(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】機能性膜、機能性膜積層体、機能性膜形成用組成物、機能性膜形成用組成物の製造方法及び機能性膜積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/04 20060101AFI20240424BHJP
C01B 33/113 20060101ALI20240424BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20240424BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20240424BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20240424BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240424BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240424BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240424BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240424BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20240424BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20240424BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C01G23/04 C
C01B33/113 A
C09D1/00
C09D5/24
C09D5/32
C09D7/20
C09D7/61
C09D7/63
C23C26/00 C
H01B1/24 A
H01B5/14 A
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
(21)【出願番号】P 2021542860
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031716
(87)【国際公開番号】W WO2021039669
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2019156070
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月23日 https://www.mdpi.com/1996-1944/12/3/348にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光史
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕己
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-125579(JP,A)
【文献】特開2007-070202(JP,A)
【文献】特開2013-022799(JP,A)
【文献】特開2013-012481(JP,A)
【文献】特開2014-088291(JP,A)
【文献】特開2012-211068(JP,A)
【文献】特開平11-029759(JP,A)
【文献】V. TIRON et al.,“Reactive multi-pulse HiPIMS deposition of oxygen-deficient TiOx thin films”,Thin Solid Films,2016年02月16日,Vol. 603,p.255-261,DOI: 10.1016/j.tsf.2016.02.025
【文献】C. A. TRIANA et al.,“Optical absorption and small-polaron hopping in oxygen deficient and lithium-ion-intercalated amorphous titanium oxide films”,Journal of Applied Physics,2016年01月04日,Vol. 119, No. 1,DOI: 10.1063/1.4939091
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04
B32B 9/00
C01B 33/113
C23C 26/00
C09D 1/00
C09D 5/24
C09D 7/61
C09D 7/20
C09D 7/63
C09D 5/32
H01B 1/24
H01B 5/14
H01B 13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質酸化チタンを含
む塗膜である機能性膜であって、
前記機能性膜に含まれるチタン原子1モルに対する酸素原子の含有量が、0.5モル~1.9モルの範囲であり、
波長254nmの紫外光、強度:4mW/cm
2、照射時間:10分の条件で紫外線照射した後、25℃において測定した表面の純水接触角が10°以下である機能性膜。
【請求項2】
波長350nm以下の紫外線透過率が10%以下であり、波長350nmを超え400nm以下の近紫外線透過率が80%未満であり、且つ、波長400nmを超え750nm以下の可視光透過率が80%以上である請求項1に記載の機能性膜。
【請求項3】
非晶質酸化チタンを含む機能性膜であって、
前記機能性膜に含まれるチタン原子1モルに対する酸素原子の含有量が、0.5モル~1.9モルの範囲であり、
波長254nmの紫外光、強度:4mW/cm
2
、照射時間:10分の条件で紫外線照射した後、25℃において測定した表面の純水接触角が10°以下であり、
さらに、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、及び導電性金属粒子からなる群より選択される導電性材料を、機能性膜に含まれるチタン1質量部に対し、0.1質量部~10質量部含み、
四探針法により測定した電気抵抗値が、10
6Ωcm以下であ
る機能性膜。
【請求項4】
波長350nm以下の紫外線透過率が10%以下であり、波長350nmを超え400nm以下の近紫外線透過率が80%未満であり、且つ、波長400nmを超え750nm以下の可視光透過率が80%以上である請求項3に記載の機能性膜。
【請求項5】
アニオン性ケイ素錯体を含む機能性膜形成用組成物の塗膜
に、紫外線を照射して得られる非晶質酸化ケイ素を
含む機能性膜であって、
前記機能性膜に含まれるケイ素原子1モルに対する酸素原子の含有量が、1.0モル以上2.0モル未満の範囲であり、
膜厚が10nm~1μmの範囲である機能性膜。
【請求項6】
前記機能性膜が、さらに、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、及び導電性金属粒子からなる群より選択される導電性材料を、機能性膜に含まれるケイ素1質量部に対し、0.1質量部~10質量部含み、
四探針法により測定した電気抵抗値が、10
6Ωcm以下である請求項
5に記載の機能性膜。
【請求項7】
前記機能性膜が、さらに、リチウム化合物を含み、リチウム固体電解質膜である請求項
5に記載の機能性膜。
【請求項8】
フッ素ドープ酸化スズ基材、インジウムドープ酸化スズ基材、樹脂基材、青板ガラス基材、金属基材、及びセラミックス基材からなる群より選択される基材と、
前記基材上に、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の機能性膜と、を有する機能性膜積層体。
【請求項9】
アルコールを含む溶媒と、シュウ酸を配位子とするアニオン性チタン錯体又はシュウ酸を配位子とするアニオン性ケイ素錯体と、を含
み、
非晶質酸化チタン又は非晶質酸化ケイ素を含む機能性膜形成用である機能性膜形成用組成物。
【請求項10】
アルコールを含む溶媒と、シュウ酸化合物より選択される少なくとも1種と、チタン化合物又は酸化ケイ素化合物とを混合して混合物を得る工
程、
得られた混合物に、水又は過酸化水素を加えて、還流し、シュウ酸を配位子とするアニオン性チタン錯体又はシュウ酸を配位子とするアニオン性ケイ素錯体を生成
して非晶質酸化チタン又は非晶質酸化ケイ素を含む機能性膜形成用組成物
を製造する工程、
得られた機能性膜形成用組成物を基材に付与して、機能性膜形成用組成物層を形成する工程、及び、
基材上に形成された前記機能性膜形成用組成物層に紫外線を照射して、機能性膜形成用組成物から有機物を除去し、非晶質酸化チタン又は非晶質酸化ケイ素を含む機能性膜を得る工程を含む機能性膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機能性膜、機能性膜積層体、機能性膜形成用組成物、機能性膜形成用組成物の製造方法及び機能性膜積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に対して、表面に親水性を付与する、ガラス等の硬質基材表面を保護する、所望の波長の紫外線を遮蔽する、電気伝導性を付与する等の機能を与える機能性膜が種々検討されている。
例えば、車両の窓、建造物の窓、鏡、建造物の外壁等に親水性を付与することで、基材表面にセルフクリーニング性、くもり防止等の効果を有する機能性膜とすることができる。
また、機能性膜の一つとして、透明導電性膜が種々開発されている。導電性膜の形成には加熱処理が必要とされる場合が多く、加熱に適さない樹脂基板、加熱に適さないカーボンナノチューブ等の導電性材料、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のリチウム固体電解質原料等は使用し難く、加熱処理を必要としない機能性膜の製造方法が求められている。
【0003】
導電性膜に有用な金属膜及び金属酸化物膜の形成方法は、気相法と湿式法に大別され、いずれも金属原子を含む薄膜を形成しうる。気相法は、大がかりな設備を必要とすることから、低コストで、所望の面積の膜を必要とする汎用の金属膜及び金属酸化物膜の製造には適さないため、湿式法が注目される。
なかでも、湿式法の一つである分子プレカーサー法が注目されている。
【0004】
分子プレカーサー法によれば、塗布に好適な溶媒と、その溶媒に可溶な金属錯体とを含むプレカーサー溶液を用いて、塗布法により基材上に金属を含有する膜を形成することができる。このため、メッキ法の如き他の湿式法によって基材上に金属膜を析出させる方法に比較して、金属膜の組成、基材等の選択の自由度が高い。
プレカーサー法を用いた金属膜の形成方法として、特定のカチオン性金属錯体を含む金属膜形成用組成物を付与し、加熱して金属膜を形成する方法が開示され、加熱に代えて、エネルギー付与に紫外線を用いることが記載されている(国際公開第2017/135330号参照)。
親水性膜として、親水性の防曇塗膜形成に有用な、金属酸化物とポリオキシアルキレングリコール等の親水性化合物とを含み、表面の元素分析において、C元素と、金属酸化物由来の金属元素に対する元素濃度比が10以上の塗膜が提案されている。光触媒反応に起因する親水性を付与する金属酸化物として、アナターゼ型、ルチル型、及びブルッカイト型の酸化チタンが好ましい例として挙げられている(特開2018-172566号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
国際公開第2017/135330号に記載の技術は、緻密な金属膜及び金属酸化物膜の形成に有用である。しかし、国際公開第2017/135330号に記載の方法によっても、金属錯体を含む金属膜形成用組成物から金属膜を形成するには、ある程度の加熱が必要である。また、紫外線による硬化膜の形成についての言及はあるが、その詳細、及び得られた硬化膜の物性の検討まではなされていないのが現状である。
【0006】
特開2018-172566号公報に記載の塗膜及びコーティング組成物は、硬質基材に防曇膜を形成するのに有用ではある。しかし、膜形成を親水性化合物及び好ましくは親水性化合物と併用されるイソシアネート化合物に依存することから、塗膜の強度、及び耐久性には、なお改良の余地がある。
【0007】
本発明のある実施形態の課題は、親水性、表面保護性、紫外線吸収性などの機能を有する機能性膜、基材上に機能性膜を備える機能性膜積層体及び機能性膜積層体の製造方法を提供することである。
本発明の別の実施形態の課題は、機能性膜の形成に有用な錯体化合物を含む機能性膜形成用組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の実施形態を含む。
<1> 非晶質酸化チタンを含む機能性膜であって、前記機能性膜に含まれるチタン原子1モルに対する酸素原子の含有量が、0.5モル~1.9モルの範囲である機能性膜。
<2> 波長254nmの紫外光、強度:4mW/cm2、照射時間:10分の条件で紫外線照射した後、25℃において測定した表面の純水接触角が10°以下である<1>に記載の機能性膜。
<3> 波長350nm以下の紫外線透過率が10%以下であり、波長350nmを超え400nm以下の近紫外線透過率が80%未満であり、且つ、波長400nmを超え750nm以下の可視光透過率が80%以上である<1>又は<2>に記載の機能性膜。
【0009】
<4> 非晶質酸化ケイ素を含む機能性膜であって、前記機能性膜に含まれるケイ素原子1モルに対する酸素原子の含有量が、1.0モル以上2.0モル未満の範囲である機能性膜。
<5> 基材の保護膜である<4>に記載の機能性膜。
【0010】
<6> さらに、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、及び導電性金属粒子からなる群より選択される導電性材料を、機能性膜に含まれるチタン又はケイ素1質量部に対し、0.1質量部~10質量部含み、四探針法により測定した電気伝導性が、106Ωcm以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載の機能性膜。
<7> さらに、リチウム化合物を含み、リチウム固体電解質膜である<4>に記載の機能性膜。
【0011】
<8> 基材と、前記基材上に、<1>~<7>のいずれか1つに記載の機能性膜と、を有する機能性膜積層体。
<9> 前記基材がフッ素ドープ酸化スズ基材、インジウムドープ酸化スズ基材、樹脂基材、青板ガラス基材、金属基材、及びセラミックス基材からなる群より選択される基材である<8>に記載の機能性膜積層体。
【0012】
<10> アルコールを含む溶媒と、アニオン性チタン錯体又はアニオン性ケイ素錯体と、を含む機能性膜形成用組成物。
<11> 前記アニオン性チタン錯体又はアニオン性ケイ素錯体は、シュウ酸又はエチレンジアミン四酢酸を配位子とする錯体である<10>に記載の機能性膜形成用組成物。
【0013】
<12> アルコールを含む溶媒と、シュウ酸化合物、アミン化合物及びアミノカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種と、チタン化合物又は酸化ケイ素化合物とを混合して混合物を得る工程、及び、得られた混合物に、水又は過酸化水素を加えて、還流する工程を含む機能性膜形成用組成物の製造方法。
<13> <10>又は<11>に記載の機能性膜形成用組成物を基材に付与して、機能性膜形成用組成物層を形成する工程、及び、基材上に形成された前記機能性膜形成用組成物層に紫外線を照射して、機能性膜形成用組成物から有機物を除去し、機能性膜を得る工程、を含む機能性膜積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のある実施形態によれば、親水性、表面保護性、紫外線吸収性などの機能を有する機能性膜、基材上に機能性膜を備える機能性膜積層体及び機能性膜積層体の製造方法を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、機能性膜の形成に有用な錯体化合物を含む機能性膜形成用組成物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で得た機能性膜(I)形成用組成物の吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図2】石英ガラス基板(対照例)、実施例1で得た、石英ガラス基板上に、それぞれ機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、又は機能性膜I
16が形成された積層体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図3】機能性膜(I)形成用組成物層、機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16のX線回折法(X-ray diffraction:XRD)にて得られたXRDパターンを示すグラフである。
【
図4】実施例1で得た機能性膜(I)のFE-SEMで観察した表面像及び断面像であり、(a)は機能性膜I
2の表面像及び断面像であり、(b)は機能性膜I
4の表面像及び断面像であり、(c)は機能性膜I
8の表面像及び断面像であり、(d)は機能性膜I
16の表面像及び断面像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の機能性膜、機能性膜積層体、機能性膜形成用組成物、機能性膜形成用組成物の製造方法及び機能性膜積層体の製造方法について、具体的な実施形態を挙げて詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されず、その主旨に反しない限りにおいて、種々の変型例により実施することができる。
【0017】
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0018】
<機能性膜>
〔1.機能性膜:第1の態様〕
本開示の機能性膜の第1の態様は、非晶質酸化チタンを含む機能性膜であって、前記機能性膜に含まれるチタン原子1モルに対する酸素原子の含有量が、0.5モル~1.9モルの範囲である。
以下、非晶質酸化チタンを含む、本開示の機能性膜の第1の態様を、本開示の機能性膜(I)と称することがある。
本開示の機能性膜(I)に含まれるチタン原子1モルに対する酸素原子の含有量は、0.5モル~1.9モルの範囲であり、1.0モル~1.7モルの範囲が好ましく、1.2モル~1.7モルの範囲がより好ましい。
なお、機能性膜(I)中に含まれるチタン原子と酸素原子とのモル比は、以下の実施例で詳述するように、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により分析し、XPSスペクトルから算出することができる。
【0019】
チタン原子1モルに対する酸素原子の含有量が0.5モル未満の場合、均一な膜の製造が困難である。
なお、公知の二酸化チタン膜におけるチタン原子1モルに対する酸素原子の含有量は2.0である。本開示の機能性膜(I)は、チタン原子1モルに対する酸素原子の含有量を1.9モル以下とすることで、良好な親水性、及び紫外線吸収性を発現する。一方、チタン原子1モルに対する酸素原子の含有量が、1.9モルを超えると、非晶質酸化チタンを含む金属膜であっても、本開示の機能性膜(I)の如き高い親水性を発現し難くなる。
後述のように、本開示の機能性膜(I)は、アニオン性チタン錯体を含む機能性膜(I)形成用組成物からなる機能性膜前駆体層に紫外線を照射することにより形成することが好ましい。紫外線照射により、機能性膜前駆体層から機能性膜となる際に、反応により酸素が除去され易くなり、機能性膜(I)中では、チタン原子1モルに対する酸素原子の含有量は、一般的な二酸化チタン膜よりも小さくなる。その結果、機能性膜(I)中のチタン原子は、酸素が除去されてできた、結合に関与しない電子(不対電子)で占められた結合手(タングリングボンド)を有することになる。機能性膜(I)は、チタン原子が有するタングリングボンドに起因して、水と結合しやすくなり、一般的な二酸化チタン膜に比較して、より高い親水性を示すと考えられる。
機能性膜(I)は、波長254nmの紫外光、強度:4mW/cm2、照射時間:10分の条件で紫外線照射した後、25℃において測定した表面の純水接触角が10°以下である機能性膜であることが好ましい。
機能性膜表面の純水接触角の測定方法については、後述する。
【0020】
〔2.機能性膜形成用組成物:第1の態様〕
本開示においては、機能性膜(I)を形成するための組成物を、以下、機能性膜(I)形成用組成物と称する。機能性膜(I)形成用組成物は、アルコールを含む溶媒と、アニオン性チタン錯体と、を含み、所望によりその他の成分を含んでもよい。
アニオン性チタン錯体は、シュウ酸又はエチレンジアミン四酢酸を配位子とする錯体であることが、紫外線照射時の光分解性がより良好であるという観点から好ましい。
【0021】
〔3.機能性膜(I)形成用組成物の製造方法〕
機能性膜(I)形成用組成物は、アルコールを含む溶媒と、シュウ酸化合物、アミン化合物及びアミノカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種と、チタン化合物とを混合して混合物を得る工程、及び、得られた混合物に、水又は過酸化水素を加えて、還流する工程、を含む機能性膜形成用組成物の製造方法により得られる。
機能性膜(I)形成用組成物の製造方法に用いられる混合物は、例えば、アルコールを含む溶媒に、シュウ酸、シュウ酸二水和物等のシュウ酸化合物と、チタンテトライソプロポキシド等のチタン化合物を、混合して得ることができる。
溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1~5のアルコール、水、エーテル等が挙げられ、得られる機能性膜(I)形成用組成物の基材への塗布性がより良好であるという観点から、エタノールが好ましい。
【0022】
機能性膜(I)形成用組成物の一例を挙げれば、詳細には、例えば、エタノールなどのアルコールを含む溶媒に、シュウ酸二水和物の如きシュウ酸化合物を加え、また、所望によりブチルアミンの如きアミン化合物をさらに加え、0.5時間~2時間程度還流し、室温(25℃:以下、同様)まで冷却する。
その後、チタンテトライソプロポキシド等のチタン化合物を加え、さらに2時間~4時間、還流し、室温まで冷却して混合物を得る。
得られた混合物に、31質量%過酸化水素水を加えてさらに0.3時間~1時間、還流し、室温まで冷却することで、アニオン性チタン錯体であるシュウ酸を配位子とするチタン錯体を含む機能性膜(I)形成用組成物を得ることができる。
【0023】
得られた機能性膜(I)形成用組成物は、溶媒と、シュウ酸又はエチレンジアミン四酢酸を配位子とするチタン錯体とを含む。
シュウ酸を配位子とするチタン錯体は、以下の構造を示すと推定される。
【0024】
【0025】
なお、エチレンジアミン四酢酸を配位子とする錯体を得るためには、前記混合物を得る工程において、機能性膜(I)形成用組成物に含有させる前記シュウ酸化合物に代えて、エチレンジアミン四酢酸を用いればよい。
【0026】
〔4.機能性膜(I)積層体の製造方法〕
機能性膜(I)積層体の製造方法は、上記したアルコールを含む溶媒と、アニオン性チタン錯体とを含む機能性膜(I)形成用組成物を、基材に付与して、機能性膜形成用組成物層を形成する工程、及び、基材上に形成された前記機能性膜形成用組成物層に紫外線を照射して、機能性膜形成用組成物から有機物を除去し、機能性膜を得る工程を含む。
機能性膜(I)形成用組成物を、任意の基材に付与して、基材表面に形成した機能性膜(I)形成用組成物層を、以下、組成物層(I)と称することがある。基材上に形成された組成物層(I)に、紫外線を照射することで、組成物層(I)中の有機物等が除去され、基材表面に機能性膜(I)が形成されて、機能性膜(I)積層体を得ることができる。
【0027】
基材への機能性膜(I)形成用組成物の付与は、公知の方法、例えば、塗布法、浸漬法などにより行うことができる。均一な組成物層(I)を形成しやすいという観点からは、塗布法を適用することが好ましい。塗布法としては、スプレーコート、スピンコート等の公知の塗布法を適用できる。
得られた組成物層(I)は、紫外線照射に先だって、組成物層(I)に含まれる溶媒の量を減少させる目的で、組成物層(I)の乾燥を行ってもよい。乾燥は公知の方法で行うことができる。
乾燥方法としては、例えば、50℃~80℃の乾燥ゾーンで5分間~10分間乾燥する方法、温風を吹き付ける方法、室温での自然乾燥する方法などが挙げられ、組成物層(I)の均一性の観点からは、乾燥ゾーン内で乾燥する方法が好ましい。
【0028】
組成物層(I)に紫外線を照射することで、組成物層(I)に含まれる有機物が除去され、その結果、チタン錯体由来のチタンと酸素とを含む機能性膜が形成される。
紫外線の照射強度については、目的に応じて適宜選択することができる。有機物の除去に有効な紫外線照射条件としては、波長380nm以下の紫外線で、1mW/cm2(1mJ/cm2)以上とすることができる。紫外線としては、波長150nm~380nmの紫外線が好ましい。照射強度は、1mW/cm2以上とすることができ、3mW/cm2以上が好ましく、4mW/cm2以上がより好ましい。照射強度の上限値には特に制限はない。照射強度と、有機物の除去効果とを考慮すれば、10mW/cm2以下とすることができる。
紫外線照射は、例えば、以下に示す実施例では、波長254nmの紫外線(強度4mW/cm2:4mJ/cm2)を2時間~16時間に亘り照射して、良好な結果を得ている。
このように、低エネルギーの紫外線照射により、機能性膜を形成しうることも、本開示の機能性膜の製造方法の利点の一つである。
【0029】
紫外線照射中においては、基材の温度を30℃~40℃とすることが、機能性膜の製膜効率がより良好となるという観点から好ましい。
例えば、架橋剤を含む樹脂組成物を紫外線照射によって硬化させる際には、空気中の酸素による硬化阻害が懸念されるが、本開示の機能性膜(I)の製膜では、紫外線照射により、組成物層(I)に含まれる配位子成分、残存する溶媒由来の成分などの有機物を分解除去して金属を主成分とする膜を形成するため、酸素が存在する雰囲気下、例えば、大気中における紫外線照射が可能である。
【0030】
なお、機能性膜(I)への埃等の混入を防ぐため、紫外線照射は、クリーンベンチ等の清浄な空間で行うことも好ましい態様である。実験的に機能性膜(I)を形成する際には、殺菌灯を備えたクリーンベンチ内に、基材上に組成物層(I)を備えた積層体を配置し、殺菌灯を用いて紫外線を照射してもよい。クリーンベンチ内の湿度は、帯電防止性などを考慮すれば、40%RH~60%RHの範囲であることが好ましい。
【0031】
〔5.機能性膜(I)形成用組成物及び機能性膜(I)の物性〕
機能性膜(I)形成用組成物は、溶媒に溶解して存在するシュウ酸を配位子とするアニオン性チタン錯体のチタンに起因して紫外線吸収能を有する。
シュウ酸を配位子とするアニオン性チタン(IV)錯体を含み、組成物中に含まれるTi4+の濃度を0.4mmol(ミリモル)/gとした、後述の実施例1で得た機能性膜(I)形成用組成物をエタノールで40倍に希釈した溶液の吸収スペクトルを測定したところ、波長350nm~550nmの範囲において、377nmに特徴的な吸収帯を有し、300nm以下の紫外線領域で強い吸収を有することがわかった。
このことから、機能性膜(I)形成用組成物を用いて得られる機能性膜(I)は、優れた紫外線遮蔽能を有することが期待できる。
【0032】
本開示の機能性膜(I)は、波長350nm以下の紫外線透過率が10%以下であり、波長350nmを超え400nm以下の近紫外線透過率が80%未満であり、且つ、波長400nmを超え750nm以下の可視光透過率が80%以上であることが好ましい。
機能性膜(I)の各波長の光透過率は、石英ガラスをリファレンスとして、日立製作所(株)、分光光度計(Hitachi U-2800:商品名)を用い、装置のダブルビームモードで200nm-1100nmの波長範囲を測定することで測定する。
本開示では、光透過率は、上記方法にて測定した値を用いる。
機能性膜(I)は、可視光線透過性が高く、目視にて透明であり、且つ、紫外線の遮断性が良好であることで、例えば、紫外線により劣化しやすい樹脂材料及び樹脂成形体を紫外線から保護することができ、外観及び色相への影響を与え難いため、樹脂成形体等の樹脂の紫外線保護膜として有用である。
【0033】
機能性膜(I)は、原料である酸化チタンを含む組成物層(I)が紫外線照射により非晶質チタニア膜となることで、良好な親水性を発現すると考えられる。
シュウ酸を配位子とするアニオン性チタン錯体を含む機能性膜(I)形成用組成物は、オキサラト配位子、ペルオキソ配位子、及びTi(IV)錯体のブチルアンモニウム塩を含み、機能性膜(I)形成用組成物からなる組成物層(I)に紫外線照射を照射することにより、非晶質チタニア膜となり、結晶性のTiO2が示す親水性と同等以上の高い親水性を示す。
紫外線照射により、組成物層(I)に含まれるシュウ酸を配位子とするアニオン性チタン錯体が効率的に分解して、錯体の配位子である有機成分が除去される。また、有機成分が除去されたチタン錯体に残存する酸素原子は、空気中に含まれる水からも酸素原子を奪って酸素(O2)となって、組成物層(I)中からが除去される。従って、組成物層(I)は、一般的なチタニア、即ち、二酸化チタンに比較して、チタン原子に対する酸素の含有量が少なくなり、例えば、二酸化チタンは、チタン原子1モルに対する酸素原子が2モルであるのに対し、チタン原子1モルに対する酸素原子の含有量が、0.5モル~1.9モルの範囲となる。
このため、組成物層(I)におけるチタン原子は、酸素が除去されてできた、結合に関与しない電子(不対電子)で占められた結合手(タングリングボンド)を有することになり、タングリングボンドに起因して、水と結合しやすくなり、一般的なチタニア膜に比較して、より高い親水性を示すと本発明者らは考えている。
【0034】
本発明者らの検討によれば、組成物層(I)に紫外線照射して得た機能性膜(I)について、波長254nmの紫外光、強度:4mW/cm2、照射時間:10分の条件で紫外線照射した後、25℃にて測定した表面の純水接触角は、10°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましい。
本開示において、純水接触角は、JIS R3257(1999年)に記載の方法に準拠して、接触角計を用いて、25℃にて測定する。本開示では、5回測定して得た値の算術平均値を純水接触角として採用している。
【0035】
〔6.機能性膜:第2の態様〕
本開示の機能性膜の第2の態様は、非晶質酸化ケイ素含む機能性膜であって、前記機能性膜に含まれるケイ素原子1モルに対する酸素原子の含有量が、1.0モル以上2.0モル未満の範囲である。ケイ素原子1モルに対する酸素原子の含有量は、1.0モル~1.95モルの範囲が好ましく、1.2モル~1.9モルの範囲がより好ましい。
【0036】
以下、非晶質酸化ケイ素を含む、本開示の機能性膜の第2の態様を、本開示の機能性膜(II)と称することがある。
機能性膜(II)は、基材の保護膜として有用である。
機能性膜(II)を保護膜として適用できる基材は、固体基材であれば特に制限はない。例えば、ガラス基材、セラミック基材、金属基材、樹脂基材、繊維強化樹脂基材、及び上記各材料の複合材料基材などのいずれにも、本開示の機能性膜(II)は適用できる。
また、機能性膜(II)は、塗布法により形成しうることから、樹脂成形体など、平板上ではない基材の保護膜として適用することもできる。
なかでも、機能性膜(II)は、機能性膜(II)中に含まれる非晶質ケイ素に起因して、ガラスなどのケイ素含有基材との密着性が良好である。
【0037】
前記非晶質酸化ケイ素膜が、さらにリチウム化合物を含むことで、機能性膜(II)は、リチウム固体電解質膜とすることができる。
リチウム化合物としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四塩化リチウム(LiCl4)、ヨウ化リチウム(LiI)等が挙げられる。
例えば、リチウム化合物として用いられるLiPF6は、耐熱性に乏しく、製膜に100℃以上の加熱を必要とする膜に含有させることは困難である。しかし、後述するように、本開示の機能性膜(II)は、常温にて紫外線照射することで製膜が可能であるため、LiPF6を安定に含有させることができ、純度の高いリチウム固体電解質膜となる。
なお、ここで、常温とは、加熱又は冷却などの温度制御を行わない環境温度を指す。本発明者らの検討によれば、機能性膜(II)は、例えば、10℃~40℃の範囲の温度条件下で紫外線照射することにより製膜できる。
機能性膜(II)が、LiPF6を含む場合の、機能性膜(II)におけるLiPF6の含有量は、目的に応じて適宜選択できる。なかでも、固体電解質としての機能の発現しやすさの観点からは、機能性膜(II)に含まれるケイ素原子1モルに対し、LiPF6を1モル~2モル含むことが好適である。
【0038】
〔7.機能性膜形成用組成物:第2の態様〕
機能性膜(II)を形成するための組成物を、以下、機能性膜(II)形成用組成物と称する。機能性膜(II)形成用組成物は、アルコールを含む溶媒と、アニオン性ケイ素錯体と、を含み、所望によりその他の成分を含んでもよい。
アニオン性ケイ素錯体は、シュウ酸を配位子とする錯体であることが、紫外線照射時の有機成分の光分解性がより良好であるという観点から好ましい。
【0039】
〔8.機能性膜(II)形成用組成物の製造方法〕
機能性膜(II)形成用組成物は、アルコールを含む溶媒と、シュウ酸化合物と、ケイ素化合物とを混合して混合物を得る工程、及び、得られた混合物に、水又は過酸化水素を加えて、還流する工程と、を含む。
機能性膜(II)形成用組成物は、例えば、アルコールを含む溶媒に、シュウ酸、シュウ酸二水和物等のシュウ酸化合物と、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等のケイ素化合物とを、添加、混合して混合物を得て、得られた混合物に水又は過酸化水素水を加えて還流することにより得ることができる。
機能性膜(II)形成用組成物の製造方法としては、詳細には、例えば、エタノールなどのアルコールを含む溶媒に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等のケイ素化合物とシュウ酸とを加え、0.5時間~2時間程度、還流し、室温(25℃:以下、同様)まで冷却して混合物を得ること、その後、得られた混合物に含まれる酸化ケイ素1質量部に対し、純水を1質量部加え、さらに0.5時間~2時間撹拌することを含む方法が挙げられる。このようにして、アニオン性ケイ素錯体を含む機能性膜(II)形成用組成物を得ることができる。
【0040】
得られた機能性膜(II)形成用組成物は、アルコールを含む溶媒と、シュウ酸を配位子とするケイ素錯体とを含む。
なお、既述のLiPF6等のチリウム化合物、又は、後述の導電性材料等の添加物を、機能性膜(II)形成用組成物に添加する場合には、例えば、TEOSとシュウ酸とを含む液を還流した後、添加して、撹拌を継続すればよい。
【0041】
〔9.機能性膜(II)積層体の製造方法〕
機能性膜(II)積層体の製造方法は、上記したアルコールを含む溶媒と、アニオン性ケイ素錯体と、を含む機能性膜(II)形成用組成物を、基材に付与して、機能性膜形成用組成物層を形成する工程、及び、基材上に形成された前記機能性膜形成用組成物層に紫外線を照射して、機能性膜形成用組成物から有機物を除去し、機能性膜を得る工程を含む。
機能性膜(II)形成用組成物を、任意の基材に付与して、基材表面に、機能性膜(II)形成用組成物層(以下、組成物層(II)と称することがある)を形成し、形成された機能性膜(II)形成用組成物層に、紫外線を照射することで、組成物層(II)中の有機物等が除去され、基材表面に機能性膜(II)が形成されて、基材と、基材上に形成された機能性膜(II)と、を有する機能性膜(II)積層体を得ることができる。
なお、機能性膜(II)の製造方法は、既述の機能性膜(I)において用いた機能性膜(I)形成用組成物に代えて、機能性膜(II)形成用組成物を用いる以外は同様に行うことができ、好ましい態様も同様である。
【0042】
〔10.機能性膜形成用組成物が含みうる他の成分)
本開示の機能性膜(I)形成用組成物及び機能性膜(II)形成用組成物は、それぞれ、アルコールを含む溶媒と、アニオン性チタン錯体又はアニオン性ケイ素錯体と、に加え、効果を損なわない限りにおいて、目的に応じて種々のその他の成分をさらに含むことができる。以下、機能性膜(I)形成用組成物及び機能性膜(II)形成用組成物の、双方又は少なくともいずれかを「機能性膜形成用組成物」と総称することがある。
その他の成分としては、既述のリチウム化合物の他、導電性材料、非導電性の無機粒子又は有機粒子、界面活性剤、イオン伝導体等が挙げられる。
【0043】
(導電性材料)
機能性膜形成用組成物が、導電性材料を含むことで、得られる機能性膜(I)又は機能性(II)に電気伝導性を与えることができる。
導電性材料は、公知の材料を制限なく使用することができる。導電性材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、及び導電性金属粒子からなる群より選択される1種又は2種以上の導電性材料が挙げられる。
機能性膜形成用組成物が導電性材料を含むことで、得られる機能性膜(I)又は機能性膜(II)は導電性を有する。導電性の目安としては、四探針法により測定した電気抵抗値が、106Ωcm以下であることが好ましい。
機能性膜(I)又は機能性膜(II)の電気抵抗値は、以下の方法で測定することができる。電気抵抗値が小さいほど、電気伝導性が良好であることを示す。
測定は、デジタルマルチメーター:岩崎通信機(株):旧岩通計測(株)製、VOAC7512及びKEITHLEY、Model2010 Multimeter(いずれも商品名)を用いて行なう。四探針法によって、5点計測し、測定値の最大値と最小値を除いた3点で平均値を算出して得た値を機能性膜(I)又は機能性膜(II)の電気抵抗値とする。
なお、四探針法によれば、導電性材料の体積抵抗率を測定することができる。より簡易な電気抵抗の測定方法に二端子法があり、二端子法では、2つの端子の間の抵抗値が測定される。四探針法は、4つの針が、それぞれ一対の電流端子と電圧端子の機能を果たすために、二端子法における如き、接触抵抗の影響を低減することができる。
一般に、二端子法による電気抵抗値は、接触抵抗の影響を受け、四探針法による電気抵抗値よりも値が大きくなる。従って、二端子法による電気抵抗値が106Ω以下であれば、四探針法による電気抵抗値はより低い値となるため、四探針法による電気抵抗値も106Ωcm以下であると推定できる。後述の実施例で電気抵抗値の測定に適用される二探針抵抗法は、測定端子が異なる以外は二端子法と略同義であり、測定結果もほぼ同様である。
【0044】
本開示の機能性膜(I)及び機能性膜(II)は、既述のように、常温にて紫外線照射のみにより、加熱を行うことなく製造できることから、導電性金属粒子等に加え、加熱により変質し易い導電性材料であるカーボンナノチューブ、カーボンブラック等も好適に使用することができる。
機能性膜形成用組成物が導電性材料を含む場合の導電性材料の含有量は、機能性膜形成用組成物が含むチタン原子又はケイ素原子1質量部に対し、0.1質量部~10質量部であることが好ましく、1質量部~5質量部であることがより好ましい。
【0045】
(界面活性剤)
機能性膜形成用組成物は、界面活性剤を含むことができる。機能性膜形成用組成物が、界面活性剤を含むことで組成物層(I)又は組成物層(II)の形成時に、塗布面状性を向上することができる。また、機能性膜形成用組成物が、既述の導電性材料などの固体成分を含有する場合、界面活性剤を含むことで固体成分の分散性がより向上する。
【0046】
〔11.機能性膜積層体〕
本開示の機能性膜積層体(以下、単に積層体と称することがある)は、基材と、前記基材上に、既述の機能性膜の少なくともいずれかと、を有する機能性膜積層体である。
即ち、本開示の積層体は、基材と、基材上に前記機能性膜(I)又は前記機能性膜(II)の少なくともいずれかと、を有する。
本開示の機能性膜(I)又は機能性膜(II)は、加熱を必要とせず、常温の紫外線照射のみで製造しうるため、機能性膜積層体における積層体は、金属基材などに加え、耐熱性の低い基材を用いて積層体とすることができる。
【0047】
(基材)
積層体の基材としては、特に制限は無く、無機基材、有機基材のいずれも使用することができる。
基材は、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)基板、インジウムドープ酸化スズ(ITO)基材、樹脂基材、青板ガラス基材、金属基材及びセラミックス基材からなる群より選択される基材とすることができる。
なかでも、耐熱性の低い基材として知られ、金属膜の形成が困難とされる、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)基材、インジウムドープ酸化スズ(ITO)基材、樹脂基材等を用いた場合に、本開示の効果が著しいと言える。
【0048】
本開示の機能性膜(I)は、可視光線透過率が良好で透明性に優れ、紫外線遮蔽性が高いことから、樹脂材料などの紫外線からの保護膜(紫外線保護膜)として有用である。
さらに、表面の親水性が良好であることから、防曇機能を必要とする種々の用途に適用することができる。なかでも、光透過性、樹脂の保護性、及び防曇性が良好であることから、車両のライト、屋外で用いる照明器具などの保護層として有用であり、その用途は広い。
【0049】
機能性膜(I)の膜厚は、目的に応じて適宜選択することができる。機能性膜(I)を、樹脂材料からなる成形体の紫外線保護膜に適用する場合には、例えば、10nm~1μmの範囲とすることができ、100nm~1μmの範囲が好ましい。機能性膜(I)を、透明性を必要とする紫外線保護膜に適用する場合には、例えば、10nm~1μmの範囲とすることができ、50nm~300nmの範囲が好ましい。
機能性膜(I)を、車両のライト、照明器具などに防曇機能を付与する用途に適用する場合には、例えば、10nm~1μmの範囲とすることができ、50nm~300nmの範囲が好ましい。
機能性膜の膜厚は、公知の方法で測定することができる。測定方法としては、エリプソメータ、反射分光式膜厚計等の非接触光学式測定方法、触針式段差計 三次元形状測定器、原子間力顕微鏡(AMF)、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission-Scanning Electron Microscope:FE-SEM)等の電子顕微による断面観察などの接触式測定方法などが挙げられる。
本開示では、膜の特性に応じて、FE-SEMにより断面を観察して測定する方法及び触針式段差計DEKTAK-3(Veeco社)を用いて測定する方法を採用している。
【0050】
本開示の機能性膜(II)は、可視光線透過率が良好で透明性に優れ、ガラス基材等の種々の基材との密着性が良好であるため、各種基材の保護膜として有用である。さらには、カーボンナノチューブなどの導電性材料を含む透明導電膜、LiPF6等のリチウム化合物を含むリチウム固体電解質膜等に応用することも可能である。
機能性膜(II)の膜厚は、目的に応じて適宜選択することができる。機能性膜(II)を、ガラス記載など、各種基材の保護膜に適用する場合には、例えば、10nm~1μmの範囲とすることができ、50nm~300nmの範囲が好ましい。機能性膜(II)を、透明等電膜に適用する場合には、例えば、10nm~1μmの範囲とすることができ、50nm~300nmの範囲が好ましい。
機能性膜(II)を、リチウム固体電解質膜用途に適用する場合には、例えば、10nm~1μmの範囲とすることができ、50nm~800nmの範囲が好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本開示の機能性膜をその製造方法とともに実施例を挙げて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に制限されず、その主旨を超えない限りにおいて種々の変型例にて実施することができる。
【0052】
〔実施例1〕
(機能性膜(I)形成用組成物の製造)
1.シュウ酸水素ブチルアンモニウム半水和物の合成
シュウ酸19.6g(156mmol(ミリモル))と、ブチルアミン11.4g(156mmol)とを、100mLのエタノールに加えて、1時間還流した。その溶液を室温まで冷却して生じた白色粉末を減圧ろ過して単離後、一晩(12時間)風乾させて、シュウ酸水素ブチルアンモニウム半水和物を得た。
【0053】
2.機能性(I)膜形成用組成物の調製
5.00gのエタノール中に、Ti(IV)イソプロポキシド1.13 g(3.96 mmol)と、前記で得られたシュウ酸水素ブチルアンモニウム半水和物1.37g(7.92mmol)とを加えて、3時間還流した。その後、溶液を室温まで冷却して混合物を得た。得られた混合物に、さらに、31質量%過酸化水素水0.44g(3.96mmol)を加えて0.5時間還流して、機能性膜(I)形成用組成物を得た。得られた機能性膜(I)形成用組成物のTi4+の濃度は、0.4mmol/gとした。
【0054】
(機能性膜(I)形成用組成物層の形成と、紫外線照射による機能性膜(I)の形成)
上記で得た機能性膜(I)形成用組成物100μL(マイクロリットル)を、マイクロピペットで、基材である石英ガラス基板(20×20mm2 )上に滴下した。
その後、2段階スピンコート法(第1段階:500rpm(回転/分、以下同様)で5秒、第2段階:2000rpmで30秒)により、機能性膜(I)形成用組成物層を石英ガラス基板上に形成した。形成された機能性膜(I)形成用組成物層を、70℃で10分間乾燥し、膜を形成した。
実施例においては、機能性膜(I)形成用組成物からなる乾燥後の膜であって、紫外線照射前の未硬化の膜を機能性膜前駆体層と称する。
その後、得られた機能性膜(I)形成用組成物からなる機能性膜前駆体層に対し、湿度40%RH~60%RHのクリーンベンチ内で、254nmの紫外光(強度:4mW/cm2)を、照射して機能性膜(I)を得た。なお、照射時間は、2時間、4時間、8時間及び16時間とした。紫外線照射時間に応じて、機能性膜(I)を、それぞれ、機能性膜I2、機能性膜I4、機能性膜I8、及び機能性膜I16とした。
【0055】
(機能性膜(I)形成用組成物と、各機能性膜(I)の評価)
1.機能性膜(I)形成用組成物の紫外線吸収性
得られた機能性膜(I)形成用組成物をエタノールで40倍に希釈した溶液の吸収スペクトルを測定した。
測定は、既述の分光光度計を用い、セルとして石英ガラスセルを用いて、光路長1mmにて行った。
結果を
図1に示す。
図1は、実施例1で得た機能性膜(I)形成用組成物の吸収スペクトルを示すグラフである。
図1に示すように、波長350nm~550nmの範囲で、中心波長377nmに特徴的な吸収帯が観察された。さらに紫外線領域(例えば、250nm~350nm)で強い吸収が観察された。一方、波長450nm以上においては吸収が低下し、550nm以上では、吸収が殆ど認められなかった。
このことから、機能性膜(I)形成用組成物は、紫外線吸収能を有し、波長450nm以上の可視光線透過率が良好であることがわかる。
【0056】
2.機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16の紫外線吸収性
石英ガラス基板上に、それぞれ機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、又は機能性膜I
16が形成された積層体の紫外線吸収性及び石英ガラス基板の紫外線吸収性を、上記と同様の装置で測定した。
結果を
図2に示す。
図2は、石英ガラス基板(対照例)、石英ガラス基板上に、それぞれ機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、又は機能性膜I
16が形成された機能性膜積層体の吸収スペクトルを示すグラフである。なお、参考例として、石英ガラス基板上に英形成した未効硬化の機能性膜前駆体層の吸収スペクトルを併記する。
図2中、対照例としての石英ガラス基板の吸収スペクトルを太実線で示す。また、参考例として、未硬化の機能性膜前駆体層の吸収スペクトルを細実線で示す。
【0057】
本開示の機能性膜(I)積層体である石英ガラス基板上に機能性膜I
2を有する積層体の吸収スペクトルを細破線で示し、機能性膜I
4を有する積層体の吸収スペクトルを太破線で示し、機能性膜I
8を有する積層体の吸収スペクトルを細一点破線で示し、機能性膜I
16を有する積層体の吸収スペクトルを太一点破線で示す。なお、
図2のグラフでは、機能性膜I
2を有する積層体と、機能性膜I
4を有する積層体との吸収スペクトルのグラフは、ほぼ重なっている。従って、太破線で示される機能性膜I
4を有する積層体の吸収スペクトルのグラフにより、機能性膜I
2を有する積層体の吸収スペクトルが確認される。
【0058】
図2に示すように、石英ガラス基板自体は、目視で透明であり、紫外~可視域の光透過性が良好であることがわかる。
本開示の機能性膜(I)を有する各積層体は、いずれも波長約275nmより短波長の紫外線領域の光を吸収し、可視光領域の波長の光透過率は80%を超えることが確認された。
参考例と、各機能性膜(I)積層体の吸収スペクトルとの対比より、機能性膜前駆体層に紫外線照射を行うことで短波長の紫外線吸収性を有する機能性膜(I)が得られることがわかる。
【0059】
また、各機能性膜(I)積層体の屈折率を、レーザーエリプソメーター(MARY-102:商品名、ファイブラボ(株))を用いて測定したところ、機能性膜I2積層体、機能性膜I4積層体、機能性膜I8積層体、及び機能性膜I16積層体のいずれも、屈折率は1.78~1.79の範囲であることが確認された。
【0060】
3.機能性膜(I)形成用組成物層と、機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16のXRDパターン
機能性膜(I)形成用組成物層(既述の、乾燥後であって、紫外線照射前の未硬化の膜である機能性膜前駆体層)と、機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16をX線回折法(X-ray diffraction:XRD)にて分析した。装置は以下に示すとおりである。
得られたXRDパターンを
図3に示す。対照例である石英ガラス基板のデータ(
図3中、「Quarts glass」と記載)を併記する。
図3中、F
0が機能性膜(I)形成用組成物層からなる機能性膜前駆体層のXRDパターンを表し、F
2が機能性膜I
2のXRDパターンを表し、F
4が機能性膜I
4のXRDパターンを表し、F
8が機能性膜I
8のXRDパターンを表し、及びF
16が機能性膜I
16のXRDパターンを表す。
図3に示すように、石英ガラス基板のハローピーク以外に明らかなピークは観察されなかったことから、機能性膜(I)形成用組成物層、機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16はいずれも非晶質であることがわかる。
【0061】
4、機能性膜I4のXPSスペクトルから算出した各元素の割合
機能性膜I4を、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により分析し、XPSスペクトルを以下の方法により測定した。
XPSスペクトルは、光電子分光装置 JPS-9030(商品名:日本電子(JEOL)(株)製)を用いて、X線源として、Mg Kα(1253.6 eV)線を用いて測定した。
分析結果より、機能性膜I4におけるXPSスペクトルにおいて、5つの元素:Ti、O、C、N、及びSiの各ピークエリアと感度因子から計算した相対的な元素の割合は、モル基準にて、Ti:12.0%、O:53.8%、C:32.5%、N:0.9%及びSi:0.9%である。また、結合エネルギー528.4eVのTi-O結合について、O/Tiの比率を計算すると約1.53であり、チタン原子1モルに対する酸素原子の含有量は1.53モルであった。
【0062】
5.機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16の膜厚及び膜硬度の評価
得られた機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16の表面及び側面を、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission-Scanning Electron Microscope:FE-SEM)で観察した。
図4は、実施例1で得た機能性膜(I)のFE-SEMで観察した表面像及び断面像であり、(a)は機能性膜I
2の表面像及び断面像であり、(b)は機能性膜I
4の表面像及び断面像であり、(c)は機能性膜I
8の表面像及び断面像であり、(d)は機能性膜I
16の表面像及び断面像である。
各機能性膜(I)の表面像からは、10nm~20nmのチタンを含む微粒子が緻密に充填しているのが観察され、表面像からはクラックの発生は確認されなかった。
断面像から測定した膜厚は、それぞれ、機能性膜I
2:170nm、機能性膜I
4:170nm、機能性膜I
8:160nm、及び機能性膜I
16:160nmであった。
また、機能性膜表面の鉛筆硬度は、機能性膜I
2、機能性膜I
4、機能性膜I
8、及び機能性膜I
16:のいずれも6Hであり、硬質な表面であることがわかった。
【0063】
6.機能性膜I2、機能性膜I4、機能性膜I8、及び機能性膜I16の純水接触角
既述の方法で、各機能性膜(I)の25℃における純水接触角を測定した。
測定は、紫外線照射前(機能性膜前駆体層)、紫外線照射(254nmの紫外光、強度:4mW/cm2、照射時間:10分)を行った直後(0hr)、紫外線照射後に1時間暗所中放置した後(1hr)に行った。
また、比較機能性膜として、二酸化チタン膜(Ti:Oのモル比が1:2)についても、同様に、機能性膜前駆体層及び紫外線照射直後の純水接触角を測定した。
また、1時間暗所中放置後、再度、同じ条件で紫外線照射し、その後、純水接触角を再度測定した(表には、「紫外線再照射直後」と記載)。結果を、下記表1に示す。
【0064】
【0065】
実施例1で得た機能性膜(I)はいずれも、比較機能性膜である二酸化チタン膜(Ti:O モル比が1:2)に比較して、親水性が良好であることがわかる。
また、機能性膜に、再度、紫外線照射を行うことにより、親水性が著しく向上することがわかる。即ち、各機能性膜を暗所中に放置すると、経時によりわずかに親水性が低下するが、再度、紫外線照射することで、親水性がより向上することがわかる。このため、本開示の機能性膜は、紫外線に暴露される環境に配置した場合、親水性が高い状態が継続されることが期待できる。
【0066】
〔実施例2〕
(機能性膜(II-CTN)形成用組成物の製造)
実施例2では、機能性膜(II)であって、カーボンナノチューブを含有する機能性膜を作製し、評価した。カーボンナノチューブを含む機能性膜(II)を機能性膜(II-CTN)と称し、機能性膜(II-CTN)を製造するための組成物を機能性膜(II-CTN)形成用組成物と称する。
【0067】
1.機能性膜(II-CTN)形成用組成物の調製
10.0gのエタノール中に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)1.3gと、シュウ酸1.1gとを加えて、1時間還流し、Si4+を0.5mmol/g含有するケイ酸錯体溶液を得た。
その後、得られたケイ酸錯体溶液に対し、純水で20倍に希釈したカーボンナノチューブの水分散液(MWCNT水溶液、MWNT-INKを、炭素(C)とケイ素(Si)との質量比が8:1となる量で加えて、機能性膜(II-CTN)形成用組成物を得た。即ち、得られた機能性膜(II-CTN)形成用組成物に含まれる炭素とSi4+との含有比率は、質量比でC:Si4+=8:1である。
【0068】
(機能性膜(II-CTN)形成用組成物層の形成と、紫外線照射による機能性膜(II-CTN)の形成)
上記で得た機能性膜(II-CTN)形成用組成物100μL(マイクロリットル)を、マイクロピペットで、基材である石英ガラス基板(20×20mm2 )上に滴下した。
その後、2段階スピンコート法(第1段階:500rpmで5秒、第2段階:2000rpmで30秒)で、機能性膜(II-CTN)形成用組成物層を石英ガラス基板上に形成し、70℃で10分間乾燥して、この機能性膜(II-CTN)前駆体層を形成した。
得られ機能性膜(II-CTN)前駆体層に、紫外線を、実施例1と同じ波長及び同じ強度で6時間照射して、機能性膜(II-CTN)を得た。
【0069】
(機能性膜(II-CTN)の評価)
1.膜厚測定
得られた機能性膜(II-CTN)の膜厚を、DEKTAK-3(Sloan)を使用して測定した。測定は、先端半径2.5 μmのダイヤモンド探針で3000μm走査する触針法で行った。マスキングにより作製した基材表面との段差を5点測定し、最大と最小を除く3点の平均値を膜厚とした。分解能は10nmである。その結果、膜の厚さは100nmであった。
【0070】
2.電気抵抗
機能性膜(II-CTN)の二探針抵抗法により測定した膜の電気抵抗は、3.73MΩcmであった。
二探針抵抗法による電気抵抗値は、デジタルマルチメーター(岩崎通信機(株):旧岩通計測(株)製、VOAC7523H:商品名)を用いて測定した。二探針間距離1cmで5点測定し、最小値と最大値を除いた3点の平均値を電気抵抗値とした。
測定の結果、機能性膜(II-CTN)は、電気伝導性が良好であることがわかる。
また、二探針抵抗法により測定した膜の電気抵抗は、3.73MΩcmであることで、四探針法にて測定した電気抵抗値においても106Ωcm以下であることが明らかである。
【0071】
3.光透過性の評価
既述の装置を用い、石英ガラスを対照例として、200nm~1100nmの波長範囲を測定した。
その結果、450nm未満の紫外光領域における透過率は80%以上であり、450nm以上の可視光領域における透過率は90%以上であり、機能性膜(II-CTN)は、紫外光、可視光の透過率に優れることがわかる。
上記評価より、機能性膜(II-CTN)は、紫外光、可視光の透過性に優れた透明な電気伝導性の膜であることがわかる。
【0072】
〔実施例3〕
(機能性膜(II-Li)形成用組成物の製造)
実施例3では、機能性膜(II)であって、LiPF6を含有する機能性膜を作製し、評価した。LiPF6を含有する機能性膜(II)を機能性膜(II-Li)と称し、機能性膜(II-Li)を製造するための組成物を機能性膜(II-Li)形成用組成物と称する。
1.機能性膜(II-Li)形成用組成物の調製
10.0gのエタノール中に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)1.3gと、シュウ酸1.1gとを加えて、1時間還流して、Si4+を0.5mmol/g含む混合液を得た。
その後、得られた混合液2.2gに対してLiPF6粉末を0.05g混合して0.15 mmol/gのLi+イオン濃度の機能性膜(II-Li)形成用組成物を得た。
【0073】
(機能性膜(II-Li)形成用組成物層の形成と、紫外線照射による機能性膜(II-Li)の形成)
まず、FTOガラス基板(AGC社製)に、亜鉛と塩酸でエッチング処理を施し、エッチング領域以外をマスキングして、上記で得た機能性膜(II-Li)形成用組成物25μLを、FTOガラス基板上に滴下した。
その後、2段階スピンコート法(第1段階:500rpmで5秒、第2段階:2000rpmで30秒)で、機能性膜(II-Li)形成用組成物層をFTO基板上に形成した。
この機能性膜(II-Li)形成用組成物からなる膜に、紫外線を、実施例1と同じ強度で2時間及び16時間照射して、機能性膜(II-Li)2、及び機能性膜(II-Li)16を得た。
【0074】
(機能性膜(II-Li)の評価)
機能性膜(II-Li)2及び機能性膜(II-Li)16をインピーダンスアナライザにより測定したイオン導電率は、それぞれ、10-4Scm-1、及び、10-3Scm-1であった。
本開示の機能性膜の製造方法によれば、FTOガラス基板上に、加熱を伴わず、リチウム固体電解質膜の配線を形成できることがわかる。
【0075】
2019年8月28日に出願された日本国特許出願2019-156070の開示は参照により本開示に取り込まれる。
本開示に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本開示中に参照により取り込まれる。