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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20240423BHJP
   B60J 1/02 20060101ALI20240423BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20240423BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B60J1/02 M
B60K35/23
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019519600
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2018018968
(87)【国際公開番号】W WO2018216574
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-02-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2017102139
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
(72)【発明者】
【氏名】青木 時彦
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505330(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0168353(US,A1)
【文献】国際公開第2016/198679(WO,A1)
【文献】特表2017-512175(JP,A)
【文献】特開2005-219583(JP,A)
【文献】特開2002-104018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/00-29/00
B32B 1/00-43/00
B60J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内側となる第1のガラス板と、前記車両の外側となる第2のガラス板と、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に位置して前記第1のガラス板と前記第2のガラス板とを接着する中間膜と、を備えた合わせガラスであって、
ヘッドアップディスプレイで使用する表示領域を備え、
前記表示領域は、前記合わせガラスを前記車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面形状が楔状の領域を備え、
前記楔状の領域の少なくとも一部の範囲では、前記垂直方向の位置により楔角の値が異なり、
前記楔角が0.4mrad以下であり、
前記表示領域は、前記垂直方向の視野角が2deg以上であり、
前記表示領域の前記垂直方向の各位置における前記楔角の測定値を1次関数で近似した1次近似線に対する前記楔角の測定値の最大乖離量が0.2mrad以下であり、
前記1次近似線は、前記垂直方向の視野角が2.5deg未満では前記垂直方向の下端側から上端側に行くに従って前記楔角が小さくなる方向に傾斜し、前記垂直方向の視野角が2.5deg以上では前記垂直方向の下端側から上端側に行くに従って前記楔角が大きくなる方向に傾斜し、
前記1次近似線の傾きの絶対値は、0.0006mrad/mm以上0.006mrad/mm以下であることを特徴とする合わせガラス。
【請求項2】
前記最大乖離量が0.15mrad以下であることを特徴とする請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記1次近似線の傾きの絶対値は、0.001mrad/mm以上である請求項1又は2に記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記最大乖離量をe[mrad]、前記垂直方向の視野角をFOV[deg]と表すとき、eとFOVとが『e≦-0.015×FOV+0.23』の関係を満たす請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記垂直方向の曲げ半径が6000mm以上であることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のフロントガラスに画像を反射させて運転者の視界に所定の情報を表示するヘッドアップディスプレイ(以下、HUDとも言う。)の導入が進んでいるが、運転者が車外の風景やHUDにより表示された情報を視認するに際し、二重像が問題となる場合がある。
【0003】
車両の運転者にとって問題となる二重像には透視二重像と反射二重像があり、フロントガラスにHUDで使用するHUD表示領域と、HUDで使用しないHUD表示外領域(透視領域)がある場合には、HUD表示領域では透視二重像が問題となることもあるが、概ね反射二重像が主たる問題となり、HUD表示外領域で透視二重像が問題となる。
【0004】
このような反射二重像或いは透視二重像は、フロントガラスに水平方向から見た断面形状が楔状の合わせガラスを用いることで低減できることが知られている。例えば、2枚のガラス板で断面形状が楔状の中間膜を挟み、中間膜の楔角をフロントガラスの場所によって変化させた合わせガラスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-502125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来はHUD表示領域が比較的狭かったため、中間膜の楔角の目標値からの乖離量(誤差)が大きくても、反射二重像は認識され難かった。
【0007】
しかしながら、HUD表示領域が、より多くの情報を表示するために従来よりも大きくなった場合(フロントガラスに従来よりも大きな像を投影しようとした場合)、フロントガラスの僅かな形状変化が、投影される像に対して大きく影響を与える。すなわち、中間膜の楔角の目標値からの乖離量が大きいと反射二重像を抑制できなくなる。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、一定でない楔角を持つ合わせガラスにおいて、従来よりHUD表示領域が大きくても反射二重像を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本合わせガラスは、車両の内側となる第1のガラス板と、前記車両の外側となる第2のガラス板と、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に位置して前記第1のガラス板と前記第2のガラス板とを接着する中間膜と、を備えた合わせガラスであって、ヘッドアップディスプレイで使用する表示領域を備え、前記表示領域は、前記合わせガラスを前記車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面形状が楔状の領域を備え、前記楔状の領域の少なくとも一部の範囲では、前記垂直方向の位置により楔角の値が異なり、前記楔角が0.4mrad以下であり、前記表示領域は、前記垂直方向の視野角が2deg以上であり、前記表示領域の前記垂直方向の各位置における前記楔角の測定値を1次関数で近似した1次近似線に対する前記楔角の測定値の最大乖離量が0.2mrad以下であり、前記1次近似線は、前記垂直方向の視野角が2.5deg未満では前記垂直方向の下端側から上端側に行くに従って前記楔角が小さくなる方向に傾斜し、前記垂直方向の視野角が2.5deg以上では前記垂直方向の下端側から上端側に行くに従って前記楔角が大きくなる方向に傾斜し、前記1次近似線の傾きの絶対値は、0.0006mrad/mm以上0.006mrad/mm以下であることを要件とする。
【発明の効果】
【0010】
開示の技術によれば、一定でない楔角を持つ合わせガラスにおいて、従来よりHUD表示領域が大きくても反射二重像を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】二重像の概念について説明する図である。
図2】車両用のフロントガラスについて説明する図である。
図3図2に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。
図4図2に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た断面図である。
図5】HUD表示領域における楔角の乖離量を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。なお、ここでは、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されず、本実施の形態に係る合わせガラスは、車両用のフロントガラス以外にも適用可能である。
【0013】
[反射二重像、透視二重像]
まず、反射二重像と透視二重像の概念について説明する。図1は、二重像の概念について説明する図であり、図1(a)は反射二重像、図1(b)は透視二重像を示している。なお、図1において、フロントガラス20を搭載する車両の前後方向をX、車両の左右方向をY、XY平面に垂直な方向をZとしている(以降の図も同様)。
【0014】
図1(a)に示すように、HUDの光源10から出射された光線11aの一部は、車両のフロントガラス20の内面21で反射されて光線11b(1次ビーム)として運転者の眼30に導かれ、フロントガラス20前方に像11c(虚像)として運転者に視認される。
【0015】
又、HUDの光源10から出射された光線12aの一部は、車両のフロントガラス20の内面21から内部に侵入して屈折し、その一部が外面22で反射される。そして、更にその一部が内面21から車両のフロントガラス20の外部に出て屈折し、光線12b(2次ビーム)として運転者の眼30に導かれ、像12c(虚像)として運転者に視認される。
【0016】
このように、運転者に視認される2つの像11cと像12cが反射二重像である。又、光線11b(1次ビーム)と光線12b(2次ビーム)とがなす角度が反射二重像の角度αである。反射二重像の角度αはゼロに近いほど好ましい。本願においては、運転者から見て上向きに2次ビームが見える場合の反射二重像を正の値と定義する。
【0017】
又、図1(b)に示すように、光源40から出射された光線41aの一部は、車両のフロントガラス20の外面22から内部に侵入して屈折する。そして、その一部が内面21からフロントガラス20の外部に出て屈折し、光線41bとして運転者の眼30に導かれ、像41cとして運転者に視認される。
【0018】
又、光源40から出射された光線42aの一部は、車両のフロントガラス20の外面22から内部に侵入して屈折し、その一部が内面21で反射される。そして、更にその一部が外面22で反射され、更にその一部が内面21からフロントガラス20の外部に出て屈折し光線42bとして運転者の眼30に導かれ、像42cとして運転者に視認される。
【0019】
このように、運転者に視認される2つの像41cと像42cが透視二重像である。又、光線41b(1次ビーム)と光線42b(2次ビーム)とがなす角度が透視二重像の角度ηである。透視二重像の角度ηはゼロに近いほど好ましい。
【0020】
[フロントガラス(合わせガラス)]
図2は、車両用のフロントガラスを例示する図であり、フロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である。なお、図2において、便宜上、HUD表示領域を梨地模様(satin pattern)で示している。
【0021】
図2(a)に示すように、フロントガラス20は、HUDで使用するHUD表示領域Aと、HUDで使用しないHUD表示外領域B(透視領域)とを有している。HUD表示領域Aは、HUDを構成する鏡を回転させ、JIS R3212のV1点から見た際に、HUDを構成する鏡からの光がフロントガラス20に照射される範囲とする。
【0022】
HUD表示領域Aは、フロントガラス20の下方に位置しており、HUD表示外領域BはHUD表示領域Aに隣接してフロントガラス20のHUD表示領域Aの周囲に位置している。但し、HUD表示領域は、例えば、図2(b)に示すHUD表示領域AとHUD表示領域Aのように、Y方向の複数個所に分けて配置されてもよい。或いは、HUD表示領域は、HUD表示領域AとHUD表示領域Aの何れか一方のみであってもよい。或いは、HUD表示領域は、Z方向の複数個所に分けて配置されてもよい(図示せず)。なお、HUD表示領域A、A、Aは、本発明に係るヘッドアップディスプレイで使用する領域の代表的な一例である。尚、本願明細書においてHUD表示領域とは、運転中のドライバーの視点位置として想定される領域から、凹面鏡の任意の回転位置においてHUD像を見た場合に、HUD像が反射することのできるフロントガラス20上の領域、を指す。
【0023】
図3は、図2に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た部分断面図である。図3に示すように、フロントガラス20は、第1のガラス板であるガラス板210と、第2のガラス板であるガラス板220と、中間膜230とを備えた合わせガラスである。フロントガラス20において、ガラス板210とガラス板220とは、中間膜230を挟持した状態で固着されている。
【0024】
合わせガラスであるフロントガラス20において、ガラス板210及び220は、製造時の延伸により生じる筋目を有する。中間膜230は、ガラス板210とガラス板220との間に位置し、ガラス板210の筋目とガラス板220の筋目が例えば直交するようにガラス板210とガラス板220とを接着する膜である。
【0025】
車両の内側となるガラス板210の一方の面であるフロントガラス20の内面21と、車両の外側となるガラス板220の一方の面であるフロントガラス20の外面22とは、平面であっても湾曲面であって構わない。
【0026】
HUD表示領域Aは、フロントガラス20を車両に取り付けたときに、フロントガラス20の下端側から上端側に至るに従って厚さが変化する断面視楔状に形成されており、楔角がδである。フロントガラス20の断面形状が楔状の領域の少なくとも一部の範囲では、垂直方向の位置により楔角の値が異なる。つまり、フロントガラス20の断面形状が楔状の領域は、可変楔角を備えた領域を含んでいる。
【0027】
なお、上記の楔角δは、フロントガラス20を車両に取り付けたときの垂直方向に5mm毎に測定したフロントガラス20の板厚から、ある点の前後30mmの範囲に存在する13個のデータから最小二乗法で求めたフロントガラス20の板厚の平均変化率とする。又、上記の楔角の傾きは、同範囲において最小二乗法で求めた楔角の平均変化率とする。
【0028】
フロントガラス20において、各領域の楔角は、少なくとも中間膜230を楔膜とすることで形成されているが、これに加え、ガラス板210及び220の何れか一方又は双方を楔状に形成してもよい。
【0029】
ガラス板210、ガラス板220の一方又は双方を楔状に形成する場合には、フロート法によって製造する際の条件を工夫する。すなわち溶融金属上を進行するガラスリボンの幅方向の両端部に配置された複数のロールの周速度を調整することで、幅方向のガラス断面を凹形状や凸形状、或いはテーパー形状とし、任意の厚み変化を持つ箇所を切り出せばよい。
【0030】
ガラス板210及び220はそれぞれフロート法による製造時の延伸により、進行方向に対して並行に筋状の細かな凹凸が入る(筋目)。車両用のフロントガラスとして用いる際、この筋目を観察者の視線に対して水平方向に見ると、歪が発生し視認性が悪化する。
【0031】
ガラス板210及び220としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、有機ガラス等を用いることができる。フロントガラス20の外側に位置するガラス板220の板厚は、1.8mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板220の板厚が1.8mmより薄いと飛び石性能が落ち、3mmより厚いと重たくなり、成形し難い。
【0032】
フロントガラス20の内側に位置するガラス板210の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板210の板厚が0.3mmより薄いとハンドリングが難しくなり、2.3mmより厚いと楔膜である中間膜230の形状に追従できなくなる。ガラス板210の板厚は2.0mm以下であることがより好ましく、1.8mm以下であることが更に好ましく、1.6mm以下であることが特に好ましい。但し、ガラス板210及び220のそれぞれの板厚は必ずしも一定とする必要はなく、必要に応じて場所毎に板厚が変わってもよい。
【0033】
フロントガラス20は湾曲形状でなくても、湾曲形状であってもよいが、湾曲形状である場合、ガラス板210及び220として特に曲がりが深いガラスを2枚成形すると、2枚の形状差(ミスマッチ)が生じ、圧着後のガラス品質(例えば、残留応力)に大きく影響する。
【0034】
フロントガラス20に可変楔角を適用し、ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、ガラス品質(例えば、残留応力)を維持することができる。ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質(例えば、残留応力)の維持に特に有効である。
【0035】
フロントガラス20が湾曲形状である場合、ガラス板210及び220は、フロート法による成形の後、中間膜230による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
【0036】
図4は、図2に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た断面図である。図4に示すように、フロントガラス20が湾曲形状である場合において、フロントガラス20の凹面20Dの2組の対辺のうち長い方の対辺の中点どうしを結ぶ直線Laから、凹面20Dの最深部までの、直線Laに対し垂直な方向における距離を、フロントガラス20の最大曲げ深さDとする。
【0037】
フロントガラス20の最大曲げ深さDが10mm以上であれば、筋目を曲げ成形によって十分に引き延ばすことができ、視認性を十分に向上できる。最大曲げ深さDは、好ましくは12mm以上、より好ましくは15mm以上である。又、凹面20Dの曲げ半径は、6000mmよりも大きいことが好ましい。凹面20Dの曲げ半径が6000mmよりも大きいことによりHUD像が歪にくくなる。凹面20Dの曲げ半径は、7000mm以上がより好ましく、8000mm以上が更に好ましい。
【0038】
ガラス板210及び220のそれぞれの色は、可視光透過率(Tv)>70%を満たす範囲であれば特に限定されない。
【0039】
又、フロントガラス20の周辺部には所謂「黒セラ」と称される遮蔽層が存在すること好ましい。この遮蔽層は、黒セラ印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成される。この遮蔽層によって、フロントガラス20の周辺部に黒色不透明層が形成され、この黒色不透明層によって、フロントガラス20をその周辺で保持しているウレタン等の樹脂が紫外線により劣化することが抑制される。
【0040】
又、フロントガラス20の外側(ガラス板220の外面)や内側(ガラス板210の内面)に撥水機能、赤外線遮蔽機能、紫外線遮蔽機能、可視光反射率低減機能を有する被膜や、低放射特性を有する被膜を有していてもよい。
【0041】
図3の説明に戻り、ガラス板210とガラス板220とを接着する中間膜230としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れたものを得られることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0043】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜230を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。
【0044】
中間膜230の厚みは、最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。中間膜230の厚みが0.5mm未満であるとフロントガラスとして必要な耐貫通性が担保できない。又、中間膜230の厚みは、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜230の厚みが3mmよりも厚いと、重量が重くなり、取扱い性が悪くなる。
【0045】
中間膜230は、遮音機能、赤外線遮蔽機能、紫外線遮蔽機能、シェードバンド(可視光透過率を低下させる機能)等を有する領域を備えていてもよい。又、中間膜230は、3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜230を3層から構成し、真ん中の層の硬度を両側の層の硬度よりも低くすることにより、遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0046】
このように、中間膜230の層数が増えると、各々の層の厚みが変化し、例えば前述の透視二重像等の光学品質が更に悪化する場合がある。この場合、ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、中間膜230の楔膜に追従しやすくなるため、光学品質の悪化を抑制することができる。つまり、ガラス板210の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、中間膜230の層数が増えた場合に特に有効である。
【0047】
通常、HUDの光源は車室内下方に位置し、そこから合わせガラスに向かって投影される。投影像はガラス板210及び220の裏面と表面で反射されるため、二重像が発生しないように両反射像を重ね合わせるためには、ガラスの厚みは投影方向に対して平行に変化することが必要である。ガラス板210が筋目と直交する方向に厚さが変化している場合、情報が投影されるガラスとして用いられるためには、筋目方向が投影方向と直交、すなわち筋目が車室内観察者(運転者)の視線と水平方向となり、視認性が悪化する方向で使用しなければならない。
【0048】
視認性を改善するために、ガラス板210、ガラス板220、中間膜230を用いて作製された合わせガラスは、ガラス板210の筋目とガラス板220の筋目とが直交するように配置される。この配置によりガラス板210単独では悪化した歪が、筋目が直交するガラス板220、並びにガラス板210とガラス板220を接着する中間膜230の存在によって緩和され、視認性が改善される。
【0049】
なお、ガラス板210及び220が楔ガラスでない場合、ガラス板210及び220ともに、筋目が車室内観察者(運転者)の視線と垂直方向となり、視認性が悪化することはない。
【0050】
中間膜230を作製するには、例えば、中間膜230となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、フロントガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために伸展することで、中間膜230が完成する。
【0051】
合わせガラスを作製するには、ガラス板210とガラス板220との間に伸展後の中間膜230を挟んで積層体とし、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着する。
【0052】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
【0053】
なお、ガラス板210とガラス板220との間に、中間膜230の他に、電熱線、赤外線反射、発光、発電、調光、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。
【0054】
図5は、HUD表示領域における楔角の乖離量を例示する図である。図5において、横軸はHUD表示領域Aの下端から垂直方向(図2のZ方向)の距離、縦軸は楔角である。図5において、aはHUD表示領域Aの垂直方向の各位置における楔角測定値であり、bはHUD表示領域Aの楔角測定値aを1次関数で近似した1次近似線であり、最小二乗法を用いて得たものである。又、eは1次近似線bに対する楔角測定値aの最大乖離量である。なお、最大乖離量とは、HUD表示領域において、1次近似線bに対する楔角測定値aの乖離量のうち最大のものをいう。
【0055】
発明者らは、HUDの光学系において、垂直方向(Z方向)のFOV(Field Of View:視野角、以下単にFOVと表す場合もある)が2deg以上の場合と2deg未満の場合で、図5に示す最大乖離量eが反射二重像の値に与える影響が異なることを見出した。これについて、発明者らによるシミュレーション結果である表1を参照して説明する。
【0056】
【表1】
表1に示すように、最大乖離量eが0.25mradである場合、反射二重像の値はFOV<2degでは1.1minであるが、FOV≧2degでは2倍の2.2minとなる。又、最大乖離量eが0.2mradである場合、反射二重像の値はFOV<2degでは0.6minであるが、FOV≧2degでは2倍強の1.4minとなる。又、
最大乖離量eが0.15mradである場合、反射二重像の値はFOV<2degでは0.2minであるが、FOV≧2degでは3倍強の0.7minとなる。最大乖離量eは0.1mrad以下がより好ましく、0.05mrad以下が更に好ましい。
【0057】
このように、FOVの大小にかかわらず、最大乖離量eが大きいほど反射二重像の値が大きくなる。従って、最大乖離量eは小さい方が好ましい。又、同じ最大乖離量eで比べると、最大乖離量eが何れの値でも、FOV≧2degの場合の反射二重像の値は、FOV<2degの場合の反射二重像の値の2倍以上となる。すなわち、FOV≧2degの場合はFOV<2degの場合よりも最大乖離量eを抑制する必要がある。
【0058】
一般に、日本において自動車の普通免許で必要とされる最低視力0.7(ISO 8596:2009)の視力の人は、1.4minの反射二重像の変化があると、反射二重像に気付いてしまう。これを表1に当てはめると、FOV≧2degの場合には、最大乖離量eを0.2mrad以下にする必要があることがわかる。
【0059】
又、FOV≧2degの場合に最大乖離量eが0.15mrad以下であると、更に好適である。表1より、FOV≧2degの場合に最大乖離量eが0.15mradであると、反射二重像の値は0.7minとなるが、この値は視力1.0の人の分解能を下回るレベルとなり、視認者が反射二重像に気付くおそれを更に低減できるからである。尚、HUDの表示領域の拡大化の点では、FOVは2.5deg以上が好ましく、3deg以上が更に好ましく、4deg以上が特に好ましい。
【0060】
FOV≧2degの場合に、図5における最大乖離量eを0.2mrad以下、好ましくは0.15mrad以下にするためには、フロントガラス20の製造条件の管理が重要となる。
【0061】
例えば、フロントガラス20において、中間膜230を楔膜とし、ガラス板210及び220を楔状に形成しない場合には、中間膜230を押し出し成形する際の加熱温度の管理や押出速度の管理を適正に行えばよい。又、中間膜230の伸展時の加熱温度の管理や伸展速度の管理を適正に行えばよい。
【0062】
又、フロントガラス20において、中間膜230を楔膜とし、これに加え、ガラス板210及び220の何れか一方又は双方を楔状に形成する場合には、更にガラス板210及び220を作製する際のフロートでのラインスピードや温度管理を適正に行えばよい。又、溶融金属上を進行するガラスリボンの両端部に配置された複数のロールの周速度の調整を適正に行えばよい。
【0063】
なお、HUD表示領域の縦方向のFOV<2degの場合には、中間膜230の楔角を1.5mrad以下の範囲で可変させることが好ましいが、FOV≧2degの場合には、中間膜230の楔角を0.4mrad以下の範囲で可変させることが好ましい。HUD表示領域の縦方向のFOV≧2degの場合に、中間膜230の楔角が0.4mradより大きくなると、反射二重像が目立つようになるためである。中間膜230の楔角は0.35mrad以下がより好ましく、0.3mrad以下が更に好ましく、0.25mrad以下が特に好ましく、0.2mrad以下が特に好ましく、0.1mrad以下がとりわけ好ましい。中間膜230の楔角を0.4mrad以下の上述の範囲とする更なる効果として、HUD像の視野角が大きくなるに応じてHUD像の距離が5m、7m、10m、20mなどと伸びた場合でも反射二重像を抑制できる、ことが挙げられる。
【0064】
又、図5に示す楔角の1次近似線は、HUD表示領域の垂直方向の下端側から上端側に行くに従って楔角が小さくなる方向に傾斜すること、すなわち、1次近似線は負の傾斜であることが好ましい。1次近似線が負の傾斜であることにより、運転者の視点の上下に合わせてHUDの凹面鏡を回転させた場合にも、反射二重像を従来よりも抑制可能となる。
【0065】
そして、この際の好適な楔角プロファイルは、図5に示す楔角の1次近似線の傾きの絶対値を0.0006mrad/mm以上0.006mrad/mm以下とすることである。楔角の1次近似線の傾きの絶対値が0.0006mrad/mmより大きい場合は楔角を変化させ、反射二重像を抑制する効果が十分発揮され、0.006mrad/mmより小さい場合はガラスが形状変化に追従したときに、変化が急激過ぎず当該領域が歪とならない。楔角の1次近似線の傾きの絶対値は、0.005mrad/mm以下がより好ましく、0.004mrad/mm以下がさらに好ましく、0.003mrad/mm以下が特に好ましく、0.002mrad/mm以下がとりわけ好ましい。又、楔角の1次近似線の傾きの絶対値は0.001mrad/mm以上がより好ましい。又、垂直方向の視野角が2.5deg未満の場合は、楔角の1次近似線の傾きが負であることが好ましく、垂直方向の視野角が2.5deg以上の場合は、楔角の1次近似線の傾きが正であることが好ましい。
【0066】
又、1次近似線の傾きの絶対値を0.0006mrad/mm以上0.006mrad/mm以下とすることで、運転者の視点の上下に合わせてHUDの凹面鏡を回転させた場合にも、反射二重像を許容範囲である±1.4min以下に抑制できる。
【0067】
又、楔角の傾きの絶対値は、0.006mad/mm以下が好ましく、0.005mrad/mm以下がより好ましく、0.004mrad/mm以下が更に好ましく、0.003m/mm以下が特に好ましく、0.002mrad/mm以下がとりわけ好ましい。1次近似線の傾き、最大乖離量、及び楔角の傾きの絶対値が本発明の範囲にあることにより、HUD表示領域の歪が小さくなる。
【0068】
又、前記最大乖離量をe[mrad]、前記垂直方向の視野角をFOV[deg]と表すとき、eとFOVとが以下の式(1)の関係を満たすことが好ましい。HUD像の視野角が大きくなるほど反射二重像が目立ちやすくなるが、本関係を満たすことによりHUD像の視野角が大きい場合の反射二重像抑制効果が大きくなる。
【0069】
e≦-0.015×FOV+0.23・・・式(1)
又、本発明によれば、一定でない楔角を持つ合わせガラスにおいて、従来よりHUD表示領域が大きくても反射二重像を抑制できることに加えて、楔角を非線形近似ではなく1次近似により最適化しているため、実際の中間膜及び合わせガラスを安定的に製造しやすい。
【0070】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0071】
本国際出願は2017年5月23日に出願した日本国特許出願2017-102139号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2017-102139号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0072】
10、40 光源
11a、11b、12a、12b、41a、41b、42a、42b 光線
11c、12c、41c、42c 像
20 フロントガラス
20D 凹面
21 内面
22 外面
30 眼
210、220 ガラス板
230 中間膜
A、A、A HUD表示領域
B HUD表示外領域
δ 楔角
図1
図2
図3
図4
図5