(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】低誘電樹脂基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20240424BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240424BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240424BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H05K1/03 610T
C08L101/00
C08K3/36
C08J5/04 CEZ
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2020112736
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263569(JP,A)
【文献】特開平03-119140(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034268(WO,A1)
【文献】特開平09-012343(JP,A)
【文献】特開2004-353132(JP,A)
【文献】特開2004-099377(JP,A)
【文献】特開2008-019534(JP,A)
【文献】特開2019-194285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
H05K 3/46
C08L 101/00
C08K 3/36
C08J 5/04
D03D 1/00
D03D 15/267
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理が施されたアニールド石英ガラスクロスに有機樹脂が複合化した低誘電樹脂基板であって、
前記アニールド石英ガラスクロスが、
SiO
2
の含有量が99.5質量%以上であり、10GHzでの誘電正接が0.0010未満で、引張強さがクロス重量(g/m
2)あたり1.0N/25mm以上
であり、エッチング処理されたものであることを特徴とする低誘電樹脂基板。
【請求項2】
更に、10GHzでの誘電正接が0.0010未満であり、平均粒径が0.1~30μmであるシリカ粉体を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の低誘電樹脂基板。
【請求項3】
前記有機樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低誘電樹脂基板。
【請求項4】
前記有機樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低誘電樹脂基板。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂から選択される1つ以上の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の低誘電樹脂基板。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、アリル化ポリフェニレンエーテル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂から選択される1つ以上の熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の低誘電樹脂基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電樹脂基板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、5Gなどの高速通信化に伴い、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板が強く望まれている。またスマートフォン等の情報端末においては配線基板の高密度実装化や極薄化が著しく進行している。
【0003】
5Gなどの高速通信向けにはDガラス、NEガラス、Lガラスなどの低誘電ガラスクロスに、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂、更には低誘電エポキシ樹脂や低誘電マレイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。しかし、Dガラス、NEガラス、Lガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されているが、誘電正接はいずれのガラスにおいても10G以上の高周波領域において0.002~0.005程度と大きく、通信にミリ波などの高周波を使用した場合、伝送損失が大きく正確な情報を送れなくなる。
なお、信号の伝送損失はEdward A. Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られている。
【0004】
プリント配線板などの有機樹脂基板の低誘電正接化として、樹脂よりも誘電正接の低い無機粉体やガラスクロスを用いる方法が一般的である。しかし、誘電正接が高周波領域で0.0010未満、且つ誘電率も4.0以下の無機粉体やガラスクロスはほとんど知られていない。
【0005】
代表的な汎用の無機粉体の一つであるシリカ粉体や石英ガラスクロスは、樹脂に添加する無機粉体や基板の補強材として膨張係数も小さく絶縁性や誘電特性にも優れた材料である。
一般的に石英ガラスクロスは誘電特性が非常に優れていることが知られているが、現在入手可能な石英ガラスクロスは、誘電正接が10GHzで0.0010以上である。また、シリカ粉体についても製造方法は多種多様であり、誘電正接は10GHzで0.005~0.0005超と製造方法によって大きく異なっている。いずれも本来の石英レベルに近い0.0005未満の石英ガラスクロスやシリカ粉体は入手できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】熱処理に伴うシリカガラス中のOH基濃度変化 2011年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【文献】シリカガラスブロックの熱処理による構造変化 2005年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、ゾルゲル法により製造されたシリカガラス繊維を加熱処理して、水分含有量が1000ppm以下のシリカガラス繊維を製造している。このシリカガラスとフッ素樹脂(PTFE)を用いたプリント基板の例が記載されているが、このシリカガラスは加熱処理のみでエッチング処理が施されたものではなく、本発明で使用するアニールド石英ガラスクロスとは全く異なるものである。このことは、以下のことからも明らかである。
【0009】
第一に、特許文献1には、加熱処理後の石英ガラス繊維の水分含有量の記載はあるが、シラノール基(Si-OH)量、誘電正接に言及されていない。ゾルゲル法によって製造しているため、ゲルに付着している水分とシラノール基が分離されていない。
第二に、特許文献1では、拡散反射IR法を採用しているものの、共存する水の影響を考慮しないで3660cm-1のシラノールのピークのみを用いて水分量を求めており、シリカガラス中に含まれる水分量とシラノール量とを区別していない(シラノールのOHとH2O由来のOHとの区別ができていない)。
第三に、特許文献1では、石英ガラス繊維中の水分量と誘電正接の関係は示されているが、シラノール量の記載がなく、誘電正接についても石英ガラス繊維とPTFEを用いたプリント基板で測定した値であるため、シラノール量とガラス繊維の誘電正接の相関については明らかにされていない。
第四に、1200℃以上で焼成を行うと糸強度(引張強さ)が急激に低下すると記載はあるが強度回復について全く記載されていない。
【0010】
一般的に石英ガラスにおいては、ガラス中に残存する水酸基(OH)量は製造方法や熱処理によって異なり、OH濃度の違いによりシリカガラスに様々な物性の違いをもたらすことが知られている(非特許文献1)。しかし、ゾルゲル法以外の方法で得られた石英ガラスクロスやシリカ粉体が高温処理によって誘電正接を向上させることは知られていない。また、高温処理した石英ガラスやシリカ粉体は表面層に歪が増大することが知られているが(非特許文献2)、上記特許文献1には、高温加熱処理で得たシリカガラスの表面層に歪が生じることについて一切記載がない。
加熱処理後の石英ガラスクロスの強度を測定すると、上述した表面の歪により強度が大きく低下するため、加熱処理した石英ガラスクロスやシリカ粉体を使用した樹脂基板は実用化されていない。
【0011】
このように、従来技術では、本来の石英が保有する誘電正接のレベルに近い石英ガラスクロスが入手できないため、たとえ低誘電正接の有機樹脂を用いても有機樹脂基板自体を低誘電正接化するには不十分であり、ミリ波などを用いる高速通信において、伝送損失の非常に少ない理想的な基板を作製することは困難であるといった問題がある。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、誘電正接が低く、引張強さに優れた石英ガラスクロスを用いた樹脂基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、熱処理が施されたアニールド石英ガラスクロスに有機樹脂が複合化した低誘電樹脂基板であって、前記アニールド石英ガラスクロスが、10GHzでの誘電正接が0.0010未満で、引張強さがクロス重量(g/m2)あたり1.0N/25mm以上のものであることを特徴とする低誘電樹脂基板を提供する。
【0013】
このような本発明の低誘電樹脂基板であれば、誘電正接が低く、引張強さに優れたアニールド石英ガラスクロスを用いた樹脂基板を提供することができる。
【0014】
この場合、更に、10GHzでの誘電正接が0.0010未満であり、平均粒径が0.1~30μmであるシリカ粉体を含むものであることが好ましい。
【0015】
このような低誘電樹脂基板であれば、充填するシリカ粉体自体も低誘電正接であるため、基板の膨張係数や弾性率などを調整しつつ、誘電特性を著しく向上させることができる。
【0016】
本発明では、前記有機樹脂が熱可塑性樹脂であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂から選択される1つ以上の熱可塑性樹脂であることがより好ましい。
【0017】
また本発明では、前記有機樹脂が熱硬化性樹脂であることも好ましく、前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、アリル化ポリフェニレンエーテル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂から選択される1つ以上の熱硬化性樹脂であることがより好ましい。
【0018】
本発明の低誘電樹脂基板では、アニールド石英ガラスクロスに複合化させる有機樹脂として、上記樹脂を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の低誘電樹脂基板であれば、誘電正接が低く、引張強さに優れたアニールド石英ガラスクロスを用いた樹脂基板を提供することができる。更に、10GHzでの誘電正接が0.0010未満であり、平均粒径が0.1~30μmであるシリカ粉体を使用して、基板の膨張係数や弾性率などを調整し、誘電特性が著しく向上した樹脂基板とすることができる。また、本発明では、使用する石英ガラスクロス自体の誘電正接が低く、引張強度にも優れているため、組み合わせ可能な有機樹脂の選択肢が広がる。このように、本発明の低誘電樹脂基板は誘電正接が低く、引張強さに優れるため、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板などに好適に用いることができ、配線基板の高密度実装化や極薄化にも対応可能であり、5Gなどの高速通信の分野において利用価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0020】
既存の石英ガラスクロスやシリカ粉体の誘電特性、特に誘電正接を本来の石英ガラスのレベルに下げることができれば、今後大きく成長が期待できる高速通信用半導体などの封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板などの補強材や充填剤として幅広い用途に展開できる。
【0021】
本発明者らは、低誘電化について検討を行った結果、石英ガラスクロスやシリカ粉体を500℃~1500℃の温度に加熱することが誘電正接の低減に有効であり、また、このようにアニールした石英ガラスクロスやシリカ粉体の表面をわずかにエッチング処理することでアニールドガラスクロスや粉体の表面が強固になり樹脂との接着が改善されること、更にアニールド石英ガラスクロスにおいてはクロスの引張強さが大きく向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
即ち、本発明は、500℃~1500℃の熱処理が施されたアニールド石英ガラスクロスに有機樹脂が複合化した低誘電樹脂基板であって、前記アニールド石英ガラスクロスが、10GHzでの誘電正接が0.0010未満で、引張強さがクロス重量(g/m2)あたり1.0N/25mm以上のものであることを特徴とする低誘電樹脂基板である。
【0023】
更に、本発明者らは、アニールド石英ガラスクロスに有機樹脂が複合化した低誘電樹脂基板に、更に平均粒径が0.1~30μmで誘電正接(10GHz)が0.0010未満であるシリカ粉体を配合して、基板の膨張係数や弾性率などを調整し、誘電特性が著しく向上した樹脂基板とすることができることも見出した。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明は、誘電特性、引張強さなど機械的強度に優れた低誘電正接のアニールド石英ガラスクロスを用いた低誘電樹脂基板に関するものである。本発明の低誘電樹脂基板を用いることでミリ波などを用いる高速通信において、伝送損失の非常に少ない理想的な基板を作製することができる。
本発明の低誘電樹脂基板は、(A)10GHzでの誘電正接が0.0010未満で、引張強さがクロス重量(g/m2)あたり1.0N/25mm以上のアニールド石英ガラスクロスに、(B)有機樹脂が複合化したものである。必要に応じて、(C)充填剤やカップリング剤などの添加剤をさらに含んでもよい。ここで、「複合化した」とは、前記ガラスクロスと有機樹脂とが一体不可分になっていることを意味し、具体的には、アニールド石英ガラスクロスが有機樹脂に埋め込まれているような状態をいう。このような樹脂基板としては、アニールド石英ガラスクロスに有機樹脂を含浸したものから得られるプリプレグを硬化させた樹脂基板や、アニールド石英ガラスクロスを熱可塑性樹脂で挟み込んで熱プレスして得られる樹脂基板が挙げられる。
以下、上記低誘電樹脂基板について詳しく説明する。
【0026】
[(A)アニールド石英ガラスクロス]
本発明において使用するアニールド石英ガラスクロスは、石英ガラスクロスに熱処理(500~1500℃)が施されたものであって、誘電正接(10GHz)が0.0010未満であり、好ましくは誘電正接が0.0008以下、より好ましくは0.0005以下、更に好ましくは0.0002以下であり、引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上であり、好ましくはクロス重量(g/m2)当たり1.2N/25mm以上のものである。
【0027】
なお、本発明でいうアニールド石英ガラスクロスとは、石英ガラスクロスに500℃以上1500℃以下の熱処理が施されたものをいい、後述するように石英ガラスクロスそのものに対して特に熱処理を加えたものである。従って、いわゆる溶融法石英ガラスや、ゾルゲル法シリカを高温処理して得た石英ガラスのようなガラスクロス自体の製造工程において高温処理されたものとは明確に異なるものである。
また、後述するように、誘電正接の測定は、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHzを用いて測定することができ、引張強さの測定は、JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定する。
【0028】
<石英ガラスクロス>
本発明で使用する石英ガラスクロスの素材は、天然で産出される不純物の少ない石英や四塩化ケイ素などを原料とする合成石英などを主に使用することができる。
【0029】
上記石英ガラス素材は、SiO2の含有量が99質量%以上のものが好ましく、99.5質量%以上のものがより好ましい。このようなSiO2含有量であれば、加熱処理後の石英ガラスクロスが本来の石英並みの低誘電正接となりやすい。
【0030】
石英ガラス素材中の不純物の濃度が、アルカリ金属であるNa、K、Liの総和が10ppm以下、Bが1ppm以下、Pが1ppm以下、放射線による誤動作を防止するためにはUやThの含有量が0.1ppb以下であることがより好ましい。
【0031】
石英ガラスクロスは下記のような製法で得られる石英インゴットを原料としてフィラメント、ヤーンを製造して製織することで製造することができる。
【0032】
石英インゴットは、天然で産出する石英を原料とした電気溶融法、火炎溶融法、又は四塩化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法、又はアルキルシリケートを原料としたゾルゲル法等で製造することができる。
【0033】
例えば本発明で使用する直径100~300μmの石英糸はインゴットを1700~2300℃で溶融させ延伸し巻き取ることで製造することができる。
【0034】
なお、本明細書では、上述した石英糸を引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維を石英ガラスフィラメント、石英ガラスフィラメントを束ねたものを石英ガラスストランド、石英ガラスフィラメントを束ねて更に撚りをかけたものを石英ガラスヤーンと定義する。
【0035】
石英ガラスフィラメントの場合、その直径は3μm~20μmであることが好ましく、3.5μm~9μmがより好ましい。石英ガラスフィラメントの製造方法としては上述した石英糸を電気溶融、酸水素火炎による延伸法等が挙げられるが、石英ガラスフィラメント径は3μm~20μmであればこれらの製造方法に限定されるものではない。
【0036】
前記石英ガラスフィラメントは10本~400本の本数で束ねて石英ガラスストランドを製造するが、好ましく、40本~200本であることがより望ましい。
【0037】
また、本発明に使用する石英ガラスクロスは前述した石英ガラスヤーンやストランドを製織して製造することができる。
【0038】
本発明において、石英ガラスヤーンの撚り数は特に制限はないが、撚り数が少ないとガラスクロスとした後の開繊工程でクロスの厚さを薄くしやすく、かつ通気度を下げやすい。また、撚り数が多いとヤーンの収束性が高まり、破断や毛羽立ちは発生しづらい。
前記石英ガラスヤーンを、たて糸およびよこ糸の織り密度をそれぞれ10本/25mm以上、好ましくは30本/25mm以上、より好ましくは50本/25mm以上、及び120本/25mm以下、好ましくは110本/25mm以下、より好ましくは100本/25mm以下の範囲で製織してガラスクロスとする。
ガラスクロスの製織方法は特に制限はなく、例えば、レピア織機によるもの、シャトル織機によるもの、エアジェットルームによるものなどが挙げられる。
【0039】
一般的にクロス製造時、ヤーンの毛羽立ちや糸切れを防止するため、澱粉を被膜形成剤の主成分とする集束剤をフィラメント表面に塗布したヤーンを用いて製織する。
集束剤としては、カチオン系酢酸ビニル共重合体エマルジョンなど澱粉以外の他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、潤滑剤、乳化剤、カチオン系柔軟剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、防腐剤、等があげられる。また、本発明の石英ガラス繊維用集束剤に対して、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールやその他の有機溶剤を少量添加してもよい。
【0040】
さらに、ガラス糸に滑剤の特性を示す有機物が付着した状態のガラスクロス、又は通常のガラスクロスを製織する際に使用されるバインダー、糊剤等が付着した状態のガラスクロス(生機)での扁平化加工、又はこれらの手法を組み合わせた扁平化加工を行うことは、ガラスクロスの厚みを低減する効果が大きく、ガラスクロスの厚みを厚くすることなく充填できるガラス量を多くすることができるため、好ましい。また、開繊処理を行った後に、表面処理を施し、さらに開繊処理を施すことにより、集束したフィラメント間の隙間をさらに拡げることも可能である。
【0041】
ここで、開繊処理により糸束が拡幅された状態となると、樹脂ワニスの含浸性が改善されるため、ガラスとマトリックス樹脂とがより均一となり、耐熱性等が向上する利点も得られる。また、ガラス糸の分布が均一になるため、レーザ加工性(穴径分布の均一性、加工速度など)が向上する利点も得られるので好ましい。
【0042】
製織後の集束剤などの除去方法としては、溶液による溶解や加熱による焼き飛ばし等の一般的な方法が考えられるが、特に水溶性繊維からなる集束剤を用いお湯で溶解除去する方法が好ましい。この方法により集束剤が除去されるばかりでなく、ガラスクロスを構成するストランドのフィラメントが広がった状態、即ち開繊処理となり、さらに予期しないことに集束剤が除去されることにより生じた僅かな隙間の存在により、広がったフィラメントは波状にうねった状態となる。この為目付けやフィラメント本数が小さいにも拘わらず粗密が比較的均一であり、表面の凹凸が小さい滑らかなクロスを得ることが可能となる。
【0043】
製織後、加熱処理などヒートクリーニングを行う場合は200℃以上、500℃未満の温度で24時間から100時間保管することで除去することができる。
この状態における石英ガラスクロスの引張強さはクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上であって、十分に次工程での取り扱いで問題が発生するレベルではない。
【0044】
この種の製造方法で得られる現在入手可能な石英ガラスクロスは低誘電ガラスとして知られているLEガラスなどより優れた誘電特性を持っているが、誘電正接が0.0010以上で本来の石英が保有する誘電正接0.0001より一桁大きな値となっている。
【0045】
本発明者らは、石英ガラスクロスを500℃以上の温度で高温処理した後、クロスを構成する繊維表面の歪層を除去したアニールド石英ガラスクロスは、高周波領域における誘電正接が10GHzで0.0010未満、引張強さがクロス重量(g/m2)あたり1.0N/25mm以上である石英ガラスクロスとなり、このアニールド石英ガラスクロスを使用することで誘電特性に優れた樹脂基板が製造できることを見出した。
【0046】
IPC-4412B(Appendix II)によれば、クロス重量(g/m2)やクロス厚さ(mm)はクロス種により異なり、クロス重量(g/m2)は9~270(g/m2)、クロス厚さ(mm)は0.011~0.260(mm)の範囲にある。クロスの引張強さ(N/25mm)もクロス種により異なるため、石英ガラスクロスの引張強さは下記式(1)に示すように、引張強さ(N/25mm)の実測値をクロス重量(g/m2)で除した値とした。
引張強さ(N/25mm)÷クロス重量(g/m2)≧1.0 (1)
【0047】
<アニールド石英ガラスクロスの製法>
本発明では上記の石英ガラスクロスを高温で加熱処理し、石英ガラス中に存在するシラノール基を除去した後、石英ガラス表面に発生した歪層を溶解除去し、必要に応じてカップリング剤などで石英ガラス表面を処理したアニールド石英ガラスクロス(低誘電石英ガラスクロス)を使用する。
【0048】
また、上記アニールド石英ガラスクロスは、SiO2の含有量が99質量%以上のものが好ましく、99.5質量%以上のものがより好ましい。
【0049】
(加熱処理工程)
石英ガラス中のシラノール基を除去する加熱温度は、石英ガラスクロスを500℃~1500℃、好ましくは500℃~1300℃、より好ましくは700℃~1000℃の温度で加熱処理する。加熱方法としては、石英管や金属管に製織した石英ガラスクロスを巻いた状態で電気加熱炉、マッフル炉等に入れ、上記温度で加熱処理することができるが、加熱方法や処理する石英ガラスクロスの形状はこれらに限定されるものではない。
【0050】
石英ガラスクロスの加熱処理時間は加熱温度によって異なり、実用的には1分~72時間が好ましく、10分~24時間がより好ましく、1時間~12時間が更に好ましい。
なお、加熱後の室温までの冷却は、徐冷でも急冷でも問題はないが、条件によっては溶融状態の石英ガラスが一部結晶化することがあることから加熱温度や冷却条件は最適化したほうが良い。加熱雰囲気としては、空気中、窒素などの不活性ガス中で常圧、真空中や減圧下でも特に限定されるものではないが、通常はコストなども考え空気中、常圧で行う。加熱処理によるシラノール基の減少度合いは赤外分光分析などで分析することで所望の誘電特性に達したかどうかの確認をすることができる。この工程により誘電正接を本来の石英のレベルに近い0.0010未満、好ましくは0.0008以下、より好ましくは0.0005以下、更には0.0002以下にすることができる。
【0051】
シラノール基の分析法として、赤外分光分析法のほか、固体29Si NMRによる分析法もある。固体29Si NMRは、分析作業が煩雑で効率が悪い面はあるが、石英ガラスクロス表面、内部のシラノール基が定量できるため好ましい分析法である。
【0052】
ここで、石英ガラス中のシラノール基を除去する理由について説明する。
GHz帯では分極による双極子が電場に応答し誘電が引き起こされることが知られている。このため、GHz帯における低誘電特性化には、構造中から分極を減らすことがポイントとなる。
誘電率は下記Clausius-Mossottiの式で示され、モル分極率、モル容積が因子となる。このことから、分極を小さくすること、モル容積を大きくすることが低誘電率化においてポイントとなっている。
誘電率=[1+2(ΣPm/ΣVm)]/[1-(ΣPm/ΣVm)]
(Pm:原子団のモル分極率,Vm:原子団のモル容積)
【0053】
また、誘電正接(tanδ)は交流電場に対する誘電応答の遅れであり、GHz帯では双極子の配向緩和が主たる要因となる。このため、誘電正接を小さくするためには、双極子をなくす(無極性に近い構造とする)方法が考えられる。
以上のことから、GHz帯における石英ガラスの低誘電特性化のアプローチとして、本発明では、極性基であるシラノール基濃度を低く抑えることとした。
【0054】
以上の観点から、本発明では、熱処理後の石英ガラスクロス中のシラノール基(Si-OH)濃度が300ppm以下であることが好ましく、250ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。後述する強度回復工程において、石英ガラス表面の歪層を溶解除去するため、熱処理後の石英ガラスクロス中のシラノール基濃度は低い方が良い。
このようなものとすることで、誘電正接がより低いアニールド石英ガラスクロスを得ることができる。最終的に得るアニールド石英ガラスクロス中のシラノール基(Si-OH)濃度は、上記と同様に300ppm以下であることが好ましく、250ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。
【0055】
熱処理後の石英ガラスクロス及びアニールド石英ガラスクロス中のシラノール濃度は、石英ガラスクロス表面及び内部のシラノール基が定量できる固体29Si NMRで測定することが好ましい。これにより、誘電正接に影響するシラノール濃度を正確に把握することができる。固体29Si NMRによる石英ガラス中のシラノール濃度の測定は、DD(Dipolar Decoupling)/MAS(Magic Angle Spinning)法などの公知の方法(例えば、特開2013-231694号公報、特開2017-3429号公報参照)で行うことができる。
【0056】
上記熱処理工程により石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)を上記範囲とすることができる。
【0057】
ところが、高温での加熱処理により低誘電化した石英ガラスクロスの強度がクロス重量(g/m2)当たり0.5(N/25mm)以下と大きく低下するので、そのままでは、次工程、例えばカップリング剤処理やプリプレグ製造のための樹脂含浸を行うことができず、この状態の石英ガラスクロスでは実用化できない。
【0058】
そこで本発明では、続いて加熱処理した石英ガラスクロスのエッチング液浸漬による強度回復を図る。
【0059】
(強度回復工程)
本強度回復工程は、高温処理中に発生した石英ガラス表面の歪層を溶解除去することにより、石英ガラスの引張強さを向上させる工程である。
【0060】
本発明者らは、熱処理後の強度低下について検討した結果、高温で加熱処理した後の石英ガラスクロスの表面層にはわずかに歪が残り、これが起点となって容易に破断すること、更に強度を回復させるためには、この歪層を除去すれば強度を回復できるとの知見を得た。
【0061】
石英ガラスクロスの歪層の除去はエッチング液などに浸漬することで容易に歪層を除去することができる。エッチング液としては、歪層の除去ができるものであれば特に限定されないが、フッ酸水溶液、酸性フッ化アンモニウム(NH4F・HF)水溶液、酸性フッ化カリウム(KHF2)水溶液などの酸性水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水から選択される塩基性水溶液などが使用可能である。作業環境や排水処理の点からアルカリ電解水がより好ましい。
【0062】
加熱処理後の石英ガラスクロスのエッチング処理条件は、歪層の除去ができれば特に限定されないが、温度が室温(23℃)~100℃が好ましく、40℃~80℃がより好ましい。処理時間は、処理温度における石英表面のエッチング速度に依存するため、特に限定されるものではないが、処理温度は室温から90℃、好ましくは40℃から80℃である。エッチング溶液の温度が低いほどエッチングが進まず、温度が高いほどエッチング速度は速くなるが、処理時間が実用上10分以上~168時間で処理が完了する温度が望ましい。処理時間は、好ましくは1時間~72時間、より好ましくは10時間~24時間である。また、大気圧あるいは加圧雰囲気でも上記温度、時間の範囲で、処理可能である。エッチング液のpHは、歪層の除去ができれば特に限定されず、必要に応じて酸や塩基を添加するなどにより調整してもよい。
【0063】
具体的には、塩基性溶液としてはpH8.0以上であれば、石英ガラスのエッチング効果が十分であり、引張強さの改善が認められるが、好ましくはpH10.0~13.5であり、より好ましくはpH11.0~13.0である。
【0064】
塩基性エッチング液としては、pH11以上の塩基性水溶液を用いることが好ましく、pH12以上のアルカリ電解水を用いることがより好ましい。
【0065】
エッチングのプロセスは、歪層の除去ができれば特に限定されないが、石英ガラスクロスの生産性を向上させる観点から、エッチング処理を連続プロセスで行うことが好ましい。これは、以下のようにして行うことができる。
【0066】
処理方法は、金属管や石英管などに石英ガラスクロスを巻き取ったロールを直接エッチング液が満たされているエッチング槽への浸漬、または異なるエッチング液を満たした複数のエッチング槽に連続的に浸漬させることで歪層を除去することができる。所定の温度及び時間を満足すれば処理方法に限定されるものではない。金属管や石英管は巻き取った石英ガラスクロスへのエッチング液の浸入を円滑にするため金属管や石英管は管に穴があるものを使用してもよい。
【0067】
また、金属管や石英管などに巻き取られた石英ガラスクロスを連続的にロールから解きながら引き出して上記したエッチング槽を所定時間通過させることでエッチング処理を行うこともできる。均一なエッチングを行うためにはこの方法が望ましい。
【0068】
エッチングを円滑に行うためにはエッチング槽内に超音波発生装置を設置し、超音波を発信し振動を付与しながら行うこともできる。超音波を印加することでエッチングがより均一に処理されることから好ましい方法である。
【0069】
エッチング処理後、上記したロール状態で、あるいは石英ガラスクロスを連続的にロールから解きほぐし引き出しながらアルカリ金属などの不純物を除去するため、更に純水やイオン交換水などの洗浄槽で室温~100℃で洗浄する。アルカリ電解水をエッチング液として使用した場合は洗浄工程を省いてもよい。
【0070】
洗浄後、カップリング剤処理などの次工程に回すため、石英ガラスクロスに付着した水分を加熱乾燥したほうが望ましい。
【0071】
本強度回復工程により、誘電正接が0.0010未満で引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0(N/25mm)以上と、低誘電正接で高引張強さのアニールド石英ガラスクロスを得ることが出来る。
【0072】
(カップリング剤処理工程)
更に、前記エッチング処理し石英ガラスクロスに付着した水分を加熱乾燥した石英ガラスクロスの表面をカップリング剤処理することが好ましい。
【0073】
このように石英ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆することでガラスクロスやヤーンの滑り性や濡れ性を高め、ガラスクロスの引張り強さを高める効果がある。エッチング処理後の石英ガラスクロスをシランカップリング剤で表面処理することで、石英ガラスクロスの引張強さはクロス重量(g/m2)当たり1.5(N/25mm)以上、最適なシランカップリング剤を選択することで2.0(N/25mm)以上となる。
【0074】
またプリプレグ等を製造する際に、樹脂とガラスクロス表面との接着を強固にするためシランカップリング剤による表面処理を行う。表面処理は、石英ガラスクロスの高温処理、エッチング処理後、石英ガラスクロスを洗浄したのち、ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆する。シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、アルコキシシランが好ましく、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニ-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましい。
【0075】
上記シランカップリング剤の濃度は通常0.1質量%~5質量%の間の希薄水溶液で使用されるが、特に0.1質量%~1質量%の間で使用するのが効果的である。アニールド石英ガラスクロスを用いることで、上記シランカップリング剤が均一に付着しガラスクロス表面に対して、より均一な保護作用をもたらし取扱がし易くなるばかりでなく、石英ガラスクロスの引張強さを向上させるとともに、プリプレグを製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない塗布が可能となる。
【0076】
[(B)有機樹脂]
アニールド石英ガラスクロスに複合化させる有機樹脂としては、特に限定されず、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。また、それぞれの樹脂を混合して併用することもできる。
【0077】
熱可塑性樹脂としてはポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂などが代表例として例示される。なかでも低誘電特性からフッ素樹脂が望ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、エチレン〔Et〕-TFE共重合体〔ETFE〕、Et-クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、CTFE-TFE共重合体、TFE-HFP共重合体〔FEP〕、TFE-PAVE共重合体〔PFA〕、及び、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0078】
熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、アリル化ポリフェニレンエーテル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂が例示される。
【0079】
なかでも下記の一般式(1)で示されるビスマレイミド樹脂が低誘電化に好適に使用される。
【化1】
(前記式中、Aは独立して芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン鎖である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
【0080】
代表的なビスマレイミド樹脂としてはSLK-2000シリーズ(信越化学工業(株)製)やSLK-6895(信越化学工業(株)製)、SLK-3000(信越化学工業(株)製)などがある。また、熱硬化性のシクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂も高耐熱性樹脂として使用可能である。代表例としてはSLK-250シリーズ(信越化学工業(株)製)である。
【0081】
[(C)充填剤]
本発明では、必要に応じて充填剤(フィラー)を含むことができる。充填剤としてはシリカなど公知のものを使用できるが、以下の低誘電シリカ粉体が好ましい。充填剤を含ませることにより、基板の膨張係数や弾性率などを調整でき、誘電特性の調整もできる。
【0082】
(低誘電シリカ粉体)
本発明に使用できるシリカ粉体は、平均粒径が0.1~30μmで、誘電正接(10GHz)が好ましくは0.0010未満、より好ましくは0.0005以下である。シリカ粉体の内部及び表面の一部又は全面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属及び/又はその酸化物が金属換算で200ppm以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下含まれることが好ましい。
なお、本発明において、最大粒径及び平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD-3100:島津製作所製など)により測定することができ、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として求めることができる。
【0083】
更に、前記したシリカ粉体中のBが1ppm以下、Pが1ppm以下、UおよびThの含有量がそれぞれ0.1ppb以下であるシリカ粉体も低誘電シリカ粉体として使用可能である。本発明で好ましく使用されるシリカ粉体は500℃~1500℃の温度で加熱処理することで低誘電化したもので、更には前記シリカ粉体表面を塩基性水溶液、更に望ましくはpH12以上のアルカリ電解水でエッチング処理した低誘電シリカ粉体である。
【0084】
本発明において好ましいシリカ粉体は、シラノール基(Si-OH)含有量が300ppm以下のもので、これよりも含有量が少なければ十分誘電正接が低くなる。上記加熱処理により、シリカ粉体が含有するシラノール基量が300ppm以下、好ましくは280ppm以下、更に好ましくは150ppm以下となり、低誘電正接の特性を有するシリカ粉体となる。
【0085】
本発明で好ましく使用される低誘電シリカ粉体は平均粒径が0.1~30μmで、好ましくは最大粒径が100μm以下のシリカ粉体であり、高速通信用基板の充填剤として使用する場合は平均粒径が0.1~5μmで最大粒径が20μm、より望ましくは0.1~3μmで最大粒径が10μm以下である。
【0086】
シリカ粉体は、500℃から1500℃の温度で加熱処理することでシリカ粉体の誘電正接(10GHz)が0.0010未満、好ましくは0.0005以下、より好ましくは0.0004以下のものとすることができる。
【0087】
シリカ粉体は500℃以上の温度で熱処理すると粒子表面に歪層ができて強度が低下する場合がある。そのため、本発明で使用するシリカ粉体はこの歪層を除去したものを使用するほうが望ましい。シリカ粉体の歪層の除去は前述した石英ガラスクロスと同様にエッチング液などにシリカ粉体を浸漬することで容易に歪層を除去することができる。
【0088】
更に、シリカ粉体の表面をシランカップリング剤などで被覆することでプリプレグを製造する際に、樹脂とガラスクロスやシリカ粉体表面の接着を強固にすることができる。
【0089】
シランカップリング剤としては、上記した石英ガラスクロスで使用する公知のシランカップリング剤を用いることができる。
【0090】
シリカ粉体の添加量は、樹脂成分の総和100質量部に対し0~1000質量部が好ましく、より好ましくは10~950質量部、特に50~850質量部がより好ましい。有機樹脂の種類及び用途によっては未添加でよいが、硬化物の熱膨張率(CTE)が大きくなり、十分な強度を得ることができない場合がある。1000質量部以下であれば、プリプレグ製造時に柔軟性が失われたり、外観不良が発生したりすることがない。なお、このシリカ粉体は、少量配合でよい場合には、樹脂全体の10~90質量%、特に35~85質量%の範囲で含有することが好ましい。
【0091】
このシリカ粉体は上記した石英ガラスクロスと併用することで高速通信基板、アンテナ基板など基板向けの充填剤として好適である。
上記シリカ粉体は流動性や加工性など特性向上のため、異なる平均粒径のシリカ粉体をブレンドしても良い。
【0092】
[その他の成分]
本発明の低誘電樹脂基板には、上記(A)~(C)成分に加え、上述のシランカップリング剤や、必要に応じて、酸、染料、顔料、界面活性剤、難燃剤や接着助剤等の任意成分を添加してもよい。
【0093】
[低誘電樹脂基板]
本発明の低誘電樹脂基板としては、以下の第一から第三の態様が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
第一に、上記した低誘電正接のアニールド石英ガラスクロスと、該ガラスクロスに樹脂を含浸したプリプレグと、かつ、該ガラスクロスのプリプレグを加圧加熱してなる樹脂基板である。
第二に、アニールド石英ガラスクロスと有機樹脂を加圧加熱して複合化した樹脂基板である。
第三に、アニールド石英ガラスクロスと、該ガラスクロスに低誘電正接シリカ粉体を含有する樹脂を含浸したプリプレグと、該ガラスクロスのプリプレグを加圧加熱して複合化した樹脂基板に関するものである。
また、本発明は、低誘電正接である、プリプレグ、積層板などの配線板材料に関し、更に高周波信号の伝送特性にも優れた低誘電率、低誘電正接の多層プリント基板、プリント基板並びにそれを製造するために用いる樹脂組成物、プリプレグ、積層板などの配線板材料に関する。
【0094】
本発明の低誘電樹脂基板(有機樹脂基板)は、上述した(A)~(B)成分を必須成分とする。(C)成分は任意成分であるが、有機樹脂の熱膨張率のコントロールや強度の観点から充填していることが好ましい。(C)成分を含有している場合は、有機樹脂プリプレグを作製し、これを(積層)基板とすることができる。低誘電樹脂基板は、用途に応じて有機樹脂積層基板や、有機樹脂金属張積層基板とすることができる。本発明の低誘電樹脂基板において、絶縁層の厚さは、その用途等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましくは20~2,000μm、より好ましくは50~1,000μmである。
【0095】
-低誘電樹脂基板の製造方法-
本発明の低誘電樹脂基板は、上述した(A)~(B)成分を、必要に応じて(C)成分など他の成分を使用して常法により製造することができる。
有機樹脂(マトリックス樹脂)が溶剤に溶解/分散可能である場合は、(A)成分以外を含む有機樹脂組成物を調製し、これを用いてプリプレグを得た後、これを加圧加熱硬化させることにより低誘電樹脂基板を得ることができる(第1の製法)。有機樹脂が溶剤に溶解/分散不可能、若しくは、溶解困難である場合には、薄膜の有機樹脂フィルムとアニールド石英ガラスクロス、必要に応じて、銅箔等とを加熱圧着することで低誘電樹脂基板を作製することもできる(第2の製法)。以下、これらの製法について説明する。
【0096】
(第1の製法)
第1の製法では、本発明の低誘電樹脂基板は、上記(B)、必要に応じて(C)成分を含有する有機樹脂組成物を、溶剤に溶解・分散された状態で(A)成分であるアニールド石英ガラスクロスに含浸させ、次に、該ガラスクロスから前記溶剤を蒸発させて除去し、プリプレグを得る。得られたプリプレグを加圧加熱などで硬化させることにより得ることができる。ここで(C)成分の充填剤(無機質充填剤等)は、(B)成分の100質量部に対して1000質量部以下が好ましく、より好ましくは10~950質量部、特に50~850質量部の範囲であることがより好ましい。
【0097】
-溶剤-
第1の製法で低誘電樹脂基板を製造する場合には、上述した有機樹脂組成物を溶解・分散させることができ、かつ、該組成物が未硬化または半硬化の状態に保持される温度で蒸発させることができるものであれば特に限定されず、例えば、沸点が50~200℃、好ましくは80~150℃の溶剤が挙げられる。溶剤の具体例としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系非極性溶剤;エーテル類、エステル類等の炭化水素系極性溶剤が挙げられる。溶剤の使用量は、上述した有機樹脂組成物が溶解・分散し、得られた溶液または分散液をアニールド石英ガラスクロスに含浸させることができる量であれば、特に制限されず、前記有機樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは、10~200質量部、より好ましくは20~100質量部である。
【0098】
有機樹脂組成物は、例えば、以下のようにして調製することができる。
まず、有機樹脂、場合により架橋剤、反応開始剤等の添加剤といった有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、有機溶媒に溶解しない成分、すなわち、無機充填材等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。
または、有機樹脂に無機充填材をプラネタリーミキサー、ロールミル等の分散機を用いて混合分散し、次いでボールミル、ビーズミルや佐竹化学機械工業(株)製の攪拌装置等の溶解装置で有機溶媒中に、上記有機樹脂混合物と、架橋剤、反応開始剤等を添加してワニス状樹脂組成物を調製する。
【0099】
また、配合時、無機充填材をシラン系、チタネート系等のカップリング剤、シリコーンオリゴマー等の表面処理剤で前処理、あるいはインテグラルブレンド処理することも好ましい。なお、ガラスクロスをあらかじめ表面処理することに代えて、表面処理剤(シランカップリング剤等)を有機樹脂組成物に配合しておくことも可能である。
【0100】
最終的に得られるワニス中の樹脂組成物は、ワニス全体の30~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることが更に好ましい。ワニス中の樹脂組成物の含有量を30~90質量%にすることで、塗工性を良好に保ち、適切な樹脂組成物付着量のプリプレグを得ることができる。
【0101】
-プリプレグ-
上述した有機樹脂組成物の溶液または分散液(ワニス)は、例えば、アニールド石英ガラスクロスを該溶液または分散液に含浸又は吹付け、押出等により塗工した後、乾燥炉中で好ましくは50~150℃、より好ましくは60~120℃で溶剤を除去し、半硬化(Bステージ化)させることによりプリプレグ(有機樹脂プリプレグ)を得る。なお、有機樹脂組成物をアニールド石英ガラスクロスに含浸する方法としては,上記に限定されず、一般の方法が適用可能であり、有機樹脂組成物をアニールド石英ガラスクロスに含浸した後、硬化前(Aステージ)のままプリプレグとすることもできる。
このようにして、薄くて、誘電率が低く、絶縁信頼性の向上が図られたプリプレグが得られる。
【0102】
前記プリプレグにおける樹脂含有量(レジンコンテント)は、特に限定されないが、例えば、40~90質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。このような樹脂含有量であれば、所望の低誘電特性が得られ、また、熱膨張係数(CTE)が高くなったり、板厚精度が低下したりすることもない。なお、ここでの樹脂含有量は、プリプレグの質量に対する、プリプレグの質量からガラスクロスの質量を引いた分の質量の割合[=(プリプレグの質量-ガラスクロスの質量)/プリプレグの質量×100]である。
【0103】
得られたプリプレグを、絶縁層の厚みに応じた枚数を重ね、加圧加熱して積層基板とすることができる。プリプレグに金属箔を重ねて、5~50MPaの圧力、70~180℃の温度の範囲で真空プレス機等を用いて加圧加熱により金属張積層基板が製造される。金属箔としては特に限定されないが、電気的、経済的に銅箔が好ましく用いられる。この金属張積層板をサブトラクト法や穴あけ加工などの通常用いられる方法により加工することで印刷配線板を得ることができる。
【0104】
(第2の製法)
溶剤に溶解しづらい熱可塑性樹脂の場合は、薄膜の樹脂フィルム、銅箔とアニールド石英ガラスクロスを加熱圧着することで樹脂基板を作製することもできる。
【0105】
例えば、フッ素樹脂基板を作製する場合は、あらかじめ成形され表面処理がなされたフッ素樹脂のフィルムとアニールド石英ガラスクロス及び銅箔を加熱下で圧着する方法がある。加熱下での熱圧着は通常250~400℃の範囲内で、1~20分間、0.1~10MPaの圧力で行うことが出来る。熱圧着温度に関しては、高温になると樹脂の染み出しや、厚みの不均一化が起こる懸念があり、340℃未満であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましい。熱圧着はプレス機を用いてバッチ式に行うこともでき、また高温ラミネーターを用いて連続的に行うこともできる。プレス機を用いる場合は空気の挟み込みを防ぎ、フッ素樹脂がアニールド石英ガラスクロス内へ入り込みやすくするために、真空プレス機を用いることが好ましい。
【0106】
表面処理を行ったフッ素樹脂フィルムは、単体では表面粗度の低い銅箔に対して十分に接着することができず、熱圧着時に銅箔から染み出し、厚みの均一化も図れないが、上述の通り、アニールド石英ガラスクロスと複合化した場合は、線膨張率が十分下がり、さらに樹脂の染み出しも低減し、表面粗度Raが0.2μm未満である銅箔に対しても高い接着性を発現する。
積層体の構成は2枚の銅箔の間に、n枚のフッ素樹脂フィルムとn-1枚のアニールド石英ガラスクロスを交互に積層したもの(nは2~10の整数)からなるが、nの値は8以下が好ましく、6以下が更に好ましい。フッ素樹脂フィルムの厚さやアニールド石英ガラスクロスの種類、及びnの値を変えることによって本発明の樹脂積層基板のXY方向の線膨張率を変えることが出来るが、線膨張率の値は5~50ppm/℃の範囲内が好ましく、10~40ppm/℃の範囲内が更に好ましい。誘電体層の線膨張率が50ppm/℃を超えると銅箔と誘電体層との密着性が低くなり、また銅箔エッチング後に基板の反りや波打ちなどの不具合を生じやすくなる。
【0107】
上記薄膜の樹脂フィルムに予め(C)成分を充填し、アニールド石英ガラスクロス等と加熱圧着することで樹脂基板を作製することもできる。
【0108】
金属張積層基板の電極パターンは、公知の方法で作製すればよく、例えば、本発明の有機樹脂積層基板と、該積層基板の片面または両面に設けられた銅箔とを有する銅張積層基板に対してエッチング等を行うことにより作製することができる。
【実施例】
【0109】
以下に実施例、比較例、調製例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下における引張強さ、誘電正接(tanδ)、平均粒径の測定は以下の方法で行った。
【0110】
1.引張強さの測定
JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定した。
【0111】
2.誘電正接の測定
2.1 ガラスクロス、樹脂基板
特に明示した場合を除いて、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。
【0112】
2.2 シリカ粉体
(1)シリカ粉体100質量部を、低誘電マレイミド樹脂であるSLK-3000(信越化学工業社製)100質量部と硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークミルD:日油(株)社製)2.0質量部を含むアニソール溶剤100質量部に混合、分散、溶解してワニスを作製した。このとき、シリカ粉体は樹脂に対して体積%で33.3%である。同様にして、シリカ粉体を上記樹脂100質量部に対して体積%で0%、11.1%、66.7%となるように配合してワニスを作製した。
作製したワニスをバーコーターで厚さ200μmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
【0113】
(2)調製した各未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを作製した。樹脂硬化シートを50mm×50mmの大きさに切り、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0114】
(3)横軸にシリカ粉体の体積%を、縦軸に測定した誘電正接を取ることで得られるプロットからシリカ粉体の体積%vs誘電正接の直線を作成した。この直線を外挿し、シリカ粉体100%の誘電正接をシリカ粉体の誘電正接の値とした。
【0115】
なお、シリカ粉体を直接測定できるとする測定器もあるが、測定ポットの中にシリカ粉体を充填して測定するため、混入した空気の除去が困難である。特に比表面積の大きいシリカ粉体は混入空気の影響が大きいため、なおさら困難である。そこで混入した空気の影響を排除し、実際の使用態様に近い状態での値を得るために本発明では、上述した測定方法によりシリカ粉体の誘電正接を求めた。
【0116】
3.平均粒径の測定
レーザー回折式粒度分布測定装置により測定し、粒度分布における質量平均値D50を平均粒径とした。
【0117】
(調製例1):石英ガラスクロス(SQ11,SQ12,SQ13)の製造例
石英ガラス糸を高温で延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径5.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.4回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
【0118】
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が54本/25mm、よこ糸密度が54本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.045mm、クロス重量が42.5g/m2であった。
【0119】
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。なお、上記で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロスをSQ11とした。SQ11の周波数が10GHzでの誘電正接は0.0011で引張強さは96N/25mm、クロス重量(g/m2)当たり2.26(N/25mm)であった。
【0120】
次に、上記で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロスを700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。この石英ガラスクロスをSQ12とした。SQ12の10GHzでの誘電正接は0.0002で引張強さは14N/25mm、クロス重量(g/m2)当たり0.33(N/25mm)であった。
【0121】
その後、冷却した石英ガラスクロスを40℃に加熱したpH13のアルカリ電解水に入れ48時間浸漬しエッチング処理を行った。エッチング後、イオン交換水で洗浄し、乾燥することで低誘電、高強度の石英ガラスクロス(SQ13)を作製した。石英ガラスクロスSQ13の誘電正接は0.0002で引張強さは120N/25mm、クロス重量(g/m2)当たり2.82(N/25mm)であった。
【0122】
石英ガラスクロスの不純物金属含有量は、SQ11、SQ12、SQ13ともにアルカリ金属の総和で0.5ppm、P(リン)は0.1ppm、UおよびThの含有量はそれぞれ0.1ppbであった。各元素の含有量は原子吸光法により測定した(質量換算)。
【0123】
なお、上記SQ11、SQ12及びSQ13の各石英ガラスクロスは、下記工程でシランカップリング剤KBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)で表面処理を行ったのち、引張強さを測定した。
(工程)
石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。
【0124】
(調製例2):石英ガラスクロス(SQ21,SQ22,SQ23)の製造例
調製例1と同様にして、直径5.0μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.8回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
【0125】
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が66本/25mm、よこ糸密度が66本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.030mm、クロス重量が26.5g/m2であった。
【0126】
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。なお、上記で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロスをSQ21とした。SQ21の周波数が10GHzでの誘電正接は0.0011で引張強さは49N/25mm、クロス重量(g/m2)当たり1.85(N/25mm)であった。
【0127】
次に、上記で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロスを700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。この石英ガラスクロスをSQ22とした。SQ22の10GHzでの誘電正接は0.0002で引張強さは9N/25mm、クロス重量(g/m2)当たり0.34(N/25mm)であった。
【0128】
その後、冷却した石英ガラスクロスを40℃に加熱したpH13のアルカリ電解水に入れ48時間浸漬しエッチング処理を行った。エッチング後、イオン交換水で洗浄し、乾燥することで低誘電、高強度の石英ガラスクロス(SQ23)を作製した。石英ガラスクロスSQ23の誘電正接は0.0002で引張強度は79N/25mm、クロス重量(g/m2)当たり2.98(N/25mm)であった。石英ガラスクロス中の金属含有量は、調製例1と同様に測定し、同様な結果であった。
表1に作製した石英ガラスクロスの種類と処理実施項目を示す。
【0129】
【0130】
(調製例3):低誘電正接シリカ粉体(S1)の作製例
平均粒径が1.5μm、誘電正接が0.0015(10GHz)のシリカ(アドマテックス社製 SO-E5)の5kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却しシリカを得た。加熱処理後のシリカをpH13のアルカリ電解水20リットルの入ったプラスチック容器に入れて60℃に加熱しながら2時間攪拌することで粒子表面の歪層を除去した。その後、遠心分離装置でシリカを分離した後、メタノールで洗浄して乾燥した。乾燥したシリカをボールミルで解砕したシリカの誘電正接は0.0002(10GHz)であった。ここで得られたシリカ(S1)をシランカップリング剤KBM-503(商品名;信越化学工業(株)製、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で表面処理を行ない、樹脂基板の製造に使用した。
【0131】
(調製例4):低誘電正接シリカ粉体(S2)の作製例
調製例3と同様にして、加熱処理シリカを調製した。平均粒径が1.5μm、誘電正接が0.0015(10GHz)のシリカ(アドマテックス社製 SO-E5)の5kgをアルミナ容器に入れマッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却しシリカを得た。シリカの誘電正接は0.0002(10GHz)であった。ここで得られたシリカ(S2)をシランカップリング剤、KBM-503(商品名;信越化学工業(株)製、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で表面処理を行ない、樹脂基板の製造に使用した。
表2に、原料シリカと処理シリカの処理実施項目を示す。
【0132】
【0133】
[フッ素樹脂基板の製造]
(実施例1)
厚さ50μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)フィルム(TFE/PPVE=98.5/1.5(モル%)、MFR(メルトフローレート):14.8g/10分、融点:305℃)を2枚、調製例1で作製したアニールド石英ガラスクロス(SQ13)を1枚用意し、それぞれPFAフィルム/アニールド石英ガラスクロス/PFAフィルムの順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃で30分間、熱プレスすることにより、フッ素樹脂基板を作製した。
このフッ素樹脂基板は成型不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0003と優れた特性を有するものであった。
【0134】
(比較例1)
厚さ50μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)フィルム(TFE/PPVE=98.5/1.5(モル%)、MFR:14.8g/10分、融点:305℃)を2枚、調製例1で作製したアニールド石英ガラスクロス(SQ11)を1枚用意し、それぞれPFAフィルム/石英ガラスクロス/PFAフィルムの順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃で30分間、熱プレスすることによりフッ素樹脂基板を作製した。得られたフッ素樹脂基板に成型不良はなかった。10GHzでの誘電正接は0.0007であった。
【0135】
(比較例2)
厚さ50μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)フィルム(TFE/PPVE=98.5/1.5(モル%)、MFR:14.8g/10分、融点:305℃)を2枚、調製例1で作製した石英ガラスクロス(SQ12)1枚用意し、それぞれPFAフィルム/石英ガラスクロス/PFAフィルムの順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃で30分間、熱プレスすることによりフッ素樹脂基板を作製した。得られたフッ素樹脂基板は、石英ガラスクロスの強度が弱く、加圧によりクロスの破断があり良好なフッ素樹脂基板が作製できなかった。このため、誘電正接は測定できなかった。
表3に結果を示す。
【0136】
【表3】
成形加工性:
◎ クロス破断なく、成形良好
× クロス破断し、成形不良
【0137】
[ビスマレイミド樹脂であるSLKシリーズを使用したプリプレグと基板]
(実施例2~5及び比較例3~6)
(B)有機樹脂として、下記ビスマレイミド樹脂を使用した。
(B)ビスマレイミド樹脂
(B-1):下記式(2)で示される直鎖アルキレン基含有ビスマレイミド樹脂SLK-3000(商品名;信越化学工業(株)製)
【化2】
n≒3(平均値)
【0138】
(B-2):下記式(3)で示される直鎖アルキレン基含有ビスマレイミド樹脂SLK-2500(商品名;信越化学工業(株)製)
【化3】
n≒3、m≒3(ともに平均値)
【0139】
<スラリーの調製>
(調製例5)
SLK-3000(商品名;信越化学工業(株)製)を100質量部、調製例3で作製したシリカ粉体(S1)を100質量部、ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶剤としてアニソールに入れ、攪拌機で予備混合して60%のスラリー溶液を作製し、フィラーが均一に分散したビスマレイミド樹脂スラリー組成物を調製した。
【0140】
(調製例6)
SLK-3000(商品名;信越化学工業(株)製)を100質量部、調製例4で作製したシリカ粉体(S2)を100質量部、ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶剤としてアニソールに入れ、攪拌機で予備混合して60%のスラリー溶液を作製し、フィラーが均一に分散したビスマレイミド樹脂スラリー組成物を調製した。
【0141】
(調製例7)
SLK-2500(商品名;信越化学工業(株)製)を100質量部、調製例3で作製したシリカ粉体(S1)を100質量部、ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶剤としてアニソールに入れ、攪拌機で予備混合して60%のスラリー溶液を作製し、フィラーが均一に分散したビスマレイミド樹脂スラリー組成物を調製した。
【0142】
(調製例8)
SLK-3000(商品名;信越化学工業(株)製)を100質量部、調製例3で作製したシリカ粉体(S1)の原料として使用したシリカ粉体(アドマテックス社製 SO-E5)を100質量部、ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶剤としてアニソールに入れ、攪拌機で予備混合して60%のスラリー溶液を作製し、フィラーが均一に分散したビスマレイミド樹脂スラリー組成物を調製した。
【0143】
<プリプレグの作製>
上記調製例5~8で作製したスラリー組成物を石英ガラスクロスSQ11、SQ12及びSQ13に含浸させた後、120℃で5分間乾燥させることでプリプレグを作製した。その際、付着量は44%になるように調整した。その後、作製したプリプレグを3枚積層して真空減圧プレス機を用い150℃で1時間、さらに180℃で2時間のステップキュアを行うことで硬化させ、樹脂基板(実施例2~5及び比較例3~6)を作製した。
【0144】
その後、ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化した樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接を測定した。
比較例3と比較例4は、成形不良により樹脂基板が作製出来ず、誘電正接は測定できなかった。
その結果を表4に示す。
【0145】
【表4】
成形加工性:
◎ クロス破断なく、成形良好
× クロス破断し、成形不良
【0146】
(実施例6及び比較例7,8)
実施例2~5及び比較例3~6と同様に、調製例5で作製したスラリー組成物を石英ガラスクロスSQ21、SQ22及びSQ23に含浸させた後、120℃5分間乾燥させることでプリプレグを作製した。その際、付着量は44%になるように調整した。その後、作製したプリプレグを3枚積層して真空減圧プレス機を用い150℃で1時間、さらに180℃で2時間のステップキュアを行うことで硬化させ、樹脂基板を作製した。
【0147】
その後、ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化した樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接を測定した。
比較例7は、成形不良により樹脂基板が出来ず、誘電正接は測定できなかった。
その結果を表5に示す。
【0148】
【表5】
成形加工性:
◎ クロス破断なく、成形良好
× クロス破断し、成形不良
【0149】
[シアネ-トエステル樹脂を使用したプリプレグ及び積層基板]
(実施例7)
シアネートエステル樹脂として、プリマセットPT-60(ロンザ製 シアネート基当量 119)90質量部、フェノール化合物 TD2131(DIC製 フェノール性水酸基当量 110)10質量部、調製例4で作製したシリカ(S2)の800質量部を、溶剤としてメチルエチルケトンの500質量部に入れ、高速混合装置で均一に混合し分散液を調製した。
このシアネートエステル樹脂組成物のメチルエチルケトン分散液を石英ガラスクロス(SQ13)に浸漬することにより、分散液を石英ガラスクロスに含浸させ、付着量は44%になるように調整した。このガラスクロスを60℃で2時間熱風乾燥機に放置することで溶剤を揮発させ、プリプレグを作製した。このプリプレグは室温でタックもなく取り扱いも容易な基材であった。ここで製造したプリプレグを2枚重ねて熱プレス機にて170℃で1時間加圧・加熱硬化して成型後、更にこれを185℃で1時間2次硬化させてシアネートエステル樹脂積層基板を得た。その後、ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化した樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接を測定した。誘電正接(10GHz)は0.0008であった。
【0150】
(比較例9)
シアネートエステル樹脂としてプリマセットPT-60(ロンザ製 シアネート基当量 119)90質量部、フェノール化合物 TD2131(DIC製 フェノール性水酸基当量 110)10質量部、調製例3で作製したシリカ粉体(S1)の原料として使用したシリカ粉体(アドマテックス社製SO-E5)の800質量部を、溶剤としてメチルエチルケトンの500質量部に入れ、高速混合装置で均一に混合し分散液を調製した。
このシアネートエステル樹脂組成物のメチルエチルケトン分散液を石英ガラスクロス(SQ11)に浸漬することにより、分散液を石英ガラスクロスに含浸させ、付着量は44%になるように調整した。このガラスクロスを60℃で2時間熱風乾燥機に放置することで溶剤を揮発させ、プリプレグを作製した。このプリプレグは室温でタックもなく取り扱いも容易な基材であった。ここで製造したプリプレグを2枚重ねて熱プレス機にて170℃で1時間加圧・加熱硬化して成型後、更にこれを185℃で1時間2次硬化させてシアネートエステル樹脂積層基板を得た。その後、実施例7と同様にして、硬化した樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接を測定した。誘電正接(10GHz)は0.0017であった。
【0151】
実施例1-7の本発明の低誘電樹脂基板は、従来の石英ガラスクロス(SQ11、SQ21)を用いた基板(比較例1、5、6、8、9)に比べて誘電正接が低く、また、複合化された石英ガラスクロスの引張強さが高いため、基板自体の強度にも優れており、成形加工性に優れていた。
また、実施例2と比較例5、及び、実施例5と比較例6の結果の比較から明らかなように、充填剤としてシリカ粉体を更に含む場合であっても、従来の石英ガラスクロスを用いた基板(比較例5、6)に比べて、本発明の基板(実施例2,5)は誘電正接が低くなった。充填するシリカ粉体自体も低誘電正接であると、基板の膨張係数や弾性率などを調整しつつ、誘電特性が著しく向上させることができる(実施例2-4,6,7)。
【0152】
一方、本発明の範囲外である基板(比較例1-9)は、誘電正接が低いとともに、引張強さに優れた石英ガラスクロスを用いていないため、低誘電正接と成形加工性とを両立させることができなかった。
【0153】
また、本発明の低誘電樹脂基板は、使用する石英ガラスクロス自体の誘電正接が低く、引張強さにも優れているため、これと複合化させる有機樹脂の選択肢が広がる。このことと相まって、複合化させる有機樹脂を適切に選択することにより、含浸によりプレプレグを一旦得てから基板を製造することもできるし、成形されている樹脂を熱融着することによりプレプレグを経由せずに基板を製造することもできる。
【0154】
このように、本発明の低誘電樹脂基板は誘電正接が低く、引張強さに優れるため、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板などに好適に用いることができ、配線基板の高密度実装化や極薄化にも対応可能であり、5Gなどの高速通信の分野において利用価値が高い。
【0155】
更に本発明では、代表的な汎用の無機粉体の一つであって、樹脂に添加する無機粉体として膨張係数も小さく絶縁性や誘電特性にも優れた材料であるシリカ粉体を、基板の誘電正接を低く維持したまま配合できるため、今後大きく成長が期待できる高速通信用基板、またアンテナ基板などの充填剤として幅広い用途に展開できると考えられる。特に、充填剤としてシリカ粉体を更に含む場合でも、10GHzでの誘電正接が0.0010未満の低誘電正接シリカ粉体を用いることにより、基板の誘電正接をより低くすることが可能であるため、上記用途における利用価値は非常に高い。
【0156】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。