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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】異材接合部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/06 20060101AFI20240423BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B29C65/06
B23K20/12 G
B23K20/12 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020073831
(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公開番号】P2021169189
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業「難接合材料を可能にする革新的接合技術の確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】半谷 禎彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503680(JP,A)
【文献】特開2008-180138(JP,A)
【文献】特開2018-058279(JP,A)
【文献】特表2010-514590(JP,A)
【文献】特表2018-522765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00 - 65/82
B23K 20/00 - 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポーラス金属材と樹脂材との直接接合方法であって、
前記ポーラス金属材は気孔率が30~95体積%で、被接合面に開気孔を有し、
前記被接合面における前記開気孔の面積率が30~95%であり、
前記ポーラス金属材と前記樹脂材とを当接させて被接合界面を形成する第一工程と、
前記ポーラス金属材と前記樹脂材との摺動によって前記被接合界面の近傍に摩擦熱を発生させ、前記摩擦熱によって軟化又は溶融した樹脂材を前記開気孔に含侵させる第二工程と、を有すること、
を特徴とする異材接合方法。
【請求項2】
更に、前記摩擦熱によって軟化又は溶融した前記樹脂材の前記開気孔への含侵を促進させる第三工程を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の異材接合方法。
【請求項3】
前記第二工程及び/又は前記第三工程において、前記ポーラス金属材を前記樹脂材に5μm~1mm圧入すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の異材接合方法。
【請求項4】
前記第二工程において、前記ポーラス金属材と前記樹脂材とを回転摺動又は線形摺動させること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の異材接合方法。
【請求項5】
前記被接合面における前記開気孔の平均直径が5μm~5cmであること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の異材接合方法。
【請求項6】
前記ポーラス金属材をポーラスアルミニウム材又はポーラスマグネシウム材とすること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載の異材接合方法。
【請求項7】
前記樹脂材を繊維強化プラスチック(FRP)材とすること、
を特徴とする請求項1~6のうちのいずれかに記載の異材接合方法。
【請求項8】
ポーラス金属材と樹脂材とが直接接合された接合部材であって、
前記ポーラス金属材は平均直径が5μm~5cmの開気孔を有し、気孔率が30~95体積%であり、
前記開気孔に前記樹脂材が含侵してなる接合領域を有し、
前記接合領域の厚さが5μm~1mmであること、
を特徴とする異材接合部材。
【請求項9】
前記ポーラス金属材がポーラスアルミニウム材又はポーラスマグネシウム材であること、
を特徴とする請求項8に記載の異材接合部材。
【請求項10】
前記樹脂材が繊維強化プラスチック(FRP)材であること、
を特徴とする請求項8又は9に記載の異材接合部材。
【請求項11】
前記ポーラス金属材がポーラス金属板材であり、
前記樹脂材が樹脂板材であり、
前記ポーラス金属板材の表面及び/又は裏面に前記樹脂板材が接合されていること、
を特徴とする請求項8~10のうちのいずれかに記載の異材接合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材と樹脂材との異材接合体及びその製造方法に関し、より具体的には、ポーラス金属材と樹脂材との異材接合体及びその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造技術の研究開発が盛んに進められているポーラス金属は、緻密材の軽量化の限界を超える軽量化を実現するものである。近年、自動車におけるアルミニウム化、電機製品におけるマグネシウム化などの軽量化が進められているが、金属をポーラス化することにより、これを上回る超軽量化を達成することができる。
【0003】
また、ポーラス金属は、多孔質で比表面積が大きい構造のため、高いエネルギー吸収能、熱交換容量、断熱特性、吸音特性等を有する機能性材料としても有望視されている。各種自動車用部品をはじめとして、衝撃吸収材、防音材、生体医療材などの実用化開発が進められているが、ポーラス金属のみでは適用が困難な場合も多く、その他の材料との接合技術が切望されている。
【0004】
特に、軽量かつ成形性に優れた樹脂材とポーラス金属とを接合することができれば、ポーラス金属の利用範囲は飛躍的に拡大すると考えられる。ここで、例えば、特許文献1(特開2019-166638号公報)では、樹脂とアルミニウム材を接合してなる樹脂金属接合体の製造方法において、前記アルミニウム材に、その表面側に開放する表面開放部が形成された多数の孔部を含むナノ凹凸構造を作製するナノ凹凸構造作製工程と、前記表面開放部から前記孔部内に溶融状態の前記樹脂を侵入させてから固化することで、前記アルミニウム材と前記樹脂を接合する接合工程とを順に行い、前記ナノ凹凸構造作製工程では、前記各孔部の内部で相互に連通する連通部が形成され、これら各孔部及び連通部で構成される内部空間を、前記各孔部の各表面開放部とは別の部位で外部に開放可能に形成することを特徴とする樹脂金属接合体の製造方法、が開示されている。
【0005】
上記特許文献1に記載の樹脂金属接合体の製造方法においては、樹脂との接合部分となるアルミニウム材の表面側に、相互に不規則に配置された多数の孔部を有するナノ凹凸構造が作製され、溶融状態の樹脂を各孔部に侵入させて固化することで、樹脂とアルミニウム材とが接合される。ここで、各孔部の内部は連通部を介して相互に連通した状態となっており、これら各孔部及び連通部で構成される内部空間は、それぞれの孔部の表面開放部とは別の部位で開放している。従って、各表面開放部から各孔部内に樹脂が侵入すると、各孔部内の空気が内部空間の開放部位から抜けながら、内部空間に樹脂を十分に行き渡らせることができる。しかも、各孔部が不規則な形状となることから、内部空間に充填された樹脂が、アルミニウム材の内部で複雑に絡み合って固化することになり、アルミニウム材と樹脂の接着面積が増大し、強固なアンカー効果を得ることができる。このため、本発明によれば、ボルトやリベット等の接合部材や接着剤を用いることなく、強固に接合された樹脂とアルミニウム材との接合体を得ることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-166638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている樹脂金属接合体の製造方法は、金属材の表面に孔部を設けることによって接合を達成するものであり、緻密な金属材と樹脂材を接合する方法である。また、当該接合方法では、ホットプレート等を用いて溶融状態とした樹脂材を孔部に流し込むものであり、樹脂材の流入量を制御することは極めて困難であり、基本的に孔部の全ての領域が樹脂材で充填されてしまう。
【0008】
軽量化を主たる目的としない緻密な金属材と樹脂材を接合する場合は孔部の全ての領域を樹脂材で充填しても問題にはならないが、接合体の軽量化を図る場合、十分な接合強度が得られる限りにおいて、孔部への樹脂材の充填量は抑制することが好ましい。
【0009】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、軽量化に関するポーラス金属材の利点を損なうことなく、樹脂材との強固な接合部を簡便かつ効率的に形成するための異材接合法及び、それにより得られる高い継手強度を有する異材接合部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく、ポーラス金属材と樹脂材との異材接合法等について鋭意研究を重ねた結果、ポーラス金属材と樹脂材との接触面で発生する摩擦熱を利用すること等が究めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、
ポーラス金属材と樹脂材との直接接合方法であって、
前記ポーラス金属材は気孔率が30~95体積%で、被接合面に開気孔を有し、
前記被接合面における前記開気孔の面積率が30~95%であり、
前記ポーラス金属材と前記樹脂材とを当接させて被接合界面を形成する第一工程と、
前記ポーラス金属材と前記樹脂材との摺動によって前記被接合界面の近傍に摩擦熱を発生させ、前記摩擦熱によって軟化又は溶融した樹脂材を前記開気孔に含侵させる第二工程と、を有すること、
を特徴とする異材接合方法、を提供する。
【0012】
本発明の異材接合方法においては、更に、前記摩擦熱によって軟化又は溶融した前記樹脂材の前記開気孔への含侵を促進させる第三工程を有すること、が好ましい。第三工程においては、第二工程における摺動速度を低下又は摺動を停止することや、被接合界面同士を当接させる押圧力を低下させ、これらの状態で一定時間保持することにより、樹脂材の含侵を促進することができる。
【0013】
気孔率が30~95体積%で、被接合面に開気孔を有し、被接合面における開気孔の面積率が30~95%である限りにおいて、ポーラス金属の材質や構造は特に限定されず、従来公知の種々のポーラス金属を使用することができる。例えば、ポーラス金属はオープンセルタイプであってもクローズドセルタイプであってもよい。
【0014】
本発明の異材接合方法においては、ポーラス金属材と樹脂材との摺動によって被接合界面の近傍に摩擦熱を発生させ、当該摩擦熱によって軟化又は溶融した樹脂材を開気孔に含侵させることにより、必要以上に樹脂材が充填されることを抑制することができる一方で、押圧力の印加により、充填された樹脂材とポーラス金属材を強固に接合することができる。
【0015】
また、本発明の異材接合方法においては、前記第二工程及び/又は前記第三工程において、前記ポーラス金属材を前記樹脂材に5μm~1mm圧入すること、が好ましい。ポーラス金属材を樹脂材に5μm以上圧入することで、少なくとも1つの開気孔に相当する厚さの接合領域を形成することができる。また、当該圧入量を1mm以下とすることで、必要以上に厚い接合領域の形成を抑制し、気孔の低減によって接合体の重量が増加することを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の異材接合方法においては、前記第二工程において、前記ポーラス金属材と前記樹脂材とを回転摺動又は線形摺動させること、が好ましい。ポーラス金属材と樹脂材とを回転摺動又は線形摺動させることで、摩擦熱によって軟化又は溶融した樹脂材を効率的かつ簡便に開気孔に含侵させることができる。ここで、ポーラス金属材と樹脂材とを回転摺動又は線形摺動させる方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、回転摺動の場合は摩擦圧接装置、線形摺動の場合は線形摩擦接合装置を好適に用いることができる。
【0017】
また、本発明の異材接合方法においては、前記被接合面における前記開気孔の平均直径が5μm~5cmであること、が好ましい。接合に寄与する開気孔の平均直径が5μm~5cmとなっていることで、円滑な樹脂材の含侵と樹脂材の含侵による接合強度の担保を同時に達成することができる。
【0018】
また、本発明の異材接合方法においては、前記ポーラス金属材をポーラスアルミニウム材又はポーラスマグネシウム材とすること、が好ましい。アルミニウム材やマグネシウム材は軽量であることに加えて優れた機械的性質や成形性等を有しており、樹脂材と接合することにより多種多様な用途に用いることができる。
【0019】
更に、本発明の異材接合方法においては、前記樹脂材を繊維強化プラスチック(FRP)材とすること、が好ましい。繊維強化プラスチック(FRP)は構造材として高い機械的性質と信頼性を有しており、ポーラス金属材と接合することにより、例えば、軽量かつ高強度であることが要求される構造部材として好適に用いることができる。繊維強化プラスチック(FRP)としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いることがより好ましい。
【0020】
また、本発明は、
ポーラス金属材と樹脂材とが直接接合された接合部材であって、
前記ポーラス金属材は平均直径が5μm~5cmの開気孔を有し、気孔率が30~95体積%であり、
前記開気孔に前記樹脂材が含侵してなる接合領域を有し、
前記接合領域の厚さが5μm~1mmであること、
を特徴とする異材接合部材、も提供する。
【0021】
本発明の異材接合部材は、ポーラス金属の気孔率が30~95体積%となっており、緻密な金属材と比較して大幅な軽量化が図られている。また、樹脂材との接合に寄与する平均直径が5μm~5cmの開気孔を有し、当該開気孔に樹脂材が含侵してなる接合領域を有している。ポーラス金属はオープンセルタイプであってもクローズドセルタイプであってもよい。
【0022】
また、接合領域の厚さが5μm以上となっていることで、十分な接合強度を発現させることができ、1mm以下となっていることで、異材接合部材の重量増加が抑制されている。
【0023】
また、本発明の異材接合部材においては、ポーラス金属材がポーラスアルミニウム材又はポーラスマグネシウム材であること、が好ましい。アルミニウム材やマグネシウム材は軽量であることに加えて優れた機械的性質や成形性等を有しており、樹脂材と接合することにより多種多様な用途に用いることができる。
【0024】
また、本発明の異材接合部材においては、前記樹脂材が繊維強化プラスチック(FRP)材であること、が好ましい。繊維強化プラスチック(FRP)は構造材として高い機械的性質と信頼性を有しており、ポーラス金属材と接合することにより、例えば、軽量かつ高強度であることが要求される構造部材として好適に用いることができる。繊維強化プラスチック(FRP)としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いることがより好ましい。
【0025】
更に、本発明の異材接合部材においては、前記ポーラス金属材がポーラス金属板材であり、前記樹脂材が樹脂板材であり、前記ポーラス金属板材の表面及び/又は裏面に前記樹脂板材が接合されていること、が好ましい。ポーラス金属材の表面及び/又は裏面に樹脂材を強固に貼り合わせることで、軽量かつ高強度な構造材として極めて好適に用いることができる。
【0026】
なお、本発明の異材接合部材は、本発明の異材接合方法によって簡便かつ効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、軽量化に関するポーラス金属材の利点を損なうことなく、樹脂材との強固な接合部を簡便かつ効率的に形成するための異材接合法及び、それにより得られる高い継手強度を有する異材接合部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の異材接合方法の接合行程を示す模式図である。
図2】本発明の一態様を示す異材接合部材の概略断面図である。
図3】実施例でポーラスアルミニウム材及びアクリル樹脂板を配置した状況を示す写真である。
図4】実施例でポーラスアルミニウム材をアクリル樹脂板に圧入して保持している状況を示す写真である。
図5】実施例で接合後の状況を示す写真である。
図6】保持時間を30秒として得られた異材接合部材の接合面と引張試験後の破面である。
図7】保持時間を15秒として得られた異材接合部材の接合面と引張試験後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の異材接合方法及びそれにより得られる異材接合部材の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0030】
(1)異材接合方法
本発明の異材接合方法は、ポーラス金属材と樹脂材との直接接合方法であって、ポーラス金属材と樹脂材との摺動によって被接合界面の近傍に摩擦熱を発生させ、当該摩擦熱によって軟化又は溶融した樹脂材を開気孔に含侵させることを特徴とする異材接合方法である。
【0031】
(1-1)被接合材
本発明の異材接合方法に用いるポーラス金属材は、気孔率が30~95体積%で、被接合面に開気孔を有し、被接合面における開気孔の面積率が30~95%となっている。気孔率は50~90%であることが好ましく、60~80%であることがより好ましい。気孔率がこのような数値範囲となっていることで、軽量化と機械的性質を高いレベルで両立することができる。接合に寄与する開気孔がこのような数値範囲となっていることで、高い接合強度を得ることができることに加え、均質な接合領域を形成させることができる。
【0032】
ポーラス金属にはオープンセルタイプとクローズドセルタイプが存在するが、どちらを用いてもよい。ここで、被接合面に開気孔がない場合は、適当な断面を被接合面とし、当該断面における開気孔の面積率が30~95%となるように調整すればよい。
【0033】
ポーラス金属の気孔の平均直径は、当該気孔がオープンセルタイプの場合であってもクローズドセルタイプの場合であっても、5μm~5cmであることが好ましく、200μm~2cmであることがより好ましい。被接合面に開気孔がない場合は適当な断面で切断して開気孔とすることで、接合に用いることができる。
【0034】
また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポーラス金属の材質は特に限定されず、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、銅、鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。ここで、軽量化の観点からは、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0035】
本発明の異材接合方法に用いる樹脂材は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の樹脂材を用いることができるが、摩擦熱によって軟化及び/又は溶融が生じる熱可塑性の樹脂材を用いることが好ましい。また、構造部材としての強度及び信頼性を担保する観点からは、繊維強化プラスチック(FRP)を用いることが好ましく、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いることがより好ましい。
【0036】
(1-2)接合方法
本発明の異材接合方法では、ポーラス金属材と樹脂材との摺動によって被接合界面の近傍に摩擦熱を発生させるが、以下、ポーラス金属材と樹脂材とを回転摺動させる場合を代表例として詳細に説明する。本発明の異材接合方法に関する接合行程の模式図を図1に示す。
【0037】
(A)第一工程
第一工程においては、ポーラス金属材2と樹脂材4とを当接させて、被接合界面6を形成させる。この際、ポーラス金属2と樹脂材4は両方又はどちらか一方を回転させた状態で当接させてもよく、両方共に回転させずに当接させてもよい。
【0038】
また、ポーラス金属材2と樹脂材4は、ポーラス金属材2及び樹脂材4が変形しない圧力で当接させ、ポーラス金属材2の被接合面と樹脂材4の被接合面が均等に密着するように被接合界面6を形成させることが好ましい。
【0039】
(B)第二工程
第二工程においては、ポーラス金属材2と樹脂材4との摺動によって、被接合界面6の近傍に摩擦熱を発生させる。ここでは、ポーラス金属材2のみを回転させる場合について説明するが、適当な回転速度で回転させたポーラス金属材2を、ポーラス金属材2の位置制御又はポーラス金属材2に印加する荷重制御によって、樹脂材4に圧入し、摩擦熱を発生させる。
【0040】
第二工程において、ポーラス金属材2を樹脂材4に5μm~1mm圧入することが好ましい。ポーラス金属材2を樹脂材4に5μm以上圧入することで、少なくとも接合強度に寄与する量の樹脂材4が開気孔に充填され、良好な接合領域を形成することができる。また、当該圧入量を1mm以下とすることで、必要以上に厚い接合領域の形成を抑制し、気孔の低減によって接合体の重量が増加することを防ぐことができる。
【0041】
樹脂材4を外部加熱によって溶融してポーラス金属材2の開気孔に含侵させる場合、当該開気孔に必要以上に樹脂材4が充填され、ポーラス金属材2がポーラス構造を有していることに起因する利点が低減してしまう。これに対し、ポーラス金属材2と樹脂材4との摺動を用いた場合、樹脂材4が軟化又は溶融した領域(厚さ)を制御することが容易であり、摺動速度や圧入量等の調整によって、所望の厚さを有する接合領域を形成することができる。
【0042】
(C)第三工程
第三工程は必須の工程ではないが、摩擦熱によって軟化又は溶融した樹脂材の被接合界面に存在する開気孔への含侵を促進することができる。第二工程においても、摩擦熱によって軟化又は溶融した樹脂材が開気孔に含侵するが、第三工程は当該含侵を促進するための工程である。例えば、ポーラス金属材2を位置制御で樹脂材4に摩擦圧接する場合、所定の圧入量(接合位置)に到達後、当該位置において一定時間保持することによって、樹脂材の含侵を促進することができる。また、ポーラス金属材2を荷重制御で樹脂材4に摩擦圧接する場合、所定の圧入量(接合位置)に到達後、ポーラス金属2への印加圧力を低下させて一定時間保持することによって、樹脂材の含侵を促進することができる。
【0043】
接合位置における保持時間は、ポーラス金属材2の材質、気孔率、開気孔のサイズ、開気孔の面積率、及び樹脂材4の材質等に応じて適宜調整すればよい。また、ポーラス金属材2を回転させた状態で保持してもよく、ポーラス金属材2の回転を停止させた状態で保持してもよい。
【0044】
(2)異材接合部材
本発明の一態様を示す異材接合部材の概略断面図を図2に示す。本発明の異材接合部材10は、ポーラス金属材2と樹脂材4とが直接接合された接合部材であって、ポーラス金属材2の開気孔に樹脂材4が含侵してなる接合領域12を有している。即ち、異材接合部材10は、例えば、接着剤等によってポーラス金属材2と樹脂材4とが間接的に接合されたものではない。
【0045】
接合領域12の厚さは5μm~1mmとなっており、当該厚さは100~800μmとすることが好ましく、200~700μmとすることがより好ましい。接合領域12の厚さをこれらの範囲とすることで、引張試験において母材破断する高い接合強度と、異材接合部材10の重量増加の抑制を、共に達成することができる。
【0046】
ポーラス金属材2は、気孔率が30~95体積%となっている。当該気孔率は50~90%であることが好ましく、60~80%であることがより好ましい。気孔率がこのような数値範囲となっていることで、軽量化と機械的性質を高いレベルで両立することができる。
【0047】
ポーラス金属にはオープンセルタイプとクローズドセルタイプが存在するが、ポーラス金属材2にはどちらを用いてもよい。ここで、被接合面に開気孔がない場合は、適当な断面を被接合面とし、当該断面における開気孔の面積率が30~95%となるように調整すればよい。
【0048】
ポーラス金属材2の気孔の平均直径は、当該気孔がオープンセルタイプの場合であってもクローズドセルタイプの場合であっても、5μm~5cmであることが好ましく、200μm~2cmであることがより好ましい。被接合面に存在する開気孔に樹脂材4が充填された接合領域12が形成される。
【0049】
また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポーラス金属材2の材質は特に限定されず、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、銅、鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。ここで、軽量化の観点からは、アルミニウム又はマグネシウムを用いることが好ましい。
【0050】
樹脂材4は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の樹脂材を用いることができるが、摩擦熱によって軟化及び/又は溶融が生じる熱可塑性の樹脂材を用いることが好ましい。また、構造部材としての強度及び信頼性を担保する観点からは、繊維強化プラスチック(FRP)を用いることが好ましく、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いることがより好ましい。
【0051】
異材接合部材10において、ポーラス金属材2と樹脂材4のサイズや形状、接合領域12が形成される場所等については特に限定されないが、ポーラス金属材2がポーラス金属板材であり、樹脂材4が樹脂板材であり、ポーラス金属板材の表面及び/又は裏面に樹脂板材が接合されていることが好ましい。ポーラス金属材2の表面及び/又は裏面に樹脂材4を強固に貼り合わせることで、軽量かつ高強度な構造材として極めて好適に用いることができる。ここで、ポーラス金属板材と樹脂板材を接合する場合は、これらを線形に摺動させる線形摩擦接合を好適に用いることができる。
【0052】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0053】
≪ポーラス金属材の作製≫
出発材として純アルミニウム粉末(粒径:約20μm)とNaCl粉末(粒径:300~425μm)を用いた。ポーラスアルミニウムの気孔率が70%となるように、純アルミニウム粉末とNaCl粉末の混合粉末を作製した。
【0054】
作製した混合粉末を黒鉛型に充填し、放電プラズマ焼結を行った。焼結後、ポーラスアルミニウムを黒鉛型から取り出し、水洗することで、スペーサーであるNaClを除去し、オープンセル構造を有する直径20mmの円盤状のポーラスアルミニウムを得た。当該ポーラスアルミニウムはオープンセルタイプのポーラス金属であり、基本的にNaCl粉末のサイズ及び形状に対応する気孔が形成されている。
【0055】
≪ポーラス金属材と樹脂材の接合≫
図1に示す方法で、ポーラスアルミニウム材とアクリル樹脂板(縦50mm×横50mm×厚さ5mm)を接合した。具体的には、構造用接着剤を用いて鉄棒(φ20mm)にポーラスアルミニウム材を貼り付け、当該鉄棒を汎用の摩擦圧接装置の主軸に取り付けた。また、アクリル樹脂板はポーラスアルミニウム材と対抗する位置に、万力で固定した。
【0056】
ポーラスアルミニウム材を先端に貼り付けた鉄棒を700rpmで回転させ、ポーラスアルミニウム材をアクリル樹脂板の表面に当接させた(第一工程)後、ポーラスアルミニウム材をアクリル樹脂板に0.5mm圧入し(第二工程)、当該状態で30秒又は15秒保持した(第三工程)。当該保持後、鉄棒を回転させたまま上昇させた。
【0057】
ポーラスアルミニウム材及びアクリル樹脂板を配置した状況(接合前の状況)の写真を図3、ポーラスアルミニウム材をアクリル樹脂板に0.5mm圧入して保持している状況の写真を図4、接合後の状況の写真を図5に、それぞれ示す。
【0058】
≪評価≫
得られた異材接合部材について、引張速度1mm/minの条件で引張試験を実施し、破断面の観察を行った。
【0059】
保持時間を30秒として得られた異材接合部材の接合面と引張試験後の破面を図6に示す。なお、接合面はアクリル樹脂板側から観察している。接合面は中心部が黒くなり、その外側も円を描くように黒くなっている様子が確認できる。この黒くなっている箇所が強固な接合部が形成された領域であると考えられる。また、ポーラスアルミニウム材の破面において、中心部とその付近がえぐれている様子が確認できる。また、樹脂の破面において、ポーラスアルミニウム材が樹脂に付着している様子が確認できる。これらの観察結果は、引張試験において母材破断する良好な接合が達成されていることを意味している。
【0060】
保持時間を15秒として得られた異材接合部材の接合面と引張試験後の外観写真を図7に示す。なお、接合面及び外観はアクリル樹脂板側から観察している。接合面において、中心部の広い範囲が黒くなっている様子が確認できる。保持時間が30秒の場合と同様に、当該領域においてポーラスアルミニウム材とアクリル樹脂板が強固に接合されていると考えられる。また、外観写真において、アクリル樹脂板に亀裂が生じて割れている様子が確認できる。これは引張試験時にポーラスアルミニウム材とアクリル樹脂材が破断する前に生じたものであり、中心部の接合が極めて強固であったことを示している。
【符号の説明】
【0061】
2・・・ポーラス金属材、
4・・・樹脂材、
6・・・被接合界面、
10・・・異材接合部材、
12・・・接合領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7