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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】低誘電シリカ粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240424BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
H01B3/12 336
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020096051
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187714
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特許第6564517(JP,B1)
【文献】特開平05-170483(JP,A)
【文献】特開平03-050113(JP,A)
【文献】特開2021-178770(JP,A)
【文献】特開2013-173841(JP,A)
【文献】特開2012-006783(JP,A)
【文献】特開2021-187714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
H01B 3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低誘電シリカ粉体の製造方法であって、
シリカ粉体を500℃~1500℃の温度で加熱処理して、前記シリカ粉体の誘電正接(10GHz)を0.0005以下とした後、前記加熱処理したシリカ粉体の表面をエッチング液でエッチング処理して、前記表面の歪層を除去することを特徴とする低誘電シリカ粉体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理を30分~72時間行うことを特徴とする請求項に記載の低誘電シリカ粉体の製造方法。
【請求項3】
前記エッチング液として、フッ酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水から選択される水溶液を用いることを特徴とする請求項又は請求項に記載の低誘電シリカ粉体の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング液として、pH11以上の塩基性水溶液を用いることを特徴とする請求項から請求項のいずれか一項に記載の低誘電シリカ粉体の製造方法。
【請求項5】
前記塩基性水溶液として、pH12以上のアルカリ電解水を用いることを特徴とする請求項に記載の低誘電シリカ粉体の製造方法。
【請求項6】
更に、前記エッチング処理したシリカ粉体の表面をカップリング剤処理することを特徴とする請求項から請求項のいずれか一項に記載の低誘電シリカ粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性、特に高周波領域における誘電正接が非常に小さいシリカ粉体とその製造方法、及び前記シリカ粉体を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板やアンダーフィル材などの半導体用封止材は、高密化、極薄化とともに、低誘電特性化、特に低誘電正接化が強く望まれている。
【0003】
信号の伝送ロスはEdward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδが示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど損失を抑えることが知られている。特に、上記の式からもわかるように、伝送損失に対しては、誘電正接(tanδ)の寄与が大きいことが知られている。
【0004】
プリント配線板やアンダーフィル材などの半導体用封止材の低誘電正接化として、樹脂よりも誘電正接の低い無機粉体を添加する方法が一般的である。しかし、誘電正接が高周波領域で0.0006以下、且つ誘電率も4.0以下の無機粉体はほとんど知られていない。
【0005】
代表的な汎用の無機粉体の一つであるシリカ粉体は、樹脂に添加する無機粉体として膨張係数も小さく絶縁性や誘電特性にも優れた材料である。
シリカ粉体の誘電特性、特に誘電正接を本来の石英ガラスのレベルに下げることができれば、今後大きく成長が期待できる高速通信用半導体などの封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板などの充填剤として幅広い用途に展開できると考えられるが、このようなシリカ粉体は未だ見出されていない。
【0006】
特許文献1では、水蒸気分圧の低い雰囲気中で加熱処理により低シラノールシリカの製造を行っているものの、前記シラノール基の減少率しか言及されておらず、処理後のシリカのシラノール量が測定されていない上に、誘電正接に関する言及がない。
【0007】
特許文献2では、ゾルゲル法により製造されたシリカガラス繊維を加熱処理して、水分含有量が1000ppm以下のシリカガラス繊維の製造を行っている。加熱処理後のシリカガラス繊維の水分含有量の記載はあるが、シラノール量、誘電正接に言及されていない。
また、シリカガラス繊維中の水分量と誘電正接の関係は示されているが、シラノール(Si-OH)量の記載がなく、誘電正接についてもシリカガラス繊維とPTFEを用いたプリント基板で測定した値であるため、シラノール量とガラス繊維の誘電正接の相関については明らかにされていない。
【0008】
一般的に石英ガラスにおいてはガラス中に残存する水酸基(OH基)量と誘電正接は相関がある。また、高温処理によって、水酸基が減少し、石英ガラスの構造が変化することが知られている(非特許文献1)。しかし、水酸基含有石英ガラスを高温で加熱処理すると歪量が増大し、特にガラス表面で歪が増大するため(非特許文献2)、強度が大きく低下する。そのため、樹脂との接着強度が重要となる充填剤に用いることができる加熱処理シリカ粉体は実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平2-289416号公報
【文献】特開平5-170483号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】熱処理に伴うシリカガラス中のOH基濃度変化 2011年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【文献】シリカガラスブロックの熱処理による構造変化 2005年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、誘電正接が非常に小さいシリカ粉体と、それを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。更に誘電正接が低く、樹脂との界面における接着も強固なシリカ粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、平均粒径が0.1~30μmであり、誘電正接(10GHz)が0.0005以下のものであることを特徴とする低誘電シリカ粉体を提供する。
【0013】
このようなシリカ粉体であれば、誘電正接が非常に小さいため、高速通信用半導体などの封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板などの充填剤として幅広い用途に展開できる。
【0014】
この場合、前記低誘電シリカ粉体の内部及び表面に、アルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属及び/又はその酸化物がそれぞれ金属質量換算で200ppm以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれが質量換算で10ppm以下のものであることが好ましい。
【0015】
このようなシリカ粉体であれば、電極を腐蝕する恐れがない。
【0016】
また、低誘電シリカ粉体の水酸基(Si-OH)含有量が300ppm以下のものであることが好ましい。
【0017】
このようなシリカ粉体であれば、より低誘電正接のものとなる。
【0018】
更に、Bの含有量が1ppm以下、Pの含有量が1ppm以下、UおよびThの含有量がそれぞれ0.1ppb以下のものであることが好ましい。
【0019】
このようなシリカ粉体であれば、誘電特性が好ましくなり、また、放射線による誤動作を防止することもできる。
【0020】
また、本発明では、前記低誘電シリカ粉体の最大粒径が100μm以下であることが好ましい。
【0021】
このように、100μm超の粗粒や凝集粒子を取り除き使用することが望ましい。
【0022】
また、本発明は、上記低誘電シリカ粉体と樹脂との混合物であることを特徴とする低誘電シリカ粉体含有樹脂組成物を提供する。
【0023】
このような低誘電シリカ粉体含有樹脂組成物であれば、誘電正接が非常に小さい硬化物を与えることができる。
【0024】
また、本発明は、低誘電シリカ粉体の製造方法であって、シリカ粉体を500℃~1500℃の温度で加熱処理して、前記シリカ粉体の誘電正接(10GHz)を0.0005以下とした後、前記加熱処理したシリカ粉体の表面をエッチング液でエッチング処理することを特徴とする低誘電シリカ粉体の製造方法を提供する。
【0025】
このような低誘電シリカ粉体の製造方法であれば、誘電正接が低く、強度も高く、樹脂との界面における接着も強固となる低誘電シリカ粉体を高い生産性で製造することができる。
【0026】
この場合、前記加熱処理を30分~72時間行うことが好ましい。
【0027】
このように加熱処理を行うことで、低誘電シリカ粉体の誘電正接を好適な値とすることができる。
【0028】
また、前記エッチング液として、フッ酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水から選択される水溶液を用いることが好ましい。
【0029】
このようなエッチング液が、熱処理シリカ粉体の歪層の除去効果と樹脂との接着性改善の点から、望ましい。
【0030】
この場合、前記エッチング液として、pH11以上の塩基性水溶液を用いることが好ましく、また、pH12以上のアルカリ電解水を用いることがより好ましい。
【0031】
このようなエッチング液が、シリカ粉体のエッチング効果と樹脂との接着性の改善の点から、より好ましく、作業環境や排水処理の点からpH12以上のアルカリ電解水が更に好ましい。
【0032】
更に、前記エッチング処理したシリカ粉体の表面をカップリング剤処理することが好ましい。
【0033】
このようにシリカ粉体の表面をシランカップリング剤で被覆することで樹脂等に配合した場合に、樹脂と粉体表面との接着をより強固にすることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明の低誘電シリカ粉体であれば、誘電正接が非常に小さくなり、これと樹脂との混合物である低誘電シリカ粉体含有樹脂組成物は、誘電正接が非常に小さい硬化物を与えることができる。また、本発明の低誘電シリカ粉体の製造方法であれば、誘電正接が低く、強度が高く、樹脂との界面における接着も強固なシリカ粉体を優れた生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】シリカ充填量と誘電正接(10GHz)との関係を示すグラフである。
図2】実施例5の硬化物を破壊して得た破断面の走査電子顕微鏡写真である。
図3】実施例6の硬化物を破壊して得た破断面の走査電子顕微鏡写真である。
図4】比較例4の硬化物を破壊して得た破断面の走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上述のように、誘電正接が非常に小さいシリカ粉体の開発が求められていた。
【0037】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ね、特に、低誘電化について検討を行った結果、シリカ粉体を500℃~1500℃の温度に加熱することが誘電正接の低減に有効であり、また、更にシリカ粉体表面をわずかにエッチング処理したエッチドシリカ粉体とすることで粉体表面が強固になり樹脂との接着が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0038】
即ち、本発明は、平均粒径が0.1~30μmであり、誘電正接(10GHz)が0.0005以下のものであることを特徴とする低誘電シリカ粉体である。
【0039】
また、本発明は、低誘電シリカ粉体の製造方法であって、シリカ粉体を500℃~1500℃の温度で加熱処理して、前記シリカ粉体の誘電正接(10GHz)を0.0005以下とした後、前記加熱処理したシリカ粉体の表面をエッチング液でエッチング処理することを特徴とする低誘電シリカ粉体の製造方法である。
【0040】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
本発明では、平均粒径0.1~30μmのシリカ粉体の誘電正接(10GHz)が0.0005以下であるシリカ粉体に関する。また、好ましくは、シリカ粉体の内部及び表面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属及び/又はその酸化物がそれぞれ金属質量換算で200ppm以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が質量換算で10ppm以下のシリカ粉体に関する。また、シリカ粉体の水酸基(Si-OH)含有量が300ppm以下のシリカ粉体に関する。更にまた、平均粒径0.1~30μmで、好ましくは最大粒径が100μm以下のシリカ粉体に関する。
【0042】
更に、シリカ粉体を、500℃から1500℃の温度で加熱処理することでシリカ粉体の誘電正接(10GHz)が0.0005以下、好ましくは0.0004以下のシリカ粉体の製造方法に関する。上記加熱処理により、シリカ粉体が含有する水酸基(Si-OH)含有量が好ましくは300ppm以下、より好ましくは280ppm以下、更に好ましくは150ppm以下となり、低誘電正接の特性を有するシリカ粉体となる。このシリカ粉体は、半導体用封止材や高速通信基板、アンテナ基板など基板向けの充填剤として好適である。
【0043】
このような優れた誘電特性を持ったシリカ粉体であれば、樹脂に配合することにより、低誘電樹脂組成物を容易に得ることができる。また、前記低誘電シリカ粉体は、低誘電有機基板用の充填剤としても有用なものである。
【0044】
本発明の低誘電シリカ粉体の原料となるシリカ粉体としては、天然に産出する結晶性の石英を粉砕した粉末を2000℃程度の高温の火炎中を通すことで球状化した溶融シリカ粉体、水ガラスを原料として高純度化し高温で焼結させ粉砕したシリカ粉体、などが使用可能であるが、シリカ粉体であれば特に上記した製法に関係なく使用することができる。通常、半導体用封止材などの充填剤として容易に入手できる2000℃程度の高温で処理したシリカ粉体でも誘電正接は目的とする0.0005以下のものは入手することができない。
【0045】
本発明者らの実験結果では、熱処理するシリカ粉体の内部や粒子表面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属やこれらの金属酸化物の含有量がそれぞれ金属質量換算で200ppm以下であれば、加熱処理の工程で容易に結晶化せず、目的とする低誘電のシリカ粉体を得ることができる。また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下がより好ましい。アルカリ金属、アルカリ土類金属の多いシリカ粉体は、高速通信基板や半導体素子の電極を腐蝕する問題があり、腐蝕防止の観点からもこれらが少ないシリカ粉体が要求されている。更に、B(ホウ素)の含有量が1ppm以下、P(リン)の含有量が1ppm以下であることが好ましく、放射線による誤動作を防止するためUやThの含有量が0.1ppb以下であるシリカ粉体が更に好ましい。このように、不純物濃度を低く抑えることでシリカ粉体の誘電特性等がより好ましいものとなる。上記不純物の濃度は原子吸光光度法や、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法などにより測定することができる。
なお、本発明において、アルカリ金属とは、周期表において第1族に属する元素のうち水素を除いたリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムをいう。また、アルカリ土類金属とは、周期表において第2族に属する元素のうちベリリウムとマグネシウムを除いたカルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムをいう。
【0046】
本発明のシリカ粉体の平均粒径は、0.1~30μmである。また、半導体用封止材としては粉体の形状は球状のものが樹脂へ高充填化できることから望ましいが、破砕形状のものでも使用することができる。平均粒径としては0.1μm未満では比表面積が大きく樹脂へ高充填化できず、また30μmを超えると狭部への充填性が悪く未充填などの不具合が発生する。そのため平均粒径が0.5μmから20μmで最大粒径が100μm以下のものが一般的に望ましい。
【0047】
アンダーフィル材や高速基板の充填剤として使用する場合は平均粒径が0.1~5μmで最大粒径が20μm以下、より望ましくは0.1~3μmで最大粒径が10μm以下である。
本低誘電シリカ粉体は流動性や加工性など特性向上のため、異なる平均粒径のシリカ粉体をブレンドしても良い。
なお、本発明において、最大粒径及び平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD-3100:島津製作所製など)により測定することができ、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として求めることができる。
【0048】
本発明の低誘電シリカ粉体は、高速通信用半導体などの封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板などの充填剤として幅広い用途に展開できるように、誘電正接(10GHz)を0.0005以下としている。そして、このような誘電正接となるようにシリカ粉体をあらかじめ熱処理している。
【0049】
低誘電化のための加熱温度は500℃~1500℃であり、600℃~1300℃がより好ましく、更に好ましくは700℃~1000℃が望ましい。加熱方法としてはシリカ粉末を電気加熱炉、マッフル炉等に入れ、500℃~1500℃に加熱処理する。
【0050】
シリカ粉末の加熱処理時間は加熱温度によって異なり、実用的には30分~72時間が好ましく、1時間~24時間がより好ましく、2時間~12時間が更に好ましい。
【0051】
なお、加熱後の室温までの冷却は、徐冷でも急冷でも問題はないが、条件によっては溶融状態のシリカが一部結晶化することがあることから加熱温度や冷却条件は最適化したほうが良い。
【0052】
加熱雰囲気としては、空気中、窒素などの不活性ガス中で常圧、真空中や減圧下でも特に限定されるものではないが、通常はコストなども考え常圧、空気中で行う。
【0053】
加熱処理したシリカ粉体の水酸基含有量を赤外分光分析法で分析することにより、所望の誘電特性に達したかどうかの確認をすることができる。
【0054】
GHz帯では分極による双極子が電場に応答し誘電が引き起こされることが知られている。このため、GHz帯における低誘電特性化には、構造中から分極を減らすことがポイントとなる。
誘電率は下記Clausius-Mossottiの式で示され、モル分極率、モル容積が因子となる。このことから、分極を小さくすること、モル容積を大きくすることが低誘電率化においてポイントとなっている。
誘電率=[1+2(ΣPm/ΣVm)]/[1-(ΣPm/ΣVm)]
(Pm:原子団のモル分極率,Vm:原子団のモル容積)
【0055】
また、誘電正接(tanδ)は交流電場に対する誘電応答の遅れであり、GHz帯では双極子の配向緩和が主たる要因となる。このため、誘電正接を小さくするためには、双極子をなくす(無極性に近い構造とする)方法が考えられる。
以上のことから、GHz帯におけるシリカ粒子の低誘電特性化のアプローチとして、本発明では、極性基である水酸基(シラノール)濃度を低く抑えることとした。
【0056】
以上の観点から、本発明では、熱処理後のシリカ粉体中の水酸基(Si-OH)濃度を上記範囲とすることが好ましい。また、後述するエッチング処理において、シリカ粉体表面の歪層を溶解除去するため、熱処理後のシリカ粉体中の水酸基濃度は低い方が良い。
このようなものとすることで、誘電正接がより低いシリカ粉体を得ることができる。最終的に得るシリカ粉体中の水酸基濃度は、好ましくは300ppm以下、より好ましくは280ppm以下、更に好ましくは150ppm以下とすることができる。
【0057】
後述するように、シリカ粉体中の水酸基(Si-OH)濃度は、赤外分光分析法により3680cm-1付近のピークの透過率を測定することにより定量することができる。これは、3680cm-1付近の赤外吸収が内部シラノールに帰属されることから(特許文献1参照)、この特性吸収帯に基づいて誘電正接に影響する極性基であるシラノールを特定して定量するものである。これにより、誘電正接の低下の程度をより具体的に見積もることができる。なお、3740cm-1付近に帰属される孤立シラノールの赤外吸収(特許文献1参照)が、本発明では無視できる程度であるため、上記のように3680cm-1付近のピークのみについて透過率を測定すれば、誘電正接の低下を十分に見積もることができる。
【0058】
前記のように、信号の伝送ロスはEdward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδが示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど損失を抑える。特に、伝送損失に対しては、誘電正接(tanδ)の寄与が大きい。そのため、より低誘電正接が求められている。
【0059】
本発明の加熱処理により、誘電正接を本来の石英粉体のレベルである0.0005以下とすることができる。より好ましくは0.0004以下、更に好ましくは0.0002以下にすることができる。
【0060】
加熱処理で得られたシリカ粉体は処理温度によっては一部融着したシリカ粉体もあることから、ボールミルなどの解砕装置を使用して解砕したのち篩により100μm超の粗粒や凝集粒子を取り除き使用する。このような粗粒カットは、150メッシュの篩を用いて行うことができる。
【0061】
ただ、高温で処理することでシリカ粉体表面に歪層が形成されやすいことから、この種のシリカ粉体を充填した樹脂組成物の硬化物は強度が低下しやすい。シリカ粉体表面の歪層の除去はエッチング液などに浸漬することで容易に歪層を除去することができる。
【0062】
エッチング液としてはフッ酸水溶液などの酸性水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水などから選択される塩基性水溶液などが使用可能である。酸性水溶液としては、酸性フッ化アンモニウム(NHF・HF)水溶液、酸性フッ化カリウム(KHF)水溶液を用いることもできる。作業環境や排水処理の点から塩基性水溶液、なかでもアルカリ電解水がより好ましい。
【0063】
加熱処理後のシリカ粉体のエッチング処理条件は、温度が室温(23℃)~100℃が好ましく、40℃~80℃がより好ましい。処理時間は処理温度(例えば、室温から90℃、好ましくは40℃から80℃である)によってシリカ表面のエッチング速度に依存するため、特に限定されるものではない。エッチング溶液の温度が低いほどエッチングが進まず、温度が高いほどエッチング速度は速くなるが、処理時間が実用上10分以上~168時間で処理が完了する温度が望ましい。処理時間は好ましく1時間~72時間、より好ましくは10時間~24時間である。また、大気圧あるいは加圧雰囲気でも上記温度、時間の範囲で、処理可能である。
エッチング液のpHは、歪層の除去ができれば特に限定されず、必要に応じて酸や塩基を添加するなどにより調整してもよい。
【0064】
塩基性溶液としてはpH8.0以上であれば、シリカ粉体のエッチング効果が十分であり、樹脂とエッチングシリカ粉体表面の接着改善が認められる。好ましくは、pH10.0~13.5であり、より好ましく、pH11.0~13.0である。
塩基性エッチング液としては、pH11以上の塩基性水溶液を用いることが好ましく、pH12以上のアルカリ電解水を用いることがより好ましい。
【0065】
また、エッチングにより、破砕や球状化が不十分な粉体では粉体表面の鋭利なエッジなどが減少することから高充填化や局所ストレスの低減に有効である。
【0066】
エッチング終了後、シリカ粉体をろ過などの手法で分離し、更にイオン交換水や純水で洗浄水が中性になるまで洗浄を繰り返す。洗浄後、ろ過や遠心分離などによりシリカ粉体を分離し、100℃~200℃の温度で乾燥し水分を除去する。通常、水分の乾燥によりシリカ粉体は凝集するためボールミルなどの解砕装置を用いて解砕する。乾燥による凝集が強固である場合は、イオン交換水で洗浄後メタノールなどのアルコールで洗浄し、ろ過や遠心分離などでシリカ粉体を分離した後、乾燥することで凝集を防止することができる。
【0067】
このようにして得られた低誘電シリカ粉体を篩(例えば、150メッシュのもの)により100μmを超える粗粒や凝集粒子を取り除き使用する。
【0068】
カップリング剤処理は、必要に応じて行われる工程であり、カップリング剤などでシリカ粉体表面を処理する工程である。カップリング剤は、特に限定されないが、シランカップリング剤が好ましい。
【0069】
シランカップリング剤による表面処理は、高温処理、エッチング処理した低誘電シリカ粉体を洗浄乾燥したのち、シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で被覆することで樹脂組成物等を製造する際に、樹脂と低誘電シリカ粉体表面の接着を強固にするためである。
【0070】
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、アルコキシシランが好ましく、ガンマアミノプロピルトリメトキシシラン、ガンマアミノプロピルトリエトキシシラン、N-ベータアミノエチルガンマアミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベータアミノエチルガンマアミノプロピルトリエトキシシラン、ガンマメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマメタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましい。
【0071】
上記シランカップリング剤の濃度は通常0.1質量%~5質量%の間の希薄水溶液で使用されるが、特に0.1質量%~1質量%の間で使用するのが効果的である。これにより、上記シランカップリング剤が均一に付着しシリカ粉体表面に対して、より均一な保護作用をもたらし取扱がし易くなるばかりでなく、基板等を製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない配合が可能となる。
【0072】
上記した低誘電正接化したシリカ粉体をエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、などの充填剤として熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂に配合することができる。
【0073】
このような低誘電シリカ粉体と樹脂との混合物である低誘電シリカ粉体含有樹脂組成物は、誘電正接が非常に小さい硬化物を与えることができる。特に、エッチング処理を施したシリカ粉体(エッチドシリカ粉体)を配合することによって、シリカ粉体表面の歪が除去され高強度化し、樹脂とシリカ粉体との接着強度より向上させることができる。
【0074】
このようにして得られる低誘電シリカ粉体は、今後大きく成長が期待できる高速通信用半導体デバイスなどの封止材やサーバーやアンテナなどの低誘電有機基板の充填剤などに有益な材料である。
【実施例
【0075】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0076】
なお、本明細書中において、実施例や比較例で調製したシリカ粉体の誘電正接の値、水酸基含有量は下記の方法で求めた値である。
【0077】
<誘電正接の測定方法>
誘電正接の測定方法について、シリカ粉体A1(RS8225未処理品)を例に説明する。
下記表1に示す割合で、シリカ粉体を低誘電マレイミド樹脂であるSLK-3000(信越化学工業社製)と硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークミルD:日油(株)社製)を含むアニソール溶剤に混合、分散、溶解してワニスを作製した。
シリカ粉体を樹脂に対して体積%で0%、11.1%、33.3%、66.7%となるように添加し、バーコーターで厚さ200mmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
【0078】
【表1】
【0079】
調製した未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを作製した。樹脂硬化シートを50mm×50mmの大きさに切り、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0080】
得られた誘電正接の値を図1に示すように横軸にシリカ粉体の体積%を、縦軸に測定した誘電正接を取ることで得られるプロットからシリカ粉体の体積%vs誘電正接の直線を作成した。この直線を外挿し、シリカ粉体100%の誘電正接をシリカ粉体の誘電正接の値とした。
【0081】
シリカ粉体を直接測定できるとする測定機もあるが、測定ポットの中にシリカ粉体を充填して測定するため、混入した空気の除去が困難である。特に比表面積の大きいシリカ粉体は混入空気の影響が大きいため、なおさら困難である。そこで混入した空気の影響を排除し、実際の使用態様に近い状態での値を得るために本発明では、上記した測定方法からシリカ粉体の誘電正接を求めた。
【0082】
<水酸基(Si-OH)含有量の測定方法>
シリカ粉体を厚さ1.5mmのアルミパンに摺り切りまで充填したサンプルを調製し、該サンプルの赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(IRAffinity-1S)、拡散反射測定装置(DRS-8000A)を用いて拡散反射法によって水酸基起因である3680cm-1付近のピークの透過率Tを測定した。得られた透過率の値を基に、下記に示すLambert-Beerの法則を適用し、吸光度Aを求めた。
・吸光度A=-Log10
T=3680cm-1付近の透過率
次いで、前記式により求めた吸光度から、下記式により水酸基のモル濃度C(mol/L)を求めた。
・C=A/εL
ε:モル吸光係数(水酸基のモル吸光係数ε=77.5dm/mol・cm)
C:モル濃度(mol/L)
L:サンプルの厚さ(光路長)(1.5mm)
得られた吸光度Aから上記式を用いてモル濃度Cを求めた。
得られたモル濃度Cを用いて下記式によってシリカ粉体中の水酸基の含有量(ppm)を求めた。
・水酸基の含有量(ppm)={(C×M)/(d×1000)}×10
シリカ粉体の比重d=2.2g/cm
水酸基の分子量M(Si-OH)=45g/mol
【0083】
[実施例1-4、比較例1-3]
以下のように樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物の硬化物について誘電正接を測定した。結果を表2、3に示す。
【0084】
(実施例1)
平均粒径15μm、誘電正接0.0006、水酸基含有量370ppmのシリカ粉体A1(龍森社製 RS8225)5Kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、5時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却した。加熱処理後のシリカ粉体をアルカリ電解水(pH13)20リットルの入ったプラスチック容器に入れて60℃に加熱しながら2時間攪拌することで粒子表面の歪層を除去した。その後、遠心分離装置でシリカ粉体を分離した後、メタノールで洗浄して乾燥した。乾燥したシリカ粉体をボールミルで解砕し、150メッシュの篩で粗粒をカットしたシリカ粉体LK-1の水酸基含有量は270ppmと減少し、誘電正接は0.0002であった。
【0085】
(実施例2)
平均粒径1.5μm、誘電正接0.0011、水酸基含有量290ppmのシリカ粉体B(アドマテックス社製 SO-E5)を用いて5Kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却した。加熱処理後のシリカ粉体をアルカリ電解水(pH13)20リットルの入ったプラスチック容器に入れて60℃に加熱しながら2時間攪拌することで粒子表面の歪層を除去した。その後、遠心分離装置でシリカ粉体を分離した後、メタノールで洗浄し、乾燥してシリカ粉体LK-2を得た。このシリカ粉体の誘電正接は0.0003、水酸基含有量は240ppmであった。
【0086】
(実施例3)
平均粒径0.1μm、誘電正接0.0053、水酸基含有量475ppmのシリカ粉体C(龍森社製 EMIX-100)を用いて5Kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却した。加熱処理後のシリカ粉体をアルカリ電解水(pH13)20リットルの入ったプラスチック容器に入れて60℃に加熱しながら2時間攪拌することで粒子表面の歪層を除去した。その後、遠心分離装置でシリカ粉体を分離した後、メタノールで洗浄し、乾燥してシリカ粉体LK-3を得た。このシリカ粉体の誘電正接は0.0004、水酸基含有量は135ppmであった。
【0087】
(実施例4)
平均粒径15μm、誘電正接0.0006のシリカ粉体A1(龍森社製 RS8225)5Kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において表3に記載の温度、時間、雰囲気で加熱処理した。加熱後、室温まで6時間かけて冷却しシリカ粉体LK-4,LK-5,LK-6,LK-7、LK-8を得た(実施例4-1~4-5)。加熱処理したシリカ粉体をボールミルで解砕し、150メッシュの篩で粗粒をカットしたそれぞれのシリカ粉体について誘電正接(10GHz)と水酸基含有量を測定し表3に示した。
【0088】
(比較例1)
平均粒径15μm、誘電正接0.0006のシリカ粉体A1(龍森社製 RS8225)5Kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で400℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却した。加熱処理後のシリカ粉体をアルカリ電解水(pH13)20リットルの入ったプラスチック容器に入れて60℃に加熱しながら2時間攪拌することで粒子表面の歪層を除去した。その後、遠心分離装置でシリカ粉体を分離した後、メタノールで洗浄して乾燥した。乾燥したシリカ粉体をボールミルで解砕し、150メッシュの篩で粗粒をカットした。このシリカ粉体の誘電正接は0.0006であり、誘電正接の改善は見られなかった。水酸基含有量は355ppmであった。
【0089】
(比較例2)
平均粒径15μm、誘電正接0.0006のシリカ粉体A1(龍森社製 RS8225)5Kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で1600℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却した。加熱処理したシリカ粉体は部分的に融着し解砕できなかった。
【0090】
(比較例3)
平均粒径15μm、誘電正接0.0006のシリカ粉体A1(龍森社製 RS8225)5Kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、10分間加熱後、室温まで6時間かけて冷却した。このシリカ粉体の誘電正接は0.0006であり、誘電正接の改善は見られなかった。水酸基含有量は365ppmであった。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
[実施例5-7、比較例4]
以下のように樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物の硬化物について誘電正接を測定した。結果を表4に示す。
【0094】
(実施例5)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN1020 日本化薬製)65質量部、フェノールノボラック樹脂(H-4 群栄化学製)35質量部、実施例1のLK-1(加熱+エッチング処理シリカ粉体)を400質量部、触媒TPP(トリフェニルホスフィン 北興化学工業製)0.2質量部、シランカップリング剤(KBM403 信越化学工業製)0.5質量部を高速混合装置で十分混合した後、連続混練装置で加熱混練してシート化し冷却した。シートを粉砕し顆粒状の粉末としてエポキシ樹脂からなる熱硬化性樹脂組成物を得た。 この組成物を硬化条件175℃で2分間でトランスファー成形し硬化させた。さらに180℃で2時間ポストキュアすることで硬化物を得た。この硬化物を破壊して破断面のシリカと樹脂の界面(図2)を観察したところ、樹脂とシリカ粉体が強固に結合しているため、破壊面にシリカ粉体が見えず樹脂部分での破壊が多い。硬化物の誘電正接は0.004で良好であった。
【0095】
(実施例6)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN1020 日本化薬製)65質量部、フェノールノボラック樹脂(H-4 群栄化学製)35質量部、実施例4のLK-6(加熱処理、エッチング未処理シリカ粉体)を400質量部、触媒TPP(トリフェニルホスフィン 北興化学工業製)0.2質量部、シランカップリング剤(KBM403 信越化学工業製)0.5質量部を高速混合装置で十分混合した後、連続混練装置で加熱混練してシート化し冷却した。シートを粉砕し顆粒状の粉末としてエポキシ樹脂からなる熱硬化性樹脂組成物を得た。
この組成物を硬化条件175℃で2分間でトランスファー成形し硬化させた。さらに180℃で2時間ポストキュアすることで硬化物を得た。この硬化物を破壊して破断面のシリカ粉体と樹脂の界面(図3)を観察したところ、シリカ粉体表面に樹脂の付着もなく、シリカ粉体と樹脂の界面で破壊している。硬化物の誘電正接は0.004で良好であった。
【0096】
(実施例7)
低誘電マレイミド樹脂のSLK-3000(信越化学工業社製)100質量部に、実施例4のLK-6を400質量部、硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークミルD:日油(株)社製)2質量部をアニソール溶剤150質量部に混合して、分散、溶解させ、マレイミド樹脂組成部ワニスを調製した。次いで、バーコーターで厚さ200mmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
調製した未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを作製した。この樹脂硬化シートを用いて誘電正接を測定した。硬化物の誘電正接は0.0007で、未処理シリカ粉体A1配合品より良好である。
【0097】
(比較例4)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN1020 日本化薬製)65質量部、フェノールノボラック樹脂(H-4 群栄化学製)35質量部、シリカ粉体A1(未加熱処理シリカ粉体:龍森社製 RS8225)400質量部、触媒TPP(トリフェニルホスフィン 北興化学工業製)0.2質量部、シランカップリング剤(KBM403 信越化学工業製)0.5質量部を高速混合装置で十分混合した後、連続混練装置で加熱混練してシート化し冷却した。シートを粉砕し顆粒状の粉末としてエポキシ樹脂からなる熱硬化性樹脂組成物を得た。 この組成物を硬化条件175℃で2分間でトランスファー成形し硬化させた。さらに180℃で2時間ポストキュアすることで硬化物を得た。この硬化物を破壊して破断面のシリカと樹脂の界面(図4)を観察したところ、シリカと樹脂の界面は樹脂が凝集破壊していた。硬化物の誘電正接は0.005で、本発明品(実施例5,6)と比較して劣っていた。
【0098】
(比較例5)
低誘電マレイミド樹脂のSLK-3000(信越化学工業社製)100質量部に、シリカ粉体A1(龍森社製 RS8225)を400質量部、硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークミルD:日油(株)社製)2質量部をアニソール溶剤150質量部に混合して、分散、溶解させ、マレイミド樹脂組成部ワニスを調製した。次いで、バーコーターで厚さ200mmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
調製した未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを作製した。この樹脂硬化シートを用いて誘電正接を測定した。硬化物の誘電正接は0.001で、本発明品(実施例7)と比較して劣っていた。
【0099】
【表4】
表中の各成分の配合量は、質量部である。
【0100】
表2,3から明らかなように、本発明のシリカ粉体(実施例1-3、実施例4の1-5)は、未処理のシリカ粉体よりも大幅に誘電正接(tanδ)が低下する。一方、熱処理温度が低いもの(比較例1)や、熱処理が不十分(処理時間が短い)もの(比較例3)では、誘電正接の改善は見られなかった。また、熱処理温度が高過ぎると部分的に融着し解砕できなくなる(比較例2)。熱処理の雰囲気は、空気でも、窒素でも十分に誘電正接が改善されるが、窒素雰囲気で高温処理すると、粉体中の水酸基量がより少なくなる傾向がある(実施例4の4,5)。このように、適切な熱処理をシリカ粉体に施すことで望ましい低誘電正接のシリカ粉体を得ることができる。
【0101】
実施例1(LK-1)と実施例4の3(LK-6)の結果より、エッチング処理の前後で粉体の誘電正接と水酸基量はほとんど変化しないことがわかる。一方、それぞれを樹脂に配合して得られた組成物の硬化物を破壊して破断面を観察すると、前者(実施例5)では、樹脂とシリカ粉体が強固に結合しているため、樹脂部分での破壊が多くみられるのに対し、後者(実施例6)では、シリカ粉体と樹脂の界面で破壊していた。このことから、エッチング処理は、熱処理後の粉体の誘電正接にほとんど影響を与えずに樹脂との接着強度を向上させる作用があることがわかる。
【0102】
そして、実施例6,7より、低誘電の樹脂に本発明の低誘電シリカ粉体を配合した樹脂組成物を用いることで、容易に硬化物の誘電正接を低くできることがわかる。
【0103】
また、実施例6と比較例4、実施例7と比較例5の結果をみると、熱処理した低誘電シリカ粒子を配合した樹脂組成物を用いることで、容易に硬化物の誘電正接を低くできることがわかる。
【0104】
従来は、加熱処理により低シラノールシリカを得ることができることは知られていたが、シリカ粉体を高温で処理すると表面に歪層が形成されてしまい、熱処理シリカ粉体を充填した樹脂組成物の硬化物は強度が低下してしまうものと考えられていた。そのため、樹脂との接着強度が重要となる充填剤に用いることができる加熱処理シリカ粉体は実用化されていなかった。
しかし、本発明者らの検討により、熱処理シリカ粒子を樹脂に配合して得られる樹脂組成物を硬化しても、十分な強度を有することが初めて見いだされた。そして、熱処理により容易に硬化物の誘電正接を低くできることも見出された。更に、本発明者らの更なる検討により、上記のようにシリカ粉体表面の歪層の除去はエッチング液に浸漬することで容易にできることも初めて見出された。熱処理とエッチング処理を組み合わせることで、原料シリカ粉体の選択範囲が広がりコストダウンに資するとともに、低誘電正接でかつ樹脂との接着も良好なシリカ粉体(エッチドシリカ粉体)を、効率よく製造できる。このように、本発明の低誘電シリカの製造方法は、誘電正接が低く、樹脂との界面における接着も強固なシリカ粉体を高い生産性で製造できるため、産業上の利用価値が高い。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4