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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】不死化豚胎子小腸マクロファージ
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240424BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240424BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20240424BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20240424BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240424BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240424BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240424BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/867 Z
C12N7/00
C12N5/0786
A61K39/12
A61P37/04
A61P31/20
A61P31/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022563788
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042171
(87)【国際公開番号】W WO2022107793
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】63/116,394
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2021065908
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 敬人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊一
(72)【発明者】
【氏名】上西 博英
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 綾子
(72)【発明者】
【氏名】舛甚 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】國保 健浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 道浩
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-520827(JP,A)
【文献】竹之内 敬人 ほか,ブタマクロファージ不死化細胞株の樹立と特性解析,日本農芸化学会2018年度大会講演要旨集,2018年,2A24a02
【文献】Front. Vet. Sci.,2017年,Vol.4, Article 132
【文献】Virus Res.,2014年,Vol. 191,pp.143-152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚胎子の小腸マクロファージに、SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素を発現させる工程を含む、不死化豚小腸マクロファージの製造方法。
【請求項2】
前記工程は、前記SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素をコードするレンチウイルスを、前記豚胎子の小腸マクロファージに導入し、当該SV40ラージT抗原及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素を発現させる工程である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記豚胎子は胎齢30~114日の豚胎子である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の方法により、不死化豚小腸マクロファージを製造する工程、及び
当該不死化豚小腸マクロファージと、豚感染ウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚小腸マクロファージにおいて増殖する工程
を含む、豚感染ウイルスの製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の方法により、不死化豚小腸マクロファージを製造する工程、
当該不死化豚小腸マクロファージと、豚感染ウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚小腸マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖した豚感染ウイルスを単離する工程、及び
単離した豚感染ウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含む、豚感染ウイルスを含むワクチンの製造方法。
【請求項6】
前記豚感染ウイルスが、アフリカ豚熱ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、豚ロタウイルス、豚サーコウイルス、及び豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスからなる群から選択される少なくとも1のウイルスである、請求項又はに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不死化豚小腸マクロファージ及び該マクロファージの製造方法に関する。本発明はまた、前記マクロファージを用いた、豚感染ウイルス又はワクチンの製造方法に関する。さらに本発明は、前記マクロファージを用いた、豚感染ウイルスを検出する方法又は豚感染ウイルスに対する中和抗体を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養豚において、下痢は家畜の死亡及び発育遅延要因の一つであり、安定かつ効率的な豚肉生産における重大な問題である。下痢は、病原体の感染、栄養、宿主のストレスなど様々な要因が単独あるいは相互に関連して発生する。自然免疫担当細胞である小腸マクロファージは、宿主免疫の作動と終息に大きな役割を担っており、その応答は下痢の重篤度や病原体の排泄量に大きな影響を及ぼす。また、栄養の変化やそれに伴う腸内細菌叢とその代謝産物の変化によっても下痢を伴う腸炎が発生し、その病態の一端を小腸マクロファージの応答が担うことも明らかにされつつある。
【0003】
これらのことから、豚における下痢の病態解明と予防法開発の基盤ツールとして、in vitroでの小腸マクロファージの免疫学的応答解析系が必要であると考えられる。一方で、現在までに継代可能な豚小腸マクロファージの細胞株は樹立されておらず、前記解析系を構築する上でも、その作製が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Takenouchi T.ら、Front Vet Sci.、2017年8月、21;4:132.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、継代可能な豚小腸マクロファージの細胞株を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従前、豚(6日齢)の腎臓からマクロファージを単離し、それを不死化することに成功している(非特許文献1)。そこで、豚(約1ヶ月齢)の小腸についても、マクロファージを単離し、それを不死化することを試みた。しかしながら、抗生物質及び抗真菌薬を含む培地を用いても、微生物のコンタミネーションが激しく、豚の小腸からマクロファージを単離することが叶わなかった。
【0007】
そこで、先ずは、豚小腸からのマクロファージ初代培養を可能にすべく、鋭意検討及び研究を重ねた。その結果、胎子の小腸であれば、前記のようなコンタミネーションを生じさせることはなく、小腸マクロファージの単離培養が可能であることを見出した。
【0008】
そして、このようにして得られた豚小腸マクロファージに、SV40ラージT抗原遺伝子及び豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子を導入し、形質転換したところ、得られた細胞は、少なくとも60回以上の分裂が可能であることが明らかになった。また、当該不死化細胞は、マーカー分子の発現及びマクロファージとしての機能(細菌由来成分に応答しての、細胞内シグナル伝達分子の活性化及び炎症性サイトカイン産生の誘導)を維持していることも明らかになった。
【0009】
さらに、このようにして得られた不死化豚胎子小腸マクロファージについて、アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)に対する感受性試験を行った。その結果、当該細胞は、細胞変性効果(CPE)試験、血球吸着(HAD)試験の両方においても、ASFVを検出できることが明らかになった。さらに、試験した全てのASFV株に対して感受性を有し、これらウイルス株の増殖も可能であることが明らかになった。また、その感受性は、驚くべきことに、初代培養豚肺胞マクロファージ(PAM)と比較して桁違いに高かった(CPE試験ではPAMに比べ100~10000倍、HAD試験ではPAMに比べ10~100倍高かった)。さらに、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス及び豚サーコウイルス2型に関しても各々、感受性試験を行った。その結果、前記不死化豚胎子小腸マクロファージは、ASFV同様に、これらウイルスに対しても高い感受性を示すことが確認された。
【0010】
本発明は、このように、不死化豚小腸マクロファージの作製に初めて成功したこと、及び作製された不死化豚胎子小腸マクロファージは、ウイルスに対して高い感染感受性を有していることを見出したことに基づくものであり、具体的には、以下のとおりである。
<1> 豚胎子の小腸マクロファージを不死化した細胞。
<2> 豚胎子の小腸マクロファージに、SV40ラージT抗原及びテロメラーゼ逆転写酵素からなる群から選択される少なくとも1のタンパク質を発現させて成る、<1>に記載の細胞。
<3> 前記発現は、前記タンパク質をコードするレンチウイルスからの発現である、<2>に記載の細胞。
<4> 前記テロメラーゼ逆転写酵素が豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素である、<2>又は<3>に記載の細胞。
<5> 前記豚胎子は胎齢30~114日の豚胎子である、<1>~<4>のうちのいずれか一項に記載の細胞。
<6> 豚胎子の小腸マクロファージに、SV40ラージT抗原及びテロメラーゼ逆転写酵素からなる群から選択される少なくとも1のタンパク質を発現させる工程を含む、不死化豚小腸マクロファージの製造方法。
<7> 前記工程は、前記タンパク質をコードするレンチウイルスを、前記豚胎子の小腸マクロファージに導入し、当該タンパク質を発現させる工程である、<6>に記載の方法。
<8> 前記テロメラーゼ逆転写酵素が豚由来のテロメラーゼ逆転写酵素である、<6>又は<7>に記載の方法。
<9> 前記豚胎子は胎齢30~114日の豚胎子である、<6>~<8>のうちのいずれか一項に記載の方法。
<10> <1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の細胞と、豚感染ウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記細胞において増殖する工程を含む、豚感染ウイルスの製造方法。
<11> <1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の細胞と、豚感染ウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記細胞において増殖する工程、
増殖した豚感染ウイルスを単離する工程、及び
単離した豚感染ウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含む、豚感染ウイルスを含むワクチンの製造方法。
<12> 前記豚感染ウイルスが、アフリカ豚熱ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、豚ロタウイルス、豚サーコウイルス、及び豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスからなる群から選択される少なくとも1のウイルスである、<10>又は<11>に記載の製造方法。
<13> 豚感染ウイルス由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、<1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の細胞。
<14> 前記豚感染ウイルスが、アフリカ豚熱ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、豚ロタウイルス、豚サーコウイルス、及び豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスからなる群から選択される少なくとも1のウイルスである、<13>に記載の細胞。
<15> 豚感染ウイルスを検出する方法であって、下記工程を含む方法
被検試料存在下にて、<13>又は<14>に記載の細胞を培養する工程、
当該細胞における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、及び
当該レポーター遺伝子の発現が検出された場合に、前記被検試料は豚感染ウイルスを含有していると判定する工程。
<16> 豚感染ウイルスに対する中和抗体を検出する方法であって、下記工程を含む方法
被検豚から単離された生体試料の存在下、<1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の細胞と豚感染ウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記細胞にて増殖させる工程、
増殖した前記ウイルス数を検出する工程、及び
前記工程にて検出されたウイルス数が、前記生体試料非存在下、<1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の細胞にて増殖したウイルス数と比して、少ない場合、前記生体試料は前記ウイルスに対する中和抗体を含有していると判定する工程。
<17> 前記豚感染ウイルスが、アフリカ豚熱ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、豚ロタウイルス、豚サーコウイルス、及び豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスからなる群から選択される少なくとも1のウイルスである、<15>又は<16>に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、継代可能な豚胎子小腸マクロファージの細胞株を提供することが可能となる。また、当該不死化豚胎子小腸マクロファージは、ウイルスに対して高い感染感受性を有するため、様々なウイルスを増殖させることが可能となり、当該ウイルスに対するワクチンの製造、開発が可能となる。また、感染感受性の高さから、前記ウイルスを検出(検査、診断)することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】豚胎子の小腸組織片を、酵素処理して播種し、培養してから22日目に広がってきた接着性の初代培養細胞(豚胎子小腸初代培養細胞)を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。図中のスケールバーは200μmを表す。
図1B】豚胎子小腸初代培養細胞を剥がし播き直して形成された、細胞シート上に弱く接着して増殖する球状の細胞(マクロファージ、PIM)を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。図中のスケールバーは100μmを表す。
図2A】播き直して培養した後の豚胎子小腸初代培養細胞を、免疫染色にて分析した結果を示す写真である。図中、一番上の左側は、筋繊維芽細胞マーカーであるα平滑筋アクチン(αSMA)を染色した結果を示し、一番上の右側は、間充織細胞マーカーであるVimentinを染色した結果を示す。真ん中は上皮マーカーであるサイトケラチンを染色した結果を示す(左側はサイトケラチン18(CK18)、右側はサイトケラチン19(CK19)を染色した結果を各々示す)。一番下の左側は、マクロファージマーカーであるCD172aを染色した結果を示し、一番下の右側は、マクロファージマーカーであるCD204を染色した結果を示す。スケールバーは400μmを表す。また、カラー表示下、茶色は抗体染色を表し、青紫色は核染色を表す。
図2B】PIMを、免疫染色にて分析した結果を示す写真である。一番上の左側は、マクロファージマーカーであるIba1を染色した結果を示し、一番上の右側は、マクロファージマーカーであるCD172aを染色した結果を示し、真ん中の左側は、マクロファージマーカーであるCD204を染色した結果を示す。真ん中の右側は、間充織細胞マーカーであるVimentinを染色した結果を示す。一番下は上皮マーカーであるサイトケラチンを染色した結果を示す(左側はCK18、右側はCK19を染色した結果を各々示す)。スケールバーは400μmを表す。また、カラー表示下、茶色は抗体染色を表し、青紫色は核染色を表す。
図3A】豚胎子の小腸から単離して不死化したマクロファージ(IPIM)を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。図中のスケールバーは100μmを表す。
図3B】IPIMの細胞増殖性を試験した結果を示す、グラフである。
図4】IPIMを、免疫染色にて分析した結果を示す写真である。上部は、左側より順に、マクロファージマーカーであるIba1を、マクロファージマーカーであるCD172aを、マクロファージマーカーであるCD204を、マクロファージを含む抗原提示細胞のマーカーであるMHC-IIを、各々染色した結果を示す。下部は、左側より順に、マクロファージマーカーであるCD16を、M2型マクロファージマーカーであるCD163を、M1型マクロファージマーカーであるCD169を、豚マクロファージマーカーであるCD203aを、各々染色した結果を示す。図中のスケールバーは200μmを表す。また、カラー表示下、茶色は抗体染色を表し、青紫色は核染色を表す。
図5A】IPIMは、細菌由来成分(ムラミルジペプチド:MDP、リポ多糖:LPS)に応答して細胞内シグナル伝達分子を活性化(p38MAPキナーゼをリン酸化)させることを示す、写真である。
図5B】IPIMは、細菌由来成分(MDP、LPS)に応答して炎症性サイトカイン(IL-1β)の産生を誘導することを示す、写真である。
図6A】IPIMに、アフリカ豚熱ウイルス(Armenia07株)を接種して2日後に観察し、細胞変性効果(CPE)を検出した結果を示す顕微鏡写真である。図中、左側のパネル「非感染」は、ASFV株非接種の陰性対照の結果を示す。
図6B】赤血球存在下、IPIMに、Armenia07株を接種して2日後に観察し、血球吸着(HAD)を検出した結果を示す顕微鏡写真である。図中、左側のパネル「非感染」は、ASFV株非接種の陰性対照の結果を示す。
図7】IPIMに、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)を接種して、3日目に間接蛍光抗体法によりウイルス抗原を検出し、また7日目にCPEを検出した結果を示す顕微鏡写真である。図中、左側のパネル「非接種」は、PRRSV株非接種の陰性対照の結果を示す。
図8】IPIMにおけるPRRSV50%組織培養感染量(TCID50)の経時変化を解析した結果を示すグラフである。
図9】IPIMにおける豚サーコウイルス2型(PCV2)遺伝子量の経時変化を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、豚胎子の小腸マクロファージを不死化した細胞(不死化豚胎子小腸マクロファージ)に関する。
【0014】
本発明において、「不死化豚胎子小腸マクロファージ」は、豚(哺乳綱鯨偶蹄目イノシシ科の動物)の胎子の小腸に存在するマクロファージが不死化した細胞を意味する。「豚胎子」とは、豚母体中の出産前の個体を意味し、好ましくは胎齢30~114日の豚であり、小腸組織形成における成熟の観点から、より好ましくは90~114日の豚である。
【0015】
マクロファージを採取する「小腸」としては、特に制限はなく、例えば、回腸、空腸、十二指腸が挙げられるが、免疫細胞が集中するリンパ組織の発達の観点から、好ましくは回腸である。
【0016】
不死化される「豚小腸マクロファージ」は、豚小腸に存在する、卵黄嚢、胎子肝由来のマクロファージあるいは単球から分化して成るマクロファージであり、活性型マクロファージ(炎症性のM1型マクロファージ、抗炎症性のM2型マクロファージ)であってもよく、休止型マクロファージであってもよい。かかるマクロファージは、例えば、後述の実施例に示すとおり、豚胎子から採取した小腸から、被膜を除去する。次いで、単離した小腸組織を細切りにし、緩衝液で洗浄し、酵素処理に供した後、培養する。その培養過程において生じる、単層の細胞シートに緩く接着しているマクロファージ様細胞を、単離することによって調製することができる。
【0017】
なお、細切りにした小腸組織の洗浄に用いる緩衝液としては、特に制限はなく、例えば、ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水(DPBS)、りん酸緩衝食塩水(PBS)、トリス塩酸緩衝液(TBS)、HEPES緩衝液が挙げられる。
【0018】
前記酵素処理は、組織から細胞を分離、分散し得る限り、用いる酵素については、特に制限はなく、例えば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、DNase(DNase I等)、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ又はプロナーゼが挙げられるが、好ましくは、コラゲナーゼ、ディスパーゼ及びDNase Iの組み合わせである。また、処理する温度、時間としても制限はなく、用いる酵素の種類、細胞の分離・分散の程度に応じて、適宜調整し得る。
【0019】
酵素処理によって分散した細胞の培養に用いる培地としては、小腸マクロファージを維持できる限り、特に制限はないが、公知の基礎培地を基に周知慣用の培地添加物を適宜添加することによって調製することができる。「基礎培地」としては、DMEM培地、DMEM培地(高グルコース)、DMEM培地(低グルコース)、RPMI 160培地、RPMI 1640培地、ハムF12培地、KSOM培地、イーグルMEM培地、グラスゴーMEM培地、αMEM培地、ハム培地、フィッシャーズ培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、MEM Zincオプション改善培地、IMDM培地、メヂィウム199培地、及びこれら任意の混合培地が挙げられる。「培地添加物」としては、例えば、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン等)、抗真菌薬(ピマリシン、アンホテリシンB等)、機能性タンパク質(インスリン、トランスフェリン、ラクトフェリン等)、還元剤(モノチオグリセロール、2-メルカプトエタノール、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、N-アセチルシステイン等)、脂肪酸以外の脂質(コレステロール等)、アミノ酸(アラニン、L-グルタミン、非必須アミノ酸等)、ペプチド(グルタチオン、還元型グルタチオン等)、ヌクレオチド等(ヌクレオシド、シチジン、アデノシン5’-一リン酸、ヒポキサンチン、チミジン等)、金属塩(硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸銅、硫酸亜鉛等)、無機塩類(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素等)、炭素源(グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース等)、ビタミン、無機化合物(亜セレン酸)、有機化合物(パラアミノ安息香酸、エタノールアミン、コルチコステロン、プロゲステロン、リポ酸、プトレシン、ピルビン酸、乳酸、トリヨードチロニン等)、緩衝化合物(HEPES、重炭酸ナトリウム等)、pH指示薬(フェノールレッド等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
また、かかる培地を用いた培養条件は、特に制限はないが、培養温度としては、通常30~40℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。
【0021】
そして、このような培養条件下で、酵素処理によって分散した小腸組織由来の細胞を培養することにより、先ず小腸初代培養細胞を得ることができる。当該細胞が得られる培養時間としては特に制限はないが、通常1週間~1ヶ月間、好ましくは2~3週間である。
【0022】
次いで、得られた小腸初代培養細胞を、酵素処理に供し、培養器から剥がし、分散させ、播き直す。ここでの酵素処理も上述の酵素を用いて行なうことができるが、好ましくは、プロテアーゼ(非コラーゲン性タンパク質に対する分解活性を少なくとも有する酵素)、コラゲナーゼ及びDNaseの組み合わせ(例えば、製品名:Accumax(登録商標)、Sigma-Aldrich社製)である。
【0023】
そして、播き直し後の培養にて、筋繊維芽細胞様細胞から構成される細胞シートと、その上に弱く接着し増殖する球状の細胞(豚小腸マクロファージ)とからなる、混合培養系が構築される。当該培養系が構築される培養時間としては特に制限はないが、通常数日(2~4日)~数週(2~3週)間であり、好ましくは1~2週間である。
【0024】
このようにして得られる豚胎子の小腸マクロファージを、不死化する方法については特に制限はないが、不死化遺伝子を少なくとも1種導入することにより行うことができる。不死化遺伝子としては、例えば、SV40ラージT抗原(SV40T抗原)、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、Myc、Rasが挙げられるが、SV40T抗原及びTERTを導入することが好ましく、豚マクロファージの不死化効率を高めるという観点から、SV40T抗原及び豚由来のTERTを導入することがより好ましい。
【0025】
不死化遺伝子の導入は、当該遺伝子をコードするベクターを用いることによって行うことができる。ベクターとしては直鎖状でも環状でもよく、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、エピソーマルベクター、人工染色体ベクター、トランスポゾンベクターが挙げられる。
【0026】
ウイルスベクターとしては、例えば、レンチウイルス等のレトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、シルビスウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、パラミクソウイルスベクター、オルソミクソウイルスベクターが挙げられる。プラスミドベクターとしては、例えば、pcDNA3.1、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等の、動物細胞発現用プラスミドベクターが挙げられる。これらベクターにおいて、豚マクロファージへの遺伝子導入効率を高めるという観点から、レトロウイルスベクターが好ましく、レンチウイルスがより好ましい。
【0027】
本発明に係るベクターには、不死化遺伝子の他に、プロモーター、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等の発現制御配列、複製開始点や複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、5’キャップ構造、シャイン・ダルガノ配列、コザック配列等を含む5’非翻訳領域、ポリアデニレーションシグナル、AUリッチエレメント、GUリッチエレメント等を含む3’非翻訳領域、他のタンパク質をコードするヌクレオチド等を含んでいてもよい。
【0028】
不死化遺伝子は、プロモーターの下流に作動可能に配置することで、各ポリヌクレオチドを効率よく転写することが可能となる。かかる「プロモーター」としては、例えば、EF1αプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター、SV40初期プロモーター、LTRプロモーター、RSVプロモーター、HSV-TKプロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。
【0029】
「他のタンパク質をコードするヌクレオチド」としては、例えば、レポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を挙げることができる。
【0030】
また、複数種の不死化遺伝子を導入する場合には、これら遺伝子を、単一のベクターに組み込んでもよく、各々別々のベクターに組み込んでもよいが、発現効率を高めるという観点から、別々のベクターに組み込むことが望ましい。また、単一のベクターに組み込む際には、例えば、IRES、2Aペプチド配列等を該ベクターに挿入することにより、ポリシストロニックに複数種の不死化遺伝子を発現させることが可能となる。
【0031】
前記ベクターを細胞に導入する方法としては、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポーレーション法、パーティクルガン法等を挙げることができる。また、本発明のベクターがレトロウイルスベクターである場合、ベクターが有しているLTR配列及びパッケージングシグナル配列に基づいて適切なパッケージング細胞を選択し、これを使用してレトロウイルス粒子を調製してもよい。パッケージング細胞としては、例えば、PG13、PA317、GP+E-86、GP+envAm-12、Psi-Cripが挙げられる。さらに、トランスフェクション効率の高い293細胞や293T細胞をパッケージング細胞として用いることもできる。また、このようにして調製されたウイルス粒子は、Polybrene法、Protamine法、RetroNectin法等によって細胞に導入することができる。
【0032】
なお、かかる遺伝子導入及びその後の維持培養は、上述の豚胎子小腸の初代培養のための培地及びそれを用いた培養条件によって行なうことが出来る。また、このように不死化遺伝子を導入して樹立される不死化豚胎子小腸マクロファージは、少なくとも1カ月以上の増殖性を示し、好ましくは2カ月以上の増殖性を示し、より好ましくは3カ月以上の増殖性を示す。不死化豚腎臓マクロファージの倍加時間は、少なくとも4日間であり、好ましくは2日間であり、より好ましくは1日間である。また、不死化豚胎子小腸マクロファージはマクロファージの特性を維持していることが好ましく、例えば、マクロファージ特異的遺伝子である、CD172a、CD16、Iba-1、CD204(MSR-A)及びCD203aのうちの少なくとも1の遺伝子が発現しており、好ましくは2以上の遺伝子が発現しており、より好ましくは3以上の遺伝子が発現しており、さらに好ましくは4以上の遺伝子が発現しており、特に好ましくはこれら全ての遺伝子が発現している。さらに、不死化豚胎子小腸マクロファージは、特定のマクロファージ亜集団のマーカー遺伝子であるCD163及びCD169、並びに抗原提示細胞マーカー遺伝子であるMHC-IIのうちの少なくとも1の遺伝子が発現していてもよい。また、本発明に係る不死化豚胎子小腸マクロファージは、マクロファージの特性として、貪食作用、LPS刺激による炎症性サイトカインの産生及びインフラマソーム活性に伴うIL-1β成熟化のうちの少なくとも1の機能を保持しており、好ましくは2以上の機能を保持している。
【0033】
なお、初代培養の豚マクロファージとは異なり、密に展開して(シート状になって)増殖する。したがって、当該マクロファージは、形態の変化を検出し易いため、後述の感染細胞の変性を指標とするアフリカ豚熱ウイルスの感染試験(CPE試験、HAD試験等)においても、有用である。
【0034】
(豚感染ウイルス)
本発明において、「豚感染ウイルス(豚に感染するウイルス)」は、少なくとも豚に感染し得るウイルスであればよく、DNAウイルス(二本鎖(ds)DNAウイルス、一本鎖(ss)DNAウイルス、ss及びdsDNA領域の両方を含有するDNAウイルス)であってもよく、RNAウイルス(一本鎖(ss)RNAウイルス(プラス鎖RNAウイルス又はマイナス鎖RNAウイルス)、二本鎖(ds)RNAウイルス)であってもよい。
【0035】
豚感染ウイルスとしては、例えば、アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)、豚流行性下痢(PED)ウイルス、豚ロタウイルス、豚サーコウイルス(PCV2)、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスが挙げられる。なお、日本において、2020年2月5日に、家畜伝染病予防法で定める「アフリカ豚コレラ」の名称は「アフリカ豚熱」に改正されている。
【0036】
(豚感染ウイルスの製造方法)
本発明の豚感染ウイルスの製造方法(増殖方法、増幅方法)は、不死化豚胎子小腸マクロファージと、豚感染ウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚胎子小腸マクロファージにおいて増殖する工程を含む、方法である。
【0037】
不死化豚胎子小腸マクロファージに接触させる豚感染ウイルスについては、上述のとおりであるが、単離された当該ウイルス自体のみならず、前記ウイルスを含み得る試料であってもよい。かかる「試料」としては、豚由来の組織、細胞、それらの培養物、洗浄液、若しくは抽出物、又は豚の飼育環境(飼育施設等)の採取物、洗浄液若しくはそれらの培養物が挙げられる。
【0038】
「接触」は、不死化豚胎子小腸マクロファージを培養する培地に、豚感染ウイルスを添加することによって、通常行われる。かかる「培地」としては、特に制限はないが、上述の豚胎子小腸の初代培養のための培地が挙げられる。
【0039】
豚感染ウイルスの「増殖」は、当該ウイルスが接触し、感染した不死化豚胎子小腸マクロファージを培養することによって行うことができる。培養温度としては、特に限定されるものではないが、通常30~40℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。豚感染ウイルスと接触させてからの培養期間としては、特に限定されるものではないが、通常1~10日間、好ましくは2~7日間、より好ましくは3~5日間である。
【0040】
豚感染ウイルスが増殖したかどうかは、当業者であれば公知の方法により判断することができる。かかる方法としては、例えば、後述の実施例に示すような、細胞変性効果(CPE)を指標とするCPE試験、さらには、CPEに伴う細胞内ATP枯渇の程度を検出する方法(例えば、プロメガ社が提供するViral ToxGloアッセイ)が挙げられる。また、豚感染ウイルスに由来する遺伝子又はその発現を検出する方法も利用することができる。ここで、遺伝子の発現は、転写レベル(RNAレベル)であっても翻訳レベル(タンパク質レベル)であってもよい。遺伝子(ゲノムDNA、ゲノムRNA)又はRNAを検出する方法としては、例えば、PCR(RT-PCR、リアルタイムPCR、定量PCR)、シーケンシング、DNAマイクロアレイ解析法、ノーザンブロッティング又はサザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ法、質量分析法が挙げられる。また、所謂次世代シークエンシング法においてリード数をカウントすることにより、遺伝子又はRNAレベルを定量的に検出することができる。また、タンパク質を検出する方法としては、例えば、ELISA法、抗体アレイ、イムノブロッティング、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、免疫組織化学的染色法等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)や、質量分析法が挙げられる。
【0041】
(ワクチンの製造方法)
本発明の豚感染ウイルスを含むワクチンの製造方法は、不死化豚胎子小腸マクロファージと、豚感染ウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚胎子小腸マクロファージにおいて増殖する工程、
増殖した豚感染ウイルスを単離する工程、及び
単離した豚感染ウイルスを薬理学上許容される担体又は媒体と混合する工程
を含む、方法である。
【0042】
当該ウイルスを前記不死化豚胎子小腸マクロファージにおいて増殖する工程については上述のとおりである。増殖した豚感染ウイルスの「単離」とは、前記不死化豚胎子小腸マクロファージ及び/又は当該細胞の培養培地からの分離、精製及び/又は濃縮を意味する。前記ウイルスの単離方法としては、例えば、培養培地のろ過、細胞の破砕(超音波処理、低張液処理、凍結融解等)、遠心分離(超遠心法、密度勾配遠心法等)、濃縮(硫酸アンモニウム、樹脂カラム、ポリエチレングリコール塩析等)が挙げられる。
【0043】
このようにして単離された豚感染ウイルスは、そのままワクチン(所謂、生ワクチン)として用いてもよく、弱毒化生形態(所謂、生弱毒化ウイルス)で用いてよく、不活化形態でワクチンとして用いてもよい。さらに、免疫原性を有する限り、これら単離された豚感染ウイルスの一部(タンパク質、ポリペプチド、糖、糖タンパク質、脂質、核酸等)をワクチンとして用いてもよい。
【0044】
生弱毒化ウイルスは、野外から分離されたウイルスと比較して低減した毒性レベルを有するウイルスである。弱毒化ウイルスは、公知の方法、例えば、突然変異誘発物質の存在下での増殖、インビトロでの連続(長期間)継代による培養細胞への馴化、自然生育環境から逸脱した条件下(例えば、高温条件下)での増殖に豚感染ウイルスを供することによって得ることができる。また、ゲノム編集、遺伝子改変技術等を用いて、ウイルスの特定遺伝子を欠損又は組み換えることによっても、生弱毒化ウイルスを得ることができる。
【0045】
ウイルスの不活化も、当業者であれば、公知の方法を用いて行うことができる。かかる不活化の方法としては、ホルムアルデヒド処理、UV照射、X線照射、電子線照射、ガンマ線照射、アルキル化処理、エチレン-イミン処理、チメロサール処理、β-プロピオラクトン処理、グルタルアルデヒド処理が挙げられる。
【0046】
単離した豚感染ウイルスに混合する「薬理学上許容される担体」としては、例えば、安定剤、賦形剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、結合剤が挙げられる。「薬理学上許容される媒体」としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液が挙げられる。これら担体及び媒体は、当業者であれば、ワクチンの剤型、使用方法に応じて、当該分野に用いられる公知の物を適宜又は組み合わせて選択して用いることができる。また、ワクチンの形態としては、特に制限はなく、例えば、懸濁液の形態であってもよく、凍結乾燥された形態であってもよい。
【0047】
ワクチン効果を増強するという観点から、更にアジュバントを混合してもよい。アジュバントとしては、例えば、アルミニウムゲルアジュバント等の無機物質、微生物若しくは微生物由来物質(BCG、ムラミルジペプチド、百日せき菌、百日せきトキシン、コレラトキシン等)、界面活性作用物質(サポニン、デオキシコール酸等)、油性物質(鉱油、植物油、動物油等)のエマルジョン、ミョウバン等が挙げられる。
【0048】
(豚感染ウイルスの検出方法)
本発明は、豚感染ウイルス由来遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する、不死化豚胎子小腸マクロファージを提供する。
【0049】
また、被検試料存在下にて、前記DNAを有する不死化豚胎子小腸マクロファージを培養する工程、当該不死化豚胎子小腸マクロファージにおける前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、及び当該レポーター遺伝子の発現が検出された場合に、前記被検試料は豚感染ウイルスを含有していると判定する工程を含む、豚感染ウイルスを検出する方法をも提供する。
【0050】
前記DNAが導入される「不死化豚胎子小腸マクロファージ」については上述のとおりである。また、前記DNAは、上述の「不死化遺伝子」において説明したベクターの形態であってもよい。さらに、前記DNAの不死化豚胎子小腸マクロファージへの導入も、上述の「不死化遺伝子」に関する説明において列挙した方法を用い、当業者であれば行なうことができる。
【0051】
前記DNAにおける「豚感染ウイルス由来遺伝子のプロモーター領域」としては、豚感染ウイルスに由来し、当該ウイルスの感染・増殖に応じてその下流にある遺伝子の発現を活性化できる領域であれば特に制限はなく、最初期遺伝子(immediate-early)、初期遺伝子(early)、後初期遺伝子(late)、後期遺伝子(very-late)のいずれの遺伝子であってもよい。
【0052】
用いる豚感染ウイルス由来遺伝子については、当業者であれば適宜公知の情報を参照しながら選択することができる。例えば、ASFV由来遺伝子については、Virus Taxnomy 国際ウイルス分類委員会(ICTV)第9版、2012年、155~157ページ 表1に記載の「ASFVがコードするタンパク質の機能」リスト等を参照しながら選択することができるが、p72、U104L、CD2v、DNAポリメラーゼ又はp30遺伝子のプロモーター領域が好適に用いられる(Portugal RS.ら、Virology、2017年8月、508巻、70~80ページ 参照のほど)。
【0053】
前記プロモーター領域の下流に機能的(作動可能的)に結合される「レポーター遺伝子」としては特に制限はなく、公知のものが適宜用いられる。例えば、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子が挙げられる。蛍光タンパク質遺伝子としては、具体的には、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、YFP(黄色蛍光タンパク質)遺伝子、RFP(赤色蛍光タンパク質)遺伝子等が挙げられる。発光タンパク質・酵素遺伝子としては、具体的には、エクオリン遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。発色酵素遺伝子としては、具体的には、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)遺伝子、βグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、SEAP遺伝子等が挙げられる。
【0054】
そして、本発明の検出方法においては、これらレポーター遺伝子の発現に応じて生じる、蛍光、発光、発色等を指標として、不死化豚胎子小腸マクロファージの豚感染ウイルスの感染の有無、ひいては被検試料における豚感染ウイルスの存在を検出することができる。
【0055】
なお、被検試料としては、豚感染ウイルスが存在し得る試料であれば特に制限はなく、例えば、豚由来の組織、細胞、それらの培養物、洗浄液、若しくは抽出物、又は豚の飼育環境(飼育施設等)の洗浄液若しくはその培養物が挙げられる。
【0056】
また、本発明の検出方法における培養に用いられる「培地」としては、特に制限はないが、上述の豚胎子小腸の初代培養のための培地が挙げられる。培養の温度としては、特に限定されるものではないが、通常30~42℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。被検試料存在下、レポーター遺伝子の発現を検出する迄の培養期間としては、特に限定されるものではないが、通常1~10日間、好ましくは2~7日間、より好ましくは2~5日間である。
【0057】
(中和抗体の検出方法)
本発明の豚に感染するウイルスに対する中和抗体を検出する方法は、
被検豚から単離された生体試料の存在下、不死化豚胎子小腸マクロファージと豚に感染するウイルスとを接触させ、当該ウイルスを前記不死化豚胎子小腸マクロファージにて増殖させる工程、
増殖した前記ウイルス数を検出する工程、及び
前記工程にて検出されたウイルス数が、前記生体試料非存在下、不死化豚胎子小腸マクロファージにて増殖したウイルス数と比して、少ない場合、前記生体試料は前記ウイルスに対する中和抗体を含有していると判定する工程を、含む方法である。
【0058】
本発明にかかる「中和抗体」とは、豚感染ウイルスの感染又は増殖を抑制する抗体を意味する。また、かかる抗体は、免疫グロブリンの全てのクラス及びサブクラスを含む。また、「被検豚」については、豚感染ウイルスの感染経験を問わず、豚であれば特に制限はない。被検豚から単離された「生体試料」としては、豚由来の試料(例えば、血液(血清、血漿等)、粘液(唾液、鼻汁、乳汁、消化管分泌液等)、及びそれらから精製された抗体)が挙げられる。
【0059】
「接触」については上述のとおりである。増殖の条件に関し、培養温度としては、特に限定されるものではないが、通常30~40℃、好ましくは37℃である。培地に接触する気体中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常1~10体積%であり、好ましくは2~5体積%である。生体試料存在下又は非存在下における培養期間としては、特に限定されるものではないが、通常1~10日間、好ましくは2~7日間、より好ましくは3~5日間である。また、増殖したウイルスは、上述のとおり、CPE試験等や、豚感染ウイルスに由来する遺伝子又はその発現を検出することにより、検出することができる。このように、本発明の検出方法においては、ウイルス数自体のみならず、ウイルス数を反映する前記遺伝子(ゲノムDNA量等)又はその発現レベルを指標として、中和抗体の存在の有無を判定してもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<豚胎子からの豚小腸マクロファージの単離>
豚胎子(胎齢108日程度)より小腸(回腸部位)を約5cm採取し、癒着している皮膜を切除後、縦方向に切り半分に開いた。小腸組織をハサミで十分に細切し、コニカルチューブに移してダルベッコりん酸緩衝生理食塩水(DPBS)で洗浄した後、コラゲナーゼ/ディスパーゼ/DNase Iを含むDPBSに浸し37℃で1時間酵素処理した。ピペッティングで組織を分散し、DPBSで洗浄した後、増殖培地(DMEM High glucose:10% 牛胎子血清、10μg/mL インスリン、25μM モノチオグリセロール、100U/ml ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン、5μg/mL ピマリシン(製品名:Fungin、InvivoGen社製)を含む)に懸濁し、T75フラスコに播種した。
【0062】
なお、当初、豚(約1ヶ月齢)より採取した小腸を、前記同様に処理して、初代培養を試みた。しかしながら、前記のような抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン)及び抗真菌薬(ピマリシン)を含む培地を用いても、培養を開始してから2~3日後には、激しい微生物のコンタミネーションが生じ、初代培養を行なうことができなかった。
【0063】
一方、豚胎子より採取した小腸に関しては、そのようなコンタミネーションを抑制することができ、初代培養を行なうことが出来た。そして、約3週間後に接着し広がってきた初代培養細胞(図1A)を、細胞分離/分散用溶液(製品名:Accumax(登録商標)、Sigma-Aldrich社製)で剥がして回収し、100mm組織培養ディッシュに播き直した。
【0064】
約1週間で細胞シートが形成され、その上に弱く接着し増殖する球状の細胞が出現した(図1B)。免疫染色の結果、細胞シートはα平滑筋アクチン(αSMA)陽性の筋繊維芽細胞様細胞で構成されており、その上にマクロファージマーカー(CD172a、CD204)陽性細胞が増殖する混合培養系が構築されていることが確認された。なお、上皮細胞マーカー(サイトケラチン18及び19(CK18、CK19))は陰性であった。(図2A)。
【0065】
また、培養上清から細胞を回収し、スミロン浮遊培養用シャーレに付着する細胞を分離して免疫染色した結果、マクロファージマーカー(Iba1、CD172a、CD204)陽性細胞が単離されていることがわかった。なお、上皮細胞マーカー(CK18、CK19)は陰性であった(図2B)。さらに、回収した細胞では、初代培養マクロファージの特徴として知られる多核巨細胞の形成も確認された(図2B)。よって、この手法により豚小腸マクロファージ(Porcine intestinal macrophages:PIM)を得ることができた。なお、前記マーカーの検出は、下記免疫染色にて行った。
【0066】
(免疫染色)
細胞を8ウエルチャンバースライドに播種し一定期間培養後、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液(Nacalai社製)に浸し固定した。PBSTで洗浄後1% Triton X-100/PBS溶液で処理し、過酸化水素溶液(DAKO社製)及びブロッキング剤(製品名:ブロッキングワンヒスト、Nacalai社製)でブロッキングしたのち、一次抗体[anti-αSMA(Progen社製)、anti-Vimentin(Progen社製)、anti-CK18(Millipore社製)、anti-CK19(Progen社製)、anti-CD172a(VMRD社製)、anti-CD204(TransGenic,Inc.製)、Iba1(Wako社製)、anti-MHC-II(Kingfisher Biotech社製)、anti-CD163(Bio-Rad社製)、anti-CD169(Bio-Rad社製)、anti-CD203a(Bio-Rad社製)]を1時間反応させた。PBSTで洗浄後、免疫組織染色用検出システム(製品名:EnVision(登録商標)システム、DAKO社製)を用いてジアミノベンジジン染色した。さらに、マイヤーヘマトキシリン溶液(Wako社製)で核を染色した。
【0067】
<豚胎子小腸マクロファージ不死化細胞の作製>
単離したPIMは増殖しない。そこで、増殖能を付与するためにPIMの不死化を試みた。具体的には先ず、PIMをスミロン浮遊培養用シャーレに播種し、翌日に2種類の不死化遺伝子(SV40 Large T抗原(SV40LT)遺伝子と豚テロメラーゼ逆転写酵素(pTERT)遺伝子)を個別に導入した組換えレンチウイルス粒子を含む溶液に2時間暴露した。なお、組換えレンチウイルス粒子は、非特許文献1に記載のとおり、SV40LT遺伝子及びpTERT遺伝子を各々コードするpLVSIN-EF1α neoベクターを、パッケージングベクターと共に、レンチウイルスパッケージング用細胞株(製品名:Lenti-X 293T細胞、Takara Bio,Inc.)に導入することにより、調製した。そして、約1週間後に再度同じレンチウイルス粒子にPIMを暴露し、培養を継続した。
【0068】
その結果、約1ヶ月後に、継代培養可能な不死化PIM(Immmortalized PIM:IPIM)の獲得に成功し、凍結保存した(図3A)。また、このIPIM細胞についての増殖能を、下記に示す試験にて評価した結果、図3Bに示すとおり、少なくとも60回以上分裂可能であることが明らかになった。
【0069】
(細胞増殖試験)
IPIM細胞(1×10個)を90mm浮遊培養用ディッシュ(SUMILON社製)に播種し、3~5日ごとにTrypLE Express試薬(ThermoFisher社製)ではがして継代培養した。細胞を回収した際に、TC10全自動セルカウンター(Bio-Rad社製)を用いて細胞数を計測した。
【0070】
さらに、PIM同様に、上述の免疫染色によって解析した結果、IPIM細胞における各種マクロファージマーカーは陽性であった(図4)。具体的には、M1型及びM2型に共通するマクロファージマーカーである、Iba1、CD172a、CD204、CD16及びCD203aは、ほぼ100%のIPIM細胞にて陽性であった。また、特定のマクロファージ亜集団のマーカー(M2型マクロファージマーカー:CD163、M1型マクロファージマーカー:CD169)や抗原提示細胞マーカー(MHC-II)に関しては、個々の細胞の状態に応じて、ある程度の割合で陽性となるIPIM細胞が認められた。
【0071】
また、下記に示す方法にて、マクロファージとしての機能を評価した結果、IPIM細胞は、細菌由来成分(ムラミルジペプチド:MDP、リポ多糖:LPS)に応答して細胞内シグナル伝達分子を活性化(p38MAPキナーゼのリン酸化)し(図5A)、さらに炎症性サイトカイン(IL-1β)の産生を誘導することができた(図5B)。
【0072】
(マクロファージ機能評価試験)
IPIM細胞を24穴浮遊培養用プレート(SUMILON社製)に1穴あたり3×105個播種した。翌日、培地を、細菌由来成分(MDP又はLPS)を図5A及び5Bに示す各濃度にて含む無血清DMEM(400μL)に置換し細胞を刺激した。さらに24時間後、培養上清を回収するとともに、溶解緩衝液(150mM塩化ナトリウム、0.5%Triton X-100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、プロテアーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤を含む50mMTris-HCl緩衝液 pH7.5)を用いて細胞の溶解液を調製した。培養上清(300μL)はトリクロロ酢酸/アセトン沈殿法でタンパク質成分を濃縮した。培養上清及び細胞溶解液に含まれるタンパク質をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(メルク社製)に電気的に転写した。転写されたPVDF膜については、一次抗体[anti-リン酸化p38MAPキナーゼ(Cell Signaling Technology社製)、anti-p38MAPキナーゼ(Cell Signaling Technology社製)、anti-IL-1β(R&D Systems社製)]を用いたウエスタンブロット法により目的タンパク質を検出した。
【0073】
このように、SV40ラージT抗原遺伝子及びテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子を導入し、不死化した豚胎子の小腸マクロファージ(IPIM細胞)は、高い増殖性を示す一方で、マーカータンパク質の発現のみならず、その機能も維持していることが明らかとなった。
【0074】
<アフリカ豚熱ウイルス感受性試験>
次に、IPIM細胞のウイルス感受性を、アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)を対象とし、以下に示す方法にて評価した。
【0075】
(用いたASFV株について)
欧州・中国流行株Armenia07(遺伝子型:II型)、軟ダニより分離された株Kenya05/Tk-1(遺伝子型:I型)及びASFV標準株Espana75(遺伝子型:I型)の3つのASFV野外発生分離株は、国際獣疫局(OIE)のASFリファレンスラボラトリーであるComplutense University of Madrid,Spainより導入した。各ウイルス株の発生年号及び発生地等の情報は、Fernandez-Pinero J, et al.(2013)(Transboundary and Emerging Diseases.60(2013)48~58)を参照のほど。Vero細胞馴化株 Lisbon60/Vは、Plum Island Animal Disease Center(PIADC),Americaより導入した。Armenia07、Kenya05/Tk-1及びEspana75株はPAM細胞を用い、Lisbon60/V株はVero細胞を用いて増殖培養し、これを接種ウイルス試料とした。接種ウイルス試料は分注し、-80℃で保存した。
【0076】
(用いた細胞について)
豚肺胞マクロファージ(PAM)細胞は、既報(Carrascosa AL.ら、Curr Protoc Cell Biol、2011年12月、Chapter 26、UNIT 26.14、1~26ページ)に従い、豚の肺より回収した。アフリカミドリザルの腎臓由来不死化細胞株であるVero(CCL-81)細胞、COS-1(CRL-1650)細胞及び豚肺胞マクロファージ由来不死化細胞株3D4/21(CRL-2843)細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)より導入した。イノシシの肺由来株化細胞 WSL細胞は、フリードリヒ・レフラー研究所(FLI、ドイツ)より譲り受けたものを用いた。
【0077】
(ウイルス感受性試験)
細胞のウイルスに対する感受性は、細胞変性効果(CPE)を指標としたCPE試験又はASFV感染細胞で特異に認められる血球吸着(HAD)反応を指標としたHAD試験により判断した。具体的には先ず、96穴プレートに1穴あたり、PAM細胞を1×10個になるよう、Vero細胞及びCOS-1細胞を各々1.5×10個になるよう、WSL細胞及び3D4/21細胞を2×10個になるよう、又は、IPIM細胞を3×10個になるよう播種した。そして、各々の培地中で1~2日間前培養した後、同培地で10倍(10-1)から100億倍(10-10)まで10倍段階希釈したウイルス液25μLをそれぞれ8穴ずつ接種し、CPE検出用プレートを調製した。さらに、当該プレートに、PBSに懸濁した0.75%豚赤血球懸濁液20μLを添加し、HAD検出用プレートとして調製した。そして、CPE検出用プレート、HAD検出用プレート共に37℃、5%CO環境下で7日間培養し、観察した。
【0078】
その結果、表1に示すとおり、PAM細胞及びIPIM細胞においては、接種した全てのウイルス株でCPEが検出された。一方、Vero細胞、COS-1細胞、WSL細胞及び3D4/21細胞では、野外株3株にCPEは認められず、細胞馴化株のLisbon60/Vのみに認められた(表1)。このように、IPIM細胞は、PAM細胞と同様にCPE試験(図6A)だけではなく、HAD試験(図6B)にも利用できることが明らかになった。
【0079】
【表1】
【0080】
次に、PAM細胞とIPIM細胞の両細胞についてウイルスが分離できる希釈限界(ウイルス検出限界)を評価した。その結果、表2に示すとおり、CPE試験では、PAM細胞に比べIPIM細胞の検出限界濃度は100~10000倍低かった。HAD試験でも、PAM細胞に比べIPIM細胞の検出限界濃度は10~100倍低かった(表3)。すなわち、IPIM細胞は、ASFVに対する感受性が、PAM細胞に比べ高いことが明らかになった。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
<豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス又は豚サーコウイルスについての感受性試験>
次に、IPIM細胞のウイルス感受性を、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)又は豚サーコウイルス2型(PCV2)を対象とし、以下に示す方法にて評価した。
【0084】
(用いたウイルス株について)
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)は国内分離株であるEDRD-1株を用い、豚サーコウイルス2型(PCV2)は国内分離株であるYamagata株を用いた。
【0085】
(PRRSV感受性試験)
IPIM細胞を96穴浮遊培養用プレート(SUMILON社製)に1穴あたり1×10個/0.1mL培地で播種した。3日後、細胞培養液を吸引除去した後、ウイルス保存原液を10倍から10,000倍まで10倍階段希釈したウイルス液を1穴あたり0.1mL接種し、間接蛍光抗体法によるウイルス抗原検出用プレートを作製した。ウイルス接種後3日目に細胞培養液を吸引除去した後、氷冷80%アセトンで細胞を固定し、抗PRRSウイルスモノクローナル抗体(クローン:SR30-A)を用いた間接蛍光抗体法によりPRRSウイルス抗原の検出を行った。得られた結果を図7の上部に示す。
【0086】
また、ウイルス増殖を観察するため、IPIM細胞を6穴浮遊培養用プレート(SUMILON社製)に1穴あたり3×10個/3mL培地で播種した。3日後、細胞培養液を吸引除去した後、保存原液を100倍希釈したウイルス液を1穴あたり0.5mL接種しウイルスを細胞に1時間吸着させた。1時間後にウイルスを含む培地を除去し、1穴あたり2mLの培地で細胞を洗浄後、5mLの新しい培地を添加し5%CO存在下37℃で培養した。接種後1、2、3、5、7日目にCPEを観察するとともに培養上清を0.5mL回収した。回収した培養上清は10倍から10,000,000倍まで10倍階段希釈した後、1穴あたり1×10個/0.1mL培地で播種して3日間培養したIPIM細胞に1穴あたり0.1mL(1希釈当たり4穴ずつ)接種し、37℃、5%CO環境下で7日間培養してCPEを観察した。接種7日目の観察結果を図7の下部に示す。さらに、50%組織培養感染量(TCID50)はBehrens-Karber法に基づき計算した。得られた結果を図8に示す。
【0087】
(PCV2感受性試験)
IPIM細胞を1穴あたり2×10個/180μL培地で懸濁したのち20μLのウイルス保存原液と混和し、1穴あたり200μLの細胞・ウイルス混和液を48穴浮遊培養用プレート(SUMILON社製)に播種した。播種後2時間目にウイルスを含む培地を除去し、1穴あたり0.5mLの培地で細胞を洗浄後、200μLの新しい培地を添加し5%炭酸ガス存在下37℃で培養した。培地添加直後の培養上清と細胞をまとめて回収し、接種後2時間目のサンプルとした。その後、2日目、4日目及び6日目にも培養上清と細胞をまとめて回収した。回収したサンプルから、DNeasy Blood&Tissue Kit(QIAGEN社製)を用いて全DNAを最終50μL溶液として抽出し、その内2μL分のDNAを用いて、PCV2カプシド遺伝子を標的とした定量的PCRを実施した。得られた結果は、ウイルス接種後2時間目のウイルス遺伝子量を1とした相対値にて、図9に示す。
【0088】
IPIM細胞のPRRSV感受性に関しては、図7に示すとおり、PRRSVはIPIM細胞に感受性を示し、接種後3日目にはウイルス抗原が細胞質内で検出可能となり、接種後7日目には明確なCPEが観察された。さらに、図8に示すとおり、PRRSV接種IPIM細胞培養上清中のウイルス感染価は接種後2~3日でピークに達し、約10万倍近く増加した。感染価は接種後7日目まで大幅に低下することなく維持される傾向が認められた。
【0089】
また、IPIM細胞のPCV2感受性に関しては、図9に示すとおり、ウイルス接種後のIPIM細胞の倍加に伴い、PCV2遺伝子量も倍加する傾向が認められた。
【0090】
これらのことから、IPIM細胞は、PRRSVとPCV2の野外株に対しても感受性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明によれば、豚小腸マクロファージの不死化細胞を提供することが可能となる。また、当該不死化細胞は、豚感染ウイルスに対して高い感染感受性を有するため、様々な豚感染ウイルス株を増殖させることが可能となり、当該ウイルスに対するワクチンの製造、開発が可能となる。また、感染感受性の高さから、豚感染ウイルスを検出(検査、診断)することも可能となる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9