(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用正極活物質としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240423BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240423BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240423BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021577605
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2020068723
(87)【国際公開番号】W WO2021001500
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-02-08
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】テヒョン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】エルシェ・アグスティナ
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104347853(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103715424(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0104708(US,A1)
【文献】特開2015-069958(JP,A)
【文献】特開2018-106892(JP,A)
【文献】特開2006-073482(JP,A)
【文献】特開2001-006672(JP,A)
【文献】特開2008-166269(JP,A)
【文献】特開2009-146739(JP,A)
【文献】特開2002-015739(JP,A)
【文献】特開2019-021623(JP,A)
【文献】特表2018-506141(JP,A)
【文献】特表2018-508943(JP,A)
【文献】特表2018-510450(JP,A)
【文献】特表2022-504208(JP,A)
【文献】特表2017-506805(JP,A)
【文献】特表2019-509605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0179479(US,A1)
【文献】国際公開第2017/078136(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102832389(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106058188(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属系酸化物の粒子を含む、リチウムイオン電池用の正極活物質粉末であって、前記リチウム遷移金属系酸化物の粒子はコア及び表面層を含み、前記表面層は前記コアの上にあり、前記粒子はLi、金属M’、及び酸素を含み、前記金属M’は式M’=(Ni
zMn
yCo
x)
1-kA
kを有し、AはAl、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上のドーパントであり、0.50≦z≦0.89、0.05≦
y≦0.25、0.05≦x≦0.25、x+y+z+k=1、及びk≦0.01であり、
前記正極活物質粉末は、中央粒径D50が3μm~15μmの範囲内であり、表面層厚が5nm~200nmの範囲内であり、
前記表面層は前記正極活物質粉末の総重量に対して0.04重量%以上0.15重量%以下の含有量のアルミニウムを含み、
前記表面層はLiAlO
2相及びLiM”O
2相を含み、M”は、Al、Ni、Mn、及びCoを含み、前記LiAlO
2相は前記正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対して0.10原子%以上0.30原子%以下の含有量で前記表面層に存在し、前記LiM”O
2相は前記正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対して0.00原子%超0.14原子%未満の含有量で存在する、正極活物質粉末。
【請求項2】
前記コアはLi、金属M’、及び酸素を含み、M’は式M’=Ni
zMn
yCo
xA
kを有し、AはAl、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上のドーパントであり、0.60≦z≦0.86、0.05≦y≦0.25、0.05≦x≦0.25、x+y+z+k=1、及びk≦0.01である、請求項1に記載の正極活物質粉末。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属系酸化物の粒子は100以上のAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は、前記表面層に含有される元素Al、Ni、Mn、Co、及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、前記原子比A1はXPSスペクトル分析によって得られ、A2は、ICPによって得られる原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)である、請求項1に記載の正極活物質粉末。
【請求項4】
前記表面層は、73.0±0.2eV~74.5±0.2eVの範囲内の結合エネルギーでAl2pの最大ピーク強度を有し、前記最大ピーク強度はXPSスペクトル分析によって得られる、請求項1又は2に記載の正極活物質粉末。
【請求項5】
一般式Li
1+a’((Ni
z’Mn
y’Co
x’Al
v)
1-kA
k)
1-a’O
2を有し、AのみがAl、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上のドーパントであり、0.50≦z’≦0.89、0.05≦y’≦0.25、0.05≦x’≦0.25、x’+y’+z’+v+k=1、0.0014≦v≦0.0054、-0.05≦a’≦0.05、及びk≦0.01である、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項6】
0.25~0.90の範囲のスパンを有する多結晶形態を含む請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質粉末を製造する方法であって、
a)リチウム遷移金属系酸化物化合物を調製する工程と、
b)前記リチウム遷移金属系酸化物化合物をアルミニウムイオン源と混合することにより混合物を得る工程と、
c)前記正極活物質粉末を得るように、1時間~10時間の時間、前記混合物を炉内の酸化雰囲気中で350℃~500℃未満の温度で加熱する工程と、を順に含む方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質粉末を含む電池。
【請求項9】
電気自動車又はハイブリッド電気自動車における請求項8に記載の電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア、及びコア(の上部)に表面層を備えるリチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、電気自動車(EV)及びハイブリッド電気自動車(HEV)用途に好適なリチウムイオン二次電池(LIB)用のリチウムニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質粉末に関する。粒子は、元素:Li、金属M’、及び酸素を含み、金属M’は、式:M’=(NizMnyCox)1-kAkを有し、Aは、ドーパントであり、0.50≦z≦0.89、0.05≦y≦0.25、0.05≦x≦0.25、x+y+z+k=1、及びk≦0.01である。
【背景技術】
【0002】
正活物質は、正極において電気化学的に活性である材料として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる材料であると解釈されるものである。
【0003】
特に、本発明は、高ニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質(以降、「hN(M)C化合物」と称される)、すなわち、hN(M)C化合物に関し、Ni対M’の原子比は、少なくとも50.0原子%である。
【0004】
本発明のフレームワークにおいて、原子%(at%)は、原子百分率を意味する。所与の元素の濃度表現としての原子%又は「原子パーセント」は、特許請求される化合物中の全ての原子のうち何パーセントが当該元素の原子であるかを意味する。
【0005】
物質中の第1元素E(E
wt1)の重量パーセント(重量%)は、次の式:
【数1】
を適用することにより、当該物質中の当該第1元素E(E
at1)の所与の原子パーセント(原子%)から変換でき、E
at1とE
aw1の積(E
aw1は第1元素Eの原子量(又は分子量))を、物質中の他の元素のE
ati×E
awiの合計で除算する。nは、物質に含まれる異なる元素の数を表す整数である。
【0006】
EV及びHEVの開発に伴い、そのような用途に適したリチウムイオン電池の需要があり、hN(M)C化合物は、比較的安価なコスト(リチウムコバルト酸化物などの代替品に対して)、及びより高い容量のため、LIBの正極活物質として使用される確かな候補としてますます探求されている。
【0007】
hN(M)C化合物は上記の利点に有望であるが、また、50.0%よりも高いNi含有量に伴うサイクル安定性の低下などの欠点もある。
【0008】
したがって、現在、本発明のフレームワークにおいて、(H)EV用途に適したLIBにおいてそのようなhN(M)C化合物を使用するための前提条件である、少なくとも4.0Vの動作電圧で必要な低いフェーディングレートQF1C(すなわち、12%以下)を維持しながら、十分に高い第1の放電容量(すなわち、少なくとも175mAh/g)及びサイクル寿命(すなわち、LIBが約80%の保持容量に達するまで、25℃で少なくとも1900サイクル)を有するhN(M)C化合物を達成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/042654号
【文献】韓国登録特許第10-1547972号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chem. Mater. Vol.19, No.23, 5748-5757, 2007
【文献】J. Electrochem. Soc., 154 (12) A1088-1099, 2007
【文献】Chem. Mater. Vol.21, No.23, 5607-5616, 2009.
【文献】J.F. Moulder, Handbook of XPS, Perkin-Elmer, 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、25℃で少なくとも1900サイクルの改善されたサイクル寿命及び少なくとも175mAh/gの改善された第1の充電容量を有する正極活物質粉末を提供することであり、当該パラメータは、本発明の分析方法によって得られる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、正極活物質粉末の総重量に対して、0.04重量%以上0.15重量%以下の含有量のアルミニウムを有する表面層を含む、請求項1に記載の正極活物質粉末を提供することによって達成される。
【0013】
更に、当該表面層は、LiAlO2及びLiM”1-aAlaO2を含み、Alは、Ni、Mn、及びCoを含むM”を置換する。
【0014】
表面層において、LiAlO2相含有量は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下である。
【0015】
表面におけるLiM”1-aAlaO2相含有量は、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対して、0.00原子%超0.14原子%より少ない。
【0016】
本発明による正極活物質粉末は、中央粒径D50が3μm~15μmの範囲であり、表面層厚が5nm~200nmの範囲である。
【0017】
実際、25℃で80%の容量保持及び175mAh/gを超える改善された第1の放電容量を備えた、1900サイクルを超える改善されたサイクル寿命が、以下の特徴を有するEX1に従う正極活物質粉末で達成されることが観察された。
‐ 表面層におけるアルミニウム含有量は、粉末の総重量に対して、0.10重量%である、
‐ LiAlO2含有量は、粉末のM’の総原子含有量に対して、0.15原子%である、
‐ LiM”1-aAlaO2含有量は、粉末のM’の総原子含有量に対して、0.08原子%である。
【0018】
EX1粉末の粒子は、平均10nmの厚さを有する表面層を有し、それらのサイズ分布は、3.9μmのD50によって特徴付けられる。
【0019】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0020】
実施形態1
第1の実施形態では、本発明は、リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池に好適な正極活物質粉末に関し、当該粒子は、コア及び表面層を含み、当該表面層は、当該コアの上にあり、当該粒子は、元素:Li、金属M’、及び酸素を含み、金属M’は、式:M’=(NizMnyCox)1-kAkを有し、Aは、ドーパントであり、0.50≦z≦0.89、0.05≦y≦0.25、0.05≦x≦0.25、x+y+z+k=1、及びk≦0.01であり、当該正極活物質粉末は、3μm~15μmの範囲の中央粒径D50、及び1nm~200nmの範囲、好ましくは5nm~200nm以下の表面層厚を有し、
当該表面層は、正極活物質粉末の総重量に対して、0.04重量%以上0.15重量%以下の含有量のアルミニウムを含み、
当該表面層は、LiAlO2相及びLiM”O2相を含み、M”は、Al、Ni、Mn、及びCoを含み、当該LiAlO2相は、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下の含有量で当該表面層に存在し、当該LiM”O2相は、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対して、0.00原子%超0.14原子%未満の含有量で存在する。
【0021】
好ましくは、この第1の実施形態では、表面層は、5nm~15nm、より好ましくは5nm~50nm、最も好ましくは5nm~100nmの厚さを有する。
【0022】
厚さはまた、5nm~150nmの範囲に含まれ得る。
【0023】
好ましくは0.60≦z≦0.89である。
【0024】
より好ましくは0.70≦z≦0.89である。
【0025】
最も好ましくは0.60≦z≦0.86である。
【0026】
最優位に好ましくはz<89である。
【0027】
Aの供給源は、前駆体作製の共沈工程中にスラリーに供給され得る、又はその後、作製された前駆体とブレンドされ、続いて加熱され得る。例えば、Aの供給源は、これらの例に限定されるものではないが、硝酸塩、酸化物、硫酸塩、又は炭酸塩化合物であり得る。ドーパントは、概して、リチウム拡散を支持するため、又は電解質との副反応を抑制するためなど、正極活物質の性能を改善するために加えられる。ドーパントは、概して、コア内に均質に分散される。正極活物質中のドーパントは、誘導結合プラズマ(ICP)法及びTEM‐EDS(透過型電子顕微鏡‐エネルギー分散X線分光法)の組み合わせなどの分析方法の組み合わせによって特定される。
【0028】
実施形態2
第2の実施形態では、好ましくは第1の実施形態に従い、本発明による当該正極活物質粉末の粒子は、アルミニウムを含み、73.0±0.1eV~74.5±0.2eV、好ましくは73.6±0.2eV~74.0±0.2eVの結合エネルギーの範囲における最大Al2pピーク強度を含むXPSパターンを有し、当該強度は、XPSスペクトル分析によって得られる。
【0029】
73.6eV~74.0eVの範囲のAl2p最大ピークは、表面層における主要なAl形態がLiAlO2であることを示す。73.6eV~74.0eVの範囲でAl2pの最大ピークを有するhN(M)C化合物は、表8に示すように、バッテリーのより高い比容量(表5に示されている)とより良いサイクル寿命(表6に示されている)を示す。
【0030】
実施形態3
第3の実施形態では、好ましくは実施形態1又は2に従い、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、100以上のAl被覆率A1/A2を有し、A1は、表面層に含有される元素Al、Ni、Mn、Co、及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、当該原子比A1は、XPSスペクトル分析によって得られ、A2が、ICPによって得られる原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)である。
【0031】
A1は、以下の工程を含む以下の方法によって得られる:
1)リチウム遷移金属系酸化物粒子のXPSスペクトルを取得する工程、
2)それぞれ、LiM’’1-aAlaO2(Alピーク1;area_1)、LiAlO2(Alピーク2;area_2)、及びAl2O3(Alピーク3;area_3)化合物に帰属する3つのそれぞれの領域(area_1、area_2、area_3)を有する、3つの個々のピーク(Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3)を識別するように、当該XPSスペクトルをデコンボリューションする工程、
3)当該3つの個々のピークの領域(_1~_3)を合計することによって、総Al2pピーク面積値を計算する工程、及び
4)Al2pピーク面積の当該値を、原子比A1(原子%/原子%)=(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S))に変換する工程。
【0032】
工程4)は、以下の工程を含む以下の方法に従って得られる:
a)スマートバックグラウンド機能を備えたThermo Scientific Avantage softwareを使用して、Ni、Mn、Co、及びSの一次XPSピークをフィッティング、各元素のピーク面積を取得する工程、
b)Thermo Scientific Avantage software及びScofield相対感度ライブラリを使用して、工程4 a)で得られたNi、Mn、Co、及びSのピーク面積及び工程3)で得られたAlピーク面積を原子%に変換する工程、
c)Al原子%の値をNi、Mn、Co、Al、及びSの原子%の合計で割ることにより、当該Al2p原子%をA1に変換する工程。
【0033】
少なくとも100のAl表面被覆率A1/A2の値は、表面層におけるAlの均一な分布がコアの上に存在することを示す。表面層におけるAlの均一な分布を有するhN(M)C化合物は、表9に示すように、より高い比容量(表5に示されている)及びバッテリーのより良いサイクル寿命(表6に示されている)を示す。
【0034】
実施形態4
第4の実施形態では、好ましくは前述の実施形態のいずれか1つに従い、本発明によるhNMCカソード材料は、モノリシック形態を有する。
【0035】
モノリシック形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)のような適切な顕微鏡技術で観察される、単一粒子又は2つ若しくは3つの一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。粉末は、SEMによって提供される、少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm
2)、好ましくは:少なくとも100μm×100μm(すなわち、少なくとも10000μm
2)の視野内の粒子の80%以上がモノリシック形態を有する場合、モノリシック粉末と称される。多結晶形態は、3超の一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。モノリシック及び多結晶の形態を有する粒子のSEM画像の例をそれぞれ
図1.1及び
図1.2に示す。
【0036】
実施形態5
第5の実施形態では、好ましくは前述の実施形態のいずれか1つに従い、正極活物質粉末は、一般式:Li1+a’((Niz’Mny’Cox’Alv)1-kAk)1-a’O2を有し、Aのみが、ドーパントであり、0.50≦z’≦0.89、0.05≦y’≦0.25、0.05≦x’≦0.25、x’+y’+z’+v+k=1、0.0014≦v≦0.0054、-0.05≦a’≦0.05、及びk≦0.01である。
【0037】
好ましくは0.60≦z’≦0.89である。
【0038】
より好ましくは0.70≦z’≦0.89である。
【0039】
最も好ましくは0.60≦z’≦0.86である。
【0040】
最優位に好ましくはz’<89である。
【0041】
実施形態6
第6の実施形態では、好ましくは前述の実施形態のいずれか1つに従い、Aは、Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上である。
【0042】
実施形態7
第7の実施形態では、好ましくは前述の実施形態のいずれか1つに従い、表面層の厚さは、粒子の各々の断面の周辺に位置する第1の点と、当該第1の点と当該粒子の幾何学的中心(又は重心)との間に定義される線上に位置する第2の点との間の最短距離として定義され、結晶構造遷移は、第2の点位置でSTEMによって観察される。結晶構造遷移は、表面層における混合立方晶及びスピネル構造から粒子のコアにおける層状構造への遷移で構成され得る。
【0043】
上記実施形態1~7のいずれも、組み合わせ可能である。
【0044】
本発明は、電池における前述の実施形態1~7のいずれかに記載の正極活物質粉末の使用に関する。
【0045】
本発明はまた、前述の実施形態1~7のいずれかによる正極活物質粉末の製造方法を含み、その製造方法は、
‐ リチウム遷移金属系酸化物化合物を調製する工程と、
‐ 当該リチウム遷移金属系酸化物化合物をアルミニウムイオン源、好ましくはNaAlO2と混合し、それにより混合物を得る工程と、
‐ 本発明による正極活物質粉末を得るために、1時間~10時間の時間、混合物を炉内の酸化雰囲気中で350℃~500℃未満、好ましくは最大450℃の温度で加熱する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1.1は、モノリシック形態を有する粒子のSEM画像である。
図1.2は、多結晶形態を有する粒子のSEM画像である。
【
図2】フィッティングプロセス前のEX1のXPS Alピークデコンボリューション(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。
【
図3】フィッティングプロセス後のEX1のXPS Alピークデコンボリューション(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。
【
図4】4μmモノリシックNMCのDQ1対QF1Cグラフ(x軸:DQ1、y軸:QF1C)である。
【
図5】4.20V及び25℃でのEX1及びCEX1-Bのフルセルサイクル安定性の比較(x軸:サイクル数、y軸:容量保持)である。
【
図6】多結晶NMC(EX2及びCEX5)及び高Ni NMC(CEX6)のDQ1対QF1Cグラフ(x軸:DQ1、y軸:QF1C)である。
【
図7】EX1、CEX1、CEX3、及びCEX7のXPS Al2pピークの比較(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。
【
図8】表面層からコアへの方向への結晶構造遷移を示すEX1のTEMイメージングである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を記載する。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して説明されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。本発明は、以下の詳細な説明及び付随する図面の考察から明らかである多くの代替、修正、及び同等物を含む。
【0048】
実施例では、以下の分析方法を使用する。
【0049】
A.コインセル試験
A1.コインセルの調製
正極の調製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極活物質粉末、コンダクタ(Super P,Timcal)、及びバインダー(KF#9305,Kureha)を、重量比90:5:5の配合で含有するスラリーを、高速ホモジナイザーを使用して調製する。均質化したスラリーを、ギャップが230μmであるドクターブレードコータを用いて、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃において乾燥させて、次いで、カレンダー加工ツールを使用してプレスする。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極として使用したリチウム箔との間に配置する。EC:DMC(1:2)中1MのLiPF6は、電解質として使用され、セパレータと電極との間に滴下される。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0050】
A2.試験方法
各コインセルを、Toscat‐3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(TOYO製)を用いて、25℃でサイクルする。サンプルを評価するために使用したコインセル試験スケジュールを表2に詳述する。スケジュールは、160mA/gの1C電流定義を使用し、4.3V~3.0V/Li金属窓範囲における0.1Cでのレート性能の評価を含む。初期充電容量CQ1及び放電容量DQ1を、定電流モード(CC)で測定する。
【0051】
QF1Cは、100サイクルまで外挿される、次のように計算される容量フェードレートである。
【数2】
【0052】
【0053】
B.フルセル試験
B1.フルセル調製
650mAhの(フレキシブル)パウチ型セルを次のように作製する:正極活物質、コンダクタ(Super‐P,Timcal)、導電剤としてのグラファイト(KS‐6,Timcal)、及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF 1710,Kureha)を、分散媒としてのN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)に加え、それによって、正極活物質粉末、導電剤、及びバインダーの質量比が92/3/1/4となるようにした。その後、混合物を混練して混合スラリーを調製する。次いで、得られた混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔から作製された集電体の両面に適用する。適用領域の幅は、43mmであり、長さは、405mmである。正極活物質の典型的な充填重量は、約11.5±0.2mg/cm2である。次いで、電極を、乾燥させ、120kgf(1176.8N)の圧力を用いて電極密度3.4±0.05g/cm3になるまでカレンダー加工する。また、正極の端部には、カソード集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0054】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイトとカルボキシ‐メチル‐セルロース-ナトリウム(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)との質量比96/2/2の混合物を、厚さ10μmの銅箔の両面に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は、8±0.5mg/cm2である。
【0055】
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中に、1.0モル/Lの濃度にてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)塩を溶解させることにより、非水電解質を得る。1重量%のビニレンカーボネート(VC)、0.5重量%のリチウムビス(オキサラト)ホウ酸塩(LiBOB)、1重量%のLiPO2F2が添加剤として上記の電解質に導入される。
【0056】
螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極、負極、及びそれらの間に差し込まれた、厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgard(登録商標)2320,Celgard)から作製されたセパレータのシートを、巻線コアロッドで螺旋状に巻いた。次いで、アセンブリ及び電解質は、-50℃の露点を有する乾燥室内で、アルミニウム積層されたパウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次電池が作製される。二次電池の設計容量は、4.2Vに充電されると650mAhである。非水電解液を、室温で8時間浸透させる。電池を、その予想容量の15%まで予備充電し、室温で1日エージングする。次いで、バッテリーをガス抜きし、アルミニウムパウチを密封する。使用するための電池を、以下のように作製する:CCモード(定電流)において0.2C(1C=650mA)の電流を使用して4.2Vまで、次いでCVモード(定電圧)においてC/20のカットオフ電流に達するまで、充電し、その後CCモードにおいて0.5Cレートで放電して2.7Vのカットオフ電圧に下がるまで放電する。
【0057】
B2.フルセルサイクル寿命試験
下記条件下で25℃にて、作製したフルセルの充電池を充電し、数回放電して、それらの充電-放電サイクル性能を測定する。
‐ CCモードにて1Cレート下で4.2Vまで、次にCVモードにてC/20に到達するまで、充電を実施する。
‐ 次いで、セルを、10分間休止設定する。
‐ CCモードにて1Cレートで、2.7Vに下がるまで放電を行う。
‐ 次いで、セルを、10分間休止設定する。
‐ 充電-放電サイクルを、電池が約80%の保持容量に到達するまで続けて行う。100サイクル毎に、CCモードにおいて0.2のCレートで、2.7Vに下がるまで一回の放電を行う。
【0058】
C.誘導結合プラズマ(ICP)分析
正極活物質粉末の組成は、Agillent ICP720‐ESを使用する誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法によって測定する。三角フラスコ中で、1gの粉末サンプルを50mLの高純度塩酸に溶解させる。前駆体を完全に溶解させるまで、フラスコをウォッチガラスでカバーし、380℃で、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコの溶液を250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、メスフラスコに250mLの標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全に均質化させた。ピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために250mLメスフラスコに移し、メスフラスコに250mLの標線まで内部標準物質及び10%塩酸を充填した後、均質化させる。最後に、この溶液をICP測定に使用する。Alの、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総量に対する原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(原子%))は、A2と名づけられている。
【0059】
D.X線光電子分光(XPS)分析
D1.測定条件
本発明では、X線光電子分光法(XPS)を使用して、本発明によるカソード材料粒子の表面層に存在するAl系化合物又は相の各々の含有量(原子%単位)を特定及び決定する。
【0060】
このような特定には、以下を実行することが含まれる:i)XPSによって識別されたAl2pピークのフィッティング(セクションD2‐XPSピーク処理を参照)、続いてii)Al2pピークのフィッティングによって特定された各化合物の含有量を計算することによる定量的相分析(セクションD3‐Al系化合物の含有量を参照)。
【0061】
また、XPSは、本発明のフレームワークにおいて、本発明による粒子の表面層における当該Al分布の均質性の程度を示すAl表面被覆率値を測定するために使用される。
【0062】
D2.XPSピーク処理
XPS測定では、信号は、サンプル表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。表面層は、特定された相の均質な分布を有すると想定される。
【0063】
XPS生データの定量的相分析は、XPSピークのデコンボリューションと、デコンボリューションされたピークへの既存のAl系化合物の寄与の決定とにつながるXPS信号の処理に基づく。
【0064】
XPSピークデコンボリューションは、調査した正極活物質粒子の表面層におけるLiM”1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3を含む原子Al系化合物の異なる寄与を得るために実施される。Al2O3化合物は、表面上でLiと反応しないNaAlO2の加熱から形成される。
【0065】
本発明による正極活物質粉末について測定されたXPSピークは、本質的に、狭い範囲の結合エネルギー内に位置する複数のサブピークの組み合わせである。70eV~79eVの結合エネルギーの範囲で現れる(又は中心にある)最大強度を有するAl2pピークは、異なるAl含有化合物の異なるサブピークからの寄与で構成される。各サブピークの位置(最大強度の場所)は互いに異なる。
【0066】
本発明におけるXPSピークデコンボリューションプロセスを含むXPS信号処理は、以下に提供される工程に従う。
工程1)線形関数によるバックグラウンドの除去、
工程2)フィッティングモデルの方程式を決定、
工程3)フィッティングモデルの方程式の変数の制約を決定、
工程4)計算前に変数の初期値を決定、
工程5)計算を実施
【0067】
工程1)線形関数によるバックグラウンドの除去
本発明では、XPS信号処理が、65±0.5eV~85±0.5eVの範囲のAl2pナロースキャンのスペクトルを使用して実施され、スペクトルは、70eV~85eVの範囲の最大強度を有する(又は中心にある)Al2pピークを含み、Ni3pピークと重なり、これらのピークのそれぞれは、65eV~71eVの範囲で最大強度を有する(又は中心にある)。測定されたデータポイントのバックグラウンドは、65.0±0.5eV~81.5±0.5eVの範囲で線形にベースライン化される。
【0068】
工程2)フィッティングモデルの方程式を決定
Ni3pピークには4つのサブピークがあり、Al2pピークには3つのサブピークがあり、ピークは、65.0±0.5eV~81.5±0.5eVの範囲を中心とする。ピークには、Ni3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のラベルが付けられている。サテライトピークは、その一次ピークよりも数eV高い結合エネルギーで現れるわずかな付随するピークである。これは、XPS装置のアノード材料からのフィルタリングされていないX線源に関連付けられる。Alピーク1~3は、粒子表面層に存在する化合物に対応し、各々が、i)LiM”1-aAlaO2、ii)LiAlO2、及びiii)Al2O3相にそれぞれ関連する。
【0069】
以下の表1は、LiM”1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3相の最大ピーク強度場所範囲の基準を示す。Alピーク1の結合エネルギーの範囲は、構造中にドープされたAlの量によって異なる。
【0070】
【0071】
フィッティングモデルの方程式は、XPSピークフィッティングに一般的に使用されるガウス関数及びローレンツ関数の組み合わせである疑似フォークト方程式に従う。式は、以下のとおりである。
【数3】
y
o=オフセット、x
c=サブピークの中心場所、A’=サブピークの面積、w=サブピークの幅(半値全幅又はFWHM)、及びm
u=プロファイル形状係数。
【0072】
工程3)フィッティングモデルの方程式の変数の制約を決定
5つの変数(y0、xc、A’、w、mu)の制約を以下に説明する。
‐ y0(オフセット):
全ての7つのサブピークのy0は0である。
【0073】
‐ xc(サブピークの中心位置):
Ni3p1のXc≧66.0eV;
Ni3p1のXc≦Ni3p1サテライトのXc-0.7eV;
Ni3p1サテライトのXc≦Ni3p2のXc-0.7eV;
Ni3p2のXc≦72eV
Ni3p2のXc≦Ni3p2サテライトのXc-0.7eV;
72.3eV≦Alピーク1のXc≦73.3eV;
73.5eV≦Alピーク2のXc≦73.9eV;及び
73.9eV≦Alピーク3のXc≦74.3eV。
【0074】
Alピーク1~3のXcの範囲は、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3から決定される。
【0075】
‐ A’(サブピークの面積):
Ni3p1のA’×0.1≦Ni3p1サテライトのA’×1.2≦Ni3p1のA’;
Ni3p2のA’×0.1≦Ni3p2サテライトのA’;及び
全ての7つのサブピークのA’は1.0超である。
【0076】
‐ w(サブピークの幅):
1.2≦w≦1.8
【0077】
‐ Mu(プロファイル形状係数):
0.1≦mu≦0.9
【0078】
工程4)計算前に変数の初期値を決定
変数の初期値が次の手順によって取得されると、サブピークをフィッティングるための計算が再現可能になる。
1)y0、w、muの初期値は、それぞれ0、1.5、0.7に設定される。
2)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のxcの初期値は、それぞれ、67.0eV、68.0eV、69.0eV、70.0eV、73.0eV、73.7eV、及び74.3eVである。
3)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、及びNi3p2サテライトのA’の初期値は、次の手順で取得される。
3.a)Ni3p1のサブピークのA’は、Ni3pピークの最大ピーク強度に1.5の係数を掛けたものであり、ピークの形状は、底辺が3eVの三角形として推定される。
3.b)Ni3p2のサブピークのA’は、Ni3p1のA’の60%である。
3.c)Ni3p1サテライトのサブピークのA’は、Ni3p1のA’の80%である。
3.d)Ni3p2サテライトのサブピークのA’は、Ni3p2のA’の80%である。
4)サブピークAlピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のA’の初期値は、以下の手順で取得される。
【0079】
4.a)Al2pの3つのサブピークのA’値は、次の式に従って計算される。
A’=分画係数(FF)×推定面積×正規化係数(NF)
【0080】
分画係数(FF)は、xo~xnまでの範囲のAl2pの3つのサブピークのxcの関数であり、xo=72.8eV及びxn=74.6eVである。Alピーク1の強度は、xnからxoまで直線的に減少する。
【0081】
4.b)Alピーク3の強度は、x
nからx
oまで直線的に増加する。したがって、Alピーク1とAlピーク3との間に位置するAlピーク2の強度は、その中心73.7eVで最も高い強度を有する。各サブピークの分画係数(FF)は、次の式に従って計算される。
【数4】
【数5】
【数6】
【0082】
推定面積は、Al2pピークの最大ピーク強度*2.5であり、ピークの形状は、底辺が5eVである三角形として推定される。
【0083】
4.c)正規化係数(NF)が追加され、サブピークが合計されたときに計算されたピークの合計から重複面積が差し引かれる。ピーク面積(A’)の式の最初の2つの要素(分画係数及び推定面積)には、計算された強度を過度に高くするいくつかの重複領域が含まれているため、重要である。計算方法では、高さt及び底辺bを有する三角形の形状と見なすように、サブピークを簡略化している。最大強度の位置は、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のx
cであり、それぞれ、73.0V、73.7eV、及び74.3eVである。全てのサブピークは、底辺と同じサイズ及び形状を有すると想定され、3eVに設定される。各サブピークの正規化係数は、以下のように計算される。
【数7】
【数8】
【数9】
【0084】
表3に、EX1の変数の初期値の例を示す。
【0085】
【0086】
工程5)計算を実施
ピークデコンボリューションプロセスは、Microsoft Excel(登録商標)ソフトウェアバージョン1808に組み込まれたソルバーツールによって支援される。ソルバー計算の目的として、ターゲットセルの最小値が設定される。ターゲットセルは、測定された曲線と計算された曲線との差の2乗の合計を返す。測定された曲線と計算された曲線との相関係数が99.5%以上になると計算を終了する。数値が100%に近づくと、計算された曲線の形状が測定された曲線の形状と密接に一致していることを示す。それ以外の場合、目的の最小値に到達するまで、反復が続く。
【0087】
フィッティングプロセス前後のEX1のAl2pピークを、それぞれ、
図2(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)及び
図3(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)に示す。計算された変数の結果を表4に示す。
【0088】
【0089】
D3)識別されたAlサブピーク1~3に関連付けたAl系化合物の含有量
各AlサブピークのA’(面積)の比率は、各Alサブピークの面積を全ての3つのAlサブピークの総面積で割ることによって、表面層における対応するAl化合物間の相対原子比に直接変換される。次いで、LiM”1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3の量が、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して提供される。
【0090】
例えば、表4に基づくと、EX1の表面層におけるAlピーク1(LiM”1-aAlaO2):Alピーク2(LiAlO2):Alピーク3(Al2O3)の相対原子比は、23原子%:42原子%:35原子%である。アルミニウムの総含有量はEX1の表面層に含有されているものであり、ICP分析によって得られるため、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対するLiM’’1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3の量は、正極活物質粉末中のAl/M’の原子百分率(ICPで測定)及び各Alサブピークの相対原子比(XPSで測定)を乗算することによって得られる。例えば、EX1のLiAlO2の量は、0.36(原子%)(Al/M’)×42%(LiAlO2/(LiM’’1-aAlaO2+LiAlO2+Al2O3)=0.15原子%である。
【0091】
D4)XPSピーク積分及び被覆率
Al2pを除く他の元素の全ての一次ピークは、スマートバックグラウンド機能を備えたThermo Scientific Avantage softwareを使用してフィッティングられる。スマートバックグラウンドはシャーリータイプのベースラインであり、バックグラウンドの強度はデータポイントの強度よりも低くする必要があるという制約がある。Al2pピーク積分面積は、B2)XPSデコンボリューションプロセスにおけるAlピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3の合計面積として計算される。スコフィールド相対感度ライブラリは、積分されたピーク領域からの原子分率の計算に使用される。Alの、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総量に対する原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(原子%))は、A1と名づけられている。
【0092】
Al表面被覆率値は、XPSで測定された粒子(A1)の表面のAlの分率を、ICPで測定された粒子(A2)のAlの分率で割ったものとして計算される。
【0093】
Alによる正極活物質の表面被覆率は、次のように計算される。
【数10】
式中、M
*は、正極活物質粒子のNi、Mn、Co、Al、及びSの合計原子分率である。
【0094】
Alによる表面被覆率は、アルミニウムによる正極活物質粒子(positive active electrode active material)の被覆の程度を示す。Al表面被覆率値が高い場合、Al化合物は、均質な分布で表面を被覆する。
【0095】
E.走査透過型電子顕微鏡(STEM)
粒子内のAl分布を調べるために、粒子の断面TEMラメラをHelios Nanolab 450hp(FEI、米国、https://www.nanolabtechnologies.com/helios-nanolab-450-fei/)デュアルビーム走査型電子顕微鏡‐集束イオンビーム(SEM‐FIB)で準備した。Gaイオンビームは、30kVの電圧と30pA~7nAの電流で使用される。エッチングされたサンプルの寸法は5×8μm、厚さは100nmである。STEMイメージングは、加速電圧300kVのGRAND ARM 300F(JEOL、https://www.jeol.co.jp/en/products/detail/JEM-ARM300F.html)を使用してサンプルで実行される。分解能は0.063mmであり、検出器角度は8C(54~200mrad)である。
【0096】
F.PSD測定
粒径分布(PSD)は、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えるMalvern Mastersizer 3000を用いて測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D10、D50、及びD90は、累積体積%分布の10%、50%、及び90%における粒径として定義される。スパンは、スパン=(D90-D10)/D50として定義される。
【0097】
G.結果
本発明を以下の(非限定的な)実施例において更に説明する。
【0098】
比較例1
モノリシックNMC CEX1‐A及びCEX1‐Bは、以下のように実行されるコア調製(プロセスA)、粉砕プロセス(プロセスB)、及び乾燥(プロセスC)工程を通して得られる。
【0099】
プロセスA.コア調製:
この二重焼結プロセスは、Li供給源と混合遷移金属前駆体(以下MTHと称される)との間の固相反応である。
A1)共沈:M’=Ni0.625Mn0.175Co0.200である一般式M’(OH)2を有するMTHは、KR101547972(B1)(6ページ、番号25~7ページ、番号32)に記載のプロセスによって調製される。MTHは、約4μmのD50を有する。
A2)1回目のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、Li2CO3及び前駆体を、0.80のLi/M’比で、均質にブレンドする。
A3)1回目の焼結:1回目のブレンド工程からのブレンドを、895℃の炉内で9時間、空気雰囲気下で焼結する。焼結ブロックを砕く。この工程から得られた生成物は、Li/M’=0.80を有する粉末状リチウム欠乏焼結前駆体である。
A4)2回目のブレンド:Liの化学量論量をLi/M’=1.045に補正するため、リチウム欠乏焼結前駆体を、LiOH・H2Oとブレンドする。
A5)2回目の焼結:2回目のブレンドからのブレンドを、920℃の炉内で9時間、空気含有雰囲気中で焼結する。焼結ブロックを砕く。
【0100】
プロセスB.湿式粉砕:
B1)1回目の粉砕:A5からの砕いた大きな凝集化合物を粉砕して、凝集中間体NMCを調製する。
B2)2回目の粉砕ー湿式粉砕:B1からの得られた凝集中間体粒子をモノリシック一次粒子に分離するために、湿式ボールミル粉砕プロセスを適用する。50gの凝集中間体NMCを、50mLの脱イオン水及び1cmのZrO2ボールの入った250mLの容器に、容器の体積の50%の充填比で入れる。容器を市販のボールミル装置で15時間回転させ、計算粉砕速度は約20cm/秒である。
【0101】
プロセスC.濾過及び乾燥:
湿式粉砕された固体粉末を水から分離する。濾過した湿式粉砕された化合物を、乾燥空気を用いる従来のオーブンにおいて80℃で乾燥させる。4.2μmのD50及び1.00のスパンを有する乾燥モノリシック高Ni NMCは、CEX1‐Aとラベル付けされている。
【0102】
CEX1‐Bは、プロセスCの最終生成物に375℃で10時間の追加の熱処理が適用されることを除いて、CEX1‐Aの準備と同様の方法で得られる。
【0103】
任意に、ドーパント源を、工程A1)の共沈プロセス又は工程A2)若しくはA4)のブレンド工程で、リチウム源と一緒に加えることができる。例えば、ドーパントを加えて、正極活物質粉末生成物の電気化学的特性を改善することができる。
【0104】
CEX1‐A及びCEX1‐Bは、本発明によらない。
【0105】
実施例1
本発明によるモノリシックNMC EX1は、0.5原子%(Al対M’)のNaAlO2をプロセスB2中に加えること、及びプロセスCの最終生成物に375℃で10時間の追加の熱処理が適用されることを除いて、CEX1‐Aの準備と同様の方法で得られる。
【0106】
比較例2
モノリシックNMC CEX2‐Aは、追加の熱処理が適用されないことを除いて、EX1の調製と同様の方法で得られる。
【0107】
モノリシックNMC CEX2‐Bは、375℃の代わりに、750℃で10時間の追加の熱処理が適用されることを除いて、EX1の準備と同様の方法で得られる。
【0108】
CEX2‐A及びCEX2‐Bは、本発明によらない。
【0109】
比較例3
本発明によらないモノリシックNMC CEX3は、0.5原子%のNaAlO2の代わりに、2.0原子%(Al対M’)のNaAlO2をプロセスB2中に加えることを除いて、EX1の準備と同様の方法で得られる。
【0110】
比較例4
本発明によらないモノリシックNMC CEX4は、以下の手順で得られる。CEX1‐Aを、0.5原子%(Al対M’)のNaAlO2粉末と乾式混合する。混合物を375℃で10時間加熱する。
【0111】
【0112】
表5は、NaAlO
2の表面処理条件、及び
図3にもマッピングされている電気化学的特性をまとめたものである。EX1は、異なる表面処理条件による他の材料よりも優れていることが明らかに見られる。375℃で追加の熱処理を行う湿式処理法は、容量を増やすと同時にそのサイクル安定性を維持するのに効果的である。
【0113】
図5は、4.20V及び25℃でのEX1及びCEX1-Bのフルセルサイクル性能を示す。サイクル寿命は、放電容量が初期放電容量の80%未満に低下する前の充電-放電サイクル数として定義される。サイクル寿命の値を、一次方程式を通して外挿し、表6に示す。EX1が小さい勾配を有し、2197サイクル後に80%の容量に達することは明らかである。
【0114】
【0115】
比較例5
本発明によらない多結晶NMC CEX5は、以下の手順として特許文献1(8ページ27行目~9ページ7行目まで)で説明されているように、二重焼結プロセスによって得られる。
【0116】
A1)共沈:金属含有前駆体は、パイロットラインにおける沈殿によって得られる。そのプロセスは、より大規模(約100L)なCSTRを使用する。金属硫酸塩溶液(2モル/LのM’SO4(式中、M’=Ni0.625Mn0.175Co0.200)の供給流及び水酸化ナトリウム溶液(10モル/LのNaOH)の供給流を、反応器に供給する。更に、NH4OH溶液(15モル/L)のフローを錯化剤として加える。滞留時間(反応器容積を総流量で割ったもの)は3時間であり、温度は60℃に設定する。不純物のレベルを低く保つためには、N2の保護雰囲気が推奨される。捕集した沈降金属含有前駆体スラリーを濾過し、脱イオン水で洗浄し、次いで、N2雰囲気下、150℃で24時間乾燥させて、混合金属含有前駆体M’O0.43(OH)1.57(金属組成M’=Ni0.625Mn0.175Co0.200)を得る。
【0117】
A2)分別:A1プロセスの生成物を、分別技術によって異なる粒子径を有する3つの金属含有前駆体に分級する。このプロセスは、9000RPMで毎分5~8m3の空気流により分級器で行われる。装置に注入された50kgの粉末から、7.5kgの粗画分(総量の15%)を1回目の分別中に分級する。残りの42.5kgの粉末は2回目の分別で再分級されて、15kgの微細画分(総量の30%)及び27.5kgの粉末(総量の55%)のナロースパン金属含有前駆体が得られる。
【0118】
A3)1回目のブレンド:LiOH・H2O及びプロセスA2からのナロースパン前駆体を、0.85のLi/M’比で均質にブレンドする。
【0119】
A4)1回目の焼結:1回目のブレンドを、酸素雰囲気中、700℃で11.5時間焼結する。焼結したケークを、砕き、分級し、ふるい分けして、リチウム欠乏焼結前駆体である粉末にする。
【0120】
A5)2回目のブレンド:Liの化学量論量をLi/M’=1.01に補正するため、リチウム欠乏焼結前駆体を、LiOH・H2Oとブレンドする。
【0121】
A6)2回目の焼結:2回目のブレンドからのブレンドを、805℃で10時間、酸素雰囲気中で焼結する。2回目の焼結生成物を、磨砕し、ふるい分けして、凝集体の形成を防止する。
【0122】
A7)熱処理:2回目の焼結工程からの化合物は、酸素雰囲気中で、375℃で10時間加熱されて、D50が13.0μm及びスパンが0.79の正極活物質を得る。正極活物質は、CEX5とラベル付けされている。
【0123】
実施例2
本発明による多結晶NMC EX2は、以下の手順で得られる。
【0124】
1kgのCEX5、1Lの脱イオン水、及び0.25原子%のNaAlO2を5Lの容器に入れ、オーバーヘッド撹拌機で2時間撹拌する。湿潤粉末を水から分離する。分離された湿潤化合物を80℃で乾燥させる。乾燥した化合物を、酸素雰囲気中で、375℃で10時間加熱し、EX2と命名する。
【0125】
比較例6
この例は、超高NiモノリシックNMCを生成するための製造プロセス、及び各プロセス工程後の生成物の特徴を示し、中間体生成物を比較例とみなす。
【0126】
本発明によらない多結晶NMC CEX6は、プロセスAが以下に従うことを除いて、EX1の準備と同様の方法で得られる。
【0127】
A1)共沈:M’=Ni0.90Co0.10である一般組成式M’(OH)2を有するMTHは、特許文献2に記載のプロセスによって調製される。MTHは、4.4μmのD50を有する。
【0128】
A2)1回目のブレンド:Li‐OH及びMTHを、0.80のLi/M’比で、均質にブレンドする。
【0129】
A3)1回目の焼結:1回目のブレンド工程からのブレンドを、730℃で11.5時間、酸素雰囲気下で焼結する。この工程から得られた生成物は、Li/M’=0.80を有する粉末状リチウム欠乏焼結前駆体である。
【0130】
A4)2回目のブレンド:Liの化学量論量をLi/M’=1.01に補正するため、リチウム欠乏焼結前駆体を、LiOHとブレンドする。
【0131】
A5)2回目の焼結:2回目のブレンドからのブレンドを、830℃で、炉内で10時間、O2雰囲気中で焼結する。焼結ブロックを砕く。
【0132】
【0133】
表7は、表面処理条件、及び
図6にもマッピングされている電気化学的特性をまとめたものである。多結晶コアの表面処理であるEX2についても、375℃での熱処理による表面処理が有効であることが示される。しかしながら、超高Ni NMCコア(CEX6)の表面処理は有効ではない。
【0134】
比較例7
CEX7‐Aは、2.0原子%のNaAlO2をプロセスB中に加えることを除いて、CEX1‐Aの準備と同様の方法で得られる。
【0135】
CEX7‐Bは、2.0原子%のNaAlO2をプロセスB中に加えること、及び最終生成物に空気雰囲気中で、750℃で10時間の追加の熱処理が適用されることを除いて、CEX1‐Aの準備と同様の方法で得られる。
【0136】
CEX1‐A及び2原子%のAl2O3粉末は、乾式混合され、CEX7‐Cと命名する。
【0137】
CEX7‐Cを、空気雰囲気中で、375℃で10時間加熱し、CEX7‐Dと命名する。
【0138】
CEX7‐A、CEX7‐B、CEX7‐C、及びCEX7‐Dは、本発明によるものではない。
【0139】
表面層の化学組成を確認するために、Al2pピークを定性分析する。
図7は、XPS分析からのAl2pピークを示す。Al2pピークは、一次Alピークが約75~76eVの結合エネルギー領域に現れる。Al2pピークは、CEX1‐Aを除く全てのサンプルで検出される。ガイド用ラインは、ピーク場所シフトを視覚的に観察するための基準としての、CEX7‐AのAl2pピークの最大ピーク場所である。
【0140】
表8は、Al2pピークの最大ピーク場所及びピークデコンボリューション計算からのAl化合物の定量化をまとめたものである。CEX7‐A、CEX3、及びCEX7‐Bは、熱処理温度の効果を示す。Al2pピークの最大ピーク場所は、375℃での熱処理(CEX3)により、74.38eVから73.98eVまでより低い結合エネルギーにシフトすることが示されている。この結果により、NaAlO2が表面上のLiと反応して、LiAlO2相を形成していることを確認する。より低いNaAlO2含有量で調製されたEX1は、Al2pピークの最大ピーク場所が74.08eVであるCEX3と同じ傾向を示す。加熱温度を750℃に上昇させると、コアへのAlの拡散が起こり、LiM”1-aAlaO2相が形成される。これは、Al2pピークの最大ピーク場所がより低い結合エネルギー(CEX7‐B)にシフトすることによって証明される。一方、CEX7‐DのAl2pピークの最大ピーク場所は、CEX7‐Cと同じ場所の周囲に留まり、375℃での熱処理からAl2O3粉末による乾式表面処理まで、Alの化学的状態が変化しないことを示す。最終的に、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3によってそれぞれ表されるLiM”1-aAlaO2、LiAlO2、及びAl2O3の計算比率は、Al2pピークの最大ピーク場所とよく一致している。
【0141】
【0142】
Alのピーク定量化結果は、ICP結果とともに表9に示される。Al表面被覆率の値は、XPSで測定されたAl/M*とICPで測定されたAl/M*との比率として定義される。Alが粒子の表面を良好に被覆する場合、Al表面被覆率は高いことが予想される。表9に示した実施例及び比較例のリストの中で、EX1は、最も高いAl表面被覆率を有し、EX1の表面処理のプロセスが最も効果的であることを示す。同じ加熱温度で、0.5%のNaAlO2による表面処理は、CEX3の2.0%のNaAlO2による表面処理よりも高い被覆率を有する。これは、表5に示されるEX1のより高い電気化学的性能と直接関連している。CEX7‐Bにおけるより高い温度の処理は、Alがより高い温度でコアを通って拡散する可能性が高く、表面層に維持されるAlは少なくなるため、より低いAl表面被覆率の値を示す。また、CEX7‐BではLiM”1-aAlaO2相の比率が高くなることも前述した。同様に、熱処理なしのCEX7‐Aは、Al表面被覆率も低く、加熱温度の選択が重要であることを示す。
【0143】
従来のAl2O3粉末を使用した比較例を、CEX7‐C及びCEX7‐Dに、それぞれ、熱処理なし、及び375℃で熱処理して加える。乾式表面処理は、低い均質性制御を有し、その結果、Al表面被覆率の値も湿式プロセスより低い。
【0144】
【0145】
表面層の厚さ「t」(
図8を参照)は、粒子の表面層の周辺にある第1の点から結晶構造遷移が発生する第2の点までの最小直線距離である。結晶構造遷移は、表面層における混合立方晶及びスピネル構造から粒子のコアにおける層状構造への遷移から構成される。STEMから、EX1のtが10nmであると推定される。
【0146】
コアに存在するドーパントとしてアルミニウムを含有するhNMCの場合、つまり表面処理が適用される前に、本発明によるhNMCの表面処理を適用した後の正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Altotal)に対する表面層におけるアルミニウムの量(Alsurface)は、以下の手順により得られる。
【0147】
1)第1に、正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Al/M*
ICP)をICP分析によって得る。
【0148】
2)第2に、粒子の断面のラインプロファイルは、EDS及び/又はEELS(電子エネルギー損失分光法)などの技術によって測定される。
【0149】
3)第3に、表面層の厚さは、粒子の表面層の周辺にある第1の点から結晶構造遷移が発生する第2の点まで測定された最小直線距離Dである。
【0150】
4)第4に、Area1パラメータは、1次元ラインプロファイルの表面層の距離でAl/M
*を積分することによって得られ、Area2パラメータは、表面層の外縁から粒子の中心までの距離でAl/M
*を積分することによって得られる。粒子が球形で表面層が均一であると仮定し、Area1及びArea2を使用して、次式でAl
surface対Al
totalの原子比を計算する。
【数11】
【0151】
正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対する表面層におけるアルミニウムの量は、次式:Al/M*
ICP*Alsurface/Altotalに従って、Al/M*
ICP比にAlsurface/Altotal比を掛けることによって得られる。
【0152】
特に、Alは、以下のように定義された含有量で表面層に存在し、
【数12】
ここで、
【数13】
は、ICPによって測定された粉末中のM
*含有量に対するAl含有量の原子比であり、M
*は、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総原子含有量であり、
【数14】
式中、
‐ Al
surfaceは、EDSによって測定された表面層におけるAlの含有量(原子%単位)であり、
‐ Al
totalは、EDSによって測定された当該粉末の粒子中のAlの総含有量(原子%単位)であり、
‐ Area1は、Dにわたる断面TEM‐EDSによって測定されたAl/M
*含有量の積分であり、
【数15】
式中、
‐ Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのAlの原子含有量であり、
‐ M
*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
‐ xは、表面の厚さを定義する第1の点の位置と第2の点位置との間のTEMによって測定されたnmで表される距離であり、
‐ Area2は、距離C上の断面SEM‐EDSによって測定されたAl/M
*含有量の積分であり、
【数16】
式中、
‐ Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのAlの原子含有量であり、
‐ M
*(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
‐ xは、nmで表され、当該第1の点の位置(x=0nm)と当該粒子の幾何学的中心(x=C)との間をTEMによって測定され、Cは、好ましくは2.0μm~10.0μmの範囲である。
【0153】
比較例8
式Li1+a(Ni0.86Mn0.04Co0.10)1-aO2を有するNiとM’との原子比が86原子%の多結晶hNMC粉末を調製して、表面処理効果を次のように特定する:
1)共沈:CSTRにおいてニッケル‐マンガン‐コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを混合する共沈法により、金属組成M’=Ni0.86Mn0.04Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M’O0.16(OH)1.84が作製される。
【0154】
2)ブレンド:中間体生成物を得るために、工程1)で作製した、混合した遷移金属系前駆体と、リチウム源としてのLiOH・H2Oとを、工業用ブレンド装置中で1.02のLi/M’比で均質にブレンドする。
【0155】
3)焼結:ブレンドを、酸素雰囲気下、765℃で12時間焼結する。焼結後に、焼結した粉末を、非凝集型hNMC粉末を得るために分級及びふるい分けする。
【0156】
CEX8名付けた最終hNMC粉末は、式Li1.002M’0.998O2を有し、そのD50及びスパンは、それぞれ11.2μm及び0.53である。
【0157】
CEX8は、本発明によらない。
【0158】
実施例3
EX3は、次の手順によって調製される:1kgのCEX8を、11.68gのAl2(SO4)3・16H2Oを29.66mLの脱イオン水に溶解することにより調製されたアルミニウム及び硫酸イオン溶液とブレンドする。作製したブレンドを酸素雰囲気下で、375℃で8時間加熱する。加熱後に、粉末を砕き、分級し、ふるい分けして、CEX8を得る。したがって、hNMC化合物(EX3)は、EX3の総重量に対して約1000ppmのAlを含有する。
【0159】
EX3は、本発明による。
【0160】
EX3及びCEX8の電気化学的性能を、実施例1と同じ方法によって評価する。初期放電容量及び不可逆容量を表8に示す。
【0161】
【0162】
表8に示すように、NiとM’との原子比が0.86と高いhNMC化合物(EX3)は、CEX8と比較してより高いDQ1及びQF1Cの改善を示す。この観察結果は、NiとM’との原子比が0.86である組成物に表面処理を適用できることを示す。