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特許7477999活性炭およびそれを用いたカビ臭を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】活性炭およびそれを用いたカビ臭を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/336 20170101AFI20240424BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20240424BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240424BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240424BHJP
【FI】
C01B32/336
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
C02F1/28 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020046330
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147252
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】山本 孝治
(72)【発明者】
【氏名】中田 治生
(72)【発明者】
【氏名】人見 充則
(72)【発明者】
【氏名】西田 光徳
(72)【発明者】
【氏名】北冨 裕昭
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093257(JP,A)
【文献】特開2006-282441(JP,A)
【文献】特開2013-203614(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167441(WO,A1)
【文献】特開2005-319350(JP,A)
【文献】特開2017-165823(JP,A)
【文献】特開2011-093774(JP,A)
【文献】特開平01-132832(JP,A)
【文献】佐藤 克昭 et al.,エバラ時報,日本,2013年,No.238,p.3-p.8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 20/20-20/28
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着等温線からBJH法で算出される細孔容積(A)に対する、二酸化炭素吸着等温線からDFT解析で算出される総細孔容積(B)の比率(B)/(A)が、1.6以上7.0以下であり、
前記細孔容積(A)は、細孔直径2nm以上50nm以下の範囲の細孔の細孔容積であり、
前記総細孔容積(B)は、細孔直径2nm未満の細孔の総細孔容積であり、
平均粒子径が20μm以下の粉末状の活性炭である、活性炭。
【請求項2】
二酸化炭素吸着等温線からBET法で算出される比表面積(C)が、860m/g以上1500m/g以下である、請求項1に記載の活性炭。
【請求項3】
前記二酸化炭素吸着等温線からDFT解析で算出される総細孔容積(B)が、0.3ml/g以上である、請求項1または2に記載の活性炭。
【請求項4】
平均粒子径が5μm以上15μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の活性炭。
【請求項5】
原水処理用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の活性炭。
【請求項6】
カビ臭抑制用である、請求項5に記載の活性炭。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の活性炭で被処理液体を処理することを含む、カビ臭を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水処理用途に有用な活性炭およびそれを用いてカビ臭を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原水の浄水処理施設では、原水中における不純物質を除去するために、活性炭(特に粉末活性炭)が吸着剤として使用されている。このような不純物としては、例えば、ジェオスミンや2-メチルイソボルネオール(以下、単に「2-MIB」とも称する)のようなカビ臭原因物質、クロロホルム、トリハロメタン前駆体物質等を挙げることができる。活性炭によるこれらの不純物質の吸着性能を向上させるために、細孔容積や比表面積等の表面構造を規定した活性炭が提案されている(例えば、特許文献1~特許文献3参照)。
【0003】
一方、近年、原水中における2-MIBの濃度が夏季に顕著に上昇する傾向が見られている。そのため、カビ臭抑制の対策として、2-MIBの吸着性能を向上させた活性炭が着目されている。例えば、特許文献1には、直径1.8nm以下の細孔容積を0.28ml/g以上、かつメジアン径を30μm以下に規定した粉末活性炭が、2-MIB等のカビ臭成分の除去性能を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-282441号公報
【文献】特開2013-220413号公報
【文献】特開2013-203614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
浄水処理される原水には、通常、フミン酸やフルボ酸等のフミン質(腐植物質)が混入している。フミン質は、植物が細菌やバクテリア等の微生物によって分解された結果物であり、酸性の無定形高分子有機物である。一般的に、浄水処理施設では、原水中にフミン質と2-MIB等のかび臭原因物質とが共に存在している状態(以下、単に「フミン質共存下」とも称する)で、活性炭を投入または供給等を行うことにより2-MIB等のかび臭原因物質が吸着および除去される。2-MIBと比較して大きい分子であるフミン質は、その後、凝集沈殿法または急速濾過法等により除去されることが多い。しかしながら、このような浄水処理工程によると、活性炭により2-MIBが吸着される際にフミン質も活性炭に吸着されてしまうため、2-MIBが良好に吸着されていないということが考えられる。
【0006】
前述した特許文献1には、細孔容積とメジアン径だけでなく、さらには比表面積を700~2000m/gに規定した粉末活性炭についても記載されている。しかしながら、これらの粉末活性炭の細孔容積、メジアン径および比表面積の数値は、2-MIBの存在のみを考慮して、その吸着性能から規定されたものである。従って、たとえこのような粉末活性炭を用いた場合でも、前述したような実際の浄水処理施設での処理工程において、2-MIBを良好に吸着できているとは限らない。
【0007】
そこで、本発明は、フミン質共存下においても2-MIBを良好に吸着することができる活性炭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
【0009】
本発明の一局面に係る活性炭は、窒素吸着等温線からBJH法で算出される細孔容積(A)に対する、二酸化炭素吸着等温線からDFT解析で算出される総細孔容積(B)の比率(B)/(A)が、1.6以上7.0以下である。
【0010】
前述の活性炭は、二酸化炭素吸着等温線からBET法で算出される比表面積(C)が、860m/g以上1500m/g以下であると好ましい。
【0011】
前述の活性炭は、前記二酸化炭素吸着等温線からDFT解析で算出される総細孔容積(B)が、0.3ml/g以上であるとより好ましい。
【0012】
前述の活性炭は、平均粒子径が5μm以上15μm以下であるとさらに好ましい。
【0013】
前述の活性炭は、原水処理用であると好ましい。
【0014】
前述の活性炭は、カビ臭抑制用であると好ましい。
【0015】
あるいは、本発明の別の局面に係るカビ臭を抑制する方法は、前述した本発明の一局面に係る活性炭で被処理液体を処理することを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フミン質共存下においても2-MIBを良好に吸着することができる活性炭を提供することができる。さらに、このような活性炭で液体、特に浄水処理施設における原水を処理することによって、カビ臭を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0018】
[活性炭]
本実施形態の活性炭は、窒素吸着等温線からBJH法で算出される細孔容積(A)に対する二酸化炭素吸着等温線からDFT解析で算出される総細孔容積(B)の比率(B)/(A)が、1.6以上7.0以下である多孔質の活性炭である。
【0019】
BJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法とは、多孔質体のメソ孔(細孔直径2nm以上50nm以下の細孔)の解析に用いられる方法である。本実施形態において、窒素吸着等温線からBJH法で算出される細孔容積(A)(以下、単に「BJH細孔容積(A)」とも称する)とは、窒素吸着等温線からBJH法を適用することにより算出される、活性炭が有する細孔のうち細孔直径2nm以上50nm以下の範囲のメソ孔の細孔容積(ml/g)をいう。具体的には、後述する実施例に記載する方法によって測定される細孔容積(ml/g)をいう。
【0020】
DFT解析(DFT(Density Functional Theory)法)とは、多孔質体のミクロ孔(細孔直径2nm未満の細孔)の解析に用いられる方法である。本実施形態において、二酸化炭素吸着等温線からDFT解析で算出される総細孔容積(B)(以下、単に「DFT総細孔容積(B)」とも称する)とは、二酸化炭素吸着等温線からDFT解析を適用することにより算出される、活性炭が有する細孔のうち細孔直径2nm未満のミクロ孔の総細孔容積(ml/g)をいう。具体的には、後述する実施例に記載する方法によって測定される総細孔容積(ml/g)をいう。
【0021】
活性炭のDFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)を1.6以上にすることによって、フミン質共存下においても選択的に2-MIBを良好に吸着することができると考えられる。この理由は、フミン質が吸着され易いメソ孔の細孔が少なく、一方、2-MIBが吸着され易いミクロ孔の細孔が多いことによって、フミン質の活性炭への吸着が妨げられるためと考えられる。加えて、メソ孔の細孔が少ない場合には、大分子であるフミン質が吸着されてミクロ孔の細孔を塞いでしまうことを防止すると考えられ、活性炭は良好な2-MIBの吸着性能を有すると考えられる。DFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)は、好ましくは1.8以上、より好ましくは1.9以上、さらに好ましくは2以上、または、よりさらに好ましくは2.1以上、2.2以上、2.3以上もしくは2.32以上である。
【0022】
また、活性炭のDFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)を7.0以下とすることによって、ミクロ孔の細孔の過度の増加により活性炭の構造を変化させてその吸着機能を低下させたり、製造コストを極端に増やしてしまうことを避けることができる。DFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)は、好ましくは7未満、より好ましくは6.5以下、または、さらに好ましくは6以下、5.5以下、5以下、4.5以下、4.2以下、4.11以下、4.11未満、3.5以下、3以下、2.8以下もしくは2.5以下である。
【0023】
このように、本実施形態の活性炭によると、フミン質共存下においてもカビ臭の原因の2-MIBを良好に吸着することができる。そのため、本実施形態の活性炭を、例えば浄水処理施設において原水の浄水処理用として、特にカビ臭抑制用として投入または供給等を行うことによって、好適に用いることができる。
【0024】
活性炭のDFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)は、例えば、後述する活性炭の原料となる炭素質材料の種類ならびに活性炭の製造の際における炭素質材料の賦活処理方法およびその処理条件(加熱温度および時間等)を適宜選択または調整することによって、その値を制御することができる。
【0025】
また、本実施形態の活性炭は、DFT総細孔容積(B)が0.3ml/g以上であると好ましい。これは、活性炭のDFT総細孔容積(B)を0.3ml/g以上とすることによって、活性炭が有するミクロ孔の総細孔容積自体が大きくなり、その結果、活性炭の2-MIBに対する吸着性能を向上させることができるためである。DFT総細孔容積(B)は、より好ましくは0.31ml/g以上、さらに好ましくは0.32ml/g以上、または、よりさらに好ましくは0.33ml/g以上、0.332ml/g超、0.34ml/g以上、0.35ml/g以上もしくは0.356ml/g以上である。DFT総細孔容積(B)の上限は、特に限定されないが、ミクロ孔の総細孔容積自体を過度に増加させて、活性炭の構造を変化させてその吸着機能に影響を与えたり、製造コストを極端に増加させない値であればよい。
【0026】
活性炭のDFT総細孔容積(B)についても、例えば、後述する活性炭の原料となる炭素質材料の種類ならびに活性炭の製造の際における炭素質材料の賦活処理方法およびその処理条件(加熱温度および時間等)を適宜選択または調整することによって、その値を制御することができる。例えば、活性炭の製造の際に、比較的高い加熱温度かつ短い時間でガス賦活処理を行うことによって、DFT総細孔容積(B)(ml/g)をより大きくすることができる。
【0027】
本実施形態の活性炭は、二酸化炭素吸着等温線からBET法で算出される比表面積(C)(以下、単に「BET比表面積(C)」とも称する)が、860m/g以上1500m/g以下であると好ましい。本実施形態において、BET比表面積(C)は、二酸化炭素吸着等温線からBET法を用いて算出される。具体的には、後述する実施例に記載する方法によって算出される値をいう。
【0028】
BET比表面積(C)を860m/g以上とすることによって、吸着可能な面積自体が大きくなり、活性炭の2-MIBに対する吸着性能を向上させることができる。一方、BET比表面積(C)を過度に大きすぎない値とすることによって、活性炭の構造を変化させてその吸着機能に影響を与えたり、活性炭の製造コストを極端に増加させてしまうことを避けることができる。
【0029】
BET比表面積(C)は、より好ましくは867m/g以上、さらに好ましくは900m/g以上、または、よりさらに好ましくは950m/g以上、968m/g以上、1000m/g以上もしくは1093m/g以上である。加えて、BET比表面積(C)は、より好ましくは1400m/g以下、さらに好ましくは1350m/g以下、よりさらに好ましくは1300m/g以下である。
【0030】
活性炭のBET比表面積(C)は、例えば、後述する活性炭の原料となる炭素質材料の種類ならびに活性炭の製造の際における炭素質材料の賦活処理方法およびその処理条件(加熱温度および時間等)を適宜選択または調整することによって、その値を制御することができる。例えば、活性炭の製造の際に、比較的高い加熱温度かつ短い時間でガス賦活処理を行うことによって、BET比表面積(C)(m/g)をより大きくすることができる。
【0031】
本実施形態の活性炭の形状は、2-MIBを吸着可能であれば、特に限定されない。例えば、活性炭は、粉末状、粒子状、繊維状(糸状、織り布(クロス)状、フェルト状)等のいずれの形状でもよく、具体的な使用態様に応じて適宜選択できる。これらのうち、単位体積当たりの吸着性能が高いという観点から、本実施形態の活性炭の形状は粉末状が好ましい。
【0032】
本実施形態の活性炭が粉末状である場合、その平均粒子径は特に限定されないが、20μm以下であると好ましく、5μm以上15μm以下であるとより好ましい。活性炭の平均粒子径を20μm以下とすることによって、各々の粉末状の活性炭に2-MIBが接触し易くなるため、活性炭による吸着性能を向上させることができる。一方、平均粒子径が5μm未満である場合、凝集沈殿法や急速濾過法等の処理工程で活性炭漏れや目詰まり等が発生する可能性があり、また、粉砕に掛かる費用が高くなる。本実施形態において、平均粒子径(μm)は、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径をいう。平均粒子径(μm)はレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的には、後述する実施例に記載する方法によって算出される平均粒子径(μm)の値をいう。
【0033】
活性炭の平均粒子径は、より好ましくは15μm未満、さらに好ましくは14μm以下、よりさらに好ましくは12μm以下である。加えて、平均粒子径は、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは10μm以上、よりさらに好ましくは11.7μm以上である。
【0034】
活性炭の平均粒子径は、例えば、後述する活性炭の原料となる炭素質材料の種類と必要に応じて行う粉砕処理方法および/または篩分処理方法ならびにその処理条件とを適宜選択または調整することによって、その数値を制御することができる。
【0035】
[活性炭の製造方法]
本実施形態の活性炭を製造する方法は、最終的に、活性炭のDFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)の比率(B)/(A)が1.6以上7.0以下となっていれば、特に限定されない。
【0036】
活性炭は、原料となる炭素質材料に対して必要に応じて炭化処理を行った後、賦活処理、ならびに必要に応じて洗浄処理、乾燥処理および粉砕処理を行うことによって得ることができる。
【0037】
このような炭素質材料としては、特に限定されないが、例えば植物系炭素質材料(例えば、木材、鉋屑、木炭、ヤシ殻やクルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生成物、リグニン、廃糖蜜などの植物由来の材料)、鉱物系炭素質材料(例えば、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残渣、石油ピッチなどの鉱物由来の材料)、合成樹脂系炭素質材料(例えば、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂などの合成樹脂由来の材料)、天然繊維系炭素質材料(例えば、セルロースなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維などの天然繊維由来の材料)等が挙げられる。これらの炭素質材料は、単独で使用してもよく、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
これらのうち、大量に入手することができ、商業的に有利であるという観点から、植物系炭素質材料が好ましい。活性炭の原料を植物系炭素質材料から選択することによって、後述する賦活処理条件の調整等によるDFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)の制御を比較的容易に行うことができる。さらに、植物系炭素質材料のうち、活性炭による2-MIBの吸着性能が高いという観点から、ヤシ殻または木材がより好ましく、ヤシ殻がさらに好ましい。
【0039】
炭化処理を必要とする場合、これらの炭素質材料に対して、通常、酸素または空気を遮断した環境下において、例えば400℃以上800℃以下、好ましくは500℃以上800℃以下、さらに好ましくは550℃以上750℃以下程度で炭化処理を行うことができる。その後、必要に応じて粒度調整を行ってもよい。
【0040】
その後、炭素質材料に対して賦活処理を行う。賦活処理とは、炭素質材料の表面に細孔を形成し、多孔質体である活性炭に変える処理である。これにより所望するDFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)を有する活性炭を得ることができる。賦活処理は、当該技術分野において一般的な方法により行うことができ、特に限定されず、主に、ガス賦活処理または薬剤賦活処理の2種類の処理方法を挙げることができる。これらのうち、浄水処理用として使用する場合、不純物の残留が少ないという観点から、ガス賦活処理が好ましい。
【0041】
ガス賦活処理は、例えば、水蒸気、二酸化炭素、空気、酸素、燃焼ガス、またはこれらの混合ガスの存在下で、炭素質材料を加熱する処理である。加熱は、例えば800℃以上1500℃以下、好ましくは850℃以上1200℃以下、より好ましくは900℃以上1100℃以下の温度において行われる。薬剤賦活処理としては、例えば、塩化亜鉛、塩化カルシウム、リン酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の賦活剤を炭素質材料と混合し、不活性ガス雰囲気下で加熱する公知の方法で行ってもよい。
【0042】
これらのうち、ガス賦活処理で炭素質材料を賦活させることによって、活性炭のDFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)を1.6以上7.0以下に容易に制御することができる。具体的には、上述したような比較的高い加熱温度かつ短い時間でガス賦活処理(好ましくは水蒸気賦活処理)を行うことによって、活性炭におけるメソ孔の細孔容積に対するミクロ孔の総細孔容積の比率を1.6以上7.0以下の範囲内に収まるようにすることができる。
【0043】
賦活処理後の活性炭は、必要に応じて洗浄および乾燥する。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属等の不純物を含むヤシ殻等の植物系炭素質材料または鉱物系炭素質材料を活性炭の原料とした場合、灰分や薬剤等を除去するために洗浄する。洗浄には鉱酸や水が用いられ、鉱酸としては洗浄効率の高い塩酸が好ましい。
【0044】
賦活処理後の活性炭は、必要に応じて粉砕処理および/または篩分処理される。粉砕処理は、一般的に活性炭の粉砕に用いられる粉砕装置、例えば、エロフォールミル、ロッドミル、ローラーミル、ハンマーミル、ブレードミル、ピンミル等の高速回転ミル、ボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
【0045】
本実施形態の活性炭は、単独で使用してもよく、必要に応じて他の成分と組み合わせて用いてもよい。他の成分としては、例えば、ハロゲン化物、他の臭気成分を除去するための吸着剤(例えば、ゼオライト、シリカ等のケイ酸塩系吸着剤、薬品無担持活性炭、薬品担持活性炭等)等を挙げることができる。
【0046】
[カビ臭を抑制する方法]
本実施形態のカビ臭を抑制する方法は、前述した活性炭で被処理液体を処理することを含む。
【0047】
被処理液体は、2-MIBを含有する液体であればどのような液体でも構わないが、例えば、原水、水道水、工業用水、廃水、家庭用飲料水等が挙げられる。フミン質共存下で2-MIBを吸着する必要があるという観点から、これらのうち浄水処理施設での原水処理において、本実施形態の方法は有用に適用される。具体的には、例えば、タンク等に貯蔵された河川または湖水等の水源からの原水に、前述した実施形態の活性炭をそのまま、または湿潤状態で投入または供給等を行う。活性炭の供給量は特に限定されず、適宜所望の必要量に応じて供給すればよい。
【実施例
【0048】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0049】
各実施例および各比較例の活性炭の物性値およびフミン酸共存下での2-MIB吸着量は、以下に示す方法により測定した。
【0050】
[平均粒子径(μm)の測定]
活性炭(具体的には粉末活性炭)の平均粒子径は、レーザー回折測定法により測定した。具体的には、測定対象である活性炭、界面活性剤およびイオン交換水を混合して分散液を得て、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、「MT3300II」)を用い、透過法により活性炭の平均粒子径を測定した。分散液における活性炭の濃度は、当該測定装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。界面活性剤としては、和光純薬工業社製の「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用い、測定に影響する気泡等が発生しない適当な量を添加および混合した。分析条件を以下に示す。
【0051】
(分析条件)
測定回数:1回
測定時間:30秒
分布表示:体積
粒径区分:標準
計算モード:MT3000II
溶媒名:WATER
測定上限:2000μm、測定下限:0.021μm
残分比:0.00
通過分比:0.00
残分比設定:無効
粒子透過性:透過
粒子屈折率:1.81
粒子形状:非球形
溶媒屈折率:1.333
DV値:0.0150~0.0700
透過率(TR):0.700~0.950
測定結果において、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径であるD50の値を平均粒子径(μm)とした。
【0052】
[二酸化炭素吸着等温線の測定]
ガス吸着測定装置(Quantachrome社製、「AUTOSORB-iQ MP-XR」)を使用し、測定対象である活性炭の273Kにおける二酸化炭素の吸着を相対圧P/P0=0.00075~0.030の範囲で測定することにより、当該活性炭の二酸化炭素吸着等温線を得た。
【0053】
[窒素吸着等温線の測定]
ガス吸着測定装置(マイクロトラック・ベル社製、「BELSORP-mini」)を使用し、測定対象である活性炭を窒素気流下(窒素流量:50mL/分)にて300℃で3時間加熱した後、77Kにおける当該活性炭の窒素吸着等温線を測定した。
【0054】
[二酸化炭素吸着等温線によるBET比表面積(C)(m/g)の測定]
上記方法により得られた二酸化炭素吸着等温線において、相対圧P/P0=0.0247~0.0285の範囲のデータを用いてBET法による解析を行い、測定対象である活性炭のBET比表面積(C)(m/g)を算出した。
【0055】
[窒素吸着等温線によるBJH細孔容積(A)(ml/g)の測定]
上記方法により得られた窒素吸着等温線において、BJH法を適用し、相対圧P/P0=0.99以下の範囲において、測定対象である活性炭が有する細孔のうち細孔直径2nm以上50nm以下の範囲のBJH細孔容積(A)(ml/g)を算出した。BJH法での解析では、マイクロトラック・ベル社製から提供された基準t曲線「NGCB-BEL.t」を解析に用いた。
【0056】
[二酸化炭素吸着等温線によるDFT総細孔容積(B)(ml/g)の測定方法]
上記方法により得られた二酸化炭素吸着等温線において、Calculation modelとして「CO at 273K on carbon(NLDFT model)」を適用してNLDFT法での解析を行い、細孔径分布を求め、各細孔直径範囲における細孔容積を測定し、測定対象である活性炭が有する細孔のうち細孔直径2nm未満のDFT総細孔容積(B)(ml/g)を算出した。
【0057】
[フミン酸共存下での2-MIB吸着量(ng/mg)の測定]
以下に、後述する実施例1の活性炭における当該2-MIB吸着量(ng/mg)の測定方法を詳細に示す。後述する他の実施例および比較例における活性炭についても同様の方法で当該2-MIB吸着量の測定を行った。
【0058】
(1)フミン酸試薬の調整原液の作製
乾燥質量換算で9.9gのフミン酸試薬(和光純薬社製)を500mlの三角フラスコ内に測り取った。次いで、三角フラスコに、1N・NaOHを300ml加えて200rpmで30分間振とうさせた。その後、溶液をビーカーに移し、攪拌しながら(1+1)HSO(体積割合でHSOを1に対してHOを1含む硫酸溶液)を加えて、pH=4.5に調整した。pH調整後、沈殿管に移し、5000rpmで10分間遠心分離を行った。遠心分離後、溶液と沈殿物とを濾別し、溶液に1N・NaOHを攪拌しながら加えて、pH=6.5に調整した。このように調整したフミン酸溶液に、pH=7.4のリン酸緩衝液を当該フミン酸溶液の1/20容量において加えた。その後、当該溶液を0.45μmメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過して、フミン酸試薬の調製原液とした。
【0059】
(2)2-MIB-フミン酸混合液の作製
次いで、このように調製したフミン酸試薬の調整原液と、2-MIB標準液(富士フィルム和光純薬社製、「2-メチルイソボルネオール標準液(0.1mg/mlメタノール溶液)」)とを水に混合して、2-MIB濃度が400ng/Lであり、フミン酸濃度がTOC(Total Organic Carbon)濃度として1ppm、4ppm、6ppmまたは8ppmである4種類の2-MIB-フミン酸混合液を調製した。
【0060】
(3)活性炭懸濁液の作製
約0.2g(乾燥品で秤量)の後述する実施例1の活性炭を蒸留水1Lに分散させた懸濁液を作製した。
【0061】
(4)フミン酸TOC濃度1ppmにおける2-MIB吸着量の測定
上記(2)で調整したフミン酸TOC濃度1ppmの2-MIB-フミン酸混合液を用いて試験を行った。まず、この2-MIB-フミン酸混合液を100mlずつ5つのビーカーに入れ、これらのビーカーに上記(3)で調製した活性炭懸濁液をそれぞれ0ml、2ml、3ml、5mlまたは8mlずつ加え、さらに蒸留水をそれぞれに加えて全量を200mlとした。得られた混合液を、振とう恒温槽(タイテック社製、「振とう恒温槽クールバスシェーカー ML-10F」)を用いて、25℃、150回/分、振幅4cmの条件で60分間振とうした。その後、30分間静置した後、上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルター(Sartorius社製、「NMLシリンジフィルター」)を用いた加圧濾過によって濾過した。得られた濾液について、残留している2-MIBの濃度(ng/L)をそれぞれ測定した。両対数方眼紙の縦軸に活性炭の質量当たりの2-MIBの吸着量(ng/mg)を、横軸に残留している2-MIBの濃度(2-MIB平衡濃度、ng/L)をとり、各数値をプロットし回帰直線を引いた。2-MIB平衡濃度が初期値の1/10である20ng/Lとなった際の2-MIBの吸着量を、フミン酸TOC濃度1ppmにおける活性炭の吸着量とした。
【0062】
(5)フミン酸TOC濃度3ppmにおける2-MIB吸着量の測定
上記(4)と同様にして、フミン酸TOC濃度が4ppm、6ppmまたは8ppmである各混合液についても試験を行った。各試験において、2-MIB平衡濃度が初期値の1/10である20ng/Lとなった際の2-MIBの吸着量を測定した。新たに、縦軸に20ng/Lでの2-MIB吸着量を、横軸にフミン酸TOC濃度をとり、各数値をプロットしグラフを作成した。フミン酸TOC濃度が3ppmの際の2-MIB吸着量(ng/mg)を、実施例1の活性炭の2-MIB吸着量の値(ng/mg)として読み取った。
【0063】
なお、各実施例および各比較例の活性炭は、以下のように製造および入手した。
【0064】
<実施例1>
原料である炭化したヤシ殻炭を1000℃に加熱した流動賦活炉に投入し、水蒸気分圧50%の条件下で、賦活処理後のヤシ殻炭のヨウ素吸着量が1500mg/gになるように水蒸気賦活を行った。ヨウ素吸着量はJIS K 1474(2014)に準拠して測定した(後述する実施例2および比較例1~2も同様)。その後、賦活処理後のヤシ殻炭を、粉砕機を用いて調整しながら粉末状に粉砕し、平均粒子径12μmの粉末状の活性炭を得た。得られた粉末状の活性炭について各物性値を測定し、フミン酸共存下での2-MIB吸着量を評価した。測定された各物性値および評価結果を、後の表1にまとめて示す。
【0065】
<実施例2>
ヨウ素吸着量が1300mg/gになるように水蒸気賦活を行った以外は、実施例1と同様にして、賦活処理後のヤシ殻炭を得た。その後、賦活処理後のヤシ殻炭を、粉砕機を用いて調整しながら粉末状に粉砕し、平均粒子径11.7μmの粉末状の活性炭を得た。得られた粉末状の活性炭について各物性値を測定し、フミン酸共存下での2-MIB吸着量を評価した。測定された各物性値および評価結果を、後の表1にまとめて示す。
【0066】
<比較例1>
原料である炭化したヤシ殻炭を850℃に加熱した流動賦活炉に投入し、水蒸気分圧15%の条件下で、賦活処理後のヤシ殻炭においてヨウ素吸着量が1000mg/gになるように水蒸気賦活を行った。その後、賦活処理後のヤシ殻炭を、粉砕機を用いて調整しながら粉末状に粉砕し、平均粒子径11.6μmの粉末状の活性炭を得た。得られた粉末状の活性炭について各物性値を測定し、フミン酸共存下での2-MIB吸着量を評価した。測定された各物性値および評価結果を、後の表1にまとめて示す。
【0067】
<比較例2(参考例)>
原料として木質系材料が用いられている市販品の活性炭(上海興長社製、商品名「WP160-05」)について、その平均粒子径および各物性値を測定し、フミン酸共存下での2-MIB吸着量を評価した。測定された各物性値および評価結果を、後の表1にまとめて示す。
【0068】
実施例1~2および比較例1~の各物性値および評価結果は以下の表1に示す通りであった。
【0069】
【表1】
【0070】
上記表1に示すように、DFT総細孔容積(B)/BJH細孔容積(A)の比率(B)/(A)が1.6以上7.0以下の範囲内にある実施例1および2の活性炭は、2-MIB吸着量が多かった。一方で、前述の比率(B)/(A)が1.6未満または7より大きい比較例1~の2-MIB吸着量は少なかった。
【0071】
この結果から、メソ孔の細孔容積(BJH細孔容積())に対するミクロ孔の総細孔容積(DFT総細孔容積())の比率が所定の範囲内にある活性炭は、活性炭としての機能を損なうことなく、フミン酸等のフミン質共存下においても良好に2-MIBを吸着することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、フミン質共存下においても2-MIB等のカビ臭原因物質を良好に吸着することができる活性炭を提供することができる。従って、このような活性炭、特に粉末状の活性炭は、浄水処理施設の原水に投入または供給等を行うことによってカビ臭を良好に抑制することができるため、有用である。