(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】癌に関連する新規バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240424BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20240424BHJP
G01N 33/574 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/6886 Z
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2020165604
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「がん不均一性を個体レベルでモデル化したハイスループットスクリーニング系による肝がん分子標的薬効果予測バイオマーカー探索と耐性化機構の解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願、および令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、肝炎等克服実用化研究事業 肝炎等克服緊急対策研究事業「NASH及び非B非C型肝癌の病態解明と治療標的探索」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】小玉 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】明神 悠太
(72)【発明者】
【氏名】竹原 徹郎
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022469(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0236993(US,A1)
【文献】特表2018-517904(JP,A)
【文献】特開2019-200077(JP,A)
【文献】特開2009-067678(JP,A)
【文献】特表2017-507320(JP,A)
【文献】Mei Tian et al,Proteomic analysis identifies MMP-9,DJ-1 and AIBG as overexpressed protein in pancreayic juice from pancreatic ductal adenocarcinoma patients,BMC Cancer,2008年,vol.8, no.241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖性疾患を有する被験体におけ
るバイオマーカーの発現を、増殖性疾患の悪性度の指標とする方法であって、
前記被験体由来の試料における前記バイオマーカーの発現を測定する工程を含み、
前記バイオマーカーの発現量が基準値を超え
る場合に、前記被験体における増殖性疾患の悪性度が高い可能性が示され
、
前記バイオマーカーはST6GAL1を含み、
前記増殖性疾患は肝臓癌である、方法。
【請求項2】
前記増殖性疾患の悪性度が高いことが、FGF19が高発現であることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、血液試料を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオマーカーが、CTGF、CCL20、GDF15
、ORM1、およびSERPINI1からなる群から選択される
さらなるバイオマーカーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオマーカーの検出剤を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法において使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、癌などの増殖性疾患の悪性度の指標、FGF19/FGFR4経路標的薬の有効性の指標、FGF19の発現の指標などの用途に使用できる新規バイオマーカーに関する。本開示はまた、FGF19/FGFR4経路標的薬の新たな使用に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞増殖因子19(FGF19)は、ヒトにおいて発現されるホルモンタンパク質であり、胆汁酸生合成に関与することが知られるが、肝臓癌などの腫瘍と関連し得ることも示唆されている(非特許文献1)。FGF19は、線維芽細胞増殖因子受容体4(FGFR4)と結合し、FGF19/FGFR4シグナル伝達経路を介して機能を発揮する側面もある。FGF19およびFGFR4の生体内における機能は完全には解明されておらず、これらの機能解析のために直接的または間接的に使用することができる手段が求められている。
【0003】
FGF19/FGFR4経路を標的としたいくつかの薬剤が開発されている(非特許文献2)が、このような薬剤が有効な被験体および有効でない被験体が存在し得るため、適切な被験体を選択するための指標が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Cells 2019, 8(6), 536
【文献】Cancer Discov 2019; 9(12):1696-1707
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、癌などにおけるFGF19の発現の評価は、組織試料などを使用した直接的な測定によらなければ困難であり得ることを見出し、さらに、FGF19の発現と相関する新たなバイオマーカーを見出した。この新たな知見に基づき、本開示は、このバイオマーカーの、癌などの増殖性疾患の悪性度の指標、FGF19/FGFR4経路標的薬の有効性の指標、FGF19の発現の指標としての使用や、FGF19/FGFR4経路標的薬の使用を提供する。
【0006】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
増殖性疾患を有する被験体における群(A)のバイオマーカーおよび群(B)のバイオマーカーから選択されるバイオマーカーの発現を、増殖性疾患の悪性度の指標とする方法であって、
前記被験体由来の試料における前記バイオマーカーの発現を測定する工程を含み、
測定された群(A)のバイオマーカーから選択されるバイオマーカーの発現量が基準値を超えるか、または測定された群(B)のバイオマーカーから選択されるバイオマーカーの発現量が基準値を下回る場合に、前記被験体における増殖性疾患の悪性度が高い可能性が示される、
方法。
(項目2)
疾患を有する被験体における群(A)のバイオマーカーおよび群(B)のバイオマーカーから選択されるバイオマーカーの発現を、FGF19/FGFR4経路標的薬の有効性の指標とする方法であって、
前記被験体由来の試料における前記バイオマーカーの発現を測定する工程を含み、
測定された群(A)のバイオマーカーから選択されるバイオマーカーの発現量が基準値を超えるか、または測定された群(B)のバイオマーカーから選択されるバイオマーカーの発現量が基準値を下回る場合に、前記被験体が、前記FGF19/FGFR4経路標的薬に対する有効群であることが示される、
方法。
(項目3)
前記試料が、血液試料を含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目4)
前記バイオマーカーが、CTGF、CCL20、GDF15、ST6GAL1、ORM1、およびSERPINI1からなる群から選択される、上記項目のいずれかの方法。
(項目5)
前記バイオマーカーが、ST6GAL1である、上記項目のいずれかの方法。
(項目6)
前記疾患が癌である、上記項目のいずれかの方法。
(項目7)
前記癌が、肝臓癌、乳癌、膵癌または大腸癌を含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目8)
前記FGF19/FGFR4経路標的薬が抗癌剤である、上記項目のいずれかの方法。
(項目9)
前記FGF19/FGFR4経路標的薬が、レンバチニブ、フィソガチニブ、FGF401、H3B-6527およびBLU9931からなる群より選択される、上記項目のいずれかの方法。
(項目10)
前記FGF19/FGFR4経路標的薬が、レンバチニブを含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目11)
被験体由来の試料における群(A)のバイオマーカーおよび群(B)のバイオマーカーから選択されるバイオマーカーの発現を測定する工程を含む、前記被験体におけるFGF19の発現を試験する方法。
(項目12)
測定した前記バイオマーカーの発現に基づいて、FGF19を異常発現する疾患が示される、上記項目のいずれかの方法。
(項目13)
前記バイオマーカーが、CTGF、CCL20、GDF15、ST6GAL1、ORM1、およびSERPINI1からなる群から選択される、上記項目のいずれかの方法。
(項目14)
前記バイオマーカーが、ST6GAL1である、上記項目のいずれかの方法。
(項目15)
前記バイオマーカーの検出剤を含む、上記項目のいずれかの方法において使用するためのキット。
【0007】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、FGF19の発現と相関するバイオマーカーを提供する。このようなバイオマーカーを使用することで、患者に過度の負担をかけることなく癌などの状態(例えば、悪性度、薬剤感受性等)を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】細胞培養液中のアミノ酸を用いた安定同位体標識(SILAC)ベースの細胞プロテオミクスおよびセクレトミックの概略である。
【
図2】NC siRNAトランスフェクト細胞と比較してFGF19 siRNAトランスフェクト細胞で0.5倍を超えるダウンレギュレーションを示すタンパク質を選択し、Hep3B細胞とHuh7細胞との間で比較した。上清の60種のタンパク質およびセルライセートの37種のタンパク質がHep3B細胞およびHuh7細胞間で共通した。上清およびセルライセートの両方で同定された6種のタンパク質を記載する。
【
図3】Hep3BおよびHuH7細胞にNCまたはFGF19 siRNAをトランスフェクトした。CTGF、CCL20、GDF15、ST6GAL1、ORM1、およびSERPINI1のmRNAレベルを、トランスフェクションの72時間後にqPCRで分析した結果である。それぞれn=4;*、p<0.05(NC siRNAに対して);AUは任意単位を表す。
【
図4】(A)9つの肝癌細胞株におけるST6GAL1およびGDF15のmRNAレベル(それぞれn=3)(左)およびFGF19 mRNAレベルとの相関(右)(n.s.、有意ではない;AU、任意単位)を示す。(B)TCGAデータベースポータルに登録されている373名のHCC患者におけるFGF19およびST6GAL1 mRNAレベルの間の相関(上)ならびにFGF19およびGDF15 mRNAレベルの間の相関(下)を示す。
【
図5】外科的に切除した62のHCC組織切片をFGF19で染色し、FGF19発現に基づいて分類したFGF19高群(n=15)およびFGF19低群(n=47)の間でのTNM病期分類システムによって評価される腫瘍グレード(A)および無再発生存期間(RFS)(B)を示す。
【
図6】外科的に切除した62のHCC組織切片をFGF19で染色し、FGF19発現に基づいて分類したFGF19高群(n=15)およびFGF19低群(n=47)の間でのELISAで測定した血清ST6GAL1レベルを示す。*、p<0.05。
【
図7】血清ST6GAL1レベルによるFGF19高HCC患者の診断についての受信者操作特性(ROC)曲線を示す。AUC、曲線下面積。各ROC曲線のカットオフ値は、YoudenのJ統計で決定した(灰色の点)。
【
図8】外科的切除を受けた79名のHCC患者における血清ST6GAL1レベルと腫瘍サイズとの間の相関(左)、およびTNM病期分類システムによる血清ST6GAL1レベルと腫瘍グレードとの間の相関(右)を示す。
【
図9】高および低血清ST6GAL1レベルのHCC患者のRFS時間を示す。
【
図10】(A)外科的に切除した62のHCC組織切片をFGF19で染色し、FGF19発現に基づいて分類したFGF19高群(n=15)およびFGF19低群(n=47)の間でのELISAで測定した血清FGF19レベルを示す。n.s.、有意ではない。(B)血清FGF19レベルによるFGF19高HCC患者の診断についての受信者操作特性(ROC)曲線を示す。AUC、曲線下面積。
【
図11】(A)外科的切除を受けた77名のHCC患者における血清FGF19レベルと腫瘍サイズとの間の相関(左)、およびTNM病期分類システムによる血清FGF19レベルと腫瘍グレードとの間の相関(右)を示す。(B)高および低レベルの血清FGF19を有するHCC患者の無再発生存期間(RFS)を示す。n.s.、有意ではない。
【
図12】レンバチニブまたはソラフェニブのいずれかで治療した96名の進行HCC患者におけるELISAによって測定したベースライン血清ST6GAL1レベルを示す。n=31(ソラフェニブ)、n=65(レンバチニブ);ns、有意ではない。
【
図13】(A)レンバチニブ(n=65)またはソラフェニブ(n=31)のいずれかで治療した96名の進行HCC患者をカプラン・マイヤー法で評価した全生存(OS)を示す。(B)FGF19推進性HCCを特定するための血清ST6GAL1レベルのカットオフ値に基づいて分類したST6GAL1高群およびST6GAL1低群について、血清ST6GAL1低群(62名)におけるレンバチニブ(43名)またはソラフェニブ(19名)のいずれかで治療した患者のOS時間(左)、および血清ST6GAL1高群(34名)におけるレンバチニブ(22名)またはソラフェニブ(12名)のいずれかで治療した患者のOS時間(右)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
(定義)
本明細書において「線維芽細胞増殖因子19(FGF19)」とは、ホルモンタンパク質であり、CYP7A1発現のダウンレギュレーションを介して胆汁酸生合成の抑制に関与し、脂肪細胞におけるグルコース取り込みを刺激することが知られる。ヒトFGF19のオルソログタンパク質として、マウスにおけるFGF15が知られる。乳癌や肝臓癌などの腫瘍においてFGF19の発現が向上し得ることが知られる。また、FGF19とその他の疾患との関連として、FGF19レベルの増加が、胆汁うっ滞患者の肝臓において観察され、FGF19レベルの低下が、胆汁酸吸収不良による慢性下痢、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝、およびインスリン抵抗性の患者において観察され得ることが知られる。ヒトFGF19の代表的な配列は、核酸配列:NM_005117.2、アミノ酸配列:NP_005108.1である。
【0013】
本明細書において「線維芽細胞増殖因子受容体4(FGFR4)」とは、FGF19を認識する受容体タンパク質であることが知られる。そのため、FGF19/FGFR4経路とは、FGF19およびFGFR4が関わるシグナル伝達経路を指す。また、FGF19/FGFR4経路標的薬とは、FGF19および/またはFGFR4の発現および/または機能を直接的または間接的に調節(増大または低減)することでFGF19/FGFR4経路に影響を及ぼす薬剤を指す。ヒトにおけるFGFR4として、アイソフォーム1(核酸配列:NM_213647.2、アミノ酸配列:NP_998812.1)、アイソフォーム2(核酸配列:NM_022963.3、アミノ酸配列:NP_075252.2)、アイソフォーム3(核酸配列:NM_001291980.1、アミノ酸配列:NP_001278909.1)などが代表的である。
【0014】
本明細書において「β-ガラクトシドα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ1(ST6GAL1)」とは、タンパク質のグルコシル化を触媒する酵素であることが知られる。ヒトでは、アイソフォームa(核酸配列:NM_173216.2、アミノ酸配列:NP_775323.1)、アイソフォームb(核酸配列:NM_173217.2、アミノ酸配列:NP_775324.1)などが代表的である。
【0015】
特に断らない限り、本明細書において、各タンパク質に関する言及は、特定のアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、その機能的等価物もまた企図されることが理解される。
【0016】
本明細書において、ある分子の「機能的等価物」には、その分子の変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、本明細書に記載される特徴(例えば、マーカー)としての機能を有するもの、その分子の生物学的機能と同様の機能(同じ程度でなくてもよい)を発揮するもの、ならびに、作用する時点において、その分子自体に変化することができるものが包含されることが理解される。本開示の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。
【0017】
本明細書において、ある分子の「機能的改変体」には、その分子の機能を維持した(程度は変更されてもよい)ままその分子を改変した物質が包含される。例えば、抗体などの結合分子の機能的改変体には、標的分子との結合機能を維持するように、他の部分(標識、他の機能性分子(タンパク質など)など)とコンジュゲート化したもの、フラグメント化したものなどが含まれる。このように、本明細書で使用される場合、機能的改変体は、改変前の基本となる機能を維持するものである。
【0018】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいう。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化によって判断することができ、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応する受容体への結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
【0019】
本明細書で使用されるタンパク質または核酸の「誘導体」または「類似体」または「変異体」は、限定を意図するものではないが、タンパク質または核酸に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列または核酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%同一であるか、あるいはこのような核酸の「誘導体」または「類似体」または「変異体」は、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、元の核酸にハイブリダイズ可能である。代表的には、タンパク質の「誘導体」または「類似体」または「変異体」は、天然存在タンパク質にアミノ酸置換、欠失および付加などの修飾が生じた産物であって、なお天然存在タンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示すタンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。本開示では、ヒトについて主に論じられるが、他の種例えば霊長類内の他の種あるいはこのほかの属の動物の種のものにも当てはまることが理解され、これらの哺乳動物についても、本開示の範囲内に入ることが理解される。
【0020】
本明細書で使用される「機能的に活性な」タンパク質、ポリペプチド、フラグメントまたは誘導体は、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する。
【0021】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」(ここでは、DNA、RNAなどを含む)を指すことがある。「遺伝子産物」とは、遺伝子に基づいて産生された物質でありタンパク質、mRNAなどを指す。したがって、mRNAは遺伝子の概念にも入り得、遺伝子産物にも該当し得る。また「遺伝子の発現」という場合は、mRNAなどの転写レベルを指すことが多い。
【0022】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0023】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。
【0024】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは哺乳動物におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。
【0025】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9(2004.5.12発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0026】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本開示で用いられる物質は、好ましくは「精製された」物質である。
【0027】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S-S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0028】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたもの(本明細書にいう誘導体)であり得る。例えば、分子の発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、この分子のmRNAの量、タンパク質の量、またはタンパク質の生物学的な活性を評価することによって発現レベルを知ることができる。そのような発現量としては、本開示の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本開示ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本開示において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本開示において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。あるマーカーの発現量を測定することによって、マーカーに基づく種々の検出または診断を行うことができる。
【0029】
本明細書において「マーカー(物質、タンパク質または遺伝子(核酸))」とは、ある状態(例えば、疾患)にあるかまたはその危険性があるかどうかを追跡する示標となる物質をいう。このようなマーカーとしては、遺伝子(核酸=DNAレベル)、遺伝子産物(mRNA、タンパク質など)、代謝物質などを挙げることができる。本開示において、ある状態についての検出、診断、予備的検出、予測または事前診断は、その状態に関連するマーカーに特異的な薬剤、剤、因子または手段、あるいはそれらを含む組成物、キットまたはシステム等を用いて実現することができる。
【0030】
本明細書において「治療」とは、ある疾患について、そのような状態になった場合に、そのような疾患の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。
【0031】
本明細書において「予防」とは、ある疾患について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。
【0032】
本明細書において「診断」とは、被験体における状態(例えば、疾患)などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような状態の現状または未来を判定することをいう。本開示の方法、組成物、システムを用いることによって、体内の状態を調べることができ、そのような情報を用いて、被験体における状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。本明細書において、狭義には、「診断」は、現状を診断することをいうが、広義には「早期診断」、「予測診断」、「事前診断」等を含む。本開示の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができ、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。本明細書において、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることを明確にするために、特に「予測診断、事前診断もしくは診断」を「支援」すると称することがある。本開示の技術は、このような診断技術に応用可能である。
【0033】
本明細書において「抗体」は、広義にはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらのフラグメント、例えばFvフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2およびFabフラグメント、ならびにその他の組換えにより生産された結合体または機能的等価物(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)、scFv-Fc)を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。本開示で用いられる抗体は、その由来、種類、形状などは問われない。具体的には、非ヒト動物の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体が使用できる。本開示においては、モノクローナル、あるいはポリクローナルを抗体として利用することができるが好ましくはモノクローナル抗体である。抗体の標的タンパク質への結合は特異的な結合であることが好ましい。
【0034】
本明細書において「手段」とは、ある目的(例えば、検出、診断、治療、予防、遊走)を達成する任意の道具となり得るものをいい、特に、本明細書では、「選択的に認識(検出)する手段」とは、ある対象を他のものとは異なって認識(検出)することができる手段をいう。
【0035】
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、マーカー検出剤への結合または相互作用を含む、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫拡散法(SRID)、免疫比濁法(TIA)、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526-32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT-PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two-hybridシステム、in vitro翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0036】
本開示の検出剤または検出手段は、検出可能とする部分(例えば、抗体等)に他の物質(例えば、標識等)を結合させた複合体または複合分子であってもよい。本明細書において使用される場合、「複合体」または「複合分子」とは、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。例えば、一方の部分がポリペプチドである場合は、他方の部分は、ポリペプチドであってもよく、それ以外の物質(例えば、基材、糖、脂質、核酸、他の炭化水素等)であってもよい。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、共有結合で結合されていてもよくそれ以外の結合(例えば、水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合されていてもよい。2以上の部分がポリペプチドの場合は、キメラポリペプチドとも称しうる。従って、本明細書において「複合体」は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子を含む。
【0037】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の手段となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチド、特異的抗体またはそのフラグメントなどが挙げられるがそれに限定されない。本明細書においてプローブは、マーカー検出手段として用いられる。
【0038】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。本開示のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。リガンドを標識する場合、機能に影響を与えないものならば何れも用いることができるが、蛍光物質としては、AlexaTMFluorが望ましい。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555との組み合わせ等を挙げることができる。核酸を標識する場合は、その塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することが好ましい。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本開示では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0039】
本明細書において使用される場合、「タグ」とは、受容体-リガンドのような特異的認識機構により分子を選別するための物質、より具体的には、特定の物質を結合するための結合パートナーの役割を果たす物質(例えば、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジンのような関係を有する)をいい、「標識」の範疇に含まれうる。よって、例えば、タグが結合した特定の物質は、タグ配列の結合パートナーを結合させた基材を接触させることで、この特定の物質を選別することができる。このようなタグまたは標識は、当該分野で周知である。代表的なタグ配列としては、mycタグ、Hisタグ、HA、Aviタグなどが挙げられるが、これらに限定されない。本開示のマーカーまたはマーカー検出剤にはこのようなタグを結合させてもよい。
【0040】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、細胞(例えば、T細胞)、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。
【0041】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、診断薬、治療薬、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬)をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。
【0042】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本開示の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位または投与方法を指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0043】
用語「約」は、本明細書で使用されるとき、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。なお、「約」と明示的に示されない場合でも「約」があると同義で解釈されうる。
【0044】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0045】
一つの局面において、本開示は、FGF19の発現との相関が見出されたバイオマーカーに基づく被験体の状態の特定(例えば、診断)を提供する。これは、方法の実施、この目的のための組成物、組合せ物、キット、またはシステムの提供など、任意の手段によって達成され得る。例えば、明示的な記載がなくとも、あるバイオマーカーをある状態の判定に使用する方法の記載は、同状態を判定するための同バイオマーカーの検出剤、同バイオマーカーに基づいて判定された同状態を調節する方法またはそのための薬剤など、他の手段を反映した実施形態も同時に企図するものである。
【0046】
(FGF19の発現と相関するバイオマーカー)
一つの実施形態において、本開示は、FGF19の発現と相関するバイオマーカー(本明細書において、「本開示のバイオマーカー」と言及され得る)を提供する。本開示のバイオマーカーには、群(A)のバイオマーカーおよび群(B)のバイオマーカーが含まれる。
【0047】
FGF19の発現と正に相関するバイオマーカーとして以下の遺伝子の群が見出され、このバイオマーカーの群を、本明細書において群(A)のバイオマーカーまたは群(A)の遺伝子と称する。
・群(A)の遺伝子
A1BG、A2M、ABCC2、ABCF3、ABT1、ACSL4、ACSL5、ACTN3、ADAM10、ADCK3、AFM、AFP、AGR2、AGRN、AGT、AHR、AHSG、AKR1C2、ALDH16A1、ALG3、AMBP、AMDHD1、ANG、ANGPTL3、ANKRD17、ANLN、ANXA1、APIP、APLP2、APOA2、APOC1、APP、ARID1B、ARMCX1、ARSB、ASGR2、ASNS、ATP1A4、ATP2C1、ATP6AP1、ATP6AP2、ATP6V1H、B2M、B3GAT2、B4GALT4、BAP1、BGN、BPGM、BTD、C11orf98、C14orf1、C19orf80、C1GALT1C1、C2、C3、C4BPA、C5、C5orf42、C6、C8G、CAP1、CAP2、CASC3、CBR1(CBR3)、CCDC137、CCDC59、CCL15、CCL20、CCR6、CD63、CDC25C、CDH1、CDK6、CDKL1(CDKL3;CDKL2;PRKD2;PRKD3;CDKL5;STK36)、CDO1、CEBPB、CETN2、CFI、CGGBP1、CHTF8、CIB1、CLN5、CLSTN1、CLSTN3、CLU、COBLL1、COCH、COPS6、CORO6、COX15、COX17、COX6B1、CP、CPB2、CPD、CPN1、CPN2、CPSF7、CPVL、CRLF1、CRLF3、CST3、CTGF、CTH、CTNNA2、CTSC、CUTC、CXADR、CXCL1、CXCL3(CXCL2)、CXCL5、CXCL8、CYHR1、DAB2、DCAF16、DDX5、DHFRL1、DIAPH3、DIEXF、DIMT1、DKK1、DMXL1、DNAH9、DNAJB11、DPH5、DSC2、DTNA、DTYMK、DYNLL2、EFNA1、EHBP1、EIF1、EIF2B3、EMC1、ENPP2、ENPP4、ENY2、EPB41L2、EPHA2、EPS8、ERCC6L2、EXTL2、EYA3、F13B、F2、F5、FAM134C、FAM169A、FAM3C、FAM73A、FAM96A、FBLN1、FBXL12、FBXO22、FEN1、FGA、FGB、FGF19、FGFR1、FGFR4、FGG、FGL1、FHOD1、FIBP、FKBP3、FLCN、FLRT3、FRAS1、FRRS1、FST、FTL、FUCA2、FURIN、FYTTD1、G3BP2、GAA、GABPA、GAK、GALNT2、GALNT4、GBA、GC、GCNT2、GCNT3、GDA、GDF15、GFM2、GJA1、GLA、GLS、GM2A、GNPTG、GOLM1、GOLPH3L、GOT1、GPC1、GPR126、GPT2、GYG1、H2AFX、HAL、HBB、HEXA、HINT1、HLA-A、HMCES、HMGN2(HMGN3)、HNRNPA3、HS6ST2、HSPA13、HYAL1、ICAM1、IFI30、IFRD1、IFRD2、IGFBP3、INPP1、IPO13、IPO4、IREB2、ISOC1、ITGA2、JAG1、KALRN、KCNN4、KHNYN、KIF2B、KLC4、KMT2D、KNTC1、KYNU、LAMA4、LAMP1、LDLR、LENG1、LGALS3BP、LGMN、LIPC、LRG1、LSR、LUM、LYN、LYRM7、LYZ、MAFF(MAFK;MAFG)、MAGI1、MAN1A1、MAN1B1、MAN2A1、MAP2K3、MASP1、MDC1、MDK、MEP1A、METTL7B、MGA、MGAT4B、MGAT5、MIPEP、MKRN2、MMAA、MMP15、MTAP、MTG2、MTHFD2、MTTP、NANS、NAT8、NDEL1(NDE1)、NGEF、NME1、NOLC1、NOM1、NOMO2(NOMO1;NOMO3)、NPC2、NPTX2、NRXN3、NT5E、NTS、NUCB2、OGFOD1、OLA1、ORM1、ORM2、OS9、OSBPL2、OTUD7B、PAM、PARD6G(PARD6A)、PARS2、PCDHB3(PCDHB8;PCDHB16;PCDHB7;PCDHB4;PCDHB11;PCDHB13;PCDHB10)、PCOLCE2、PCSK1N、PCSK5、PCSK6、PDE4DIP(CDK5RAP2)、PDGFD、PDGFRL、PDXP、PEX13、PFKM、PIAS1、PISD、PLA2G15、PLA2G7、PLD1、PLD3、PLG、PLOD3、PLS1、PON2、POP5、POP7、PPAN、PPT1、PRCP、PROC、PROM1、PROS1、PSAT1、PSMD7、PSMD9、PSME4、PTMS、PTP4A2、PTPN12、PTPRK、PTRH1、PVR、QSOX2、RAB21、RANBP2、RAVER1、RBBP6、RBL1、RBP4、RCOR1(RCOR3)、RFFL、RIOK2、RNF126、RNF170、RPIA、RPL11、RPL29、RPL6、RPRD1A、RPS27L、RPS6KB2(RPS6KB1)、RPS8、SAA4、SCG2、SCPEP1、SCYL1、SDC1、SDC2、SDC4、SDCBP、SDF4、SEC24D、SEMA3A、SEMA4G、SEPT9、SERINC1、SERPINA10、SERPINA3、SERPINA7、SERPIND1、SERPINE1、SERPINI1、SGCE、SGK3、SH3GL1、SIAE、SIL1、SLAIN1、SLC1A4、SLC1A5、SLC38A1、SLC39A10、SLC39A14、SLC3A2、SLC6A11、SLC7A1、SLC7A11、SLC7A2、SLIT1、SMG6、SMOC1、SMPD1、SNTB1、SORT1、SOWAHC、SPAG5、SPCS1、SPINK1、SPOCK2、SPON2、SPP1、SPTB、SPTBN4、SQSTM1、SRSF3、ST6GAL1、STC2、STK32C、STK4、STRIP2、STX18、STX8、STXBP5、SUGP2、SULT1A4(SULT1A3)、SUMF1、SUMO3、SVIP、SYF2、TARS2、TBC1D8B、TBC1D9、TFPI、TFRC、TGOLN2、THBS1、THBS4、THOC7、TMBIM6、TMCO5A、TMEM109、TMF1、TMPO、TMPRSS13、TNFRSF11B、TOP3B、TOR1B、TOR3A、TP53RK、TPD52L1、TPP1、TRIO、TSG101、TSPAN4、TSPYL1、TSPYL2、TTR、TUBE1、UBA52、UBAC2、UBE2B、UBE2S、UBE2T、UBE3C、UBFD1、UBL5、UBL7、UPF1、URB2、UXS1、VAMP3(VAMP2)、VBP1、VCAN、VPS39、VPS54、VWA1、WDR36、WDR55、WRAP53、YIPF4、ZC3H13
【0048】
複数の細胞株においてFGF19の発現と負に相関するバイオマーカーとして以下の遺伝子の群が見出され、このバイオマーカーの群を、本明細書において群(B)のバイオマーカーまたは群(B)の遺伝子と称する。
・群(B)の遺伝子
ABI3BP、ACE、ACHE、ACTA1(ACTC1;ACTG2;ACTA2)、ACTG1、ACTN1、ACTN2、ADAMTS13、AIFM1、ALAD、ALCAM、ALDH9A1、ALDOB、ALYREF、ANPEP、AOC3、AP1B1、AP2B1、APMAP、APOC3、APRT、ARF1(ARF3;ARF5)、ARHGDIB、ARMT1、ARPC4、BHMT、C1QTNF3、C3P1、C4A(C4B)、C8A、C8B、CAB39、CACNA2D1、CADM1、CAMK2D、CAND1、CAPN1、CAPN2、CAPNS1、CAPRIN1、CAT、CBLN4、CBS、CBX5、CCT2、CCT3、CCT5、CD109、CD276、CD44、CDC42、CDH11、CDH13、CDH5、CDH6、CFD、CHAD、CHST3、CILP2、CLEC11A、CLIC4、CNN2、CNTFR、CNTN1、CNTRL、COL11A1、COL11A2、COL12A1、COL18A1、COL1A1、COL1A2、COL21A1、COL2A1、COL5A1、COL5A2、COL6A1、COL6A2、COL6A3、COL9A1、COMP、COPB2、COPE、COPS2、COPS5、CORO1A、COTL1、CPNE1、CPOX、CPPED1、CREG1、CROCC、CSPG4、CSTB、CUL1、CUTA、CYCS、DCD、DCUN1D1、DDAH2、DDX42、DDX6、DEK、DKK3、DMBT1、DPYS、DSC1、DSG1、DSP、DYNC1I2、EEA1、EFEMP1、EFEMP2、EGFR、EIF2S2、EIF3A、EIF3F、EIF3M、EIF4A1、EIF4A3、EML2、ENOPH1、ENPP1、ERAP1、ERP29、EWSR1、EXOSC9、EXT1、EZR、F10、F11、F13A1、F9、FAH、FAP、FAT4、FBN1、FERMT3、FH、FHL1、FLNA、FLNB、FLNC、FMOD、FSCN1、FSTL1、FUBP1、G6PD、GCLC、GCLM、GDI1、GDI2、GGCT、GLIPR2、GLO1、GRHPR、GSN、GSS、GSTM2、GSTM3、H2AFY、H3F3A、HARS、HGFAC、HIST1H1B、HIST1H2AJ(HIST1H2AH;H2AFJ;HIST2H2AC;HIST2H2AA3;HIST1H2AD;HIST1H2AG)、HIST1H4A、HIST2H3A、HMCN2、HNRNPR、HNRNPUL2、HPD、HPX、HRSP12、HSP90B1、HSPB1、HSPG2、HUWE1、IGFALS、IGJ、IL1RAP、IL6ST、ILF2、ILF3、IMPDH2、IPO9、IQGAP1、ITGB1、JUP、KARS、KATNAL2、KLKB1、KPNA2、KPNA3、KPNA4、KPRP、KRT18、LAMA2、LAMB1、LCAT、LCP1、LDHB、LECT2、LGALS3、LMNA、LMNB2、LPL、LRP1、LTA4H、LTBP4、LTF、LUC7L2(LUC7L)、MAGOHB(MAGOH)、MAPRE2、MCM2、MCM3、MFAP4、MGAT2、MMP2、MRC2、MSN、MST1、MYH10、MYH9、MYL6、MYLK、NACA、NAGA、NAP1L1、NAP1L4、NCAM1、NELL2、NEO1、NES、NME2、NONO、NOP58、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NPM1、NRP2、NT5C2、NUTF2、OGN、OMD、P4HB、PAIP1、PARP1、PARVB、PCDH17、PCDH18、PCDHGB5、PCDHGC3、PDIA3、PDIA4、PDIA6、PEPD、PFKL、PGAM4、PGM1、PGM2、PKHD1L1、PLRG1、PLS3、PLXDC2、PLXNA1、POSTN、PPP1CB、PPP1R12A、PPP2R4、PPP4C、PPP6C、PRDX2、PRDX4、PRKACG、PRKAR2A(PRKAR2B)、PRPF19、PRSS3、PSMA1、PSMA3、PSMA4、PSMB1、PSMB3、PSMB4、PSMB5、PSMC5、PSMC6、PSMD14、PSMD6、PSMD8、PSME1、PTPN11、PTPRD、PTPRG、PTPRM、PTPRS、PVRL1、PWP1、PYGB、PYGL、RAP1B(RAP1A)、RBBP4、RCN1、RCN3、RDX、RGN、RPLP2、RPS15A、RPS6KA3、RPSA、RSF1、RSU1、RUVBL2、S100A1、S100A12、S100A7、S100A8、S100A9、SAFB、SAR1B(SAR1A)、SART3、SEC23A、SEC24C、SEP11、SEPT2、SEPT7、SEPT9、SERPINB1、SERPINH1、SF3B3、SH3BGRL3、SMARCA1、SMARCC1、SMS、SNRNP200、SNRPD2、SNRPF、SPARC、SPARCL1、SPON1、SPP2、SRRM1、SRSF1、SRSF5、SSRP1、TAGLN2、TCP1、TECPR2、TG、TGFBR3、THBS3、THRAP3、THUMPD1、TIE1、TLN1、TMEM132C、TNC、TNXB、TPM1、TPM3、TPM4、TPP2、TPR、TSPAN14、TSPAN31、TSPYL2、TUBA4A、TWF2、TXNDC5、TXNL1、UBA3、UBE2K、UBE2L3、UBE2NL、UBE2V1(UBE2V2)、UGP2、VASN、VAT1、VCAM1、VCL、VCP、VNN1、VNN2、VPS35、VTA1、VWF、WDR77、XPNPEP1、XRN2、YWHAE、YWHAH、ABHD17A、ACSS2、AHNAK、ANGPTL3、ANKRD46、ANO10、AP1G2、APOA1、APOC3、APOE、ASRGL1、BIN1、C3orf58、CASK、CDS2、CHML、COX5A、CPS1、CRIP1、CTIF、CTSH、DUSP9、EEF1A1(EEF1A1P5)、ENO3、EPB41L3、EPHX1、EPPK1、EPS8L2、FDPS、FTL、FUCA1、FUNDC2、GALNT1、GCN1L1、GLUD1、GM2A、GNG5、GPX7、HECTD3、HMOX1、HSPA6(HSPA7)、IGF2、IQSEC1、ITPKA、KIAA1161、KLHL25、L3HYPDH、LPCAT1、LSM14A、MANBA、MFGE8、NDRG1、NDUFS4、NHLRC3、NID1、NPEPL1、NT5DC2、OPA3、OPLAH、P4HA2、PALMD、PBX1、PEA15、PGRMC2、PHLDA1、PLCG1、PLIN2、PLTP、POLR3B、PPL、PPM1A、PPM1H、PPP1R18、PRKAR2A、PRRC2B、QKI、QSOX1、RBP1、REEP6、RELL1、S100A10、SAMHD1、SAR1B、SCAMP1、SEC24A、SERPINA5、SERPINF2、SFN、SLC12A2、SLC30A10、SLC46A1、SNAP25、SNX27、SPATS2L、STAT3、SWAP70、TCAF1、TGFBI、TLN2、TM7SF2、TMEM177、TMEM245、TMEM41A、TMEM63A、TRIM3、TSPAN3、TTYH3、TUBB2B、TUBB8、VTN、ZFYVE19
【0049】
本開示のバイオマーカーとして、群(A)のバイオマーカーのうち、以下の遺伝子は複数の細胞株のセクレトーム中で共通して見出されたため、特に好ましく使用され得る:A1BG、A2M、ACSL4、AGRN、AHSG、APLP2、APOA2、APOC1、APP、ARID1B、ATP6AP2、B3GAT2、CCL15、CCL20、CLSTN3、CLU、CP、CTGF、DNAJB11、EXTL2、F2、F5、FGA、FGL1、FST、FURIN、GBA、GCNT2、GDF15、GPR126、HNRNPA3、ICAM1、LDLR、LGALS3BP、LRG1、LYZ、MAN1A1、MEP1A、NTS、ORM1、PCOLCE2、PPT1、PROS1、SDC4、SDCBP、SERPINA10、SERPINA3、SERPINE1、SERPINI1、SPOCK2、SPTBN4、ST6GAL1、STC2、TFPI、TFRC、TNFRSF11B、TOR1B、TTR、UXS1、VWA1。本開示のバイオマーカーとして、群(A)のバイオマーカーのうち、以下の遺伝子は複数の細胞株のホールプロテオーム中で共通して見出されたため、特に好ましく使用され得る:ANLN、ANXA1、ARMCX1、ATP1A4、CCL20、CTGF、DYNLL2、FIBP、FYTTD1、GDF15、H2AFX、HMCES、HSPA13、IFRD1、INPP1、IREB2、ITGA2、MAP2K3、NT5E、ORM1、PARS2、PSME4、RNF126、RNF170、SERPINI1、SIL1、SLC7A1、SLC7A11、SMG6、ST6GAL1、SUGP2、THBS4、TMPO、TUBE1、UBE2B、VAMP3(VAMP2)、YIPF4。本開示のバイオマーカーとして、群(A)のバイオマーカーのうち、以下の遺伝子は複数の細胞株のホールプロテオームおよびセクレトーム中で共通して見出されたため、さらに好ましく使用され得る:CTGF、CCL20、GDF15、ST6GAL1、ORM1、SERPINI1。最も好ましい実施形態では、本開示のバイオマーカーは、ST6GAL1である。
【0050】
本開示のバイオマーカーとして、群(B)のバイオマーカーのうち、以下の遺伝子は複数の細胞株のホールプロテオームおよびセクレトーム中で共通して見出されたため、さらに好ましく使用され得る:ACTG1、ALDH9A1、ANPEP、CDH6、COL18A1、DCD、FLNC、FSCN1、GSTM2、GSTM3、HIST1H4A、HIST2H3A、HPX、HSPB1、IL1RAP、S100A7、TLN1、YWHAH。
【0051】
一つの実施形態において、FGF19の発現と相関するバイオマーカーは、群(A)および群(B)から選択される1つまたは複数の遺伝子またはその転写もしくは翻訳産物である。一つの実施形態において、FGF19の発現と相関するバイオマーカーは、CTGF、CCL20、GDF15、ST6GAL1、ORM1、SERPINI1からなる群から選択される遺伝子またはその転写もしくは翻訳産物である。これらのタンパク質は、細胞内および培養上清の両方における発現レベルにおいてFGF19の発現と相関することが示された。特に好ましい実施形態において、FGF19の発現と相関するバイオマーカーは、ST6GAL1の遺伝子またはその転写もしくは翻訳産物である。血清ST6GAL1レベルは、腫瘍組織におけるFGF19発現とロバストに相関し、腫瘍の薬剤感受性を示す良好なバイオマーカーであることが見出された。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーは、タンパク質である。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーは、核酸(例えば、セルフリーDNA)である。
【0052】
一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーは、被験体における発現レベルで評価されてもよいし、被験体から取得された試料における発現レベルで評価されてもよい。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーは、血液または血液試料(例えば、血清試料)中の発現レベル(例えば、分泌タンパク質、セルフリーDNAの量)で評価され得る。発明者らは、血液中のFGF19レベルは、疾患(例えば、癌)部位の組織におけるFGF19レベルとの相関が低いことを見出したが、対照的に、血液中の本開示のバイオマーカー(特に、ST6GAL1)のレベルが、疾患(例えば、癌)部位の組織におけるFGF19レベルとの相関、および疾患の悪性度との相関が高いことを予想外に見出した。そのため、本開示のバイオマーカーを使用した被験体の状態の特定は、被験体に大きな負荷をかけずに実施できる。
【0053】
(バイオマーカーに基づく被験体の状態の特定)
一つの局面において、本開示は、本開示のバイオマーカーを指標とする被験体の状態の特定(例えば、診断)を提供する。一つの実施形態において、特定される被験体の状態としては、被験体における疾患の有無、被験体における疾患の状態(悪性度、ステージなど)、被験体における疾患のリスク、被験体の薬剤感受性などが挙げられる。本開示のバイオマーカーは、FGF19の発現と相関し得るので、FGF19の発現と関連し得る任意の疾患、例えば、癌などの増殖性疾患、胆汁うっ滞、胆汁酸合成異常、胆汁酸吸収不良による慢性下痢、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝、インスリン抵抗性などの状態を特定するために使用することができる。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーによってその状態を特定することができる増殖性疾患は、FGF19の高発現とその悪性度の高さが相関する癌(例えば、肝臓癌、乳癌)であり得る。癌の悪性度が高いとは、癌の再発する可能性が高いこと、予後が悪いこと、および/または転移性であることを意味し得る。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーを使用して増殖性疾患の悪性度を特定することができる。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーを使用して増殖性疾患のステージを特定することができる。本開示のバイオマーカーは、FGF19の発現と相関することで見出されたものであるが、必ずしもFGF19の発現と関連付けられる必要はなく、本開示のバイオマーカーのみを指標として本明細書に記載される状態を特定(例えば、診断)することができる。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーを使用して状態を特定しようとする被験体は、疾患(例えば、癌)を有すると診断されている。
【0054】
本開示のバイオマーカーによってその状態(例えば、悪性度、薬剤感受性)を特定することができる増殖性疾患として、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、肺癌、大腸癌(結腸癌、直腸癌、肛門癌)、食道癌、十二指腸癌、頭頚部癌(舌癌、咽頭癌、喉頭癌、甲状腺癌)、脳腫瘍、神経鞘腫、神経芽腫、神経膠腫、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、腎臓癌、胆管癌、子宮癌(子宮体癌、子宮頚癌)、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、血管腫、悪性リンパ腫、悪性黒色腫、骨腫瘍、血管線維腫、網膜肉腫、陰茎癌、小児固形癌、カポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、子宮筋腫、骨芽細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、中皮腫瘍、白血病などであり得る。特定の実施形態では、本開示のバイオマーカーによってその状態を特定することができる増殖性疾患は、肝臓癌であり得る。
【0055】
一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーを使用して疾患(例えば、癌)を有する被験体の薬剤感受性を特定することができる。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーは、FGF19の発現と相関し得るので、FGF19/FGFR4経路標的薬が有効である被験体を特定するために使用することができる。FGF19/FGFR4経路標的薬とは、FGF19およびFGFR4が関与するシグナル伝達経路におけるいずれかの生体分子(mRNA、タンパク質など)の機能または発現を調節する薬剤を指す。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬は、FGF19および/またはFGFR4の機能または発現を調節する。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬は、FGF19/FGFR4経路の阻害剤である。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬は、FGF19またはFGFR4の発現を低下させる。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬は、FGF19とFGFR4との結合を阻害する。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬は、FGFR4のキナーゼ活性を阻害し、ここで、この阻害はFGFR4選択的であってもよいし、FGFR4に加えてその他のFGFR(例えば、FGFR1、FGFR2および/またはFGFR3)を阻害してもよい。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬は、抗癌剤である。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬は、低分子化合物、タンパク質(例えば、FGF19/FGFR4経路におけるいずれかのタンパク質、またはその機能改変体)、抗体、または核酸(例えば、FGF19/FGFR4経路におけるいずれかのタンパク質をコードするmRNAを抑制する核酸)である。例えば、低分子化合物であるFGF19/FGFR4経路標的薬としては、レンバチニブ、フィソガチニブ(Cancer Discov 2019;9(12):1696-1707)、FGF401(Mol Cancer Ther;18(12) December 2019)、H3B-6527(Cancer Res; 77(24) December 15, 2017)およびBLU9931(Cancer Discov. 2015 Apr;5(4):424-37)が挙げられるが、これらに限定されず、上記の機能のうちの1つまたは複数を有する任意の公知の低分子化合物を使用することができる。
【0056】
一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーを使用して被験体におけるFGF19の発現レベル(例えば、組織発現レベル)を特定することができる。本開示のバイオマーカーは、FGF19の組織発現の代替マーカーとなり得るので、研究目的など任意の目的のために使用することができる。
【0057】
一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーは、他の指標と組み合わせてもよい。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーを使用して被験体の状態を特定した後、この被験体のFGF19の発現レベル(例えば、組織発現レベル)を特定してもよい。
【0058】
(バイオマーカーの基準値)
一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーの発現レベルが所定の範囲から外れる場合に、被験体は特定の状態を有すると特定(例えば、診断)される。本開示のバイオマーカーの所定の範囲は、使用されるバイオマーカーの種類および特定しようとする被験体の状態の種類に応じて変動し得、当業者は、本開示のバイオマーカーの所定の範囲として具体的な数値範囲を適当に設定できる。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーのうちの群(A)のバイオマーカーは、その発現レベルが所定の基準値を超える場合に、被験体は特定の状態を有すると特定(例えば、診断)される。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーのうちの群(B)のバイオマーカーは、その発現レベルが所定の基準値を下回る場合に、被験体は特定の状態を有すると特定(例えば、診断)される。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーの所定の範囲は、そのバイオマーカーと、特定しようとする被験体の状態の有無との相関に基づいて決定できる。例えば、状態の有無(疾患の有無、薬剤感受性の有無、所定のレベルを超える組織におけるFGF19発現の有無など)に応じて被験体を2群に分けた場合に、特定の感度、特異性、および/または偽陽性率を達成するような本開示のバイオマーカーの発現レベルを基準値として設定することができる。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーの所定の範囲は、特定の疾患(例えば、癌)を有する被験体を病変組織におけるFGF19発現量に基づき2群に分けた場合に、特定の感度、特異性、および/または偽陽性率を達成するように設定される。このように設定された本開示のバイオマーカーの基準値に基づいて判定を行うことで、疾患(例えば、癌)を有する被験体をさらに層別化でき、より適切な処置(例えば、薬剤の選択)を提供することが可能になり得る。一つの実施形態において、本開示のバイオマーカーの発現レベルの基準値は、Youdenインデックスによって決定することができ、カットオフ値ごとにROC曲線を作成して真陽性率(TRP)-偽陽性率(FRP)を算出し、真陽性率(TRP)-偽陽性率(FRP)が最大となるようなカットオフ値を基準値として選択することができる。
【0059】
一つの実施形態において、血清ST6GAL1レベルを使用して、FGF19/FGFR4経路標的薬に感受性であるかつ/または高悪性度の癌を有する被験体を特定するための基準は、約15ng/ml以上、約16ng/ml以上、約17ng/ml以上、約18ng/ml以上、約19ng/ml以上、約20ng/ml以上、約21ng/ml以上、約22ng/ml以上、約23ng/ml以上、約24ng/ml以上、または約25ng/ml以上、具体的な実施形態では、約19.1ng/ml以上の血清ST6GAL1レベルであり得る。
【0060】
(バイオマーカーの測定)
本開示のバイオマーカーは、それぞれ、任意の好適な検出剤を使用して検出でき、発現レベルを測定することができる。一つの実施形態において、検出剤は、本開示のバイオマーカーと特異的に結合する分子であり、例えば、抗体、インビボで結合することが公知のタンパク質または核酸、相補的核酸、または低分子化合物であり得る。一つの実施形態において、検出剤は、精製、定量化、シグナル発生などの機能を発揮するためのタグまたは標識を含んでいてもよい。標的となる生体分子が分かっているとき、その検出および測定の具体的方法および手段は当業者であれば適切に選択できる。
【0061】
(治療および予防)
一つの局面において、本開示は、本開示のバイオマーカーを使用した被験体の状態の特定に基づく被験体の治療および/または予防を提供する。本開示のバイオマーカーは、被験体における疾患の有無、被験体における疾患の状態(悪性度、ステージなど)、被験体における疾患のリスク、被験体の薬剤感受性などの特定を可能とし得るので、被験体を治療および/または予防するための方法を選択するために適切な情報を提供し得る。特に、本開示のバイオマーカーは、FGF19/FGFR4経路標的薬が有効であり得る被験体を特定し得るので、本開示は、そのような被験体のFGF19/FGFR4経路標的薬による治療および/または予防を提供する。ここで、被験体は、FGF19の発現と関連し得る任意の疾患、例えば、本明細書に記載の増殖性疾患、胆汁うっ滞、胆汁酸合成異常、胆汁酸吸収不良による慢性下痢、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝、またはインスリン抵抗性を有していてよく、これらの疾患を有すると診断されていてもよい。特に好ましい実施形態において、本発明は、高ST6GAL1レベルを有すると決定された患者(例えば、癌患者)に使用するための、FGF19/FGFR4経路標的薬(例えば、レンバチニブなど)を提供し得る。
【0062】
本開示の治療および/または予防は、任意の公知の治療および/または予防処置または手段(例えば、抗癌処置)と組み合わされてもよい。
【0063】
本開示の治療、予防および/または診断は、任意の被験体において実施することができる。一つの実施形態において、被験体は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、またはチンパンジー等である。具体的な実施形態において、被験体は、ヒトである。
【0064】
(医薬品、剤型等)
本明細書に記載されるFGF19/FGFR4経路標的薬および本開示のバイオマーカーの検出剤は、種々の形態の組成物または医薬として提供され得る。また、一つの実施形態において、本開示は、本明細書に記載の方法によって増殖性疾患の悪性度が高い可能性が示された被験体を処置するため、または本明細書に記載の方法によって有効群であることが示された被験体を処置するための、FGF19/FGFR4経路標的薬を含む組成物を提供する。一つの実施形態において、FGF19/FGFR4経路標的薬が抗癌剤(例えば、レンバチニブ)である。
【0065】
本明細書に記載されるFGF19/FGFR4経路標的薬(例えば、レンバチニブなど)および本開示のバイオマーカーの検出剤の投与経路は、本明細書に記載される疾患の治療、予防または検出に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、または経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、またはステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、またはNaOH等を配合してもよい。また治療薬は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
【0066】
一般的に、本開示の組成物、医薬、検出剤等は、治療有効量の有効成分または検出可能量の検出手段、および薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含む。本明細書において「薬学的に許容しうる」は、動物、そしてより詳細にはヒトにおける使用のため、政府の監督官庁に認可されたか、あるいは薬局方または他の一般的に認められる薬局方に列挙されていることを意味する。本明細書において使用される「キャリア」は、治療剤または検出剤を一緒に投与する、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このようなキャリアは、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。医薬組成物を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin, Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に記載される。このような組成物は、患者に適切に投与する形を提供するように、適切な量のキャリアと一緒に、治療有効量の療法剤、好ましくは精製型のものを含有する。配合物は、投与様式に適していなければならない。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。
【0067】
本開示の一実施形態において「塩」は、例えば、任意の酸性(例えばカルボキシル)基で形成されるアニオン塩、または任意の塩基性(例えばアミノ)基で形成されるカチオン塩を含む。塩類には無機塩または有機塩を含み、例えば、Berge et al., J. Pharm. Sci., 1977, 66, 1-19に記載されている塩が含まれる。また例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。本開示の一実施形態において「溶媒和物」は、溶質および溶媒によって形成される化合物である。溶媒和物については例えば、J. Honig et al., The Van Nostrand Chemist’s Dictionary P650(1953)を参照できる。溶媒が水であれば形成される溶媒和物は水和物である。この溶媒は、溶質の生物活性を妨げないものが好ましい。そのような好ましい溶媒の例として、特に限定するものではないが、水、または各種バッファーが挙げられる。
【0068】
本開示において、医薬を投与する場合、種々の送達(デリバリー)系をともに使用することができ、そしてこのような系を用いて、本開示の抑制剤および/または遊走剤を適切な部位に投与することも可能である。このような系には、例えばリポソーム、微小粒子、および微小カプセル中の被包:受容体が仲介するエンドサイトーシスの使用;レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての療法核酸の構築などがある。導入法には、限定されるわけではないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、および経口経路が含まれる。好適な経路いずれによって、例えば注入によって、ボーラス(bolus)注射によって、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収によって、医薬を投与することも可能であるし、必要に応じてエアロゾル化剤を用いて吸入器または噴霧器を使用しうるし、そして他の生物学的活性剤と一緒に投与することも可能である。投与は全身性または局所(例えば、腫瘍内)であることも可能である。
【0069】
好ましい実施形態において、公知の方法に従って、組成物は、ヒトへの投与に適応させた医薬組成物として処方することができる。このような組成物は注射により投与することができる。代表的には、注射投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝剤中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤および注射部位での疼痛を和らげるリドカインなどの局所麻酔剤も含むことも可能である。一般的に、成分を別個に供給するか、または単位投薬型中で一緒に混合して供給し、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密封容器中、凍結乾燥粉末または水不含濃縮物として供給することができる。組成物を注入によって投与しようとする場合、無菌薬剤等級の水または生理食塩水を含有する注入ビンを用いて、分配することも可能である。組成物を注射によって投与しようとする場合、投与前に、成分を混合可能であるように、注射用の無菌水または生理食塩水のアンプルを提供することも可能である。
【0070】
本開示の組成物、医薬、治療剤または予防剤を中性型または塩型あるいは他のプロドラッグ(例えば、エステル等)で配合することも可能である。薬学的に許容しうる塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離型のカルボキシル基とともに形成されるもの、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離型のアミン基とともに形成されるもの、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄などに由来するものが含まれる。
【0071】
本開示の組成物、医薬、治療剤または予防剤の量は、疾患の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、場合によって、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量-反応曲線から推定可能である。
【0072】
本開示の組成物、治療剤、予防剤または検出剤はキットとして提供することができる。
【0073】
特定の実施形態では、本開示は、本開示の組成物、治療剤、予防剤または検出剤の1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0074】
本開示の治療薬、予防薬等の医薬等としての製剤化手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、使用すべき量等の実施形態を決定することができる。
【0075】
(動物モデル)
一つの局面において、本開示は、癌研究のための新たな動物モデル(例えば、マウス、ラット)、その作製法またはその作製のための手段を提供する。一つの実施形態において、本開示は、癌遺伝子および固有のバーコードを含む核酸(例えば、プラスミド)を提供する。一つの実施形態において、本開示は、複数種類の癌遺伝子および対応する固有のバーコードを含むそれぞれ含む複数種類の核酸の集団を提供する。このような核酸の集団を動物に導入することで、種々の癌遺伝子がランダムに導入された動物を作製することができる。種々の癌遺伝子がランダムに導入された動物は、薬剤などによる処置に対して導入された癌遺伝子に応じて異なる応答性を示し得るので、癌遺伝子と処置との関連性(例えば、薬剤感受性)を研究するために有用である。複数種類の癌遺伝子および対応する固有のバーコードを含むそれぞれ含む複数種類の核酸の集団が導入された動物を使用する場合、動物由来試料(例えば、腫瘍組織)から抽出したmRNAに基づくcDNAを使用して、固有のバーコードの読み取り数に応じて各癌遺伝子の発現量を推定することができるので、各癌遺伝子の量的情報と、処置に対する動物の応答性との関係を容易に解析することができる。
【0076】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0077】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0078】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0079】
必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、滋賀医科大学の動物実験ガイドラインに従って実施した。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0080】
以下の実施例において、それぞれの略語は以下の意味を示す。
ANOVA:分散分析
AUC:曲線下面積
CT:コンピュータ断層撮影
DMSO:ジメチルスルホキシド
ELISA:酵素結合免疫吸着アッセイ
FGF19:線維芽細胞増殖因子19
FGFR:線維芽細胞増殖因子受容体
HCC:肝細胞癌
IC50:50%阻害濃度
KD:ノックダウン
OS:全生存
PFS:無増悪生存
PB:piggyBac
PDGFR:血小板由来増殖因子受容体
RFS:無再発生存
ROC:受信者動作特性
SILAC:細胞培養液中のアミノ酸を用いた安定同位体標識
TKI:チロシンキナーゼ阻害剤
VEGFR:血管内皮増殖因子受容体
【0081】
(材料および方法)
ヒト血清および組織学的分析
血清サンプルを、大阪大学で治療上の肝切除術を受けた76名のHCC患者ならびに、大阪大学および大阪肝臓フォーラムに参加している他の施設でTKI治療を受けた96名の進行HCC患者から得た。HCC組織を、外科切除した76名のHCC患者のうち62名から得た。すべての患者は、書面によるインフォームドコンセントを提供し、研究デザインは、ヘルシンキ宣言の原則と一致していた。患者の血清および切除組織を使用した研究のプロトコルは、大阪大学病院の治験審査委員会(IRB)委員会(IRB No. 19438)によって承認された。血清FGF19およびST6GAL1のレベルを、製造者のプロトコルに従って、ヒトFGF19(DF1900、R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)およびヒトST6GAL1(ab243669、Abcam、ケンブリッジ、英国)のELISAキットをそれぞれ使用して、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)で調べた。腫瘍組織を10%中性緩衝ホルムアルデヒド溶液で固定し、パラフィン包埋して薄切片にした。肝臓切片をヘマトキシリン-エオシンおよび一次FGF19抗体(HPA036082、1:300、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)で染色した。クエン酸回収バッファー(Agilent)およびDecloaking Chamber NxGen(Biocare Medical、パチェーコ、カリフォルニア州)を使用して、熱媒介抗原の回収を行い、肝腫瘍切片のFGF19染色強度を、ハイブリットセルカウントソフトウェア(キーエンス、大阪、日本)で定量化した。4つの高倍率視野のうち2つ以上において腫瘍細胞の30%以上に細胞質FGF19染色が見られる腫瘍を、FGF19高群に分類した。残りの腫瘍はFGF19低群に分類した。
【0082】
統計分析
すべてのデータは、平均±標準偏差(SD)として棒グラフで、または中央の水平バーが平均値を示すドットプロットで表示される。スチューデントのt検定またはマンホイットニーU検定を使用して統計分析を行い、それぞれパラメトリックまたはノンパラメトリック分布のペアになっていない群間の差異を評価した。一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くTukey-Kramer事後検定またはKruskal-Wallis検定を、それぞれパラメトリックまたはノンパラメトリック多重比較のために実行した。カテゴリーデータの分析には、カイ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定を使用した。相関は、ピアソンの積率相関係数を使用して評価した。カプラン・マイヤー法およびログランク検定を使用して、OS、無増悪生存期間(PFS)、および無再発生存期間(RFS)の違いを分析した。一変量コックス比例ハザード回帰モデルを使用して、OSの改善に関連する要因を分析した。血清バイオマーカーの診断性能を評価するために、受信者動作特性(ROC)曲線分析を行い、曲線下面積(AUC)を使用して予測検出力を評価した。カットオフ値はYoudenのJ統計(Cancer 1950;3:32-35)で決定した。それ以外の場合、使用する統計分析は図の凡例に示す。p値<0.05は、統計的有意性を示すと考えた。分析には、Windows版Prism ver.8.4.2(GraphPad Software、サンディエゴ、カリフォルニア州)およびJMP(登録商標)13(SAS Institute Inc.、ケアリー、ノースカロライナ州)を使用した。
【0083】
細胞株
ヒト肝がん細胞株Hep3Bは、American Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA)から購入した。Huh-7ヒト肝がん細胞株は、Japanese Cancer Research Resource Bank(JCRB、茨城、日本)から入手した。これらの細胞株は、10%ウシ胎児血清および抗生物質を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)またはRPMI-1640培地で培養した。すべての細胞に病原体やマイコプラズマが含まれていないことを確認した。
【0084】
細胞株の質量分析
標準的な細胞培養中のアミノ酸による安定同位体標識(SILAC)プロトコルに従ってHep3BおよびHuH7細胞を、10%透析FBSおよび重同位体13C6-L-リジン-2HClおよび13C6-L-アルギニン-2HClまたは軽同位体L-リジン-2HClおよびL-アルギニン-2HClを含むDMEMで10継代、培養した(Nat Protoc 2006;1:2650-60)。メーカーの指示に従って、RNAiMAXを用いて細胞を最終濃度10nMのsiRNAでトランスフェクトした。以下のsiRNAを使用した:siControl(Thermo Fisher Scientific、4390844)およびsiFGF19(Thermo Fisher Scientific、s19354)。siRNAトランスフェクションの48時間後、培地を0.1%FBSを含む新鮮な培地に交換した。インキュベーションの48時間後に条件培地を回収し、1,500rpmで遠心分離して細胞破片を除去し、0.22μmフィルター(Promega、Madison、WI)で濾過し、Amicon Ultra-15(公称分画分子量(NMWL):3,000、メルク、ヘッセン、ドイツ)で約10倍に濃縮した。全細胞抽出物を得るために、2x107個の細胞を、cOmplete Protease Inhibitor Cocktail(ロシュ・ダイアグノスティックス、バーゼル、スイス)を添加した1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および50mM重炭酸アンモニウム(ABC)を含む1mlのPBSで溶解し、95℃で5分間煮沸した。条件培地および全細胞抽出物中のタンパク質濃度は、界面活性剤対応(DC)タンパク質アッセイ(Bio-Rad Laboratories、バークレー、カリフォルニア州)によって決定した。
【0085】
等量の軽同位体標識サンプルおよび重同位体標識サンプルを混合し、メタノール-クロロホルムで沈殿させた。次に、サンプルを8M尿素で再溶解し、15分間超音波処理した。各サンプルの150マイクログラムを50mM ABCで4倍に希釈し、トリプシン(トリプシン量:タンパク質重量、1:50)で37℃で18時間消化した。トリプシン消化ペプチドを1%トリフルオロ酢酸(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation、大阪、日本)で酸性化し、Oasis(登録商標)HLBカラム(Waters、Milford、MA)を使用して脱塩した。
【0086】
ペプチド(100μg)を、LC-20AB機器(島津、京都、日本)で高pH逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)を行い、分取した。ペプチドの分離は、0.2μml/分の流速で、5μm粒子を含むL-column3 C18分析カラム(CERI)で行った。溶媒は、2%アセトニトリルおよび5mM ABC(pH10)を移動相Aとして、90%アセトニトリルおよび5mM ABC(pH10)を移動相Bとして調製した。分離は、次の線形勾配で行った:1分で1%Bから7%B、22分間で7%Bから27%B、6分間で27%Bから45%B、1分間で45%Bから95%B。サンプルを34個のフラクションに分け、最終的に非連続となるように15のプールにグループ化した。
【0087】
プールは、UltiMate 3000 RSLCnano LCシステム(Thermo Fisher Scientific)と組み合わせたQ Exactive質量分析計(Thermo Fisher Scientific)を使用してLC-MS/MSで分析した。ナノエレクトロスプレーイオン源を備えた分析カラムとして、ナノHPLCキャピラリーカラム(内径150mm×75μm;日京テクノス、東京、日本)を使用した。RPLCは、0.1%ギ酸中5%から40%のアセトニトリルの直線勾配で、300nl/minの流速で行った。MS1サーベイのフルスキャンスペクトルを、400~1600m/zの範囲で取得した。MS1スキャンあたり20の最も強いイオンを、コリジョンセル内の高エネルギーコリジョン解離によるフラグメンテーションのために選択した。
【0088】
取得した質量分析データを、Andromeda検索エンジンでサポートされているMaxQuantバージョン1.5.7.0を使用して処理した(Nat Biotechnol 2008;26:1367-72)。タンデム質量スペクトルを、262の一般的な不純物を組み合わせたUniProtから取得したヒトタンパク質(2019年4月リリース)のデータベースに対して検索した。重同位体の取り込みを考慮するために、リジンおよびアルギニン残基について6.020129の付加質量単位の固定修飾をデータベース検索で使用した。ペプチド同定のために、検索基準を次のように設定した:トリプシン特異性、プロリン結合でのアルギニンまたはリジンのC末端の切断の許容、最大2つの切断ミスの許容、固定修飾としてシステイン残基のカルバミドメチル化、および可変修飾としてメチオニン酸化。タンパク質およびペプチドの同定の誤発見率は、0.01未満であった。リバースデータベースおよび潜在的な不純物データベースで特定されたペプチドは、除外した。
【0089】
siRNAトランスフェクション
以前記載したとおりにLipofectamine RNAiMAX Reagent(Thermo Fisher Scientific)およびOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific)とともにsiRNA(s19353、s19354、またはs19355、Thermo Fisher Scientific)またはネガティブコントロールsiRNA(4404020、Thermo Fisher Scientific)を使用して、HCC細胞でFGF19をノックダウンした(Suemura ら、CRISPR Loss-of-Function Screen Identifies the Hippo Signaling Pathway as the Mediator of Regorafenib Efficacy in Hepatocellular Carcinoma. Cancers (Basel) 2019;11)。
【0090】
リアルタイムPCR分析
全RNAを組織または細胞から単離し、以前に記載しているようにcDNAに逆転写した(Cell Death Differ 2019;26:470-86)。mRNAの発現を、THUNDERBIRD RT-qPCR master mix(東洋紡、大阪、日本)およびTaqManプローブ(Thermo Fisher Scientific)を使用した定量的リアルタイム逆転写PCR(RT-qPCR)で測定した。標的遺伝子発現を、ベータアクチン発現に正規化し、コントロール群のレベルと比較した倍数増加として提示する。
【0091】
(結果)
ST6GAL1は、HCCにおいてFGF19によって正の制御を受ける腫瘍由来の分泌タンパク質である
次に、FGF19によって推進されるHCCの血清バイオマーカーを特定するために、腫瘍由来の分泌タンパク質を調べた。このために、FGF19ノックダウンあり、またはなしのFGF19発現Hep3BおよびHuh7 HCC細胞を使用して、細胞培養液中のアミノ酸による安定同位体標識(SILAC)ベースの細胞プロテオーム解析およびセクレトミック解析を行った(
図1)。
【0092】
その結果、FGF19ノックダウンにより発現が低下または増加した(2倍以上)タンパク質を以下に示す。なお、FGF19ノックダウン試料において検出されず、対応する非ノックダウン試料において検出されたタンパク質は低下とみなし、FGF19ノックダウン試料において検出され、対応する非ノックダウン試料において検出されなかったタンパク質は増加とみなした。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【表5-8】
【表5-9】
【表5-10】
【表5-11】
【表5-12】
【表5-13】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表6-4】
【0093】
以下のタンパク質は、Hep3B細胞およびHuh7細胞の両方のセクレトーム分析において共通してFGF19ノックダウンにより発現が低下した。
A1BG、A2M、ACSL4、AGRN、AHSG、APLP2、APOA2、APOC1、APP、ARID1B、ATP6AP2、B3GAT2、CCL15、CCL20、CLSTN3、CLU、CP、CTGF、DNAJB11、EXTL2、F2、F5、FGA、FGL1、FST、FURIN、GBA、GCNT2、GDF15、GPR126、HNRNPA3、ICAM1、LDLR、LGALS3BP、LRG1、LYZ、MAN1A1、MEP1A、NTS、ORM1、PCOLCE2、PPT1、PROS1、SDC4、SDCBP、SERPINA10、SERPINA3、SERPINE1、SERPINI1、SPOCK2、SPTBN4、ST6GAL1、STC2、TFPI、TFRC、TNFRSF11B、TOR1B、TTR、UXS1、VWA1
【0094】
以下のタンパク質は、Hep3B細胞およびHuh7細胞の両方のホールプロテオーム分析において共通してFGF19ノックダウンにより発現が低下した。
ANLN、ANXA1、ARMCX1、ATP1A4、CCL20、CTGF、DYNLL2、FIBP、FYTTD1、GDF15、H2AFX、HMCES、HSPA13、IFRD1、INPP1、IREB2、ITGA2、MAP2K3、NT5E、ORM1、PARS2、PSME4、RNF126、RNF170、SERPINI1、SIL1、SLC7A1、SLC7A11、SMG6、ST6GAL1、SUGP2、THBS4、TMPO、TUBE1、UBE2B、VAMP3(VAMP2)、YIPF4
【0095】
以下のタンパク質は、4種類の試料全てにおいて共通してFGF19ノックダウンにより発現が増加した。
ACTG1、ALDH9A1、ANPEP、CDH6、COL18A1、DCD、FLNC、FSCN1、GSTM2、GSTM3、HIST1H4A、HIST2H3A、HPX、HSPB1、IL1RAP、S100A7、TLN1、YWHAH
【0096】
4種類の試料全てにおいて共通してFGF19ノックダウンにより発現が低下したタンパク質としてCTGF、CCL20、GDF15、ST6GAL1、ORM1、およびSERPINI1を同定した。これらの発現は、FGF19がsiRNAで発現抑制されたときに、2つの細胞株のライセートおよび上清の両方で減少した(
図2)。次に、siRNAでFGF19を阻害した場合の6つの各遺伝子の発現レベルを評価したところ、CTGF、GDF15、およびST6GAL1は、2種類のsiRNAによるFGF19ノックダウンによって大幅にダウンレギュレートされることを確認した(
図3)。FGF19の遺伝子発現と、HCC細胞株およびヒトHCC組織における2つの分泌タンパク質の遺伝子発現との間の相関をさらに評価した。FGF19レベルは、ST6GAL1レベルと有意に相関したが、9つのヒト肝癌細胞株(
図4)およびTCGAコホート由来のHCC組織(
図5)においてGDF15レベルとは相関しなかった。まとめると、HCCにおいて分泌タンパク質ST6GAL1がFGF19と最も正の相関があるタンパク質であることが示された。したがって、ST6GAL1はFGF19推進性HCCの代替血清マーカーとなり得る。
【0097】
血清ST6GAL1は、FGF19推進性の高悪性HCCのバイオマーカーである
次に、治療的外科的切除を受けた62名のHCC患者において血清ST6GAL1レベルと腫瘍FGF19発現との関連を調査した。
【0098】
免疫組織化学分析により、HCC患者の約4分の1が腫瘍細胞で高レベルのFGF19発現を示していた。FGF19高HCC患者は治療的切除後に有意に進行した疾患および短いRFSを示し(
図5)、これはFGF19高HCCが非常に悪性であることを示唆しており、以前の報告(Dig Dis Sci 2013;58:1916-1922)と一致している。血清ST6GAL1レベルは、FGF19低HCC患者よりもFGF19高HCC患者で有意に高かった(
図6)。さらに、Youdenインデックスによって決定した19.1ng/mlのカットオフ血清ST6GAL1値を使用すると、FGF19高HCCの患者が、高い感度および特異性で識別された(
図7)。さらに、血清ST6GAL1レベルは、腫瘍の大きさおよび病期と正の相関があり(
図8)、高血清ST6GAL1レベルの患者は、低レベルの患者よりもRFSが有意に短かった(
図9)。対照的に、腫瘍部位の血清FGF19レベルは、FGF19高HCC患者およびFGF19低HCC患者の間で差がなく、群の識別に使用できなかった(
図10)。さらに、血清FGF19レベルは、HCC患者の病期ともRFSとも相関しなかった(
図11)。以上の結果から、ST6GAL1は、高い悪性度を示すFGF19発現HCC患者を同定するための信頼性の高い血清バイオマーカーであることが明らかになった。
【0099】
血清ST6GAL1はレンバチニブ感受性HCCのバイオマーカーである
FGF19推進性HCCが高いレンバチニブ感受性を示すという実験的証拠に基づいて、ベースライン血清ST6GAL1レベルもHCC患者のレンバチニブ感受性の予測に有用なバイオマーカーになると仮定した。この仮説を検証するために、レンバチニブまたはソラフェニブ処理をのちに受けた96名の進行HCC患者の処置前の血清ST6GAL1レベルを調べ、予後との関連を分析した。レンバチニブ処置患者とソラフェニブ処置患者との間で血清ST6GAL1レベルにも(
図12)、OSにも(
図13A)差はなかった。次に、FGF19高HCCの同定に使用したカットオフ血清ST6GAL1レベルに基づいて、患者をST6GAL1高とST6GAL1低の群に分けた。血清ST6GAL1レベルが低い62名のHCC患者において、OSは、レンバチニブ処置患者とソラフェニブ処置患者との間で差はなかった(
図13B)。他方、血清ST6GAL1レベルが高い34名のHCC患者の間で、レンバチニブ処置患者は、ソラフェニブ処置患者よりも有意に長いOSを示した(
図13C)。Child-Pughスコア、バルセロナ臨床肝がん(BCLC)ステージ、および血清アルファフェトタンパク質(AFP)レベルに加えて、レンバチニブ治療処理はまた、一変量コックス比例ハザード分析により、ST6GAL1高群におけるOS改善の予測因子の1つとして特定された(表7)。
【表7】
【0100】
以上の結果から、臨床観察は、ST6GAL1が、レンバチニブ療法がソラフェニブ療法よりも優れた生存利益を提供するHCC患者を選択するのに役立つ可能性があることを示唆している。なお、ST6GAL1の発現に基づいて層別化した対象にレンバチニブが有効であるのは、主に、レンバチニブのFGFR4阻害活性によるものであると予想される。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示は、FGF19の発現と相関するバイオマーカーを提供する。この知見に基づき、患者に過度の負担をかけることなく癌などの状態(例えば、薬剤感受性)を評価する新たな手法が提供される。