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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】電界強度算出装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/318 20150101AFI20240424BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20240424BHJP
【FI】
H04B17/318
H04B17/391
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020126867
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023729
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】岡 章
(72)【発明者】
【氏名】水口 章
(72)【発明者】
【氏名】丸本 雅人
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】鹿児島 達雄
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-344398(JP,A)
【文献】特開2015-17845(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0047784(KR,A)
【文献】乗松義弘,中波放送エリアの自動計算について,放送技術,第51巻・第1号(通巻608号),兼六館出版株式会社,1998年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/318
H04B 17/391
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中波を受信する受信点の電界強度を算出する電界強度算出装置において、
予め設定された送信点の緯度及び経度を示す送信点情報、及び前記受信点の経度及び緯度を示す受信点情報から、前記送信点から前記受信点までの直線のルートの前記緯度及び前記経度を示す伝搬路情報を算出し、前記送信点情報、前記受信点情報及び前記中波の周波数に基づいて、前記受信点から前記送信点を見たときの第一フレネルゾーンを算出し、地球面を基準にして前記第一フレネルゾーンの右端及び左端のいずれか一方を端のルートに設定し、前記端のルートの前記伝搬路情報を算出する伝搬路算出部と、
前記直線のルート及び前記端のルートのそれぞれについて、対応する前記伝搬路情報の示す経路に沿って、予め設定された地形分類データを用いて所定距離毎に地形分類を求め、所定のミリントン法の電界強度算出手法により、前記地形分類に応じて前記受信点の電界強度Emを算出する電界強度算出部と、
前記電界強度算出部により算出された前記直線のルートの前記電界強度Em及び前記端のルートの前記電界強度Emの平均値を求め、これを前記受信点の電界強度として出力する電界強度平均化部と、
を備えたことを特徴とする電界強度算出装置。
【請求項2】
中波を受信する受信点の電界強度を算出する電界強度算出装置において、
予め設定された送信点の緯度及び経度を示す送信点情報、及び前記受信点の経度及び緯度を示す受信点情報から、前記送信点から前記受信点までの直線のルートの前記緯度及び前記経度を示す伝搬路情報を算出し、前記送信点情報、前記受信点情報及び前記中波の周波数に基づいて、前記受信点から前記送信点を見たときの第一フレネルゾーンを算出し、地球面を基準にして前記第一フレネルゾーンの右端を右回りのルートに設定し、前記右回りのルートの前記伝搬路情報を算出すると共に、前記地球面を基準にして前記第一フレネルゾーンの左端を左回りのルートに設定し、前記左回りのルートの前記伝搬路情報を算出する伝搬路算出部と、
前記直線のルート、前記右回りのルート及び前記左回りのルートのそれぞれについて、対応する前記伝搬路情報の示す経路に沿って、予め設定された地形分類データを用いて所定距離毎に地形分類を求め、所定のミリントン法の電界強度算出手法により、前記地形分類に応じて前記受信点の電界強度Emを算出する電界強度算出部と、
前記電界強度算出部により算出された前記直線のルートの前記電界強度Em、前記右回りのルートの前記電界強度Em及び前記左回りのルートの前記電界強度Emの平均値を求め、これを前記受信点の電界強度として出力する電界強度平均化部と、
を備えたことを特徴とする電界強度算出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電界強度算出装置において、
前記電界強度算出部は、前記伝搬路算出部により算出された前記伝搬路情報における複数の前記ルートのそれぞれに対応して、伝搬路地形分類処理部、ミリントン法算出部、回折点検出部、遮蔽損失算出部及び電界強度処理部を備え、
前記伝搬路地形分類処理部は、
前記伝搬路情報の示す経路に沿って、前記地形分類データを用いて前記所定距離毎に前記地形分類を求め、
前記ミリントン法算出部は、
前記ミリントン法の電界強度算出手法により、前記伝搬路地形分類処理部により求めた前記地形分類に応じて前記電界強度Emを算出し、
前記回折点検出部は、
前記伝搬路情報及び予め設定された標高データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間の所定距離毎の地形断面図データを生成し、前記地形断面図データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間に存在する全ての回折点を検出し、
前記遮蔽損失算出部は、
前記回折点検出部により検出された前記全ての回折点のそれぞれについて損失電力tmpを算出し、前記全ての回折点の前記損失電力tmpのうちの最も大きい前記損失電力tmpを遮蔽損失ELとして求めるか、または前記全ての回折点の前記損失電力tmpの和を前記遮蔽損失ELとして求め、
前記電界強度処理部は、
前記ミリントン法算出部により算出された前記電界強度Emから前記遮蔽損失算出部により求めた前記遮蔽損失ELを減算し、前記受信点の個別電界強度を求め、
前記電界強度平均化部は、
複数の前記ルートのそれぞれに対応する前記電界強度処理部により求めた前記個別電界強度の平均値を求め、これを前記受信点の電界強度として出力する、ことを特徴とする電界強度算出装置。
【請求項4】
中波を受信する受信点の電界強度を算出する電界強度算出装置において、
予め設定された送信点の緯度及び経度を示す送信点情報、及び前記受信点の経度及び緯度を示す受信点情報から、前記送信点から前記受信点までの直線のルートの前記緯度及び前記経度を示す伝搬路情報を算出する伝搬路算出部と、
前記受信点の電界強度を算出する電界強度算出部と、を備え、
前記電界強度算出部は、
前記伝搬路算出部により算出された前記直線のルートの前記伝搬路情報の示す経路に沿って、予め設定された地形分類データを用いて所定距離毎に地形分類を求める伝搬路地形分類処理部と、
所定のミリントン法の電界強度算出手法により、前記伝搬路地形分類処理部により求めた前記地形分類に応じて前記受信点の電界強度Emを算出するミリントン法算出部と、
前記直線のルートの前記伝搬路情報及び予め設定された標高データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間の所定距離毎の地形断面図データを生成し、前記地形断面図データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間に存在する全ての回折点を検出する回折点検出部と、
前記回折点検出部により検出された前記全ての回折点のそれぞれについて損失電力tmpを算出し、前記全ての回折点の前記損失電力tmpの和を遮蔽損失ELとして求めるか、または前記全ての回折点の前記損失電力tmpのうちの最も大きい前記損失電力tmpを前記遮蔽損失ELとして求める遮蔽損失算出部と、
前記ミリントン法算出部により算出された前記電界強度Emから前記遮蔽損失算出部により求めた前記遮蔽損失ELを減算し、前記受信点の電界強度を求める電界強度処理部と、
を備えたことを特徴とする電界強度算出装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から4までのいずれか一項に記載の電界強度算出装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中波を受信する受信点の電界強度を算出する電界強度算出装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中波ラジオ放送の受信点の電界強度は、波長が数100mと長く、昼間は大地に沿って伝搬する表面波の強度として算出される。海、平地、山を含む伝搬路の大地の電気定数が異なる混合路伝搬の場合に、その電界強度を算出するためには、郵政省告示第640号(非特許文献1)に記載されたミリントン(Millington)法(例えば、非特許文献2を参照)が広く利用されている。
【0003】
また、このミリントン法を用いた中波放送のサービスエリア計算手法が報告されている(例えば、非特許文献3を参照)。このミリントン法を用いた電界強度算出手法は、前述の非特許文献1に記載された数式及び電界強度曲線を用いて、受信点の電界強度を求めるものである。
【0004】
具体的には、この手法は、送信点と受信点を最短距離で結んだ伝搬路(直線ルートの伝搬路)に沿って、一定距離毎に地形分類を求め、地形分類に応じた大地導電率を求める。
【0005】
そして、この手法は、大地導電率に応じた電界強度曲線を用いて、伝搬路の正方向(送信点から受信点へ)の電界強度を求めると共に、逆方向(受信点から送信点へ)の電界強度を求め、幾何学平均により、受信点の電界強度を求める。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“無線局免許手続規則第七条第二項の規定に基づく放送区域等を計算による電界強度に基づいて定める場合における当該電界強度の算出の方法”、[online]、郵政省告示第六百四十号、[令和2年6月15日検索]、インターネット<URL:https://www.tele.soumu.go.jp/horei/reiki_honbun/a720730001.html>
【文献】Rec. ITU-R P.368-9 Annex 2、“GROUND-WAVE PROPAGATION CURVES FOR FREQUENCIES BETWEEN 10 kHz AND 30 MHz”、2007.
【文献】岡本他、“中波放送サービスエリアの自動計算”、2001年映像情報メディア学会年次大会、20-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述のミリントン法を用いた電界強度算出手法では、例えば送信点と受信点との間の直線ルートの伝搬路が山岳伝搬を含む場合、算出値と実測値が大きく異なってしまい、精度の高い電界強度を得ることができないという問題があった。
【0008】
これは、ミリントン法では、山岳等による回折の影響を電界強度に正しく反映することができない場合があるからである。このため、山岳等による回折の影響を反映する等して、精度の高い電界強度を算出することが所望されていた。
【0009】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、中波を受信する受信点の電界強度を精度高く算出可能な電界強度算出装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1の電界強度算出装置は、中波を受信する受信点の電界強度を算出する電界強度算出装置において、予め設定された送信点の緯度及び経度を示す送信点情報、及び前記受信点の経度及び緯度を示す受信点情報から、前記送信点から前記受信点までの直線のルートの前記緯度及び前記経度を示す伝搬路情報を算出し、前記送信点情報、前記受信点情報及び前記中波の周波数に基づいて、前記受信点から前記送信点を見たときの第一フレネルゾーンを算出し、地球面を基準にして前記第一フレネルゾーンの右端及び左端のいずれか一方を端のルートに設定し、前記端のルートの前記伝搬路情報を算出する伝搬路算出部と、前記直線のルート及び前記端のルートのそれぞれについて、対応する前記伝搬路情報の示す経路に沿って、予め設定された地形分類データを用いて所定距離毎に地形分類を求め、所定のミリントン法の電界強度算出手法により、前記地形分類に応じて前記受信点の電界強度Emを算出する電界強度算出部と、前記電界強度算出部により算出された前記直線のルートの前記電界強度Em及び前記端のルートの前記電界強度Emの平均値を求め、これを前記受信点の電界強度として出力する電界強度平均化部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2の電界強度算出装置は、中波を受信する受信点の電界強度を算出する電界強度算出装置において、予め設定された送信点の緯度及び経度を示す送信点情報、及び前記受信点の経度及び緯度を示す受信点情報から、前記送信点から前記受信点までの直線のルートの前記緯度及び前記経度を示す伝搬路情報を算出し、前記送信点情報、前記受信点情報及び前記中波の周波数に基づいて、前記受信点から前記送信点を見たときの第一フレネルゾーンを算出し、地球面を基準にして前記第一フレネルゾーンの右端を右回りのルートに設定し、前記右回りのルートの前記伝搬路情報を算出すると共に、前記地球面を基準にして前記第一フレネルゾーンの左端を左回りのルートに設定し、前記左回りのルートの前記伝搬路情報を算出する伝搬路算出部と、前記直線のルート、前記右回りのルート及び前記左回りのルートのそれぞれについて、対応する前記伝搬路情報の示す経路に沿って、予め設定された地形分類データを用いて所定距離毎に地形分類を求め、所定のミリントン法の電界強度算出手法により、前記地形分類に応じて前記受信点の電界強度Emを算出する電界強度算出部と、前記電界強度算出部により算出された前記直線のルートの前記電界強度Em、前記右回りのルートの前記電界強度Em及び前記左回りのルートの前記電界強度Emの平均値を求め、これを前記受信点の電界強度として出力する電界強度平均化部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の電界強度算出装置は、請求項1または2に記載の電界強度算出装置において、前記電界強度算出部が、前記伝搬路算出部により算出された前記伝搬路情報における複数の前記ルートのそれぞれに対応して、伝搬路地形分類処理部、ミリントン法算出部、回折点検出部、遮蔽損失算出部及び電界強度処理部を備え、前記伝搬路地形分類処理部が、前記伝搬路情報の示す経路に沿って、前記地形分類データを用いて前記所定距離毎に前記地形分類を求め、前記ミリントン法算出部が、前記ミリントン法の電界強度算出手法により、前記伝搬路地形分類処理部により求めた前記地形分類に応じて前記電界強度Emを算出し、前記回折点検出部が、前記伝搬路情報及び予め設定された標高データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間の所定距離毎の地形断面図データを生成し、前記地形断面図データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間に存在する全ての回折点を検出し、前記遮蔽損失算出部が、前記回折点検出部により検出された前記全ての回折点のそれぞれについて損失電力tmpを算出し、前記全ての回折点の前記損失電力tmpのうちの最も大きい前記損失電力tmpを遮蔽損失ELとして求めるか、または前記全ての回折点の前記損失電力tmpの和を前記遮蔽損失ELとして求め、前記電界強度処理部が、前記ミリントン法算出部により算出された前記電界強度Emから前記遮蔽損失算出部により求めた前記遮蔽損失ELを減算し、前記受信点の個別電界強度を求め、前記電界強度平均化部が、複数の前記ルートのそれぞれに対応する前記電界強度処理部により求めた前記個別電界強度の平均値を求め、これを前記受信点の電界強度として出力する、ことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4の電界強度算出装置は、中波を受信する受信点の電界強度を算出する電界強度算出装置において、予め設定された送信点の緯度及び経度を示す送信点情報、及び前記受信点の経度及び緯度を示す受信点情報から、前記送信点から前記受信点までの直線のルートの前記緯度及び前記経度を示す伝搬路情報を算出する伝搬路算出部と、前記受信点の電界強度を算出する電界強度算出部と、を備え、前記電界強度算出部が、前記伝搬路算出部により算出された前記直線のルートの前記伝搬路情報の示す経路に沿って、予め設定された地形分類データを用いて所定距離毎に地形分類を求める伝搬路地形分類処理部と、所定のミリントン法の電界強度算出手法により、前記伝搬路地形分類処理部により求めた前記地形分類に応じて前記受信点の電界強度Emを算出するミリントン法算出部と、前記直線のルートの前記伝搬路情報及び予め設定された標高データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間の所定距離毎の地形断面図データを生成し、前記地形断面図データに基づいて、前記送信点から前記受信点までの間に存在する全ての回折点を検出する回折点検出部と、前記回折点検出部により検出された前記全ての回折点のそれぞれについて損失電力tmpを算出し、前記全ての回折点の前記損失電力tmpの和を遮蔽損失ELとして求めるか、または前記全ての回折点の前記損失電力tmpのうちの最も大きい前記損失電力tmpを前記遮蔽損失ELとして求める遮蔽損失算出部と、前記ミリントン法算出部により算出された前記電界強度Emから前記遮蔽損失算出部により求めた前記遮蔽損失ELを減算し、前記受信点の電界強度を求める電界強度処理部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項5のプログラムは、コンピュータを、請求項1から4までのいずれか一項に記載の電界強度算出装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、中波を受信する受信点の電界強度を精度高く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の電界強度算出装置の構成例を示すブロック図である。
図2】実施例1の電界強度算出装置の処理例を示すフローチャートである。
図3】直線ルート並びに第一フレネルゾーンから算出される右回りルート及び左回りルートの伝搬路を説明する図である。
図4】電界強度算出部の構成例を示すブロック図である。
図5】電界強度算出部の処理例を示すフローチャートである。
図6】国土数値情報の地形分類と導電率の対応例を示す図である。
図7】ミリントン法算出部により算出される各地点の電界強度の例(送信点→受信点)を示す図である。
図8】ミリントン法算出部により補正される不連続地点の電界強度の例(送信点→受信点)を示す図である。
図9】ミリントン法算出部により算出される各地点の電界強度の例(受信点→送信点)を示す図である。
図10】回折点検出部の処理例を示すフローチャートである。
図11】回折点検出部の処理例を説明する図である。
図12】遮蔽損失算出部の処理例を示すフローチャートである。
図13】遮蔽係数xの算出例(ステップS1201)を説明する図である
図14】実施例2の電界強度算出装置の構成例を示すブロック図である。
図15】実施例3の電界強度算出装置の構成例を示すブロック図である。
図16】実施例3における電界強度算出部の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明は、ミリントン法を用いて算出した電界強度に対して、山岳等の回折による遮蔽損失(近接リッジ損失)を考慮することで、受信点の電界強度を算出することを特徴とする。これにより、山岳伝搬を含む伝搬路においても、精度の高い中波の電界強度を得ることができる。
【0018】
また、本発明は、従来の送受信点間を最短距離で結んだ直線ルートの伝搬路に加え、フレネルゾーンを考慮した伝搬路を考慮することで、受信点の電界強度を算出することを特徴とする。これにより、中波の電界強度について、算出値と実測値との間の差を減らすことができる。
【0019】
〔実施例1〕
まず、実施例1の電界強度算出装置について説明する。実施例1は、直線ルートの伝搬路及びフレネルゾーンを考慮した伝搬路を用いて、ミリントン法により算出した電界強度に対し、山岳等の回折による遮蔽損失を考慮することで、受信点の電界強度を算出する例である。
【0020】
図1は、実施例1の電界強度算出装置の構成例を示すブロック図であり、図2は、実施例1の電界強度算出装置の処理例を示すフローチャートである。
【0021】
この電界強度算出装置1は、伝搬路算出部10、電界強度算出部11-1,11-2,11-3及び電界強度平均化部12を備えている。
【0022】
伝搬路算出部10は、送信点情報及び受信点情報を入力する(ステップS201)。そして、伝搬路算出部10は、送信点情報及び受信点情報から直線ルートの伝搬路情報を算出し、送信点情報及び受信点情報から第一フレネルゾーンを算出して右回りルート及び左回りルートの伝搬路情報を算出する(ステップS202)。これにより、第一フレネルゾーンを考慮した右回りルート及び左回りルートの伝搬路情報が得られる。
【0023】
伝搬路算出部10は、左回りルートの伝搬路情報を電界強度算出部11-1に出力し、直線ルートの伝搬路情報を電界強度算出部11-2に出力し、右回りルートの伝搬路情報を電界強度算出部11-3に出力する。伝搬路算出部10の詳細については後述する。
【0024】
送信点情報は、電波を送出する送信点の緯度及び経度により構成される。受信点情報は、電波を受信する受信点の緯度及び経度により構成される。伝搬路情報は、送受信点間の所定距離毎の緯度及び経度から構成される。
【0025】
電界強度算出部11-1,11-2,11-3は、伝搬路算出部10から、左回りルートの伝搬路情報、直線ルートの伝搬路情報及び右回りルートの伝搬路情報をそれぞれ入力する。
【0026】
電界強度算出部11-1,11-2,11-3は、左回りルート、直線ルート及び右回りルートのそれぞれについて、ミリントン法により受信点の電界強度Emを算出すると共に、回折点を検出して遮蔽損失ELを算出する。そして、電界強度算出部11-1,11-2,11-3は、電界強度Emから遮蔽損失ELを減算し、受信点の電界強度(個別電界強度)をそれぞれ求める(ステップS203)。これにより、伝搬路回折(回折による遮蔽損失EL)を考慮した左回りルートの受信点の電界強度、直線ルートの受信点の電界強度及び右回りルートの受信点の電界強度が得られる。
【0027】
電界強度算出部11-1は、左回りルートの受信点の電界強度を電界強度平均化部12に出力し、電界強度算出部11-2は、直線ルートの受信点の電界強度を電界強度平均化部12に出力する。また、電界強度算出部11-3は、右回りルートの受信点の電界強度を電界強度平均化部12に出力する。電界強度算出部11-1,11-2,11-3の詳細については後述する。
【0028】
電界強度平均化部12は、電界強度算出部11-1から左回りルートの受信点の電界強度を入力すると共に、電界強度算出部11-2から直線ルートの受信点の電界強度を入力する。また、電界強度平均化部12は、電界強度算出部11-3から右回りルートの受信点の電界強度を入力する。
【0029】
電界強度平均化部12は、左回りルートの受信点の電界強度、直線ルートの受信点の電界強度及び右回りルートの受信点の電界強度の平均値を求め、これを受信点の電界強度として出力する(ステップS204)。これにより、第一フレネルゾーン及び回折による遮蔽損失ELを考慮した受信点の電界強度が得られる。
【0030】
(伝搬路算出部10)
次に、図1に示した伝搬路算出部10について詳細に説明する。伝搬路算出部10は、送信点情報(緯度及び経度)及び受信点情報(緯度及び経度)に基づいて、送受信点間の直線ルートの伝搬路情報(送受信点間の所定距離毎の緯度及び経度)を算出する。
【0031】
伝搬路算出部10は、送信点情報及び受信点情報から得られる送受信点間距離、及び電波の周波数に基づいて、地球面を基準にして、受信点から送信点を見たときの第一フレネルゾーンを算出する。
【0032】
伝搬路算出部10は、第一フレネルゾーンの形状である回転楕円体において、受信点から送信点を見たときの地球面を基準とした右端を通るルートを右回りルートに設定し、右回りルートの伝搬路情報を算出する。同様に、伝搬路算出部10は、左端を通るルートを左回りルートに設定し、左回りルートの伝搬路情報を算出する。
【0033】
図3は、直線ルート並びに第一フレネルゾーンから算出される右回りルート及び左回りルートの伝搬路を説明する図である。図3に示すように、伝搬路算出部10により、送信点から受信点までの間の直線ルート、第一フレネルゾーンの右端を通る右回りルート及び第一フレネルゾーンの左端を通る左回りルートが設定される。
【0034】
(電界強度算出部11-1,11-2,11-3)
次に、図1に示した電界強度算出部11-1,11-2,11-3について詳細に説明する。電界強度算出部11-1,11-2,11-3は、同じ処理を行う。以下、電界強度算出部11-1,11-2,11-3を総称して電界強度算出部11という。
【0035】
図4は、電界強度算出部11の構成例を示すブロック図であり、図5は、電界強度算出部11の処理例を示すフローチャートである。この電界強度算出部11は、伝搬路地形分類処理部20、ミリントン法算出部21、回折点検出部22、遮蔽損失算出部23及び電界強度処理部24を備えている。伝搬路地形分類処理部20及びミリントン法算出部21による後述するステップS502,S503の処理は、前述の非特許文献1~3に記載された従来のミリントン法の電界強度算出手法による処理である。
【0036】
電界強度算出部11は、伝搬路算出部10から対応するルート(左回りルート、直線ルート及び右回りルートのうちのいずれか)の伝搬路情報(送受信点間の所定距離毎の緯度及び経度)を入力する(ステップS501)。
【0037】
伝搬路地形分類処理部20は、伝搬路情報を入力すると共に、予め設定された地形分類データを入力する。そして、伝搬路地形分類処理部20は、伝搬路情報の示す伝搬路に沿って、地形分類データを用いて、送信点から受信点へ向けて所定距離毎に(例えば100m毎に)地形分類を求める(ステップS502)。伝搬路地形分類処理部20は、伝搬路の所定距離毎の地形分類をミリントン法算出部21に出力する。
【0038】
地形分類データとしては、例えば国土数値情報の土地分類メッシュデータ(1kmメッシュ)が用いられる。伝搬路地形分類処理部20は、国土数値情報の土地分類メッシュデータ(1kmメッシュ)を用いて100m毎の地形分類を求める場合、1kmメッシュ内の全ての地点を全て同じ土地分類として扱う。また、伝搬路地形分類処理部20により求められる地形分類は、「山岳地帯(山岳)」「丘陵地帯(丘陵)」「平野地帯(平野)」または「海上」である。
【0039】
図6は、国土数値情報の地形分類と導電率の対応例を示す図である。この対応例は、国土数値情報の地形分類である主分類コード及び主分類と、区分(地形分類)と、大地の導電率(大地導電率)σ[mS/m]とが関連付いた表である。伝搬路地形分類処理部20は、国土数値情報の土地分類メッシュデータを用いて、所定距離毎に主分類コード及び主分類を特定し、これに対応する区分(地形分類)を特定し、所定距離毎の地形分類をミリントン法算出部21に出力する。
【0040】
尚、伝搬路地形分類処理部20は、伝搬路の100m毎に地形分類を求めるようにしてもよいし、100m以外を単位として地形分類を求めるようにしてもよい。
【0041】
ミリントン法算出部21は、前述の非特許文献1の郵政省告示第640号に示されたミリントン法の電界強度算出手法により、地形分類に応じた大地導電率(図6を参照)を用いて、受信点の電界強度Emを算出する(ステップS503)。以下、電波の伝搬路が混合路(大地導電率及び比誘電率が異なる区間を含む伝搬路)である場合の電界強度算出方法について説明する。
【0042】
一般に、電界強度Eは下記の式により求められる。
[数1]
E=Em×√(Gη×D(θ)×Pt) [mV/m] ・・・(1)
ηは空中線見かけ効率、Ptは空中線電力、Emは空中線電力が1kWのときの混合路における電界強度を示し、D(θ)は空中線指向性係数を示す。
【0043】
空中線指向性係数D(θ)は、以下の式を満たすデータである。
[数2]
D(θ)=Dv(θv)+Dh(θh) [dB] ・・・(2)
Dv(θv)は垂直面指向性、θvは受信点方向のチルト角、Dh(θh)は水平面指向性、θhは受信点方向の水平角を示す。
【0044】
ミリントン法算出部21は、伝搬路地形分類処理部20から伝搬路の所定距離毎の地形分類を入力すると共に、予め設定された地形分類に応じた大地導電率毎の電界強度曲線のデータ(例えば前述の非特許文献1を参照)を入力する。
【0045】
ミリントン法算出部21は、地形分類に応じた大地導電率毎の電界強度曲線を用いて、送信点から受信点へ伝搬路に沿って、伝搬路の所定距離毎(例えば100m毎)の地点の電界強度を求めた後、不連続地点の補正を行い、受信点の電界強度(送信点→受信点)Eaを求める。以下、具体的に説明する。
【0046】
図7は、ミリントン法算出部21により算出される各地点の電界強度の例(送信点→受信点)を示す図である。横軸は送信点から受信点までの距離[km]、縦軸は電界強度[dBμV/m]を示す。αは、地形分類が「海上」(大地導電率σ=6[mS/m])の電界強度曲線であり、βは、地形分類が「平野」(大地導電率σ=2[mS/m])の電界強度曲線である、また、γは、地形分類が「山岳」(大地導電率σ=1[mS/m])の電界強度曲線である。大地導電率σは一例である。
【0047】
ミリントン法算出部21は、入力した伝搬路の所定距離毎の地形分類から、送信点から10kmまでの間の地形分類が「海上」であり、10kmから20kmまでの間の地形分類が「平野」であり、20kmから受信点までの間の地形分類が「山岳」であると判断する。
【0048】
ミリントン法算出部21は、地形分類「海上」「平野」及び「山岳」に対応した大地導電率σ毎の電界強度曲線α,β,γを用いて、所定距離毎の地点の電界強度(四角■の特性)を求める。ここでは、各地点の電界強度は独立して求められるため、異なる地形分類の境目の地点において、電界強度が不連続となる(10kmの地点前後及び20kmの地点前後の箇所を参照)。
【0049】
そこで、ミリントン法算出部21は、以下の式を用いて、図7に示した不連続地点の電界強度を補正することで、補正後の電界強度を求め、補正後の電界強度から、送信点から受信点へ向けた受信点の電界強度(送信点→受信点)Eaを求める。
[数3]
a=E1-(E2-E3)-(E4-E5) ・・・(3)
【0050】
図8は、ミリントン法算出部21により補正される不連続地点の電界強度の例(送信点→受信点)を示す図である。縦軸、横軸、電界強度曲線α,β,γは図7と同様である。E1は、「海上」の電界強度曲線において、不連続地点である距離10kmの電界強度を示す。E2は、「平野」の電界強度曲線において、不連続地点である距離10kmの電界強度を示す。E3は、「平野」の電界強度曲線において、不連続地点である距離20kmの電界強度を示す。E4は、「山岳」の電界強度曲線において、不連続地点である距離20kmの電界強度を示す。E5は、「山岳」の電界強度曲線において、受信点の電界強度を示す。これらの電界強度E1,E2,E3,E4,E5は、前記式(3)に用いられる。
【0051】
つまり、ミリントン法算出部21は、送信点から受信点までの間の電界強度曲線が連続した特性(図8に示す補正後の電界強度曲線ρ)となるように、送信点を含む地点の地形分類の電界強度曲線(図8の左側の太い曲線)を基準(固定)にして、他の地形分類の電界強度曲線を所定強度(不連続地点である距離10kmから距離20kmまでにおいては(E1-E2)、不連続地点である距離20kmから受信点までにおいては((E1-E2)+(E4-E3)))だけシフトし、受信点の電界強度(送信点→受信点)Eaを求める。
【0052】
図4及び図5に戻って、同様に、ミリントン法算出部21は、後述する図9のとおり、受信点から送信点へ伝搬路に沿って各地点の電界強度を求めた後、不連続地点の補正を行い、送信点の電界強度(受信点→送信点)Ebを求める。
【0053】
具体的には、ミリントン法算出部21は、入力した伝搬路の所定距離毎の地形分類から、受信点から10kmまでの間の地形分類が「山岳」であり、10kmから20kmまでの間の地形分類が「平野」であり、20kmから送信点までの間の地形分類が「海上」であると判断する。
【0054】
ミリントン法算出部21は、地形分類「山岳」「平野」及び「海上」に対応した大地導電率σ毎の電界強度曲線γ,β,αを用いて、所定距離毎の地点の電界強度(後述する図9の四角■の特性、地形分類が「山岳」の領域では、太線に隠れた四角■の特性)を求める。ここでは、前述と同様に、異なる地形分類の境目の地点において、電界強度が不連続となる(後述する図9に示す10kmの地点前後及び20kmの地点前後の箇所を参照)。
【0055】
ミリントン法算出部21は、前述と同様の処理にて、後述する図9に示す不連続地点の電界強度を補正することで、補正後の電界強度を求め、補正後の電界強度から、受信点から送信点へ向けた送信点の電界強度(受信点→送信点)Ebを求める。
【0056】
図9は、ミリントン法算出部21により算出される各地点の電界強度の例(受信点→送信点)を示す図である。縦軸、横軸、電界強度曲線α,β,γは図7と同様である。つまり、ミリントン法算出部21は、受信点から送信点までの間の電界強度曲線が連続した特性(図9に示す補正後の電界強度曲線ρ’)となるように、受信点を含む地点の地形分類の電界強度曲線(図9の左側の太い曲線)を基準(固定)にして、他の地形分類の電界強度曲線を所定強度だけシフトし、送信点の電界強度(受信点→送信点)Ebを求める。
【0057】
図4及び図5に戻って、ミリントン法算出部21は、電界強度(送信点→受信点)Ea及び電界強度(受信点→送信点)Ebから、以下の式により、受信点の電界強度Emを求める。そして、ミリントン法算出部21は、受信点の電界強度Emを電界強度処理部24に出力する。
[数4]
m=√(Ea×Eb) ・・・(4)
【0058】
回折点検出部22は、伝搬路情報を入力すると共に、予め設定された標高データを入力する。標高データは、例えば50mメッシュを基準とした各地点の標高(海抜高)を示すデータである。そして、回折点検出部22は、伝搬路情報及び標高データに基づいて、送受信点間の所定距離毎の地形断面図データを生成し、当該地形断面図データに基づいて、送受信点間に存在する全ての回折点を検出する(ステップS504)。回折点検出部22は、1つの回折点を検出する場合もあるし、複数の回折点を検出する場合もあるし、回折点を検出できない(検出しなかった)場合もある。
【0059】
回折点検出部22は、ステップS504において回折点を検出したか否かを判定し(ステップS505)、回折点を検出した場合(回折点が有る場合)(ステップS505:Y)、回折点毎の緯度、経度及び標高のデータを遮蔽損失算出部23に出力する。一方、回折点検出部22は、ステップS505において、回折点を検出しなかった場合(回折点が無い場合)(ステップS505:N)、回折点が無いことを示す情報を電界強度処理部24に出力する。
【0060】
図10は、回折点検出部22の処理例を示すフローチャートであり、図11は、回折点検出部22の処理例を説明する図である。まず、回折点検出部22は、伝搬路情報に含まれる送信点について、標高データからその標高を特定する。そして、回折点検出部22は、送信点(の緯度、経度及び標高)を判定用送信点(の緯度、経度及び標高)に設定する(ステップS1001)。
【0061】
回折点検出部22は、判定用送信点から伝搬路情報の示す経路に沿った受信点までの一定区間(例えば50m)のポイント(標高データポイント)毎に、判定用送信点から当該ポイントを望む角度θを求める(ステップS1002)。ここで、判定用送信点からポイントを望む角度θとは、図11(b)に示すように、判定用送信点を基準にして、当該判定用送信点から垂直に下した地面の点と、ポイントとの間の角度(垂直角度)をいう。
【0062】
判定用送信点から受信点を望む角度をθ1とする(図11(a)を参照)。尚、受信点を含むポイントの緯度、経度及び標高は、伝搬路情報及び標高データから特定されるため、判定用送信点からポイントを望む角度θを求めることができる。
【0063】
回折点検出部22は、角度θ>角度θ1を満たすポイントが有るか否かを判定する(ステップS1003)。角度θは、判定用送信点からポイント(受信点を除く)を望む角度であり、角度θ1は、判定用送信点から受信点を望む角度である。
【0064】
回折点検出部22は、ステップS1003において、角度θ>角度θ1を満たすポイントが有ると判定した場合(ステップS1003:Y)、最大の角度θに対応するポイントを回折点として検出し、図示しないメモリに保存する(ステップS1004)(図11(b)の第1回折点を参照)。
【0065】
ここで、回折点検出部22は、角度θ>角度θ1を満たすポイントが複数存在するときには、これらのうちの最大の角度θに対応するポイントを回折点として検出する。また、回折点検出部22は、当該ポイントが1つのときには、当該ポイントの角度θが最大であるとして、当該ポイントを回折点として検出する。
【0066】
回折点検出部22は、ステップS1004にて検出した回折点を判定用送信点に設定し(ステップS1005)、ステップS1002へ移行する。これにより、ステップS1004にて検出した回折点を判定用送信点として、受信点までのポイントを望む角度θが求められ、新たな回折点が検出され、メモリに保存される(図11(c)の第2回折点を参照)。
【0067】
尚、回折点検出部22は、ステップS1004において、検出した回折点が直前に検出した回折点と隣接しており、かつ標高差が1m以内である場合に、検出した回折点を除外し、ステップS1003の判定処理を再度行う。
【0068】
一方、回折点検出部22は、ステップS1003において、角度θ>角度θ1を満たすポイントが無いと判定した場合(ステップS1003:N)、処理を終了する。
【0069】
このように、判定用送信点から受信点までの間で、最大の角度θのポイントを探索し、順次、判定用送信点を回折点に移動させながら受信点まで繰り返すことにより、回折点を検出することができる。
【0070】
そして、回折点検出部22は、メモリから全ての回折点を読み出し、回折点毎の緯度、経度及び標高のデータを遮蔽損失算出部23に出力する。一方、回折点検出部22は、メモリに回折点が格納されていない場合、回折点無しの情報を電界強度処理部24に出力する。
【0071】
図4及び図5に戻って、遮蔽損失算出部23は、回折点検出部22から回折点毎の緯度、経度及び標高のデータを入力し、全ての回折点の回折により生じる遮蔽損失ELを算出する(ステップS506)。そして、遮蔽損失算出部23は、遮蔽損失ELを電界強度処理部24に出力する。尚、回折点が無い場合、遮蔽損失算出部23は処理を行わない。
【0072】
図12は、遮蔽損失算出部23の処理例を示すフローチャートであり、図13は、遮蔽係数xの算出例(ステップS1201)を説明する図である。ここでは、伝搬路で検出された全ての回折点における遮蔽による損失が算出され、その最大値が遮蔽損失ELとして、後のステップS507の電界強度の算出に用いられるものとする。
【0073】
遮蔽損失算出部23は、送信点及び受信点の緯度、経度及び標高、並びに回折点毎の緯度、経度及び標高のデータに基づいて、ナイフエッジによる遮蔽を想定した以下の式を用いて、回折点毎の遮蔽係数xを算出する(ステップS1201)。
[数5]
x=√{(π/λ)×〔(d1+d2)/(d1×d2)〕}×a ・・・(5)
1は、送信点または一つ前の回折点に対応する(から垂直に下した)地球面の点(図13のP1)と、回折点に対応する地球面の点(P2)との間の距離を示す。d2は、回折点に対応する地球面の点(P2)と、受信点または一つ後の回折点に対応する地球面の点(P3)との間の距離を示す。aは、回折点の標高データポイントから当該回折点に対応する地球面の点(P2)への直線と、送信点の標高データポイントから受信点の標高データポイントへの直線との交点(P4)から、回折点の標高データポイントまでの間の距離を示す。λは電波の波長を示す。ここで、ある回折点の仮想的な送信点は、一つ前の回折点とする。
【0074】
遮蔽係数xを算出する処理の詳細については、以下の文献を参照されたい。
[非特許文献4] “改訂版 建造物障害予測ガイドブック”、NHK営業総局受信技術センター、(株)テレケーブル新聞社刊、平成7年5月、pp.1-7
【0075】
遮蔽損失算出部23は、ステップS1201にて算出した回折点毎の遮蔽係数x、及び下記の式で示されるフレネル積分軌跡により、回折点毎のフレネル積分値の大きさlfを算出する(ステップS1202)。
[数6]
【0076】
フレネル積分値の大きさlfを算出する処理の詳細については、前述の非特許文献4を参照されたい。
【0077】
遮蔽損失算出部23は、ステップS1202にて算出した回折点毎のフレネル積分値の大きさlfを用いて、以下の式により、回折点毎の損失電力tmpを算出する(ステップS1203)。
[数7]
tmp=(-20)×log10(2×lf) ・・・(7)
【0078】
遮蔽損失算出部23は、ステップS1203にて算出した回折点毎の全ての損失電力tmpのうち、最大の損失電力tmpを遮蔽損失ELとして求める(ステップS1204)。
【0079】
尚、遮蔽損失算出部23は、回折点毎の全ての損失電力tmpの和を遮蔽損失ELとして算出するようにしてもよい。ここで、回折点の受信高によっては、損失電力tmpの値が大きく変わることがあり得る。この場合には、最大の損失電力tmpを遮蔽損失ELとする方が望ましい。
【0080】
図4及び図5に戻って、電界強度処理部24は、ミリントン法算出部21から電界強度Emを入力すると共に、遮蔽損失算出部23から遮蔽損失EL、または回折点検出部22から回折点無しの情報を入力する。
【0081】
電界強度処理部24は、回折点検出部22から回折点無しの情報を入力した場合、遮蔽損失EL=0を設定する。そして、電界強度処理部24は、電界強度Emから遮蔽損失EL(遮蔽損失算出部23から入力した遮蔽損失EL、または回折点検出部22から回折点無しの情報を入力した場合の遮蔽損失EL=0)を減算する(ステップS507)。電界強度処理部24は、減算結果を受信点の電界強度(個別電界強度)とし、これを電界強度平均化部12に出力する。
【0082】
これにより、電界強度算出部11において、回折による遮蔽損失を考慮した左回りルートの受信点の電界強度、直線ルートの受信点の電界強度及び右回りルートの受信点の電界強度が得られる。
【0083】
以上のように、実施例1の電界強度算出装置1によれば、伝搬路算出部10は、送信点情報及び受信点情報から直線ルートの伝搬路情報を算出し、第一フレネルゾーンを算出して右回りルート及び左回りルートの伝搬路情報を算出する。
【0084】
電界強度算出部11-1,11-2,11-3は、左回りルート、直線ルート及び右回りルートのそれぞれについて、ミリントン法により受信点の電界強度Emを算出すると共に、回折点を検出して遮蔽損失ELを算出する。そして、電界強度算出部11-1,11-2,11-3は、電界強度Emから遮蔽損失ELを減算し、受信点の電界強度をそれぞれ算出する。
【0085】
電界強度平均化部12は、左回りルートの受信点の電界強度、直線ルートの受信点の電界強度及び右回りルートの受信点の電界強度の平均値を求め、これを受信点の電界強度として出力する。
【0086】
これにより、第一フレネルゾーン及び回折による遮蔽損失ELを考慮した受信点の電界強度が得られる。したがって、山岳等による回折の影響を電界強度に正しく反映することができない従来のミリントン法の問題を解決することができ、中波を受信する受信点の電界強度を精度高く算出することが可能となる。
【0087】
〔実施例2〕
次に、実施例2の電界強度算出装置について説明する。実施例2は、直線ルートの伝搬路を用いて、ミリントン法により算出した電界強度に対し、山岳等の回折による遮蔽損失を考慮することで、受信点の電界強度を算出する例である。
【0088】
図14は、実施例2の電界強度算出装置の構成例を示すブロック図である。この電界強度算出装置2は、伝搬路算出部30及び電界強度算出部11を備えている。
【0089】
伝搬路算出部30は、送信点情報(緯度及び経度)及び受信点情報(緯度及び経度)を入力し、これらの情報に基づいて、送受信点間の直線ルートの伝搬路情報(送受信点間の所定距離毎の緯度及び経度)を算出する。そして、伝搬路算出部30は、直線ルートの伝搬路情報を電界強度算出部11に出力する。
【0090】
実施例2における伝搬路算出部30は、実施例1の伝搬路算出部10と異なり、第一フレネルゾーンに基づいた右回りルート及び左回りルートの伝搬路情報を算出することはしない。
【0091】
電界強度算出部11は、図1に示した電界強度算出部11-2及び図4に示した電界強度算出部11に相当する。具体的には、電界強度算出部11は、伝搬路算出部30から直線ルートの伝搬路情報を入力し、直線ルートの伝搬路の所定距離毎に地形分類を求め、地形分類を用いて、ミリントン法により受信点の電界強度Emを算出する。
【0092】
電界強度算出部11は、直線ルートの伝搬路情報及び標高データに基づいて、回折点を検出し、回折点の遮蔽損失ELを算出し、電界強度Emから遮蔽損失ELを減算することで、受信点の電界強度を求める。
【0093】
以上のように、実施例2の電界強度算出装置2によれば、回折による遮蔽損失ELを考慮した直線ルートの受信点の電界強度を得ることができる。したがって、山岳等による回折の影響を電界強度に正しく反映することができない従来のミリントン法の問題を解決することができ、中波を受信する受信点の電界強度を精度高く算出することが可能となる。
【0094】
〔実施例3〕
次に、実施例3の電界強度算出装置について説明する。実施例3は、直線ルートの伝搬路及びフレネルゾーンを考慮した伝搬路を用いて、ミリントン法により受信点の電界強度を算出する例である。
【0095】
図15は、実施例3の電界強度算出装置の構成例を示すブロック図である。この電界強度算出装置3は、伝搬路算出部10、電界強度算出部31-1,31-2,31-3及び電界強度平均化部12を備えている。
【0096】
図1に示した実施例1の電界強度算出装置1と図15に示す実施例3の電界強度算出装置3とを比較すると、両電界強度算出装置1,3は、伝搬路算出部10及び電界強度平均化部12を備えている点で共通する。一方、電界強度算出装置3は、電界強度算出装置1に備えた電界強度算出部11-1,11-2,11-3とは異なる電界強度算出部31-1,31-2,31-3を備えている点で、電界強度算出装置1と相違する。図15において、図1と共通する部分には図1と同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0097】
電界強度算出部31-1,31-2,31-3は、伝搬路算出部10から、左回りルートの伝搬路情報、直線ルートの伝搬路情報及び右回りルートの伝搬路情報をそれぞれ入力する。
【0098】
電界強度算出部31-1,31-2,31-3は、左回りルート、直線ルート及び右回りルートのそれぞれについて、ミリントン法により受信点の電界強度を算出する。
【0099】
電界強度算出部31-1は、左回りルートの受信点の電界強度を電界強度平均化部12に出力し、電界強度算出部31-2は、直線ルートの受信点の電界強度を電界強度平均化部12に出力する。また、電界強度算出部31-3は、右回りルートの受信点の電界強度を電界強度平均化部12に出力する。電界強度算出部31-1,31-2,31-3の詳細については後述する。
【0100】
実施例3における電界強度算出部31-1,31-2,31-3は、実施例1の電界強度算出部11-1,11-2,11-3と異なり、回折点を検出して遮蔽損失ELを算出することはない。つまり、電界強度算出部31-1,31-2,31-3は、ミリントン法により電界強度を算出するが、回折による遮蔽損失ELを考慮した電界強度を算出することはない。
【0101】
以下、電界強度算出部31-1,31-2,31-3(以下、総称して電界強度算出部31という。)について詳細に説明する。図16は、実施例3における電界強度算出部31の構成例を示すブロック図である。この電界強度算出部31は、伝搬路地形分類処理部20及びミリントン法算出部21を備えている。
【0102】
電界強度算出部31は、伝搬路算出部10から対応するルート(左回りルート、直線ルート及び右回りルートのうちのいずれか)の伝搬路情報(送受信点間の所定距離毎の緯度及び経度)を入力する。
【0103】
伝搬路地形分類処理部20は、図4に示した伝搬路地形分類処理部20と同様の処理を行う。具体的には、伝搬路地形分類処理部20は、伝搬路情報を入力すると共に、予め設定された地形分類データを入力し、伝搬路情報の示す伝搬路に沿って、地形分類データを用いて、送信点から受信点へ向けて所定距離毎に地形分類を求める。そして、伝搬路地形分類処理部20は、伝搬路の所定距離毎の地形分類をミリントン法算出部21に出力する。
【0104】
ミリントン法算出部21は、図4に示したミリントン法算出部21と同様の処理を行う。具体的には、ミリントン法算出部21は、伝搬路地形分類処理部20から伝搬路の所定距離毎の地形分類を入力すると共に、予め設定された地形分類毎の電界強度曲線のデータを入力する。
【0105】
ミリントン法算出部21は、地形分類に応じた大地導電率毎の電界強度曲線を用いて、送信点から受信点へ伝搬路に沿って、伝搬路の所定距離毎の地点の電界強度を求めた後、不連続地点の補正を行い、受信点の電界強度(送信点→受信点)Eaを求める。同様に、ミリントン法算出部21は、受信点から送信点へ伝搬路に沿って、伝搬路の所定距離毎の地点の電界強度を求めた後、不連続地点の補正を行い、送信点の電界強度(受信点→送信点)Ebを求める。
【0106】
ミリントン法算出部21は、電界強度(送信点→受信点)Ea及び電界強度(受信点→送信点)Ebから、前記式(4)により、受信点の電界強度Emを求め、これを受信点の電界強度として出力する。
【0107】
以上のように、実施例3の電界強度算出装置3によれば、直線ルートの伝搬路及びフレネルゾーンを考慮した伝搬路を用いて、ミリントン法により受信点の電界強度を算出することができる。したがって、中波の電界強度について、算出値と実測値との間の差を減らすことができ、中波を受信する受信点の電界強度を精度高く算出することができる。
【0108】
以上、実施例1~3を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施例1~3に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0109】
前記実施例1~3では、電界強度算出部11に備えた伝搬路地形分類処理部20は、予め設定された地形分類データとして、例えば国土数値情報の土地分類メッシュデータ(1kmメッシュ)を用いるようにした。これに対し、伝搬路地形分類処理部20は、1kmメッシュ以外のサイズの土地分類メッシュデータを用いるようにしてもよい。
【0110】
また、前記実施例1~3では、電界強度算出部11に備えた回折点検出部22は、予め設定された標高データとして、例えば50mメッシュを基準とした各地点の標高を示すデータを用いるようにした。これに対し、回折点検出部22は、50mメッシュ以外のサイズの各地点の標高を示すデータを用いるようにしてもよい。
【0111】
また、前記実施例1,3では、伝搬路算出部10は、直線ルートの伝搬路情報を算出すると共に、第一フレネルゾーンを算出し、第一フレネルゾーンの右端を通るルートを右回りルートに設定し、右回りルートの伝搬路情報を算出し、左端を通るルートを左回りルートに設定し、左回りルートの伝搬路情報を算出するようにした。これに対し、伝搬路算出部10は、直線ルートの伝搬路情報を算出すると共に、第一フレネルゾーンを算出し、第一フレネルゾーンの右端及び左端のいずれか一方のルートを端ルートに設定し、当該端ルートの伝搬路情報を算出するようにしてもよい。
【0112】
この場合、伝搬路算出部10により直線ルートの伝搬路情報及び端ルートの伝搬路情報が算出されるため、電界強度算出装置1は、対応する電界強度算出部11を2つ備えていればよい。2つの電界強度算出部11は、直線ルート及び端ルートのそれぞれについて、ミリントン法により受信点の電界強度Emを算出すると共に、回折点を検出して遮蔽損失ELを算出し、電界強度Emから遮蔽損失ELを減算し、受信点の電界強度を算出する。そして、電界強度平均化部12は、直線ルートの受信点の電界強度及び端ルートの受信点の電界強度の平均値を求め、これを受信点の電界強度として出力する。
【0113】
尚、本発明の実施例1,2,3による電界強度算出装置1,2,3のハードウェア構成としては、通常のコンピュータを使用することができる。電界強度算出装置1,2,3は、CPU、RAM等の揮発性の記憶媒体、ROM等の不揮発性の記憶媒体、及びインターフェース等を備えたコンピュータによって構成される。
【0114】
電界強度算出装置1に備えた伝搬路算出部10、電界強度算出部11-1,11-2,11-3及び電界強度平均化部12の各機能は、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0115】
また、電界強度算出装置2に備えた伝搬路算出部30及び電界強度算出部11の各機能も、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0116】
また、電界強度算出装置3に備えた伝搬路算出部10、電界強度算出部31-1,31-2,31-3及び電界強度平均化部12の各機能も、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0117】
これらのプログラムは、前記記憶媒体に格納されており、CPUに読み出されて実行される。また、これらのプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD等)、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布することもでき、ネットワークを介して送受信することもできる。
【符号の説明】
【0118】
1,2,3 電界強度算出装置
10,30 伝搬路算出部
11,31 電界強度算出部
12 電界強度平均化部
20 伝搬路地形分類処理部
21 ミリントン法算出部
22 回折点検出部
23 遮蔽損失算出部
24 電界強度処理部
m 電界強度
L 遮蔽損失
θ,θ1 角度
x 遮蔽係数
lf フレネル積分値の大きさ
tmp 損失電力
図1
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