(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】キャップ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
A61M5/32 500
(21)【出願番号】P 2021542265
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2019076169
(87)【国際公開番号】W WO2020069993
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-03
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ロビン・アインヴェヒター
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-538661(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02465389(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0354789(US,A1)
【文献】特表2018-517519(JP,A)
【文献】特表2016-526996(JP,A)
【文献】国際公開第2018/104204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射デバイス用のキャップであって:
外側部材と;
該外側部材の内部に摺動可能に受けられ、キャップの軸方向で第1の位置と第2の位置との間で可動である内側部材と;
第2の位置に移動された後、外側部材に対して内側部材を固定するように構成された、内側および外側部材にある協働するロッキング部分と、を含み;
内側部材は、アームを含み;
外側部材は、その内壁に接触面を含み;
キャップはさらに、アーム、または外側部材の接触面から内方向に延び、キャップの内部に配設されたときに本体と係合するのに適したクランプ要素を含み;
ここで、キャップは、内側部材が第2の位置に移動されるとき、アームが接触面に係合し、クランプ要素が内方向に移動して、キャップの内部に配設されるときに本体に係合し、協働するロッキング部分が係合して内側部材を第2の位置で保持するように構成される、
前記キャップ。
【請求項2】
クランプ要素は少なくとも1つのアームに設けられ、そこから内方向に延び、アームが接触面に係合するとき、アームを内方向に偏向させる、請求項1に記載のキャップ。
【請求項3】
クランプ要素は接触面に設けられ、そこから内方向に延び、アームが接触面に係合するとき、接触面を内方向に偏向させる、請求項1に記載のキャップ。
【請求項4】
外側部材の内壁は、接触面を形成するためのスロープを有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項5】
外側部材の内壁は、接触面を形成するための突起を含む、請求項1~
3のいずれかに記載のキャップ。
【請求項6】
第1の位置は、内側部材が外側部材から部分的に延びる伸長位置であり、第2の位置は
、内側部材が外側部材の内部にさらに受けられる後退位置である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項7】
第1の位置は、内側部材が外側部材の内部に少なくとも一部受けられる後退位置であり、第2の位置は、内側部材が外側部材からさらに延ばされる伸長位置である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項8】
接触面は、キャップの近位端に向かってテーパ化するように形作られる、請求項
1~5または7のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項9】
接触面は、キャップの遠位端に向かってテーパ化するように形作られる、請求項1~
6のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項10】
クランプ要素は、内側部材が第2の位置にあるときに、キャップの内側に位置する本体に部分的に切り込むように形作られる、請求項1~9のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項11】
クランプ要素は、内側部材が第2の位置にあるときに、キャップの内側に位置する本体と摩擦係合されるように適用される、請求項1~9のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項12】
内側部材が第2の位置にあるときに、キャップの内方向に対向する力を提供するように配置された2つ以上のアームを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項13】
注射デバイスであって:
ハウジングと、
一端に針を有するシリンジと、
請求項1~12のいずれか1項に記載のキャップの内部に配設されたニードルシールドと、を含み、
ここで、キャップが第2の位置にあるときに、キャップとニードルシールドとが同時に注射デバイスから取り外される、
前記注射デバイス。
【請求項14】
シリンジは薬剤を含む、請求項13に記載の注射デバイス。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のキャップを含む注射デバイスを組み立てる方法であって:
シリンジを注射デバイスに挿入する工程であって、シリンジは、針と、針を覆うニードルシールドとを有する、工程と、
キャップがニードルシールドを実質的に覆うように、キャップを注射デバイスに取り付ける工程と、
キャップの内側部材を外側部材に対して第1の位置から第2の位置に摺動させる工程であって、クランプ要素はニードルシールドを把持し、外側部材の取外しによりニードルシールドも取り外される、工程と、
キャップを第2の位置に保持するために、内側および外側部材にある協働するロッキング部分を係合する工程と、
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、しかし排他的にではなく、注射デバイス用のキャップ、および上記キャップを組み立てる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動注射器などの注射デバイスは、患者の注射部位に薬剤を投薬するための技術分野で知られている。そのような注射デバイスは、典型的には、本体およびキャップを含む。注射シリンジが本体内にあり、時としてニードルシールドで覆われている。キャップおよびニードルシールドは、ニードルシリンジのニードルを遮蔽するために本体に着脱可能に取り付けられる。薬剤を投薬するために、最初にキャップおよびニードルシールドを本体から取り外して、針を露出させる。次いで、注射部位で患者の身体に針が挿入されて、薬剤が投薬される。
【0003】
従来の注射デバイスでは、注射のためにデバイスを準備するために、使用者がキャップおよびニードルシールドを別々に取り外して針を露出させる必要がある。高齢者や身体障害者など身体の弱い患者は、ニードルシールドのサイズが小さく、取り扱いが難しいため、キャップを取り外すよりもニードルシールドを取り外すのが難しいことがあることを理解されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、改良されたキャップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、注射デバイス用のキャップであって、外側部材と;該外側部材の内部に摺動可能に受けられ、キャップの軸方向で第1の位置と第2の位置との間で可動である内側部材と;第2の位置に移動された後、外側部材に対して内側部材を固定するように構成された、内側および外側部材にある協働するロッキング部分と、を含み;該内側部材は、アームを含み;該外側部材は、その内壁に接触面を含み;該キャップはさらに、アーム、または外側部材の接触面から内方向に延び、キャップの内部に配設されたときに本体と係合するのに適したクランプ要素を含み;ここで、該キャップは、内側部材が第2の位置に移動されるとき、アームが接触面に係合し、クランプ要素が内方向に移動して、キャップの内部に配設されるときに本体に係合し、協働するロッキング部分が係合して内側部材を第2の位置で保持するように構成される、キャップが提供される。
【0006】
クランプ要素、接触面、およびアームは、キャップがニードルシールドを有する注射デバイスに取り付けられているとき、ニードルシールドとキャップとを一緒に取り外すことができるように構成され、これは、力が弱いまたは不器用な患者の助けとなることがあり、したがってハウジングからのニードルシールドの分離がより容易になることがある。さらに、キャップとニードルシールドとが1回の操作で一緒に取り外されるので、それらの取外しはより迅速かつ効率的になりうる。ロッキング部分は、内側部材を第2の位置に保持するように構成され、使用者が係合を作動させる必要なく、組立て中にニードルシールドとキャップとの係合を確立できるようにする。
【0007】
キャップがシリンジおよびニードルシールドを有する注射デバイスと共に使用される場合、キャップは、シリンジのフランジでシリンジガラスが破損するのを防止するように構成される。これは、フランジに加えられる保持力がいくつかの既存のニードルシールド取外しシステムに比べて低いからである。さらに、キャップは、クランプ要素がキャップ内部で本体またはニードルシールドと係合するときにシリンジの大きな動きがないように構成される。
【0008】
いくつかの実施形態では、クランプ要素はアームに設けられ、そこから内方向に延びることがあり、アームが接触面に係合するとき、アームを内方向に偏向させることができる。ただし、クランプ要素は接触面に設けられ、そこから内方向に延びることがあり、アームが接触面に係合するとき、接触面を内方向に偏向させることができることを理解されたい。
【0009】
内方向へのクランプ要素の動きと、弾性材料特性による接触アームの動きとにより、キャップが様々なサイズのボディまたはニードルシールドに係合することが可能でありうる。さらに、これは、ニードルシールドを有する注射デバイスにキャップを障害なく装着することを可能にするが、キャップとニードルシールドとの係合により、キャップをニードルシールドと共に取り外せるようにすることがある。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1の位置は、内側部材が外側部材から部分的に延びる伸長位置でよく、第2の位置は、内側部材が外側部材の内部にさらに受けられる後退位置でよい。
【0011】
第2の位置が後退位置となるように構成されるとき、キャップを含む注射デバイスは、キャップを含むデバイスの全長が短縮されるので、第2の位置に組み立てられた後、収容および輸送がより容易になることがありうる。組立てのために内側部材を外側部材にさらに押し込んでロッキング部分に係合させることもより容易になることがあり、または使用者によって作動される場合、一部の使用者、特に高齢者もしくは身体の弱い人、または不器用な人にとって、内側部材を外側部材にさらに押し込むのが容易になることがある。使用者は、内側部材をテーブルなどの平らな面に押し付けることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1の位置は、内側部材が外側部材の内部に少なくとも一部受けられる後退位置でよく、第2の位置は、内側部材が外側部材からさらに延ばされることがある伸長位置でよい。
【0013】
第2の位置が伸長位置になるように構成されるとき、内側部材を外側部材から引き離す作用がより容易になりうるので、組立てプロセスが簡単になることがある。使用者によっては、不器用な使用者は、内側部材を外側部材から引っ張るほうが簡単なことがある。内側部材は、タブまたはループをさらに含むことがあり、使用者がタブまたはループを指または別の弾性突起に引っ掛けて、外側部材をつかんで内側部材を第2の位置に引っ張る。
【0014】
いくつかの実施形態では、外側部材の内壁は、接触面を形成するためのスロープを有することがある;他の実施形態では、内壁は、接触面を形成するための内壁の突起または肥厚部を含むことがある。接触面は、キャップの近位端に向かってテーパ化するように形作られることがあるが、キャップの遠位端に向かってテーパ化されていてもよいことを理解されたい。
【0015】
接触面のテーパまたはスロープは、クランプ部分をキャップ内部で本体またはニードルシールドに向けて案内するように構成される。これにより、アームの弾性材料特性を活用できるようになることがあり、ジョイントやピボットなどの機械的連結を含む可動部品の必要性を減らすことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、クランプ要素は、内側部材が第2の位置にあるときに、キャップの内側に位置する本体またはニードルシールドに部分的に切り込む、または穿孔するように形作られる。本体またはニードルシールドの部分的な切り込みまたは穿孔は、キャップと本体またはニードルシールドとのより丈夫な係合を提供することができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、クランプ要素は、内側部材が第2の位置にあるときに、キャップの内側に位置する本体またはニードルシールドと摩擦係合されるように適用される。
【0018】
クランプ要素は、非金属材料を使用することができるように構成される。これによりキャップの総重量を低減することができ、また、部材を互いに一体にすることができ、たとえばアームとクランプ要素とを一体的に形成することができるので製造プロセスが簡略化される。さらに、クランプ要素は、キャップの内部に鋭利な構成要素が必要ないように構成される。
【0019】
一実施形態では、キャップは、内側部材が第2の位置にあるときに、キャップの内方向に対向する力を提供するように配置することができる2つ以上のアームを有することがある。
【0020】
偶数のクランプ要素、またはクランプ要素と不動支持体とがある場合、径方向の力の印加により、キャップ内での本体またはニードルシールドの変位がなくなりうる。
【0021】
いくつかの実施形態では、外側部材もしくは内側部材、またはそれら両方は、外側部材の内部で特定の向きで内側部材を配置するための案内手段をさらに含むことがある。たとえば、案内手段は、限定はしないが、トラック、溝、稜部、またはチャネルからなることがある。
【0022】
案内手段は、アームの1つを少なくとも部分的に受けるように構成され、これにより、キャップの全体の直径、したがってサイズを小さくすることができる。案内手段は、外側部材の内部で特定の向きに内側部材を位置するように構成される;これは、アームや接触面など特定の構成要素を位置合わせすることができるので、キャップの内部で必要なクランプ要素、アーム、および接触面の数を減らすことを意味することがある。第1の位置から第2の位置に移動する摺動運動も、案内手段の構成によって改良される。
【0023】
いくつかの実施形態では、ハウジングと、一端に針を有するシリンジと、ニードルシールドとを含む注射デバイスが存在する。ニードルシールドは、キャップの内部に配設され、キャップが第2の位置にあるときに、キャップとニードルシールドとが同時に注射デバイスから取り外される。シリンジは薬剤を含むこともある。注射デバイスは自動注射器でもよい。
【0024】
上述したキャップを含む注射デバイスを組み立てる方法は、シリンジを注射デバイスに挿入する工程であって、該シリンジは、針と、針を覆うニードルシールドとを有する、工程と、キャップがニードルシールドを実質的に覆うように、キャップを注射デバイスに取り付ける工程と、キャップの内側部材を外側部材に対して第1の位置から第2の位置に摺動させる工程であって、クランプ要素はニードルシールドを把持し、外側部材の取外しによりニードルシールドも取り外される、工程と、キャップを第2の位置に保持するために、内側および外側部材にある協働するロッキング部分を係合する工程と、を含むことを理解されたい。
【0025】
いくつかの実施形態では、内側部材は、内側部材に配置された少なくとも1つの不動支持体をさらに含むことがあり、デバイスが第2の位置にあるときにクランプ要素によって生成される力に対向する力を提供する。対向する力は、キャップの中心軸に向かうことがある。この不動支持体により、キャップ内の可動部品の数を減らし、製造プロセスを簡略化することができる。不動支持体は接触面を必要としないこともあり、したがってキャップを製造するのに必要な材料が少なくなる。
【0026】
これらおよび他の態様は、本明細書で以下に述べる実施形態から明らかであり、それらの実施形態を参照して述べる。
【0027】
次に、単に例として、添付図面を参照して実施形態を述べる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】自動注射器のハウジングにキャップが取り付けられた状態での、自動注射器の概略側面図である。
【
図1B】キャップがハウジングから取り外された状態での、
図1Aの自動注射器の概略側面図である。
【
図2】自動注射器のニードルシールドの拡大概略側断面図である。
【
図3】第1の実施形態によるキャップの拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【
図4】
図3の拡大概略側断面図であり、内側部材は第2の位置にある図である。
【
図5】第2の実施形態によるキャップの拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【
図6】
図5の拡大概略側断面図であり、内側部材は第2の位置にある図である。
【
図7】第3の実施形態によるキャップの拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【
図8】
図7の拡大概略側断面図であり、内側部材は第2の位置にある図である。
【
図9】第4の実施形態によるキャップの拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【
図10】
図9の拡大概略側断面図であり、内側部材は第2の位置にある図である。
【
図11】
図9の拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【
図12】第5の実施形態によるキャップの拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【
図13】第6の実施形態によるキャップの拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【
図14】第7の実施形態によるキャップの拡大概略側断面図であり、内側部材は第1の位置にある図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書で述べる薬物送達デバイスは、患者に薬剤を注射するために構成される。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内でありうる。そのようなデバイスは、患者または看護師や医師などの介護者が操作することができ、様々なタイプの安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器を含むことができる。デバイスは、使用前に封止されているアンプルへの穿孔を必要とするカートリッジベースのシステムを含むことができる。これらの様々なデバイスによって送達される薬剤の体積は、約0.5ml~約2mlの範囲でありうる。さらに別のデバイスは、大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含むことができ、ある期間(たとえば、約5、15、30、60、または120分間)にわたって患者の皮膚に付着して、「大きい」体積の薬剤(典型的には、約2ml~約10ml)を送達するように構成される。
【0030】
また、本明細書で述べるデバイスは、特定の薬剤と組み合わせて、所要の仕様の範囲内で動作するようにカスタマイズされる。たとえば、デバイスは、特定の期間内(たとえば、自動注射器の場合には約3~約20秒、LVDの場合には約10分~約60分)に薬剤を注射するようにカスタマイズされる。他の仕様としては、低レベルもしくは最小レベルの不快感、または人的要因、保存寿命、使用期限、生体適合性、環境への配慮などに関連する特定の条件を挙げることができる。そのような条件のばらつきは、たとえば約3cP~約50cPの粘度の範囲内の薬物など、様々な要因により生じる可能性がある。したがって、薬物送達デバイスは、サイズが約25~約31ゲージの範囲の中空針を含むことが多い。一般的なサイズは、27および29ゲージである。
【0031】
本明細書で述べる送達デバイスは、1つまたはそれ以上の自動機能を含むこともできる。たとえば、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの1つまたはそれ以上を自動化することができる。1つまたはそれ以上の自動化工程のためのエネルギーは、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって提供することができる。エネルギー源は、たとえば、機械的、空気圧的、化学的、または電気的エネルギーを含むことがある。たとえば、機械的エネルギー源としては、エネルギーを蓄積または解放するためのばね、てこ、エラストマー、または他の機械的機構を挙げることができる。1つまたはそれ以上のエネルギー源を単一のデバイスに組み合わせることができる。デバイスは、エネルギーをデバイスの1つまたはそれ以上の構成要素の動きに変換するためのギア、弁、または他の機構をさらに含むことができる。
【0032】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動機能は、それぞれ起動機構によって起動される。そのような起動機構としては、ボタン、レバー、ニードルスリーブ、または他の起動構成要素のうちの1つまたはそれ以上を挙げることができる。自動機能の起動は、単工程または多工程のプロセスでありうる。すなわち、ユーザは、自動機能を引き起こすために、1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動させる必要がありうる。たとえば、単工程プロセスでは、ユーザは、薬剤の注射を引き起こすために、自分の身体にニードルスリーブを押し当てることがある。他のデバイスは、自動機能の多工程起動を必要とすることがある。たとえば、ユーザは、注射を引き起こすために、ボタンを押し下げて、ニードルシールドを後退させる必要がある。
【0033】
さらに、1つの自動機能の起動が、1つまたはそれ以上の後続の自動機能を起動し、それにより起動シーケンスを形成することがある。たとえば、第1の自動機能の起動は、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの少なくとも2つを起動させることがある。また、いくつかのデバイスは、1つまたはそれ以上の自動機能を生じさせるために特定の工程シーケンスを必要とすることもある。他のデバイスは、一連の独立した工程で動作することがある。
【0034】
いくつかの送達デバイスは、安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器の1つまたはそれ以上の機能を含むことができる。たとえば、送達デバイスは、(自動注射器において通常見られるような)薬剤を自動的に注射するように構成された機械的エネルギー源と、(ペン型注射器において通常見られるような)用量設定機構とを含むことができる。
【0035】
本開示のいくつかの実施形態によれば、例示的な薬物送達デバイス10が
図1Aおよび
図1Bに示されている。デバイス10は、上述したように、薬剤を患者の体内に注射するために構成されている。デバイス10はハウジング11を含み、ハウジング11は、典型的には、注射予定の薬剤を含むリザーバ(たとえばシリンジ)と、送達プロセスの1つまたはそれ以上の工程を容易にするために必要とされる構成要素とを含む。デバイス10はまた、ハウジング11に着脱可能に取り付けることができるキャップアセンブリ12を含むことができる。典型的には、ユーザは、キャップ12をハウジング11から取り外さなければ、デバイス10を操作することができない。
【0036】
図示されるように、ハウジング11は実質的に円筒形であり、長手方向軸A-Aに沿って実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、遠位領域Dおよび近位領域Pを有する。「遠位」という用語は、注射部位に比較的近い位置を表し、「近位」という用語は、注射部位から比較的遠い位置を表す。
【0037】
デバイス10はまた、ハウジング11に連結されたニードルスリーブ19を含み、ハウジング11に対するスリーブ19の動きを可能にすることができる。たとえば、スリーブ19は、長手方向軸A-Aに平行な長手方向で移動することができる。具体的には、近位方向へのスリーブ19の動きは、針17がハウジング11の遠位領域Dから延びることを可能にすることができる。
【0038】
針17の挿入は、いくつかの機構によって行うことができる。たとえば、針17は、ハウジング11に対して固定的に位置し、最初は、延ばされたニードルスリーブ19内に位置する。スリーブ19の遠位端を患者の身体に配置し、ハウジング11を遠位方向に移動することによるスリーブ19の近位運動により、針17の遠位端が露出される。そのような相対運動は、針17の遠位端が患者の体内に延びることを可能にする。そのような挿入は、患者がスリーブ19に対してハウジング11を手で移動することによって針17が手動で挿入されるので、「手動」挿入と呼ばれる。
【0039】
別の挿入形態は「自動」であり、針17がハウジング11に対して移動する。そのような挿入は、スリーブ19の動きによって、またはたとえばボタン13など別の起動形態によってトリガすることができる。
図1Aおよび
図1Bに示されるように、ボタン13は、ハウジング11の近位端に位置する。しかし、他の実施形態では、ボタン13は、ハウジング11の側面に位置することもある。
【0040】
他の手動または自動機能は、薬物注射もしくは針後退、またはその両方を含むことができる。注射は、栓またはピストン14がシリンジ18内部の近位位置からシリンジ18内部のより遠位の位置に移動されて、シリンジ18から針17を通して薬剤を押し出すプロセスである。いくつかの実施形態では、駆動ばね(図示せず)は、デバイス10が起動される前に圧縮されている。駆動ばねの近位端は、ハウジング11の近位領域P内部に固定することができ、駆動ばねの遠位端は、ピストン14の近位面に圧縮力を加えるように構成することができる。起動後、駆動ばねに蓄積されたエネルギーの少なくとも一部を、ピストン14の近位面に加えることができる。この圧縮力は、ピストン14に作用して、ピストン14を遠位方向に移動することができる。そのような遠位運動は、シリンジ18内部の液体薬剤を圧縮するように作用し、液体薬剤を針17から押し出す。
【0041】
注射後、針17をスリーブ19またはハウジング11内部に後退させることができる。ユーザがデバイス10を患者の身体から取り外す際にスリーブ19が遠位方向に移動するとき、後退が生じることがある。これは、針17がハウジング11に対して固定的に位置するままであるときに生じることがある。スリーブ19の遠位端が針17の遠位端を越えて移動して針17が覆われた後、スリーブ19をロックすることができる。そのようなロッキングは、ハウジング11に対するスリーブ19の任意の近位運動をロックすることを含むことができる。
【0042】
針17がハウジング11に対して移動される場合、別の形態の針後退が生じることがある。そのような動きは、ハウジング11内部のシリンジ18がハウジング11に対して近位方向に移動される場合に生じることがある。この近位運動は、遠位領域Dに位置する収縮ばね(図示せず)を使用することによって実現することができる。圧縮された収縮ばねは、起動されるとき、シリンジ18に十分な力を供給して、シリンジ18を近位方向に移動することができる。十分な後退後、針17とハウジング11との任意の相対運動をロッキング機構でロックすることができる。さらに、ボタン13、またはデバイス10の他の構成要素を、必要に応じてロックすることができる。
【0043】
ここで
図2を参照すると、注射デバイス10は、ニードルシールド22をさらに含むことができる。ニードルシールド22は、不浸透性材料の本体24を含み、本体24の近位端に凹部25がある。凹部25は、針17が本体24によって遮蔽されるように、ニードルハブ18Aおよび針17を受けるように構成される。本体24の内面とニードルハブ18Aの外面とは摩擦係合して凹部25を封止し、凹部25への空気の進入を防止する。したがって、キャップ12がハウジング11に取り付けられているとき、針17は滅菌した状態で保たれる。
【0044】
キャップとニードルシールドとが同時に取り外されると有利でありうる。これにより、使用者がキャップおよびニードルシールドをより簡単に取り外せるようになる。
図3および
図4は、第1の実施形態によるキャップを示す。キャップ21は、キャップ12の代わりに、
図1A~
図2に示されるような注射デバイス10と共に使用することができる。ニードルシールド22は、キャップ21の内側に位置する。
【0045】
キャップ21は、外側部材26および内側部材27からなる。内側部材は、外側部材の内部に摺動可能に位置する。本出願に関連する「内部」という用語は、「実質的に内部」を意味することが意図され、内側部材の少なくとも一部が外部部材の内部にある。また、キャップは、第1および第2の位置を有し、第1の位置は、内側部材27が外側部材26から部分的に延びる伸長位置でよく、第2の位置は、内側部材27が外側部材26の内部にさらに受けられる後退位置でよい。
【0046】
外側部材は、内面28Aおよび端面28Bを有する外側部材壁28を含む。外側部材壁28は、その内面28Aで接触面29と一体的に形成されているが、接触面が一体的に形成されていなくてもよいことを理解されたい。接触面29は、外側部材26の近位端に向かって位置し、外側部材壁28Aの内面全体にわたって実質的に連続しており、注射器の近位端に向かってテーパ化されている。しかし、接触面は連続していなくてもよいことを理解されたい。
【0047】
内側部材27は、2本のアーム31および内側部材端部32を有する。アーム31は、内側部材が外側部材の内部に摺動可能に嵌まることができるように、外側部材壁28よりも小さいピッチ直径に位置決めされる。内側部材端部32は外側部材壁よりも大きい直径を有し、したがって、内側部材は外側部材壁の内部に完全には受けられないが、内側部材を外側部材の内部に完全に受けることができることも想定することができる。アーム31は、内側部材が第2の位置に移動されるときに接触面29と係合する成形端部33を有する。成形端部33は楔形でよいが、内側部材27が外側部材26に押し込まれるときに接触面29によってアームをニードルシールドの中心軸に向かって付勢させる任意の形状でよいことを理解されたい。
【0048】
いくつかの実施形態では、複数のアーム31がある場合、それらのアーム31は、接触面29に押し入れられるときに受ける偏向により、偏向可能なアームと呼ぶことができる。
【0049】
クランプ要素34は、アーム31の内側に位置し、内側部材が第2の位置にあるときにニードルシールド22と係合するように形作られる。クランプ要素34は、接触面29によって案内される成形端部33の動きによってニードルシールド内に付勢される。この強制的な誘導は、クランプ要素34とニードルシールド22との摩擦ロックを生み出すが、クランプ要素は、ロックを形成するためにニードルシールドを穿孔するまたはニードルシールドに切り込むように鋭利な先端として形作ることもできることを理解されたい。
【0050】
内側部材および外側部材は、内側部材を第2の位置にロックするための協働するロッキング部分30Aおよび30Bをそれぞれ含む。次いで、内側部材、ニードルシールド、および外側部材を1つの構成要素として取り外すことができる。
【0051】
注射デバイスの用キャップ21は、以下の工程を含む方法によって組み立てられる。内側部材27を外側部材に対して第1の位置から第2の位置に摺動させ、それにより、アーム31を接触面29に付勢してニードルシールドに向ける。また、クランプ要素は、キャップの中心軸に向けて押され、外側部材の取外しによりニードルシールドも取り外されるようにニードルシールドを把持する。キャップ21を第2の位置に保持するために、内側および外側部材の協働するロッキング部分30A、30Bを係合させる。
【0052】
図5および
図6を参照すると、第2の実施形態によるキャップ41が示されている。キャップ41は、
図3および
図4に関連して上述したキャップ21と同様の構成を有し、同様の構成には同じ参照番号が付されている。相違点は、クランプ要素34が、第1の実施形態におけるように内側部材にではなく、外側部材46の接触面49に位置することである。内側部材47は、接触面49と係合するように適用された1つの連続アーム42を有する。この実施形態では、接触面は、キャップの中心軸に向かって偏向され、内側部材が第1の位置から第2の位置に移動されるときに、クランプ要素をニードルシールド内に付勢する。
【0053】
図7および
図8を参照すると、第3の実施形態によるキャップ51が示されている。キャップ51は、
図3および
図4に関連して上述したキャップ21と同様の構成を有し、同様の構成には同じ参照番号が付されている。相違点は、成形端部33がクランプ要素54に置き換えられていることである。接触面29は、内側部材57が(第1の位置から第2の位置へ)外側部材56に押し込まれるとき、クランプ要素34をニードルシールド22に押し入れる。
【0054】
図9~
図11を参照すると、第4の実施形態によるキャップ61が示されている。第4の実施形態の自動注射器のキャップ61は、
図3および
図4に関連して上述したキャップ21と同様の構成を有し、同様の構成には同じ参照番号が付されている。相違点は、接触面29が外側部材の内面全体にわたって連続ではなく、少なくとも1つのテーパ化された突起69からなることである。アーム31およびクランプ要素34がそれぞれのテーパ化された突起と位置合わせされて接触面29を形成することを保証するために、外側部材66は、それぞれの内側部材壁を位置するために案内手段63を含む。第4の実施形態の外側部材66およびテーパ化された突起69は、第3の実施形態のクランプ要素54と共に使用することもできる。
【0055】
案内手段63は、限定はしないが、外側部材66の内部に内側部材67を配置するためのトラック、溝、隆起、またはチャネルからなることがある。
【0056】
図12を参照すると、第5の実施形態によるキャップ71が示されている。第5の実施形態のキャップ71は、
図3および
図4に関連して上述したキャップ21と同様の構成を有し、同様の構成には同じ参照番号が付されている。相違点は、内側部材が、内側部材77に配置された少なくとも1つの不動支持体74をさらに含み、デバイスが第2の位置にあるときにクランプ要素34によって生成される力に対向する力を提供することである。対向する力は、ニードルシールドの中心軸に向かうことがある。
【0057】
図13を参照すると、第6の実施形態によるキャップ81が示されている。第6の実施形態のキャップ61は、
図3および
図4に関連して上述したキャップ21と同様の構成を有し、同様の構成には同じ参照番号が付されている。相違点は、外側部材86が、接触面89を形成するための肥厚部または傾斜を有することである。接触面の肥厚部は、キャップの遠位端に向かってテーパ化されている。肥厚部は中空でよく、または外側部材の軸方向長さ全体にわたって連続でないこともあることを理解されたい。また、クランプ要素34とアーム31とは同じ材料で一体的に形成され、これは、前述した他の実施形態にも当てはまることがある。
【0058】
図14を参照すると、第7の実施形態によるキャップ91が示されている。第7の実施形態のキャップ91は、
図3および
図4に関連して上述したキャップ21と同様の構成を有し、同様の構成には同じ参照番号が付されている。相違点は、外側部材96が、第6の実施形態と同様に肥厚したまたは傾斜した壁を有して接触面99を形成するが、接触面はキャップの近位端に向かってテーパ化されることである。肥厚部は中空でよく、または外側部材の軸方向長さ全体にわたって連続でないこともあることを理解されたい。この実施形態では、第1の位置は、内側部材97が外側部材96の内部に少なくとも一部受けられる後退位置でよく、第2の位置は、内側部材が外側部材からさらに延ばされることがある伸長位置でよい。アーム92は、接触面99に係合し、接触面99を軸方向内側に移動し、内側部材が第1の位置から第2の位置に移動するときにクランプ要素34をニードルシールド22に付勢する。次いで、協働するロッキング部分30Aおよび30B(
図14には示されていない)が係合されて、内側部材97を外側部材96に固定し、クランプ要素を所定位置でニードルシールドと固定し、ここで、キャップの取外しによりニードルシールド22も取り外される。
【0059】
上述した実施形態はいずれも、第5の実施形態で上述したような不動支持体からなることがある。それらは、手動での作動のために、内側部材またはキャップに、改良された把持面を含むこともある。
【0060】
上述した実施形態のいずれも、ニードルシールドに対する径方向の力の印加を保証するために、対向して位置する2つのクランプ要素からなることがある。対向して位置する3つ以上のクランプ要素があることを想定することもできる。ニードルシールドに径方向の力を加えるために、周方向に等間隔に配置された3つ以上のクランプ要素があってもよい。
【0061】
上述した実施形態では、協働するロッキング部分30Aおよび30Bは、外側部材に位置するクリップ穴でよく、内側部材は、クリップフックを介してクリップ連結によって保持されるように適用される。しかし、代替実施形態(図示せず)では、クリップ穴が内側部材に位置し、キャップ外側部材が、クリップフックを介してクリップ連結によって保持されるように適用される。さらに、一連の相補的なクリップフックおよびクリップループが、互いに係合するように適用された外側部材および内側部材のそれぞれに位置し、第2の位置になった後に内側部材を保持する。クリップフックおよびクリップ穴コネクタの代わりに、代替の協働するロッキング部分を使用することもでき、限定しないが、たとえば接着剤、摩擦ロック、またはベルクロタイプのフックおよびループコネクタである。摩擦ロックの一例は、内側部材が外側部材に対して第2の位置に移動されるときに、内側および外側部材の構成がそれらを互いに摩擦係合させる場合である。摩擦係合は、内側部材が外側部材にロックされるようなものである。一実施形態では、クランプ要素は、ニードルシールドに十分な摩擦力を及ぼして、第2の位置になった後、内側部材と外側部材とが分離するのを防止するように適用される。クランプ要素の任意の表面、部材内壁、アームまたは接触面は、高摩擦材料から形成する、または高摩擦材料でコーティングすることができる。
【0062】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では同義的に用いられ、1つもしくはそれ以上の活性医薬成分またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、場合により薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬製剤を記述する。活性医薬成分(「API」)とは、最広義には、ヒトまたは動物に対して生物学的効果を有する化学構造体のことである。薬理学では、薬剤または医薬は、疾患の治療、治癒、予防、または診断に使用されるか、さもなければ身体的または精神的なウェルビーイングを向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限定された継続期間で、または慢性障害では定期的に使用可能である。
【0063】
以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つのAPIまたはその組合せを含みうる。APIの例としては、500Da以下の分子量を有する低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが挙げられうる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。1つまたはそれ以上の薬物の混合物も企図される。
【0064】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他の硬性もしくは可撓性のベッセルでありうる。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、投与される医薬製剤の2つ以上の成分(たとえば、APIと希釈剤、または2つの異なる薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジでありうるか、またはそれを含みうる。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0065】
本明細書に記載の薬物送達デバイスに含まれる薬物または薬剤は、多くの異なるタイプの医学的障害の治療および/または予防のために使用可能である。障害の例としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。障害のさらなる例は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。APIおよび薬物の例は、ローテリステ2014年(Rote Liste 2014)(たとえば、限定されるものではないがメイングループ12(抗糖尿病薬剤)または86(オンコロジー薬剤))やメルク・インデックス第15版(Merck Index,15th edition)などのハンドブックに記載されているものである。
【0066】
1型もしくは2型糖尿病または1型もしくは2型糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、はそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アナログ」および「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドに存在する少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失および/または交換によりおよび/または少なくとも1つのアミノ酸残基の付加により天然に存在するペプチドの構造たとえばヒトインスリンの構造から形式的に誘導可能な分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換アミノ酸残基は、コード可能アミノ酸残基または他の天然に存在する残基または純合成アミノ酸残基のどれかでありうる。インスリンアナログは、「インスリンレセプターリガンド」とも呼ばれる。特に、「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドの構造から形式的に誘導可能な分子構造、たとえば、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば脂肪酸)がアミノ酸の1つまたはそれ以上に結合したヒトインスリンの分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然に存在するペプチドに存在する1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失し、および/または非コード可能アミノ酸を含めて他のアミノ酸によって置き換えられ、または天然に存在するペプチドに非コード可能なものを含めてアミノ酸が付加される。
【0067】
インスリンアナログの例は、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28~B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0068】
インスリン誘導体の例は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン、Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、レベミル(Levemir)(登録商標));B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-オメガ-カルボキシペンタデカノイル-ガンマ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、トレシーバ(Tresiba)(登録商標));B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0069】
GLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストの例は、たとえば、リキシセナチド(リキスミア(Lyxumia)(登録商標))、エキセナチド(エキセンジン-4、バイエッタ(Byetta)(登録商標)、ビデュリオン(Bydureon)(登録商標)、ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(ビクトーザ(Victoza)(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(シンクリア(Syncria)(登録商標))、デュラグルチド(トルリシティ(Trulicity)(登録商標))、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0070】
オリゴヌクレオチドの例は、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセンナトリウム(キナムロ(Kynamro)(登録商標))である。
【0071】
DPP4阻害剤の例は、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0072】
ホルモンの例としては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0073】
多糖の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20(シンビスク(Synvisc)(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0074】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体でありうる。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体でありうる。抗体という用語は、4価二重特異的タンデムイムノグロブリン(TBTI)および/またはクロスオーバー結合領域配向を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗原結合分子も含む。
【0075】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含みうるが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、四重特異的および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、1価または多価抗体フラグメント、たとえば、2価、3価、4価および多価の抗体、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0076】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与しうるか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼしうる。
【0077】
抗体の例は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0078】
本明細書に記載のいずれのAPIの薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで薬物または薬剤に使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。
【0079】
当業者は、本明細書で述べるAPI、公式、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の変更(追加および/または除去)が、本開示の全範囲および精神から逸脱することなく行われ、本開示が、そのような変更形態およびそのすべての均等形態を含むことを理解されよう。