(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/013 20120101AFI20240423BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240423BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B24B37/013
H01L21/304 622S
B24B49/12
(21)【出願番号】P 2020194067
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 夕貴
(72)【発明者】
【氏名】塩川 陽一
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-114327(JP,A)
【文献】特開平06-252113(JP,A)
【文献】特開2000-310512(JP,A)
【文献】特開2016-105486(JP,A)
【文献】特開2019-021748(JP,A)
【文献】特開2009-283578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0280827(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110940279(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00-37/34
H01L21/304;21/463
B24B41/00-51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースの研磨対象層を研磨するための研磨方法であって、
研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させ、
前記研磨パッドに前記ワークピースを押し付けて前記研磨対象層を研磨し、
前記ワークピースに光を照射し、
前記ワークピースからの反射光を受け、
前記反射光の強度を波長ごとに測定し、
前記強度と前記反射光の波長との関係を示す分光波形を生成し、
フィルタを用いて前記分光波形からノイズを除去し、
前記ノイズが除去された前記分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成し、
前記周波数スペクトルのピークに基づいて前記研磨対象層の厚さを決定し、
前記ノイズの除去によって消失した前記周波数スペクトルのピークに対応する前記研磨対象層の厚さを、前記ワークピースの研磨中に取得した前記研磨対象層の厚さの複数の値を用いた外挿によって補完する、研磨方法。
【請求項2】
前記フィルタは、前記ワークピースの研磨時間とともに移動しない前記周波数スペクトルのピークの周波数を持つノイズを前記分光波形から除去するように構成される、請求項
1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記ノイズは、前記研磨対象層の下地層から反射した光に起因するノイズである、請求項
1または
2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記フィルタは、バンドストップフィルタである、請求項
1乃至
3のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記ワークピースを研磨する前に、該ワークピースと同じパターンを有する別のワークピースを研磨し、
前記別のワークピースからの反射光の分光波形に含まれるノイズを除去するための前記フィルタを作成する工程をさらに含む、請求項
1乃至
4のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピースからの反射光の分光波形に含まれるノイズを除去するための前記フィルタを作成する工程をさらに含む、請求項
1乃至
4のいずれか一項に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、基板、パネルなどのワークピースを研磨する方法に関し、特にワークピースからの反射光のスペクトルに基づいて研磨対象層の厚さを決定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスには、SiO2などの絶縁膜を研磨する工程や、銅、タングステンなどの金属膜を研磨する工程などの様々な工程が含まれる。裏面照射型CMOSセンサの製造工程では、絶縁膜や金属膜の研磨工程の他にも、シリコン層(シリコンウェーハ)を研磨する工程が含まれる。
【0003】
ワークピースの露出面を構成する研磨対象層(絶縁膜、金属膜、シリコン層など)の研磨は、研磨対象層の厚さが所定の目標値に達したときに終了される。研磨中における研磨対象層の厚さを測定する方法の例として、ワークピースの表面に光を照射し、ワークピースから反射してくる光の分光波形に対してフーリエ変換を実行し、得られた周波数スペクトルのピークに基づいて厚さを決定する光学式監視方法がある(例えば特許文献1参照)。周波数スペクトルのピークは、研磨対象層の厚さに依存して変わる。したがって、ワークピースの研磨中に周波数スペクトルのピークを追跡することにより、研磨対象層の厚さを監視することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スラリー等の研磨環境や、研磨対象層の下に存在する下地層などに起因して、周波数スペクトルに疑似ピークが現れることがある。従来の光学式監視方法では、そのような疑似ピークを誤って追跡することがあり、結果として正確な厚さを決定できないことがあった。
【0006】
さらに、従来の光学式監視方法は、ノイズに起因する疑似ピークが、研磨対象層の厚さに対応する目標ピークに重なったときに、研磨対象層の厚さの決定に失敗することがあった。
【0007】
そこで本発明は、ノイズの影響を受けることなく、正確な研磨対象層の厚さを決定することができる研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一参考例では、ワークピースの研磨対象層を研磨するための研磨方法であって、研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させ、前記研磨パッドに前記ワークピースを押し付けて前記研磨対象層を研磨し、前記ワークピースに光を照射し、前記ワークピースからの反射光を受け、前記反射光の強度を波長ごとに測定し、前記強度と前記反射光の波長との関係を示す分光波形を生成し、前記分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成し、前記周波数スペクトルのピーク探索範囲を研磨時間に従って移動させ、前記ピーク探索範囲内にある前記周波数スペクトルのピークを決定し、前記決定されたピークに対応する前記研磨対象層の厚さを決定する、研磨方法が提供される。
【0009】
一参考例では、前記ピーク探索範囲は、前回決定された前記研磨対象層の厚さおよび前記ワークピースの研磨レートに基づいて算出した値を含む範囲である。
一参考例では、前記研磨レートは、予め設定された研磨レートである。
一参考例では、前記研磨レートは、前記ワークピースの研磨中に算出された研磨レートである。
【0010】
一態様では、ワークピースの研磨対象層を研磨するための研磨方法であって、研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させ、前記研磨パッドに前記ワークピースを押し付けて前記研磨対象層を研磨し、前記ワークピースに光を照射し、前記ワークピースからの反射光を受け、前記反射光の強度を波長ごとに測定し、前記強度と前記反射光の波長との関係を示す分光波形を生成し、フィルタを用いて前記分光波形からノイズを除去し、前記ノイズが除去された前記分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成し、前記周波数スペクトルのピークに基づいて前記研磨対象層の厚さを決定し、前記ノイズの除去によって消失した前記周波数スペクトルのピークに対応する前記研磨対象層の厚さを、前記ワークピースの研磨中に取得した前記研磨対象層の厚さの複数の値を用いた外挿によって補完する、研磨方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記フィルタは、前記ワークピースの研磨時間とともに移動しない前記周波数スペクトルのピークの周波数を持つノイズを前記分光波形から除去するように構成される。
一態様では、前記ノイズは、前記研磨対象層の下地層から反射した光に起因するノイズである。
一態様では、前記フィルタは、バンドストップフィルタである。
一態様では、前記研磨方法は、前記ワークピースを研磨する前に、該ワークピースと同じパターンを有する別のワークピースを研磨し、前記別のワークピースからの反射光の分光波形に含まれるノイズを除去するための前記フィルタを作成する工程をさらに含む。
一態様では、前記研磨方法は、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピースからの反射光の分光波形に含まれるノイズを除去するための前記フィルタを作成する工程をさらに含む。
【0012】
一参考例では、ワークピースの研磨対象層を研磨するための研磨装置であって、研磨パッドを支持する回転可能な研磨テーブルと、前記研磨テーブル上の前記研磨パッドに前記ワークピースを押し付ける研磨ヘッドと、前記研磨ヘッドに保持された前記ワークピースに光を照射し、かつ前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、前記反射光の強度を波長ごとに測定する分光器と、前記反射光の強度から前記研磨対象層の厚さを決定する研磨制御部を備え、前記研磨制御部は、前記強度と前記反射光の波長との関係を示す分光波形を生成し、前記分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成し、前記周波数スペクトルのピーク探索範囲を研磨時間に従って移動させ、前記ピーク探索範囲内にある前記周波数スペクトルのピークを決定し、前記決定されたピークに対応する前記研磨対象層の厚さを決定するように構成される、研磨装置が提供される。
【0013】
一参考例では、ワークピースの研磨対象層を研磨するための研磨装置であって、研磨パッドを支持する回転可能な研磨テーブルと、前記研磨テーブル上の前記研磨パッドに前記ワークピースを押し付ける研磨ヘッドと、前記研磨ヘッドに保持された前記ワークピースに光を照射し、かつ前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、前記反射光の強度を波長ごとに測定する分光器と、前記反射光の強度から前記研磨対象層の厚さを決定する研磨制御部を備え、前記研磨制御部は、前記強度と前記反射光の波長との関係を示す分光波形を生成し、フィルタを用いて前記分光波形からノイズを除去し、前記ノイズが除去された前記分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成し、前記周波数スペクトルのピークに基づいて前記研磨対象層の厚さを決定し、前記ノイズの除去によって消失した前記周波数スペクトルのピークに対応する前記研磨対象層の厚さを、前記ワークピースの研磨中に取得した前記研磨対象層の厚さの複数の値を用いた外挿によって補完するように構成されている、研磨装置が提供される。
【0014】
一参考例では、テーブルモータに指令を発して、研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させるステップと、研磨ヘッドに指令を発して、前記研磨パッドにワークピースを押し付けて前記ワークピースの研磨対象層を研磨するステップと、光源に指令を発して、前記ワークピースに光を照射するステップと、前記ワークピースからの反射光の強度と前記反射光の波長との関係を示す分光波形を生成するステップと、前記分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成するステップと、前記周波数スペクトルのピーク探索範囲を研磨時間に従って移動させるステップと、前記ピーク探索範囲内にある前記周波数スペクトルのピークを決定するステップと、前記決定されたピークに対応する前記研磨対象層の厚さを決定するステップをコンピュータに実行させるための、プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【0015】
一参考例では、テーブルモータに指令を発して、研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させるステップと、研磨ヘッドに指令を発して、前記研磨パッドにワークピースを押し付けて前記ワークピースの研磨対象層を研磨するステップと、光源に指令を発して、前記ワークピースに光を照射するステップと、前記ワークピースからの反射光の強度と前記反射光の波長との関係を示す分光波形を生成するステップと、フィルタを用いて前記分光波形からノイズを除去するステップと、前記ノイズが除去された前記分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成するステップと、前記周波数スペクトルのピークに基づいて前記研磨対象層の厚さを決定するステップと、前記ノイズの除去によって消失した前記周波数スペクトルのピークに対応する前記研磨対象層の厚さを、前記ワークピースの研磨中に取得した前記研磨対象層の厚さの複数の値を用いた外挿によって補完するステップをコンピュータに実行させるための、プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、研磨方法は、周波数スペクトルのピークの探索範囲を研磨時間に従って移動させることにより、ノイズに起因する疑似ピークを追跡することなく、研磨対象層の正確な厚さを決定することができる。
さらに、研磨方法は、ワークピースからの反射光から生成された分光波形にフィルタを用いてノイズを除去することにより、研磨対象層の正確な厚さを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】光学式膜厚測定装置の原理を説明するための模式図である。
【
図3】ワークピースと研磨テーブルとの位置関係を示す平面図である。
【
図4】研磨制御部によって生成された分光波形の一例を示す図である。
【
図5】研磨制御部によって生成された周波数スペクトルの一例を示す図である。
【
図6】N回目の測定におけるピーク探索範囲を説明する図である。
【
図7】N+1回目の測定におけるピーク探索範囲を説明する図である。
【
図8】研磨時間に従ってピーク探索範囲を移動させる様子を説明する図である。
【
図9】ピーク探索範囲を移動させて研磨対象層の厚さを決定する工程の一例を説明するフローチャートである。
【
図10】フィルタ処理前の周波数スペクトルを示す図である。
【
図11】フィルタ処理後の周波数スペクトルを示す図である。
【
図12】消失したピークを外挿する様子を説明する図である。
【
図13】フィルタを用いてノイズを除去する工程の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、研磨対象層を有するワークピースWを研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル3を回転させるテーブルモータ6と、研磨パッド2上にスラリーなどの研磨液を供給するための研磨液供給ノズル5と、研磨装置の動作を制御するための研磨制御部49を備えている。研磨パッド2の上面は、ワークピースWを研磨する研磨面2aを構成する。ワークピースWの例としては、ウェーハ、基板、パネルなどが挙げられる。
【0019】
研磨ヘッド1はヘッドシャフト10に連結されており、ヘッドシャフト10は図示しない研磨ヘッドモータに連結されている。研磨ヘッドモータは、研磨ヘッド1をヘッドシャフト10とともに矢印で示す方向に回転させる。研磨テーブル3はテーブルモータ6に連結されており、テーブルモータ6は研磨テーブル3および研磨パッド2を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。研磨ヘッド1、研磨ヘッドモータ、およびテーブルモータ6は研磨制御部49に接続されている。
【0020】
ワークピースWは次のようにして研磨される。研磨テーブル3および研磨ヘッド1を
図1の矢印で示す方向に回転させながら、研磨液供給ノズル5から研磨液が研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でワークピースWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。ワークピースWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および研磨パッド2の機械的作用により研磨される。
【0021】
研磨装置は、ワークピースWの研磨対象層の厚さを測定する光学式膜厚測定装置40を備えている。光学式膜厚測定装置40は、光を発する光源44と、分光器47と、光源44および分光器47に連結された光学センサヘッド7を備えている。光源44および分光器47は研磨制御部49に接続されている。光学センサヘッド7、光源44、および分光器47は研磨テーブル3に取り付けられており、研磨テーブル3および研磨パッド2とともに一体に回転する。光学センサヘッド7の位置は、研磨テーブル3および研磨パッド2が一回転するたびに研磨パッド2上のワークピースWの表面を横切る位置である。
【0022】
光源44から発せられた光は、光学センサヘッド7に伝送され、光学センサヘッド7からワークピースWの表面に照射される。光はワークピースWで反射し、ワークピースWからの反射光は光学センサヘッド7によって受けられ、分光器47に送られる。分光器47は反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を測定する。反射光の強度測定データは、研磨制御部49に送られる。
【0023】
研磨制御部49は、反射光の強度測定データから反射光のスペクトルを生成するように構成されている。反射光のスペクトルは、反射光の波長と強度との関係を示す線グラフ(すなわち分光波形)として表される。反射光の強度は、反射率または相対反射率などの相対値として表わすこともできる。
【0024】
図2は、光学式膜厚測定装置40の原理を説明するための模式図であり、
図3は、ワークピースWと研磨テーブル3との位置関係を示す平面図である。
図2に示す例では、ワークピースWは、下地層と、その上に形成された研磨対象層とを有している。研磨対象層は、例えばシリコン層または絶縁膜である。
【0025】
光学センサヘッド7は、投光用光ファイバーケーブル31および受光用光ファイバーケーブル32の各先端から構成され、ワークピースWの表面に対向して配置されている。光学センサヘッド7は、研磨テーブル3が1回転するたびに光をワークピースWに照射し、かつワークピースWからの反射光を受ける。
【0026】
ワークピースWに照射された光は、媒質(
図2の例では水)と研磨対象層との界面、および研磨対象層と下地層との界面で反射し、これらの界面で反射した光の波が互いに干渉する。この光の波の干渉の仕方は、研磨対象層の厚さ(すなわち光路長)に応じて変化する。このため、ワークピースWからの反射光から生成されるスペクトルは、研磨対象層の厚さに従って変化する。研磨制御部49は、分光波形に対してフーリエ変換処理(または高速フーリエ変換処理)を行って周波数スペクトルを生成し、周波数スペクトルのピークに基づいて研磨対象層の厚さを決定する。研磨対象層がシリコン層であって、
図2に示すように媒質が水である場合は、光が水に吸収されることを防ぐために、波長1100nm以下の光を使用することが好ましい。
【0027】
ワークピースWの研磨中、研磨テーブル3が一回転するたびに、光学センサヘッド7はワークピースWを横切って移動する。光学センサヘッド7がワークピースWの下方にあるとき、光源44は光を発する。光は、投光用光ファイバーケーブル31を通じて伝送され、光学センサヘッド7からワークピースWの表面(被研磨面)に照射される。ワークピースWからの反射光は光学センサヘッド7で受光され、受光用光ファイバーケーブル32を通じて分光器47に送られる。分光器47は、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定し、反射光の強度測定データを研磨制御部49に送る。研磨制御部49は、波長ごとの光の強度を表わす反射光のスペクトル(すなわち分光波形)を強度測定データから生成する。
【0028】
図4は、研磨制御部49によって生成された分光波形の一例を示す図である。
図4において、横軸はワークピースWからの反射光の波長を表わし、縦軸は反射光の強度から導かれる相対反射率を表わす。相対反射率とは、反射光の強度を示す指標であり、光の強度と所定の基準強度との比である。各波長において光の強度(実測強度)を所定の基準強度で割ることにより、装置の光学系や光源固有の強度のばらつきなどの不要なノイズを実測強度から除去することができる。
【0029】
基準強度は、各波長について予め測定された光の強度であり、相対反射率は各波長において算出される。具体的には、各波長での光の強度(実測強度)を、対応する基準強度で割り算することにより相対反射率が求められる。基準強度は、例えば、光学センサヘッド7から照射された光の強度を直接測定するか、または光学センサヘッド7から鏡に光を照射し、鏡からの反射光の強度を測定することによって得られる。あるいは、基準強度は、膜が形成されていないシリコン基板(ベア基板)を研磨パッド2上で水の存在下で水研磨しているとき、または上記シリコン基板(ベア基板)が研磨パッド2上に置かれているときに、分光器47により測定されたシリコン基板からの反射光の強度としてもよい。
【0030】
実際の研磨では、実測強度からダークレベル(光を遮断した条件下で得られた背景強度)を引き算して補正実測強度を求め、さらに基準強度から上記ダークレベルを引き算して補正基準強度を求め、そして、補正実測強度を補正基準強度で割り算することにより、相対反射率が求められる。具体的には、相対反射率R(λ)は、次の式(1)を用いて求めることができる。
【数1】
ここで、λはワークピースWから反射した光の波長であり、E(λ)は波長λでの強度であり、B(λ)は波長λでの基準強度であり、D(λ)は光を遮断した条件下で測定された波長λでの背景強度(ダークレベル)である。
【0031】
研磨制御部49は、研磨テーブル3が一回転するたびに、光源44に指令を発して光を発生させる。光源44に光学的に接続された光学センサヘッド7は、ワークピースWの表面(被研磨面)に光を照射し、さらに光学センサヘッド7はワークピースWからの反射光を受ける。反射光は、光学センサヘッド7に光学的に接続された分光器47に送られる。分光器47は反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を測定する。反射光の強度測定データは、研磨制御部49に送られ、研磨制御部49は反射光の強度測定データから
図4に示すようなスペクトルを生成する。
図4に示す例では、反射光のスペクトルは、相対反射率と反射光の波長との関係を示す分光波形であるが、反射光のスペクトルは、反射光の強度自体と、反射光の波長との関係を示す分光波形であってもよい。
【0032】
研磨制御部49は、得られた分光波形に対してフーリエ変換処理(典型的には高速フーリエ変換処理)を行って分光波形を解析する。より具体的には、研磨制御部49は、分光波形に対してフーリエ変換処理(または高速フーリエ変換処理)を行って分光波形に含まれる周波数成分とその強さを抽出し、得られた周波数成分を所定の関係式を用いて研磨対象層の厚さに変換し、そして、研磨対象層の厚さと周波数成分の強度との関係を示す周波数スペクトルを生成する。上述した所定の関係式は、周波数成分を変数とした、研磨対象層の厚さを表す関数であり、実測結果、光学式膜厚測定シミュレーション、理論式などから求めることができる。
【0033】
図5は、研磨制御部49によって生成された周波数スペクトルを示す図である。
図5において、縦軸は、分光波形に含まれる周波数成分の強度を表し、横軸は、研磨対象層の厚さを表している。
図5から分かるように、周波数スペクトルは、厚さt1においてピークを有する。つまり、この周波数スペクトルは、研磨対象層の厚さがt1であることを示している。このようにして、周波数スペクトルのピークから、研磨対象層の厚さが決定される。
【0034】
研磨制御部49は、研磨対象層の厚さの決定を実行するためのプログラムが格納された記憶装置49aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置49bを備えている。研磨制御部49は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置49aは、RAMなどの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置49bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、研磨制御部49の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0035】
研磨制御部49は、決定された研磨対象層の厚さに基づいて研磨終点を決定し、研磨装置の動作を制御する。例えば、研磨制御部49は、決定された研磨対象層の厚さが目標値に達した時点である研磨終点を決定する。一実施形態では、研磨対象層の厚さと下地層の厚さを合わせた厚さを測定して研磨終点を決定してもよい。研磨対象層の厚さを決定するための研磨制御部と、ワークピースWの研磨動作を制御する制御部は、別個に構成されてもよい。
【0036】
図6は、N回目の測定におけるピーク探索範囲R1を説明する図である。
図6において、縦軸は、分光波形に含まれる周波数成分の強度を表し、横軸は、研磨対象層の厚さを表している。
図6に示す複数の周波数スペクトルのそれぞれは、ワークピースWの研磨中に、研磨テーブル3が一回転するたびに、研磨制御部49によって生成されたものである。ピークP1は、N回目の測定(研磨テーブル3がN回転目の時)で現れたピークであり、ピークP2は、N+1回目の測定(研磨テーブル3がN+1回転目の時)で現れたピークであり、ピークP3は、N+2回目の測定(研磨テーブル3がN+2回転目の時)で現れたピークであり、ピークP4は、N+3回目の測定(研磨テーブル3がN+3回転目の時)で現れたピークである。
図6では、周波数成分の強度が小さいピークは省略されている。符号Nは自然数であり、例えば1である。
【0037】
図6に示すように、ワークピースWの研磨の進捗に伴い、周波数スペクトルのピークは移動する。研磨テーブル3が一回転する間にも、ワークピースWの研磨対象層は研磨される。したがって、研磨テーブル3が一回転するたびに研磨対象層の厚さは小さくなる。ピークP1に対応する厚さt1、ピークP2に対応する厚さt2、ピークP3に対応する厚さt3、ピークP4に対応する厚さt4の関係は、t1>t2>t3>t4となる。
【0038】
研磨対象層の厚さは、研磨テーブル3が一回転するたびに、光学式膜厚測定装置40により周波数スペクトルのピークに基づいて決定される。しかしながら、ワークピースWの研磨中におけるノイズ(スラリー等の研磨環境に起因するもの、下地層に起因するもの等)による疑似ピークによって、研磨制御部49は、誤って研磨対象層の厚さを決定してしまうことがある。
図6において、疑似ピークPf1は、ワークピースWの研磨中に発生するノイズに起因するピークであり、N回目の測定で現れた疑似ピークである。この場合、N回目の測定において、ピークP1よりも強度が大きい疑似ピークPf1に対応する厚さtf1は、研磨対象層の厚さとして誤って決定されてしまう。
【0039】
そこで、研磨制御部49は、ピーク探索範囲R1内で周波数スペクトルのピークを探索するように構成されている。
図6に示す例では、研磨制御部49は、ピーク探索範囲R1内にあるピークP1を決定し、決定したピークP1に対応する厚さt1(すなわち正確な厚さ)を研磨対象層の厚さに決定する。このとき、疑似ピークPf1はピーク探索範囲R1内にないため、誤って疑似ピークPf1が決定されることはない。
【0040】
図6において、ピーク探索範囲R1は、N回目の測定におけるピーク探索範囲を表している。一実施形態では、研磨制御部49は、研磨対象層の初期厚さの値に基づいて、ピーク探索範囲R1を決定する。例えば、ピーク探索範囲R1は、ワークピースWの研磨対象層の初期厚さの値を含む範囲としてもよい。研磨対象層の初期厚さは、ワークピースWの研磨開始前の研磨対象層の厚さであり、スタンドアローン型膜厚測定装置(図示せず)によって予め測定されるか、またはワークピースWの基本情報として与えられる。
【0041】
図7は、N+1回目の測定におけるピーク探索範囲R2を説明する図である。
図7において、ピークP1~P4は、
図6を参照して説明したピークと同様である。疑似ピークPf2は、ワークピースWの研磨中に発生するノイズに起因するピークを表しており、N+1回目の測定時に現れた疑似ピークである。この疑似ピークPf2は、前回のN回目の測定におけるピーク探索範囲R1内にあるため、研磨制御部49は、疑似ピークPf2に対応する厚さtf2を研磨対象層の厚さとして誤って決定してしまう。
【0042】
そこで、本実施形態では、周波数スペクトルのピーク探索範囲を研磨時間に従って移動させるように構成されている。上述した通り、ワークピースWの研磨が進行するにつれて、研磨対象層の厚さが小さくなる、すなわち周波数スペクトルのピークは移動する。研磨制御部49は、研磨対象層の厚さの変化に追従するようにピーク探索範囲を移動させることで、疑似ピークが存在しても正確に研磨対象層の厚さを決定することができる。
【0043】
図7において、ピーク探索範囲R2は、N+1回目の測定におけるピーク探索範囲を表している。研磨制御部49は、研磨時間に従って変化する研磨対象層の厚さに追従するようにピーク探索範囲を移動させる。N+1回目の測定では、ピーク探索範囲を
図6のピーク探索範囲R1からピーク探索範囲R2に移動させている。例えば、ピーク探索範囲R2は、後述するように、前回決定された研磨対象層の厚さt1およびワークピースWの研磨レートに基づいて算出されてもよい。
【0044】
研磨制御部49は、ピーク探索範囲R2内にあるピークP2を決定し、決定したピークP2に対応する厚さt2(すなわち正確な厚さ)を研磨対象層の厚さに決定する。このとき、疑似ピークPf2はピーク探索範囲R2内にないため、誤って疑似ピークPf2が決定されることはない。同様に、N+2回目以降の測定においても、ピーク探索範囲を研磨時間に従って移動させることにより、研磨対象層の正確な厚さを決定することができる。
【0045】
図8は、研磨時間に従ってピーク探索範囲を移動させる様子を説明する図である。
図8において、ピークP1~P4、疑似ピークPf1,Pf2、およびピーク探索範囲R1,R2は、
図6、
図7で示した同一の符号に対応している。
図8のグラフは、研磨時間と各ピークに対応する厚さとの関係を表したものである。疑似ピークPf3は、N+2回目の測定時に現れた疑似ピークを表している。疑似ピークPf4は、N+3回目の測定時に現れた疑似ピークを表している。ピーク探索範囲R3は、N+2回目の測定時に移動させたピーク探索範囲を表している。ピーク探索範囲R4は、N+3回目の測定時に移動させたピーク探索範囲を表している。
【0046】
図8において、初期値t0は、ワークピースWの研磨前の研磨対象層の厚さを表している。初期値t0は、ワークピースWの研磨前に予め測定された研磨対象層の初期厚さ、またはユーザーにより与えられた値である。一実施形態では、N回目の測定時におけるピーク探索範囲R1は、初期値t0に基づいて設定される。具体的には、ピーク探索範囲R1は、次の式(2)を用いて定められる。
ピーク探索範囲R1=初期値t0±第1設定値X (2)
ここで、第1設定値Xは、ユーザーによって自由に設定することができる。
【0047】
一実施形態では、ピーク探索範囲R2は、前回決定された研磨対象層の厚さt1およびワークピースWの研磨レートPRに基づいて算出した値を含む範囲に設定される。具体的には、ピーク探索範囲R2は、次の式(3)を用いて設定される。
ピーク探索範囲R2=
(前回決定された厚さt1-(研磨レートPR×時間間隔dT))
±第2設定値Y (3)
ここで、研磨レートは、除去レートともいう。時間間隔dTは、研磨テーブル3が一回転するのに要する時間に相当する。通常、時間間隔dTはワークピースWの研磨中は一定である。研磨レートPRは、予め設定された研磨レートであってもよい。第2設定値Yは、ユーザーによって自由に設定することができる。第2設定値Yは、第1設定値Xよりも小さくてもよいし、あるいは同じであってもよい。
【0048】
ピーク探索範囲R3,R4は、ピーク探索範囲R2と同様に、式(3)を用いて算出される。このとき、式(3)において、研磨レートPRは、予め設定された研磨レートを用いてもよいし、ワークピースWの研磨中に算出された研磨レートを用いてもよい。研磨レートは、ワークピースWの研磨中に取得された研磨対象層の厚さの複数の値と、これら複数の値が取得されるのに要した研磨時間から算定することができる。
【0049】
図9は、ピーク探索範囲を移動させて研磨対象層の厚さを決定する工程の一例を説明するフローチャートである。
ステップS101では、テーブルモータ6は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3を回転させる。
ステップS102では、研磨ヘッド1は、ワークピースWを研磨パッド2の研磨面2aに押しつけてワークピースWの研磨を開始する。このとき、
図1を参照して説明したように、ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でワークピースWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。
【0050】
次に、ワークピースWの研磨中に、光学式膜厚測定装置40によって研磨対象層の厚さを測定する。
ステップS103では、光源44は光を発し、光を光学センサヘッド7からワークピースWの表面に照射する。
ステップS104では、光学センサヘッド7は、ワークピースWからの反射光を受ける。
ステップS105では、分光器47は、ワークピースWからの反射光の強度を波長毎に測定する。
ステップS106では、研磨制御部49は、反射光の強度測定データから分光波形を生成する。
ステップS107では、研磨制御部49は、分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成する。
【0051】
ステップS108では、研磨制御部49は、研磨時間に従ってピーク探索範囲を移動させる。ピーク探索範囲は、
図8を参照して説明した方法によりピーク探索範囲を算出して移動させる。
ステップS109では、研磨制御部49は、ピーク探索範囲内にある周波数スペクトルのピークを決定する。
ステップS110では、研磨制御部49は、決定したピークに対応する研磨対象層の厚さを決定する。
【0052】
研磨制御部49は、記憶装置49aに電気的に格納されたプログラムに含まれる命令に従って動作する。すなわち、研磨制御部49は、テーブルモータ6に指令を発して、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3を回転するステップ(ステップS101参照)と、研磨ヘッド1に指令を発して、ワークピースWの研磨を開始するステップ(ステップS102参照)と、光源44に指令を発して、ワークピースWに光を照射するステップ(ステップS103参照)と、ワークピースWからの反射光の強度測定データから分光波形を生成するステップ(ステップS106参照)と、分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成するステップ(ステップS107参照)と、ピーク探索範囲を研磨時間に従って移動するステップ(ステップS108参照)と、ピーク探索範囲内にある周波数スペクトルのピークを決定するステップ(ステップS109参照)と、決定したピークに対応する研磨対象層の厚さを決定するステップ(ステップS110参照)を実行する。
【0053】
これらステップを研磨制御部49に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して研磨制御部49に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介して研磨制御部49に入力されてもよい。
【0054】
次に、フィルタを用いてノイズを除去することにより、研磨対象層の厚さを正確に決定する実施形態について説明する。
図10は、フィルタ処理前の周波数スペクトルを示す図である。
図10において、縦軸は、分光波形に含まれる周波数成分の強度を表し、横軸は、研磨対象層の厚さを表している。
図10に示す複数の周波数スペクトルのそれぞれは、ワークピースWの研磨中に、研磨テーブル3が一回転するたびに、研磨制御部49によって生成されたものである。ピークP1は、N回目の測定(研磨テーブル3がN回転目の時)で現れたピークであり、ピークP2は、N+1回目の測定(研磨テーブル3がN+1回転目の時)で現れたピークであり、ピークP3は、N+2回目の測定(研磨テーブル3がN+2回転目の時)で現れたピークであり、ピークP4は、N+3回目の測定(研磨テーブル3がN+3回転目の時)で現れたピークである。
図10では、周波数成分の強度が小さいピークは省略されている。符号Nは自然数であり、例えば1である。
【0055】
研磨対象層の厚さは、研磨テーブル3が一回転するたびに、光学式膜厚測定装置40により周波数成分のピークに基づいて決定される。しかしながら、研磨対象層の下に存在する下地層に起因するノイズの影響により、正確に研磨対象層の厚さを決定できないことがある。
図10において、下層ピークPuは、研磨対象層の下地層からの反射光によるピークであり、研磨対象層の厚さの決定に不要なノイズである。ワークピースWの研磨中、下地層は研磨されないので、研磨対象層の研磨が進行しても、下層ピークPuの位置は変化しない。
図10に示す例では、下層ピークPuがピークP3と重複する位置に現れているため、研磨制御部49は、ピークP3に対応する研磨対象層の厚さを正しく決定することができない。
【0056】
そこで、本実施形態では、研磨制御部49は、フィルタを用いて下地層に起因するノイズを、ワークピースWからの反射光の分光波形から除去し、さらにノイズの除去により消失した周波数スペクトルのピークに対応する研磨対象層の厚さを外挿により補完することによって、研磨対象層の厚さを決定する。
【0057】
ノイズを反射光の分光波形から除去するためのフィルタは、以下のように予め作成される。ワークピースWを研磨する前に、ワークピースWと同じパターンを有する別のワークピースW’を研磨する。別のワークピースW’の研磨中に、光学式膜厚測定装置40によって研磨対象層の厚さを測定する。研磨制御部49は、別のワークピースW’からの反射光の分光波形から生成した周波数スペクトルに基づいて、ノイズである下層ピークを特定し、特定したノイズを除去するためのフィルタを作成する。具体的には、研磨制御部49は、別のワークピースW’の研磨時間とともに移動しない周波数スペクトルのピークを特定し、特定されたピークの周波数を持つ成分(ノイズ)を反射光の分光波形から除去するフィルタを作成する。このフィルタは、デジタルフィルタであり、一例としてバンドストップフィルタである。
【0058】
一実施形態では、ワークピースWと同じパターンを有する別のワークピースW’を用いることなく、研磨制御部49は、ワークピースWの研磨の初期段階において、ノイズである下層ピークを特定することによりフィルタを作成してもよい。具体的には、ワークピースWの研磨中に、研磨制御部49は、研磨時間とともに移動しない周波数スペクトルのピークを特定し、特定されたピークの周波数を持つ成分(ノイズ)を反射光の分光波形から除去するフィルタを作成する。
【0059】
図11は、フィルタ処理後の周波数スペクトルを示す図である。研磨制御部49は、ワークピースWからの反射光の分光波形に対して、予め作成されたフィルタを適用し、ノイズを除去する。
図11に示す複数の周波数スペクトルは、ノイズを除去した後の分光波形にフーリエ変換処理(または高速フーリエ変換処理)を行なって研磨制御部49によって生成された周波数スペクトルである。ノイズを反射光の分光波形から除去したことによって、下層ピークPuとともに、下層ピークPuと重複した位置にあるピークP3も消失している。したがって、研磨制御部49は、ピークP3に対応する研磨対象層の厚さを正確に決定することができない。
【0060】
そこで、研磨制御部49は、ピークP3に対応する研磨対象層の厚さを、外挿によって補完するように構成されている。
図12は、消失したピークP3を外挿する様子を説明する図である。
図12において、ピークP1~P4は、
図10、
図11で示した同一の符号に対応しており、
図12に示すグラフは、研磨時間と各ピークに対応する厚さとの関係を表したものである。
図11を参照して説明したように、ノイズである下層ピークPuを除去したことによって、ピークP3が消失した場合に、研磨制御部49は、ピークP1およびピークP2に対応する研磨対象層の厚さの値から、ピークP3の消失した部分に対応する研磨対象層の厚さを外挿によって補完する。
図10乃至
図12では、ピークP3が消失した場合について説明したが、これに限らない。ワークピースWの研磨中に研磨対象層の厚さの複数の値を取得していれば、取得した複数の値を用いて外挿により研磨対象層の厚さを補完することができる。
【0061】
上述した実施形態では、研磨時間とともに変化しないピーク(ノイズ)は、研磨対象層の下地層に起因するものであるが、本発明は本実施形態に限らない。例えば、研磨時間とともに変化しないピーク(ノイズ)は、光源44または分光器47などの装置に固有のノイズであることもある。
【0062】
図13は、フィルタを用いてノイズを除去する工程の一例を説明するフローチャートである。
ステップS201では、研磨装置は、研磨対象のワークピースWと同じパターンを有する別のワークピースW’を研磨する。
ステップS202では、研磨制御部49は、別のワークピースW’の研磨中に、光学式膜厚測定装置40によって研磨対象層の厚さを測定する。研磨制御部49は、別のワークピースW’からの反射光から得られた分光波形をフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する。ステップS201~S202の工程は、
図9のステップS101~S107の工程と同様である。
ステップS203では、研磨制御部49は、研磨時間とともに変化しない周波数スペクトルのピークを特定する。
ステップS204では、研磨制御部49は、特定したピークの周波数を持つノイズを別のワークピースW’からの反射光の分光波形から除去するフィルタを作成する。
【0063】
ステップS205では、研磨装置は、研磨対象のワークピースWの研磨を開始する。
ステップS206では、ワークピースWの研磨中に、光学式膜厚測定装置40によって研磨対象層の厚さを測定する。研磨制御部49は、上記ステップS204で作成されたフィルタを用いて、ワークピースWからの反射光の分光波形からノイズを除去する。ステップS205からS206の分光波形を生成するまでの工程は、
図9のステップS101~S106の工程と同様である。
ステップS207では、研磨制御部49は、ノイズを除去した分光波形にフーリエ変換処理を行い、周波数スペクトルを生成する。
ステップS208では、研磨制御部49は、周波数スペクトルのピークに基づいて研磨対象層の厚さを決定する。
ステップS209では、研磨制御部49は、ノイズの除去により消失した周波数スペクトルのピークに対応する研磨対象層の厚さを外挿により補完する。
【0064】
研磨制御部49は、記憶装置49aに電気的に格納されたプログラムに含まれる命令に従って動作する。すなわち、研磨制御部49は、テーブルモータ6に指令を発して、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3を回転するステップと、研磨ヘッド1に指令を発して、ワークピースWの研磨を開始するステップ(ステップS205参照)と、光源44に指令を発して、ワークピースWに光を照射するステップと、ワークピースWからの反射光の強度測定データから分光波形を生成するステップと、フィルタを用いて分光波形からノイズを除去するステップ(ステップS206参照)と、ノイズが除去された分光波形にフーリエ変換処理を行なって、周波数スペクトルを生成するステップ(ステップS207参照)と、周波数スペクトルのピークから研磨対象層の厚さを決定するステップ(ステップS208参照)と、ノイズの除去によって消失した周波数スペクトルのピークに対応する研磨対象層の厚さを、外挿によって補完するステップ(ステップS209参照)を実行する。
【0065】
これらステップを研磨制御部49に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して研磨制御部49に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介して研磨制御部49に入力されてもよい。
【0066】
図6乃至
図9で説明した実施形態と、
図10乃至
図13で説明した実施形態は、組み合わせて実施してもよい。すなわち、フィルタを用いて分光波形からノイズを除去し周波数スペクトルを生成するとともに、周波数スペクトルのピーク探索範囲を移動させて、研磨対象層の厚さを決定してもよい。
【0067】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0068】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 研磨テーブル
5 研磨液供給ノズル
6 テーブルモータ
7 光学センサヘッド
10 ヘッドシャフト
31 投光用光ファイバーケーブル
32 受光用光ファイバーケーブル
40 光学式膜厚測定装置
44 光源
47 分光器
49 研磨制御部
49a 記憶装置
49b 処理装置
P1,P2,P3,P4 ピーク
Pf1,Pf2,Pf3,Pf4 疑似ピーク
Pu 下層ピーク
R1,R2,R3,R4 ピーク探索範囲