は、プライマーの性能に寄るところが大きいとされているが、その性能評価においては高コピー数のターゲットでは十分な性能の差分が表出できない。そこで、本発明で可能になった低コピーの鋳型濃度下で増幅試験することにより、2種類のプライマー、プローブセットで性能差がどの程度表れるかについて調べた。
高感度、且つ、高精度なブタ由来の核酸の検査方法を構築するために、適切なプライマー及びプローブを比較検討した。適切なプライマー及びプローブを比較検討するために、標的であるブタ 12S rRNAの塩基配列を1ウェルあたり1、2、4、8、16、32コピー数分注しデバイスを、1ウェルあたり1コピー数分注したデバイスを作製したときと同じ方法で作製した。図29に示す位置でデバイス上にそれぞれのコピー数を配置した。
【0236】
作製したデバイスについて、下記に示す組成のPCR反応液を1ウェルあたり16μL添加した。
[PCR反応液(Cocktail)]
・TaqMan 2×Universal PCR Master Mix*1 10μL
・Foward primer1又は1’*2(10μM) 1μL
・Reverse primer2又は2’*2(10μM) 1μL
・TaqMan probe*3 2μL
・DW 2μL
計(1ウェルあたり)16μL
*1:Thermo Fisher Scientific Inc.社製
*2:プライマーについて、プライマー1は配列番号30、プライマー1’は配列番号2、プライマー2は配列番号31、プライマー2’は配列番号3に記載のプライマーを合成して使用した。プライマーの組合せは、1及び2の組成A、又は1’及び2’の組成Bで使用した。
*3:5’FAM, 3’TAMRAで修飾
なお、プローブ配列は、上記組成Aでは配列番号32の塩基配列、上記組成Bでは配列番号4の塩基配列を使用した。
【0237】
次に、調製したデバイスを以下の条件で定量的PCR反応と測定を行った。反応と測定はThermo Fisher Scientific Inc.社製のQuantStudio5にて行った。
[反応条件]
-pre heat-
・50℃ 2分間
・95℃ 10分間
-cycle-(50cycle)
・95℃ 30秒間
・61℃ 1分間
【0238】
結果は、Baseline Thresholdを定めず、Autoの設定で解析を行った。結果を図30から図32に示す。
【0239】
図30から図32に示すように、組成A,組成Bともに、1コピーまで検出可能な高感度qPCR法であることがわかる。差分を抽出すると、16コピーや32コピーの領域では、組成Bの方が小さい値を示し、反応が早いことが認められる。早い反応は、結果的に感度を上げる可能性があるため、選択の指標に使われることがあるため、組成Aより組成Bが優れていると評価できる。
また、図30から図32に示すように、蛍光強度に関しては、バックグラウンド値からMax値までの差分が、組成Bに比して組成Aの方が大きかった。これは、反応の安定性としては組成Aの方が優れていると言える。
以上のように、本発明を用いると、それぞれの検査法の性能をより明確にすることができ、検査法選択の時に役に立てることができる。
【0240】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1> 少なくとも1つのウェルを有し、
少なくとも1つの前記ウェルが特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含み、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の前記特定コピー数が1,000以下であることを特徴とするデバイスである。
<2> 前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、担体に含まれている前記<1>に記載のデバイスである。
<3> 前記担体が、細胞、ファージ、及びウイルスのいずれかである前記<2>に記載のデバイスである。
<4> 前記細胞が、酵母菌、動物細胞、及び植物細胞のいずれかである前記<3>に記載のデバイスである。
<5> 前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルの開口部を密閉する密閉部材を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のデバイスである。
<6> 前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルの数が2以上であり、
一の前記ウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数と、
他の前記ウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の特定コピー数と、が異なる前記<1>から<5>のいずれかに記載のデバイスである。
<7> 前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルとは異なるウェルであって、検査対象の試料が配されるウェルが、前記検査対象の試料とは異なる増幅可能な試薬を含む前記<1>から<6>のいずれかに記載のデバイスである。
<8> 前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、
ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、
又は、
ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸である、
前記<1>から<7>のいずれかに記載のデバイスである。
<9> 前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、
ブタ 12S rDNAの塩基配列である配列番号1の塩基配列の全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれか、
又は、
ウナギ 16S rDNAの塩基配列である配列番号5の塩基配列の全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有し、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の全長が50塩基以上である、
前記<1>から<8>のいずれかに記載のデバイスである。
<10> 前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号1の塩基配列若しくは任意の長さの塩基配列に対し相同性が80%以上である塩基配列を含む、
又は、
前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号5の塩基配列若しくは任意の長さの塩基配列に対し相同性が80%以上である塩基配列を含む、
前記<1>から<9>のいずれかに記載のデバイスである。
<11> 前記ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号1の塩基配列と、5’末端側、又は3’末端側に1,000塩基以下の任意の長さの塩基配列とを含む塩基配列X、及び前記塩基配列Xに対し相同性が80%以上である塩基配列Yを含む、
又は、
前記ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が、配列番号5の塩基配列と、5’末端側、又は3’末端側に1,000塩基以下の任意の長さの塩基配列とを含む塩基配列X、及び前記塩基配列Xに対し相同性が80%以上である塩基配列Yを含む、
前記<8>から<10>のいずれかに記載のデバイスである。
<12> 前記ブタ 12S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、
PCR反応用として、配列番号2及び3のプライマー、配列番号4のプローブ、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、若しくは、
LAMP反応用として、配列番号9、10、11、12、13、及び14のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
又は、
前記ウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、
PCR反応用として、配列番号6及び7のプライマー、配列番号8のプローブ、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、若しくは、
LAMP反応用として、配列番号15、16、17、18、19、及び20のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
前記<8>から<11>のいずれかに記載のデバイスである。
<13> 前記ウナギが、ニホンウナギであり、
前記ニホンウナギ 16S rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、
PCR反応用として、配列番号21及び22のプライマー、配列番号23のプローブ、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
又は、
LAMP反応用として、配列番号24、25、26、27、28、及び29のプライマー、並びに増幅試薬の少なくともいずれかを有する、
前記<8>から<12>のいずれかに記載のデバイスである。
<14> 前記<1>から<13>のいずれかに記載のデバイスを用い、検査対象の試料、及び特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を、増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出することを特徴とする核酸の検査方法である。
<15> 前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記検査対象の試料のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在し、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定工程を含む前記<14>に記載の核酸の検査方法である。
<16> 前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含むウェルとは異なるウェルであって、検査対象の試料が配されるウェルに対し、前記検査対象の試料とは異なる増幅可能な試薬を充填し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、前記検査対象の試料、及び前記増幅可能な試薬を、増幅反応に供することにより、特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、前記検査対象の試料、及び前記増幅可能な試薬のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在し、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸及び前記増幅可能な試薬が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定工程を含む前記<14>から<15>のいずれかに記載の核酸の検査方法である。
<17> 前記デバイスにおける、前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む前記ウェルが、所定の特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む一のウェルと、前記一のウェルにおける前記特定コピー数と異なる特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸を含む他のウェルとを含み、
前記特定コピー数が異なる前記一のウェル及び前記他のウェルにおける前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸と、前記検査対象の試料とを増幅反応に供し、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸の増幅結果と、前記検査対象の試料の増幅結果とを比較することにより、前記検査対象試料に含まれるrRNA又はrDNAの量を判定する前記<14>から<16>のいずれかに記載の核酸の検査方法である。
<18> 特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び検査対象の試料を増幅反応に供することにより、
前記検査対象の試料に含まれるrRNA又はrDNAを検出する際に用いる核酸の検査装置であって、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸、及び前記検査対象の試料のいずれも増幅される場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は存在し、検出結果は陽性であると判定し、
前記特定コピー数の前記rRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸が増幅され、前記検査対象の試料が増幅されない場合には、前記検査対象の試料にはrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸は不存在又は検出限界以下であり、検出結果は陰性であると判定する、判定手段を、
有することを特徴とする核酸の検査装置である。
<19> rRNA又はrDNAをターゲットにした遺伝子検査方法であって、
前記rRNA又はrDNAの数をカウントすることで不確かさを含む絶対数を規定した標準物質で精度を管理する対象の精度を管理することを特徴とする遺伝子検査方法である。
【0241】
前記<1>から<13>のいずれかに記載のデバイス、前記<14>から<17>のいずれかに記載の核酸の検査方法、前記<18>に記載の核酸の検査装置、及び前記<19>に記載の遺伝子検査方法によると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0242】
1 デバイス
2 基材
3 ウェル
4 特定コピー数のrRNA又はrDNAの全長及び一部の塩基配列の少なくともいずれかを有する核酸
5 密閉部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0243】
【文献】特表2010-530763号公報
【文献】国際公開WO2009/157465号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
【配列表】
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